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第皿部 1TS産業動向調査研究

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Page 1: 1TS産業動向調査研究 - 日本自動車研究所 · Dep1oymentInitiative)を4都市圏(フェニックス、サンアントニオ、シアトル、ニューヨ 一ク/コネチカット/ニュージャージ)で行っている。また、カナダ(トロント)では第

第皿部1TS産業動向調査研究

Page 2: 1TS産業動向調査研究 - 日本自動車研究所 · Dep1oymentInitiative)を4都市圏(フェニックス、サンアントニオ、シアトル、ニューヨ 一ク/コネチカット/ニュージャージ)で行っている。また、カナダ(トロント)では第

第1章 調査・研究の概要

1.1 目的

現在、産・官・学が協力して、ITS(Inte11igentTrmsportSystems:高度道路交通システム)

を推進している。ITSが杜会にもたらす効果は、

・安全性の向上

・渋滞の緩和

・環境間題の改善

・産業の活性化及び新産業の創出

等が上げられる。

本調査研究では、産業の活性化及び新産業の創出という視点から、幾つかのITS分野に

おいて、現状から5年程先(2005年)までの動向を調査・研究し、市場の動向と普及への

課題をまとめ、ITSの今後の発展に資する事を目的とする。

1.2 活動内容

本調査・研究を実施するに当たっては、当協会の「ITSによる経済効果研究会」内に専

門の分科会「ITS産業動向調査分科会」を設置した。具体的活動としては、本調査・研究

に関係するITS関連資料の収集を行うと共に、現実の状況、課題等を把握できるよう、関

係省庁、団体、企業等へのヒアリング調査を重点的に行なった。その結果を基に、調査分

野毎にシステム、現状、市場動向(現状~2005年)、技術動向(現状~2005年)を整理す

ると共に、調査分野における産業面からみた課題をできるだけ浮き彫りにし、これらの課

題に対する提言を述べるよう努めた。

一77一

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第2章ITSの動向

2.1 国内

目本のITS推進体制は5省庁(警察庁、通産省、運輸省、郵攻省、建設省)とVERTIS

(Vehic1e,RoadandTrafficInte11igenceSociety)及び5省庁の関係外部団体を中心に構成さ

れ、これに、企業、大学、地方自治体が参画.している。1996年に5省庁による「高度道

路交通システム推進に関する全体構想」が策定され、9つの開発分野と20の利用者サービ

ス(後に21番目のサービスが追加された)が示された。ITSに関する研究開発予算も年々

増加しており、1998年度のITSへの一般予算計画は5省庁合計で138億円、インフラ整備

予算1,150億円で合計1,291億円であった。更に、補正予算が781億円加わり、ETC等イ

ンフラ整備の前倒しや各種ITSサービスの技術開発が行われた。

目本では早くから、5省庁がそれぞれにITSに関する開発プロジェクトを民間等と進め

てきた。今では、カーナビゲーションは既に累計620万台を超え、160万台1年の市場を築

きつつある。また、VICS(Vehic1eInfomati㎝Communicati㎝System:道路交通情報通信シ

ステム)も1996年4月からスタートし、4年間で180万台を超える勢いで普及している。

更に、ETC(E1㏄tr㎝ic To11Co11ecti㎝System:自動料金収受システム)が2000年の運用開

始を胃指して、準備が進められている。

2.2 海外

2.2.1 北米

米国のITS推進体制はU.S.DOT(連邦運輸省)とITSアメリカを核として、これに企業、

大学、州、地方自治体が参画している。ITSアメリカは1990年IVHSアメリカとして設立

され、1994年に現在の名称に変更された。U.S.DOTの公式諮問機関で、非営利の科学・教

育団体であり、民間、学会、ITS国際団体等1200以上の組識が加盟している。米国は1995

年に全米ITSプログラム計画を策定し、29のユーザサービス(1997年に1サービス追加さ

れ、計30となった)を提示すると共に、これらのサービスが全米で統一された形で展開で

きるようナショナルシステムアーキテクチャを1996年に完成させ、全米に展開している。

また、1996年にオペレーションタイムセーバをU.S.DOTが発表し、2005年までに75の都

市にITSインフラ整備をする目標を立てた。そして、これのショーケースとしてMDI(Mode1

Dep1oymentInitiative)を4都市圏(フェニックス、サンアントニオ、シアトル、ニューヨ

一ク/コネチカット/ニュージャージ)で行っている。また、カナダ(トロント)では第

6回ITS世界会議が4,500名もの参加者を得て開催された。

一78一

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2.2.2 欧州

現在の欧州ITS推進体制はEU(Eumpean Uni㎝)とERTICO(Europem Road Transport

Te1ematicsImp1ementati㎝Coordimti㎝O㎎anizati㎝)が核となり、各国運輸通信当局、企業、

研究機関が参画している。ERTICOは1991年に設立され、前述のITSアメリカと類似の役

割を欧州でなしている。現在65を超える企業や攻府機関、団体が参加している。欧州では

民間主導のPROMETEUS(PrOgramme fOrEuropeanTraffic with HighestEfficiency and

Unpr㏄edented Safety:1986年~1994年)、DRJVEI,n(Dedicated RoadInfrastmcture for

Vehic1e Safety inEurope:1989年~1994年)の後継としてT-TAP(TransportTe1ematics

ApP1icati㎝Programme)がECの第4次フレームワーク(1994年~1999)で推進されてい

るがこれの幾つかのプロジヱクトは第5次フレームワーク(1999年~2002年)のプロジェ

クトとして引き継がれている。また、TEN-T(Trans-EmopeanNetworkforTransport)が、

欧州横断交通ネットワーク上に多様なテレマティクスサービスを行う目的で、5分野のプ

ロジェクトで進められている。

2.2.3 アジァ・オセアニァ(除く目本)

アジア・オセアニア地域においてもITSが徐々にクローズアヅプされてきている。シン

ガポールではETCと類似の電子式道路通行課金システムERPS(E1㏄tr㎝ics Road Prici㎎

System)やタクシーにGPS(G1oba1Positi㎝ing System:全地球測位システム)を装着して

のリアルタイム遣路交通流監視システムTraffic Scanなどが既に導入されている。また、マ

レーシアでもETCを、既に数年前に導入している。このように、目本ではまだ実用化され

ていないシステムが幾つか実用化されている。

今年度は、1999年7月には肥MA(The Road E㎎ineering Associati㎝ofMa1aysia)主催

による第3回アジア太平洋地域ITSセミナがクアラノレンプールで開催された。また、1O月

には、中国攻府の科学技術部、公安部、交通部の主催による、中国国際ITS展示会・セミ

ナ(ITS i血Chim)が北京で開催された。また、オーストラリアの総合適応交通システム

(SACAT)は世界的にも有名で、他の国々でも採用されているが、そのオーストラリアで、

2000年に第4回アジア太平洋地域ITSセミナ、2001年にはITS世界会議が予定されている。

一79一

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第3章 ITS市場に影響を及ぼす要因

3.1 国内景気の動向および行政動向

3.1.1 現状の景気動向

現状の国内景気を概観すると、1998年の最

悪期は脱したとみられるものの、卸売・消費図表3.1-1 世界の経済成長率(%)

者物価上昇率のマイナス基調にみられるよう54

に、デフレ圧力がまだ強く残っており、政府上4

■曹’.止.3L■...

.7

32× 汽

の大幅な景気対策がなけれぱ、1999年度も経 一1三111吝ξ1..1 31

済成長率は、マイナス基調が拡大したものと O 1

みられる。目本経済の低空飛行は、主要先進一1

一2

国間でもその低迷ぶりが際だっており、将来 一3一2.

の回復基調も極めて弱いという予測がなされ95 96 97 98 99 OO 01

(出典)OECD、予想値も同じ、暦年べ一スている(図表o.1-1)。

構造問題の視点からみれぱ、1980年代まで

の従来の景気循環とは異なり、在庫調整に長 図表3.1-2鉱工業生産1在庫

期間を要するようになったこと、すなわち、(前年同月比、%)

15

政府による懸命の景気テコ入れ努力にもかか10

わらず、各産業とも減産期間の長期化が1990

バ庫\生産

5 ’

年代の特徴となっており、このことは、既存O

産業の成熟化・成長力減退と新産業育成の必一5

要性を示唆するものとみられる。これは図表 一10“

o.1-2の鉱工業生産・在庫の動きにも表れてお 一15Lり、この点において、ITSが「新産業創出・ 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00

活性化」の切り札として担う期待は、決して(出典)通産省

小さいものではないであろう。

3.1.2 行政動向 … lTS関連産業には追い風

官公庁側においても、(財)自動車走行電子技術協会が1999年春よりITSによるEV(電

気自動車)利用システムの実験を、横浜みなとみらい21地区や多摩ニュータウン地区で開

始しているように、敢り組みに拍車がかかってきた。

財攻面からも、政府も情報通信への投資は従来型公共事業の2倍近い需要誘発効果を持

っ点を評価し、継続的に予算等で配慮を示しており、1999年度では、一般に加え補正予算

でもITS振興を打ち出し、この中ではETC(自動料金収受システム)の前倒し普及や、ITS

関連技術である車載プラットフォームや、ヒューマン・マシンインタフヱースといった基

盤技術開発も盛り込まれた。

一80一

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ETCについては、建設省が2002年度までに、高速道路の料金所900ヶ所に配備する方

針で、整備計画のピッチが早められている。建設省と目本道路公団が、2000年度中に自動

料金収受システム(ETC)の運用を全国に先駆け、首都圏の高速道路で始める予定で、東

京湾横断道路(アクアライン)、京葉道路など、主に千葉県内の料金所にシステムを整備す

る計画である。1999年度はアクアライン、京葉道路、千葉東金道路、東関東自動車道など

の43料金所にシステムが設置される計画で、2次補正案では東北道、北陸自動車道など新

たに140ヶ所の整備に着手する予定である。これらは公共投資効果に加え、車載機器・シ

ステムをも含んだ民間投資を誘発し、景気回復をサポートしよう“(図表3.1-3参照)。

図表3.1-3平成11年度1TS関係予算の概要(平成10年度補正予算も含む)

全国の高速道路及び3大都府県でサービスを行っているナビゲーションの高度 VICSについて、引き続き情報内容の充実やエリヤの拡大な化■■■I■・■一●一●一●一一一一一●●■■■一■■一●●■ どのサービス内容の充実を図る・■●●一●一●■■●一一一■■■I■一一●一一●I.■■■■■●■一■一一●■●一■一●■・一一一●●●●●●■一■●一●1・一■■■■ ■一一一■■■.

     32,485-1一 ■■一■一●●●■一一● ●一1●●●●●●●

東関東自動車、京葉道路千葉地区等での平成11年度の自動料金収受システ サービス開始、近年中の全高速道路導入に向けた整備推

ム. ・ 一 ・ . I - o ■ ● ■ ● 1 ● ● ■ ■ I ■ 一 ● 一 一 ● ■ ■ ■ 1 進■ 一 一 ■ ■ 一 ‘ ● ● 一 一 ● 1 ■ ・ ● 1 ■ ■ ■ 一 ● 一 ■ ■ ■ ■ ■ I ‘ 一 1 一 一 一 一 一 . ■ 一 ● ● ■ ● . …     . ■ ■ I ● 一 一 ‘ . ・ ・ . . I 1 1 ● ■ ● 一 ● 1 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ●

     95,157一 ・ ・ 一 ■ ■ ■ 一 一 ■ ■ 一 ・ 一 一 ・ . ・ ● ‘ ● 一 I ● ■

交通管制センターの更新に伴う高度化、信号機の集中制

御化の拡大、交通状況収集のための光学式車両感知器や情報板の増設、UTMS(新交通管理システム)のインフラ等

交通管理の最適化● 一 ■ ■一一. ● ■ ■ ■ ■ ■ 一 一 一 ● ● ● ● 一 ■一 一 ・ ● ■ ■ の充実一 一‘ 一 一 ■ ■ 一 ■ ■ ・ . ■ 一 ■ 一 ● 一 ■ ■ 1 ■   一 ● ●一■ ■ I 一 一一‘ ■ 一 一 一 ● ● ● ●● 一● ■ 一 ・ 一 ● ● ● ■ ● ● ● ● ■ ■ ■ 1 ■ ■ ■ 一 ■ 一 一 一 ●一一 ● I 1 ・ ・

