3次元通信における形状モデリング - nict...3次元通信におけるspace oriented...

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Vol. 40 No. 1 通信総合研究所季報 March 1994 pp. 25 ーお 研究 3 次元通信における形状モデリング 荒川佳樹* (1993 10 25 日受理) GEOMETRICMODELINGFORCOMMUNICATION USINGTHREE-DIMENSIONALVIRTUALWORLDS By Y oshikiARAKAWA This paper describes a geometricmodelingmethodforrealizingthree dimensionalvirtual worldsonacomputertofacilitateefficienttransmissonbycommunicationnetworks. Forsuch virtualworlds,amulti-purposegeometricmodelerisneededwhichcanprocessbothimageand figuredata. Geometricmodelscanbedividedintospace-orientedandobject-orientedmodels. Essentially, theyhavequitedifferentcharacteristics andcan beconsideredtobecomplementary tO each other. A hybrid model combining thesetwomodelsisnecessarytoefficientlyrealizeand transmit3-Dvirtualworlds.Inthispaper,weproposesuchamodelwhichusesaRunlengthas thespace-orientedmodelandaBRepbasedonquasidisjointedtriangularfacesastheobject- orientedmodel. It turnsoutthataRunlengthhasahighdata-compressionrateandtheabilityto convertdata efficiently to/from the object-oriented model; two properties not found in a Voxel or an Octree. UsingaBRepwithquasidisjointedtriangularfacesresultsinasimpledatastructure withfixeddatalength,aswellassimple,reliableprocessingalgorithms. Therefore,ournewly developedhybridmodelerbasedonaRunlengthandaBRepusingquasidisjointedtriangular facesissuitable forthe realization and transmission of 3-Dvirtual worlds. [キーワード] 形状モデリング, 3 次元通信,人工現実感,ランレングス, BRep, Geometricmodeling, Communicationusing3Dvirtualworlds,Virtualreality, Runlength,BRep. 1. はじめに 21 世紀は 3 次元通信の時代であると言われている. 「遠く離れたところにいる相手や遠く離れた世界が自分 のまわりにあたかも存在する」,「現存しない過去や未来 にあたかも行く」,また「実際には存在し得ない架空・ 仮想の空間の中にいる」といった疑似体験ができ,臨場 感・リアリティのある通信が実現するであろうと予測さ れている. 関西支所知覚機構研究室 25 近年,人工現実感という言葉が非常に注目を集めてい ω.これは,コンビュータ上に仮想の 3 次元空間(以 下,仮想空間と呼ぶ)を生成し,そこに実世界を再現し ようとするものである. 3 次元通信とは,このような仮 想空間と通信とを融合したものであると言える. 3 次元 通信において,特に臨場感に注目した場合は臨場感通信 と呼ばれ,すでに研究が進められているω ω このような仮想空間では,実存世界が 3 次元映像・画 像データとして仮想、空間上に取り込まれて再現される. また,架空・仮想世界が 3 次元図形として生成される. そして,両者は並存あるいは融合されて,コミュニケー

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Page 1: 3次元通信における形状モデリング - NICT...3次元通信におけるSpace Oriented モデルに要求 される特性としては,(1) 高い形状表現分解能が実現できる.

Vol. 40 No. 1 通信総合研究所季報 March 1994

pp. 25ーお

研究

3次元通信における形状モデリング

荒川佳樹*

(1993年10月25日受理)

GEOMETRIC MODELING FOR COMMUNICATION USING THREE-DIMENSIONAL VIRTUAL WORLDS

By

Y oshiki ARAKAWA

This paper describes a geometric modeling method for realizing three dimensional virtual

worlds on a computer to facilitate efficient transmisson by communication networks. For such

virtual worlds, a multi-purpose geometric modeler is needed which can process both image and

figure data.

Geometric models can be divided into space-oriented and object-oriented models. Essentially,

they have quite different characteristics and can be considered to be complementary tO each

other. A hybrid model combining these two models is necessary to efficiently realize and

transmit 3-D virtual worlds. In this paper, we propose such a model which uses a Runlength as

the space-oriented model and a BRep based on quasidisjointed triangular faces as the object-

oriented model.

