平成 26 年度 包括外部監査報告書 生活保護及び自立支援施策 ...1.4...

121
平成 26 年度 包括外部監査報告書 生活保護及び自立支援施策に関する事務の執行について 宇都宮市包括外部監査人 町 田 昌 久

Upload: others

Post on 09-Oct-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • 平成 26 年度

    包括外部監査報告書

    生活保護及び自立支援施策に関する事務の執行について

    宇都宮市包括外部監査人

    町 田 昌 久

  • 1

    目 次 1 外部監査の概要 ....................................................................................................... 3

    2 生活保護制度の概要と監査視点 ............................................................................... 5

    3 宇都宮市の生活保護の動向 ...................................................................................... 9

    3.1 宇都宮市の生活保護の現状 ............................................................................... 9

    3.2 監査の結果 ...................................................................................................... 16

    4 生活保護の事前相談 .............................................................................................. 19

    4.1 概要 ................................................................................................................ 19

    4.2 監査の結果 ...................................................................................................... 26

    5 生活保護の開始手続 .............................................................................................. 27

    5.1 概要 ................................................................................................................ 27

    5.2 監査の結果 ...................................................................................................... 29

    6 生活保護費の支給手続 ........................................................................................... 35

    6.1 概要 ................................................................................................................ 35

    6.2 監査の結果 ...................................................................................................... 39

    7 医療扶助、介護扶助及び住宅扶助 ......................................................................... 41

    7.1 医療扶助 ......................................................................................................... 41

    7.2 介護扶助 ......................................................................................................... 54

    7.3 住宅扶助 ......................................................................................................... 64

    8 生活保護開始後の調査及び指導指示業務 .............................................................. 66

    8.1 概要 ................................................................................................................ 66

    8.2 監査の結果 ...................................................................................................... 69

    9 生活保護停止及び廃止 ........................................................................................... 75

    9.1 概要 ................................................................................................................ 75

  • 2

    9.2 監査の結果 ...................................................................................................... 76

    10 生活保護費の返還、徴収及び債権管理 ................................................................ 78

    10.1 概要 .............................................................................................................. 78

    10.2 監査の結果 .................................................................................................... 83

    11 生活保護の電算システム ....................................................................................... 85

    11.1 概要 .............................................................................................................. 85

    11.2 監査の結果 .................................................................................................... 85

    12 生活困窮者対策 ................................................................................................... 88

    12.1 就労支援事業 ................................................................................................ 88

    12.2 生活困窮者世帯の的確な把握 ........................................................................ 92

    12.3 ひとり親家庭支援 ......................................................................................... 99

    12.4 住宅支援 ..................................................................................................... 109

    12.5 障がい者支援 .............................................................................................. 112

  • 3

    1 外部監査の概要

    1.1 外部監査の種類 地方自治法第 252 条の 37 第 1 項及び第 2 項に基づく包括外部監査 1.2 選定した特定の事件(監査のテーマ) 生活保護及び自立支援施策に関する事務の執行について

    1.3 選定した理由 昨今、高齢化に伴い生活保護を受給する世帯は増加を続けており、生活保護受給者

    が全国的に増え続けていると言われている。それに伴って生活保護制度の問題が社会

    的な関心となり、生活困窮者への生活保護費の打切りによる問題や、反対に不正受給

    や国民年金受給者との不公平等が話題となっている。

    宇都宮市においても、生活保護費は近年の厳しい雇用環境や市の人口構成における

    高齢化の進展などに伴い急激に増加している。その額は、10 年前の平成 16 年度決算

    額 78 億円に対して、平成 24 年度決算額 136 億円、平成 25 年度一般会計当初予算額

    142 億円、平成 26 年度一般会計当初予算額 146 億の規模となっており、一般会計予

    算の歳出合計の 7.7%を占めている。

    生活保護制度は、憲法第 25 条に規定される生存権を保障するための制度であり、

    セーフティーネットの最後のよりどころと呼ばれている。生活困窮者に公平に援助の

    手を差し伸べることが大切であるが、一方において、その財源は税金によって賄われ

    ているわけであるから生活保護制度の適正な運用が求められるところである。また、

    生活保護受給者の自立を支援する施策の有効性が大事となる。

    以上の事より、宇都宮市における生活保護に関する事務の執行を検証するとともに、

    生活保護受給者の自立・就労支援の制度を監査する意義は大きいものと考え、平成

    26 年度の包括外部監査のテーマとして選定した。

    1.4 外部監査の対象期間 原則として平成 25 年度(平成 25 年 4 月 1 日から平成 26 年 3 月 31 日まで)とした。 1.5 外部監査の実施期間 平成 26 年 6 月 12 日から平成 27 年 1 月 22 日まで監査を実施し、平成 27 年 3 月 17日に最終的な意見をまとめたものである。

  • 4

    1.6 監査従事者 包括外部監査人 公認会計士 町 田 昌 久

    補助者 公認会計士 江 原 照 雄 公認会計士 岩 本 達 之 公認会計士 小 髙 和 昭 公認会計士 斎 藤 秀 樹

    1.7 監査要点と監査報告 1.7.1 監査要点 包括外部監査の根拠法規である地方自治法第 252 条の 37 第 2 項によると、包括外部監査人は、監査に当たって監査対象団体の「財務に関する事務の執行」及び「経営に係

    る事業の管理」が、第 2 条第 14 項(住民の福祉の増進、最小の経費で最大の効果)及び第 15 項(組織及び運営の合理化、規模の適正化)にのっとってなされているかどうかに意を用いなければならないとされる。

    これより監査要点としては、

    ① 財務事務執行の合規性

    ② 宇都宮市行政の経営管理制度であるPDCA循環サイクルが行政の管理視点(住民

    福祉の増進等上記第 2条第 14 項及び第 15 項)に基づいて整備運用されているか否か

    という 2点にまとめることができる。

    1.7.2 監査の結果について この監査報告書では、上記地方自治法第 252 条の 37 第 2 項に基づき、監査の結果について報告を 2 つに大別し、次のように使い分けている。

    区分 指 摘 意 見

    財務に関する

    事務の執行

    合規性違反の事実

    指摘事項に対する改善提案

    経営に係る事

    業の管理

    行政の経営管理制度であるPDCA循環サイクルに違

    反している事実

    行政の管理の視点である「有効性」、「効率性」、「優先性」、

    「公平性」等を管理する仕組

    みや運営が不適切であるこ

    との事実

    既存の管理制度(予算統制制度やPDCA循環サイクルの行

    政評価制度)外の管理制度の不

    備に対する指摘 ある事業が「有効」であるか「効

    率的」であるか等の視点から、

    「有効である」とか「効率的で

    ある」という監査の結論(行政

    監査)

  • 5

    2 生活保護制度の概要と監査視点

    2.1 生活保護制度の目的 生活保護制度は、日本国憲法第 25 条(生存権、国の社会的使命)の理念に基づき制

    定された生活保護法により、国が生活に困窮する全ての国民に対し、その困窮の程度に

    応じ、必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともにその自立

    を助長することを目的とするものである。 2.2 法定受託事務 生活保護の事務は、地方自治法第 2 条第 9 項に基づき、第 1 号法定受託事務とされ、本来国が果たすべき役割に係るもので、国においてその適正な処理を特に確保する必要

    があるものとして法律・政令により地方公共団体に事務処理が義務付けられたものであ

    る。 2.3 生活保護法の基本原理 生活保護法(以下「法」という。)には、次の基本原理がある。 ① 国家責任による最低生活保障の原理(法第 1 条) ② 保護請求権無差別平等の原理(法第 2 条) 全ての国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法の保護を無差別平等に受

    けることができる。 ③ 健康で文化的な最低生活保障の原理(法第 3 条) ④ 保護の補足性の原理(法第 4 条) 保護は、生活困窮者が、その資産・能力等を最低限度の生活維持のために活用するこ

    とを要件とし、扶養義務者の扶養はこの法律による保護に優先して行われるものとする。 また、保護事務に係る 4 つの基本原則がある。 ①申請保護の原則(保護は、要保護者又はその扶養義務者等の申請に基づいて開始する。) ②基準及び程度の原則(保護は、不足分を補う程度において行い、最低限度の生活の需

    要を満たすことが限度となる。) ③必要即応の原則(保護は、要保護者の実際の必要の相違を考慮して行う。) ④世帯単位の原則(保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定める。) 2.4 生活保護の内容 保護は、生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭扶助で構成されており、

    医療・介護扶助は現物給付、それ以外は金銭給付を原則とする。扶助の基準は、厚生労

    働大臣が設定しており、平成 26 年 4 月現在の宇都宮市生活保護基準の例を示すと次のとおりである。

  • 6

    宇都宮市(2 級地-1) 標準 3 人世帯 高齢者単身世帯 高齢者夫婦世帯 母子世帯 生活保護基準例 150,000 円 72,900 円 101,520 円 178,720 円 2.5 生活保護の行政機関 宇都宮市における生活保護の事務をつかさどる行政機関は次の図のとおりである。宇