    28,987I■1・一一■一■一■■■■一■■一■

信号制御によるバスの優先走行の確保や専用レーンから公共交通の支援1 ■ ■ ・ ■ 一 . ■ ■ ■ ・ . 一 一 …     ■ ・ ■ ■ 一 一 一 一 一 ‘ ・ の一般車両の排除を目的としたPTPSシステム等の整備一 ● ・ 1 ■ ■ ● ■ ■ ■ ■ ・ . ● 一 一 I ● 一 ● ● ● ● ■ ■ ● ■ ■ 一 一 一 ■ 一 ● ‘ ● ● ■ ■ ● ■ ■ ‘ 一 . ・ I . ・ ● 1 ■ ● 一 一 一 ● ● ■ ・ ‘ 一 ■ 一 ● ‘ 一 ● ● ● ■ ■ ■ ■ ■ ● 一

公共交通の支援及び ITSを利用した道路運送事業における輸送効率化、達行管商用車の効率化1 . ■ ・ ■ ■ ・ 一 . ● 一 ● ● ● ■ 1 ■ 一 ・ 一 一 一 ■ ■ 一 一 I 一 ■ 理システムの調査・検討● . ・ 一 ■ I ‘ ■ 一 ● ● 1 ● ● ・ ■ 1 ■ ■ ■ I - i ■ ・ ● ● 一 ● I ● ● ■ I ■ ■ 一 ● ● ■ ■ 1 ■ 1 ■ ■ 一 一 一 ■ ■ ‘ 一 ● ● ● ■ ● 一 1 1 ● ● I 一 ● 一 一 一 ■ ■ ■ . ・ ‘ ● 一

その他等計

その他 標準化活動、国際協カ等 28,493

合計 185,122

(出典)五省庁連絡会議・平成11年度年次レポートより

目本経済は1970,80年代には欧米に比べは

るかに大きな成長を示したが、1990年代に入 図表3.1-4世界の経済成長率

ると立場が全く逆転し、経済成長率は米国の(%、10年平均)

4、

3分の1以下、欧州にもはるかに見劣りする 3033EU

23

9.2,7.....日本

レベルに落ち込んだ(図表3.1-4)。また1970、 2.3

80年代の成長を支えた既存の基幹産業も成 2 .1,8一..

熟期に入っており、自動車産業という業種を.O

1間わず、余剰生産能力の削減、合理化が話題

Oにのぼっている。一方で、既存の基幹産業に 71-80 81-90 91-2000

とって代わる産業がなかなか見当たらず、新 (出典)0ECD、予想値も同じ

規産業・ベンチャーの振興が叫ぱれている。

このような状況の中、人・道路・車両を情報通信技術で連携させ、道路交通の安全性、輸

送効率の改善、快適性、環境負荷の軽減を目的とするITS産業は、杜会的要請との調和の

みならず、新産業の創出、高度情報通信杜会の構築等を通じ、2000年以後、目本経済を欧

米並みの成長力に回復させるための有力な一助となる可能性がある。

一81一

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3.2 自動車産業の発展段階におけるITSの位置づけと販売・保有動向

3.2.1 中期的な販売(国内需要)見通し

好調な北米市場とは対照的に、国内市場はバブノレ崩壊後の不良債権処理に手間取り、経

済成長率の極端な低下と所得水準の伸び悩みが顕著となり、成熟度を一段と深めている。

1998.1999年度には国内販売の低迷と輸出環境の悪化、海外生産の更なる進捗等により、

国内生産の2期連続1000万台割れも現実味を持ち始めており、大手のメーカ間でも工場閉

鎖を含む生産体制の再編・能力削減が取りざたされている。したがって市場予測の前提と

しては、マクロ経済環境は1998年をボトムと考えても、なお強いデフレ圧力が残つており、

回復ぺ一スが極めて鈍く、2000年以後も回復基調にはあるものの、2%を超えるような経

済成長の持続は期待しづらいとの保守的な見方に基づいて市場予測を行った。すなわち、

所得水準の大幅な増加は予想しにくいことを考えて、2003年の国内全需を650万台、2005

年を680万台程度と予測する(図表

3.2-1)。もちろん経過年別保有台数に図表3.2-1 国内販売(千台)&

1人当たりGDP(ドル)あるように、新車登録後5年3ヵ月以 8,OOO 50,OOO

上経過した車が急増しており、なかで 1人当たり7,500

45,000

1販売111 ■■GDP…1

も10年4ヵ月以上経過した車が500 .工左軸〉6,8 40,OOO

7,OOO

万台を超えていることから、買い換え35,OOO

6,5006,5

30,000

ポテンシャノレは高まってはいるものの、6,OOO

25,OOO

欧州ではポピュラーとなっている買い 20,OOO

5,500

換え優遇策等の攻策的な措置がない限15,OOO

5,OOO 1O,OOO

り、顕在化する可能性は小さいと考え 85  87  89  91 93  95 97  99  01 03  05

て予測を推計した(図表3.2-2)。 (出典)目本自動車工業会(注)暦年

図表3.2-2乗用車・経過年別保有台数(千台)

20,OOO

15,OOO

一一一          対;雪駕以上15ギ5年0ケもス     I.\.......。......

10,OOO

5,000

O10年4ヵ月以

75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99

(出典)自動車倹査登録協会 (注)該当年3月末

一82一

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3.2.2 今後の自動車保有見通し

保有については、特殊車両を除くべ一スで1998年の6,893万台から2000年7,o05万台、

2003年7,325万台、2005年7,416万台に、また、特殊車両を含むべ一スでは、これらに各々

150万台を加えた台数であると予想する(図表3.2-3参照)。すなわち保有・普及ぺ一ろは、

1998年度に1970年以後初めて保有増加台数が100万台を割り込んだことにみられるよう

に、これまでに比べかなり鈍化する可能性が高いとみられる(図表3.2-4参照)。

図表3.2-3自動車保有台数(千台) 図表3.2-4自動車保有増減(干台、前年比)

80,OOO2,800

2,400 一70,OOO 2,OOO 一

60,000 1,600

50,OOO 1,200

80040,000 40030,OOO O20,OOO 一400 一

一800 一10,O00

一1,200

O 65  70  75  80  85  90  95  00 5 10 1565 70 75 80 85 90 95 O0  5 (出典)目本自動車工業会、人口問題研究所をもとに推計

(出典)目本自動車工業会、人口問題研究所

保有台数は1960年代のモータリゼーションの爆発による急激な普及後、1970,80年代

を通じて、経済成長に見合った国内販売の増加と共に、順調に拡大してきたが、1990年代

に入ってからは、保有速度にやや頭打ち感が強まっている。1980年代までの順調な普及の

背景には、

①1980年代までは、先進諸国に比べ相対的に高い経済成長を続け、所得水準も順調に伸び

てきたことで、基本的に販売台数は右肩上がりであった、

②普及速度に遅れぱせながらも道路網の整備も行われてきたこと、

③車の購入者、ドライバのべ一スとなりうる生産年齢人口(15~64歳)が、安定的に増加

してきた、

等の要因があげられよう。

しかし1990年代に入り上記①、③の要因が変調をきたしている。すなわち1990年代の

経済成長率は1980年代の3.7%から1%程度(図表3.1-4)にまで低下し、買い換えを先延

ぱしにする傾向が強まり、また、生産年齢人口は1990年以後、顕著に増加数が低下し、1996

年以後は減少に転じている。そしてこれらの要因が相侯って、保有・普及台数の伸び悩み

につながってきているとみられる。

長期的な展望をした場合、本格的な高齢化杜会への突入から1970,80年代の経済成長率

への回帰は望めず、また②の要因も国家財攻の制約があることや、今後、地方の人口減少

が顕在化することからその効果は薄くなるとみられ、保有台数自体がマイナスを引き起こ

す可能性もありえよう。生産年齢人口と保有台数の間には密接な相関関係があり(生産年

齢人口と保有台数を回帰分析すると0.99という高い決定係数が得られる)、特に2010年以

一83一

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後には、生産年齢人口が毎年100万人程度減少するという、かつて経験したことのない事

態が予想されているからである (図表3.2-5~7)。

図表32-5 自動車1台当たりの人口 図表32-6人口増減(15~64歳)(人口/保有台数) (千人前年比)

3.O 2,OOO

2 6 2.51,500

2.5

2.5.I23.  2ニガ11 1,000

2.1㍗㌧~士500

O2.O 8

一500

一1,OOO

1.5 一1,500

85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 60  65 70 75 80 85 90  95 00 5 10

(出典)目本自動車工業会(注)暦年 (出典)「目本の将来推計人口」人口問題研究所

図表32-765歳以上の人口構成比(%)

30

25

20

15

1O

560 65 70 75 80 85 90 95 00 5 10 15

(出典)「目本の将来推計人口」人口問題研究所

このような保有台数減少の可能性という長期的課題に対して、ITSには大きな役割が期

待されよう。具体的にはAHS(AutomatedHighwaySystem)1ASV(AdvancedSafetyVehic1e)

技術の一部実用化・製品化だけでも、高齢ドライバの安全性確保に大きく寄与しよう。

また道路交通情報の充実や、高度交通流制御システムの高度化が都市部の渋滞緩和を通

じて、エネルギー・ロスの緩和だけではなく、相対的に低いレベルにとどまっている都市

部の保有動向に歯止めをかける可能性もある (図表3.2-8参照)。

図表3.2-8 自家用乗用車・

1世帯当たりの保有台数

1,7

1.6

1.5

1.4

1.0

1.2

1.1

1.0

O.91u0二83葛1

O.8…σηす6■…

O.7 一一一〇、578一一一

O.6

O.5

群馬  富山 福井 東京 大阪 神奈川

(出典)自動車検査登録協会、99年3月現在

一84一

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もちろんITSの効果は、「車の販売台数(市場規模)、保有台数」という自動車単体、あ

