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平成 28 年度 エネルギー使用合理化促進基盤整備委託費 EVPHV の充電インフラに関する調査) 調査報告書 2017 3 経済産業省 製造産業局 自動車課

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平成 28 年度

エネルギー使用合理化促進基盤整備委託費

(EV・PHV の充電インフラに関する調査)

調査報告書

2017 年 3 月

経済産業省 製造産業局 自動車課

<目次>

第 1 章 調査結果要約 .............................................................. 1

ビジネスモデルにかかる調査:経路充電について ................................ 1 1.1

ビジネスモデルにかかる調査:基礎充電について ................................ 1 1.2

海外市場への展開 ............................................................ 2 1.3

第 2 章 調査概要 .................................................................. 4

本調査の背景、目的および対象 ................................................ 4 2.1

本調査の背景 ............................................................ 4 2.1.1

本調査の目的 ............................................................ 4 2.1.2

本調査の対象 ............................................................ 5 2.1.3

本調査の概略・調査手法 ...................................................... 7 2.2

本調査の概略 ............................................................ 7 2.2.1

本調査事業の実施期間 .................................................... 7 2.2.2

本調査の手法 ............................................................ 7 2.2.3

EV・PHV充電インフラを取り巻く状況 .......................................... 10 2.3

世界の EV・PHV普及状況 ................................................. 10 2.3.1

我が国における EV・PHVの普及状況と目標 ................................. 10 2.3.2

急速充電器の普及状況 ................................................... 12 2.3.3

普通充電器の普及状況 ................................................... 13 2.3.4

第 3 章 ビジネスモデルにかかる調査 ............................................... 15

経路充電について課題整理 ................................................... 15 3.1

急速充電サービスにおける課題 ........................................... 15 3.1.1

普及に向けた参考事例 ................................................... 19 3.1.2

急速充電の事業環境にかかる規制の状況 ................................... 26 3.1.3

電動車両の蓄電池の大容量化の見通し ..................................... 27 3.1.4

超高速充電の可能性 ..................................................... 29 3.1.5

基礎充電の課題整理 ~全体考察~ ........................................... 31 3.2

我が国の居住状況および新築住宅・新築マンションの供給状況 ............... 31 3.2.1

充電環境を整備するための課題 ~①新築マンション~ ..................... 34 3.2.2

充電環境を整備するための課題 ~②既築マンション~ ..................... 34 3.2.3

マンション アンケート結果にみる基礎充電の課題整理 ......................... 36 3.3

マンションディベロッパーによる充電器設置の状況 ......................... 36 3.3.1

マンション管理組合による充電設備設置に対する感度 ....................... 36 3.3.2

マンション居住者の EV・PHVの認知度や購入意向 ........................... 38 3.3.3

自由意見 ............................................................... 40 3.3.4

マンション 基礎充電整備のための方策 ....................................... 41 3.4

課題総括 ............................................................... 41 3.4.1

基礎充電整備のための方策 ............................................... 42 3.4.2

マンション 充電設備整備推進の取り組み事例紹介 ............................. 44 3.5

自治体の取り組み事例(横須賀市、江東区) ............................... 44 3.5.1

マンションへの充電設備設置事例(3例) .................................. 46 3.5.2

本項では、関西電気自動車普及推進協議会による「普通充電設備導入事例集」をもとに、以

下 3例を紹介する。 ............................................................. 46

戸建て住宅 アンケート結果にみる基礎充電の課題整理 ......................... 47 3.6

ハウスメーカーによる充電設備の設置状況と設置コストに関する認知度........ 47 3.6.1

戸建て居住者の EV・PHVの購入意向 ....................................... 48 3.6.2

戸建て住宅 基礎充電整備のための方策 ....................................... 51 3.7

戸建て住宅の基礎充電設置のための工夫 ................................... 51 3.7.1

既築戸建て住宅における EV・PHV購入に向けた環境整備 ..................... 52 3.7.2

既築戸建て住宅のリフォーム時に合わせた環境整備 ......................... 54 3.7.3

第 4 章 海外市場への展開 ......................................................... 55

日中共同研究の概要 ......................................................... 55 4.1

背景・目的 ............................................................. 55 4.1.1

共同研究にかかる覚書の締結 ............................................. 56 4.1.2

共同研究の体制・機関 ................................................... 56 4.1.3

実施経緯 ............................................................... 57 4.1.4

課題整理のフレーム ..................................................... 58 4.1.5

日本の充電インフラ整備における課題解決のアイデア ........................... 59 4.2

日本における次世代自動車政策 ........................................... 59 4.2.1

充電インフラの整備課題と解決アイデア ................................... 60 4.2.2

中国の充電インフラ整備の状況と課題解決のアイデア ........................... 62 4.3

中国における EV・PHVの普及状況 ......................................... 62 4.3.1

中国における新エネルギー自動車普及へのこれまでの取組み ................. 63 4.3.2

中国の新エネルギー自動車産業の発展の歩み ............................... 64 4.3.3

中国における充電インフラのビジネスモデル ............................... 65 4.3.4

中国の充電インフラ整備の課題と解決策 ................................... 68 4.3.5

日中両国の共通課題と解決アイデア ........................................... 70 4.4

日中両国の共通課題と解決アイデアの方向性 ............................... 70 4.4.1

①共同住宅敷地内でのアプローチ ......................................... 70 4.4.2

②共同住宅の近隣外部でのアプローチ ..................................... 71 4.4.3

充電インフラ整備に関する研究にかかるまとめ ............................. 72 4.4.4

EVと充電器の互換性研究 ..................................................... 73 4.5

中国における互換性問題 ................................................. 73 4.5.1

互換性確認試験の意義 ................................................... 73 4.5.2

日本で実施した互換性確認試験(2013年 10月) ............................ 74 4.5.3

互換性保証の仕組み ..................................................... 74 4.5.4

中国専門家との互換性保証に関する意見交換 ............................... 75 4.5.5

CATARCにおける AC/DC 充電の互換性確認試験の実施 ......................... 76 4.5.6

試験結果の分析と総括 ................................................... 78 4.5.7

EVと充電インフラの互換性研究にかかるまとめ ............................. 80 4.5.8

1

調査結果要約 第1章

ビジネスモデルにかかる調査:経路充電について 1.1

急速充電器の施設数は、CHAdeMO 協議会の発表1によれば、2017 年 1 月現在で 6,935 カ所(基

数では 7,204 基)に達しており、引き続き増加傾向にある。

一般財団法人電力中央研究所によるシミュレーションでは、約 30km 毎に充電器が設置されれ

ば電欠は起きないとされている。現在の状況は、計算上平均 26.5km あたりに一か所設置されて

おり、我が国は電欠が発生し辛い状況である。但し、都道府県別に設置個所を見てみるとバラつ

きがあり、30km を超える地域も存在する。このような地域においては電欠の不安を払拭できて

おらす、空白地帯の解消に向けた充電施設の最適配置の取り組みが期待される。

一方で、経路充電サービスは事業の収益性の確保や稼働率の平準化、充電マナーの遵守といっ

た課題が挙げられており、これらの課題に対する対応策の可能性に触れた。また、将来的な充電

サービス事業に大きな影響を与える可能性が見込まれる、航続距離の伸長に向けた電動車両の搭

載電池の大容量化の見通しや、これに対応した充電器の超高速充電化の動きについても現状を整

理した。

ビジネスモデルにかかる調査:基礎充電について 1.2

基礎充電については、マンションおよび戸建て住宅の基礎充電の設置状況について、関係者(自

動車メーカー、ハウスメーカー、ディベロッパー、管理組合、自動車販売店等)との研究会2を開

催し、研究会内にて報告・検討を行った。

マンションにおける設備の導入については、管理組合による区分所有者の合意形成が必要とな

り難易度が高いことが大きな課題として挙げられた。普及に向けては、マンションディベロッパ

ーやマンション管理会社等を巻き込んだ充電設備導入の検討体制の整備が必要となる。

本調査事業では、研究会等を通じて挙げられた課題を、①入居者の認知度、②ルール・体制の

整備、③コスト低減・経済性の確保、④設置スペースの視点から整理し、各視点に対する方策を

取りまとめた。特に、既築マンションにおいてはとなる費用負担や運用ルール等の合意形成が大

きな課題となることから、新築マンションにおける設置が期待されるところである。

また、戸建て住宅における設備の導入については、新築時に設備が導入されている割合はマン

ションに比べて高いものの、標準的に設置されるまでは至っておらず、今後も設置が進む可能性

が期待される。そのためには、新築時に設置することで充電器の設置コストが大幅に軽減できる

1

CHAdeMO 協議会 < https://www.chademo.com/ja/ >

2 本報告書 2.2.3 参照

2

という経済的なメリットの認知度を上げるための工夫や、他用途にも利用可能な充電コンセント

が開発されれば、現在 EV・PHV を所有していない顧客の設置意向を高められるとの意見も挙げ

られた。加えて、設置工事の標準化に向けて技術的な点の課題も指摘された。一方、既築の戸建

て住宅に特有の課題としては、住宅設備の状況と顧客の意向に合わせた設置が必要となるため、

設置コストが新築時に比べ高くなることや、標準的な工事金額から追加的な工事が発生すること

への顧客の理解を得やすい様に、工事事業者が具体的な情報提供を進めていく必要が考えられる。

海外市場への展開 1.3

2014 年 12 月 27 日、北京にて開催された第 8 回日中省エネルギー環境総合フォーラムにおい

て、日本経済産業省及び中国国家発展改革委員会、中国国家エネルギー局の支持のもと、日本自

動車研究所(以下、JARI)と中国自動車技術研究センター(以下、CATARC)が覚書に署名し、

充電インフラ整備および運営モデル(以下、充電インフラ研究)、電気自動車と充電インフラの

互換性(以下、互換性研究)等の分野で共同研究を行うこととした。期間は 2015 年初から 2016

年末までの 2 年間とした。

覚書締結後、日中双方は複数回にわたり研究課題に関し現場での交流を重ね、電話会議の開催、

専門家へのインタビュー、モデル都市の調査などの活動を行った。この結果、両国の充電インフ

ラ整備に関する状況を相互に共有し合い理解することができた。特に共同住宅における基礎充電

は両国ともに大きな課題であることがわかり、共通課題に対する解決アイデアにつき相互に意見

交換し、2016 年 11 月 26 日に北京で開催された第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム

で最終報告を行った。

充電インフラ研究については、基礎充電に関しては「物理的・コスト的な課題(充電器設置場

所など)」、「技術的な課題(電力供給など)」を、また経路充電・目的地充電に関しては「物

理的な課題(充電器設置場所、充電器の適正配置など)」「収益性の課題(インフラ事業者が儲

からない)」という枠組みが設定され、課題の整理と解決の方向性が検討された。

その結果、共同住宅の敷地内での充電環境に関しては「敷地内駐車場の活用(日本側アイデア、

平置き駐車場の改善策として 200V の充電コンセントのみを設置する)」、「充電器の共有化(日

本側アイデア、駐車場に充電器を設置する場合に専用駐車区画と共用駐車区画の間となる場所に

充電設備を設置する)」、「旧住宅地での公共充電ポールの整備(中国側アイデア、旧住宅地で

花壇中央の空き地を利用して充電ポールを数基設置する)」、「街路灯ポールの活用(中国側ア

イデア、街路灯ポールに充電コンセントとメーターを設置し街路灯の電力ネットワーク設備を利

用して充電する)、「自動販売機、時間貸し駐車場の活用し、他の用途の機器に充電器を併設(日

本側アイデア、自動販売機や時間貸し駐車場の既存設備を有効活用する)」が出された。また共

同住宅外部の近隣での解決策としては、「商業施設の活用(日本側アイデア、商業施設に国の補

助事業を組み合わせる方法)」、「職場充電の活用(日本側アイデア、職場充電で国の補助事業

3

を活用する方法)」というものが出された。

互換性研究については、EV の普及のためには互換性の確保が重要であるとの認識から、2015

年 11 月に関係する中国専門家を日本に招聘し日本のこれまでの取組・経験について意見交換を実

施したうえで、2016 年 1 月から 2 月にかけて中国の CATARC において AC 普通充電および DC

急速充電の互換性確認試験を行った。この試験では日中協力してシステム標準に基づく試験の他、

非日常的なケースの試験も実施し、互換性確認試験の有効性を確認した。

実施方法は中国、日本および他国の電動車両、および中国メーカーの充電器を集め、電動車両・

充電器の全ての組み合わせにおいて、予め決めておいた項目の試験を行ったもので、それぞれの

挙動、互換性が検証された。イレギュラー試験を含む日本で経験のある互換確認試験を実施した

ことにより、システム標準に基づく試験だけでは確認できない不具合についても検出することが

でき、中国においても互換性確認試験の有効性を確認することができた。

この互換性確認試験で抽出した課題については、審議中の検定標準、業界標準への反映が必要

であり、標準審議組織と協議を行った。また将来に向けた互換性保証の方法については政府及び

上記の関係者と意見交換を実施し、充電器メーカーへの業界標準の展開の必要性について意見の

一致を見るに至った。これらの互換性確認試験の実施、標準への反映協議を通じて、中国の充電

インフラ検定制度及び互換性保証体制の構築に貢献することができた。

4

調査概要 第2章

本調査の背景、目的および対象 2.1

本調査の背景 2.1.1

我が国の 2016 年 10 月末の乗用車の登録台数は 6,130 万台3に及んでおり、総人口を基に計算

すると、国民の 2 人に 1 台という乗用車保有率になる。しかしながらその大半は従来車であり、

EV、PHV の登録台数は両方合わせても乗用車全体の登録台数の 1%にも届いていない。

地球温暖化対策として世界各国に相当量の CO2 排出量の削減が求められており、その一環で従

来車から EV・PHV といった次世代自動車への転換が世界レベルでの課題となっている。加えて

天然資源の海外依存度が高い我が国では、「エネルギーセキュリティ対策」という名目においても、

相当量の化石燃料を消費する従来車から EV・PHV への転換は重要な意味をもつものと理解され

る。

また産業面から捉えれば、自動車産業は我が国にとって重要な産業であり、従来車から EV・

PHV への転換は、同時に我が国の自動車産業が他国の自動車産業に先んじて次のステージへ移行

し、引き続き優位な地位を維持するためにも必要不可欠であると思われる。

EV・PHV の普及のためには、同時に充電インフラ環境の整備がキーとなる。しかしながら、

経路充電では充電器の初期導入コスト、ランニングコスト、充電器利用率の点で充電器設置者の

収益性が課題であり、一方基礎充電では共同住宅における充電器設置の困難さが課題となってい

る。これらの課題が一つずつクリアされなければ、充電インフラ環境の整備が促進されず、これ

からの我が国における EV・PHV の普及拡大に大きな影響を及ぼすと考えられる。

本調査の目的 2.1.2

地球温暖化対策として世界各国に相当量の CO2 排出量の削減が求められており、その一環で従

来車から EV・PHV といった次世代自動車への転換が世界レベルでの課題となっている。加えて

天然資源の海外依存度が高い我が国では「エネルギーセキュリティ対策」という名目においても、

相当量の化石燃料を消費する従来車から EV・PHV への転換は重要な意味をもつものと理解され

ている。また産業面から捉えれば、自動車産業は我が国にとって重要な産業であり、従来車から

EV・PHV への転換は、同時に我が国の自動車産業が他国の自動車産業に先んじて次のステージ

へ移行し、引き続き優位な地位を維持するためにも必要不可欠であると思われる。

ところが、我が国の乗用車の登録台数は 6,000 万台以上4に及んでいるものの、その大半は従来

車であり、EV・PHV の登録台数は両方合わせても乗用車全体の登録台数の 1%にも届いていない

3 国土交通省『自動車保有車両数(総括表)』(平成 28 年 10 月末現在)

5

のが現状である。EV・PHV の普及のためには、同時に充電インフラ環境の整備がキーになる。

しかしながら、経路充電では充電器の初期導入コスト、ランニングコスト、充電器利用率の点で

充電器設置者の収益性が課題であり、一方基礎充電では共同住宅における充電器設置の困難さが

課題となっている。これらの課題が一つずつクリアされなければ、充電インフラ環境の整備が促

進されず、これからの我が国における EV・PHV の普及拡大に大きな影響を及ぼすと考えられる。

本調査では、EV・PHV の充電インフラ整備を促進するために経路充電・基礎充電に関する諸

課題を整理し、関係者でそれら課題や解決方針等を共有しながら今後の充電インフラ普及のあり

方を整理することとした。よって、本事業の目的はこれらのタスクを通じて充電インフラ整備を

促進し、もって「CO2 排出量削減」「エネルギーセキュリティ対策」「次世代自動車産業の育成」

という上述の目標を達成すべく EV・PHV の普及に貢献することである。

尚、平成 26 年度より日中間で次世代自動車普及に関する共同研究が経済産業省、一般財団法人

日本自動車研究所、自動車メーカー、中国発展改革委員会、中国自動車技術研究センター(CATARC)

等を中心に進められている。本調査では、上述の目的に加え、平成 28 年 11 月 26 日に開催され

た日中省エネルギー・環境総合フォーラムの場での発表内容をもって当該共同研究の成果発表と

すべく、これまでの共同研究の活動内容のとりまとめを行うことも本調査の目的とした。

本調査の対象 2.1.3

EV・PHV の充電インフラ5は、あらゆる車両が利用可能な「公共用充電器」と、限られた車両

のみが利用可能な「非公共用充電器」に大別される。うち「公共用充電器」は、利用の考え方に

より、長距離を移動する場合の電欠回避を目的とする「経路充電」と、移動先での滞在中に行う

「目的地充電」に区分される。また「非公共用充電器」は利用者の自宅や事務所・勤務先などの

保管場所で行うため「基礎充電」とされる。

充電器の種類として、短時間での充電が可能な急速充電器は「経路充電」で利用されることが

多く、まとまった時間での充電を行うための普通充電器は「基礎充電」「目的地充電」で利用さ

れることが多い。

本調査では、ビジネスモデルの検討対象として、「経路充電」と「基礎充電」を対象分野とし、

それぞれの利用シーンで一般的に設置されている充電器として、「経路充電」では急速充電器を、

「基礎充電」では普通充電器を想定した検討を行った。

4 国土交通省発表情報より 5 経済産業省『EV・PHV ロードマップ検討会報告書』,2016 ,p.7

6

図表 1-1:充電インフラの分類と本調査対象分野

役割 定義 利用シーン 主な設置場所

公共用

充電器

あらゆる車両が

利用可能な充電器 経路充電

・高速道路 SA・PA

・道の駅

・コンビニエンスストア

・自動車販売店 等

目的地充電 ・宿泊施設

・大規模商業施設 等

非公共用

充電器

限られた車両のみが

利用可能な充電器 基礎充電

・戸建て住宅

・共同住宅(マンション)