    都宮市は、国からの法定受託事務である生活保護事務を社会福祉事務所へ事務委任して

    いることから、生活保護の実施機関は社会福祉事務所となる。社会福祉事務所長は、自

    ら意思を決定し、自己の責任において、かつ、自己の名をもってその意思を実現する権

    限を有するいわゆる行政庁である。 2.1.0. 監査対象と監査要点 2.6 監査対象と監査要点

    市 長

    社会福祉事務所(実施機関)

    所 長 (生活福祉第 1 課長が兼務)

    保健福祉部

    保健福祉総務課 生活福祉第 1 課生活福祉第 2 課高齢福祉課 障がい福祉課 保険年金課

    生活保護事務

    社会福祉に関する事務委任

    (生活保護法第 19 条 4 項)指揮監督 (社会福祉法第 15 条 2 項)

    高齢福祉課 生活福祉第 1 課事

    務分掌 障がい福祉課

    (子ども部) 子ども家庭課

    保護第 1 グループ

    保護第 2 グループ

    生活福祉第 2 課

    生活保護事務 (第 1号法定受託事務)

    保護第 3 グループ

    保護第 4 グループ

    保護第 5 グループ

    (子ども部) 保育課

    管理グループ

  • 7

    2.6 監査対象と監査要点 監査手続を実施した監査対象と、行政の管理の視点及び監査における視点(監査要点)

    を概括したものを示す。

    監査対象 行政の管理の視点 監査要点

    Ⅰ 全 般 行政評価・施策カルテ 生活保護行政適正化推

    進本部

    ・生活保護の現状分析 ・生活保護事務の全般的課題・問題

    点の抽出、改善・見直し(生活保護

    の有効性、公平性、効率性等) ・庁内連携

    次 頁 参 照

    Ⅱ 生活保護手続 事前相談、開始、支

    給、訪問、指導、廃止

    Ⅲ 生活困窮者対策

    子ども家庭課 就労支援 養育費無料相談 母子父子寡婦福祉資金貸付

    高齢福祉課 介護保険料滞納状況 社会福祉法人利用負担軽減制度

    地域包括支援センター

    障がい福祉課 生活福祉資金貸付制度 障がい者に対する支援

    住宅課 市営住宅の生活困窮者への優先

    措置

    ・マネジメントサイクル(PDCA)の整備・運用状況の検証(経営に係る事業の管理の有効性)

    ・財務事務執行の合規性(財務に関する事務の執行の合規性)

    ・生活困窮者の早期発見 ・生活困窮者に対する事業の

    優先性・公平性 ・生活保護制度と他施策の事

    業間の比較(公平性) ・自立誘因の確保(有効性・

    経済性) ・事業の実績・成果把握と事

    業の有効性の検証等

  • 8

    事前の相談

    開始手続

    生活保護手続

    ・保護の補足性の原理(法第4条)に基づき、他の法

    律に定める扶助を優先して実施する(事業の優先性、

    合規性) ・申請権の侵害に対する内部牽制(合規性)

    保護の申請

    調 査

    判定事務

    ・生活保護申請における調査・決定の合規性 財産調査、収入調査 扶養義務者による扶養可否調査 就労可能性調査 ・不正受給者、貧困ビジネスの介在の排除(事業の公

    平性、有効性) 仮想事例の周知 ・保護の補足性の原理の遵守(事業の平等性)

    自立就労支援

    監査対象 行政の管理の視点

    支給手続

    ・事務処理要綱の遵守(合規性)

    訪問調査・指導指示

    ・生活実態調査による生活改善状況の把握(事業の有

    効性) ・不正受給・告知義務違反に対する調査・早期発見(事

    業の合規性、公平性) ・義務違反者に対する指導・指示の厳格化(公平性)

    継続・保護廃止

    債権管理事務

    ・自立・就労支援施策による生活保護廃止に向けた取

    組(有効性・経済性) ・問題案件への対処(実効性・効率性) ・不納欠損処理(合規性、経済性)

  • 9

    3 宇都宮市の生活保護の動向

    3.1 宇都宮市の生活保護の現状 3.1.1 宇都宮市の生活保護受給世帯数,受給者数の推移 宇都宮市の平成 18 年度からの生活保護受給世帯数及び受給者数並びに平均保護率(市民 1,000 人当たりの生活保護受給者数‰)の推移を示すと以下のグラフのとおりである。それぞれの数値は、一貫して右肩上がりであり、平成 26 年 3 月末の生活保護受給世帯数(6,412 世帯)及び受給者数(8,656 人)とも過去最多を更新している。 全国の中核市の状況と宇都宮市のそれを比較したデータとして、平成 26 年 2 月末現在の保護率(%表示)の数値を見ると、全国の保護率が 1.70%であるのに対して宇都宮市は 1.68%であり、全国中核市 42 市のうち保護率の高位順から 20 位と中程に位置している。

    3.1.2 生活保護費と一般会計に占める割合 生活保護費は、生活保護受給者数の増加に伴い、一貫して増加している。次のグラフ

    は、上記グラフの生活保護受給者に対応する生活保護費の金額を表している。また、折

    れ線グラフは、一般会計歳出決算額に占める生活保護費の割合を示している。平成 20

    3,653 3,870 4,378

    5,119 5,664

    5,965 6,270 6,412

    5,148 5,406 6,060

    7,053 7,806 8,212

    8,521 8,656

    10.58 10.4211.16

    12.85

    14.5915.65

    16.26 16.65

    0

    2

    4

    6

    8

    10

    12

    14

    16

    18

    0

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    6,000

    7,000

    8,000

    9,000

    10,000

    H19/3 H20/3 H21/3 H22/3 H23/3 H24/3 H25/3 H26/3被保護世帯(世帯) 被保護人員(人) 平均保護率(1,000人当たり)

  • 10

    年 9 月のリーマンショック以降伸び続けてきた生活保護費であるが、雇用情勢の改善から生活保護費の増加傾向は鈍化し、平成 25 年度は横ばい状態に近くなっている。

    3.1.3 生活保護費(扶助費)の財源内訳

    8,574 8,925 9,611

    10,965 12,310 13,200

    13,779 14,030

    5.72% 5.54%5.89% 6.05%

    6.52%7.22%

    7.72% 7.72%

    0.00%

    1.00%

    2.00%

    3.00%

    4.00%

    5.00%

    6.00%

    7.00%

    8.00%

    9.00%

    0

    2,000

    4,000

    6,000

    8,000

    10,000

    12,000

    14,000

    16,000

    生活保護費計(百万円) 生活保護費割合

    21年度 22年度 23年度 24年度 25年度一般財源 2,824 3,209 3,054 3,353 3,398返還金徴収金 83 112 116 172 153国庫負担金 8,058 8,988 10,029 10,254 10,479

    02,0004,0006,0008,000

    10,00012,00014,00016,000百万円 生活保護費の財源内訳

  • 11

    生活保護費の財源は、基本的に国(国庫負担金)が 4 分の 3、宇都宮市(一般財源)が 4 分の 1 をそれぞれ負担している。 3.1.4 生活保護世帯主の年齢分布

    生活保護世帯主の年齢分布状況を平成 21 年度末からの推移として示したものが下記のグラフである。グラフからは、棒線の最上段に表示された 65 歳以上の保護世帯が伸びていることが目に付く。

    また、平成 21 年度末と平成 25 年度末の世代別構成割合を示したものが次の円グラフである。このグラフからも見て取れるように生活保護受給世帯に占める 65 歳以上の割合が増加していることが分かる。平成 21 年度末の 65 歳以上の生活保護受給世帯に占める割合は 39%であるが、平成 25 年度末の同比率は 44%と 5%高まっている。今後の動向について、高齢化の進展により 65 歳以上の高齢世帯を中心に増加傾向は続くと見込まれる。 高齢世帯の増加傾向に対する宇都宮市の対策について、生活困窮者自立支援の観点か

    ら市の施策に対する取組を見てみることが必要となる。

    0

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    6,000

    7,000

    平成21年度末 平成22年度末 平成23年度末 平成24年度末 平成25年度末

    人 保護世帯の世帯主年齢分布

    20歳未満 20歳以上~50未満 50歳代 60歳以上~65歳未満 65歳以上

  • 12

    3.1.5 世帯類型別被世帯数の推移 次の棒グラフは、生活保護受給世帯を世帯類型別に見たものである。また、次の円グ

    ラフは、平成 22 年 4 月末と平成 26 年 4 月末とのそれぞれにおける世帯類型別の割合をグラフ化したものである。高齢世帯(65 歳以上)の世帯数及び割合が伸びていることは、「3.1.4 生活保護世帯主の年齢分布」で見たものと同様の推移である。

