小児科専門医セミナー...

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小児科専門医セミナー ー小児救急ー 2016.4.12 担当:中林 洋介 0

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小児科専門医セミナーー小児救急ー

2016.4.12 担当:中林 洋介0

今日の内容

1

• 救急医的視点からみた⼦どもの診かた• 頭部外傷の診かた

• ICUってどんな⼈を診るところ?• ROS:Review of Systemを⼟台に、ICUの位置づけ

1. ⼩児救急、こんなときどうする?

2. ⼩児科ローテーター的ICUの歩き⽅

救急医的視点から⾒た⼦どもの診かた

1. ⼩児救急、こんなときどうする?

2

人間を突然に襲う外傷や感染症などの傷病、すなわち「急性病態」を扱う分野「救急診療指針(へるす出版)」

救急、とは?

3

急場の難儀を救うこと。特に、急病人・負傷者に応急の手当てを施すこと。「デジタル大辞泉(小学館)」

急病・けが・事故などの急場の難儀をすくうこと。「大辞林(三省堂)」

小児科専門医の教育目標

4

1. 小児の救急疾患の特性を熟知し、バイタルサインを把握して年齢と重症度に応じた処置およびトリアージを行い、高次医療機関に転送すべきか否かとその時期を判断できる。

2. 差し迫った生命の危機に対して直ちに救命処置を行い、救命処置の最新医療・医学情報の吸収に努める。

3. 転送を要する場合は十分に家族に説明し、転送中の病状変化に細心の注意を払う。

4. 救急室を受診する子どもと家族の不安を理解し、思いやりのある態度で接する。

5. 地域の救急システムを理解し、積極的に救急医療に参画できる。

6. 家庭での小児の状態の把握、応急処置、救急外来の受診方法を指導できる。

22. 救急:一般目標・態度

5

(1) 不安な⼼理状態にある保護者から⼦どもの状態を迅速・適切に聴取できる.(2) 意識,呼吸,脈拍,CRT(⽑細⾎管充満時間)などから全⾝状態を迅速(約30 秒以内)に

評価し,緊急度をトリアージできる.(3) 病状を適切に判断し,所⾒を簡潔に報告・記載できる.(4) 特別な医療機器を⽤いない⼀次救命処置,救急薬剤,機器を⽤いての⼆次救命処置ができる.

1)気道確保,気管挿管,⼝腔・気管吸引 2)酸素療法(マスク,保育器,テントなど)3)⼈⼯呼吸(⼝対⼝,⼝対⼝⿐, 4)胸⾻圧迫

マスク&バッグ,⼈⼯呼吸器)5)AED(⾃動体外式除細動器),⼿動式除細動器による除細動6) ⼩児⼆次救命処置法:AHA PALSプロバイダーの取得が望ましい.

(5)以下の処置を⾏うことができる.1)⽪内,⽪下,筋⾁,静脈への注射 2)留置針,⾻髄針による静脈路または⾻髄路確保3)静脈⾎,動脈⾎,⽑細管⾎の採⾎ 4)腰椎穿刺5)導尿 6)吸⼊療法7)輸⾎,成分輸⾎ 8)胃洗浄9)腸重積整復術 10)検査,処置時の鎮静・鎮痛

11)⿏径ヘルニア⽤⼿整復 12)肘内障整復13)簡単な切開,排膿,創傷縫合

(6)死亡診断書,死体検案書を作成できる.(7)関連法規と⼿続きを理解し,警察・⾏政機関へ届け出ができる.

22. 救急:診療能力

6

(1)以下の病態を説明できる発熱,けいれん,意識障害,呼吸困難,気管⽀喘息発作,ショック,⼼不全,不整脈,低酸素⾎症,脱⽔症,急性腹症,腎不全,出⾎傾向,被虐待児,乳幼児突然死症候群,CPAOA(来院時⼼肺機能停⽌症例),溺⽔,熱傷,外傷,誤嚥,中毒,管腔異物

22. 救急:知識

7

(1)以下の病態を説明できる発熱,けいれん,意識障害,呼吸困難,気管⽀喘息発作,ショック,⼼不全,不整脈,低酸素⾎症,脱⽔症,急性腹症,腎不全,出⾎傾向,被虐待児,乳幼児突然死症候群,CPAOA(来院時⼼肺機能停⽌症例),溺⽔,熱傷,外傷,誤嚥,中毒,管腔異物

22. 救急:知識

8

9

ローラを探せ!