・職場 等

出所:経済産業省『EV・PHV ロードマップ検討会報告書』

7

本調査の概略・調査手法 2.2

本調査の概略 2.2.1

本調査では、ビジネスモデルの検討について、経路充電(調査①)および基礎充電(調査②)、

次いで海外市場への展開(調査③)の 3 分野に関し、それぞれ調査や検討等を行った。

調査① ビジネスモデル-経路充電にかかる調査

以下の視点から文献調査を実施し、経路充電にかかるビジネスモデルの課題を整理した。

A. 経路充電設備の普及の現状とビジネスモデルにかかる課題

B. 参考事例の確認

C. 事業環境にかかる規制の状況

D. 将来的に想定される事業環境(車載電池の大容量化、超高速充電の可能性)

調査② ビジネスモデル-基礎充電にかかる調査

戸建て住宅およびマンションの基礎充電の設置状況について、関係者(自動車メーカー、ハウ

スメーカー、ディベロッパー、管理組合、自動車販売店等)との研究会を開催し、検討を行った。

A. マンションにおける基礎充電整備の課題と方策

B. 戸建て住宅における基礎充電整備の課題と方策

調査③ 海外市場への展開にかかる調査

上述の日本・中国の電気自動車と充電インフラにかかる共同研究の成果を、2016 年 11 月開催

の日中省エネルギー・環境総合フォーラムで発表すべく、これまでの当該研究成果と関係者会合

における継続協議の内容を活用し、共同研究の成果としてとりまとめを行った。とりまとめにあ

たっては、日本自動車研究所(JARI)と中国汽車技術研究中心(CATARC)との電話会議や関係

者会合を開催し、発表資料の検討を行った。

本調査事業の実施期間 2.2.2

本調査事業の実施期間は、2016 年 10 月 25 日~2017 年 3 月 31 日である。

本調査の手法 2.2.3

【文献調査】

本調査事業における文献調査の中心となっているものは、調査①、②については経済産業省に

おける EV・PHV の先行調査として実施され 2016 年 3 月 23 日に公開された「EV・PHV ロー

ドマップ検討会」の報告書である。また調査③については本省による「平成27年度エネルギー

需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業(中華人民共和国における統一的 EV充電網の普及

8

実現可能性調査)」の報告書である。文献調査はこれらを中心としており、その他関連する Web

サイトの公開情報、関連文献等を追加的に参照した。

【事前ヒアリング】

本調査事業開始に先立ち、経済産業省は 2016 年 8 月~10 月にマンションディベロッパー、管

理会社など 15 社に対し EV・PHV の基礎充電設備設置等への取り組みに関するヒアリングを実

施した。本調査事業ではそのヒアリング結果を参照した。

【基礎充電研究会】

本調査事業では、「基礎充電研究会」と称した研究会を次のとおり開催した。

図表 2-1:基礎充電研究会 開催概要

開催日時 第 1 回 2016 年 12 月 14 日(水)

第 2 回 2017 年 1 月 30 日(月)

参加者 自動車メーカー 4 社、マンションディベロッパー 5 社、

ハウスメーカー 1 社、マンション管理会社 2 社、

駐車場施行・建築 1 社、立体駐車場メーカー 1 社、

電力会社 1 社、電気工事会社 1 社、

充電器メーカー 2 社、自治体 2

オブザーバー 国土交通省、環境省、資源エネルギー庁 他

有識者(座長) 東京大学大学院 新領域創成科学研究科 堀 教授

事務局 経済産業省 製造産業局 自動車課

(事務局支援)大和総研

テーマ 第 1 回 マンションにおける基礎充電

第 2 回 戸建て住宅における基礎充電

【アンケート結果の参照】

本調査では、一般社団法人次世代自動車センターが 2016 年 12 月~2017 年 3 月 17 日に実施し

た「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」を

参照した。同調査では、①戸建てのハウスメーカー(9 社)、②戸建居住者(351 世帯)、③マ

ンションディベロッパー(16 社)、④マンション管理組合(29 組合)、⑤マンション居住者(656

世帯)の 5 つの主体に対し、EV・PHV の充電設備の整備、ならびに EV・PHV の所有意向(②、

⑤)等を題材としたアンケートを実施している。そのアンケート内容を本調査事業では分析対象

として活用した。

9

図表 2-2:一般社団法人次世代自動車センター実施のアンケート調査の対象

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター

【日中電話会議を通じた協議】

調査③にかかる調査手法として、日本側(経済産業省、JARI、一般社団法人日本自動車工業会

(JAMA)、自動車メーカー、大和総研)と中国側(CATARC)との間で複数回電話会議を開催

し、日中双方の充電インフラ推進に関する意見交換等を行った。

【本調査事業の受託者】

本調査事業は経済産業省製造産業局自動車課より株式会社大和総研が受託した。

10

EV・PHV 充電インフラを取り巻く状況 2.3

世界の EV・PHV 普及状況 2.3.1

図表 2-3 は、世界全体での EV・PHV の保有台数の推移に関するグラフである。2011 年から急

速にその数が増加し、には全世界で EV・PHV の保有台数が 120 万台を突破している。その間、

毎年前年比約 2倍の伸びでの推移である。国別でみると、米国が約 20 万台と最も多く、次いで中

国、日本、オランダ、ノルウェー、フランス、英国、ドイツ、カナダと続く。2014 年から 2015

年にかけて中国の伸びが著しく、数年以内に米国を抜いて世界第一位の EV・PHV 保有国になる

ことが予測される。

図表 2-3:世界の EV・PHV の保有台数推移

出所:International Enegy Agency「Global EV Outlook 2016」

我が国における EV・PHV の普及状況と目標 2.3.2

図表 2-4 は、我が国における EV・PHV の登録台数の推移である。2011 年に 26,394 台であっ

たその数は、2015 年は 137,641 台にまで拡大している。我が国の自動車登録台数からすればその

絶対数は少ないが、EV・PHV の普及はまだ黎明期であり、今後の増加が予想される。

EV と PHV の比率であるが、2015 年を見ると EV が 80,511 台に対し、PHV が 57,130 台とな

っており、EV:PHV の比率は 58:42 と EV の比率が高い。しかしながら、その比率を経年でみ

ると、2011 年は 84:16、2012 年は 69:31、2013 年は 65:35、2014 年は 62:38 と推移して

おり、PHV の比率が徐々に高まっている。

11

図表 2-4:我が国における EV・PHV の登録台数

出所:一般社団法人次世代自動車振興センター

一方で、EV・PHV 車両の普及台数の目標について、2015 年 6 月 30 日に閣議決定された「日

本再興戦略改訂 2015」では「2030 年までに新車販売に占める次世代自動車の割合を 5~7 割とす

ることを目指す」とされている。このうち EV・PHV については目標が 20~30%となっている。

2016 年の我が国の普通乗用車、小型乗用車の新車販売台数は約 280 万台6であるため、仮に 2030

年の新車販売台数を同数と見るならば、56 万~84 万台が EV・PHV が占めるという目標値であ

る。

図表 2-5:次世代自動車の新車販売実績と目標

2015 年(実績) 2030 年(目標)

従来車 73.5% 30~50%

次世代車 26.5% 50~70%

- ハイブリッド 22.2% 30~40%

- EV 0.27% 20~30%

- PHV 0.34%

- FCV 0.01% ~3%

- CDV(クリンディーゼル) 3.6% 5~10%

出所:経済産業省『EV・PHV ロードマップ検討会報告書』,2016 , P.4

6 一般社団法人日本自動車販売協会連合会発表情報より

12

急速充電器の普及状況 2.3.3

EV・PHV の充電設備は基礎充電、経路充電に大別されるが、経路充電は長距離移動中の電欠

回避等を目的に、特定のエリアに集中することなく一定間隔で設置されることが望ましいとされ

る。CHAdeMO 協議会の発表 によれば、2017 年 1 月現在で 6,935 カ所(基数では 7,204 基)に

まで増加した。2009 年末の時点で 95 カ所であった急速充電施設数は、2014 年にかけて緩やかに

拡大してきたが、経済産業省の「次世代自動車充電インフラ整備促進事業」の推進等を通じて、

2015 年に入り急速充電施設数は大幅に上昇した。

図表 2-6:急速充電施設数の推移

出所:CHAdeMO 協議会

一般財団法人電力中央研究所による EV-OLYENTOR を使用したシミュレーションでは、約

30km 毎に充電器が設置されれば電欠は起きないとの結果が示されている。現在の状況は、計算

上平均 26.5km あたりに一か所設置されている状況である。これは、道路の総延長距離(道路と

は一般国道・都道府県道を指し、市町村道を除いたものとする)が 18 万 4000km であり、これ

を急速充電器の設置数で除すことにより急速充電器一カ所あたりの道路の距離数を求めたもので

ある。計算上は電欠が発生する確率は低いことになる。

しかしながら、実際に県別に設置個所を見てみると 30km を超える地域がある。図表 2-7 は、

都道府県別の総道路道(横軸)と充電器設置カ所数(縦軸)から急速充電施設の設置状況を表し

た図である。各都道府県で一様ではなく、バラつきがあることが分かる。地域によっては空白地

帯が存在していることを示しており、EV・PHV ユーザーにとって電欠の不安を払拭できない。

従って、バラつきや空白地帯を解消するための更なる取り組みが必要と目される。

13

図表 2-7:都道府県別の急速充電施設の設置状況

出所:EV・PHV ロードマップ検討会報告書 2016 年 3 月

普通充電器の普及状況 2.3.4

図表 2-8 は、一般社団法人電動車両用電力供給システム協議会(通称:EVPOSSA)発表の交

流普通充電装置の累積出荷台数に関する推移である。普通充電器には、①電源プラグを充電コン

セントに差し、充電用コネクタを車両の充電口に接続する「コンセントタイプ」、②充電器に充

電ケーブルが付属しており充電用コネクタを車に差し込むことで充電可能な「充電ケーブル搭載

タイプ」、③EV に蓄電した電気を家庭で利用(EV 側から見た放電)できるよう中継可能な「放

充電器タイプ(Vehicle to Home)」がある。このうち、2016 年 9 月時点で①コンセントタイプ

が約 56 万台、②充電ケーブル搭載タイプが約 2 万 5 千台である。コンセントタイプが多数を占

めているが、双方右肩上がりで増加している。

14

図表 2-8:交流普通充電装置出荷統計(累積出荷台数)

出所:一般社団法人電動車両用電力供給システム協議会

15

ビジネスモデルにかかる調査 第3章

経路充電について課題整理 3.1

急速充電サービスにおける課題 3.1.1

現在の急速充電器の充電環境整備には、自動車メーカー各社が協調して設立された合資会社日

本充電サービス(以下、NCS)が大きな役割を担っている。NCS は、EV の普及を目的に、充電

器の設置推進、充電ネットワークの充実を図ることで、EV・PHV のユーザーにとって利便性が

高く、電動車両の機能が最大限生かせる充電環境づくり取り組むべく 2014 年 5 月 26 日に設立さ

れた。トヨタ自動車株式会社、日産自動車株式会社、本田技研工業株式会社、三菱自動車工業株

式会社、株式会社日本政策投資銀行、東京電力株式会社、中部電力株式会社の 7 社が合計 1 億円

を出資している。また、NCS はプロジェクトファイナンスのスキームを用い、日本政策投資銀行、

横浜銀行、京都銀行、七十七銀行、中国銀行、百五銀行が総額 89 億円のシンジケート・ローンを

組成している。

図表 3-1:NCS の事業モデル

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

16

NCS の具体的な活動は、①EV の普及に必要な充電器設置促進活動の促進と、②充電設備利用

者の利便性の向上である7。

①の充電器設置促進活動の促進においては、NCS が充電器(急速・普通)設置希望者に対し、

公的補助金8では十分にカバーできない充電器の設置費用や維持費用の一部を負担し、その代わり

に NCS は充電器設置者から 8 年間の独占利用権を得る仕組みとなっている。充電器設置者の導

入・運用に関する金銭的な負担を極力少なくし、早期に一定数の急速充電器の設置を促進するこ

とが目的である。尚、急速充電器設置の受付申請は 2014 年 9 月 30 日に終了し 4,700 基が申請さ

れた9。

②の利便性向上に向けては、NCS 自身が EV 利用者に充電カードを発行し、充電施設の利用に

かかる課金・決済を行うだけでなく、それまで自動車メーカー等が独自に展開してきた認証・課

金システムについても決済取次ぎの業務で連携することで、EV 利用者としては 1 枚のカードで

充電が可能な充電環境を整備している。

以上のように、NCS は我が国の充電インフラ整備に貢献し、一定の成果を挙げている。しかし

ながら、経路充電インフラ整備では次のような課題も引き続き見受けられる。

1)収益性の確保

急速充電器の設置が進まない理由に、経済性確保が困難であるという点が挙げられる。急速充

電器の設置によるメリットとして、宣伝効果や集客効果など間接的な効果があるが、直接的な収

入は利用者からの充電サービスに対する料金のみとなる。一方で充電設備は導入の初期投資コス

トが高額であり、施設運営者の負担が低くないとの指摘されている。また、メンテナンス等を含

めたランニングコストも一定レベル10で必要となるため、初期投資コストを含め、初期投資額を

回収できるまでの収入が十分に得られていない充電スポットが存在していると言われている。今

後、経路充電サービスが事業として継続できるためには収益性の確保が求められるが、収入の増

加には、利用頻度の向上や利用料金の見直し、費用の抑制には、初期投資の抑制、メンテナンス

コストの管理、電気代の抑制などの取組みが必要と思われる。

7

CHAdeMO 協議会 第四回総会(2014)報告 「自動車 4 社充電インフラ普及支援プロジェクト」 8 「次世代自動車充電インフラ整備促進事業」による設置補助金 9 合同会社 日本充電サービス「日本充電サービス 一般提携契約の概要について」2015 年 4 月 10 次世代自動車振興センター「充電インフラ整備事業採算性等調査」によれば、道の駅に給食充

電器を設置する場合の、イニシャルコストは数百万円~1,000 万円超(国による補助金支援を

除く)、ランニングコストは年間数 10 万円~100 万円とされている。

17

図表 3-2:急速充電器のコスト(道の駅の事例)

出所:次世代自動車振興センター「充電インフラ整備事業採算性等調査」

しかしながら、収入の増加は容易ではない。図表 3-3 は、一般世帯における(車種を問わない)

乗用車の利用状況に関する統計データである。主運転者の一週間あたりの使用頻度は平均 4.9 日

であることから、これをもとに 1 ヶ月あたりの使用頻度を求めると約 20 日ということになる。一

方で、同統計データによれば平均的な月間走行距離は 350 ㎞/月(4,200km/年)であるため、

使用頻度で除算すれば一回あたりの走行距離は 17.5 ㎞/程度に留まることが分かる。また、乗用

車の主な用途についても調査されており、「買物・用足し・他」が 4 割強、「通勤・通学」が 3 割

弱と 2 つの用途で大半を占めている。EV・PHV でも同様と想定すると、上述の利用スタイルで

は家庭での基礎充電で十分に充電が足りると考えられ、経路充電の必要性は必ずしも高くないこ

とが想定される。

図表 3-3:一般世帯における乗用車の利用状況

主運転者の一週間当

り使用頻度

月間走行距離 主運転者の主使用用途

0・1 日 9% ~300 ㎞ 61% 仕事・商用 15%

2・3 日 20% ~600 ㎞ 17% 通勤・通学 29%

4・5 日 19% ~1,200 ㎞ 18% レジャー 15%

6 日 14% 1,201 ㎞~ 4% 買物・用足し・他 42%

7 日 38%

平均 4.9 日 平均 350 ㎞

出所:一般社団法人 日本自動車工業会『2015 年度 乗用車市場動向調査』より

収益性を求める場合、コスト削減と利用度向上(売上拡大)の二面性を追求する必要がある。

前者においては、充電器本体のコスト低減や修理・交換部品の標準化等の検討が必要である。ま

た、平成 28 年度次世代自動車充電インフラ整備促進事業として、充電器の設置促進を目的に、一

定の要件を満たす設置事業にかかる充電器等の購入費や設置工事費など対して国による公的補助

18

金支援が実施されており、導入の初期投資コストを軽減させる取り組みとして今後も継続が期待

される。後者については、事業者による利用者の使用状況に応じた料金体系の多様化、会員向け

サービスの拡充などにより、潜在的な加入者の深耕が必要となろう。

技術面に言及すれば、超高速充電の登場が期待されている。これにより普通充電型の基礎充電

によって長時間自宅で充電するよりも、外出先で超高速充電を利用する方が短時間で充電が完了

するため、利便性の点で超高速充電方式での経路充電を指向する EV・PHV 利用者が増加するこ

とも想定される。

図表 3-4:次世代自動車充電インフラ整備促進事業の対象事業と補助率

対象事業 充電設備の購入費 充電設備の設置工事費

高速道路 SA・PA 及び道の駅

充電設備設置事業

定額 定額

その他公共用

充電設備設置事業

1/2 定額

共同住宅等

充電設備設置事業

1/2

(V2H 充電設備、又は蓄電

池付充電設備は2/3)