    20歳未満0%

    20歳以上~50未満

    25%

    50歳代20%

    60歳以上~65歳未満

    16%

    65歳以上39%

    保護世帯の世代別構成割合

    平成21年度末

    20歳未満0%

    20歳以上~50未満

    24%

    50歳代17%

    60歳以上~65歳未満

    15%

    65歳以上44%

    保護世帯の世代別構成割合

    平成25年度末

  • 13

    0

    1,000

    2,000

    3,000

    4,000

    5,000

    6,000

    7,000

    22年4月末 23年4月末 24年4月末 25年4月末 26年4月末

    高齢世帯 母子世帯 障害世帯 傷病世帯 その他

    高齢世帯

    36%

    母子世帯

    7%障害世帯

    10%

    傷病世帯

    27%

    その他

    20%

    平成22年4月末

    高齢世帯

    40%

    母子世帯

    6%障害世帯

    11%

    傷病世帯

    23%

    その他

    20%

    平成26年4月末

  • 14

    3.1.6 世帯類型別・労働力類型別被保護世帯数 下記のグラフは、生活保護世帯を世帯主(又は世帯員)が働いているか否かにより分

    類したものである。当然の帰結であるが生活保護世帯の 9 割弱は、世帯に働き手がいない状況である。

    さらに、高齢世帯や母子世帯等、世帯類型別の就労状況を分析したものが次のグラフ

    である。この中のその他に分類されている世帯(1,263 世帯)について、どのような要因により生活保護受給に至ったのかは分析を要する課題であり、監査において重点的に

    個別事例を抽出した(8.2)。

    働いて

    いる

    11%

    働いていない

    89%

    労働力類型別被保護世帯数

    (平成26年4月末現在)

    0

    1,000

    2,000

    3,000

    高齢世帯 母子世帯 障害世帯 傷病世帯 その他

    世帯類型別・労働力類型別被保護世帯数

    働いている 働いていない

  • 15

    3.1.7 生活保護制度の見直しの全体像、国の動向について 国は、増え続ける生活保護費を抑制するため、生活保護基準の見直しを行うとともに、

    生活困窮者対策及び生活保護制度の見直しに総合的に取り組んでいる。 生活保護制度の見直しについて、平成 25 年 8 月から生活保護基準の見直しが行われ、

    基準額の引下げが実施された。また、平成 26 年 7 月から生活保護法の一部改正がなされ、生活保護からの脱却を促すためのインセンティブ強化策、不正・不適正受給対策の

    強化、医療扶助の適正化、健康・生活面等に着目した支援(一部平成 26 年 1 月 1 日施行)を柱とする改正が行われた。

    平成 27 年 4 月 1 日からは、生活困窮者自立支援法が施行される予定である。この法律は、生活保護に至る前の生活困窮者への支援に取り組み、改善につなげることにより

    生活保護への移行防止を狙いとするものである。 3.1.8 宇都宮市の今後の対応 宇都宮市生活保護行政適正化推進本部の会議において、生活保護制度の見直しに係る

    国の動向について議題とし、今後の本市の対応について検討している。 生活保護制度見直しの全体像は、増え続ける生活保護費の抑制のため、生活保護受給

    者と保護に至る前の生活困窮者への支援に取り組み、改善につなげることを狙いとして

    おり、全体像を図式化したものが下図である。会議においては、以下のとおり確認して

    いる。 ・第 3 のネットである生活保護制度については、着実に事務を遂行する。 ・第 2 のネット「生活困窮者対策((仮称)生活困窮者自立支援法の制定)」について、生活保護への移行防止や生活保護からの脱却を図るため、積極的に取り組む。

    第 1 のネット 社会・労働保険制度 第 2 のネット 生活困窮者対策 第 3 のネット 生活保護制度

    このような新法の制定を視野に入れながら、現状の生活困窮者対策に係る施策につい

    て、問題点と課題を確認した。

    積極的な取組

  • 16

    3.2 監査の結果 3.2.1 保護世帯類型の分析不足(指摘)

    生活保護受給者の年齢分布の分析は、年代別の分析にとどまっているが、高齢世帯の

    増加が予想される中、高齢世帯の生活保護受給者の受給要因が分析されていない。例え

    ば、高齢世帯の単身者世帯 2,324 世帯(平成 26 年 4 月末現在)について、傷病の有無や年金受給の状況、扶養親族との関係等を集計した管理統計資料がない。

    潜在的な生活保護受給世帯に対する支援制度を整えていく上で、高齢世帯の無年金者

    の比率や扶養親族との関係が疎遠となっている孤立化の状況について実態が把握され

    ていることが、次の対策を考える上で必要になってくる。生活保護受給者にならないた

    めに、高齢に至る前の段階から予防的対策を生活困窮者自立支援の方向から考えていく

    ことが求められる。その際、限られた人員・予算をどの生活困窮者に対して重点的に振

    り向けていくのかを判断する必要があるが、そのためには高齢者の生活保護受給世帯が

    増加傾向にあることが明らかになっているのであるから、その分析は欠くことができな

    いところである。 高齢化社会の進展とともに、生活保護受給世帯に占める高齢世帯の増加はやむを得な

    い状況としても、年齢による無職化や傷病の可能性が高くなる中、施策の検討を行って

    いないことは現状を追認することに近いといえる。 現状の生活保護の電算システムにおいて、保護世帯類型の登録情報は高齢者の区分で

    しか登録ができないが、狙いを絞ったより有効な施策を進める上で高齢者の生活保護受

    給世帯についてどのような情報が更に必要となっているかを検討しなければならない

    が、そのような問題提起はない。 3.2.2 高齢世帯の「無年金」世帯の把握(指摘) 社会福祉事務所では、生活保護に占める高齢世帯の増加が最も著しいと認識している

    が、増加を抑制するための高齢世帯に対する Action(改善提案)について何の検討もされていない。 「宇都宮市生活保護行政適正化推進本部設置要領」の第 2 条に所掌事務の規定があり、推進本部の所掌事務は生活保護行政における課題に対する基本指針、事業計画に関する

    ことが挙げられている。生活保護受給者の増加が課題であると平成 24 年度の行政評価の施策カルテに記載しているが、高齢世帯の生活保護受給者の増加について自然の成り

    行きに任せているのか、推進本部の議題にさえなっていない。 改善提案の切り口として、例えば、生活保護受給者の高齢世帯のうち「無年金」世帯

    の実態を調べてみる。社会福祉事務所において生活保護受給の高齢世帯のうち無年金世

    帯のデータは、これまで厳密に統計数値として把握されていなかった。この度、外部監

  • 17

    査において集計を依頼したところ、他の統計値と若干整合していないが、概算値として

    下記の集計値となった。高齢世帯の生活保護受給世帯が増加している中で、無年金世帯

    が占める割合は 6 割前後の数値となっている。

    無年金世帯の高齢世帯のうち、どの程度の割合で生活保護受給世帯となっているのか

    は、統計値として存在していないが、割合として高いのではないかと推定される。潜在

    的な生活保護受給者として将来的に無年金者世帯となる現役世代を把握して対策を打

    つ必要があると考えるが、現状の国民年金制度では掛金の未納情報等を宇都宮市で把握

    することはできないことを理由に対応は手詰まり状態である。 年金制度の問題は、国の管轄であるため宇都宮市がどうこうできる問題ではない。し

    かし、無年金世帯の生活保護世帯が増加することは扶助費の 4 分の 1 を負担する宇都宮市の財政を圧迫することにつながる。生活保護行政適正化推進本部の資料においても生

    活保護に占める高齢世帯の増加が最も著しいと認識しているが、その先の Action(改善提案)には触れていない。高齢化社会の進展に伴い高齢世帯の生活保護受給者が増え

    ることは自然なことでありやむを得ないことであるとして、対策を諦めているという状

    況である。 3.2.3 情報共有の方法と問題点(意見) 市民の生活困窮度の手掛かりとなる税等の滞納情報について、庁内での利用は個人情

    報保護法による規制により一定の制約がある。将来的には、各種の滞納情報を一元的に

    管理し、生活困窮者対策に利用できるように体制を見直すべきである。 例えば、国民年金保険料は、日本年金機構が徴収事務を行っているため、宇都宮市で

    は保険料未納者の情報を持ち合わせていない。近い将来、無年金に陥ると危惧される国

    平成22年度末 平成23年度末 平成24年度末 平成25年度末年金世帯 751 816 923 1,076無年金世帯 1,185 1,283 1,346 1,433

