平成 29 年度海外炭開発支援事業 海外炭開発高度化...

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平成 29 年度海外炭開発支援事業 海外炭開発高度化等調査 「地球温暖化を含む環境問題の動向及び 石炭事業への影響調査」 平成 30 年 3 月

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平成 29 年度海外炭開発支援事業

海外炭開発高度化等調査

「地球温暖化を含む環境問題の動向及び

石炭事業への影響調査」

平成 30 年 3 月

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はじめに

海外炭開発高度化等調査は、我が国への海外炭の安定的かつ低廉な供給確保に資するため、主要産

炭国の石炭生産動向やインフラ整備状況及び主要消費国の石炭消費動向等に係る最新の情報収集・分

析を実施し、本邦民間企業等へ情報提供することを目的としている。

石炭は資源量が豊富であり、地域偏在性も少なく、経済性に優れた化石燃料であるが、採掘及び利

用時において大気・水質等の周辺環境の汚染を引き起こす可能性があり、また、燃焼時における単位熱

量あたりのCO2排出量が多いのは事実である。

2015年11~12月にフランス・パリにて開催された気候変動枠組条約締結国会議(COP21)におい

て、気候変動の脅威への世界の対応を強化することを目的としたパリ協定が採択された。パリ協定は

2016年11月に発効し、目標達成に向けて各国が具体的対応を始めている。

石炭利用に関する政府等の対応は各国の経済やエネルギー供給等の状況により異なっているが、今

後、気候変動や環境問題から制約が強まる可能性もある。また、NGO等による炭鉱開発及び操業への

抗議・妨害活動、国際金融機関による石炭火力発電所への融資の制限及び機関投資家等による石炭(化

石燃料)関連企業からの投資の撤退(ダイベストメント)等の動きも見られている。

我が国は、望ましいエネルギーミックスとして、2030年度の電源構成に占める石炭の比率を26%と

することを目標としている。また、地球温暖化対策計画においては、温室効果ガスを 2030年度に2013

年度比 26%削減する中期目標の達成、2050 年度 80%削減を目指す長期的目標を見据えた戦略的取り

組み、革新的技術開発と我が国が保有する優れた技術を活かし世界全体の温室効果ガスの排出削減に

最大限貢献すること等を目指している。エネルギーの長期的戦略を踏まえ、石炭の安定供給を確保し

ていく上で、石炭をめぐる世界の潮流の変化を的確に把握することは極めて重要である。

本調査では、世界の石炭市場及び我が国への石炭供給に影響の大きい豪州及び米国を主たる対象に、

気候変動及び環境問題に関連する政策動向、国際金融機関及び機関投資家等の環境問題への対応動向、

NGO等の動向、石炭業界・主要石炭企業の対応動向等を調査し、我が国への影響等を検討した。

本調査結果が我が国の石炭需要家や商社をはじめ、石炭取引に関わる企業の参考になれば幸甚であ

る。

平成30年3月

独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構

石炭開発部

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要 約

本調査では、世界の石炭市場及び我が国の石炭供給にとり影響の大きい豪州及び米国を対象に、温

暖化対策、環境問題に関連する政策動向及びエネルギー・石炭需給動向について整理し、国際金融機

関及び投資家等の環境問題への対応、NGO 等の活動、石炭業界の対応、資源メジャー等主要石炭企業

等の対応動向等を調査し、我が国への影響等を検討した。

第1章では、世界及び豪州、米国の温暖化対策及び環境対策の動向について整理した。

世界の地球温暖化対策は、パリ協定の採択(2015年12月)により弾みがつき、2020年以降の実施

に向けルール作りが進められている。しかし、気候変動枠組み条約をベースとした地球温暖化対策は、

COP23(2017年11月開催)でも見られたように、先進国・途上国の利害対立等を背景に国際交渉が

難航しがちなことや、今後の排出目標強化の仕組みがないこと等、課題も抱えている。

豪州政府はパリ協定の目標実現に向け、排出量削減基金(Emissions Reduction Fund)をはじめと

する国内対策を実施している。他方、国内のエネルギー政策においては、安定供給の確保と経済負担の

軽減が重要な課題となっていることから、連邦政府はNational Energy Guaranteeを軸とした新たな

エネルギー政策を提案し、石炭火力発電の役割を重視する方針を示している。また対外的にも、石炭火

力発電の高効率化支援等に意欲を示し、石炭を同国の主要輸出産品として重視する姿勢に変わりはな

いことが窺われる。ただし、環境影響評価等を含む炭鉱リースの許認可は、手続きの合理化が進められ

ている面がある一方で、環境保護団体による抗議活動の高まり等を背景に申請が却下される事例も出

ている。

米国では、トランプ大統領により、オバマ前大統領が施行を目指したClean Power Planが撤回され

る等、石炭産業を擁護する政策方針が示されている。しかしながら、シェールガスの生産拡大を背景

に、石炭の価格競争力は著しく低下している。連邦政府は、電気の安定供給の観点から供給力確保等

に向けた検討を行っているが、これまでのところ、炭鉱開発や石炭生産の拡大を促すシグナルは形成さ

れていない。

第 2 章では、豪州及び米国におけるエネルギー需給、電源構成、石炭の生産・輸出等の動向につい

て整理した。

豪州の石炭生産量及び輸出量は増加傾向にあるものの、直近(2015 年)の石炭生産量(500.3Mt)

及び輸出量(389.3Mt)は前年比減となった。米国では近年、石炭生産の減少が続いており、直近の生

産量(671.1Mt、IEA統計による2016年速報値)はピーク時と比べ6割程度に減少、輸出量も急激に

減少している。国内の石炭消費は、豪州では 2008年以降減少していたが、2014年及び 2015年は若

干ながら増加している。米国では 2010年及び 2012年に増加となった他は、2007年以降減少が続い

ている。エネルギー消費や発電電力量は両国とも近年はほぼ横ばいだが、米国では石炭火力発電が占

めるシェアが低下し、2016年の電源別発電電力量のシェアは石炭30.4%、天然ガス34.2%と、天然ガ

スが石炭火力を上回る状況となっている。豪州では石炭火力発電のシェアは 2010年以降は 60%台で

推移し、2015年は63.4%となっている。両国とも、石炭火力発電の設備は古く、亜臨界設備が占める

割合が高い(豪州では稼動中設備の約88%、米国では同68%)。

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第 3章では、第 1章の政策動向を踏まえ、金融機関及び機関投資家等による石炭関連の投融資引き

揚げ(ダイベストメント)や、炭素関連のリスクについての情報開示を求める国際的な取組について概

観した。

政府系の国際開発金融機関(MDBs)においては、2013 年以降、世銀グループや欧州の開発銀行

(EBRD、EIB)等が、例外的なケースを除き石炭火力発電を融資対象から除外する方針を相次いで発

表したが、アジアインフラ投資銀行(AIIB)やアジア開発銀行(ADB)をはじめ、非OECD諸国が

中心となって運営している機関では、現在までのところそうした方針は採用されていない。

民間の大手金融機関や機関投資家による投融資方針・基準の見直しは、石炭関連ビジネスからの撤

退として大々的に報道されるケースが目立つものの、各社の具体的な方針は、石炭関連事業の収益割

合や、石炭火力発電の効率、生産される石炭の熱量等に一定の条件を設け、投資案件の環境マネジメ

ントに関する審査を厳格化する等、一概に撤退表明として捉えられないケースもある。また、再生可能

エネルギー等の新規ビジネスやESG投資の拡大等、新たなビジネス機会に重点を置いているものもあ

る。

情報開示の取組においては、2017 年 6月にTCFDが発表したガイダンスにより、石炭関連事業者

が開示すべき項目等が提示された。事業者は、シナリオ分析に基づく今後の戦略の検討等も含め、対応

が求められている。一方で、事業者の過度な負担は回避しつつ、客観的な情報の開示を確保するために

は課題もあると考えられ、今後の展開が注目される。

第4章では、豪州及び米国における炭鉱や石炭火力発電をターゲットとした非政府組織(NGO)の

活動事例について述べた。

近年の NGO の活動においては、特定の設備や産業活動を直接的にターゲットとしたものにとどま

らず、世界各国の石炭火力発電所の情報に関するデータベースの作成・公開、政府や企業による石炭

関連投融資の多寡に関する情報のとりまとめ・公開、これらに基づく政府や企業に対する批判、反対運

動といった、情報発信を主とした活動の影響力が高まっている。そうした活動を特定の NGO が単体

で行う場合もあれば、他のNGOや企業、学術組織等との協力関係を通じ展開されるケースも目立つ。

こうした活動は、主たる投資家の投融資行動のトラッキングという形でも展開されており、第 3 章で

述べたダイベストメントを要求する動きにもつながっている。

個別の具体的な事例としては、豪州 QLD 州の Carmichael 炭鉱プロジェクトでは、事業者、州政

府、環境保護団体の間でせめぎ合いが続いている他、NSW 州では、Springvale 炭鉱が水質汚染問題

で環境保護団体から提訴される等、操業活動の延長が困難となっていることから、同炭鉱を主たる燃

料供給源とするMount Piper石炭火力発電所(1,400MW)の拡張計画が2017年9月に撤回される等

している。

米国では、自然環境保全や野生生物保護、水質汚染や土壌汚染等の地域の公害問題、気候変動をは

じめとする地球規模の環境問題等について、多数の NGO が活動している。前政権下で停止されてい

た連邦領における炭鉱鉱区の貸与(リース)を再開する方針をトランプ政権が発表した際(2017年3

月)には、一部の環境NGOがこれを不服として行政訴訟を提起し、原告団に参加する等、石炭関連の

活動は現在も活発に行われている。

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第 5 章では、主要石炭事業者(資源メジャー、大手石炭会社)の財務状況と資産ポートフォリオに

ついて整理するとともに、石炭事業者による温暖化・環境対策について述べた。

近年、豪州の石炭産業においては、資産ポートフォリオの見直しが進められ、石炭資産の売買が相次

いだ。ただし、そうした対応戦略は企業により異なっており、一般炭ビジネスからの撤退方針を打ち出

した企業(Rio Tinto)がある一方、資産の買収に乗り出し、市場シェアを伸ばした企業もある(Glencore)。

また、電力会社に対する抗議活動や金融機関ないし株主による“脱石炭”の圧力が高まる中、豪州・

米国ともにエネルギー事業者による石炭火力発電所の閉鎖が相次いだ。米国最大の発電事業者である

AEPは、石炭火力の経済性は大きく変化し、経営リスクを低減するためにも、今後は石炭火力発電の

比率は限定的なものになるとの見方を示している。両国における石炭火力発電所の閉鎖は、設備の老

朽化やそれぞれの電力市場や燃料市場といった要因と環境圧力とが絡み合った動きとなっているが、

政府は電力の安定供給確保を目指した政策を提言しており、今後の動向が注目される。

両国ともに、石炭事業者を対象とした厳格なCO2排出規制は導入されていないが、採掘、輸送、原

状回復等については各種の規制遵守が義務付けられている。QLD 州では 2016 年に Chain of

Responsibilityが導入され、操業状況に関わらずリース期間中における環境規制の遵守や原状回復が義

務づけられている。

第 6 章では、環境規制の強化をはじめ、石炭を取り巻く各種要素を総合的に勘案し、豪州・米国の

石炭需給・石炭輸出の展望や、2040年頃を目処とした我が国における一般炭の安定供給に対する影響

や示唆について、シナリオ分析を取り入れながら検討した。

特に、1)気候変動対策強化の国際交渉等、政策レベルの圧力の高まり、2)これを背景とした欧米

を中心とした金融機関(民間・政府系)の投融資引き揚げの動き、3)中国・インドをはじめとした新

興国における石炭需要、4)天然ガスとの競合、といった事柄に着目し、これらの影響や相互作用を踏

まえ、①我が国が必要とする高品位炭の価格が高騰し、経済的な調達が困難になるシナリオ(価格高騰

シナリオ)、②炭鉱開発や石炭利用に対する圧力・規制の高まりから、供給そのものが希薄になるシナ

リオ(供給低下シナリオ)について、検討した。

結論として、石炭の供給そのものが大きく低下するリスクは現状では低いと考えられるものの、我が

国の石炭の安定供給を考える場合には、今後の価格高騰やボラティリティの高まり、商慣行の変化等

には備える必要性があると考えられる。また、価格高騰シナリオ・供給低下シナリオのいずれにおいて

も、供給源の多様化は重要な課題であり、高品位炭の安定的確保に向けた取組が引き続き重要である

ことがあらためて確認された。

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Summary

This survey has reviewed policy trends related to global warming counter-measures and

environmental issues, with specific target on Australia and the United States that may pose

great influence on global coal market and future coal supply in Japan. It paid special

attention to investors' responses to growing pressure against coal on environmental ground,

NGO activities and coal industry responses, to consider the implications to Japan.

Chapter 1 summarizes the trends of global warming countermeasures and environmental

measures in the world, Australia and the United States.

Global countermeasures against global warming are gaining momentum by the adoption of

the Paris Agreement (December 2015), and rules are being made towards implementation

after 2020. However, as seen in COP 23 (held in November 2017), countermeasures against

global warming based on the UNFCCC tend to make international negotiations difficult due

to conflicts of interest between developed and developing countries. There are also problems

such as lack of a mechanism to strengthen emission targets in the future.

The Australian Government implements domestic measures including the Emission

Reduction Fund to realize the goals of the Paris Convention. On the other hand, as the

importance of securing stable supply and reducing economic burden has become the central

policy issue, the federal government has proposed a new energy policy featuring the

National Energy Guarantee. It aims to guarantee a certain role for coal-fired power

generation in the country. The federal government also indicates its intention to support the

diffusion of highly efficient of coal-fired power plants abroad, implying its fundamental

recognition of the importance of coal as a major export commodity for the country.

Procedures in licensing of coal mining leases have been rationalized to some extent. On the

other hand, there are cases where applications are dismissed against the background of

growing protest activities by environmental protection groups.

In the United States, President Trump has indicated a policy to defend the coal industry,

including the withdrawal of the Clean Power Plan by former President Obama. However,

due to the expansion of shale gas production, the price competitiveness of coal has decreased

markedly. From the viewpoint of stable supply of electricity, the Federal Government is

considering the ways to maintain generation capacity of coal-fired power plants, however,

no clear signal has been observed that would lead to the development of coal mines nor the

expansion of coal production.

In Chapter 2, the trends of energy supply and demand, power supply composition,

production and export of coal in Australia and the United States are summarized.

Although coal production and export volume in Australia is on an upward trend, the coal

production (500.3 Mt) and the export volume (389.3 Mt) in the latest year (2015) decreased

year-on-year. In the United States, coal production has continued to decline in recent years,

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the latest production (671.1 Mt, preliminary figures based on IEA statistics in 2016) has

decreased to about 60% compared to the peak time, and the export volume also declined

sharply. Domestic coal consumption has been decreasing in Australia since 2008, with the

slight increase in 2014 and 2015. In the US, the coal consumption has been decreasing since

2007 except in 2010 and 2012. In both countries, energy consumption and electricity

generation have been flat in recent years. In the United States, the share of coal-fired power

generation is declining, with its share 30.4% in 2016 and 34.2% natural gas. In Australia,

the share of coal-fired power generation was 63.4% in 2015. In both countries, most of coal-

fired power generation facilities are old, and sub-critical facilities occupy a high proportion

(88% in Australia and 68% in the United States).

Against the policy background laid out in Chapter 1, Chapter 3 gave an overview on coal-

related divestment engagement by financial institutions and institutional investors.

International efforts in carbon disclosure was also touched on.

With respect to multi-lateral development banks (MDBs), since 2013 the World Bank Group

and the European development banks (EBRD, EIB) have expressed their intention to

exclude coal-fired thermal power generation from their loan target except for exceptional

cases. On the other hand, there are other financial institutions that have not adopted

exclusion policy, especially those in non-OECD countries, such as the Asian Infrastructure

Investment Bank (AIIB) and the Asian Development Bank (ADB).

While major private financial institutions and institutional investors are reviewing their

policies and standards in coal related investment and lending, there are cases where their

policy introducing standards on the ratio of profits of coal related businesses or the efficiency

of coal-fired power generation and the calorific value of coal produced. Contrary to headlines,

there are cases that should not be taken as a declaration of total withdrawal from coal

businesses. In addition, some of the statements are merely emphasizing new business

opportunities such as renewable energy and ESG investment.

With regards to carbon disclosure efforts, TCFD published its Guidance in June 2017. It

listed the items to be disclosed by industry, including coal mining companies, calling also for

companies to indicate their long-term strategies to deal with climate change risks using

scenario analysis. Ensuring useful and objective information disclosure while avoiding

excessive burden of disclosing companies would be the key.

Chapter 4 dealt with the cases of NGOs activities targeting coal mines and coal-fired power

generation in Australia and the United States.

NGOs have been active not only targeting specific industrial facilities, but also setting up

database on coal-fired power plants around the world and/or the financial institution that

are providing capital to them. Some NGOs may carry out such activities using the network

of other NGOs, companies, academic organizations, leading to wider criticism against coal

related companies or government policies and to call for divestment at the same time.

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Besides those information dissemination, activities against Carmichael coal mine project in

QLD in Australia has not come to settlement. In NSW, the Springvale coal mine is exposed

to environmental pollution problems, making its mine life extension difficult. This created

knock-on effect to the expansion plan of Mount Piper coal-fired power plant (1,400 MW),

Springvale being the major provider of fuel.

In the United States, a number of NGOs are active in global environmental issues, local

environmental pollution, nature conservation issues, etc. Some of the major environmental

NGOs raised lawsuits forming a plaintiff group when the President Trump announced a

policy to resume coal mine lease in federal territory that had been suspended under the

former administration.

Chapter 5 presented an overview of the financial situation and asset portfolio of major coal

operators. It also described the measures taken by the industry to respond to GHG emissions

reduction and environmental regulations.

In recent years, the asset portfolio has been reviewed in Australia's coal industry leading to

the sales of coal assets by major coal companies. Strategic responses in the downward

pressure against thermal coal vary in the industry. While Rio Tinto has stepped back from

thermal coal businesses, Glencore has increased its market share by acquiring assets.

Coal-fired power plants have been shut down by electric power companies both in Australia

and the United States. As the case with AEP, the largest power producer in the United

States, the economy of coal-fired power changed dramatically. The closure of coal-fired power

plants in both countries have been triggered by various factors such as the age of the

facilities, electricity market, fuel markets, and intertwined environmental pressures. Both

governments have expressed their policy orientation to give due consideration for supply

security. Their policy developments and market responses are yet to be seen.

Both countries have not introduced strict CO2 emission regulations for coal operators, but

compliance with various regulations is mandated for mining, transportation, restoration of

the sites, etc. In QLD, Chain of Responsibility was introduced in 2016, obliging coal mining

companies to comply with environmental regulations and restore the original state during

the leasing period regardless of the operation status.

Chapter 6, examined the possible influence on future coal supply to Japan up to 2040 using

scenario analysis.

For this exercise, we considered the various factors relating to coal, with special attention

to: 1) rising policy pressure on coal including international negotiations to strengthen

climate change policy measures, 2) divestment by incumbent financial institutions (private

and government), 3) Coal demand in emerging countries including China and India, and 4)

competition with natural gas. By examining their influences and interactions, we considered

the following two scenarios: (A) Price increase scenario in which the price of high-grade coal

required by Japan rises and economic procurement becomes difficult, (B) Supply constraints

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scenario in which global pressure and local regulation on coal mine development as well as

coal utilization blocks the production and export.

In conclusion, the risk that coal supply itself will be severely limited is considered low at

present, however, in considering the stable supply of coal in our country, there is a necessity

to prepare for future price hike, increase in volatility and change in business practices.

Diversification of supply sources is an important factor in both scenarios indicating the

importance of efforts to secure high-grade coal supply.

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I

目 次

1. 世界及び豪州、米国の温暖化対策及び環境対策の動向 .................................................................. 3

1.1 パリ協定の詳細及び温暖化対策の今後の見通し .............................................................................. 3

1.1.1 パリ協定の詳細 ............................................................................................................................ 3

1.1.2 パリ協定に関する交渉状況 ........................................................................................................ 5

1.1.3 温暖化対策の今後の見通し ........................................................................................................ 8

1.2 豪州及び米国の温暖化対策、環境対策及びエネルギー・石炭政策の動向 ................................... 9

1.2.1 豪州 ............................................................................................................................................... 9

1.2.2 米国 ............................................................................................................................................. 26

2. 豪州及び米国のエネルギー・石炭需給動向 ................................................................................... 39

2.1 豪州 ...................................................................................................................................................... 39

2.1.1 一次エネルギー生産量の推移................................................................................................... 39

2.1.2 一次エネルギー消費量の推移................................................................................................... 39

2.1.3 石炭生産量の推移 ...................................................................................................................... 40

2.1.4 石炭消費量の推移 ...................................................................................................................... 43

2.1.5 石炭輸出量の推移 ...................................................................................................................... 45

2.1.6 電源構成及び発電用燃料の消費量推移 ................................................................................... 47

2.1.7 石炭火力発電設備の状況 .......................................................................................................... 48

2.1.8 石炭価格の推移 .......................................................................................................................... 50

2.2 米国 ...................................................................................................................................................... 50

2.2.1 一次エネルギー生産量(国内生産)の推移 ........................................................................... 50

2.2.2 一次エネルギー消費量の推移................................................................................................... 51

2.2.3 石炭生産量の推移 ...................................................................................................................... 52

2.2.4 石炭消費量の推移 ...................................................................................................................... 55

2.2.5 石炭輸出入量の推移 .................................................................................................................. 58

2.2.6 電源構成及び発電用燃料の消費量推移 ................................................................................... 60

2.2.7 石炭火力発電設備の状況 .......................................................................................................... 62

2.2.8 石炭価格の推移 .......................................................................................................................... 65

3. 金融機関及び機関投資家等の環境問題への対応動向 .................................................................... 69

3.1 気候変動と金融に関する国際的な検討経緯 .................................................................................... 69

3.1.1 概念的背景 ................................................................................................................................. 69

3.1.2 政府レベルの対応の経緯 .......................................................................................................... 71

3.2 気候変動関連リスクの情報開示の取組と課題 ................................................................................ 73

3.3 金融機関による化石燃料への融資制限の動向 ................................................................................ 76

3.3.1 政府系国際開発金融機関の動向 ............................................................................................... 76

3.3.2 政府の投融資制限の動向 .......................................................................................................... 80

3.3.3 民間金融機関の動向 .................................................................................................................. 87

3.3.4 機関投資家等による化石燃料・石炭関連企業からの投資撤退の動向 ................................. 97

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II

3.4 炭鉱開発・石炭生産に対するインセンティブの見直し等........................................................... 102

3.4.1 豪州 ........................................................................................................................................... 102

3.4.2 米国 ........................................................................................................................................... 102

3.5 豪州及び米国の石炭産業及び企業への影響 .................................................................................. 104

4. 豪州及び米国におけるNGO 等の動向 ........................................................................................ 109

4.1 非営利団体・環境保護NGO等の取組 .......................................................................................... 109

4.2 炭鉱及び関連施設の開発、操業に対する活動事例及び状況 ....................................................... 111

4.3 石炭火力発電所等に対する活動事例及び状況 .............................................................................. 116

5. 豪州及び米国の石炭産業界及び主要企業の対応動向 .................................................................. 121

5.1 主要事業者の財務状況等 ................................................................................................................. 121

5.1.1 Rio Tinto .................................................................................................................................. 121

5.1.2 Anglo American ...................................................................................................................... 124

5.1.3 Glencore ................................................................................................................................... 128

5.1.4 BHP Billiton ............................................................................................................................ 131

5.1.5 Peabody .................................................................................................................................... 135

5.2 資源メジャー等のポートフォリオの見直し動向 .......................................................................... 137

5.2.1 Rio Tinto .................................................................................................................................. 137

5.2.2 Anglo American ...................................................................................................................... 138

5.2.3 Glencore ................................................................................................................................... 139

5.2.4 BHP Billiton ............................................................................................................................ 140

5.3 エネルギー事業者による石炭火力発電部門からの撤退等の動向 ............................................... 140

5.3.1 豪州 ........................................................................................................................................... 140

5.3.2 米国 ........................................................................................................................................... 141

5.4 温暖化対策への対応 ........................................................................................................................ 142

5.5 その他の環境問題(採掘、輸送、使用時を含む)への対応 ....................................................... 144

6. 地球温暖化を含む環境問題が豪州及び米国の石炭需給及び石炭輸出に及ぼす影響 .................. 147

添付:リンク集 ..................................................................................................................................... 153

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III

図目次

図 1.2.1 豪州電力市場の電源別発電電力量の変化 ..........................................................................11

図 1.2.2 オークション別削減トン当たりの平均契約価格 ............................................................. 12

図 1.2.3 ERF採択プロジェクトによる年度別予想削減量 ............................................................ 13

図 1.2.4 豪州主要都市の小売電気料金の推移 ................................................................................. 14

図 1.2.5 豪州のエネルギー源別発電電力量(送電端)の推移と見通し ...................................... 16

図 1.2.6 QLD州における炭鉱リースの許認可手続きフロー ....................................................... 23

図 1.2.7 NSW州における炭鉱リースの許認可手続きフロー ...................................................... 26

図 1.2.8 米国の発電所稼働率の推移 ................................................................................................ 28

図 1.2.9 ペンシルバニア、ウェストバージニア州の石炭及び天然ガス生産量の推移 ............... 33

図 2.1.1 豪州の一次エネルギー生産量の推移 ................................................................................. 39

図 2.1.2 豪州の一次エネルギー消費量の推移 ................................................................................. 40

図 2.1.3 豪州の炭種別石炭生産量の推移 ........................................................................................ 40

図 2.1.4 州別石炭生産量の推移 ........................................................................................................ 41

図 2.1.5 豪州の炭種別石炭生産量の推移(IEA) ......................................................................... 42

図 2.1.6 豪州の炭種別石炭消費量の推移 ........................................................................................ 43

図 2.1.7 豪州の分野別石炭消費量の推移 ........................................................................................ 43

図 2.1.8 州別石炭消費量の推移 ........................................................................................................ 44

図 2.1.9 豪州の炭種別石炭生産量の推移(IEA) ......................................................................... 45

図 2.1.10 豪州の炭種別石炭輸出量の推移 ...................................................................................... 46

図 2.1.11 豪州の一般炭の輸出先国別推移 ...................................................................................... 46

図 2.1.12 豪州のエネルギー源別電源構成の推移........................................................................... 47

図 2.1.13 豪州の発電用燃料消費量の推移 ...................................................................................... 48

図 2.1.14 豪州における稼動中の石炭火力発電設備(容量規模別) ............................................ 49

図 2.1.15 豪州における稼動中の石炭火力発電設備(運転開始年代別) .................................... 49

図 2.1.16 豪州における稼動中の石炭火力発電設備容量(技術別) ............................................ 50

図 2.1.17 豪州の石炭輸出価格の動向 .............................................................................................. 50

図 2.2.1 米国の一次エネルギー生産量の推移 ................................................................................. 51

図 2.2.2 米国の一次エネルギー消費量の推移 ................................................................................. 52

図 2.2.3 米国の炭種別石炭生産量の推移 ........................................................................................ 52

図 2.2.4 州別石炭生産量の推移(上位10州) .............................................................................. 54

図 2.2.5 州別・炭種別石炭生産量(2016年) ............................................................................... 54

図 2.2.6 米国の炭種別石炭生産量の推移(IEA) ......................................................................... 55

図 2.2.7 米国の炭種別石炭消費量の推移 ........................................................................................ 55

図 2.2.8 州別石炭消費量の推移 ........................................................................................................ 57

図 2.2.9 州別・用途別石炭消費量(2016年) ............................................................................... 57

図 2.2.10 米国の炭種別石炭消費量の推移(IEA) ....................................................................... 58

図 2.2.11 米国の炭種別石炭輸出量の推移 ...................................................................................... 58

図 2.2.12 米国の一般炭の輸出先国別推移 ...................................................................................... 59

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IV

図 2.2.13 米国の炭種別石炭輸入量の推移 ...................................................................................... 59

図 2.2.14 米国のエネルギー源別電源構成の推移........................................................................... 60

図 2.2.15 米国の発電用燃料消費量の推移 ...................................................................................... 61

図 2.2.16 米国の州別石炭火力発電設備容量の推移(上位 10州) ............................................. 62

図 2.2.17 米国における稼動中の石炭火力発電設備(規模別) ................................................... 64

図 2.2.18 米国における稼動中の石炭火力発電設備(運転開始年代別) .................................... 64

図 2.2.19 米国における稼動中の石炭火力発電設備(技術別) ................................................... 64

図 2.2.20 米国の石炭価格の動向 ...................................................................................................... 65

図 3.2.1 気候変動関連ディスクロージャーの意義 ......................................................................... 73

図 3.3.1 グリーンボンドの発行主体別推移 .................................................................................... 97

図 4.1.1 ダイベストメント実施機関の件数内訳(NGOによる調査事例) ............................. 110

図 4.2.1 Carmichael炭鉱計画における炭鉱及び鉄道建設ロケーション.................................. 113

図 4.2.2 Abbot Point及び石炭の主要積出港 ................................................................................ 114

図 4.2.3 Australian Conservation Foundationロゴ及び活動の様子 ....................................... 114

図 4.2.4 Mackay Conservation Groupロゴ及びAdaniプロジェクトに反対する広告 ......... 115

図 4.2.5 Lock the Gate Allianceロゴ及び活動の様子 ................................................................ 115

図 4.3.1 Springvale炭鉱及びMount Piper石炭火力発電 ......................................................... 116

図 4.3.2 Sierra Club による石炭火力発電所マップ(Plant Tracker) ................................... 118

図 5.1.1 Rio Tintoの売上高とEBITDAの事業別構成(2016年) ......................................... 121

図 5.1.2 Rio Tintoの売上高とEBITDAの推移 .......................................................................... 122

図 5.1.3 Rio Tintoの石炭事業の実績 ............................................................................................ 124

図 5.1.4 Anglo Americanの売上高とEBITDAの事業別構成(2016年) ............................. 125

図 5.1.5 Anglo Americanの売上高とEBITDAの推移 .............................................................. 125

図 5.1.6 Anglo Americanの石炭事業の実績 ................................................................................ 127

図 5.1.7 Glencoreの売上高とEBITDAの事業別構成(2016年) .......................................... 128

図 5.1.8 Glencoreの売上高とEBITDAの推移 ........................................................................... 129

図 5.1.9 Glencoreの石炭事業の実績 ............................................................................................. 130

図 5.1.10 BHP Billitonの売上高とEBITDAの事業別構成(2016年度) ............................. 132

図 5.1.11 BHP Billitonの売上高とEBITDAの推移 .................................................................. 132

図 5.1.12 BHP Billitonの石炭事業の実績 ................................................................................... 134

図 5.1.13 Peabodyの売上高、EBITDA、当期純利益の推移 .................................................... 136

図 5.1.14 Peabodyの事業セクター別の売上高とEBITDAの推移 .......................................... 137

図 5.3.1 米国の発電設備容量増減の推移 ...................................................................................... 142

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V

表目次

表 1.1.1 パリ協定の概要 ..................................................................................................................... 4

表 1.1.2 主要国のNDC ....................................................................................................................... 5

表 1.1.3 Powering Past Coal Allianceの参加主体 .......................................................................... 8

表 1.2.1 豪州における現行の気候変動関連対策 ............................................................................. 10

表 1.2.2 削減方法と削減量 ................................................................................................................ 12

表 1.2.3 連邦政府による低炭素技術関連プログラム ..................................................................... 18

表 1.2.4 豪州各州における炭鉱リースの申請要件 ......................................................................... 19

表 1.2.5 西海岸の石炭輸出計画 ........................................................................................................ 30

表 2.1.1 豪州の一次エネルギー生産量の推移 ................................................................................. 39

表 2.1.2 豪州の一次エネルギー消費量の推移 ................................................................................. 40

表 2.1.3 豪州の炭種別石炭生産量の推移 ........................................................................................ 41

表 2.1.4 州別石炭生産量の推移 ........................................................................................................ 41

表 2.1.5 州別・炭種別石炭生産量(2015年) ............................................................................... 42

表 2.1.6 豪州の炭種別石炭生産量の推移(IEA) ......................................................................... 42

表 2.1.7 豪州の炭種別石炭消費量の推移 ........................................................................................ 43

表 2.1.8 豪州の分野別石炭消費量の推移 ........................................................................................ 44

表 2.1.9 州別石炭消費量の推移 ........................................................................................................ 44

表 2.1.10 州別・炭種別石炭消費量(2015年)............................................................................. 45

表 2.1.11 豪州の炭種別石炭生産量の推移(IEA) ....................................................................... 45

表 2.1.12 豪州の炭種別石炭輸出量の推移 ...................................................................................... 46

表 2.1.13 豪州のエネルギー源別電源構成の推移........................................................................... 47

表 2.1.14 豪州の発電用燃料消費量の推移 ...................................................................................... 48

表 2.2.1 米国の一次エネルギー生産量の推移 ................................................................................. 51

表 2.2.2 米国の一次エネルギー消費量の推移 ................................................................................. 52

表 2.2.3 米国の炭種別石炭生産量の推移 ........................................................................................ 53

表 2.2.4 州別石炭生産量の推移 ........................................................................................................ 53

表 2.2.5 米国の炭種別石炭生産量の推移(IEA) ......................................................................... 55

表 2.2.6 米国の炭種別石炭消費量の推移 ........................................................................................ 56

表 2.2.7 州別石炭消費量の推移 ........................................................................................................ 56

表 2.2.8 米国の炭種別石炭消費量の推移(IEA) ......................................................................... 58

表 2.2.9 米国の炭種別石炭輸出量の推移 ........................................................................................ 59

表 2.2.10 米国の炭種別石炭輸入量の推移 ...................................................................................... 60

表 2.2.11 米国のエネルギー源別電源構成の推移 ........................................................................... 61

表 2.2.12 米国の発電用燃料消費量の推移 ...................................................................................... 61

表 2.2.13 米国のエネルギー源別発電設備容量の推移 ................................................................... 62

表 2.2.14 米国の州別石炭発電設備容量・基数(2016年) ......................................................... 63

表 3.1.1 化石燃料関連投資の座礁資産の試算例 ............................................................................. 70

表 3.2.1 石炭産業における情報開示の項目例 ................................................................................. 74

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VI

表 3.3.1 政府系国際開発金融機関における石炭関連ファイナンス方針 ...................................... 77

表 3.3.2 AIIBのエネルギー部門の投資戦略概要 ........................................................................... 79

表 3.3.3 OECD輸出信用ガイドラインにおける最長返済期間の概要 ......................................... 81

表 3.3.4 主要国政府の石炭に関連するファイナンスの方針 ......................................................... 82

表 3.3.5 KfWの融資ガイドラインの概要 ....................................................................................... 85

表 3.3.6 民間金融機関によるダイベストメントの事例・投融資方針 .......................................... 94

表 3.3.7 機関投資家によるダイベストメントの事例 ..................................................................... 98

表 3.5.1 石炭資産の売却事例 .......................................................................................................... 105

表 5.1.1 Rio Tintoの売上高とEBITDAの推移 .......................................................................... 122

表 5.1.2 Rio Tintoの石炭生産量の推移 ........................................................................................ 123

表 5.1.3 Rio Tintoの石炭事業の実績 ............................................................................................ 124

表 5.1.4 Anglo Americanの売上高とEBITDAの推移 .............................................................. 125

表 5.1.5 Anglo Americanの石炭生産量の推移 ............................................................................ 126

表 5.1.6 Anglo Americanの石炭事業の実績 ................................................................................ 127

表 5.1.7 Glencoreの売上高とEBITDAの推移 ........................................................................... 129

表 5.1.8 Glencoreの石炭生産量の推移 ......................................................................................... 130

表 5.1.9 Glencoreの石炭事業の実績 ............................................................................................. 131

表 5.1.10 BHP Billitonの売上高とEBITDAの推移.................................................................. 132

表 5.1.11 BHP Billitonの石炭生産量の推移 ................................................................................ 134

表 5.1.12 BHP Billitonの石炭事業の実績 ................................................................................... 135

表 5.1.13 Peabodyの石炭生産量の推移 ....................................................................................... 135

表 5.1.14 Peabodyの事業セクター別実績 ................................................................................... 136

表 5.2.1 Rio Tintoの石炭関連資産の売買状況 ............................................................................. 138

表 5.2.2 Anglo Americanの石炭関連資産の売買状況 ................................................................ 138

表 5.2.3 Glencoreの石炭関連資産の売買状況 ............................................................................. 139

表 5.2.4 BHP Billitonの石炭関連資産の売買状況 ...................................................................... 140

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- 1 -

第 1章 世界及び豪州、米国の温暖化対策及び環境対策の動向

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- 3 -

1. 世界及び豪州、米国の温暖化対策及び環境対策の動向

1.1 パリ協定の詳細及び温暖化対策の今後の見通し

1.1.1 パリ協定の詳細

2015年 11月 30日から 12月 13日にかけてフランス・パリで国連気候変動枠組条約(UNFCCC)

第21回締約国会議(COP21)が開かれ、その結果、29条からなるパリ協定が採択された。パリ協定

は、京都議定書が失効する2020年以降の気候変動に対応する国際的な法的枠組みであり、先進国のみ

に削減義務を課していた京都議定書と異なり、各国の国情を考慮しつつ、すべての締約国に適用され

る。1997 年の京都議定書、2012 年の京都議定書改正につづく法的文書の位置付けを持つ。これまで

のように排出削減目標設定等について、対象期間ごとに交渉を改めて行うのではなく、この協定の中

で 5 年ごとに取組を深めていく枠組みとなった。しかし、内容面では、各国間の利害の妥協の結果と

して、既存の運用を協定化したにとどまった部分も多い。パリ協定の概要を表 1.1.1に示す。

長期目標については、協定の目的として、世界平均気温上昇を2℃より低く保ち、気温上昇を1.5℃

に抑える努力を推進する等により気候変動の脅威に対する世界的対応を強化することが定められた。

また、緩和(削減)に関する共同の長期目標として、温室効果ガス(以下、GHG)排出のピークアウ

トをできる限り早く達成、その後、最良の科学的知見にしたがって急速に削減を実施、ネットでの排出

量ゼロを21世紀後半に達成することも明記された。

目標の定期的レビューについては、パリ協定締約国会合(CMA)がこの協定の目的に照らし、長期

目標の達成に向けた全体の進捗を定期的に評価することになった。なお、締約国は、各国で定める貢献

(削減目標等、NDC:Nationally Determined Contribution)を5年ごとに通知する際に、詳細は定

められなかったものの、上記評価の「結果を踏まえなければならない」とされた。

目標達成のレビュー(透明性に関する事後プロセス)については、各締約国により緩和(削減)行動

および支援に関して提出された情報は、技術専門家レビューを受けなければならないこと、また、各締

約国は、支援に対する努力および各国で定めた貢献の実施・達成に関して、促進的性質で多国間の進

捗検討に参加しなければならないことが定められた。

また、緩和(削減)だけでなく、適応ならびに気候変動の悪影響に特に脆弱な途上国における気候変

動の影響に伴う損失および被害(ロス&ダメージ)について、独立した条文が置かれた。既存のワルシ

ャワ国際メカニズムを拡大・強化できる方向が定められたが、詳細はCMAでの議論に委ねられた。

資金については、パリ協定の本体自体では金額は規定されなかったが、先進国が隔年で資金提供お

よび気候資金の調達に関する情報を通知することとなった。また、上記評価では、気候資金に関する努

力について先進締約国等により提供された関連情報を考慮するというプロセスが定められた(なお、協

定本体とは別の文章で、CMAは2025年までに、年1,000億ドルを下限として新しい共同数値目標を

設定しなければならないとされている)。資金の用途は、適応と緩和とのバランスをとるべきとされた。

パリ協定において法的義務が課せられるプロセスには、NDCの通知、NDCを達成するための国内

緩和(削減)措置の推進、緩和行動等に関して提出した情報について技術的専門家レビューを受けるこ

と、NDCの実施・達成を促進するため多国間の進捗検討に参加すること等がある。一方、NDCの遵

守については、法的拘束力はない(登録簿に記録されるのみ)。

通知された主要国のNDCは次のとおりであるが、各国のNDCを集計した世界のGHG排出量は、

2℃目標といった将来像には結びつきがたい姿である。

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- 4 -

パリ協定を採択したCOP決定により、パリ協定特別作業部会(APA:Ad Hoc Working Group on

the Paris Agreement)が創設され、今後以下の検討を行うこととなっている:①5年ごとに通知する

こととなった各国で定める貢献(削減目標等)に関するガイダンス、②長期目標の達成に向けた 5 年

ごとの全体進捗評価(グローバルストックテイク)に関する事項、③削減行動や支援等についての透明

性を確保する枠組みの手続き・ガイドライン、④実施・遵守促進のためのメカニズムの効果的運用につ

いての手続き等(表1.1.1参照)。

表 1.1.1 パリ協定の概要

項目 内容

目的 世界平均気温上昇を 2℃より低く保ち、さらに気温上昇を1.5℃に抑える

努力を推進することなどにより、気候変動の脅威に対する世界的対応を

強化する。

緩和(削減)に関する

共同の長期目標

温室効果ガス排出のピークアウトをできる限り早く達成し、その後、最

良の科学的知見にしたがって急速に削減を実施、排出と吸収のバランス

を 21世紀後半に達成する。

目標の設定

(事前プロセス)

パリ協定締約国会合は定期的に、この協定の目的と長期目標の達成に向

けた全体の進捗を評価しなければならない(グローバルストックテイ

ク)。

締約国は、各国で定めた貢献(削減目標等)を 5年ごとに通知する際に

は、グローバルストックテイクの結果を踏まえなければならない。

(COP決定)締約国は 2018年に気温上昇を抑えるための長期削減目標に

向けた進捗に関する締約国全体の努力をレビューする「促進的対話」を

招集(グローバルストックテイクの前哨戦)。

目標達成のレビュー

(事後プロセス)

各締約国が緩和行動および支援に関して提出した情報は、技術的専門家

レビューを受けなければならない。

また各締約国は、支援に対する努力および各国が定める貢献の実施・達

成を促進するため多国間の進捗検討に参加しなければならない。

この協定の規定の実施の促進および遵守の促進のメカニズムを設置。

適応 気候変動に対する脆弱性の減少等の適応に関する世界目標を設定。

途上国の適応努力は認識されなければならない。

各国は、適当な場合、適応に関する報告を提出および定期的に更新すべ

き。

損失及び被害

(ロス&ダメージ)

COP19で設立された、損失及び被害に関する理解、行動及び支援の拡大

のための「気候変動影響に伴う損失及び被害についてのワルシャワ国際

メカニズム」はパリ協定締約国会合の権限及びガイダンスの下に置かな

ければならない。

資金 先進国は隔年で、資金提供および気候資金の動員(調達)に関する情報

を通知しなければならない。

(COP決定)2025年までにパリ協定締約国会合は 2020年以降の資金に

関する全体目標を設定しなければならない。

出所)パリ協定の採択(決定1/CP.21)より作成

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- 5 -

表 1.1.2 主要国のNDC

目標タイプ 削減水準 (%)

参照点 目標年 対象

セクター・ガス

中国 基準年比

対GDP原単位

60~65 2005 2030 CO2排出量

米国 基準年比排出量 26~28 2005 2025 GHG排出量*

欧州連合 基準年比排出量 40 1990 2030 GHG排出量

ロシア 基準年比排出量 25~30 1990 2030 GHG排出量

インド 基準年比

対GDP原単位

33~35 2005 2030 GHG排出量

日本 基準年比排出量 26 2013 2030 GHG排出量

ブラジル 基準年比排出量 37

(2030年 43)

2005 2025 GHG排出量

カナダ 基準年比排出量 30 2005 2030 GHG排出量*

韓国 BAU比排出量 37 BAU 2030 GHG排出量

(森林吸収源等は

当面除く)

メキシコ BAU比排出量 22 (条件なし),

40 (条件つき)

BAU 2030 GHG排出量*

インドネシア BAU比排出量 29 BAU 2030 GHG排出量

南アフリカ 排出量 排出量 3.98~

6.14億 t

- 2025, 2030 GHG排出量

オーストラリア 基準年比排出量 26~28 2005 2030 GHG排出量*

トルコ BAU比排出量 21 BAU 2030 GHG排出量

アルゼンチン BAU比排出量 15 (条件なし),

30 (条件つき)

BAU 2030 GHG排出量

サウジアラビア BAU比排出量 1.3億 t削減 BAU 2030 GHG排出量

注)

1)BAU(Business as Usual)は各国が独自に算定した将来(目標年)の排出予想量。

2)*基準年排出量には森林吸収源等による吸収量を含む。

出所)NDC暫定登録簿より作成

1.1.2 パリ協定に関する交渉状況

(1) パリ協定特別作業部会(2016年 5月)

2015年12月に合意されたパリ協定の実施規則を検討するパリ協定特別作業部会の第1回会合が、

2016年5月16日から26日にかけてドイツ(ボン)で開かれた。なお、本会合は、気候変動枠組条約

締約国会議(COP)・京都議定書締約国会合の下で半年に 1回開かれる補助機関会合と併せて開催され

た(これらの同時開催される会合を全体として、以下、「気候変動会議」という)。

今回の会合では、途上国における GHG の排出削減行動を促進するための相互レビューである「促

進的意見共有」が初めて行われた。これは、2010年のカンクン合意で設けられた「国際的協議・分析」

に基づき行われるもので、2020 年までを対象としているが、2020 年以降のパリ協定の下での目標達

成のレビュー(透明性に関する事後プロセス)のひな形になると考えられている。今回の会合では、進

捗報告(隔年)をこの時点までに提出した途上国32ヵ国のうち、専門家チームによる技術的分析が終

了したブラジルや南アフリカ等13ヵ国について、当該国による報告が行われ、排出量等の測定・報告・

検証(MRV)システムの現状と今後の改善の方向性について議論が行われた。当該国の「促進的意見

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- 6 -

共有」は2年後に改めて行われる予定である。

(2) COP22(2016年 11月)

2016年11月7日から18日にかけて、第22回気候変動枠組条約締約国会議(COP22)がモロッコ

(マラケシュ)で開かれた。11月 4日のパリ協定の発効を受けて、COP22に併せて第 1回パリ協定

締約国会合(CMA1)も11月15日から開催された。今回会合により、パリ協定実施のための作業を

2018年のCOP24までに終えることが決定された。

パリ協定特別作業部会では、協定実施のためのグローバルストックテイクや目標達成の透明性確保

のための手続き等の検討が要請されていることを受け(上述)、それぞれの議題に分かれた非公式協議

が開始された。

また、パリ協定に伴うCOP決定により、締約国は2018年に気温上昇を抑えるための長期削減目標

に向けた進捗に関する締約国全体の努力をレビューする「促進的対話」を招集することになっている

(表 1.1.1参照)。今回の会合では、この「促進的対話」の準備に関する取組を進めCOP23までに報

告することが決められた。2018年の「促進的対話」は、2023年に予定されているグローバルストック

テイクの前哨戦になると考えられる。各国が2020年初めに2030年目標を改めて通知する際に、2018

年10月に承認・承諾予定の「IPCC1.5℃地球温暖化に関する特別報告書」と併せて、各国の貢献の強

化が求められてくるかどうかといった観点から、注目されている。

(3) パリ協定特別作業部会(2017年 5月)