定額

工場・事業所

充電設備設置事業

1/2 定額

注)事業ごとに補助金交付上限額が定められている。

出所:次世代自動車振興センター「次世代自動車充電インフラ整備促進事業補助金交付規定」

2) 稼働率の平準化

上述の収益性確保のためには、充電器ごとの利用頻度の向上が求められる。充電施設において

充電待ちが発生している状態は、充電器の稼働率を下げることになり、利用者だけでなく充電事

業者にとっても、好ましい状態ではない。車両の充電残量や近隣施設などの状況に依存するもの

の、近隣充電施設へ利用者を適切に誘導するような仕組みが一般化されれば、複数の充電施設の

レベルで見た場合の充電施設の利用頻度の平準化の可能性が期待される。例としては、携帯電話

の充電スポット検索アプリに充電タイマーを追加し、充電施設を探している人に対して検索した

充電施設の使用状況や残充電時間を表示するなどの機能が付加される11といった取り組みが進め

られている。将来的には、一定の地域における充電需要に対し、充電施設がネットワーク化され

てサービス提供されることで、重複投資の回避、既築施設の見直し、各種費用の抑制効果も期待

される。

11 アユダンテ株式会社が提供する携帯電話向けアプリ”EVsmart“プレスリリース

<www.ayudante.jp/release/release150121.htm>

19

図表 3-5:携帯電話を利用した充電施設の情報提供イメージ

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

3)充電マナーの遵守

今後、EV・PHV の利用台数が増加する可能性が想定されるなか、急速充電における充電待ち

(いわゆる「充電渋滞」)が発生する充電施設の増加が予想される。具体例としては、充電が終了

しているにもかかわらず車両を放置している状況が充電マナー違反として問題視されており、マ

ナー向上に向けた議論が利用者間で行われている12。充電後の放置は稼働率向上の妨げとなるた

め、上述の携帯電話アプリのアラームや使用状況の共有機能などの活用や、自動車販売会社の啓

蒙活動を通じた、公共マナーとしての充電マナー向上が期待される。

普及に向けた参考事例 3.1.2

経路充電の普及に向けたビジネスモデルの検討にあたり、参考となる事例として EV・PHV に

先んじて取り組みが進められてきた天然ガス自動車における充填ステーションの普及に向けた取

り組みついて触れる。また、沖縄県で独自に充電インフラの整備を進めてきた株式会社エー・イ

ー・シーの事業経緯を概観する。

1) 天然ガス(CNG)自動車における充填ステーションの普及に向けた取り組み

天然ガス自動車とは、圧縮された天然ガス(CNG :compressed natural gas)を燃料とするエ

ンジンを利用した自動車となる。天然ガス自動車の普及は、大きく石油に依存したエネルギー構

造からの多様化を進める効果やディーゼル機関に比べて排気ガス中の有害物質が少ないというこ

とから環境貢献の効果が期待されている。

12

EV オーナーズクラブ ホームページ <ev-owners.jp/index.cgi>

20

経済産業省の「エネルギー基本計画」(2014 年 4 月)においては、EV・PHV と同様の次世代

自動車として、普及拡大に向けたインフラ整備の重要性が示されており、車両重量が重く、一日

当たりの走行距離が長い貨物トラックやバスにおけるディーゼル車からの代替が奨励されている。

天然ガス自動車の普及が始まったのは1990 年代以降であり、CNG 自動車の開発と市販化、「東

京都ディーゼル車 NO 作戦」などのディーゼル車代替の政策が展開され、CNG 自動車の普及を

後押しした。しかし、その後のディーゼルエンジンの効率改善と環境規制対応に加え、燃料価格

差の縮小を受け、近年では CNG 自動車の普及のペースに鈍化がみられる。

図表 3-6:天然ガス自動車数とガススタンド数の推移(2016 年 3 月末)

出所:一般社団法人 日本ガス協会ホームページ

これに応じて、天然ガススタンド数は 2008 年の 344 ヵ所をピークに減少傾向にある。2015

年度末の天然ガススタンド数は 282 ヵ所に留まり、急速充電施設数の約 7,000 ヵ所に比べると少

ない状況にある。また、2016 年 3 月末の充填ガススタンド(282 ヵ所)のうち、ガス事業者が出

資などの形で関与したスタンドが全体の 5 割強を占めている点が特徴となる。

21

図表 3-7:天然ガススタンド(急速充填所)の種類(2016 年 3 月末現在)13

出所:一般社団法人日本ガス協会ホームページ

天然ガス(CNG)自動車の普及は、エネルギーセキュリティ向上や環境貢献の効果から期待が

高く、日本ガス協会では 2030 年までのビジョンにおいて、輸送部門における CNG トラックの普

及と、充填スタンドのインフラ整備を目指す方針を掲げている。

ただし、今後の普及拡大に向けては、①車両価格、修理保守費用が高い、②一充填当たりの走

行距離が短い、③天然ガス供給インフラが少ない、といった課題が挙げられている。

図表 3-8:天然ガス自動車の普及拡大に向けた課題

課題 対応策

①車両価格、修理保守費用

が高い

・ 一般車両価格と差額への補助制度の継続。

・ 商用車メーカーによる量産仕様車種の開発から市販化に向

けた動きを促進させる。

・ 搭載タンクの規格標準化による低価格化の実現。

②一充填当たりの走行距離

が短い

・ 搭載タンクの軽量化・大容量化に向けた素材研究。

・ 超高効率天然ガスエンジン(Dual Fuel Compression

Ignition: DFCI )の技術開発を促進する。

③天然ガス供給インフラが

少ない

・ 関連規制(消防法、高圧ガス保安法、ガス事業法、都市計

画法等)の緩和を進める。

・ 既存のガス施設の機能拡充により、スタンド設置費用の低

減を図る。

・ 軽油に比べた燃料価格差を確保する。

出所:一般社団法人 日本ガス協会「天然ガス自動車の普及に向けて(2016 年度版)」他

より作成

このような現状に対して、日本ガス協会は 2030 年ビジョンにおいては、天然ガス自動車の普

及展開を掲げており、天然ガス自動車の普及ロードマップでは、荷主や運送事業者、スタンド事

13 一般社団法人日本ガス協会によれば、天然ガススタンドは急速充填所以外にも、事業所に設置

され 1 台に数時間をかけて充填する昇圧供給装置(小型充填機)が 447 台普及しているが、本

調査では急速充填所のみを対象とする。

146 51.80%

99 35.10%

37 13.10%

282

種類 設置箇所数 (比率)

自家用充填所

合計

天然ガススタンド(一般資本)

天然ガススタンド(ガス事業者関与)

22

業者の協力の下、天然ガス自動車と天然ガススタンドを計画的に普及させることにより、天然ガ

ススタンドの利便性向上や安定化を図ることを、今後の取り組みの一つとして挙げている。同協

会は、物流拠点を中心に大型のガススタンドの建設を進めることで、累積の天然ガススタンド数

を、2020 年までに 260 箇所、2030 年までに 1,000 箇所とする計画を立てている。

図表 3-9:天然ガス自動車の普及計画及び天然ガススタンドの整備計画

出所:一般社団法人 日本ガス協会「天然ガス自動車の普及に向けて(2016 年度版)」

利用主体となる輸送事業者にとって、天然ガス自動車やスタンドを導入することの経済的なメ

リットは、軽油を利用したディーゼルエンジンのトラックに対する、CNG を燃料とする CNG ト

ラックのコスト競争力となる。競争力確保には、まず車両の性能差や価格差の縮小に向けた自動

車メーカーの研究開発が求められる。また、ランニングコスト面では軽油と CNG の燃料価格差

を一定金額以上確保することが重要となり、このためには LNG 安定供給だけでなく、LNG 受入

基地からスタンドまでの輸送費、スタンドの設置投資額など関連事業者間の協力が必要となる。

さらに、天然ガススタンドの整備に向けては、設置にかかる制約の低減に向けて、関連規制(消

防法、高圧ガス保安法、ガス事業法、都市計画法等)の緩和が進みつつある。またスタンド経営

の安定化については、既存のガス施設やガソリンスタンドとの併設を認めるなどの、スタンド設

置費用の低減に向けた動きが進められている。また、政府からは、自動車購入にかかる助成や優

遇税制だけでなく、ガススタンドに対しては、一定規模(1 基の取得価額 4,000 万円)以上の天

然ガス供給設備の固定資産税の課税標準額を最初の 3 年間は 3 分の 2 とするなどの優遇税制も整

備されている。

日本ガス協会は、CNG 自動車の普及発展に向けては、天然ガス自動車と天然ガススタンドを計

画的に普及させることとし、スタンドの経営安定化については設置費用の低減に向けた規制緩和

と、既存燃料との価格差の確保が必要となることをビジョン内で掲げている。この点では、EV・

23

PHV の経路充電施設においても収益性確保が課題となる点で類似しており、ガス事業者がガスス

タンド事業に関与している様子を見ても、自動車メーカーや電力事業者など裨益の大きい事業者

がインフラ整備に今後も関与していくことが期待される。

2) 沖縄における株式会社エー・イー・シーによる充電インフラ整備の事業経緯

2011 年から沖縄県において、株式会社エー・イー・シー(本社:沖縄県那覇市、代表取締役:

國場幸一、設立:2010 年 3 月、以下 AEC)は、EV レンタカーの普及に向けた急速充電器のネッ

トワークの形成を進めてきた。この取り組みは、県内のレンタカーに EV を導入するという沖縄

県が推進する取り組みに併せて、AEC が EV 用急速・中速充電器の設置・運営・管理を事業化し、

レンタカー向けた充電設備を沖縄本島内に 50 台程度設置し、EV 導入の普及促進(想定台数 1 万

6 千代)を図るという目標を掲げたものであった14。

背景には、那覇商工会議所の次世代エネルギービジョン検討委員会が提唱していた事業構想の

一環として観光客が利用するレンタカーの EV 化を促進する計画があり、2011 年より EV レンタ

カーを導入し、2020 年には沖縄県内のレンタカーの約1割に当たる 2,500 台の導入を目指すとい

う目標もあった15。

その後、2011 年 1 月には、レンタカー事業者 3 社に対し EV 220 台のリースが開始され計画が

開始された。併せて、AEC は 2011 年 2 月より急速充電課金システム事業を開始した。AEC が

提供した急速充電課金システム(以下、E-Quick)は、先ず利用希望者が、レンタカーを借りる

際、AEC との間で充電サービス契約を締結して利用カードを発行してもらう(利用料 2,000 円)。

AEC は利用者が急速充電器で充電する度に充電代 500 円を課金し、レンタカー返却時に、充電代

課金分の清算を行うという仕組みであった16。事業開始直後の「エコリゾートアイランド沖縄推

進事業実施報告書」(2011 年 3 月 沖縄県文化観光スポーツ部観光政策課)によれば、EV の利用

者の 6 割強が充電設備の整備状況に不安を感じたとしており、充電設備の整備が期待された。

事業開始後 1 年となる 2012 年 1 月時点では、AEC が 18 ヵ所 27 基の急速充電器を設置したほ

か、ホテルや観光施設等にも普通充電器が導入され、レンタカー事業者も EV レンタカーの料金

をコンパクトカーと同程度にまで下げたものの、EV レンタカーの稼働率はそれほど高まらず低

位に推移した。その後の 2014 年 1 月には EV のリース期間満了に伴い、大半の EV レンタカーは

レンタアップ車として売却されることで EV レンタカー数は大幅に減少した。

14 伊藤忠ネクサス株式会社 ニュースリリース「沖縄県の電気自動車充電インフラ整備会社 株式

会社エー・イー・シーへ出資する件(2010 年 5 月 21 日)」

<www.itcenex.com/newsrelease/2010/pdf/100521.pdf> 15 琉球新報サイト「電気自動車、県内でも普及拡大へ「エー・イー・シー」設立」2010/4/23

<ryukyushimpo.jp/news/prentry-161217.html> 16 日本経済新聞 「EV レンタカーの導入、沖縄で加速」(2011 年 7 月 11 日)

24

図表 3-10:沖縄における EV 観光ツアー構想

出所:沖縄県 EV 普及促進協議会 「EV 観光の楽園 沖縄」

2015 年 10 月 30 日には E-Quick 充電サービスは終了し、撤去が開始された17。同時期の現地

の充電環境18としては、県内の急速充電スポット 53 カ所(全充電スポット 118 カ所)のうち、

E-Quick カードで認証を行う急速充電スポットは 22 カ所(日産 ZESP /EVSP 会員は無料のディ

ーラー2 カ所を含む)と部分的であり、自動車販売店やコンビニエンスストア等に、自動車メー

カーや NCS 系の急速充電システムが設置されたことや、EV レンタカー数も大幅に減少したこと

から、大きな混乱には至らなかった。

稼働率が高まらなかった想定理由として、AEC の事業では、顧客となるレンタカー利用者が主

に観光客に限定され、馴染みのない土地で充電設備の整備状況に対する不安があったのではない

かと想像される点や、短い滞在期間に対し EV レンタカー料金に加え AEC システムの利用カード

発行にかかる利用料(2,000 円) の負担が考えられる。また、既に EV を所有する観光客は、自

身の経験に基づき、宿泊先での基礎充電による充電や、自動車販売店やコンビニエンスストアで

自動車メーカーや NSC が提供するサービスで代替可能と判断されたことも想像される。導入した

充電設備の維持管理コストは固定的に発生することから、同社は収支性の確保が困難になったと

みられる。残念ながら同社は事業を清算する流れとなった。

17 琉球三菱自動車販売株式会社「E-Quick 充電サービス終了のお知らせ」

<www.ryukyu-mitsubishi.co.jp/3122.html> 18 沖縄県 「電気自動車充電マップ掲載施設一覧 2015 年 6 月 29 日現在」

http://www.pref.okinawa.jp/site/kankyo/seisaku/kikaku/documents/h270629_evdata.pdf

25

前述のように、NCS が提供する充電システムでも、プランに加入しない場合に、プラン加入者

に比べて割高な利用料金19を負担することで、ビジター充電が可能となっている。AEC の事業に

おいても、契約時のカード利用料(2,000 円)や一回当たりの課金(500 円)と料金水準は異なる

ものの、基本的には観光客が EV レンタカーを利用し、AEC と契約した月にしか収入が発生しな

いフロー型収入モデルとなる。充電事業者が経路充電サービスを展開する場合には、充電設備の

投資にかかる減価償却や施設の維持管理コストなどの固定費が費用割合の多くを占めると言われ

ている。AEC ようなフロー型収入モデルで、固定費負担を賄うためには、一定数の新規利用者を

継続的に確保する必要があり、事業の安定性・継続性を確保することは難しいことが AEC の事例

から確認される。

このため、現在 EV・PHV 利用者の 30%程度に留まるとされている充電サービスへの加入率を

高めることは、充電サービス事業の安定性・継続性の確保の点から非常に重要であり、将来的に

事業の安定性が確保されるまでは、継続して事業関係者間でのリスク負担の調整が検討されるこ

とが必要と考えられる。

19 充電容量の 80%までを充電できるとされる 30 分間で充電した場合、ビジター向け料金プラン

では一回の充電あたり 1,500 円(最初の 5 分間は 250 円、その後毎分 50 円であることから、

250 円+25 分×50 円=1,500 円)が課金されることになる。

26

急速充電の事業環境にかかる規制の状況 3.1.3

急速充電施設の普及拡大に向けた大きな課題とされていた“一需要地二引き込み”は、2012 年

に規制緩和が図られている。

「電気自動車専用急速充電器の同一敷地内複数契約を可能とする特別措置」により、急速充電

器を新設する際に、一定要件を満たす場合には、設備の設置部分を一需要場所として、 同一敷地

内において複数契約が可能となった(一需要地二引き込み:2012 年 4 月 1 日より適用) 。 こ

れにより 受電設備(キュービクル)の新設が不要となり、別事業者による急速充電器の設置が可

能となっている。

図表 3-11:一需要地二引き込みによる急速充電器の設置

出所:経済産業省 資源エネルギー庁

その他、急速充電施設の運営に関連する主な規制としては、計量法と火災予防条例が挙げられ

る。以下、各規制の関連部分を示す。

【計量法】

電気料金を受益者である充電設備の利用者に課金する方法として、使用電力量に応じた従量課

金や充電時間・回数に応じた定額課金がある。使用電力量に応じた従量課金は、受益と負担の関

係が明確となるものの、計量法に基づく検定に対応した電力量計(メーター)を使用しなければ

ならないという制約がある(計量法)。一方、充電時間・回数に応じた課金の場合には、メーター

の設置は不要となる。

【火災予防条例】

2012 年 12 月以降、急速充電器の設置には、各市町村の定める火災予防条例の安全対策を順守

する必要があるが、対策内容の最終判断は所轄の消防署により異なり、事前確認が必要となる。

27

電動車両の蓄電池の大容量化の見通し 3.1.4

EV 購入にあたり消費者の懸念材料として、1充電当たりの走行距離に対する不安がある。こ

のため電動車両の普及に向けては、1充電当たりの走行距離の大幅な伸長が期待されており、自

動車用二次電池の大容量化が求められている。

現在、EV に用いられる自動車用二次電池にかかるロードマップとしては、国立研究開発法人

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が 2013 年に改訂した「二次電池技術開発ロードマ

ップ」が存在する。本改訂では、目標値の見直しだけでなく、電池搭載重量の目標値や、「5 年・

10 万 km」の性能保証を満たすカレンダー寿命及びサイクル寿命の目標値などが追加された。

図表 3-12:自動車用二次電池にかかるロードマップ

出所:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

「二次電池技術開発ロードマップ」

EV 用車両諸元の走行距離を見ると、現在は 120~200km であるところ、2020 年頃には 250~

350km、2030 年頃には 500 km 程度、2030 年以降は 700 km 程度が目標値となっている。現在、

自動車ユーザーが求める1充電当たりの走行距離は、350 km 以上となっており20、今後も目標値

に沿った走行距離の伸長が求められる。

走行距離伸長のためには搭載される充電パック容量の拡大が必要となるが、同時に走行性能の

面からは搭載重量の軽量化が求められる。このために、目標値には求められる重量エネルギー密

20 デロイト トーマツコンサルティング合同会社「2015 年次世代車に関する消費者意識調査結果」

28

度の値が、現在の 60~100Wh/kg ら、2020 年頃には 250Wh/ kg 、2030 年頃には 500Wh/ kg 、

2030 年以降は 700Wh/ kg として設定されている。

現在、これら目標の実現に向けては、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

(通称:NEDO)により 2 つの研究開発が進められている。そのうち、2012 年度から取り組まれ

ている「リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発」においては、現在、EV・PHV におい

て主に搭載されているリチウムイオン電池を対象に、2020 年頃に求められる性能を満たすべく、

高容量化(重量エネルギー密度の向上)、耐久性向上、低コスト化に向けた要素開発が進められて

いる21。

ただし、リチウムイオン電池は技術的な性能限界から、ガソリン車と同等の走行距離の実現(現

在の 5 倍のエネルギー密度の確保)は困難であるとされ、「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業」

