2.電力を支える火力発電の設備改善と保守技術2015/10/03  ·...

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17 Vol. 66 No.10 1.火力発電の現状について 2011年3月11日の東日本大震災以降,ベース電源で あった原子力発電が順次定期検査に入り,その後,再稼 働の見通しが立たない状況が続き,不足した供給力を火 力発電が担うこととなり,現在では電源構成の約9割と いった非常に高い割合を火力発電が占める状態となって いる(図1)。 この稼働中の火力発電設備の中には,法令上求められ る定期事業者検査の時期について,保安上問題がないこ とを前提に延長して対応している火力発電設備や運転開 始から40年以上経過しているいわゆる老朽火力発電設 備なども含まれている。 そのため,夏季や冬季といった重負荷期において,計 画外停止が発生すると,定期事業者検査を延長した発電 設備や老朽火力発電設備が原因ではないかと不審に思わ れることがあるが,夏の計画外停止の状況(図2は昨夏 の実態分析)は,全火力発電設備に占める老朽火力発電 設備の割合と計画外停止における老朽火力発電設備の割 合は,ほぼ同程度であり,この状況は過去においても大 きな変化は見られていない。 また,定期事業者検査の時期を延長している発電設備 についても,同様の結果となっているため,計画外停止 の発生が,老朽火力発電設備や定期事業者検査時期を延 長した火力発電設備を酷使することにより,発生してい るとはいえない状況である。 ただし,計画外停止に至る原因から復帰するまでの停 止期間が昨夏では少し長くなっているため,これが一過 性であるのか,今後も計画外停止の期間が長くなってい 573 Hiroyuki HORI (Minister of Economy, Trade and Industry.) 原稿受付 平成27年9月10日 2.電力を支える火力発電の設備改善と保守技術 Facility Improvements and Maintenance Technology of Thermal Power Plant 経済産業省 商務情報政策局商務流通保安グループ電力安全課 堀   宏 行 図1 震災後の電源構成の変化

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Page 1: 2.電力を支える火力発電の設備改善と保守技術2015/10/03  · 2.電力を支える火力発電の設備改善と保守技術(堀 宏行) 19 10 した。また,同時期に,スターリングエンジン発電の取り扱

2.電力を支える火力発電の設備改善と保守技術(堀 宏行)

17

Vol. 66 No.10

1.火力発電の現状について

2011年3月11日の東日本大震災以降,ベース電源で

あった原子力発電が順次定期検査に入り,その後,再稼

働の見通しが立たない状況が続き,不足した供給力を火

力発電が担うこととなり,現在では電源構成の約9割と

いった非常に高い割合を火力発電が占める状態となって

いる(図1)。

この稼働中の火力発電設備の中には,法令上求められ

る定期事業者検査の時期について,保安上問題がないこ

とを前提に延長して対応している火力発電設備や運転開

始から40年以上経過しているいわゆる老朽火力発電設

備なども含まれている。

そのため,夏季や冬季といった重負荷期において,計

画外停止が発生すると,定期事業者検査を延長した発電

設備や老朽火力発電設備が原因ではないかと不審に思わ

れることがあるが,夏の計画外停止の状況(図2は昨夏

の実態分析)は,全火力発電設備に占める老朽火力発電

設備の割合と計画外停止における老朽火力発電設備の割

合は,ほぼ同程度であり,この状況は過去においても大

きな変化は見られていない。

また,定期事業者検査の時期を延長している発電設備

についても,同様の結果となっているため,計画外停止

の発生が,老朽火力発電設備や定期事業者検査時期を延

長した火力発電設備を酷使することにより,発生してい

るとはいえない状況である。

ただし,計画外停止に至る原因から復帰するまでの停

止期間が昨夏では少し長くなっているため,これが一過

性であるのか,今後も計画外停止の期間が長くなってい

573

*Hiroyuki HORI(Minister of Economy, Trade and Industry.)原稿受付 平成27年9月10日

2.電力を支える火力発電の設備改善と保守技術Facility Improvements and Maintenance Technology of Thermal Power Plant

経済産業省 商務情報政策局商務流通保安グループ電力安全課 堀   宏 行*

図1 震災後の電源構成の変化

Page 2: 2.電力を支える火力発電の設備改善と保守技術2015/10/03  · 2.電力を支える火力発電の設備改善と保守技術(堀 宏行) 19 10 した。また,同時期に,スターリングエンジン発電の取り扱

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くのかは,引き続き計画外停止が発生した設備の確認も

含め注視しているところである。

2. 火力発電設備に係る規制緩和の検討状況について

火力発電設備のボイラー,タービン等については,運

転時の高温高圧蒸気による損傷,腐食等による材料の劣

化等に起因する事故を防止するため,電気事業法第55

条に基づき,定期的な検査(定期事業者検査)が義務づ

けられている。

この検査実施時期については,同法施行規則第94条

の2第1項において,

①�ボイラー及び大型ガスタービン(出力1万kW以上)