It turns out that a Runlength has a high data-compression rate and the ability to convert data

efficiently to/from the object-oriented model ; two properties not found in a Voxel or an

Octree. Using a BRep with quasidisjointed triangular faces results in a simple data structure

with fixed data length, as well as simple, reliable processing algorithms. Therefore, our newly

developed hybrid modeler based on a Runlength and a BRep using quasidisjointed triangular

faces is suitable for the realization and transmission of 3-D virtual worlds.

[キーワード] 形状モデリング, 3次元通信,人工現実感,ランレングス, BRep,

Geometric modeling, Communication using 3D virtual worlds, Virtual reality,

Runlength, BRep.

1. はじ めに

21世紀は 3次元通信の時代であると言われている.

「遠く離れたところにいる相手や遠く離れた世界が自分

のまわりにあたかも存在する」,「現存しない過去や未来

にあたかも行く」,また「実際には存在し得ない架空・

仮想の空間の中にいる」といった疑似体験ができ,臨場

感・リアリティのある通信が実現するであろうと予測さ

れている.

* 関西支所知覚機構研究室

25

近年,人工現実感という言葉が非常に注目を集めてい

るω.これは,コンビュータ上に仮想の3次元空間(以

下,仮想空間と呼ぶ)を生成し,そこに実世界を再現し

ようとするものである. 3次元通信とは,このような仮

想空間と通信とを融合したものであると言える. 3次元

通信において,特に臨場感に注目した場合は臨場感通信

と呼ばれ,すでに研究が進められているωーω.

このような仮想空間では,実存世界が3次元映像・画

像データとして仮想、空間上に取り込まれて再現される.

また,架空・仮想世界が3次元図形として生成される.

そして,両者は並存あるいは融合されて,コミュニケー

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ションやシミュレーションが行われる. 3次元通信では,

このような3次元仮想空間を実現することにより,まる

で自分がその空間に入り込んでしまった感覚で,空間お

よび時聞を超えたコミュニケーション・シミュレーショ

ンを行うことができる.

例えば,第1図に示すように,このような仮想空間を

用いた新車の検討会議では,運転者は実在する人が仮想、

空間上に3次元映像として再現され,車は図面から仮想

物とじて仮想空間上に生成される.そして,両者が融合

されて,ドライピングポジション,視界,スタイリング・

カラーリングなどの検討が3次元シミュレーションによ

り行なわれる.また,現存する車が仮想、空間上に再現さ

れ,この新車とのスタイリングなどの比較がなされる場

合もあろう.さらに,遠く離れたところにいる会議の参

加者がこの仮想空間上に再現され,仮想的に一堂に会い

することも行われるω.また,まだ存在しない新車を運

転してみることもできる.

そこで, 3次元通信では,実存形状を表現している映

像・画像データおよび仮想形状を表現している図形デー

タの両方を統一的に表現・処理できる立体形状モデリン

グが重要かっ必要不可欠となる.

ところで,これまでの形状モデリングに関する研究は,

どちらかと言えば,対象形状を限定した個別的なもので

あった.例えば,最も重要かっ複雑であると言う理由か

ら,人物や頭部に関しては活発な研究が行なわれてきて

いるωーω.しかしながら,対象を限定しない統一的あ

るいは汎用的な形状モデリングに関する取り組みはほと

んどなされてきていない.

ここでは,このような統一形状モデリングに対する l

つのアプローチとして原子図形モデリングを提案し,こ

れを具現化させたモデルである疎結合3角形 BRep/

Run lengthハイブリッドモデルについて述べる.第2

章では原子図形モデリング,第3章では Runlength,

第4章では疎結合3角形 BRepについて述べる.そし

第l図 3次元通信の概念図

通信総合研究所季報

て,第 5章では疎結合 3角形 BRepモデルと Run-

lengthモデルのハイブリッド化(双方向データ変換)

について述べ,第6章ではこのハイブリッドモデルに.対・

する評価を実験的に行う.

