1 解剖 - chugaiigaku.jpchugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2439.pdf · 498-13427 5 1.心電図...

5
1 498-13427 心臓と大血管の基部は心膜とよばれる結合組織の袋に包 まれている.漿膜性心膜は心臓に接する臓側板と線維性 心膜に接する壁側板に分かれる.この漿膜性心膜は大血 管基部で折り返され心膜腔を形成する.心嚢液貯留は心 膜腔に多量の液体がたまった状態である. 心臓と大血管の外観を図 1 に示す(A は腹側,B は背側 から). 右房は静脈洞由来の大静脈洞と右房固有の部分から成り 立ち,分界稜で分けられる.大静脈洞は上・下大静脈,冠 動脈洞が開口し,内面が平滑である.右房固有部分の内 心臓の解剖 心膜 心臓の内部 (図 2) 1 解剖 POINT ① 構造的な異常を知るためには正常な心臓の解剖を理解しておく必要がある. ②心臓は使用する画像モダリティで心臓の見え方が変わってくる.頭の中で二 次元画像から三次元に再構築して理解する必要がある. 図 1  心臓と大血管 腕頭動脈 上大動脈 下大動脈 右肺動脈 右肺静脈 右房 右室 左総頸動脈 左鎖骨下動脈 左肺動脈 左心耳 左室 前室間溝 左肺静脈 A B 腕頭動脈 奇静脈 下大静脈 上大静脈 右肺動脈 右肺静脈 右房 左総頸動脈 左鎖骨下動脈 左肺動脈 左房 左室 左肺静脈 図 2  心臓の内部構造 右房 卵円窩 冠静脈洞開口部 肺動脈弁 右室 乳頭筋 乳頭筋 三尖弁 左室 腱索 心室中隔 僧帽弁 左房 大動脈弁 総論

Upload: others

Post on 05-Oct-2019

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 1 解剖 - chugaiigaku.jpchugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2439.pdf · 498-13427 5 1.心電図 心拍数,beats/min 60〜100 軸,度 −30〜90 P波 幅,sec 0.06〜0.10 高さ,mV

1498-13427

心臓と大血管の基部は心膜とよばれる結合組織の袋に包まれている.漿膜性心膜は心臓に接する臓側板と線維性心膜に接する壁側板に分かれる.この漿膜性心膜は大血管基部で折り返され心膜腔を形成する.心嚢液貯留は心膜腔に多量の液体がたまった状態である.

心臓と大血管の外観を図 1に示す(Aは腹側,Bは背側から).

右房は静脈洞由来の大静脈洞と右房固有の部分から成り立ち,分界稜で分けられる.大静脈洞は上・下大静脈,冠動脈洞が開口し,内面が平滑である.右房固有部分の内

心臓の解剖

心膜

心臓の内部(図 2)

1 解剖

P O I N T①構造的な異常を知るためには正常な心臓の解剖を理解しておく必要がある.②心臓は使用する画像モダリティで心臓の見え方が変わってくる.頭の中で二次元画像から三次元に再構築して理解する必要がある.

 図 1  心臓と大血管

腕頭動脈

上大動脈

下大動脈

右肺動脈右肺静脈

右房右室

左総頸動脈左鎖骨下動脈左肺動脈

左心耳左室前室間溝

左肺静脈

A B 腕頭動脈

奇静脈

下大静脈

上大静脈

右肺動脈右肺静脈右房

左総頸動脈左鎖骨下動脈

左肺動脈

左房

左室

左肺静脈

 図 2  心臓の内部構造

右房

卵円窩冠静脈洞開口部

肺動脈弁

右室

乳頭筋

乳頭筋

三尖弁

左室

腱索

心室中隔

僧帽弁

左房

大動脈弁

Ⅰ 総論

Page 2: 1 解剖 - chugaiigaku.jpchugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2439.pdf · 498-13427 5 1.心電図 心拍数,beats/min 60〜100 軸,度 −30〜90 P波 幅,sec 0.06〜0.10 高さ,mV

2 498-13427

解剖

1

基準値一覧

2

循環器疾患のバイオマーカー

3

身体所見

4

基本検査

5

Ⅰ 総論面は櫛状である.右室は左室の前方にある.左房の中でも肺静脈由来の部分は平滑であるが,左房固有部分の壁は櫛状となっており,左心耳もその一部である(図 2).

冠動脈は基本的に溝を走る.左冠動脈は左冠尖より起始し左房と肺動脈幹の間を通り,前室間溝を心尖部に進む左前下行枝と左房室間溝を心臓後面に廻る左回旋枝に分かれる.左前下行枝からは中隔枝と左室前壁を養う対角枝が分枝する.左回旋枝からは左室側壁および後壁を養う鈍角枝が分枝する.右冠動脈は右冠尖より起始し右房室間溝を反時計方向に走行し,右室枝を分枝するとともに,房室結節を養う房室結節動脈と左心室下壁および心室中隔を養う後下行枝に分かれる.

冠静脈は基本的に冠動脈に並走する.左室前壁・中隔領域は前室間静脈,左室側壁領域は大心静脈,左室下壁領域は中心静脈,右室領域は小心静脈に集まり,それぞれ冠静脈洞から右房に開口する.

冠動脈(図 3)

冠静脈(図 4)

 図 3  冠動脈A.腹側から見た冠動脈.B.心尖部から見た冠動脈(両心室筋は弁輪部で取り除く).

右冠動脈

左冠動脈主幹部左冠動脈主幹部

肺動脈弁

左回旋枝

左回旋枝

左前下行枝

左前下行枝

A B大動脈弁右冠動脈

背側

腹側

右側 左側

 図 4  冠静脈A.腹側から見た冠静脈.B.心尖部から見た冠静脈(両心室筋は弁輪部で取り除く).

