2. coordinated research projects...

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2.1 ダイバータ領域のプラズマに関与する電子 と分子イオンの衝突過程(CRP:ダイバー タおよび周辺プラズマ領域における軽元素 原子,分子,ラジカルの挙動) 2.1.1 電子と分子イオンの関わる過程 プラズマにとって,イオン化と再結合が重要であること は明らかであるが,核融合炉のダイバータ領域のような, 分子が関与する低エネルギー過程では,解離性再結合(DR と略記)が輻射再結合をはるかに凌駕する.Molecular As- sistedRecombinationである.分子には電子状態のほか,振 動回転運動の自由度があり,再結合過程をはじめとする動 的過程の断面積に影響を与える.振動回転状態が異なる と,エネルギーによっては断面積の値が10倍以上異なるこ とも珍しくない.プラズマシミュレーションのための原子 データとして,電子,振動,回転状態を特定した断面積 データが求められる所以である. 状態選別断面積を網羅的に収集するには,実験による計 測だけでは無理があり,理論計算を必要とする.振動回転 状態は理論計算により比較的正確に再現できる.理論的に は,再結合過程 AB + ! # ! ! " +e "#A+B ! " " のほか(# ! ! はそれぞれ振動と回転の量子数,"は主量子 数),例えば解離性励起(DEと略す) AB + ! # ! ! " +e "#A+B + +e など,図1に示す諸過程はすべて共鳴状態(衝突錯合体) を通して結合しており,競合,増強し合っている.全ての 過程を解かないと正確ではないと同時に,解けば全ての過 程が明らかになる.ただし,本節ではイオン対生成は無視 しており,これについては A. Larson が当該 CRP で報告し ている. ダイバータ領域で対象となる分子種のうち,ここで取り 上げるのは,H ,HeH とその同位体と電子の衝突過程で ある.もちろん中性分子の電子励起も重要であるし,イオ ン・分子反応のような化学反応,イオン分子と電子の衝突 では H が重要であることがわかっている.これらの分子 種の係る諸過程についてもIAEAの複数のCRPで別途検討 されている.ここで紹介する計算の具体例と精度の検証 は,本小特集の3.2節をみていただきたい. 2.1.2 理論計算の概要 (1)断熱状態と解離性再結合 分子と電子の散乱過程を解析する基本は,原子の位置, すなわち原子核の位置を固定したときの電子状態の情報で 小特集 IAEA における原子分子データ Coordinated Research Projects (CRP) 2. Coordinated Research Projects (CRP) 2. Coordinated Research Projects (CRP) 高木秀一 1) ,小 池 文 博 2) ,中 村 信 行 3) ,坂 上 裕 之 4) ,澤 田 圭 司 5) ,後 藤 基 志 4) 加藤太治 4) ,芦 川 直 子 4) ,西 村 好 史 6,7) ,齋 藤 6) ,横 川 大 輔 6) 建斌 7) ,WITEK Henryk A. 7) ,IRLE Stephan 6) TAKAGI Hidekazu 1) , KOIKE Fumihiro 2) , NAKAMURA Nobuyuki 3) , SAKAUE Hiroyuki A. 4) , SAWADA Keiji 5) , GOTO Motoshi 4) , KATO Daiji 4) , ASHIKAWA Naoko 4) , NISHIMURA Yoshifumi 6, 7) , SAITO Jun 6) , YOKOGAWA Daisuke 6) , CHOU Chien-Pin 7) , WITEK Henryk A. 7) and IRLE Stephan 6) 1) 北里大学, 2) 上智大学, 3) 電気通信大学レーザー新世代研究センター, 4) 核融合科学研究所, 5) 信州大学, 6) 名古屋大学 WPI トランスフォーマティブ生命分子研究所, 7) 国立交通大学分子科学研究センター (原稿受付:2013年8月16日) ここでは最近の CRP から7件の研究トピックスを取り上げて紹介し,それぞれの CRP における主に日本の 研究者の取り組みについて概説する.トピックスは,周辺プラズマでの電子と分子イオンの衝突過程データの精 密な理論計算,タングステン多価イオン分光データの理論計算と電子ビームイオントラップを用いた測定,水素 とヘリウムの関与する総合的な衝突輻射モデルの開発,プラズマ壁相互作用によるタングステンやベリリウム材 料挙動の理論・シミュレーション研究,磁場閉じ込め装置内で発生するダスト特性の研究など,いずれも ITER 計画や核融合炉実現に向けた研究開発の最重要課題となっている. Keywords: atomic and molecular data, dissociative recombination, dissociative excitation, state specific cross section, tungsten highly charged ions, multi-configuration Dirac-Fock method, magnetic dipole transition, electron beam ion trap, visible spectra, EUV spectra, collisional-radiative model, radiation-induced defects, hydrogen trapping, tungsten, first-principle calculation, density-functional tight-binding, non-equilibrium molecular dynamics, BeH2, chemical sputtering, beryllium surface, dust, tritium retention, activation, dust dynamics, impurities J.PlasmaFusionRes.Vol.89,No.9(2013)583‐599 !2013 The Japan Society of Plasma Science and Nuclear Fusion Research 583

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  • 2.1 ダイバータ領域のプラズマに関与する電子と分子イオンの衝突過程(CRP:ダイバータおよび周辺プラズマ領域における軽元素原子,分子,ラジカルの挙動)

    2.1.1 電子と分子イオンの関わる過程

    プラズマにとって,イオン化と再結合が重要であること

    は明らかであるが,核融合炉のダイバータ領域のような,

    分子が関与する低エネルギー過程では,解離性再結合(DR

    と略記)が輻射再結合をはるかに凌駕する.Molecular As-

    sistedRecombinationである.分子には電子状態のほか,振

    動回転運動の自由度があり,再結合過程をはじめとする動

    的過程の断面積に影響を与える.振動回転状態が異なる

    と,エネルギーによっては断面積の値が10倍以上異なるこ

    とも珍しくない.プラズマシミュレーションのための原子

    データとして,電子,振動,回転状態を特定した断面積

    データが求められる所以である.

    状態選別断面積を網羅的に収集するには,実験による計

    測だけでは無理があり,理論計算を必要とする.振動回転

    状態は理論計算により比較的正確に再現できる.理論的に

    は,再結合過程

    AB+�����+e��A+B���

    のほか(���はそれぞれ振動と回転の量子数,�は主量子

    数),例えば解離性励起(DEと略す)

    AB+�����+e��A+B++e

    など,図1に示す諸過程はすべて共鳴状態(衝突錯合体)

    を通して結合しており,競合,増強し合っている.全ての

    過程を解かないと正確ではないと同時に,解けば全ての過

    程が明らかになる.ただし,本節ではイオン対生成は無視

    しており,これについてはA. Larsonが当該CRPで報告し

    ている.

    ダイバータ領域で対象となる分子種のうち,ここで取り

    上げるのは,H2+,HeH+とその同位体と電子の衝突過程で

    ある.もちろん中性分子の電子励起も重要であるし,イオ

    ン・分子反応のような化学反応,イオン分子と電子の衝突

    ではH3+が重要であることがわかっている.これらの分子

    種の係る諸過程についてもIAEAの複数のCRPで別途検討

    されている.ここで紹介する計算の具体例と精度の検証

    は,本小特集の3.2節をみていただきたい.

    2.1.2 理論計算の概要

    (1)断熱状態と解離性再結合

    分子と電子の散乱過程を解析する基本は,原子の位置,

    すなわち原子核の位置を固定したときの電子状態の情報で

    小特集 IAEAにおける原子分子データCoordinated Research Projects (CRP)

    2. Coordinated Research Projects (CRP)

    2. Coordinated Research Projects (CRP)

    高木秀一1),小池文博2),中村信行3),坂上裕之4),澤田圭司5),後藤基志4),加藤太治4),芦川直子4),西村好史6,7),齋藤 純6),横川大輔6),

    周 建斌7),WITEK Henryk A.7),IRLE Stephan6)

    TAKAGI Hidekazu1), KOIKE Fumihiro2), NAKAMURA Nobuyuki3), SAKAUE Hiroyuki A.4),

    SAWADA Keiji5), GOTOMotoshi4), KATO Daiji4), ASHIKAWA Naoko4), NISHIMURA Yoshifumi6,7),

    SAITO Jun6), YOKOGAWA Daisuke6), CHOU Chien-Pin7), WITEK Henryk A.7)and IRLE Stephan6)

    1)北里大学,2)上智大学,3)電気通信大学レーザー新世代研究センター,4)核融合科学研究所,5)信州大学,6)名古屋大学WPI トランスフォーマティブ生命分子研究所,7)国立交通大学分子科学研究センター

    (原稿受付:2013年8月16日)

    ここでは最近のCRPから7件の研究トピックスを取り上げて紹介し,それぞれのCRPにおける主に日本の研究者の取り組みについて概説する.トピックスは,周辺プラズマでの電子と分子イオンの衝突過程データの精密な理論計算,タングステン多価イオン分光データの理論計算と電子ビームイオントラップを用いた測定,水素とヘリウムの関与する総合的な衝突輻射モデルの開発,プラズマ壁相互作用によるタングステンやベリリウム材料挙動の理論・シミュレーション研究,磁場閉じ込め装置内で発生するダスト特性の研究など,いずれも ITER計画や核融合炉実現に向けた研究開発の最重要課題となっている.

