ロシア同性愛宣伝禁止法 20140404 レジュメ改訂最終版.pdf

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1 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ロシア 同性愛(ゲイ)宣伝 禁止法 ―― 性表現規制をテコにした、言論とセクシュアリティの抑圧構造 2014/04/04 大江 泰一郎(静岡大学) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― はじめに ・研究経歴と本日のテーマについての限定 法文化としてのロシア法:西欧法(「近代法」)ないし「人類普遍の原理」との違い ・プーチンの大統領返り咲きと正教会(キリル1世総主教)「ゲイの社会化」対応 ①「砂社会」と「強い腕」の抱合関係 プーチン:〈西欧のとは異なるロシア流デモクラシー〉 ロシア国法学の伝統:専制(autocracy)が「主権」概念を排除する ②「行政的命令的システム」の遺産:〈オリガルヒ〉と〈シロヴィキ〉 ③ 連邦解消(1991 年)後の民族問題: チェチェン、南オセチア、ベラルーシ、ウクライナ…… (タタール?) 2013 6 29 日「ゲイ宣伝禁止法」成立 *キイワード:ゲイ、未成年者、伝統的家族関係 cf. 小泉悠(海外立法情報課)「ゲイ・プロパガンダ禁止法の成立」『外国の立法』(2013.8) =正式名称:「伝統的な家族関係を否定する情報から未成年者を保護するために連邦 法律『健康および発達に害を及ぼしうる情報から未成年者を保護する法律』第 5 条及 びその他個別の連邦法を改正する法律」(連邦法律第 135 号) *刑法ではなく、未成年者保護のための〈行政項目→行政罰としての罰金〉システム -未成年者(18 歳未満)に対する「非伝統的な性的関係」の宣伝行為を追加禁止 -また「行政的義務違反法典」改正により一般市民は 4,0005,000 ルーブル、公務員は 4 万~

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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ロシア 同性愛(ゲイ)宣伝 禁止法

―― 性表現規制をテコにした、言論とセクシュアリティの抑圧構造

2014/04/04 大江 泰一郎(静岡大学)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

はじめに

・研究経歴と本日のテーマについての限定

法文化としてのロシア法:西欧法(「近代法」)ないし「人類普遍の原理」との違い

・プーチンの大統領返り咲きと正教会(キリル1世総主教)「ゲイの社会化」対応

①「砂社会」と「強い腕」の抱合関係

プーチン:〈西欧のとは異なるロシア流デモクラシー〉

ロシア国法学の伝統:専制(autocracy)が「主権」概念を排除する

②「行政的命令的システム」の遺産:〈オリガルヒ〉と〈シロヴィキ〉

③ 連邦解消(1991 年)後の民族問題:

チェチェン、南オセチア、ベラルーシ、ウクライナ…… (タタール?)

・2013 年 6 月 29 日「ゲイ宣伝禁止法」成立

*キイワード:ゲイ、未成年者、伝統的家族関係

cf. 小泉悠(海外立法情報課)「ゲイ・プロパガンダ禁止法の成立」『外国の立法』(2013.8)

=正式名称:「伝統的な家族関係を否定する情報から未成年者を保護するために連邦

法律『健康および発達に害を及ぼしうる情報から未成年者を保護する法律』第 5 条及

びその他個別の連邦法を改正する法律」(連邦法律第 135 号)

*刑法ではなく、未成年者保護のための〈行政項目→行政罰としての罰金〉システム

-未成年者(18 歳未満)に対する「非伝統的な性的関係」の宣伝行為を追加禁止

-また「行政的義務違反法典」改正により一般市民は 4,000~5,000 ルーブル、公務員は 4 万~

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5 万ルーブル、法人は 80 万~100 万ルーブル、マスメディアやインターネットにおける宣伝

行為を行った者は 10 万ルーブル以下、ロシア連邦領内で宣伝行為を行った外国人は 4,000~

5,000 ルーブルの罰金。

1 「ゲイ宣伝禁止法」の周辺 cf【資料 G】.

