先端生物科学実験法Ⅰ - 北海道大学 薬学部・大学院...

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先端生物科学実験法Ⅰ 脂質・糖質の調製と解析(抽出・検出・解析)

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先端生物科学実験法Ⅰ脂質・糖質の調製と解析(抽出・検出・解析)

16日(水)2限の講義は10月18日(金)2限に変更です。

この講義の評価と連絡事項

・出席

・今回の講義でわかりやすかったこと

・今回の講義でわかりづらかったこと

・今回の講義の良かった点,悪かった点

今日のスライドは生化学のホームページに貼っておきます

先端生物科学実験法Ⅰ脂質・糖質の調製と解析(抽出・検出・解析)

核酸蛋白質脂質,糖質

その他の無機および有機化合物(ビタミン,ホルモンなど)

生体を構成する成分

なぜ抽出,分離・検出,解析するのか?

分子レベルで生命機能がどのように構成,維持されているかを解明するため

(病因,病態の解明)

分子標的薬,機能性食品の開発

細胞内

細胞外(血管,リンパ管など)

リポ蛋白質アルブミン

リン脂質

コレステロール

糖脂質

遊離脂肪酸

糖蛋白質

糖質とは?

単糖グルコース,フルクトース,ガラクトース etc

ポリアルコールのアルデヒド,ケトン,酸またはポリアルコール自身やそれらの誘導体,縮合体の総称

C

C

C

C

C OH

CH2OH

CH2OH

OH

OH

OH

OHHO

OH

HH

H

H HH

H

HO

O

H

H

HO

CH2OH

OH

OHHO OH

HH

H

H HO

D-グルコースα-D-グルコピラノース β-D-グルコピラノース

オリゴ糖(2~20個からなる単糖の縮合体) 二糖:スクロース · ラクトース・マルトース etc

多糖グリコーゲン,セルロース,グリコサミノグリカン(ヘパリン,ヒアルロン酸) etc

・N結合型糖鎖(アスパラギン残基)

糖蛋白質・・・蛋白質に数種の糖から構成される糖鎖が結合

糖脂質・・・ 蛋白質に数種の糖から構成される糖鎖が結合スフィンゴ糖脂質(ガングリオシド)

・O結合型糖鎖(セリン,スレオニン残基)・プロテオグリカン(重量の約95%が糖質)

糖質とは?

1. 有機溶媒には溶けるが水には溶けない。 2. 分子中に鎖状あるいは環状の炭化水素基を持つ。 3. 生物体中に存在するか,生物に由来するあるいは生物に利用される物質である。

脂質とは?

単純脂質炭素,水素,酸素のみで構成される脂質。・脂肪酸・アルコールと脂肪酸のエステル(アシルグリセロール,ワックス)。

複合脂質単純脂質に加え,リン,硫黄,窒素元素を含む脂質

細胞内には数千の脂質分子種が存在それぞれの脂質に特徴的な時間的・空間的配置が細胞のホメオスタシスを支えている

脂質の分類(構造別)

脂質の種類 共通構造

脂肪酸 カルボキシル基

グリセロ脂質 グリセロール

スフィンゴ脂質 スフィンゴイド塩基

ステロール類 ステロール

ワックス 長鎖アルコール

その他

脂肪酸とは?

OHO

長鎖炭化水素からなるカルボン酸

パルミチン酸(C16:0)

二重結合の数,位置の違いから分類

・短鎖脂肪酸(≦C7)・中鎖脂肪酸(C8 ~ C14)・長鎖脂肪酸(C15 ~ C20)・極長鎖脂肪酸(C21~ C25)・超長鎖脂肪酸(C26 ≦)

OHO

OHO

OHO

オレイン酸(C18:1)

アラキドン酸(C20:4 n-6)

DHA(C22:6 n-3)

・飽和脂肪酸・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸(n-3系列,n-6系列)

炭素数の違いから分類(分類には諸説有り)

グリセロ脂質

グリセロールに脂肪酸(アシル基)が結合したもの

グリセロール

O-C-(CH2)n-CH3

=

R :