    Keywords:atomic and molecular data, dissociative recombination, dissociative excitation, state specific cross section,tungsten highly charged ions, multi-configuration Dirac-Fock method, magnetic dipole transition, electron beam ion trap,visible spectra, EUV spectra, collisional-radiative model, radiation-induced defects, hydrogen trapping,tungsten, first-principle calculation, density-functional tight-binding, non-equilibrium molecular dynamics,

    BeH2, chemical sputtering, beryllium surface, dust, tritium retention, activation, dust dynamics, impurities

    J. Plasma Fusion Res. Vol.89, No.9 (2013)583‐599

    �2013 The Japan Society of PlasmaScience and Nuclear Fusion Research

    583

  • ある.電子状態の中には束縛状態の他,電子散乱も含まれ

    る.固定した原子核の位置を変化させて得られる電子状態

    は,断熱的電子状態と呼ばれ,そのエネルギー固有値はポ

    テンシャルエネルギー曲線を与える.いま,全ての電子の

    座標をまとめて�として電子状態�を�������と表す.核

    の位置Rはパラメータとして電子状態を左右する.電子の

    つくる平均場の中での核の運動状態 �を�����としよ

    う.分子全体の状態を������������と表現することを

    Born-Oppenheimer分離と呼び,断熱状態(adiabaticstate)

    と同じ意味で使われる.断熱状態������������を用い

    て,分子全体のハミルトニアンからなるシュレディンガー

    方程式の固有状態を表現できれば,その漸近形から電子散

    乱に伴う諸過程の断面積を決定できる.断熱状態間の相互

    作用を非断熱相互作用(NAI と略記)という.

    図1の中央にある電子が再結合した共鳴状態には2つの

    型がある.一つは標的分子イオンの電子が励起して,入射

    電子が励起状態に捕獲された二電子励起状態である.この

    共鳴状態は一電子励起配置と二電子励起配置の間の配置間

    相互作用(CI と略記)によって引き起こされる.二電子励

    起状態のポテンシャルエネルギー曲線が解離性であれば,

    解離により共鳴状態は安定化し,DRが成立する.水素分子

    では,解離の時間スケールは 10-13 s 程度であり,輻射のス

    ケールである 10-9 s より速い.もう一つの型は,イオン分

    子の振動回転状態を励起し,その分エネルギーを失った入

    射電子がリュードベリ状態に捕獲された共鳴状態である.

    この共鳴状態は主としてNAIにより引き起こされる.回転

    準位はエネルギー差が小さいので,この型は低エネルギー

    衝突で顕著である.この型の共鳴状態に再結合した後,二

    電子励起型の共鳴状態に遷移するDRは,間接過程と呼ば

    れる.また,振動励起が進み,解離極限を超えれば,リュー

    ドベリ状態からの解離が起きる.この型のDRは低エネル

    ギー衝突のHeH+やH3+で起こり,二電子励起状態が関与し

    ないことから,「(イオン分子と共鳴状態の)ポテンシャル

    交差がないDR」と呼ばれる.ポテンシャル交差がないと

    DR断面積は小さいと考えられた時代もあったが,現在で

    は否定されている.

    断熱的電子状態�������,特に電子散乱を計算する精度

    の高い方法として,R行列法がある.計算プログラムが公

    開されており,計算可能な分子種について汎用性があり,

    束縛電子状態と同じ精度で計算でき,共鳴散乱を効率よく

    計算できる.

    (2)二電子励起状態による解離

    断熱的電子状態は,一電子励起状態と二電子励起状態の

    重ね合わせであり,それらの電子状態から原子核が受ける

    力は,水素分子の場合,前者が引力であり,後者は斥力で

    ある.イオン化ポテンシャル以上のエネルギーでは,分子

    のイオン化状態と共鳴解離状態の重ね合わせになってい

    る.断熱的平均場による散乱過程を理論計算で解くにあた

    り,共鳴解離状態を�������������,分子イオン化状態を

    �������������と表す.添字�は共鳴状態を表し,�は解

    離エネルギー,�はイオン化した電子のエネルギー,�は振

    動量子数を表す.電子のハミルトニアンを�として

    ��������������������������������

    �����が配置間相

    互作用(CI)の強度である.CI による散乱過程を記述する

    リアクタンス行列(K行列)�は以下の Lippmann-

    Schwinger 方程式を解いて求められる.

    ���������������������

    �����

    ���

    �������������

    ����������.(1)

    こ こ で,�,�,�は�か�を 表 し,�の と き は

    �������,�のときは�������で,全エネルギーを表

    す.��は共鳴状態の解離極限エネルギー,��は振動エネル

    ギーである.断面積を与えるK行列要素は,�����すな

    わち on-the-energy-shell 要素だけであるが,それを計算す

    るためには������のoff-the-energy-shellのCI強度が必

    要である.そのためには,共鳴状態とイオン化状態を分け

    る必要があり,我々はイオン化状態を静的交換近似(static

    exchange approximation)で計算することにより,全�,

    �空間でのを得て,(1)式を解いた[1].

    (3)非断熱過程とMQDT

    量子欠損理論は原子核のクーロン力をうけ運動する電子

    の,エネルギーが正負の状態を統一的に扱うためつくられ

    た.エネルギーの正負は,電子が核から遠く離れたときに

    核から離脱できるか否かにより決まる.しかし電子と原子

    核付近のイオンコアとの相互作用は,強いクーロン力によ

    りわずかなエネルギーの差は影響しないはずである.エネ

    ルギーにあまり依存しない,相互作用を表す不変量が

    リュードベリ状態の量子欠損であり,正のエネルギーの位

    相のずれであり,両者の関係は解析的に与えられる.この

    漸近的境界条件と相互作用領域を分ける考え方は,それぞ

    れの領域をよく表す基底関数集合間の変換(frame trans-

    formation)へと一般化され,量子欠損のような不変量をも

    とに,電子散乱断面積が決定できる.様々な電子,振動回

    転状態を含むため多チャンネル理論であるこの理論を多

    チャンネル量子欠損理論(MQDT)と呼ぶ.リュードベリ

    状態は一般的に,摂動論が効かないほどNAI が強いが,

    MQDTは強いNAI をうまく記述することができる[2].

    また,MQDTは分子イオン・電子系の全角運動量が保存

    するように回転運動も含んでいる.MQDTにより,振動回

    転励起して入射電子がリュードベリ状態に捕獲される過程

    を記述できる.H2+では,2.2節で紹介したCI を取り込む方

    法と組み合わせることにより,間接過程を考慮したDRの図1 分子イオン・電子衝突に関係する諸過程の概念図.

    Journal of Plasma and Fusion Research Vol.89, No.9 September 2013

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  • 計算ができる[3].

    リュードベリ状態からの解離を扱うためには,MQDT

    の基底関数のなかに振動状態だけではなく解離状態も含め

    る必要がある[4].解離状態を表す基底関数を加えること

    は,イオン分子コアの励起したリュードベリ状態が係る過

    程を取り扱うためにも不可欠である.高いエネルギーでの

    DRや,DEがこの過程である.解離状態を表す基底関数の

    中には,衝突エネルギーによってはエネルギー保存則を満

    たさない関数もある.量子欠損理論の理念に従えば,相互

    作用領域ではエネルギー保存則は意味をなさず,基底関数

    の集合は完備に近いほどよい.ただし保存則を満たさない

    チャンネルは閉じていなくてはならない.これが「閉じた

    解離チャンネル」の考えである.振動基底状態にあるHD+

    のDRとDEの実験との比較では,閉じた解離チャンネルは

    実験との一致を改善する[4].

    2.1.3 結果

    図1に示した諸過程について状態選別断面積を計算,集

    積した.300 MB程度になるデータは,電子ファイルでモデ

    ラー(プラズマシミュレーションの計算をする人)に提供

    することを前提としており,印刷物として提供できる量で

    はない.DRを中心に計算結果の概要を紹介する.

    H2+の DRは,衝突エネルギーにより大きく異なる.1 eV

    以下の低エネルギーでは,回転運動とCI の off-the-energy

    -shell からの寄与が重要である.入射電子は分子イオンの

    回転を励起することによりリュードベリ状態に捕獲され

    る.図2(a)に示すように,DRの断面積は,各回転励起し

    たリュードベリ状態に対応する衝突エネルギーに局在した

    鋭いピークを示す.もちろん,その強度はCI強度やoff-the-

    energy-shell 効果,量子欠損などで決まるNAI 強度な

    ど,計算概要で紹介した因子が複雑に絡み合っている.実

    験との比較は,本小特集3.2節で解説する.1 eVを超える

    と,回転励起では入射電子を捕捉できなくなる.off-the-

    energy-shellの効果も小さくなる.それに代わって,分子イ

    オンコアが励起したリュードベリ状態が重要になる.DR

    の結果生成する励起水素原子の主量子数�も,低エネル

    ギーでは���しか許されないが,衝突エネルギーがしき

    い値を越すと急激に断面積が立ち上がる.5 eV程度では

    ���を最大に広い�に分布する.�分布はNAI の影響で

    図2 振動回転基底状態にある H2+の DR還元断面積(断面積×衝突エネルギー).(a)計算値.上部横線上の目盛り位置は回転(N),振動

    (v)励起した主量子数 n � 58以下のリュードベリ状態のエネルギーを表す.infはリュードベリ系列の極限 n =∞を示す.横線は下から v = 0で,最上部が v = 7.(b)実線:実験条件で平均した計算値,丸点:実験値[5].

    Special Topic Article 2. Coordinated Research Projects (CRP) H. Takagi et al.

    585

  • 大きく変わる.DRも初期振動状態依存性は大きいが,DE

    では,振動状態�が大きくなるに従い,����以上まで断

    面積は増加を続ける.