2. 原子図形モデリング

形状モデリングにおける表現法は,次の2つに大別す

ることができる(10).

(1) Space Orientedモデル

(2) Object Orientedモデル

Space Orientedモデルの代表的なものは, Octree

である(11)-(13).これは第2図(a)に示すように空間を順次

8立方体分割することにより形状を表現する方法である.

また近年,ボリューム・レンダリングに適しているとし

て Voxelが注目されてきているf凶.この方法は第2図

(b)に示すように均ーの微小立方体で形状を表現する.

Object Orientedモデルに関しては, Constructive

Solid Geometry (CSG)と Boundary Represen-

tation (BRep)が代表的である叩川】川>. CSGは基

本形状(プリミティプ)の形状演算で(第 2図(C)),

BRepは境界面(表面)で(第2図(d))形状を表現す

る方法である.

両者は本質的に異なる特性を持っており,二者択一的

ではなく互いに補完的である.すなわち, Space

(a) Oc佐田 (b) Voxel

…~MOOd ~ ピ白甲戸 グ

(c) CSG (d) BRep

第2図形状モデルリング

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Vol. 40 No. 1 March 1994

第3図 !原子図形モデリング

Orientedモデルは空間に対するアドレッシング性,ユ

ニーク性に優れている.そして,映像・画像(実存形状)

の表現に適している.一方, Object Orientedモデル

は形状に対するコヒーレンス性に優れており,図形(架

空形状)の表現に適している.

そこで,筆者らは, 3次元通信における形状モデルと

しては,この両者のハイブリッドモデルが適切であると

考えている.これにより,画像と図形それぞれに適した

表現法が選択でき,同ーの表現法で表現するよりも飛躍

的に優れた特性が発揮でき,原理的にも無理がないと考

えている.このようなハイブリッドモデルにおける最大

の課題は,当然のことながら,両モデル聞の変換性およ

び演算性をいかに確保・実現するかである

このような統一形状モデリングを実現するために,筆

者らは,第 3図に示すように,点(Voxel),線(Run-

length), 3角形, 4面体の原理的にこれ以上分割不可

能な基本要素図形のみを用いた統一的かっ汎用的な画像

図形処埋体系の実現を試みてきている制。(21).

すなわち,このような基本要素図形のみを用いること

により,非常に単純な形状表現法,データ構造および処

理アルゴリズムを構築することができ,かっこれらの要

素図形聞の変換も容易に行うことができる.このような

方法により画像と図形が統一的に表現・処理できると考

えている.結果として,統一的かっ汎用的な 3次元形状

モデリングを実現することができる.これらの基本要素

図形を,これ以上原理的に分割不可能な図形という意味

で,原子図形と呼び,これらを用いたモデリングを原子

図形モデリングと呼ぶことにする.

このような概念に基づいて, SpaceOrientedモデル

として, 2次元画像処理でよく用いられるRunlength

を再評価してきている(18)ベ22). また, ObjectOriented

モデルとして,境界面を疎結合された3角形面で構成す

る BRepを新たに開発した.そこで,以下,この両モ

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デリング法およびそのハイブリッド化について述べる.

3. Runlength

3. 1 VoxelとOctree

3次元通信における Space Orientedモデルに要求

される特性としては,

(1) 高い形状表現分解能が実現できる.

(2)映像・画像を直接的に表現できる.

ことはもちろんのこと,

(3) Object Orientedモデルとの変換性に優れている.

ことが特に重要である.

Voxelは, Space Orientedモデルの中でも,最も

原始的かっ単純な形状表現法である.そして,この原始

性・単純性により,形状表現能力が非常に高く汎用性が

あり,そのデータ構造および処理アルゴリズムも非常に

単純となる.また, Object Orientedモデルとの変換

性にも優れている.

これまでは,データ量が膨大になるということで,例

えば Octreeなどと比べてあまり評価されてこなかった.