るいはハードのみで語られるのは適当ではない。例をあげると商用車運行管理システムが

普及することにより、 トラヅク輸送業者には遊休車両が発生し、それがトラヅク市場ヘネ

ガティブなインパクトを与える可能性もあろう。またモーダノレシフト、パーク&ライド等

の進展による公共交通の再活性化は、結果として一般ユーザの自動車保有の必然性を減少

させるかもしれない。しかし一方でそれらのネガティブなインパクトや自動車保有の必然

性の減少分を、補って余りある効果も期待されているのである。それは、「ソフト化」とい

う言葉で語られよう。すなわちそれらはシステム(ソフト)であり、そのシステムを構成

する新たなインフラ機器/車載機器であり、新たなサービス市場といったものの勃興であ

る。そしてこの発展形態は、通信がグローバノレなのに対し、地域性・個別性が強い。既に

カーナビゲーション市場で顕在化しているように、通信文分野における携帯電話のように

将来は爆発的普及を示すものも出てこよう(図表3.2-9参照)。一方で、既存の自動車産業

はその情報系システムの高度化・競争力確保という点から、好む・好まないにかかわらず、

自杜の発展シナリオに、ITSを組み込まざるを得なくなっており、車と通信技術の融合は

加遠的に進むものとみられる。そしてこのような通信技術と自動車産業の融合、ソフトも

含んだ車の高度化こそが、21世紀に第5段階へ踏み出す目本の自動車産業の発展形態の1

つであると考えられる。

図表3.2-9携帯電話・

万人 PHSの累積加入者数の推移

6,OOO

5,OOOPl-1S

4,OOO

3,OOO

2,OOO

1,OOO 携帯電話1[1

O96 97 98 99

(出典)各杜ヒアリング

一85一

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第4章 ITS産業の市場動向と普及のための課題

4.1調査対象

本報告書でのITSの調査対象を4つのカテゴリーに分類し、計10項目のITSサービスに

ついて調査した。

4.1.1 一般乗員への情報提供に関するlTS

ドライバや同乗者への情報提供等を目的としたITSであり、自車位置を始め様々な情報

提供機能をもっているカーナビゲーションと、このカーナビゲーションを利用して行われ

ている、VICS(Dedicated Sho血Ra㎎e Commnicati㎝s:専用狭域通信)等の交通情報提供

サービスやドライバ向け情報提供を行う民間情報提供サービスについて、「カーナビゲー

ションと情報提供サービス」として、並列的に調査した。更に、将来的なITSの車載機や

車両内のデータバスに関しても、「車載システムの高度化」と題して調査した。

4.1.2安全運転に関するlTS

安全運転支援を目的とするITSとして、「ASV(Advan㏄d Safety Vehic1e:先進安全自動

車)」及び安全運転に寄与し、走行支援を行う「AHS(Advanced Cmise-Assist Highway

Systems:走行支援道路システム)」、更には、事故等、万が一の場合にも速やかな救功が期

待でき、ドライバに安心感を与えるられる「緊急時自動通報システム」について調査した。

4.1.3交通管理者及ぴ道路管理者に関する1TS

交通管理者に関するITSとして「新交通管制システム(UTMS:Universa1Traffic

mamgement Systems)」、道路管理者に関するITSとして、実用化間近いETC(E1ectr㎝ic To11

Co11ecti㎝Syst6m:自動料金収受システム)、更には、その応用が期待される民生用DSRC

(DedicatedShonRangeCommmications:専用狭域通信)を平行して調査し、「自動料金収

受システム(ETC)/民生用DSRC応用」として扱った。また、道路管理に必要な「道路管

理用車両の高度化及び特殊車両の運行管理」にっいて調査した。

4.1.4車両管理者に関する1TS

最近、物流の発展と共に注目されている「商用車運行管理」、また、「公共交通の運行管

理」として、公共バスの運行管理を調査した。更に、救急車や消防車等の「緊急車両救援

活動支援」についての調査結果を報告する。

一86一

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4.2 一般乗員への情報提供に関するITS

4.2.1 カーナビゲーションと情報提供サービス

(1) カーナビゲーションシステム

カーナビゲーションは 歴史的には1980年代後半、高級車に搭載されたのが実用化のきっ

かけとなっているが、本格的な普及は1990年前半から急速な技術進歩と価格低下が大きく

貢献した。製品として成立することに貢献したことの背景として、具体的にはまず何より、

正確に自車位置が電子地図上に表示し、目的地までドライバを誘導できるシステムとして

完成したことが大きい。これにより、ドライバが持っている道路情報の欠如に対する不満

を解消する製品として仕上がったことが普及の大きな原動力となっている。また、地図情

報がデジタル化されたこと、VICSなどによる情報提供によって利便性が向上してきたこ

とも挙げられよう。技術的には①GPS(G1oba1Positi㎝i㎎System:全地球測位システム)、

②D-GPS(Differ㎝tia1-G1oba1Positi㎝i㎎System)、③自律航法システム、④マップマッチン

グなどの組み合わせから実現している。

(2)情報提供サービス

カー一ナビゲーションを利用した情報提供サービスは、1995年4月にサービス開始された

「ATIS(AdvancedTmfficInfomati㎝System)」を皮切りに、1996年4月より「VICS(Vehic1e

Infomati㎝mdCommmicati㎝System)」、民間では1997年4月よりdebris(Daim1eトBenz

InterServices:ダイムラー・クライスラーサービステレマティクス目本)の「ITGS(Inte1hgent

TranfficGuidan㏄System)」、1997年よりソニーのモバイルリンク、1998年4月よりトヨタ

メディアステーション(トヨタ自動車)の「MONET」、1998年6月より本田技研工業の「イ

ンターナビシステム」、1998年9月より(株)コンパスリンク(目産自動車)の「コンパスリ

ンク」と、多数の会員制、非会員制情報提供サービスが運営されている。

① VICS(Vehic1eInfomationandCommmicati㎝System:道路交通情報通信システム)

VICSは、警察庁、郵攻省、建設省の3省庁が連携して進める道路交通情報システムで、

1996年4月からサービスが開始された。VICSで提供できる情報は、現在地からの所要時

間、交通規制、遠度規制、チェーン規制、駐車場情報や、地震・津波などの緊急情報など

である。これらの情報は都道府県警察や道路管理者などから収集された情報を、(財)目本

道路交通情報センタ経由でVICSセンタに集積のうえ、ここで編集処理され、主要幹線道

路では光(赤外線)ビーコン、高速道路及び一部の一般道路では電波(準マイクロ波)ビ

一コン、広域エリアに関しては㎜放送波で利用者発信される。

VICSサービスは、1999年12月末現在、15エリアで運用されている。2001年度末まで

には第2期展開として、28エリアでのサービスが開始される予定である。当初、2015年末

までに3期に分けて、段階的に全国サービス展開とされていたものが、ここまで前倒しで

実施されてきている背景には、予想以上に急速にユニットが普及してきたことがある。1999

年12月末時点での累積出荷台数は162万8千台となっている。このように急速にシステム

一87一

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年12月末時点での累積出荷台数は162万8千台となっている。このように急速にシステム

が普及した背景には、

a.ユニット自体が本体価格の中に最初から入っていることから、別売で買う必要がなく、

また情報提供料も無料であることからユーザの負担感が少ないこと、

b.VICSの情報が、最も二一ズの高い道路交通情報に特化されていること、

などが挙げられよう。

今後、VICSユニットがカーナビゲーションにほぼ標準装備として装着されることとな

れぱ、カーナビゲーションの台数増加分に比例して普及が進んでくるものと思われる。た

だ、純正カーナビゲーションに標準装着されるべきか否かについては、「一部の地域にしか

提供されていないサービスを純正搭載するのは間題あり」という考え方もあることから、

今後、サービスエリアが拡充され、VICSの全国展開がなされる事が条件となってこよう。

② 民間情報提供サービス

多くの民間情報提供サービス会杜(図表4.2.1-1参照)が運営を開始してから1~4年を

経てきたが、現段階では、業界は依然として揺藍期の域にある。各主体がさまざまな方式

(カーナビゲーション操作発展型、PC-Intemet利用型、オペレータ対応型)で、それぞれ

にコンテンツやビジネスモデノレを工夫しながら市場の拡大を目指しているが、現段階では

サービス開始からまだ間もないこともあり、各杜ともドライバにとって本当に必要なコン

テンヅは何なのか、どうすれぱ普及を促進できるのかを模索している段階にある。しかし

ながらこうした環境下、各杜各様のスペックで独自方式で行っている中での膨大な先行投

資となる開発コストの負担は決して軽いものではないことから、「モバイルウェブ推進協

議会」などのように、共通化できるところの共通化は進めていくべきであるという動きも

でてきている。

VICSと対比して普及が思うように進んでいない背景は、追加的に専用ハードを購入す

る必要があるなど初期コストが高いこと、携帯電話の通話料金の他、情報提供料が追加的

に毎月(年)かかること、費用対効果の関係が分かりにくいことなどの理由が考えられる。

一方で、2000年春には、携帯電話を利用した情報提供サービスで急成長しているi-mode

が、カーナビゲーションと連動させたシステムのサービスも開始する。これはこれまでの

システムと比べ、「1件当たり情報量」という切り口では劣るものの、i-mode対応携帯電話

保持者は初期コストがほとんどかからないこと、パケット通信を利用することで、反応が

早く、利用者がストレスを感じにくいこと、などの特徴を持っており、「情報コンビニ」的

性格ながら、車内情報化を一気に進める可能性も秘めている。「敷居が低く、奥行きが深い」

ことが、老若男女が利用する自動車において普及率を上げるための鍵となろう。

一88一

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図表4.2.1-1 各社情報提供サービス比較

主導メーカー サーピス名 サーピス形態 サーピス開始時期 入会金桧費(円)

トヨタ自動草 卜…1タメディアステーション 通信(携帯) 1998.4一 2,500’6,000

(M◎NET) (年内:O’6,000)

目産自動車 目産カーライフサポートサービス 通信(携帯) 1999.9一 3,500旭0.OOO

(=1ンパスリンク) {ラ朴ユーザー:3.500115仰O〕

本田技研工集 インターナビシステム 通信(携帯) 1998.6~ 2,500’O

ダイムラー・クライスラー StarGuide 通信(携帯) 1997.4一 5,OOOρ4,000

(StarGuide) (年内:0112,000)

ソニー モバイルリンク 遍信(携帯) 1997.11一 無料(ソニー) (1999春より休止中)

東芝 モバイル放送 衛星放送 2001~ 課金(金額は未定)

(出典)各種資料、ヒアリングをもとに自動車走行電子技術協会作成

(3)市場動向

本報告書では今回、ITSの中では市場として最も先行して成長している同分野において、

1,700億円市場(出荷べ一ス、ディスプレイ除く)に育った同市場についての現状と、今

後の見方について、カーナビゲーションメーカを中心に計30杜にアンケート調査を実施し、

18杜から回答を得た。質間項目としては、①カーナビゲーション事業の経営実態にっいて、

②カーナビゲーションの高度化の方向性について、の2点について質間した。

まず、カーナビゲーション事業の経営実態については、O~5%の黒字が2杜あったもの

の、10%超の赤字とする会杜が4杜、未回答ながら、収益的には厳しいとする会杜が多数

あった。これは、1)市場自体は成長市場であることから参入企業が多く、競争が厳しいこ

と、2)ソフトの改良開発コストがカーオーディオなどと比較して負担が大きい上、継続的

にかかるコストも比較的高いこと、3)構造的にハードでは収益を確保することが難しい環

境になりつつあること、などの背景があることが考えられる。

次にカーナビゲーションの高度化についてであるが、「カーナビゲーションが情報系ネ

ットワークのコアシステムとなる」あるいは「カーナビゲーションが走行系、制御系を含

めて車内ネヅトワークのコアシステムとなる」とする回答が全回答の55%と過半数を超え

た。一方で、カーナビゲーションはあくまで車内情報系ネヅトワークの中での一機能とし

て存在していくとする回答も45%あり、カーナビゲーションを中核システムとして位置づ

けている企業とあくまでサブシステムという位置づけで考えている企業で二分されている。

カーナビゲーションシステムの1998年度の年間総出荷台数は、前年度比19.8%増の141

万台に達した。傾向としては、前年度に引き続き100万台の大台を維持しており、伸び率

自体は減少しているものの、引き続き市場は成長局面にある。また、DVD-ROM搭載モデ

ルの伸長により、市販製品の比率が再び高まったのに対し、自動車販売台数の減少が著し

かったこと(前年比6.5%減)、市販製品において、DVD-ROM搭載など魅力度の高い製品

が投入されたことなどもあり、純正製品の伸びが鈍化した。

一89一

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以上のような実績と将来動向のヒアリングを踏まえて、今後の中期的な市場動向を予測

するに当たっては、

a.価格についてはDVD-ROMタイプ投入効果の一巡、部材コストの低減から、再び漸次

低下の方向に向かう、

b.短期的(~2000年)には国内自動車販売台数の低迷、DVD-ROMという新機軸効果の

一巡から、成長率は鈍化する、

c.中期的(~2005年)には、ETC、情報提供サービス、緊急通報サービスなどとの融合か

ら購買意欲を促進、2005年度には、登録車(除く軽自動車)の2台に1台、軽自動車

の4台に1台が搭載される、ということを前提とした。

また、2003年度、2005年度の自動車の国内全需(販売)を650万台、680万台、同様に

特殊車両を含む保有動向を7,300万台、7,400万台となることを前提としている(詳細は

3.2自動車産業の発展段階におけるITSの位置づけと販売・保有台数を参照)。

以上の結果、2000年度には180万台程度、2003年度には250万台、2005年度には300万

台程度への成長が期待される。

図表4.2.1-2カーナビゲーション端末年間出荷台数(千台、年度) 図表4.2.1-3 VlCS端末年悶出荷台数(干台、年度)

(千台) (%) (千台) (%)

3,500一ナピゲーション出荷台教(案数:左軸) 72.