様々な鎖長および不飽和度の脂肪酸が結合

CH

CH2

CH2

OH

OH

OH

CH

CH2

CH2

OR3

OR2

OR1

トリアシルグリセロール

CH

CH2

CH2

OR3

OR2

OR1

モノアシルグリセロール

HH

ジアシルグリセロール

CH

CH2

CH2

OR3

OR2

OR1

H

グリセロリン脂質グリセロールにリン酸基,アシル基が結合したもの

・ホスファチジルエタノールアミン(PE)・ホスファチジルコリン(PC)・ホスファチジルセリン(PS)・ホスファチジルイノシトール(PI)etc

極性基,アシル基の異なる多種のものが存在

CH

CH2

CH2

PO-

O

=

O–

OR2X

OR1

O

グリセロリン脂質グリセロールにリン酸基,アシル基が結合したもの

・ホスファチジルエタノールアミン(PE)・ホスファチジルコリン(PC)・ホスファチジルセリン(PS)・ホスファチジルイノシトール(PI)etc

極性基,アシル基の異なる多種のものが存在

PC (C18:1/C16:0)OO PN

CH3H3C

H3C O

O

O

O O

O

CH

CHC

C18:1

C16:0

CH

CH2

CH2

PO-

O

=

O–

OR2X

OR1

O

グリセロリン脂質グリセロールにリン酸基,アシル基が結合したもの

・ホスファチジルエタノールアミン(PE)・ホスファチジルコリン(PC)・ホスファチジルセリン(PS)・ホスファチジルイノシトール(PI)etc

極性基,アシル基の異なる多種のものが存在

PC (C18:1/C16:0)OO PN

CH3H3C

H3C O

O

O

O O

O

CH

CHC

C18:1

C16:0PC (C18:2/C16:0)PC (C18:3/C16:0)PC (C20:4/C16:0)PC (C18:1/C18:1)・・・ 数十種類の分子種

CH

CH2

CH2

PO-

O

=

O–

OR2X

OR1

O

スフィンゴ脂質

スフィンゴイド塩基(長鎖塩基)を基本骨格として持つ脂質

NH2

OH

OH

NH2

OH

OH

NH2

OH

OH

OH

スフィンゴシン

ジヒドロスフィンゴシン

フィトスフィンゴシン

NHOH

OH

O

セラミド(スフィンゴシン+種々の脂肪酸)

様々な糖鎖が結合(ガングリオシド)

脂質の分類(構造別)

脂質の種類 共通構造

脂肪酸 カルボキシル基

グリセロ脂質 グリセロール

スフィンゴ脂質 スフィンゴイド塩基

ステロール類 ステロール

ワックス 長鎖アルコール

その他

その他の脂質

ステロール類

ワックス

その他の脂質

RR : -H or 脂肪酸

O

カロテノイド,テルペノイドなど

細胞内

生体膜には多種多様な脂質,糖質が存在している

生体膜には多種多様な脂質,糖質が存在している

個体レベル:発生時期,組織,細胞種ごとに脂質組成が異なる細胞レベル:細胞膜内層,外層,オルガネラによって脂質組成が異なる

生体膜には多種多様な脂質,糖質が存在している

個体レベル:発生時期,組織,細胞種ごとに脂質組成が異なる細胞レベル:細胞膜内層,外層,オルガネラによって脂質組成が異なる

= 脂質の時間的・空間的配置が異なる

生体膜には多種多様な脂質,糖質が存在している

脂質の時間的・空間的配置の異なりをどのように解析するか?

個体レベル(発生時期,組織,細胞種ごと)の脂質組成の違いを調べるためにはどうすればいいか?

脂質の時間的・空間的配置の異なりをどのように解析するか?

個体レベル(発生時期,組織,細胞種ごと)の脂質組成の違いを調べるためにはどうすればいいか?

それぞれから脂質をとりあえず抽出してみる

性質がそれぞれ異なるので目的の物質に適した条件を探す(いかに目的物質を特異的に感度よく検出できるか?)

薬剤・・・低分子有機化合物

考え方や手技,検出方法はいずれも共通する面も多い

脂質,糖質・・・低分子有機化合物

脂質を抽出する

有機溶媒に溶けやすい性質を利用

すべての脂質を一度に抽出する万能な方法はない

精製法,検出法が確立されているDNAや蛋白質とは対照的

脂質を抽出する

有機溶媒に溶けやすい性質を利用

細胞,組織など(固体サンプル) → 有機溶媒中で破砕する

血液,唾液など(液体) → 有機溶媒と二層分配する

DNA,蛋白質,糖,無機イオンは溶けない

二層分配による脂質抽出

Bligh-Dyer法:多種の脂質を一度に抽出できる

細胞や組織の破砕液,血漿など(水層)100 µL

クロロホルム/メタノール=1/2 溶液 300 µL

クロロホルム 100 µLH2O 100 µL

有機層(脂質)

水層(DNA,糖,イオン)中間層(蛋白質)

クロロホルム/メタノール/H2O = 1/1/1になる

二層分配による脂質抽出

Bligh-Dyer法:多種の脂質を一度に抽出できる

水層の塩基性,酸性によって脂質分子の有機層への移行をコントロール(一般的にイオン型=水層,分子型=有機層)