・1991 年ソ連邦崩壊と 1993 年刑法典 121 条(男色禁止法)廃止

・1999 年 ロシア連邦、ICD-10 の受容:同性愛の非病理化

・2004 年、下院議員アレクサンドル・チューエフ*、ゲイ宣伝禁止法案提案

*「祖国」党、のち「正義のロシア」党幹部。教会団体での活動家

ロシア政府は人権・ヨーロッパ人権条約に反するとしていた。

・2006 年~ ゲイ・パレード(モスクワほか)

・2008 年、LGBT 側からの提案に対応する保健社会発展省令、発効

ゲイからの献血禁止を解除

ただし 2013 年自民党下院議員 M.デクチャリョーフの「ドナー法」提案

・2011 年6月法律家ポーンキン、クズネツォーフ、ミハリョーフがヨーロッパ議会へ報告

提出:「同性愛批判の権利、および同性愛強要への合法的制限について」

ヘルシンキ宣言モスクワ・グループは正教会側からの反撃開始と見る

cf.【資料 B・C・A】

・2012 年 2 月プッシー・ライオット事件と国際的反響

禁固2年判決(3人中1人は 10 月控訴審で執行猶予)

・2012 年 12 月 21 日「米国人によるロシア児童の養子縁組禁止法」(「ディーマ・ヤーコヴ

レフ法」成立。背景にゲイ問題がある。

・2014 年1月 国際ロシア民衆聖堂・権利擁護センター(シランティエフ):

イワン・オフロブィスティン(司祭、俳優)の刑法典 121 条復活提案を支持

・2014 年 1 月 13 日「同性愛者を法で取り締まるべきかを問う国民投票」の実施

ロシア正教モスクワ総主教座のフセボロド・チャプリン大司祭が提案表明

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・2014 年3月 サンクトペテルブルク市議会、ミス・コンテスト禁止条例制定

イルクーツクで「聖パトリック日」のフラッシュモブが襲われる

2 歴史:何がロシアに〈男色法〉の伝統をもたらしたか?

・18 世紀まで刑事罰(世俗法による規制)の対象としては知られていない

だが、西欧からの旅行者たちの観察: 無法と男色蔓延の社会

e.g. S. von Herberstein, Adam Olearius, J. Margeret....

歴史家 S.ソロヴィヨーフ:「東洋でも西洋でもロシアほどこの罪を軽くみたところはない。」

*ピョートル改革までのこの状況をどう見るか?

cf. 英語 buggery の語源:東方教会に属する Bulgaria(bugger=男色者の初出は 1555)

教会法ビザンツ法の受容(教会法典としてのビザンツ法=「舵の書」)

「男色」(мужеблудие)の罪(教会道徳上の)。男性間、P-A 結合に限定。

「ソドミー」(カトリック?)と比較。「同性愛」はロシアの「淫行」概念に近い

*同性愛・「ホモセクシャリティ」とロシア的「男色」とは概念的に違う(?)

・1706 年ピョートル大帝の軍法:「ソドミーヤ」「反自然的淫行」は火刑。ただし軍人のみ。

スウェーデン法から? のち 1716 年、体刑・無期シベリア流刑へ減刑

cf.【資料 E】

・1832 年刑訴法典 995 条

「男色行為という反自然的淫行」。ドイツ法(ヴュルテンベルク法?)から

全権利・身分剥奪の上シベリア流刑4~5年+教会での懺悔行

1845 年一部改正、1903 年まで存続

*バイエルン刑事法典 (BJBC) 1751 年

第8章 10 条 ソドミー罪は斬首ののち火刑。

魔術・妖術からこれに至る場合あり

例外犯罪(crimen exceptum)の概念、魔女裁判の手続と火刑

・1903 年刑罰法典:「男色行為」(AS のみ)禁固3月以上(施行されず)。

加重犯は3年~8年。

1902 年 V.ナボコフ論文:裁判は消極的。事実上「性的多様性」の許容と認識。

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・1917 年2月革命後 1903 年男色罪廃止(カデット、無政府主義者の支持)

・1922 年・1926 年ロシア共和国・刑法典:同性愛に刑罰規定なし

同性愛は「犯罪」ではなく「不治の病」との公式見解あり(コーン論文)

