中部リウマチ tcz tb上昇 20150831
TRANSCRIPT
トシリズマブ治療中に高ビリルビン血症を呈した
関節リウマチの 3 症例
豊橋市民病院リウマチ科
平野裕司 平原慎也 磯野正晶 福井 順
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital利益相反の有無:無
はじめに
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
■ トシリズマブ( TCZ )は本邦で開発された抗 IL-6 受容体抗体であり 関節リウマチ( RA )治療薬として優れた効果を示す。
■ 現在のところ臨床使用可能な IL-6 阻害剤としては、唯一の製剤であり その独特の作用機序により、 MTX の併用意義などで抗 TNF 製剤とは 若干異なる臨床的有効性を示すことがわかってきた。
■ 一方、有害事象についても高 LDL 血症や大腸憩室炎など、 TCZ に 特異性が高い有害事象の報告もある。
■ 今回我々は TCZ 投与中の RA 患者に発症した、高ビリルビン血症の 3 症例を経験したので、文献的考察を加えて報告する。
症例1(現在 55 歳女性)
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
■ TCZ 開始までの RA 現病歴: 1993 年( 33 歳時)に発症。他院で治療を受けていた。 1998 年に当科初診。以後、種々の csDMARDs や経口 PSL で 治療を受けた。 2007 年 7 月にインフリキシマブ開始。 効果不十分のため同年 10 月にエタネルセプトに変更。 効果不十分のため 2010 年 11 月 29 日にトシリズマブに変更。 MTX8mg/w と PSL5mg/d を併用。
■ RA 手術歴: 左 TKA ( 2000/6 )。左足関節固定( 2003/6 )。 右 TKA ( 2008/10 )。
■ 合併症: 高血圧。脂質異常症(スタチン投与)。
■ 既往症: 胆石症(胆嚢摘出術既往あり)。甲状腺腫瘍(手術既往あり)
症例1(臨床データの推移)
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
2007/0
7/01
2007/1
0/01
2008/0
1/01
2008/0
4/01
2008/0
7/01
2008/1
0/01
2009/0
1/01
2009/0
4/01
2009/0
7/01
2009/1
0/01
2010/0
1/01
2010/0
4/01
2010/0
7/01
2010/1
0/01
2011/0
1/01
2011/0
4/01
2011/0
7/01
2011/1
0/01
2012/0
1/01
2012/0
4/01
2012/0
7/01
2012/1
0/01
2013/0
1/01
2013/0
4/01
2013/0
7/01
2013/1
0/01
2014/0
1/01
2014/0
4/01
2014/0
7/01
2014/1
0/01
2015/0
1/01
2015/0
4/01
2015/0
7/01
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
0.00
5.00
10.00
15.00
20.00
25.00
30.00
0.5 0.7
0.6 0.8
0.7 0.5
0.7
0.4
0.8 1.0 1.0
0.7
1.1 1.3
1.5
2.8
1.7
1.4
2.1
1.7
2.7
2.4 2.5
2.2
1.7 1.8
2.4 2.3
1.9 1.7
2.3
総ビリルビン CRP CDAI
直接ビリルビン0.7mg/dl
総ビ
リル
ビン
(m
g/dl
)
CRP
(m
g/dl
)、
CDAI
直接ビリルビン0.4mg/dl
IFX
ETN TCZ
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
症例1(経過のまとめ)■ 間接ビリルビン優位の上昇であったため、念のため溶血性疾患の可能性も 考慮し 2011 年 10 月に血液内科にコンサルトするも溶血所見なしであった。 ハプトグロビン 22.4 ( 19.0-170.0 )、直接クームス(-)、 間接クームス(-)。
■ 経過中、黄疸は認めない。
■ 胆石症手術は 50 歳時で、緊急手術であった。
■ 身長 161.1cm 。体重 76.7kg 。
■ 最終観察時の治療: TCZ560mg/4 週 +TAC3mg/d
■ 経過中肝臓酵素や総タンパクなどの目立った異常は見られていない。
■ TCZ による高ビリルビン血症と考えているが、検査値異常以外の特段の 症状もなく、 TCZ も有効であるため、現治療を継続している。
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
症例2(現在 62 歳男性)■ TCZ 開始までの RA 現病歴: 2007 年( 53 歳時)に発症。他院で治療を受けていた。 2008 年に当科初診。種々の csDMARDs や経口 PSL で治療を 受けていた。 2010 年 5 月にエタネルセプト開始。 効果不十分のため同年 8 月にインフリキシマブに変更。 効果不十分のため 2010 年 12 月 27 日にトシリズマブに変更。 MTX8mg/w と PSL2.5mg/d を併用。
■ RA 手術歴: なし
■ 合併症: 脂肪肝。原発性アルドステロン症。
■ 既往症: 特になし。
2010/0
5/01
2010/0
8/01
2010/1
1/01
2011/0
2/01
2011/0
5/01
2011/0
8/01
2011/1
1/01
2012/0
2/01