(2009~2015 年度)に続き、2016 年度からは「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発」が実施

されている22。本プロジェクトでは、革新型蓄電池の開発・製造に展開可能な解析技術の確立と、

目標エネルギー密度を得る可能性のある革新型蓄電池を対象とした実セルの試作・評価という 2

つの研究開発テーマについて、2018 年度末の中間目標と 2020 年度末の最終目標を設定しており、

車載用蓄電池として実用化が期待されている。

21

NEDO リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業 事業プロジェクト概要

<www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100063.html> 22

NEDO 革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発 事業プロジェクト概要

<www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100121.html>

29

超高速充電の可能性 3.1.5

充電時間の短縮化は、電動車両の普及に向けた主な課題の一つであるが、走行距離伸長のため

の電池大容量化に伴い、充電時間はさらに長時間化することが懸念される。

これに対応するため、急速充電器は高出力化を進める方向にあり、現在の最大出力の 50kW を

超える 150kW の急速充電器の仕様検討も進められている。

図表 3-13:急速充電器出力の大容量化に向けたロードマップ

出所:CHAdeMO 協議会 総会 2016 資料(2016 年 6 月)

急速充電にかかる課題の一つに、ガソリンの給油時間に比べて、長い充電時間が必要になると

いう点がある。ガソリンスタンドにおけるガソリン給油速度は毎分 30~45L であり23、僅かな所

要時間で給油が完了する。これに対し、自動車メーカーによれば CHAdeMO 規格に則った充電器

の仕様上、最大出力となる 50kW 急速充電器を利用した場合、バッテリー残量の警告灯が点灯す

る低残量状態から充電容量の 80%までの充電時間目安は、約 15 分から 30 分とされている24。た

だし、既存の急速充電施設には出力が 50kW を下回るものが多数存在し、同様に充電を行う場合

には目安以上の時間が必要となっている。今後、航続距離の伸長に向けて車載電池の大容量化が

進めば、充電容量の 80%まで充電するには、さらに長い充電時間が必要となることが懸念されて

いる。

23 総務省消防庁危険物保安室 「セルフスタンドにおける給油時の安全確保に関する検討会報告書」

(2007 年 3 月) 24 電気自動車メーカーのテスラではテスラ車両専用に、「スーパーチャージャー」という最大出

力 120kW の急速充電器を国内にも 14 ヵ所設置(2017 年 3 月現在)しているが、対応車両が

限定されることから本調査では取り扱わない。

30

充電時間の短縮に向けて、急速充電器の高出力化の議論が CHAdeMO 協議会において進められ

ている。今後、現在の最大出力規格(50kW:125A,500V)に比べて、3 倍の最大出力

(150kW:350A,500V)が可能となる急速充電器の仕様策定を進める計画となっており、自動車メ

ーカー、充電器メーカーなどの関係者が連携して検討を進めている状況にある。ただし、実際に

高出力化された急速充電器を普及させるためには、既存の急速充電施設のが収益性の確保が課題

として挙げられており、経済性の面からクリアすべき課題が想定される。将来的に高出力化され

た急速充電器が市販された場合に、市販当初より急速充電器を含む機材価格が既存の機材に比べ

て低廉化することは想定し難く、施設運営者としては初期投資負担が増加することが懸念される。

また、急速充電器の最大出力が 150kW 化することで、施設運営者の電力契約が 50kW 未満の

低圧引き込みであった場合は、50kW 以上の高圧引き込みに変更する必要がある。これにより電

気料金負担については、低圧受電に比べて基本料金単価が増加するため基本料金が増加し、電気

料金に占める固定的な負担が増加する。また高圧受電環境の整備には、施設運営者側が高圧受電

装置(キュービクル)を整備し、電気主任技術者を選任する必要があるなどコストの増加が見込

まれる。さらに、利用者あたりの充電時間が短縮されることに伴い、充電施設の稼働率が低下す

る可能性もあり、施設運営者として稼働率の平準化のための施設の再配置といった対応が必要と

なる。また、毎分ごとに設定されている充電料金も、車両利用者の反応を踏まえながら、料金体

系の見直しを進めていくことが求められる。

以上の点から、高出力急速充電器が市販された場合にも、新設される急速充電器が一斉に

150kW に切り替わるわけではなく、施設運営者、充電器メーカー、自動車メーカー、利用者など

ステークホルダーの判断により、既存の 20kW から 50kW も含め多様な充電器が併設されて行く

可能性が見込まれる。

31

基礎充電の課題整理 ~全体考察~ 3.2

我が国の居住状況および新築住宅・新築マンションの供給状況 3.2.1

現在、EV・PHV ユーザーの 9 割以上は戸建て住宅の居住者であり、共有住宅の居住者は 1 割

未満と言われている。一方で、我が国の住宅は、共同住宅が 2,209 万戸と住宅全体の 4 割以上を

占めており、戸数も増加傾向にある25。このため今後の EV・PHV 普及を目指すにあたり、共同

住宅に居住する消費者が EV・PHV を購入しやすい環境を推進する必要性がある。

共同住宅の中でも、分譲マンションは、年間約 12 万戸の新築物件に加え、大規模修繕が行われ

るマンションが年間 35 万戸あるとされ26、分譲マンションへの充電設備の導入増加が今後の充電

インフラ拡大のキーになると考えられる。尚、分譲マンションへの充電器導入の増加が目下の目

標ではあるが、長期的な目線で捉えれば賃貸の共同住宅への導入も大きな課題となる。

図表 3-14:EV・PHV 所有者の居住状況

出所:総務省『平成 25 年住宅・土地統計調査結果』

25 総務省統計局『平成 25 年度 住宅・土地統計調査結果』,2015 26 経済産業省『EV・PHV ロードマップ検討会報告書』,2016 ,p.10

一戸建て

2,860万戸

(54.8%)

共同住宅

2,209万戸

(42.4%)

その他

(長屋建て

等)

一戸建のうち

持ち家,

2,630万戸

共同住宅の

うち持ち家,

547万戸

居住世帯

のある

住宅数

5,210万戸

EV・PHV所有者の

90%以上(推定)

一戸建て居住者

EV・PHV所有者の

10%未満(推定)

共同住宅居住者

32

検討に先立ち、基礎充電の主な設置場所となる戸建て住宅とマンションの新築供給の動きを概

観する。

戸建て住宅の新設住宅着工戸数の推移をみると、1990 年代末から 2000 年代末にかけて、着工

戸数は年間 100 万戸を上回る水準で推移してきたが、2005 年以降の耐震偽装問題や建築基準法の

改正、および 2008 年のリーマンショックに端を発した金融危機を経て、その後は 100 万戸以下

の水準に留まって推移している。このうち着工戸数に占める持ち家の割合は 6 割程度で、近年は

50 万戸を維持している。

図表 3-15:新設住宅着工戸数の推移

出所:国土交通省『住宅着工統計』

都道府県別に見ると、首都圏、中京圏と近畿圏の3大都市圏において、全体の約半分が着工さ

れている。

図表 3-16:都道府県別新設住宅着工戸数(平成 27 年度)

出所:国土交通省『住宅着工統計』

33

また、共同住宅のうちマンション27は、効率的な土地利用、都心の利便性に対する評価から過

半数が首都圏で着工されている。推移をみると、戸建て住宅と同様に 2000 年代末までは、20 万

戸程度の水準を維持してきたが、その後は 10 万戸程度で推移している。

図表 3-17:新設マンション地域別着工戸数の推移

出所:国土交通省『住宅着工統計』

既築のマンション数は増加しており、国土交通省の推計によれば 2015 年末のマンションスト

ック数は 623 万戸に達している。マンションの大規模修繕は約 10~15 年周期28で実施されること

から、充電環境の整備に向けた潜在的な可能性が見込まれる。

図表 3-18:全国のマンションストック数の推移

出所:国土交通省『全国のマンションストック数』

27 国土交通省『住宅着工統計』では、マンションとは、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリ

ート造又は鉄骨造の分譲共同住宅としている。 28 国土交通省社会資本整備審議会『分譲マンションストック 500 万戸時代に対応したマンション

政策のあり方について(答申)』,2009 ,p.4

34

充電環境を整備するための課題 ~①新築マンション~ 3.2.2

経済産業省では、本調査事業開始に先立ち、集合住宅における基礎充電整備の課題抽出に向け

て、マンションディベロッパー、管理会社などに対しヒアリングを行った29。その結果、EV・PHV

の充電器設置に対する様々な取り組みが行われ、現時点で充電器設置を促進する為の方策が頭打

ちの状態に近い状況である状況が垣間見られた。例えば、ディベロッパーの回答では、早い事業

者では 2009 年以降充電器設置を積極的に進めたものの、現時点では利用者がほとんどいない事

例や、維持コストが高いため、新たな充電器設置を控え目にする、或いは全く設置しないなどの

ケースが見られた。また、マンション駐車場の 7~9 割を占めるといわれる機械式駐車場への充電

器設置コストが高い事を課題として指摘するケースも見られた。

また、基礎充電研究会(第 1 回)では、ディベロッパー・充電器メーカー・施工関連事業者の

取り組み、並びに、自動車メーカーによる EV・PHV 購入者に関する統計等が報告され、マンシ

ョンにおける充電器整備に関する課題が挙げられた。ディベロッパーからの報告では、積極的な

取り組みではないものの、駐車場区画の 10%程度に先行配管を行う事や、来客用駐車場に 200V

電源を用意し、また、EV コンセントの導入を行うなど、将来的な充電設備の設置に対応しやす

い環境を予め準備しておく事例が紹介された。また、2010 年から実施してきた自動車メーカーと

の共同実証結果やその後の取り組みについても成果が紹介された。別途、充電器メーカー・施工

関連事業者からは、EV コンセントの販売を開始、電気自転車でも使える屋外の防水コンセント

を開発し、挿脱回数の向上(100 回⇒10,000 回)を図る取り組みが報告された。課題として、新

築マンション建設時、販売前に下記のような運用面のルールを作成しておく事の重要性を指摘す

るディベロッパーが 2 社あった。

・ 充電設備の電気代に対する課金や請求方法、パレットの設置場所、また利用者が退去した後

の充電器は誰に帰属するのかといった課題が先送りになっている。

・ 駐車場区画数の 10%程度に充電設備を設置すれば十分と思っているが、今後 EV・PHV 購入

希望者が現れた際に柔軟に対応できる使用細則の策定が必要となる。

充電環境を整備するための課題 ~②既築マンション~ 3.2.3

経済産業省が行ったマンション管理会社へのヒアリングでは、充電器設置について消極的な意

見が多く、EV・PHV の普及が戸建に偏っている状況や政府が掲げる普及目標を知らない事に加

えて、居住者の充電器設置要望に対して手探りで対応している状況である事が分かった。また、

管理組合の総会等で新たに充電器設置に対する同意を得るには難しい状況にある事が伺えた。

29 本報告書 2.2.3 参照

35

基礎充電研究会(第1回)では、ディベロッパーからの報告として、新築時における全駐車場

区画数に対する一定割合(3%から 20%程度のバラつきあり)に充電設備を設置する取り組みを

2010 年あたりから行ってきたものの、その後の利用台数が非常に少ない点が課題として挙げられ

た。具体例として、2011 年に約 800 戸/750 台の区画がある物件に急速充電を設置し、1 台につき

月額 1,000 円で使い放題としたものの、5 年間で契約者は 1 名だけで、しかも使用期間は 10 ヶ月

程度であったなどの例が報告された。利用台数が限定された原因としては“外部の人が使えない”、

“契約者だけしか使えない”といった事情も合わせて報告された。また、基礎充電のための充電

コンセントの設置に関しては、①個々の駐車区画に設置、②1つの充電設備を複数の契約者で共

有、③専用使用区画に充電設備を設置し電気は専有部から引き込むパターンの 3 パターンの内、

結果として①の個々の駐車区画に設置する場合が 96%と多い事が報告された。充電器メーカー・

施工関連業者からの報告のなかでも、充電設備の普及率の低さ、たとえ設置した場合でも、利用

率の低さを指摘する報告があった。

36

マンション アンケート結果にみる基礎充電の課題整理 3.3

マンションディベロッパーによる充電器設置の状況 3.3.1

本項では、一般社団法人次世代自動車振興センター(通称:NeV)が 2017 年 1 月から 2 月に

かけて実施した「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関

する調査」の結果の中から、マンションディベロッパーによる充電設備設置の状況を把握する目

的で、マンションディベロッパー向けに実施した新築マンション供給時における充電設備設置に

関する質問の回答をもとに、その設置率を算出した。

図表 3-19:新築マンション供給時の充電設備設置状況

<16 社からの回答を集計>

2015 年 2016 年

物件総数 ---(1) 206 165

戸数 19,257 17,960

駐車場総数 ---(2) 12,115 10,141

設置物件数 対応物件数 ---(3) 57 47

比率 ---(3)÷(1) 27.7% 28.5%

設置駐車場数 対応駐車場数 ---(4) 256 234

比率 ---(4)÷(2) 2.1% 2.3%

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター(実施期間 2017 年 1 月~2 月)をもとに作成

2015 年と 2016 年に販売した新築分譲マンションの販売状況を見ると、総物件数に対する充電

設備設置物件数の比率は 2015 年で 27.7%、2016 年で 28.5%という結果であった。一方で、駐車

場総数に対する充電設備設置駐車場数の比率は 2015 年で 2.1%、2016 年で 2.3%という結果であ

った。設置物件数の比率に対し設置駐車場数の比率が低いことから、充電設備を設置した物件で

あっても、実際には局所的に設置しているということが分かる。両者の比率から、凡そ駐車場 10

数台分に対し 1 台分の充電設備を設置している計算となる。

マンション管理組合による充電設備設置に対する感度 3.3.2

続いて本項では、同アンケート結果の中から、マンション管理組合向けに実施したアンケート

の回答結果をもとに、管理組合の充電設備設置に対する感度を探る。

図表 3-20 は、充電設備設置の課題に関する質問の回答結果である。「充電器の設置費用や運

用費用の分担にかかる区分所有者の合意形成が難しい」が 93%と非常に高い回答となっている。

次いで、「設置の必要性を区分所有者が理解できるかわからない」が 59%、「設置スペース確保

に関する区分所有者の合意形成が難しい」が 38%となっており、区分所有者による充電設備設置

37

の費用負担と設置スペース(充電設備付き駐車場)の必要性に対する合意形成が課題として浮か

び上がった結果となっている。また、「充電設備の利用に際してルールが守られるか不安、また

はルールの決め方がわからない」という合意形成に向けたルール作りの課題を指摘する管理組合

も 31%となっている。

図表 3-20:マンション管理組合から見た充電設備設置に関する課題(n=29)

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター(実施期間 2017 年 1 月~2 月)をもとに作成

尚、EV・PHV の充電設備には、電気をあらかじめ充電設備の筐体に蓄積しておき、そこから

EV・PHV へと充電可能な蓄電機能付きの充電器「放充電器タイプ(Vehicle to Home)」がある。

この蓄電機能付き充電器の大きなメリットは、災害発生等が原因での停電時に、蓄積された電力

を停電中のマンションに供給できる点である。単なる充電設備ではなく災害時の電力供給の面で、

蓄電機能付き充電器が着目されている。この点を念頭に、「災害時に EV・PHV を家庭用電源と

して利用することを期待するか」という質問に対する回答結果が図表 3-21 である。

38

図表 3-21:災害時における EV・PHV の家庭用電源としての利用期待(n=29)

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター(実施期間 2017 年 1 月~2 月)をもとに作成

マンション管理組合は、EV・PHV を災害時の家庭用電源として利用することについて、「大

いに期待できる」を選択した 10%と、「少し期待できる を選択した 41%と合わせて、管理組合

の過半数が期待できるとの回答となっている。

マンション居住者の EV・PHV の認知度や購入意向 3.3.3

続いて本項では、同アンケート結果の中から、マンション居住者向けに実施したアンケートの

回答結果をもとに、居住者の EV・PHV の興味関心や購入意向と充電設備の関係について探る。

図表 3-22 は、EV・PHV の認知度および興味に関する質問の回答結果である。認知度について

は「よく知っている」と回答した 20%、「少し知っている」 と回答した 47%と合わせて、全回

答世帯 656 世帯の7割弱が知っているという意見である。一方で、「あまり知らない」との回答

が 19%、「全く知らない」との回答が 7%と、知らないという回答も 3 割弱を占めている。

興味については、「1.とても興味がある」を回答した 6%、「2.興味がある」を回答した

24%を合わせた“EV・PHV に興味がある”という意見は 3 割である。他方「4.あまり興味は

ない」と回答した 26%と、「5.全く興味はない」を回答した 16%を合わせた“興味が無い”と

いう意見が4割強となっており、“興味がある”という意見を上回っている。ただし、「3.ど

ちらとも言えない」という回答した世帯が 28%と最も多い。

39

図表 3-22:EV・PHV の認知度と興味(n=656)

【認知度】

【興味】

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター(実施期間 2017 年 1 月~2 月)をもとに作成