冠静脈洞

小心静脈

冠静脈洞小心静脈

左冠動脈主幹部

大心静脈

中心静脈

大心静脈

僧帽弁

中心静脈

前室間静脈

前室間静脈

A B

三尖弁

背側

腹側

右側 左側

Page 3: 1 解剖 - chugaiigaku.jpchugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2439.pdf · 498-13427 5 1.心電図 心拍数,beats/min 60〜100 軸,度 −30〜90 P波 幅,sec 0.06〜0.10 高さ,mV

3498-13427

洞房結節で作られた心拍リズムを心房から心室心筋に伝え,有効な心拍出を行わせるための構造であり,特殊心筋で構成される.洞房結節は上大静脈と右房の境界領域にある.そこで生じた電気刺激は心房内の結節間路を通って房室結節に伝わる.房室結節の遠位側にはHis 束があり心室中隔を後方に貫通し,左脚と右脚に分かれる.左脚は前肢・後枝に分かれ,それぞれ前乳頭筋領域・後乳頭筋領域で心内膜下叢を形成する.心内膜下叢は心筋にプルキンエ線維を送り房室結節からの電気刺激が心筋に伝わる.

心臓は求心性および遠心性の交感神経系と副交感神経系の二重支配を受けている.交感神経刺激はβ1刺激による収縮力増強・心拍数増加である.一方,副交感神経刺激は心拍数および房室間伝導速度の減少である.これは

刺激伝導系(図 5)

交感神経・副交感神経による心臓支配(図 6)

 図 5  刺激伝導系の構造

右脚

後結節間路

中結節間路

前結節間路 Bachman 束

His 束

房室結節

左脚前枝

左脚後枝

洞房結節

 図 6  交感神経と副交感神経による心臓支配

求心路

骨格筋代謝受容器

心肺圧受容器(低圧系)

副交感神経(心抑制)

交感神経(心刺激)

動脈圧受容器(高圧系)

動脈化学受容器(O2 や CO2 を感知)

遠心路

中枢神経

Page 4: 1 解剖 - chugaiigaku.jpchugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2439.pdf · 498-13427 5 1.心電図 心拍数,beats/min 60〜100 軸,度 −30〜90 P波 幅,sec 0.06〜0.10 高さ,mV

4 498-13427

解剖

1

基準値一覧

2

循環器疾患のバイオマーカー

3

身体所見

4

基本検査

5

Ⅰ 総論副交感神経終末が主に心房筋・洞房結節・房室結節に分布し,心室筋に見られないためである.

全身の動脈を図 7,静脈を図 8に示す.

〈吉田賢司〉

血管系

 図 7  全身の動脈

腹側

右側

右外頸動脈右内頸動脈右総頸動脈右椎骨動脈

右鎖骨下動脈右内胸動脈腕頭動脈

上行大動脈

脛骨

腓骨

左外頸動脈肋間動脈

上腕動脈

腹腔動脈総肝動脈脾動脈左腎動脈上腸間膜動脈

腹部大動脈

左内頸動脈左総頸動脈左椎骨動脈左鎖骨下動脈左内胸動脈大動脈弓部下行大動脈

前脛骨動脈

後脛骨動脈

腓骨動脈

腎動脈下腸間膜動脈橈骨動脈尺骨動脈総腸骨動脈内腸骨動脈外腸骨動脈深大腿動脈浅大腿動脈膝窩動脈断面

拡大

 図 8  全身の静脈

腹側

左側断面

内頸静脈外頸静脈

腕頭静脈鎖骨下静脈腋窩静脈上大静脈

橈骨皮静脈内胸静脈

尺側皮静脈肘正中皮静脈

精巣静脈

大伏在静脈

小伏在静脈

脛骨

腓骨

肋間静脈半奇静脈

下大静脈肝静脈

腎静脈上腕静脈橈骨静脈尺骨静脈総腸骨静脈内腸骨静脈外腸骨静脈深大腿静脈浅大腿静脈膝窩静脈

奇静脈

前脛骨静脈大伏在静脈

小伏在静脈

腓骨静脈

後脛骨静脈

Page 5: 1 解剖 - chugaiigaku.jpchugaiigaku.jp/upfile/browse/browse2439.pdf · 498-13427 5 1.心電図 心拍数,beats/min 60〜100 軸,度 −30〜90 P波 幅,sec 0.06〜0.10 高さ,mV

5498-13427

1.心電図心拍数,beats/min 60〜100軸,度 −30〜90P 波 幅,sec 0.06〜0.10

高さ,mV 0.25 未満PR時間,sec 0.12〜0.20QRS 幅,sec 0.06〜0.10T 波 高さ 同一誘導の R波の高さの 1/10 以上QTc,sec 成人男性 0.44 以下

成人女性 0.46 以下U波 高さ,mV 0.20 未満

2.血管の硬さ:血圧脈波検査とCAVI がある上腕-足首脈波伝播速度(baPWV),cm/sec男性 20-29 歳 1150±130 女性 20-29 歳   982±110

30-39 歳 1176±128 30-39 歳 1037±11040-49 歳 1211±142 40-49 歳 1106±12350-59 歳 1280±155 50-59 歳 1221±16160-69 歳 1392±186 60-69 歳 1370±18670 歳以上 1553±261 70 歳以上 1552±259

CAVI(Cardio-Ankle Vascular Index): 心臓から足首までの動脈の硬さを反映する指標CAVI<8.0 正常範囲8.0≦CAVI<9.0 境界域9.0≦CAVI 動脈硬化の疑い

2 基準値一覧

P O I N T①基準値は必ずしも正常値ではない.そのため基準値を外れることが異常(病気)ではない.

②基準値を外れる結果を認めた場合,他の検査結果も考慮し病的意味があるかどうか検討する.