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Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.

ゼミ論文

(大阪大学中川功一ゼミ)

カンボジアにおける籾密輸出の実態

−プレイベン州を中心として−

平成 27 年度大阪大学経済学部 経済・経営学科

阿部 ちひろ西岡 広大西澤 建輝

指導教員 中 川 功 一

1

Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.

−プレイベン州を中心として−阿部 ちひろ

西岡 広大

西澤 建輝

要旨

本研究では、「なぜカンボジアの農村部では籾の密輸出が行なわれ続けているのか」を明らかにする

ために、ベトナムとの国境を有する農村地域を中心としてその原因分析を行なった。その結果、(1)国内中小精米業者よりも密輸仲買人のほうが、農家や仲買人にとって魅力的な売り先であるため、密輸

仲買人へと籾を販売してしまうこと、(2)密輸仲買人への籾販売を続けていった結果として、農村全体

の籾の供給地としての魅力が低下していってしまっていること、の2点によってベトナムへと密輸出

を続ける以外の選択肢をとれなくなっていっていることが明らかになった。

2

Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.目次

第 1 章 本研究の目的と背景

第 2 章 調査対象と調査方法

2.1 調査対象

2.2 調査方法

第 3 章 分析枠組み

第 4 章 現状分析

4.1 コメ産業の動向

4.1.1 流通自由化と国内市場の飽和

4.1.2 世界のコメ市場とカンボジア

4.1.3 高コスト体質と輸出方針

4.1.4 輸出促進の取り組み

4.2 精米業者の現状

4.2.1 輸出精米業者の現状

4.2.2 国内中小精米業者の実態

4.3 小括:コメ産業と精米業界

4.4 稲作の現状

4.5 稲作利益とその評価

4.6 流通の現状

4.6.1 農村流通アクターの実態

4.6.2 農村の流通構造

第 5 章 ディスカッション

5.1 密輸仲買人と国内中小精米業者の比較

5.2 稲作への影響:選択肢の消失

第 6 章 結論

第 7 章 今後の展望

3

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(参考文献)

第 1 章 本研究の目的と背景

本研究の目的は「なぜカンボジアの農村部では籾の密輸出が行なわれ続けているのか」を明らかにす

ることである。

カンボジアにおいて、農業は GDP の 28.7%を占めており、国の基幹産業となっている

(MAFF,2015)。そして、その農業の中でも、コメは国民の多くがその生産に携わっている作物で

ある。こうしたことから、これまで国の経済発展や貧困削減を目的として、コメ産業を対象とした

様々な支援や政策が展開されてきた。その甲斐あって、1990 年代前半の時点では国内でコメ不足が発

生するほど低かった生産力は、2014 年度には約 470万㌧の余剰籾が発生するまでに成長した(図

1)。また、その結果として、貧困層の9割が暮らす農村部では、稲作の発展が貧困削減に大きな効

果をもたらしているということも報告されている(World Bank,2013)。

図1 カンボジアにおける籾生産量と余剰籾量の推移

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 20140

100200300400500600700800900

1000 籾生産量(万㌧)余剰籾量(万㌧)

出所:Annual Report for Agriculture Forestry and Fisheries 2014-2015 and Direction 2015-2016,MAFF

そして、近年では、この生産力の高まりを生かすために、カンボジア国内で精米加工を行い、諸外国

へ輸出を行なうことで、更なる付加価値の獲得を目指すといった動きがとられるようになってきた。

しかしながら、現在カンボジアでは、籾総生産量のうち約 7%程度しか輸出できておらず、約 46%は

籾米のまま、隣国のタイやベトナムへと密輸出されてしまっており、大きな付加価値のロスが発生し

てしまっている(図 2)。

4

Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.

