第38回刑弁でgo! 通訳人研修会から─弁護士が配慮すべ · pdf filetitle:...

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40 LIBRA Vol.12 No.1 2012/1 刑弁 GO ! 第 38 回 2011年10月31日,弁護士会館において東京三弁 護士会刑事弁護委員会外国人事件部会の通訳人研修 会が行われた。同部会は,毎年1回通訳人向けの研 修会を行っているが,今年は通訳人のパネルディスカ ッションを行ったところ,パネリストのみならず会 場 参 加 者からも弁 護 士に対する意 見が積 極的に出され た。それらのうちいくつかを紹介したい。 1 当番弁護士からの連絡が遅いことがある 当番弁護士派遣の際,刑事弁護センターは通訳人 に「弁護士から連絡がありますので待機をお願いしま す」と伝え,弁護士には「通訳人は〇〇さんですので, 弁護士から連絡を取ってください」と通訳人の電話番 号を伝えている。ところが,弁護士からの電話が夜に なったり,あるいは電話がこない場合すらある,とい う声が複数あがった。通訳人は,弁護人からの連絡が こないと,一日を待機で潰してしまいかねない。 当番派遣依頼を受けた弁護士は,被疑者の在監確 認をすると共に,速やかに通訳人に電話をして,待ち 合わせ時間を決めていただきたい。また,紹介された 通訳人を同行する必要がない場合は,直ちに当番弁護 士センターにその旨を連絡するようにしていただきたい。 2 通訳人の名前を教えないでほしい 接見の際,被疑者に対して通訳人の名前を教えて しまう弁護士がおり,場合によっては通訳人が身の危 険を感じることがあるのでやめてほしい,という声も複 数あがった。さらには,弁護活動終了後,被疑者に 通 訳 人の連 絡 先を聞かれて教えてしまった弁 護 士も いるという。 通訳人の多くは,組織に守られていない個人である。 被疑者・被告人と同国人であるからといって(むしろ, 同国人だからこそ)個人情報を教えてはならないのは当 然である。当番弁護士は初回接見の際,被疑者に対し て,「通訳人はあなたと弁護士との間の会話を通訳する 立場である。通訳人との間で直接会話をしないように」 と通訳人の立場をきちんと説明する必要があるであろう。 3 罪名を接見前に教えてほしい 全ての通訳人がというわけではないが,「接見に行く 前に罪名を予め教えてほしい」という通訳人もいた。出 入国管理法違反や覚せい剤取締法違反など特殊な用語 を使う事件の場合,予め罪名を教えてもらえると用語等 の確認ができるから,という理由であった。中には,イ ンターネットなどで事件の類型を予習してから通訳に臨 む,という通訳人もいた。当番弁護士センター配点連 絡票には罪名の記載があるが,罪名の範囲であれば事 前に通訳人に教えても守秘義務には反しないであろう。 4 当日,通訳料(通訳時間)を確認させてほしい 特に国選弁護人の場合の「通訳料(請求書/領収 書)」で問題となることであるが,記載した通訳時間 をその場で確 認させてほしい, という意 見があった。 弁護士によっては急いでいるためか,「こちらで書いて おくから」と言って見せてくれないことがあるという。 接見の開始時と終了時には通訳人との間で時刻を確 認し,接見後に通訳料の請求用紙に記入する際には 通訳人に必ず内容を見て確認してもらうべきであろう。 当番弁護士センター配点連絡票にも通訳料と交通費 の記入欄があるが,こちらも同様である。 *   *   * 今回の研修を通して印象的だったのは,「質の高い 通訳人でありたい」という通訳人の高い職業意識であ った。要通訳事件は,通訳人との共働なくして成功し ないのは事実である。弁護士が通訳人とよき関係を築 くことは,被疑者・被告人とのコミュニケーションを 円滑にし,ひいては被疑者・被告人にとってプラスと なる。今回報告したのは研修会での意見の一部である が,通訳人との良好な関係を築くべく,弁護士として の配慮・工夫をお願いしたい。 通訳人研修会から─弁護士が配慮すべきこと─ 刑事弁護委員会副委員長 浦城 知子 (59 期)