図表 3-23 は、充電設備が整うことを条件にした EV・PHV の購入意向に関する質問の回答結果

である。“すぐにでも購入したいか”については「どちらとも言えない」という中立的な意見が

最も多く 40%を占めている。「すぐ購入したい」と回答した 2%と、「検討してみたい」と回答

した 11%を合わせて、購入に肯定的な意見は 13%に留まっている。一方で「あまり検討したくな

い」と回答した 19%と、「全く購入したくない」28%と合わせると、約半数の世帯が消極的な意

見であり、充電設備の整備が購入に直結するとは限らないことが分かる。

図表 3-23:充電設備が整うことを条件にした EV・PHV の購入意向(n=656)

【充電設備が整えばすぐにでも購入したいか】

【充電設備が整えば将来的に購入したいか】

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター(実施期間 2017 年 1 月~2 月)をもとに作成

40

“将来的に購入したいか”については、「どちらとも言えない」という中立的な回答と「検討

するかも知れない」の回答が共に 29%である。「将来的には是非検討したい」と回答した 8%に

「検討するかも知れない」の 29%を加えると、購入の検討に肯定的な意見は4割弱となり、“す

ぐに”の場合と比べて増加している。一方で、「あまり検討したくない」と回答した 12%と、「全

く検討するつもりはない」と回答した 22%を合わせた、検討に否定的な意見も“すぐに”の場合

と比べて低下している。この“すぐに”と“将来的に”のアンケート結果は、現時点で確約は持

てないものの将来的な EV・PHV の普及を予感しているマンション居住者の心理的な一面を映し

出す結果と考えられる。

自由意見 3.3.4

本項では同アンケート調査において回答のあった自由意見を紹介する。

図表 3-24:アンケートの自由意見

内容 キーワード

対象車を所有している世帯のみが経費を負担するべきだと思うので、一時的に管理組合

が費用負担したとしても、費用負担については考慮し検討する必要があると思う。

費用負担の公平性

設置するのであれば全ての駐車場にするべきだが、設備を利用しない者に負担は求める

べきではない。利用者のみ追加で負担するなどの運用が必要。

駐車場(車)を利用していない世帯、電気自動車を利用していない世帯もいる中でマン

ション管理組合が負担するのは平等でない。

将来的に必要になる時代が来るとは思うが、今はまだ不要ではないか。特にマンション

の場合、設備の補修にも費用がかかり優先順位はまだ低いと考える

世の中のニーズ

レンタカー等が普及しているほか、まだまだ普通の自動車の方が多いと思うので、わざ

わざ設備を設けなくてもいいと思う。

設備希望者数や設備や保守等にかかる維持費用など経費と耐用年数、安全性などの条件

がわからないと検討ができない。

経済性

メンテナンスの頻度と費用がどれくらいか興味がある。

電気代などランニングコストの負担額が明確にならないと判断できない。

EV 車で、1 回の充電で 350Km 以上走行できるようになれば購入を検討してもよい。 技術の進歩

航続距離と充電時間の速度を解決しない限り、普及は難しいのではないかと思う。

EV・PHV どちらも車両が高価なため、購入の検討対象には難しい。 車両価格

価格が高く、購入をためらっている。(より大幅な)購入価格補助も考えてほしい。

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター(実施期間 2017 年 1 月~2 月)をもとに作成

41

マンション 基礎充電整備のための方策 3.4

課題総括 3.4.1

先のアンケート結果から、充電設備の整備が購入に直結するとは限らないことが分かった。一

方で、マンションにおける充電設備の整備普及は EV・PHV 普及の必要条件であることに変わり

はない。そこで、本項ではこれまでの課題を総括し、具体的な方策について述べる。

はじめに、上述のマンションにおける基礎充電整備の課題を、①入居者の認知度、②ルール・

体制の整備、③コスト低減・経済性の確保、④設置スペースの点から以下のように整理する。

図表 3-25:マンションにおける新築・既築別の充電器設置の課題

課題 新築 既築

1. 認知度

入居希望者や入居予定者から充電設備つき駐車場のニーズが見られない。

管理組合が、EV・PHV普及の政府目標や環境に与える好影響等について十分理解しておらず、実際にEV・PHVを所有する居住者が少ない事もあって、管理会社が管理組合に提案しても不採用となるケースが多い。

充電器メーカー・施工関連業者からも充電設備の普及率の低さと、たとえ設置した場合でも利用率の低さが報告された。

2. ルール・体制の整備

充電設備を設置する為に管理規約の改訂の難しさが課題との指摘が多い(提案から総会までの利用料金を含めた合意プロセス、合意後の利用ルールの策定)。

充電設備を設置した利用例では、駐車場の急速充電器を1台で月額1,000円使い放題としたが、5年で契約者が1名だけで、しかも使用期間が10ヶ月程度で解約された例が報告された。原因として“外部の人が使えない”“契約者だけしか使えない”といった事があげられていた。

3. コスト低減・経済性の確保

CSRの一環で新築時にデベロッパーがカーシェアリングを導入した事例あり(間接的な経済メリット)

平置き駐車場等と比べると、機械式駐車場向けの充電器設置コストが高い。低コストの初期費用・維持費用を提示することが、今後に向けた重要な課題である。

アンケート結果で、充電設備を設置する際の補助金だけでは、今後の推進を推し進める効果が不十分と考えられる。設置後のランニングコストをどう工面するか?更には、マンションの管理組合や居住者以外から料金を徴収し維持していくようなシナリオ(初期設置から運用までの道筋)を提示していく必要があると考えられる。

4. 設置スペース

都心マンションの7~8割を占める機械式駐車場へ充電設備を設置する難しさが指摘されており、実態として、配電方法等テクニカルな問題の為、現時点では結果的に充電器設置は平置きスペースとならざるをえないケースが多い。

ディベロッパーからの意見として、新築時における全駐車場区画数に対する一定割合(3%から20%程度のバラつきあり)に充電設備を設置する取り組みを2010年あたりから行ってきたが、利用台数は、非常に少ないとの報告があった。

42

基礎充電整備のための方策 3.4.2

1) 認知度の向上

・ EV・PHV の普及、並びに充電設備(基礎充電、経路充電を問わず)に対する認知度が低い

ことが、マンションの充電設備導入の大きな妨げとなっている。この対応には、一つの管理

会社、一社単位での活動で改善を見込むことは難しい。その為、管理会社、ディベロッパー、

自動車メーカー、充電関連メーカーなどが定期的に意見交換できる場や基礎セミナーを開催

する機会、集合住宅を対象とした政府や自治体による積極的な情報発信、実際の導入事例の

共有などによって、認知度向上を目指す方策が必要と思われる。

2) ルール・体制の整備

・ 既設マンションの課題として、建設後に充電設備を設置するハードルの高さ(管理規約の改

訂、居住者の合意)を考慮し、建設前にディベロッパー/管理会社(選定済みの場合)が管理

規約に充電設備付き駐車場に関する条項を盛り込む対応を行う。

・ 新築時に、建設後の充電設備の整備の難しさを説明し、マンション建設時に充電の為の先行

配管を行う事や 200V 電源の準備を行い、建設完了後に充電設備を追加設置し易い環境作り

が必要である。

・ 新築マンション設計時に、建築業界の人件費高騰もあってコストを削減したいディベロッパ

ーは充電器設置に積極的ではない。その為、充電設備の設置費用は公的な補助金等で支援す

る取り組みを継続し、ランニングコストの扱いについて、管理組合や居住者の理解が得られ

るルール(空き駐車場の外部利用/レンタカー・カーシェアリング)を策定し対応する。

・ 利用ルールについては、細かいレベルまで想定し策定する必要があり、初期利用時のルール

(料金等)だけでなく、運用開始後に、どのマンションでも流用可能なガイドラインの策定

が有効である。

例1:マンションにおける専用駐車場の特定区画に充電器を設置する場合、EV・PHV 保有

者が不在のため、従来のガソリン車ユーザーが借りるケースがある。後に EV・PHV

ユーザーが現れた時に割り当て変更を柔軟に行うなど、トラブルを未然に防ぐルール

作りが重要。

例 2:共有スペースを使用する場合には、満充電後車両を放置しないよう利用時のルール整

備も求められる。

3) コスト低減・経済性の確保

・ 既設マンションにおける後付けでの充電器設置の難しさを考慮し、新築時に、初期コスト及

び維持費をさほど要しないタイプの充電器であれば設置を促進するなど、新築時の導入を進

めて行く雰囲気を作る必要がある。

・ 一般的にマンション居住者は、充電器設備の設置といった共用部分に対する出費に抵抗感を

抱く傾向がある為、自己完結的にコストの課題解消が困難であれば、初期費用に関しては、

43

公的資金による補助金の支給、または EV・PHV の普及によって経済的メリットを享受する

事業者(自動車メーカー、充電器メーカー・施工関連業者)による支援も視野に入れる必要

があり、併せて維持管理費に対する対応(民間企業とレンタカーサービスやカーシェアリン

グサービスを提供)が可能な環境を検討し、導入を図る必要がある。

4) 設置スペース

・ 福祉車両用の駐車スペースを確保には、ハードビル法が制定されているが、現在、マンショ

ンの駐車区画内に充電設備を備えた駐車スペースを設けることは、各マンションの自主的な

取り組みとなっており、法令(自治体の条例を含む)は存在しない。

44

マンション 充電設備整備推進の取り組み事例紹介 3.5

自治体の取り組み事例(横須賀市、江東区) 3.5.1

自治体が充電設備付き駐車場を整備する動きを後押しする例として、横須賀市、ならびに江東

区の事例を紹介する。

1)横須賀市

横須賀市では、「一般の方が利用可能な充電器等を設置する、法人及び個人事業主」「マンシ

ョンの共用部分に充電器等を設置する、法人及びマンション管理組合」「従業員の通勤車両・事

業用車両向けに充電器等を設置する、法人及び個人事業」に対し、①本体経費 ②本体設置及び電

気工事費 ③一般利用のための表示・看板類に関する経費を対象とした補助制度を実施している。

図表 3-26:横須賀市による EV充電器設置支援

出所:横須賀市 HPより

https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/4421/documents/h28jyuudenkitirashi2.pdf

45

2) 江東区

「江東区マンション等の建設に関する指導要綱」における「駐車施設の設置」及び「地球温暖

化対策設備等の設置」に関する要領では、「電気自動車等の充電設備の設置数は、当該自動車駐

車場の収容台数の1割以上とする。」とされている。

図表 3-27:江東区によるマンション等建設に関する指導要綱における EV 充電設備要領

出所:江東区 HPより

https://www.city.koto.lg.jp/seikatsu/kankyo/55384/55556/file/pamphlet.pdf

46

マンションへの充電設備設置事例(3 例) 3.5.2

本項では、関西電気自動車普及推進協議会による「普通充電設備導入事例集」をもとに、以下

3 例を紹介する。

A)新築マンション/将来の駐車場の利用拡大に向けた施工

神奈川県の新築マンションの建設時に、将来的に EV 普及率が高まった時に備え、入居者の設

置ニーズに応えられるように空配管を専用駐車場まで工事を施し対応する例が見られた。これは、

江東区の行政指導「江東区マンション等の建設に関する指導要綱」をきっかけに充電設備設置の

流れができることを見越しての取り組みであった。

将来的に EV を購入し、充電器設備が必要になった居住者へ安価に後付できるように配慮した

工事であり、一方で管理規約・細則も EV 導入を想定した内容で予め策定し、設備導入時に管理

組合の承認を不要としている。

B)既築マンション/駐車場収入の改善

東京都の既築マンションで入居者の車離れが進んでおり、駐車場の稼働率低下による管理組合

の収入不足が問題となっていた。管理組合に対して、管理会社が収益改善の対策として空駐車場

の区画の有効利用策として、共有の充電設備設置スペースとして、充電収入を得ることを提案し

た。

この事例では、EV 普及率の向上を見据え、管理組合の収支改善を狙って空駐車場を共有充電

スペースとする例や、国の助成金を活用して収益性を高めている例を説明し居住者の理解を求め

た。運用方法としては、居住者の公平性を保つため、入居者全員が利用権利を持つ形で、充電設

備を共有できる運用形態としており、課金は受益者の費用項目を明確化し、利用に応じて料金を

徴収する方式を採用している。

C)既築マンション/修繕補助制度と普通決議の利用

マンションの修繕に合わせて、国土交通省の補助事業「既存住宅流通・リフォーム推進事業」

を利用した例がある。補助金の利用条件に選択工事があり、充電設備の導入を選択した。ポイン

トは、既存マンションにおける大規模修繕工事のタイミングで補助金を利用する事になり、充電

設備導入をマンション管理組合の普通決議で承認した点である。

大規模修繕工事は、一定期間の間隔で既存マンションは必ず行う為、充電設備の設置のみを議案

として特化する事なく、比較的スムーズな流れで管理組合から居住者への説明や規約関連の調整

が行われたと考えられる。

補助金利用に端を発した充電設備整備であるが、大規模修繕工事時に検討項目として必ず取り

上げるなどの措置は有効である。

47

戸建て住宅 アンケート結果にみる基礎充電の課題整理 3.6

ハウスメーカーによる充電設備の設置状況と設置コストに関する認知度 3.6.1

本項では、一般社団法人次世代自動車振興センター(NeV)が 2017 年 1 月から 2 月にかけて

実施した「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調

査」の結果の中から、ハウスメーカーによる充電設備設置に関する方針等について紹介する。

図表 3-28 は、新築戸建て販売時における充電設備の設置状況、および「充電器の設置コストが、

新築であれば数千円程度で済むが、後日電気工事を行うと 10 万円程度かかるという事実」の認知

に関する質問の回答結果である。前者については、「標準的に設置するようにしている」が 5 社

(56%)と、「顧客からの注文を受けた際にのみ設置する」の 4 社(44%)を若干上回る結果と

なっている。また後者については、「よく知っている」と回答した 6 社(67%)と、「少し知っ

ている」と回答した 2 社を合わせると、大半の会社が、充電器の設置コストにかかる新築時設置

の負担軽減メリットを認識していることが分かる。尚「あまり知らない」「全く知らない」との

回答は無い。この結果から、戸建て住宅新築時の充電器設置コスト負担が、後日の電機工事に比

べて軽減されることは、大半のハウスメーカーが認識していることが分かる。

図表 3-28:充電設備の設置状況と設置コストに関する認知度(n=9)

【新築戸建て販売時における充電設備の設置】

【充電器の設置コストが、新築だと数千円

程度で済むが、後日電気工事を行うと 10 万

円程度かかることの認知】

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター(実施期間 2017 年 1 月~2 月)をもとに作成

1.標準的に

充電設備を設

置するように

している

56%

2.標準的に

は設置せず、

お客から注文

を受けた際に

のみ充電設

備を設置して

いる

44%

3.充電設備

については、

何も対応して

いない

0%

4.その他

0%

48

戸建て居住者の EV・PHV の購入意向 3.6.2

続いて本項では、同アンケート結果の中から、戸建て居住者向けに実施したアンケートの回答

結果をもとに、居住者の EV・PHV 所有状況や充電設備整備と所有意向との関係性を探る。

図表 3-29 は、乗用車を所有している世帯に対する EV・PHV の所有に関する質問の回答結果で

ある。「EV を所有している」が 8 世帯(2.5%)、「PHV を所有している」が 11 世帯(3.5%)

と、EV・PHV を所有する世帯は、対象世帯数(316 世帯)の 6%となっている。

図表 3-29:EV・PHV の所有状況(n=316)

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター(実施期間 2017 年 1 月~2 月)をもとに作成

図表 3-30 は、戸建て住宅の居住者の中で、充電設備が設置されているが、EV・PHV を保有し

ていない 186 世帯に対してその理由を確認するアンケートである。「魅力ある EV・PHV がない

から」との回答が 41%と最も多く、「車に対して興味がないから」という“クルマ離れ”の傾向

を示す回答も 19%を占めている。「その他」(36%)の意見を集約すると、「買い替えのタイミ

ングではない」(12 件)、「買い替えの検討予定なし」(4 件)といったタイミングの問題とす

る意見が最も多い。また「将来的に検討する可能性あり」(12 件)と肯定的な意見の一方で、「価

格が高い」(8 件)、「走行距離が心配」(3 件)など具体的な課題の指摘も挙げらている。

49

図表 3-30:充電設備の設置済み住宅で EV・PHV 保有をしない理由(n=186)

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター(実施期間 2017 年 1 月~2 月)をもとに作成

続いて図表 3-31 は、戸建て居住者で充電設備が設置されていない(若しくは、設置されている

かわからないと回答)156 世帯を対象に、充電設備が整った場合の EV・PHV の購入意向を確認

したアンケート結果である。「どちらとも言えない」の回答(45%)が最も多く、充電設備の設

置だけでは購入の検討には不十分である事が分かる。一方で、「すぐ購入したい」を回答した 1%

と、「検討してみたい」と回答した 13%を合わせて、購入に肯定的な意見は 14%に留まっている。

「あまり検討したくない」が 19%、「全く購入したくない」が 17%など消極的な意見も多く、充

電設備が整備されるだけで、すぐに購入を検討するという姿勢は確認されない。

図表 3-31:充電設備が整った場合の EV・PHV の購入意向(n=156)