糖鎖の数が多い脂質は水層に移行

細胞や組織の破砕液,血漿など(水層)100 µL

クロロホルム/メタノール=1/2 溶液 300 µL

クロロホルム 100 µLH2O 100 µL

有機層(脂質)

水層(DNA,糖,イオン)中間層(蛋白質)

クロロホルム/メタノール/H2O = 1/1/1になる

二層分配による脂質抽出

Bligh-Dyer法:多種の脂質を一度に抽出できる

水層の塩基性,酸性によって脂質分子の有機層への移行をコントロール(一般的にイオン型=水層,分子型=有機層)

糖鎖の数が多い脂質は水層に移行

細胞や組織の破砕液,血漿など(水層)100 µL

クロロホルム/メタノール=1/2 溶液 300 µL

クロロホルム 100 µLH2O 100 µL

有機層(脂質)

水層(DNA,糖,イオン)中間層(蛋白質)

クロロホルム/メタノール/H2O = 1/1/1になる

脂質の混合物なので特定の脂質を検出するためには分離する必要がある。次のステップは,分離/精製

脂質の分離薄層クロマトグラフィー(TLC)

順相 TLC 逆相 TLC極性(水素結合)の違い 疎水性の違い

Si-OHとの相互作用の違い

Siとの相互作用の違い

官能基(水酸基, アミノ基, リン酸基)の違い

ガラス板

シリカ (

サンプル(脂質)をスポット各脂質は・シリカ表面との相互作用・展開溶媒との相互作用の違いにより異なる移動度(Rf値)を示す

主に炭素数の違い

== =

展開溶媒

脂質の分離薄層クロマトグラフィー(TLC)

順相 TLC 逆相 TLC極性(水素結合)の違い 疎水性の違い

Si-OHとの相互作用の違い

Siとの相互作用の違い

官能基(水酸基, アミノ基, リン酸基)の違い

ガラス板

シリカ (

サンプル(脂質)をスポット各脂質は・シリカ表面との相互作用・展開溶媒との相互作用の違いにより異なる移動度(Rf値)を示す

主に炭素数の違い

== =

展開溶媒

脂質は無色のものがほとんどなのでそのままでは見えない → 染色する

脂質の検出(その1)

脂質の染色

染色試薬 染色対象水 全ての脂質ヨウ素 全ての脂質銅リン酸 全ての脂質ニンヒドリン アミノ基を持つ脂質オルシノール 糖脂質

ブロモクレゾールグリーン カルボン酸

脂質の検出(その1)脂質の染色例

マウス表皮から抽出した脂質を展開後,銅リン酸で染色

コレステロール

セラミド

グルコシルセラミド

ホスファチジルエタノールアミン

ホスファチジルコリン

マウス小腸から抽出した脂質を展開後(左とは違う展開溶媒),銅リン酸で染色

トリアシルグリセロール

コレステロール

ホスファチジルエタノールアミン

ホスファチジルコリン

トリアシルグリセロール

スフィンゴミエリン

スフィンゴミエリン

脂質の検出(その1)脂質の染色例

マウス表皮から抽出した脂質を展開後,銅リン酸で染色

コレステロール

セラミド

グルコシルセラミド

ホスファチジルエタノールアミン

ホスファチジルコリン

マウス小腸から抽出した脂質を展開後(左とは違う展開溶媒),銅リン酸で染色

トリアシルグリセロール

コレステロール

ホスファチジルエタノールアミン

ホスファチジルコリン

トリアシルグリセロール

スフィンゴミエリン

スフィンゴミエリン

染色試薬を用いた検出では感度が低い

脂質の検出(その2)

より特異的,より高感度に脂質を検出するために

・放射性同位体(14C, 3H, 32P)・蛍光標識脂質を用いる

C14C

C

OH

OH

OH

H

H

H

H

H

[14C]グリセロール NBD-スフィンゴシン

NBD

脂質の検出(その2)

[14C]グリセロール NBD-スフィンゴシン

脂質抽出,TLCで展開,検出

蛍光

蛍光

放射線

放射線

放射線

細胞内で脂質合成に用いられる

グリセロ脂質 スフィンゴ脂質

培地に添加 培地に添加

スフィンゴ脂質以外は検出されないグリセロ脂質以外は検出されない

脂質の検出(その3)

これまでの方法の問題点細胞全体,組織全体の脂質の混合物しか見れない

よりミクロに脂質を見たい(細胞内の各オルガネラにおける分布,挙動の違

いを見たい)