    数値計算は同位体効果については信頼できる結果を提供

    する.H2+の同位体,D2+,T2+,HD+,HT+,DT+,4HeH+

    の 同 位 体,3HeH+,4HeD+,3HeD+,4HeT+,3HeT+に

    ついて計算を行った.同位体効果は,軽い原子を含む分子

    イオンで顕著である.図3に振動基底状態にある水素分子

    イオンの断面積を,HD+の実験値とともに示す.DRでは

    H2+,HD+で他の同位体が10 eVあたりにピークがあるのに

    対し,2 eVほど低エネルギーにシフトしている.DEでは

    H2+だけが他と比べ1/2程度になっている.軽い分子の同位

    体効果が目立つ.

    (高木秀一)

    2.2 タングステン原子の弱・中・高電離イオンの原子物理学(CRP:1 eV~20 keV タングステンの分光および衝突データ)

    2.2.1 はじめに

    磁場閉じ込め型の核融合炉においてプラズマに対向する

    材料としてタングステンが注目され,プラズマ中のタング

    ステンイオンに関する知見がプラズマ解析のために必要と

    なった.本研究はこの要請を受けて広い価数の範囲に亘る

    タングステンイオンの電子状態のエネルギー準位や遷移強

    度を調べるために,IAEAのCRPの一角として実施される

    こととなった.

    この研究では次のことをめざしている.核融合プラズマ

    の診断や輻射輸送の解析を温度が 0.1 keV から 20 keV,そ

    して,密度が1010個/m3 から1022個/m3 の範囲で行うため

    に,タングステン原子イオンの基礎的な特性を様々な価数

    について調査し理論計算を行う.イオンの価数の範囲は6

    価から71価に亘る.理論計算には多配置ディラック‐

    フォック法を用いる.輻射および無輻射遷移のエネルギー

    や速度をGRASP[8,11]とRATIP[9,10]プログラムパッ

    ケージを用いて計算する.さらに2電子性再結合について

    計算を行う.これは,プラズマの電荷平衡やイオンの高い

    励起状態からの発光を理解する上で重要である.

    我々は,先ず,タングステンの多価イオンからの発光を

    可視領域で行うことを可能にする,イオンの微細構造準位

    間の磁気双極子遷移(M1遷移)に着目しこれについての計

    算を行った.タングステン多価イオンのM1遷移について

    は,Electron Beam Ion Trap(EBIT)による実験結果[12]

    があり実験との比較によって計算精度を検討することが容

    易である.一般に角運動量の大きな開いた副殻を最外殻に

    持つイオンの電子状態は複雑で計算が大変困難であるが,

    計算例が少ない系についての理論的な知見を提供すること

    は大変意義がある.

    26価のタングステンイオンW26+の基底状態は2個の 4f

    電子を最外殻に持ち,複数の 4f電子をもつもっとも簡単な

    タングステンイオンとして,理論計算の最初の対象として

    取り上げることは大きな意味がある.我々はW26+の基底

    状態の配置:1s22s22p63s23p63d104s24p64d104f2がつくる微細

    構造分裂準位間の磁気双極子遷移(M1遷移)と電気四重極

    子遷移(E2遷移)の計算を行った[13].

    また,タングステンの多価イオンは非常に深いポテン

    シャルをもつので,比較的高い運動エネルギーをもつ電子

    の入射に対しても2電子性再結合過程を導き,したがっ

    て,高温プラズマの中でも有意な効果をもたらす.我々は,

    中国の西北師範大学のグループとの共同研究によってこの

    2電子性再結合過程の計算を行った[14].

    以下ではW26+イオンのM1およびE2遷移の計算とタン

    グステンイオンの2電子性再結合の計算を節を分けて紹介

    する.

    2.2.2 W26+イオンの光学禁制遷移

    W26+の基底状態は4s24p64d104f2配置を最外殻に持ち13の

    微細構造副準位を持つ.微細構造副準位間では光学遷移

    (電気双極子遷移,E1遷移)は禁止されるが光学禁制遷移

    (M1,E2,遷移など)は許容されることがあり,W26+では

    それらのいくつかが可視領域に入ってくるので観測には大

    変都合がよい.一方,一般に,基底状態に対する変分計算

    図4 W26+4s24p64d104f2配置の微細構造副準位図とM1およびE2遷移のダイアグラム.実線:M1遷移.破線:E2遷移.数値はÅで表した遷移波長の計算値.ただし,3H4-3H5遷移線に記された3894(Å)は実験値[12].

    図3 振動基底状態にある水素分子イオン同位体のDRとDEの断面積.計算値は,H2

    +:細い実線,D2+:点線,T2

    +:破線,HD+:太い実線,DT+:鎖線.HD+の実験値:□(DR)[6],◯(DE)[7].

    Journal of Plasma and Fusion Research Vol.89, No.9 September 2013

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  • は大変安定に実行できるので高い精度でエネルギー準位や

    遷移確率を求めることができる.

    我々は,相対論的原子コードの一つであるGRASP2K

    (General purpose Relativistic Atomic Structure Program

    2K)を用いてエネルギー準位を求めた.さらに,衝突輻射

    (CR)モデルに基づく発光強度の解析を行って観測可能と

    考えられる4つのM1遷移線を見出しEBITによる実験の

    結果と比較をした[13].

    図4にGRASP2Kによる計算結果を示す.実験的に見出

    されていた 389.4 nmの発光線は計算で得られた 388.4 nm

    に現れる3H4-3H5 遷移と同定された.この発光線は,大型

    ヘリカル装置(LHD)のプラズマでも観測され核融合プラ

    ズマの診断に有用な発光線として期待されている[15].

    MCDF法は変分法の一種であるので,イオンの基底状態に

    関しては高精度の計算結果を期待できる.我々は,Active

    Space 法を採用し価電子軌道およびコア軌道からの1電子

    および2電子の仮想励起を系統的に取り入れてエネルギー

    準位の改善を行った.その結果,4dコア軌道からの励起が

    エネルギー準位に大きく寄与することが見出された.

    W26+以外のイオンについても,IAEAのCRPの一環とし

    て計算を進めている.

    2.2.3 Wイオンによる2電子性再結合

    我々は,Flexible Atomic Code(FAC)[16]を用いてBr-

    like Wイオンに対して,自動電離の逆過程である2電子性

    再結合の計算を行った[14].我々はさらに,イオンの価数

    の範囲を広げて計算を進めている.

    (小池文博)

    2.3 電子ビームイオントラップによる高電離タングステン分光(CRP:1eV~20keVタングステンの分光および衝突データ)

    2.3.1 はじめに

    ITER プラズマ中に存在するであろう不純物タングステ

    ンは,eV程度の低温である周辺プラズマから 20 keVにも

    及ぶ高温のコアプラズマまで実に広範な温度環境に曝され

    る.そのような環境におけるタングステンイオンの価数

    は,中性からネオン様(64+)程度までと広範に及ぶ.そ

    れらがプラズマ中で発する発光線も,内殻の特性線による

    硬X線もあれば,微細構造間磁気双極子遷移による可視光

    もあるなど,広範な波長範囲に及ぶ.X線など短波長の発

    光は放射損失を検討する上でその原子データが必要となる

    が,可視などの長波長の発光に関するデータも,プラズマ

    対向壁からのタングステンの流入量や経路を診断する上で

    大変重要である.以上から,広範な波長領域における発光

    線の帰属,遷移波長,遷移確率などを明らかにして詳細な

    波長表およびグロトリアン図を作成することや,広範な衝

    突エネルギー領域における電離,励起,再結合などの衝突

    断面積を求めることなどが,広範な価数のタングステンイ

    オンについて求められている.

    電子ビームイオントラップ(electron beam ion trap:

    EBIT)[17]は大学の研究室に収まるサイズでありながら,

    完全電離に至るまでのあらゆる価数のタングステンイオン

    を生成可能な装置である.生成されたイオンはEBIT内の

    狭い空間に長時間トラップされつつ,単色電子ビームによ

    り励起され発光する.波長表にない発光線の探索・同定の

    他,励起・電離・再結合など電子衝突過程の断面積測定に

    有用である.単色電子ビームのエネルギーを適宜走査する

    ことにより,2電子性再結合などの共鳴過程を抽出するこ

    とも可能である.多価イオンを分光学的に研究する上で正

    に理想的な光源と言える.現在,世界で10数台のEBITが

    稼働中であるが,それらがお互いに協力をしながら,ITER

    で必要とされるタングステンのデータ取得を進めている.

    本節では特に,電気通信大学(電通大)において開発され

    たEBITを用いて行われているCRPの活動について紹介す

    る.

    2.3.2 電子ビームイオントラップ(EBIT)

    EBIT[17]は,ペニング様イオントラップとそれを貫く

    高エネルギー高密度電子ビームから成り,その主な構成物

    は,電子銃,ドリフトチューブ(イオントラップ),電子コ

    レクター,超伝導コイルである.ドリフトチューブは3つ

    あるいはそれ以上に分割された円筒型電極から成り,そこ

    に井戸型電位を印可することによって,軸方向にイオンを

    閉じ込める.径方向には,超伝導コイルによる軸方向の強

    磁場と,高密度に圧縮された電子ビームの空間電荷ポテン

    シャルによって,やはりイオンを閉じ込める.このように

    3次元的にトラップされたイオンが,高エネルギー電子に

    よる逐次電離を受け,多価イオンが生成される.ドリフト

    チューブ電極にはスリットが設けられ,そこから多価イオ

    ンの発光を観測する.種々のプラズマ光源と異なり,単色

    電子ビームにより生成・励起されるトラップイオンからの

    発光を観測できるため,(1)多価イオンの電離状態を電子

    ビームエネルギーにより制御可能,(2)共鳴過程など電子

    エネルギーに依存した発光過程を観測可能,(3)ドップ

    ラーシフトが無くドップラー拡がりも小さい,(4)指向性

    の高い電子ビームにより励起された発光の偏光度を調べる

    ことが可能,などの特長を有する.