*但し、イスラム系諸共和国(アゼルバイジャン、トゥルクメニア、ウズベキスタン)およびキリ

スト教系ではグルジアで規定維持

・1928 年コペンハーゲン世界性改革連盟大会でソビエト法評価

・1934 年4月1日ロシア共和国・刑法典改正(154 条 a の新設〔条文見出しなし〕):

「男性と男性との性交(男色行為*)は、自由剥奪3年から5年までの刑に処する。暴

力の行使または被害者の従属的地位の利用をもって行った男色行為は、自由剥奪5年

から8年までの刑に処する。」

*「男色行為」(muzhelozhstvo ムジェローシストヴォ)の概念とくに狭義(P-A)におけるそれに。

** 刑法典改正(条文新設)の経緯:

1933 年 12 月 統合国家保安局局長ゲンリフ・ヤゴーダが該当者を逮捕し、モスクワ、レニン

グラードの「男色者(ペデラスト)団体」による反革命陰謀をスターリンに報告。130 人の逮捕

者たちは「サロン、溜まり場、隠れ家、グループその他の男色者の組織網を作り、これらの結社

を直接的なスパイ基地に再編しようとしていた」ことを自白したという。「男色者たちは健全な

若者、赤軍兵士、水兵、学生を集めて誘惑した。男色者を刑事的に告発する法律がない。男色の

刑事責任に関するしかるべき法律を制定すべきだと考える」と進言。これが立法化への引き金に

なる(12 月 17 日全露中央執行委決定=単行法→1934 年刑法典改正)。ヤゴーダ自身は 1938 年 3

月ブハーリン、ルイコフらと第3次モスクワ裁判で有罪(反逆・犯罪等)・処刑。

次代の統合国家保安局局長エジョーフも、1939 年 4 月 10 日に逮捕され、軍隊内・局内におけ

る陰謀の組織、スパイ行為、および「男色行為」で起訴され、捜査段階ではすべて自白(法廷で

男色のみ認容)、のち処刑された。

1936 年1月 司法人民委員クルイレンコ:同性愛は「ブルジョア的腐敗」現象

社会主義社会には無縁(→「反革命」「反人民的」現象のレッテル)。

刑務所・ラーゲリ等刑罰施設内の「男色」は「暴力支配の縮図」(コーン論文)

cf.【資料 F:表1】

・1953 年スターリン死 →スターリン批判、「雪解け」と同性愛への寛容

・1960 年ロシア共和国・新刑法典 121 条「男色行為」 cf.【資料 F:表 2, 3】

「男性と男性との性交すなわち男色行為*(muzhlozhstvo)は、自由剥奪5年以下の刑

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に処する。/物理的暴力もしくは脅迫を行使し、未成年者を対象とし、または被害者

の従属的地位の利用して行った男色行為は、自由剥奪8年以下の刑に処する。」

*「男色行為」の概念:法律専門書(コンメンタール)も男性間・A-S 結合に限定。

*大戦後におけるソ連の人口構造、とくに結婚適齢期の男女比と家族法の位置

・1970 年代「停滞の時代」における同性愛関連問題:

1973 年 シャルゴローツキー/オーシポフ刑法教科書:121 条の非論理性を指摘。

1979 年 A.イグナートフ教授、121 条で内務省に問題提起

1982 年 イーゴリ・コーン教授、法律専門誌への同性愛論文掲載問題

『夜明けの月光-同性愛の素顔と仮面』は 1998 年

・1993 年5月 27 日(ソ連邦崩壊後) 刑法典 121 条廃止

・2004 年6月 15 日ロシア連邦最高裁幹部会決定「強姦および性的性格を有する暴力行為遂

行事件に関する裁判実務について」:

憲法の保障する人および市民の権利・自由には「性的自由および性的不可侵 sexual

immunity の権利」が含まれる。性的暴力行為は、「〔男女間の〕性行為」のみならず「男

色行為、レスビアン行為、その他性的性格を有する行為」に伴うものをも含む。

・2006 年~ ゲイ・パレード(モスクワ)、その後各地で

3 構造-「同性愛」の形成とその相対化

(1) ロシアにおける「行政規則」(〈権力の命令〉、〈取り締まり規則〉)としての法の伝統

「強い腕」=強権による秩序形成・維持の型

Cf. モンテスキュー/ウェーバーによる法文化の2類型:

α「法治国家における法」(権利・正義としての法、レヒト型の法)

β「行政国家 Polizeistaat における法」(「行政規則」としての法、レグルマン型の法)

α:裁判による権利の確認(判例)→慣習法(不文法)→慣習法の集成→制定法

β:(慣習→)権力による命令=「律」「刑」(刑法主導)

α ローマ・西欧モデル 共和政バネ 混合政体としての 18 イングランド

β 中国・ロシア モデル 専制国家 王土王民論

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β→αの〈転換〉の希有な例としての日本、韓国

β型継続の典型としてのロシア、中国(背景に 13-15 世紀「タタールのくびき」)

「帝国」-社会主義-権威主義・ポピュリズム・国家資本主義(?)

(2) 宗教 cf. M.フーコー『性の歴史 I 知への意志』渡辺守章訳、新潮社、1986 年

・「同性愛」は近代になってから教会と国家によって作られた

・ラテン教会(カトリック、プロテスタント)の世界

10-12 世紀西欧におけるクリュニー改革運動とアリストテレス的伝統の復活

ルネサンスとネオプラトニズム cf. プラトーン『饗宴』とフィチーノ

トレント公会議から 17 世紀・「ヴィクトリア朝」へ

宗教改革と反宗教改革 →cf.【資料 D】

共有財産としてのローマ法と「マキャヴェリアン・モーメント」(J.ポーコック)

フランス革命と 1791 年刑事法典・1810 年刑法典→世俗化(ソドミー法廃止)

*1982 年 8 月 4 日 刑法 331 条 2 項(1942 年法:未成年を相方とする同性愛は犯罪)を廃止

残る問題:自然法と同性愛

・東方教会(ギリシャ教会)としてのロシア正教会

ラテン教会の文化(アリストテレス、プラトン、ローマ法)の受容を経験しなかった

イタリア・ルネサンスとは無縁であった cf.「タタールのくびき」の 250 年

「オーソドックス・チャーチ」としてのロシア正教会の保守性

-異教世界(ヤズィチェストヴォ)との接点 cf. ストラヴィンスキー「春の祭典」

-イスラームとの接点:遠征遊牧民戦士の同性愛?

cf. ムソルグスキー「イーゴリ公」の「ポロヴェツ娘たち(韃靼人)の踊り」

*クルアーンでは同性愛禁止は1箇所だけ?(女性間の同性愛には触れるところがない)

「二人の男間で不道徳な行為を行なったときは、両者を罰する」

cf. オマール・ハイヤーム『ルバイヤート』における酒姫(=少年・酌人「サーキー」)

(3) シーゾロパピズム(皇帝教皇主義 caesaropapism: caesar + papa)

ビザンツの政治思想:信仰・教会の守護者としての政治権力

「第3のローマ」としてのモスクワ専制国家(15-16 世紀)

政治権力による精神世界・イデオロギーの包摂

*「主教座聖堂」=戴冠式場としてのウスペーニエ聖堂(クレムリン内)

