2012 年図書館国際セミナー 「ディスカバリーサー...

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116 薬学図書館 58 (2),116 132,2013 2012 年図書館国際セミナー 「ディスカバリーサービスと未来の図書館システム WorldCat Local WorldShare―」 International Library Seminar 2012 Discovery Services and Library Systems in the Future WorldCat Local and WorldShare(発表)グレッグ・シルビス *1 ,チップ・ニルジェス *2 ,新元 公寛 *3 (編訳)平原 禎子 *4 [抄録] 紀伊國屋書店では,2007年より毎年海外から講師を招致し,大学図書館関係者の 方々を対象とした国際イベントを続けている。6 回目となる 2012 年は,OCLC との共催で, 現在図書館界で大きな注目を集めるウェブスケール・ディスカバリーサービスをテーマに据え たセミナーを開催。初の試みとして東京・京都の 2 カ所に会場を設け,東京会場には後援の東 京理科大学図書館より同大学の神楽坂キャンパス記念講堂を提供頂いた。セミナーでは, OCLC のディスカバリーサービス「WorldCat Local」とその発展形であるクラウド型図書館 システム「WorldShare」を導入した米国デラウェア大学図書館 Gregg Silvis 氏による基調講 演,OCLC ビジネス開発部門副社長 Chip Nilges 氏による「WorldCat Local」のオンライン・ デモンストレーションを交えた紹介に加え,「WorldCat Local」国内導入にあたっての課題と その対応につき,紀伊國屋書店 OCLC センターの新元公寛から現状の報告が行われた。本稿 は,講師 3 名の講演内容を書き起こし,必要に応じて和訳および編集したものである。 [キーワード] ウェブスケール・ディスカバリーサービス,WorldCat Local,クラウド型図書 館システム,WorldShare,WorldCat,リソース・シェアリング,一次情報の提供,所蔵資料 の利用促進 *1 Gregg A. SILVIS Associate University Librarian for Information Technology and Digital Initiatives, The University of Delaware Library 181 South College Avenue, Newark, DE 19717-5267, USA *2 Chip NILGES Vice President, Business Development, OCLC, Inc. 6565 Kilgour Place, Dublin, OH 43017-3395, USA *3 Kimihiro NIIMOTO and *4 Yoshiko HIRABARU 株式会社紀伊國屋書店 OCLC センター 〒 153 8504 東京都目黒区下目黒 3 7 10

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116  薬学図書館 58( 2 ),116―132,2013

2012年図書館国際セミナー「ディスカバリーサービスと未来の図書館システム

―WorldCat LocalとWorldShare―」International Library Seminar 2012

“Discovery Services and Library Systems in the Future ―WorldCat Local and WorldShare―”

(発表)グレッグ・シルビス *1,チップ・ニルジェス *2,新元 公寛 *3 (編訳)平原 禎子 *4

[抄録] 紀伊國屋書店では,2007 年より毎年海外から講師を招致し,大学図書館関係者の方々を対象とした国際イベントを続けている。6回目となる 2012 年は,OCLC との共催で,現在図書館界で大きな注目を集めるウェブスケール・ディスカバリーサービスをテーマに据えたセミナーを開催。初の試みとして東京・京都の 2カ所に会場を設け,東京会場には後援の東京理科大学図書館より同大学の神楽坂キャンパス記念講堂を提供頂いた。セミナーでは,OCLC のディスカバリーサービス「WorldCat Local」とその発展形であるクラウド型図書館システム「WorldShare」を導入した米国デラウェア大学図書館 Gregg Silvis 氏による基調講演,OCLCビジネス開発部門副社長 Chip Nilges 氏による「WorldCat Local」のオンライン・デモンストレーションを交えた紹介に加え,「WorldCat Local」国内導入にあたっての課題とその対応につき,紀伊國屋書店OCLC センターの新元公寛から現状の報告が行われた。本稿は,講師 3名の講演内容を書き起こし,必要に応じて和訳および編集したものである。[キーワード] ウェブスケール・ディスカバリーサービス,WorldCat Local,クラウド型図書館システム,WorldShare,WorldCat,リソース・シェアリング,一次情報の提供,所蔵資料の利用促進

*1 Gregg A. SILVIS Associate University Librarian for Information Technology and Digital Initiatives, The University of Delaware Library 181 South College Avenue, Newark, DE 19717-5267, USA *2 Chip NILGES Vice President, Business Development, OCLC, Inc. 6565 Kilgour Place, Dublin, OH 43017-3395, USA *3 Kimihiro NIIMOTO and *4 Yoshiko HIRABARU 株式会社紀伊國屋書店OCLCセンター 〒 153─8504 東京都目黒区下目黒 3─7─10

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2012 年図書館国際セミナー「ディスカバリーサービスと未来の図書館システム―WorldCat Local とWorldShare―」(平原)  117

基調講演①「デラウェア大学図書館とWorldShare Management Services導入への道のり」 グレッグ・シルビス1. はじめに

 私は,アメリカ東海岸に位置するデラウェア州のデラウェア大学図書館から来ました。デラウェア大学は 1743 年創立で,1,100 名の教職員を擁し,現在 21,000 名の学生が学ぶ州立大学です。図書館の所蔵資料には 280 万冊の書籍や 6,700 点の写本等があり,デジタルコレクションに力を入れている点が特徴です。 さて,本日はデラウェア大学が OCLC のWorldShare Management Services(WMS)導入に至るまでの道のりについてお話します。最初に私が 7年前にデラウェア大学で行ったプレゼンテーションに触れたあと,WorldCat Local の導入方法,続いてWMS を導入した理由,さらにOCLC とのWMS 共同開発のプロセスをご紹介し,最後に私自身の所感を添えるような形で進めたいと思います。2. 目録作業の歴史

 図 1-1 が,私が 7 年前に行ったプレゼンテーション「迫りくるローカルOPAC の終焉」冒頭のスライドです。昔,図書館で紙の目録カードが使われていた頃の目録ファイル作業は,英語では「fi ling above the rod」と表現するのですが,目録カードを注文し,順番に並べ,引き出しを貫通した細い棒(ロッド)を持ち上げてカードに空いた穴に差し込み,また引き出しの中へ戻す,と