    電通大では,1995年に高エネルギー仕様(電子エネル

    ギー 1-200 keV)のTokyo-EBIT[18‐20],2007年に低エ

    ネルギー仕様(同 0.1-2 keV)で小型のEBIT(通称 Co-

    図5 CoBITにより観測されたタングステン多価イオンの可視スペクトル.左に記されているのは,タングステンイオンの電離エネルギーの値.矢印で示されているのは,各電子エネルギーにおける最高価数イオンからの発光線.

    Special Topic Article 2. Coordinated Research Projects (CRP) H. Takagi et al.

    587

  • BIT)[21]を開発した.CoBIT は同型のものを更にもう一

    台製作し,核融合科学研究所(核融合研)にて運転を行っ

    ている.これら2種のEBITを相補的に用いることにより,

    完全電離に至るまでのあらゆる価数のタングステンイオン

    を分光研究の対象とすることができるが,コアプラズマに

    おいて優勢となる40価以上の高価数タングステンは,本

    CRPに参加する他のEBIT施設(ローレンスリバモア研

    [22]およびNIST[23])においても研究対象となってい

    る.一方,比較的低価数のタングステンイオンを効率的に

    生成できるCoBIT は電通大で独自に開発されたものであ

    り,他のEBIT施設にない特徴をもつ.したがってCRP

    では,周辺プラズマでより重要となる5-30価程度のタン

    グステンイオンをCoBIT により測定することが主に期待

    されている.

    2.3.3 可視スペクトル:微細構造準位間磁気双極子遷移

    可視光は光ファイバやレンズなどの光学素子が使えるた

    め分光診断上有用であり,周辺からコアへのタングステン

    イオンの輸送を診断する上で,可視発光線のデータが強く

    望まれている[24].しかしながら,3価以上のタングステ

    ンイオンの可視発光線は,つい最近まで唯一の報告[25]が

    あるのみで,データが皆無であると言っても過言ではな

    かった.タングステンのような重元素の多価イオンにおい

    て,電子軌道の変化を伴う遷移の多くは真空紫外よりも短

    い波長となるため,可視領域発光線のほとんどは,微細構

    造間の磁気双極子遷移である.しかし,電子が数10個もあ

    るような多電子系の微細構造準位を正確に計算するのは容

    易でなく,どのような発光がどの波長に現れるか予想する

    ことは困難を極める.そこで我々は,CoBIT を用いてタン

    グステン多価イオンの可視領域発光線の探索と同定を行っ

    ている.

    図5に観測されたスペクトルの例を示す.図からわかる

    ように,観測された発光線は鋭い電子エネルギー依存性を

    示している.つまり,電子エネルギーがある値以上になっ

    たときに発光線がある波長に突然現れ,更に電子エネル

    ギーを上げると急速に弱くなっていく.これは,CoBIT

    内の価数分布の変化を表している.例えば,電子エネル

    ギーがW22+の電離エネルギー(643 eV)を超えたときに初

    めてW23+の生成が可能であるため,電子エネルギーを

    630 eVから675 eVに上げたときに現れる409 nmと432 nm

    付近に現れる発光線はW23+のものであると同定すること

    ができる.このように発光線の「出現エネルギー」から帰

    属イオンの価数を同定する方法の正当性は,複数の実験に

    より確かめられている[21,26,27].このようにして,スペ

    クトル中に矢印で示した発光線がそれぞれ左に記したタン

    グステンイオンからの発光線であると同定できる.

    具体的にどのような微細構造間の遷移であるかを同定す

    るためには,理論計算との比較に頼らなければならない.

    前述のように計算は容易ではないが,多くの配置間相互作

    用を取り入れた大規模な計算により,図中の発光線のいく

    つかは詳細な同定が行われている[26,28].現在,より広範

    な電子エネルギー,波長領域を探索中であり,これまでに

    100本を超す新しい発光線の観測と,その帰属イオンの価

    数同定に成功している[29].

    可視領域に現れる微細構造間磁気双極子遷移は,一般に

    ミリ秒程度の遷移寿命をもつ.この程度の値を持つ遷移寿

    命は,EBITで多価イオンを生成した後に電子ビーム(励

    起源)を瞬時に遮断し,その後の発光強度の減衰を観測す

    ることで測定することができる.電子ビームを遮断する

    と,電子ビームの空間電荷によるイオントラップが消失す

    るが,軸方向の井戸型静電ポテンシャルと超伝導磁石によ

    る強磁場によりイオンをトラップし続けることができる.

    このようにして,遷移波長のみならず遷移寿命の測定も並

    行して行っている.

    2.3.4 極端紫外-軟 X線スペクトル

    電子軌道の変化を伴う遷移の波長は多価イオンになるに

    従い短くなり,極端紫外(EUV),軟X線波長領域へとシフ

    トしていく.特に比較的温度の高い(~1 keV)プラズマに

    なると,主量子数���を最外殻に持つ20-30価程度のタ

    ングステン多価イオンからのEUV~軟X線領域の発光が

    顕著になってくる.我々はこのような領域の発光過程を研

    究するために,CoBIT専用のEUV分光器[30]を開発した.

    図6(a)に CoBIT で観測されたEUVスペクトルの電子

    ビームエネルギー依存性を示す.図からわかるように,可

    視分光スペクトルと同様に鋭い電子エネルギー依存性を示

    す.それぞれの発光線の出現エネルギーは,2.3.3節の可視

    スペクトルと同様に多価イオンのイオン化エネルギーに関

    係付けられ,それらの考察から帰属イオンの価数を同定す

    ることが可能である.各電子エネルギーに対応するタング

    ステン多価イオンの価数を下段の図6(b)に示した.ここ

    で,電子エネルギーつまり発光イオンの価数の増加に従っ

    て,ピーク群が短波長側にシフトしていく様子が見られ

    る.これは多価イオンの価数増加により,エネルギー準位

    間隔が次第に大きくなっていくことに起因している.発光

    線の遷移の同定は理論計算との比較によって行われる.

    図6(b)は,6g-4f,5g-4f,5f-4d,5p-4d 遷移のそれぞれの遷

    移波長の計算値(平均値)である.観測されたスペクトル

    とこの計算値との比較により,各ピーク群の遷移を同定す

    ることができる.実験から決定した波長と計算値とのずれ

    図6 (a)CoBITにより観測されたタングステン多価イオンのEUVスペクトルの電子エネルギー依存性.(b)CRモデルで計算された 6g-4f,5g-4f,5f-4d,5p-4d遷移それぞれの平均波長の多価イオン価数依存性.

    Journal of Plasma and Fusion Research Vol.89, No.9 September 2013

    588

  • から,衝突輻射モデルに用いた原子データにおける配置間

    相互作用や電子相関効果の評価も可能となり,より精度の

    よい原子データ群を構築することができる.これらを用い

    て精度のよいプラズマモデルを構築し,核融合装置のスペ

    クトル解析に適用していくことが可能となる.

    2.3.5 おわりに

    ここでは紙面の都合上,CRPにおいて主な分担課題と

    なっている比較的低価数イオンの可視分光およびEUV分

    光について紹介したが,Tokyo-EBIT を用いて,より高価

    数イオンの二電子再結合過程の測定[31]などでもCRPに

    貢献している.それらを含めたより詳しい研究内容は,本

    誌第89巻第5号における研究最前線「高温プラズマにおけ

    る高�多価イオンの分光と原子構造」の中で紹介されてい

    るのでご一読されたい.

    ここで紹介した研究は,主に核融合科学研究所 LHD計

    画共同研究(NIFS09KOAJ003)および科学研究費補助金

    基盤(A)研究「プラズマ中のタングステンイオン不純物挙

    動研究への原子過程からのアプローチ」(代表:村上泉,課

    題番号:23246165)の支援により行われた.また,一部は

    日本学術振興会日中韓フォーサイト事業「高性能プラズマ

    の定常保持に必要な物理基盤の形成」(代表:森田繁)の支

    援により行われた.

    (中村信行,坂上裕之)

    2.4 水素とヘリウムの衝突輻射モデル(CRP:核融合プラズマ中のH,Heと同位体の励起モデリングのための原子分子データ)

    2.4.1 はじめに

    著者らは,CRP on Atomic and Molecular Data for State-

    ResolvedModelling of Hydrogen and Helium and Their Iso-

    topes in Fusion Plasma(2011‐2015)に参加している.これ

    までに2回の会合が開かれている(2011.8.10-11および

    2013.7.3-5).参加者については,URL[32]をご覧いただ

    きたい.各発表者の発表資料を入手することもできる

    [33].参加者の専門を大雑把に分類すると,原子・分子反

    応の断面積の生産・評価,および断面積を利用する衝突輻

    射モデル(Fantz, Sawada,Goto),中性粒子輸送コード(Re-

    iter)である.

    このCRPの主たる目的は,会合名のとおり,周辺プラズ

    マのモデリングにおいて必要となる,原子分子の内部状態

    を精密に考慮した素過程データを評価・生産することであ

    る[32].反応に関与する粒子種として関心がもたれている

    ものは,H,H+,H-,He,He+,He2+,He-,H2,H2+,

    H3+,HeH+,He2+およびその同位体であり,ITERを想定し

    て,ヘリウムが関係する粒子種が挙げられている.これら

    粒子種の関与する反応過程をここで列挙することはできな

    いが,水素原子・水素分子の反応については,Reiter らに

    よる文献[34]を参照いただきたい.

    衝突輻射モデルおよび中性粒子輸送コードは素過程デー

    タの収納庫であり,素過程データと実際のプラズマ解析の

    橋渡しをするものである.素過程データの生産・評価にお

    いては,どの過程が重要であるかの見通しを与える役割も

    期待されている.本節では著者らのモデルを紹介し,

    "State-Resolved Modelling"に関連した現在の課題について

    述べる.