80.O 3,000 90.O

67.070.O

VlCS端末年間出荷台数(実数:左軸)3,OOO

純正比率(%、右軸), 2,500 ,

 80.000

2,50070.O

2,500\    6.     57,1  50.O       1,80     1,600 60.0

2,OOO音及率(VlCS/ナビ、Z、右軸 1,875

60-050,O

2,000 50.O

35.9 1・414 1,180 40.O1,500

1,080 40.O1,500

30.O 1,OOO 800 30.O1,000

890 577646 20.O 314 20.O

3 1500

500 1149 10.O

10.O

O 0.0

O O.O

96 97  98 99 0093  94  95  96  97  98  99  00  01  02  03  04  05 01 02 03 04  05

(出典)(財)自動車走行電子技術協会(出典)(財)自動章走行電子技術協会

VICSは、市場の立ち上がりが4年目と比較的間もないシステムであるにも拘わらず、

その普及には目を見張るものがある。1999年度のカーナビゲーションヘのVICS搭載率は

50%を超えるレベルに達するものとみられ、VICSはハイエンドのカーナビゲーションにと

ってほぼ標準機能の一部となった感がある。市販用カーナビゲーションのほとんどにFM

多重対応のユニットが内蔵されている他、3メディア対応ユニヅト内蔵型製晶も目立っよ

うになつてきている。普及が急速に進展した背景は4.2.1項で述べた通りであるが、1997

年末に高速道路に設置される電波ビーコンが全国に約6,000基、一般道路に設置される光

ビーコンが1999年現在で約20,OoO基(2000年にoo,000基)と、インフラが充実してきてい

ることもフォローとなっている。これによりフローで2005年には240万台程度、カーナビ

ゲーションの80%程度に標準装着され(図表4.2.1-3参照)、路車間通信としては最も普及

していくシステムの1つとなっていることが予測される。ただ、カーメーカ側が、ライン

純正品として標準搭載されるためには全国サービスが開始されている必要があるという考

一90一

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え方がある一方、費用対効果を考えた時のインフラ整備の全国展開の是非についての議論

は分かれるところである。

4.2.2 車載システムの高度化

カーナビゲーションの進化のスピードは貝覚しいものがある。まさに情報系中枢端末と

しての地位を確立すべく進化が進んでいる。またそれと同時に、カーナビゲーションの高

度化と切っても切れない情報通信においても、技術の急速な高度化が進行している。こう

した情報通信の発達により、世界全体がより垂直統合から水平分業的なシステムを指向し

ている流れが感じられるが、車載システムにおいても同様に、世界的に、水平的な結合が

進行している。従って、ここでは車載システムの高度化についても、こうした水平分業的

な切り口でその進化をみることが妥当であると考えられることから、以下、階層別に分類

することで、各階層における動向について言及、最後に今後の車載システム産業の育成と

その課題について言及する。

(1)プラットフォーム (ネットワーク接続機器の集中制御)

自動車で敢り扱う情報量が増加してくるに伴い、それをいかにコントロールしていくか

という間題が発生する。このように増加した情報機器をどうネットワーク化する中で制御

していくかについては、①現行のナビゲーションの進化型による制御、②専用CPUを搭載

する、いわゆる車載用コンピュータによる制御、③共通規格ソフトを活用し、各機器で分

散制御、という3っの考え方に大別できる。

(2)車内LAN(有線)

ITSにおいては、情報系と車両側(制御系十車体系)とのインタラクティブ化による、

より安全・快適な車両運行の実現がポイントとなっている。一方で、次世代の情報系ネッ

トワークにおいては、より大量のデジタルデータを取り扱う必要性から、伝送容量の飛躍

的拡大が望まれている。

(3)通信

昨今では携帯電話の急速な普及により、公衆電話回線網を利用した情報交換が、車内に

おいても利用者が激増している。また、インターネットの普及により、高度化された情報

通信技術を活用することで、音声通信のみならずさまざまな情報を入手できるヅールとな

りうることを証明した。こうした環境下において、車載機器の高度化における通信のキー

ポイントとしては、

①携帯電話やPHSなどの移動通信用無線公衆電話回線を通じた情報交換

②同一車内の車載機器、携帯機器間の無線によるシームレスな情報交換

③車外専用インフラと車間の無線通信による情報交換

④車載無線機を利用した他車・歩行者や障害物等との通信

一91一

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の4点が挙げられよう。

(4)放送

無線による大容量情報の伝達、或いは、同時に多数の人々に情報を伝達するという意味

では、放送が最も進んだ形態である。現在国内の放送においてはCSのみがデジタル化さ

れているが、今後BSでは2000年末にデジタル化が、地上波でも2003年度末からデジタ

ル化が予定されており、全てに於いてデジタル化が実現されようとしている。こうした一

方で、移動体専用の衛星放送もサービス開始に向け旗揚げ準備が着々と進められている。

これらの中で、一般の衛星放送はアンテナの感度・向きやサイズ、電波遮蔽状態への対応

の面で、車での利用には適していない。車での受信に適したものとしては、移動体用衛星

放送(モバイル放送)、地上波映像放送(TV)、地上波音声放送(ラジオ)が挙げられる。

(5)記録再生媒体

放送、通信等の取り扱い情報の伝送幅が拡大していく中で、それらを記録するメディア

においても大容量化・デジタル化が進んでいる。具体的には、

①車以外(家等)でコンテンツを記録(ダウンロード)した、あるいは予め記録済みの

パッケージメディアを車内に持ちこむ(これまでと同様の使い方)。

②車内でコンテンツをパッケージメディアに記録(ダウンロード)し、車以外で使用す

る時はそれを車外に持ち出す。

③車のみで使うことを目的に、必要に応じてそれを車内でコンテンツを記録、非可搬型

メディアに記録する。

という0通りの形態で使われてくることが考えられる。

(6)産業育成(創出)への課題と提案

ITSのリーディング産業として位置づけられるカーナビゲーションシステムは、1998年

の段階において、市場規模で1,700億円を超えるまでに成長した。普及率という意味では

1999年度時点で約9%(7000万台前後の保有台数に対して累計出荷620万台程度)と、ま

だまだ成長過程にある製品であり、今後ともITSの牽引役として、また車内の情報系ネッ

トワークのコアシステムとして、中枢的な役割を果たしていこう(図表4.2.1-4)。なお、

図表4.2.1-5に、当分野の課題等をまとめた。

一92一

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図表4.2.1-4 カーナビゲーション市場予測

動車販売台数動向

93   94 95 96 97 98 99 OO 01 02 03 04 05

登録車 4.789 5.038  5,153 5,5仏 4,732 4,200 3,920 3,960 4,280 4,500 4,750 4,950 5,O00

軽自動車 1.600 1.659  1〃2 1,7仏 1,543 1,667 1,830 1,740 1,720 1,700 1,750 1,750 1,800

カーナビゲーション販売台数予測千台、年

93   94 95 96 97 98 99予 00予 O1予 02予 03予 04予 05予

総出荷台数 149  347   6妬 890 1,180 1,414 1,600 1,800 2,100 2,300 2,500 2,700 0,O00

市販合計 146  296   414 445 452 606 640 680 730 760 800 810 840

純正合計 3   51   232 445 728 808 960 1.120 1,370 1,5珊 1,700 1.890 2,160

■…  ■1I…  1■1・.■一■一■■i‘..・・■■,一‘一I‘・・■・一1■一一■■■■■■1■■一‘‘■‘・一一・・.・・■■■i一・一・・1一■■‘一..I1I■■一一一一一一・一一一一一.・.1.一■一■■i‘‘一ii・…  ■i‘.・■ii‘・‘一一..iI・..一・・.I一・・■・・..一…  ‘・.市販          146  296  414  45  452  606  640  680  730  760   800  810  840

C】)一ROMタイプ 146  296   414 445 352 306 290 280 270 260 250 240 230

DVレROMタイプ 0   0 0 O 100 300 350 400 460 500 550 570 610一■一■一1一■■一■■一一一■・.一一.■.一1一・■・■一i一・.・■一・.. ・1・一…  1■I-i i・I・11■・一一i■.一I-1■■■■一■一.…  .・.一一一■■i■■■一一・‘一‘.一 一・■■‘一I i i i一・i・・..一.・I・‘・i‘‘‘一i■i一一‘・.・・ .・・l l..…  .・I-I.純正          3  51  232  仏5  728  808  960  1.120  1.370  1.540  1.700  1’㎜  ム160’

CD-ROMタイプ 3   51   232 445 708 708 740 800 870 820 780 750 730

DVD-ROMタイプ O   O O 0 20 mO 220 320 500 720 920 1,140 1,430

力一ナビゲーション 場規模予測百万円、年 )

93   94 95 96 97 98 99予 00予 O1予 02予 03予 04予 05予

総出荷金額 62,000 92,000 131,O00 15ム000 171,OOO 187,O00 205,000 213,000 223,O00 217,OOO 215,OOO

市飯合計 43,O00 50,000 54,000 76,000 82,OOO 88,000 90,㎜ 84,000 80,OOO 73,000 68,㎜

純正合計 19.O00 42,000 77,000 76,000 89,000 99,000 115,000 129,000 143,000 1仏OOO 147,000

VICS販売台数動向

93   94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05

台数 128 314 577 800 1,080 1,365 1,610 1,875 ム106 2,400

(出典)(財)自動車走行電子技術協会

図表4.2.1-5 各分野での市場拡大に向けた課題

間題点・課題 提案

カーナピゲーション 取り付けが面倒くさへ軍種でそれぞれ違う 仕様の共通仏コネクション部の簡素仏推奨規格の提示。やつぱり高い 市場規模に見合った参入メーカー数へ。量産効果が働く提携戦略を。

操作が複雑 音芦圏識レペルの向上。

VlCS エリア限定 全国艮開(社会情報インフラとしての位置づ1ナで、公共性を優先)。

情報の運延(リアルタイムでない) リアルタイム情罰を提供できるかたち(実用性の向上)に法改正。

菜務限定(交通情報のみ) 目本道路交通情報センターとの役割を明確化の上、民間との協業含め多角化。

その他情報提供サービス 敷居が高い 手続きの簡素仏Al1in one(通信料1情報料のパッケージ化)での提供。

サービス料が高い インフラの共通仏顧客情報の活用による大きなビジネスモデルのなかで回収

顧客数が少ない 情報提供サーピスのみでの課金ではなく、複合的なサービスの提供が必要。

(出典)(財)自動車走行電子技術協会作成

ITSにおいてはどのような方策が必要なのであろうか。我々はこうした変化の中で、ITS

が産業振興としての役割を果たしていくためには、大きく2点に集約される提案があると

考える。1つは世界中どこでも通用する要素技術の育成に注力すること、もうひとつは冒

頭でもコメントした通り、 最適化杜会を構築するシステム構築において、アーキテクチャ

を明確に打ち出すことである。

要素技術の育成という意味では、現時点において携帯電話端末などに使われる目系部品

メーカの健闘ぶりをみる限り、 国際競争において比較優位にあると考える。従って、最大

の課題はこうした比較優位を殺さずに生かせるかたちに持っていくためのシステムアーキ

一93一

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テクチャ作りにある。特にITSがどういった枠組みで運営されていくのか、今後時系列で

みた場合、国家としてどういうステップで新杜会システムを構築するのかのロードマップ、

ルーノレづくりが急務である。

また、階層間の交流をスムーズに行うための言語の標準化も重要な鍵の1つである。水

平分業が進む中で最も重要なことは、各層間のインターフェースをいかに共通化できるか、

これをスピードを持って実現一させていくことが、システム構築に最適な技術を新杜会シス

テムでの利用に実現させるため極めて重要であろう。

ITSが産業振興という意味で有効であることに議論の余地はない。しかし、それをいか

に国際競争力のある、かつ波及効果の大きなものとしていくものにしていくかについては、

r新杜会システム」におけるシステムアーキテクチャの早期確立の可否にかかつている、

といえるのではないだろうか。

4.3安全運転に関する皿S

4.3.1 安全運転支援

(1)システム

安全運転支援は、以下のサービスと機能を利用者に提供するシステムである。

①走行環境情報の提供:視界低下時に事故を未然に防止することを目的に、走行環境をリ

アルタイムに情報提供する。

②危険警告 :衝突などの事故を未然に防止することを目的に、道路前方の障害

物情報をドライバに警告する。

③運転補助 :衝突や車線逸脱による事故を未然に防止することを目的に、危険

警告に車両の自動制御機能を付加する。

④自動運転 ドライバの負荷軽減と交通事故低減を目的に、走行環境に応じて

安全に自動走行を実施する。

安全運転の支援は、建設省が推進するAHS(Advanced Scmise-Assist Highway System:走

行支援道路システム)と、運輸省が推進するASV(Advan㏄d Safety Vehic1e:先進安全自動

車)が中心となって進められている。これらAHS,ASVは98年より合同作業部会を設置、

連携に向けて動き出しており、2000年の1O月~12月には共同で走行支援システムの実証

実験「スマートクルーズ21」を実施する。この実証実験は2004年以降に計画されている

スマートウェイ化に向けても注胃される。

スマートウェイでは、①渋滞の緩和などによる、人・モノ・情報の移動の効率化を促進、

②安全性向上による交通事故の大幅削減、快適な生活空間の実現、③地域の情報ネットワ

一ク形成などによる活力ある地域杜会構築、安全で安心な国土形成、④スマートウェイの

実現による世界的課題の解決、技術面における国際貢献を目指している。

一94一

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(2)産業育成(創出)への課題と提案

①制度・基準類の整備

安全運転支援はASV,AHSに代表されるように、車両の安全機能の向上と、路側からの

情報提供があるが、前者にっいては道路運送車両法、後者については道路法、電波法が係

わる。例えぱ、道路運送車両法における保安基準の整備は、安全運転支援システムの実用

化に向けて必要となろう。この中で、保安基準に関係する自動ブレーキ制御基準にっいて

は、運輸省が暫定的に技術指針を定めるといった動きも出てきている。AHS研究組合では

制度・基準類の整備を2001年度に行う予定である。

②杜会的な啓蒙とコストダウンによる価格低下

現段階では、実用化されているASVシステムの価格は相対的に高く、主に高級車のオプ

ションとされている。今後はメーカによるコストダウン、安全運転支援システム導入効果

の宣伝など杜会的な啓蒙による量産効果を期待したい。また、普及の初期段階においては、

安価な保険料設定などのインセンティブも有効といえよう。

③自動車側とインフラとの協調と整合性

ASV開発はこれまでの自律的制御システムの開発から、インフラとの協調段階へ進みつ

つある。但し、各メーカの開発はインフラ待ちの状況ともいえる。この状況で2000年の「ス

マートクルーズ21」の位置づけは高い。また、今後のインフラは、自動車側との整合性に

加えて、建設コストと自動車側の負荷のバランスが重要となる。インフラの投入は、事故

発生率の高い箇所から予定されているが、自動車のオプションとしては’部地域でしか効

果のないシステムを標準装備できない点も考慮する必要がある。

④関係省庁間の協調

インフラ協調の面における建設省主体のAHSと警察庁主体のDSSS(Drivi㎎Safety

SupPort Systems)との安全運転支援システムの整合性など、関係省庁間の協調は、実用化

へ向けて一層必要性が高まってこよう。2001年の1月に運輸省は、建設省、国土庁、北海

道開発庁と統合され国土交通省となる。これまでASVとAHSとで安全運転支援システム

面における重複もあったが、システムの統合化、効率化が図られることが期待される。

⑤HMI(HumanMachineInterfa㏄:ヒューマンマシンインタフェース)