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40 LIBRA Vol.12 No.1 2012/1

刑弁でGO! 第38 回

 2011年10月31日,弁護士会館において東京三弁護士会刑事弁護委員会外国人事件部会の通訳人研修会が行われた。同部会は,毎年1回通訳人向けの研修会を行っているが,今年は通訳人のパネルディスカッションを行ったところ,パネリストのみならず会場参加者からも弁護士に対する意見が積極的に出された。それらのうちいくつかを紹介したい。

1 当番弁護士からの連絡が遅いことがある 当番弁護士派遣の際,刑事弁護センターは通訳人に「弁護士から連絡がありますので待機をお願いします」と伝え,弁護士には「通訳人は〇〇さんですので,弁護士から連絡を取ってください」と通訳人の電話番号を伝えている。ところが,弁護士からの電話が夜になったり,あるいは電話がこない場合すらある,という声が複数あがった。通訳人は,弁護人からの連絡がこないと,一日を待機で潰してしまいかねない。 当番派遣依頼を受けた弁護士は,被疑者の在監確認をすると共に,速やかに通訳人に電話をして,待ち合わせ時間を決めていただきたい。また,紹介された通訳人を同行する必要がない場合は,直ちに当番弁護士センターにその旨を連絡するようにしていただきたい。

2 通訳人の名前を教えないでほしい 接見の際,被疑者に対して通訳人の名前を教えてしまう弁護士がおり,場合によっては通訳人が身の危険を感じることがあるのでやめてほしい,という声も複数あがった。さらには,弁護活動終了後,被疑者に通訳人の連絡先を聞かれて教えてしまった弁護士もいるという。 通訳人の多くは,組織に守られていない個人である。被疑者・被告人と同国人であるからといって(むしろ,同国人だからこそ)個人情報を教えてはならないのは当然である。当番弁護士は初回接見の際,被疑者に対して,「通訳人はあなたと弁護士との間の会話を通訳する

立場である。通訳人との間で直接会話をしないように」と通訳人の立場をきちんと説明する必要があるであろう。

3 罪名を接見前に教えてほしい 全ての通訳人がというわけではないが,「接見に行く前に罪名を予め教えてほしい」という通訳人もいた。出入国管理法違反や覚せい剤取締法違反など特殊な用語を使う事件の場合,予め罪名を教えてもらえると用語等の確認ができるから,という理由であった。中には,インターネットなどで事件の類型を予習してから通訳に臨む,という通訳人もいた。当番弁護士センター配点連絡票には罪名の記載があるが,罪名の範囲であれば事前に通訳人に教えても守秘義務には反しないであろう。

4 当日,通訳料(通訳時間)を確認させてほしい 特に国選弁護人の場合の「通訳料(請求書/領収書)」で問題となることであるが,記載した通訳時間をその場で確認させてほしい,という意見があった。弁護士によっては急いでいるためか,「こちらで書いておくから」と言って見せてくれないことがあるという。接見の開始時と終了時には通訳人との間で時刻を確認し,接見後に通訳料の請求用紙に記入する際には通訳人に必ず内容を見て確認してもらうべきであろう。当番弁護士センター配点連絡票にも通訳料と交通費の記入欄があるが,こちらも同様である。

*   *   * 今回の研修を通して印象的だったのは,「質の高い通訳人でありたい」という通訳人の高い職業意識であった。要通訳事件は,通訳人との共働なくして成功しないのは事実である。弁護士が通訳人とよき関係を築くことは,被疑者・被告人とのコミュニケーションを円滑にし,ひいては被疑者・被告人にとってプラスとなる。今回報告したのは研修会での意見の一部であるが,通訳人との良好な関係を築くべく,弁護士としての配慮・工夫をお願いしたい。

通訳人研修会から─弁護士が配慮すべきこと─

刑事弁護委員会副委員長 浦城 知子(59 期)