    0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%

    100%

  • 18

    民年金保険料未納者がどの程度存在しているのか調査するための方法がない。これは、

    平成 12 年の地方分権一括法の施行に伴い、国民年金の実施に係る事務のうち加入・届出などの窓口業務が市町村の法定受託事務とされ、国民年金保険料徴収業務は国の直接

    執行事務となり、具体的には日本年金機構が収納対策・免除勧奨業務を行うことになっ

    たためである。 税金や公共料金の滞納に至る順番として一定の規則性が認められることは、よく知ら

    れている事実である。一般的に生活が困窮すると、国税や市県民税の住民税、固定資産

    税、国民年金が最初に滞納となる。その後に国民健康保険税が続き、最後に住居に係る

    家賃やライフラインである電話料金、電気料金、水道料、ガス代が滞納となる。 国民年金の保険料未納の情報がつかめれば、現状における将来的な無年金者の推移は

    おおよそ予測できることになる。しかし、宇都宮市としては保険料未納の情報を得るこ

    とはできない。それに代わる手段として、上記に示した税金等の滞納の規則性を利用す

    ることが考えられる。監査において、この観点から生活福祉課や保険年金課による情報

    のやり取りを確認したが、個人情報保護の制約から情報の交換は行われていないという

    ことである。 現状の宇都宮市の組織を前提に個人情報の制約を考慮して生活困窮度の指標として

    的を絞るならば、国民健康保険税の滞納世帯の情報が適切ではないかと考える。病気に

    備えて医療保険料を支払うだけの余裕が家計にあるか否かは、生活困窮度を測る上での

    目安となる。かつ、医療保険のうち国民健康保険制度は市行政の管轄であるため、独自

    に国民健康保険税の滞納世帯の情報をつかむことが可能となるからである。そのため、

    国民健康保険税の滞納状況が把握可能な保険年金課と、生活困窮者対策の総合窓口であ

    る生活福祉課との間での更なる情報共有等の対応が必要となる。 後述(12.2.1)するように、生活困窮者世帯に関する情報提供制度において、各種の

    滞納情報が外部関係者の情報提供に先立って十分に生かされている状況とは言えない。

    情報の共有について個人情報保護法による庁内の制約があることから、将来的には、市

    民税や国民健康保険税、介護保険料、水道料等の滞納情報を一元的に管理する部署を設

    けて、業務の一環に生活困窮者の情報把握に対する権限を割り当て、その情報を起点と

    して生活困窮者に対する初動の働きかけ(生活困窮者対策事業の実施部署への情報伝達)

    ができるような体制が必要と考える。

  • 19

    4 生活保護の事前相談

    4.1 概要 4.1.1 相談業務について

    生活保護を受けるに当たっては、通常相談者は事前相談を受ける。事前相談において

    は、面接相談員は相談者の生活困窮の状態を確認する。また、相談に来た段階で他法の

    活用可能性があれば、他法の活用を勧める。例えば、住宅支援給付、生命保険契約者で

    あれば解約返戻金の収受の検討、生活福祉資金の検討、ハローワークや民間就労支援機

    関による就職支援の検討が優先される。 市においては特に就労支援に力を入れており、就労支援相談員(嘱託員)による就職

    支援、市とハローワークとの連携なども行っている。 4.1.2 相談件数の傾向について 生活保護の相談業務について、以下のとおり過去 8 年の相談件数の推移と、リーマンショックの前年である平成 19 年度を基準にした件数の比率を記載した。

    年度 面接相談件数 平成 19 年度対比率 平成 18 年度 2,667 件 87% 平成 19 年度 3,050 件 100% 平成 20 年度 4,373 件 143% 平成 21 年度 6,071 件 199% 平成 22 年度 5,058 件 166% 平成 23 年度 4,489 件 147% 平成 24 年度 4,168 件 137% 平成 25 年度 3,202 件 105%

    上表のとおり、相談件数はリーマンショックを機に、最大でリーマンショック前の倍

    近い件数に増加している。その後、景気の回復等の要因により雇用が回復し、相談業務

    の件数はリーマンショックの前に近い水準まで下がりつつある。 4.1.3 相談業務の手続について 生活保護を必要とする市民は、宇都宮市社会福祉事務所(以下、「福祉事務所」とす

    る。)へ相談することが必要となる。 福祉事務所へ来所する相談者は、そのうち 8 割から 9 割程度が自主的に来所する。それ以外には民生委員、医療機関、介護施設等の関係機関、議員等の知人からの情報を受

    け、相談を受けることもある。

  • 20

    相談を受ける体制としては、査察指導員と面接相談員がいる。査察指導員は係長、総

    括主査が担当し、面接相談員は 6 名の相談員から成り、主に教職を経験した人材が受嘱している。 面接相談における具体的な説明内容としては、以下の説明がなされる。

    項目 内容 ① 生活保護法

    の説明 ・窓口での相談後、改めて「生活保護のしおり」に沿って生活保

    護制度の趣旨、保護の考え方、保護の種類、保護要件、保護の手

    続等について説明する。 ・基本原理が次のとおり

    ・憲法の理念に基づく最低限度の生活の保障と自立の助長 ・無差別平等 ・最低生活とは、健康で文化的な生活水準のこと。 ・保護の補足性(保護の要件)

    ・保護の基本原則は次のとおり ・申請保護の原則(要保護者、扶養義務者、同居の親族の申

    請に基づいて開始する。) ・基準及び程度の原則(最低生活費の不足を補う程度) ・必要即応の原則(必要性を考慮し、有効かつ適切に行う。)

    ・世帯単位の原則(世帯単位として要否及び程度を判定す る。)

    ② 主訴及び申請意思の確

    ・面接記録票に沿って、生活状況や相談経緯等の主訴の把握を行

    う。 ・相談内容及び相談時点での窮迫状況、保護の適用種類・範囲、

    他法施策等の関係を具体的、現実的に検討し必要な助言を行った

    上で最終的に相談者の申請意思を確認する。この場合、面接相談

    員の一方的な判断によるのではなく、あくまで相談者が自分の置

    かれている状況をよく認識した上での自己決定に基づく意思確認

    でなければならない。 ③ 保護申請 「5.生活保護の開始手続」参照 相談を受け付けた場合、相談の都度、面接相談記録票を記入した上で、相談日・生年

    月日・住所・名前・地区・家族・国籍をデータベースに登録している。面接相談記録票

    は 1 日 10 件から 15 件程度、月に 200 件程度作成しており、地区ごとの簿冊につづられている。生活保護の申請が受理されると、当該相談者に関する面接相談記録票は簿冊

    から抜かれ、申請者ごとに作成されたケース台帳にとじ込まれる。

  • 21

    4.1.4 生活保護の基本原理 4.1.4.1 保護の補足性の原理(法第4条)

    相談業務を行うに当たっては、保護の補足性の原理(法第 4 条)に基づき、利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用すること

    を前提とする相談対応となっている。 4.1.4.2 申請権の保護

    相談業務を行うに当たっては、相談者の申請権(厚生労働事務次官通知(昭和 36 年4 月 1 日厚生省発社第 123 号))が侵害されていないか、具体的には、申請者が福祉事務所に対して申請意思を表示した場合、福祉事務所は原則 14 日以内に保護を開始するか却下するかの決定を行う必要がある。

    また、申請者が言葉の通じない外国人であっても相談者の申請権が確保されている必

    要がある。この点に関して市の担当者によれば、相談に来る外国人は大半が自身で片言

    の日本語を話せるか、本人が話せなくても日本語が分かる友人・知人が同伴し、相談窓

    口で支障が出ることは無い、とのことであった。外国人である本人は、日本で生活する

    場合、困ったことがあれば出身国ごとにある在日外国人のネットワークに相談し、そこ

    から日本語のできる人に同伴してもらい、生活保護の窓口相談を行う場合があるとのこ

    とである。市の職員も、英語であれば相談者と意思疎通はでき、中国語であっても筆談

    である程度の対応ができるという。 4.1.4.3 自動車保有の原則・例外対応に関する説明の妥当性

    保護に当たっては、最低生活の内容として自動車の保有は原則として認められない。

    ただし、事業用品としての自動車、通勤用自動車、公共交通機関の利用が著しく困難な

    地域における通院等のための自動車などについては、一定の要件の下に保有が例外的に

    認められている。事前相談に際しては、原則論のみならず例外も説明した上で、個別事

    情に応じて助言・指導する必要がある。 この点に関して市に担当者に質問を行ったところ、車を持っている人に対しては、原

    則処分しなければならないこと、例外はあるが限定されていることを全て説明している、

    とのことであった。また、車を持っている相談者は、3 割程度と考えているが、説明を受けて車を手放す人がほとんどで、例外に該当するため車を保有し続ける人が一部いる

    一方、どうしても車を手放さず生活保護を辞退する人も、僅かにいる、との回答があっ

    た。 4.1.4.4 扶養を期待できる親族等がいる場合の指導の妥当性

    事前相談に際しては、相談者に扶養が期待できる親族等がいる場合に、これらの者に

    援助してもらえるか否か確認している。

  • 22

    4.1.5 生活困窮者への支援制度 生活保護は保護の補足性の原理(法第 4 条)に基づき、利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを前提とする相談対