2017年5月8日からドイツ(ボン)で始まった国連気候変動枠組条約の気候変動会議は、米国(ト

ランプ大統領が 2017 年 1 月に就任)のパリ協定への参加に関する不確実性が影を落とす中で開催さ

れた。

COP22(2016年11月)においてパリ協定の実施のための作業を2018年のCOP24までに終える

ことが決定されたこと(上述)を受け、今回の気候変動会議では、パリ協定の実施のための「詳細規

則」が検討された。しかし、途上国と先進国との間の意見の相違が再浮上し、途上国から、先進国と

途上国との間で別個のアプローチを採ることで先進国と途上国との間で取組に差異を設ける提案が行

われた。また途上国からは、パリ協定のパッケージにおいて、緩和に関する議論に偏ることなく、適

応や資金等に関する議論を進めるべきとの要請が繰り返し行われた。

また、一部の途上国から、化石燃料関係産業など特定のステークホルダー・グループについて、利益

相反があるとして、会合への参加を認めるべきではないとの提案が前回会合(2016年5月)で行われ

ていたことについて、今回の会合で、締約国の多数は、公開性と透明性に対する適切なメッセージでは

ないとする見解が示された。

(4) COP23(2017年 11月)

2017年11月6日から18日にかけて、第23回気候変動枠組条約締約国会議(COP23)及びその補

助機関会合、パリ協定特別作業部会等が議長国フィジーの下、ドイツ(ボン)で開催された。今回の会

合では、パリ協定の詳細ルールの策定に向けて大きな進捗が求められた。

パリ協定は、緩和(削減)、適応、資金等の要素から構成されている。しかし、途上国が重視する適

応、資金等については、パリ協定の実施のための詳細規則をどの機関でどのように検討するかが不明確

なままになっていた。今回の会合では、途上国からの巻き返しとして、2020年までの期間における先

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進国による資金等の提供と削減努力の評価や、2020年以降の資金等に関して、議論の場を設けるよう

提案がなされ、論点となった。

パリ協定の詳細ルールを検討しているパリ協定特別作業部会では、今回の会合での進捗について、

各議題の責任者が作成した「非公式ノート」を結論文書に添付する形で、一旦とりまとめることとなっ

た。非公式ノートは全体で265ページに上った。そして、パリ協定特別作業部会議長が今回の会合の

結果の概要と解決の方向性のオプションをまとめた文書を 2018 年 4 月までに示すこととなった。ま

た、2018年12月のCOP24(ポーランド(カトヴィツェ)にて開催)までにパリ協定実施のための作

業計画を完了する方針が合意されているため、2018年 4~5月の補助機関会合及びパリ協定特別作業

部会の結果を踏まえ、COP24の会期までの間で交渉会合を追加するかどうかをCOP議長が検討する

こととなった。

なお、COP23のサイドラインでは、英国政府及びカナダ政府が主体となり、石炭火力発電の早期全

廃を目指す国際的イニシアティブ“Powering Past Coal Alliance(PPCA)”の発足を11月16日に発

表した1。PPCAの声明文は、石炭火力発電の迅速な廃止を通じ、クリーンな成長促進と気候保護を実

現すると述べている。

当初、26の政府・地方政府がパートナーとして声明文に名を連ね、COP24までに50のパートナー

獲得を目指すとしていたところ、一ヶ月以内に合計 58(26 ヵ国、8 地方政府、24 企業)に増加した

2。表の通り、主な参加国は英国、カナダの他に、欧州ではフランス、イタリア、スイス、北欧諸国(デ

ンマーク、フィンランド、スウェーデン)、米州では、カナダの一部州(オンタリオ州、ブリティッシ

ュコロンビア州等)、米国の一部州(カリフォルニア州、ワシントン州等)となっている。またアフリ

カや島嶼国等の一部の途上国も参加している。企業では、EDF、Engie(フランス)や Iberdrola(ス

ペイン)といったエネルギー事業者も参加している(表 1.1.3)。

PPCAに参加する各主体のコミットメントの内容は以下の通りとなっている:

▪ 政府:既存の石炭火力発電の全廃を進め、炭素回収・貯蔵(CCS)設備を設置していない石

炭火力発電の新設の一時停止(moratorium)にコミットする。

▪ 企業・NGO:自社事業に石炭以外の電気を利用するようコミットすることができる(can

commit)。

▪ 全ての参加者:政府の政策や企業の方針、また投資を通じクリーンな電力をサポートし、CCS

設備を設置していない石炭火力発電への投融資を制限することにコミットする。

1 Powering Past Coal Alliance Declaration(2017年11月16日付)

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/660041/powering-past-coal-

alliance.pdf 2 Powering Past Coal Alliance Declaration(2017年12月12日付)

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/666736/Final_Declaration_PPCA_111

217.pdf

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表 1.1.3 Powering Past Coal Allianceの参加主体

出所)Powering Past Coal Alliance Declaration(2017年12月12日付)より抜粋

一方、米国は、「緩和におけるクリーンで効率的な化石燃料および原子力の役割」というサイドイベ

ントを開催し(11月13日)、George David Banks特別補佐官は、石炭と天然ガスは人々を貧困から

抜け出させるために必要であると述べた。このサイドイベントには、百名を超える石炭反対派がつめか

け、プレゼンテーションの途中で歌をうたう等して抗議したことが報道された3。

1.1.3 温暖化対策の今後の見通し

今後の国際交渉については、先進国と途上国との対立がポイントとなり、途上国が資金・適応等と緩

和(削減)とのバランス、2020年以前の対策と2020年以降の対策とのバランスを求める等、課題が

山積していることから、パリ協定の実施のための作業を2018年のCOP24までに終えることは難しい

と考えられる。

3 https://www.theverge.com/2017/11/13/16644960/un-cop-23-climate-conference-clean-fossil-fuels-protest-chants-

donal-trump

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また、米国は、国連に対してパリ協定からの脱退通知を提出したが、国益を守りつつ、政権にとって

の将来の政策オプションを失うことがないよう国連気候変動交渉及び会合には参加し続けるとし、

COP23にも参加した。米国にとって最大の優先事項は、パリ協定を実施するためのガイダンスにおい

て先進国と途上国とで別個の基準を設けようとする動きをくいとめることであるとされており、当面

は米国離脱の国際気候変動交渉への影響は限定的にとどまるものと考えられる。

EU では、2020 年目標と異なり、EU の 2030 年目標の達成は容易ではないと考えられており、加

盟国間の調整が難しくなっている。また、中国も、全国排出量取引制度の開始に当たって慎重になって

いる等、EU及び中国ともに、対外的にリーダーシップを採れる状況にない。

そうした中で、今後、GHG排出削減目標が強化される可能性について考えると、パリ協定で合意さ

れた目標評価プロセスであるグローバルストックテイク(前出)は、全体の進捗を評価するものであっ

て、個々の国の目標の強化を求めるものではないことからも、大幅な深掘りが進められる可能性は低い

と考えられる。また、途上国側が求める資金的支援については、議論をする場をどの機関にするかを検

討している段階にあり、また、議論を行うとしても、優先的な議題は排出削減目標の設定が中心になる

と考えられる。こうしたことから、COPにおける議論と交渉自体が化石燃料の制限に直接つながる可

能性は当面は低いものと考えられる。他方、UNFCCCの枠組みをベースに、気候変動に関連した投融

資引き揚げ等の各種の取組(第 3 章)が、化石燃料利用制限に向け実効性を持って行くのか注目され

る。

1.2 豪州及び米国の温暖化対策、環境対策及びエネルギー・石炭政策の動向

1.2.1 豪州

(1) 豪州の温暖化対策

豪州では、自由党及び国民党で構成される保守連合と、労働党が二大勢力となっているが、2016年

7月の連邦議会選挙では保守連合が僅差で勝利し、マルコム・ターンブル(自由党)首相(2015年 9

月就任)の続投が決定した。政権交代により省庁の再編成が行われ、Department of Environmentに

エネルギー政策が所管に加わり、環境・エネルギー省(Department of Environment and Energy:

DEE)が創設され、気候変動問題を含めた環境政策とエネルギー政策がDEEの所管となった。ただ

し、石炭を含め上流部門のエネルギー資源開発やその利用は産業・イノベーション・科学省(Department

of Industry, Innovation and Science: DIIS)が所管している4。また、気候変動問題に関する国際交渉

は外務・貿易省(Department of Foreign Affairs and Trade : DFAT)及びDEEが担っている5。

連邦政府は2016年11月10日にパリ協定を批准し、GHGを2030年までに2005年比26~28%削

減する目標を策定している。2020年までの削減目標は 2000年比 5%の削減であり、達成可能と見ら

れている。現在施行されている気候変動関連対策は表 1.2.1のとおりである。

4 豪州大使館ヒアリング(2017年6月21日) 5 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日)

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表 1.2.1 豪州における現行の気候変動関連対策 気候変動政策

排出量削減基金 Emissions Reduction Fund

2015年導入。総額 25.5億豪ドル規模の基金であり、逆オークションにより、省エネ、低炭素プロジェクトを公募し資金支援を行う。

セーフガードメカニズム Safeguard mechanism

一定規模の GHG排出量の設備に対して、排出量ベースライン(事実上のキャップ)を設定、その遵守を管理する制度で、現在 140の大手企業が対象。

再エネ政策

再生可能エネルギー発電導入義務目標 RET: Renewable Energy Target

2001年導入。2009年には、再生可能エネルギー発電量を 2020年までに全発電量の 20%とする目標値を設定。2011 年からは小規模再エネスキーム(Small-scale Renewable Energy Scheme、SRES)と大規模再エネ目標(Large-scale Renewable Energy Target、LRET)に分け、2020年の LRETは 33,000GWh、発電量の 23.5%相当となっている。

省エネ政策

国家エネルギー生産性計画 National Energy Productivity Plan

2015 年比エネルギー原単位を 2030 年までに 40%改善する目標を策定。産業部門では省エネ事例やベストプラクティス等の情報共有に重点を置いており、民生部門では最低エネルギー効率基準義務(MEPS)、ラベリング政策、住宅に対する最低エネルギー効率基準、新築住宅の販売促進、賃貸住宅のエネルギー情報公開の義務化等がある。

出所)豪州連邦政府公表資料に基づき日本エネルギー経済研究所作成

豪州では、労働党政権下で2011年7月に発表された「クリーンエネルギー未来計画(Clean Energy

Future Plan)」により、2020年までのCO2排出削減目標(2000年比5%、前出)が策定された他、

炭素価格制度が導入された。同制度は、エネルギー集約型の企業約 500社を対象にする排出量取引制

度であったが、排出権価格をCO2排出量 1トンあたり 23豪ドルと固定していたため、炭素税と称さ

れていた。そして、2015年7月には炭素価格を市場で決定する排出量取引制度へ移行する予定であっ

た。

しかし、その後の保守連合への政権交代(アボット政権(2013年9月~2015年9月))により炭素

価格制度は廃止され、代わる気候変動対策として「直接行動計画(Direct Action Plan)」が実施されて

いる。直接行動計画はアボット前首相が選挙時から提唱していた対策であり、公募を通じ GHG を削

減するインセンティブを企業に提供する総額25.5億豪ドル規模の「排出量削減基金(ERF:Emission

Reduction Fund)」が主たる対策となっている。

炭素価格制度は 2012年 7月から 2014年の 6月までの 2年間実施されたが、その間に、褐炭火力

発電電力量は16%減少し(稼働率は85%から75%に低下)、一般炭(black coal)火力発電電力量は

9%減少した(図 1.2.1)。豪州の電力市場における石炭火力発電のシェアは 2013 年には 73.6%(年

度)となり、2000年以降、最も低い水準となった。しかし、2014年に保守連合により炭素価格制度が

廃止されたことから石炭火力発電量は再び増加している(第2章参照)。

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出所)AER(2017)6

図 1.2.1 豪州電力市場の電源別発電電力量の変化

排出量削減基金(2015年~)

前述の通り豪州政府は、主な気候変動政策として排出量削減基金(ERF)を2015年から実施してい

る。同基金は、省エネ・低炭素プロジェクトを政府が公募し、資金支援するもので、その予算規模は総

額 25.5 億豪ドルである。ERF への申請事業者はまず政府が承認した方法論に基づいて排出量削減分

を算定し、クレジット化する。そして、政府はこれを逆オークション(入札価格が低い順から採択する

仕組み)により、排出量削減分を購入する。2017年 12月現在までに6回のオークションが開催され

ている。

基金総額(25.5 億豪ドル)のうち、2017 年 12 月までに行われた 6 回に亘るオークション(下記)

ですでに22.8億豪ドル、基金全体の約89%の使途が決定しており、早ければ2018年には基金の原資

が不足することが予想されている7。

平均契約価格

各オークションで採択されたプロジェクトの削減量トン当たりの加重平均契約価格は10~13豪ドル

で、これまで開催されたオークション6回の平均値は11.9豪ドルである。

6 Australian Energy Regulator(2017)State of the Energy Market May 2017 7 http://www.cleanenergyregulator.gov.au/ERF/Auctions-results/December-2017

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注)単位は豪ドル

出所)Clean Energy Regulator8

図 1.2.2 オークション別削減トン当たりの平均契約価格

ERFの予想削減量

オークションの結果採択されたプロジェクト数は合計 438 となっている。州別には、New South

Wales州(以下NSW州)が199件で最も多く、次いでQueensland州(以下QLD州)が154件と

なっている。これらのプロジェクトからの予想削減量は約 1億 9,170万トンと推定されている。この

うち 2017年 12月時点までの削減量は 2,650万 t-CO2eで、削減方法別にみると、主に植林による削

減である。

表 1.2.2 削減方法と削減量

植林 17.1

埋立て・廃棄物 7

森林火災対策 1.8

省エネ 0.38

農業 0.19

運輸 0.2

注)単位は100万 t-CO2e

出所)Clean Energy Regulatorより作成

8 Auction December 2017

http://www.cleanenergyregulator.gov.au/ERF/Auctions-results/December-2017

13.9512.25

10.23 10.6911.82

13.08

0

2

4

6

8

10

12

14

16

第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回

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注)図は年度別予想削減量を示しており、青い棒グラフは予定削減量、点は実際の削減量を表す。

出所)Clean Energy Regulatorより抜粋

図 1.2.3 ERF採択プロジェクトによる年度別予想削減量

セーフガードメカニズム(2016年7月~)

上述のERF制度は基本的に企業の自発的参加に基づいており、豪州の国家排出量の削減を担保する

制度とはなっていない。また、排出量のリーケージ(例えば、ERFの削減事業に参加し、資金を獲得

した企業が保有する別の工場では排出量を増加させる等)の問題が課題として指摘されていた。このた

め、豪州政府は排出量の削減を担保するための政策として「セーフガードメカニズム」制度を2016年

に導入した。セーフガードメカニズムは年間の直接排出量が10万t-CO2以上の設備(約140企業、

豪州排出量の約半分をカバー)に対して、原則として設備ごとに排出量ベースライン(事実上のキャッ

プ)を設定し、その遵守を管理する制度である。同制度のための新たな法律は制定されていないが、従

来のGHG・エネルギー使用量報告法(National Greenhouse and Energy Reporting Act 2007、NGER

法)を修正する形で施行され、同法は豪州の大手企業に対して排出量の測定、報告、管理を義務化し、

違反時の罰則(行政措置)もあるため、事実上、GHGの排出削減を目的とした直接規制となっている。

以下に制度の概要を示す:

■制度対象:年間の直接排出量が10万t-CO2以上の設備

■ベースライン:

▪ 既存設備に対しては2009年度~2013年度の期間中、最も多い排出量。

▪ 2020年以降に投資される新規設備に対しては排出原単位のベンチマークに基づくベースライ

ンが適用される。その際は業種のベストプラクティスを参照する。

■柔軟性措置

▪ 排出量がベースラインを越える場合はAustralian Carbon Credit Units(ACCUs)によるオ

フセットが可能9。

9 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府)によれば、クレジットは、Emissions Reduction

Fundを通じ達成された排出削減から供給される。

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▪ 複数年での平均値での遵守を認める。

▪ 自然災害や犯罪被害等の突発的理由による免除を認める。

■電力部門の扱い

▪ 電力部門に対しては、個別の発電所ごとのベースラインではなく部門全体を対象としたセク

トラルベースラインを設定。

▪ セクトラルベースラインは 2009年度~2013年度の期間中、最も多い排出量としており、1

億9,800万 t-CO2eとなっている。

▪ ただし、電力部門全体でこのセクトラルベースラインを遵守できない場合は、翌年から発電

所ごとの個別ベースラインを適用するとしており、今後、発電所ごとのベースラインが策定

される可能性を残している。

同制度は、2017年 10月までの1年間が遵守開始初年度であり、施設ごとのベースライン排出量、

上限値、達成状況等は2018年3月末までに公表予定である10。

(2) 豪州のエネルギー政策

豪州では、近年、老朽石炭火力発電所の閉鎖、電力需要の減少、コスト低下を背景とした再エネ発

電の急激な増加等が発生した。特に小売電気料金の上昇は著しく、2007年から 2015年の間で、約 9

割の上昇となった(図 1.2.4)。料金上昇は主に2008年~2013年に起きており、その主な原因はネッ

トワークコストの増加によるものであり、このほかに小売運営費や環境コスト等が挙げられる。2013

年以降の料金は比較的安定しているが、2016年以降は卸売価格の上昇により、再び上昇傾向にある11。

出所)State of the Energy Market May 2017, Australian Energy Regulatorより抜粋

図 1.2.4 豪州主要都市の小売電気料金の推移

10 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府) 11 Energy Security Board (2017.12) The Health of the National Electricity Market2017 ANNUAL REPORT

http://www.coagenergycouncil.gov.au/sites/prod.energycouncil/files/publications/documents/The%20Health%20of%2

0the%20National%20Electricity%20Market_19122017.pdf

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こうした背景から2015年に発表された「エネルギー白書(Energy White Paper)」は、電気料金の

抑制や効率改善、投資の促進を主要な政策課題に挙げた。また、気候変動対策とエネルギー対策が適

切に統合されていないとの問題意識から、豪州政府間協議体(Council of Australian Governments、

以下COAG)は電力市場改革に向けた第三者レビューの実施に合意し(2016 年 10 月)、専門家パネ

ルによる独立評価報告書(Independent Review into the Future Security of the National Electricity

Market、通称Finkel Review)が2017年6月に発表された12。同報告書は、電力システムの安全性・

信頼性確保における既存の火力発電の重要性を指摘し、あわせて、炭素制約とエネルギー政策(信頼性

の確保)の両立に向け、50にのぼる提言を行った。

その一つとして国家エネルギーシステムの安全保障と信頼性の監督を目的とする新しい第三者機関

の設立が提案され、エネルギー安全保障委員会(Energy Security Board、以下ESB)が2017年8月

に設置された13。連邦政府はESBに対し電力供給の信頼性とクリーンなエネルギーの供給を担保でき

るもっとも安価な方法について検討を要請した。これによりESBは、電気料金の抑制と将来に亘るエ

ネルギー供給の確保を目的とした制度として、National Energy Guarantee(NEG)の導入を提案し

た。これを受け豪州政府(DIIS)は、今後の電力政策を示す文書(Powering Forward: A better energy

future for Australians)を2017年10月に発表し、NEGの骨子を公表した。本制度では発電会社は、

安定供給が可能な電源からの電力を一定割合供給する必要があるため、石炭火力発電に対する追い風

として受けとめられている14。

制度の具体的なルールは今後検討されることになるが、現時点で示されている制度概要・主旨は以

下のとおりである:

制度の対象は電力小売業者及び大規模需要家とし、信頼性・低炭素の発電が確保されるよう、下

記2つの保証を毎年求める:

▪ 信頼性保証(reliability guarantee):州ごとに必要なバックアップ電源を確保することを目

的とする。石炭、ガス、揚水、電池等が含まれる。電源比率は豪州エネルギー市場委員会

(Australian Energy Market Commission、以下AEMC15)と豪州エネルギー市場オペレー

タ(Australian Energy Market Operator、以下AEMO16)が決める。

▪ 排出量保証(emissions guarantee):小売業者が卸売市場から契約・購入するすべての電気

に対して一定の平均排出水準の遵守を求めるもの。排出水準は連邦政府が決め、豪州エネル

ギー規制当局(Australian Energy Regulator)が実施する。

政府は、これらの保証義務を各社が最も安価な手段を選択し満たすことにより、市場原理が機能

し、信頼性・低炭素の発電を、税や補助金等を用いることなく安価に確保することが可能として

いる。制度対象事業者がこれらを遵守するための手段は以下のとおり:

① 発電事業に投資し必要な電源を確保する、

② 発電事業者との契約により、保証義務を満たすための電気を購入する、もしくは、

③ 他の小売事業者で、自社の保証義務分を上回って信頼性・低排出電力を確保している企業と

12 https://www.energy.gov.au/government-priorities/energy-markets/independent-review-future-security-national-

electricity-market 13 COAGホームページ http://www.coagenergycouncil.gov.au/energy-security-board 14 ABC News, 17 October, 2017 http://www.abc.net.au/news/2017-10-17/coalition-signs-off-on-new-energy-plan-to-

replace-cet-proposal/9057026 15 Australian Energy Market Commission (AEMC)は電力・ガス市場関連規則の策定諮問機関 16 Australian Energy Market Operator(AEMO)は電力・ガスの小売・卸売市場を運営する機関

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の契約により、保証義務を満たすための電気を購入する。

ESB の試算では、同制度の導入により 2020 年から 30 年までの卸売電気料金は、制度なしの場

合と比較して平均23%減少し、同期間において標準的な家庭における電気料金は年間 120豪ドル

の節約が可能としている。

今後はESBによりNEGに関する関係者協議が2018年に行われ、具体的な制度デザインが策定

される。ESBは、信頼性保証は 2019年から、排出量保証は 2020年から実施することを提案し

ている。排出量保証制度は現在の再エネルギー発電導入義務目標(前出、Renewable Energy

Target:RET)を代替することとなる。

なお、市場主義を政策方針の原則としているため、2020年までに風力と太陽光で23%程度という再

生可能エネルギーの導入目標が策定されている(前述)他は、将来のエネルギー源別の比率(エネルギ

ーミックス)等の想定は示されていない17。このためDEEによる見通しは現時点での推計に過ぎない

という位置づけだが、これによれば、石炭火力発電の割合は現状(2016年時点データ)では63.7%と

なっているのに対し2030年時点でも59.8%と約6割を占める見通しとなっている(図 1.2.5)。

出所)Australian Energy Statistics, DEEより抜粋

図 1.2.5 豪州のエネルギー源別発電電力量(送電端)の推移と見通し

(3) 石炭関連政策

豪州は世界最大の石炭輸出国であり、2016年の輸出量は世界合計13億3,134万トンの29.2%に相

当する3億8,930万トンとなっている(第2章参照)18。石炭は豪州の輸出産品として鉄鉱石・鉄鉱石

精鉱に次ぎ第 2 位の地位を占める。2016 年の輸出総額 3,300 億豪ドルのうち鉄鉱石・鉄鉱石精鉱は

537億豪ドルと全体の16.3%、石炭は423豪ドルと12.8%を占める。なおLNGは第5位で179億豪

ドル、全体の5.4%となっている19。

17 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府) 18 IEA Coal Information 2017 19 Australia Trade and Investment Commission https://www.austrade.gov.au/news/economic-analysis/australias-

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石炭に関連する連邦政府の所管官庁は環境・エネルギー省(前出、Department of Environment and

Energy: DEE)が創設され、気候変動問題を含めた環境政策とエネルギー政策がDEE の所管となっ

た。ただし、石炭を含め上流部門のエネルギー資源開発やその利用は産業・イノベーション・科学省

(前出、Department of Industry, Innovation and Science: DIIS)であり、資源政策や輸出、低炭素

技術の促進等を含む産業政策の一環として炭鉱開発を所管し、DIIS内のOffice of the Chief Economist

は、エネルギー資源情報の統計情報や見通し等を公表している。また DIIS 下の連邦政府機関である

Geoscience Australia(GA)は、各州の鉱物資源情報をまとめた政府のポータルサイト“Australia

Minerals”を開設し、州ごとの炭鉱関連の法規制等を整理している20。

ただし、環境許認可や気候変動政策は、エネルギー・電力政策と並びDEEの所管となっている。ま

た、連邦レベルでエネルギー政策を整合的に検討する場として、COAGのエネルギー評議会(Energy

Council)が2011年に設立され、資源探査・開発投資に関する諸課題を検討している。

具体的な炭鉱開発・石炭生産については、豪州では鉱物資源は各州が管轄(オフショアの鉱物資源は

連邦政府が管轄)しており、各州の法規制が適用される。住民への告知や公聴会の実施、パブリック・

コメントへの対応等を含む環境許認可の取得も州ごとの法規制に基づき行われる(後述)。ただし、世

界遺産や絶滅危惧種等に関わる事案については、環境保護及び生物多様性保存法(Environment

Protection and Biodiversity Conservation Act 1999:EPBC法)に基づき、連邦政府が州政府の規制

に加え介入する権限を持っている。そうしたケースではDEEと州政府が連携し案件ごとに審査が進め

られる21。

このように、憲法上は連邦政府が上記EPBC法に基づき鉱業の環境影響に関し権限を行使すること

が可能である。しかしながら、実際には、連邦政府が不承認とする事例は極めて例外的であり、また、

国際的な気候変動対策の要請から、今後、連邦政府が州の炭鉱開発・石炭輸出を阻止したい意向が生

じたとしても、連邦政府が州政府にトップダウンで指示する可能性は想定されておらず、温暖化対策に

関する法規制の整備や政府間の調整等を通じた合意形成が図られることになると考えられる22。また、

これまでに、国内に州政府の代表等が参加する気候アクション円卓会議(Climate Action Round Table)

が設置されており、豪州の気候変動政策について協議が行われている。メンバーは、首都、SA州、QLD

州の各環境大臣の他、アデレード、シドニー、ダーウィンといった主要都市の市長 10人で構成され、

2017年2月に発表した共同声明では、連邦政府に対し、パリ協定に沿った気候変動対策を迅速に進め

るよう求めている23。

また連邦レベルでは、石炭に限らず、特定のコモディティを対象とした輸出促進といった直接的な政

策措置は導入されていない。しかし、豪州経済にとり主要輸出産品としての重要性については、連邦レ

ベル・州レベルで認識が一致しており、首脳レベルのスピーチ等においても石炭や高効率・低排出技術

(High Efficiency, Low Emissions : HELE)の役割を肯定するメッセージが発せられている。環境省

と産業や貿易に関する省の間で、CO2 問題等について立場の違いはあるものの、経済面での重要性が

重視されている。また、中国、インド、ASEAN諸国等において、高効率化や高品位炭へのシフトも含

め、需要は堅調と見られることや、米国におけるシェールガスの供給を勘案しても、国内・アジア市場

export-performance-in-2016 20 Australia Minerals http://www.australiaminerals.gov.au/legislation-regulations-and-guidelines 21 Mineral and Petroleum in Australia A Guide for Investors 2017 p18

https://d28rz98at9flks.cloudfront.net/110628/110628_investors_guide.pdf 22 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府) 23 https://www.environment.act.gov.au/__data/assets/pdf_file/0019/1052308/CAR-Communique-23-Feb-2017.pdf

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ともに天然ガスへの代替は困難と考えられること等から、国際的なエネルギー市場において今後も石

炭が一定の役割を担うことが期待されている24。また、国内においてもNEG(前出、National Energy

Guarantee)を軸としたエネルギー政策が発表されたことで、関係者は石炭・石炭火力発電に対する追

い風と受け止めている25。

前述の通り、低炭素技術の促進はDIISの所管だが、これまでのところCCSに関する取組が大半を

占める(一部の取組は終了、表 1.2.3)26。現状では、国内外におけるHELEの促進や支援に向けた連

邦レベルの政策等は導入されていない。ただし、HELEの有用性・必要性についての認識は高く、国

内においては、電力システムに接続している発電設備について、2018年6月を期限とした詳細調査が

現在実施されている。対外的にも、特定の支援プログラム等はないものの、外務・貿易省(前出、

Department of Foreign Affairs and Trade : DFAT)が2017年11月に発表した白書において、HELE

の普及等を支持する連邦政府の姿勢が示されている27(第3章参照)。

なお海外からの投資案件については、Foreign Investment Review Board(FIRB)が国益の観点か

ら個別審査を行っている。

表 1.2.3 連邦政府による低炭素技術関連プログラム

取組 概要

CCS研究開発実証基金 Carbon Capture and Storage Research Development & Demonstration Fund

大規模CCSのR&D・実証を対象とした基金。上限 2,500万ドルとし競争入札を実施。

CCS関連法規制整備 Carbon Capture and Storage legislation and regulation

2006年の「洋上の石油・GHG貯蔵法」によりCO2のパイプライン輸送、注入及び貯蔵について連邦政府はオフショアの法規制を整備。ヴィクトリア州、QLD州、South Australia州は各州内での法整備を実施済み。New South Wales州及びWestern Australia州は現在対応中。

CCSフラッグシッププロジェクト Carbon Capture and Storage Flagships program

国内の大規模CCSプロジェクトの支援。公募により2011年にWestern Australia州の South West Hubプロジェクトが選定された。2015年にはプロジェクトのスコープが縮小されたが、地質データの解析等を続け、貯蔵サイトに関する情報を収集。

CO2インフラプログラム National CO2 Infrastructure Program

貯蔵・輸送インフラの開発に向け、エネルギー・産業施設のCO2排出源からの距離を勘案した長期貯留サイトの特定・開発を支援。2015年 7月に終了。

貯蔵サイトの地質データ収集 Pre-competitive Geological Storage Data Acquisition

貯蔵サイトに関する地質データの収集・公表により、商業開発段階への進展に向けた基礎情報を整備。

炭素貯蔵エリアの公表 Greenhouse Gas Storage Acreage Release

オフショアの貯蔵サイトの特定に向け、可能性のあるエリアを特定し、事業者を公募し探査を許可。

国際的な取組 International Engagement

CCS技術・政策に関する国際的なネットワークや二国間協力。中国とは、共同の取組として、クリーンコールテクノロジー及びCCSに関するプロジェクトを実施、豪州政府は 2,000万ドルを拠出。

低炭素石炭イニシアティブ National Low Emissions Coal Initiative(NLECI)

石炭利用による炭素排出を抑えるための取組として2008年に開始、QLD州におけるカライド酸素燃料プロジェクト等が実施されたが、2016年 7月で終了。

出所)DIISホームページより作成

24 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府) 25 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、石炭事業者) 26 DIISホームページ 27 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府)

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(4) 主要産炭州における石炭関連政策

以下では、主要産炭州であるQLD州及びNSW州のエネルギー・環境・石炭関連政策の動向につい

て概観する。

各州の政策は、それぞれの政権与党の基本的な政策方針に応じ異なっている。QLD州では、2017年

11 月に行われた州議会総選挙で与党労働党が勝利し、Annastacia Palaszczuk(アナスタシア・パラ

シェイ)首相の続投が決定した。QLD州では、これまでも労働党政権の下、連邦政府の再エネ目標を

超える州独自の目標を策定し再エネの導入拡大を進め、炭鉱開発については慎重な姿勢を示す面があ

る。

他方、NSW州では 2015年の州議会総選挙により保守連合政権が誕生した(Mike Baird首相に代

わりGladys Berejiklian女史が2017年1月に首相就任)。同州は、連邦政府(保守連合)と歩調を合

わせたエネルギー・環境政策をとっており、石炭火力発電の役割強化等の方針を示している。

炭鉱リースに関する法規制や許認可手続きは、各州で類似する点が多くある一方で(表 1.2.4)28、

NSW州はQLD州よりも厳格であるという指摘もある(後述)29。そうした違いは、政権交代により

基本的な政策方針が変化し、炭鉱開発に関する許認可手続き等においても、厳格化と緩和が繰り返さ

れてきたという背景がある30。

表 1.2.4 豪州各州における炭鉱リースの申請要件

出所)Mineral and Petroleum in Australia A Guide for Investors 2017

① Queensland州

エネルギー・環境政策

QLD州は、連邦政府によるパリ協定へのコミットメントを背景に、同州の気候変動対策を示す文書

(Queensland Climate Transition Strategy)を2017年7月に発表した31。これにより同州は2050

年までにGHGの“ネットゼロ排出”を達成するとの目標を掲げた。ネットゼロ排出は、排出削減の促

進と同時に、植林やCCSの活用により、排出量と吸収量のバランスで見たGHG排出をゼロにする考

28 Mineral and Petroleum in Australia A Guide for Investors 2017 p24

https://d28rz98at9flks.cloudfront.net/110628/110628_investors_guide.pdf 29 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、石炭事業者) 30 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、石炭事業者) 31 QLD州政府ホームページ https://www.qld.gov.au/environment/climate/transition

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え方である32。豪州ではこれまでに複数の州が長期的なネットゼロ排出目標を掲げている。

またQLD 州はこれまでに発電に占める再生可能エネルギーの割合を 2030 年までに 50%に高める

との目標を独自に策定しており、それを踏まえ再エネ導入を促進するとともに、排出削減の中間目標

として、2030年までに2005年比30%の排出削減を行うとしている。

また同州では総合エネルギー戦略「Powering Queensland Plan」を2017年度の予算措置として策

定している。エネルギー安全保障及びクリーンエネルギーへの転換のため 11.6億豪ドルを投資する計

画を骨子としており、主な内容は以下のとおり33:

<電気料金対策>

▪ 今後3年間に亘り、小売電気料金に占める太陽光補助金費用の課金を停止するため7億7,000万

豪ドルを投入し、電気料金を安定化する。

▪ ガス火力発電所(Swanbank発電所、385MW)の再稼動(2017年)をStanwell社に指示。さ

らに同社に対し卸電力価格の低下を促す対応を要請。

<ガス供給の増加>

▪ 発電用ガスの供給不足が卸電力市場の価格上昇に寄与していることを踏まえ、「QLD州ガス行動

計画」を実施し、ガス供給量の増加を促進。2017年2月には国内供給に限定する条件付でSurat

Basinにおけるガス田の開発・生産の入札を実施。Surat Basinにおけるガス田の大規模開発を、

国内供給向けに限定し、さらに促進する予定。

<再エネ促進>

▪ 州政府所有の発電所の再編と、州内の再エネ・低炭素電源の運営・新規導入のための調査を実施

(2018年前半に勧告予定)。

▪ 州独自の再エネ導入目標(2030 年までに再生可能エネルギー割合を 50%とする)を再確認する

とともに、400MWの多様な再エネ電源容量の逆オークションを2017年後半に開始。この一環と

して、2020年までに上限100MW分のエネルギー貯蔵技術を促進。

<その他>

▪ エネルギー安全保障のためのタスクフォースを設置。

▪ 州北部のエネルギー源の多様化。

このようにQLD州では、天然ガスや再エネの利用を拡大する意向を示しているが、現状では発電の

大半を石炭が占める34。また、地球温暖化対策の高まりを受け、同州における輸出向け炭鉱開発につい

て、国内外の反発が強まっており、特に、未開発の Galilee Basin における大規模な新規炭鉱開発

(Carmichael炭鉱)を巡り、国際的な環境保護団体等による反対運動がこれまで以上に激しさを増し

ており、州政府の対応にも注目が集まっている(第4章参照)。

32 http://www.generationyes.com.au/why_net_zero 33 Queensland Government, Department of Natural Resources, Mines and Energy, Powering Queensland Plan

https://www.dews.qld.gov.au/__data/assets/pdf_file/0008/1253825/powering-queensland-plan.pdf 34 発電設備容量で見ると、石炭8,200MW、ガス2,700MW、ルーフトップ太陽光1,706MW等となっている。

Powering Queensland Plan

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石炭政策

炭鉱開発や石炭輸出の促進等、州政府の石炭政策に特化した政策文書等は特には策定されていない

が、州政府内にResources Investment Commissionerを選定する等し、資源関連の投融資の誘致に注

力している。また、環境許認可プロセスにおける透明性の確保等は、炭鉱活動等に対する側面支援とし

ても位置づけられている35。国際的な CO2排出について産炭州に対する圧力はあるが、基本的には連

邦政府マターとして認識されている。QLD 州政府関係者は、COP 開催等にあたり連邦政府と連携し

交渉団に参加、他の州政府とも協力する等している36。

QLD州における石炭の探査・採掘は、州政府のMineral and Coal Authoritiesが所管している37。

事業者は炭鉱開発・生産について、鉱物資源法(Mineral Resources Act 1989)及び鉱物資源規則

(Mineral Resources Regulation 2013)に従い、探査権(exploration permit)・採掘権(炭鉱リー

ス(mining lease))を取得することが求められる。

炭鉱リースの取得に際し事業者は、掘削許認可(mining resource permit)を州の天然資源・鉱山省

(Department of Natural Resources and Mines:DNRM)に申請する。炭鉱リースの取得に際し、

①資源関連諸法が定めるリース権(tenure)に関する要件に加え、②環境許認可、③原住民の土地所

有の問題(Native Title)の3つの許認可が必要となる。

環境許認可は、環境保護法(Environmental Protection Act 1994)に基づき、事業者は環境許認可

(Environmental Authority:EA)を州の環境・遺産保護省(Dept. of Environment and Heritage

Protection:DHEP)に申請する。QLD州では、環境に影響を与える活動(environmentally relevant

activity:ERA)のリスクの程度に応じ、①標準的なEAの手続きが適用される場合と、②資源活動の

区分に応じ個別に許認可手続きを定めている。大規模資源開発に該当する炭鉱開発は、①は適用され

ず、サイトごとに環境影響評価を行う②の手続きが求められる。具体的には、事業者は環境影響表明

(Environment Impact Statement:EIS)を作成し、そのドラフトを州政府に提出し、1)当該案件

による環境影響がないこと、または、2)影響はあるが基準内であること、または、3)発生する影響

への対策等を示し、州政府との協議を通じ、影響緩和のために一定の土地を提供(オフセット)するこ

と等、許認可の諸条件について州政府と協議する。また、事業内容によっては環境保護規則

(Environmental Protection Regulation 2008)が定める活動(化学物質の貯蔵等)を含む場合は、別

途EAを取得することが求められる38。環境許認可についての最終的な判断を下すのはDHEPである。

またEAの申請と同時に、住民に対する告知(public notification)・パブリック・コメントへの対

応や、連邦政府マターについて対応が求められる。これらと並行して進められる手続きについては、鉱

物資源法に基づきDNRMがDHEPとの調整にあたることが定められている39。

こうした許認可取得プロセスの一環としてパブリック・コメントに対応することが求められるが、法

的係争に持ち込まれるケースも多数ある。DHEPによれば、連邦政府の土地裁判所で争われる先住権

(Native Title)に関する係争が最大の争点であり、係争件数は環境問題を上回っている。しかし、先

35 QLD州政府ヒアリング 36 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府) 37 QLD州政府ホームページ https://www.business.qld.gov.au/industries/mining-energy-water/resources 38 QLD州政府ホームページ https://www.business.qld.gov.au/running-business/environment/licences-

permits/applying/activities 39 Guideline Environmental authorities, Approval processes for environmental authorities, Dept. of Environment

and Heritage Protection, 12 September 2016

https://www.business.qld.gov.au/running-business/environment/licences-permits/applying/activities

https://www.ehp.qld.gov.au/assets/documents/regulation/era-gl-environmental-authority-approval-process.pdf

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住権に関する問題は、伝統的な土地所有者の所有権が連邦裁判所を通じ確定している場合は、炭鉱事

業者による補償の支払い等を通じ折り合う等、地域的な問題として位置づけられるケースが多いが、

環境影響はより広範囲に亘るステークホルダーから反対意見が出されるケースもある。

近年は、Adaniプロジェクト(第4章参照)が契機となり、随伴水(associated water)のライセン

スに関する規制が強化された。炭鉱へ流入及び流出する水に関する規制で、新規の露天掘り・坑内掘り

のいずれにも適用される(既存炭鉱は対象外)。従来は上述のリース権(tenure)に関する要件に含ま

れ、個別には規制されていなかったが、2016年12月に施行された法改正により40、急遽規制が強化さ

れることとなった。これにより、環境許認可の一環として位置づけられ、環境影響評価の実施が求めら

れることとなった。事業者にとっては、9~12カ月、長くて16カ月に亘り許認可取得に遅れが出るこ

ととなった41。

QLD州及びNSW州で炭鉱事業を行っているNew Hope Groupは、上記法改正への対応も含め、

New Acland炭鉱(QLD州、Darling Downs project)の拡張計画(stage 3)を申請していたが、州

政府(DHEP)は、2018年2月に環境許認可を付与しないことを発表した。これまでに同計画を巡り、

地域の農家や環境保護団体等(Oakey Coal Action Alliance)が、農地の利用に反対し、地域の大気・

水等への悪影響を及ぼす等として抗議していた。2017 年 1 月には連邦環境省の承認を得ていたが42、

土地裁判所は、承認に反対する見解を2017年5月に示していた43。New Acland Coalは、DHEPの

決定を無効とするよう土地裁判所に対し司法審査を申請しており、QLD 州最高裁判所による審問が

2018年3月に予定されている。

40 Water Reform and Other Legislation Amendment Act 2014 (No.64), Water Legislation Amendment Act 2016

(No.60), •Environmental Protection (Underground Water Management) and Other Legislation Amendment Act

2016 (No.61)

QLD州政府ホームページ

https://www.dnrm.qld.gov.au/water/catchments-planning/water-reform 41 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、石炭事業者) 42 http://www.abc.net.au/news/2017-01-20/new-acland-coal-mine-expansion-approved-by-josh-frydenberg/8198480 43 Sydney Morning Herald, February 14, 2018

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出所)Application for Mining Lease Guideline, Government of Queensland

図 1.2.6 QLD州における炭鉱リースの許認可手続きフロー

② New South Wales(NSW)州

エネルギー・環境政策

NSW 州は州独自の気候変動対策の基本方針を示す「NSW 気候変動政策フレームワーク(NSW

Climate Change Policy Framework)」案を2016年11月に発表した。QLD州と同様に2050年まで

にネットゼロエミッションを達成するとの長期目標を掲げ、排出削減と炭素貯蔵により達成するとし

ている44。そのための施策として「気候変動基金戦略計画草案(Draft Climate Change Fund Strategic

Plan)」及び「NSWエネルギー・費用節約計画草案(Draft Plan to Save NSW Energy and Money)」

の2つの計画草案をあわせて発表した。概要は下記の通り:

44 NSW州政府ホームページ http://www.environment.nsw.gov.au/topics/Climate-change/Policy-framework

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<気候変動基金戦略計画草案(Draft Climate Change Fund Strategic Plan)45>

NSW州は 2008年から気候変動基金(Climate Change Fund)を実施している。同基金は電力事

業者(小売事業者)に対して一定の基金の拠出を要求し、使途は GHG の削減や気候変動への適応対

策とするものである。新しい計画は 2017年から 2022年までを対象とし、基金の規模は約 14億豪ド

ルとなっている。うち 9億豪ドルは気候変動適応関連、残りの 5億豪ドルは先進エネルギーの導入、

省エネ等としている。

<NSW エネルギー・費用節約計画草案46>

NSW 州の省エネ対策をまとめたものであり、連邦政府による国家エネルギー生産性計画(前出、

National Energy Productivity Plan)、エネルギーGDP原単位を2030年までに2015年比40%改善)

を補完する形となっている。NSW州は2020年の省エネ目標として16,000 GWhの節約目標を設定し

ているが、州の試算では従来の対策では削減量は14,637 GWhとなる見通しである。同計画では残り

の1,379 GWhの更なる削減のためのもので、機器の省エネ基準の加速化、建物の省エネ基準の改善、

公共照明機器の更新等、様々な対策が含まれている。

一方、上述の通りQLD州が独自の再エネ普及目標を掲げているのに対して、NSW州は、連邦の政

策に沿った目標(2020年までに電源の20%を再エネ電源にする)を掲げるにとどまっている。同目標

達成のため、再エネ普及のための24の行動を取りまとめた「NSW州再エネ行動計画(NSW Renewable

Energy Action Plan)」を策定している。

「NSW再エネ行動計画」の年次報告書によると2008年以降電源に占める再エネの比率は2倍に増

加し、2015年には再エネ電源のシェアは14%を占める(石炭79%、ガス7%、再エネ14%)。また、

再エネの発電設備は450MWが建設中であり、3,200MWについて開発承認が下りており、約5,000MW

が計画中である。また、NSW州の住宅のうち約 15%にルーフトップ型太陽光パネルが設置されてい

る47。

石炭政策

QLD州と同様に、炭鉱開発や石炭輸出の促進等、石炭政策に特化した政策文書等は特には策定され

ていない。州政府によれば、石炭産業の重要性については認識しており、投資の促進等に努めている

が、基本的には経済活動は産業界に委ねられている。また、環境関連の問題に関心が集まっている面も

あるが、生産量が伸びる等、経済的に順調な状況であることから、州政府として特段の政策方針を示す

ということはしていない48。

NSW州では、鉱業法(Mining Act 1992)により探査ライセンス及び炭鉱リースが事業者に付与さ

れ、所管官庁は計画・環境省(Department of Planning & Environment)内のDivision of Resources

and Geoscience となっている。事業者は、環境影響評価として Review of Environmental Factors

45 NSW, Climate Change Fund Draft Strategic Plan

http://www.environment.nsw.gov.au/resources/climatechange/Environmentalfuturefundingpackage/draft-climate-

change-fund-strategic-plan-160438.pdf 46 http://www.environment.nsw.gov.au/resources/climatechange/Environmentalfuturefundingpackage/a-draft-plan-

to-save-energy-money-160642.pdf 47 NSW RENEWABLE ENERGY ACTION PLAN Annual Report 2016

https://www.resourcesandenergy.nsw.gov.au/__data/assets/pdf_file/0008/586601/reap-annual-report.pdf 48 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、州政府)

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(REF)、 Environmental Impact Statement(EIS)及び又はSpecies Impact Statement(SIS)の

作成が求められる49。

NSW州では、炭鉱リースの許認可プロセスについては合理化に向け法改正が行われている。これま

で NSW 州では計画・環境省が承認した事案であっても、独立した委員会である計画評議委員会

(Planning Assessment Commission:PAC)50が審査を行い、最終的な開発計画の認可をPACが行

う流れとなっていた。同州では近年、PACによる審査の長期間化や最終的に申請が却下される事例が

出る等、開発プロジェクトの不確実性やコスト増が問題となっていた。このためNSW州政府は、PAC

の役割を、申請案件について計画・環境省と共に審査を行い、同省に対する助言を行うことにとどめ審

査の迅速化を図る方針を 2017年 1月に発表した。同法案は 2017年11月に可決され、施行中となっ

ている。これに伴いPACは Independent Planning Commission(IPC)に名称が変更する見込みで

ある51。

QLD 州について述べたように、許認可に関し連邦政府が関与するのは EPBC 法に基づく点のみで

あり、最終的な許認可は条件付で承認されるケースがほとんどである。パブリック・コメントの対応に

ついては、極端な意見等については州政府でスクリーニングを行う等して論点を絞った上で、州政府が

対応の必要性について判断する。

現地の石炭事業者は、今般の法改正により許認可プロセスが改善されたと見ているが、QLD州と比

較しNSW州では環境許認可の取得が長期に亘ると指摘している52。ヒアリングによれば、現在のとこ

ろ環境許認可の取得は、QLD州では最低3年、NSW州では最低5年を要し、そのため費用も、QLD

州では5~10百万豪ドル、NSW州では10~15百万豪ドルが目安と見られる。両州の差は、パブリッ

ク・コメントに関する手続き(時間)の差であり、NSW州ではQLD州と比較し、炭鉱リースの更新

時を含め、パブリック・コメントの機会がより多く設定されており、場合によっては最終的に許認可が

下りないケースも出ている。他方、ローカルな環境汚染問題ではなく、CO2 排出を理由とした反対意

見もあるが、CO2 排出は特定の炭鉱開発に起因する問題ではないため、地球温暖化問題をもって許認

可を下さない理由にはならないとの指摘もある53。

これまでにNSW州では、Hunter ValleyのDrayton South炭鉱(露天掘り鉱山)の探査リースを

巡り利害関係者が激しく対立した事例がある。同地域では、炭鉱事業による馬の放牧やワインの生産

等への影響が懸念され、州政府は、同地域での露天掘り鉱山を禁止する方針を 2017年12月に発表し

た。Drayton Southを所有していたAnglo Americanは、上記問題等を背景に、同サイトを2017年5

月に豪州のMalabar社に売却していた54。本件は、連邦政府も不承認とした例外的な事例となってい

る55。

49 NSW州政府ホームページ https://www.resourcesandenergy.nsw.gov.au/miners-and-explorers/codes-and-

guidelines/guidelines/guideline-for-preparing-a-review-of-environmental-factors 50 Environmental Planning and Assessment Act 1979 (EP&A Act)により設置。PACホームページ

http://www.pac.nsw.gov.au/ 51 報道による。PACのホームページは2017年2月現在変更されていない。 52 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、石炭関連事業者) 53 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、石炭関連事業者) 54 http://www.abc.net.au/news/2017-12-01/nsw-government-says-no-to-open-cut-at-drayton-south/9217756 55 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府)