しかし,近年の計算機ハードウエア技術の進歩により,

ボリューム・レンダリングの中核表現として Voxelが

非常に注目されてきている(14).

ところで,現在の Voxelの分解能の上限は5123程度

である(14).しかし,臨場感・リアリティなどを実現す

るには, 10243以上の高形状表現分解能の実現が必要不

可欠である.Voxelを単純に高分解能化することは,

データ量が非常に膨大となり,現在の計算機技術の延長

線上では依然、として非実現的である.

このようなデータ量の増大を圧縮するには, Octree

が非常に有効である. しかし,この表現法は(3)の点で問

題がある.例えば, BRepから Octreeへのデータ変換

が取り組まれてはいるが(13),形状は凸でなければなら

ないなどの制約条件がつく.穴などのある複雑な非凸立

体を凸分割することは一般的に難しく,実用上大きな課

題を残したままであるといえる.

3.2 モデリング方法

以上のような背景から, Voxelが持つ原始性・単純

性をそれ程失わずに,その欠点であるデータ量の増大を

緩和できる表現法である Runlengthを再評価すること

にしfこ.

この形状表現法は第4図に示すように,形状を包む直

方体(形状空間)を想定し,その lつの面を基準平面

(ここでは X-Y平面)とし格子分割する.そして,こ

れらの格子点を通りこの基準面に垂直な直線であるスキャ

ンライン(Z軸と平行)を仮想する.これにより,任意

の3次元形状はスキャンラインとその形状との交線,す

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。y,

\ 形状終点

ふ始点第4図 Runlength表現

なわち Runlengthの集合体で近似表現される.

この形状表現法は, Voxelを特定の l次元方向(こ

こではZ紬方向)のみにデータ圧縮するので, Voxel

の1次元圧縮形式と見なすことができる.そして,上述

したような Voxelの持つ単純性はそれほど損なわれな

Runlengthは2次元画像処理の分野ではよく用いら

れるが, 3次元の分野ではこれまでほとんど用いられて

いない.Martinらが,複数の 2次元画像から 3次元画

像の生成において用いている程度である(17). この点に

関しては, 2次元でも 3次元でも使われる Quadtree/

Octreeとは対照的である.この主な理由は, Run-

lengthは, 3次元になると Octreeほどデータ圧縮性

に優れてなく.座標系に対するユニーク性の欠如が大き

い,すなわち,スキャンラインの取り方でデータの内容

およびその量が大きく変化すると判断されていることに

よると考えられる.

しかしながら,この表現法では,形状演算,表示画像

/断面画像生成,マス・プロパティ計算などの主要な処

理演算が Runlength(線分)を用いて,非常に単純な

アルゴリズムで実現することができる.かっ,後で詳し

く述べるが, Object Orientedモデルとの変換性に非

常に優れている.

3.3 データ構造

Martinらのデータ構造は第5図(a)に示すように,ポ

インタが X,Y, Z座標の3層構造となっており(17),デー

タの圧縮性はよいが,データアクセスの効率が悪い.そ

こで,より直接的かっ単純な Voxel的データ構造をこ

こでは提案する.

通信総合研究所季報

(心 3層データ構造

( Scanline Array )

~笠

Z3 I Z4 1属性|

end I Zn-1 I Zn |属性|

( Runlen併iD蜘)

(b) 1層データ構造

第5図 Runlengthのデータ構造

このデータ構造は,第5図(b)に示すように,スキャン

ライン配列部と Runlengthデータ部から構成される.

前者は各スキャンラインに対応し,その先頭の Run-

lengthデータへのポインタが入っている.また,後者

はl次元リスト構造となり,形状始点値,終点値および

属性データ(色,形状番号など)から構成される.

このデータ構造は, X,Y座標へはダイレクトアクセ

スができ, Z座標のみの 1層の l次元固定長リストとい

う非常に単純な構造となる.そこで,データアクセスが

高速に行え,かっガベージ・コレクションなどの必要性

もない. しかし, Martinらのデータ構造よりも,スキャ

ンライン配列部分程度データ量が増える.

