20150418 ポーター「競争の戦略」読書会
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競争の戦略M.E.ポーター著
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あなたの周りで”ポジショニングアプローチ”の観点から競争優位性のあるもの/人
M.E.ポーターの研究領域
産業組織論
競争戦略
CSV(Creating
Shared Value)
• 1982年にハーバード大学史上最年少の正教授に就任• コンサルティング会社のモニター・グループを設立(2012年11月に
Chapter11を申請、2013年1月にデロイトトーマツが買収)
産業組織論(IO)って?
産業組織論(Industrial Organization)A.マーシャル
産業組織・企業行動について、計量経済学を利用して実証的に検証した。独占・寡占・独占的競争等の不完全競争が主なテーマであり、市場の失敗に対応する政策が必要と提唱した。
ハーバード学派(1950年~70年)=SCP理論(構造:Structure行動:Conduct 成果:Performance) J.S.ベイン等
産業集中度が高い業界は利益率が高い(厚生経済に反する)→反トラスト法に基づく競争政策(マーケットシェアが高まるM&Aは認められない)
シカゴ学派(1970年~)=効率化仮説 Y.ブローゼン、H.デムゼッツ等
ベインの実証結果は一時的なもの→長期的には産業利益率が収束され、効率性が高い大企業のみが高利益率を実現(同一業界における利益率:大企業>中小企業)
市場重視の経済政策=政府の規制緩和(ただし、カルテルは規制強化)→大型M&A増加
M.E.ポーター
市場構造 企業行動 企業業績
SCP理論
5 Forces分析 3つの競争戦略M.E.ポーターのアプローチ
因果関係が成立していることが
前提
M.E.ポーターの功績①
出典:「競争の戦略」M.E.ポーター著 ダイヤモンド社(1982)
・・・で、何が分かるの?
M.E.ポーターの功績②
出典:「競争優位の戦略」M.E.ポーター著 ダイヤモンド社(1985)
・・・で、何が分かるの?
M.E.ポーターの功績①&②
バリューチェーン分析
5 Forces分析戦略策定を行う際の現状分析(SWOT分析)を行うためのツールを提供
本書の構成
• Part1:競争戦略のための分析技法
• Part2:業界環境のタイプ別競争戦略
• Part3:戦略デシジョンのタイプ
Part1競争戦略のための分析技法
業界構造分析
• 業界によって収益率は異なる
業界:代替可能な製品・サービスを提供している会社の集団
業界内は完全競争=超過利潤が無い
参入(移動)障壁がキーポイント
• 競争状態を決める5つの要因(右図)
業界によって影響力の大きな要因は異なる
タンカー:買い手の交渉力
鉄鋼:同業他社、代替製品
• 市場構造としての競争要因に注目
参入障壁
• 規模の経済性:単位当たりコストが低い(EMS等)
• コスト優位性(規模に関係なく) :原材料や店舗立地の独占、経験曲線効果(累積生産数量)
• 巨額の投資:新規参入のためには巨額の投資が必要(電力、電話等)
資本市場が効率的であれば投資に必要な資金の調達が可能となるため、参入障壁にはなりにくい
• 差別化:ブランド認知、カスタマーロイヤリティ
• 独自の流通チャネル:販路の確保が難しい(多額のコストを要する)
• スイッチングコスト:仕入先を変更する場合の追加的コスト(従業員教育等)が大きい
• 公共政策:特許、ブランド保護(不当競争防止法)、許認可、環境規制(多額の投資が必要)等
撤退障壁
• サンクコストが大きい(例:転用できない設備等)→清算価値が低い
• 撤退費用が大きい(例:中国)→時間がかかる
• 他の事業との関連性→単独の事業としては撤退したいが、他の事業で同じ顧客と取引している場合等
• 経営者の感情→思い入れ、プライド(負けを認める)
• 政府や地域社会からの反対→失業者の増加の恐れ
参入/撤退障壁
• Question
○○によって参入障壁は弱まる/意味が無くなる
メーカーによる保守サービスはどのような参入障壁につながるか?
参入障壁が高いと(一般的に)業界全体の利益率が高まるが、撤退障壁が高い場合は?
イノベーション、技術革新等→代替品の脅威が高まる
撤退すべき企業(ゾンビ企業)が残存し、価格競争が維持されることから業界全体の利益率が低下する
スイッチングコストを高める、差別化
買い手/売り手の交渉力
• Question
買い手(顧客)が内製化を進めている場合、買い手の交渉力は?