cf.ムソルグスキー「ボリス・グドゥノーフ」

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4 文化-メンタリティー

・〈男色の蔓延〉と秩序形成の問題

「男色」(=P-A 結合)への固執

・性風俗としての〈ルースキー・マート〉と「中国・タタール・ロシア・トルコ」

cf. 武田泰淳「汝の母を!」『武田泰淳全集第』5 巻、筑摩書房、197 年

笠松宏至「お前の母さん……」網野善彦ほか『中世の罪と罰』東京大学出版会, 1983

魯迅「他媽的について」『魯迅選集 第 5 巻(改訂版』)、岩波書店、1964 年

・正教世界とヤズィチェストヴォ・イスラームを結ぶもの

【資料編】

A. 聖書

a. 旧約

・創世記 18-19 章「ソドムの滅亡」

・レビ記 20 章 13 節「女と寝るように男と寝る者は、両者ともにいとうべきこと*をしたのであり、必

ず死刑に処せられる。彼らの行為は死罪に当たる。」

*いとうべきこと=мерзость 忌まわしい行為

・エゼキエル書 16 章 49-50 章「ソドムの罪」「忌まわしいこと」

b. 新約

・コリント1の6章9節「正しくない者が神のを受け継げないことを知らないのですか。思い違いをし

てはいけない。みだらな者、泥棒、偶像を礼拝する者、姦通する者、男娼、男色をする者……。」

・テモテ書1の1章 10 節「みだらな行いをする者、男色をする者……」

B. 正教会の対応の例:『正教新聞・ブラゴヴェスト』Web 会議室より 2002.7* http://www.cofe.ru/blagovest/ubb/noncgi/Forum1/HTML/000039.html

-〔相談者〕「アンドレイと申します。24 才、正教徒です。戒律は完全に守っており、教会のミサにもい

つも出席しています。けれども私には大きな悩みがあります。私は同性愛者なのです。神様に向かって祈

りもしましたが、どうしても止められません。女性との行為は嫌いで、男性となら OK なのです。いった

いどうしたら良いのでしょうか。すべてこのままでもいいのでしょうか。」

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-「「会員」〔=聖職者か?〕こんにちは、アンドレイさん。けっして思い違いをしてはなりません。あな

たの悩みというのは麻薬中毒と同じく心の病で、心の問題として完治できるものです。大事なのはそれか

ら遠ざかり、神様を信じ神様に祈り神様のご加護を願うことです。ご存じだと思いますが、婚姻外の性的

接触は淫行(blud ブルード)であり、もしあなたが未婚ならばどんな性的結びつきも罪(grekh グレフ)し

かも同性愛というようなことはたいへん重い罪になります。あらゆる性的接触を断つ必要があります。そ

して自分の罪を真剣に告解する、つまり心の底から悔い改め、二度と過ちを繰り返さないと自分と神様と

に約束しなければなりません。こうしたことすべてが真剣に行われるならば、神様はお許しになります。

こうした性的接触から遠ざかり最小限に留めることが必要だと、〔私は〕告解にあたって最初に言っていま

す。告解はいつも同じ聖職者のもとで行わなければなりません。喫煙や飲酒、大食などと同じで一度で止

めることができないかもしれませんが(うまく行かないこともありますがあなたの熱意次第です)、自分と

向き合って告解を常に行えば、遅かれ早かれ結果が見られるものです。聖職者はこうした罪の告解にあた

っては、水の流れが石を磨くように告解が罪を消していくと言っています。最初は分からないかもしれま

せんが、効果はたいへん明らかになるでしょう。神父様に、どんな祈りの規則、ことば、宗規があるか尋

ねて下さい。またこうした場合には聖書を手にとってお読み下さい。聖書を読んで他にも戒律があるかご

覧下さい。方法はいろいろありますが、どのようにするかは神父様にお尋ね下さい。教えて下さるでしょ

う。ただあなたの熱意が必要です。神様があなたをお守り下さいますように。もし誤解があったらお許し

下さい。

C. 同性愛問題に関する正教会のスタンス(ロシア正教宗務局広報部 2014.01.15) * http://sinfo-mp.ru/homosexuality-not-compatible-the-priestly-rank.html

ロシア正教宗務局広報部長 V.レゴイダ氏は、正教会の教会法(カノン)に照らせば、同性愛行為は聖職

の地位と共存しえないと述べた。『教会の一般的態度からすれば、同性愛は、聖職者の地位と共存しえない。

宗規上、不可能なのです。それから先は事実、証拠の問題になります。教会にはこうした告発だけでなく、

他の告発をも審理する仕組みがあります』。ラジオ放送『モスクワのこだま』で、レゴイダ氏はこう述べた。

現在、教会内には教会全体の法廷があり、各教区内のも法廷があります。古代からの教会法(カノン)、使

徒の定めた規則が存在し、司教の行為が高位の聖職に相応しくないと考えられる際、これらの教会法・規

則がその訴追を導くのです。どのような場合に訴えが認められ審理が開始されるのか、が定められていま

す。例えば、2人の証人が必要だとされています」。広報部長によれば、教会裁判所の権限には、相応しく

ない行為をした司祭の地位を剥奪することも含まれ、また判例では、争いのある状況下においては司祭が

正しく、司教がそうでないというケースも存在したという。

*参考資料「ロシア正教会における社会概念の基本原則」第 12 章9節:

「使徒パウロは、異教世界の道徳的状態を論じた際に、同性愛関係を、人間の体を冒涜する最も『恥ず

べき情欲』『してはならないこと』に数えた。『それで、神は彼らを恥ずべき情欲にまかせられました。女

は自然の関係を自然にもとるものに変え、同じく男も、女との自然の関係を捨て、互いに情欲を燃やし、

男どうしで恥ずべきことを行い、その迷った行いの当然の報いを身に受けています。彼らは神を認めよう

としなかったので、神は彼らを無価値な思いに渡され、そのため、彼らはしてはならないことをするよう

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になりました』(ロマ書1章 26-27 節)。堕落したコリントの住人たちに、使徒は次のように書いている。『正

しくない者が神の国を受け継げないことを知らないのですか。思い違いをしてはいけない。みだらな者、

偶像を礼拝する者、姦通する者、男娼、男色をする者、泥棒、情欲な者、酒におぼれる者、人を悪くいう

者、人の者を奪う者は、決して神の国を受け継ぐことができません』(第1コリント書6章 9-10 節)。聖師

父(教父)たちの教えも同様に明快にまた確固として、同性愛のあらゆる現れを非難している。『十二使徒

の教訓』(ディダケー)、聖大ワシリイ(カイサリアのバシレイオス)、金口イオアン(聖ヨハネス・クリュ

ソストモス)、ナジアンゾスのグレゴリオス(神学者グリゴリイ)、アウグスティヌス(福アウグスティン)

といった聖人たちの作品、断食者イオアン4世(582 - 595) の教会法令集が、教会の不変の教えを伝えてい

る。同性愛的結びつきは罪深く、非難されるべきものである。これに引き込まれた人々は、聖職者の列に

加わる権利を有しない(Василия Вел. пр. 7, Григория Нис. пр. 4, Иоанна Постн. 30)。

D. 『カトリック教会のカテキズム』(1997 年ラテン語版、以下は英語版からの仮訳):

第 2357 節「……〔前半部省略〕同性愛行為は自然法に反し contrary to the natural law、生命の恵みへ通ず

る性行為の道を閉ざすものである。またこれは両性間の真の感性的および性的な相補性から生じたもので

はない。これはいかなる条件下においても容認されない。」

第 2358 節「根深い同性愛傾向を有する男女の数は無視できるものではない。こうした性行は客観的にみ

て逸脱であり(Cf. Gen 191-29; Rom 124-27; 1 Cor 6:10; 1 Tim 1:10)、多くの者にとって試練となっている。

彼らは敬意と憐み、そして思いやりをもって受けいれられねばならない。彼らに対する不当な差別の徴候

はいかなるものであれ排除されるべきである。この人々はその生を通じて神の意思を充たすように導かれ、

そしてもし彼らがキリスト教徒であるなら、主の十字架の犠牲の下に、その境遇がもたらす困難を分かち

あうように導かれる。」

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E. ピョートル大帝のヒゲ法(1698 年)

F. 男色行為罪の犠牲者数(デイン・ヒーリーの研究による)

Dan Healy. How many victims of the antisodomy law in: Homosexual Desire in Revolutionary

Russia. The University of Chicago Press, 2001.

表1 ロシア共和国における男色有罪判決件数 1934-50 年

年 有罪判決件数 +有罪推定件数 全有罪判決中%

1934

1935 15

1936 257 0,03

1937 74 164 0,01/0,02

1938 138 0,02

1939 97 0,01

1940

← 18 世紀前半のルボーク:床屋が旧教徒(保守派)