は2年ごと

②小型ガスタービン(出力1万kW未満)は3年ごと

③�蒸気タービンは4年ごとに

 定期事業者検査を実施すること

を原則としつつ,使用実績が乏しく経年劣化が進んでい

ない設備については,同条第3項において,経済産業大

臣の承認を受けることで,検査時期の延長を認めている。

この制度について,「産業競争力強化法」に基づき,

定期事業者検査の対象となる小型ガスタービンが,使用

実績が乏しく限られた時期のみ使用する場合に一定の規

制緩和(定期事業者検査の期間延長の延伸など)ができ

ないかとの要望があった。定期事業者検査の検査時期の

延長については,「火力設備における電気事業法施行規

則第94条の2第2項第1号に規定する定期事業者検査

の時期変更承認に係る標準的な審査基準例及び申請方法

等について」において,前回の定期事業者検査以降の運

転時間の制限や,起動回数の制限を設け,この間の検査

時期の延長を繰返し認めていたもののうち,小型ガス

タービンについては,内規で6年間の上限が付されてい

た。

これは,内規の創設時において,一部機器に課せられ

ていた上限年数を引き上げるにあたり,当時の使用実績

を踏まえ設定したものであり,低頻度・低稼働時間での

利用を前提に設定したものではないことから,小型ガス

タービンについてのみ累積運転時間等に加え上限年数を

設定する合理的理由は乏しく,ボイラー大型ガスタービ

ン,及び蒸気タービンと同様に,制限期間内の検査時期

の延長を繰返し認めても差し支えないと電力安全小委員

会での承認を受け,平成27年4月に上限年数を撤廃す

る内規改正を行った(図3)。ただし,1回の最大延長

期間3年は変わらず,その都度,延長審査は行うことと

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図2 昨夏の火力発電所の計画外停止(故障トラブル)について

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した。

また,同時期に,スターリングエンジン発電の取り扱

いについての見直しも行っている。これは,スターリン

グエンジン発電についても同様に事業者から小出力発電

設備に関する保安規制見直し要望があったことから検討

を行ったもので,東日本大震災以降,小型の発電設備に

注目が集まり,これまで製品化の動向等を踏まえ,保安

上問題のないと判断した小型発電設備については,規制

緩和等の対応を行ってきた。

その結果,スターリングエンジン発電は,限られた容

積内で気体の圧縮膨張を繰り返す機関として爆発を利用

しない(外部からの熱交換を利用)ことから,内燃機関

より安全であり,10kW未満に限れば,内燃機関と同様

に一般用電気工作物との位置づけで問題ないとの結論に

至った。ただし,作動ガスとして,水素等の可燃性ガス

を利用する場合は,安全性の観点から離隔距離を設ける

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図3 火力設備における定検延長時期変更承認の見直しについて

・東日本大震災以降、小型の発電設備に注目が集まり、これまで製品化の動向等を踏まえ、保安上問題のないと判断された小型発電設備については、規制緩和等の対応を行ってきたところ。

・今般、設置者や製造事業者等からの要望および製品化の動向等も踏まえ、スターリングエンジン発電における小出力発電設備に関する保安規制の見直しを検討。

・スターリングエンジンは、限られた容積内で気体の圧縮膨張を繰り返す機関として爆発を利用しない(外部からの熱交換を利用)ことから、内燃機関より安全。・そのため10kW未満に限れば、内燃機関と同様一般用電気工作物と位置づけて問題ない。

・ただし、作動ガスとして、水素等の可燃性ガスを利用する場合は、安全性の観点から離隔距離を設けるなどが必要。

作動流体に可燃性ガスを利用せず、加熱用熱源が小出力(暖炉の排気熱程度)となる10kW未満におけるスターリングエンジン発電(作動流体に不活性ガスの利用に限定)の取り扱いを一般用電気工作物とする。

平成26年11月5日付け、電気事業法施行規則及び発電用火力設備に関する技術基準を定める省令を改正。火技解釈は改正準備中。

電力安全小委員会にて審議・承認

図4 スターリングエンジンの取扱について

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必要があるため,作動流体は不活性ガスの利用に限定し

ている。

このように検討した結果を反映するため,平成26年

11月に発電用火力設備に関する技術基準を定める省令

の一部改正を行った(図4)。

なお,昨年来電力安全小委員会などで検討している発

電用火力設備の技術基準の解釈に関する安全率

(4.0→3.5)の見直しや,火力発電設備に係る規格の国

際適合化については,引き続き検討を行っているところ

である(図5)。

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図5 火力発電設備に係る規制緩和の検討状況

○「発電用火力設備の技術基準の解釈」の安全率の見直しについて・「平成25年度電気施設技術基準国際化調査(発電設備)」において、安全率の国際整合化について調査・検討を行ったところ、国内外で安全率3.5が取り入れられていること、材料の品質向上、規格の高度化、溶接部の品質向上、試験検査技術に進歩向上が著しいことから、火技解釈においても安全率3.5を取り入れても問題がないという報告がされた。

・この報告を受け、火技解釈を安全率3.5に見直すことを前提に材料許容応力、引用JIS、試験検査方法の見直し等について今後検討することとした。

○火力発電設備に係る規格の国際適合化について・火技解釈の安全率を4.0から3.5に見直すのに併せて、JSME規格を火技解釈に取り入れることにより、実質ASME規格の利用が可能となる。

・これにより、ASME規格は民間規格として世界中で広く使われているため、輸入に関する多くの問題が解決するものと考えられる。