    応を行っているが、生活困窮者への支援制度としては、以下の各種制度がある。 4.1.5.1 宇都宮市社会福祉協議会の各種貸付制度

    生活困窮者への支援制度として、社会福祉協議会による「生活福祉資金貸付制度」が

    ある。 本貸付制度は、低所得者や高齢者、障がい者の生活を経済的に支えるとともに、その

    在宅福祉及び社会参加の促進を図ることを目的とした貸付制度である。本貸付制度は、

    都道府県社会福祉協議会を実施主体として、市区町村社会福祉協議会が窓口となって実

    施しており、低所得世帯、障がい者世帯、高齢者世帯等世帯単位に、それぞれの世帯の

    状況と必要に合わせた資金の貸付けを行っている。 本貸付制度の種類と主な貸付内容を整理すると、以下のとおりである。

    総合支援資金(生活福祉資金) 生活支援費

    資金使途 ・生活再建までの間に必要な生活費用 貸付限度額 (二人以上)月 20 万円以内

    (単身) 月 15 万円以内 ・貸付期間:12 月以内

    据置期間 ・最終貸付日から 6 月以内 償還期間 ・据置期間経過後 20 年以内 貸付利子 連帯保証人あり 無利子 連帯保証人なし 年 1.5% 連帯保証人 原則 1 名必要 ただし、連帯保証人なしでも貸付可

    住宅入居費 資金使途 ・敷金、礼金等住宅の賃貸借契約を結ぶために必要な費用

    貸付限度額 40 万円以内 据置期間 貸付けの日(生活支援費と併せて貸し付けている場合は、生

    活支援費の最終貸付日)から 6 月以内 償還期間 ・据置期間経過後 20 年以内 貸付利子 連帯保証人あり 無利子 連帯保証人なし 年 1.5% 連帯保証人 原則 1 名必要 ただし、連帯保証人なしでも貸付可

    一時生活再建費 資金使途 ・生活を再建するために一時的に必要かつ日常生活費で賄う

    ことが困難である費用

  • 23

    ・就職・転職を前提とした技能習得に要する経費 ・滞納している公共料金等の立替え費用 ・債務整理をするために必要な経費 等

    貸付限度額 60 万円以内 据置期間 ・貸付けの日(生活支援費と併せて貸し付けている場合は、

    生活支援費の最終貸付日)から 6 月以内 償還期間 ・据置期間経過後 20 年以内

    貸付利子 連帯保証人あり 無利子 連帯保証人なし 年 1.5% 連帯保証人 原則 1 名必要 ただし、連帯保証人なしでも貸付可

    福祉資金 福祉費

    資金使途 ・生業を営むために必要な経費 ・技能習得に必要な経費及びその期間中の生計を維持するた

    めに必要な経費 ・住宅の増改築、補修等及び公営住宅の譲受けに必要な経費 ・福祉用具等の購入に必要な経費 ・障がい者用の自動車の購入に必要な経費 ・中国残留邦人等に係る国民年金保険料の追納に必要な経費 ・負傷又は疾病の療養に必要な経費及びその療養期間中の生

    計を維持するために必要な経費 ・介護サービス、障がい者サービス等を受けるために必要な

    経費及びその期間中の生計を維持するために必要な経費 ・災害を受けたことにより臨時に必要となる経費 ・冠婚葬祭に必要な経費 ・住居の移転等、給排水設備等の設置に必要な経費 ・就職、技能習得等の支度に必要な経費 ・その他日常生活上一時的に必要な経費

    貸付限度額 580 万円以内 ※資金の使途に応じて上限目安額を設定

    据置期間 ・貸付けの日(分割による交付の場合には最終貸付日)から 6月以内

    償還期間 ・据置期間経過後 20 年以内(資金使途に応じて償還期間の目安を設定)

    貸付利子 連帯保証人あり 無利子 連帯保証人なし 年 1.5% 連帯保証人 原則 1 名必要 ただし、連帯保証人なしでも貸付可

  • 24

    緊急小口資金 資金使途 ・次の理由により緊急かつ一時的に生計の維持が困難となっ

    た場合に貸し付ける少額の費用 ・医療費又は介護費の支払等 ・給与等の盗難又は紛失 ・火災等被災 ・その他これらと同等のやむを得ない事由によるとき

    貸付限度額 ・10 万円以内 据置期間 ・貸付けの日から 2 月以内 償還期間 ・据置期間経過後 8 月以内

    貸付利子 ・無利子 連帯保証人 ・不要 教育支援資金 教育支援費

    資金使途 ・学校教育法に規定する高等学校、大学又は高等専門学校に就学するのに必要な経費

    貸付限度 (高校)月 3.5 万円以内 (高専)月 6 万円以内 (短大)月 6 万円以内 (大学)月 6.5 万円以内

    据置期間 ・卒業後原則 3 月以内 償還期間 ・据置期間経過後 20 年以内 貸付利子 ・無利子 連帯保証人 ・不要

    就学支度金 資金使途 ・学校教育法に規定する高等学校、大学又は高等専門学校へ

    の入学に必要な資金 貸付限度 ・50 万円以内 据置期間 ・卒業後 6 月以内 償還期間 ・据置期間経過後 20 年以内 貸付利子 ・無利子 連帯保証人 ・不要

    不動産担保型生活資金 不動産担保型生活資金

    資金使途 ・低所得の高齢者世帯に対し、一定の居住用不動産を担保と

  • 25

    して生活資金を貸し付ける制度 (貸付期間は、借受人の死亡時までの期間又は貸付元利金が

    貸付限度額に達するまでの期間) 貸付限度額 ・土地の評価額の 70%程度

    (評価額が 1,500 万円以上であることが必要。ただし、1,000万円以上でも貸付けが可能な場合もある。) ・月 30 万円以内

    据置期間 契約の終了後 3 月以内 償還期間 据置期間終了時

    貸付利子 年 3%、又は長期プライムレートのいずれか低い利率 連帯保証人 必要

    ※推定相続人の中から専任 要保護世帯向け不動産担保型生活資金 資金使途 ・要保護の高齢者世帯に対し、一定の居住用不動産を担保と

    して生活資金を貸し付ける制度 貸付限度額 ・土地及び建物の評価額の 70%程度(集合住宅の場合は 50%)

    ・生活扶助費の 1.5 倍以内 ・貸付期間 借受人の死亡時までの期間又は貸付元利金が貸付限度額に達

    するまでの期間 据置期間 ・契約の終了後 3 月以内 償還期間 ・契約期間終了時 貸付利子 年 3%、又は長期プライムレートのいずれか低い利率 連帯保証人 不要

    臨時特例つなぎ資金 離職者を支援するための公的給付制度又は公的貸付制度を申請している住居の

    ない離職者に対して、その給付金又は貸付金の交付を受けるまでの当面の生活費

    を迅速に貸し付けることにより、その自立を支援する制度。 資金使途 ・離職者を支援する公的給付制度又は公的貸付制度を申請し

    ている住居のない離職者が必要とする、当該給付金等の交付

    を受けるまでの当面の生活費 貸付限度額 ・10 万円以内 償還期間 ・公的給付又は公的貸付けが決定し、その給付金又は貸付金

    の交付を受けたときから1月以内 ・公的給付及び公的貸付けの申請が却下されたときは、却下

    のときから 1 月以内

  • 26

    4.1.5.2 障がい者福祉施策の活用 平成 25 年 4 月に施行された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援する法

    律(障害者総合支援法)」により、障がい福祉のサービスは、個々の障がいのある人々

    の障がい程度や勘案すべき事項(社会活動や介護者、居住等の状況)を踏まえ、個別に

    支給決定が行われる「障がい福祉サービス」と、市町村の創意工夫により利用者の方々

    の状況に応じて柔軟に実施できる「地域生活支援事業」に大別される(詳細については

    「12.5 生活困窮者対策(障がい者支援)」を参照のこと)。 4.2 監査の結果 「4.1.4 生活保護の基本原理」に則った取り扱いがなされているかを検証するため、市の担当職員への質問及び平成 25 年 12 月の面接相談記録票を閲覧した。 監査手続の結果、指摘又は意見の対象となる事項は検出されなかった。

  • 27

    5 生活保護の開始手続

    5.1 概要 生活保護の対象は、生活に困窮する者(以下「困窮者」という。)で、その者が利用

    し得る現金を含む資産、稼働能力その他あらゆるものを活用しても、なお厚生労働大臣

    の定める保護の基準で測定される最低限度の生活が維持できない者とされている。

    そのため、厚生労働大臣が定める基準で測定される最低生活費と収入を比較して、収

    入が最低生活費に満たない場合に保護が適用され、最低生活費から収入を差し引いた差

    額を保護費として支給することになる。

    生活保護法第 7 条において、「保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基づいて開始するものとする。ただし、要保護者が急迫した状況にある