2012/0
5/01
2012/0
8/01
2012/1
1/01
2013/0
2/01
2013/0
5/01
2013/0
8/01
2013/1
1/01
2014/0
2/01
2014/0
5/01
2014/0
8/01
2014/1
1/01
2015/0
2/01
2015/0
5/01
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
0
5
10
15
20
25
0.5
1.4
1.91.8
21.9
1.61.7
1.92
1.7
1.9
1.31.4
1.6
2.2総ビリルビン CRP CDAI
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
直接ビリルビン0.5mg/dl
症例 2 (臨床データの推移)総
ビリ
ルビ
ン(
mg/
dl)
CRP
(m
g/dl
)、
CDAI
ETN
IFX
TCZ
症例 2 (経過のまとめ)
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
■ 2015 年 1 月、持続する肝障害で消化器内科コンサルトで胆嚢結石を指摘。 肝障害の原因は脂肪肝と考えられた。
■ 経過中、黄疸は認めない。
■ 身長 175.1cm 。体重 65.2kg 。
■ 最終観察時の治療: TCZ480mg/4 週
■ 経過中肝臓酵素や総タンパクなどの目立った異常は見られていない。
■ TCZ による高ビリルビン血症と考えているが、検査値異常以外の特段の 症状もなく、 TCZ も有効であるため、現治療を継続している。
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
症例 3 (現在 56 歳女性)
■ TCZ 開始までの RA 現病歴: 2010 年( 51 歳時)に発症。他院で治療を受けていた。 2013 年に当科初診。間質性肺炎があるため、タクロリムス、 イグラチモド、 PSL で治療するも効果不十分。 2013 年 9 月 2 日にトシリズマブに変更。 PSL5.0mg/d を併用。
■ RA 手術歴: なし
■ 合併症: 間質性肺炎。高血圧。胆石症。
■ 既往症: 特になし。
2013/02/01
2013/04/01
2013/06/01
2013/08/01
2013/10/01
2013/12/01
2014/02/01
2014/0
4/01
2014/06/01
2014/08/01
2014/10/01
2014/12/01
2015/0
2/01
2015/04/01
2015/06/010.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
0.00
5.00
10.00
15.00
20.00
25.00
30.00
35.00
1.4 1.7
1.5
2.6 2.5 2.6
3.2
5.1
3.0 3.2
総ビリルビン CRP CDAI
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
症例3(臨床データの推移)
TCZcsDMARDs
直接ビリルビン0.7mg/dl
総ビ
リル
ビン
(m
g/dl
)
CRP
(m
g/dl
)、
CDAI
症例 3 (経過のまとめ)■ 高ビリルビン血症に関して、 2014 年 8 月に消化器内科コンサルト。 胆嚢結石を指摘。 MRCP では異常なし。経過観察となった。
■ 経過中、黄疸は認めない。
■ 身長 159.0cm 。体重 51.4kg 。
■ 最終観察時の治療: TCZ400mg/4 週 +TAC3mg/d
■ 経過中肝臓酵素や総タンパクなどの目立った異常は見られていない。
■ TCZ による高ビリルビン血症と考えているが、検査値異常以外の特段の 症状もなく、 TCZ も有効であるため、現治療を継続している。
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
TCZ による高ビリルビン血症のまとめ当科では TCZ によると思われる高ビリルビン血症を 3 例 /44 例( 6.8% )経験した。それらについて経過をまとめてみた。
症例 TCZ 開始時年齢
性別 TCZ 開始時T-B
胆道関連情報
経過
FK 51 女性 0.6mg/dl 胆嚢摘出術既往あり
T-B は 1.5-3.8で推移。黄疸なし。間接 B 優位。血液内科診あり
SK 57 男性 0.6mg/dl 胆嚢結石 T-B は 1.3-2.4で推移。黄疸なし。間接 B 優位。消化器内科診あり
NM 54 女性 胆石症あり1.5mg/dl T-B は 1.5-3.8で推移。黄疸なし。間接 B 優位。消化器内科診あり
Dept. of Rheumatology, Toyohashi Municipal Hospital
UDP グルクロン酸転移酵素 (UGT: uridine diphosphate glucuronosyltransferase)のひとつである UGT1A1 の遺伝子多型と TCZ 投与時の高ビリルビン血症は関連?
■ 46 例の TCZ を投与した RA 患者のうち 12 例が高ビリルビン血症を呈した。 UGT1A1*6/*6, *6/*28, and *28/*28 genotypes をもつ RA 患者では TCZ 投与時に高ビリルビン血症を発症することがあることが判明。他の 肝障害がなければ TCZ は中止する必要はないが、他の薬剤の副作用に 注意が必要かもしれない。
Mori et al. Mod Rheumatol 2012
ヘモグロビンの代謝産物である非抱合型ビリルビン(間接ビリルビン)は肝臓に運ばれ UGT1A1 によりグルクロン酸抱合され、胆汁内に分泌される。