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出所)NSW州政府Planning & Environmentホームページ

図 1.2.7 NSW 州における炭鉱リースの許認可手続きフロー

1.2.2 米国

(1) 米国の温暖化対策

米国では、2016年11月に実施された大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ候補が勝利し、2017

年1月20日に就任した。同時に実施された連邦議会選挙では、共和党が上下両院の多数議席を守った

ため、2017-18年の第 105議会は、大統領および上下両院の多数派をすべて共和党が占める統一政府

となっている。トランプ政権の下で、気候変動対策を担う環境保護庁(Environmental Protection

Agency:EPA)長官には元オクラホマ州司法長官のScott Pruitt氏が、UNFCCC等の国際交渉を担

う国務長官には元ExxonMobil CEOのRex Tillerson氏が、資源開発政策を担う内務長官には元モン

タナ州選出連邦下院議員の Ryan Zinke 氏が、エネルギー政策を担うエネルギー長官には元テキサス

州知事のRick Perry氏が任命された。

オバマ前大統領は、就任時点で、米国内のGHG排出量を 2050 年までに 1990 年比 80%削減の長

期目標を掲げ、気候変動対策およびクリーンエネルギー社会への移行を掲げていた。石炭は長期的に

は脱却すべきエネルギー源と位置づけられたが、中期的には石炭をクリーンに使い続けていく必要が

あることから、CCS(炭素回収・貯留技術)を用いた炭素ゼロ排出の石炭火力発電の実現が、政策に

盛り込まれた。ただし、就任後にシェールガスに牽引された国内天然ガス生産の拡大が本格化し、ガス

価格の低位安定が続いたことから、石炭利用技術に対する位置づけは後退した。

また、オバマ政権は、COP21 では米国の削減目標として 2025 年までに 2005 年比 26-28%減を表

明し、2016年9月に国連に対し、パリ協定に正式に加盟(formally join)する旨を通告した。この削

減目標の達成に向けた施策として、オバマ大統領は既に2013年6月に気候変動計画(Climate Action

Plan)を公表しており、そこには、1975年エネルギー政策・節約法、1978年国家省エネルギー政策

法や、1990年大気浄化法等の既存の法律に基づく、自動車燃費基準やエネルギー消費機器の効率基準

の強化、および発電所や油ガス田を含む大規模産業設備に対する排出基準の導入等が盛り込まれた。

これらの施策はすべて、議会での新規の立法を必要とせず、既存の法律に基づく行政措置のみで実施

が可能とされるものであった。

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トランプ大統領は、選挙戦を通じてパリ協定の即時離脱を公約しており、2017年3月29日にはオ

バマ前政権の気候変動計画を撤回する行政命令を下した56。具体的には、①国家環境政策法に基づき実

施される環境アセスメントにおいて気候面の影響を考慮するよう指示した、オバマ前政権の環境問題

評議会(Council on Environmental Quality)のガイダンスを廃止、②EPAに対し、2015年8月に公

布された新設および既設の発電所に係るCO2排出基準を見直し、凍結または修正ないし廃止の手続き

を行うよう指示、③同じく EPA に対し、2016 年 5 月に公布した、水圧破砕を行う油・ガス井からの

VOC(及びメタン)排出に係る基準と関連する規則を見直し、凍結または修正ないし廃止の手続きを

行うよう指示、④内務省に対し、2016年1月に発表された、石炭開発鉱区入札の凍結およびロイヤリ

ティの見直しの解除を指示、等の措置を命じる内容であった。

また、6月1日にはトランプ大統領は、パリ協定から離脱し、同協定の実施に向けたすべての措置を

停止することを宣言、同時に、世界的な環境問題への取り組みについて再交渉を行い、米国の産業・労

働者・納税者にとって公正な合意に到達した場合には、修正されたパリ協定ないし類似の枠組み合意

に復帰する方針を明らかにした57。さらに8月4日には国務省が、国連に対し、同協定の離脱規定の条

件が満たされ次第、速やかにパリ協定離脱の手続きを開始することを伝達した58。

2017年10月には、EPAが、既設発電所に係るCO2排出基準、通称Clean Power Plan(CPP)見

直しの方針を発表した59。2015 年 8 月に公布された CPP は、米国内の発電所由来の CO2排出量を

2030 年時点で 2005 年比 32%削減することを目標として、石炭火力には 2030 年時点で 1,305 lbs-

CO2/MWh(ポンド/MWh)、ガス火力には771 lbs-CO2/MWhのCO2排出原単位基準を規定した。各

州の発電設備構成と発電電力量見通しを踏まえて、2030年時点の州内火力発電所の排出原単位目標(加

重平均)と排出総量目標(ton-CO2)が提示され、各州政府に、実施計画の策定が義務付けられた。各

州は、実施方法として、発電所単体での削減措置、発電所に係る他の基準を通じた削減、あるいは対象

設備群全体として同等の削減実績を挙げ得るその他の手法、を選択することができる。

具体的には、①発電所の熱効率改善、②高排出の発電所から低炭素の発電所への稼働シフト、③再

生可能エネルギーの利用拡大、の 3 つの削減手法が提示され、さらに省エネ措置を通じた電力需要削

減や、州内および複数州の間での排出量取引を通じた目標達成も認められた。

これに対し、トランプ政権のEPAは、大気浄化法に基づけば、削減手法として認められるのは発電

所の熱効率改善のみである、との法解釈を提示した。この方針に沿って 2018年中にCPP修正案を提

案し、トランプ政権の任期中に最終規則の公布までつなげる方針である。

(2) 米国のエネルギー政策

米国のエネルギー需給環境は、足元では、非常に恵まれた状況にある。2008年に顕在化したシェー

ルガス生産の急拡大に続き、2011年にはタイトオイルに牽引されて国内原油生産も増加に転じた。こ

の結果、2008年初時点で米国の石油輸入依存度は59%、国内で精製される原油の輸入依存度は 67%

56 The White House, Executive Order No.13783 - Promoting Energy Independence and Economic Growth, March

28, 2017. 57 The White House Office of the Press Secretary, “Statement by President Trump on the Paris Climate Accord,”

June 01, 2017. 58 The State Department Office of the Spokesperson, “Communication Regarding Intent to Withdraw from Paris

Agreement,” August 4, 2017. 59 The U.S. EPA, Repeal of Carbon Pollution Emission Guidelines for Existing Stationary Sources: Electric Utility

Generating Units, The Federal Register Vol. 82, No. 198, October 16, 2017.

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に達していたものが、2017年末にはそれぞれ13%、36%と低下した。天然ガスについては2017年に

純輸出ポジションに転じており、石炭も100%を自給している。国内供給の拡大を背景に、石油製品価

格や天然ガスの卸価格および卸電力価格は安定的に推移しており、それにもかかわらずエネルギー消

費機器の効率改善等を背景に、国内エネルギー消費の伸びは鈍化している。

一方、そうした中で関心が高まっているのが、電源構成の変化に伴う電力供給の安定性確保の問題

である。後述するように(5.3)、米国国内の石炭火力発電の経済性が低下する中、2011~16年にかけ

て石炭火力の設備廃止が相次ぎ、2017年以降も引き続き廃止が予定されている。また、発電所の設備

稼働率の面でも、石炭火力は2008年までは安定的に7割強の稼働率を維持してきたが、近年では低下

し55%程度となっている。他方ガス火力は2000年代には3割未満の低稼働の状態にあった。近年稼

働率は若干上昇したが依然として33%程度に留まっている。これは全米の全ての設備を平均した稼働

率であり、実際には送電線が接続されたエリア別の需給逼迫状況を考慮する必要があるが、総じて電

力需要が伸び悩む中での再生可能電力の急拡大および安価な天然ガスとの競争により、石炭火力の経

済性が低下していることが、前述の大量廃止の要因となっている。なお、同様の要因により米国内では

原子力発電所の廃止も相次いでいる。

注)石油火力には石油コークス燃料の設備を含む。

出所)EIAより作成

図 1.2.8 米国の発電所稼働率の推移

このように、従来ベースロード電源として位置づけられてきた石炭火力や原子力発電所の廃止が相

次ぎ、今後もこの傾向が続くことから、電力供給信頼度に対する影響が懸念されている。2017年4月

にPerryエネルギー長官はエネルギー省(DOE)スタッフに対し、ベースロード電源の大量廃止に伴

う影響に関する調査を指示し、8月に調査報告書が公表された60。報告書は、連邦および州レベルでの

電力市場自由化が進められた 1990~2000 年代に予期できなかった市場環境の変化として、①安価で

豊富な国内供給と環境性を背景とした天然ガス火力の拡大、②補助金とコスト低減に支えられた再生

可能電力の拡大、③産業構造の変化と省エネ進展に伴う電力需要増の鈍化、④これらの結果としての

負荷追従性の重要性が増していること、そして⑤卸電力価格が低迷し発電事業者が投資回収困難に直

面していること、を指摘した。併せて、ハリケーンに代表される気象災害に伴う電力供給支障の頻度が

60 U.S. Department of Energy, Staff Report to the Secretary on Electricity Markets and Reliability, August 2017.

0

20

40

60

80

100

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(%) 発電所設備稼働率

石炭 石油

天然ガス 原子力

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増していることを踏まえ、①電力需要の変動に応じて燃料供給を確保するための制度的裏づけ、②発

電所内の燃料貯蔵に対し、卸電力市場で適正な対価が支払われる仕組み、③送電網とガス導管網の運

用面の連携強化、等の施策を勧告した。

上記エネルギー省の提言を踏まえ、9 月には Perry エネルギー長官が電力市場の監督機関である連

邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commission:FERC)に対し、電力供給信頼

度向上のため、地域系統運用機関に対して電源構成の分散化と供給力確保に必要な規則改定を促すよ

う指示した61。具体的には、①電力供給およびアンシラリーサービスを提供する電源、②オンサイトで

90日分以上の燃料貯蔵を保有、③緊急時や急激な需給の変化の場合の安定供給に貢献、④環境基準に

適合、⑤自由化エリアに立地、等の的確要件を満たした発電設備に対し、費用回収を保証するための制

度設計を求める内容であり、的確要件を満たす電源としては石炭火力と原子力が想定された。この指

示に応じて FERCは規則案に対するパブリック・コメントを実施したが、2018年 1月に、連邦動力

法に基づけばFERCが地域系統運用機関に対し何らかの規則制定を指示するには、現行の価格体系が

問題を抱えていることが明らかでなければならず、上記の Perry長官の指示は法的根拠が不十分であ

るとして、却下の結論を下した62。

(3) 石炭関連政策

石炭開発に関連する連邦政府の所管官庁は内務省であり、鉱区入札等連邦領における開発活動は土

地管理局(Bureau of Land Management)、炭鉱の環境対策や跡地の原状回復等は露天採掘修復実施

局(Office of Surface Mining Reclamation and Enforcement)が担っている。石炭開発活動に関する

環境対策についてはEPAも関与しており、また石炭利用技術の研究開発についてはDOEが担ってい

る。石炭輸送インフラ(主に鉄道と港湾)の所管は運輸省だが、洋上施設に関する環境アセスメントに

ついては陸軍工兵隊(Army Corps of Engineers)および商務省、内務省が担っている。

米国では、2013 年頃までは、石炭輸出ターミナルの拡張等が計画されていた。2013 年時点の米国

内の石炭輸出ターミナルの輸出能力は 2億 1,250万トンであった。うち一般炭取扱量はルイジアナ州

ニューオーリンズ港が最大(2015年788.6万ショート・トン、28.2%)であり、次いでメリーランド

州ボルティモア(440.3万トン、15.8%)、バージニア州ノーフォーク(431.5万トン、15.4%)、ワシ

ントン州シアトル(403.7万トン、14.4%)と続く。

これに対し 2013 年時点で合計 2 億 5,560 万トンの建設(拡張を含む)が計画されていた。主要産

炭地域がロッキー山脈以東に位置し、鉄道やバージ、荷役施設等のインフラが整備されていることか

ら、計画の多くは東海岸とメキシコ湾岸に位置するが、西海岸にはアジア向け輸出を念頭に置いた合

計 1 億トン分の輸出港建設が計画された。しかし環境影響を懸念する住民の反対が強く、州や自治体

の承認が下りず、多くの計画が撤回に追い込まれ、手続きが進行中の事業も実質的な進展はみられな

い。

61 U.S. Department of Energy, Notice of Proposed Rulemaking- Grid Resiliency Pricing Rule, September 28, 2017. 62 The Federal Energy Regulatory Commission, Order Terminating Rulemaking Proceeding, Initiating New

Proceeding, and Establishing Additional Procedures, January 8, 2018.

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表 1.2.5 西海岸の石炭輸出計画

港湾(事業名) 実施主体 概要

【ワシントン州】

Cherry Point,

Bellingham

(Gateway Pacific)

SSA Marine

(国際輸送サービス)

・石炭・バルクターミナルGateway Pacific Terminalの建設

・2015年操業開始、年間輸出可能量2,500万トン(将来的に4,800万トン)

・Powder River Basinで生産するPeabodyと石炭輸送・輸出で合意

・2011年2月に建設許可申請、2016年に環境アセス評価書を提出

現状:撤回 ・2017年2月、申請を撤回

Longview

(Millennium Bulk

Terminals Logistics)

Resource Capital

Funds

(当初は豪Ambre

EnergyとArch

Coal)

・アルミ会社所有の港湾を石炭輸出に用途変更、年間570万トン

・2010年11月に港湾立地許可取得、計画の規模詐称が発覚し反対が高まり取

下げ、2011年6月再申請、2012年操業開始目標

・Arch Coalは経営破綻に伴い2016年5月に撤退

現状:許可手続き進行中 ・2017年9月州政府が申請を却下、事業者が再検討を申請

Hoquiam (Port of

Grays Harbor)

Grays Harbor港

Rail America

・2011年7月に構想を発表

・目標は年間75カーゴ

現状:撤回 ・2012年8月に計画断念

【オレゴン州】

Port of Morrow

(Coyote Island)

Resource Capital

Funds

(当初は豪

Ambre Energy)

・荷役施設を建設し年間最大350万トンの石炭を輸出

・Powder River Basinからの鉄道輸送能力は年間880万トン

・港湾建設許可を陸軍工兵隊に、貯炭場建設や河川を用いた石炭運搬計画に関

する許可を州環境省に申請

現状:撤回 ・2014年8月州政府が河川利用の許可申請を却下

・2015年3月港湾建設が承認されるも2016年11月計画撤回

Port of Helens

(Port Westward)

Port of Helens工業

団地

Kinder Morgan

・2011年工業団地Port Westward Industrial Parkに総工費1.5億ドル、2,200

万トンの石炭輸出施設建設(2022年操業開始)を提案

・2012年1月自治体政府は石炭輸出のための土地リースを許可

・2012年5月Portland General Electric(工業団地事業主体)が計画却下

現状:撤回 ・2013年5月、Kinder Morganは計画を撤回

Coos Bay

(Port of Coos Bay)

Coos Bay港 ・2011年7月に石炭輸出を検討している旨発表(年間100カーゴ)

・三井物産、韓国電力、Metro Ports of Californiaも参加を計画

現状:白紙 ・2012年4月知事が慎重な環境影響評価を要請、10月自治体反対決議

・2013年4月Metro Ports離脱(三井物産、韓国電力は既に離脱)

【カリフォルニア州】

Port of Long Beach Long Beach港 ・従来から石炭を出荷(年間140万トン程度)

・2014年5月Metropolitan Stevedore Company(Metro Ports)とOxbow

Carbonで、Pier G桟橋の使用契約を15~20年更新に合意、Long Beach市

議会も承認

Port of Stockton Stockton港

(Terminal Logistics

Solutions)

・従来から石炭を出荷(年間170万トン程度)

・2013年12月Bowie Resource Partnersが石炭400万トンを含む830万ト

ンのバルクターミナル建設を提案

・2015年2月オークランド港湾委員会が計画を却下

・2015年4月ユタ州Community Impact Fund Boardが5,300万ドルを投資

する計画を採択、2017年の操業開始を目標に石炭出荷施設建設を計画

・2016年2月州議会が州内港湾からの石炭輸出と公的資金支援を禁止

Levin-Richmond

Terminal

Levin-Richmond港 ・従来から石炭を出荷(年間120万トン程度)

・2013年、炭鉱会社Bowie Resourcesが石炭輸出用の利用を申請

・2015年5月、市議会は市内の石炭輸送を認めない決議を採択

出所)各種報道、プレスリリース等を基に作成

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トランプ大統領の公約に石炭輸出拡大も含まれ、後述するとおり 2017 年 7 月には米国外の石炭プ

ロジェクトへの米政府系金融機関によるファイナンスを推進する方向に政策転換を行った。前述の3月

29日の行政命令により、鉄道や港湾等の石炭輸送/輸出インフラの環境アセスに際して、輸出された石

炭の消費地における気候変動面の影響を考慮しないこととされた。加えて、2018年2月に発表された

インフラ投資計画では、複数省庁が関与している環境アセス手続を主管官庁に一元化し申請から最終

判断まで24ヶ月の期限を導入する、環境アセス手続へのEPAのコメント権限の廃止、環境アセスの

審査/許可権限の一部を州政府に移管する、等の提案を含んでいる63。これらの政策変更が実現した場

合でも、州以下のレベルの石炭インフラへの反対は容易には払拭されず、西海岸の石炭輸出能力が拡

大する可能性は低い。

トランプ大統領のエネルギー・環境面の選挙公約であるAmerica First Energy Planには、「クリー

ンコール技術へのコミットメント」が含まれた。クリーンコール技術の中には、高効率石炭火力発電

や、東南アジア等との間で技術協力を進めている低品位炭の利用、石炭液化・ガス化等様々な技術が含

まるが、米国での取組みの中心は炭素回収・貯留技術(CCS)の商業化であった。

CCS技術への取組みはW.ブッシュ政権下の 2003 年にまで遡る。同年、CCS 技術を採用した炭素

ゼロ排出石炭火力発電所の商業化を2020年までに達成することを目標として、Future Genが開始さ

れた。10年間で総額 10億ドルという予算を確保したFuture Genプロジェクトは、その最初の実証

事業としてイリノイ州に 275MWの発電所建設を計画した。石炭を燃料とし、発電に加え水素を製造

し、排出されるCO2は恒久的に地下に貯留する計画であった。建設費の74%をエネルギー省が支援し、

26%を民間企業のコンソーシアムが出資して、2009 年の着工、2012 年の本格稼働を予定したが、エ

ネルギー省による環境影響評価が長引き、2008年1月にこの計画は撤回され、Future Genプロジェ

クトへの連邦政府の出資自体も打ち切りが決定された。

オバマ政権は、2009年の就任時点でCCS技術の商業化支援を公約に掲げていた。CO2排出量取引

制度を開始し、政府が得る排出枠オークション収入の中からCCS支援の予算を捻出する構想であった

が、排出量取引制度創設に向けた議会での法案可決には時間を要するため、2008年の金融危機からの

景気回復のために2009年1月に議会で可決された大型景気刺激策「米国再生・再投資法」の中から予

算が捻出された。エネルギー省がFuture Gen2.0と名付けたCCS商業化支援プログラムを発表した

のが2010年8月であり、予算規模は15億ドルであった。イリノイ州の閉鎖石炭火力発電所を改修し

石炭酸素燃焼(oxy-combustion)技術の実証試験を行うと共に排出されるCO2をパイプラインで輸送

し地下貯留する計画であった。2011年 2月に貯留場所が選定され、2014年 9月に環境影響評価への

承認を得たが、この間に自治体による訴訟を経験している。しかし、米国再生・再投資法に基づく予算

は 2015年9月に執行の期限を迎えたため、それを目前にした 2015年2月にエネルギー省はFuture

Gen2.0の打切りを決定した。

このように、W.ブッシュおよびオバマ政権のいずれも大規模な予算を確保してCCS商業化支援に乗

り出しながら、プログラム打切りという結果に終わった背景には、Future GenないしFuture Gen2.0

の支援対象に選定された実証プラントがいずれも工期長期化、当初見積りからの費用増に直面したこ

とが影響した。工期長期化の一因となったのが地元住民の反対であり、そこには、CO2 パイプライン

の沿線住民のパイプライン事故への不安、貯留場所に選ばれた地域での、将来CO2が漏れ出たり地盤

沈下、地震が誘発される等の不安と、こうした事態が生じた場合の賠償責任の所在が曖昧であるなど

63 The White House, Legislative Outline for Rebuilding Infrastructure in America, January 12, 2018.

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法制度面の整備が追い付いていないことも、原因であった。

トランプ政権ではPerry長官がCCS推進に積極的であり、パリ協定離脱を巡って欧州等に対し石炭

利用技術開発の国際協力を提案したことも報じられている。しかし2018年2月に発表されたトランプ

政権の2019会計年度(2018年10月1日-2019年9月30日)予算教書には石炭利用技術への言及は

無かった。現地関係者は、CCSは長期的な将来の技術であり、かつ米国内で石炭火力発電所の新規建

設が見込めないため、米国内で適用可能な技術として、既存発電所の効率改善に向けた燃焼システム

や素材等の研究開発を重視している、とコメントしている64。

(4) 主要産炭州の政策

以下では、主要な産炭州のうちペンシルバニア(PA)州及びウェストバージニア(W.Va)州のエネ

ルギー・環境・石炭関連政策の動向について概観する。

ペンシルバニア州のTom Wolf現知事(2015年1月~)は民主党選出だが、1970年代以降、4年な

いし 8 年ごとに民主党と共和党が交互に知事選挙に勝ってきた。有権者の 47.8%が民主党、38.2%が

共和党を支持しており、大統領選挙の帰趨を左右する激戦州の1つである。1988年以降の大統領選挙

において、ペンシルバニア州では民主党候補が勝利してきたが、2016年にはトランプ候補が勝利した。

この要因として、鉄鋼や石炭など製造業・鉱業が衰退し、現状に不満を持つ労働者層がトランプ候補を

支持した、とされたが、フィラデルフィア等の都市を擁する一方で州域の大半が農村地帯であり、この

経済格差による影響も大きい。

ウェストバージニアのJim Justice現知事(2017年1月~)は民主党から出馬して2016年選挙で

勝利した後、共和党に鞍替えした。ウェストバージニアでは2000年以降全ての知事選挙で民主党が勝

利している。大統領選挙では一貫して共和党が勝利してきた。2016年選挙でのトランプ候補の勝因と

して、オバマ前政権の石炭敵視政策と、ヒラリー・クリントン候補が石炭からクリーンエネルギーへの

産業転換を公約に掲げたことが指摘されるが、ウェストバージニアは有権者の中にキリスト教原理主

義者が多いなど保守的地域であり、石炭政策の影響は限定的である点に留意する必要がある。

いずれの州でも、従来は石炭産業が基幹産業の 1 つであったが、長期的にみて石炭需要の衰退傾向

は顕らかであるとして、新産業育成に取り組んでいる。

① Pennsylvania州

エネルギー・環境政策

ペンシルバニア州はアパラチア地域に位置し、北東部地域で高品質の強粘結炭を含む石炭を産出す

る。図 1.2.9に示すとおり、同州の石炭生産量は 2000年代以降は減少傾向にあるものの、他地域と比

較すると減少ペースは緩やかである。この間、州内の石炭産業雇用者数は約 8,400 人から 5,200人と

年率 3%のペースで減少してきたが、特に 2012~2016 年にかけては年率 12.6%の急激な雇用減に直

面した。

他方で、ペンシルバニア州はシェールガス生産が活発に行われているMarcellus鉱床を擁し、2008

年以降は天然ガス生産量が急拡大してきた。2016年時点で、ペンシルバニア州は米国の天然ガス生産

量の18.7%(第2位)、石炭生産量の6.3%(第 3位)を占めており、加えて原子力発電においても全

64 米国現地ヒアリング調査(2017年11月13日~17日)

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米第 2 位(21.7%)となっている。州内の電源構成は原子力が 43.5%、天然ガス火力が 27.6%、石炭

火力が23.6%、再生可能が4.7%となっている。

州議会は2008年にペンシルバニア気候変動法(The Pennsylvania Climate Change Act)を制定

し、これに基づき州環境保護省(the Department of Environmental Protection:DEP)が2009年12

月に気候変動行動計画を策定した。2016年8月には第二次行動計画が発表された65。発表に際して環

境保護長官は、州の電源構成の石炭から天然ガスへのシフトを主要因として 2007-2014 年にかけて

GHG排出量が20%(2,700万トン)減少したが、燃料転換による排出削減は持続可能な対策ではなく、

今後は風力や太陽光/熱等の再生可能エネルギーの利用拡大を図るとともに一層の省エネ推進が必要、

と述べた 。また、これに先立ち連邦EPAにより公布されたClean Power Planでペンシルバニア州

は2035年までに発電所由来CO2の2012年比35%削減を求められており、DEPはこの実施に向けた

計画を策定中、とも述べている。

なお、再生可能電力について、ペンシルバニア州では2004年に、2021年時点で電力供給に占める

代替電源比率18%の目標(RPS)を導入した。適格エネルギーには再生可能電力(Tier 1:8%)のほ

か、石炭廃棄物や炭鉱メタン、IGCC、発電所の廃熱利用等を含むTier 2(10%)が含まれる。

DEP の第二期行動計画では、上記RPS目標の達成とそれを円滑化するためのエネルギー貯蔵等の

技術の普及促進、建築基準や低所得世帯向け断熱、機器買換え支援などを通じた一層の省エネ推進、

天然ガス開発・輸送インフラと利用拡大の推進に加え、炭鉱メタンの回収強化(回収率目標 10%)が挙

げられている。

注)Pa:ペンシルバニア州、W.Va:ウェストバージニア州

出所)EIAより作成

図 1.2.9 ペンシルバニア、ウェストバージニア州の石炭及び天然ガス生産量の推移

石炭政策

ペンシルバニア州における石炭の探査・採掘は、州環境保護省(DEP)の Office of Active and

Abandoned Mining Operations(AAMO)が所管している。AAMOの職掌は、新規炭鉱開発に関す

る計画策定、資源調査、入札実施や操業基準(Bureau of Mining Programs)、リース済み鉱区におけ

る掘削許可と監督(Bureau of District Mining Operations)、操業および炭鉱労働者の健康・安全(Burau

65 Pennsylvania Department of Environmental Protection, 2015 Climate Change Action Plan Update, August 2016.

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of Mine Safety)、廃鉱における火災や水質汚染等の問題への対処(Bureau of Abandoned Mine

Reclamation)にわたっている。

事業者は炭鉱開発・生産について、河川清浄法(Clean Streams Law)、露天掘り炭鉱保全・回復法

(Surface Mining Conservation and Reclamation Act)、瀝青炭鉱沈降・土地保全法(Bituminous

Mine Subsidence and Land Conservation Act)、石炭屑廃棄管理法(Coal Refuse Disposal Control

Act)などの規定に従い、掘削計画を作成しDEPの承認を得る必要がある。この過程で、事業者は産

業施設環境評価法(Industrial Sites Environmental Assessment Act)に基づき環境影響評価を行い、

DEPの承認を受けることが義務づけられている。

② West Virginia州

エネルギー・環境政策

ウェストバージニアはアパラチア地域に位置し、南部地域で石炭を産出する。図に示すとおり、同州

の石炭生産量は 2008 年以降は減少傾向が顕著であり、2008~16 年の減少ペースは年率 8.2%となっ

ている。州内の石炭産業雇用者数は 2011 年をピークに減少に転じ、約 23,300 人から 2016 年には

11,600人と年率13%のペースで減少した。

他方で、州北部はシェールガス生産が活発に行われているMarcellus鉱床を擁し、2008年以降は天

然ガス生産量が急拡大してきた。但し、天然ガスパイプライン網が未発達なこともあり同州の天然ガス

生産量の伸びは緩やかである。2016年時点で、ウェストバージニアは米国の石炭生産量の11.0%(第

2 位)、天然ガス生産量の 4.8%(第 8 位)を占めている。州内の電源構成は石炭火力が 91.3%、天然

ガス火力が2.5%、再生可能が5.9%となっている。

ウェストバージニアは石炭産業に打撃を与える環境政策に対し否定的であり、連邦EPAによるClean

Power Planをはじめとするオバマ政権下の環境規制について、撤回を求めて訴訟を提起している。シ

ェール開発に際して実施される水圧破砕法についても、州独自に安全基準や水質への影響を防ぐため

の操業手順を策定しており、連邦 EPA による追加的規制は不要との立場から、訴訟を提起している。

他方で州内のエネルギー供給分散化の観点から風力、太陽光/熱、水力などの再生可能電力開発に対し

補助金などの支援策を実施している。ウェストバージニアは従来、2025年時点で電力供給に占める再

生可能/代替電力比率を25%とするRPS制度を実施していたが、2015年2月に全米で初めて、州議会

がRPS制度を廃止する州法を可決、知事の署名を得て正式に廃止された。

石炭政策

ウェストバージニアでは、商務省の地質・経済調査所(West Virginia Geological and Economic Survey)

が炭化水素資源の探査を行っている。環境保護省(Department of Environmental Protection)のう

ちDivision of Mining and Reclamation(鉱業・再生利用局)が炭鉱の掘削許可を担うほか、大気・水

質・生態系保護その他の環境・安全基準に沿った操業が行われるよう監督を行っている。また商務省の

鉱夫健康・安全・訓練室(Office of Miners' Health, Safety and Training)が、炭鉱の操業状況に関す

る査察を行うほか、機器の電化・自動化に向けた研修を含む労働者の訓練を担っている。

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なお、炭鉱の安全対策強化と効率改善を目的とした訓練とは別に、既述の産業の多様化、労働者の

移行支援の一環として、石炭会社が炭鉱労働者に対して新産業で必要なスキルの研修を提供している

ことが報じられ66、こうした活動は、現地調査でも確認されている67。

66 Aol.com., “West Virginia company trains coal miners to install solar panels," October 27, 2017, PRI.org., "After

generations working in coal, young West Virginians are finding jobs in solar", September 12, 2017. 67 米国現地ヒアリング調査(2017年11月13日~17日)

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第 2章 豪州及び米国のエネルギー・石炭需給動向

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2. 豪州及び米国のエネルギー・石炭需給動向

2.1 豪州68

2.1.1 一次エネルギー生産量の推移

豪州の 2015年の一次エネルギー生産量は 17,321PJであった。2000年以降の豪州の一次エネルギ

ー生産量は増加しており、特に2010年以降は、石炭及び天然ガスの生産拡大を背景に増加した。一次

エネルギー生産量全体に占める石炭の割合は、2000年時点で70.4%、2015年時点で73.9%に拡大し

ている。石油のシェア低下を背景に、天然ガスのシェアは 2000年時点で12.8%、2015年時点で19.6%

に拡大している。再生可能エネルギーは2%前後で推移している。

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

図 2.1.1 豪州の一次エネルギー生産量の推移

表 2.1.1 豪州の一次エネルギー生産量の推移

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

2.1.2 一次エネルギー消費量の推移

豪州の2015年の一次エネルギー消費量は6,066PJであった。2000年以降、一次エネルギー消費量

は増加しているが、石炭の一次エネルギー消費量は2008年(2,351PJ)をピークに2013年(1,850PJ)

まで減少が続き、近年はやや増加している。一次エネルギー消費量全体に占める石炭の割合は2000年

時点で 41.5%であったが、2015 年時点では石炭 32.2%、石油 37.0%、ガス 24.8%等となっている。

68 豪州の統計は年度(7月1日~6月30日)ベースとなっている(本章では、例えば2015年として示している値は、

豪州連邦政府統計の2015年7月1日~2016年6月30日までの値となっている)。

0

5,000

10,000

15,000

20,000

2000 2005 2010 2015

再生可能

ガス

石油

石炭

(PJ)

(PJ)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015

石炭 7,549 8,886 9,981 10,630 11,546 12,432 12,966 12,792

石油 1,540 984 1,044 989 879 845 794 771

ガス 1,375 1,701 2,288 2,176 2,489 2,575 2,673 3,397

再生可能 266 284 294 293 334 345 347 362

合計 10,729 11,855 13,606 14,089 15,249 16,197 16,781 17,321

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出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

図 2.1.2 豪州の一次エネルギー消費量の推移

表 2.1.2 豪州の一次エネルギー消費量の推移

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

2.1.3 石炭生産量の推移

豪州の2015年の石炭生産量は500.3Mtであった。2014年の512.4Mtからは減少となったものの、

2000年以降、増加傾向が続いている。炭種別には(豪州の統計上、炭種別内訳はBlack CoalとBrown

Coal)、Black Coalの生産が大半を占めており、2015年のシェアはBlack Coalが87.7%となってい

る。

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

図 2.1.3 豪州の炭種別石炭生産量の推移

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

2000 2005 2010 2015

再生可能

ガス

石油

石炭

(PJ)

(PJ)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015

石炭 2,082 2,293 2,124 2,075 1,934 1,850 1,908 1,956

石油 1,702 1,970 2,205 2,237 2,271 2,252 2,237 2,243

ガス 960 1,001 1,284 1,343 1,383 1,415 1,435 1,505

再生可能 269 285 294 293 334 345 348 362

合計 5,012 5,547 5,906 5,948 5,923 5,862 5,927 6,066

0

200

400

600

2000 2005 2010 2015

Black Coal Brown Coal

(Mt)

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表 2.1.3 豪州の炭種別石炭生産量の推移

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

州別の石炭生産量の推移を見ると、QLD 州及び NSW 州において石炭生産量は増加しているが、

2015年は前年と比べやや減少している。石炭生産量(2015年)が最も多いのはQLD州(240.6Mt)、

次いで多いのはNSW州(191.3Mt)、ヴィクトリア州(60.6Mt)等となっている。

表 2.1.4 州別石炭生産量の推移

出所)Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

出所)Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

図 2.1.4 州別石炭生産量の推移

(Mt)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015

Black Coal 258.2 303.4 344.4 362.7 396.1 428.3 447.1 438.9

Brown Coal 68.1 71.2 70.4 72.0 62.3 60.5 65.4 61.5

合計 326.3 374.6 414.8 434.7 458.4 488.8 512.4 500.3

kt

州/年 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

Queensland 180,518 190,450 208,946 179,834 188,247 202,688 224,886 244,246 240,625

New South Wales 134,978 137,798 147,299 156,951 167,171 185,553 196,635 196,413 191,331

Victoria 66,033 68,252 68,751 66,733 69,124 59,854 58,606 62,895 60,639

Western Australia 6,231 6,979 6,712 7,234 6,986 7,494 6,370 6,052 6,553

South Australia 3,874 3,619 3,796 3,670 2,867 2,481 1,943 2,466 835

Tasmania 437 384 372 381 304 360 360 360 360

the Northern Territory 0 0 0 0 0 0 0 0 0

AUS Total 392,071 407,482 435,876 414,804 434,700 458,430 488,800 512,432 500,342

0.0

100.0

200.0

300.0

400.0

500.0

600.0

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

the Northern Territory

Tasmania

South Australia

Western Australia

Victoria

New South Wales

Queensland

(Mt)

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各州の石炭生産量(2015年)を炭種別に見ると、最大の産炭州であるQLD州の石炭生産の全量が

Black Coalであり、NSW州も同様にBlack Coalのみを産出している。他方ヴィクトリア州では全量

がBrown Coalとなっている。

表 2.1.5 州別・炭種別石炭生産量(2015年)

出所)Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

なお、IEA統計によれば、豪州における石炭生産量の炭種別内訳は、一般炭49.8%、原料炭37.6%、

褐炭12.6%となっている。

注) 2016年の数値は暫定値。

出所) IEA, Coal Information 2017より作成

図 2.1.5 豪州の炭種別石炭生産量の推移(IEA)

表 2.1.6 豪州の炭種別石炭生産量の推移(IEA)

注) 2016年の数値は暫定値。

出所) IEA, Coal Information 2017より作成

(kt)

2015-16 Black Coal Brown Coal Total

Queensland 240,625 240,625

New South Wales 191,331 191,331

Victoria 60,639 60,639

Western Australia 6,553 6,553

South Australia 835 835

Tasmania 360 360

the Northern Territory 0

AUS 438,869 61,473 500,343

0

100

200

300

400

500

600

2000 2005 2010 2015

褐炭 一般炭 原料炭

(Mt)

(Mt)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

原料炭 103.8 128.4 162.9 146.7 146.9 159.5 180.3 191.1 189.3

一般炭 135.7 171.7 200.4 197.7 215.8 236.6 248.0 256.0 250.4

褐炭 67.3 70.5 72.5 70.4 72.0 62.3 60.5 65.4 63.6

合計 306.7 370.6 435.9 414.8 434.7 458.4 488.8 512.4 503.3

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2.1.4 石炭消費量の推移

豪州国内の石炭消費量は2008年(143.3Mt)をピークに2013年(116.1Mt)まで減少が続き、近

年はやや増加している。2015年の石炭消費量は121.3Mtであった。部門別には、電力部門が大半を占

め、2015年のシェアは89.7%となっている。炭種別内訳では、Black Coalが48.2%、Brown Coalが

51.8%と、褐炭発電も多く利用されている。

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

図 2.1.6 豪州の炭種別石炭消費量の推移

表 2.1.7 豪州の炭種別石炭消費量の推移

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

図 2.1.7 豪州の分野別石炭消費量の推移

0

50

100

150

200

2000 2005 2010 2015

Black Coal Brown Coal

(Mt)

(Mt)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015

Black Coal 59.8 69.3 61.5 59.2 57.7 54.7 55.1 58.4

Brown Coal 71.1 70.5 70.8 72.1 63.3 61.5 65.4 62.9

合計 130.9 139.8 132.3 131.3 120.9 116.1 120.5 121.3

0

1,000

2,000

3,000

2000 2005 2010 2015

(PJ)

電力 鉄鋼 その他

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表 2.1.8 豪州の分野別石炭消費量の推移

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

2015年の石炭消費量を州別に見ると、消費量が最も多いのはヴィクトリア州だが、全量がBrown

Coalである。QLD州及びNSW州では、過去10年間では減少傾向となっている。

表 2.1.9 州別石炭消費量の推移

出所)Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

出所)Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

図 2.1.8 州別石炭消費量の推移

(PJ)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015

電力 1,839 2,032 1,877 1,864 1,724 1,646 1,714 1,754

鉄鋼 107 130 137 105 98 92 90 90

その他 135 130 110 106 112 113 104 112

合計 2,082 2,293 2,124 2,075 1,934 1,850 1,908 1,956

kt

州/年 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

Queensland 27,004 29,984 26,088 23,690 22,948 22,661 21,182 23,074 24,604

New South Wales 35,806 33,446 32,410 30,848 29,663 28,093 26,297 25,225 26,602

Victoria 65,068 67,442 66,913 66,178 68,569 60,435 58,833 62,223 59,844

Western Australia 6,014 6,748 6,369 6,626 6,344 6,551 6,865 6,439 6,893

South Australia 5,305 5,269 5,164 4,644 3,544 2,828 2,632 3,164 3,053

Tasmania 353 424 384 285 271 374 340 354 327

the Northern Territory 0 0 0 0 0 0 0 0 0

AUS Total 139,551 143,313 137,328 132,271 131,339 120,941 116,148 120,480 121,323

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

140.0

160.0

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015

the Northern Territory

Tasmania

South Australia

Western Australia

Victoria

New South Wales

Queensland

(Mt)

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- 45 -

表 2.1.10 州別・炭種別石炭消費量(2015年)

出所)Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

なお、IEA統計によれば、石炭消費量の炭種別内訳は、一%般炭44.0%、原料炭3.0%、褐炭53.0%

となっている。

注) 2016年の数値は暫定値。

出所) IEA, Coal Information 2017, August 2017より作成

図 2.1.9 豪州の炭種別石炭生産量の推移(IEA)

表 2.1.11 豪州の炭種別石炭生産量の推移(IEA)

注) 2016年の数値は暫定値。

出所) IEA, Coal Information 2017, August 2017より作成

2.1.5 石炭輸出量の推移

豪州の石炭輸出量は、2010年に前年比減少となったものの、年々増加し2014年には392.2Mtとな

った。2015年にはやや減少し389.3Mtであった。炭種別には、一般炭51.7%、原料炭48.3%となっ

ている(2015年)。

kt

2015-16 Black Coal Brown Coal Total

Victoria 59,844 59,844

New South Wales 26,602 26,602

Queensland 24,604 24,604

Western Australia 6,893 6,893

South Australia 3,053 3,053

Tasmania 327 327

the Northern Territory 0

AUS 58,426 62,897 121,323

0

50

100

150

200

2000 2005 2010 2015

褐炭 一般炭 原料炭

(Mt)

(Mt)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

原料炭 4.8 4.5 5.1 5.2 4.4 4.3 3.9 3.9 3.6

一般炭 56.0 64.6 56.4 52.9 51.6 50.1 46.9 47.9 52.8

褐炭 67.3 70.5 72.5 70.4 72.0 62.3 60.5 65.4 63.6

合計 128.1 139.6 134.0 128.5 128.0 116.7 111.4 117.2 119.9

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- 46 -

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

図 2.1.10 豪州の炭種別石炭輸出量の推移

表 2.1.12 豪州の炭種別石炭輸出量の推移

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

IEA統計によれば、世界の一般炭輸出量(2016年)において豪州(201Mt)はインドネシア(369Mt)

に次ぎ世界第2位の輸出国であり、一般炭輸出先は日本40.8%、韓国19.5%、中国15.0%等となって

いる。

出所) IEA, Coal Information 2017より作成

図 2.1.11 豪州の一般炭の輸出先国別推移

0

100

200

300

400

2000 2005 2010 2015

原料炭 一般炭

(Mt)

(Mt)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015

原料炭 105.5 120.5 140.5 142.4 154.2 180.5 187.7 188.0

一般炭 88.0 110.8 143.3 158.4 181.7 194.6 204.5 201.3

合計 193.5 231.3 283.8 300.8 335.9 375.0 392.2 389.3

0

50

100

150

200

250

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

日本 韓国 中国 台湾 マレーシア インド

メキシコ タイ チリ ベトナム フィリピン その他

(Mt)

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- 47 -

2.1.6 電源構成及び発電用燃料の消費量推移

豪州の2015年の発電電力量は257TWhであった。電源別に見ると、石炭火力からの発電電力量が

大きく減少する一方で、ガス火力からの発電電力量が大きく増加した。2015年時点の電源別シェアは、

石炭63.4%、ガス19.6%と、これらで全体の83%を占める。原子力発電は導入されておらず、水力発

電も6.0%と低い(2015年)。再生可能エネルギー電力は、風力を中心に増加しており、全体の 4.7%

を占めるに至っている。同じく太陽光発電は2.7%を占めている。

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

図 2.1.12 豪州のエネルギー源別電源構成の推移

表 2.1.13 豪州のエネルギー源別電源構成の推移

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

0

100

200

300

2000 2005 2010 2015

その他

その他再エネ

風力

太陽光

水力

原子力

ガス

石油

石炭

(TWh)

(TWh)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015

石炭 186 185 172 172 159 152 159 163

石油 2 3 3 3 4 5 7 6

ガス 17 23 49 49 51 54 53 51

原子力 0 0 0 0 0 0 0 0

水力 17 16 17 14 18 18 13 15

太陽光 0 0 2 3 4 4 6 7

風力 0 2 6 7 8 10 11 12

その他再エネ 1 4 2 3 3 3 4 4

その他 0 1 3 1 2 0 0 0

合計 224 233 254 251 250 248 252 257

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- 48 -

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

図 2.1.13 豪州の発電用燃料消費量の推移

表 2.1.14 豪州の発電用燃料消費量の推移

注) 原典に基づき、電力は水力、風力、太陽光。

出所) Department of the Environment and Energy, Australian Energy Statistics, August 2017よ

り作成

2.1.7 石炭火力発電設備の状況

以下にS&P Global Market IntelligenceによるWorld Electric Power Plants Data Base(以下、

WEPP)に基づき、豪州の石炭火力発電設備状況について整理する。

(1) 稼動中設備の設備規模別整理

豪州で稼動中の石炭火力発電設備は、24,199MW となっている。容量規模別に整理すると、500-

1,000MWの設備が14,231MWと最も多く、全体の58.8%を占める(容量ベース、以下同じ)。

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

1990 1995 2000 2005 2010 2015

再生可能

電力

ガス

石油

石炭

(PJ)

(PJ)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015

石炭 1,842 2,033 1,879 1,866 1,725 1,647 1,714 1,754

石油 19 39 34 37 37 49 61 55

ガス 242 239 469 515 517 531 553 572

電力 103 110 109 107 99 96 97 101

再生可能 7 12 17 17 25 28 30 32

合計 2,212 2,432 2,507 2,541 2,404 2,351 2,456 2,515

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- 49 -

注)「石炭」は褐炭との混焼を含む。「その他」は一般炭・褐炭の区別不明。

出所)World Electric Power Plants Data Base (2017年11月), S&P Global Market Intelligenceより

作成

図 2.1.14 豪州における稼動中の石炭火力発電設備(容量規模別)

(2) 稼動中設備の運転開始年別整理

稼動中設備を運転開始年代別に整理すると、1980 年代の設備が 10,579MW と最も多く、全体の

43.7%を占める。1980年より前に運転を開始した設備容量が合計5,807MWにのぼり、全体の24.0%

が運転開始から短くとも40年近くを経過した設備となっている。

注)「石炭」は褐炭との混焼を含む。「その他」は一般炭・褐炭の区別不明。

出所)World Electric Power Plants Data Base (2017年11月), S&P Global Market Intelligenceより

作成

図 2.1.15 豪州における稼動中の石炭火力発電設備(運転開始年代別)

(3) 稼動中設備の技術別整理

稼動中設備を技術別に整理すると、亜臨界(Sub-Critical、以下Sub-C)が87.6%、超臨界(Super

Critical、以下SC)が12.4%となっており、超々臨界(Ultra Super Critical、以下USC)は導入さ

れていない。

(MW)

112.5MW

未満

112.5-

500

MW未満

500-

1,000

MW未満

1,000

MW以上合 計

石炭 145 8,001 10,990 0 19,136

褐炭 0 1,480 3,241 0 4,721

その他 342 0 0 0 342

合計 487 9,481 14,231 0 24,199

487

9,481

14,231

0 0

10,000

20,000

30,000

112.5MW

未満

112.5-500

MW未満

500-1,000

MW未満

1,000

MW以上

石炭 褐炭 その他

(MW)

(MW)