いった流れで行われていました。図 1-2 の写真『全米総合目録』は数百という巻数があり,各巻に目録カードの複写が数百,数千と掲載されています。この写真を見ると,多くの図書館員は「古き良き時代だった…」とでも言いた気にセンチメンタルなため息をつきます。…私には,それが「古き良き」時代だったとは思えませんが。 目録カード隆盛ののち,OCLCによって図書館界へ「書誌ユーティリティ」という概念がもたらされました。すべての目録情報を包含し,複数機関で共有されるデータベースの出現です。アメリカの図書館でも日本の図書館でも,このデータベース構築のために多大な労力と時間をかけ,それまでに蓄積されたすべての目録カードを電子目録へ変換する,いわゆる「遡及的コンバージョン」の作業が行われました。しかし,私がオハイオ州で通っていた大学からこのOCLC のデータベースにアクセスしていた当時,検索は非常に面倒なものでした。というのは,例えば著者名とタイトルで検索しようとすると,それぞれの最初の4 文字だけを入力しなければならなかったのです。さらに,検索結果に何が出てくるか全くわからないので,それは検索というよりまるで宝探しのようでした。この書誌ユーティリティを使って,図書館員はより簡便に目録カードを作成できるようにはなったわけですが,依然としてカードの発注,運送,受領,ファイリングといったプロセスが必要でした。 そしてその後,ローカル図書館システムが現れ,各図書館において目録が電子的に管理運用されるようになりました。このときついに目録カー

図 1-1 懐かしの紙の目録カード 図 1-2 『全米総合目録』

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ドの発注,運送,受領が不要になったわけです。しかし,その代わりに電子レコードをOCLC からダウンロードし,ローカルシステムに取り込む必要がありました。そういう意味では,まだ発注やダウンロード,インデックス化といった作業が必要でしたし,ローカルシステム上でこれらのレコードのメンテナンスもしなければなりませんでした。これは,図書館システムが導入され始めた1980 年代後半というのはまだネットワーク黎明期で,インターネットが存在していなかったからです。当時のインフラでは,各館が個別に書誌情報を保有するような形でシステムをデザインするしかなかったのです。もしもこれが今ならば,全く違った形になることは明らかでしょう。3. 図書館作業の重複

 図書館で行われる作業には,多数の館で重複しているものが色々とあります。例えば,先ほども言いましたが書誌レコードのダウンロード作業です。国中,あるいは世界中の数千という図書館が一様に,同じ本の同じレコードをダウンロードし,ローカルシステム上でインデックス化しています。各館何千枚ものCD-R を消費し,時間をかけて,何度もこの作業を繰り返します。典拠コントロールの作業も,各館がそれぞれの図書館システム上で個別に主題や著者をチェックしています。人材や時間を費やし,インターフェースの作成やサポート,ソフトウェアのアップグレードのほか,Internet Explorer6 や FireFox1.2 等様々なブラウザにおける各種サービスの動作確認といったことも個別に行っていますし,それぞれ多様な提供サービスのメンテナンスやローカルサーバー上の OS アップグレード,また膨大なデータのバックアップも必要です。世界には『ハリーポッター 第一巻』の全く同じ書誌レコードが数百万件はあることでしょう。非効率的にも,世界中の図書館が同じように人材を使いながら,各館ばらばらに同じことを行っているのが現状なのです。4. 共有型 OPACという考え方 そういった状況の中で私が 7 年前に提げたのが,「WorldCat を OPAC として使えないか」という提案でした。図 1-3 がその概念図になります。一番上のWorldCat インターフェースをディ

スカバリーサービスとして位置づけ,それをWorldCat データベースに蓄積された目録情報が支えています。これをベースに,ローカル図書館システム上の貸出・受入機能との連携や,遂次刊行物のコントロールといった機能が必要になります。さらに,コースリザーブ機能も必要と考えました。これは,大学の教員が講義等で指定した文献を,学生がスムーズに図書館で利用できるようにする機能です。 この提案を実現させるためには,次のように対応を検討・考慮しなければならない課題がありました。①各資料に特有の情報。例えば特殊なコレクションを扱う図書館員は,自館の所蔵する著者署名や注釈の入った特定の巻情報についてもきちんと目録に載せたいと考えます。また多くの電子資料においては,購読機関ごとに異なるアクセスURL が設定されていました。②不完全な所蔵情報。書籍についても遂次刊行物についても,WorldCat 上の書誌レコードに付与された所蔵情報が不完全なものがありました。③各館の追加書誌情報。各図書館において,書籍の目次など,書誌レコードに手が加えられたものがありました。④サービスの拡張性。将来的に数百,数千の図書館がOPACとして利用可能なレベルで,サービス拡張性を持たせることができるかどうかを検討しました。⑤システムの信頼性。24 時間 365 日途切れることなく利用可能なシステムを構築する必要がありました。⑥ネットワークの信頼性。インターネットを通してこういったサービスを提供することに,問題がないかどうかを検討しました。⑦サービスの価格。サービスの提供・利用に

図 1-3 WorldCat を OPACとして使うには

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かかるコストについて検討しました。⑧コントロールの喪失。おそらくこれが最も重要な検討課題であり,現在(WMSの)実装作業において私が日々直面している問題でもあります。図書館員の中には,長年構築してきた自館ローカル図書館システムの品質を保持したいという意識が強く,目録を自分たちで自由にコントロールできなくなることを嫌う人が少なくありません。そういった人々には,「この(WorldCat 上の)レコードはあなただけでなく,多くの図書館で共有されるものなので,すべてを思いどおりにはできないのです」と訴えるのですが,中にはやはり,抵抗を示す人もいます。5. WorldCat Localの導入

 WorldCat Local の β 版は,2007 年 4 月にワシントン大学図書館でリリースされました。続いて,カリフォルニア州サンマテオにある公立ペニンシュラ図書館,カリフォルニア大学の全 10キャンパス,オハイオ州立大学等で試験サイトが数多く立ち上げられました。デラウェア大学図書館は,WorldCat Local の本番環境における最初の導入館で,20 ページに亘るアンケートに答えたり,ローカルシステム上のデータをWorldCatへ取り込む最良の方法を検討したりと,OCLCと協力して様々なことに取り組みました。導入プロセスは割合スムーズに進み,2008 年 1 月 13 日に開始して,同年 8月 4日に稼働に至りました。 ここで,WorldCat Local の導入作業を行う中で私たちが直面した問題をご紹介します。① OCLC No. を持たないローカルレコード。私たちの図書館システム上のレコードには,OCLC No. の付与されていないレコードがありました。そこで,そういった 250 万件のレコードをOCLCに送付しWorldCat 上のレコードとマッチングを行い,ローカルシステムNo. をキーとして,ローカルレコードに OCLC No. を追加しました。②論文リンクの不備。導入初期段階で,利用者が「British Library Inside Serials」データベース等のリンクをクリックしても正しくリンクが働かず,一次資料にアクセスできないという問題がありました。③ FRBR コンセプトの浸透。World-Cat Local は FRBR(Functional Requirements

for Bibliographic Records)の考え方に基づく資料の提示を初めて実装したシステムの一つですが,レファレンス担当者からは,一部の利用者にとってコピー,エディション,体現形などといった概念は難しく,混乱を招いているとの声がありました。④レコード情報の不足。ローカルシステム上では重視されなかった情報がWorldCat 上では重要な意味を持ち,この情報がないために,一部の資料がWorldCat 上では所蔵のないように見えるといった問題もありました。6. WorldShare Management Services (WMS)の導入