安全の確保の究極は運転者の判断であり、ITSはあくまでも運転支援である。ASV的車

両の安全機能の向上は、運転者の負担を軽減する。また、AHS的情報提供は運転者の安全

性・快適性向上につながる。ASV,AHSによる安全運転の支援は、視覚、聴覚、触覚によ

る情報伝達であり、いわゆるHMIである。HMIは安全運転支援システムの範囲拡大と共

に、一層重要性が高まろう。ドライバにとつて過剰な情報、複数の警報装置などは、操作

性、非常時の対応面などで支障を与えることもありうる。また、安全運転システムの作動

が、ドライブの快適性を妨げてはならない。

一95一

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⑥交通情報

AHSでは安全性の向上と並び効率・環境の向上といった目的があるが、安全性のように

データがなく、重点サービスも決まっていない。交通流の最適化に向けて必要とされる情

報も多いが、現在の情報公開は限られている。効率・環境の向上に関する対応時期も未定

である。

4.3.2 緊急時自動通報システム

(1)システム図表4.3.2-1緊急時自動通報システム

鰯灘萎嚢理≡≡≡芸≡≡≡≡≡茎圭≡=≡#==l1萎萎1葵嚢鍵1

1998年度の交通事故発生件数は約80万件、

負傷者数は約99万人で共に過去最悪を更新

    撒窒1護嚢蓋 饗霧11…≡≡萎1111≡…萎11騒一一綴撃一一一戸ぺ・  、多   、}

し、交通事故による死者は漸減傾向にはある繊 謹11≡1 劃

’’’…11

ものの9,200人にも達している。琴11111魏

・・洲麟1111灘  1妾…

緊急時自動通報システムとは、自動車で移 ’

l11襲11… 二;…:・.1’  ’‘

動中に交通事故や急病が発生した場合に、自嚢…≡鱗

動あるいは手動でのボタン操作により、携帯 鰯騒 11蟻・繍’・・乞.≡“

=繋.、.

電話や自動車電話のネットワークを通して緊

急通報受付センタに連絡するシステムである。燃  榊…≡…≡…驚繋鶉’.

   ≡’≡・鰯譲1111嚢鰐鰯≡≡≡萎1姜姦≡1≡・肚・鱗、一

o

このシステムは、通報発信の位置、通報発信嚢

車両情報(車種・色・ナンバー等)等の情報を

ザ玲ξ瓶’滅   鰯

(出典)UTMSホームページ管轄の警察本部・消防本部に伝達する(図表4.3.2-1,4.3.2-2参照)。

このサービスにより、運転者、同乗者が重傷

を負い自ら通報できない場合や、通報者の気が 図表4.3.2-2緊急時手動通報ボタン

動転している場合、あるいは通報者が地理的に :萎姜萎萎1…1≡l1l≡≡≡≡≡≡… ・籔鰻

不案内な場合においても、緊急通報受付センタ 雛≡葦≡==

がGPS等により迅速な位置特定を行うことが

、綴嚢

・灘:嚢.整鑛

誰11111護…萎萎姜11灘……

駁片:: 萎111

可能となる。従って、期待される効果として、 譲萎111111111111咄彗11

緊急事態から警察・消防等への通報時間の短縮、柑揖培1揮=1:

通報時間短縮による交通事故死者の低減や傷害

程度の軽減、さらには③交通事故に関わる2次災害の防止や渋滞緩和に寄与すると考えら

れている。

ダイムラー・クライスラーサービステレマティクス目本によると、ドイツ郊外で行わ

れた調査では緊急時自動通報システムの導入により、通報から緊急車両の現場到着までの

所用時間が21.2分から11.7分となり、45%短縮されたとの報告がされている。

また、副次効果としてではあるが、事故に遭遇した場合に、自ら運転している自動車に

は緊急事態が発生しなくとも、近傍の車に緊急事態が発生した時に、緊急通報受付センタ

に素早く連絡することにより迅速なる事故・傷害処置が可能となることが想定される。こ

一96一

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れは、自動車保険やチャイノレド・シートと同様に、より安全な交通環境を実現する「社会

システム」の1つとして、この緊急時自動通報システムが評価される点であろう。

(2)現状

米国では1996年にGMが「OnStar」、フォードが「RESCU」としてサービスを始め、ダ

イムラー・クライスラーが、欧州ではrTe1eaid」を1998月1月から、目本では1998年9

月に「E-ca11」として開始した。さらに、国内自動車メーカ8杜と電機、車載機、通信事業

者、損害保険会杜など合計40杜が、1999年9月に「(株)目本緊急通報サービス」を設立し

た。これは、警察庁のITS施策を推進する「新交通システム推進協議会:UTMS」の緊急

通報システム分科会で1997年7月より検討されてきたシステムが発展したものである。サ

一ビス開始は2000年を予定している。図表4.3.2-3に主な緊急時自動通報システムをまとめ

た。

図表4.3.2-3 主な緊急時自動通報システム

名 称 E-cal1 目本緊急通報サービス 0nStar RESCU対象地域 目本 目本 米国 米国

参加企業 ダイムラー・クライスラー 自動車メーカ8杜、 GM及びSaab Ford,Motom1a,サービステレマティクス目本 電器メーカ6杜、車 Westinghouse,

載機メーカ8杜、電 PmtectionOne

気通信事業者6杜、Mobi1e

損保8社、銀行3杜、警備1杜

一ビス開始時期 1998年9月 2000年予定 1996年 1996年サービス内容 車載センサカ…衝撃や 交通事故や急病が 97年型キャデラックに 96年型リンカーンコンテネン

横転を検知すると 発生した場合、自動 初搭載。路側援助 タルから搭載。路側援

E-ca11センターへ自動 あるいはボタン操 /救急サービス/経 助と緊急サービスの二

通報。送信データ 作により携帯電話 路位置決定支援/ っのボタンがある。

は、車体番号/位 網を通じてサービスセ エァバッグ自動検知 通報を受けたセン置情報/血液型な ンタに通報。センタ /遠隔ドアロック/窃 タは、必要な援功を

ど。急病時には手 は発信位置/車両 盗検知通知/盗難 外部機関に要請し、

動通報も可能。 情報などを把握し 車両追跡などのサー その後は間題解決最寄りの警察及び ビスがある。 までフォローする。

消防に伝達する。

会 費 入会金なし 入会金6,OOO円 月会費22.5ドノレ 不明

月会費2,000円 年会費4,000円 =約2,360円

車載機価格 SクラスとSLには標 ハンズフト1GPS1送受 約1,900ドル 約2,200ドノレ

準装備。Eクラスと 信電話機能などの =約20万円 =約23万円CLKにはメーカオ 一体機で20万円。プションで約20万円。 手持ちの携帯電話ドコモの送受信電話 を接続するタイプ

機能内蔵。 も検討中。

会員数 約2,OOO人 5年で10万人 75,000人 不明

(2001年までに百万台の車に装備)

(出典)各種資料より(財)自動車走行電子技術協会作成

一97一

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(3)産業育成(創出)への課題と提案

ダイムラー・クライスラーサービステレマティクス目本によると、現在のE-can会員

数は約2,OOO名で、サービス開始後1年間で約120件の緊急通報があり、そのうち5件が

自動通報であった。E-canセンタには12名のオペレータがおり、このうち2~3名が24時

間体制で緊急通報への応対に当たっていると言う。会員数と月会費、オペレータ数から考

えて永続的運営に関して経営上問題がある考えられる。

ダイムラー・クライスラーサービステレマティクス目本と目本緊急通報サービスは、

r緊急通報システムは杜会インフラとして一本化されるべき」との考えで基本的には一致

しており、将来的には、受付センタの共用化から始めて、システム統一の方向で検討した

いとのことである。高級車を対象として、酎衝撃性などの信頼性を維持するためには通信

(携帯電話)機能内蔵の純正品以外はないとする考えから、限定的なマーケヅトを対象と

してサービスを想定してるダイムラー・クライスラー サービス テレマティクス目本と、

より幅広い車種に普及させることを第一義的な目的に考え、後付け対応や手持ちの携帯電

話の接続も視野に入れている目本緊急通報サービスとに考え方の違いはある。

しかし、まずは、最も維持費のかかる受付センタを、目本緊急通報サービス開始までに

一本化する方向を探ってはどうか。1年以上の実績を持つE-ca11センタを拡充し、両者で

共用するのが現実的な方法と思う。

また、通信機能内蔵型が純正対応での主流となるだろうが、携帯電話が「個電」となり1

人1台となった現在では、一度も使わないかもしれないE-ca11システムに毎月数千円の基

本料を払い続けるのは現実的ではない。実際に緊急時通報を行った際には、高い価格設定

がなされても納得がいくであろう。しかし、まったく無事故であるのに、月極めで高い費

用がかかるというのでは、利用者から賛同は得られない可能性が高い。従って、通信事業

者との連携によるr平時・無事故の時」の基本料大幅減額が、緊急時自動通報システムの

普及には必須である。

次に、目本での緊急時自動通報システムの推進役を果たすであろう目本緊急通報サービ

スには、前述のように警察庁が当初よりこのシステムの立上げに関わつており、警察庁の

協力体制に間題はない。一方消防庁としてはr全国消防庁会」が受皿となって目本緊急通

報サービスと協定を結び、全国に932ヶ所ある消防本部のうち、当面は大都市圏の50の消

防本部がこのシステムに対応するとしている。警察庁はUTMSを柱に積極的にITSを進め

ている一方で、VERTIS設立に関わっていない自治省管轄の消防庁に対して、今後積極的

な参加が各方面から強く期待されている。確かに、予算上、消防関係の参加は厳しく、救

急車やポンプ車の台数を増やすことが、先決事項であるとの声も聞こえてくる。しかし、

緊急時の救急活動において最も重要な役目が期待される消防庁だからこそ、ITSに対する

積極的な参加が望まれる。

最後に、前述のニューヨークでの実験が目本にとって示唆的な点は、第1に医療チーム

の第一線の人間が積極的に参加し、警察/消防/病院/システムエンジニアリング会杜が

評価に参加していることであり、第2に評価システムを積極的に公開して一般ドライバか

らのフィードバックを重視している点である。目本においても、医療機関の積極的な参加

と蓄積情報の公開が今後おおいに期待される。

一98一

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4.4 交通管理者および道路管理者に関するITS

4.4.1 新交通管理システム

(1)システム

UTMS(Universa1Traffic Mamgement 図表4.4.1-1UTlMS21の構成

Systems)は、1993年に警察庁交通課の ,  。=

構想に基づき「新交通システム推進協lllllll1灘11111111111

l11盤11霧

議会」が官民共同で発足したのに始ま歩行者支援

る。この推進協議会と「交通管制施設窺1111111

協会」を統合して1996年4月に『杜団

法人新交通管理システム協会』が、イ 交通情報提

ンフラ/車/車載機器メーカ45杜を蓬護

華計

正会員に、その他7杜2法人を賛功会拶 夢

交通公害低減

員として発足した。これが警察庁が実 高度画像情報   一一卓一:1雛S薦=通管 ざ

榊■君

鱗・

現を目指しているUTMS構想の開発団

嚢≡lll1l≡萎

覇1§…中

体である。1999年5月時点で59杜4 緊急通報安全運転支援 、、

法人が会員となっている。

警察庁は、『UTMS構想は,警察庁の

嚢1

公共車両優先 緊急車両支援

ITSを支える施策で、将来の道路交通(出典)UTMSホームページより自動車走行電子技術協会作成

に関する「夢」の研究を行うのではな

く、現実を見据えてすぐに利用でき、また将来に渡っても使用できるシステムの研究開発

を推進するもの』と言っている。現在では、『次世代交通管理システム:UTMS21』として

10のサブシステムから構成されている(図

表4.4.1-1)。 図表4.4.1-2 光ビーコン

(2)現状藍ξ1…

:釜艶

』㌔タ\~  、.ノ   ’㌧

1 \

警察庁はUTMSの基幹技術を、r光学式l1l..