アネキシンV(ホスファチジルセリン)ライセニン(スフィンゴミエリン)コレラトキシン(GM1)Ro (ホスファチジルセリン)蛍光標識脂質

DNA,タンパク質との特異的検出ツールの違い

DNA 目的のDNAに結合する相補鎖(蛍光標識)

.....ATGGACGTATG.....TACCTGCATAC

検出したい配列プローブ

蛋白質 抗体(HRP標識,蛍光標識)

脂質

糖質 レクチン蛍光標識糖鎖

ほとんどの蛋白質に応用可能

すべての糖質には応用できない

すべての脂質には応用できない

すべてのDNA 配列に応用可能

(細胞内で特定の脂質を特異的に 可視化するのは困難)

蛋白質,脂質の検出例(よりミクロに検出)

人工脂質小胞(スフィンゴミエリン,Bodipy-C12-PC(左緑)で構成) をライセニン(右緑)で染色

細胞表面をライセニン(右緑)で染色

Bodipy-ceramide で細胞を標識(赤)

ジストロフィン結合蛋白質を蛍光標識抗体で検出

NHOH

OH

ONNB

F F

Bodipy-C5-ceramide

蛋白質,脂質の検出例(よりミクロに検出)

人工脂質小胞(スフィンゴミエリン,Bodipy-C12-PC(左緑)で構成) をライセニン(右緑)で染色

細胞表面をライセニン(右緑)で染色

Bodipy-ceramide で細胞を標識(赤)

ジストロフィン結合蛋白質を蛍光標識抗体で検出

NHOH

OH

ONNB

F F

Bodipy-C5-ceramide

NHOH

OH

O

C24-ceramide

蛍光標識脂質は実際の脂質を反映していない可能性が高い

アネキシンV(ホスファチジルセリン)ライセニン(スフィンゴミエリン)コレラトキシン(GM1)Ro (ホスファチジルセリン)蛍光標識脂質

DNA,タンパク質との特異的検出ツールの違い

DNA 目的のDNAに結合する相補鎖(蛍光標識)

.....ATGGACGTATG.....TACCTGCATAC

検出したい配列プローブ

蛋白質 抗体(HRP標識,蛍光標識)

脂質

糖質 レクチン蛍光標識糖鎖

ほとんどの蛋白質に応用可能

すべての糖質には応用できない

すべての脂質には応用できない

すべてのDNA 配列に応用可能

(細胞内で特定の脂質を特異的に 可視化するのは困難)

より先端的な脂質解析

分離・検出機器の発達により多様な脂質の検出が可能になってきた。

OO PN

CH3H3C

H3C O

O

O

O O

O

CH

CHC

PC (C18:1/C16:0)

PC (C18:2/C16:0)PC (C18:3/C16:0)PC (C20:4/C16:0)PC (C18:1/C18:1)

・・・・数十種類の分子種

LC-ESI-MSによる分離/検出

Liquid chromatography:液体クロマトグラフィーElectrospray ionization:エレクトロスプレーイオン化 Mass spectrometer:質量分析計

イオンを質量の大きさごとに分離し,検出

脂質を極性および疎水性の違いで分離

脂質をイオン化

LC ESI MS

脂質だけでなくイオン化する全ての化合物に応用可能

LC-ESI-MSの応用範囲1. 天然物化学/有機合成化学 ・分子量の確認,構造解析2. 生化学/医学/薬学/法医学など  ・生体高分子(タンパク質,核酸,糖,脂質など)の分析 ・臨床診断(先天性代謝異常など) ・ドーピングテスト  ・薬物動態3. 環境分析  ・農薬,環境ホルモン様物質などの定量,モニタリング4. 製品管理 ・不純物分析など5. その他 合成高分子化学(添加剤),材料分析,石油化学など

LC(HPLC,UPLC)による分離/検出

MSへ

UV or 蛍光検出器を取り付けることも可能

移動相(4種の混合比を自在に制御)

サンプル

カラム脂質を極性および疎水性

の違いで分離

各脂質がカラムから出てくる

TLC(展開溶媒は単一)12

3

45

2 1345

サンプルの注入をスタートしてカラムから出てくるまでの時間(保持時間)

保持時間(分)

イオン強度

LC-MSで得られるデータ

1:質量数

2:質量数

3:質量数

4:質量数

5:質量数

LC-ESI-MSの応用

MSへ

サンプル(組織切片などを使用)

カラム

保持時間(分)

イオン強度

1:質量数

2:質量数

3:質量数

4:質量数

5:質量数

レーザーマイクロダイセクションとの組み合わせ

画像データに変換

4.5mm2から数µm2の領域をカット

脂質抽出

イメージングMS組織における様々な分子種の脂質分布を画像化

島津製作所HPより