 2008 年 8 月のWorldCat Local 導入に続いて,デラウェア大学図書館では 2011 年 12 月に OCLCの WorldShare Management Services(WMS)の導入も決定しました。OCLC のスタッフと討議を重ね,WorldCat KnowledgeBase や License Manager の導入を検討していたのですが,その後,図書館内部で会議を行った際,私は館長に「この 2つを導入するならば,いっそのことこれらを包含するWMSを導入してはどうか」と提案しました。そして検討の結果,デラウェア大学図書館はWMSの導入を決定し,OCLCと契約を結ぶことになったのです。導入作業については現在進行中で,2013 年 7 月 1 日までに完了予定となっています。7. WMS導入の理由

 では,デラウェア大学図書館はなぜWorldCat Local そしてWMS を導入することにしたのか,その理由をお話しましょう。 第 1の理由は,「ディスカバリー」すなわち資料の発見支援機能でした。なぜなら私たちの図書館には元々,利用者がもっと資料を発見しやすい環境を作りたいという思いがあったからです。その当時,図書館のすべてのコンテンツがサイロ(=中の見えない貯蔵庫)化してしまっており,しかも機関リポジトリやデータベース,あるいは書誌データベース等,多数のコンテンツがあちこちに散在しているような状態でした。これでは,一体今自分はどのコンテンツを見ているのか,どうやってほかに必要なコンテンツを見られるのかがわかりにくく,使い勝手の良い状態とはいえま

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せん。さらに,必要な資料の所蔵がない場合の入手方法も利用者に浸透していなかったため,図書館間相互貸借(ILL)の利用促進も必要だったのです。私たちデラウェア大学図書館が目標として掲げたのは,できるかぎり 1カ所で,簡単にすべての資料を発見できる環境の実現でした。 第 2の理由は,重複作業を削減するためです。WMSを導入することで,他の図書館と重複して行われている作業に費やしてきた時間や労力を削減することができます。私が強く確信しているのは,コモディティ化した書籍や書誌レコードに,図書館の未来は存在しえないということです。個々の図書館がそれぞれに持つユニークな資料に,今後もっと焦点を当てていくことが重要だと考えています。 第 3の理由は,図書館にとってより優先度の高い業務に注力していくためです。上述のようにWMS を導入し重複作業を削減することで,スタッフの再配置が可能となり,優先度の高い業務により多くの人員を充てることができるようになります。例えば,デラウェア大学図書館ではすでに自館ローカルでの典拠コントロールを廃止しました。結果,これを担当していた 4人の職員が,他の業務に再配置されることになりました。1人目は特殊コレクションの目録業務,2人目は私とともにデジタルコレクション業務,3人目と 4人目も,その他のより優先順位の高い目録業務にあたっています。今後ますます重要度を増してくる電子リソースについて優れた管理機能を提供するWMSの導入は,特に技術部門のワークフローを再検討する機会に繋がりました。 最後に第 4の理由は,WMSに投資することはつまり,OCLCという図書館共同体への投資を意味するからです。導入のためにかけた費用や乗り越えてきた問題はすべて,OCLC共同体によって世界の図書館のために活用されます。これまで自館だけで使うローカルシステムのために費やしてきた金銭的・人的リソースも,今後はOCLC という共同体に様々な形で貢献することができるようになると考えています。8. WMSの導入スケジュール

 図 1-4 が,デラウェア大学図書館のWMS導入

スケジュールです。2011 年 12 月にWMSの利用契約を結び,2012 年 1 月,副館長が導入タスクフォースを立ち上げました。同 1 月 18 日に,WMS導入についてOCLCとデラウェア大学から同時にプレスリリースを出し,翌 2月に初回ミーティングを行いました。デラウェア大学にOCLCから 5名の担当者が訪れ,ワークフローの検討など,長時間に亘り様々なディスカッションを行いました。 まず初めに取り組んだのは,共同でシステム開発を行うにあたり必要となる要件文書の作成です。これはつい先週,最終版が完成したところです。 2012 年 11 月初頭には,テストシステムの完成を予定しています。まずは 25 万件のレコードをWMSに入れ,その処理状況を図書館員が確認します。 なお,本システムの実稼働開始日については,実は予定していた 2013 年 7 月 1 日が,多くの関係者が参加するALA(アメリカ図書館協会)の会議と重なっていることがわかったため,予定を少し早め,6月 17 日に変更することになりました。9. WMSの開発アプローチ

 システム開発にあたって私たちが採ったのは,ユーザー主導の加速度的なアプローチです。これはニーズベースの開発プロセスで,ユーザーの持つ様々なニーズをストーリー(一連の流れを持つ話)の形で表します。例を一つ挙げますと,デラウェア大学図書館の収書担当者には,業者名で受

図 1-4 WMS導入スケジュール

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入資料を検索し,業者別に発注情報をまとめて見られる機能が欲しい,といったニーズがありました。そこでOCLC の担当者がその職員とともにストーリーを作成し,その情報を元に開発者が機能要件を作成して,機能を実装するためのコード開発が行われました。 要件文書の作成にあたっては,要件の範囲定義および開発から実装までのスケジュールに関して,OCLCとデラウェア大学できちんと認識を共有できるよう注意を払いました。OCLCで作成されたコードはデラウェア大学図書館へ戻され,ニーズの出所であった図書館員が自分の希望どおりの機能になっているかを確認します。また,OCLCには非常にシステマティックなリリースサイクルがあるため,必要な機能の開発とリリースが私たちの希望と合うかどうかも確認しました。そしてコードの最終リリース前には,図書館員が再度動きを検証する機会が設けられます。 因みに要件定義の構成は,受入,貸出,目録作成,KnowledgeBase,ライセンス管理,ILL,その他一般的な要件から成っています。10. WMSの特徴 1:

SaaS型ソフトウェア ここで少し,従来型ソフトウェアとクラウドベースの SaaS(Software as a Service)型ソフトウェアの違いについてお話しようと思います。例えば私たちの図書館では現在 ExLibris 社の図書館システムを利用していますが,これは従来型ソフトウェアで,固定費が非常に高く,そのほとんどはサーバーにかかる費用です。2002 年の導入時,サーバー費用に約 35 万ドルかかりました。また,クライアントソフトウェアにも固定費がかかりますし,インストール,他システムとの連携やプラットフォーム対応の確認,実装作業からメンテナンスまで,資金だけでなく多大な労力と時間も必要になります。 さらに,従来型ソフトウェアを使う中で問題となる点として,カスタマイズコードが挙げられます。アメリカで ExLibris 社の図書館システムを使っている多くの図書館では,何か特別なことを実現するために,機関独自にカスタマイズした機能コードを使っています。したがってソフトウェ