    2.4.2 水素原子衝突輻射モデル

    水素原子衝突輻射モデルの基本形では,プラズマ中に水

    素原子と電子とプロトンだけが存在するとし,素過程とし

    ては電子衝突励起・脱励起・電離・三体再結合および自然

    放出・輻射再結合を考える.通常,プラズマ中のある位置

    に着目し,そこでの電子温度・電子密度・基底状態原子密

    度・プロトン密度が時間変化しても,励起原子密度が瞬時

    に応答し(準定常近似),すべての励起状態において上記

    の素過程による励起原子の生成・消滅がつりあおうとす

    る.計算される励起状態原子密度は,基底状態密度に比例

    する項(電離プラズマ)とプロトン密度に比例する項(再

    結合プラズマ)の和になり,多くの場合,どちらかの項が

    大きく優位になる[35].基底状態原子とプロトンの密度の

    算出は,空間的な流れを考慮した輸送コードを必要とす

    る.衝突輻射モデルは,単体では,分光計測で得られた原

    子発光線強度からの,電子温度・密度および基底状態原子

    密度(電離プラズマ)・プロトン密度(再結合プラズマ)の

    評価に使われる.また,衝突輻射モデルは,励起状態を経

    由する電離および再結合の反応速度係数の計算にも用いら

    れ,それらは輸送コードで利用される.著者の研究グルー

    プは,まず上記の基本モデルを構築し[36],さらに励起原

    子生成過程として,水素分子の解離H2+e→H+H*[37],

    非接触プラズマで重要とされる分子活性再結合過程,

    H2+H+→H2++H,H2++e→H+H*およびH2+e→H+H-,

    H-+H+→H+H*[38]を組み込んだ.現在のところ,水素

    分子の解離については分子始状態の振動・回転状態依存性

    を考慮しておらず,分子活性再結合では,回転状態を基底

    状態として,振動状態依存性しか扱っていない.これらを

    改善したいと考えている.

    水素原子衝突輻射モデルの準位は主量子数だけで区別さ

    れている.同じ主量子数で異なる方位量子数�の原子密度

    に等重率を仮定している.核融合プラズマでは,水素原子

    ライマン系列発光線の輻射輸送のために���の密度が大

    きくなり,この仮定が成立しない可能性がある.輻射輸送

    を正しく考慮するためには,方位量子数まで扱うモデルが

    必要であろう.方位量子数まで区別する場合,主量子数が

    5以下の準位間ではR行列法による信頼性の高い電子衝突

    励起断面積があるが[39],同じ主量子数で異なる方位量子

    数をもつ準位間の断面積は計算されていない.この断面積

    の生産が望まれる.

    なお,"State-Resolved Modelling"とはややはずれるが,

    主量子数が5より大きい高励起準位への励起に関しては,

    R行列法の計算のような信頼性の高い断面積データがな

    い.低励起準位は,分子からの原子生成や輻射輸送の影響

    を受けやすい.電離プラズマにおいて,観測される水素原

    子発光線強度から水素原子基底状態密度を算出するために

    は,高励起準位からの発光線強度解析が必要になる場合が

    多い.水素原子の高励起準位への断面積計算は,実用上,

    非常に重要である.専門家の先生方のご協力を切望してい

    Special Topic Article 2. Coordinated Research Projects (CRP) H. Takagi et al.

    589

  • る(Fantz[33],Sawada[33]).

    2.4.3 ヘリウム原子衝突輻射モデル

    最初のヘリウム原子衝突輻射モデルは1979年に

    Fujimoto[40]により構築され,その後2003年にGoto[41]に

    より改訂版が発表された.改訂版では主に電子衝突の断面

    積データが更新され,基本的な構造はFujimotoのモデルを

    踏襲している.

    扱う励起状態は一電子励起のみで,一重項と三重項,さ

    らに方位量子数によっても準位を区別している.ただし,

    全角運動量量子数 �による微細構造準位は区別しない.一

    重項および三重項それぞれの1s2s準位は許容輻射遷移をも

    たないため準安定状態と呼ばれ,これらの準位については

    準定常近似が成立しない可能性があるため基底状態と同様

    その密度を独立したパラメータとして扱う.

    現行モデルで使われている励起準位のエネルギー値およ

    び自然輻射遷移確率はDrake[42]による.また,主要な衝

    突断面積は収束緊密結合法(Convergent Close-Coupling,

    CCC)により計算されたものである[43].これらのデータ

    は十分に信頼性が高く,ヘリウム原子衝突輻射モデルはほ

    ぼ完成の域に達しているといっても過言ではない.ただ

    し,最近広く利用されているヘリウム原子発光線強度比に

    よる電子温度および電子密度計測法において,共鳴遷移に

    対する輻射捕獲を考慮に入れることにより計測の精度が向

    上することが示されており[44],プラズマの条件によって

    は付加的な原子過程を考慮に入れる必要がある.

    2.4.4 水素分子衝突輻射モデル

    著者らは,プラズマ中での水素分子の励起状態を経由す

    る電離や解離の反応速度係数を評価するため,まず,電子

    状態だけを区別した水素分子衝突輻射モデルを構築した

    [46].計算された反応速度係数は中性粒子輸送コード

    EIRENEに使われている(Reiter[33]).次に,分子活性

    再結合など,反応速度係数が分子の振動・回転状態に強く

    依存する反応(Sawada[33])を扱うため,(回転状態の考

    慮を後回しにして)振動状態を区別したモデルを構築した

    [38].この拡張は,Fantz らによってもなされている

    (Fantz[33]).我々は現在,電子・振動・回転状態を区別

    するモデルを構築中である.現時点では,主量子数(融合

    原子)が6以下の電子状態を区別し,さらにそれらの振動

    状態・回転を区別している.ただし,電子・振動・回転状

    態を区別した各種断面積は十分整備されておらず,電子状

    態あるいは電子・振動状態だけが区別されたデータからの

    推定が現状では必要である(Sawada[33]).電子・振動・

    回転状態を区別したモデルでは,分子スペクトルを計算す

    ることができる.分光計測で得られる分子スペクトルとの

    直接的な比較による,プラズマパラメータの決定あるいは

    モデルの検証(素過程データの検証)が可能になる.

    電子基底状態の各振動・回転状態の密度の緩和時間は長

    く,準定常近似が使えない.現状では,電子基底状態の振

    動・回転密度分布に振動温度・回転温度を仮定して,分子

    発光線(Fülcher band)を再現するようにこれらの値が決

    められている(Fantz[33],Sawada[33]).中性粒子輸送

    コードを用いて,電子基底状態の各振動・回転状態分子を

    独立の粒子として扱えば,それらの密度分布が計算できる

    はずである.準安定状態H2(�����)については今後検討

    が必要であるが,ヘリウム原子の準安定状態の知見から

    は,大型装置では準定常近似が適用できると思われる.

    水素分子衝突輻射モデルは,分子の各種反応速度係数だ

    けでなく,分子の解離により生成される原子の速度分布,

    電子衝突励起・電離に伴うプラズマ電子のエネルギー損失

    なども与える.今後,新しいモデルでこれらを計算し,ま

    ず,著者の研究グループで構築している中性粒子輸送コー

    ド(Sawada[33])に組み込む予定である.

    2.4.5 H2+およびH3

    H2と電子やプロトンの衝突(Krstic[33])などにより生

    成されるH2+の電子衝突解離性励起,解離性再結合は,プラ

    ズマの電離・再結合の理解において重要である.これらの

    速度係数については,H2+の振動・回転状態を考慮した計

    算がTakagi[47](本小特集2.1節)やOrel[33],Motapon

    [33]によってなされている.H2+の振動・回転状態の密度

    分布は,それがつくられる基となるH2の振動・回転状態の

    密度分布に依存するため,著者らは,H2と H2+を合わせて

    扱う衝突輻射モデルを開発中である.H3+についても同様

    に重要である.水素原子・分子衝突輻射モデルでは,H3+の

    電子衝突解離性再結合により生成される励起原子や振動・

    回転励起分子を考慮しなければならない.この断面積の計

    算は,現在,Jungen[33,48],Kokoouline[33],Orel[33]

    により進められている.

    2.4.6 おわりに

    最後に,"Data for State-Resolved Modelling"について,

    分子であれば電子・振動・回転状態が分離されたものと解

    すると,現状は,モデリングに必要なデータのうちところ

    どころ不足するものがある,というよりは,まだほとんど

    ない,といった印象である.既に衝突輻射モデル・中性粒

    子輸送コードを用いたモデリングが行われてはいるが,分

    子の解離性電子付着のように断面積が振動・回転状態に強

    く依存するものがあり,これから生産される各種反応の素

    過程データが核融合プラズマの理解,さらには工学を変え

    てしまう可能性もあると考える.断面積の生産を専門とさ

    れる先生方の研究の進展を願いつつ,ともに情報交換を行

    い,研究を進めていきたい.

    (澤田圭司,後藤基志)

    2.5 タングステン熱空孔形成における高濃度水素打込み効果の理論的検討(CRP:材料表面浸食ダイナミクスに関するデータ)

    2.5.1 はじめに

    このCRPは,プラズマ粒子との相互作用によるプラズマ

    対向壁材料の損耗に関わる素過程(主に,物理スパッタリ

    ング,反射,化学スパッタリングなど)の実験的および理

    論的研究を通じて,損耗過程の全体像を明らかにするため

    の知見を得ることを目的として2007年~2011年の期間実施

    された.アメリカ,カナダ,中国,ドイツ,日本,フィン

    ランド,フランス,ロシアから10名の専門家が参加し,実

    施期間中,相互の情報交換と研究連携のために,3回の会

    Journal of Plasma and Fusion Research Vol.89, No.9 September 2013

    590

  • 合がウィーンにあるIAEA本部で開催された.本CRP全般

    の概要と会合での議論をまとめたレポートがIAEAのウェ

    ブサイト[49]で公開されている.本節ではこのCRPに参加

    して行われた本人の研究概要を簡単に紹介したい.

