自然の輝きをそのまま残したい - ync.ne.jp · 5 よみカル no.295 よみカル...
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よみカル No.295 4よみカル No.2955
●原田昭子さんの講座恵比寿 第3水曜10:30〜15:00 第4土曜10:30〜12:30町屋 第2・4火曜13:00〜15:00横浜 第1水曜13:00〜15:00●原田昭子さんが主宰する東京押花文化普及協会の講座荻窪(堀菊枝さん) 第2・4金曜10:15〜12:15錦糸町(金子リヨさん) 第2・4火曜10:00〜12:00柏(同上) 第2水曜13:00〜15:00北千住(深津瑞枝さん) 第4日曜10:30〜12:30川崎(同上) 第1・3木曜10:15〜12:15八王子(田村道子さん) 第2・4火曜18:30〜20:30町田(同上) 第2・4土曜12:30〜14:30浦和(高橋栄子さん) 第2・4金曜10:00〜12:00大宮(志賀信子さん) 第2水曜12:30〜14:30
インタビュー/原田昭子
◆押し花を始めたきっかけは何
でしょうか?
父がよく植物を買ってきた
ので、庭にはいつも花がありま
した。それを育てる母は、紅葉
で破れた障子を繕っていまし
た。私もレンゲソウで花飾りを
作ったり、野の花の蜜を吸った
り、自然の中で遊ぶ子どもだっ
たんです。それが原点なのかも
しれません。
押し花に接したのは結婚後
です。子育てに頑張り過ぎて
疲れていた私を、友人が外に
連れ出してくれました。カル
チャーセンターのたくさんの講
座の中から、押し花の美しさに
ひかれて受講することにしたの
です。それ以来、講座のある日
は私にとって特別な日になりま
した。花を通じてたくさんの友
人ができ、お茶をしながらのお
しゃべりも楽しくて……。
◆その後、指導者の道に?
主人の母は織物作家だった
のですが、個展の準備中に体を
悪くし、開催が難しくなりま
した。その穴埋めとして、私が
押し花の展示をすることに。初
めての個展でしたが、思いのほ
か好評をいただき、それがきっ
かけで、よみうりカルチャーの
町田センターを紹介していただ
きました。ですから、押し花を
始めたのも、個展も、そして講
座の開設も、周りの人に背中
を押されて実現したことなの
です。とても感謝しています。
◆野の花の自然な魅力が、原田
さんの押し花の特徴ですね
最初の頃は、花色をきれいに
残せることに感激して、押すこ
と自体が楽しみでした。花が
あればあるだけ押していたほ
ど。でも今は、一つひとつの植物
を大切に押そうと考えていま
す。同じ植物でも、それぞれ違
う表情を持っています。その美
しさをそのままに残してあげ
たいのです。
特に野の花は、ほんのわず
かな時期にしか出会う
ことができません。で
も、アスファルトの切
れ目や空き地を注
意深く見れば、都心
にもまだまだ自然はあ
ります。春には、※1オオイヌノ
フグリが花を咲かせているのを
見つけられます。その小さな瑠る
璃り
色の花に、日だまりの温かさ
を感じますね。そんな季節の
巡りを楽しみに待ち、一瞬の花
の輝きを残してあげるのも、押
し花の魅力だと思います。
◆植物の生態や構造も知らなけ
ばならないですね
ある時、野草を採っていたら、
根ごと引き抜いてしまったこと
があります。小さな草なのに
しっかりと根を伸ばしている。
何だか申し訳なくて、根も一緒
に押してみたんです。すると、
意外と面白い。根にも表情が
あるのですね。この根があるか
ら花が咲くのだと分かる。押
し花を作ることは、その植物を
よく知ることにつながります。
花の構造、葉の付き方、いつ咲い
て枯れるのか……よく観察す
るようになります。ガーデニン
グとはまた違った視点で植物
に接するようになります。
◆難しい植物や失敗したことは
ありますか?
まだ押し花を始めたばかり
の頃、山荘に自生していた※2ハル
リンドウを押そうと思いまし
た。小指の先ほどの、星形に咲
くかわいらしい花です。下草を
かき分けながら、宝物を集める
ように一生懸命に採りました。
夜になって、さあ押そう!と思っ
たら、みんな萎し
ぼんでいる。びっく
りして調べてみたら、ハルリンド
ウは太陽の光を受けて開き、夕
方には閉じる花だったのです。
慌ててライトを当ててみたけれ
ど開くはずありません。今では
笑い話です。
また、受講者とカラスウリの
花を押そうということになり、
青梅市のやぶまでみんなで出
かけました。カラスウリは夜に
花を咲かせます。懐中電灯で
照らしながら花を採り、その場
でうずくまって押しました。さ
ぞかし怪しい集団だったでしょ
うね(笑)。
◆花を押した後は作品づくり。
二つの楽しみがありますね
花を一つひとつ押していく作
業も、どんな作品にすれば花が
生きるだろうかと思案する過
程も、楽しいものです。また、押
し花をカードにして、遠く離れ
た友人や家族に送ることもで
きます。自分で育てた花や、旅
行先で拾った紅葉を押してハガ
キにします。きっ
と、写真や言葉以
上に雄弁に語って
くれます。「こんなに
きれいなんだ」と感動を共有す
ることができると思います。
◆講座ではどのようなことを心
掛けていますか?
受講される方々は、花が好き
な方ばかりですから、すぐに仲
良くなりますね。だから、私は
皆さんの新しい出会いをお手伝
いをする脇役です(笑)。
ある受講者さんは、70歳で
参加し始めて92歳で亡くなる
直前まで受講されていました。
後日お嬢さんが、「講座は、母
の人生最後の友人づくりの場
でした。たくさんの友達と花
があったから、長く楽しめたの
でしょう。いい人生だったと思
います」と言ってくださいまし
た。花を共通語に、今まで出会
えなかった人々と時間を共有
できることは、とても素晴らし
いことです。そこには、年齢差
も仕事も経験も関係ありませ
ん。ただ、花が好きということ
だけ。花からいただくご褒美だ
と、私は思っています。
自然の輝きをそのまま残したい
野の花の魅力
植物を観察する
花からのご褒美
原田昭子Akiko-Harada押し花作家。NPO法人 東京押花文化普及協会 理事長。庭や野の花を中心に、植物の自然な姿や色彩を生かした洗練された作品を制作。よみうりカルチャーをはじめとしたカルチャースクールで教えるほか、押し花作りを通して、子どもの情操教育や、福祉活動、高齢者の生きがいづくりを支援している。
「庭の押し花」(文化出版局)、「花に恋して」(芸文社)など著作多数。
パンジーは初心者でも手軽に押せる花。花だけでなく葉やつぼみも押して作品に生かす。乾燥シートを使って、早く乾燥させることが色を鮮やかに残すコツ。ガーベラは肉厚なので、茎の裏などをナイフで削ると水分が抜けやすくなる。
「原田先生は、まるで研究者のような方で、考案された技術や工夫を、惜しげもなく教えてくれます。先生も受講者もみな花が好きですから、いつまでも話は尽きないですね」と受講者。
ヤマアジサイの押し花作品
※1「オオイヌノフグリ」 路傍や畑のあぜ道などに見られる越年草。3ページ、下左から2つ目の花。※2「ハルリンドウ」 高さ10cmほどの小型の二年草。花期は3〜5月。3ページ、左一番上の花。