• 100⼈にひとりの重症な患者さんを⾒つけるために、残り99⼈の軽症患者さんも喜んで診察します。

• 医者は診断や治療に困るかもしれません。しかし、もっと困っているのは受診した患者・家族です。

第一印象が大切

10

⼩児の急性期医療における第⼀印象はPAT

→救急得意のABC!

A B C

(※ 今はPATのことを⽂字どおりinitial impressionとしている)

Appearance CirculationBreathing

第一印象が大切

11

良い

悪い

蘇⽣

通常どおりの問診、診察

⼈、酸素、モニター&お約束のABC

PBLS&PALS、CPR

漏れないように…AMPLEの活用

12

A アレルギーM 内服薬、かかりつけ医P 既往歴L 最終経⼝摂取E 現病歴、主訴(SAMPLEとすることも)

これに加えて予防接種歴、シックコンタクト等の追加

頭部外傷の診かた

13

1. ⼩児救急、こんなときどうする?

頭部外傷の疫学

• ⼦どもの外傷で最も多いのが頭部外傷来院患者数の約1/3、年間500名

⻘梅市⽴総合病院救命救急センター 2013年データ• 頭部外傷の90%が軽症であり、帰宅後の

医学的経過観察を必要としないLanglois J, et al. 2004

• 軽症頭部外傷(JCS 0〜3、GCS 13〜15)の4%にCTで頭蓋内損傷を認め、1%で治療を要する

Ouayle KS, Pediatrics 1997Schtzman SA, Ann Emerg Med 2001

14

そういえばこんな話題も・・・

15東京新聞電⼦版 2015年10⽉18⽇

やっぱりまだ多い、不慮の事故

16

2003年

2013年

厚⽣労働省 ⼈⼝動態調査より

乳児の5位、1-19歳の1位

乳児の4位、1-4歳の1〜3位

幸い死因の1位ではなくなったが、まだまだ上位を占めている

頭をぶつけた⼦が来たら…

1. 緊急処置が必要かどうかの判断2. (緊急性が低いと判断できれば)問診

外傷診療の基本は、受傷時の状況が再現できる位まで詳細に聞くこと

3. ⾝体診察原則全例に全⾝観察が必要

4. 画像検索と創部の処置は最後に※ Maltreatment/abuse を常に意識

17

頭部CTを撮る基準

18

※ Golden standardは存在しない– NICE guideline(英国)

NICE clinical guideline 176 Head injury. Jan 2014

– PECARN network(北⽶)Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma Lancet 2009

• 頭部CTと被爆– 2〜3回のCT 脳腫瘍発⽣リスク ×3– 5〜10回のCT ⽩⾎病発⽣リスク ×3(脳腫瘍/⽩⾎病の発症率は10万⼈中2.8/4.5)

NICE guideline

19

1. 虐待を疑う症例2. 受傷後のけいれん(てんかんの既往なし)3. 救急室での初期評価で GCS<14 (乳児では<15)4. 開放性頭蓋⾻⾻折 or 陥没⾻折の疑い5. 頭蓋底⾻折を⽰唆する⾝体所⾒6. 乳児で頭部⽪下⾎腫、腫脹、≧5cmの裂傷7. 神経学的巣症状 これが⼀つでもあれば該当

8. ⽬撃がある5分以上の意識消失9. 異常なぐったり感10. 3回以上の嘔吐11. 5分以上持続する逆⾏性および前⾏性健忘12. ⾼エネルギー外傷 これが⼆つ以上あれば該当

ー頭部CT適応基準ー

たとえばこんな⽅法もHAT(Hair Apposition Technique)法

20※ 患者さんのご家族から写真撮影の同意を頂いています

ちっちゃな⼦には処置できない?

21

※ 患者さんのご家族から写真撮影の同意を頂いています

保護者の⽅にいてもらう

(いい意味で)気をそらす

話しかける

痛み⽌めをちゃんとする

ICUってどんな⼈を診るところ?