    2.5.2 研究の背景

    ITER ではタングステンダイバータの使用が計画されて

    いる.それまでプラズマ対向壁材料の主流であった炭素系

    材料に代わってタングステンが選ばれたのは,炉内トリチ

    ウムのインベントリが制限(700 g)されており,多量のプ

    ラズマ粒子に曝されるダイバータ材料にはできるだけトリ

    チウムが滞留しにくい材料を選ぶ必要があったためであ

    る.その中で,タングステンは高熱流・粒子束を受ける材

    料としての優れた特性も兼ね備えているためダイバータ材

    料のホープとして注目を集めている.将来,定常運転する

    核融合炉への適用を考えた場合,ひとつの重要な観点は,

    長時間の水素同位体照射によってタングステン材料の水素

    吸蔵と再放出がどのような挙動を示すのかという点である.

    通常,純度の高いタングステン結晶の水素固溶度はきわ

    めて低いので,水素同位体原子が材料固有あるいはプラズ

    マ粒子との相互作用で生じた何らかの格子欠陥(例えば原

    子空孔)と結合することによりバルクに吸蔵されると考え

    られている.これまで,実際に,多結晶や単結晶のタング

    ステン試料の水素同位体吸蔵量を確かめるために多くの実

    験が行われた.比較的古いデータ[50]によれば,重水素イ

    オンの入射粒子フラックスが 1019 D/m2/s 程度の場合,室

    温では照射量が 1023 D/m2 を超えると吸蔵量が 1020 D/m2

    程度の値で飽和する傾向にあるが,高温(500 K)で照射し

    た場合には,照射量が 1024 D/m2 を超えても吸蔵量が飽和

    する傾向はみられない.最近の実験結果では,タングステ

    ン格子の弾き出しが起こらないような低エネルギー(200 eV)

    の重水素イオンの場合には,室温でも重水素吸蔵量に飽和

    する傾向がみられないという報告がある[51].また,高粒

    子フラックス(~1021 /m2/s)の重水素プラズマで照射した

    場合には,表面層(<7 μm)の重水素吸蔵量が高温(~500K)で著しく増加することが示され,これに加えて不純物炭

    素の影響によって最表面(<0.3 μm)の重水素吸蔵量がさらに増加することも示された[52].この不純物炭素は,表面

    層での重水素原子の輸送を妨げる効果があり,高温でも重

    水素の再放出を抑制すると考えられている.

    2.5.3 研究の目的

    現状で得られる実験データはせいぜい 1025 D/m2 までの

    照射量であるが,ITERのダイバータ板表面への粒子フ

    ラックスは1024 DT/m2/sに上ると予測されており,1回の

    放電(400 s)でそれを超えてしまう.将来,核融合炉を1

    年間定常運転した場合には,照射量は1031 DT/m2程度まで

    高くなると予想される.現状で得られているデータを,こ

    のような桁違いに高い照射量までどのように外挿できるの

    かはまだわかっていない.定量的な予測の基となる物理機

    構の全体像を把握するには,未だ解明されていない素過程

    の問題が残っている.

    そもそも,プラズマ照射下の材料内部の格子欠陥と水素

    原子の結合状態を実験的に同定することは困難である.照

    射後であっても水素のような軽元素を検出できる方法は限

    られているうえ,水素原子は容易に金属格子間をすり抜け

    るため試料温度が上昇すると分布が変化しやすく,なかな

    か捉えにくい対象である.また,異なる実験により水素同

    位体吸蔵量の測定値に大きなばらつきがある.これは,実

    験的に制御することが難しい不純物の影響や,試料中の欠

    陥特性に関する知見の不確かさによるところが大きいと考

    えられ,理論的な解明が望まれる.よって,本研究は,以

    下の点を理論的に究明することを目的として行われた.

    (1)タングステンの原子空孔と水素原子結合体の電子・振

    動状態,および熱力学特性.

    (2)タングステン中の格子欠陥形成・不純物分布における

    高濃度水素効果の定量化.

    2.5.4 水素‐金属系の第一原理計算

    タングステン原子空孔の特性や水素原子との相互作用を

    偏見のない方法で研究するためには,経験的な原子間相互

    作用ポテンシャルを用いず,量子力学的に得られる電子密

    度分布に基づいた方法が必要である.そのために,密度汎

    関数理論を用いて,タングステン格子中の欠陥の形成エネ

    ルギーや水素原子との相互作用エネルギーを計算した.密

    度汎関数理論では,多体凝縮系のシュレーディンガー方程

    式に相当する1粒子方程式(コーン‐シャム方程式)を解

    くことで,系の電子密度分布を得ることができる.

    タングステン原子1個当たり74個の電子を全て取り扱う

    と,多数のタングステン原子を含む系では計算コストが極

    めて高くなる.それを避けるために,本研究では,周辺の

    原子との相互作用に直接関与する6個の価電子(5d46s2)

    のみ陽に取り扱い,残りの内殻電子の影響は擬ポテンシャ

    ル法を用いて近似した.これにより,計算上,原子1個あ

    たりの電子数が少なくなり,多数のタングステン原子を取

    り扱うことが格段に容易になる.

    本研究では,最大250個のタングステン原子から成る周

    期境界条件つきのスーパーセル内部に原子空孔や水素原子

    を配置し,擬ニュートン法や共役勾配法を用いた構造緩和

    計算を実施し,格子欠陥による局所的なひずみの影響も考

    慮した.なお本計算の高速化のために,MPI(Message

    Passing Interface)並列計算機を用いた.

    原子空孔の中心では,周囲の格子間よりも電子密度が小

    さく,周囲との境界で電子密度分布が急激に変化し界面を

    形成している.一般化勾配近似を用いた密度汎関数理論で

    求めたタングステン原子空孔形成エネルギーに対して,界

    面エネルギー補正を近似的に求め,より正確な形成エネル

    ギーの計算を試みた[53].その結果,単原子空孔の場合に

    は,界面エネルギー補正効果は形成エネルギーを10%以上

    も増加させることがわかった.補正後の形成エネルギーは

    文献値とよく一致する.

    2.5.5 研究成果の概要

    (1)タングステン単原子空孔による水素原子の多重捕獲[54]

    タングステンの単原子空孔を囲む八面体サイトの内より

    に,1 eV程度の大きな結合エネルギーで水素原子が多重捕

    獲され得ることを示した.計算された状態密度(DOS)の

    分布をみると,捕獲サイトに最隣接するタングステンの5d

    Special Topic Article 2. Coordinated Research Projects (CRP) H. Takagi et al.

    591

  • 軌道と水素原子の1s軌道が重なり,共有結合性を示してい

    ることがわかった.特にタングステンは格子間位置での水

    素固溶熱が高いため,水素原子と原子空孔の結合エネル

    ギーが際立って大きい.水素原子1個~3個の結合エネル

    ギーの計算値は,�線摂動角相関法の実験値[55]とよく一

    致した.また,高水素濃度下での水素‐金属系の統計熱力

    学モデル[56]に基づき,周辺の水素濃度の上昇に伴い,単

    原子空孔と結合する水素原子の熱平衡数が増加し,水素原

    子と結合した熱空孔濃度が著しく上昇することを示した.

    (2)二重原子空孔の安定化機構の解明[53]

    タングステンの二重原子空孔の形成エネルギーを計算し

    た結果(従来までの多くの理論計算の結果と反し),二重

    原子空孔が熱的に不安定で分解しやすいことを示した.一

    方,電界イオン顕微観察[57]で測定された二重原子空孔

    濃度から推定される形成エネルギーは,単原子空孔の形成

    エネルギーの和よりも十分小さく,二重原子空孔が熱分解

    に対して安定であることを示している.この一見矛盾する

    結果は,電界イオン顕微観察によって同定された二重原子

    空孔が,実は水素原子と結合した状態にあると仮定すれば

    説明できる.一般に材料中の水素原子を同定することは困

    難であり,電界イオン顕微観察だけでは二重原子空孔に水

    素原子が結合しているかどうかを判別することはできな

    い.実際に,実験から推定される形成エネルギーは,二重

    原子空孔に水素原子を1個結合させた複合体の形成エネル

    ギーとほぼ等しいことが確かめられた.また,水素原子の

    結合エネルギーは単原子空孔の場合よりも30%~50%も大

    きな値を示し,二重原子空孔とより強く結合することを明

    らかにした.

    (3)単原子空孔に多重捕獲された水素原子の振動状態の解析

    水素原子が1~3個結合したクラスタについて,平衡点

    の周りの調和振動近似でのヘッセ(Hessian)行列要素を差

    分近似により計算し,ヘッセ行列の固有値と固有ベクトル

    を求めた.これにより,クラスタの場合には,水素原子同

    士の相互作用によって振動エネルギーに分裂が生じ,その

    結果,熱的に励起される基準振動に選択性が生じることな

    ど,新たな知見が得られた.