アの新バージョンが出る度に,各館はカスタマイズコードを作り直さなければならないのです。 もう一つ,サーバーのアップグレードサイクルに関する問題もあります。私たちが 2002 年に 35万ドルかけて導入したサーバーも,4~5 年経つと全体のアップグレードが必要になりました。このサイクルの影響を受けて,同様にクライアントやカスタマイズコードも,アップグレードが必要となるわけです。 これらの点につき SaaS 型ソフトウェア(WMS)の場合をみてみますと,まず固定費が大きく削減されます。さらにサーバーの管理も不要となり,それに関わるデータバックアップや保管,アップグレードなどの問題もなくなります。また,SaaS 型ソフトウェアの場合,クライアントは標準的なウェブブラウザになるため,各館独自のクライアントを使う必要もなくなります。 さらにこのソフトウェアはクラウド上で共同利用されるものであるため,当然ながら利用館すべてが同じコードを利用しており,カスタマイズコードは存在しません。 ソフトウェアのバージョンアップについても,個々の図書館ではなくOCLCによって管理され,全利用館が同じバージョン,同じコードを同時に受け取ります。OCLCから 2,5,8,11 月と四半期ごとに新バージョンのソフトウェアがリリースされ,各館のWMSに自動的にインストールされます。従来型ソフトウェアの場合,バージョンアップの完了には毎回 1年ほどかかり,一つ終わるとまたすぐに次が開始されるため,技術担当者だけでなく図書館システム担当者にとっても大変に手間のかかる作業となっていますが,一方で図書館員の中には,WMSの手間のかからない自動バージョンアップに不安を示す人もいます。彼らのこれまでの常識では,新バージョンのリリースがあった場合,まずはそれをテスト環境にインストールし,実装前に逐一動きを確認するものだったからです。けれどWMSではそういったことはできないし,必要もないと考えています。11. WMSの特徴 2:

WorldCat KnowledgeBase 続いて,WMSに含まれている重要な機能の一

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つ WorldCat KnowledgeBase についても少しご紹介しましょう。次に挙げるような様々な機能・メリットを提供しています。①A-Z リスト。所蔵する全電子資料をアルファベット順に並べたリストが提供されます。②一次資料への直リンク機能。利用者はWorldCat Local の検索結果画面に表示された「今すぐ見る」ボタンをクリックするだけで,発見した電子資料そのものにアクセスすることができます。③共同メンテナンスの仕組み。どこの図書館でも,KnowledgeBase のメンテナンスに多大な労力をかけています。これを共同で行えるようになれば,すべての参加館にとって大きなメリットとなります。④効率的な電子資料の受入機能。電子資料を購入・契約した際,図書館員は画面上のリストにチェックを入れるだけで,迅速に利用者へアクセスを提供することができます。⑤ライセンス管理機能。図書館が電子資料の提供元と購読契約を結ぶと,そこには ILLの可否や許容範囲など,様々な制約事項が盛り込まれています。そういった制約について一度入力すれば,その内容が自動的にKnowledgeBase に反映されます。12. WMSの特徴 3:

WorldShare Platform 図 1-5 をご覧ください。WMS運用の場となるWorldShare Platform においては,各図書館が自分たちの必要に応じてWMSの機能を拡張するためのアプリケーションを開発し,実装することができます。先にお話したように全利用館が同時に同じバージョンを実装し,標準化された同一のコードを使っているので,各図書館は開発したア

プリケーションを他館と共有し,共同体に貢献することができるわけです。例えばデラウェア大学では,配架準備の際に背表紙ラベルに請求番号を印刷するアプリケーションや,貸出資料に挟むスリップに返却期限等の情報を印刷するアプリケーションを開発しました。自分たちのために開発したこれらのアプリケーションですが,World-Share Platform 上で公開することで,他の参加館すべてと共有することができるのです。13. おわりに 最後に私のこれまでの経験から気づいたこと,感じたことをいくつかご紹介して,プレゼンテーションを終わりにしたいと思います。 まず,OCLC のスタッフは,MARC レコードについて非常に深い知識を持っているということです。OCLC には 40 年間以上 MARC フォーマットやデータに関わってきた実績があり,MARCデータに関する世界的な専門家が数多くいるので,図書館で書誌レコードの問題が起こった時,すぐに状況を理解し,解決のための適切なアドバイスをもらえました。 次に,図書館は現状,物理的資料の管理や貸出に,膨大な時間と労力をかけているということです。しかし図書館資料の電子化がこの先 5年,10年とさらに加速していく中で,この割合は減っていき,人員の再配置が可能となるでしょう。 それから,WorldCat KnowledgeBase こそが,WMSの要であるということです。従来,図書館の電子資料管理モジュールはメインの図書館システムの外部に存在していたのに対し,WorldCat KnowledgeBase は WMS の一部として統合されており,機能的にリンクしています。図書館がますます多くの電子資料を抱える中で,利用者がディスカバリープラットフォームから必要な一次資料へ迅速にアクセス可能な環境を提供するために,KnowledgeBase は非常に重要な働きをするといえます。 そして,最後に,変化とは極めて難しいものだということです。デラウェア大学図書館は,1986年に初めて図書館システムを導入しました。それも 2002 年には時代遅れのシステムになってしまっていたため,ExLibris 社の Aleph へと移行図 1-5 WorldShare Platform 概念図

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が決定しました。しかし,図書館員たちは 16 年間使い慣れた旧システムに満足していたため,当初は口々に「前のシステムのほうが良かった」と言っていました。10 年後の今もまさしくこれと同じことが起こっており,「ExLibris のほうが良かった」「なぜ変えなければいけないのか」といった声が聞かれます。けれどこういった声に対しては,私はいつもこう答えています。「私たちデラウェア大学図書館,ひいては世界中の図書館が未来へと前進するためには,WMSこそが間違いなく最善の選択だと,私は確信しています」

講演②「WorldCat Localにおける情報の発見―たった 1度の検索で図書館資料へのアクセスを可能に」 チップ・ニルジェス1. OCLCについて 本日私からは,OCLCのディスカバリーサービスWorldCat Local についてお話します。初めに私の所属する OCLC について少しご紹介しましょう。OCLCは,世界中の情報へのアクセス促進,そして図書館コスト増加率の抑制を公共の目的として掲げる図書館共同体です。世界各国 7万以上の図書館を対象に,アドボカシー活動のほか,リサーチプログラムや多様なウェブサービスの提供を行っています。 私はアメリカ合衆国オハイオ州ダブリンにあるOCLC 本部から来ました。本部のほか,世界 10カ国 20 カ所にも OCLC のオフィスがあります。日本においては紀伊國屋書店とパートナーシップを結び,26 年間良好な関係を続けています。2. WorldCatについて 図書館共同体 OCLC の核となっているのは,世界 10,000 以上の図書館の所蔵目録が集積されたデータベース「WorldCat」です。WorldCat のグローバル化は加速の一途を辿っており,11 年前,英語以外の資料が全体に占める割合は 36%であったところ,現在は図 2-1 のグラフが示すように,60%以上にもなっています。 OCLCは図書館共同体ですので,資料の目録作業においても,図書館間の相互協力がベースと