    ときは、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。」と、申請保護の原

    則が規定されている。したがって、困窮者が自らの意思で保護の申請を行うことが原則

    とされている。

    保護の申請に当たっては、困窮者が福祉事務所において生活保護制度の説明を受ける

    とともに、生活歴や資産・収入の状況、家族構成などの聴取を受け、その内容が面接記

    録票に記載される。当該面接を受けて、保護の申請を希望する場合は、保護申請書に必

    要書類を添付して保護の申請を行うことになる。

    福祉事務所は、保護申請書受理後、申請者の資産、収入、扶養義務者、稼働能力の調

    査を行い、保護の要否、種類、程度及び方法を決定することになる。当該決定は、申請

    者に対して書面をもって通知することとされており、原則として申請のあった日から

    14 日以内に、特別の理由がある場合でも 30 日以内に行わなければならないこととされている。

    ・生活保護制度の説明

    ・生活福祉資金、障がい者施策等の社会保障施策活用の可否の検

    ・預貯金、保険、不動産等の資産の調査

    ・扶養義務者による扶養の可否の調査

    ・年金等の社会保障給付、就労収入等の調査

    ・就労の可能性の調査

    保護費の支給

    医療機関への入院,保護施設等への入所

    事前の相談

    保護の申請

  • 28

    5.1.1 生活保護制度の説明 概要に記載のとおり、困窮者が自らの意思で保護の申請を行うことが原則とされてい

    る。そのため、福祉事務所に来所した相談者に対して、生活保護のしおりを配布し、生

    活保護の考え方、生活保護を受けるための要件、扶助費の種類、生活保護の手続などを

    説明することになる。また、生活保護以外の制度が利用できる可能性がある場合には、

    関係機関・部署を紹介する。

    その後、生活保護の申請を希望する者に対しては、経歴、家族構成、預貯金など保有

    資産の状況、就労状況などの概要をヒアリングし、面接記録票に記載する。

    5.1.2 生活保護の申請 相談者に対する面談が終了し、相談者に生活保護の申請意思がある場合には、「生活

    保護法による保護申請書」を受領するとともに、預貯金等の保有資産の状況を記載した

    「資産申告書」、資産調査のための「同意書」、給与や年金支給などの収入の状況を記載

    した「収入申告書」を徴収する。

    5.1.3 預貯金、保険、不動産等の資産の調査 「資産申告書」の内容を確認するため、金融機関に対して預金口座の有無及び取引記

    録を照会・調査する。宇都宮市内に本支店を有する都市銀行や地方銀行、信用金庫など

    の主要な金融機関 11 行については必ず照会を行うとともに、申請者から申告のあった金融機関や出身地の主要な金融機関など、状況に応じて個別に照会を行うこととしてい

    る。また、保険加入の状況を確認するため、生命保険会社 13 社に対して必ず照会を行っている。

    その他、固定資産税の課税台帳の確認を行って、不動産を保有していないかどうかに

    ついても調査を実施している。

    5.1.4 扶養義務者による扶養の可否の調査 申請者からの申告を基本として、戸籍謄本などから扶養義務者を調査する。扶養義務

    者を把握後、申請者その他から聞き取り等の方法により扶養の可能性の調査を行い、原

    則として 3 親等以内の扶養義務者に対して扶養の意思確認をするために「扶養届書」を送付し、扶養の可能性、扶養の内容・程度について回答を入手する。

    その結果、「扶養義務履行が期待できない」と判断された場合は、扶養義務者が生活

    保持義務関係にある者であれば、まず関係機関等に対して照会を行い、なお扶養能力が

    明らかにならないときはその者の居住地を所管する保護の実施機関に文書で調査を依

    頼するか、又はその居住地の市町村に照会することになっている。また、生活保持義務

    関係にある者以外の場合は個別に慎重な検討を行い扶養の可能性がないものとして取

    り扱って差し支えないものとしている(厚生労働省社会・援護局保護課長通知(以下「課

  • 29

    長通知」という。)第 5 の 2)。 なお、生活保持義務関係とは、夫婦及び未成熟の子に対する親のことをいう。

    5.1.5 年金等の社会保障給付、就労収入等の調査 日本年金機構に対する加入記録の確認や源泉徴収票・給与明細書の徴収、預金通帳の

    入金記録の確認等により、収入状況の調査を行う。収入については変動があるため、生

    活保護開始後も収入金額を毎月把握して、扶助費を算定する。

    5.1.6 就労の可能性の調査 年金受給前の稼働年齢層である場合には、ハローワーク等での求職活動の状況を確認

    するため、求職活動の状況を報告させることとしている。また、健康状態に問題がある

    場合には、医療要否意見書により病状を把握する。

    5.2 監査の結果 5.2.1 申請日付の記載(指摘) 保護申請書を閲覧した 45 件中 3 件で、保護申請書の日付・続柄の記載が本人の署名や他の数字の記載と明らかに筆跡が異なっており、当該 3 件の日付・続柄の筆跡が同一であった。また、その他に、保護申請書の日付が代筆されているケースが 2 件あった。 概要に記載のとおり保護決定は保護申請のあった日から 14 日以内に行うものとされており、申請日と受理日は同一となることから、申請日は保護開始手続でも重要な記入

    項目である。したがって、保護申請書に記入漏れがないか確認するとともに、記入がな

    い場合には申請者本人に記入させる必要がある。また、第三者が代筆を行う場合には、

    代筆の必要性についてケース記録票などに記録する必要がある。

    5.2.2 申請日付の記載(指摘) 保護申請書を閲覧した 45 件中 1 件で、保護申請書に受理印(受理日)はあるものの、保護申請日の記入がなかった。

    5.2.1 に記載のとおり、申請日は保護開始手続でも重要な記入項目である。保護申請書受付時に、記入漏れがないか確認するとともに、記入がない場合には申請者本人に記

    入させる必要がある。

    5.2.3 新規ケース作成のチェックポイント(指摘) 宇都宮市では、生活保護の申請を受理した際に、「新規ケース作成のチェックポイン

    ト」を作成し、申請の適法性、調査項目の実施状況などを確認して、ケースファイルの

    作成(保護の決定)を行っている。

  • 30

    「新規ケース作成のチェックポイント」を閲覧した 45 件中 2 件で、課長以下 3 名の決裁が行われていなかった。また、そのうちの 1 件については、4 月 5 日申請受理にもかかわらず、「ケース記録票」を 12 月以降に作成しているものと思われ、「新規ケース作成のチェックポイント」と同一の役職者から承認が行われていない。このことから、

    「新規ケース作成のチェックポイント」も 12 月に作成した可能性がある。 一方で、白紙の「新規ケース作成のチェックポイント」に決裁のみが行われているケ

    ースも 1 件あった。 「新規ケース作成のチェックポイント」は手続の進捗把握や手続の漏れを防止する上

    で有用であり、適時・適切に作成し、決裁を得ることが必要である。

    5.2.4 新規ケース作成のチェックポイント(意見) 「新規ケース作成のチェックポイント」は申請受理後速やかに作成されるため、資産

    調査や扶養義務調査など時間を要する調査内容については調査中となっているケース

    が多い。しかし、「新規ケース作成のチェックポイント」には、調査中の手続のてん末

    が記載されないため、現状では、手続の進捗状況を把握する書類として利用されていな

    い。

    調査中の手続について、備考欄に手続終了の旨を記載することで、手続の進捗管理に

    使用することが有用であると考える。

    5.2.5 資産調査(指摘) 金融機関への照会結果について、「預貯金・生命保険等調査照会・回答状況」を申請

    者別に作成している。「預貯金・生命保険等調査照会・回答状況」には、調査を行う金

    融機関が一覧となっており、金融機関ごとに回答内容を記載する様式となっているが、

    回答結果が記入漏れとなっているものや、照会票の回収がない(ファイリング漏れを含

    む)にもかかわらず、理由が明記されていないものが散見された。

    回答結果を必ず記載し、照会票の回収漏れやファイリング漏れの確認をする必要があ

    る。

    5.2.6 資産調査(指摘) 資産申告書で申告されている口座について、金融機関への照会結果では口座なしで回

    答されているが、理由が検討されていないケースが 45 件中 2 件あった。

    解約されたのであれば、解約時の残高を確認する必要があるし、照会名義等に瑕疵カ シ

    あるのであれば、全金融機関に対して再照会を行う必要がある。

  • 31

    5.2.7 資産調査(指摘) 保護システムの氏名のフリガナに入力誤りがあったケースで、本人申告の金融機関 2か所中 1 か所について、金融機関照会で口座なしと回答されているが、再照会されていなかった。

    面接記録票など複数の書類で入力ミスがある旨注意書きされており、再照会を行う機

    会はあったはずである。また、本人申告と金融機関の回答に差異があるのであれば、理

    由を確認する必要がある。

    さらに、保護システムの入力内容に誤りがないか確認する手続を徹底する必要がある。

    5.2.8 資産調査(指摘) 必須の調査対象となっていない金融機関の口座を保有していると申告されているケ

    ースで、面談時に預金通帳を確認しているにもかかわらず、当該金融機関に対して照会

    が行われていなかった。

    また、面談により、過去に割引債を運用していたことを把握しているケースで、証券

    会社に資産照会を行っていなかった。

    金融機関照会には、他口座の把握や未記帳取引の有無を確認する意義もあるため、申

    請時に資産申告で把握した取引金融機関については照会を行う必要があると考える。

    なお、後段の申請者が申告した証券会社は消滅しているが、業務が承継されている証

    券会社に照会を行う必要がある。

    5.2.9 資産調査(指摘) 金融機関への資産照会により、申請者の資産申告書に記載のない金融機関口座が回答

    されているが、当該預貯金残高についての取扱いが記録されていないケースがあった。

    本ケースは 4 月 12 日起案で申請日(4 月 9 日)に遡及して開始決定を行っているが、 5 月 20 日に入手した金融機関回答の預貯金残高(4 月 9 日現在)は 70 千円であった。4 月の最低生活費が 114 千円と算定されており、申請時に保有が認められる最低生活費の 5 割を超過している。 開始翌月以降に判明した保護開始時の手持金のうち、最低生活費の 5 割を超える金額は返還対象とすべきところ当該処理が行われていない。また、仮に申請者により費消さ