    (4)固溶した不純物炭素原子の拡散に対する周辺水素濃度

    効果の定量的評価[58]

    タングステン格子間に固溶した炭素原子(八面体サイ

    ト)と水素原子(四面体サイト)との相互作用エネルギー

    の第一原理計算を行い,近接した格子間サイトに配置した

    場合には斥力型の相互作用(負の結合エネルギー)を示す

    ことを明らかにした.密度汎関数計算によって得られた電

    子密度分布から,Bader 法[59]を用いて周囲のタングステ

    ンからの電荷移行を計算した結果,炭素原子と水素原子は

    共に負の分数電荷を示し,これが近接した時の斥力相互作

    用の原因であると考えられる.

    周辺の水素原子との相互作用を平均場近似で表した遷移

    状態理論によって,炭素原子の拡散係数を評価した.斥力

    相互作用によるサイトブロッキング効果も統計的方法で取

    り入れた.その結果,水素原子との斥力相互作用により炭

    素原子の移動の活性化自由エネルギーが大きく低下し,周

    辺水素濃度の上昇に伴って炭素原子の格子間拡散係数が大

    きく増加することを示した.今後の実験的検証が望まれ

    る.

    2.5.6 おわりに

    本節で理論的に考察した,タングステン原子空孔と水素

    原子の結合状態の詳細(原子空孔での水素原子配置,単原

    子空孔に結合できる水素原子数の上限など)については,

    まだ争点となる問題[60]が残っている.また,炉材料が使

    用される温度で,水素のような軽元素の輸送過程におい

    て,原子核の量子ゆらぎやトンネル現象がどの程度影響す

    るかについての検討も必要だろう.今後のさらに詳しい理

    論的な検討と実験的検証が望まれる.

    最後に,本節で紹介した研究は,主に,科研費特定領域

    研究「核融合トリチウム」(19055005),科研費基盤C「低エ

    ネルギー高濃度水素打込みによるタングステン格子欠陥形

    成メカニズムの解明」(22560821),および京都大学エネル

    ギー理工学研究所共同研究の支援を受けて行われたもので

    ある.関係者各位に,この場をお借りして御礼申し上げたい.

    (加藤太治)

    2.6 核融合装置内のダストの特徴および発生に関するCRP(CRP:核融合デバイスにおけるダストのサイズ・構成と起源)

    2.6.1 背景

    このCRPは核融合炉内のダストに関するデータ収集・

    データベース化を目的としたもので課題名は"characteri-

    zation of size, composition and origins of dust in fusion de-

    vices"である.本トピックスが設定された2007年当初は

    ITERにおいてダイバータをCFC(Carbon Fibre Compos-

    ite)材で設計した,炭素ダストへトリチウムが蓄積した場

    合,その許容値が700g‐1kgと設定され,それ以下で運転継

    続するために炭素ダストに関する特性評価および除去に関

    する議論が進められていた.IAEAの原子分子データユ

    ニットは ITER計画とは独立した立場ではあるが,メン

    バーの多くは中型・大型の磁場閉じ込め装置の関係者で,

    かつ ITER機構からの参加があった.プロジェクトは2008

    年から2012年までの5年間で,この期間中に3回の会合が

    実施された.

    図7 ASDEXで採取されたダストの SEM像に対する解析例.データベース化をするにあたり各種パラメータ(図右の1~13項目)の解析が行われた.

    Journal of Plasma and Fusion Research Vol.89, No.9 September 2013

    592

  • 出席者はNIFS(日本),KSTAR(韓国),ASDEX-U(独),

    JET(英),Tore Supra(仏),NSTX(米)などの現在稼働

    中の磁場閉じ込め核融合実験装置の担当者ら,および実験

    室実験(独),ITER(仏)における放射化トリチウム除去

    の担当者,トリチウムの安全評価の専門家(米),F4E

    (ヨーロッパの核融合に関する予算を調整する部門の一つ)

    の PWI に関する担当者(スウェーデン)らが参加した.

    2010年ごろから,ITERの運転初期における高熱負荷部

    分のダイバータの材質をCFC材からタングステンに変更

    する案が提案され,現在議論が行われている.ITERに寄

    与するダスト研究の一つは炭素ダストへの水素同位体(特

    にトリチウム)蓄積であり,これが核融合炉内に長期間残

    留し,その場所がプラズマ非ばく露面(ダイバータ・ドー

    ム下など)でアクセスが難しいことである[61].本会合中

    でもこのダイバータ材料に変更が生じた場合,ダストに関

    するデータの取り扱いがどのようになるか多数の質問が

    あった.会合時点ではタングステン・ダイバータは決定事

    項ではなく検討中であること,それに対してCFCダイバー

    タは既に契約済みであり現在製作している段階であるこ

    と,今後正式にタングステン・ダイバータが決定された場

    合には再度考慮する必要があるが,現段階では炭素を含む

    形で議論を重ねていると説明がなされた.

    2.6.2 ダスト・データベース

    本会合はIAEAの原子分子データベースの部門の活動の

    一環として行われており,派生成果の一つとしてダストに

    関するデータベースがH. Chung(IAEA)およびV.Rohde

    (IPP Garching,独)を中心に行われることになった.

    V.Rohde から IPP Garching で取得されているデータの種

    類,およびデータベース化するためのデータ区分等に関す

    る紹介があった.その一例を図7に示す.IPP Garching

    では自動運転機能を保有する走査型電子顕微鏡(SEM)を

    持ち,表面が研磨されたSi基板上へ堆積したダストに対す

    る表面分析が行われてきた.自動運転により単位面積あた

    りに存在する多数のダストを検知することが可能であり,

    サイズ,形状,など複数のパラメータの取得を行い,同時

    に解析プログラムによりこれらのパラメータを区分すると

    いう処理を行った.ダストの組成は併設されているエネル

    ギー分散型X線分光法(EDX)で分析することで判定が可

    能で,データベースでは主成分で区分する方法が用いられ

    た.ダストに関するCRP会合は2011年をもって終了する

    が,IPP Garching で構築したデータベースはネットワーク

    経由で入力が可能であり,継続した利用が可能であること

    が特徴である.

    2.6.3 LHDおよび JT‐60Uからの貢献

    LHDにおいても本データベースに寄与するため,ダスト

    採取のための共通ホルダを2010年度実験(第14サイクル)

    に設置した.60 mm×30 mmのSi基板およびステンレス製

    のホルダは IPP Garching で準備されたものであり,

    ASDEX-U で使用されたホルダと同デザインである.実験

    サイクル終了後,Si 基板は IPP Garchingへ返送され,前述

    の SEM/EDX装置にて分析を行った.その結果の一例を

    図8に示す.このダスト・データベースはASDEX-U と

    LHDから採取されたダストの分析結果からスタートして

    おり,本データベース構築に大きく寄与している.

    LHDでは以前にもダストの分析が行われていた[62].そ

    の結果では主にサイズが1ミクロン以下は炭素であり,1

    手 法 得られる情報

    プラズマへの影響 ・定常放電時の不純物挙動計測・炭素・タングステンダスト入射実験

    �プラズマへの不純物混入の影響�物質移動

    移動メカニズム ・高速カメラによる自然発生ダストの観測・炭素・タングステンダスト入射実験

    �ダイナミクスの理解

    ダスト形状・組成・堆積場所(大気解放後・実験キャンペーン中の積算値)

    ・プラズマ真空容器内でのメンブレンフィルタによるダスト採取・表面分析

    ・Si 基板の長期設置によるダスト採取・表面分析

    ・昇温脱離法によるガス保持特性評価

    �発生条件・メカニズムの議論�成長過程の議論�(ITER以降)除去方法への反映�(ITER以降)メンテナンス期間中の放射化防護�燃料ガス保持特性(リサイクリング/トリチウム蓄積)

    ダスト形状・組成・堆積場所(プラズマ実験中・条件別の捕捉実験)

    ・Si 基板による捕捉実験・エアロゲルによる捕捉実験・ターゲット材料へのバイアス印加電圧による捕捉実験

    ・静電力検出器

    �発生率・発生時のプラズマ放電条件の評価�発生・成長過程の検証

    浮遊放射化物の拡散防護 ・ITER対向壁材(W,C,Be)で想定されるダスト発生量およびその放射化率等の試算

    �(ITER以降)安全性

    図8 LHDで採取された凝集ダストの SEM像.分析は IPPGarchingで実施.併設されたEDX分析の結果から,このダストの主成分はステンレスに起因する鉄である.

    表1 核融合プラズマ装置で実施されている主なダスト研究.

    Special Topic Article 2. Coordinated Research Projects (CRP) H. Takagi et al.

    593

  • ミクロン以上のフレーク形状がステンレス鋼に起因する鉄

    成分であると報告されていた.従来の手法では1つのダス

    ト粒子に対するEDX組成分析には数時間を要するため,

    代表的なダスト粒子に対してのみ組成分析を行ったためで

    ある.2010年度に実施した IPP Garching の分析結果で

    は,1ミクロン以下の鉄主成分のダスト粒子が多数検出さ

    れ,炭素と鉄ではほぼ同程度のサイズ分布をもっているこ

    とが明らかとなった.特に 10-100 nmのダストは互いの

    クーロン力により成長し凝集形状を生成することが知られ

    ており,実際に鉄主成分の凝集ダストも検出された.