なっています。OCLCに加盟しているメンバー図書館は,WorldCat を通して自館所蔵資料の目録を作成・共有するわけです。 そうしてWorldCat 上に蓄積されたデータは,図 2-2 のように,①各館のローカル OPAC,② WorldCat.org(WorldCat の 無 料 Web 公 開版),③サーチエンジンや研究者の利用するウェブサイト群とWeb 上の 3 種類の場所で公開・活用されています。3. WorldCat Localについて

 先ほど Silvis 氏からもお話がありましたが,WorldCat Local とはクラウドベースの情報発見&入手支援(ディスカバリー&デリバリー)サービスであり,それが今お話した「WorldCat」データベースを核として構築されている点が,大きな特徴となっています。 WorldCat Local を使うことで,図書館利用者は 1つの検索ボックスからWeb 上に散在する電子的なすべての図書館所蔵・契約資料を発見,入

図 2-1 WorldCat 収録目録の資料言語

図 2-2 WorldCat データの様々な活用の場

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手できるようになります。また,図書館はWeb上でその所蔵資料のプレゼンスを高め,例えば利用者が検索エンジン等から情報を探している場合にも,その情報が図書館から入手可能であることをシステマティックに案内できるようになります。 WorldCat Local が提供する機能をざっと挙げますと,クラウド型プラットフォームにおける図書館資料の一括検索,一次資料へのアクセス,KnowledgeBase,リンクリゾルバ,モバイルインターフェース,様々なウェブサイトとの連携といったものがあります。 なお現在,世界各国でWorldCat Local を使っている図書館は 1,000 以上に上っています。4. WorldCat Localの搭載コンテンツ 続いて,WorldCat Local を通じて利用できるコンテンツについてお話しましょう。WorldCat Local 上のデータは,①利用機関,②WorldCat,③世界中の数百に及ぶデータプロバイダの 3者から提供されるものの統合体です。図 2-3 に見られるように,多種多様な資料へのアクセスを提供しており,2億以上の書籍,7億以上のジャーナル記事,1,400 万以上の eBook 等がWorldCat Localの中にインデックス化されています。 搭載コンテンツの中でも急速に増加しているのが電子リソースで,データベースは 1,700 件以上,電子ジャーナル上の論文は 1 億 7,500 万件,eBook は先ほども言いましたが 1,400 万件にも上っています。こういったデータの提供元は世界規模のアグリゲータや出版社等で,例えば EBSCO,Gale,ProQuest,ハーバード大学,Springer,Elsevier 等々が挙げられます。現在,OCLCと紀伊國屋書店で協力して,日本で出版された雑誌の記事や書籍のデータ搭載についても準備を進めています。 また,OCLC は HathiTrust や Google ブックス,Europeana, OAIster 等といった主要なデジタルコレクションのデータを搭載していくことで,メンバー図書館にとって有用なすべての機関リポジトリやアーカイブをWorldCat Local から検索・入手可能とすることを目指しており,すでに世界中の大学他 1,200 以上の機関リポジトリの

データも含まれています。 時代の流れの中で電子コンテンツや機関リポジトリに焦点を当ててはいますが,それは書誌目録WorldCat の成長が止まってしまったということではありません。図 2-4 のグラフを見ると,過去5年で急速にWorldCat の搭載レコード数が伸びていることがわかります。これには様々な理由がありますが,一つには世界各国の国立図書館やその他機関から提供された膨大なレコードを一挙搭載したことが大きいでしょう。5. WorldCat Localデモンストレーション

 WorldCat Local がどのように機能するかを伝えるには,実際に見てもらうのが一番だと思いますので,ここで少しデモをお見せします。図 2-5が,WorldCat Local の最初の利用機関の一つ,オハイオ州立大学の図書館サイトです。サイト中央に組み込まれたWorldCat Local の検索ボックスに「murakami」と入力してみると,図 2-6 のような検索結果が出てきます。WorldCat Localの特徴の一つは,検索対象を自在にスケールチェンジできる点です。上の矢印がドロップダウン

図 2-3 WorldCat 収録目録の資料種別

図 2-4 WorldCat データベースの成長

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ボックスを指していますが,ここから簡単に検索対象とする範囲を「自分の所属図書館の所蔵資料」だけに絞ったり,「コンソーシアム参加館の所蔵資料」まで広げたり,あるいはさらに「世界中のWorldCat Local 参加図書館の所蔵資料」まで広げることもできます。オハイオ州立大学では,初期設定として利用者の検索に合致するすべての図書館の資料を表示させています。 また,検索結果として表示された資料を,元々の収録データベース,件名や著者,出版日他,様々な切り口(ファセット)で絞り込むことも可能です。 結果一覧から例えば一冊の本を選んでタイトルをクリックすると,詳しい書誌情報を見ることができます。この本の利用状況を確認するには,スクロールダウンして図 2-7 のように「オフラインで入手」のセクションを見ます。ここには,WorldCat Local と連携したオハイオ州立大学の貸出管理システムからリアルタイムで取得した該当資料の利用状況が表示されます。ここで利用可能であると確認でき,その本を借りたい場合は「Request OSU Item」ボタンをクリックします。

すると,再び貸出管理システムと連携し,図 2-8のような予約登録画面が出てくる仕組みとなっています。 オハイオ州立大学はコンソーシアム「Ohio-LINK」に加盟しています。自館に所蔵がなかったり貸出中だったりして,コンソーシアム内でこの本を所蔵している図書館を探したい場合は,図2-7 の右側にある「この資料の利用可否をチェック」リンクをクリックすると,各コンソーシアム館の貸出管理システムとリアルタイムで通信し,それぞれの利用状況を表示します。貸出予約の際は,その上にある「Request OhioLINK Item」ボタンをクリックします。 オハイオ州立大学にもコンソーシアム館にも所蔵がないときは,世界中の図書館を対象に探すことになります。WorldCat Local では ILL での使い勝手を考慮し,世界の所蔵館の中でも検索者のいる場所(今回は「Japan」と指定)に近い図書館を優先的に表示するよう設計されています。今この本は,早稲田大学図書館が所蔵していることがわかりました。こういった仕組みを実現する世界規模での協力関係は,大変素晴らしいものであ

