性を超える医療技術 medical_technology_for_tg_2013
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性を超える医療技術-イスラームの規範子宮移植から再生医療まで 2013年のポスター発表です。TRANSCRIPT
性を超える医療技術-イスラームの規範
子宮移植から再生医療まで
伊東 聰AL-QASAS株式会社
1.はじめに 医療倫理とイスラームの関係人間の価値観よりイスラームを優先する政治政策から個人の生活すべてにおいて優先
すべてのものが「等価で平等」、本来は少数者/異端者に優しい宗教
最大公約数を考慮に入れ、排除、排斥、無視は厳禁
盲信は禁止、理性を働かせて考えることを推奨考えるためのツール(イジュティハード)がある
医療倫理の問題をフレームワークとしてとらえる
しかし、弱点がある問題解決のスピードが遅く、功利主義のアメリカに負ける
間違ったイスラーム原理主義は日本より厳しい「管理主義」になる
イスラームの欧米に対する危機感が「現実」と「教え」の乖離に現れる
日本のなかでも増えてきた嫌イスラームの原因になる(偏見の拡大)
2.「アラブの春」、イスラームの最近の動向「アラブの春」の「自由」リビアのカダフィ議長の殺害は「保護的な」「父的なもの」への反抗、父親ごろしかエジプトのムスリム同砲団出身のムルシ大統領の誕生、そしてそれを歓迎するアフマディネジャド大統領の歓迎⇒イスラームの基本理念を政治政策に反映できる「自由」を得たイスラームの科学技術思考での勝利イランは幹細胞移植医療の臨床応用数では世界一といわれる ⇒末梢血幹細胞移植 :アルデシール・ガヴァームザーデ氏 安易に利用しているとの日本からの批判もあるイスラーム主義者でない若者の欧米文化への憧れイスラーム主義者の想定を超えたトラブルが起こる危険性ネット上でのイスラーム的に間違ったアクティビティの蔓延(エジプト女性のヌード)間違ったイスラームによる非人道的な政治政策の暴走(タリバンの少女銃撃)
イスラームの「寛容」が失われ、少数者/異端者にダメージを与える懸念あり
3.医学の発展スピードの「想定外」生殖医療再生医療★性同一性障害をテーマにしてみると見えてくるもの従来の性同一性障害問題の基本思考⇒当事者「一代限り」で「自己完結」する
「性別変更」の「子なし要件」はそれが前提になる
2010年からの変化⇒当事者が家族をつくるという問題
しかも性別変更後に実子を得られる可能性が医学的に出てきた。医学をはじめとする科学の発展は早いが、
そこに人間の社会意識、倫理観がついてこれていない時代になった。
世界初の子宮移植手術◆2000年、サウジアラビア26歳の女性に閉経後の46歳の女性から移植、施術後99日目に子宮内に血栓が発生、摘出(生体移植による)◆2011年、トルコデルヤ・セルトさん(21歳)子宮欠損症の当事者アンタリヤ県のアクデニズ大学病院(死体移植)イスラームのファトワ(法的見解)は?「子宮が他人のものであったとしたら、その子供は他の家系の特徴を帯びて生まれてくることになり、血統を受け継いでいくのが困難になる」
4.子宮移植ーMTFが実母になる可能性
2011年10月3日 AFP
5. iPS細胞から精子ー FTMが実父になる可能性2011年、斉藤通紀・京都大教授の研究チーム2012年には卵子の作成にも成功★FTMに「実子ができる」の意味の変化2006年は FTMの卵子をつかった実子ができるだった・・・
文部科学省の「科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会人クローン胚研究利用作業部会(第 21回)配付資料」
⇒「 SRS後の FTMの卵巣を ES細胞研究に使用する」2012年 iPS細胞で FTMが精子をつくることができる
現在人への応用は時間がかかるが、遠くない将来FTMが医学的には男性としての生殖能力をもつことが可能となるs
たった6年の間に生殖医療研究がここまで進んでいる
6. iPS細胞とは FTMと ES細胞iPS細胞とはiPS細胞は、どんな臓器にもなれる「万能細胞」である
生物はひとつの細胞から分化して胎児になる。
細胞をその状態に「初期化」できるのが iPS細胞である。
そのため、 FTMから SRS後の卵巣の提供をうけることも検討されていた
ES細胞の倫理的な問題もクリアした、といわれる。参考:伊東聰「 FTMTSと難聴をつなぐもの- ES細胞研究」 (2006)
ブクログ ID:http://p.booklog.jp/book/67873
切除した卵巣の使用に興味のない「勝手にしやがれ派」
⇒非当事者がイメージする FTMはこちら「実は自分の実子を持ちたい派」
「できれば冷凍保存して現在の人工授精の技術をつかって、もしくはそのクーロン技術を使って彼女の未受精卵に自分の胚をいれて(精子と卵子の受精と同じように)自分の子を彼女に産んでほしい。」