 もw幾娩“.

車両検知機(図表4.4.1-2、以下光ビーコン1:111l1著

と言う)」と 「交通管制システム(図表

  11l1鱗鰹灘

4.4.1-3)」と位置づけている。1葦一銭簸湾11難一一

全国には約17万台の信号機が設置されて,111:11蟄 ・鐵蝋

おり、そのうちの6万台が交通管制センタ

繁顯榊“ ヌ ’’一’

一のコンピュータに接続されている。また、恥7一

近赤外線(850nm,950nm)を使用した光ビー

コンは、①車両検知機能と②光ビーコン端

末搭載車両との双方向通信機能を持ってお(出典)UTMSホームページより

り、全国に約2万基が設置されていて、2001年3月までに3万基まで増設される予定とな

つている。

一99一

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光ビーコンのメリットとしては,電波管理の影響を受けない/ビームを絞ることにより

車線別に情報を送れる/1Mbpsでの双方向通信が可能、という3つが上げられる。

この他に、超音波式車両検知機と呼ぱれる車両検知機能だけを持ったものが全国に12万

基,ITVカメラが2,ooo基設置されており、これらが交通管制センターに接続され、情報

の処理/分析や信号機の制御および交通情報の提供を行っている。

図表4.4.1-3 交通管制システム

《情報の収集》 《情報の処理■分析》 《情報の提供》

鞘 ..

1111撚::=1蝋鉋

葦嚢鰯黎跳

:茎.ll・=一

一メ為⇒鍵汁簑震瑞⇒          鐙11  170か所      ;;嚢・

滋竈葦葦・童¶㎞ 光ピーコン軍載端末

莚=・

義’l1lll}

、…≡1交通情報提供板(3000基)

養:l1繍#1=^’

蟹1……l1嚢麗襲溺汗葦欄一 《交通制御》一三嚢.一1≡祭

嚢榊:榊灘=…:轟1蝋、、  .=胆=

駝閉一’ 踏

耐 ::発 、..鰭.

・.“・ 交通信号機(6万基)

(資料)UTMSホームページより自動車走行電子技術協会作成

(3) 市場動向、技術動向、産業育成(創出)への課題と提案

UTMSのサブシステムの中で、実現に向かいつつある4つのサブシステム(HELP,pTpS、

MOCS,FAST)については、4.3.2,4.5.2及び4.5.3に詳細を記述してあるので、そちらを

参照されたい。

1998年度に各県讐の交通部長を議長とする「UTMS推進連絡協議会」が設置された。 こ

れは、地方の第一線における現場での官民協力によってUTMSの推進をしていこうとする

ものである。

電波ビーコンとの共存が議論されてきた光ビーコンであるが、双方向性を始めとする光

ビーコンならではの特性が徐々に認知されてきており、これを生かした本格的な民間利用

が多いに期待される。

また、光ビーコン車載端末で受信できる情報は、現在では交通情報提供板からのものと

基本的に同一である。走行中に、一瞬の内に読み取らなくてはならない交通情報提供板と、

より詳細な情報を一定時間表示できる車載端末とは提供情報が異なるはずであり、今後は

ユーザニーズに沿った車載端末向けの独自情報提供、すなわちコンテンツの多様化が望ま

れる。

一100一

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4.4.2 自動料金収受システム(ETC)および民生用DSRC応用

(1)システム

概要

ETC(E1ectmic To11Co11ecti㎝system:自動料金収受システム)とは、料金所ゲートに設

置したアンテナと通行車に装着した車載器との間で無線通信を用いて自動的に料金の支払

いを行い、有料道路の料金所で止まることなく通行可能にするシステムである。

目本で導入されるシステムの特徴は、海外の導入例にも一般的にみられる、

a.有料道路における料金所渋滞の解消(高速道路渋滞の約30%を占める)、

b.将来的には移動体における総合的な決済機能、情報提供機能、

としての役割が期待されている点である。すなわち有料道路のインターチェンジに加え、

駐車場、ロードサイド店、ガソリンスタンド等におけるキャッシュレス化による利便性の

向上、管理費の節減、サービス提供等も期待されている。これまで建設省及び道路4公団

(目本道路公団、首都高速道路公団、阪神高速道路公団、本州四国連絡橋公団)が実用化

にむけた検討を行ってきており、2000年からの実用化が予定されている。

海外では欧米、アジアの10数カ国でETCシステムが導入されているが、その多くが車

種ごとに単一の料金を課金するという均一料金制(目本でいえぱ首都高型)が多い。対照

的に目本では、

①東名高速等、有料道路に一般的な車種と走行距離に応じた対距離料金制の課金が可能、

②DSRC*(専用狭域無線通信)を使って、数メートルから数10メートルの距離で大量

の情報を双方向でやりとり出来るため、将来の提供サービス拡大にも対応可能、

といった高度なシステムになっていることが特徴である。

*DSRC:DEDIcated ShortRangeComm㎜icati㎝s.携帯電話や衛星放送などの広域通信

に対して、短距離・狭域・双方向移動通信のことで、多様なアプリケーショ

ンに対芯可能。路車間通信等に応用されており、電波や赤外線等を通信媒体

としたスポヅトエリア対応の通信技術。目本のETCはこのDSRCを使い、

・5.8GHz帯の電波を使用(高い信頼性、将来の拡張性、国際標準との整合性)、

・車載機と路側機がそれぞれ電波を発信/受信出来る双方向・アクティブ方

式を採用、

といったことから信頼性の高い、高度なシステムとなっている。

(2)市場動向(現在~2005年)

車載器…価格と普及策がポイント

2000年からのETC運用サービスを控え、着実に進展するインフラ整備とは対照的に、

車載器側については、大口運送業者、トラックメーカの採用意欲は高いとはいえず、一般

ユーザの関心も低い。理由として、

一 101 一

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①車載器メーカが提供しようとしている価格が、当初は0~4円(工事費込み)、本格的な

普及期でも2~3万円とみられるのに対し、ユーザの購入価格は1万円程度が上限とみ

られることからもわかる通り、運送業者や一般ユーザがコスト的にリーズナブノレと考え

ている価格を上回っていること。

②頻繁に有料道路を利用しない一般ユーザにとって、ETC専用車載器の場合、カーナビ

ゲーションと異なり、エンターテイメント的要素がない。

といったことが挙げられよう。

したがって①の場合、車載器メーカ側に、なお一層の原価低減・コスト削減努力が求め

られるのは当然であるが、特に運送業者等の大ロユーザ向けには、普及期に入るまでの間、

現行の割引料金と併せて十αの何らかの普及策が必要であるとみられる。

一方、②の一般ユーザ向けには、①の普及策と低価格化に加えて、VICSユニットのよ

うにカーナビとの一体化やモジュール製品に組み込むことにより、価格負担感を薄くする

努力が必要であろう。

したがって向こう5年程度の中期市場予測(図表4.4.2-1,4.4.2-2参照)を行うに当たり、

a.普及策が採られた場合と採られなかった場合に分ける、

b.カーナビ、タクシーメータ、カーオーディオ、その他モジュール製品との統合が図られ、

またカーメーカによる純正化(標準装備化)が進むと考え、価格は漸次低下する、

c.DSRCを利用したサービス(駐車場、高速道路のサービスエリア等での利用)は普及期

初期(立ち上がり期)で、市場拡大への貢献は限られる。

ということを前提とした。

図表4.4.2-1 図表4.4-2-2

ETC車載器の年間販売台数(万台、年度) ETC草載器の累計販売台数(万台、年度)450 1,600  r一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

400 .....、..普及策が螺られた場含.、川.、......一 = 普及策が採られた 合

■丁;460■「   ■

350

1,400  一

106040 1,200

300 ■■■■者吸瀞採られ■■■一■’1一一■一■ ■一■’’1-1■■■■■■          270一一一一奪細た場合一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一  ■1,000  ≡ が 、

250 なかった場合 720800

200 200   =600 =

1501OO 50 =

100 400

500 ■

’   一   一   1

= 1OO30

50 200 一  一1    1 』

0一

=O L____1’L_’’’__⊥______」_______i_______L__一’__」

OO 01 02 03 04 05 OO 01 02 03 04 05

(出典)(財)自動車走行電子技術協会予測 (出典)(財)自動車走行電子技術協会予測

一 102 一

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(3) 産業育成(創出)への課題と提案

市場拡大のために求められることは、

①普及促進策(インセンテイブ)

②低価格化

③民間側によるDSRCを活用した利用サービスの開発、需要創出努力

といったことであると考えられる。

長期的にはETCサービス市場とDSRCサービス市場は、極めて成長性に富んだ有望な市

場である(図表4.4.2-3参照)。電気通信技術審議会が99年2月に出した報告書によると、

2015年度にはITSの情報通信分野の市場規模は単年度べ一スで7兆3600億円程度に成長

し、そのうち4割以上をETCサービスとDSRCサービスが占め、2010年にはDSRCサー

ビスがETCサービスを上回って成長することが予測されている(図表4.4.2-4参照)。

図表4.4.2-3 多様なサービス展開が期待される(開発分野) (利用者サービス) (個別利用者サービス)

有料道路での自動

<DSRCの高い拡張性、信頼性、双方向性> 料金収受

駐車場、フェリー、

自動料金収受システム 自動料金収受ドライブスルー、ガ

ソリンスタンド等で

の自動料金収受

用車の運行管理

これら場合、普及のためには一般ユ

一ザのメリットに加え、実際にシステ図表4.4.2-4

lTS情報通信関連分野の市場予測(億円、単年度)

ムを導入する事業者メリットの提供と 80,OOO 50

いう観点が重要となろう。導入システ 70,OOO 45ス合計の比率(%)   35.51甲1111ふ■■;ll1;瓦11

40.40

ムのコストを抑えることは当然である。 60,OOO 一    ’

05

さらに50,OOO 30

40,000 ■    一 25

i)集客に貢献する情報提供、 30,000 20

20,OOO15

五)顧客情報サービス:システム導入■   ■   一   ■   ■   ■   ■         ■   ’   ■

8841O

10,O00

により既存のPOSシステムにはな一一一一1TS情報通信関連一一 5

O 市場含計(左軸) 0い顧客情報の提供、 OO 05 iO 15

(出典)「ITS情報通信システム委員会報告」電気通信技術審議会

等が、事業者のシステム導入上の強い

モチベーションになると考えられる。

一 103 一

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4.4.3 道路管理車両の高度化と特殊車両運行管理

(1)システム

道路管理車両の運行管理とは、道路管理者(国、公団及び地方自治体の道路管理部署)

に対し、道路管理車両の運行をITS技術を用いて支援するサービスであり、道路管理のコ

スト低減と効率化を図ることを目的とする。

具体的には、道路管理者の保有する工事作業車両や巡回車両、除雪車等の効率良い運行管

理を支援し、各車両の現在位置や作業状況の把握、車両との連絡業務等を行うとされている。

1999年11月に策定された、ITSのシステムアーキテクチャの中で、道路管理の効率化の

サービスを次のように規定している。

図表4-13 1TSシステムアーキテクチャ(道路管理の効率化)

(開発分野) (利用者サービス) (個別利用者サーピス) (サプサービス)

5道路管理の効率化 10)維持管理業務の (32〕道路管理糞務の支援

103.交遍調査の支援効率化

104一構造物の点検支援

105.沿道環境保全の支援

106.道竃構造物に関する情報の提

(33〕道路管理作菜 107.路面状況等の把握

の効率化108一道路管理作桑用車両の運行支

(34)・遍行規制実施の109異常気負・災書情報の収集

最適化 110.遍行規制の判断支援

111.遍行規制解除の判断支援

(35)災害復旧・復興の 112.災書発生時の状況把握支援

効率化113.復1圓用車雨の配置支緩

114値興時の道路交通情報の提供

11)特殊車両等の (36)特殊車両等の管115.特殊草両の許可申請・事務処

管理 理理の効率化

11&走行可能経路情報の提供

117.過積載等の監視

(37)危険物輪送車 1岨危険物輸送車両の走行把握

両の走行把握

12)通行規制情報 (38)通行規制情報 119.通行規制及ぴ解除惰報の提供

の提供 の提供120.迂回路情報の提供

(出典)ITSハンドブック(HID0)