のヒゲを切るの図。cf. 坂内徳明『ロシアのル

ボーク-ロシアの民衆版画』東洋書店、2006

年、101 頁以下参照。

・「モスクワ人(=ロシア人)にヒゲと着衣とを短

く切ることを強制した法律や都市に入ってくる

人々の長い衣服を膝まで切らせたピョートル1世

の暴挙は暴政的なものであった」モンテスキュー

『法の精神』岩波文庫(中)167 頁。

・「ロシア人はいつまでたっても本当に文明化

policer されることはないであろう。それは彼らが

あまりに早く文明化されようとしたからである。

ピョートル大帝は模倣の才をもっていたが、真の

才能、創造し、無から一切を創り出す天才はもっ

ていなかった。彼がなしたことのうち若干のもの

はよかったが、大部分は場違いであった。彼は彼

の人民が未開であることは知っていたが、文明化

できるほどには成熟していないことを知らなかっ

た。」ルソー『社会契約論』岩波文庫、69 頁。

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11

1941 109 0,01

1942

1943

1944 6

1945 16/47 -/0,003

1946 39/82 0,002/0,005

1947 63 0,004

1948 34 0,003

1949

1950 130 0,01

合計 377/451 765

表2 ソ連邦およびロシア共和国における男色有罪判決件数 1961-81 年.

年 ソ連邦全体 同全犯罪中% 内ロシア共和国 同全犯罪中%

1961 705 0,09 464 未詳

1962 767 0,09 530 0,11

1963 831 0,12 592 0,14

1964 777 0,13 547 0,14

1965 627 0,11 393 0,11

1966 770 0,11 485 0,10

1967 940 0,13 617 0,13

1968 756 0,11 453 0,10

1969 993 0,12 641 0,12

1970 1223 0,14 787 0,14

1971 1206 0,14 854 0,15

1972 1255 0,14 882 0,15

1973 1319 0,16 853 0,16

1974 1355 0,15 883 0,15

1975 1214 0,14 803 0,14

Page 12: ロシア同性愛宣伝禁止法 20140404 レジュメ改訂最終版.pdf

12

1976 1181 0,13 773 0,13

1977 1320 0,16 877 0,17

1978 1314 0,15 882 0,16

1979 1262 0,14 822 0,14

1980 1119 0,11 708 0,11

1981 1229 0,12 849 0,12

合計 22163 14695

表3 ソ連邦における男色有罪判決件数

年 有罪件数

1987 831

1988 800

1989 538

1990 497

1991482

(ロシア共和国のみ)

合計 3148

G. 性的マイノリティの権利の制限を求めるロシア国内団体

*ヘルシンキ宣言モスクワ・グループ(Moscow Helsinki Group)の調査による。以下の資料:

「ロシアにおける LGBT の権利」(Права ЛГБТ в России)

http://ru.wikipedia.org/wiki/Права_ЛГБТ_в_России

団体名称(原語名) 活動の概要

ロシア民衆世界フォーラム

Всемирный русский народный собор

総主教キリルを会長とする正教保守派思想の

団体

民衆フォーラム

"Народный собор"

「道徳的価値の破壊」に反対する、ゲイパレー

ド対抗団体

民主協力研究所

Институт демократии и сотрудничества

米国・西欧における人権違反に対する「監視」

団体(ロシア)

父兄会連合 「民衆フォーラム」の姉妹団体

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13

Ассоциация родительских комитетов и сообществ

「家族の権利のために」運動

"За права семьи"反 LGBT 活動

モスクワ大学社会学部家族社会学講座

Кафедра социологии семьи на социологическом

факультете МГУ

伝統的キリスト教的な家族観にもとづく社会

学的研究を行う。反ホモ・キリスト教団体と協

活性保守主義研究所/ ロシア戦略研究所

Российский институт стратегических исследований/

Институт динамического консерватизма

反西欧的思潮の普及・育成をめざす

保守研究センター

Центр консервативных исследований青年層・知識層への伝統主義普及、教材刊行

ロシア文明研究所

Институт русской цивилизации

ナショナリズム・反ユダヤ主義・反西欧主義の

思想の普及

人権に関する社会委員会/「国家と宗教」ポータル

Общественный комитет по правам человека/ Портал

«Государство и религия»

「同性愛は没道徳」だから LGBT とは闘う

ロシア正教会

Русская православная церковь

LGBT の権利に対し原理主義的スタンスに立

ち、LGBT に対抗する

福音信仰キリスト教徒ロシア合同同盟

Российский объединённый союз христиан веры

евангельской

2004 年より LGBT の基本権制限を要求する声

明の普及に努める。この団体の下に「同性愛な

き未来をめざして」基金が設置された。

ロシア全民族同盟

Русский общенациональный союз

LGBTイベントに対する実力行使を呼びかけか

つ参加している民族団体