4. 疎結合3角形 BRep

4.1 BRep

3次元通信における Object Orientedモデルに要求

される特性としては,次の3点が特に重要である.

(1)形状表現能力が高い.

(2)形状入力・定義およびその修正が容易である.

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Vol,40 No. 1 March 1994

(a) 形状 (b) 多角形‘

(c) 密結合3角形 (d) 疎結合3角形

(e) 3角形分割の伝播 (η3角形分割の非伝播

第6図 BoundaryRepresentation

(3) Space Orientedモデルとの変換性に優れている.

Object Orientedモデルに関しては BRepが主流と

なっている.これは(2)の点で優れており,形状入力/定

義および修正などが対話的に容易に行なえるためである.

BRepでは,第 6図(b)に示すように,その境界面は

通常多角形面で構成されQ(10). しかしながら,このよ

うな BRepでは,凹形状,穴などに対応しようとする

と非常に複雑なデータ構造および処理アルゴリズムとな

る.その結果として,処理速度が遅くなり,実用的な信

頼性のある処理系を構築することが難しい.また,(3)の

点でも問題がある.

4.2 モデリング法

このような課題を解決するには,その境界面を3角形

面で構成し単純化することが考えられる(第6図(c)).

しかし,この方法では形状演算などを繰り返すと,第6

図(e)に示すように3角形分割の伝播が起こり, 3角形の

数が非常に増大し,処理速度も遅くなることが確認され

た.

この 3角形の増大は,隣接する 3角形は必ず互いに 2

つの頂点を共有するという前提条件があることによる.

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(a) 3角形の分割パターン

(b) 3角形と線の交差パターン

第7図 3角形の図形処理

このような3角形の結合を密結合と呼ぶことにする.そ

こで,隣接する 3角形は必ずしも 2つの頂点を共有しな

くてもよい(疎結合)とすることにより(第6図(d)),

3角形分割の伝播をなくし(第6図(f)), 3角形の数の

増大を緩和させた.このような表現法を,疎結合された

3角形面で境界面を構成するすることから,疎結合3角

形 BRepと呼ぶことにする.

この表現法により, 3角形図形処理の持つ単純性およ

び高速性と,データ量( 3角形の数)の増大の緩和とい

う相反するものを両立させることができた.例えば,形

状演算における 3角形分割は,第7図(a)に示すように次

の2通りのみとなる.

(1)交線が3角形の 2辺と交わる.

(2)交線が3角形の辺および頂点と交わる.

また,隠線処理などにおける 3角形と線分の交差判定は,

第7図(b)に示すように次の 4通りで済む.

(1) 線分がまったく 3角形と交わらない.

(2)線分の片端のみが3角形に含まれる.

(3)線分のすべてが3角形に含まれる.

(4)線分が3角形と交わり,かっその両端が3角形の外

倶ljとなる.

このように, 3角形を用いることにより処理アルゴリズ

ムが非常に単純なものとなる.

4.3 データ構造

この表現法のデータ構造は第8図に示すように, 3角

形の頂点とその隣接関係を表す位相データのみでよく,

この場合も非常に単純な 1次元固定長リストとなる.そ

して,多角形を用いる場合に必要なエッジデータおよび

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(疎結合3角形の位相構造)

vl

(3角形面データ)

IP刷出lpoin町I.vijv2 lv3 I tl |ロ|叫ω|叫t6I ++

lpoin町|戸interI vllv2 jv3 I t1 I t2 I t3 I叫叫凶|

第8図疎結合3角形 BRepのデータ構造

エy ジループは不要となる. 3角形面データ部は,頂点

データへのポインタ(vl,v2, v3)と,頂点を共有しか

っ隣接する 3角形へのポインタ Ctl,t2, t3, t4, t5, t6)

から構成される.頂点を共有しかっ隣接する 3角形がな

い場合は,このポインタの値は NULL(空)となる.