2. ⼩児科ローテーター的ICUの歩き⽅

22

ICUの対象患者(群大ICU)

23

A.集中治療部⼊室患者基準1)⼿術後の重症患者(特に合併症を有する患者)2)急性呼吸不全⼜は慢性呼吸不全急性増悪患者3)意識障害患者または痙攣重積患者4)重症循環不全患者または重篤な不整脈を有する患者5)⼼肺蘇⽣後患者 6)重症代謝障害患者7)急性腎不全患者 8)急性肝不全患者9)急性薬物中毒患者 10)重症敗⾎症患者11)重篤な外傷患者、熱傷患者、破傷⾵患者12)重症凝固線溶異常患者 13)臓器移植患者

B.集中治療部⼊室を許可しない患者1)死亡の確実な末期患者 2)感染経路が不明な急性伝染病患者3)急性症状のない慢性疾患患者

ICUの対象患者(都立小児総合医療センターPICU)

24

1. 各種臓器不全・重症病態の治療–循環不全、呼吸不全、腎不全–中枢神経障害 (けいれん重積、急性脳炎・脳症他)–敗血症性ショック、多発外傷、広範囲熱傷、中毒

2. 周術期管理–開心の有無を問わず心臓血管外科、脳神経外科他

3. その他周術期の人工呼吸、モニタリング

ICUの分類

25

General ICU

Cardiac ICU

MixedICU

群⼤病院ICUの⼀⽇勤務開始

カンファレンス

︵当直↓⽇勤・各科医休⽇は9

時︶

朝回診

病棟業務

⾎液ガス︵10

時︶

患者指⽰確認・必要処置補助

昼⾷

予定患者︵術後〜準夜帯︶⼊室

病状説明

⾎液ガス︵16

時︶

⼣回診︵⽇勤↓当直医

各科適宜︶

当直業務へ

⾎液ガス︵22

時︶・指⽰簿確認

⾎液ガス︵2

時︶

採⾎・⾎液ガス︵6

時︶

カンファレンス・朝回診

当直:⽉ 6 回程度、完全シフト勤務 夜勤は 2 or 1 名休⽇:⼟⽇完全休⽇が⽉1回、それ以外は何かしら勤務 26

都⽴⼩児総合医療センター集中治療科患者内訳(2011年年度)

約半数は術後症例残り半数を直送、転送及び病棟急変症例

27

小児科 vs 救急・集中治療 : 視点の違い

28

救急・集中治療からのアプローチ:・病態の評価・⽣理機能の維持・代替

⼩児科からのアプローチ:・原疾患の診断・評価・原疾患に対する特異的治療

⿇酔、救急と集中治療• 共通することは、「場をコントロールする」ということ• 違うことは、患者の特性

救急

集中治療

⿇酔多種多様な患者

忙しさは時間帯の影響を強く受ける

⼿持ちの医療資源とのバランスを常に考慮

ある程度選択された患者⿇酔下にコントロール

患者の周術管理のための⼗分な準備

それぞれの背景・特徴に配慮した診療が必要29

心肺停止に陥るための危険因子背景となる因子

呼吸 循環 突然の心停止(不整脈)

呼吸不全

呼吸窮迫ショック

心停止

呼吸/循環不全

代償性

非代償性

30

呼吸窮迫と呼吸不全

呼吸数や、努力呼吸によって呼吸仕事量を増加させて代償させている状態

呼吸障害が代償できない程に悪化し、低酸素血症や高二酸化炭素血症を呈する状態

呼吸窮迫とは

呼吸不全とは

31

ショックとは組織の代謝需要に見合う、

酸素と栄養の供給がなされない危険な状態

心拍数

血圧代償性ショック

非代償性ショック平時との比較(%)

ショックの進⾏度 32

ショックはどこで見つける?

循環器系中枢末梢

中枢神経系消化器系腎・尿路系血液検査

心拍数・血圧四肢冷感、皮膚色不良意識障害・けいれん悪心・嘔吐乏尿・無尿肝逸脱酵素の上昇血球・凝固能の変化

中枢神経系 意識障害、けいれん

33

前負荷とStarlingの法則

34前負荷

収縮⼒

ショックと前負荷・心収縮力・後負荷ショックの種類 前負荷 ⼼収縮⼒ 後負荷

循環⾎漿量減少性 ↓ →〜↓ ↑

⾎管分布異常性 →〜↓ →〜↓ 様々

敗⾎症性 ↓ →〜↓ 様々

アナフィラキシー ↓ 様々 左⼼:↓右⼼:↑

神経原性 ↓ → ↓

⼼原性 様々 ↓ ↑

閉塞性 様々 → ↑

35

背景となる因子呼吸 循環 突然の心停止

(不整脈)

呼吸不全

呼吸窮迫ショック

心停止

呼吸/循環不全

代償性

非代償性

心肺停止に陥るための危険因子

36

Disability of CNS

• GCSを用いた意識レベルの評価• GCS≦ 8、または2点以上の低下は気管挿管を考慮

• 意識レベルの低下と意識変容の違い

37

脳ヘルニアのリスク

意識の異常はひょっとしたらABCの異常に基づいたものかもしれない、という意識を常に持つことが大切!