    れているとすれば、開始決定日と金融機関の残高確認日が 4 月 9 日で同一日であることから、意図的に資産申告を行わなかったこととなり、徴収対象としなければならないケ

    ースであったと考える。

    5.2.10 扶養義務者の把握と扶養能力の調査(意見) 扶養義務者の把握については、申請者からの聞き取りと戸籍謄本等の書類によって行

  • 32

    われているが、扶養能力の調査(扶養届書の送付)が保護申請から 9 か月以上経過しているケースが検証した 45 件中 4 件あった。

    他自治体への照会など、扶養義務者の所在を把握するのに一定期間が必要であること

    は理解できるが、照会には長くとも 1、2 か月とのことから、扶養届書の送付の目安を申請日から 3 か月など一定期間とすることも必要と考える。

    5.2.11 扶養調査(指摘) 扶養義務者については、樹形図を作成した上で、扶養義務者一覧表に各扶養義務者に

    対する調査結果を記載する様式となっている。しかし、調査日(扶養届書送付日)や調

    査結果が記載されていないものが散見された。

    扶養届書の回収がなされていない場合、調査日(扶養届書送付日)の記載がないもの

    は、扶養義務者一覧表を閲覧しても、調査が行われたのかどうか客観的に判断できない。

    扶養義務履行が期待できないと判断される場合には、「課長通知 第 5 の 2」で保護台帳、ケース記録等に当該検討経過及び判定について明記する必要があるとされている

    ことから、様式に沿って手続や結果を記録する必要がある。また、扶養届書を回収でき

    ている者についても、扶養義務者一覧表にてん末を記録することで調査結果が一覧でき

    るようにすべきである。

    5.2.12 扶養調査(指摘) DVを理由に離婚協議中の夫に対する扶養調査(直接照会)を行っていないケースで

    あるが、当該夫が児童手当を受給しており、実際に子供を扶養している申請者が児童手

    当を受給できていない点について対策を講じた記録がない。児童手当の受給資格者につ

    いては、離婚協議中や、DV被害者である場合、条件によっては、父親からの「受給事

    由消滅届」がなくても、受給資格者を変更することができることから、扶養調査もでき

    ない状況であれば受取人変更手続を速やかに行うよう指導する必要があったと考える。

    また、指導を行ったのであれば、ケース記録票に記録すべきと考える。

    当該ケースは、平成 25 年 4 月 4 日の保護開始から平成 26 年 4 月 9 日の転出による保護廃止まで児童手当の収入認定がなされていない。被保護者にとっては、受給する扶

    助費と児童手当の合計額は変わらないが、他の制度を利用しても不足する最低生活費を

    扶助する生活保護制度の趣旨からすれば、母親に児童手当を支給させて生活扶助費を減

    額するとともに、父親への児童手当の支給を停止すべく、所管課と連携を取るべきであ

    ったと考える。

    5.2.13 生活扶助費の算定について(指摘) 扶助費の算定誤りにより、返還金 247 千円(4 月分:児童扶養手当対象月 12 月から

  • 33

    3 月 197 千円、5 月分:同対象月 4 月 49 千円)が発生しているケースがあった。 当初、申請者の収入申告に記載のある児童扶養手当について収入認定を行ったが、事

    実婚を理由に支給停止となることから、14 日後の起案で当該児童扶養手当の収入認定を取り消した。しかし、実際、児童扶養手当は支給されており、結果的に収入認定を誤

    ったことになった。

    児童扶養手当の支給を宇都宮市が行っていることに鑑みると、資格喪失日や支給方法

    についての確認が不足していたと言わざるを得ない。

    本ケースは、収入申告をした申請者に落ち度がないにもかかわらず、費消してしまっ

    た多額の保護費を返還しなければならなくなってしまっており重要な問題である。収入

    認定は、生活保護費の適正な支給を行う上で重要性が高いため、別担当者による確認作

    業を徹底する必要がある。

    5.2.14 年金担保借入(意見) ①結論

    保護申請時に消費者ローン等の借入金がある場合には、弁護士に相談することを奨励

    しているが、年金担保借入については、実質的に保護費から返済が行われることとなっ

    ている。

    生活保護費の負担は、国庫 75%・地方自治体 25%となっている。そのため、独立行政法人福祉医療機構(以下「機構」という。)が生活保護受給者に対する年金担保貸付

    の貸倒処理を行えば、生活保護費算定の際に収入認定できる額が増加するため、地方自

    治体の財政負担が減少することになる。

    年金担保貸付事業が特別に認められた制度であることに鑑みると、自己破産により免

    責が認められる使途の年金担保借入であれば、生活保護受給を要件として免責を認める

    ことも検討の余地があると考える。

    ②年金担保借入と生活保護費の関係

    年金担保借入とは、将来の年金給付を担保として借入れを行うものであり、機構が年

    金担保貸付事業として行っている。厚生年金保険法及び国民年金法では年金給付を受け

    る権利を担保に貸付けをすることは禁止されているが、昭和 48 年及び昭和 49 年の法律改正により、年金担保貸付事業が行われるようになった。

    年金を担保に借入れを行った者は、年金受給が開始されると、年金が機構に振り込ま

    れ、年金受給額から機構への返済額を控除した額が機構から振り込まれることになる。

    しかし、平成 22 年の行政刷新会議の事業仕分けにおいて、年金担保貸付の利用者が、その借入金の返済期間中に生活保護を受けることにより、生活保護費という公費が実質

    的に返済財源になってしまうことなど、生活保護制度の立場から問題事例が生じている

  • 34

    ことなどが指摘された。そのため、厚生労働省でも平成 25 年に年金担保貸付事業の廃止に向けて検討がなされているが、利用状況にも配慮し、貸付限度額の減額などを行い

    ながら、平成 28 年度に具体的な廃止時期を判断するものとされた。

    その結果、現在でも機構に対して返済がなされた後の年金振込額が生活保護費算定の

    際の収入認定額となっている。年金受給権を担保とすることができない民間金融機関か

    らの借入れであれば、自己破産により免責を受けた上で生活保護費の受給を受けること

    も可能であるが、年金担保借入については免責とならないため、機構への返済が継続さ

    れることとなる。

  • 35

    6 生活保護費の支給手続

    6.1 概要 生活扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、衣食

    その他日常生活の需要を満たすために必要なもの及び移送の範囲内にて行われる(法第

    12 条)。 生活扶助は、原則として金銭給付によって行われる。生活扶助のための保護金品は、

    1 か月以内を限度として前渡するのもとされ、世帯単位に計算し、世帯主又はこれに準じる者に対して交付するものとされている(法第 31 条)。 6.1.1 宇都宮市の支給手続の流れ

    宇都宮市の支給手続の流れは、以下のとおりである。

    ・システムにおける保護費変更から確定までの処理 《窓口支払用》

    生活保護費支給明細書

    《定例処理》 定例的な変更 全体的な変更

    決定調書及び

    決定通知書

    各種変更入力 システム内扶助内容変更

    決定調書及び

    決定通知書

    各グループ SV による決定調書の内容確認後決定の処理を行う 《〆処理》

    システム内内容確定 翌月扶助内容確定

    システム側 ケースワーカー側

    《口座振替用》

    ・生活保護費振込依頼明細書

    《代理納付用》

    ・介護保険料加算保険者渡一覧

    ・住宅扶助費管理者渡一覧

  • 36

    宇都宮市は、1 日付で当月分を支給している。支給日の前月 20 日頃にシステムの締め処理を行い、各世帯の保護費を計算・確定する。支給方法は、①窓口支給、②口座振

    込、③代理納付、④現金書留による郵送の 4 種類である。締め処理を行った後、①窓口支払用に「生活保護費支給明細書」、②口座振替用に「生活保護費振込依頼明細書」、③