出所:「平成 28 年度 EV・PHV の普及拡大に向けての居住場所における充電環境に関する調査」

一般社団法人次世代自動車振興センター(実施期間 2017 年 1 月~2 月)をもとに作成

50

以上のことから、充電設備の整備と EV・PHV の所有意向とは必ずしも直結するわけではない

ことが分かる。尚、これはマンション居住者の傾向と同様である。

51

戸建て住宅 基礎充電整備のための方策 3.7

戸建て住宅の基礎充電設置のための工夫 3.7.1

戸建て住宅における基礎充電設備設置を主題とした基礎充電研究会(第 2 回)においては、ハ

ウスメーカーや充電機器メーカーから、戸建て住宅への充電コンセント等の設置にかかる様々な

工夫と課題が寄せられた。

充電コンセントの設置工事にかかる工夫として、①充電に必要な容量備えた主幹ブレーカー

を選定する、②充電回路を専用分岐回路とし、遮断機として漏電ブレーカーを設置する、③

あらかじめ 200V、3A 充電に備えた配線を敷設しておく、④盗電防止や安全性確保のため充

電用電源スイッチを設置する、⑤充電スタンドを設置する場合には車両等による損傷への対

策を行う、⑥夜間操作時に備え照明器具を併設する。といった設置工事の標準化が必要。

車両側の充電口位置は統一されておらず、適切なケーブルの収納位置や動線計画が異なるた

め、設計基準が作り辛い。

分電盤のレイアウトを駐車場に近接させることや、配管を事前に設置するなどの設計がおこ

なわれていれば、充電器を追加設置する場合のコストを下げることができる。

充電制御にかかる仕様変更の情報をタイムリーに開示してほしい。

顧客の充電設備の安全利用に関する認識(経年劣化や車両代替に伴う適合性の確認等)を向

上させる啓発活動が必要。

また将来的には、ハウスメーカーからは、2014 年4月に閣議決定された「エネルギー基本計

画」で設定された政策目標である「住宅については、2020 年までに標準的な新築住宅で、2030 年

までに新築住宅の平均で ZEH(Net Zero Energy House)の実現を目指す」を推進するにあたり、

HEMS(Home Energy Management System)の普及が進み、電気メーカー等との連携すること

で、EV 充電時のピークシフト対応など付加価値向上を期待する旨の意見もあった。さらに ZEH

では、太陽光発電などで発電した電気の有効利用が課題となっており、EV・PHV への充電も有

望な利用先としてとらえられるという意見も挙げられた。

52

図表 3-32:ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)事業イメージ

出所:経済産業省 資源エネルギー庁ホームページより

既築戸建て住宅における EV・PHV 購入に向けた環境整備 3.7.2

現在、自動車メーカーでは、EV の購入を検討する顧客に対して、充電設備の設置工事を行う

電気工事業者を紹介している。なお、日産自動車では、2010 年のリーフの発売にあわせて、株式

会社 JM と戸建て住宅向け充電器設置工事にかかる協力関係を結び、日産リーフの購入者に対し

て充電器設置工事までのワンストップサービスを提供している。

図表 3-33:EV 充電用コンセント工事の紹介例

出所:株式会社 JM ホームページ

53

新築戸建てに比べて既築戸建てに充電設備を設置する場合の違いは、設置コストが 10 万円以上

の負担となるという点が大きい。さらに、設置工事にかかる期間が必要になると同時に設置工事

にかかる各種の調整などが必要となる。

具体的に、既築戸建てへの設置では、設置希望者の住宅にかかる現状調査を行った上で工事設

計を行い、工事契約締結後に配線工事を実施する。納車後には、充電が正常に行えることを確認

のうえ、メンテナンス方法を伝えるというプロセスが必要となるため、そのための設置コストが

増加することになる。

基礎充電研究会やアンケートなどを通じて挙げられた課題を整理すると、新築戸建てにおける

設置工事にかかる課題は上述の課題と重複するが、既築戸建て特有の課題もあった。

・ 設置を希望する住宅の現状調査に応じて設計を行い、利用者の意向(位置決め、追加設備)

も反映させることとなるため、設計・工事の標準化が困難となること。

・ 設置コストも標準的な工事金額に比べ、幹線の引き換えや分電盤の交換、分電盤から駐車

場までの距離や、特殊な壁に対する穴あけ工事など必要性に応じて、工事金額が増額にな

る場合がある。

・ 既築住宅への充電器設置にかかる政府からの支援が望ましい

・ 設置工事に対する利用者の意見としては、工事金額の妥当性がわからないことへの不安や

建物の外観の変更(壁に穴をあけるなど)に対する不満がある。

・ 充電中、主幹ブレーカーが落ちるといった現状確認・工事ミスの懸念。

電気工事業者の視点からは、新築時の設計・施工段階で、分電盤のレイアウトを駐車場に近接

させることや、配管を事前に設置するなどの工夫があれば、追加設置コストの抑制や標準外の設

置コストの増額を回避するために有効と考えられると方策が挙げられた。

なお、設置コストの増加に対する個人宅への設置補助金については、現在の制度では、申請者

が①地方公共団体、②法人(マンション管理組合法人を含む。)、③個人(共同住宅のオーナー、

居住者および管理組合の理事長等)、④リース会社に限られ、また補助の対象事業も公共性を重視

したものとなっており、これまでも個人宅への設置は実施されていない状況が確認された。

利用者からの意見に対しては、設置コストが 10 万円程度から増額となる場合やその場合の増加

額などの事前説明や、利用する工事資材の選択肢を増やすなど、電気工事業者側の努力が進むこ

とが期待される。

また安全面の確保については、自動車メーカー側でも、戸建て住宅への設置工事の設計・施工

にかかる法規・ガイドラインが整備されている旨を工事事業者に周知している。特に既築住宅へ

の設置工事の場合は、住宅により現状が異なることから、工事事業者間でのノウハウの蓄積、共

有が進むことが期待される。

54

<電気工事事業者が設置にあたり参照・遵守すべき主な法規・ガイドライン>30

・ 電気設備の技術基準の解釈:経済産業省

・ 電気事業法に基づく電気設備に関する技術基準を定める省令:経済産業省

・ 充電設備設置にあたってのガイドブック:経済産業省・国土交通省

・ 電気供給約款:各電力会社

・ 内線規程:(社)日本電気協会

・ EV 普通充電用電気設備の施工ガイドライン:(社)日本配線器具工業会

なお、基礎充電研究会では、顧客の EV・PHV 購入に合わせた充電環境整備は、将来の EV・

PHV 購入に備えて新築戸建てに充電器を設置しておく状況に比べて充電環境整備の必要性は高

く、自動車メーカーや政府、自治体などのより一層の支援が期待される点が指摘された。

既築戸建て住宅のリフォーム時に合わせた環境整備 3.7.3

住宅リフォームのタイミングにあわせて、新築戸建てと同様に充電設備を整備する機会につい

ても設置を推奨していく取り組みが可能と想定される。

但し、基礎充電研究会では、住宅リフォームにおける充電器の設置実績は限定的との意見があ

った。理由として依頼者は 50 歳以上の高年齢層が多く、自動車を運転する機会自体も減っている

ことなどが挙げられた。このような状況に対しては、新築戸建ての場合と同様に、リフォームの

相談や現状調査といった初期段階において、EV・PHV の導入も含めたライフスタイルや、V2H

機器の整備による災害対策の可能性、ZEH への対応などの提案を進めることや、リフォームに合

わせて充電器を設置する場合は、通常必要な 10 万円程度の設置コスト負担を軽減できることのメ

リットを説明の上、推奨していくことが期待される。

また、EV コンセントを他の用途でも利用できるような製品が開発されれば、EV・PHV の未所

有者が将来に備え、充電器を設置することの理解は得やすくなると思われる。

加えて、安全性の確保については、顧客が EV・PHV を購入する際の充電環境整備と同様に法

規・ガイドラインの周知が徹底され、工事事業者間でのノウハウの蓄積、共有が進むことが期待

される。

なお、基礎充電研究会においては、既築の戸建てリフォームはその内容に応じて、ハウスメー

カーだけでなく、外溝事業者やリフォーム専門業者、太陽光工事事業者、ホームセンターや工務

店など多様な事業者が関与することが想定される。よって、リフォームにあわせて充電環境を整

備していく取り組みについては、これら事業者に対しても働きかけを行い、充電器設置の重要性

にかかる認知度を高めたうえで、利用者に設置を推奨してもらう可能と考えられるとの意見が挙

げられた。

30 三菱自動車ホームページ<www.ev-life.com/charging/introduction.html>

55

海外市場への展開 第4章

日中共同研究の概要 4.1

背景・目的 4.1.1

2016 年末時点の中国における乗用車の保有台数は約 1 億 9 千万台31であり、世界第二位の保有

数を誇る自動車大国である。2016 年における年間の乗用車の新車販売台数が約 2,400 万台32とい

う数値から分かるように、トータルでの保有台数は急激な右肩上がりを続けている。自動車の排

ガスによって中国は深刻な大気汚染を引き起こしていると言われており、また渋滞は経済活動を

停滞させる原因となっている。大量に消費される化石燃料への依存からの脱却は、中国のこれか

らのエネルギー政策においても重要視されている。以上のことから、中国では新エネルギー自動

車である EV・PHV の普及を国策に掲げており、2020 年の目標登録台数を 500 万台としている。

尚、中国では我が国で言う「次世代自動車」を「新能源汽車」と称しているため、表現を統一す

る目的で本章では「新エネルギー自動車」と記す。

一方、我が国における 2016 年末時点の乗用車の登録台数は約 6,100 万台33、年間の乗用車の新

車販売台数は 415 万台34である。登録台数、新車販売台数共に中国、米国に次ぐ世界第 3 位の自

動車大国である。我が国においても CO2 排出量の削減による国家レベルでの環境対策が重要とな

っており、HV、EV、PHV、FCV といった新エネルギー自動車の普及推進が期待されている。加

えて、化石燃料を海外からの輸入に依存し、エネルギー自給率が極めて低い我が国は、化石燃料

に過度に依存しない自動車社会を形成する必要を迫られている。また、自動車産業育成の観点か

ら、長年にわたり強みを持つ我が国の自動車産業が引き続き優位な地位を維持するためにも、従

来車から新エネルギー自動車への転換は必要不可欠である。以上のように、中国同様我が国にお

いても新エネルギー自動車の普及は国策である。政府は 2020 年の新エネルギー自動車の普及目

標を 70~100 万台に置いており、その中でも特に EV・PHV の普及が期待されているところであ

る。

以上のように、日本中国双方にとって新エネルギー自動車(特に EV・PHV)の普及は共通し

た国家的テーマとなっている。新エネルギー自動車普及にあたっては充電インフラの整備がポイ

ントとなるが、その整備普及は両国とも十分に進んでおらず、EV・PHV 普及の妨げとなってい

る。よって、日中両国で EV・PHV 普及に向けた充電インフラ整備のあり方に関する共同研究を

実施し、その結果をもって各々の国での EV・PHV 普及に向けた政策で新エネルギー自動車活用

31 中国公安部交通管理局発表データより

32 中国汽車工業協会発表データより

33 日本自動車工業会発表データより

34 一派社団法人日本自動車販売協会連合会発表の普通車、小型車、軽自動車の合計値

56

する方針とした。また、中国では充電器の統一規格が存在せず、結果として使えない充電スタン

ドが散見される状況にある。そこで、日中共同研究の枠組みの中で、充電器と EV・PHV との接

続性・互換性を確認する試験も併せて実施することとした。

共同研究にかかる覚書の締結 4.1.2

2014 年 12 月 27 日、北京にて開催された第 8 回日中省エネルギー環境総合フォーラムにおい

て、中国国家発展改革委員会、中国国家エネルギー局と日本経済産業省の支持のもと、中国自動

車技術研究センター(以下、CATARC)と一般財団法人日本自動車研究所(以下、JARI)が共に

覚書に署名し、充電インフラ整備および運営モデル、電気自動車と充電インフラの互換性などの

分野で共同研究を行うこととした。

共同研究の体制・機関 4.1.3

日本国経済産業省及び中国国家発展改革委員会の指導の下、JARI 及び CATARC が事務局・コ

ーディネータ―機能を担った。研究の展開、協働推進に当たっては、モデル都市、充電設備製造

企業、電気自動車製造企業、充電運営企業、研究機関及び大学、その他関係者が参画した。また

調査分析の支援、協議内容の整理等の支援を株式会社大和総研が担当した。尚、プロジェクト研

究期間は 2015 年初から 2016 年末までの 2 年間とした。

図表 4-1:プロジェクト体制図

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

57

実施経緯 4.1.4

本共同研究では、充電インフラビジネスおよびインフラ整備に関する研究(以下、充電インフラ

研究)と EV と充電インフラの互換性に関する研究(以下、互換性研究)の2つのテーマが設定さ

れた。

覚書の締結後、日中双方は自国における事例の紹介や課題の検討などの情報提供や、意見交換

を進めてきた。2015 年 11 月に東京において開催された第 9 回の日中省エネルギー環境総合フォ

ーラムでは中間報告が行われた。また同時期に、充電インフラ研究の分野で日本における普及活

動の視察が行われた。その後 2016 年 1 月から 2 月には、互換性研究の分野で、互換性確認試験

(AC/DC 確認試験)を中国において実施し、その後もインフラ整備や標準改訂にかかる課題の整

理や意見交換を継続してきた。2016 年 10 月より共同研究の取りまとめに向けた資料作成を開始

し、2016 年 11 月には日中双方による数回の電話会議を踏まえ、最終報告を作成した。最終報告

は、2016 年 11 月 26 日に北京で開催された第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラムで報