このように,疎結合に対応するには,隣接3角形への

ポインタが6個必要となる.密結合の場合は3個で済む.

そこで,このデータ構造の欠点は,凹凸の多い形状の場

合には隣接する 3角形が2頂点を共有すること(密結合)

が多くなり,データの冗長性が大きくなることである.

5. ハイブリッドモデル

Space Orientedモデルに Runlengthを, Object

Orientedモデルに疎結合3角形 BRepを採用するこ

とにより,両モデル聞の変換は, Runlengthと3角形

との演算により容易に行なうことができる

5. 1 3角形 BRep-+Runlength変換

3角形 BRepデータから Runlengthデータを生成

するには,基本的には3角形商とスキャンラインとの交

点計算を繰り返せばよい(第9図(a), (b)参照).しかし

ながら,この時,一度に始点値および終点値が求まらな

いので,始点値あるいは終点値が未定でもよい半 Run-

lengthデータ形式を新たに導入する.これにより,

Runlengthデータは 3角形面とスキャンラインとの交

点計算を一通り繰り返すことにより直接求めることがで

きる.この時,前処理は不要で,面の処理順も任意でよ

(a)

(1) (Z1, -)

(2) (Zi.Z4)

通信総合研究所季報

(3) (Z1, -),(Z3,Z4)

(4) (Z1, -),(Z3,Z4)

(5) (Zi. Z2),(Z3,Z4)

( c)

第9図 3角形 BRep→Runlength変換

(a)交点zが始点の場合

(1) • • ・一一・-・・ーー

(2) ・園田_.,四圃0 ・ーー・ーー・--0

・ーー ‘ (3) o--4 ... 。....,.0-圃・・ーー』司

・ーー(4) o--4~・ 0・ーー・ ・ーーー・

/ ・ーー既存Runl叫出\ :-:.:.:;.--忌弘一一一---:

新規交点(半RunI叩;血) :・・0 確定値または未定 j

:-ー未定 ! (b)交点zが終点の場合ー一一一一一一一一一一-~

(5) • .・- - " 4・-----圃・4・(6)』一一』司 』.......・----<コー・司. .. (7) O田4 ・圃園。....,.o--eー圃・・・・0

ー・噌(8) 白田圃・-ー・圃圃圃. 0-・-・圃圃圃圃.園田園圃司.

第10図半 RunlengthとRunlength

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Voし40 No. 1 March 1994

い.また,このアルゴリズムは非凸形状にも適用できる.

新たに求めた交点(始点あるいは終点)を既存する

Runlengthデータ列(半 Runlengthを含む)に挿入

する時の処理は,第10図に示すように8通りとなる.例

えば,第10図(6)の場合は,新たに求めた交点は終点で,

半 Runlength形式で表現すると(一, z〕となる.そし

て,この交点は既存する Runlengthデータ Cz1,一)

とCz2,Z3)との問となる場合である.ここで, “ー

はその値が未定であることを意味する この間に挿入し

た結果は, Runlength(zi, i), (zz, Z3)となる.

具体例を第9図(b)に示す. (1)~(5)の順番で3角形面デー

タが処理されると, Runlengthデータ列は第9図(c)の

ように変化し生成される. (4)では交点が存在しないので

変化しない.

5. 2 Runlength→ 3角形 BRep変換

まず,第11図(a)に示すように, Runlengthで表現さ

れている形状を包む格子メッシュを生成する.そして,

このメッシュにより生成される立方体もしくは直方体を

(a)

( b)

p主事( c)

( d)

第11図 Runlength-3角形BRep変換

31

適当な 4面体に分割する.ここでは第11図(b)のように24

分割した

次に,この4面体と形状との干渉判定を行ない(Run-

lengthと4面体との交差判定),形状とまったく交差し

ない4面体をすべて消去する.そして,残っているすべ

ての 4面体の頂点と形状との内外判定を行ない(Run-

lengthと点との包含判定),内点{黒丸)と外点(白丸)

に分類する(第11図(c)).