⇒当事者としてはこちらのほうが多いだろう
7.イスラームのファトワはどう答えている?生殖医療1.代理母は OKか? ⇒ NG
2. AID(非配偶者間人工授精)は OKか?⇒ NG
婚姻関係の混乱をさけるため
「女性の子宮を夫以外の精子や他人の受精卵、胎児などにつかうことは認められない」
冷凍した夫の精子を夫の死後に受精 ⇒ NG
「死とともに婚姻関係が消滅するため」
再生医療「受精卵を破壊し、 ES細胞研究を行うことは許可できる」 ⇒ OK
女性の子宮のなかという自然環境にないため、
ヒト受精胚の段階では人間ではない。
ただし、胚の不正使用に厳しい規則を確立する必要がある。
⇒キリスト教の場合は人間であるため、 NGである。
8. FTMの AID(非配偶者間人工授精)生殖医療関連の法整備はいかにあるべきか?
生殖医療の使用によるきりわけか?⇒現行では不可能DNAデータの強制登録によるチェックは?⇒かえって家族関係に問題がおきる現行の AID男性と同じように「すべて嫡出子」ではだめなのか?FTMと男性を区別する必要があるのか?私見立法の考え方を変える時期にきている。人間を管理するために際限ないパラメータで人間を定義し、細分化している分ければ分けるほど法の「想定外」がでてくる排斥/無視していくシステムをいつまで続けるか医学の発展の速さと法整備の遅れとのいたちごっこはいつまで続くのか困るのは当事者が変えられない問題で人生が数十年にわたり停滞する
AID男性の子供 AIDFTMの子供 IPS男性の子供 IPSFTMの子供
嫡出子 非嫡出子 嫡出子 非嫡出子????
9.未来の性同一性障害の治療はこうなる?再生医療でできるのか?2012年12月1日「臓器を再生する新たな医療の実現をめざして」(葛飾区)
東京理科大学・辻孝教授にきいてみた
Q.性分化異常で途中で成長が止まっているケースで
iPS細胞で性分化を巻き戻してあるべき姿に育つことは可能か?
★質問の意図:
ホルモンを作れないなどで健康に影響のある性分化異常もあるため。
A.すぐに答えられない、難しい。
⇒あるべき姿に育つ幹細胞を発見できるかにかかっている。現在ホルモン療法で投与している性ホルモンを自己生産できるか?形成外科療法で形成している生殖器の自前での製造、移植できるか?性別変更の手段が性別適合手術でなくなる?しかし上記は移行先の性に分化する
正しい遺伝子の設計図をもつ細胞が存在するかどうかが、鍵になる。
10.現在の法的動向2006年 厚生労働省告示第425号2009年 文部科学省告示代88号「ヒトiPS細胞又はヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行う研究に関する指針」iPS Trend (http://www.ips-network.mext.go.jp/)第 2回 iPS細胞の生殖細胞研究への応用 2012年 7月 25日の記事より(抜粋)「日本ではヒトの生殖細胞を作る研究は 2010年 5月まで法律で禁止されていました。しかし、生殖細胞を大量に得ることができれば不妊症の原因解明や治療法の開発研究に利用できることから、現在は受精させないことなどを条件に解禁されています」
2013年 1月 29日 「再生医療規制法」厚生労働省案「再生医療・細胞治療の安全性の確保等に関する法案(仮称)」「再生医療」も「医療ツーリズム」に組む込むか?日本の成長戦略。しかし…2011年4月 多くの欧州諸国において幹細胞治療のガイドライン強化により、商業ベースの幹細胞投与が不可に日本では幹細胞の輸注、投与、移植等の所謂、再生・細胞医療と称する医療が自由診療で行われ、種々の医療事故が発生
11.最後に 意見「悪法もまた法なり」(ソクラテス)だが・・・ほかのみんなは OKだが、お前だけはだめだという法を
個人が従容として受け入れる時代ではない。
今の現代人は完成された医療技術があるのに、それを使わせてもらえないということを受容するような個人ではない。
「アラブの春」がひきおこした行動は個人のうちなる衝動の集合体である。
かつて日本で暗黙に禁止された性別適合手術がそうであったように必ず当事者はなんらかの手段で個人の意思を実現しようとする。
それを第三者をはじめとする国家や法、社会意識、社会倫理がとめることはできない。その事実を認める必要があるだろう。
法で「誰にとってダメである」という定義を打ち出すとかつて障害者の欠格事項が問題になったように医療・工学的技術が障害を緩和しても社会の障害を乗り越えることができなくなる。⇒それが倫理的問題のある医療の横行につながる
必要な法は「その医療技術の手段が安全かつ完成されているものか」
「臓器移植による人身売買などの誰かの犠牲のもとになりたつものでないこと」を確認・保障する手続きについての明文化であると思われる。
伊東 聰
AL-QASAS株式会社医療・美容戦略部