    自身の報告としては,LHDおよび JT-60U において大気

    解放後にメンブレンフィルタを用いて採取されたダストの

    組成に関する分析結果,および JT-60U ダストの水素同位

    体ガス保持量について紹介した.JT-60U ダストの組成に

    関しては,タングステン・ダイバータが設置された箇所近

    傍におけるタングステン含有ダストの分析方法に関しても

    紹介を行った.これらのタングステンは炭素ダスト中に含

    まれており,その含有量が約1%と微量であったため,X

    線光電子分光法(XPS)とEDXの二つを併用することでタ

    ングステン含有の有無を明らかにした[63,64].2011年の

    段階で,他のトカマク装置におけるタングステン・ダスト

    の例としてASDEX-U の報告がある[65].ASDEX-U では

    タングステン主成分のダストが多数検出されており,形状

    も剥離により生成したと考えられるフレーク形状および溶

    融により生成としたと考えられる球状ダストが検出されて

    いる.これに対し JT-60U ではこれまでにタングステン主

    成分のダストは検出されていない.この違いの理由の一つ

    として,タングステンがプラズマ対向壁として使われてい

    る面積が極端に異なることが考えられている.ASDEX-U

    では全面をタングステン被覆材としてプラズマ実験を実施

    したのに対し,JT-60U では外側ダイバータ12枚のみであ

    り,基本的には炭素壁装置であった.金属壁の場合アーキ

    ングの発生頻度が増加することが懸念されているため,金

    属壁と炭素壁の違いが二つの装置におけるタングステン・

    ダストの違いにつながっていると考えられている.

    JT-60U では,炭素ダストの水素同位体保持量について

    昇温脱離法(TDS)で分析した.炭素タイルにおける蓄積

    量と比較すると単位質量あたりの水素同位体保持量は1ケ

    タ多い特徴があった.H2,HD,D2 に関するTDSスペクト

    ルのピーク温度についてタイルとダストで比較すると,ダ

    ストでは 1000 K 以上の高い温度にてピークをもつことか

    ら,水素同位体の結合エネルギーがより高いことを示して

    いる.よって,ダストにおける水素同位体保持量が高い理

    由として,ダスト中の水素捕捉サイトがタイルとは異な

    り,炭素の構造の違いに起因していると考えられる.

    2.6.4 まとめ

    本CRP開始時はITERとは独立の立場であったが,第3

    回会合(2011年)後にまとめられた報告書では「ITERへの

    提案」という形で記載された.これは後に2013年初期に至

    るまで議論されたITERダイバータをCFC材からタングス

    テンへ変更する案の時期と重複したためである.提案の内

    容は下記の通りである.

    ・ダスト除去に関する研究のために,実規模サイズでの検

    証実験が必要である.たとえば遠隔保守装置は JAEA

    那珂に開発用装置があり,ダイバータ・モックアップ

    (1セクター分)はフィンランドにある.ただし,実施す

    る際には現実にもあった対向壁条件(Be,C,W)であ

    り,真空環境下でかつ適切な温度環境下で実施すること

    が重要である.過去に得られたラボ実験結果の外挿も必

    要である.

    (注:実規模の遠隔保守,ダイバータ・モックアップは

    それぞれ上記の場所にあるが,それぞれを組み合わせた

    実験を実施することは容易ではない)

    ・放射化し,電荷を帯びたダストのダイナミクスの解明に

    ついて,新たな議論が必要なのか,ベリリウムおよびタ

    ングステンなどダストの材料依存性があるのか等の検討

    が必要である.

    ・ITERにおいて必要とされるダストの実時間計測に関す

    る議論.計測手法,設置場所が課題である.

    (注:ITERではプラズマ対向壁への設置が難しいの

    で,たとえばタイバータドーム下への設置を考慮した試

    験がASDEX等で行われている)

    表1に主なダスト研究の目的および手法を示す.

    (芦川直子)

    2.7 Two mutually exclusive DFTB parametersets for the simulationof chemical hydrogensputtering on berylliumwalls(CRP:プラズマ対向ベリリウムの浸食とトリチウムリテンションデータ)

    2.7.1 Introduction

    Nuclear fusion reactor technology is expected as a new

    sourceofcleanenergy.Duetoplasmacontaminationandtrit-

    iumretentionproblemswithgraphitic reactor firstwall com-

    ponents, the recent focus has shifted to beryllium for its use

    as first wall material. ITER and Jet are nuclear fusion reac-

    tors that currently use, orwill use beryllium (Be) for thispur-

    pose. However, contrary to graphite, very little is known

    about the chemical processes occurring on the Be surface

    under plasma operating conditions. In order to perform

    atomic-scale, long timescale simulations of H/D/T chemical

    sputtering on Be surfaces by nonequilibrium molecular dy-

    namics (MD), we developed Be-H parameters required for

    the second-order, self-consistent-charge density-functional

    tight-binding (DFTB2) method [66,67]. Since DFTB is ap-

    proximately three orders of magnitudes faster than tradi-

    tional density functional theory (DFT), it is ideally suited to

    treat large molecular or irregular solidswhich require large

    unit cells in periodic boundary condition (PBC) calculations.

    It has beenpreviously used [68,69] in the simulationof hydro-

    gen chemical sputtering of graphite which demonstrated

    substantial improvement over corresponding simulations

    based on classical potentials [70].

    The energy expression for DFTB2 is given by the sum

    Journal of Plasma and Fusion Research Vol.89, No.9 September 2013

    594

  • of bandstructure energy (�����) and repulsive potentials as

    follows:

    ����� ��

    �����

    ��������

    ����������

    �����

    �����

    ���������, (2)

    where the first sum on the right-hand side of the equation

    corresponds to���, and

    ��������

    ������������, (3)

    is the repulsive potential. It is constant for a given nuclear

    configuration. The��are orbital occupations forvalencemo-

    lecular orbitals with energies��, from which partial atomic

    Mulliken charges��� can be computed on each nucleus�.

    The computationalefficiencyof the familyofDFTBmethods

    lies in the fact that theHamiltonianmatrix is composed from

    pre-tabulated integrals over pseudoatomic valence atomic

    orbitals usingaminimumbasis set basedwithinthediatomic

    approximation, while the diatomic repulsive potentials

    �������are independent of charge fluctuations and ob-

    tained by elaborate fitting procedures for molecular model

    compounds with A-B bonds, as for instance described in a

    recent review of the DFTB methods [67].

    Wehave recently succeeded in theautomatizedparame-

    terization of DFTB2 Hamiltonian matrix elements [71] to

    compute thebandstructureenergy.Ontheotherhand,while

    some automatized fitting procedures have been reported in

    the literature for diatomic repulsive potentials������[72],

    the results are sensitive to the precise form of these poten-

    tials, and these diatomic functions are still often determined

    manually. In this work, we report that in the case of the Be

    -H pair, different choices for electronic parameters and opti-

    mized repulsive potentials yield a good overall DFTB2 per-

    formance for either molecular compounds or solid state

    simulations, but not for both systems simultaneously. The

    origin of themutually exclusiveness of these two parameter

    sets is discussed, and a possible solution based on a global

    scaling approach to the repulsive potential�����is sug-

    gested.

    2.7.2 Parameterization and Computational Details

    TheHamiltonianmatrix elements of Be have beendeter-

    mined so thatDFTB2 accurately describes valence and low-

    lying conduction bands of PBE [73,74] electronic band struc-

    ture forhexagonalclosedpack (HCP)crystal structure,while

    we have adjusted the electronic part of H to reproduce the

    standardmio parameter set [66] using a previously reported

    relativistic framework [75].

    For the parameterization of the repulsive potentials, we

    employed the B3LYP exchange-correlation functional

    [76,77] with 6-311G(2d,2p) basis set [78,79] as the reference

    DFTlevelof theory.FortheBe-Berepulsivepotential, acom-

    bination of the ground stateBe trimer in��symmetry, and

    tetramer in � symmetry was chosen as reference fitting

    systems. For the Be-H repulsive potential, we combined the

    potential energy curves of BeH2in��symmetry andBeH-

    in���symmetry. This parameter set will be referred to as

    "Parameter1" for the remainder of this work.

    We have also prepared another parameter set, namely

    "Parameter2", where we compressed the pseudo-atomic or-

    bitals of Be slightly more, thereby sacrificing agreement

    with DFT bandstructure but gaining reduction in Pauli re-

    pulsion between Be and neighboring atoms. For this second

    set of electronic parameters, we generated the repulsive po-

    tentials in a manner analogous to "Parameter1".

    All DFTB2 calculations were performed with the

    DFTB+program [80]. Geometries of clustermodelswereop-

    timized with thresholds for force (1 × 10-6a.u.) and charge

    (1 × 10-13a.u.) convergence criteria. In the case of periodic

    boundary conditions, 3×3×1 �-points were sampled by

    Fig. 9 Optimized geometries of beryllium clusters Bex (x = 2-6). The calculated bond lengths are given inunitsofAng-strom.

    Fig. 10 Optimized geometries of beryllium hydride chain typeclusters (BeH2)y (y = 1-4). The calculated bond lengthsand angles are given in units of Angstrom and degree,respectively.

    Special Topic Article 2. Coordinated Research Projects (CRP) H. Takagi et al.

    595

  • Monkhorst-Pack scheme [81].

    The reference DFT (B3LYP, PBE) and the second-order

    M�ller-Plesset perturbation theory (MP2) [82]with cc-pVTZbasis set [83] results used as benchmark were computed us-

    ing the Gaussian 09 program package [85]. For comparison

    with other semiempirical approaches, PM3 [84] calculations

    were carried out with the MOPAC2009 program [86]. The

    PBEcalculations forperiodic systemswereperformedusing

    the projector-augmented-wave (PAW) method [87-88] in

    combination with a 400 eV cut-off energy, with otherwise

    default parameters, with the VASP program [89-92].

    2.7.3 Results and Discussion

    To check the performance of our two parameter sets,

    we have performed benchmark calculations for closed-shell

    singlet beryllium clusters Bex (�����) and beryllium hy-

    dride clusters (BeH2)�(������). Figure 9 displays the opti-

    mized ���(�����) structures along with corresponding

    bond lengths in units of Angstrom. Our DFT and MP2 re-

    sults are comparable with previous publications [93,94]. In

    the current parameterization procedure, we could not find

    the repulsive potentials describing dimer an