1969

年以前

1970

年代

1980

年代

1990

年代

2000

年代

2010

年以降不明 合 計

石炭 120 4,865 7,480 3,210 3,461 0 0 19,136

褐炭 0 720 2,975 1,026 0 0 0 4,721

その他 65 38 124 0 0 114 2 342

合計 185 5,622 10,579 4,236 3,461 114 2 24,199

185

5,622

10,579

4,236 3,461

114 20

10,000

20,000

1969

年以前

1970

年代

1980

年代

1990

年代

2000

年代

2010

年以降

不明

石炭 褐炭 その他

(MW)

不明

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注)「石炭」は褐炭との混焼を含む。「その他」は一般炭・褐炭の区別不明。

出所)World Electric Power Plants Data Base (2017年11月), S&P Global Market Intelligenceより

作成

図 2.1.16 豪州における稼動中の石炭火力発電設備容量(技術別)

2.1.8 石炭価格の推移

年平均石炭輸出価格は、需要の変動と自然災害等による一時的な供給不足から2000年代後半から大

きく変動した。しかし2010年に入り石炭市場が供給過剰になったことから、石炭価格は一般炭・原料

炭ともに2015年まで下落傾向で推移した。2016年に入り中国の国内石炭事情により輸入量が増加に

転じたことから国際価格は反転し、豪州炭の石炭輸出価格も上昇した。

出所) Department of Industry, Innovation and Science, Office of the Chief Economist, Resources

and Energy Quarterly, September 2017より作成

図 2.1.17 豪州の石炭輸出価格の動向

2.2 米国

2.2.1 一次エネルギー生産量(国内生産)の推移

米国の 2016年の国内の一次エネルギー生産量(国内生産)は 84,201兆Btuであった。2000年以

降の米国の一次エネルギー生産量は、2010年頃までは横ばいで推移してきたが、石油・天然ガスの生

産拡大を背景に、2012年から2015年にかけて増大した。他方、石炭の生産量は急激に低下し、一次

エネルギー生産量全体に占める割合は、2000年時点の31.9%に対し、2016年には17.3%に縮小して

いる。

(MW)

Sub-C SC USC 合 計

石炭 16,141 2,995 0 19,136

褐炭 4,721 0 0 4,721

その他 342 0 0 342

合計 21,204 2,995 0 24,199

21,204

2,995 0

0

10,000

20,000

30,000

Sub-C SC USC

石炭 褐炭 その他

(MW)

62.51 75.95 69.09

58.26

86.12

141.13

113.96 117.14

293.94

155.95

212.12 215.60

145.50 128.86

116.24 105.27

198.46

47.79 57.48

44.51 40.95 59.45 65.06 60.54

72.68

131.13

88.08 97.60

108.15 89.04 85.85 78.51 73.28

93.73

0

50

100

150

200

250

300

350

2000 2005 2010 2015

(A$/t)

原料炭

一般炭

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- 51 -

出所) Energy Information Administration(以下、EIA)より作成

図 2.2.1 米国の一次エネルギー生産量の推移

表 2.2.1 米国の一次エネルギー生産量の推移

出所) EIAより作成

2.2.2 一次エネルギー消費量の推移

米国の2016年の一次エネルギー消費量は97,496兆Btuであった。近年は石炭消費量が減少してお

り、一次エネルギー消費量全体に占める割合は、2000年の22.8%に対し、2016年には14.6%に縮小

している。

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

2000 2005 2010 2015

その他再エネ

風力

太陽光

水力

原子力

ガス

石油

石炭

(Trillion BTU)

(Trillion BTU)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

石炭 22,735 23,185 22,038 22,221 20,677 20,001 20,286 17,946 14,578

石油 14,969 13,308 14,372 14,916 17,037 19,338 22,627 24,200 23,318

ガス 19,662 18,556 21,806 23,406 24,610 24,859 26,718 28,067 27,649

原子力 7,862 8,161 8,434 8,269 8,062 8,244 8,338 8,337 8,422

水力 2,811 2,703 2,539 3,103 2,629 2,562 2,467 2,321 2,477

太陽光 63 58 90 111 157 225 337 426 587

風力 57 178 923 1,168 1,340 1,601 1,728 1,777 2,114

その他再エネ 3,170 3,282 4,524 4,714 4,617 4,861 5,076 4,962 5,055

合計 71,330 69,431 74,728 77,907 79,129 81,693 87,575 88,037 84,201

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- 52 -

出所)EIAより作成

図 2.2.2 米国の一次エネルギー消費量の推移

表 2.2.2 米国の一次エネルギー消費量の推移

出所)EIAより作成

2.2.3 石炭生産量の推移

米国の2016年の石炭生産量は728.4Mst (Million short ton)であった。炭種別シェアは瀝青炭45.0%、

亜瀝青炭 46.8%、褐炭 8.0%となっている。ピーク時(2008年、合計 1,172Mst)と比べ 6割程度に

まで減少している。

出所)EIAより作成

図 2.2.3 米国の炭種別石炭生産量の推移

0

20,000

40,000

60,000

80,000

100,000

2000 2005 2010 2015

その他再エネ

風力

太陽光

水力

原子力

ガス

石油

石炭

(Trillion BTU)

(Trillion BTU)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

石炭 22,580 22,797 20,834 19,658 17,378 18,039 17,998 15,549 14,227

石油 38,266 40,303 35,488 34,828 34,012 34,619 34,874 35,605 36,017

ガス 23,824 22,565 24,575 24,955 26,089 26,805 27,383 28,191 28,443

原子力 7,862 8,161 8,434 8,269 8,062 8,244 8,338 8,337 8,422

水力 2,811 2,703 2,539 3,103 2,629 2,562 2,467 2,321 2,477

太陽光 63 58 90 111 157 225 337 426 587

風力 57 178 923 1,168 1,340 1,601 1,728 1,777 2,114

その他再エネ 2,932 2,939 3,552 4,381 4,126 4,389 4,531 4,525 5,179

合計 98,817 100,188 97,444 96,847 94,412 97,164 98,323 97,363 97,496

0

500

1000

1500

2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016

瀝青炭 亜瀝青炭 褐炭 無煙炭

(Mst)

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- 53 -

表 2.2.3 米国の炭種別石炭生産量の推移

出所)EIAより作成

州別の石炭生産量の推移を表 2.2.4示す。石炭生産量が最も多いのはワイオミング州であり、2016

年の生産量は297.2Mstとなっている。次いで多いのはウェストバージニア州(79.8Mst)、ペンシル

バニア州(45.7Mst)で、これら上位3州で全体の58.0%を占める。テキサス州等一部で2016年の生

産量が前年比増となっている州もあるが、ほとんどの州で減少が続いており、特にワイオミング州の減

少が顕著となっている。

表 2.2.4 州別石炭生産量の推移

注)

・2016年は四半期ごとのデータを積み上げた値。

・表のUS totalと各州の合計値の差は refuse recovery。

出所)EIAより作成

(Mst)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

瀝青炭 574.3 571.2 489.5 529.9 485.4 471.2 480.0 403.7 323.4

亜瀝青炭 409.2 474.7 514.8 482.4 449.8 434.3 438.6 419.5 330.2

褐炭 85.6 83.9 78.2 81.1 78.9 77.2 79.5 71.6 73.1

無煙炭 4.6 1.7 1.8 2.2 2.4 2.1 1.9 2.1 1.7

合計 1073.6 1131.5 1084.4 1095.6 1016.5 984.8 1000.0 896.9 728.4

(Mst)

州/年 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

Wyoming 453.6 467.6 431.1 442.5 438.7 401.4 387.9 395.7 375.8 297.2

West Virginia 153.5 157.8 137.1 135.2 134.7 120.4 112.8 112.2 95.6 79.8

Pennsylvania 65.0 65.4 58.0 58.6 59.2 54.7 54.0 60.9 50.0 45.7

Illiois 32.4 32.9 33.7 33.2 37.8 48.5 52.1 58.0 56.1 43.4

Kentucky 115.3 120.3 107.3 105.0 108.8 90.9 80.4 77.3 61.4 42.9

Texas 41.9 39.0 35.1 41.0 45.9 44.2 42.9 43.7 35.9 39.0

Montana 43.4 44.8 39.5 44.7 42.0 36.7 42.2 44.6 41.9 32.3

Indiana 35.0 35.9 35.7 34.9 37.4 36.7 39.1 39.3 34.3 28.8

North Dakota 29.6 29.6 29.9 28.9 28.2 27.5 27.6 29.2 28.8 28.1

Utah 24.3 24.4 21.7 19.4 19.6 17.0 17.0 17.9 14.4 14.0

New Mexico 24.5 25.6 25.1 21.0 21.9 22.5 22.0 22.0 19.7 13.3

Virginia 25.3 24.7 21.0 22.4 22.5 19.0 16.6 15.1 13.9 12.9

Colorado 36.4 32.0 28.3 25.2 26.9 28.6 24.2 24.0 18.9 12.6

Ohio 22.6 26.3 27.5 26.7 28.2 26.3 25.1 22.3 17.0 12.6

Alabama 19.3 20.6 18.8 19.9 19.1 19.3 18.6 16.4 13.2 9.6

Arizona 8.0 8.0 7.5 7.8 8.1 7.5 7.6 8.1 6.8 5.4

Mississippi 3.5 2.8 3.4 4.0 2.7 3.0 3.6 3.7 3.1 2.9

Louisiana 3.1 3.8 3.7 3.9 3.9 4.0 2.8 2.6 3.4 2.8

Maryland 2.3 2.9 2.3 2.6 2.9 2.3 1.9 2.0 1.9 1.6

Alaska 1.3 1.5 1.9 2.2 2.1 2.1 1.6 1.5 1.2 0.9

Oklahoma 1.6 1.5 1.0 1.0 1.1 1.1 1.1 0.9 0.8 0.7

Tennessee 2.7 2.3 2.0 1.8 1.5 1.1 1.1 0.8 0.9 0.6

Missouri 0.2 0.2 0.5 0.5 0.5 0.4 0.4 0.4 0.1 0.2

Arkansas 0.1 0.1 0.0 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.0

Kansas 0.4 0.2 0.2 0.1 0.0 0.0 0.0 0.1 0.2 0.0

Washington - - - - - - - - - -

US Total 1,146.6 1,171.8 1,074.9 1,084.4 1,095.6 1,016.5 984.8 1,000.0 896.9 728.4

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- 54 -

注)2016年は四半期ごとのデータを積み上げた値。

出所)EIAより作成

図 2.2.4 州別石炭生産量の推移(上位10州)

各州の石炭生産量を炭種別に見ると、最大の産炭州であるワイオミング州の石炭生産のほとんどは

亜瀝青炭となっている。その他の州では瀝青炭の生産が主であり、ウェストバージニア州が最大の瀝青

炭の生産地となっている。テキサス州及びノース・ダコタ州では褐炭のみとなっている。無煙炭はペン

シルバニア州等で少量生産されている。

出所)EIAより作成

図 2.2.5 州別・炭種別石炭生産量(2016年)

0.0

200.0

400.0

600.0

800.0

1,000.0

1,200.0

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

Utah

North Dakota

Indiana

Montana

Texas

Kentucky

Illiois

Pennsylvania

West Virginia

Wyoming

(Mst)

0 50 100 150 200 250 300

Wyoming

West Virginia

Pennsylvania

Illiois

Kentucky

Texas

Montana

Indiana

North Dakota

Utah

New Mexico

Virginia

Colorado

Ohio

Alabama

Arizona

(Mst)

無煙炭 瀝青炭 亜瀝青炭 褐炭

(千トン)

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- 55 -

なお IEA統計によれば、米国の2016年の石炭生産量(速報値)は671.1Mt(メトリック・トン)、

炭種別シェアは一般炭82.5%、原料炭7.5%、褐炭9.9%となっている。

注) 2016年は速報値。

出所)IEA, Coal Information 2017より作成

図 2.2.6 米国の炭種別石炭生産量の推移(IEA)

表 2.2.5 米国の炭種別石炭生産量の推移(IEA)

注) 2016年は速報値。

出所)IEA, Coal Information 2017より作成

2.2.4 石炭消費量の推移

米国の 2016 年の石炭消費量は 729.5Mst であり、電力用 92.8%、コークス製造用 2.3%、その他

4.9%となっている。

出所)EIAより作成

図 2.2.7 米国の炭種別石炭消費量の推移

0

200

400

600

800

1,000

1,200

2000 2005 2010 2015

褐炭 一般炭 原料炭

(Mt)

(Mt)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

原料炭 54.3 46.4 68.6 81.7 81.3 77.9 72.7 57.5 50.6

一般炭 839.7 903.3 842.4 837.2 768.0 743.7 760.9 690.0 553.9

褐炭 77.6 76.2 71.0 73.6 71.6 70.1 72.1 64.9 66.5

合計 971.6 1,025.8 982.0 992.4 920.9 891.6 905.8 812.4 671.1

0

500

1,000

1,500

2001 2006 2011 2016

電力 コークスプラント その他

(Mst)

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- 56 -

表 2.2.6 米国の炭種別石炭消費量の推移

出所)EIAより作成

2016年の石炭消費を州別に見ると、消費量が最も多いのはテキサス州(86.8Mst)で全体の

11.9%を占める。次いでインディアナ州(42.2Mst)、イリノイ州(39.0Mst)、ミズーリ州

(36.6Mst)、オハイオ州(33.1Mst)が石炭消費上位5州となっており、これらで全体の32.6%を

占めている。

ワイオミング州、ウェストバージニア州、ペンシルバニア州といった産炭州の石炭消費は米国全体

の石炭消費に占める割合は3~4%台となっている。

表 2.2.7 州別石炭消費量の推移

出所)EIAより作成

(Mst)

2001 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

電力 964.4 1,037.5 975.1 932.5 823.6 858.0 851.6 738.4 677.3

コークスプラント 26.1 23.4 21.1 21.4 20.8 21.5 21.3 19.7 16.5

その他 69.6 64.7 52.4 49.0 44.9 45.0 44.8 40.0 35.7

合計 1,060.1 1,125.6 1,048.5 1,002.9 889.2 924.4 917.7 798.1 729.5

(Mst)

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

Texas 104.8 103.7 96.3 101.2 111.1 98.3 103.5 103.0 87.7 86.8

Indiana 72.7 66.7 59.5 61.7 56.3 48.9 54.3 55.3 45.2 42.2

Illiois 60.3 61.2 56.7 58.9 57.3 51.8 56.8 56.3 47.3 39.0

Missouri 45.4 44.9 43.6 45.6 47.0 43.4 45.6 44.2 39.5 36.6

Ohio 61.5 61.0 52.8 55.6 49.9 42.2 45.7 43.6 35.2 33.1

Kentucky 41.2 43.5 40.3 43.1 43.9 40.1 40.6 40.3 35.4 32.9

Pennsylvania 59.1 56.8 51.3 53.4 49.7 43.4 50.0 46.5 39.0 32.1

West Virginia 39.2 38.6 30.0 33.7 32.8 30.6 31.9 33.6 29.7 30.6

North Dakota 31.1 31.3 31.1 29.8 28.5 29.3 28.5 28.8 29.5 28.4

Wyoming 28.4 28.7 27.1 27.7 26.8 27.9 29.5 27.9 27.8 25.6

Alabama 38.9 37.6 28.9 32.4 29.4 24.3 27.2 27.1 23.6 19.8

Tennessee 30.4 26.7 19.6 20.7 20.0 17.5 19.2 20.3 17.1 17.8

Colorado 19.5 19.0 17.4 19.0 18.7 19.2 19.2 18.3 17.9 17.0

Arizona 21.9 23.3 21.2 23.6 23.7 21.9 23.5 23.1 20.0 16.8

Kansas 22.8 21.6 20.8 21.0 20.1 17.8 19.0 18.3 16.0 14.7

Arkansas 15.6 15.7 15.0 16.5 17.5 17.0 19.0 19.5 13.0 14.3

Oklahoma 21.3 22.7 21.6 20.0 21.9 18.9 19.4 19.4 16.2 12.8

Utah 17.5 17.8 16.6 16.0 15.6 14.7 16.2 15.7 15.2 12.5

New Mexico 16.0 15.4 16.5 14.5 15.5 14.5 14.3 12.0 12.0 10.6

Montana 11.9 12.0 10.2 12.0 9.8 9.3 9.8 10.5 10.6 9.6

Virginia 16.9 15.4 12.5 12.6 10.3 8.0 12.3 11.7 9.7 9.5

Louisiana 15.5 16.3 15.7 16.2 16.7 14.7 13.9 12.8 11.0 8.8

Maryland 13.1 11.1 9.8 10.8 8.9 7.9 7.5 8.1 6.7 6.5

Mississippi 9.9 9.5 8.4 8.6 6.2 5.2 6.0 6.7 4.9 4.5

Alaska 0.4 1.0 1.0 1.0 1.0 1.0 1.0 1.2 1.3 1.0

US Total 1,127.9 1,120.5 997.5 1,048.5 1,002.9 889.2 924.4 917.7 798.1 729.5

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- 57 -

出所)EIAより作成

図 2.2.8 州別石炭消費量の推移

出所)EIAより作成

図 2.2.9 州別・用途別石炭消費量(2016年)

なお IEA統計によれば、米国の2016年の石炭消費量(速報値)は665.2Mt(メトリック・トン)、

炭種別シェアは一般炭87.6%、原料炭2.2%、褐炭10.1%となっている。

0.0

20.0

40.0

60.0

80.0

100.0

120.0

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(Mst)

Texas

Indiana

Illiois

Missouri

Ohio

Kentucky

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0

Texas

Indiana

Illinois

Missouri

Ohio

Kentucky

Pennsylvania

West Virginia

North Dakota

Wyoming

Michigan

Wisconsin

Alabama

Georgia

Florida

Tennessee

Colorado

Iowa

Arizona

North Carolina

Minnesota

Kansas

Arkansas

Nebraska

Oklahoma

Utah

電力 民生・産業 コークスプラント その他産業

(Mst)

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- 58 -

注) 2016年は速報値。

出所)IEA, Coal Information 2017, August 2017より作成

図 2.2.10 米国の炭種別石炭消費量の推移(IEA)

表 2.2.8 米国の炭種別石炭消費量の推移(IEA)

注) 2016年の数値は暫定値。

出所)IEA, Coal Information 2017, August 2017より作成

2.2.5 石炭輸出入量の推移

米国の石炭輸出量は、2012 年には 125.7Mst にのぼったが、以後は減少が続いており、2016 年は

60.3Mstであった。主要輸出先である欧州市場の縮小と、2012年から2016年初旬まで続いた輸出向

け石炭価格の低迷が主たる要因と考えられる。米国の石炭輸出においては原料炭の占める割合が高く、

近年そのシェアが拡大し2016年は全体の67.9%となっている。

出所)EIAより作成

図 2.2.11 米国の炭種別石炭輸出量の推移

0

500

1,000

1,500

2000 2005 2010 2015

褐炭 一般炭 原料炭

(Mt)

(Mt)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

原料炭 26.0 20.9 19.2 19.4 19.0 19.4 20.1 17.7 14.9

一般炭 866.2 932.7 862.3 826.1 728.1 750.8 742.5 633.2 582.9

褐炭 74.3 76.1 68.3 74.8 72.1 69.7 76.5 67.9 67.4

合計 966.4 1,029.7 949.7 920.3 819.2 839.9 839.0 718.8 665.2

0

20

40

60

80

100

120

140

2000 2005 2010 2015

原料炭 一般炭

(Mst)

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- 59 -

表 2.2.9 米国の炭種別石炭輸出量の推移

出所)EIAより作成

IEA統計によれば、世界の一般炭輸出量(2016年)において米国(18Mt)のシェアは1.7%となっ

ている。欧州が主要な輸出先となっているが、近年はアジア向けの比率が上昇している。

出所) IEA, Coal Information 2017より作成

図 2.2.12 米国の一般炭の輸出先国別推移

米国の石炭輸入量は、2000年代後半にかけて増加し、2007年には36.3Mstとなった。その後は急

激に減少しており、2016年は9.8Mstであった。輸入においては一般炭が大半を占め、2016年は全体

の90.3%となっている。

出所)EIAより作成

図 2.2.13 米国の炭種別石炭輸入量の推移

(Mst)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

原料炭 32.8 28.7 56.1 69.5 69.9 65.7 60.1 46.0 40.9

一般炭 25.7 21.3 25.6 37.7 55.9 52.0 37.2 28.0 19.3

合計 58.5 49.9 81.7 107.3 125.7 117.7 97.3 74.0 60.3

0

10

20

30

40

50

60

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

オランダ インド メキシコ ドイツ 韓国 カナダ

日本 イタリア モロッコ 中国 スペイン その他

(Mt)

0

5

10

15

20

25

30

35

40

2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016

一般炭

原料炭

(Mst)

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- 60 -

表 2.2.10 米国の炭種別石炭輸入量の推移

出所)EIAより作成

2.2.6 電源構成及び発電用燃料の消費量推移

米国の2016年の発電電力量は4,079TWhで、ここ10年以上ほぼ横ばいで推移している。電源別に

見ると、石炭火力による発電電力量が大きく減少する一方で、ガス火力による発電電力量が大きく増

加している。風力を中心に、2010 年頃からは再生エネルギーの発電電力量も増加している。2016 年

の電源別発電電力量のシェアは、石炭30.4%、ガス34.2%、原子力19.7%、再生可能エネルギー8.4%、

水力6.4%となっている。

出所)EIAより作成

図 2.2.14 米国のエネルギー源別電源構成の推移

(Mst)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

原料炭 1.7 1.8 1.5 1.6 1.1 1.0 1.7 1.7 1.0

一般炭 10.8 28.7 17.8 11.5 8.0 7.9 9.7 9.6 8.9

合計 12.5 30.5 19.4 13.1 9.2 8.9 11.3 11.3 9.8

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

2001 2006 2011 2016

その他

その他再エネ

風力

太陽光

水力

原子力

ガス

石油

石炭

(TWh)

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- 61 -

表 2.2.11 米国のエネルギー源別電源構成の推移

出所)EIAより作成

出所)EIAより作成

図 2.2.15 米国の発電用燃料消費量の推移

表 2.2.12 米国の発電用燃料消費量の推移

出所)EIAより作成

(TWh)

2001 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

石炭 1,904 2,013 1,847 1,733 1,514 1,581 1,582 1,352 1,240

石油 125 122 37 30 23 27 30 28 24

ガス 648 774 999 1,025 1,238 1,138 1,139 1,347 1,393

原子力 769 782 807 790 769 789 797 797 805

水力 208 264 255 313 271 264 253 244 259

太陽光 1 1 1 2 4 9 18 25 37

風力 7 18 95 120 141 168 182 191 227

その他再エネ 63 69 71 72 73 77 80 80 80

その他 12 13 13 14 14 14 13 14 14

合計 3,737 4,055 4,125 4,100 4,048 4,066 4,094 4,078 4,079

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

2000 2005 2010 2015

その他

その他再エネ

風力

太陽光

水力

原子力

ガス

石油

石炭

(Trillion BTU)

(Trillion BTU)

2000 2005 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

石炭 20,220 20,737 19,133 18,035 15,821 16,451 16,427 14,138 12,995

石油 1,144 1,222 370 295 214 255 295 276 240

ガス 5,293 6,015 7,528 7,712 9,287 8,376 8,362 9,926 10,299

原子力 7,862 8,161 8,434 8,269 8,062 8,244 8,338 8,337 8,422

水力 2,768 2,670 2,521 3,085 2,606 2,529 2,454 2,308 2,465

太陽光 5 6 12 17 40 83 165 228 337

風力 57 178 923 1,167 1,339 1,600 1,726 1,776 2,112

その他再エネ 597 553 608 586 601 620 681 673 672

その他 115 85 89 127 161 197 182 227 242

合計 38,062 39,626 39,619 39,293 38,131 38,357 38,629 37,890 37,784

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- 62 -

2.2.7 石炭火力発電設備の状況

(1) 米国の発電設備容量

2016年の全発電設備容量は 1,177GWとなっている。天然ガスが 513GWと全体の 43.5%を占め、

次いで石炭は 290GWで24.7%を占める。再生可能エネルギーは 124GW、全体の 10.5%と、原子力

及び水力を上回るシェアとなっている。

石炭火力発電設備が最も多いのは(2016年)テキサス州であり、全体の8.6%を占め、上位7州で

全体の40.5%を占めている。

表 2.2.13 米国のエネルギー源別発電設備容量の推移

注)揚水発電は水力に含む。

出所)EIAより作成

出所)EIAより作成

図 2.2.16 米国の州別石炭火力発電設備容量の推移(上位10州)

(MW)

石炭 天然ガス 石油 原子力 水力

その他

再生可能 その他 合計

2007 336,040 449,389 62,394 105,764 97,999 32,676 3,529 1,087,791

2008 337,300 454,648 63,655 106,147 98,086 41,346 3,304 1,104,486

2009 338,723 459,803 63,254 106,618 98,448 51,580 3,260 1,121,686

2010 342,296 467,214 62,504 106,731 98,742 56,993 4,157 1,138,638

2011 343,757 477,387 57,841 107,001 99,010 64,253 3,899 1,153,149

2012 336,341 485,957 53,789 107,938 99,099 80,615 4,257 1,167,995

2013 329,815 488,169 49,794 104,424 100,182 86,460 5,180 1,164,022

2014 325,832 495,120 46,898 103,860 100,394 94,978 5,495 1,172,577

2015 304,790 503,937 42,321 103,860 100,530 107,063 4,864 1,167,365

2016 290,426 512,528 39,448 104,791 101,020 123,968 5,003 1,177,183

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(MW)

Texas

Indiana

Ohio

Illiois

Kentucky

Pennsylvania

West Virginia

Missouri

North Carolina

Florida

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表 2.2.14 米国の州別石炭発電設備容量・基数(2016年)

出所)EIAより作成

(2) 稼動中の石炭火力発電設備

米国で稼動中の石炭火力発電設備容量は285,275MWとなっており、規模別では、500-1,000MWが

最も多く全体の 63.0%を占める(容量ベース、以下同じ)。運転開始年代別では、1970年代が最も多

く全体の 40.3%を占め、それ以前のものと合わせると全体の 60.8%が短くとも運転開始後 38年経過

している。

州 設備容量(MW)ユニット(基)

州 設備容量(MW)ユニット(基)

Texas 24,862.4 40 Minnesota 4,655.7 26

Indiana 17,585.4 49 North Dakota 4,350.1 15

Ohio 16,273.8 42 Virginia 4,054.9 24

Illinois 15,662.7 49 Nebraska 3,982.9 17

Kentucky 15,601.7 43 New Mexico 3,741.2 7

Pennsylvania 14,155.0 35 Louisiana 3,170.2 5

West Virginia 13,510.9 21 Montana 2,487.8 9

Missouri 12,490.6 38 Mississippi 2,010.3 5

North Carolina 11,494.2 32 New York 1,849.7 15

Florida 11,090.3 25 Washington 1,459.8 2

Michigan 10,354.2 41 New Jersey 1,343.3 5

Georgia 10,109.7 16 Massachusetts 1,124.6 3

Tennessee 8,126.5 37 Nevada 1,103.8 4

Wisconsin 7,744.7 24 Oregon 642.2 1

Wyoming 7,254.1 28 New Hampshire 559.2 4

Alabama 6,671.2 13 South Dakota 450.0 1

Arizona 6,244.8 14 Delaware 445.5 1

Iowa 6,034.5 35 Connecticut 400.0 1

South Carolina 5,526.9 13 Hawaii 203.0 1

Colorado 5,524.7 23 Alaska 175.5 17

Arkansas 5,487.0 7 California 62.5 3

Oklahoma 5,371.0 14 Idaho 10.2 3

Maryland 5,126.8 16 Maine 0.0 0

Kansas 4,946.7 10 Rhode Island 0.0 0

Utah 4,894.1 10 Vermont 0.0 0

USA 290,426.3 844

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注)その他は、燃料種は石炭だが一般炭・褐炭の区別不明。

出所)EIAより作成

図 2.2.17 米国における稼動中の石炭火力発電設備(規模別)

注)その他は、燃料種は石炭だが一般炭・褐炭の区別不明。

出所)EIAより作成

図 2.2.18 米国における稼動中の石炭火力発電設備(運転開始年代別)

EIAには発電技術別の統計がないが、WEPP(282.4GW)によれば、全体の68.4%が亜臨界、31.3%

が超臨界であり、超々臨界は0.2%とごくわずかである。

注)「石炭」は褐炭との混焼を含む。「その他」は一般炭・褐炭の区別不明。

出所)World Electric Power Plants Data Base (2017年11月), S&P Global Market Intelligenceより

作成

図 2.2.19 米国における稼動中の石炭火力発電設備(技術別)

(MW)

112.5

MW

未満

112.5-

500

MW未満

500-

1,000

MW未満

1,000

MW以上合 計

瀝青炭 3,544 33,559 71,232 6,517 114,853

亜瀝青炭 3,715 32,220 67,007 3,608 106,550

褐炭 365 2,079 8,078 0 10,523

その他 1,322 12,342 33,336 6,350 53,350

合計 8,947 80,200 179,653 16,475 285,275

8,947

80,200

179,653

16,475

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

112.5

MW

未満

112.5-500

MW未満

500-1,000

MW未満

1,000

MW以上

瀝青炭 亜瀝青炭 褐炭 その他

(MW)

(MW)

1969年

以前

1970

年代

1980

年代

1990

年代

2000

年代

2010年

以降合 計

瀝青炭 27,838 52,140 22,913 5,955 1,018 4,988 114,853

亜瀝青炭 22,124 32,860 39,847 2,652 3,109 5,957 106,550

褐炭 197 2,984 4,367 349 0 2,625 10,523

その他 8,391 26,911 9,081 3,248 3,264 2,455 53,350

合計 58,550 114,895 76,209 12,204 7,392 16,025 285,275

58,550

114,895

76,209

12,204 7,39216,025

0

50,000

100,000

150,000

200,000

1969年

以前

1970

年代

1980

年代

1990

年代

2000

年代

2010年

以降

瀝青炭 亜瀝青炭 褐炭 その他

(MW)

(Unit:MW)

Sub-C SC USC 合計

石炭 182,906 86,176 665 269,748

褐炭 6,786 2,331 0 9,116

その他 3,539 0 0 3,539

合計 193,230 88,507 665 282,402

193,230

88,507

6650

50,000

100,000

150,000

Sub-C SC USC

石炭 褐炭 その他

(Unit:MW)

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2.2.8 石炭価格の推移

石炭輸出価格は、一般炭・原料炭共に2004年以降上昇傾向で推移したが、2011年をピークに下降

し続けている。一般炭は2011年の80.42米ドル/stから2016年の50.76米ドル/stと下落し、原料炭

は2011年の185.99米ドル/stから2016年には84.48米ドル/stまで大きく下落した。

一方、国内向け価格も2012年以降下落している。米国の国内向け一般炭は国際価格の影響をほぼ受

けないPowder River Basinでの生産量が多いため、一般炭価格(電力、その他産業向け)は2013年

以降穏やかに下落しているが、原料炭(コークス製造)は大きく下落している。

輸出価格

国内向け

出所)EIAより作成

図 2.2.20 米国の石炭価格の動向

38.99 41.63 45.41 44.55

63.63

81.5690.81

88.99

134.62

117.73

145.44

185.99

152.23

115.5

99.4989.31 84.48

29.67 31.88 34.5126.94

42.03 47.64 46.25 47.957.35

73.6365.54

80.42 76.1669.23 67.05

56.44 50.76

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014 2016

(US$/st)

原料炭

一般炭

117.78

143.40 153.30

189.14 190.55

157.12

131.83 118.79

102.08

63.34 64.87 64.39 71.28 70.34 69.19 68.20 65.44 60.50

40.64 43.31 44.27 46.34 45.79 45.04 45.66 42.59 40.70

0

50

100

150

200

250

2008 2010 2012 2014 2016

(US$/st)

コークス製造

その他産業

電力

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第 3章 金融機関及び機関投資家等の環境問題への対応動向

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3. 金融機関及び機関投資家等の環境問題への対応動向

本章では、金融機関及び機関投資家等の環境問題への対応動向として、化石燃料、特に石炭に関す

る投融資の引き揚げ(ダイベストメント)に関する動きについて、下記の順に整理する:

3-1. はじめに、気候変動と金融に関するこれまでの国際的な検討経緯について概観する。

3-2. ダイベストメントの前提となる取組として、気候変動関連リスクに関する情報開示の取組に

ついて整理する。

3-3. ダイベストメントの具体的な動向として、政府系金融機関や民間銀行による融資制限、機関

投資家による投資撤退等の動向について整理する。

3-4. こうした動きへの対応として、豪州・米国の産炭地域における投資環境の改善等の対応状況

について述べる。

3-5. 最後に、豪州・米国の石炭産業・企業におけるダイベストメントについての受け止め方や影

響について述べる。

3.1 気候変動と金融に関する国際的な検討経緯

3.1.1 概念的背景

投資・金融分野において、社会的責任や環境影響等を金融部門に反映させる取組は従来から見られ

る。例えば、国連環境計画(UNEP)は、1992年にUNEP金融イニシアティブ(UNEP FI)を立ち

上げ、世界各地の銀行、保険、証券会社等 200社(日本からは10社)にのぼる金融機関や政府、規制

機関等との協調により、環境・社会・ガバナンス(Environment, Social, Governance)に配慮した投

資(以下、ESG投資)やこれに対応する金融システムの構築を目指している69。こうした取組は、金

融部門を含む経済活動における倫理的価値を高めるとともに、ESGにまつわるリスクを把握し投融資

の安全性を高めたり、新たなビジネス機会として活用する動機もある。

そうした中でも近年は、気候変動リスクに配慮した投融資(気候ファイナンス)を促す動きが活発化

し、石炭・化石燃料に関連する分野でダイベストメントの動きが広がっている。その背景にある概念

は、UNFCCCの枠組みにおいて合意された「2℃目標」70をベースに、その達成に関する IEAの分析

である「450ppmシナリオ」(以下、450シナリオ)等に基づき、排出可能な炭素量の上限を想定する

カーボンバジェットの考え方である。例えばOECDの資料によれば、2℃目標を念頭においた場合、

GHGの累積排出量は3,010GtCO2に抑える必要があり、2011年時点の累積排出量(1,890GtCO2)を

踏まえれば、今後のカーボンバジェットは1,120GtCO2となる71。

こうした考え方に基づけば、石炭・化石燃料の消費(燃焼)を大幅に抑制する必要があり、気候変動

対策が強化されることに伴い化石燃料の需要が減退、同時に、再生可能エネルギーや電力貯蔵等の技

術が進展する結果、化石燃料資源の多くは利用不可能(“unburnable”)であるとの論調が展開される

ようになった(次項参照)。これによれば、化石燃料に対する新たな開発投資は不要となるだけでなく、

原油価格の下落もあいまって、化石燃料関連企業への株式投資のリターン低下や債務不履行のリスク

が高まり、鉱業事業者が化石燃料の確認埋蔵量(proven reserves)に基づき算定している資産価値は、

69 UNEP FIホームページ http://www.unepfi.org/regions/asia-pacific/japan/aboutunepfi/ 70 気温上昇を産業革命前と比較し2℃未満に抑えることをCOP19(2010年、カンクン)にて合意。 71 Divestment and Stranded Assets in the Low-carbon Transition, Background paper for the 32nd Round Table on

Sustainable Development, 28 October 2015, OECD, Richard Baron and David Fischer

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過大評価(“炭素バブル”)であるとも論じている。

こうした議論に基づき、それら資産への既往・新規の投資が回収不能となる“座礁資産”の規模につ

いて、各種試算が発表されている(表 3.1.1)。炭鉱の座礁資産の規模は、40億米ドルとする IEA(2014

年)72や4.9兆米ドルとするKepler Cheuvreux(2014年)73等、大幅な開きがある。これは、試算の

対象、方法、期間、想定するエネルギー価格等により大きな違いが生じるためであり、例えば IEAは、

回収不能な炭鉱の探査・開発費用のみを推計対象としているが、低炭素社会への移行が実現した場合

のBAU比の資産価値の低下や販売量の減少、価格低下による逸失利益等を算入するケースではより高

額となる。

表 3.1.1 化石燃料関連投資の座礁資産の試算例

出所)各機関の発表文献等に基づき作成

また、日本の石炭火力発電所を対象としたOxford University(Smith School)によるレポート(2016

年 5月発表)74では、稼動中・建設中・計画中の石炭火力発電設備(40年間を減価償却期間として想

定)について、各年の残存価値とその累積値を求め、石炭火力発電が全面的に稼動停止となった場合の

72 World Energy Investment Outlook, IEA, 2014

https://www.iea.org/publications/freepublications/publication/WEIO2014.pdf 73 Stranded assets, fossilised revenues, Kepler Cheuvreux, April 2014

https://www.keplercheuvreux.com/pdf/research/eg_eg_253208.pdf 74 Stranded Assets and Thermal Coal in Japan: An analysis of environment-related risk exposure, Oxford

University, Smith School, May 2016

組織 試算対象 期間 試算額 出典 発表年

IEA 国際エネル

ギー機関

操業期間中に全額あるいは部

分的に投資を回収できない物

理的なアセット。

具体的には探査・開発にか

かった費用。

2035年まで 総額US$3,040億

・石油・ガス:US$1,800億

・石炭:US$40億

・火力発電所:US$1,200億

World Energy

Investment

Outlook, IEA, 2014

2014

Kepler

Cheuvreux

欧州の金融

サービス会社

IEAの新政策シナリオ

(NPS)に対する450シナリ

オにおける2013-2035年ま

での累積逸失利益。

2035年まで 総額:US$28兆

・石油:US$19.3兆

・ガス:US$4兆

・石炭:US$4.9兆

Stranded assets,

fossilised revenues,

Kepler Cheuvreux,

April 2014

2014

Carbon Policy

Initiative, CPI

米国のNGO 販売量の減少や価格の低下等

によるBAUと比較した場合の

逸失利益。

2035年まで ・発電所:US$500億

・石炭:US$6,000億

・ガス:US$4,000億

Moving to a Low-

Carbon Economy:

The Impact of

Policy Pathways on

Fossil Fuel Asset

Values

2014

Carbon Tracker

Initiative, CTI

英国の非営利

シンクタンク

低炭素社会への移行や中国の

需要の減退を背景に、75米

ドル/tをブレークイーブンコ

ストとした場合に過剰となる

炭鉱の投資コスト。

2035年まで ・石炭:US$1,120億 Carbon supply cost

curves:

Evaluating financial

risk to

coal capital

expenditures

2014

Univ. of Oxford,

Smith School of

Enterprise and

the Environment

(SSEE)

学際的な研究

プログラム

・稼動中・建設中・計画中の

日本の石炭火力発電設備につ

いて、全面的に稼動停止と

なった時点の累積残存価値。

2031年まで 2021年時点:US$759.6億

2026年時点:US$801.9億

2031年時点:US$616.2億

Stranded Assets

and Thermal Coal

in Japan: An

analysis of

environment-

related risk

2016

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残存価値を試算している75。これによれば、石炭火力発電の全面停止が 5年後(2021年)の場合8兆

4,530 億円(759.6 億ドル)、10 年後(2026 年)の場合 8 兆 9,240 億円(801.9 億ドル)、15 年後

(2031年)の場合6兆8,570億円(616.2億ドル)が座礁資産化するとしている。これについて、全

面停止とする想定が非現実的であることや新設の計画設備容量が過大に算定されていること等が問題

点として指摘されている76。

3.1.2 政府レベルの対応の経緯

ダイベストメントに関する動きは、従来、気候変動対策に消極姿勢を示してきた米国において、オバ

マ前大統領が気候変動対策の強化に舵を切ったこと等を契機に、欧米を中心とした政府レベルの取組

として広がりを見せることとなった。

米国では、2013年6月に「気候行動計画」が発表され(第1章参照)、これまで米国輸出入銀行(Ex-

Im Bank)等を通じ行っていた海外での石炭火力発電所建設に対する融資を原則として停止する方針

を示し、諸外国に対しても同調を求めた。

経済協力開発機構(OECD)は、公的輸出信用アレンジメントに関するルールの見直し(2013年11

月)に着手し、この頃、世銀グループやEU の政府系金融機関等の国際的な公的融資機関の間で同様

の動きが広がった(後述3.3)。

また、G20財務相・中央銀行総裁会合では、2012年に気候ファイナンスに関する研究グループ(Climate

Finance Study Group:CFSG)が設立された。当初の活動内容は、気候変動対策に向け資金の流れを

促すものが主だが77、後の検討では、金融の観点からみた気候変動関連リスクに焦点をあてた議論が主

要テーマとなっている78。2015年4月には、金融安定理事会(Financial Stability Board:FSB)79に

対し、金融部門における気候変動関連リスクの把握や配慮の在り方について、官民の金融関係者で検

討するよう要請した80。FSBの議長は英国中央銀行(イングランド銀行)総裁であるMark Carney氏

が務めている。イングランド銀行の規制機関のひとつである健全性監督機構(Prudential Regulatory

Authority:PRA )は、「気候変動が英国の保険業界に与える影響」81と題した報告書を 2015年 9月

に発表し、金融にとっての気候変動関連リスクとして、1)気候変動に伴う災害の発生等により被害が

出るリスク(物理的リスク)、2)気候変動を誘発あるいは対応を怠った等として被害を被った側から

保険の契約者が訴えられる等、気候変動被害について責任を問われるリスク(賠償責任リスク)、及び、

3)低炭素化に向けた政策・規制等により、投資ポートフォリオに財務的な影響が出るリスク(移行リ

スク)を挙げ、将来これらの影響が重要度を増すことを示唆した。

上記報告書の発表に際し Carney 総裁が行った講演では、移行リスクに特に注目が集まったことが

75 国際環境経済研究所、2016年5月26日、有馬純、http://ieei.or.jp/2016/05/opinion160526/ 76 国際環境経済研究所、2017年2月27日、有馬純、http://ieei.or.jp/2017/02/opinion170227/ 77 CFSG Annual Report 2012 78 CFSG Annual Report 2015及び2016 79 1999年設立の金融安定化フォーラムを前身とし2009年設立。主要25か国・地域の中央銀行、金融監督当局、財務

省、主要な基準策定主体、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)等の

代表が参加(2016年末時点)。日本銀行ホームページ

https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/intl/g06.htm/ 80 To G20 Finance Ministers and Central Bank Governors, FSB, 5 October 2015 http://www.fsb.org/wp-

content/uploads/FSB-Chairs-letter-to-G20-Mins-and-Govs-5-October-2015.pdf 81 The impact of climate change on the UK insurance sector: A Climate Change Adaptation Report by the

Prudential Regulation Authority, September 2015

http://www.bankofengland.co.uk/pra/Documents/supervision/activities/pradefra0915.pdf

Page 90: 平成 29 年度海外炭開発支援事業 海外炭開発高度化 …coal.jogmec.go.jp/content/300353999.pdfCOP23(2017年11 月開催)でも見られたように、先進国・途上国の利害対立等を背景に国際交渉が

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窺われる82。FT紙によれば、同氏は、カーボンバジェットに基づく今後利用可能な化石燃料は、世界

の確認埋蔵量(proven reserves)の1/5~1/3にとどまるとの試算に言及し、化石燃料関連事業者が莫

大な損失を被るとともに、投資家はそれらの座礁資産化リスクに晒されていると述べた。FTSE100の

19%は天然資源及び採掘産業である現状から、低炭素化への移行リスクへの保険業界のエクスポージ

ャーは大きいとしている。

このように金融業界を世界的にリードし、且つ、気候変動対策並びに石炭火力発電の廃止を積極的

に推進している英国が中心となり83、金融部門における“脱石炭”の議論が国際的に展開されるように

なった。FSBは、2015年10月のG20会合に向け、上記を金融の安定に対するリスクとしてあらため

て取り上げるとともに、投資家や金融事業者が気候変動及び低炭素化への移行から生じる資産価値へ

のリスクに対処できるよう、タスクフォースを設立し、情報開示(ディスクロージャー)に関する基準

作り(後述3.2)に取り組むことを提案し84、G20を通じ、気候変動と金融の課題が引き続き検討され

ることとなった。

そうした中で同年のUNFCCCのパリ協定(2015年12月採択)においても、今後の資金の流れは

GHG の排出を削減する世界的な目標との整合性を確保することが謳われる(第 2 条 1.(c))等、化石

燃料や石炭に対するファイナンスを控えるべきとの議論が行われている。こうした政府・国際レベルの

動きは、従来、個別案件の環境リスクへの対応として捉えられてきた環境ファイナンスが、その後のカ

ーボンファイナンスの誕生・縮小を経て、現在は、グローバルな金融安定の観点から取り上げられる新

たなフェーズを迎えているとの見方もある85。

上記潮流の中で、政府系金融機関、民間の金融機関、機関投資家、政府・自治体や大学等の資金運用

に関わる組織等、様々な金融機関は、石炭・化石燃料に関連し下記の対応をとることで投融資の保護

やリスク軽減を図っている:

▪ 各企業のGHG排出量の報告や、化石燃料関連事業への関与についての情報開示(ディスクロー

ジャー)の要請(3.2参照)

▪ 石炭・化石燃料関連の投融資を制限ないし停止するダイベストメント(3.3参照)

▪ 自らの投融資ポートフォリオについて、炭素価格や化石燃料需要等の様々な想定に応じた脆弱性

を把握するストレステストの実施

▪ 企業との対話等を通じ、低炭素化等に向けた企業行動を働きかけるエンゲージメント

▪ クリーンエネルギー関連企業の株式購入やグリーンボンド(後述3.3.3)への投資等、ポートフォ

リオの多様化を通じたヘッジング等。

以下ではディスクロージャーの取組動向及びダイベストメントの事例等について整理する。

82 FT、2015年9月30日

https://www.ft.com/content/622de3da-66e6-11e5-97d0-1456a776a4f5?mhq5j=e5 83 2008年の「気候変動法」により、2050年までに温室効果ガスを80%(1990年比)削減する目標を掲げ、恒久的に

気候変動対策に取り組むための法的基盤を構築。また2015年11月には、国内のすべての石炭火力発電所を2025年ま

でに廃止する方針を発表した。 84 To G20 Finance Ministers and Central Bank Governors, FSB, 5 October 2015 http://www.fsb.org/wp-

content/uploads/FSB-Chairs-letter-to-G20-Mins-and-Govs-5-October-2015.pdf 85 金融安定と気候変動に関する調査研究、日本総研、2016年3月

Page 91: 平成 29 年度海外炭開発支援事業 海外炭開発高度化 …coal.jogmec.go.jp/content/300353999.pdfCOP23(2017年11 月開催)でも見られたように、先進国・途上国の利害対立等を背景に国際交渉が

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3.2 気候変動関連リスクの情報開示の取組と課題

気候変動関連リスクを踏まえ投融資の判断を行うためには、適切な情報開示が前提となる。現在、そ

の取組の中心となっているのがG20 の場において金融安定理事会により 2015 年 12 月に設置された

「気候関連財務ディスクロージャータスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial

Disclosures)」である。

TCFDは金融安定の観点に立った国際的な民間主導のイニシアティブであり、Michael Bloomberg

氏(金融情報サービス大手ブルームバーグ創業者、元ニューヨーク市長(2003-2012年))を座長とし、

26の金融事業者や会計監査法人等が民間有識者として参加している。参加メンバーの大半は欧米の金

融企業(銀行、保険、格付け会社、監査法人等)だが、エネルギー部門ではBHP Billiton、EnBW及

びENIが参加している。一方、日本、中国、インドからは各1社の参加にとどまっている86。

TCFDでは、金融における気候変動関連リスクとして、「物理的リスク」と「移行リスク」を挙げ(前

述 3.1)、一方、5つの項目を「機会」として挙げている(図 3.2.1)。各企業がこれらのリスク・機会

に関する戦略的計画や管理のあり方、財務的インパクトを開示することで、投資家や貸付事業者等が

投融資の判断を行う際の有用な情報が開示されることを目的としている。

出所)気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD) 最終報告書の概要、2017年8月7日、長村