自社が提供する製品の品質が買い手の製品に大きな影響を与える場合、買い手の交渉力は?
売り手の業界の寡占化が進んでいる場合、売り手の交渉力は?
強い
弱い
強い
競争の基本戦略
• 3つの基本戦略
二兎を追うもの、一兎も得ず(Stuck in the middle)
競争の軸
特異性 コスト優位性
市場
全体 差別化コストリーダー
シップ
特定セグメント
集中
ポートフォリオ分析
• BCGのProduct Portfolio Management
経営資源を集中的に投下すべき事業は何か
相対的マーケットシェア
低い 高い
市場成長率
高い 赤子/問題児 スター
低い 負け犬 金のなる木
課題:①事業間のシナジーが考慮されない、②シェアが高い=経験曲線効果によるコスト優位性を前
提としている
戦略グループ
• 業界内の企業を2軸でマッピング
グループ間の移動障壁が明確になるような軸を設定
異なるグループへのシフトを妨げる移動障壁→同一業界内の企業間の利益率格差
同一グループ=戦略や利益率が類似
• 戦略的な利益機会の探求
① 新しい戦略グループを作る
② より好ましい状況にある戦略グループに参入する
③ 現在属している戦略グループ内の地位を上げる
④ 新しい戦略グループに移り、そのグループ自体の地位を上げる
A B
D C
流通チャネルの幅
品質・ブランドイメージ
同一グループ内の企業間の差異について説明できない→資源アプローチ(RBV)
例えば・・・
Part2業界環境のタイプ別競争戦略
プロダクトライフサイクル
新しい産業
• 特長
顧客=イノベーター、アーリーアダプター
各社の戦略がバラバラ→競合他社を分析できない(ベンチマークが無い)
技術の方向性が不透明(例えば、ベータ方式 vs VHS方式)
特許が競争上、重要である事が多い
規模の経済性や経験曲線効果によって価格が急速に低下する
スピン・オフ企業の増加→大企業はInnovators’ dilemmaに陥っている(成功体験に囚われる)
• 参入障壁は高い
原材料や部品、熟練工等の経営資源が入手困難である(選択肢が限られる)ことが多い
市場が小さい→大半の消費者は技術の動向等を見極めたい(大企業も参入をためらう)
資本コストが高い(ベンチャー企業等)→ベンチャーキャピタルによるリスクマネーの供与
新しい産業
• Question
新しい産業において業界団体を組織し、規格の統一等、業界標準を作ることは効果的か?
導入期の産業において、競合他社に特許の一部を公開することは効果的か?
Yes&No:市場拡大に効果的(規格の統一によって技術の不確実性が低下し、新規参入が増加)→自社にとって有利なルールを作ることができれば、なお良い
Yes&No:コア技術のブラックボックス化が重要(例:インテル→半導体チップやPCIバス、マザーボードの設計図を公開(改変はNG)→MPUの購入を促進)
過当競争市場
• 参入障壁が低く、撤退障壁が高い業界
規模の経済性、経験曲線効果が働かない(例えば、創造性が重要な広告・デザイン業界)
輸送コストが高い:供給範囲が限られてしまう(例えば、セメント業界)
在庫コストが高い、売上高の変動が大きい:大規模な設備投資が行えない
買い手/売り手の交渉力が強すぎる
多様な市場ニーズ:一品一様(例えば、リフォーム業界)
• 対応策
コストリーダーシップ→製品価値の違いを大幅に上回る価格差(例えば、プライベートブランド品)
差別化→付加価値(例えば、保守サービスの提供)
集中→特定セグメントに集中(例えば、ドミナント戦略、)
イノベーション→規模の経済性を発揮するような製造方法や経営システム(FC等)の開発
業界再編→合従連衡により、競争企業の数を減らす
過当競争市場
• Question
過当競争市場において、販促プロモーションを行うことによりシェア向上を図ることは効果的か?
過当競争市場において、製品のリニューアル/モデルチェンジを行うことは効果的か?