告された。

図表 4-2:共同研究スケジュール

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

58

課題整理のフレーム 4.1.5

日中共同研究にあたっては、課題整理および解決の方向性検討に際し、日中双方で共通の課題

を見出しやすいよう、以下のフレームを作成した。基礎充電に関しては、「物理的・コスト的な

課題(充電器設置場所など)」「技術的な課題(電力供給など)」経路充電に関しては「物理的

な課題(充電器設置場所、充電器の適正配置など)」「収益性の課題(インフラ事業者が儲から

ない)」という内容である。

図表 4-3:課題整理のフレーム

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

本フレームに基づき、両国の直面する実際の具体的な課題について情報交換を行った。また、

直面する共通課題および課題解決アイデアについて意見交換を行った。

59

日本の充電インフラ整備における課題解決のアイデア 4.2

日本における次世代自動車政策 4.2.1

日本における次世代自動車に関する政策の推移において主なものを挙げると、まず 2008 年に

内閣府より「低炭素社会づくり行動計画」が出され、次世代自動車の普及目標を 2020 年までに

「新車販売の 2 台に 1 台」と設定された。翌 2009 年には環境省から「次世代自動車普及戦略」

が出され、普及目標や推進のための規制や支援などの各種措置、工程表の検討が行われた。

2010 年には環境省から「環境対応車普及戦略」が出され、普及目標や推進のための規制や支援

などの各種措置、工程表の検討が行われた。また経済産業省からは「次世代自動車戦略 2010」が

発表され、技術開発やインフラ整備等の課題認識を共有し、中長期的な対応の在り方に関する国

家戦略が構築された。また同年には経済産業省から EV・PHV タウン構想が発表され、市場準備

期にあっては、本対象地域にて試行的にインフラ整備を進め、本格普及機への道筋を構築するこ

とが謳われた。国土交通省では「環境対応車を活用したまちづくり研究会」が発足し、環境対応

車である電動バス、電気自動車、超小型モビリティを活用した街づくり推進の為、環境対応車導

入に向けた課題の改善、対象とする交通、整備する走行空間、駐車空間、充電施設等が検討され

た。

2012 年には経済産業省が「次世代自動車充電インフラ整備促進事業(平成 24 年補正)」を実

施し、自治体、公共施設、マンション、駐車場などへの充電器の設置に対する補助金事業が実施

された。2013 年には内閣府より「日本再興戦略」が発表され、充電インフラの整備促進、車両購

入補助、航続距離延長、低コスト化のための研究開発支援等を通じ、2020 年に新車販売の 5 割が

次世代自動車になることを目指すこととされた。

2014 年には内閣府より「日本再興戦略 2014」が発表され、2030 年までに新車販売に占める次

世代自動車の割合を 5~7 割とすることを目指すこととされた。また同年には経済産業省が「次世

代自動車充電インフラ整備促進事業(平成 26 年補正)」を実施し、自治体、公共施設、マンショ

ン、駐車場などへの充電器の設置に加え、課金装置、外部給電気及び導入費用等に対する補助対

象の拡大が実施された。

2016 年には経済産業省から「EV・PHV ロードマップ」が発表され、EV・PHV の普及台数目

標や充電インフラの整備方針等が示された。また同年には内閣府から「日本再興戦略 2016」が発

表され、補助指標として、2020 年までに EV・PHV の普及目標を最大で 100 万台、FCV の目標

普及台数を 2020 年には 4 万台、2030 年には 80 万台とすることが謳われた。

60

充電インフラの整備課題と解決アイデア 4.2.2

ア)基礎充電の課題と解決策

物理的コスト面での課題としては、集合住宅における導入においては、管理組合の合意形成が

必要で難易度が高いこと、また設置するにしても設置コストが高いことが挙げられる。技術的な

課題としては、受電電気の総容量が一定限度を超えると、高圧受電への切り替え等が発生し設置

コストが増加する。また周辺の電力送電網の送電容量が不足する場合は、送電網自体の容量の拡

大が必要となる。普及体制面での課題としては、基礎充電の導入を可能とするようなマンション

ディベロッパーやマンション管理会社等を巻き込んだ広範な世論形成が必要であり、EV普及に

対する一層の理解を求めることが必要である。

上記課題に対する解決策としては、充電設備導入の検討体制の整備が必要であること、充電器

を設置する場合の運用ルール等の整備が必要であることが挙げられる。具値的には、共同住宅の

居住者は、当該共同住宅への充電設備が未導入であるという理由から次世代自動車の購入を断念

する可能性があり、共同住宅の管理会社、管理組合が充電設備導入を検討するためのサポート体

制作りが望まれる。またせっかく充電器が設置されていても、充電器が設置された駐車区画にガ

ソリン車が駐車している状況が発生しており、このような状況を排除するための充電器設置の駐

車区画に関する運用ルール等の整備、ルールの運用の柔軟化が必要である。政府では共同住宅の

ディベロッパー、管理会社、管理組合向けのガイドラインを 2016 年度に整備予定である。

イ)経路充電、目的地充電の課題と解決策

物理的な課題としては充電器の適正配置の問題が挙げられる。充電設備の空白地帯が生じてい

たり、充電器を設置してあるものの稼働率が低いものが存在するなど稼働率のばらつきがあるこ

とが課題である。これに加えて、充電事業がビジネスとして成り立つかという事業収益性の問題

がある。

上記課題に対する解決策としては、空白地帯を解消すること、また充電器の稼働率を向上させ

ることが必要である。充電器の設置に関しては日本全国では全国平均で 26.5km ごとに一か所の

割合で急速充電器が配置されているものの、実際にはその分布にはばらつきがあり、急速充電器

のない空白地帯が存在している。これについては空白地帯の解消に向けて、地方自治体ごとに設

置計画を見直し中である。

また充電器の稼働率向上については、次世代自動車のユーザーにとって充電待ちの解消につな

がるとともに、充電事業者にとっては事業収益の改善につながるものである。充電器1基あたり

の稼働率にはばらつきが発生しており、これらの稼働率を均一化できればユーザーにとっては充

電待ちの解消につながると考えられる。稼働率のばらつきの発生原因として考えられるものは、

充電器に対するアクセスの良否であり、周辺の交通量である。これに関しては、現状の各地域の

各時期の稼働率を勘案しながら、適正配置を検討することが必要であり、現在政府では施策を検

61

討中である。充電事業の事業収益の改善に関しては、当初EVの普及に向けて大半の充電器設置

業者が無料で充電器を開放しており、これはユーザーの利便性に資するものであった。しかしE

Vの台数が増加する中、事業収益の改善に向けて各充電事業者が有料化に移行中である。充電器

についても課金機能を追加している。充電器の稼働率を向上させるためには、全ての充電器が有

料化され、無料の抜け道を作らないことで充電器の稼働の平準化へ導くことが重要である。

充電器の稼働率向上のアイデアとして、個人がスマートフォンなどの携帯電話から空き状況や

利用状況を知ることができるサービスが考えられる。これにより、充電器の利用までの待ち時間

を解消し、全体的な稼働率向上を目指すことができる可能性が考えられる。

図表 4-4:携帯電話を利用した充電施設の情報提供イメージ

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

62

中国の充電インフラ整備の状況と課題解決のアイデア 4.3

中国における EV・PHV の普及状況 4.3.1

中国における新エネルギー自動車の普及は 2009 年頃から試行錯誤的に複数の政策が実施され

て始まり、2014 年に個人向けの車両購入補助金を中心とした施策が集中的に施行されたことから

急激に増加し 2016 年の年間販売台数は 507 千台となっている。中国政府は 2020 年の EV・PHV

の目標普及台数を 500 万台としている。

一方で、中国における充電インフラの普及状況を見ると、中国電気自動車充電インフラ促進連

盟が発表した資料によれば、公共用充電設備は 2016 年 8 月現在で 102,000 基、個人用の充電ポ

ールは 58,000 本が既に設置されている。2020 年時点の EV・PHV の 500 万台普及を掲げる同国

では、その時点で 480 万本の充電ポール、1 万 2,000 箇所の充電ステーションの設置を同時に目

標に掲げている。

図表 4-5:中国の新エネルギー自動車および充電インフラの普及状況、整備状況等

中国の新エネルギー自動車の

普及状況と目標

出所:2015.11.29 日中省エネルギー・環境総

合フォーラム:中国国家発展改革委員会発表

資料、自動車産業ポータル MARKLINES、国家電気

自動車充電インフラ促進連盟

中国の充電インフラの整備状況と目標

出所:国家電気自動車充電インフラ促進連盟

63

中国における新エネルギー自動車普及へのこれまでの取組み 4.3.2

中国では新エネルギー自動車の発展は国家的に重要な戦略的な意義をもつものであり、電動自

動車は新エネルギー自動車の発展と自動車産業の転換での戦略的に進むべき主要な方向である。

この背景には一つには、中国では 2015 年の石油の輸入依存度は 60.6%に達しており危機的ライ

ンに近づきつつあること、二つ目には世界の主要自動車生産国は次々に準備を整え、新エネルギ

ー自動車の発展を国家戦略に据えており、中国も世界競争においてこれに対抗する必要があると

いうこと、三つ目には、中国は産業構造の転換を目指しており、2010 年には「国務院の戦略性新

興産業の育成と発展の加速に関する決定」を発表して、新エネルギー自動車を七大戦略性産業産

業の一つに確定し、習近平総書記も新エネルギー自動車の発展は中国が自動車大国から自動車強

国に向かう際に必ず通らねばならない道であると述べていることが挙げられる。以下中国での主

な政策の流れを示す。

まず 2009 年に国務院から「自動車産業調整・振興計画」が出され、新エネルギー自動車モデ

ル事業の立ち上げ、中央財政による補助金の支給が謳われた。2012 年には科学技術部から「電気

自動車科学技術発展第 12 次五か年特別計画」が妥割れ「第 12 次五か年計画」期間における電気

自動車の発展に向けた技術ロードマップと目標の策定が行われた。また同年には、国務院から「省

エネ・新エネルギー自動車発展計画」が出され、2020 年の新エネルギー自動車の技術ロードマッ

プ及び 500 万台発展目標の策定が行われた。

2013 年には財務部、科学技術部、工業情報化部、発展改革委員会から連名で「新エネルギー自

動車の普及・応用活動の継続的な展開に関する指導意見」が出され、2013 年~2015 年の新エネ

ルギー自動車の補助金基準が策定された。

2014 年には国務院から「新エネルギー自動車の普及・応用の加速に関する指導意見」が出され、

新エネルギー自動車の普及・応用の加速に向けた 6 分野の政策措置が提起された。また発展改革

委員会からは「電気自動車の電気料金政策の関連問題に関する通知」が出され、電気自動車の各

種モデルにおける充電電気料金の基準と根拠が策定された。そして、財政部、科学技術部、工業

情報化部、発展改革委員会の連名で、「新エネルギー自動 sh あの充電インフラ整備の奨励に関す

る通知」が出され、中央財政のモデル都市の充電インフラの発展に対する奨励政策が策定された。

2015 年には国務院から「電気自動車の充電インフラ整備の加速に関する指導意見」が出され、

2020 年までに、500 万台の電気自動車の充電を満たすためのインフラを整備することが提起され

た。また同年には国家エネルギー局から「電気自動車充電インフラ発展指針(2015-2020)」が

出され、2020 年の充電インフラの地域別・場所別の整備目標と技術ロードマップが策定された。

2016 年には、「第 13 次五か年計画期の新エネルギー自動車充電インフラ奨励政策及び新エネ

ルギー自動車普及・応用の強化に関する通知」が財政部、科学技術部、発展改革委員会、エネル

64

ギー局から出され、2016 年から 2020 年の各省(自治区、直轄市)の新エネルギー自動車充電イ

ンフラ奨励基準が策定された。また同年には、発展改革委員会、エネルギー局、工業情報化部、

住宅都市農村建設部から「住宅地の電気自動車充電インフラ整備の加速に関する通知」が出され、

住宅地の自家用充電ポール及び公共充電ポールの整備・据付フローにおける各関連主体の責任と

義務の明確化がなされた。

図表 4-6:中国政府による新エネルギー自動車普及政策

年 政策名 公布部門 主な内容

2009 「自動車産業調整・振興計画」 国務院 新エネルギー自動車モデル事業の立ち上

げ、中央財政による補助金の支給

2012 「電気自動車科学技術発展第 12次 5ヵ

年計画特別計画」

科学技術部 「第 12次 5 ヵ年計画」期間における電気

自動車の発展に向けた技術ロードマップ

と目標の策定

「省エネ・新エネルギー自動車発展計

画」

国務院 2020年の新エネルギー自動車の技術ロー

ドマップ及び 500万台発展目標の策定

2013 「新エネルギー自動車の普及・応用活

動の継続的な展開に関する通知」

財政部、科学技術部、工業・情

報化部、発展改革委員会

2013年-2015年の新エネルギー自動車の補

助金基準の策定

2014 「新エネルギー自動車の普及・応用の

加速に関する指導意見」

国務院 新エネルギー自動車の普及・応用の加速に

向けた 6 分野の政策措置の提起

「電気自動車の電気料金政策の関連問

題に関する通知」

発展改革委員会 電気自動車の各種モデルにおける充電電

気料金の基準と根拠の策定

「新エネルギー自動車の充電インフラ

整備の奨励に関する通知」

財政部、科学技術部、工業・情

報化部、発展改革委員会

中央財政のモデル都市の充電インフラの

発展に対する奖励政策の策定

2015 「電気自動車の充電インフラ整備の加

速に関する指導意見」

国務院 2020年までに、500 万台の電気自動車の充

電を満たすためのインフラ整備の提起

「電気自動車充電インフラ発展指針

(2015—2020)」

国家エネルギー局 2020年の充電インフラの地域別・場所別の

整備目標と技術ロードマップの策定

2016 「『第 13 次 5ヵ年計画』期の新エネル

ギー自動車充電インフラ奨励政策及び

新エネルギー自動車普及・応用の強化

に関する通知」

財政部、科学技術部、発展改革

委員会、

エネルギー局

2016-2020年の各省(自治区・直轄市)の

新エネルギー自動車充電インフラ奨励基

準の策定

「住宅地の電気自動車充電インフラ整

備の加速に関する通知」

発展改革委員会、エネルギー

局、工業・情報化部、住宅・都

市農村建設部

住宅地の自家用充電ポール及び公共充電

ポールの整備・据付フローにおける各関連

主体の責任と義務の明確化

出所:各種情報より作成

中国の新エネルギー自動車産業の発展の歩み 4.3.3

新エネルギー自動車産業の発展は、「1. 研究開発の開始期」、「2. 研究開発の基礎固め期」、

「3.モデル応用期」、「4. 市場導入期」の 4 つの段階を経験している。

「1. 研究開発の開始期」は 1991 年~2000 年が該当するが、この時期には「第八次五か年計画」

の時期において、電気自動車及び主要部品の研究開発が開始され、「第九次五か年計画」の時期

においては、電気自動車が国家科学技術支援計画に選定された。

65

「2. 研究開発の基礎固め期」は 2001 年~2006 年が該当し、この時期には「第十次五か年計画」

の時期においては、863 電気自動車重大科学技術特別事業が実施され、「第十一次五か年計画」

の時期においては、863 省エネ・新エネルギー自動車重大事業が実施され、「三縦三横」技術路

線が確定し、「第十二次五か年計画」の時期においては、電気自動車科学技術発展重点特別事業

が実施された。

「3. モデル応用期」は 2007 年~2008 年が該当する。2007 年には新エネルギー自動車生産企

業及び製品に関して、参入管理を実施し、条件を満たす企業と製品に関してのみ、生産、販売の

許可を付すこととされた。2008 年の北京オリンピックなどの機会を活用して、大規模なモデル応

用が展開され、この時期には、江淮、BYD(比亜迪)、宇通、五洲龍などのブランドの電気自動

車が発売された。

「4. 市場導入期」は 2009 年以降の時期が該当する。2009 年には、省エネ・新エネルギー自動

車「十城千両」モデル運用プロジェクトが実施され、2010 年には新エネルギー自動車の個人消費

試験事業が展開された。2013 年には新エネルギー自動車の普及促進政策が引き続き展開され、

2014 年には、39 地域 88 モデル都市において第二弾としての「新エネルギー自動車の普及促進」

が展開された。2015 年に中国国務院により策定された「中国製造 2025」においては 2020 年に新

エネルギー自動車の年間販売台数が 100 万台に、2025 年には 300 万台に到達するという目標が

掲げられている。

中国における充電インフラのビジネスモデル 4.3.4

以上のような政府による新エネルギー自動車普及の政策経緯及び新エネルギー自動車産業の発

展を経て、同国における充電インフラのビジネスモデルが 5 種類に分かれて形成されていること

が今回の共同研究で判明した。具体的には①政府主導型モデル、②配電事業者主導型モデル、③

民間企業主導型モデル、④自動車メーカー主導型モデル、⑤EV ユーザー主導型モデルである。

①政府主導型モデル

このモデルでは、EV の普及初期においては充電施設の建設運営にあたり投下資本の回収が困

難であることから、政府が主導して出資及び財政負担を行い、EV の商業化を促進するというモ

デルであり、営利を目的とせず EV 産業の発展を強力に支援するという性質のモデルである。メ

リットとしては短時間に集中して資源を投入し、各部門の連携調整を行いつつ統一的に推進でき

るという点を挙げることができるが、デメリットとしては、事業への投資、財政支出により政府

の財政負担が増加すること、政策に重点がおかれ事業の経済性、効率性が低下すること、充電イ

ンフラ事業の公平な市場環境の形成には不利であり、長期的には大規模充電インフラ施設の集約

した建設には不利であること、が挙げられる。

66

図表 4-7:中国における充電インフラビジネスの分類

+ プラス面あり - マイナス面あり

資金面 市場性 技術 資源

調達力

事業

効率性

相応しい場所

①政府主導型 + - + - 公共交通・衛生車等の専用充電

ステーション

②配電事業者主導型 + - + 事業区域

③民間企業主導型 - + - + 業区域

④自動車メーカー主導型 + + - - 主な営業エリア

⑤EV ユーザー主導型 + + ユーザーが望むエリア

出所:CATARC の情報をもとに作成

※社会資源(人、土地、組織、社会関係など)

②配電事業者主導型モデル

電力企業は電力エネルギー製造、配電網に関係してその優位性の発揮が可能であり、電力技術、

電力標準に関しては知見と発言力を有している。投資活動の範囲を拡大することにより、政府の

財政負担を軽減させることが可能である。充電システム企業が参画する場合は、政府部門から事

業運営の許可取得後は政府から運営に関する干渉は受けないが、一方で政府は協議書の締結によ

って充電価格の範囲を規定することができ、これを通じて投資者の積極性を引き出すことが可能

である。充電システムの研究開発企業が参画する場合には、充電事業の運営の第一線に深く入り

込み、充電施設運営および車両運営の一次資料やデータを入手可能なことから、充電施設関連の

技術改造、向上において重要な役割を果たすことが期待される。

デメリットとしては、充電インフラ事業は資本集約型であり、初期には充電需要は少なく、経

済効率の観点からは投資回収期間が長期にわたり、投資リスクも不確実性があることが挙げられ

る。また投資者にとっては充電施設建設の場所、充電料金といった機微な条件に関しては政府部

門と利益相反が生じる恐れがあることから、EV の普及の初期においては、政府部門が充電イン

フラ施設の公共福祉性の担保が困難になる恐れがある。また EV 普及のモデル事業期間終了後に

はモデル事業期にある単一の地域において投資された施設がその後も最大効用を生み出すとは限

らない、といった点が挙げられる。

67

③民間企業主導型モデル

一般企業型のモデルでは、メリットとしては、EV 充電インフラ事業に関して多方面からの参

画者を募ることができること、充電インフラ事業の経営におけるリスクとリターンは当該企業に

直接関係することから、企業はコストの最小化と自助努力による持続可能な事業運営実現へのイ

ンセンティブが働くことが挙げられる。デメリットとしては、充電インフラ事業運営への投資は

金額が大きく、技術と政策への依存度が高いことから運営事業者の財政リスクが比較的高いこと、

政府による統一的な規則がないことから、充電インフラ建設後の EV 発展との親和性が劣り、充

電インフラ施設の不足する区域と過剰な区域ができる恐れがあること、充電インフラ施設建設に

は巨額の資金の継続的な投入が必要であり、回収時期が長期にわたることから、初期投資の実行

では消極的になりがちであり企業単独での実施が難しいこと、などが挙げられる。

④自動車メーカー主導型モデル

自動車メーカーが充電インフラ施設を建設するモデルでは、自身が生産する EV 事業との連携

が可能であり、運営資金の調達がしやすく、自身が生産する EV の普及を促すことになることか

ら企業の積極性が期待でき、充電インフラ関連市場での競争を惹起することで政府の財政負担を

軽減できるというメリットがある。デメリットとしては、自動車メーカーは充電インフラ建設運

営においては、技術上の優位性を保有していないことが挙げられる。

⑤EV ユーザー主導型モデル

EV ユーザーは自分のニーズに合わせて充電設備を設置して自らの EV に接続できることがメ

リットである。デメリットとしてはユーザーが高額な設置費用と運営費用を負担する必要がある

こと、また公共充電インフラの利用率を低下させることにつながり、機能重複が生じる恐れがあ

ることが挙げられる。

68

中国の充電インフラ整備の課題と解決策 4.3.5

ア)基礎充電における課題と解決策

基礎充電は主に自宅での充電を指すが、物理的、コスト面での課題としては、充電器の設置コ

ストが高いこと、充電スペースの確保が難しい事が挙げられる。技術的な課題としては、充電器

の互換性の問題に加え、電力容量の不足、電力配線の改造の問題が存在している。

これらの解決策としては、公的な支援政策の整備、新たなタイプの充電技術と充電モデルの探

求が求められる。支援政策については一層の充実が求められるものであるが、既に中央政府、地

方政府ともに最近、住宅地の充電施設の整備、発展の促進に関する数多くの政策を打ち出してお

り、充電価格、充電設備の据え付けフロー、不動産管理など、各方面からの政策支援を行ってい

る。主なものを例示すると、「電気自動車の電気料金政策の関連問題に関する通知」、「住宅地

の電気自動車充電インフラ整備の加速に関する通知」、北京市の「北京市の大型新エネルギー乗

用車の自家用充電施設の据え付け推進に関する通知」、深セン市の「住宅地の固定駐車スペース

の所有主の新エネルギー自動車充電施設据え付け申請フロー」などが挙げられる。これらの政策

による効果としては、充電インフラ整備の促進、各方面の意識の向上が期待される。

新たなタイプの充電技術とモデルの探求についてであるが、これについては、充電ポールの共

有、モバイル充電、街路灯充電ポールなど、住宅街での充電を可能にする技術及び充電モデルの

採用を検討し、融通性を備えた多様な方式を採用して住宅地の充電問題を解決することが求めら

れる。

イ)経路充電、目的地充電における課題と解決策

経路充電と目的地充電の課題は、まず充電器設置場所の確保、次に充電器の設置の適正な配置

という物理的な課題である。また事業における収益性の課題としては、そもそもインフラ事業者

がもうからない仕組みに陥っていること、充電器設置場所提供者に対する利益インセンティブが

ない、という点が挙げられる。

これらの解決策としては、政府による土地の確保、財政支援の度合いの拡大、ビジネスモデル

の刷新が求められるものである。運営業者の土地取得が難しいという問題についての解決策とし

ては、地方政府が土地割り当て方式を採用することによって土地取得難を解決し、充電インフラ

整備に関する財政補助金を給付すること通じて、運営業者の資金負担を軽減させる、というアイ

デアが出された。

一例として合肥市を挙げると、合肥市政府は政府職員住宅の駐車場を無料で提供の上、一般車

両に開放している。普天公司が駐車場に一部直流充電設備を据え付け、市政府が設備に関して

20%の補助金を支給し、タクシー及び一般車両は充電する際には無料駐車が可能であり、普天公

司に対して 1.55 元/kWh の電気料金および充電サービス料を支払うのみでよい、というものであ

る。

69

ビジネスモデルの刷新に関しては、充電インフラ運営事業者がすでに試行している例をみてみ

ると、モバイル充補電、複数台の充電を行う群充電、クラウドファンディングを利用した充電ポ

ール整備などのモデルの採用が挙げられ、これらを通じて充電ポールの整備と電気自動車ユーザ

ーへの拡大を加速している。特来電公司では合肥市のオフィスビル内に交流群充電(複数台充電)