    代理納付用に「介護保険料加算保険者渡一覧」、「住宅扶助費管理者渡一覧」がアウトプ

    ットされ、②口座振込用の「生活保護費振込依頼明細書」は、データにより出納室経由

    で銀行に電送される。 ・口座振込の処理

    宇都宮市における窓口支給は、現金を支給するのではなく、小切手を振り出して被保

    護者が銀行で換金する方法を採っている。窓口支給の場合、まず、担当ケースワーカー

    が被保護者と対応し、本人確認を行う。ケースワーカーが査察指導員に「支出管理表」

    及び「領収書」の発行を依頼する。査察指導員は「生活保護費支給明細書」にて氏名・

    扶助額を確認した上で「支出管理表」と「領収書」を発行し、ケースワーカーへ渡す。

    ケースワーカーは、受領した「支出管理表」「領収書」を管理グループの小切手振出担

    当者へ回して、小切手の振り出しを依頼する。振り出された小切手は、ケースワーカー

    とは別の現金分任出納員が受け取り、ケースワーカーとともに被保護者へ小切手を手渡

    し、「支出管理表」及び「領収書」に受領印をもらう。

    生活福祉第1課 管理グループ

    出納室

    指定代理金融機関

    〆処理後口座振

    込情報

    〆処理後口座振

    込情報

    口座情報につい

    て照合確認 USB 電送

  • 37

    ・窓口支給の処理

    保護費を持参・郵送する場合、まず、ケースワーカーが査察指導員に「支出管理表」

    及び「領収書」の発行を依頼する。査察指導員は「生活保護費支給明細書」にて氏名・

    扶助額を確認した上で「支出管理表」と「領収書」を発行し、ケースワーカーへ渡す。

    ケースワーカーは、「現金渡伺簿」を作成し、「支出管理表」とともに決裁を受け、「支

    出管理表」「領収書」を管理グループの小切手振出担当者へ回して、小切手の振り出し

    を依頼する。振り出された小切手は、ケースワーカーとは別の現金分任出納員が受け取

    り、現金分任出納員が銀行にて換金する。現金、「支出管理表」、「領収書」を複数人で

    保護受給者宅へ持参し、「支出管理表」及び「領収書」に受領印をもらう。郵送の場合

    は、現金書留にて、現金、「支出管理表」、「領収書」を送付し、被保護者が「支出管理

    表」及び「領収書」に受領印を押印し、返送してもらう。 6.1.2 国への保護費の請求手続 6.1.2.1 概要

    生活保護費の 4 分の 3 は国が負担することとなっているため(法第 75 条第 1 項)、宇都宮市は国へ生活保護費の請求を行っている。年度開始前の 3 月に、国へ交付申請を行い、国からは交付決定により、4 期に分けて概算で保護費が支給される。なお、平成

    被保護者 管理 G 担当 CW

    SV

    ②保護者確認 ① CW 呼出

    ③支出管理票

    打ち出し依頼

    ⑤支出管理票

    を受取り、小切

    手を作成

    生活保護費支

    給明細書にて

    氏名・扶助費

    額を確認

    ⑥担当 CW とともに被保護者へ小切手を手渡す

    ⑦小切手受領

    ④支出管理票

    を受領

  • 38

    25 年度の生活保護費申請額は、10,549,190,000 円となっている。 6.1.2.2 請求事務の流れ ・交付申請 毎年年度開始前の 3 月に「国庫負担金所要額算出基礎」、「歳入歳出予算書抄本」を添えて、年間の国庫負担金の申請を国に対して行う。平成 25 年度の申請額は、10,549,190,000 円であった。 ・所要見込額調 国からは 4 期に分けて概算で保護費が支給されるため、年 4 回、国庫負担金所要見込額調を提出する。

    第 1 回 7 月提出・・・4~6 月の実績及び 7 月以降の見込額 第 2 回 10 月提出・・・4~9 月の実績及び 10 月以降の見込額 第 3 回 12 月提出・・・4~11 月の実績及び 12 月以降の見込額 (第 2 回で報告した見込額が上回る場合のみ報告) 第 4 回 1 月提出・・・4~12 月の実績及び 1 月以降の見込額

    ・交付決定 交付申請及び所要見込額調により国から交付決定通知書が交付される。 平成 25 年度の交付決定通知書の内容は、以下のとおりである。 通知日付 交付決定額 内訳 平成 25 年 4 月1 日

    今回交付決定額 1,788,968,000 円 4 月分 879,099,000 円5 月分 909,869,000 円

    平成 25 年 5 月22 日

    前回までの交付決定額 1,788,968,000 円 今回交付決定額 4,364,725,000 円 交付決定額累計 6,153,693,000 円

    6 月分 879,099,000 円7 月分 879,099,000 円8 月分 879,099,000 円9 月分 879,099,000 円10 月分 848,329,000 円

    平成 25 年 9 月19 日

    前回までの交付決定額 6,153,693,000 円 今回交付決定額 2,634,891,000 円 交付決定額累計 8,788,584,000 円

    11 月分 878,297,000 円12 月分 878,297,000 円1 月分 878,297,000 円

    平成 26 年 1 月20 日

    前回までの交付決定額 8,788,584,000 円 今回交付決定額 1,690,280,000 円 交付決定額累計 10,478,864,000 円

    2 月分 845,140,000 円3 月分 845,140,000 円

    ・実績報告書及び精算 翌年度の 6 月末日までに、事業実績報告書を国に提出する。国において事業実績報告

    書を審査し、国庫負担金精算書とともに国庫負担金交付額確定通知書が 2 月に送られてくる。この精算書を基に返還すべきものがあれば納入告知書により納付する。

  • 39

    ・経理状況報告書 この他に、毎月、「経理状況報告書」を 20 日までに国へ提出し、保護費の支出済額等

    を報告している。 6.2 監査の結果

    小切手の管理について(指摘) 宇都宮市においては、窓口支給の場合、小切手を振り出して被保護者へ渡している。

    小切手の管理状況を確認したところ、小切手帳に振出人の印鑑が押印されたままで使用

    できる状態の小切手がとじてあった。平成 25 年 4 月から平成 26 年 3 月に振り出された小切手帳において、使用可能な状態のものは、以下のとおりである。 小切手番号 振出日 金額

    AB10192 平成 26年 2 月 28 日 77,120

    AB10070 平成 26年 2 月 18 日 空欄

    AB09213 平成 26年 1 月 23 日 空欄

    AB05799 空欄

    AB05843 平成 25年 10 月 30 日 空欄

    AB05838 平成 25年 9 月 30 日 空欄

    AB05537 平成 25年 9 月 5日 空欄

    AB05549 平成 25年 9 月 6日 空欄

    AB05621 平成 25年 9 月 9日 72,960

    AB05007 平成 25年 9 月 2日 52,780

    AB05066 空欄

    AB05129 空欄

    AB04757 平成 25年 8 月 7日 27,023

    AB04824 空欄

    AB04509 平成 25年 8 月 2日 111,529

    AB04636 平成 25年 8 月 5日 空欄

    AB07849 空欄

    AB07993 空欄

    AB07725 空欄

    AB07305 平成 25年 11 月 7 日 44,360

    AB07416 空欄

    AB07010 空欄

    AB06892 平成 25年 11 月 1 日 30,778

    AB06627 平成 25年 10 月 22 日 空欄

  • 40

    AB06626 平成 25年 10 月 22 日 空欄

    AB04275 平成 25年 8 月 1日 26,553

    AB04289 平成 25年 8 月 1日 空欄

    AB04369 平成 25年 8 月 1日 138,940

    AB04447 平成 25年 8 月 2日 空欄

    AB04073 平成 25年 7 月 22 日 165,208

    AB04244 平成 25年 8 月 1日 192,600

    AB04231 空欄

    AB03899 平成 25年 7 月 9日 93,986

    AB03891 平成 25年 7 月 9日 空欄

    AB03598 平成 25年 7 月 2日 37,130

    AB03736 平成 25年 7 月 3日 37,212

    AB03279 平成 25年 7 月 1日 105,370

    AB03065 平成 25年 6 月 18 日 空欄

    AB03056 平成 25年 6 月 12 日 109,326

    AB03117 平成 25年 6 月 17 日 空欄

    AB03226 平成 25年 6 月 26 日 15,000

    AB02909 平成 25年 6 月 5日 112,360

    AB02212 平成 25年 5 月 14 日 20,900

    AB01892 平成 25年 5 月 2日 100,944

    AB01604 平成 25年 5 月 1日 22,194

    AB01611 平成 25年 5 月 1日 102,260

    AB01300 平成 25年 4 月 12 日 34,330

    AB01094 平成 25年 4 月 4日 21,108

    AB01139 平成 25年 4 月 5日 25,678

    AB01200 平成 25年 4 月 8日 23,150

    AB00941 平成 25年 4 月 2日 69,404

    AB00874 平成 25年 4 月 2日 98,950

    AB10738 空欄

    小切手を書き損じた場合、番号箇所を切り取るか斜線を引くなど使用不可能な状態に

    することで不正な使用を防ぐことができる。宇都宮市の場合、上記のとおり書き損じた

    小切手が使用可能な状態で保管されているものが多数あり、小切手が適切に管理されて

    いない。あらかじめ小切手に振出人の印鑑を押印せず、書き損じた場合には、使用不可

    能な状態にしておく必要がある。

  • 41

    7 医療扶助、介護扶助及び住宅扶助

    7.1 医療扶助 7.1.1 概要 7.1.1.1 医療扶助制度

    医療扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、①診

    察、②薬剤又は治療材料、③医学的処置、手術及びその他の治療並びに施術、④居宅に

    おける療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護、⑤病院又は診療所への入院

    及びその療養に伴う世話その他の看護、⑥移送の範囲内において行われる(法第 15 条)。 医療扶助は、原則として現物給付によって