図 2-5 オハイオ州立大学の図書館サイト

図 2-6 WorldCat Local 検索結果画面

図 2-7 リアルタイムで資料の利用状況を確認

図 2-8 資料の貸出予約ページと連動

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ると思います。 その他,WorldCat Local インターフェースには,利用者が作成するタグ,レビュー,リストといった SNS 機能があり,ある資料を読んだ他の利用者がほかにどのような文献を読み,どのような学術論文のリサーチを行っているのかを見ることができます。 さて,先ほど少しオープンアクセスのコンテンツとWorldCat Local の同期について触れましたが,利用者からはどのように見えるでしょうか。図 2-9 のレコードは「WorldCat.org」データベースから引っ張ってきたものです。矢印の箇所にリンクがあるように,この資料はOCLC が提供元と提携し,メタデータに加えてWorldCat Localから一次情報へのダイレクトリンクを提供しています。WorldCat Local の利用館は,こういった全コンテンツへのアクセスを利用者に提供することができます。「今すぐ見る」ボタンをクリックすると,そのコンテンツの提供機関が一覧表示されます。この例ではミシガン大学の「Hathi-Trust」データベースにデータが収録されており,リンクをクリックすると,一次情報がすぐに表示されます。因みに,OCLC のWorldCat 上には HathiTrust の全資料が登録され,各書誌情報からHathiTrust へリンクが貼られているのですが,一方でHathiTrust インターフェースからもOCLC のWorldCat.org へとリンクが貼られ,研究者がHathiTrust 上で見つけた資料の入手手段を確認するために利用されています。 次に,電子ジャーナルの論文フルテキスト検索を行ってみます。まず,論文の中でフルテキスト

の閲覧が可能なものに検索対象を絞ります。これは検索範囲のドロップダウンボックス横,もしくは画面左のファセットから,1クリックで行えます。検索結果の中から,1 件の論文「Hunting Knife」を選びました。続いて「今すぐ見る」リンクをクリックすると,この論文の収録データベースが一覧表示されます。例えば「Academic OneFile」データベースを選択すると,今は認証画面が開きますが,各WorldCat Local 利用館のデータベース購読状況は内蔵KnowledgeBase で管理されているため,アクセス権限のある利用者であれば,このままシームレスにフルテキストを閲覧することができます。 最後に,図書館が独自にデジタル化したコレクションについての事例をお見せしたいと思います。多くの図書館が,その館を特徴づける特別なコレクションを所蔵しており,今そのデジタル化を進めています。そのメタデータ公開については,①WorldCat に登録し,Web 上で誰でも見られるようにする,②契約データベースのように,自館利用者だけがWorldCat Local 上で見られるようにする,という 2通りから図書館が選択します。図 2-10 をご覧ください。検索を実行したあと,結果を「ダウンロード可能な画像」だけに絞り込みました。1件選んでタイトルをクリックすると,サムネイル画像つきの詳細画面が表示されます。「View Online」リンクをクリックすると,画像全体を閲覧することができました。これは,所蔵館であるクレアモント大学図書館が,自館のデジタルコレクションを外部の利用者にも公開する設定(上記①)にしているからです。

図 2-9 一次資料へのダイレクトリンク 図 2-10 図書館作成のデジタルコレクション

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6. 外部サイトとの連携とモバイルアクセス 皆さんよくご存知のとおり,Web 上で情報を探す際,今多くの人は図書館のWeb サイトではなく,例えば検索エンジン「Google」等から始めます。ですから Google で,本のタイトルを検索してみましょう。図 2-11 の結果一覧を見ると,一番上の検索結果は Google ブックスから,4 つ目の結果はWorldCat.org から引っ張ってきたデータです。 4 つ目のリンクをクリックしてWorldCat.orgに行くと,例えば早稲田大学図書館がこの資料を所蔵していることがすぐにわかり,そのまま早稲田大学のOPACにアクセスすることもできます。この流れは,早稲田大学が所蔵情報をWorldCatに登録していることにより可能となっています。あるいは結果一覧から Google ブックスへのリンクをクリックした場合,図 2-12 のように画面左に「Find in a Library(日本語版では「所蔵図書館を検索」)」というリンクが表示されます。これをクリックすると,先ほどと同じWorldCat.org

のページに辿り着きます。このような他サイトとの連携により,自館の利用者が図書館サイトまたはWorldCat.org または Google とどこから検索を始めた場合でも,最終的には所属図書館の所蔵資料をアピールすることができるというわけです。 そして,利用者が図 2-13 の左右に紹介している各種提携サイトからWorldCat.org へのリンクをクリックしたときには,IP アドレスからWorldCat Local 導入館の利用者か否かを自動的に識別し,利用者であった場合は,WorldCat.orgよりもカスタマイズされ,多くの情報を入手できる所属図書館のWorldCat Local インターフェースがあることを案内します。確認画面で利用者がWorldCat Local へのアクセスを選択すると,図2-13 の中央に例示しているように,所属図書館のWorldCat Local で該当の詳細書誌画面が表示されます。このように,図書館サイト以外の場所で探していた資料が,実は所属図書館の倉庫にある,といったことがすんなりとわかるわけです。WorldCat Local では資料の請求番号も表示されるため,貸出予約もすぐに行えますし,該当する情報を所属図書館が電子フォーマットで所蔵していれば,その場でアクセスすることも可能です。

図 2-11 Google で本を検索してみると

図 2-12 Google ブックスからWorldCat.org へのリンク

図 2-13 パートナーサイト例

図 2-14 モバイルインターフェース

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現在,電子ジャーナルの論文についても,同じ仕組みを作るためのインフラ構築を行っているところです。 また,昨今の図書館利用者に対しては,今お話したWeb 上の様々なサイトから図書館の情報にアクセス可能であるということに加え,モバイル機器からアクセスできることもますます重要になっています。WorldCat Local には,図 2-14 のようなモバイルインターフェースもあります。図書館がWorldCat KnowledgeBase に登録することで,モバイル機器からアクセスした場合でも,利用者はシームレスに所属図書館の所蔵する電子コンテンツにアクセスすることができます。7. WorldCat Localの利用による効果

 それでは,WorldCat Local の導入が図書館にどういった変化をもたらしたか,少し事例をご紹介したいと思います。図 2-15 のグラフをご覧ください。WorldCat Local を導入したアメリカのカリフォルニア州にあるホーリーネームズ大学では,電子リソースの利用が 2011 年と 2012 年で130% 伸びました。2010 年と 2012 年を比較して見ると,350% も増加しています。また,図 2-16のウィラメッテ大学では,WorldCat Knowledge-

Base の働きにより,電子リソースの使用率が75%増加したというレポートが出ています。8. WorldShare Management Services(WMS)について