システムを設けており、このシステムにおいては、高効率な秩序正しい充電の実現と、比較的高

い安全性の具備、コストの削減が可能であり、充電施設整備での大規模化への応用が可能なシス

テムである。

これらの解決策導入の効果としては、各種タイプに適合した充電技術と充電モデルの追求、住

宅地での充電難の緩和が期待できるものである。

70

日中両国の共通課題と解決アイデア 4.4

日中両国の共通課題と解決アイデアの方向性 4.4.1

共同研究を通じ、両国共通課題として、両国とも大都市では共同住宅に住むの居住者の割合が

高く、既存の共同住宅では駐車の余地が少ない、或いは充電スペースの確保が難しい場合が多い

ため、充電インフラの整備が進まない課題が見出された。その解決のためのアイデアとして、①

共同住宅地内での充電環境について解決策を探求する方法、②充電環境を共同住宅地内ではなく

近隣の外部に求めて解決策を探る方法の 2 つのアプローチをとるという考えで一致した。

①共同住宅敷地内でのアプローチ 4.4.2

共同住宅の敷地内での充電環境整備についてのアイデアを以下に紹介する。

【敷地内駐車場の活用】(日本側アイデア)

平置き駐車場における改善策として、200V の充電コンセントのみを設置する、という方策を考

える。これは、充電コンセントを駐車台数の 10%程度に設置したところ、徐々に EV ユーザーが

増加した、というディベロッパーの取り組み事例があることに着目したものである。この方式で

あれば、初期コスト、ランニングコスト共に少額であり経済的である。ただし電力メーターを設

置しないため、利用者毎の料金徴収方法に工夫が必要である。また日本の都心マンションにおい

ては、敷地面積による制約から、駐車場における機械式駐車場の割合が 7~8 割であることから、

基礎充電のインフラ整備の推進においては、既設の機械式駐車場への充電器設置も大きな課題で

ある。機械式駐車場に後付で充電器を設置する場合には、駐車場パレットの稼働時に電圧が変動

する点、技術面からの留意が必要である。

【充電器の共有化】(日本側アイデア)

駐車場に充電器を設置する場合に、専用駐車区画と共用駐車区画の間となる場所に充電設備を

設置し、どちらに駐車する場合でも利用できるようにする方法がある。もしくは充電設備自体を

共有化しておき、利用者ごとに ID 管理を実施する仕組みを導入し、利用時間に応じた課金をする

という方法も考えられる。これらの方法を採用すれば、充電スペースを最小化することができる。

居住者による利用が少ない場合には、外部の EV ユーザーの利用も可能としておくことで、初期

コスト、維持コストの回収に寄与することができるものである。

71

図表 4-8:充電器の共有化アイデア

出所:関西電気自動車普及促進協議会

【旧住宅地での公共充電ポールの整備】(中国側アイデア)

深セン市の某旧住宅地では、花壇中央の空き地を利用して充電ポールを数基設置し、固定的駐

車スペースがない状況でも、住宅地の EV ユーザーの充電ニーズを満たしている。公共充電ポー

ルの設置によって、固定的駐車区画を保有しない EV ユーザーの充電ニーズがある程度満たすこ

とができている。また一部の車両は駐車スペースがないなかで、住宅地の道路に一時的に駐車し

て充補電を行っている。

②共同住宅の近隣外部でのアプローチ 4.4.3

次に共同住宅の敷地の外部における充電環境整備へのアイデアを以下紹介する。

【街路灯ポールの活用】(中国側アイデア)

北京市では試験的に昌平区の一部の街路灯ポールに充電コンセントとメーターを設置し、既存

の街路灯の電力ネットワーク設備をそのまま利用しながら電気自動車への充電を可能にしている。

このモデルでは、用地の選択取得の困難さや、駐車スペースの不足、電力線敷設のための工事

実施等のマイナスとなる要素をうまく回避することにより、近隣の電気自動車タクシーと自家用

車の充電難という問題を効果的に緩和している。

【自動販売機、時間貸し駐車場の活用し、他の用途の機器に充電器を併設】(日本側アイデア)

これは日本で広く普及している自動販売機や時間貸し駐車場の既存設備を有効活用する方法で

ある。この方法では既存の配電線が利用でき、かつ既存の料金回収スキームの活用が可能である

ことから、電源が確保されており、初期コスト削減、維持コスト削減の効果が期待できる方法で

ある。また対象を近隣のコンビニエンスストアやショッピングセンターにまで広げることが可能

である。

72

【商業施設の活用】(日本側アイデア)

日常的に利用されることが想定され、優先的に充電インフラを整備すべき施設として商業施設

がある。充電設備の利用認証にあたっては、例えば買い物カードを連携させることにより、EV

ユーザーの利便性を向上させることも考えられる。また駐車場には EV 専用区画を設置し、急速

充電器と普通用充電器を設置する。EV ユーザーは買い物時間を利用して、継ぎ足し充電をする

ことが可能となる。

【職場充電の活用】(日本側アイデア)

職場における充電設備の設置は、通勤者が自宅での充電器設置が難しい場合、基礎充電を補完

する役割を果たすことになる。自動車通勤者のために職場に EV 専用区画を設けて充電器を提供

し、勤務時間中に継ぎ足し充電を行うことを可能とするものである。職場に充電器があることで、

EV ユーザーの安心感が向上し、EV・PHV 購入の選択の可能性が高まることにつながると考えら

れる。

充電インフラ整備に関する研究にかかるまとめ 4.4.4

日中双方は複数回にわたり、研究課題に関して、現場での交流を重ね、電話会議の開催、専門

家へのインタビュー、モデル都市の調査などの活動を行った。この結果、両国の充電インフラ整

備に関する状況を相互に共有し合い理解することができた。特に共同住宅における基礎充電は両

国ともに大きな課題であることが分かった。これらの両国に共通する課題に対する解決アイデア

について相互に意見交換を実施したものである。両国の個別事業を勘案しながら、相互に参考に

なる意見交換を行うことができた。

73

EV と充電器の互換性研究 4.5

中国における互換性問題 4.5.1

中国においては、これまでに各地で設置が推進されてきた充電器は、十分な統一規格が存在し

ていないもとで製造されており、結果として「使えない充電スタンド(充電コネクタ、充電プロ

トコル等の不一致により使用できない、もしくは使用しづらい立地にある、等)」が散見される

状況にある。これは、2000 年以降、EV および充電器に対する基礎的な標準(GB 規格、GB/T 規

格)が用意されていたものの、それ以外の部分は自動車メーカーが独自の仕様で製造し、それに

応じた充電器がメーカー所在地の周辺で整備されてきたためであり、充電関連標準の完成度に課

題があるとされてきた。

中国政府としても EV の普及に合わせ、標準化の重要性が高まったことを受けて、関係標準の

改訂など整備を現在進行形で進めている状況にある。中国における今後の EV の普及拡大にあた

っては、いかなる EV と充電器の組み合わせにおいても、トラブルが発生することなく安全・安

心な充電環境を構築する必要がある。そのためには、充電器と EV との接続性・互換性が確保さ

れた充電インフラの整備が大きな鍵となり、EV と充電器の互換性確認試験を実施することが肝

要となる。

互換性確認試験の意義 4.5.2

EV と充電器の互換性確認試験とは、市場に流通するまたは近い将来販売が予定される EV や充

電器に対し、いかなる EV と充電器の組合せにおいても安全かつトラブルなく充電が行われるか

を確認する試験である。EV や充電器は各種標準(規格)に基づいて設計・製作されることで互

換性が担保された製品が市場に流通するが、実際には以下の問題点が考えられる。

問題点 1)標準に互換性を確保するための規定が不足していることがある。

問題点 2)標準に規定はあるものの、メーカーが遵守せずに製品化することがある。

そこで中国の主要地域において、AC 充電(普通充電)および DC 充電(急速充電)の双方に

ついて、日中両国の自動車メーカーの EV と中国の充電器メーカーの充電器を持ち寄り、集合形

式での充電器の互換性確認試験を実施し、物理的な形状、通信プロトコル、充電に係る電気的な

条件など EV 及び充電器の互換性にかかる不具合事象を確認することを目的とした。その上で、

仮に不具合事象が発生した場合には、その発生原因の解明および解決策を検討することで、標準

または製品へ改善点をフィードバックすることとし、標準および製品の完成度の向上を目指すこ

ととした。

74

さらに、中国における統一規格の充電器を普及させるため、それが統一規格に基づいて製造さ

れているかどうかをチェックする仕組みとして、充電器検定制度を構築することが必要である。

日本においても、AC普通充電器に対してはJARI認証制度、DC急速充電器に対してはCHAdeMO

検定制度が運用されており、そういった充電器検定制度の導入に資するべく、検定プロセスや検

定に必要な仕様の検討、検定制度の推進体制構築の必要性に関する提言をとりまとめるものであ

る。

日本で実施した互換性確認試験(2013 年 10 月) 4.5.3

試験項目としては基本条件と悪意を持った使用方法による条件を含めた 21 項目を取り上げた。

組み合わせについては、EV が 5 車種ありそれぞれに 15 基の充電器を対応させたことから、全部

で 75 通りの組み合わせとなった。実施にあたっては、試験の実施は EV メーカー、充電メーカー

のそれぞれの担当者が行った。互換性確認確認試験の結果は、標準に関する解釈の違いや、各メ

ーカーの独自の製品機能が開発付加されており、標準を制定する時点では予想していなかった問

題が存在することが、ほぼ全ての組み合わせにおいて確認された。結果の活用に関しては、各組

合せの両メーカーはその場で結果を共有し、また JARI は全組み合わせに関して記述式の結果を

集計し、匿名化の上参加した各社との間で共有した。この結果に関しては、一般社団法人日本自

動車工業会、EVPOSSA 間でもデータをもとにガイドライン化された。

【日本で実施した互換性確認試験の結果】

互換性確認試験の結果として、標準の解釈の差に起因した互換性の問題が存在することが分か

った。これは非日常的なケースで使用される場合として、例えば停電の場合やユーザーによる無

理な使い方がなされた場合に充電器あるいは車両による対応状況に差が生じる、ということであ

る。また自動車メーカーにより新たな機能としてスリープモードのような機能が追加されたよう

な場合に、その選択すべき通信モードに関して、充電器と車両側において、解釈にすれ違いが生

じる事例があった。

以上の例は標準の解釈の差に起因する互換性の問題であったが、これとは別に、標準そのもの

に対する不勉強、理解不足によるものと思われる事例も存在した。

互換性保証の仕組み 4.5.4

前述のように互換性確認試験の結果をもとにして、標準を改定するタイミングを考慮し、認証

制度を補完するような業界としてのガイドラインを整備することにした。なお、標準や認証基準

75

が今後市場にて発売されるさまざまな製品や付加される機能に対して完全に保証できるレベルに

達するには一定の時間がかかると思われ、随時検証を行っていくことが必要と考えられる。

図表 4-9:互換性保証の仕組み

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

【ご参考:JARI の認証制度について】

新エネルギー自動車の普及のためには、互換性の確保が重要である。日本では平成 24 年 4 月に

互換性の安全性を柱とする JARI の認証制度が立ち上がった。また平成 26 年度補正からは、補助

金支給の必須要件として急速充電器ではチャデモ認証の取得が、AC 普通充電器では JARI 認証の

取得が必須になり、認証制度と補助金交付政策が連動することによって、互換性と安全性の確保

が約束された。

中国専門家との互換性保証に関する意見交換 4.5.5

海外産業人材育成協会の事業として中国の新エネルギー自動車等の普及施策関係者を 2015 年

11 月 9 日から 13 日まで日本へ招聘した。中国からは国家発展改革委員会、国家エネルギー局、

天津市発展改革委員会、中国電力企業連合会、中国自動車技術研究センターから 12 名が来日、日

本側は経済産業省、自動車メーカー各社、次世代自動車振興せインター、CHAdeMO 協議会、

EVPOSSA、JARI 他が受け入れ対応を行った。

76

図表 4-10:中国専門家との互換性保証に関する意見交換

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

図表 4-11:中国専門家との互換性保証に関する意見交換風景

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

CATARC における AC/DC 充電の互換性確認試験の実施 4.5.6

2016 年の 1 月から 2 月にかけて CATARC にて AC、DC 充電の互換性確認試験を実施した。

実施方法であるが、中国、日本および他国の電動車両および中国メーカーの充電器を集め、電動

車両・充電器の全ての組み合わせにおいて、あらかじめ決めておいた項目の試験を行い、それぞ

れの挙動、互換性を検証した。試験は各メーカーの技術者が共同で実施し、CATARC と JARI が

立ち会った。試験項目は、通常の充電の開始、停止の他に、非日常的なケースとして、トラブル

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(停電、通信線の断線など)、ユーザー視点での意地悪な操作(充電中にコネクタを抜く、ゆす

る、コネクタおのロック解除ボタンを押下する、など)についてもを実施した。

AC 充電については、2016 年 1 月 18 日~21 日に CATARC 天津にて実施し、参加台数は、電

動車両 7 台(中国 2 台、日本 3 台、韓国 1 台、米国 1 台)、充電器 12 機種(11 メーカー)であ

り、試験の組み合わせは 84 組であった。また DC 急速充電については 2016 年 2 月 24 日~26 日

に CATARC 天津にて実施し、参加台数は電動車両 6 台(中国 3 台、日本 2 台、韓国 1 台)、充

電器 5 機種(5 メーカー)であり、試験の組み合わせは 30 組であった。実験結果は、AC 充電、

DC 充電ともに不具合事象が散見された。

図表 4-12:互換性確認試験の実施(AC 普通充電)

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

図表 4-13:互換性確認試験の実施(DC 急速充電)

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

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【互換性確認試験の実施結果】

試験結果では AC・DC 充電器合わせて延べ 49 件の不具合を確認した。

図表 4-14:互換性試験結果

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

試験結果の分析と総括 4.5.7

【互換性確認試験の結果の総括】

イレギュラー試験を含む日本で経験のある互換性確認試験を実施したことにより、システム標

準に基づく試験だけでは確認できない不具合についても検出することができ、中国においてもそ

の有効性を確認することができた。

【不具合発生の要因の総括とその対応例】

まずは新たな付加機能に起因する事例(カード認証、予約充電機能など)を挙げると、AC 充

電器が充電準備完了後、数分で制御信号の発信を停止し、これにより車両の充電予約が機能しな

いとう事例があった。これに関する対応としては、業界標準にて制御信号の発信継続について規

定することが望ましいと考えられる。

次に非日常的なケースの想定が不足している(停電、ユーザーの意地悪な使い方など)と考え

られる事例では、AC 充電中にコネクタをガタガタ揺らす試験をおこなったところ、CP 線の断線

が生じ通信異常が発生した。これについては、検定試験におけるイレギュラー試験の実施につい

て内規化することが望ましい。

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またシステム標準に対する誤解や理解不足であると考えられる事例としては、DC 充電におい

て充電器の非常停止ボタンを押したところ、充電が停止するものの、車両への充電器充電停止信

号が送信されなかったという事例があった。これは充電電流信号のレートの過誤によるものであ

った。これらは現状の国家標準の試験項目では発見できないことから、想定外の操作等を模擬す

ることで発見できた不具合発生の事例であり、想定外の操作や部品の劣化を想定した試験が必要

と考えられる。検定標準への規定の追加、修正に関しては、中国国内の標準審議組織と意見交換

を実施した。

【標準改訂のタイミングと業界標準の活用】

システム標準については、制定後の技術の進展によって、また認証基準も同様に製品の普及拡

大に応じて、新たな課題が発生する。例としては、メーカーの新機能の追加や想定外の事象や利

用方法の発生が挙げられる。したがってこのようなことが判明したら関係者に対してタイムリー

に周知すべきである。また標準は改訂にタイミングがあることから、国家標準の次回の改定まで

のつなぎとして業界標準を活用することについて協議を行った。発展改革委員会、関係組織と意

見交換を実施し、充電器メーカーに対しての業界標準の展開の必要性について意見の一致を見た。

図表 4-15:標準改訂のタイミングと業界標準の活用

出所:第 10 回日中省エネルギー・環境総合フォーラム(2016.11.26)発表資料より

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EV と充電インフラの互換性研究にかかるまとめ 4.5.8

EV と充電インフラの互換性研究をまとめると以下の通りである。

・ EV・PHV の普及のためには互換性の確保が重要であるとの認識から、関係する中国専門家

を 2015 年 11 月に日本に招聘し、日本のこれまでの取組・経験について意見交換を実施した。

・ 中国において、2016 年 1 月から 2 月にかけて AC 普通充電および DC 急速充電の互換性確認

試験を日中協力して、システム標準に基づく試験のほか、非日常的なケースの試験も実施し、

互換性確認試験の有効性を確認した。

・ 上記互換性確認試験で抽出した課題については、審議中の検定標準、業界標準への反映が必

要であり、標準審議組織と協議を行った。

・ 将来に向けた互換性保証の方法について、政府及び上記の関係者と意見交換を実施し、充電

器メーカーへの業界標準の展開の必要性について意見の一致を見るに至った。

・ 互換性確認試験の実施、標準への反映協議を通じて、中国の充電インフラ検定制度及び互換

性保証体制の構築に貢献することができた。