政明、東京海上ホールディングス/東京海上日動より抜粋

図 3.2.1 気候変動関連ディスクロージャーの意義

TCFDは手始めに、気候変動関連財務情報報告の一貫性等の観点から取組事例を整理し、2016年12

月にディスクロージャーに関する提言(Phase II Report)をFSBに対する答申としてとりまとめた。

これを踏まえた最終報告書として、気候変動関連財務情報の任意の開示の枠組みに関する提言を2017

年6月に発表した87。提言は、組織運営においてすべての産業部門に共通する中核的要素として下記4

86 Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosure, TCFD, June 2017 中国 Industrial

and Commercial Bank of China、インドTata Group、日本Tokio Marine Holdings 87 Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosure, TCFD, June 2017

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点の情報開示を挙げている:

▪ 「ガバナンス」:気候関連のリスクと機会に係る組織のガバナンス。

▪ 「戦略」:気候関連のリスクと機会がもたらす組織のビジネス、戦略、財務計画への実際のお

よび潜在的な影響(その情報が重要である場合)。

▪ 「リスク管理」:気候関連リスクについて、組織がどのように識別、評価および管理している

か。

▪ 「指標及び目標」:気候関連のリスクと機会を評価し管理する際に使用する指標と目標(その

情報が重要である場合)。

さらにエネルギー分野は、他の 3 分野(運輸、素材・建築物、農業・食品・木材製品)と並び、気

候変動の影響を受けやすい業種に挙げられ、個別の実施手引書が作成された。ここでは下記について

定量的・定性的評価・影響について情報開示を求めている88:

▪ コンプライアンス及び操業コスト、リスク及び機会に関する変化(例:老朽化/低効率設備、

採掘不能な(un-exploitable)化石燃料資源等)

▪ 規制の変更または需要家や投資家の期待の変化に対するエクスポージャー(例:エネルギー

供給ミックスにおける再生可能エネルギーの拡大等)

▪ 投資戦略の変化(例:再生可能エネルギーへの投資拡大機会、炭素の回収技術等)

石炭産業における情報開示の具体的項目としては、例として表 3.2.1の項目が挙げられている。

表 3.2.1 石炭産業における情報開示の項目例

出所)Implementing the Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial

Disclosures, TCFD, June 2017 より作成

88 Implementing the Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures, TCFD, June

2017

分類 項目 単位

収入 温室効果ガス排出量 MtCO2e

低炭素関連投資から得られるROI 金額

支出 社内で指標としている炭素価格・価格帯 金額

低炭素技術への支出 金額

長期資産・短期資産の比率 %

水資源制約が高い地域での取水割合 %

コミットしているエネルギープロジェクトの現在及び今後の供給コスト 金額

資産 水資源制約が高い地域でコミットしている資産 件数、評価額、総資産に占める割合

低炭素技術への投資額(CapEx) 金額

保有資源の細目(種類、温室効果ガス排出) 埋蔵量及び炭鉱別MtCO2e

資本 投下資本の回収期間及び資本利益率 年、%

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また、上記の提言のうち「戦略」に関する報告については、気候変動の「2℃シナリオ」を含む複数

の異なるシナリオを企業が独自に作成し、それぞれのリスクと機会について検討するシナリオ分析を

提言している。シナリオ分析は、起こりうる可能性のある複数の未来(シナリオ)を想定することによ

り、不確実性の高い環境の中で、適切な意思決定を行うことを可能にするための戦略決定手法である。

石油危機に際して、英蘭系石油メジャー(国際石油資本)のロイヤル・ダッチ・シェルが経営戦略策定

に利用し、石油危機を巧みに切り抜けたことが伝えられている。TCFDの提言に先立ち、BHP Billiton

は、様々な将来の道筋や事象に対する同社の資産ポートフォリオの強み・弱みを把握するための手段

としてシナリオ分析を活用し、気候変動に対する国際社会の対応に応じた下記のシナリオを作成した

と発表している89:

① Closed Doors:各国が自国の利益を優先した政策を進め、経済成長が低迷するシナリオ

② A New Gear: 先進国で革新的な技術開発が起こるシナリオ

③ Two Giants: 米国及び中国が技術開発を先導し経済を牽引するシナリオ

④ Global Accord:気候変動の抑制に向け国際社会が協力し、2℃目標の達成に向け低炭素・

再エネ技術が進展、大きく経済が発展するシナリオ。

TCFDは民間主導の自主的取組であり、情報開示・項目について強制力はない。ガイダンスとして

位置づけられているが、世界の企業がこの取組にどのように対応して行くのか、現時点では不透明とな

っている。日本経団連の会員企業からは、1)開示側企業に多大な事務負担を伴うこと、2)企業経営

の機微にふれる情報が開示推奨対象となり競争上、極めて不利益をもたらす懸念があること、

3)リスク・機会の特定・開示や 2℃目標を前提に置いたシナリオ分析が開示推奨項目となっているが、

方法論が不明確であり、客観的な記述が困難であるため、かえって誤った投資判断を招く懸念がある

こと等が問題点として指摘されている90。

こうしたTCFDの取組と並行して、Climate Finance及びダイベストメントにおける合理的な判断

を促すための仕組みが国際標準化機構(ISO:International Standard Organization)の場でも検討

されている。ISOのワーキング・グループ(ISO/TC207 SC7 WG10)は、気候変動に関連する投資・

財務(資金調達)活動の評価と報告のための枠組み及び原則を規格化する「ISO14097」の開発に着手

し、2017年2月に初会合が開催された。現時点では具体的な規格案等は公表されていないが、これま

での検討により、規格の内容は、①実体経済における GHG 排出動向に対する投資決定の影響、②低

炭素化への移行経路と気候変動対策目標との投資と資金調達決定の整合性、③気候変動対策目標や気

候変動政策に起因する金融資産所有者の財務上のリスク等の評価に関する項目等が想定されている。

ディスクロージャーに関する自主的な取組や、グリーンボンド市場(後述3.3.3)の拡大等の中で、事

業者の GHG 排出削減の取組や技術について、客観性、透明性、整合性、一貫性等を備えた国際的な

ツールの策定に関する検討が今後も継続することが予想される。

89 Climate Change: Portfolio Analysis Views after Paris, BHP Billiton, October 2016 90 国内投資拡大タスクフォース第八回会合の意見要約、経済産業省、2017年3月17日

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3.3 金融機関による化石燃料への融資制限の動向

3.3.1 政府系国際開発金融機関の動向

政府系の国際開発金融機関(MDBs:Multi-lateral Development Banks)における石炭を対象とし

た投融資の方針について、表 3.3.1 に概要を示す91。2013 年以降、世銀グループや欧州の開発銀行

(EBRD、EIB)等が、石炭関連の投融資を制限する方針を相次いで発表した。他方、アジアインフラ

投資銀行(AIIB)をはじめ、非OECD諸国が中心となって運営している機関では、石炭に対する投融

資制限を明確に示しているケースは見られない。

後述するように、AIIBは石炭・化石燃料に関連する投資を制限するといった方針は表明しておらず、

石炭(及び石油)火力発電については、効率の低い既存の発電所をリプレースする場合、または、電力

システムの信頼性やインテグリティにとり必須である場合、または、その他の経済的な代替案がない場

合に投融資を検討するとし、また、より開発の遅れている国については、それら固有のニーズを勘案す

るとしており、投資の余地を残している。ただし現時点では、石炭火力発電に対する具体的な融資案件

は形成されていない92。

91 環境NGOであるOil Change Internationalの調査(2017年7月)によれば、石油・ガスを対象に投融資制限を表

明しているケースはこれまでのところほとんどない。Talk is Cheap: How G20 Governments are Financing Climate

Disaster, Oil Change International, Friends of the Earth – U.S., Sierra Club, WWF European Policy Office, July

2017 http://priceofoil.org/2017/07/05/g20-financing-climate-disaster/ 92 Bloomberg, October 16, 2017

https://about.bnef.com/blog/asian-infra-bank-reach-4-billion-loans-year-end-qa/

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表 3.3.1 政府系国際開発金融機関における石炭関連ファイナンス方針

出所)各機関の公表資料より作成

炭鉱石炭

火力

世銀グループ

World Bank Group

ワシントンDC

(米国)あり あり

稀なケースを除き、石炭火力発電の新設

を除外(一般炭炭鉱についても同様の概

念を適用)、既存設備は効率が改善され

る場合にのみ検討。

2017年に石油・ガスの上流開発を2019

年から対象外に。

2013年7月:Towards A

Sustainable Energy Future for

All: Directions for the World

Bank Group’s Energy Sector

2017年12月:Announcement

米州開発銀行(IDB)

Inter-American Development

Bank

ワシントンDC

(米国)なし なし

効率基準を設定、300MW以下の亜臨界

設備に対し循環流動層ボイラの設置支

援。

記載無し

欧州投資銀行(EIB)

European Investment Bank

ルクセン

ブルク

記載

なしあり 550g/kWhのCO2排出基準を適用

2013年7月:Energy Lending

Criteria, 2013.

欧州復興開発銀行(EBRD)

European Bank for

Reconstruction

and Development

ロンドン

(英国)あり あり 例外的なケースを除き除外

2013年12月:EBRD Energy

Sector Strategy (Approved

Dec.2013)

北欧投資銀行(NIB)

Nordic Investment Bank

ヘルシンキ

(フィン

ランド)

記載

なしあり

新設の石炭火力発電または50MW以上で

CO2排出係数が同程度の新設のベース

ロード発電所を除外リストに記載

2012年3月:Nordic Investment

Bank, Sustainability and Policy

Guidelines, March, 2012

アジア開発銀行(ADB)

Asian Development Bank

マニラ

(フィリ

ピン)

あり なし

国際貿易が確立したコモディティである

ため一般炭のcaptive use 以外は、炭鉱

を融資対象から除外(石油も同様)

石炭火力発電はエネルギー需要を満たすため

必要であり、高効率化(SC、USC等)

を支援

2009年6月:ADB Energy Policy

Paper, 2009

アフリカ開発銀行(AfDB)

African Development Bank

アビジャン

(コート

ジボアール)

なし なし

Energy Sector Policy of the

African Development Bank

Group, 2012 Revised Version.

アジアインフラ投資銀行(AIIB)

Asian Infrastructure

Investment Bank

北京

(中国)なし なし

石炭への融資は、効率の低い設備のリプ

レースや、電力系統システムの信頼性に

とり必須な場合のみ検討対象とする

2017年6月:AIIB Energy

Strategy: Sustainable Energy

for Asia

ラテンアメリカ開発銀行(CAF)

Development Bank of

Latin America

カラカス

(ベネズ

エラ)

なし なし

イスラム開発銀行(IsDB)

Islamic Development Bank

ジッダ

(サウジ

アラビア)

なし なし

Energy Sector Policy: Energy

for Prosperity, Policy for the

Transition, 2013-2017

新開発銀行(NDB)

New Development Bank

上海

(中国)なし なし

New Development Bank

Environment and Social

Framework, 2016

注)AfDB本部は2003年より暫定的にチュニス(チュニジア)に移転

投融資制限

の方針機関 本部 概要 文書

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<AIIB>

AIIB は、中国の習近平国家主席が 2013 年に設立を提唱し、2016 年 1 月に業務を開始した。現在

(2017 年 10 月末)までにメンバー国は 58 ヵ国となっている。メンバーのカテゴリーは regional

member と non-regional member の 2 つがあり、前者はアジア・オセアニア諸国で93、豪州、韓国、

ASEAN諸国、ロシア、インドが参加、AIIBの投票権全体の75%を占めている94。後者は欧州主要国

(英国、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、北欧諸国、スイス、ポーランド等)となっている。

この他に、ブラジル、南アフリカ等のメンバー候補国も含めた総数は 80ヵ国を超えている。主要7ヵ

国(G7)のうち、参加していないのは米国及び日本となっている。

参加国の多さ等から設立に際し大いに注目を集めたが、これまでのところ融資案件は 21件、総額は

34.9億米ドルにとどまっている95。スタッフ数は120名となっている96。

AIIBの投融資方針において、優先テーマとして挙げられている項目は以下の通り:

▪ 持続可能なインフラ:グリーンなインフラの促進と環境・開発目標の達成支援

▪ 各国間の接続(connectivity):中央アジアの道路、鉄道、港湾、エネルギーパイプライン及び通

信、東南アジア・南アジア・中東等をつなぐ海路等、国境をまたぐインフラ建設を優先

▪ 民間資本の動員:他の国際開発金融機関、政府、民間金融機関等とのパートナーシップにおいて

民間資本の動員を促進する革新的なソリューションを考案

これらの中でも、アジア地域の接続性に関する投資は、習近平総書記(当時)が唱える経済圏構想で

ある「一帯一路」に沿ったプロジェクトとして重視され、タジキスタン・パキスタンの高速道路建設等

への投資が行われている97。

エネルギー分野においては、アジアにおける持続可能なエネルギーに焦点をあてるとしており、2017

年6月に「エネルギー部門戦略:アジアにおける持続可能なエネルギー」98が策定された。これによれ

ば、エネルギー貧困の解消と今後のエネルギー需要の急激な伸びの両面から、エネルギーアクセスの確

保を重視すると同時に、パリ協定をはじめとする環境目標の達成を促し、また、エネルギーの新技術や

イノベーションのベネフィットを活用するとしている。また、NDC(前出、Nationally Determined

Contribution)を含め各国のエネルギー投資計画に沿い、気候変動対策を重視するとしている。

石油・ガスの掘削プロジェクトについては、エネルギーの安定供給に基づくホスト国の意向から、投

資機会は豊富に存在するものの、これらプロジェクトはリスクが高く、詳細な検討が必要としている

が、炭鉱開発については言及していない。

93 https://www.bmf.gv.at/ministerium/Asian_Infrastructure_Investment_Bank.pdf?63xgl4 94 https://fas.org/sgp/crs/row/R44754.pdf 95 AIIBホームページ https://www.aiib.org/en/ 96 Bloomberg, October 16, 2017

https://about.bnef.com/blog/asian-infra-bank-reach-4-billion-loans-year-end-qa/ 97 Bloomberg, October 16, 2017

https://about.bnef.com/blog/asian-infra-bank-reach-4-billion-loans-year-end-qa/ 98 Energy Sector Strategy: Sustainable Energy for Asia, 15 June 2017, AIIB

https://www.aiib.org/en/policies-strategies/strategies/sustainable-energy-asia/.content/index/_download/aiib-energy-

sector-Strategy-2017.pdf

Page 97: 平成 29 年度海外炭開発支援事業 海外炭開発高度化 …coal.jogmec.go.jp/content/300353999.pdfCOP23(2017年11 月開催)でも見られたように、先進国・途上国の利害対立等を背景に国際交渉が

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表 3.3.2 AIIBのエネルギー部門の投資戦略概要

背景 エネルギー貧困:アジアの無電化人口は4.64 億人

環境問題:気候変動被害やPM2.5

エネルギー需要の急増:アジアにおける2000-2014 年のエネルギー需要の伸びの98%は非

OECD 諸国による

化石燃料への高い依存度:86%(世界平均81%)

エネルギー価格の乱高下99

エネルギー関連投資の必要性:アジアにおいて IEA のNew Policy シナリオで18 兆米ドル、

450 シナリオで18.7 兆米ドル

投資戦略(支援)

の枠組み

i. エネルギーインフラの開発・改善

ii. エネルギーへのアクセスの増強

iii. 炭素集約度のより低いエネルギーミックスへの移行

iv. パリ協定等の国際的イニシアティブ下の目標達成

指針となる原則 1. エネルギーアクセス・エネルギーセキュリティの促進:電力供給の信頼性の改善等

2. 省エネルギーポテンシャルの実現:既存の発電所の修繕・アップグレード等

3. エネルギー供給における炭素集約度の低減:

IEA World Energy Outlook 2015 により、燃料供給における投資はCurrent Policy シナ

リオの 33 兆米ドルから、450 シナリオでは 21 兆米ドルに削減する必要があり、石

油・石炭の投資を大幅に削減、天然ガスの投資もわずかに削減する必要がある。IEA

World Energy Outlook 2016 もそうした方向性を追認。エネルギー部門の低炭素化が

実現するまでは化石燃料が一定の役割を担うが、AIIB は再エネ投資及び化石燃料から

の炭素排出の削減を通じ移行を支援。

4. 地域の環境汚染対策

5. 民間資本の動員

6. 地域間の協力と接続:

特に電気・ガスにおけるエネルギーシステムの接続を強化し、エネルギー供給のセキ

ュリティ及び効率性の改善、資源利用の最適化、柔軟性の増大、地域の環境・社会影

響の軽減、及び再エネ資源の利用促進を目指す。

指針の見直し 電気・熱の貯蔵技術、デジタル化、CCS 等の技術展開による科学的知見の進展や、再エネ

コストの低下等を踏まえ、見直しを行う。

部門別アプロー

チ(抜粋)

省エネルギー:

発電・電気事業者に対し、既設プラントの修繕等による利用改善や燃料消費の削減を

支援する、等。

火力発電:

IEA World Energy Investment 2016 によれば、発電部門の炭素集約度は現状で

420kg/MWh であり今後20 年間で100kg/MWh に低減する必要がある。

化石燃料発電については、ホスト国におけるエネルギーの持続可能性・低炭素化及び

国際的に合意された目標に明確に沿った(demonstrably compatible)投資を行う。

化石燃料発電は、商業的利用が可能な、最も炭素集約度の低い技術を用いることが期

待され、多くの国で天然ガス発電は低炭素化への移行の目的に見合うと考えられる。

石油・石炭発電については、既存のより効率の悪い発電所をリプレースする場合、ま

99 懸念事項として言及しているが、詳細な分析等は示されていない。

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- 80 -

たは、電力システムの信頼性やインテグリティにとり必須である場合、または、その

他の経済的な代替案がない場合に検討する。また、より開発の遅れている国について

は、それら固有のニーズを勘案する。

石油・ガス生産・輸送・精製:

民間の投資が主だが、エネルギーセキュリティの改善や地域間の統合・貿易を促す案

件への投資を検討。ガス利用は、低炭素化策の一環として増進を図るため、輸送・貯

蔵等の開発、修理、アップグレード等を検討。

原子力発電:

支援の対象としない。安全対策等の特別なケースについては検討もあり得るが、技術

的専門性や資本集約度の高い案件は含まない。

注)下線は日本エネルギー経済研究所により石炭・化石燃料に関連する記載について

出所)Energy Sector Strategy: Sustainable Energy for Asia, 15 June 2017, AIIBより作成

3.3.2 政府の投融資制限の動向

MDBsだけでなく、政府の開発援助機関による融資や輸出信用の供与において、石炭に関する融資

を制限する動きが出ている。上述の通り(3.1.2)、OECDは2013年11月に石炭火力発電に対する公

的輸出信用に関するルール(OECD輸出信用ガイドライン)の見直しに着手した。当ガイドラインは、

公的支援による輸出信用等の過当競争の回避を目的とした OECD 加盟国における輸出信用機関

(Export Credit Agency)100の取り決め(紳士協定)であり、規制対象は、返済・償還期間が起算点か

ら 2 年以上の輸出契約等や輸出代金貸付契約とされ、最長返済・償還期間や最低貸出金利等の遵守が

求められる。参加国は、米国、豪州、日本、韓国、カナダ、ニュージーランド、ノルウェー、スイス及

びEUとなっており101、COP21(パリ)会合開催目前の2015年11月に石炭火力発電に関する新たな

ルールについて合意に達したことが発表された102(ガイドラインは2017年1月1日に発効)。結果と

して、大規模(500MW以上)設備については、亜臨界(以下Sub-C)及び超臨界(以下SC)である

場合の支援が禁止され、さらにSub-C及びSC設備は、条件を満たした開発途上国103に支援対象国が

絞られ、Sub-C設備は小規模(300MW未満)設備のみ、SC設備は中小規模(500MWまで)設備の

みが支援可能とされた。高効率の超々臨界(以下USC)の石炭火力発電所については従来通りの融資

が容認されたものの、2019年に再びルールの見直しが行われる予定である104。見直しに際しては、当

該アレンジメントに縛られない国の投融資の状況等、OECD諸国が制約を受けることでむしろ問題が

発生していないか等の精査が必要との指摘もある105。

100 各国政府が自国の輸出及び対外投資促進のために貿易保険、保証及び貿易金融等を行うことを目的に設立した公的

機関。日本にはNEXI(日本貿易保険)及びJBIC(国際協力銀行)がある。

http://nexi.go.jp/glossary/detail/002787.html 101 ARRANGEMENT ON OFFICIALLY SUPPORTED EXPORT CREDITS, OECD, 1st February 2016

http://www.oecd.org/officialdocuments/publicdisplaydocumentpdf/?doclanguage=en&cote=tad/pg(2016)1

石炭火力発電に関するルールの交渉へはEUは28ヵ国を代表し1主体として参加。https://www.jbic.go.jp/wp-

content/uploads/page/2014/07/57910/TAD-PG_201708.pdf 102 OECDプレスリリース(2015年11月18日)http://www.oecd.org/newsroom/statement-from-participants-to-the-

arrangement-on-officially-supported-export-credits.htm及び合意文書(2016年2月1日)

http://www.oecd.org/officialdocuments/publicdisplaydocumentpdf/?doclanguage=en&cote=tad/pg(2016)1 103 世界銀行の低開発途上国向けの支援基金である国際開発協会(International Development Association, IDA)の借

入国 104 OECDプレスリリース(2015年11月18日) 105 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府)

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表 3.3.3 OECD輸出信用ガイドラインにおける最長返済期間の概要

石炭火力発電技術 500MW 以上 300~500MW 300MW 以下

超々臨界(USC) 蒸気圧力24.0MPa 以上、

蒸気温度593℃以上 12 年間 12 年間 12 年間

または CO2排出量750g/tCO2以下

超臨界(SC) 蒸気圧力22.1MPa 以上、

蒸気温度550℃以上 不可 10 年間 10 年間

または CO2排出量750-850g/tCO2

亜臨界(Sub-C) 蒸気圧力22.1MPa 未満 不可 不可 10 年間

または CO2排出量850g/tCO2以下

注)その他の詳細要件あり。

出所)Arrangement of Officially Supported Export Credits, 1st February 2016 OECDより作成

石炭火力発電への輸出信用に関する上記OECDガイドライン以外に、各国政府の開発援助や輸出信

用の供与について独自に制限を設けている国がある。G20諸国の対応状況を表 3.3.4に示す。開発援

助・輸出信用の双方ないし一方に制限を設けるケースは先進国に多く見られるが、上記OECDガイド

ラインを除いては特段の制限を表明していない国も多数ある(日本、豪州、ニュージーランド、スイ

ス、韓国等)。新興経済諸国では、中国は、炭素排出の高い産業への融資について規制を強化する方針

を示しているものの、石炭・化石燃料への融資を具体的に制限するには至っていない。ブラジルは、石

炭火力発電に関する融資を制限する方針を2016年10月に発表している。他方、ロシア、インドネシ

ア、インド、南アフリカ等は現在までのところ制限の意向を示していない。

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表 3.3.4 主要国政府の石炭に関連するファイナンスの方針

出所)各機関公表資料より作成

政府の援助機関・開発銀行等の制限 公的な輸出信用機関の制限

OECD輸出信用ガイドライン以外に制限方針を示しているOECD諸国(前政権下の米国を含む)

あり あり

国際開発金融機関及び二国間融資において、稀なケースを除き、石

炭火力発電所の新設に対する公的融資を行わない。同左

共同声明(2013年9月) 同左

あり あり

フランス開発庁(AFD)の二国間開発融資について、途上国の石炭

火力発電を除外(2014年法制化)。

民間取引信用保険会社(Coface)を通じた輸出信用について、

CCS・CO2貯蔵を付帯していない途上国の石炭火力発電を除外。

Framework Law on Internaitonal Development and Solidarity

(2014年7月発効)2015年の環境相発表、EurActiv(2015年2月6日)

あり なし

一般炭炭鉱、石炭火力発電、関連インフラ等への新規融資を行わな

い(ただし法的拘束力のないステイトメント)。

輸出信用機関Atradius DSBは石炭を除外する明確な方針は示してい

ない。

FMO融資ガイドライン(日付なし) Oil Change International(2017年)

あり なし

開発支援における石炭火力発電の新設を融資対象外。

既設の近代化は定性的な基準を設定。

新設への輸出信用は発電効率を44%以上とすること;既設の近代化

等は気候変動負荷が改善されること等(定性的基準)。

KfW融資ガイドライン(2015年3月) 同左

あり あり

最貧国における稀なケースを除き、石炭火力発電所に対する公的融

資を行わない。

英国輸出信用保証局(UK Export Finance:UKEF)による輸出信用

供与は世銀等の国際的な基準に準拠。

エネルギー気候変動省発表(2013年) 英国政府発表(2013年)

なし あり

Canada Development Investment Corporation(CDEV)は本件

についてのガイダンスの見直し等は発表していない。

カナダ輸出開発公社(EDC: Export Development Canada)は赤

道原則で特定されている国(メキシコ・トルコを除くOECD33カ国)の石

炭火力発電について、CCS付帯設備を除き公的融資を行わない。

(2018年2月19日現在) EDCホームページ

独自に制限方針を示している非OECD諸国

あり なし

2007年にGreen Credit Policyを導入、気候変動に関する米中共同声

明により、炭素排出の高い案件への融資について規制強化の方針。

ただし石炭/化石燃料等の具体的制限に言及なし。

na

IFC資料(日付なし)

米中共同声明(2015年・2016年)na

あり なし

ブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)は今後、石炭及び石油火

力発電への融資を行わない。na

BNDESプレスリリース(2016年10月) na

OECD輸出信用ガイドライン以外の制限方針を示していないOECD諸国

なし なし

エネルギー部門について、世界の経済・社会的発展を促す強靭なシ

ステムを建設するため、エネルギー部門のすべての分野で協力。

諸外国のクリーンで効率的な化石燃料へのアクセスと利用を助ける

こと等を目指し国際開発金融機関の投票行動等に反映。

USAIDホームページ 財務省ガイドライン(2017年11月)

OECD輸出信用ガイドラインに参加していないOECD諸国

制限方針を示していないG20諸国(上記OECD諸国を除く)

ロシア、インド、インドネシア、南アフリカ、アルゼンチン、メキシコ、トルコ、サウジアラビア

米国(オバマ政権)

デンマーク・スウェーデ

ン・フィンランド・ノル

ウェー・アイスランド

米国(トランプ政権)

フランス

オランダ

ドイツ

イギリス

カナダ

中国

ブラジル

豪州、日本、スイス、韓国、ニュージーランド

アイスランド、チリ、イスラエル

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以下に、主要国の対応状況(米国、豪州、英国、ドイツ、オランダ、中国及びブラジル)について

述べる。

<米国>

前述の通り(3.1.2)、米国ではオバマ政権下で石炭火力発電に対する公的融資を大幅に制限する取組

が発表された。2013年9月には米国・北欧諸国の共同声明が発表され、国際開発金融機関及び二国間

融資において、稀な(rare)ケースを除き、石炭火力発電所の新設に対する公的融資を行わない方針が

あらためて示された。

しかしその後、トランプ大統領は、こうした融資制限を撤回する方針を示した。連邦財務省は、2017

年11月「エネルギープロジェクト・政策に関連する国際開発金融機関における米国の立場に関する財

務省ガイダンス」を発表した106。これによれば、米国政府は国際開発金融機関(MDBs)において下記

の目的に沿った立場から行動するとしている:

▪ 経済的で信頼性が高く持続可能でクリーンなエネルギーへの普遍的なアクセスを促進する。

▪ 諸外国におけるよりクリーンで効率的な化石燃料へのアクセスと利用を助け、また、再生可

能エネルギー及びその他のクリーンエネルギー源の普及を促進する。

▪ 世界のエネルギー市場について、強靭さ、効率性、競争及び統合を目指した発展を支援する。

このように、石炭関連の公的融資を制限する方針は撤回されたものの、石炭関連の公的融資につい

て米国が存在感を増す見通しは立っていない。現地関係者によれば、現政権の方向性としては高効率

火力の国際展開を支援する意向があると考えられるものの、実態として、公的融資の実施主体である

Ex-Im Bankが機能していないという問題がある。共和党を中心に、税金を財源とし特定の企業・業界

が恩恵を受ける輸出促進に反対し、Ex-Im Bank は不要とする考え方が背景にあり、必要な人員が確

保されておらず、1億ドルを超えるような大規模案件には融資できない状況が伝えられている。そうし

た状況はオバマ政権下でも顕在化していたことから、OECDの公的融資アレンジメントの見直し(前

述)が議論された際は、米国はEx-Im Bankを通じ行ってきた石炭火力への融資を止めるという方向

性を宣言したというよりは、すでに融資をしていなかったのが実情であり、現在は、そうした制限を撤

回しようとしたとしても、融資を行うツールがない状況と指摘されている107。

なお米国の国際援助機関であるUS AID(US Agency for International Development)は、エネル

ギー部門について、世界の経済・社会的発展を促す強靭なシステムを建設するため、エネルギー部門の

すべての分野で協力すると述べている108。

こうした連邦レベルの動きとは別に、一部の州では独自に石炭関連の投融資引き揚げに向けた取組

を推進している。カリフォルニア州では2015年9月に一般炭企業からの公的資金引き揚げに関する

法律(Public Divestiture of Thermal Coal Companies Act(SB185))を制定し、州の公的年金基

金に対し、石炭(炭鉱・石炭火力発電)関連収入が5割以上を占める企業に対する投融資引き揚げを

2017年7月1日までに実施するよう求めている(3.3.4参照)109。

106 Treasury Guidance for U.S. Positions on Multilateral Development Banks Engaging on Energy Projects and

Policies (Executive Order 13783 Final Report)

連邦財務省 https://www.treasury.gov/resource-center/international/development-banks/Pages/guidance.aspx 107 米国でのヒアリング調査、2017年11月13日~11月17日 108 US AIDホームページ https://www.usaid.gov/what-we-do/economic-growth-and-trade/infrastructure/energy 109 http://leginfo.legislature.ca.gov/faces/billNavClient.xhtml?bill_id=201520160SB185

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<豪州>

石炭に関する国際的な圧力が高まる中、主たる輸出国である豪州政府の対応が注目されるが、前述

(第 1 章)の通り、これまでのところ連邦政府として石炭に特化した政策表明等は行っていない。国

内のエネルギー政策においては、NEG(前出、National Energy Guarantee)を軸とした施策を発表

しており、対外的には、政府開発援助等を担う外務・貿易省(DFAT)が外交政策白書(Foreign Policy

White Paper)を2017年11月に発表し110、世界経済における石炭の役割について下記のように述べ、

石炭輸出を継続する姿勢を示している:

▪ 今後の世界経済の成長の中心はアジアとなり、LNG、石炭、鉄鉱石等をはじめとする鉱物・エネ

ルギー資源の需要は増加が続く見込みである。

▪ 気候変動への対応は国際情勢及び豪州経済に重要な影響を及ぼす。豪州は低炭素経済への移行に

資する再生可能エネルギー資源や低炭素技術を有している。同時に、インド・太平洋地域におけ

る大規模なエネルギー需要は、豪州の高品位炭やLNG、場合によってはウランの輸出を促す。

DFATが外務政策白書を発表するのは14年ぶりであり、他の省庁の協力も得て作成され、すべての

閣僚大臣が承認した文書であるため、連邦政府としてのスタンスを表明した文書として位置づけられ

ている111。DFATの管轄下のEFIC(Export Finance and Insurance Corporation)は日本のJBICに

相当する機関であり、DFAT の方針に沿った運営が想定される。また、DFAT 管轄下の Austrade

(Australian Trade and Investment Commission)は日本のJETROに相当し、豪州への企業誘致が

主な業務だが、豪州の石炭関連の中小企業のアジアへの輸出拡大等についてプロモーションを行う等

している112。

<英国113>

英国では、2013 年のCOP19(ワルシャワ)会議を前に、オバマ大統領(当時)による石炭火力発

電に関する融資制限(上述)に合意し、他の国や国際開発金融機関にも同調を求めた。海外における石

炭火力発電建設融資に関する政府の方針を2013年11月に発表し、例外的なケースを除き、国際開発

金融機関による石炭火力発電への融資を支持しない姿勢を示した。具体的には、IDA(前出、

International Development Association)の借入国に該当し、一人あたりGNIが1,945米ドル未満の

国のみを対象とし、次に挙げる条件をすべて満たす場合にのみ個別に検討するとしている:1)貧困対

策の喫緊性が高いこと、2)低炭素の代替策の経済性について十全な検討が行われていること、3)低

炭素型開発の道筋の一部であり、環境・社会基準を満たすこと、4)長期融資の事業実現性(viability)

についてリスク評価が行われていること、5)BAT(best available technology)が用いられること、

6)CCS readyとするフィージビリティについて、技術、経済性、金融面の評価が行われていること。

なおCCSについては、導入するための追加コストについて、国際開発金融機関が融資する場合には、

これを全面的に支持するとしている。

これらの条件は、国際開発金融機関による石炭火力発電への融資についての英国による評価の指針

とするとともに、英国が外務省(Foreign Commonwealth Office:FCO)を通じ執行している政府開

110 Foreign Policy White Paper 2017, DFAT https://www.fpwhitepaper.gov.au/ 111 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府) 112 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府) 113 英国政府ホームページ、UK position on public financing of coal plants overseas, 21 November 2013

https://www.gov.uk/government/speeches/uk-position-on-public-financing-of-coal-plants-overseas

Page 103: 平成 29 年度海外炭開発支援事業 海外炭開発高度化 …coal.jogmec.go.jp/content/300353999.pdfCOP23(2017年11 月開催)でも見られたように、先進国・途上国の利害対立等を背景に国際交渉が

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発援助(ODA)及びその他の開発融資機関にも適用するとしている。英国輸出信用保証局(UK Export

Finance:UKEF)による輸出信用については、輸出品のクラスやタイプによる差別は、法的に行えな

いとしているが、世銀等の国際的な基準を満たさないプロジェクトは支援対象とならないとしている。

また2002年以降は石炭火力発電に関するUKEFの支援案件はないとしている。なお、当該発表にお

いては炭鉱への融資等には言及していない。

<ドイツ>

ドイツ復興金融公庫(KfW)グループは、上記OECD合意も踏まえ、2015年に融資ガイドライン

の見直しを行った114。開発融資(所管:KfW開発銀行)については、途上国の石炭火力発電の新設を

融資対象から外すこと、輸出信用(所管:KfW-IPEX)については、新設については発電効率を 44%

以上とすること等を条件としているが、既設については開発支援・輸出信用のいずれも定性的な条件

設定となっている。

2014年 12月に連邦経済・エネルギー省が示した文書は、ドイツ企業は、低排出の発電技術で世界

をリードしており、諸外国のエネルギー転換において、こうした技術を通じ貢献することができると述

べている。また、輸出信用の提供については、ドイツ企業が石炭火力発電所建設の国際入札に参加する

際、KfW-IPEXによるファイナンスとパッケージにしなければ競争力を高めることは困難と指摘して

いる115。

KfWの融資ガイドライン(2015 年 3 月発表)の概要は表 3.3.5 の通り(なお、当該発表において

は炭鉱への融資等に関しては言及していない)。

表 3.3.5 KfW の融資ガイドラインの概要

基本的なスタ

ンス

気候変動、環境保護及びエネルギーセキュリティを勘案し活動する。

諸外国のエネルギー転換や供給確保の観点も踏まえ、高効率発電プロジェクト及び既設発電所

の近代化への融資も重要と考えており、これらを通じ、短期間で且つ少ない費用で CO2 排出

の大幅な削減に効果を挙げることができる。

融資活動の焦点は再生可能エネルギー及び省エネルギーであり、2010-2016 年の新規融資案件

のうち環境・気候保護に関する融資は総額1,960 億ユーロにのぼり、気候変動・環境分野にお

いて世界最大の融資機関のひとつとなっている。同期間中の石炭火力発電の近代化・高効率化

案件は14.5 億ユーロと新規融資案件全体の0.27%を占めるに過ぎず、石炭火力発電に対する

融資基準の厳格化により、今後はさらなる減少が見込まれる。

輸出ファイナ

ンスの基準116

1 KfW グループは、ドイツ国内及び海外で連邦政府の輸出・投資ファイナンスに関する方針に沿

った融資基準を常に適用すること。

2 EU の現行の環境指令(IED 指令)に示されるBAT を適用すること117。

114 KfW Group guidelines on the financing of coal-fired power plants, 17 March 2015

https://www.kfw.de/nachhaltigkeit/PDF/Nachhaltigkeit/KfW-Guidelines_Coal_Financing_2015-03-17_EN.pdf 115 ドイツ連邦経済エネルギー省(BMWi)文書、2014年12月

https://www.bmwi.de/Redaktion/DE/Downloads/B/bericht-der-bundesregierung-zur-internationalen-

kohlefinanzierung-fuer-den-wirtschaftsausschuss-des-deutschen-bundestages-

englisch.pdf?__blob=publicationFile&v=3 116 下記の他に、環境影響や社会的影響に関し国際的な基準を満たすこと等が求められる。 117 火力発電に関するBATは改定に向けた作業中だが、当該ガイドラインが現行(current version)としている点は、

今後のBATの厳格化は当面は反映しないことを意図している可能性も考えられる。ただしこの記載は開発融資にはな

い。

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3 石炭火力発電プロジェクトは、再生可能エネルギー及び又は省エネルギー政策に支えられた気

候変動対策を策定している国でのみ可能とし、プロジェクトは当該国の気候変動対策に沿うも

のでなければならない。

4 その他条件は下記のとおり:

新設:以下の条件を満たしている場合のみ可能:

単機の出力が500MW 未満:発電効率が褐炭43%、一般炭(hard coal)44%の技術

が最低限用いられること。

単機の出力が 500MW 以上:地域の平均と比較し、効率が相対的に改善され、この

規模のカテゴリーの発電所の地域レベルのポートフォリオのうち上位25%に入るこ

と。

CCS の可能性について、技術面と土地確保の前提条件が検討されること。

コジェネ:燃料効率が最低でも75%を達成しなければならない。

既設:改良や近代化により、環境フットプリントが大幅に改善すること。

開発融資にお

ける基準

1. 石炭火力発電の新設及び、休廃止となっている石炭火力発電所の改修(retrofit)を促進する政

策を停止する。

2. 既設プラントの近代化は、気候変動対策、BAT、CCS、コジェネに関し上記輸出金融と同じ条

件を適用する他、国際支援等も勘案したコストや資金調達を含め再生可能エネルギーにより代

替できないこと、ホスト国におけるエネルギーセキュリティやエネルギーアクセスの改善に大

きく貢献すること。 出所)KfWホームページより作成 https://www.kfw.de/KfW-Group/Newsroom/Press-

Material/Themen-kompakt/Kohlekraftfinanzierung/

<オランダ>

オランダの開発銀行であるFMO(Netherlands Development Finance Company)は、途上国・新

興経済国における民間企業の支援を担っており、特に金融、エネルギー等分野のインフラ、製造、サー

ビス部門を対象としている。

FMOは石炭火力発電だけでなく、炭鉱も含め、直接的な融資の対象外とする方針を示した118。FMO

によるすべての融資、株式投資、その他の金融サービスの新規案件に適用され、石炭火力発電所の設

計、建設、運転及び廃止、さらに、関連するインフラや発電設備に付随する送配電設備も対象とし、炭

鉱については、一般炭炭鉱及び関連インフラを対象とし、原料炭は含まないことを明記している。国別

の区別はない。

またFMOの考え方として、石炭火力発電は、CCSの現実的な商業利用が進展しない限りGHGの

大規模排出源であり、石炭の採掘、加工、運搬に必要なエネルギーを勘案すれば、石炭火力発電はエネ

ルギー効率が低く、これに加え一般炭の利用による環境・社会への悪影響を勘案すれば高コストな発

電源とみなすべきとしている。これらの悪影響の緩和策は存在せず、ベースロード電源としては水力や

天然ガスが利用可能である等としている。なおオランダの輸出信用機関であるAtradius DSBは、石

炭を除外する明確な方針は示していない119。

118 FMO Position Statement Coal – Power Generation and Mining 日付不明 https://www.fmo.nl/policies-and-

position-statements 119 Talk is Cheap: How G20 Governments are Financing Climate Disaster, Oil Change International, Friends of the

Earth – U.S., Sierra Club, WWF European Policy Office, July 2017 http://priceofoil.org/2017/07/05/g20-financing-

climate-disaster/

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<中国>

中国では、環境金融政策(Green Credit Policy)を2007年に導入し、世銀グループの支援を得てい

る。Green Credit Policyの策定は、環境省(Ministry of Environmental Protection:MEP)、中国銀

行業監督管理委員会(China Banking Regulatory Commission:CBRC)及び中国人民銀行(People's

Bank of China:PBOC)の三者が行い、国内の銀行に対し、環境汚染を引き起こす産業への融資を抑

制し、省エネルギーや環境汚染物質の排出削減につながる案件への融資を促す等している120。環境NGO

であるOil Change Internationalは、こうした政策により石炭関連の融資の減少が見込まれるとする

一方で、厳格な規制とはなっていないとも述べている121。

2015年9月には気候変動対策に関し米国との共同声明が出され、中国は、炭素排出の高いプロジェ

クトへの公的融資を厳しく管理するための規制を強化するとしている。米国は石炭火力発電の新設へ

の融資を原則として停止する動きを見せたものの(前述)、中国は以後の声明においても具体的な融資

制限等は示していない122。

一方、中国人民銀行はグリーンボンドの発行ガイドラインを策定する等、気候ファイナンスに取り組

む姿勢を示している(3.3.3参照)。

<ブラジル>

ブラジルでは、中央銀行が社会・環境に関するリスクマネジメントを強化する方針を2008年に示し、

2014年には国内の銀行協会が自主規制に取り組む等している123。

また、ブラジル経済社会開発銀行(BNDES)は、2016年10月に電力部門への融資ガイドラインを

新たに発表し、低炭素化推進の観点から、石炭及び石油による火力発電所への融資を今後行わない方

針を示した124。ガス火力についても、現状の融資比率は70%だが、これを50%に引き下げ、大規模水

力発電についても、同じく現状の70%から50%に引き下げるとしている。BNDESは国内の太陽エネ

ルギー産業の成長を促したいとしており、融資比率を現状の70%から80%に引き上げ、省エネルギー

についても優遇金利を拡充するとしている。

3.3.3 民間金融機関の動向

銀行等民間の金融機関においても、持続可能性に配慮した貸出条件を設けたり、環境配慮の観点か

ら企業の格付けを行い評価に応じた優遇金利を適用するといった取組がある。これらには、銀行業務

においては、(1)投融資におけるリスクマネジメントとして、石炭関連の投融資を引き揚げたり条件

を見直すといった動きと、(2)再生可能エネルギー等の新規ビジネス機会の活用という 2つの側面が

120 IFC Support for China's Green Credit Policy, IFC World Bank Group

http://www.ifc.org/wps/wcm/connect/region__ext_content/ifc_external_corporate_site/east+asia+and+the+pacific/reso

urces/ifc+support+for+china+green+credit+policy 121 Talk is Cheap: How G20 Governments are Financing Climate Disaster, Oil Change International, Friends of the

Earth – U.S., Sierra Club, WWF European Policy Office, July 2017 http://priceofoil.org/2017/07/05/g20-financing-

climate-disaster/ 122 U.S.-China Joint Presidential Statement on Climate Change, September 25, 2015

https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2015/09/25/us-china-joint-presidential-statement-climate-

change及びU.S.-China Joint Presidential Statement on Climate Change, March 31, 2016

https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2016/03/31/us-china-joint-presidential-statement-climate-

change 123 金融安定と気候変動に関する調査研究、日本総研、2016年3月 124 BNDESプレスリリース(2016年10月3日)https://www.bndes.gov.br

Page 106: 平成 29 年度海外炭開発支援事業 海外炭開発高度化 …coal.jogmec.go.jp/content/300353999.pdfCOP23(2017年11 月開催)でも見られたように、先進国・途上国の利害対立等を背景に国際交渉が

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見られる。以下に整理する。

(1) 石炭関連の投融資の見直し

エネルギー産業への個別の投融資案件の審査やポートフォリオの見直しに際し、従来から勘案され

てきた様々なリスク要因に加えて、気候変動に関連した社会・環境リスク等の査定を厳格化し、リスク

が高いと判断される企業やセクターについては、新規事業への融資禁止、貸付金額の段階的削減、投資

ポートフォリオの縮小といったダイベストメントの方針を発表する金融機関・企業が出ている。化石燃

料ないし石炭関連の事業についてダイベストメントを表明している民間銀行の事例を表 3.3.6に示す。

宗教的な信条等を重視する特定の銀行(例:スイスのAlternative Bank Schweiz、ドイツの Steyler

Ethik Bank)のように、倫理的な投資(ethical investment)を重視し、従来から化石燃料関連事業を

投融資の対象外としているケースがあるが、近年は、大手商業銀行が今後の気候変動対策の強化等の

趨勢から炭鉱開発や石炭火力発電所の建設等をハイリスクな事業と見なし、企業の社会的責任も踏ま

え、投融資対象から除外したり制限する方針を採用する例が見られる(例:オランダのRabo Bank)。

石炭・化石燃料の資源国である豪州では、国内大手4大銀行(Commonwealth Bank of Australia

(以下CBA)、Westpac、Australia and New Zealand Banking Group(以下ANZ)及びNational

Australia Bank(以下NAB))による化石燃料への投融資に対する姿勢が注目されている。報道によ

れば、2015年に4大銀行による化石燃料(石炭、天然ガス及びLNG)への融資総額は55億ドルにの

ぼり、このうち40億ドルが大手石炭事業者Whitehaven Coal に向けられている125。豪州における炭

鉱融資については、これまでに、環境NGOであるMarket Forces(後述 4.1)による分析やOxford

University(Smith School)による座礁資産の試算等(3.1.1)において、環境・社会影響や規制強化

の可能性から経済的なリスクが極めて高いとの主張が展開されている。

とりわけ現在は、QLD州のCarmichael炭鉱プロジェクト(後述 4.1)への融資を巡る問題が深刻

化し、国内外の反発を招いている。豪州4大銀行は対応を迫られ、パリ協定の合意(2015年12月)

を背景に、2017 年には石炭関連の融資方針の厳格化を示す発表が相次いだ(後述)。報道によれば、

これにより豪州 4 大銀行のいずれもが Carmichael 炭鉱について融資を行わない方針を示す結果とな

った126。しかしながら、豪州各行の炭鉱融資方針の見直しは、石炭関連の投融資を全面的に停止する

といった内容にはなっていない。4行のうちCBA及びNABは具体的な融資制限の基準等は示してお

らず、Westpac 及び ANZ は高品位炭の新規開発及び高品位炭・高効率石炭火力発電の新設について

は融資を認める内容となっている(後述)。

大手金融機関による化石燃料関連の投資基準の見直しについて、石炭からの投資撤退の流れは決定

的といった報道が多く見られる一方、投融資方針見直しの具体的な内容は多様であり、石炭・化石燃

料への投融資を全面的に引き揚げる方針とはなっていないケースも見られる。以下に豪州、米国、その

他の大手銀行の対応事例について概要を示す:

125 https://www.theguardian.com/environment/2016/feb/26/australias-biggest-banks-pump-billions-into-fossil-fuels-

despite-climate-pledges

後述するようにThe Guardian Media GroupはFossil Free(NGOによる反石炭運動)に参加している(4.1)。 126 The Sydney Morning Herald, July 24, 2017 http://www.smh.com.au/business/banking-and-finance/big-four-

banks-slash-lending-to-coal-miners-20170720-gxf9u8.html

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<Westpac>

豪州の4大銀行のひとつであるWestpacは2017年4月に「Climate Change Action Plan 2020」

を発表、エネルギー部門における投融資やディスクロージャーに関する方針を示した127。一般炭炭鉱

及び石炭火力発電に対する融資方針の概要を以下に記す。なおこの文書には、その他の化石燃料(天然

ガス及び石油)への言及はなく、CCS は、炭素の抑制及び分離プロジェクト(abatement and

sequestration)を支援するとしている。

(炭鉱)

▪ 2016年9月末時点で同行の融資総額に占める鉱業部門の割合は1%であり、鉱業部門のうち8%

が石炭向けとなっている(TCEベース)128。

▪ 石炭火力発電のCO2排出は、発電技術及び石炭の品位に依存するため、一般炭産業部門に関する

融資案件は、下記項目について審査すると共に、世界の上位 25%にランクする熱量として5,700

kcal/kg Gross As Received以上の高品位炭に融資を制限する。

審査項目:埋蔵量、寿命、石炭のタイプ、採掘方法、生産コスト、インフラへのアクセス、

買取契約、環境影響、規制要件、財務状況、経営の質、及び業績。

▪ ただし、新規の一般炭炭鉱やプロジェクト(既存の融資先を含む)への融資は、既存の炭田(coal

producing basin)で世界の上位15%にランクする熱量として6,300 kcal/kg Gross As Received

(この値は Newcastle high energy coal benchmarkとして引用している)以上の高品位炭に融

資を制限する。

▪ 多様な鉱物を扱う採掘事業者については、収益の30%超を一般炭から得ている事業者を一般炭産

業事業者として同じ基準を適用。

(石炭火力発電)

▪ 発電部門においては、ネットゼロ排出の達成、経済性(affordability)、エネルギーセキュリティ、

信頼性を勘案する。また、低所得の世帯や地域コミュニティ及び国際貿易に晒されている(trade

exposed)産業に対する影響についても勘案する。

▪ 発電部門のエクスポージャーにおける排出係数を 2020 年までに 0.30tCO2e/MWh とすることを

目指す(豪州電力市場の2016年6月30日時点の排出係数は0.90tCO2e/MWh、同じく当行の排

出係数は0.38tCO2e/MWh)。

▪ 新設の発電所は、発電所の接続系統の排出係数が低下する場合のみ融資対象とする。

▪ 既存の石炭火力発電所については、下記条件を満たす場合には直接融資の対象とする:

系統の信頼性及び又は経済性(affordability)の観点から必要であるか、発電所が運転してい

るコミュニティにとり不可欠(critical)であり、また、

融資の目的が、容量の増強または設備寿命の延長でない場合(ただし設備の排出係数が低下

する場合は除く)

127 Westpac, Climate Change Action Plan 2020, April 28, 2017 https://www.westpac.com.au/about-

westpac/media/media-releases/2017/28-april/ 128 TCEは total committed exposure

https://www.westpac.com.au/content/dam/public/wbc/documents/pdf/aw/ic/financial-

information/FY16_final_presentation_and_idp_asx.pdf

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<Australia and New Zealand Banking Group(ANZ)>

ANZは、「ANZ Climate Change Statement」を2015年10月に発表した129。世界の発電電力量の

4割を石炭火力発電が占める現状を踏まえ、低炭素化への移行は、責任をもって時間をかけて取り組む

べきと述べている。

石炭火力発電の新設への融資は、先進的技術と高品位炭を用い、融資の審査対象となり得るCO2排

出基準を0.8 tC02/MWhとし、在来型の石炭火力発電の新設は融資対象から除外するとしている。

先進的技術とは、例えばUSCは既存の亜臨界設備と比較し最大で 50%CO2排出を削減することが

できると述べているが、具体的な条件等は示していない。また在来型の石炭火力発電とは、超臨界また

は超々臨界、ガス化、または流動床ボイラー(circulating fluidised boilers)を用いず、大幅なCO2排

出削減につながらないプラントとしている。このためUSCやガス化発電は融資対象と推察される130。

既設に対する記述はないが、上記の他に、炭鉱、石炭輸送及び石炭火力発電に対する融資については

デューデリジェンスを強化するとしている。

<Commonwealth Bank of Australia(CBA)>

CBAは2017年8月に同行初の「Climate Policy Position Statement」を発表した131。世界経済が

2050年までにネットゼロ排出に移行することを支援するとし、融資ポートフォリオにおける排出係数

の削減や、再生可能エネルギー・省エネルギー等への融資等の取組を挙げた。しかし、石炭・化石燃料

への融資方針について具体的な言及がないことから、環境保護団体等の批判を浴びた。

その後同年11月の年次総会における会長演説において、同行の石炭関連融資は減少しており、低炭

素化への移行を支援する立場から、今後も減少する見込みであると述べたことから、環境保護団体等

は、CBAは石炭融資からの離脱にコミットしたとの論調で報じている132。

<National Australia Bank(NAB)>

NABは 2015年 9月に声明を出し、Carmichael炭鉱に対する融資は行っておらず、また今後もそ

うした計画はないと述べている133。

その後2017年に気候変動戦略の見直しを行ったことを発表した134。しかし、気候変動戦略の詳細参

照先として提示しているSustainability Reportは、石炭関連の融資方針については、「化石燃料産業、

とりわけ炭鉱及び関連インフラへの融資、及び豪州にとってのGreat Barrier Reef 地域の経済的価値

等を含め、様々な環境問題への懸念については、理解を深めるための取組を継続する」と述べるにとど

まり、並列されているEnvironmental Agendaにも石炭に関する具体的言及はない。

129 http://www.anz.com/about-us/corporate-sustainability/governance-risk/climate-change/ 日付は

http://www.afr.com/news/policy/climate/no-lifelines-for-old-coal-clunkers-anz-shifts-carbon-emissions-policy-

20151005-gk1e5bより 130 前述のように(2.)Plattsデータベースによれば豪州では稼動中、建設中、計画中のいずれにおいてもUSCの導入

実績はない。

http://www.anz.com/resources/4/9/49dc76c2-d4b5-465e-aa02-7bf1f5714cad/anz-climate-change.pdf?MOD=AJPERES 131 https://www.nab.com.au/about-us/corporate-responsibility/environment/climate-change 132 The Guardian, November 16, 2017 https://www.theguardian.com/environment/2017/nov/16/commonwealth-

bank-says-its-lending-for-coal-will-continue-to-decline 133 NABプレスリリース、2015年9月3日

http://news.nab.com.au/nab-responds-carmichael-coal-project-statement/ 134 https://www.nab.com.au/about-us/corporate-responsibility/shareholders/esg-risk-management

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<Bank of America>

Bank of Americaは、炭鉱への融資の削減方針を示す「Coal Policy」を発表し(2015年5月)注目

を集めた。しかしその内容を見ると、石炭の事業環境の変化については、環境政策の要因だけでなく、

ガス価格の低下による経済性の低下を背景に挙げ、今後の投融資の方針として、1)炭鉱会社及び鉱山

会社の石炭部門への与信(credit exposure)を世界的に今後さらに引き下げること、2)現在投融資し

ている炭鉱企業に対するデューデリジェンスを強化し、米国で操業中の炭鉱・閉山後サイトの現地視

察を実施し、問題のある炭鉱には融資をしないこと、3)特に、アパラチア山脈のMTR(Mountain Top

Removal)方式による石炭採掘事業者への与信を削減すること、等としている。石炭関連事業として

の具体的な基準は示されておらず、また、石炭火力発電については具体的な方針は記載されていない。

省エネ、再エネ、その他低炭素エネルギー源への支援を増大するとしているが、同時に、石炭が今後も

一定の役割を担う現状を認識し、石炭等のエネルギー源の責任ある利用(responsible use)を促進し、

リスクと機会のバランスを確保すると述べている。また、気候変動への対処と経済成長を実現するため

先進的な技術が必要であり、世界的にCCSの実施に必要な環境整備を促進、化石燃料の燃焼による炭

素排出を削減する先進技術(具体的例示なし)の開発と普及の促進に資金を向けるとしている。

Bank of Americaはこれまでのところ上記方針の強化や石炭以外の化石燃料に対するダイベストメ

ント等は発表しておらず、2017 年時点で、石炭火力発電、LNG 輸出基地、タールサンド等の炭素集

約型事業へ多額の融資を続けているとの指摘もある135。

<Morgan Stanley>

Morgan Stanleyは、「石炭及びオイルサンドに関するポリシー表明」を2017年10月に発表し、炭

鉱開発・鉱業及び石炭火力発電についての投融資方針を示した。融資先をよりクリーンなエネルギー

や再生可能エネルギーにシフトし、炭鉱や石炭火力発電への融資割合を削減するとしている。ただし

下記の通り、投融資を全面的に停止する内容とはなっていない:

(炭鉱)

▪ MTR(収益がMTRに向けられる、MTRに依存して石炭を生産している、MTRを停止する計画

を策定していない等)への融資を行わない。

▪ 新規炭鉱開発及び既存炭鉱の拡張については、当該セクターに固有のリスクや、対象企業の環境・

衛生・安全(EHS)に関する実績、同EHS管理体制、法規制遵守、地域レベルでの規制が遅れ

ている場合に国際的な水準を適用できること、訴訟、違反等、サイトの環境影響、影響緩和の手

法、水質・水資源への影響、地元住民との関係性、人権問題等を社内上層部にて勘案。

(石炭火力発電)

▪ 米国内及び先進国136において、CCSまたは同等の排出・汚染削減対策を十分に(sufficient)付帯

する場合を除き、石炭火力発電の新設及び拡張を直接的に支援する案件には投融資を行わない。

▪ 途上国において石炭火力発電の新設に対し直接融資を行う案件では、より低炭素な代替技術の利

用可能性・コスト、技術内容・排出量管理、地域のエネルギー需要・経済負担の許容範囲、法規

制の遵守、融資対象企業のGHG排出に関する報告及び削減の取組を社内上層部にて勘案。

135 Bank of America – Fossil Fuel Financing (2017), Trillium Asset Management

http://www.trilliuminvest.com/shareholder-proposal/bank-america-fossil-fuel-financing-2017/ 136 2015年9月時点のFTSE による国分類によるとしている。

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<HSBC>

HSBCは、2015年4月に化石燃料関連アセットの座礁資産化リスクに関するレポートを発表し137、

炭鉱及び石炭火力発電のダイベストメントを早期に発表したメガバンクとして挙げられている138。し

かしながら、同行が2016年10月に発表したMining and Metals Policyは、以下の通り石炭の必要性

に言及している:

▪ 低炭素社会への移行は、公正で現実的(just and practicable)でなければならない。世界の

電力の41%が石炭火力発電であり、代替の電源が開発されるまでは、石炭利用をただちに全

面的に停止することは多くの人口にとり深刻な問題となる。鉄鋼生産も必要であり、これに

は原料炭が不可欠である。また、石炭産業の労働者・地域における失業の蔓延について支援

が必要である。

▪ HSBCは、一般炭は今後しばらく必要であり、これらは既存の炭鉱から供給される必要があ

ると認識する。しかし、新たな一般炭炭鉱は、追加的(且つ回避可能な)炭素排出を数十年

間に亘り固定(lock-in)することになる。

その上で、投融資の禁止対象は以下に該当する露天掘り及び坑内掘りによる鉱山の探査、開発及び

操業としている。ただし、該当する場合にもデューデリジェンスを追加的に適用するとしており、投融

資の余地を残していることが推察される:

▪ 新規の一般炭鉱山または一般炭炭鉱に依存している新たな顧客への融資。新規鉱山とは、 完

全な新規炭鉱、及び、地理的に離れたロケーション及び又は大規模な新規インフラを伴う既

存鉱山の大規模拡張を指す。これらは新規炭鉱のための大規模な資本設備を含む。一般炭炭

鉱は、生産量または石炭リザーブの 50%以上が一般炭であるすべての炭鉱。(“大規模”の原

典の記載は“major”であり、具体的な基準値等の記載はない。)

▪ アパラチア山脈においてMTRを利用する鉱山もしくはMTRに依存している顧客。

また、炭鉱セクターへのエクスポージャーについてはポートフォリオレベルの詳細を公表する方針

としている。

一方、石炭火力発電については、上記とは別のポリシー下での分析が必要と述べている。HSBCは

2011年にEnergy Sector Policyを策定しており、投融資対象外とする基準は以下の通り:

▪ 新設(拡張を含む)の石炭火力発電プラントで、単基容量が 500MW以上で、排出係数が以

下を超えるもの(国の分類は世銀定義による):

先進国:550g CO2/kWh(現状ではCCSもしくは熱電併給やバイオマス混焼)

途上国:850g CO2/kWh

▪ 加えて、以下の場合は排出係数について追加的な分析が求められる:

単基容量が300MW以上の設備を新設する場合。特に、より炭素排出の低いプラントと

する可能性及び脱硝装置が具備されているかを検討すること。

単基容量が 300MW 以上の設備のあらかじめ想定された寿命を過ぎて運転延長する場

合。

石炭火力発電の設備容量の合計が3,000MWを超える場合。

137 Stranded assets: what next?, HSBC Global Research,16 April 2015

https://www.businessgreen.com/digital_assets/8779/hsbc_Stranded_assets_what_next.pdf 138 海外主要銀行の「石炭ダイベストメント方針」調査レポート、2016年4月、株式会社ニューラル

http://sustainablejapan.jp/

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また、上記排出係数に関して、原典注釈には、CCS等以外にも、国際的に認められた炭素クレジッ

トによるオフセットが認められる余地を示唆している。

なお上記Energy Sector Policyは、その他の化石燃料については、オイルサンド事業においては各

種の審査が必要としている他は、特に述べていない。

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表 3.3.6 民間金融機関によるダイベストメントの事例・投融資方針

化石燃料

石炭

炭鉱開発

石炭生産

石炭火力発電所

関連インフラ

発電燃料

鉄鋼用

石炭液化・ガス化

化学製品製造

文書 年月

Bank of America 米国 銀行 ○ △ △ △ ○ na na na na na ○ ○ 記載なし

炭鉱会社及び鉱山会社の石炭部門への与信を引き下げ。現在投融資

している炭鉱企業に対しデューデリジェンス強化、アパラチア山脈のMTR

による石炭採掘事業者への与信を削減等。

Bank of America Coal

Policy2015年5月

Morgan Stanley 米国 投資銀行 △ △ △ △ △ na △ na na na ○ ○ 記載なし

炭鉱及び石炭火力発電に対する投融資を削減。MTR炭鉱は融資対象

外、新規炭鉱と既存炭鉱の拡張は審査項目を設定。石炭火力発電

は、米国・先進国はCCS相当を要件、途上国は審査項目を設定。

Morgan Stanley Coal

& Oil Sands Policy

Statement

2017年10月

Wells Fargo 米国 銀行 ○ × x x na na na na na na na na na貸付基準、気候変動政策関連文書、プレスリリース等、いずれも再

エネ投資の拡大等が主な内容。

Climate Change

Statement記載なし

ANZ 豪州豪州4大

銀行na ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ na ○ ○ 記載なし

石炭火力発電は新設は先進技術・高品位炭を用い0.8kgCO2/MWh

を排出基準とする(USCやガス化発電は融資対象)。

ANZ Climate Change

Statements記載なし

Commonwealth Bank 豪州豪州4大

銀行na na na na na na na na na na na na 記載なし 化石燃料・石炭に対する具体的な融資基準や制限に言及なし。

Climate Policy Position

Statement2017年8月

Westpac 豪州豪州4大

銀行na ○ ○ ○ ○ na ○ ◎ na na ○ ○

2020年ま

でに排出係

数目標達成

熱量が5,700kcal/kg以上の高品位炭に融資対象を限定。収益の

30%以上が一般炭である事業者を一般炭産業事業者と定義。

Climate Change

Action Plan 20202017年4月

National Australia

Bank豪州

豪州4大

銀行na na na na na na na na na na na na 記載なし 様々な環境問題への懸念について理解を深めるための取組を継続。 NABホームページ 2017年

Bendigo and Adelaide

Bank Limited豪州

豪州第5

位の銀行○ ● ● ● ● na ● ○ na na ● ● 記載なし

豪州大手銀行で唯一、石炭事業への融資を行っていない。一般炭ま

たはコールシームガスの探査、採掘、製造、輸出が主要事業の企業は今後も

融資対象外。

同行ホームページ 記載なし

国・本社

石炭関連部門 石炭の用途上の区別

組織名 事業

スケジュール

コモディティ出典

概要

既存

新規

投融資の制限対象

Page 113: 平成 29 年度海外炭開発支援事業 海外炭開発高度化 …coal.jogmec.go.jp/content/300353999.pdfCOP23(2017年11 月開催)でも見られたように、先進国・途上国の利害対立等を背景に国際交渉が

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注)●:投融資対象として明確に除外、×:明記していないが投資対象外と推察される、△:制限対象だが種類や条件によっては可能、○:投融資対象外とな

るものに該当しないため可能と推察、◎:投融資可能と明記、na:記載なし

出所)各社ホームページ及び報道に基づき日本エネルギー経済研究所作成

Deutche Bank ドイツ 銀行 na × × × × na × ○ na na × × 記載なしGreenfieldの一般炭炭鉱及び石炭火力発電の新設を今後の融資の対

象から除外。これらへの既存のエクスポージャを徐々に削減。同行プレスリリース 2017年1月

HSBC 英国 銀行 ○ △ △ △ △ △ △ ○ na na na ○ 記載なし

石炭火力発電の新設は500MW以上の設備は先進国で550gCO2

/kWh、途上国で850gCO2/kWh超を投融資対象外(ただしオフ

セットあり)。炭鉱は新規一般炭炭鉱を投融資対象外。

Mining and Metals

Policy, 2016

Energy Sector Policy,

2011

2016年10月

2011年

Rabo Bank オランダ 銀行 △ ● ● ● ● ● x ◎ na na △ △ 記載なし

発電用石炭、シェールガス、タールサンド等の非在来型の化石資源の探査、採

掘または生産、及びこれら採掘産業の製品の生産基地までの輸送、

生産、加工、精製に対する直接融資、石炭火力発電所への直接融

資、発電用石炭取引への直接投資、発電燃料用石炭取引が売上高の

20%以上を占める企業は投融資対象外。

Extractive Industries

Policy, Rabobank

Group, 16 January

2017

2017年1月

Nordea Bank ABスウェー

デン銀行 ○ △ △ △ △ na △ ○ na na ○ ○

2015年3月

決定

北欧最大の資産運用会社。2015年3月に、一般炭生産へ大規模・継

続的に関与しており、収益の75%が石炭製品であり、石炭からの多

様化が困難な企業を同行の Stars Funds(環境・社会・ガバナンス

(ESG)の分析に優れた企業を対象)の投資対象から除外。

同社資料 2015年12月

Bank J. Safra Sarasin スイスプライベート

バンク○ x x x x na x ○ na na △ na 記載なし

石炭に関連する投資基準の見直しにより107社(うち80%が電力会

社、14%が鉱山会社)を投資対象外に。収益に占める石炭・石炭関

連事業の割合20%を基準に石炭火力発電廃止の取組状況等に応じ判

断。

同社ホームページ 2017年3月

Steyler Ethik Bank* ドイツ 銀行 ○ ● ● ● ● na ● ○ na na ● ● 4週間以内これまで石炭火力発電を投資対象外、今後、対象を石炭生産に拡

大。報道記事 2015年11月

Alternative Bank

Schweiz*スイス 銀行 ● ● ● ● ● na ● na ● ● na ● 記載なし

GHG排出が多い企業(特に化石燃料の生産・販売事業、炭素集約型

製品の製造事業者)、PVC等の化学製品の製造事業者等は融資の対

象外。航空機製造、エンジン及び燃焼機関の製造事業者も含む。

同社ホームページ 記載なし

*は商業的利益以外の目的を優先することを明示している銀行。

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- 96 -

(2) 環境ビジネスへの投融資拡大

ダイベストメントの動きと並行して、気候変動の対策・適応技術等に携わる企業や再生可能エネル

ギーを導入する自治体等への投融資の拡大や、それらへの投資をポートフォリオに組み込んだ金融商

品を提供するといった動きもある。投資へのリターンだけでなく社会・環境上の効果を重視する顧客へ

のニーズと、投資家や社会に対し、自社の環境配慮の姿勢を強く打ち出したい事業者のニーズに応え

る目的があると考えられる。

近年は、再生可能エネルギー発電や環境汚染対策事業等、資金の用途を基準に基づき限定した債権

である「グリーンボンド」の発行が拡大している。その発行基準について、Bank of America/Merrill

Lynch、Citi、Crédit Agricole CIB及びJP Morgan Chase & Co.の4社が中心となり139、業界の自主

的なガイドラインとして「グリーンボンド原則」を策定(2017年6月改定)した140。日本の環境省は、

これと整合させる形で独自のガイドラインを策定している141。

グリーンボンドは、気候変動関連のプロジェクトに用いられる場合は「気候ボンド」とも呼ばれ、そ

うしたボンドの基準策定や認証等を担う団体であるClimate Bonds Initiative(CBI)142によれば、世

界のグリーンボンドの 2017 年の発行額は現在(2017 年 10 月末時点)936 億米ドルであり、年内に

1,300億米ドルにのぼると推計されている。

グリーンボンドの主な発行主体は、2013年頃までは世銀グループをはじめとする国際的な公的貸付

機関・政府系銀行であったが、Bank of Americaが2016年11月に10億米ドルのグリーンボンド発

行を発表する等143、近年は民間の銀行や企業による発行が急増している(図 3.3.1)。

CBI が示している 2017 年のグリーンボンド発行額(936 億米ドル)は、CBI による認証を受けた

もの(125億米ドル)及びCBIの定義に沿ったもの(811億米ドル)だが、これとは別にCBIの定義

に沿わないものが88億米ドルとなっている。こうした区別は、グリーンボンドの大規模発行主体であ

る中国人民銀行が2015年に策定したグリーンボンドの発行ガイドライン等において、石炭火力発電の

アップグレード(クリーンコールテクノロジーを含む)や大規模水力発電(50MW以上)に資金が用

いられる可能性が残されているため、設けられている144。

こうしたグリーンボンド・気候関連ボンド市場は、世界の債券市場が 90兆米ドルとされる中ではご

くわずかを占めるに過ぎないが、CBIは、2020年までには1兆米ドルを目指すとしている145。なお、

炭鉱、石炭火力発電、タールサンド、北極圏・海底油田開発及びLNG輸出の融資総額は、2014年920

億米ドル、2015年1,110億米ドル、2016年870億米ドルと推計されている146。

139 Credit Agricoleホームページ https://www.ca-cib.com/take-plunge-heart-green-finance-bonds-green-bonds 140 The Green Bond Principles 2017 https://www.icmagroup.org/Regulatory-Policy-and-Market-Practice/green-

social-and-sustainability-bonds/green-bond-principles-gbp/ 141 グリーンボンドガイドライン 2017 年版、平成29年3月、環 境 省

http://www.env.go.jp/policy/greenbond/gb/greenbond_guideline2017.pdf 142 Climate Bonds Initiativeホームページhttps://www.climatebonds.net/ 143 Bank of Americaホームページhttps://about.bankofamerica.com/en-us/what-guides-us/environmental-

sustainability.html#fbid=YOsRv3leEff 144 Climate Bonds Initiativeホームページ https://www.climatebonds.net/market/explaining-green-bonds/china-

definitions 145 Bonds and Climate Change, The State of the Market 2017, Climate Change Initiative

https://www.climatebonds.net/files/files/CBI-SotM_2017-Bonds%26ClimateChange.pdf 146 BankTrack

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- 97 -

出所)Bonds and Climate Change, The State of the Market 2017, Climate Change Initiative

図 3.3.1 グリーンボンドの発行主体別推移

3.3.4 機関投資家等による化石燃料・石炭関連企業からの投資撤退の動向

社会・環境問題に関連した長期的な投資リスクを低減する取組は従来からあるが、近年の化石燃料・

石炭関連のダイベストメントの動きとしては、1)個別の投資ファンド等がそれぞれの投資ポートフォ

リオの低炭素化・脱炭素化を進める取組と、2)機関投資家のネットワークを形成し、企業のGHG排

出量やカーボンフットプリント等の情報開示を求めたり、投資原則に関する声明や政府への政策提言

等を通じ、より世界レベルでの機運を高めようとする集団的な取組とがある。民間銀行の動き(前述

3.3.3)と同様に、投資のリスクマネジメントと新たな投資機会の活用の2つの側面があると考えられ

る。

(1) 個別の取組

ダイベストメントの方針を表明している民間の投資ファンドや財団及び年金基金(民間)等の事例

を表 3.3.7に示す。ロックフェラー財団等、慈善目的の団体やファンドでは、石炭関連投資を全面的に

投融資対象外とする方針を示しているケースもあるが、保険関連ファンドや年金基金等は収益の一定

割合以上が石炭関連である企業を対象外とする等の基準を示している。

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表 3.3.7 機関投資家によるダイベストメントの事例

化石燃料

石炭

炭鉱開発

石炭生産

石炭火力発電所

関連インフラ

発電燃料

鉄鋼用

石炭液化・ガス化

化学製品製造

文書 年月

AXA Investment

Managersフランス

資産運用

会社○ △ △ △ △ na △ ○ na na ○ ○

2017年6月

30日発効

収益の50%以上が石炭関連である企業(主に炭鉱会社及び電気事業

者)のアセット約1.77億ユーロ(確定利付資産1.65億ユーロ、株式

1,200万ユーロ)分の売却を発表。インデックスファンドやファン

ドオブファンズは対象外。

同社プレスリリー

ス2017年4月

Swiss Re

(Swiss Reinsurance

Company Ltd)

スイス再保険会

社○ △ △ △ △ na △ ○ na na ○ ○ 記載なし

一般炭の生産が収益の30%以上を占める、または、発電電力量の

30%以上が石炭火力発電である企業への投資を停止。また、関連す

る株式の持ち分(positions)及び確定利付保有分(holdings)の多

くを売却。

Responsible

Investments:

Shaping the

future of

investing

2017年7月

Allianz Group ドイツ 保険会社 ○ △ △ △ △ na △ ○ na na ○ ○ 左記

石炭に関連する企業から投資を引き揚げる。売上またはエネルギー

生産の30%以上が石炭による炭鉱企業及び電力事業者への投資を行

わない。上記基準が30-50%の企業で30%以下に引き下げるための

明確な戦略を有する企業は個別審査に基づく例外有り。期限は、新

設・再投資:当該文書の発表日、既存株式:2016年3月末までに売

却。

Allianz Statement

on Coal-based

Investments

2015年11月

Aegon N.V. オランダ 投資会社 ○ △ △ △ △ na △ ○ na na ○ ○ 記載なし

一般炭の販売が収益の30%以上を占める企業に対する新規投資を行

わない。同社の一般会計アセットから、石炭生産企業の上場株及び

社債を売却する。既存の民間投資は満期まで保有。

同社プレスリリー

ス2016年5月

Storebrandノル

ウェー投資会社 △ △ △ △ △ na △ ○ na na △ na 実施済み

2013年7月に化石燃料関連19社(うち石炭生産13社、オイルサンド

6社)のダイベストメントを発表。今般さらに発電事業者10社のダ

イベストメントを発表。(判断基準等は記載なし。)

同社プレスリリー

ス2013年7月

組織名 国・本社 事業

投融資の制限対象

既存

新規

コモディティ 石炭関連部門 石炭の用途上の区別

スケジュール

概要

出典

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- 99 -

(次頁へつづく)

Erste Asset

Management

オースト

リア

資産運用

会社○ △ △ △ △ na △ ◎ △ △ ○ ○ 記載なし

すべてのSustainable Fundsから炭鉱企業を対象外とする豪州初の

投資会社(機関投資や特別ファンドには適用しない)。石炭の採掘

が販売の30%以上を占める企業、発電事業者は発電の20%以上を石

炭が占める企業を投資対象から除外する。石炭の液化・ガス化によ

る合成を行っている企業も投資除外対象に含む。

Coal Divestment

Policy, Erste

Asset

Management

Responsible

Investment

Guidelines

記載なし

Kommunal

Landspensjonskasse

(KLP)

ノル

ウェー年金基金 △ △ △ △ △ na △ na na na △ △

実施済み/

企業リスト

を2018年6

月1日に発

表予定

2014年に石炭関連の収益が50%以上を占める企業からの投資撤退を

発表、2015年には30%に引き下げ。再エネ関連のベンチャー投資を拡

大。2015年末までに42社、総額15億NOK分の株式を売却。2017年

には収益の30%以上がオイルサンドの企業及びオイルサンドと炭鉱による合計

収益が30%以上である企業を投資対象から除外。現時点での投資額

は明らかにしていない。

KLP Annual

Report 2015及び

報道記事

2017年12月

HCF 豪州

健康医療

保険ファ

ンド

● ● ● ● ● na ● na na na ● na

2017年3月

末までに売

国内外の化石燃料企業から2,000万豪ドルを引き揚げることを

Guardian紙取材に対し公表。2017年3月末までに化石燃料の株式を

すべて売却予定。

The Guardian記事 2017年2月9日

Hunter Hall

Investment

Management*

豪州 投資会社 ● ● ● ● ● ● ● ○ na na ● ● 記載なし化石燃料の探査、生産、精製、貯蔵及び輸送に関する事業への関与

から収益を得ている企業は投資対象外。同社投資基準 記載なし

RS Group* 香港プライベート

ファンド△ △ △ △ △ na × ○ na na na ○ 記載なし

収益の10%以上が石炭、石油及びガス部門である探査・生産企業を

投資の対象外。燃料ミックスを改善する方針を示している企業のみ対

象。

NGO資料

Divest Invest:

Philanthropy

Guide, November

2016

2016年11月

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(つづき)

注)●:投融資対象として明確に除外、×:明記していないが投資対象外と推察される、△:制限対象だが種類や条件によっては可能、○:投融資対象外とな

るものに該当しないため可能と推察、◎:投融資可能と明記、na:記載なし

出所)各機関ホームページ及び報道に基づき日本エネルギー経済研究所作成

化石燃料

石炭

炭鉱開発

石炭生産

石炭火力発電所

関連インフラ

発電燃料

鉄鋼用

石炭液化・ガス化

化学製品製造

文書 年月

CalPERS/CalSTRS 米国 年金基金 △ △ △ △ △ na △ na na na △ △2017年7月

1日から

カリフォルニア州で2015年9月に制定された法律(SB185)に基づき石炭

(炭鉱・石炭火力発電)関連収入が50%以上を占める企業に対する

投融資引き揚げ。

カリフォルニア州

政府ホームページ2015年10月

Rockefeller Brothers

Fund米国

慈善事業

団体● ● ● ● ● na ● na na na ● ●

2014年末

まで

2014年に化石燃料のダイベストメントを二段階に分けて実施。第一段階は

石炭及びタールサンドを対象、2014年末までに全ポートフォリオに占めるこれ

らの割合を1%未満とする。石炭・タールサンドは2014年4月時点の

1.6%から2017年3月時点で0.1%未満、化石燃料全体では同6.6%

から2.0%に低下。

同財団ステイトメ

ント

Divestment

Statement

及びホームページ

2017年3月31

日更新情報

Rockefeller Family

Fund米国

慈善事業

団体● ● ● ● ● na ● na na na ● ●

保有株式を

即座に売却

Exxon Mobil社及び、石炭・タールサンドをベースとする企業の保有株式

(第三者が管理する資産ポートフォリオを除く)を即座にすべて売却、そ

れらへのエクスポージャは1%未満を維持する。

同財団ステイトメ

ント2016年3月

*は慈善事業団体ではないが商業的利益以外の目的を優先することを明示している機関。

CalPERS:California Public Employees' Retirement System、CalSTRS:California State Teachers' Retirement System

スケジュール

概要

出典

組織名 国・本社 事業

投融資の制限対象

コモディティ 石炭関連部門 石炭の用途上の区別

既存

新規

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(2) 集団的な取組

下記に事例を挙げる:

<CDP>147

CDP(旧名Carbon Disclosure Project)は2000年に発足し、ロンドンを拠点とする国際的な非営

利団体である。827の機関投資家が参加し、それらの対象資産総額はおよそ100兆米ドルとしている。

世界の主要企業の気候変動等に関連する情報開示の促進等により、長期的な投資リスクの低減に取り

組んでいる。

2016年 10月に気候変動対策に焦点をあてた報告書を発表148、産業分野別の対策状況等を示し、エ

ネルギー分野の取組は他の産業部門に比べ遅れが目立つと指摘している。また、CDPが送付した質問

状に対する回答率がエネルギー・電力の各部門で40%程度にとどまったとし、回答がなかった企業名

を公表する等している。

またCDPは、2011年以降、環境問題(気候変動、2015年以降は水と森林の各分野)への対応と戦

略において特に優れた活動をしている企業を毎年リスト化(Aリストと呼ばれる)し、2017年の「気

候変動Aリスト」には 120社が挙げられている149。日本企業は、メーカー、自動車等を中心に 13社

が挙げられている。

<Principles for Responsible Investment(PRI)>150

2006年にコフィ・アナン国連事務総長が提唱した国連環境計画(UNEP)の責任投資原則(PRI:

Principles for Responsible Investment)は、機関投資家の意思決定にESG(前出、Environment, Social,

Governance)に関する原則や行動指針を反映させることを目的としている。参加機関は、現在(2017

年9月7日更新情報)1,810(内訳は、資産保有者359、投資運用事業者1,221、サービスプロバイダ

ー230)となっている。日本からは大手都市銀行や投資信託、保険といった金融業の他、製造業や大学

等、57の組織が署名している。資産総額は約70兆ドルとなっている。

<Global Investor Coalition on Climate Change(GIC)>151

GIC は気候変動対策及び低炭素化を目指す機関投資家の共同イニシアティブであり、欧州

(Institutional Investors Group on Climate Change:IIGCC)、北米(Ceres)、アジア(Asia Investor

Group on Climate Change:AIGCC)及び豪州・ニュージーランド(Investors Group on Climate

Change:IGCC)152の4つの地域グループで構成される。

GICでは、投資活動における気候変動への影響を勘案すること等を投資家や企業、政府等に求め、

啓発活動やエンゲージメント、低炭素化に向けた共同プロジェクトの実施等を主な活動とし、また、上

147 CDPホームページ https://www.cdp.net/ja/info/about-us 148 Out of the starting blocks: Tracking progress on corporate climate action, CDP, October 2016

https://b8f65cb373b1b7b15feb-

c70d8ead6ced550b4d987d7c03fcdd1d.ssl.cf3.rackcdn.com/cms/reports/documents/000/001/228/original/CDP_Climat

e_Change_Report_2016.pdf?1485276095 149 CDPホームページ https://www.cdp.net/en/scores-2017 150 PRIホームページ https://www.unpri.org/ 151 GICホームページ http://globalinvestorcoalition.org/ 152 IGCCホームページ https://igcc.org.au/

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記のCDPやPRIと協力して取り組むプロジェクトもある153。

IGCCは豪州及びニュージーランドの機関投資家のグループであり、運用資産総額は1.6兆ドルとし

ている。「IGCC Strategy 2016–2019 」を策定しており、気候変動政策に関する提言、金融業界や産

業界における気候変動関連リスク対策等のエンゲージメント、低炭素事業への投資促進等を挙げてい

る。これまでのところ、特定の燃料や産業へのダイベストメント等の方針は示しておらず、石炭に関し

ては、豪州における電力部門の低炭素化の必要性の観点から、老朽化した石炭火力発電設備の廃止に

関する検討を国会に求める文書を2016年10月に発表している。

3.4 炭鉱開発・石炭生産に対するインセンティブの見直し等

3.4.1 豪州

石炭の輸出競争力の高い豪州では、石炭産業に対する補助等は行っていないが、連邦政府には豪州

北部のインフラ開発を支援するための基金(Northern Australia Infrastructure Facility:NAIF)が

2016年に設立された。NAIFは同地域の経済開発を長期的に支援することを目的とし、豪州の輸出

信用機関であるEFIC(前出、Export Finance and Insurance Corporation)とも連携している。

NAIFは、民間事業者による同地域でのインフラ投資に対し最大50億ドルを優遇金利にて貸し付け

るもので、貸付期間は5年間となっている。対象となるインフラは、空港、IT関係、エネルギー、

港湾、鉄道及び水道となっている154。

しかし、QLD州におけるCarmichael炭鉱開発(第4章参照)における輸送インフラの建設に際

し事業者(Adani)がNAIFの支援を申請したがQLD州政府による反対で却下された経緯がある

155。

他方、QLD州政府は、経済開発が遅れている一部地域に限定して、炭鉱のロイヤリティを改定す

る措置を2017年5月に発表した。Galilee and Surat Basins 及びNorth West Minerals Province

における炭鉱開発及び雇用創出に資する政策としてロイヤリティを一時的に免除する(ただし利子を

含む支払い義務有り)としている156。プレスリリースによれば、こうした措置はAdaniプロジェク

トには適用されず、具体的なロイヤリティの設定について交渉が難航している模様である157。

Adaniの案件も含め、州政府としては、地域経済の活性化・雇用確保等の観点から、資源開発を推

進したい意向もあり、支援のあり方は検討課題のひとつとなっている158。

3.4.2 米国

米国においても、石炭開発へのインセンティブ等は特段設けられていないが、オバマ政権下で導入

された各種の環境規制がトランプ政権により廃止されたことで、事業環境の改善につながっている面

がある。下記にその内容を述べる:

153 https://igcc.org.au/partners/ 154 DIISホームページ https://industry.gov.au/industry/Northern-Australia-Infrastructure-

Facility/Pages/default.aspx 155 2017年5月27日付報道http://www.abc.net.au/news/2017-05-27/adani-coal-mine-in-doubt-over-qld-stance-on-

federal-loan/8565940 156 QLD州政府プレスリリース、2017年5月 http://statements.qld.gov.au/Statement/2017/5/27/queensland-jobs-

investment-and-royalties-boost-from-new-resource-policy 157 The Guardian 2017年9月2日 https://www.theguardian.com/environment/2017/sep/03/adan-queensland-

dispute-mine-royalties 158 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府・州政府)

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2016年1月、オバマ前大統領は一般教書演説で「石油・石炭資源利用の改革」を宣言した。これを

受けて、内務省は同月、連邦領内の石炭開発の改革案を発表した159。改革の主眼は、3年間に亘り連邦

領における新規の石炭開発鉱区入札を停止し、その間に、石炭開発に伴う大気・水質汚染や森林破壊

等の環境・健康面の影響と、上記環境対策コスト及び米国内外の石炭需給やエネルギー構成を加味し

た適正な石炭価格が形成されるような、鉱区入札手続及びロイヤリティ額を策定する、というものであ

った。内務省が入札を行う際には環境影響評価を実施するが、1983-84 年を最後に環境影響評価を行

わないまま現行制度の下での入札が連綿と実施されてきており、見直しが必要、と指摘した。

環境コストの中身としては、炭鉱のメタン排出、石炭輸送段階の GHG 及び大気汚染物質排出と輸

送混雑、騒音、事故等の社会的コスト(外部不経済)を加味すると約 70%のロイヤリティ引上げが必

要であり、電力会社の石炭調達コストは約 21%の上昇が見込まれる、との推計もある160。この数値自

体は内務省が分析を行い、パブリック・コメントを経て決定されることになるが、改革が実施されれ

ば、米国電力会社の石炭調達コストが大幅に上昇することが予想された。

2016年大統領選挙において、トランプ陣営はオバマ政権下でのこの石炭開発鉱区入札の凍結を解除

し、再び連邦領における石炭開発を推進する方針を掲げていた。既述のとおり 2017年3月29日の行

政命令で、トランプ大統領は内務長官に対し鉱区入札の凍結解除を指示した。同日、Zinke内務長官も

鉱区入札の凍結解除と入札条件見直し手続きの中止を指示するオーダーを発し、7 月には土地管理局

(Bureau of Land Management)が、Powder River Basinでの鉱区入札に向けたパブリック・コメ

ント手続きを開始することを発表161、9 月には 10 月にモンタナ・ノースダコタ・サウスダコタ州の鉱

区入札を実施する旨発表した162。

加えて、トランプ大統領が見直し対象として挙げていた政策に、露天掘り炭鉱における水質および

生態系への影響を防ぐために探鉱事業者に対して課される、廃水処理の操業基準が挙げられる。Stream

Protection Ruleと呼ばれたこの規則は、以下の内容を規定していた163:

▪ 炭鉱周辺の水生環境に対する「物質的損害」を明確に定義し、各採掘許可事業者に、近隣の水

生環境に及ぼし得る「物質的損害」の特定を義務付ける

▪ 炭鉱の操業に関する所定のデータ収集・保存と報告

▪ 炭鉱の開発・生産段階および原状回復段階における、水質の効果的かつ総合的なモニタリング

方法を策定し、事業者に実施を義務付ける

オバマ大統領の任期終了間際に最終規則として公布された Stream Protection Rule については、

2017年1月に入って議会の上下院が議会審査法(Congressional Review Act)に基づく不承認決議を

可決し、トランプ大統領が2月16日に署名したため、既に廃止されている164。

159 Department of the Interior Bureau of Land Management press release, “Secretary Jewell Launches

Comprehensive Review of Federal Coal Program- Implements Pause on New Coal Leasing while Review is

Underway; Announces Additional Transparency, Good Government Initiatives to Modernize Program,” January 15,

2016. 160 Institute for the Policy Integrity, “Illuminating the Hidden Costs of Coal- How the Interior Department Can Use

Economic Tools to Modernize the Federal Coal Program,” December 2015. 161 The Bureau of Land Management, press release, BLM TO BEGIN PUBLIC PROCESS ON COAL LEASE

APPLICATION IN POWDER RIVER BASIN, July 28, 2018. 162 The Bureau of Land Management, press release, September 11, 2018. 163 Department of the Interior Office of Surface Mining Reclamation and Enforcement, “Stream Protection Rule”,

Federal Register Vol. 81, No. 244, December 20, 2016. 164 H.J.Res.38 - Disapproving the rule submitted by the Department of the Interior known as the Stream Protection

Rule.

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- 104 -

3.5 豪州及び米国の石炭産業及び企業への影響

近年、豪州の石炭産業においては、資産ポートフォリオの見直しが進められ(5.2 参照)、石炭メジ

ャーによる石炭資産の売却が行われた。既存炭鉱の拡張や新規開発においては開発の遅れや延期もし

くは中止も相次いだ。2011年以降の国際石炭価格の低迷、これに伴う財務状況の悪化が主な要因と考

えられ、これに加え、地球温暖化問題による“脱石炭”の動きや、炭鉱開発による環境影響を懸念する

住民の反発等が背景にあると考えられる。こうした中で、石炭関連の投融資の引き揚げ・制限に関する

動きの影響について、豪州における石炭関連事業者・政府関係者の見解を以下に述べる:

▪ これまで石炭の価格が記録的に低かったことと、環境保護派の圧力が高まったことが同時期に重

なり、ダイベストメントの動きが盛り上がったという側面がある。市況により事業者がアセット

の最適化を進めた結果、一般炭の大規模な資産売却が発生したが(表 3.5.1)、その後は一般炭の

資産の売却取引はあまり発生していない。市況の回復により、一般炭アセットに対する評価は高

まっている。買い手としては米国等のプライベート・エクイティが関心を示しており、また、中

国の国営企業等からも関心が寄せられている。

▪ 一部の投資家の間でダイベストメントの動きが先鋭化するケースも見られるものの、多くの政府、

企業・金融機関は、石炭の採掘方法や品位、石炭火力発電の効率等に一定の制限を設け、環境対

応のマネジメント体制等を含め案件を精査する姿勢を示している。豪州の石炭は高品位炭が多く、

環境・地元住民対策を十分に進めているため、強い影響は受けず、むしろ高品位炭の引き合いが

増え、市場が拡大する可能性があると見ている。

▪ 炭鉱開発について、ソーシャルメディア等を通じ、地元住民の意向に関わらず、都市部住民の反

対が増える状況にあるが、炭鉱開発の賛成派もそうした手段を活用し経済的な重要性についてメ

ッセージを発する等し、支持を得ている。

▪ また、豪州では炭鉱開発に関連する環境規制を強化する動きや(第1章参照)、環境保護団体によ

る反対運動等もある(第 4 章参照)が、石炭産業事業者はそうした対応を織り込み済みであり、

実質的に影響が出ている状況ではない。

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表 3.5.1 石炭資産の売却事例

原典注)Summary only includes the key headline transaction elements. All transactions may

include additional payments or conditions.