一 104 一

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(2)市場動向(現在~2004年)

① システム搭載の対象となる車両(地域毎に数百台、全国で数千台が当面の対象)には

以下のようなものがある。

a.パトロール車両

路面状況収集システムや移動電子端末システムの車載器が搭載される予定である。

b.作業車両には下記のi.~血.があり、作業指示を受けたり、作業結果を入力、送信す

る車載器が搭載される予定である。

i.補修用車両

五.清掃用車両

血.災害復旧用車両

各システムが搭載されることにより、道路の維持管理業務がさらに効率化され、維持管

理費の圧縮と有効な配分が可能となろう。

②2001年頃までに前述のシステムが試行され、2003年頃までにパトローノレ車両を皮切り

に一部実用化されることが想定される。

③ 当面はカーナビゲーション、パソコン、デジタルカメラ等といった汎用品を基本とし、

専用のアプリケーションソフトが搭載されたシステムが先行する見込みである。

(3)産業育成への課題と提案

①道路管理専用のシステム(ネットワーク用ファイバー、無線等)と汎用のシステム(製

品一車載機、監視センサ、DSRC二専用狭域通信等)を分けてシステム検討し、より低

コストで、かつ必要な個所、車両にシステムを順次配備すべきである。

例.道路管理車両支援システム

a.現在のシステムは、試行用のため高価格になっている。システム機器の量産化によ

るコスト低減、低価格化が必要である。可能であれぱ、コストダウンのために特殊

用途向けではなく、民生用の応用が望まれる。

b.先行配備されている地上路面センサ(点と一部線の情報)と、車載路面状況センサ

(面情報)の設置場所等の補完関係に留意した運用が必要となろう。

②スマートウェイのシステム維持管理を見据えて、現状の管理内容と管理対象がより高度に、かっ、リアルタイムに近くなるため、それらのシステムに対応する高度な管理手法や管理車両の早期検討が不可欠である。

③カメラを含めたセンサ技術、また自動監視技術の発展が必要である。現状は昼間でか

っ、天候が良い場合は監視可能であるが、夜間や悪天侯の際には解析能力がかなり劣化

する。前方の障害物やのり面の一部崩落、劣化など、巡回員やドライバーの視力に頼っ

ていては、事故を回避出来ない事象が増えている。

一 105 一

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4.5 車両管理者に関するITS

4.5.1 商用車運行管理

商用車の運行管理は、物流における「引き取り→集約・配送→受渡し」と行われるプロ

セス間の貨物輸送を効率的に行うものである。その意味で貨物情報管理とともに物流の一

連の過程において重要な役割を担うものである(図表4.5.1-1)。

図表4.4.1-1 物流における貨物管理と商用車運行管理

鰯緯籔躍 磁騨籔縫鍾

集約・配送

貨物結響管躍 褒勧績報鷲撃 貨物鱒…鷺壌

〈1)システム

ITS技術を活用した商用車の運行管理システムは、 トラック等の位置情報、運行状況等

をリアルタイムにセンタで一括収集、管理すること等により運行管理、業務管理を効率化

を図るシステムである。

[図表4-15 運行管理に活用されている広域対応の通信方式】

通信手段 特徴

MCA通信 中継局を中心に半径約30Kmのエリア内で回線を共同利用出来る業務用移動無線システム。通信料が安価であることもあり、約81万局の加入がある。

パケヅト通信 データ伝送にかかる費用が時間に関係なくデータ量によって課金するため、携帯電話に比べてコストが安いのが特徴。運行管理のデータ通信手段として拡大中。

衛星通信 現在運行管理用途で活用されている衛星通信は静止衛星(JCSAT)を活用したオムニトラックスシステムのみ。目本全

国をカバー出来る点が特徴

(出典)各杜ヒアリング

(2)現状

・運行管理システム導入状況

トラヅクの総台数約100万台に対し、車両の位置情報、走行情報データを管理可能な

システムの普及率は約10%と言われている。運行管理のための情報機器・システムの導

入については大手のトラック事業者、もしくは特定の荷主専属の事業者に限られ、一般

トラック事業者を中心とした中小の事業者においては運行管理、物流の情報化は進んで

一 106 一

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いない。

(3)市場・技術動向、産業創出への課題

① マルチモーダル物流実現にむけた技術開発、情報インフラ整備

国際的に競争カある物流システムの確立には、各々の輸送モード(陸・海・空)がマル

チモーダル的に活用出来る環境を整備していくことが重要である。特に過度にトラヅク輸

送に依存している現状から、環境への負荷がより小さい海運及び鉄道へのモーダルシフト

を積極的に推進していくことが重要となっている。

トラック輸送からのモーダノレシフトがシームレスに行われるために、運行管理センタと

各モードの結節点との閻で運行状況の確認や運行予約がリアノレタイムで出来ることや、ト

ラックと結節点との間で貨物データがシームレスに伝送される環境整備を推進していくこ

とが必要である。

② 統合車載器開発・標準化の推進

情報機器・システムの導入が一部のトラック業者や荷主に限られている背景には、導入

システム、特に車載システムが高コストであるのと、個々のアプリケーションのプラット

フォームが統合化がされていないため、技術革新に伴い、中途半端な無駄な投資になって

しまIうのではないかとの懸念があるためである。

トラックユーザが加盟している全目本トラック協会では、運行管理の情報化並ぴにカー

ナビをはじめとした各種ITS機器が、各々のシステムとして別個に搭載するのではなく、

各システムを動作させる共通の車載機を作る必要があるとの間題意識から標準車載器シス

テムの開発に取り組んでいる。

③EDIシステムとITSシステム・情報の’体化

商取引が電子化(EDI(E1ectr㎝icDataIntercha㎎e)化)していく中で物流情報をどう電

子化し、商取引の電子化情報につなげていくかが大きな課題となってきている。既にトラ

ヅクによる輸送実績を電子データで管理し、請求書等を発行することなく輸送実績データ

をそのまま決済データに取り込んでいく実例も出てきている。

ITSの議論の中では運行管理、走行状況データを管理することで業務効率、輸送効率の

向上につなげていくことが主な目的になっているが、最終的には管理された物流データが

商取引の電子化データとして活用されていくことが重要である。

物流EDIについては現在、目本ロジスティックシステム協会が中心となって、荷主、運

行管理事業者、システムメーカをメンバとして「ロジスティクス情報化推進会議」におい

て検討が進められており、この中で物流情報の定義をはじめとした物流情報の商取引デー

タと関係に関する規格づくりが推進されていくことが今後の物流データのEDI化の大きな

カギを握ることになると思われる。

ITS技術を単に「経済的走行を励行させることになり燃費の向上につながる」「運転手の

勤務管理が可能になり、無駄な時間を減少させることが出来る」といった業務効率のため

の道具でしか捉えられないのでなく、経営のスリム化として戦略的に捉えて導入を検討し

一 107 ’

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ていくことが重要である。

4.5.2 公共交通の運行管理

(1)システム

バスに関連するITS技術に基づく公共交通運行支援の情報システムとしては、次の3つ

のタイプが挙げられる。

図表4-16 公共交通運行支援の情報システム

分類 概要

①公共車両優先シス 交通管理者との協カのもとでバスの走行速度を向上させるテム ために、バスの走行状況に連動して信号制御を行うもの。個

別にバスの接近に対応して信号を変化させる個別交差点対応の優先信号制御、あるいは一定の路線の経路を総合的に円滑化向上を促進するPTPS等が一部で導入・実験されている。

②バスロケーション 走行中のバスの現在位置を把握し、各バス停留所において、システム 次のバスが接近してくることの情報や、現在当該路線の主要

目的地までの所要時間に関する情報等を利用者に提供する。

利用者はこれによって待ち時間の不安を解消することが出来る。また、背後にはセンタを中心に運行制御、運行監視、後方支援等のシステムが稼動しており事業者側の運行管理効率向上にも寄与している。

③バス情報提供シス バスダイヤ等の静的な情報、現状のバスの運行状況等の動的テム な情報を、バス停留所やバス情報提供ターミナノレぱかりでな

く、そこまで出かけなくとも家庭や携帯電話等の情報端末に

提供出来るようなシステムの開発・実験が進められている。自宅からデマンドバスの利用の申し込みを行い適当な時刻に出かけて利用するような利用促進策にも活用出来る。

(2)現状

前項に述べたシステムの中で、昨年度は②の「バスロケーションシステム」を中心に検

討している。市場的に導入の必要性があるのは、比較的都市部の一定規模以上のバス事業

者である。既に都市部では概ね導入されており、補功金が限られていること、バス事業の

経営状況が全般的に低調であること、導入効果が明白でないこと等の理由から市場の拡大

は顕著ではないといわれている。最近の動きとしては、かつて導入した事業者(都市)が

システムの更新時期にきており、よりランニングコスト等の低廉なシステムにリプレース

する等の動きがあることが特徴的であるとのことである。

(3)市場動向

バス情報提供システムの市場はまだ形成されていないが、おのおのの実験プロジヱクト

の背景にある状況を整理すると以下の通りである。

① 運輸省の実証実験

一 108 一

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バス事業にっいては規制緩和攻策が推進されているが、都市部は競争、地方部は協調に