長後に,これらの外点を何らかのルールにより形状の

表面へ移動する.ここでは形状表面への最近点を求めて

(Runlengthと点との距離計算),そこへ移動した

(第11図(d)).そして,表面3角形のみを残すことによ

り, 3角形 BRepデータを生成することができる.こ

の変換アルゴリズムは,示してきたように,いずれも原

子図形閉の単純な演算の繰り返しとなる.

6. 実験と考察

ここでは,以下の3項目における評価を計算機実験に

より行った.

(1) OctreeとRunlengthのデータ圧縮性

(2) Runlength-令 3角形 BRep変換

(3) 3角形 BRep→Runlength変換

計算機は, HP9000/755CRX24 (124MIPS, 128Mbytes

Memory)を使用し,プログラムはすべてC言語で書

き,表示は X-windowを用いた.

(1) OctreeとRunlengthのデータ圧縮性

まず, OctreeとRunlengthとのデータ圧縮性を実

験により評価した.すなわち,データ量を測定・比較し

た.ここで採用した Runlengthのデータ長は12バイト

(ポインタ 4,始点値2,終点値2,属性値4),一方,

Octreeの1ノード長は4×8=32バイトであった.

比較対象形状として,凶3つのトーラス一大径300,

小径100(第12図(a));および凹メカニカル部品一外形の

幅800,奥行き400,高さ200(第12図(i ))を取り上げた.

聞の形状は,平面と曲面,穴,薄板,多くの凹凸など種々

の形状的特徴を合わせ持つ.ここで,形状空間の大きさ

は10003とし,形状空間の分解能は, 5123,10243, 20483

の3レベルとした.

その結果は第1表となった.両表現法はどちらも座標

系に対してユニークではないので,形状空間に対する形

状の位置や傾きを色々と変化させた中での最小値(左側)

および最大値(右側)を測定した.今回の実験結果では,

Runlengthの方が Octreeよりも少ないデータ量となっ

た.今回の実験では比較対象形状は 2例しかなく,もっ

と比較対象形状を多くし,詳細に検討する必要がある.

しかしながら, Octreeは Runlengthと比べて,格段

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32

第1表 OctreeとRunlengthのデータ量

分解能データ量 (単位: Mby回)

Octr田 Runlength

512 5.8 6.0 2.9 3.0 トーラス 1024 22.9 23.7 11.7 11.9

2048 93.5 94.9 46.6 47.4 512 2.3 3.3 1.6 2.2

部品 1024 8.1 13.7 6.4 9.0 2048 37.9 55.7 25.7 36.1

第2表 Runlength→ 3角形 BRep変換

にデータ圧縮性に優れているとは言えないことが予測さ

れる.

(2) Runlength→ 3角形 BRep変換

次に,対象形状として,上記で取り上げた凶トーラス

および(印部品と,(C)ビーナス像(石音像)(第12図(e))

を用いて, Runlength→ 3角形 BRep変換の実験を行

なった.ビーナス像の原データは, 3次元ディジタイザ

(Cyberwar型社4020-RGB型)により取り込み,

Run lengthデータを生成した.この時の形状空間分解

能は10243であった.

その結果は第2表となった.また,この時の変換後生

成された形状は,それぞれ第12図(b), (j ), (f)となった.

今回採用した最近点へ移動するアルゴリズムでは,第12

図(a)とめ), ( i)と(j)を比較すれば明らかなように,稜線

(面と面の交差部分)が明確とならない場合がある.凶

トーラス(第12図(b))ではトーラスとトーラスの交線刊

日部品(第12図(j))では平面と円筒面の交線部分の表現

精度が落ちている.そして,このような部分の変換精度

を上げようとすると,格子メッシュの間隔を非常に細か

くとり,分割数を非常に多くしなくてはならない 逆に,

ビーナス像のように,元々はっきりとした稜線がなく滑

らかな形状の場合は,比較的うまく変換される(第12図

(e)と(f)).