Disability of CNS• 何はなくともABC+血糖• 大泉門• 顔面• 瞳孔• 髄膜刺激徴候(項部硬直、Kernig徴候)• 四肢• 筋力• 腱反射

どの要素に関しても年齢相当という視点がポイント

38

小児のGCS:Glasgow coma scale(E)

E 乳児 幼児 成⼈

4 ⾃然開眼している

3 ⾳刺激(声掛け)で開眼する

2 痛み刺激で開眼する

1痛み刺激を加えても開眼しない

(開眼しているが、刺激に反応しない場合はE1とする)

39

小児のGCS(V)V 乳児 幼児 成⼈

5 笑う、喃語 年齢相当の単語 ⾒当識あり

4 啼泣、易刺激性 混乱した単語、会話

3 痛み刺激で啼泣 不適当な発語

2 痛み刺激でうめき声 うめき声 無意味な発声

1 発声なし

40

小児のGCS(M)M 乳児 幼児 成⼈

6 ⾃発的、合⽬的的 指⽰に従う

5 接触からの逃避 痛み刺激に⼿⾜を持ってくる

4 痛み刺激から逃避する

3 上肢を異常屈曲させる(徐⽪質肢位)

2 四肢を異常伸展させる(徐脳肢位)

1 全く動かさない41

JCS:Japan coma scale

42

Ⅰ.覚醒している(1桁の点数で表現)0 意識清明1 ⾒当識は保たれているが意識清明ではない2 ⾒当識障害がある3 ⾃分の名前・⽣年⽉⽇が⾔えない

Ⅱ.刺激に応じて⼀時的に覚醒する(2桁の点数で表現)10 普通の呼びかけで開眼する20 ⼤声で呼びかけたり、強く揺するなどで開眼する30 痛み刺激を加えつつ、呼びかけを続けると⾟うじて開眼する

Ⅲ.刺激しても覚醒しない(3桁の点数で表現)100 痛みに対して払いのけるなどの動作をする200 痛み刺激で⼿⾜を動かしたり、顔をしかめたりする300 痛み刺激に対し全く反応しない

ROS: REVIEW OF SYSTEM を⼟台にICUの位置づけ

2. ⼩児科ローテーター的ICUの歩き⽅

43

3.PICUに入室した患者診療のポイント

A 気道 開通、維持B 呼吸 異常呼吸C 循環 HR,BPに加え

末梢循環もD 意識 瞳孔、反射

ABCとの関連E 体温 外表所見も

F 体液 おかずに注意G 消化器 栄養もH 血液 輸血は要る?I 感染 フォーカス

検査、抗菌薬

・治療方針(Disposition)・家族・社会的配慮

ROS (Review of System)≒救急のABC

44

診療のストーリー展開を考える

45

病院前・予防

救急

集中治療

⼀般病棟

通院・療育・リハ

• 侵襲が及ぼす影響• 典型例な時間経過

を考える

患者の発⽣から退院までの体制

0.1%

⼊院治療4.9%

リハビリ・

療育・

在宅医療救急外来診療

95.0%

労働基準法に⾒合った医療者の労働環境の構築

家族・家庭看護⼒の醸成・継承

予防医学〜家庭看護⼒育成

軽症で済ませる親の不安も解消

初期救急医療 ⼆次〜三次救急医療

#8000救急オンラインリーフレット

慢性期医療

地域でのシームレスな連携構築が不可⽋

急患センター 地域基幹病院 ⼤学・⼦ども病院

診療所(時間外診療)

救命救命センター地域の

⼩児科診療施設リハ・療育施設

外因性疾患・⼩児特有疾患での⼩児科医と救急医との協働強化

院内トリアージ

重篤⼩児救命救急センター(P)ICU地域中核病院 等

北九州市⽴⼋幡病院⻑/⽇本⼩児救急医学会理事⻑市川光太郎先⽣スライドを引⽤46

⼦どもの急病に対する相談⽀援・普及啓発

48

救急に携わる上での心構え

患者・家族中⼼の医療コメディ

カル

各診療科医師

⾏政⾃治体

地域住⺠の理解

環境整備

診断治療管理

ご静聴ありがとうございました。ICUもどうぞよろしくお願いいたします。

49

何か気になることがあればこちらまでご連絡をE-mail: [email protected]