図2 カンボジアにおける籾の用途

国内消費47%

籾密輸出46%

精米輸出7%

出所:MAFF(2015)をもとに筆者作成

政府はこうした状況を打開するために、2015 年までに精米輸出量を 100万トンまで増加させるとい

う目標をもとに、ライスポリシーと呼ばれる政策を打ち出し(Royal Government of Cambodia,2010)、精米輸出量の増加に努めてきたものの、2015 年度の輸出実績は約 54万㌧に終

わってしまった(図 3)。こうした状況を踏まえると、カンボジアがコメを軸として、更なる経済発

展や貧困削減を進めていくためには、コメ産業の実態を把握し、その中での輸出阻害要因を明らかに

していくことが重要であると考えられる。

図3 精米輸出量の推移

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2010 2011 2012 2013 2014 20150

10

20

30

40

50

60精米輸出量(万㌧)

出所: Cambodia Rice Federation(http://www.crf.org.kh/)およびMAFF(2015)より筆者作成

これまでも、カンボジアのコメ産業に焦点を当て、その流通構造や各アクターの実態を明らかにする

研究はなされてきた(石川,2008;石川,2010;石川・西村,2010;大竹・西村,2010;大竹,

2013)。例えば、石川(2010)では、カンボジアが市場経済体制へ移行し、コメの流通の自由化が

行なわれたことによって、多数の農家、仲買業者、精米業者、卸・小売業者から成る現在の流通構造が

生まれたことを明らかにしている。また、石川・西村(2010)では、現在の流通構造の中の、精米業

者と農家の関係を分析し、精米業者による農家への小規模金融や技術指導などが、農家を中心とした

コメ産業に貢献していることを明らかにしたうえで、こうした精米業者主導の取り組みが今後のコメ

産業の発展を促す要因の1つであることを指摘している。そして、大竹・西村(2010)では、精米業

者の精米技術が低いことが原因で、農家からの籾買い取り価格が抑えられていることを明らかにした

うえで、精米技術の向上によって精米の需要と価格の上昇を実現し、籾買い取り価格へと反映させる

ことで、農家の生産意欲や技術向上へと繋げて行くことが重要であることを指摘している。

こうした研究の流れに加え、近年では、カンボジアの輸出拡大に向けた動きに合わせて、輸出の阻害

要因を明らかにする研究も行なわれ始めている(大竹,2012;大竹・宇佐見,2013;福井・中尾,

2014)。例えば、大竹(2012)は精米輸出と籾米輸出の流通の実態を分析し、輸出の阻害要因として、

中小精米業者が籾米を密輸出していること、精米輸出手続きに経費と日数がかかりすぎていることを

指摘している。また、中尾・福井(2014)では、カンボジアの稲作の国際的な競争力を測定すること

で、政府の施策のうち、収量増大や高品質なコメへの転換、インフォーマルな手数料のカットといっ

た取り組みが、国際競争力を高め、輸出拡大へとつながる可能性を指摘している。

ただし、これまでの研究の中で、農村部における籾の密輸出そのものに焦点を当てて、その原因を解

明する研究はなされてこなかった。国全体として精米輸出拡大に向けた動きがあるにもかかわらず、

カンボジアの農家が依然として隣国のタイやベトナムへと籾の密輸出を行い続けている現象は、カン

6

Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.ボジアの精米輸出を阻害しているだけでなく、国の政策がその受益者である農村の人々の意向と乖離

している可能性があることも示唆している。したがって、この籾の密輸出の実態とその原因を分析す

ることは、輸出拡大を目指すカンボジアのコメ産業だけでなく、カンボジアの農村開発の観点からも

重要であると考えられる。そこで、本研究では、「なぜカンボジアの農村部では籾の密輸出が行なわ

れ続けているのか」を分析することで、カンボジアの農村を中心としたコメ産業のさらなる発展に貢

献したい。

第 2 章 調査対象と調査方法

2.1 調査対象

籾密輸出の原因を調査するにあたっては、稲作が盛んな地域で、かつ実際に籾の密輸出が行なわれ

ている地域を調査対象とする必要がある。そこで、本研究では、カンボジアの南西部に位置するプレ

イベン州のプレスダッチ郡を重点的な調査地域として選定した。プレイベン州は稲作が盛んな地域で

あり、コメの生産量はカンボジアの中で最も多い(図 4)。そして、そのプレイベン州の中でもとり

わけ籾の生産量が多いのがプレスダッチ郡であり、2万世帯のうち約90%が稲作を営んでいるとさ

れている。また、この地域はベトナムとの国境を有している地域であり、実際にベトナムへの籾の密

輸出が行なわれている。したがって、本研究の調査地域として必要な条件を満たしていると言えるだ

ろう。

また、農村部の現状を分析するにあたって、正規の籾流通先である、精米業者やその先の国内外の精

米市場についても探る必要があったが、プレイベン州ではあまり精米業者が集積しておらず、調査が

困難であった。そのため、カンボジアの中でも有数の稲作地帯であり、かつ最も精米業者の集積して

いる地域であるバッタンバン州を補足的な調査地域として選定した。(図 5・図 6)はカンボジアにお

ける、調査地域の位置関係を示したものである。

図4 州別籾生産量

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         出所:MAFF(2015)をもとに筆者作成