なお,第12図g)に 3つのビーナス像を合成した画像を,

第12図(h)にビーナス像を仮想的に1/4切断した画像を,

それぞれ示しておく.これらはいずれも Runlengthで

表現/処理されている.

(3) 3角形 BRep-Runlength変換

最後に,対象形状として凶トーラスおよび間部品を周

通信総合研究所季報

第3表 3角形 BRep→Runlength変換

3角形函数(個)

変換時間(秒)

生成~挫~MB)

D 設定値

トーラス| 部品 |ピーナス

r;:1s;誌がtぎなooL二.

3.0 I 1.9

11.8 I 8.6

(形状空間分解能: 1024X1024×1024)

いて, 3角形 BRep→Runlength変換の実験を行なっ

た.この時の原形状(疎結合3角形 BRep表現)を第1

2図(c)と(k)に示す.この時の形状空間分解能も10243と

した.

その結果は第3表となった.また,変換後の生成形状

は,第12図(d), (1)となった.第12図(c)と(d), (k)と(1)を比

較すれば明らかなように, 3角形 BRep→Runlength

変換は, Runlength→ 3角形 BRep変換と比べると,

処理が高速で問題なく行われている.そして,その変換

精度は形状空間の分解能によってのみ決まる.

7. お わ り に

原子図形モデリングを提案し,これに基づ‘いて,

Space Orientedモテソレとして Runlengthを再評価し,

Object Orientedモデとして疎結合3角形 BRepを新

たに開発した.そして,この両者を用いることにより,

ハイブリッドモデルが容易に構築でき,画像と図形の両

方が Runlengthと3角形による非常に単純な処理で統

一的に行なえることを示した.

これらの表現法の欠点は,一般的にデータ量がかなり

大きくなるということである.しかし,その見返りとし

て,データ構造および処理アルゴリズムが非常に単純な

ものとなる.そして,その結果として,ハードウエア化・

並列処理化により,高速・高精度・高信頼性を実現しよ

うとするものである.

このように,これらの表現法は,高速かっ大容量ハー

ドウエアを前提としているが,これらの方式をリアルタ

イム処理できる高性能ハードウエアは,現在の関連技術

の加速度的進歩により,近い将来に達成されると予想し

ている.

データ圧縮性に関しては,実験的にではあるが, Run-

length はOctreeに比べて劣つてはいないという結果が

出た.また,座標系に対するユニーク性の欠如も,今回

の結果から判断する限りでは,ほとんど問題にならない

レベルである.これらの結果から,データ圧縮性および

Object Orientedモデルとの変換性の両特性を兼ね備

えているのが, Runlengthであると判断される.

今後の課題は,この原子図形モデリングと他の代表的

なモデリング法とを,より総合的かっ詳細に比較評価・

Page 9: 3次元通信における形状モデリング - NICT...3次元通信におけるSpace Oriented モデルに要求 される特性としては,(1) 高い形状表現分解能が実現できる.

Vol. 40 No. 1 March 1994

(a)

(c)

(e)

33

、‘.,ノ

’hu

ノ,,‘‘‘、

(d)

j';j'm 図生成画像伊lj

れり

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34

(g)

1

・Fノ・・・且〆’E‘、

(k)

通信総合研究所季報

-a/

h

〆,‘‘、

1

・aF’PHV

、‘,,,,

唱E

・E

・-ノ’E、、

第12図生成両l~W1J

Page 11: 3次元通信における形状モデリング - NICT...3次元通信におけるSpace Oriented モデルに要求 される特性としては,(1) 高い形状表現分解能が実現できる.

Vol. 40 No. 1 March 1994

検証を行なうことである.そして,その結果がよければ,

次のステップとしては,これらの表現法をハードウエア

化・並列処理化した高速処理系を実現する計画である.

謝辞

ATR通信システム研究所知能処理研究室の岸野室長,

北村氏には3次元画像の取り込みに関して御協力を頂い

た.また,この研究の一部は,松下電器産業(掬在職中に

おける成果に基づいている.関係の各位に厚くお礼を申

し上げる.

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