 Silvis 氏も仰ったとおり,WorldCat Local はOCLCの提供するクラウドベースの図書館システム「WorldShare Management Services(WMS)」の一部です。WorldCat Local は WMS の一連のサービスの中で,利用者が資料を発見(ディスカバリー)するためのインターフェースとして機能するものです。WMSでは,利用者のためのディスカバリーインターフェースのほか,図書館員のための目録作成,収書,貸出,電子資料管理といった機能も提供しています。図 2-17 が WMSの構成要素全体を表したもの,図 2-18 が WMSの収書管理用のインターフェースです。現在すでに 40 以上の図書館がWMSを利用しており,導入館は日々増加しています。9. WorldCat Localの特長

 最後にこれまでお話してきたことを踏まえ,WorldCat Local のお勧めポイントを簡単にまと

図 2-15 資料利用率の変化①

図 2-16 資料利用率の変化②

図 2-17 WMSの全体構成

図 2-18 WMS収書管理画面

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めてお伝えしましょう。まず,①WorldCat Local は,皆さんの図書館の所蔵資料を利用者にもっとアピールし,その利用率を高めることができます。また,こちらのほうがさらに重要かもしれませんが,②WorldCat Local の導入によって,図書館の利用者に世界中の図書館蔵書を見つける機会を提供することができます。さらに,③WorldCat Local を導入することで,自分たちのペースで「Web スケール」な図書館へと進化していくことが可能となります。 そして私たちOCLC は,これからも図書館共同体として常に世界中のメンバー図書館や紀伊國屋書店のようなパートナー機関の声に耳を傾け,継続的にシステムを発展させながら,世界の図書館利用者にとって価値のあるサービスを提供していきます。ですので④図書館はOCLC のサービスを利用することで,世界規模の図書館共同体に参加し,他のメンバー館によって継続的に蓄積されていくデータの共有をはじめ,様々な恩恵を受けることもできるといえます。

講演「WorldCat Local日本での導入における課題と取り組み」

新元 公寛1. はじめに

 ただ今の Silvis 氏,Nilges 氏からのプレゼンテーションで,WorldCat Local や WorldShareの概要については,皆さんご理解頂けたかと思います。しかしながら,ご存知のとおりOCLC はアメリカに本部を置く組織ということで,システムもアメリカの状況に最も合うものとして開発されています。これを幾分状況の異なる日本の図書館でも便利にお使い頂くため,OCLCと紀伊國屋書店で,必要なローカライズに取り組むためのプロジェクトチームを立ち上げました。このプロジェクトチームで,現在具体的にどういったことを考えているのかを,本日私からは簡単にご報告したいと思います。2. OCLCとは Nilges 氏からもお話がありましたが,OCLCは世界中にサービスを提供している図書館共同体です。日本国内で OCLC と同様の取り組みを

行っている組織として,国立情報学研究所(NII)があります。NII の共同目録「NACSIS-CAT」は皆さんの多くがご所属の図書館でご利用のことと思いますが,これと同じように,「共同目録を構築し ILL を推進する」という目的で,当初OCLC は設立されました。その共同目録が,「WorldCat」とよばれるデータベースです。情報の共有化,すなわちリソース・シェアリングがOCLC の 45 年の歴史の中で一つのキーワードとなっていますが,現インターネット時代におけるその一つの完成形が,WorldShare といえるのではないかと思います。アメリカではすでに 40 機関と導入が進んでいるようですが,日本でWorldShare が本格的に導入されるには,まだ少なくとも数年はかかるかと個人的には思っています。しかし一方で,45 年前,OCLC の創立者であるフレデリック・キルガー氏が提唱した「情報の共有化による図書館業務や運用の効率化と限られた予算の有効活用」が,インターネットの出現からこちら,徐々に実現してきたようにも感じています。3. WorldCat

 WorldCat Local に しろ WorldShare に しろ,とにかくWorldCat がすべての核となっています。日本には先ほども言いましたNACSIS-CATという共同目録がありますが,その全世界バージョンを,OCLC は 45 年に亘って構築してきたわけです。図書館の所蔵する書籍や遂次刊行物その他諸々の情報を,この一つのデータベースに蓄積してきました。 図 3-1 をご覧ください。日本の図書館にとっては大きなニュースだと思いますが,国立国会図書館が,2011 年 1 月から JAPAN/MARC単行資料の目録データについて,WorldCat への搭載を開始しました。現在 450 万件とかなりの数の日本のレコードがWorldCat に搭載されています。そのお陰もあり,WorldCat に収録された目録の言語比率でも,英語,ドイツ語,フランス語,スペイン語,日本語という順で,日本語が 5つ目に多くなっています。先ほどのNilges 氏のスライドはこの 1年後の情報でしたが,すでに非英語資料の目録数が全体の 60% を越えていました。元々ア

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メリカで作られ英語中心のデータベースだったものが,非英語の収録データがどんどん増え,本当の意味でのWorldCat(=世界規模の総合目録)になってきつつあります。4. ディスカバリーサービス導入Before & After

 図 3-2 は,ディスカバリーサービス導入前と導入後の図書館サイトの様子を図式的に表したものです。Silvis 氏が,図書館資料の「サイロ化」について仰っていました。「サイロ」とは穀物貯蔵庫のことで,窓のない世界です。サイロ化されているとは,利用者から見て図書館の情報が閉鎖されているとか,どこにあるかわからないとか,そういった状況を表しています。このサイロ化された図書館資料を整理し,一つのポータルとしてわかりやすく利用者に届けようというものが,ディスカバリーサービスです。Nilges 氏の講演にもあったように,「情報の可視化」によって,せっかく図書館が契約・所蔵している資料を埋もれさせることなく,利用者が有効に活用できる環境を実現します。5. WorldCat Local

 OCLC のディスカバリーサービスWorldCat Local は,北米やヨーロッパを中心に導入が進んでおり,マサチューセッツ工科大学や,Silvis 氏のいらっしゃるデラウェア大学,ワシントン大学,カリフォルニア大学等々,現在およそ 1,700

の図書館で利用されています。特徴としては,先にも述べましたがWorldCat という世界的な総合書誌目録をベースにしており,これが様々な発展に繋がるということがあります。元々が目録なので,例えばきちんと統制された件名情報がありファセットが非常に充実したものになるとか,所蔵情報が多数ついているのでシームレスに ILLに繋げることができる,といった具合です。利用者にとっては,一次情報をより効率的に入手できるサービスがあれば,やはりそれが一番便利で望ましいものではないかと思っています。 WorldCat Local は,クラウド型図書館システムWorldShare へ向かう最初のステップのようなものです。図 3-3 の左側,Central Index とよばれる OCLC のクラウドサーバー上で,利用者はデータを検索します。WorldCat を核として,OCLC の作成している雑誌記事データベースや