No:広告によるブランドロイヤリティの確立等、差別化が実現しない限り、参入障壁は高まらない→プロモーション費用を浪費するだけ
No:特定セグメントに集中するか、コストリーダーシップや差別化が図れない限り、製品のリニューアル等は開発費用の浪費につながる
成熟産業
• 特長
技術的な差別化が困難となり、競争軸がコストやサービスにシフト
低成長→過剰設備・過剰人員→価格競争が激化
海外に展開する企業が増加する(新たな成長機会を求めて)
新たな現実に直面する(リストラ等も必要とされる)ことに経営者が耐えられなくなり、社長の交代等が増える
• プライベートエクイティ(PE)ファンドの投資先の多くが成熟期の企業
成熟産業
• Question
成熟期の企業ほど、管理会計(製品別/顧客別損益等)の精度が求められる?
成熟期の企業ほど、シェア拡大が重要であり、既存顧客よりも新規顧客を重視すべき?
成熟期の企業ほど、CRM(顧客管理)の精度が求められる?
成熟期の企業ほど、戦略の柔軟性よりも安定性が求められる?
Yes:導入期・成長期は市場全体の成長に合わせて売上高が伸びる→成熟期には利益の出ない製品や顧客取引の見直しが必要(併せてコスト削減も)
No:他社から顧客を奪うコストが大きい(大幅値下げが必要等)→既存顧客に対して周辺機器等を売り込む(クロスセル)方が効率的
Yes:上記の理由から既存顧客に対する売上(Share of wallet)を増やすための取り組みが重要(例:Amazonの購入履歴管理等)
No:過去の成功体験に囚われることなく、外部環境の変化に適応するための柔軟性が求められる(場合によっては窮地に陥る前の戦略的撤退も検討すべき)
成熟産業
• Question
成熟期の企業ほど、製品差別化を推し進めるべきである?
成熟期の企業ほど、従業員のモチベーション維持を図る必要がある?
成熟期の企業ほど、権限委譲による分権化を進めるべきである?
No:技術的な革新も行われなくなり、品質の違いが顧客に理解されない状態(過剰品質)に陥る可能性が高い
Yes:昇進機会の減少や新規採用の抑制等により、組織の新陳代謝が行われず、沈滞ムードが蔓延する
No:成長期は分権化した方が多様なニーズへの対応等が可能となるが、成熟期はニーズも絞り込まれている一方、コスト削減等の管理機能の強化が重要となる
衰退産業
• 衰退の理由
技術の進歩による代替品
人口動態の変化(例:少子化)
ニーズの変化
• 見極めのポイント
需要が完全に消滅するのか(例:住宅向けアスベスト)、下げ止まる(一定の需要が継続)のか(例:紙の書籍/ノート)
• 考えられる戦略
唯一もしくは数少ない生き残り企業として残存者利益を享受(例:地域に1軒しかない銭湯)
衰退産業
• Question
「当社は絶対に撤退しない」という強いコミットメントを表明することは効果的である?
競合の企業/設備の買い取りは衰退産業における競争戦略として効果的である?
Yes:今後も消耗戦が続くと予測させることで、競合他社にとって損失(期待値)の現在価値を増大させる→撤退を促す
Yes:競合相手の清算費用を低下させることで撤退障壁が下がる→撤退を促進する
グローバル企業
• 国によって異なるもの
生産要素コスト
ニーズ
環境
政府の役割や法規制
競合企業
• 海外展開の段階
① 技術供与
② 輸出
③ 海外直接投資
グローバル企業の優位性
• 比較優位性→国際分業
例:労働集約的な生産工程は海外、資本集約的な生産工程は日本
• 消費地の拡大に伴う規模の経済性/経験曲線効果の追求→生産、物流、マーケティング
• 企業/ブランドイメージによる差別化
例えば、化粧品はパリやロンドンで売れていることをアピール
グローバル企業の課題
• ローカル市場における異なるニーズへの対応
ニーズが多様であるため、規模の経済性/経験曲線効果が十分に発揮されない
• 顧客とのコンタクトポイントの確立が難しい→流通チャネル/セールスマン/保守・メンテナンス
• サプライチェーンマネジメント→長いリードタイム(輸出入、通関)、輸送/在庫コスト
• 複雑な経営管理
宗教や文化、商習慣等の違い(従業員の管理等)
• 現地政府の規制
例えば、インドでは小売業について外資規制あり
• 現地の社会情勢→治安、汚職等
Part3戦略デシジョンのタイプ
垂直統合
• 垂直統合→取引コストを削減できる?