出所)QLD 州政府提供資料(Queensland Resources and Investment An evolving landscape

presenting vast opportunities, Todd Harrington Resources Investment Commissioner)より

抜粋(2017年3月)

一方、米国の石炭産業では、国際石炭価格の低迷と主要輸出先である欧州市場の縮小による輸出事

業の悪化及び、シェールガス増産によるガス価格の低下と環境問題(大気汚染規制、地球温暖化対

策)による国内需要の減少により、多くの石炭会社が破産法第11条を申請し、会社の建て直しに向

けて資産整理等を行っている。ただし、国際石炭価格は、一般炭、原料炭ともに2016年年初を底値

に下半期から高騰し、石炭産業が活況であった2010年頃の水準に戻っている。また、欧州における

“脱石炭”で域内の石炭生産が低下していることから、欧州向け輸出が再び増加する動きもある。し

かしながら、石炭市場の現在の活況やトランプ政権化での石炭復活政策が米国の石炭産業を大幅に活

性化させるとの見方は少ない165。今後成長が期待されるアジア市場についても、米国東部に位置する

主要炭鉱からの輸出拡大には、西海岸までの輸送ルートの確保や積出港等のインフラ建設(1.2.2参

照)が必須だが、石炭関連の投融資を控える動きともあいまって、それらボトルネックが解消される

見込みは立っていない。

165 米国現地ヒアリング調査(2017年11月13日~17日)

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第 4章 豪州及び米国におけるNGO 等の動向

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4. 豪州及び米国におけるNGO 等の動向

本章では、豪州及び米国における炭鉱や石炭火力発電をターゲットとした非政府組織(NGO)の活

動事例について述べる。

4.1 非営利団体・環境保護NGO等の取組

近年の NGO 等による活動は、特定の設備や産業活動を直接的にターゲットとしたものにとどまら

ず、世界各国の石炭火力発電所の情報に関するデータベースの作成・公開、国や企業の石炭関連投資

の多寡に関する情報のとりまとめ・公開、これらに基づく国や企業に対する批判、反対運動といった、

情報発信を主とした活動の影響力が高まっている。そうした活動を特定の NGO が単体で行う場合も

あれば、他のNGOや、企業、学術組織等との協力関係の中で展開されるケースも多い。

第 3 章で述べた石炭・化石燃料関連のダイベストメントの動きも、こうしたNGOの活動による影

響を受けている面もあると考えられる。石炭関連事業者や金融機関、あるいはダイベストメントを表明

している企業や金融機関の動向に関する情報を逐次更新(トラッキング)する等の活動を展開してい

るNGOの例を以下に挙げる:

<350.org>166

2008年に米国の大学生グループが設立。化石燃料関連のすべての新規プロジェクトを停止し、エネ

ルギー問題の解決策として“再生可能エネルギー100%”を求め、世界的なキャンペーンを展開してい

る。その一貫として、次に述べる「Fossil Freeプロジェクト167」を実施している。350.orgの活動は、

米国の大手投資銀行Morgan Stanley の資料でも引用される等、金融業界における認知度を高めてい

ることが推察される168。

<Fossil Free>169

化石燃料への投資に反対する世界各地のキャンペーンの国際的なネットワークとして活動を展開し

ている。金融機関に対し、化石燃料関連の企業への新規投資の凍結や、化石燃料関連の株式や社債の

直接所有及び合同運用ファンドから 5 年以内に資金を引き揚げること等を求めている。また、ダイベ

ストメントを表明した国内外の組織をリストアップし、その総額等を随時更新している。

Fossil Freeプロジェクトを通じダイベストメントにコミットしている主要機関には、民間の慈善団

体として知られるロックフェラー財団(Rockefeller Brothers Fund)や著名人による個人財団(Leonardo

DiCaprio Foundation及びMark Ruffalo)、英国の大手新聞であるThe Guardianメディアグループ

(GMG)等が名を連ねている。GMG は 2015 年 4 月に自社の投資ファンド 8 億ポンド相当を石炭、

石油及びガス企業から引き揚げると発表するとともに、ダイベストメント関連の報道やキャンペーン

活動を積極的に行っている。

166 https://350.org/allies/ 167 https://gofossilfree.org/ 168 Climate Change and Fossil Fuel Aware Investing: Risk, Opportunities and a Roadmap for Investors, Morgan

Stanley, 2016 169 https://gofossilfree.org/

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Fossil Freeの活動を通じた上記350.orgの取りまとめによれば、現在(2017年9月時点)までにダ

イベストメントを表明している組織数は759件、総額は5兆5,300万米ドルとなっている。大半(件

数ベースで全体の67%)は宗教的理念等に基づく組織や基金、NGO、文化・教育機関等である。また、

年金基金(11%)及び営利団体(3%)には、商業銀行や保険ファンド等の他に、キリスト教倫理や利

益最大化を追求せず環境保護の理念を掲げる銀行等が含まれ、組織規模は大小様々である。政府(19%)

についても、国家から市町村レベルまで様々な自治体が挙がっている170。なおダイベストメントの金

額ベースでの内訳は示されていない。

出所)350.org(Fossil Free)ホームページより作成

図 4.1.1 ダイベストメント実施機関の件数内訳(NGOによる調査事例)

<BankTrack>171

オランダを拠点とし2004年設立。世界の商業銀行及びそれらが融資する企業活動のトラッキングを

主な活動とし、環境影響等の観点から、化石燃料関連のプロジェクトや関連企業等への融資停止を求

めている。トラッキングサイトでは、懸案案件(“Dodgy Deals”)をリストアップし、融資を行って

いる官民の銀行や融資保証を行っている政府系機関等の情報、プロジェクトの進捗状況や反対運動の

状況等を随時更新している。

<Market Forces172>

豪州の環境NGOである地球の友(Friends of the Earth Australia)より派生したプロジェクトで、

BankTrackのメンバーともなっており、金融部門における行動変化の促進を目的とした活動を行って

いる(拠点メルボルン)。

化石燃料企業及びその子会社へ投融資を行っている銀行名と投融資額、及び投融資を行っていない

銀行のリストを示し、消費者に対し、利用銀行の変更を促す等している。これによれば現在(2017年

11 月末時点)、投融資を行っている銀行には、大手 4 行の他、国外の投資銀行(Macquarie Bank、

HSBC等)10行とその関連機関を挙げ、投融資を行っていない銀行としては、各種の相互銀行、信用

協同組合等、数十件の金融組織を挙げている。

170 このためダイベストメントを表明している県内で、ダイベストメントを表明している自治体もカウントされている

と考えられる。 171 https://www.banktrack.org/ 172 https://www.marketforces.org.au/

宗教系組織

24%

慈善基金

21%教育機関

15%

NGO

5%

政府

19%

営利組織

3%

年金基金

11%その他

2%

ダイベストメント推計事例

合計759件

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4.2 炭鉱及び関連施設の開発、操業に対する活動事例及び状況

豪州では、QLD州のCarmichael炭鉱プロジェクト(3.3.3)に対し、反対運動が展開されてい

る。Carmichael炭鉱プロジェクトは、インドの企業グループであるAdani(事業主体はAdaniグル

ープの子会社であるAdani Mining Pty Ltd)による大規模炭鉱開発で「Carmichael Coal Mine and

Rail Project」として計画されている。年間生産量は6,000万トン、60年間の操業期間における石炭

生産量は23億トンと、豪州でも最大規模となる。未開発のGalilee炭田(Galilee Basin)に位置

し、30km四方にまたがり6つの露天掘り炭鉱及び5つの坑内掘り炭鉱の開発及び、炭鉱と輸出港結

ぶ鉄道建設事業から成る。投資総額は165億豪ドルとされる。QLD州政府は、2016年4月に炭鉱

リースの許可を出している。

当該プロジェクトについて、下記の理由から強い反対運動が起きている173:

▪ 気候変動:計画通りの採掘量から排出されるCO2は年間 7,700万トンにのぼり、Galilee炭

田におけるその他の炭鉱開発を誘発ことにより、CO2排出量は7億500万トンにものぼる可

能性があること。

▪ 水:石炭の生産・運搬過程において大量の水が必要であり、Adaniは一日あたりの水消費量

は120億リットルと推計している。

▪ Great Barrier Reefへの影響:気候変動・海中温度の上昇による影響に加え、Great Barrier

Reefに近いAbbot Pointの積出港からインドへ輸出する計画であるため、サンゴ礁への環境

影響が懸念されている。

これまでにAdaniは、当該プロジェクトへの連邦融資機関であるNorthern Australia Infrastructure

Facility(NAIF)174に対し、資金調達のためNAIF基金の利用を申請していた。しかし、Palaszczuk

州首相(労働党)は、豪州国民の税金がインドの財閥に流れることは容認できないとして、同プロジェ

クトへの連邦政府からの基金提供を拒否する書簡を2017年12月に連邦政府に送付した。豪州憲法で

は連邦基金は州政府を通して給付されることになっているため、州政府が拒否した場合、Adani 社が

NAIF資金を得ることはできない。

他方、QLD州政府はCarmichael炭鉱計画そのものに対して反対している訳ではないと表明してい

る。州政府は、炭鉱の操業期間中及び期間終了後にわたり、当該地域の地下水の水量が影響を受ける

可能性を指摘しながらも、2017年 4月にはAdaniに対し水利用権(water license)を認めた。使用

量に関する上限値等も設定されていないため、環境保護団体や農業関係者による州政府への反発を招

いている175。

Carmichael炭鉱開発については、鳥類やトカゲの生息地を損なう恐れがあるとして、これまでにも

環境保護団体が豪州の環境保護法を根拠に裁判を起こしていた。しかし、これらの裁判で敗訴したた

め、現在は融資機関へ圧力をかける運動に重心を移している。そうした中で豪州内の大手銀行が当該

プロジェクトには融資を行わない方針を相次いで発表した(第3章参照)。また、Darebin Council(ヴ

173 https://www.theguardian.com/business/2017/aug/16/why-adanis-planned-carmichael-coalmine-matters-to-

australia-and-the-world 174 Northern Australia Infrastructure Facility(NAIF)は豪州北部のインフラ開発(空港、通信、エネルギー、港

湾、鉄道、水など)のための融資機関として2016年に設置された。 175 Herald Sun, April 4, 2017

http://www.heraldsun.com.au/leader/north/darebin-council-to-pull-10m-from-westpac-accounts-over-support-for-

adani-mine/news-story/8e6dfffd4691a61410cc9075a1f0c6ed

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ィクトリア州)は同プロジェクトに反対し、融資方針を明らかにしていないWestpacに対し、預託し

ている960億豪ドルの資金の引き揚げや同行に対するボイコット等の抗議活動を行った176。

豪州政府からの資金調達が困難になったAdaniグループは、海外、とりわけ中国での資金調達を模

索していたが、中国建設銀行(China Construction Bank)はAdaniグループのCarmichael炭鉱に

は関わっていないとのステートメントを発表している177。また一部の報道では、Adani グループは中

国国営のChina Machinery Engineering Corporation(CMEC)との提携を通して中国政府融資の獲

得を試み、豪州政府もこれらを後押しし、豪州のSteve Ciobo貿易相とBarnaby Joyce副首相が中国

政府に対して必要な環境関連許可を担保する書簡を出したものの、中国政府による融資の目途はたっ

ておらず“環境保護団体の勝利”と伝えている178。しかし、これについて豪州政府関係者は、連邦政

府が大規模案件に対し協力を要請する書簡を送付することは通常行っていることであり、当該の書簡

は 2017年 9月付で、新たなBasinでの炭鉱開発に関する情報共有という一般的な主旨で送付され、

特定のプロジェクトを対象とした対応ではないとコメントしている179。

なお、石炭事業者によれば、Adani プロジェクトに対する抗議活動は、一部の国際的な環境保護団

体が中心となり行っていると見られ、サイト内の運搬用ベルトコンベア、鉄道の線路等に侵入する等の

危険行為を伴うものとなっている。このため、活動家だけでなく、サイトの労働者の安全をも脅かす状

況となっている。現状の法規制では、こうした活動に対し不法侵入に対しては罰金刑が科されるだけで

あるため、罰金を払っては同じ行為を繰り返すことも可能となっている。再犯については処罰を厳しく

する等の対応を事業者側は求めている180。

176 Herald Sun, April 4, 2017

http://www.heraldsun.com.au/leader/north/darebin-council-to-pull-10m-from-westpac-accounts-over-support-for-

adani-mine/news-story/8e6dfffd4691a61410cc9075a1f0c6ed 177 The guardian, 2017/12/4, ‘Adani coalmine project: China Construction Bank won't grant loan, PR firm’

sayshttps://www.theguardian.com/business/2017/dec/02/adani-group-china-construction-bank-wont-grant-loan-pr-

firm-says 178 The guardian, 2017/12/6, ‘Is this the end of the road for Adani’s Australian megamine?’

https://www.theguardian.com/environment/2017/dec/07/is-this-the-end-of-the-road-for-adanis-australian-megamine 179 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、連邦政府) 180 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、石炭事業者)

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出所)Adaniホームページより抜粋181

図 4.2.1 Carmichael炭鉱計画における炭鉱及び鉄道建設ロケーション

181 http://www.adaniaustralia.com/

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出所)Washington Post, March 23, 2015

図 4.2.2 Abbot Point及び石炭の主要積出港

豪州ではこの他に、化石燃料の採掘や炭鉱の操業をターゲットとし活動している環境保護団体とし

て下記の例がある(サポーター数等は各団体の公表による):

Australian Conservation Foundation

40 万人規模のサポーターを擁する豪州全域にまたがる環境保護団体。2030 年までに発電源のすべ

てを太陽・風力・水力とすることを目指し、石炭火力、ガス火力を段階的に廃止し、新規の炭鉱開発や

ガス田の開発を禁止すること等を求めている。Adani プロジェクトに対する抗議活動や訴訟を展開し

ている。

出所)Australian Conservation Foundationホームページ

図 4.2.3 Australian Conservation Foundationロゴ及び活動の様子

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Mackay Conservation Group

1984年設立、サポーター数1,000名。熱帯雨林やグレートバリアリーフの保護の他、石炭の積出港

の建設や石炭灰の影響等を活動対象としている。Adani プロジェクトの反対キャンペーンを展開して

おり、連邦政府が許認可を出したことに対し訴訟を起こす等している。

出所)Mackay Conservation Groupホームページ

図 4.2.4 Mackay Conservation Groupロゴ及びAdaniプロジェクトに反対する広告

Lock the Gate Alliance

石炭及び天然ガスの採掘を対象。豪州全土に97,000人のサポーターを擁する。土地・水の権利を保

護し、食糧・エネルギーのニーズに対する持続可能なソリューションが提供される公平で民主的なプロ

セスをビジョンとする、としている。

国内に5万ヵ所にのぼる鉱山跡地が適切に管理されていないことによる水質等への影響や、Hunter

Valleyの大規模炭鉱における地域社会への影響等に警鐘を鳴らしている。

非在来型ガスの採掘についても、2015 年総選挙時の公約とされた補償が支払われていないとして

QLD州政府を批判する文書等を発表している。

出所)Lock the Gate Allianceホームページ

図 4.2.5 Lock the Gate Allianceロゴ及び活動の様子

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4.3 石炭火力発電所等に対する活動事例及び状況

前述(第1章)の通り、豪州連邦政府は電気の安定供給と電気料金安定化のため、既存の石炭火力

発電の拡充を推進する方針を示している。そうした中で、2017年9月、エネルギー会社Energy

Australiaは、同州における電力供給の15%を担うMount Piper石炭火力発電所(700MW×2基、

合計1,400MW、1992年運転開始)の拡張を断念する方針を明らかにした。その理由として同社

は、豪州のGHGの国家削減目標と同社の再エネへの投資方針を挙げたが、同発電所は、唯一の石炭

供給源でありNSW州使用石炭の約4割を供給しているSpringvale炭鉱(1992年創業開始、年間生

産量270万トン)の延命問題を抱えていた。NSW州政府はSpringvale炭鉱の採掘期限を13年間延

期することを2015年に承認したが、環境保護団体は同炭鉱での採掘がシドニーに水を供給する水源

を汚染しているとしてSpringvale炭鉱及びMount Piper発電所を提訴した。当初、土地・環境裁判

所182は環境保護団体の主張を認めなかったが、控訴審では水質汚染を認め、炭鉱が不適切な許可のも

と運営されているとし、土地・環境裁判所に本件を差し戻した。これに対し州政府は、エネルギーの

安全保障と地域雇用の保護のため、州の環境計画評価法(NSW Environmental Planning and

Assessment Act)を“水質を悪化させないこと”を骨子とする修正を2017年10月に行った。この

ためSpringvale炭鉱の延命は可能な状況となっており、Mount Piper石炭火力発電所の対応が引き

続き注目されている。

出所)The Sydney Morning Heraldより抜粋183

図 4.3.1 Springvale炭鉱及びMount Piper石炭火力発電

182 NSW州土地環境裁判所(NSW Land and Environment Court)は1979年のLand and Environment Court Act

1979 (NSW)により設置されたもので、NSW内の開発や環境関連の紛争を扱う裁判所である。 183 2015年7月23日付 http://www.smh.com.au/environment/water-issues/blue-mountains-coal-mine-licence-to-

permit-highly-saline-discharges-20150721-gih2zs.html

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米国では 100を超える環境保護団体が活動している。環境問題を原因として、炭鉱や、河川汚染現

場では、抗議活動のような直接行動も起きている。大規模な環境保護団体は、活動手法として直接行

動を重視することはないが、住民やローカル団体が直接行動に訴える場合には、全国区の団体がその

様子を大規模に配信し、側面支援する場合が多い。

環境保護団体の活動の規模としては、ワシントン DC での政治参加を含めて全国区で活動するもの

と、地域的な活動に留まるものに分けられる。イシュー別では、自然環境保全や野生生物保護を重視す

るもの(景観保護を訴える住民運動や、レジャーとしての狩猟産業、農業団体と結び付くものが多いほ

か、宗教団体と結び付く場合もある)、水質汚染や土壌汚染等の公害問題を重視するもの(農林漁業の

ほか、特定の疾病の患者団体や医療従事者の団体等と結び付くものが多い)と、気候変動をはじめとす

る地球規模の環境問題を重視するものとに分けられる。さらに活動スタイル別では、TV広告等を通じ

た市民の啓蒙や世論の注意喚起を重視するもの、政治家に対する陳情、情報インプットや政策案の提

供等の政治参加を重視するもの、そして訴訟を重視するもの等に分けられる。

訴訟を含む活動事例としては、オバマ政権によるClean Power Planについての訴訟において、下記

の環境保護団体が被告であるEPA側に訴訟参加している:

▪ 呼吸器系疾患の防止を目的に掲げる米国肺協会(American Lung Association)、

▪ 健康/安全/生物多様性保護を掲げる生物多様性センター(Center for Biological Diversity)、

▪ 古くからの産炭地域であるペンシルバニア州の大気汚染改善を掲げるクリーンエア評議会(Clean

Air Council)、

▪ 代表的な訴訟型環境保護団体であると共に、1990年大気浄化法の立案過程で重要な影響を及ぼ

す等政治的影響力の強い環境防衛基金(Environmental Defense Fund)、

▪ 環境規制の費用便益分析などリサーチ力が強くClean Power Planの立案への関与が報じられ

た自然資源保護協議会(Natural Resource Defense Council)、

▪ 加入者数が最大規模の環境保護団体であり直接行動に関与することの多いシエラクラブ(Sierra

Club)

また、2017年3月、トランプ政権が、オバマ政権により停止されていた連邦領における炭鉱鉱区の

貸与(リース)を再開する方針を発表した際には、環境保護団体のEarthjusticeがこれを不服として

行政訴訟を提起し、同じく環境保護団体の Sierra Club、Defenders of Wildlife と、ローカル団体の

Northern Cheyenne Tribe等が原告団に参加したことが報じられた184。

こうした団体は、炭鉱開発に対しては一様に否定的であり、とりわけSierra ClubはBeyond Coal

キャンペーンと題して、大々的な脱石炭の運動を展開している。また“Plant Tracker”をホームペー

ジ上に公開し(図 4.3.2)、米国全土の石炭火力発電所の稼動状況、設備能力、出資者、CO2排出量を

示すリスト及びロケーションを示し、2010年以降、石炭火力発電所の閉鎖件数のカウントを表示する

等している。

184 “US environmental groups file suit to block new coal mining on public lands,” March 30, 2017 https://phys.org/

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出所)Sierra Clubホームページ

図 4.3.2 Sierra Club による石炭火力発電所マップ(Plant Tracker)

一方、CCSをはじめとするクリーンコール技術については、環境保護団体毎にスタンスが様々であ

る。従って、トランプ政権、あるいは各産炭州政府に対して、どの団体が強い影響力を持つかによっ

て、クリーンコール技術への取組の強弱が左右される可能性も考えられる。

同時に、石炭会社や石炭火力発電所を保有する電力会社の側も、住民やローカル団体に対し自社の

事業について理解を深めるための情報提供と地域経済への貢献を行い、さらに環境保護団体に対して、

活動の先鋭化を防ぐための寄付や、不正確な情報に基づく活動を防ぐための情報提供、さらには対抗

措置としての広報活動や政治活動、訴訟といった対応をとっている。発電能力ベースで米国最大の電

力会社であり石炭火力発電所を多数保有するAmerican Electric Powerの場合、環境およびコミュニ

ティ関連活動として、地域の学校に対する寄付、環境教育の講座開催、廃鉱後、浄化・回復作業が済ん

だ後の土地を活用した釣りやボート競技といったレクリエーション施設の開設等、多様な活動を展開

している。

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第 5章 豪州及び米国の石炭産業界及び主要企業の対応動向

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5. 豪州及び米国の石炭産業界及び主要企業の対応動向

本章では、主要石炭事業者(資源メジャー、大手石炭会社)の財務状況と資産ポートフォリオについ

て整理するとともに、石炭事業者による温暖化・環境対策について整理する。

5.1 主要事業者の財務状況等

5.1.1 Rio Tinto

Rio Tintoは、英国ロンドンに拠点を置くRTZ Corp. Plcと豪州メルボルンに拠点を置くCRA Ltd.

が二元上場会社を形成する形で誕生し、1997年6月に社名をRio Tinto Plc(英国)とRio Tint Limited

(豪州)と改名した。同社は、鉄鉱石、非鉄金属の他、石炭、ウラン、ダイヤモンド等の事業を行う総

合資源企業である。

(1) 事業別の売上高、EBITDA

図 5.1.1に2016年の売上高とEBITDAの事業別構成を、図 5.1.2と表 5.1.1に売上高とEBITDA

の推移を示す。2016年の事業構成を見ると売上高では鉄鉱石が全体の41%を占め、EBITDAでは60%

を占める。石炭はエネルギー、鉱物に含まれており、石炭のみを取り上げると石炭の比率は売上高で

6%程度、EBITDAで7%程度である。

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.1 Rio Tintoの売上高とEBITDAの事業別構成(2016年)

売上高、EBITDAの推移をみると、資源価格の下落等により売上高、EBITDAは減少しており、特

に2015年の減少が大きく、2016年はほぼ横ばいで推移した。

鉄鉱石

60%

アルミニウム

17%

銅、

ダイヤモンド

10%

エネルギー、

鉱物

13%

鉄鉱石

41%

アルミニウム

27%

銅、

ダイヤモンド

13%

エネルギー、

鉱物

19%

売上高 EBITDA

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- 122 -

注) 年次報告では、2014 年まで鉄鋼石、アルミニウム、銅、エネルギー、ダイヤモンド・鉱物に分

類され報告されていたが、2015年は鉄鋼石、アルミニウム、銅・石炭、ダイヤモンド・鉱物に分

類され、2016年は鉄鋼石、アルミニウム、銅・ダイヤモンド、エネルギー・鉱物に分類されたた

め、図では2015年と2016年は銅・ダイヤモンド・エネルギー・鉱物として表示している。

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.2 Rio Tintoの売上高とEBITDAの推移

表 5.1.1 Rio Tintoの売上高とEBITDAの推移

注) 年次報告では、2014 年まで鉄鋼石、アルミニウム、銅、エネルギー、ダイヤモンド・鉱物に分

類され報告されていたが、2015年は鉄鋼石、アルミニウム、銅・石炭、ダイヤモンド・鉱物に分

類され、2016 年は鉄鋼石、アルミニウム、銅・ダイヤモンド、エネルギー・鉱物に分類された。

出所) Annual Reportより作成

売上高 EBITDA(百万US$)

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

その他

銅、エネ、ダイヤ、鉱物

ダイヤモンド、鉱物

エネルギー

アルミニウム

鉄鉱石 0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

売上高 (百万US$)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

鉄鉱石 12,598 24,024 29,909 24,279 25,994 23,281 15,305 14,605

アルミニウム 8,701 11,313 12,159 12,170 12,463 12,123 10,117 9,458

銅 6,220 7,797 7,634 6,661 5,916 6,282 - -

銅、石炭 1,968 -

銅、ダイヤモンド 1,387

エネルギー 4,869 5,652 7,327 6,062 5,454 4,308 - -

エネルギー、鉱物 6,724

ダイヤモンド、鉱物 2,618 3,035 3,220 4,056 4,193 4,150 3,674 -

その他 9,897 10,151 8,246 3,898 1,761 241 13 0

生産事業計 42,734 59,214 65,678 55,566 54,599 50,041 36,785 35,318

EBITDA (百万US$)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

鉄鉱石 7,112 16,605 21,333 15,679 17,442 14,244 7,872 8,526

アルミニウム 575 1,888 2,287 1,370 1,894 2,930 2,742 2,472

銅 3,471 4,499 3,560 1,847 1,750 2,336 - -

銅、石炭 1,968 -

銅、ダイヤモンド 1,387

エネルギー 2,225 2,299 2,232 1,252 906 251 - -

エネルギー、鉱物 1,803

ダイヤモンド、鉱物 1,209 606 703 680 1,085 1,144 833 -

その他 494 757 411 -527 -401 -291 -81 -92

生産事業計 15,053 26,620 29,491 20,291 22,672 20,614 13,334 14,096

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- 123 -

(2) 石炭事業

Rio Tintoは、豪州、米国、モザンビークで石炭事業を展開していたが、2011年に米国一般炭事業か

ら撤退、2014年にはモザンビーク原料炭事業から撤退し、2017年には豪州一般炭事業から撤退した。

同社の生産量は2000年代後半では1億5,000万トンに及んでいたが、米国からの撤退により3,000万

トン台前半まで大きく減少、2017年には豪州一般炭事業からの撤退により、2017年の生産量は2,370

万トンまで減少している。炭種別生産量では、原料炭が 800万トン前後で推移し、一般炭は米国から

の撤退後 2,100万トン前後で推移していたが、2017年には 1,400万トンまで減少し、2018年以降の

一般炭生産量は原料炭生産に伴い生産される450万トン程度となる。

原料炭事業では、2011年にRiversdale Miningを買収することでモザンビーク原料炭事業に参入し、

2012 年から Benga 炭鉱での生産がスタートしたが、石炭市況が悪化する中、計画していた石炭輸送

インフラ開発の認可が下りず、2014 年に 8 月にモザンビークで保有する石炭資産をインドの

International Coal Ventures Privateに売却した。その結果、Rio Tintoの石炭事業は豪州のみとなっ

た。豪州では、強粘結炭をHail CreekとKestrel Coalの2炭鉱で年間700万~800万トン生産して

いる。非微粘結炭は 300万~400万トンを生産していたが、2017年 9月 1日に 100%子会社のCoal

&Allied Industries Ltd.をYancoalに売却したため、2017年の生産量は200万トンまで減少した。

一般炭生産量は、豪州において 2,000 万トン以上を生産していたが、2015 年以降減少し、2017 年

に生産量はCoal & Allied Industries Ltd.を売却したことから1,400万トンに減少した。米国の一般炭

事業は、2009年以降段階的に売却した。

表 5.1.2 Rio Tintoの石炭生産量の推移

注) 100%子会社であるCoal &Allied Industries Ltd.を2017年9月1日に売却。

出所) Annual Report及びProduction Report for the Fourth quarter ended 31 December 2017より

作成

石炭事業の部門別の売上高とEBITDAを図 5.1.3と 表 5.1.3に示す。石炭事業の売上高とEBITDA

は石炭価格の下落により2015年まで減少し、2016年は生産量が減少したことから売上高は微減した

が、EBITDAは価格の高騰により大きく増加し、EBITDAマージンは33.9%となった。

(千トン)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

原料炭

豪州 7,467 8,967 8,815 7,857 7,651 7,054 7,859 8,141 7,704

モザンビーク 188 564 416 0 0 0

計 7,467 8,967 8,815 8,045 8,215 7,470 7,859 8,141 7,704

非微粘結炭

豪州 2,885 3,075 2,859 3,286 3,859 3,213 3,647 4,102 2,020

一般炭

豪州 20,217 18,430 17,791 20,376 22,485 21,501 18,638 17,254 13,933

モザンビーク 272 490 385 0 0 0

米国 109,520 42,283 1,939 0 0 0 0 0 0

計 129,737 60,713 19,730 20,648 22,975 21,886 18,638 17,254 13,933

合 計 140,089 72,755 31,404 31,979 35,049 32,569 30,144 29,497 23,657

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- 124 -

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.3 Rio Tintoの石炭事業の実績

表 5.1.3 Rio Tintoの石炭事業の実績

出所) Annual Reportより作成

5.1.2 Anglo American

Anglo American(Anglo American plc)は、南アフリカで1917年に設立された資源会社(前身は

Anglo American Corporation of South Africa)で、1999年5月にMinorcoと合併し、現在の社名と

なった。同社は、南アフリカを中心に南米、豪州等、世界的に展開する資源会社で、鉄鉱石、石炭、

銅、ニッケル、リン酸塩、ニオビウム、プラチナ、ダイヤモンド等の鉱物資源を幅広く生産している。

(1) 事業別の売上高、EBITDA

図 5.1.4に2016年の売上高とEBITDAの事業別構成を、図 5.1.5と表 5.1.4に売上高とEBITDA

の推移を示す。 2016年の事業構成を見ると売上高ではダイヤモンドと石炭のシェアがそれぞれ25%

程度を占め、プラチナ、鉄鉱石・マグネシウムと続き、EBITDAでは石炭、鉄鉱石・マグネシウム、ダ

イヤモンドのシェアがそれぞれ25%前後を占め、銅、プラチナと続いている。

売上高、EBITDAの推移をみると、資源価格の下落等により売上高、EBITDAは減少しており、特

に 2015 年は、鉄鉱石、ダイヤモンド、銅等の生産量も減少したため落ち込みが激しかったが、2016

年は回復している。

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

米国

モザンビーク

豪州

売上高

-500

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

EBITDA(百万US$)

(百万米ドル)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

売上高 3,870 4,603 5,872 5,008 4,501 3,781 2,757 2,634

豪州 3,870 4,603 5,872 4,998 4,413 3,560 2,757 2,634

モザンビーク - - 0 10 88 221 – 0

米国 1,813 - - - - - 0 0

EBITDA 2,396 1,731 2,310 966 927 354 497 893

豪州 1,799 1,731 2,318 1,030 1,041 450 497 893

モザンビーク - - -8 -64 -114 -96 – –

米国 497 0 0 0 0 0 0 0

EBITDAマージン 61.9% 37.6% 39.3% 19.3% 20.6% 9.4% 18.0% 33.9%

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- 125 -

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.4 Anglo Americanの売上高とEBITDAの事業別構成(2016年)

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.5 Anglo Americanの売上高とEBITDAの推移

表 5.1.4 Anglo Americanの売上高とEBITDAの推移

売上高

鉄鋼石、

マグネシウム

15%

石炭

23%

13%

ニッケル

1.8%

ニオビウ

ム、リン

2.1%

プラチナ

19%

ダイヤモ

ンド

26%

その他

0.02%

鉄鋼石、

マグネシウム

25%

石炭

27%

15%ニッケル

0.9%

ニオビウ

ム、リン

1.9%

プラチナ

9%

ダイヤモ

ンド

23%

EBITDA

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

その他

ダイヤモンド

プラチナ

ニオビウム、リン

ニッケル

石炭

鉄鋼石、マグネシウム

売上高 EBITDA(百万US$)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

売上高 (百万US$)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

鉄鋼石、マグネシウム 3,419 6,612 7,643 6,403 6,517 5,176 3,390 3,426

石炭 4,729 6,388 8,069 7,336 6,400 5,808 4,888 5,263

銅 3,967 4,877 5,144 5,122 5,392 4,827 3,539 3,066

ニッケル 348 426 488 336 136 142 146 426

ニオビウム、リン 0 0 0 770 726 666 544 495

プラチナ 4,535 6,602 7,359 5,489 5,688 5,396 4,900 4,394

ダイヤモンド 1,728 2,644 3,320 4,028 6,404 7,114 4,671 6,068

その他 5,911 5,380 4,525 3,301 1,800 1,859 925 4

合 計 24,637 32,929 36,548 32,785 33,063 30,988 23,003 23,142

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- 126 -

出所) Annual Reportより作成

(2) 石炭事業

Anglo Americanは、豪州、南アフリカ、コロンビア、カナダの 4ヵ国に石炭資産を有し、現在は豪

州、南アフリカ、コロンビアの 3ヵ国で石炭を生産している。生産量は 9,000万トン後半で推移して

いたが、豪州での一般炭事業からの撤退(後述)等により 2017 年には 8,000 万トン前半まで減少し

た。国別の生産量は、南アフリカが全体の 60%近くを占め、豪州が約 30%、コロンビアが約 10%を

占めている。炭種別生産量では、一般炭が80%以上を占めていたが、豪州での一般炭事業からの撤退

により2017年は一般炭が76%まで低下した。

表 5.1.5 Anglo Americanの石炭生産量の推移

注) Foxleigh炭鉱を2016年8月30日に、Callide炭鉱を2016年10月31日に売却。

Drayton炭鉱は2016年10月に生産停止。

出所) Annual Report及びProduction Report for the Fourth quarter ended 31 December 2017より

作成

原料炭は豪州とカナダで生産していたが、価格の低迷によりカナダのPeace River Coalの炭鉱(Trend

炭鉱、Roman Mountain炭鉱)を2014年12月に休山し、care and maintenanceにおいている。豪

州原料炭事業では、既存炭鉱での増産とGrosvenor炭鉱が 2015年から本格生産が開始されたことか

ら生産を拡大させ、2014 年以降は生産量を 2,000 万トンに高めた。しかし、2016 年 8 月 30 日には

Foxleigh炭鉱(2015年生産量180万トン)を売却した。豪州の一般炭事業では、2016年10月31日

EBITDA (百万US$)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

鉄鋼石、マグネシウム 1,593 3,856 4,733 3,198 3,390 2,286 1,026 1,536

石炭 1,581 1,988 2,987 1,849 1,347 1,207 1,046 1,646

銅 2,254 3,086 2,750 2,179 2,402 1,902 942 903

ニッケル 28 122 84 50 -37 28 -3 57

ニオビウム、リン - - - - 176 152 146 118

プラチナ 677 1,624 1,672 580 1,048 527 718 532

ダイヤモンド 215 666 794 711 1,451 1,818 990 1,406

その他 582 641 328 119 -257 -88 -11 -123

合 計 6,930 11,983 13,348 8,686 9,520 7,832 4,854 6,075

(千トン)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

原料炭

 豪州 12,623 14,702 13,253 16,287 16,972 19,433 21,208 20,876 19,661

 カナダ 645 868 936 1,377 1,684 1,473 0 0 0

 南アフリカ 747 437 323 74 0 0 0 0 0

計 14,015 16,006 14,513 17,738 18,656 20,906 21,208 20,876 19,661

一般炭

 南アフリカ 58,411 58,015 56,684 57,058 56,591 55,797 50,269 53,760 49,905

 豪州 14,052 14,461 13,427 12,971 12,503 12,289 12,332 9,511 1,614

 コロンビア 10,940 10,502 10,752 11,549 11,001 11,227 11,074 10,668 10,642

 カナダ 73 0 0 0 0 0 0 0 0

計 83,476 82,977 80,862 81,577 80,095 79,312 73,675 73,939 62,160

合 計 97,491 98,984 95,375 99,315 98,751 100,218 94,883 94,814 81,822

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- 127 -

に Callide 炭鉱を売却し、また、資源枯渇により 2016 年 10 月末で Drayton 炭鉱の生産を停止し、

2017年の一般炭生産量は161万トンまで減少している。

南アフリカ(一般炭)の生産量は、2010年には5,800万トンであったが、近年では5,000万トンま

で減少している。生産量のうち1,700万~1,800万トンが輸出向けで、残りが国内向けである。Anglo

Americanは2017年4月に国内向けのうちEskom関連の炭鉱の売却を発表しており、売却が完了す

れば2018年の生産量は大きく減少することになる。

コロンビアでは Cerrejón 炭鉱の権益を Glencore と Anglo American の 3 社で 1/3 ずつ保有し、

1,000~1,100万トンの一般炭を生産している。

石炭事業の部門別の売上高とEBITDAを図 5.1.6と表 5.1.6に示す。石炭事業の売上高とEBITDA

は石炭価格の下落により2015年まで減少し、2016年は生産量が減少したことから売上高の増加は少

ないが、EBITDAは大きく増加し、EBITDAマージンは31.3%まで改善した。

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.6 Anglo Americanの石炭事業の実績

表 5.1.6 Anglo Americanの石炭事業の実績

出所) Annual Reportより作成

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

コロンビア

南アフリカ

豪州・カナダ

売上高

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

EBITDA(百万US$)

(百万米ドル)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

売上高 4,729 6,243 8,069 7,336 6,400 5,808 4,888 5,263

豪州・カナダ 2,239 3,377 4,347 3,889 3,396 2,970 2,374 2,547

南アフリカ 1,747 2,105 2,642 2,477 2,187 2,083 1,893 2,109

コロンビア 743 761 1,080 970 817 755 621 607

EBITDA 1,581 1,988 2,987 1,849 1,347 1,207 1,046 1,646

豪州・カナダ 729 1,147 1,608 953 672 543 586 996

南アフリカ 550 539 902 607 479 463 345 473

コロンビア 352 358 535 412 299 255 168 235

EBITDAマージン 33.4% 31.8% 37.0% 25.2% 21.0% 20.8% 21.4% 31.3%

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- 128 -

5.1.3 Glencore

Glencoreは、世界最大の商品取引会社であり鉱山開発であるGlencore Internationalと同社の関連

会社で資源メジャーである Xstrataが2013年5月3日に合併し、誕生した。合併当初の社名はGlencore

Xstrataとしたが、2014年5月に再び社名をGlencoreへと変更した。Glencoreの事業分野は、金属

(銅、亜鉛、鉛、ニッケル、合金鉄等)とエネルギー(石炭、石油)及び農産物と多岐にわたる。

(1) 事業別の売上高、EBITDA

図 5.1.7に2016年の売上高とEBITDAの事業別構成185を、図 5.1.8と表 5.1.7に売上高とEBITDA

の推移を示す。2016年の事業構成を見ると銅が全体の40%程度を占め、亜鉛が20%前後を占めてい

る。石炭はこれらに次ぐ事業で全体の20%を占めている。なお、Glencoreは、2014年に西豪州で世

界でも最も低コストの鉄鉱石生産を行っているRio Tintoの買収を提案したが、Rio Tinto側が拒否し

たことにより不成立に終わっている。

注) アルミニウムのEBITDAはマイナスとなっているので除外している。

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.7 Glencoreの売上高とEBITDAの事業別構成(2016年)

売上高、EBITDAの推移をみると、資源価格の下落等により売上高、EBITDAは減少しており、特

に2015年の減少が大きく、2016年の売上高は微減であったが、EBTDAは上昇した。なお、2013年

はXstrataとの合併により大きく増加した。

185 Glencoreの年次報告では、財務状況をMarketing activitiesと Industrial activitiesに分けて報告しており、ここ

では Industrial activities の数値を用いている。

売上高

亜鉛

19%

40%

アルミニ

ウム

0.04%

合金、

ニッケル、

鉄鉱石

11%

石炭

20%

石油

0.8%

農産物

9%

亜鉛

25%

43%

合金、

ニッケル、

鉄鉱石

11%

石炭

18%

石油

1.6%

農産物

1.8%

EBITDA

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- 129 -

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.8 Glencoreの売上高とEBITDAの推移

表 5.1.7 Glencoreの売上高とEBITDAの推移

出所) Annual Reportより作成

(2) 石炭事業

Glencoreは、南アフリカとコロンビアで石炭事業を展開していたが、豪州、南アフリカ、コロンビ

アで石炭事業を展開していたXstrataとの合併により生産量を大きく増加させた。同社の生産量は2014

年には 1億 4,700万トンに達したが、南アでの事業縮小により 2017年には 1億 2,000万トンまで減

少している。炭種別に見ると、原料炭の生産量は 400万トン程度で、生産量の大部分が一般炭で、豪

州で5,500万~6,000万トン、コロンビアで2,500万~3,000万トンが生産され、南アフリカの一般炭

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

農産物

石油

石炭

合金、ニッケル、鉄鉱石

アルミニウム

亜鉛

売上高 EBITDA(百万US$)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

売上高 (百万US$)

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

亜鉛 2,756 3,291 3,809 7,667 7,711 6,343 6,511

銅 3,431 4,176 3,473 18,623 17,766 14,424 13,864

アルミニウム 422 520 426 518 475 358 13

合金、ニッケル、鉄鉱石 713 680 712 4,387 5,073 3,657 3,808

石炭 1,246 1,667 2,339 11,597 10,437 7,925 6,868

石油 253 642 1,302 672 680 481 281

農産物 2,180 3,359 3,074 3,185 3,298 2,529 3,292

合 計 11,001 14,335 15,135 46,649 45,440 35,717 34,637

EBITDA (百万US$)

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

亜鉛 1,040 1,159 1,057 1,573 1,397 1,073 1,916

銅 600 745 539 4,661 4,306 2,290 3,333

アルミニウム -9 60 8 24 35 -43 -60

合金、ニッケル、鉄鉱石 189 83 19 945 1,339 710 841

石炭 325 493 466 2,939 2,416 2,079 1,382

石油 -12 23 488 439 425 190 121

農産物 107 23 59 61 213 150 138

合 計 2,240 2,586 2,636 10,642 10,131 6,449 7,671

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生産量は2014年の4,700万トンから2017年には2,900万トンまで減少している。なお、Glencoreは

Yancoalと三菱商事からHunter Valley Operationsの権益49%の取得を進めており、豪州において優

良資産の獲得を進めている。

表 5.1.8 Glencoreの石炭生産量の推移

出所) Annual Report及びProduction Report for the Fourth quarter ended 31 December 2017より

作成

石炭事業の部門別の売上高とEBITDAを図 5.1.9と 表 5.1.9に示す。石炭事業の売上高とEBITDA

は石炭価格の下落により2015年まで減少し、2016年は生産量が減少したことから売上高は横ばいで

あったが、EBITDAは価格の高騰により増加し、EBITDAマージンは30.1%となった。

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.9 Glencoreの石炭事業の実績

(百万トン)

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

原料炭

豪州強粘結炭 7.3 6.0 5.9 5.3 6.1

豪州非微粘結炭 4.5 3.5 3.6 4.2 4.0

計 11.8 9.5 9.5 9.5 10.1

一般炭

豪州 53.2 60.0 56.3 58.1 56.6

南アフリカ 7.4 5.9 27.1 43.5 46.8 37.0 29.3 28.7

コロンビア 10.0 14.6 14.8 29.6 30.7 28.7 28.0 25.2

計 17.4 20.5 41.8 126.3 137.5 122.0 115.4 110.5

合 計 17.4 20.5 41.8 138.1 147.0 131.5 124.9 120.6

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

コロンビア

南アフリカ

豪州一般炭

豪州原料炭

売上高 EBITDA

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- 131 -

表 5.1.9 Glencoreの石炭事業の実績

出所) Annual Reportより作成

5.1.4 BHP Billiton

BHP Billitonは、2001年6月に豪州のBHP Limited(現BHP Billiton Limited)と英国のBilliton

Plc(現BHP Billiton Plc)の合併により誕生した総合資源会社で、事業範囲は金属鉱物からエネルギ

ー資源に及んでいる。しかし、同社は、鉄鉱石や銅、石油、石炭の中核事業に経営資源を集中させるた

めに、2012年にダイヤモンド事業を売却、2014年 8月にはアルミ、石炭の一部186、マグネシウム、

ニッケル等の事業を分社化することを発表し、同年12月に新会社の名称をSouth32とした。South32

は、2015年5月のBHP Billitonの株主総会で分社化が承認され、発足した。

BHP Billitonは現在、世界10ヵ国で事業を展開し、鉄鋼石、銅、亜鉛、原料炭、一般炭、石油、ガ

ス等を生産している。

(1) 事業別の売上高、EBITDA

会計上は、鉄鉱石、銅、石油、石炭の 4 事業に分けている。図 5.1.10 に 2016 年度187の売上高と

EBITDA188の事業別構成を、図 5.1.11 と表 5.1.10 に売上高と EBITDA の推移を示す。 売上高、

EBITDAともに鉄鉱石事業のシェアが大きく、残りの銅、石炭、石油事業のシェアは20%前後とほぼ

同等である。

売上高、EBITDA の推移をみると資源価格の下落と South32 の分社化189により 2014 年度、2015

年度には大きく減少した。

186 南アフリカの一般炭事業と豪州 Illawarra炭鉱(原料炭)。 187 豪州会計年度(7月から翌年6月まで)。 188 EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization):利払い・税金・償却前利益 189 2015年5月に分社化が承認されたことからアルミニウム・マグネシウム・ニッケル事業と一部の石炭事業がSouth32

に移り、2015年6月末の年次報告(Annual Report 2015、2014年7月から2015年6月までの報告)から移動し

た事業の報告がなされなくなった。

(百万米ドル)

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

売上高 1,246 1,667 2,339 11,597 10,437 7,925 7,848

豪州原料炭 1,526 1,118 744 653

豪州一般炭 5,396 5,082 4,009 4,088

南アフリカ 292 323 1,123 2,352 2,084 1,461 1,358

コロンビア 954 1,344 1,216 2,323 2,153 1,711 1,749

EBITDA 325 493 466 2,939 2,416 2,079 2,362

豪州原料炭 336 171 117 154

豪州一般炭 1,268 1,224 1,159 1,334

南アフリカ 47 75 316 693 450 386 456

コロンビア 278 418 150 642 571 417 418

EBITDAマージン 26.1% 29.6% 19.9% 25.3% 23.1% 26.2% 30.1%

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- 132 -

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.10 BHP Billitonの売上高とEBITDAの事業別構成(2016年度)

注) 売上高、EBITDAは豪州会計年度(7月から翌年6月)ベース。

*1: アルミニウム他:アルミニウム、マグネシウム、ニッケル。

*2: ベースメタル/銅:2011年までベースメタル、2012年以降は銅。

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.11 BHP Billitonの売上高とEBITDAの推移

表 5.1.10 BHP Billitonの売上高とEBITDAの推移

石油

20%

17%鉄鉱石

44%

石炭

19%

石油

19%

22%鉄鉱石

39%

石炭

20%

売上高 EBITDA

0

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000

80,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

その他

ダイヤモンド

アルミニウム他*1

石炭

鉄鉱石

ベースメタル/銅*2

石油

売上高

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

35,000

40,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

EBITDA(百万US$)

売上高 (百万US$)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

石油 8,782 10,737 12,937 13,224 14,833 11,447 6,894 6,872

ベースメタル/銅*2

10,409 14,152 11,596 14,537 13,868 11,453 8,249 8,335

鉄鉱石 11,139 20,412 22,601 18,593 21,356 14,753 10,538 14,624

石炭 10,324 13,080 13,598 9,895 9,115 5,885 4,518 7,578

アルミニウム他*1 10,120 11,505 9,911 9,278 8,411 - - -

ダイヤモンド 1,272 1,517 1,326 - - - - -

その他 752 336 257 426 -377 1,098 713 876

合 計 52,798 71,739 72,226 65,953 67,206 44,636 30,912 38,285

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注) 売上高、EBITDAは豪州会計年度(7月から翌年6月)ベース。

*1: アルミニウム他:アルミニウム、マグネシウム、ニッケル

*2: ベースメタル/銅:2011年までベースメタル、2012年以降は銅

出所) Annual Reportより作成

(2) 石炭事業

BHP Billitonは、国際石炭市場における世界最大の原料炭サプライヤーで、現在、豪州で原料炭と

一般炭を、米国、コロンビアで一般炭を生産している。生産は 2010年度(2009/2010年度)190に停滞

したが、2011年度以降順調に増加した。なお、2015年度の生産量は Illawarra Coal(原料炭)と南ア

フリカの一般炭資産がSouth32に移ったため、生産量は4,000万トン程減少した。同社は現在、3ヵ

国で生産を行っているが、豪州での生産量が全生産量の80%、コロンビアでの生産量が15%を占めて

いる。炭種別の生産量は、年間3,000万トンの生産があった南アフリカの一般炭資産をSouth32に移

したため、原料炭の生産比率が55%を上回り、炭種別生産比率が逆転した。

豪州での生産量をみると、原料炭は洪水とストライキの影響で2010年度に大きく減少したが、その

後回復し、生産量は増加した。石炭価格が低迷する中、同社は新規炭鉱を立ち上げ生産性を高めると

ともに生産を伸ばしてきた。2013年にDaunia炭鉱、2014年にCaval Ridge炭鉱が操業を開始して

いる。一方で生産性の低い炭鉱の操業を停止しており、2012 年 5 月にNorwich Park 炭鉱が、2012

年10月にGregory炭鉱(露天掘)が閉鎖され、2015年12月にCrinum炭鉱の生産を停止した。一

般炭はNSW州にMount Arthur炭鉱を所有し、生産量を伸ばしてきた。しかし、近年は世界の輸出

需要は停滞気味で、生産は伸び悩んでいる。

米国での生産量は1,000万トン台をキープしてきたが、2015年度以降大きく落ち込んでいる。コロ

ンビアでは Cerrejón 炭鉱の権益を Glencore と Anglo American の 3 社で 1/3 ずつ保有している。

Cerrejón炭鉱では生産能力を 800万トン/年増強し、4,000万トン/年に拡張する“P40 Project”があ

ったが、生産量はほぼ横ばいで推移している。インドネシアでは、中央カリマンタン州で IndoMet Coal

プロジェクト(BHP Billitonが75%、PT Alam Tri Abadi (Adaro)が25%)を進めていたが、2016年

に10月に同プロジェクトの権益75%をAdaroに譲渡した。

石炭事業の部門別の売上高と EBITDA を図 5.1.12 と表 5.1.12 に示す。石炭事業の売上高と

EBITDAは石炭価格の下落により2015年度まで減少した。なお、2014年度の減少には Illawarraと

南アフリカ事業の South32 への移行分も含まれている。2016 年度は石炭価格の高騰により売上高、

EBITDAは大きく増加し、EBITDAマージンは48.4%と上昇した。

190 豪州会計年度(7月~翌年6月)