図 3-1 国内資料目録のWorldCat 収録数の増加

図 3-2 ディスカバリーサービスのもたらす変化

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ERIC,MEDLINE,その他 Nilges 氏も触れていらっしゃった HathiTrust や Google ブックス,OAIster, Elsevier 他,様々なデータベースが検索対象になります。白い長方形の部分に含まれるデータベース群は,WorldCat Local の利用館であれば別途契約がなくとも検索対象として提供されます。これに加え,購読契約のある機関だけが検索・閲覧できる設定のデータベースも搭載されています。例えばEBSCOの雑誌情報等がありますが,これは提供元の判断により,メタデータの公開が制限されているものです。 そしてこれら多数のデータを含むクラウド上のCentral Index と各図書館のローカル図書館システムとの間で通信を行い,リアルタイムな資料の利用状況表示や貸出予約処理を可能にします。つまりWorldCat Local とは OPACの拡張版,従来のOPAC の代わりとなり,さらに+α でWorld-Cat をはじめとする各種データベース等のリソースから,多くの情報を利用者に提供できる仕組みというようにお考え頂ければと思います。6. 日本での導入における課題

 導入すれば多くのメリットがあるWorldCat Local ですが,冒頭でも述べたとおり元々アメリカで作られた仕組みということで,現状,日本の図書館で快適にお使い頂くためには以下のような課題があると考えています。① WorldCat への所蔵登録。国内のほとんどの大学では,共同目録としてNII の NACSIS-CATに所蔵が登録されており,OCLC のWorldCatデータベースには情報がありません。World-Cat Local はそもそもWorldCat 上の書誌デー

タに利用館の所蔵情報が付いていることを前提として設計されているため,これが 1つ目の課題となります。② 日本の図書館システムとの連動。図 3-3 の右下にある図書館システムと左側の Central Indexとの繋ぎの問題です。この部分をOCLC が現状サポートしているのは,INNOPAC 等のアメリカで作られた図書館システムに限られているため,日本の図書館が使っている,例えばiLiswave や E-Cats Library, LIMEDIO といった図書館システムとの連携手法の確立が,2つ目の課題です。③ 日本語コンテンツの搭載。図 3-3 をご覧頂けば一目瞭然ですが,検索対象となるデータベースに,現状日本語のコンテンツが入っていません。左上のWorldCat の中には先ほどお話したJAPAN/MARC 単行資料のデータ 450 万件が入っているので,書籍についてはある程度カバーされていますが,雑誌記事等の情報がまだ入っていないという状況です。ですので,今後Central Index の中に図書館で必要とされる日本語コンテンツを搭載していくことが,3つ目の課題と考えています。7. 課題解決への取り組み

 では,これら 3つの課題をどのように解決し,日本でWorldCat Local をご利用頂けるようにしようと考えているか,順にお話したいと思います。① WorldCat への所蔵登録。図 3-4 に示されたモデルが,私たちの提示する解決策です。ポイントは,日本の図書館で現状行われている目録業務を変えることなく,いかにWorldCat と各館OPAC の中身を同期させるか,という視点で考えられている点です。通常,業務用の目録サーバーの中で新規作成あるいは修正した目録データを(①),日々の夜間バッチロード等でOPAC サーバーへ登録されているものと思います(②)。その同じ目録データを紀伊國屋書店のサーバーにお預かりし(③),それを北米やヨーロッパで標準フォーマットとなりつつありWorldCat でも採用されている「MARC21」フォーマットに変換します(④)。そしてその

図 3-3 WorldCat Local は OPACの拡張版

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データを,日々WorldCat に FTP で送付します(⑤)。WorldCat にはすでに日本国内外の膨大な書誌レコードが入っていますので,OCLCで同定作業を行い,該当書誌の下に各館の所蔵情報を付与していきます(⑥)。各図書館で作成された書誌レコードがWorldCat に新規に搭載されるというより,ほとんどのケースではすでに存在する書誌レコード,日本の書誌ならば主に JAPAN/MARC,洋書についてはLC MARC や UKMARC 等の下に各館の所蔵がくっついていくというイメージです。これをプログラムで自動的に行おうと考えています。もちろんこれは経常的なモデルなので,導入時,別途 OPAC サーバーの中身をWorldCatへ一括登録する必要はありますが,基本的にその後は,図書館の皆さんの日々の業務を変えず,水面下でこのモデルを動かすことによって,OPACサーバーとWorldCat を同期させる仕組みになっています。このモデルの構築にはすでに着手しており,書誌同定等の細かい点についても,OCLCと紀伊國屋書店で相談しながら対応していきます。

② 日本の図書館システムとの連動。この点についても,すでに iLiswave のメーカーである富士通さんや,E-Cats Library 開発元の CMSさん等と話合いを始めており,ご協力をお願いしています。お使いの図書館システムによって状況は異なってきますので,実際にWorldCat

Local を契約あるいは検討して頂く際に,より具体的なお話をしたいと思います。③ 日本語コンテンツの搭載。現在,メインで日本語コンテンツのデータ搭載について交渉を進めているのが,国立国会図書館,科学技術振興機構,国立情報学研究所の 3機関で,その他,商業データベースとして日外アソシエーツやブリタニカジャパン他とも交渉中です。国立国会図書館の「JAPAN/MARC 単行資料データ」についてはすでにWorldCat に入っていますが,このデータ更新が現状年 4 回であるところ,もっと更新頻度を上げようということで話が進んでいます。また,「JAPAN/MARC遂次刊行資料データ」のWorldCat 搭載,そして「雑誌記事索引」のWorldCat.org 搭載についても,交渉を進めているところです。科学技術振興機構に関しては,現在「J-Stage」のデータが対象となっていますが,非常に前向きにご検討頂いています。話が前後しますが,国立国会図書館で JAPAN/MARC のデータをWorldCat に搭載することになったのは,「日本語資料を世界中の人に見てもらうには,WorldCat のような国際的なデータベースを使ってWeb 上で可視化するのが最も良いだろう」という当時の長尾館長のご判断によるものです。科学技術振興機構にも,国内資料の世界におけるプレゼンスについて同様のお考えがあり,WorldCat への搭載をご検討頂いているという状況です。また国立情報学研究所とも,大枠での相談は完了し,これから具体的な話になっていくところです。 WorldCat Local はディスカバリーサービスとして世界的なシェアも高く,評価されている商品ではありますが,日本で導入していくためにはこのように解決すべき課題があり,OCLCと日本代理店である紀伊國屋書店で協力しながら,真摯に対応していかなければならないと考えています。

(原稿受付け:2013.1.31)

図 3-4 図書館資料のWorldCat 所蔵登録フロー