• 川上統合の場合
自社が必要とする数量以上の生産能力を持つ企業との統合は効果的である?
川上統合により、購入する原材料/部品に関する中間マージンを削減できる?
固定費が増大することにより、景気変動によって受ける影響度が小さくなる?
No:自社の所要量を超える供給能力=過剰(余剰分は競合他社に販売)
Yes:(知財等を含めた)情報共有が促進される→情報の非対称性が小さくなる(モニタリングコスト等が削減される)
Yes:流通チャネルが複数に分かれている場合(全国卸→地域卸等)、垂直統合によって川上企業が享受していたマージンを取り込む事ができる
No:仕入=変動費から固定費(人件費等)に変わることにより、損益分岐点は上昇し、景気変動による影響度は大きくなる
垂直統合
• 川下統合の場合
川下統合により、消費者のニーズが汲み取りやすくなる(差別化に効果的)?
川下統合により、消費者が購入する価格に対して、中間マージンを削減する上で効果がある?
• 垂直統合と長期契約との違いは?
Yes:川下企業を通じて間接的にニーズを把握するよりも、直接的な把握が可能となる
Yes:川下企業(流通等)が享受していた中間マージンを取り込むことができる
契約の場合、当事者間で利害相反が発生する可能性がある。また、契約内容の交渉等に時間・コストを要する
生産能力拡大
• 需要の先取りが機能する場合
規模の経済性/経験曲線効果によるコストの低下を織り込んだ価格設定で市場に参入→市場規
模の拡大やシェア向上を図る
• 過剰生産能力になる場合
各社が一斉に生産能力を拡大(ゲーム理論における囚人のジレンマ)→特に、意思決定から実際
に新しい工場が稼動するまでに一定のタイムラグがある場合
生産技術の進歩→新しい技術/設備を導入しても、一定期間は旧技術/設備による操業継続
生産能力自体が競争の軸となっている(例えば、航空)
売上高至上主義の経営者による意思決定
政府による自国産業の育成
新規参入
• (競合他社が少ない)新しい市場に参入する場合の価格設定の考え方
スキミングプライス(高価格)
ペネトレイティングプライス(低価格)
• Question
当該市場の参入障壁が低い(競合他社が後から参入してくる)と考えられる場合に採用する価格
戦略はどちらか?
ペネトレイティングプライス:低い価格で参入し、市場シェアを一気に獲得することによって規模の経済性/経験曲線効果を発揮→参入障壁を作る
参考:競争戦略のまとめ
競争戦略に関する4つのアプローチ
利益の源泉や分析視点から、下記のように4つのアプローチに分類できる
(出所:競争戦略論 青島矢一他 東洋経済新報社)
分析視点
要因 プロセス/行動
利益の源泉(外部or内部)
外ポジショニング(SCP)
ゲーム理論
内資源/ケイパビリティ
(RBV)組織学習/切磋琢磨(レッドクイーン効果)
SCP=静態的という批判→自社の行動の結果に
より、都合の良い状況を作り出す
(模倣困難な)無形資産・ノウハウを考慮していない
という批判→利益の源泉=業界要因 or
企業要因
どのように模倣困難なケイパビリティを作り出すか
ポーター vs ミンツバーグ
M.ポーターの戦略論
戦略的なトレードオフについて、選択することが重要(何をやらないか、を明確にする)
• 典型的なトレードオフ:コストリーダーシップ&差別化
日本企業は顧客のニーズを全て満たそうとしている(総花的)=戦略がない
H.ミンツバーグの戦略論
1977年のMBAの試験問題「ホンダは自動車に参入すべきか?」→模範解答は「No」
• 理由:市場は飽和して、参入すべき領域(ポジション)が見つからない、ホンダは流通チャネルを持たない
• 結果:ホンダは北米トップクラスのシェア←組織的学習の結果
マネジメントは教えて理解されるものではない
「Managers Not MBAs」
グループディスカッション
自由討議
理解が難しかったところ
実際にポジショニングアプローチを適用した事例 等
参考文献
プラクティカル産業組織論(泉田成美)
競争戦略論(青島矢一他)
戦略サファリ(ヘンリー・ミンツバーグ)
ハーバード戦略教室(シンシア・モンゴメリー)
ダイナミック・ケイパビリティ戦略(デビット・ティース)