EBITDA (百万US$)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

石油 6,571 8,319 9,415 8,910 9,615 7,201 3,658 4,063

ベースメタル/銅*2

5,393 7,525 4,687 6,885 6,586 5,205 2,619 3,545

鉄鉱石 6,496 13,946 15,027 12,113 13,531 8,648 5,599 9,077

石炭 3,334 4,496 3,592 1,480 1,717 1,242 635 3,784

アルミニウム他*1

2,553 2,366 809 915 1,029 - - -

ダイヤモンド 648 779 353 - - - - -

その他 -482 -338 -137 5 -119 -444 -171 -173

合 計 24,513 37,093 33,746 30,308 32,359 21,852 12,340 20,296

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- 134 -

表 5.1.11 BHP Billitonの石炭生産量の推移

注) 生産量は豪州会計年度(7月から翌年6月)ベース。

Illawarraと南アフリカの事業のSouth32への移行は2015年5月の株主総会で承認された。

原料炭のBMAはBHP Billiton Mitsubishi Alliance。BHP Billitonの権益は50%。生産量は

権益分の数量を示す。

BHP-MitsuiはBHP Billiton Mitsui Coal。BHP Billitonの権益は80%であるが、表に示す生

産量は権益100%ベース。

南アフリカではBHP Billiton は権益の 90%を所有するが、表に示す生産量は権益 100%ベー

ス。

出所) Annual Reportより作成

注) 生産量は豪州会計年度(7月から翌年6月)ベース。

Illawarraと南アフリカの事業のSouth32への移行は2015年5月の株主総会で承認された。

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.12 BHP Billitonの石炭事業の実績

(千トン)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

原料炭

 BMA 24,403 19,901 18,611 22,645 29,256 33,862 33,413 31,458

 BHP-Mitsui 6,443 5,893 6,693 7,063 8,309 8,759 8,898 8,312

 Illawarra 6,535 6,884 7,926 7,942 7,513 7,216 - -

 豪州計 37,381 32,678 33,230 37,650 45,078 49,837 42,311 39,770

 インドネシア 529 129

計 37,381 32,678 33,230 37,650 45,078 49,837 42,840 39,899

一般炭

 南アフリカ 30,459 34,328 33,279 31,627 30,384 28,677 - -

 豪州 12,039 13,671 16,757 18,010 19,964 19,698 17,101 18,176

 コロンビア 10,155 9,889 11,663 10,017 12,332 11,291 10,094 10,959

 米国 13,478 11,612 12,568 12,791 10,812 10,023 7,052 451

計 66,131 69,500 74,267 72,445 73,492 69,689 34,247 29,586

合 計 103,512 102,178 107,497 110,095 118,570 119,526 77,087 69,485

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

コロンビア

米国

南アフリカ

NSW

Illawarra

QLD

売上高 EBITDA

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- 135 -

表 5.1.12 BHP Billitonの石炭事業の実績

注) 生産量は豪州会計年度(7月から翌年6月)ベース。

Illawarraと南アフリカの事業のSouth32への移行は2015年5月の株主総会で承認された。

出所) Annual Reportより作成

5.1.5 Peabody

Peabody Energy Corporation(以下Peabody)は、米国最大の石炭生産企業であり、米国及びオー

ストラリアでの石炭生産・販売のほか、石炭のトレーディングを行う企業である。1993年から豪州で

石炭事業を展開していたが、2001年に一旦豪州の石炭事業から撤退し、2002年 8月に再び豪州の石

炭事業に復帰した。

(1) 石炭生産

Peabodyの石炭生産量は2億トンを上回っていたが、米国国内需要の減少により1億7,500万トン

まで減少している。同社は、主にPowder River Basinを中心に米国中西部と南西部で一般炭生産を行

っているほか、豪州では原料炭、一般炭を生産している。

表 5.1.13 Peabodyの石炭生産量の推移

出所) Annual Reportより作成

(百万米ドル)

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

売上高 10,324 12,216 13,598 10,723 9,971 6,703 5,139 8,427

QLD 5,041 6,048 5,875 4,452 4,666 4,221 3,351 6,316

Illawarra 1,018 1,525 1,701 1,287 886 - - -

NSW 859 1,442 1,599 1,526 1,350 1,225 914 1,351

南アフリカ 1,143 1,754 1,894 1,457 1,279 - - -

米国 514 537 587 588 520 531 320 3

コロンビア 698 923 1,086 828 814 719 525 749

EBITDA 3,334 4,496 3,592 1,717 1,981 1,583 877 4,081

QLD 2,063 2,440 1,480 627 949 1,006 587 3,256

Illawarra 369 740 826 311 131 - - -

NSW 342 558 538 314 324 303 133 525

南アフリカ 222 399 468 177 315 - - -

米国 78 78 36 95 105 134 114 -6

コロンビア 328 417 537 307 305 231 134 363

EBITDAマージン 32.3% 36.8% 26.4% 16.0% 19.9% 23.6% 17.1% 48.4%

(百万ショート・トン)

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

米国 190.6 200.9 191.9 183.6 189.5 174.8 142.3

中西部 26.4 26.8 27.3 26.3 24.9 21.1 17.8

パウダー・リバー 140.5 148.2 139.2 134.2 141.4 135.9 112.2

南西部 16.0 18.2 17.4 15.9 16.5

コロラド 7.7 7.7 8.0 7.2 6.7

豪州 25.1 25.4 33.8 34.9 37.7 33.9 33.3

(一般炭) (20.9) (18.5) (20.8)

(原料炭) (16.8) (15.4) (12.5)

合 計 215.7 226.3 225.7 218.5 227.2 208.7 175.6

17.8 12.3

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売上高、EBITDA、当期純利益の推移をみると、需要の減少と国際石炭価格の低迷により売上高と

EBITDA は減少しており、2012 年以降、純損失を計上している。Peabodyは 2016 年 4 月に連邦破

産法第 11条を連邦破産裁判所に申請し、同年 8月に 2017-2021年の 5年間を対象とするビジネスプ

ランを発表、会社再建に向けて動き出している。同プランには豪州原料炭販売を 2021年段階で700万

トンに削減としている191。これを受けた動きと推察されるが、原料炭資産の整理を進めている。例え

ば、2015年に既存原料炭炭鉱であるBurton炭鉱の生産を2016年中に停止し、2017年には同炭鉱を

売却すると発表している。

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.13 Peabodyの売上高、EBITDA、当期純利益の推移

表 5.1.14 Peabodyの事業セクター別実績

出所) Annual Reportより作成

191 TEXレポートより

6,668

7,896 8,078

7,014 6,792

5,609

4,715

1,827 2,123 1,837 1,047 814

435 492 802 946

-575 -513 -777

-1,989

-732 -2,000

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$) 売上高 EBITDA 当期純利益

(百万米ドル)

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

売上高 6,668 7,896 8,078 7,014 6,792 5,609 4,715

豪州 2,400 3,081 3,504 2,905 2,672 2,005 1,915

(一般炭) (824) (825)

(原料炭) (1,182) (1,090)

米国西部 2,706 2,900 2,949 2,670 2,826 2,548 1,999

米国中西部 1,249 1,403 1,404 1,336 1,198 981 793

トレーディング 291 475 200 66 58 43 -11

その他 22 37 21 38 38 32 19

EBITDA 1,827 2,123 1,837 1,047 814 435 492

豪州 977 1,194 939 317 74 175 201

(一般炭) (194) (218)

(原料炭) (-18) (-16)

米国西部 817 766 833 698 770 668 482

米国中西部 310 403 427 428 301 270 217

トレーディング 77 197 120 -20 15 27 -72

その他 -355 -438 -482 -376 -347 -705 -336

EBITDAマージン 27.4% 26.9% 22.7% 14.9% 12.0% 7.7% 10.4%

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注) 売上高、EBITDAは部門別(豪州、米国西部、米国中西部、トレーディング)の値を積み上げ

ているため、表5.1.14の合計(その他の費用を差し引いた値)と一致しない。

出所) Annual Reportより作成

図 5.1.14 Peabodyの事業セクター別の売上高とEBITDAの推移

5.2 資源メジャー等のポートフォリオの見直し動向

資源メジャー各社は、2016年年初までの資源価格の下落、2016年第 2半期からの価格の高騰によ

り、石炭事業の整理・見直しを進めている。Rio TintoやAnglo Americanは一般炭を中心に石炭事業

の縮小を進めているが、Glencoreは一般炭事業の拡大を図り、BHP BillitonはSouth32を立ち上げ

石炭事業の一部とアルミ事業等を分社化した。以下に、各社の2013年以降の石炭関連資産の動きを整

理する。

5.2.1 Rio Tinto

Rio Tintoは、前述(5.1.3)の通り、2011年に米国一般炭事業から撤退し、豪州で一般炭と原料炭

事業を、モザンビークで原料炭事業を展開していた。しかし、豪州ではClermont Joint Venture(保

有権益50.1%)、Bengalla Joint Venture(保有権益40%)、Mount Pleasant Project(保有権益100%)

を 2014 年から 2016 年にかけて売却し、2017 年には 100%子会社の Coal & Allied Industries

Limited192を売却し、NSW 州の一般炭(PCI 炭)事業から撤退した。2017 年末時点の豪州における

保有資産は、QLD州のKestrel炭鉱とHail Creek炭鉱(ともに原料炭炭鉱で強粘結炭と一般炭を生

産)の権益(それぞれ82%、80%)となった。これら2炭鉱を売却するとの報道が2017年2月にな

されたが193、その後は、同社ホームページのプレスリリースや報道等にも売却の発表はない。なお、

モザンビークの原料炭事業は、2014年7月30日に売却されている。

192 Hunter Valley Operations(保有権益67.6%)、Mount Thorley炭鉱(保有権益80%)、Warkworth炭鉱(保有権

益55.57%)、Port Waratah Coal Services Ltd.(保有権益36.45%)。 193 TEXレポート、The Australianより。

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016

(百万US$)

トレーディング

米国中西部

米国西部

豪州

売上高 EBITDA

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表 5.2.1 Rio Tintoの石炭関連資産の売買状況

2013 年10 月25 日

2014 年6 月2 日

Clermont Joint Venture の権益50.1%をGS Coal(Glencore Xstrata と住友商事が所有)に

売却することで合意。10.15 億米ドル。

売却が完了。

2014 年7 月30 日

2014 年10 月8 日

Rio Tinto Coal Mozambique を International Coal Ventures Private に売却。5,000 万米ドル。

この売却にはBenga 炭鉱(原料炭)とTete 州でのその他石炭プロジェクトが含まれる。

売却が完了。

2016 年2 月3 日 Coal &Allied Industries の株式 20%を取得する一方で、Hunter Valley Operations の権益

32.4%を三菱商事に譲渡。これによりRio Tinto はCoal &Allied Industries の株式100%を保

有。

2015 年9 月30 日

2016 年3 月1 日

Bengalla Joint Venture の権益 40%を New Hope に売却することで合意。6 億 600 万米ド

ル。

売却が完了。8 億6,500 万豪ドル(6 億1,670 万米ドル)。

2016 年1 月27 日

2016 年8 月5 日

Mount Pleasant Project の権益100%をMACH Energy へ売却することで合意。2 億2,400

万米ドル+ロイヤルティー。

売却が完了。2 億2,070 万米ドル*1)+ロイヤルティー。

2016 年2 月10 日

2016 年9 月2日

Zululand Anthracite Colliery(南アフリカ、無煙炭)の権益74%をMenar Holding に売却す

ることで合意

売却が完了。

2017 年1 月24 日

2017 年6 月26 日

2017 年9 月1 日

Coal & Allied Industries Limited(100%子会社)をYancoal Australia に売却することで合意。

24.5 億米ドル*2)。

売却を再合意。26.9 億米ドル*2)。

売却が完了。26.9 億米ドル*2)。

注) *1)為替レートにより金額が異なる。

*2)Press Releaseには豪ドル・米ドルの別が明記されていないが、国際資源メジャーであるこ

とから米ドルと推察。

出所)Press Release、Annual Report、その他報道より作成

5.2.2 Anglo American

Anglo Americanの石炭事業の縮小は、2015年の終わりから一般炭を中心に豪州と南アフリカで始

まり、豪州ではQLD州のFoxleigh炭鉱(原料炭)、Callide炭鉱(一般炭)、NSW州のDartbrook炭

鉱(一般炭)の売却が完了し、NSW州のDrayton炭鉱(一般炭)の売却が決まっている。南アフリ

カではExxaro Resourcesの権益9.7%、一般炭炭鉱(New Vaal、New Denmark、Kriel)、New Largo

一般炭プロジェクトの売却を発表している。なお、Anglo American は所有する原料炭資産のうち

Moranbah North炭鉱、Grosvenor炭鉱、及びMoranbah South鉱区を売却すると2016年2月に発

表したが、原料炭価格が上昇したことを受け、2016年8月に売却を中止している194。また、カナダに

所有する原料炭資産Peace River CoalのTrend炭鉱とRoman Mountain炭鉱は 2014年 12月以降

care & maintenance におかれている。

表 5.2.2 Anglo Americanの石炭関連資産の売買状況

2016 年 4 月1 日

2016 年8 月30 日

QLD 州のFoxleigh 炭鉱(原料炭)の権益70%のTaurus Fund Management への売却を発

表。

売却が完了。

2016 年 1 月20 日

2016 年10 月31 日

QLD 州のCallide 炭鉱(一般炭)の権益100%をBatchfire Resources に売却することを発

表。

売却が完了。

194 TEXレポートより。

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2016 年 12 月1 日 南アフリカのExxaro Resources の権益9.7%を売却すると発表。30 億ランド(約2 億1,500

万米ドル)。

2017 年4 月10 日 南アフリカの一般炭炭鉱(New Vaal、New Denmark、Kriel)を Seriti Resources Holdings

Proprietary Limited への売却を発表。23 億ランド(1.64 億米ドル)。

2017 年5 月4 日 NSW 州のDrayton 炭鉱(一般炭)の権益88.17%をMalabar Coal に売却すると発表。

2015 年12 月24 日

2017 年5 月30 日

NSW 州のDartbrook 炭鉱の権益83.33%のAustralian Pacific Coal への売却を発表。5,000

万豪ドル(約3,600 万米ドル)。

売却が完了。

2018 年1 月29 日 南アフリカのNew Largo プロジェクト(一般炭)の権益をLargo Coal Proprietary に売却す

ると発表。8.5 億ランド(約7,100 万米ドル)。

出所)Press Release、Annual Report、その他報道より作成

5.2.3 Glencore

Glencore International と Xstrata の対等合併により現在の Glencore が誕生した。2014 年には

Clermont炭鉱を買収したが、石炭価格の低迷から南アフリカやカナダの資産を売却した。豪州では生

産性の低い炭鉱の閉山や休山、一方で生産性の高い炭鉱での拡張により生産を維持・拡大し、Glencore

Rail及びAbbot Point Bulk Coalを売却した。2017年に入っても生産性の低い坑内掘り炭鉱の売却を

進める一方、2016年第2半期以降に価格が高騰したことから権益取得に動いている。Rio TintoのCoal

& Allied買収に対して、Yancoal Australiaよりも高い買収価格を提示し、Rio Tintoの買収が決定し

た後の2017年7月にHunter Valley Operationsの権益49%の取得をYancoalと合意し、2017年8

月末にはYancoal Australiaの新規発行の株式を6.82%購入した。

表 5.2.3 Glencoreの石炭関連資産の売買状況

2013 年5 月3 日 Glencore International とXstrata が合併。

2013 年10 月25 日

2014 年6 月2 日

Clermont 炭鉱の50.1%をRio Tinto から買収することで合意。GS Coal(Glencore Xstrata

と住友商事が各50%を出資)が購入する。10.15 億米ドル。

買収が完了。

2014 年12 月 カナダDonkin プロジェクトの権益75%をKameron Collieries への売却が完了。

2015 年12 月 南アフリカOptimum Coal Mine をOakbay Investments Group に売却することで合意。

2016 年9 月20 日 Abbot Point Bulk Coal をAdani に売却することで合意。

2016 年10 月20 日

2016 年12 月1 日

石炭輸送会社であるGlencore Rail (GRail) をGenesee & Wyoming Australia (GWA)に売却

することで合意。11.4 億豪ドル。

売却が完了。

2016 年12 月 Newlands 複合炭鉱と Collinsville 炭鉱の権益それぞれ 45%を伊藤忠(35%)と住友商事

(10%)から買収。

2017 年6 月12 日 Rio Tinto のCoal & Allied 買収に対して、Yancoal 社よりも高い買収価格を提示し、買収に

意欲。25.5 億米ドル。

2017 年7 月27 日 Hunter Valley Operations の権益 49%を取得することを合意。11 億 3,900 万米ドル+ロイ

ヤルティー。

2017 年8 月30 日 Rolleston 炭鉱の権益75%を売却する方針。

2017 年8 月31 日 Yancoal Australia の株式6.82%を取得。3 億米ドル。

2018 年1 月2 日 Tahmoor 炭鉱(坑内掘り)を SIMEC Mining に売却することで合意。売却価格は、事業者

側は公表していないが、報道によれば1 億米ドル195。

出所)Press Release、Annual Report、TEXレポート等より作成

195 2018年1月2日付ロイター https://www.reuters.com/article/us-glencore-australia-coal/glencore-sells-

australian-coal-mine-to-guptas-gfg-alliance-idUSKBN1ER0D3

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5.2.4 BHP Billiton

BHP Billitonは 2015年 5月 25日に非鉄金属部門と石炭部門の一部を分社化し、South32を設立

した。石炭部門では豪州NSW 州の Illawarra Coal と南アフリカの一般炭事業を South32 に移行し

た。また、2016年 6月 7日にインドネシアの原料炭プロジェクト IndoMet Coalの保有権益 75%を

売却し、原料炭事業を豪州QLD州に集中させ、一般炭事業は豪州とコロンビアで展開する。BHP Billiton

も生産性の低い炭鉱を閉山もしくは休山とし、一方で生産性の高い炭鉱の拡張と新規炭鉱の操業を開

始して、生産の維持・拡大を図っている。

表 5.2.4 BHP Billitonの石炭関連資産の売買状況

2014 年12 月8 日

2015 年5 月25 日

社名をSouth32 とすると発表。

South32 の設立、分社化が完了。

2015 年7 月2 日 BHP Billiton New Mexico Coal がSan Juan Mine をWestmoreland Coal への売却を発表。

報道によれば価格は1.27 億米ドル196。

2016 年6 月7 日 インドネシアの原料炭プロジェクト IndoMet Coal の権益75%をAdaro Energy に売却する

ことで合意。価格は非公表。

出所)Press Release、Annual Report、TEXレポート等より作成

5.3 エネルギー事業者による石炭火力発電部門からの撤退等の動向

5.3.1 豪州

豪州では、国内の大手電力・ガス会社であるAGLは2015年4月に、石炭火力発電による売電及び

同社が所有・運転する石炭火力発電所を2050年までにすべて廃止する方針を発表した197。AGLはヴ

ィクトリア州のLoy Yang石炭火力発電所、NSW州のLiddell及びBayswater石炭火力発電所、サ

ウス・オーストラリア州のSomerton及びTorrens Island石炭火力発電所等を所有している。豪州で

は、再生可能エネルギー電力の急拡大を背景に、サウス・オーストラリア州で2016年9月に大規模な

停電が発生したことや、電気料金の上昇(前述)等が問題となっている。2017年 12月の報道によれ

ば、連邦政府は、同社の発表に対し、Liddell石炭火力発電を維持、もしくは他社への売却を求めたが、

同社は、既存の石炭火力発電のリプレースと天然ガス及び再生可能エネルギー発電のコストを比較検

討した結果として、転換方針を変えない意思を表明した。連邦政府によれば、閉鎖により 2022 年

1,000MW程度の容量不足が予想される198。

同様に豪州ヴィクトリア州では、Hazelwood褐炭発電所が 2017年 3月に閉鎖された。同発電所は

1960年代の運転開始以降、同州の電力需要の1/4を賄う主要な発電所であったが、親会社であるEngie

は、同発電所の経済性を理由に閉鎖する方針を2016年11月に発表した。発表から閉鎖までの期間が

極めて短く、電力の安定供給に関する懸念から、政府は発電所の運転延長等を求めていたが、同発電所

は閉鎖に至った。豪州連邦政府は、こうした事案から、発電所の閉鎖は 3 年前に通知することを義務

づける等の制度改正を行った。

196 https://www.worldcoal.com/coal/02022016/westmoreland-coal-acquires-san-juan-mine-for-us127-million-155/ 197 The Guardian, April 17, 2015

https://www.theguardian.com/australia-news/2015/apr/17/agl-to-shut-all-coal-fired-power-stations-by-2050-in-bid-to- 198 The Guardian, April 17, 2015

https://www.theguardian.com/australia-news/2015/apr/17/agl-to-shut-all-coal-fired-power-stations-by-2050-in-bid-to-

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5.3.2 米国

米国では、電力需要が堅調に増加していた 1990 年代に複数の石炭火力発電所建設が計画された。

2000年代初頭の時点で、石炭は米国の電源構成中 50%以上を占めていたが、SO2、NOxや水銀等の

大気汚染を懸念する周辺自治体の反対により建設計画が大幅に遅延するケースが増加し、2004年以降、

徐々に比率が低下した。さらに2010年以降には石炭火力発電所の閉鎖が相次ぎ、2016年には30.4%

に低下した。この間、原子力は安定的に2割程度を占めており(2016年は19.8%)、水力を除く再生

可能エネルギーと天然ガスが、シェアを拡大した。再生可能エネルギーは、主に政府の普及拡大策と急

速なコスト低減に支えられて拡大してきたが、天然ガスのシェア拡大の要因は、①2009~12年にかけ

て石炭に対する相対価格が急激に下落し、その後も低位安定していること、②再生可能電力の拡大に

伴ってバックアップ電源の必要性が高まり、負荷追従性の高さや、石炭火力と比較して小規模設備・小

型投資で建設が可能、という天然ガス火力の特性が評価された点にある。

このように、2010年以降の石炭火力発電所の閉鎖は、一義的にはシェールガスに牽引された国内の

天然ガス生産の急拡大と天然ガス価格の低下によるものだが、前述のとおり石炭火力に対する周辺地

域の反対は強く、オバマ政権下で水銀やSO2・NOx排出規制が強化され、運転を続けるには追加的な

設備投資が必要となったことも、石炭火力の経済性の悪化に拍車をかけた。2017 年には AES

Corporation、Appalachian Power、DTE Energy等が所有するプラントの閉鎖を発表している。

発電事業者として米国最大で従来は石炭火力が設備の60%を占めたAmerican Electric Power(AEP)

は、2017年6月に「今後も石炭は電源構成の一翼を担うが、投資家からの我々の事業への持続可能性

と経営リスク低減の期待は高く、需要家もクリーンなエネルギーへの志向を強めており、その役割は限

定的」として、再生可能電力に大規模投資を行い、同社の2020年時点の発電電力量に占める石炭比率

は約 30%に留まるという展望を示した。同社CEOは、再生可能電力のコスト低下やガス価格の低下

といったビジネス環境の変化の中で、石炭火力発電については環境対策設備の付帯要件等により建設

コストが上昇し、石炭火力の経済性は大きく変化したとコメントしている199。

他方で、米国の電力市場において、気候変動対策の圧力が高まっていることも事実である。COP23

が行われた2017年11月、欧州を中心に20以上の国が2030年に向けて電力部門の“脱石炭”を宣言

したが、米ワシントン及びオレゴン州もこれに参加を表明した。オレゴン州は2017年時点で電源構成

中の石炭比率0%、ワシントン州は同9.7%であり電力市場への影響は限定的だが、今後、これに追随

する州が増える可能性もある。

AEP子会社でウェストバージニア州の発電事業者Appalachian Powerも、石炭火力を引き続き重

視するトランプ政権とジャスティス州知事に対し「炭素排出規制の導入は不可避であり石炭の漸減は

確実」と反論している。またミシガン州の電力会社DTE Energyは、持続可能性戦略の一環として2050

年までに炭素排出量80%削減を掲げ、再エネ投資とともに石炭火力からガス火力への転換を表明、2018

年 2月には同じくミシガン州の電力会社Consumers Energyが、2040年までに石炭火力の運転を全

面停止する方針を明らかにした。

199 2017年6月5日報道 https://www.greentechmedia.com/articles/read/aep-ceo-we-are-moving-to-a-clean-

economy-trump-paris-coal#gs.XUWDV=8

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注)石炭火力及び石油火力の設備容量減少は、プラント閉鎖によるものと、プラント数は維持されるが

脱硫/脱硝/水銀除去装置などの環境投資、あるいは老朽化部品の交換に際して、設備容量は削減し

つつ発電効率を改善する場合が含まれ、統計上も区分されている。

出所)EIAより作成

図 5.3.1 米国の発電設備容量増減の推移

こうした豪州及び米国における石炭火力発電所の閉鎖は、環境保護の観点に立った電力会社に対す

る抗議活動や、金融機関ないし株主による“脱石炭”の圧力が高まる中で発生しているものの、閉鎖を

促す要因は環境問題のみにあるわけではなく、各地域における電力市場の状況、具体的には、燃料への

アクセス(石炭、天然ガスの供給量とインフラ)、卸電力市場の設計、卸電力価格と燃料の相対価格、

原子力立地や再エネ導入状況等の諸要因が影響している。

また、地域の産業・雇用への影響懸念から産炭州・自治体政府が石炭火力の温存を企業に働きかけ

るケース、あるいは地域の電力需給逼迫や供給信頼度の面の懸念から、電力会社による石炭火力の廃

止計画に対し地域送電機関(ISO/RTO)が漸進的な措置を求める場合ケースも考えられる。前述の通

り、豪州連邦政府は(前出、National Energy Guarantee)を通じ、電力の安定供給を重視した施策を

打ち出しており、今後の動向が注目される。

5.4 温暖化対策への対応

石炭産業による気候変動対策としては、石炭採掘段階での GHG 排出量の抑制や、輸送段階での燃

費改善等がある。採掘段階においては、メタン漏出を防ぐために掘削前作業として行うガス抜き(methane

drainage)や、ガス回収によりオンサイト発電として利用する等の対策がとられている。ガス抜きは

坑内掘り炭鉱については採掘段階の重要な排出抑制策だが、露天掘り炭鉱に適用するには限界がある。

また、従来は軽油を主な動力源としていたダンプカーの燃費改善またはハイブリッド化、電化もGHG

排出削減策となる。輸送段階では、ディーゼル機関車や港湾のブルドーザー等の重機類を利用してい

る場合には、これらの燃費改善や電化の推進が対策となる。ただし、石炭輸送インフラの電化は、立地

-30,000

-20,000

-10,000

0

10,000

20,000

30,000

40,000

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021

設備容量増減

石炭 石油 ガス 原子力 水力 風力 Solar 地熱 バイオ

(MW)

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州の政府のインフラ政策等とも関連するため、個社で対応可能な範囲は限定的となることも考えられ

る。

他方、森林吸収を目的とした植林等の取組を通じて、石炭生産を通じて排出された GHG の排出を

相殺することも、石炭産業の取組として行われている。さらに、CCSや IGCCといった、石炭を効率

的にクリーンに利用するための技術の研究開発・実証事業に対し、積極的な姿勢を示す石炭企業もあ

る。

豪州ではかつて炭素税の導入に際し、各事業者のGHG排出量を把握し、また、UNFCCCによる国

家排出量目録の作成要請にも対応するため、GHG排出インベントリの整備が行われ、2007年のNGER

法(前出、National Greenhouse and Energy Reporting Act 2007)に基づき排出量及びエネルギー報

告システム(Emissions and Energy Reporting System:EERS)が導入された。同システムは連邦政

府のClean Energy Regulatorの下で管理され、対象事業者各社のGHG排出量やエネルギー利用状況

等が公表されている200。2015年度の統計(2017年2月28日発表)によれば、同年度のGHGの合計

排出量(報告対象部門のみ)は 334MtCO2e であり、内訳は電力供給 54.3%、鉱業 20.3%、製造業

17.4%、交通4.8%、その他3.2%となっている。

また豪州では、連邦政府の施策により、農業森林部門を除く鉱業、産業、輸送部門の大規模事業者に

対する排出量規制が実施されている(前出、Safeguard Mechanism)。同制度は、排出量が10万トン

CO2 以上の設備に排出量の上限を課すものであり、上限値は排出原単位等ではなく絶対量キャップと

なっている。各社のキャップ及び遵守状況等は2018年3月末までに公表される予定である。ヒアリン

グによれば、キャップの設定は規則で定められた方法に基づき行われ、企業ごとの交渉等は行われてい

ないが、産業によってはより柔軟性が与えられているケースもある。炭鉱部門については、キャップは

過去の排出実績と同水準であるため、厳しい排出規制とはなっておらず、実質的には排出量等の報告

義務のほかは、特段の排出削減策の実施は求められていない201。

ただし、現状では、GHG排出は連邦政府による規制、大気、騒音、水質等の環境基準は州レベルの

規制となっているが、今後は気候変動対策についても州レベルで規制が強化される可能性もある。例え

ば QLD 州では 2050 年までのネットゼロ排出目標並びに中間目標として 2030 年までに 2005 年比

30%の削減目標を掲げており(前述)、当該目標の達成に向けた気候変動対策の法制化等により、炭

鉱部門においてもさらなる GHG 排出削減が求められることも考えられる。前述の通り、炭鉱活動に

おけるGHG排出削減策は限定的であることから、連邦政府の Safeguard Mechanism下でも規定さ

れている植林活動によるオフセット等の活用が想定される202。

米国においても2010年に産業別のGHG排出量の報告制度が導入され、石炭採掘業における行程別

のGHG排出量の実態把握が進められている。ただし、GHG排出削減を義務付ける具体的な施策は導

入されていない。一部州が独自に導入している市場ベースの排出量取引市場(Regional Greenhouse

Gas Initiative:RGGI)があるが、主要産炭州は参加していない203。

200 Australian Government, Clean Energy Regulator

http://www.cleanenergyregulator.gov.au/NGER/National%20greenhouse%20and%20energy%20reporting%20data/

Data-highlights 201 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日) 202 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日) 203 RGGIホームページ https://rggi.org/Connecticut, Delaware, Maine, Maryland, Massachusetts, New

Hampshire, New York, Rhode Island及びVermont

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5.5 その他の環境問題(採掘、輸送、使用時を含む)への対応

石炭の生産・消費においては、上記の温暖化対策の他に、採掘、輸送、使用時における各種の環境汚

染物質の排出について対策が必要である。米国では、オバマ政権下で水銀やSO2・NOxの排出規制が

強化され、事業者の対応が必要となっている。石炭採掘による水質汚染に関する懸念から住民の反対

運動が起きており、炭鉱会社は水のリサイクル(循環利用)と排水の浄化等の取組を行っている。さら

に豪州、米国ともに採掘後の炭鉱の原状回復(reclamation)も義務付けられている。

Peabody Energy の場合、石炭を含む化石燃料利用がグローバルな気候変動に寄与するとの認識の

下、坑内掘り炭鉱でのメタン回収や機材の燃料消費抑制などを通じて採掘段階での排ガス削減に取り

組むほか、石炭利用に際しての炭素排出をネットゼロにするためのCCUSや高効率石炭利用技術の研

究開発・実証事業に参画している204。具体的には、米国内で最高の SO2 回収率を誇る Dynegy 社の

Coffeen 発電所や、NOx 回収率の高い超々臨界技術を採用した Southwestern Electric Power 社の

Turk発電所、CCUS実証事業として実施されたミシシッピ州Kemper発電所への事業参画、共同研

究開発、低硫黄炭の提供等を行っている。また、地域のエコシステム保全のため、採掘計画段階での原

生林温存や炭鉱跡地の埋め戻し、景観回復、植林、廃水・廃棄物のリサイクル率の引き上げなどの対策

を実施している。

Arch Coal社も、全米43州に研究拠点を置いて、発電所における大気汚染物質排出抑制、IGCC、

石炭由来の水素や石炭液化といったクリーンコール技術の研究開発を進めている205。また炭鉱跡地の

埋め戻し、景観回復、植林、水質の浄化、レクリエーション用途としての再開発などを進めている。

環境基準に対し事業者が違反する場合は、警告、違反通達、罰金等の措置がとられるが、豪州QLD

州では、事業者が倒産した場合等にも、環境規制の遵守や原状回復義務が課される Chain of

Responsibilityの規制が2016年に導入された。例えば50年間の炭鉱リースを取得しており、30年目

で操業を停止せざるを得なくなった場合にも、リース期間中はサイトの安全・環境管理義務が課され

る206。また同州では、Great Barrier Reef保護の観点から炭鉱や農業(堆肥)等による河川水の流れ

込み等について水質規制がある。運搬の際の粉塵対策についても現在検討が行われている。運搬車両

が通行する地域から苦情が出ており、まずは現地のモニタリングを強化している。閉鎖炭鉱について

は、天然資源・鉱山省(DNRM)の登録簿があり、専門のチームが設置されている。

204 Peabody Energy 2016 Corporate and Social Responsibility Report. 205 Arch Coal.com. -Environment 206 豪州現地ヒアリング調査(2018年1月15日~19日、州政府)

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第 6章 地球温暖化を含む環境問題が豪州及び米国の

石炭需給及び石炭輸出に及ぼす影響

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6. 地球温暖化を含む環境問題が豪州及び米国の石炭需給及び石炭輸出に及ぼす影響

これまでに概観したように、気候変動対策の強化や、石炭・化石燃料に対するダイベストメントの

動き、環境保護団体の反対運動の活発化等、石炭(一般炭)の生産・利用に対する批判が世界的に高

まっている。こうした中で、豪州・米国における今後の石炭需給及び石炭輸出に対する政策対応や企

業動向が注目される。さらに、我が国の石炭安定供給への影響を検討する上では、将来の世界・アジ

アの石炭市場の動向、特に市場へのインパクトが大きい中国やインドにおけるエネルギー需要や石炭

の輸入動向、環境規制の強化、他のエネルギー源への代替等についても検討する必要がある。

本章では、これら各種要素を総合的に勘案し、豪州・米国の石炭需給・石炭輸出の展望や、2040

年頃を目処とした我が国における一般炭の安定供給に対する影響や示唆について、シナリオ分析を取

り入れながら検討した。検討すべき重要な要素として下記の4点に特に注目した:

1)気候変動対策強化の国際交渉等、政策レベルの圧力の高まり

2)上記1)を背景とした欧米を中心とした金融機関(民間・政府系)の投融資引き揚げの動き

3)中国・インドをはじめとした新興国における石炭需要

4)天然ガスとの競合

これらを踏まえ、①我が国が必要とする高品位炭の価格が高騰し、経済的な調達が困難になるシナ

リオ(価格高騰シナリオ)、②炭鉱開発や石炭利用に対する圧力・規制の高まりから、供給そのもの

が希薄になるシナリオ(供給低下シナリオ)について、検討した。以下に結果概要を述べる:

上記1)については、今後も世界的な気候変動対策の枠組みとして継続して行くことが想定される

が、パリ協定のルール作りは早くとも次回COP24(2018年)以降にずれ込むことが予想される。ま

た、より長期の温暖化対策を見据え、各種の対策議論はあるものの(例:カーボンバジェットの考え

方に基づく排出量制限、削減目標の強化、排出量取引制度や炭素税の導入等)、現時点では、世界レ

ベルで具体的な動きにつながる可能性は低いと考えられる。その背景には、米国のパリ協定離脱や、

そうした議論をこれまで牽引してきたEUにおいて、求心力やリーダーシップの低下も見られること

(例:英国のEU離脱、ドイツにおけるGHG排出量の増加等)が挙げられる。また、先進国と新興

国・途上国の対立構造が継続すること等により、現状のパリ協定の枠組みを越えた排出削減目標の強

化に向けた政策レベルの進展は想定しにくいのが現状である。

なお米国において、今後の大統領選により民主党政権に交代する場合には、再び“脱石炭”に向け

政策が転換する可能性が考えられるものの、米国のパリ協定復帰は、手続き上の諸事情等を勘案すれ

ば最短でも2025年以降となる見込みであり、また、気候変動対策の強化に向け、十分な実行力が必

ずしも発揮されない可能性も考えられる。

こうした政策レベルの展開とは別に、金融部門におけるリスク回避の要請が高まる場合には、炭鉱

開発や石炭火力発電に対する投融資に対する制約が今後厳しさを増す可能性が考えられる(上記

2))。しかし、すでに各種の金融機関が投融資方針の見直しを発表する等しているものの、その判断

のベースとなる情報開示についての強制力や透明性、比較可能性の向上等には課題もあり、企業や金

融機関のダイベストメントの表明が実際の投融資引き揚げにどの程度つながるのか、定量的な把握

や、永続性を確認する仕組みの確保には至っていないのが現状である。以上から、現状程度のダイベ

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ストメント圧力が継続するケースと、情報開示については課題を抱えながらも、ダイベストメントの

行動が拡大するケースとが考えられる。

その際にキーとなるのは需要動向であると考えられる。我が国ではエネルギー基本計画により

2030年時点でも現状とほぼ同程度の石炭火力発電容量が維持される見通しである。中国及びインド

においては、これまでに石炭火力発電の新設が急ピッチで進められた反動から、現在は両国ともに新

設を控える意向を示している。しかし、今後2040年までのスパンで見れば、電力需要は増大が見込

まれ、少なくとも現時点の設備容量は維持されることが想定される。

一方、石炭の燃焼に伴う大気汚染対策が喫緊の課題となっている中、石炭利用に対する規制の強化

も予想される。開発途上国においては、石炭が家庭用暖房需要を賄っているケースも多く、中国で

も、すでに一部の住宅用・産業設備用の石炭利用が制限されていることが伝えられている。こうした

石炭利用においては、自国産の安価な低品位炭が大半を占めるため、石炭の国際市場に与えるインパ

クトは小さいと考えられる。他方で暖房需要が電気に置き換えられることで電力需要は増大するとみ

られる。また、上記の利用制限等を背景に、中国都市部周辺の小規模な炭鉱が閉鎖され、石炭供給能

力が内陸部の大規模炭鉱に集中する傾向が続けば、経済活動の中心地である中国沿岸部においては、

内陸部からの輸送コストを含めた国内炭価格に対し輸入炭の価格競争力が有利となる状況が引き続き

発生し、中国の輸入市場は維持または拡大すると考えられる。

長期的には、内陸部からの輸送インフラの拡充、あるいは、長距離の高圧送電網の建設が進むこと

により、中国内陸部の石炭火力発電により沿岸部の電力需要が賄われることも想定される。ただし、

石炭火力発電の効率改善や環境対策の強化により、より品位の高い輸入炭に需要の一部がシフトする

ことが考えられ、輸入炭のニーズは維持されると考えられる。

また、インドでも、大気・水質汚染に対する規制の強化が予想されるため、より品位の高い輸入炭

の利用が拡大する可能性が考えられる。ただしインドでは、近年就任したモディ首相は、省エネルギ

ー対策の推進も含め、自国エネルギーの活用による自給率の向上をエネルギー政策課題として重視し

ていることから、高品位炭へのシフトが抑制される面もあると考えられる。

よって、中国、インドともに、少なくとも現状と類似した水準での石炭需要が想定されると同時

に、全面的な急激なシフトではないにせよ、高品位炭の需要が増大することが考えられる。

そうした中で、他のエネルギー源、特に天然ガスへのシフトの可能性について考察した。天然ガス

の世界的な供給能力は、米国のシェールガス生産により大幅に増大したものの、世界的に見れば、天

然ガスの利用可能性は、ガスパイプラインの敷設や、LNGの場合には受け入れ基地の建設等、イン

フラ面の制約によって大きく左右されることから、中国、インド、ASEAN諸国のいずれにおいて

も、容易に大規模なシフトが起きることは想定しにくい。また、石炭に対するガスの価格優位性を高

める政策的手段として、炭素税や排出権取引制度の導入が考えられるが、価格優位性を逆転するに足

る炭素価格を導入している、もしくは導入する方向性が明確になっているのは、欧州等の一部の国に

とどまっている(例:英国の炭素下限価格)。中国では、排出権取引制度の導入が発表され、2020年

には本格始動が予定されているものの、上述のようにCOPの枠組みにおいて世界的なCO2対策強化

の道筋が見えない中で、一方的に厳格なCO2排出規制を施行することは想定しがたい。こうした中

で中国では、原子力発電については大規模且つ急激な導入拡大が具体化するには至っていないこと、

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天然ガスについても統制価格を敷く等、大量導入の方向性は示していないこと、さらに、再生可能エ

ネルギーが増大する中でも、当面は電力系統システムの維持から一定程度の火力発電が必要と考えら

れること等から、石炭火力発電が他のエネルギー源に大幅に代替される兆しは見えていない。中国の

政治形態を踏まえれば、石炭の生産・利用を制限する政策がトップダウンで施行される可能性は否定

できないものの、これまでのエネルギー動向を踏まえれば、合理性を欠く石炭の急激な利用停止が実

行・継続される可能性は低いと考えられる。

こうした需要の動向が供給側の対応を左右すると考えられる。豪州では、国内のエネルギー政策に

より、安定性の高い石炭火力発電の役割をあらためて認識し、高効率化を進めながら、継続的に容量

を確保する方針を示している。また、豪州経済にとり石炭が重要な輸出産品であることに変わりはな

く、連邦政府・州政府ともに石炭の生産・輸出を極端に抑制する政策をとることは考えにくい。石炭

関連事業者にとり、ダイベストメントの圧力が高まれば、欧米系の金融機関からの資金調達は困難と

なることも予想されるものの、中国系の金融機関や米国系のプライベート・エクイティをはじめ、石

炭関連投資に積極的な投資主体も多く、特に近年は、石炭価格が上昇する中で、投資の引き合いが増

えていることが指摘されている。

ただし、環境圧力が高まる中で、需要側のニーズの変化を背景として、投融資の対象が高品位炭に

絞られてくる可能性がある。また、豪州の既存炭鉱は2030年頃に寿命を迎えるものが多い中で、今

後の拡張は、環境許認可プロセスにおける訴訟リスク等、長期化・コスト増も予想される。さらに、

グリーンフィールドでの新規炭鉱開発についてはそうしたリスクがさらに高まり、投資コストが膨ら

む可能性が考えられる。

米国では、天然ガスと比較した石炭の相対的な優位性が大きく変化する中で、国内の石炭需要が大

幅に減少し、また、これまでの主要な仕向け先であった欧州で“脱石炭”が進められている中で、一定

程度の国内需要を賄う分を除いては、石炭の生産・輸出量は減少の一途を辿る可能性が高い。これまで

に指摘されているように、石炭の積出港が東海岸に集中しており、西海岸での新たなインフラ建設は、

地元住民の根強い反発により困難な状況である。これまでに、トランプ大統領は石炭産業を支援する

意向を表明しているものの、国内の需要喚起や輸出拡大につながる大きな変化は見られない。

また、インドネシアでは自国の石炭需要の増大が見込まれ、輸出量に影響が及ぶ可能性も出ている。

こうした形で供給量が絞られる中で、アジア諸国の高品位炭需要が増大すれば、我が国の石炭の安

定供給の見通しは、これまで以上にリスクが高まることが予想される。欧米系の企業や金融機関のダ

イベストメントにより、これまでの石炭供給事業者やファイナンスのあり方が変化し、中国をはじめ

とするアジア資本による炭鉱開発・鉱業経営が進展する可能性が高いと考えられる。また、気候変動

対策の圧力や、競合技術の動向(再生可能エネルギー発電や電気の貯蔵技術のコスト低下等)等を背

景に、石炭関連投資のリスクプレミアムが上昇することが想定される。

結果として、世界的に見て、石炭生産は維持されるものの、アジア諸国の需要も増える中で、価格

は上昇し、ボラティリティが高まることが予想される。こうした状況を日本にとっての安定供給の観

点から考えた場合には、交渉相手が変わることや、市場が寡占化すれば、契約条件等について譲歩を

迫られるといったリスクも考えられ、商慣行の変化に対する用意が必要となる。

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他方、我が国にとっての最大の供給国である豪州において、ローカルな環境問題(炭鉱周辺の水

質、輸送経路における粉塵、港湾施設建設によるGreat Barrier Reefへの影響等)だけでなく、世界

的なCO2排出の抑制に向けた動きが先鋭化し、一般炭の生産・輸出の大幅な縮小ないし停止に発展

する場合には、我が国のエネルギー安定供給に甚大な影響を及ぼすことになる。ただし、これまでに

見たように、燃料転換の可能性や環境規制の高まり等も踏まえた上で、新興国等での石炭需要が維持

されることが想定される中で、石炭供給そのものが希薄になるシナリオの実現可能性は低いと考えら

れる。

以上から、石炭の供給そのものが大きく低下するリスクは現状では低いと考えられるものの、我が

国の石炭の安定供給を考える場合に、今後の価格高騰・ボラティリティの高まりや、商慣行の変化等

には備える必要性があると考えられる。また、価格高騰シナリオ・供給低下シナリオのいずれにおい

ても、供給源の多様化は重要な課題であり、アジア市場へのアクセスが相対的に容易なロシア炭等を

はじめ、高品位炭の安定的確保に向けた取組が引き続き重要である。

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- 151 -

添 付

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添付:リンク集

1.世界及び豪州、米国の温暖化対策及び環境対策の動向

パリ協定

http://unfccc.int/resource/docs/2015/cop21/eng/10a01.pdf

NDC 暫定登録簿

http://www4.unfccc.int/ndcregistry/Pages/Home.aspx

2017 年 5 月パリ協定特別作業部会会期中文書

http://unfccc.int//bonn_may_2017/in-session/items/10277.php

QLD 州政府炭鉱開発

https://www.business.qld.gov.au/industries/mining-energy-water/resources

NSW 州政府炭鉱開発

https://www.resourcesandenergy.nsw.gov.au/

2.豪州及び米国のエネルギー・石炭需給動向

豪州エネルギー統計(Australian Energy Statistics)

https://www.industry.gov.au/Office-of-the-Chief-Economist/Publications/Pages/Australian-

energy-statistics.aspx

米国エネルギー統計(Energy Information Administration)

https://www.eia.gov/

3.金融機関及び機関投資家等の環境問題への対応動向

TCFD

https://www.fsb-tcfd.org/

OECD(公的輸出信用アレンジメント)

http://www.oecd.org/officialdocuments/publicdisplaydocumentpdf/?doclanguage=en&cote=t

ad/pg(2016)1

AIIB

https://www.aiib.org/en/

4.豪州及び米国における NGO 等の動向

350.org

https://350.org/allies/

Fossil Free

https://gofossilfree.org/

Sierra Club Beyond Coal

https://content.sierraclub.org/coal/

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5.豪州及び米国の石炭産業界及び主要企業の対応動向

BHP Billiton

https://www.bhp.com/

Anglo American

http://www.angloamerican.com/

Rio Tinto

http://www.riotinto.com/

Glencore

http://www.glencore.com/

Peabody

https://www.peabodyenergy.com/

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平成 29年度海外炭開発支援事業海外炭開発高度化等調査

「地球温暖化を含む環境問題の動向及び石炭事業への影響調査」

平成 30年 3月 発行

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