進むと予想される。都市部は競争原理により、ますます便利になり、地方部は自治体絡み

となる。

ITSの推進は規制緩和攻策とは別の間題であり、各事業者が平等に使えて、利用者が共

通に使える基盤を国が用意・支援していくことに意義がある。1カ所にデータを集め、そ

れを使えるようにする。どう使うかは民間の役割である。

バスの利用を促進するための改善課題として、バス停まで行かないと運行情報がわから

ないという現状は改善したい。リアノレタイムの情報を提供したい。また、バスの事業者の

サービスを改善していきたい(頻度の増加、運行系統の見直し等)と考えている。

② (財)自動車走行電子技術協会の実験

この実験では次のような利用者の利用イメージを想定している。

ア)ユーザは自分の情報機器を操作して「AからBに乗りたい」と連絡すると、システム

から「Aにはどこ行きのバスが次は○時○分に来ます。」と教えてくれる。

イ) デマンドバスの場合には、バスの側が利用者の存在を確認してルートを変更して上記

の時間に来るのでそれに合わせて出かけれぱ良い。

ウ)到着時刻は、ダイヤとは無関係に実際のバスの位置情報に基づいて予測された時刻。

r般の住民はあらかじめ乗る駅や降りる駅をコードで登録出来る。

工) アステルの場合には、最寄の停留所を指定してくれる。

オ)実験では、「実際の時刻」を手軽に知ることが出来る様になることで、どれくらい「安

心して利用出来るようになる」ということでバスヘの評価が高まることに注目している。

③ 高知県デマンドバス実験

デマンドバスは、約20年ほど前より、欧米の中小都市で盛んに実験が行われたサービス

である。当時は、コンピューターがない環境で、デマンドの受付と運行経路の決定を人力

に頼っており、導入の結果、利用者は増えたものの、事業者の人件費が嵩み、経営的に失

敗したという。しかし、現代では情報通信技術の急速な発展に支えられ、停留所以外でも

乗れる、自家用車に近い機能を持つ公共交通システムとして見直されており、バス離れが

進む中、高齢者や子どもなど交通弱者のための公共交通機関を維持する方策として注目さ

れている。今回の高知の実験では、デマンドバス導入に関しては「都市部と地方部は考え

方を変えるべき」として、次のようにそれぞれの環境を考慮して取り組んでいる。

<都市部のデマンドバス>

・バス利用の潜在需要は十分にある。

・緊急時などの対応や、都心部からのクルマの締め出し傾向への補完となる。

<地方部のデマンドバス>

・バス事業者の経営問題に直結

・渋滞がない環境での運用

・流通、経営支援の方策

・物流・旅客トータルで、シームレスにつながる必要がある。

一 109 一

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(4)産業育成(創出)への課題と提案

① 運輸省の実証実験

運輸施策へのITS導入の間題点・課題として、これまで指摘されてきた点は、ITS導入

の効果が見えないことである。バス輸送に関しても、情報化、ITS導入による効果(この

場合には公共交通需要の促進)が見えてこないといわれており、バス事業者は公共交通の

利用者が減少しており危機感はもっているが、新たな投資には慎重な姿勢である原因とな

つている

行攻当局としても、従来は「手段」はあるが、どれだけ人が増えるかの効果の評価が出

せない状況であったので、国が主導的に事業者に効果を見せて行くために実証実験をして

いこうとしている。今後の課題は、事業者が行う範囲と運輸省が行う範囲の分担を明確化

する必要がある点である。

② (財)自動車走行電子技術協会の実験

今後、規制緩和によってバスとタクシーの境界がなくなってきた場合に、(乗合タクシー

等の登場に対抗して)利用者二一ズに応じた新しいサービスを提供していこうとする場合

の支援要因となる。例えぱ、従来はデマンドバスには運用に費用がかかっていたため普及

しにくかったが、こういうシステムで運用の低コスト化と利用者とっての使いやすさの向

上が図られるとデマンドバスの普及に寄与する。費用をかけずに利用者の二一ズにどこま

で応えられるかがポイントとなる。

③ 高知県デマンドバス実験

今後、規制緩和によってバスとタクシーの境界がなくなってくると、リアルタイムな情

報提供など、利用者の利便性の向上がバス事業の将来を左右する。

例えぱ、従来はデマンドバスはインフラ投資やシステム運用に費用がかかっていたため

普及しにくかったが、パケット通信などの基礎インフラ環境の整備によって、デマンドバ

スの普及に抽車が掛かる可能性が出てきている。

(5)まとめ:公共交通分野のlTS産業動向について

前述の運輸省が設定したのITS活用方策に比べて、現状は、旅客事業者や関係機関が個々

に情報を持ち、

それぞれのデータ構造が統一されていないために、関係者間の円滑な情報交換や効率的な

情報の収集が阻害されている状況にある。この現状を克服するためには、旅客輸送事業者

及び公共交通機関の利用者が共通的に利用し、共有化出来る情報を交換出来る仕組みを作

ることにより、効率的に情報を収集・加工・提供出来る場の確保が不可欠である。このよ

うな仕組みをITS活用の基盤と位置付け、「共通情報プラットフォーム」と呼んでいる。

<「共通情報プラットフォーム」の定義>

「共通情報プラットフォーム」とは、旅客輸送事業者及び交通機関利用者による円滑な情

報の交換、効率的な情報の収集・加工・提供を実現する情報基盤であり、

一 110 一

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a.旅客輸送にかかわる種々の情報をユーザ、旅客輸送事業者、行攻等が相互に交換するた

めのハード及びソフトとその構成

b.ユーザ、旅客輸送事業者、行攻等が相互に交換する情報のうち、共通的に利用、な

いし共有化し得る情報のルーノレ

である。

このようなr共通情報プラットフォーム」を活用することにより、各事業者は業務の効

率化と利用者の利便の向上を図ることが出来るし、それを介して、各事業者が保有する情

報の提供・交換を円滑化することも出来る。さらには、社会全体における経済性の向上、

安全の確保、環境への負荷低減等に寄与することが見込まれる。

しかし、このような「共通情報プラットフォーム」の整備・構築は、特定の事業者だけ

で実現するのは困難であり、公的セクターの関与が期待される分野である。また、人流を

物流と置きかえれぱ、貨物輸送分野においても、同様の情報共有化基盤の構築は、ITS実

現に不可欠な要素と考えられる。

今後、この「共通情報プラットフォーム」に代表される公的セクターによるインフラ整

備・産業関連団体の協カ体制の構築に加え、民間資本による情報伝達手段及びコンテンツ

の充実が両輸となり、公共交通分野の高度化が進展することが望まれる。さらに、成熟し

た杜会にふさわしい交通環境のあり方として、利用者側の意識改革に基づく公共交通機関

の復権が不可欠であるといえるだろう。

4.5.3 緊急車両救援活動支援

(1)システム

①概要

緊急車両支援情報通信システムとは、パトカーや救急車などの緊急車両の走行を支援す

ることにより、緊急走行に伴う事故を減少させるとともに,現場への早期到着を実現させ,

事件の早期解決とスピーディーな救助活動を可能とするものである。米国では既に,

Opticom Priority C㎝tm1Systemとして3,000都市15,000交差点に整備され、米セントポー

ル市では,導入後緊急車両走行に起因する事故が71%減少したとの報告もある。

目本では、1999年1月にUTMS緊急車両支援情報通信システム分科会が立ち上がった。

110番通報から現場への到着時刻が5~10分かかると現場での検挙率は7.5%だが、到着時

刻が3分未満に短縮されれぱ、現場での検挙率は11%にあがるとのデータがUTMSより公

表されている。

② システム構成要素

目本のFAST(FAST emerg㎝cyvehicIepree㎜ption)システムを図表4.5.3-1に示す。システ

ム構成要素としては、車載光通信装置(光ビーコン端末)/送信用光中継装置/信号機上

の受信用光中継装置/緊急車接近情報表示板などである。

一 111 一

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図表4.5.3-1 FAST緊急車両支援情報通信システム

OPTICOM SYSTEMI灘 醸萎嶺 灘1≡=≡=1≡=≡妻

’坤.

0ptica1・ ……一…一…・一一一一鈴 Optica1detector 翼

1二籔r    14 1      ■         1    ・      ’     ■    .    1夕  1

  1’’・殺  1飽ヱ.受信用;

11

青信号延長

1■

= 4■    ’1    二

・  ’ ・ . 一I

1津両ID l1三    :1一一.一・一=一==一

緊急車接近表示板

聾 ’恋鐵’・撚・、瀦

一一・……>’雄=岳: 一’1#圭=…: は光通信を示す

(出典)UTMSセミナー資料より自動車走行電子技術協会作成

FASTは光ビーコンによるr垂直通信方式」と米国3M杜のr水平通信方式」の組み合わ

せに特徴があり、光ビーコンの双方向性を生かし、第2段階としてCDRGS(Ce皿tra11y

DeterminedRouteGuidanceSystem)*による緊急車両への経路推奨、第3段階として緊急車

両への捜査情報(手配車両や犯人の顔写真など)の提供を検討している。

*CDRGS:センター決定型DRGS

DRGSとは、渋滞/工事などの外部情報をもとに、それらを回避するようにル

一ト探索・誘導を行うことであり、CDRGSは、センター側で推奨ルートを探

索し車載ナビに結果を送信するシステムである。なお、別のシステムして、

LDRGS(Loca11y-DRGS)として、車載ナビ側で探索を行うものがある。

12)現状

前述のように、目本では1999年1月にUTMS緊急車両支援情報通信システム分科会が

発足し、1999年6~7月にかけて警察庁と千葉県警が共同で実証実験を行った。場所は東

京の1交差点と千葉の3交差点である。これにより、緊急車両の交差点通過時間が5.9~

20.4%減少したの結果が出ている。(図表4.5.3-2参照)2000年度中には、首都圏または大

阪の一都市で実用化する計画で、その後徐々に全国47都道府県に整備していく。

一 112 一

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図表4.5.3-2FAST実験結果

走行時間実験場所 流入路 方向 事前 事後 改善比率

東京 外苑東通り 直進 51,5秒 41秒 20.4%

右折 51秒 48秒 5.9%

早稲田通り 直進 37.5秒 30.5秒18.7%

右折 37秒 02秒13.5%

千葉 連続o交差点 2分47秒 2分27秒 12%

(駿河台→吹上→渋谷石油前)

(出典)高度道路交通シンポジウム’99

(3) 市場動向及ぴ普及への課題

全国の警察車26,644台と消防車及び緊急車両75,802台などが対象となる(運輸省自動車

交通局監修『自動車保有車両数』(平成11年3月現在)による)。

まずは、青信号延長による走行支援から始まるFASTだが、その真価を発揮するのは渋

滞状況を考慮しつつ最短時間での経路推奨を行うCDRGSの導入からであろう。UTMSで

は緊急車両経路推奨の実証実験を2000年末までに行う計画であり、東京、大阪などの大都

市圏での早期導入が望まれる。

また、災害時や緊急時に警察とともに重要な役目を担う消防庁との協力関係の構築が今

後の課題である。

一 113 一

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第5章 まとめ

本年は4つのカテゴリー、合計10項目のITSサービスについて、現状、市場動向、技術

動向を調査し、産業育成への課題等を述べた。本章では各項目の産業育成・普及への課題、

提言等について焦点を当て、下記10項目のITSサービスについてまとめる(図表5-1参照)

図表5-1ITS 産業育成への課題、提言

カテゴリー ITSサービス 産業育成への課題、提言

一般乗員へ カーナビゲーシ 【カーナビゲーション】

の情報提供 ヨン、情報提供 ・低価格化(カーメーカによる標準搭載が可能となるに関する サービス(含む とみられる車両価格の10%以下が目標)

ITS VICS) ・各機種のインタフェース性(プロトコル)確保のための標準化

・基本情報(電子地図等)の共有化・標準化【VICS】

・サービスエリアの全国展開(カーメーカによる標準搭載となるための用件)【民間情報提供サービス】

・低価格化(初期コスト、情報提供料等のユーザ維持費)

・各情報サービス間のインタフェース性確保のための標準化、スペックの共通化

・サービス情報内容(コンテンツ)の充実車載システムの ・伝送容量の飛躍的拡大高度化 ・車載情報系ネットワークの基本部分を標準化

・進むべきシステムアーキテクチャ、ロードマップの明確な提示(世界全体のデファクトの流れを視野に入れて)

・要素技術の強化

・各システム間のインタフェース性確保、言語の標準化

安全運転に 安全運転支援 ・安全基準等、制度・基準類の整備

関するITS (AHS/ASV) ・関係省庁間の協調によるシステムの統合化、効率化・コストダウンによる価格低下・ドライバーに負担をかけないという意味での、HMI

(ヒューマン・マシン・インターフェイス)

緊急時自動通報 ・緊急通報の受付センタの一本化システム ● 「平時・無事故の時」の基本料の大幅減額

・消防庁の積極的参加

・医療機関の積極的参加・事故の蓄積情報の公開

一 114 一

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交通管理者 新交通管理シス ・光ビーコンの特性を生かし、車載端末に適した交通および道路 テム(UTMS) 情報の提供管理者に関するITS ETCおよび民生 【ETC】

用PSRCサービ ・普及促進のためのインセンテイブ(特に一般ユーザス 向け)

・低価格化

【民生用DSRCサービス】

・DSRC電波、路車間通信インフラ等の民間への開放・民生への転用を容易にするため、セキュリティ等の簡素化されたスペックの開発

・民間自身による利用サービスの開拓・創出

道路管理車両お ・道路管理専用システムと汎用システムを分けて開よび特殊車両の 発し、可能なシステムにおいては、民生用を道路管運行管理 理用に転用することでのコスト削減

・センサ技術、自動監視技術の更なる発展車両管理者 商用車運行管理 ・マルチモーダルをにらみ、シームレスな物流システ

に関する ムの技術開発、情報インフラ整備ITS ・各々の車載システム間の標準化

・EDI(E1ectr㎝ic Data Intercha㎎e)システムと運行管

理システムの融合

公共交通の運行 ・都市部と地方部のデマンドバスは、区別すべき管理 ・地方部のデマンドバスは、物流・旅客トータノレでシ

一ムレスにつながる必要・運輸省と事業者が行う範囲・役割分担を明確化・旅客業者、関係機関等のデータ構造の統一=共通情

報プラットフォームの構築と、そのための公的セクターの積極関与

・リアルタイムの情報提供等、利用者の利便性の向上

緊急車両救援活 ・システム機器の低価格化動支援 ・警察と消防庁の協カ関係の構築

上記のように、ITS産業の順調な発展のための課題、提言は多岐に渡る。これを民間側、

行政側への要望という点からみると、

[民間側への要望]

①標準化と共通化:すなわち各システム間のインタフェース性の確保や、基礎情報の共

通化・共有化

②低価格化(車載、インフラ機器、アプリケーション・システム等)

③民間自身による市場開拓・創出努力

[行攻側への要望]

④国際動向等をにらんだシステムアーキテクチャのロードマップの提示と標準化の推進

⑤利用者拡大に向けての政策的インセンティブ

⑥省庁間における協力関係の強化

⑦規制緩和

といったことが浮かび上がってきた。

一 115 一

Page 41: 1TS産業動向調査研究 - 日本自動車研究所 · Dep1oymentInitiative)を4都市圏(フェニックス、サンアントニオ、シアトル、ニューヨ 一ク/コネチカット/ニュージャージ)で行っている。また、カナダ(トロント)では第

一禁無断転載一

システム技術開発調査研究報告書11-R-12

ITS推進のための次世代スマート・ビークル・システムの

展望に関する調査研究報告書

(要 旨)

平成12年0月

作 成 財団法人機械システム振興協会

東京都港区三田一丁目4番28号TEL  03 (3454) 1311

委託先 財団法人自動車走行電子技術協会

東京都港区虎ノ門一丁目25番5号TEL  03 (3501) 5649