図5 調査地域

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   出所:https://kh.boell.org/en/categories/cambodia-map

図6 プレイベン州地図

           

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Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.             出所:http://webkyom.free.fr/en/php/prey-veng.php

2.2 調査方法

分析のため、本研究では 2015 年 9月 24日から 2015 年 12月 24日までの3ヶ月間、上記の調査地

域において聞き取り調査を行なった。表 1 は本調査における標本の一覧である。プレイベン州におい

ては、農家 56件、現地仲買人 12件、国内中小精米業者 4件、小売店 2件、地元政府関係者 4件に聞

き取り調査を行なった。バッタンバン州においては、農家 5件、現地仲買人 1件、輸出精米業者 4件、

国内中小精米業者 1件に聞き取り調査を行なった。また、首都プノンペンにおいては、コメ産業全体

の動向を知るためにカンボジア米連合(Cambodia Rice Federation)へ、また精米業者の能力の違

いなどについて知るために日本の精米機メーカーへ、さらには、カンボジアにおける輸出の実態を探

るために、日本の輸出商社 1件にも聞き取り調査を行なった。

さらに本稿では,聞き取り調査から得られた情報の確からしさを高めるうえで、カンボジア農林水産

省(Ministry of Agriculture, Forestry and Fishery:MAFF)による統計レポートや、世界銀行(World Bank)などの開発セクターのレポート、さらにはカンボジア米連合(Cambodia Rice Federation:

CRF)の発刊するレポートなどの2次資料を用いた。

表1 標本一覧

州 農家 仲買人 精米所 小売店 地元政府関係者 その他

Prey Veng 56件 12件 4件 2件 4件  

Battamban

g5件 1件 5件  

Phnon Penh  CRF,精米機メーカー

輸出商社

出所:筆者作成

第 3 章 分析枠組み

本稿では、コメ産業の流通構造とその中のアクターの実態を明らかにしたうえで、農村部はどういう

理由でベトナムへと籾を密輸することを選んでしまうのかということについての分析を行なう。図 7はカンボジアにおける一般的なコメの流通構造を示したものである。

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図7 カンボジアにおける一般的なコメの流通構造

出所:現地調査より筆者作成

農家が生産した籾の多くは、仲買人を経由して、精米業者や密輸仲買人へと運ばれる。その後、精米

業者からは国内の小売や卸売、海外のバイヤーへと精米の供給が行なわれ、密輸仲買人からはタイや

ベトナムへと籾米の供給が行なわれていくのである。なお、一部ではあるが、国内中小精米業者から

タイやベトナムへと籾米が供給されるルートや、国内中小精米業者から輸出精米業者へと籾米・精米

が供給されるルートが存在する。特に後者については、国内中小精米業者の実態の節で詳しく説明す

る。また、国内中小精米業者や輸出精米業者から、輸出業者を経由し海外のバイヤーへと販売される

ルートも一部存在するが、基本的には輸出精米業者が輸出業者の役割を担うことが多いため、本稿で

は輸出業者を独立して扱わない。

上記より、精米業者は国内外の精米市場と直接的な繋がりがあるだけではなく、農家や仲買業者をは

じめとした、コメ産業内のほぼ全てのアクターに直接的な関係を持つアクターであることが分かる。

さらに、精米業者は農家と市場を結びつける重要な役割を担っており、今後のコメ産業の発展を牽引

していく可能性があることも指摘されている(石川・西村,2010)。したがって、以後の現状分析で

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Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.は、まず国内中小精米業者と輸出精米業者という2つの精米業者の分析を通して、カンボジアにおけ

るコメ産業の最新の動向を明らかにする。その後、農家、仲買人、密輸仲買人といった農村部に存在

する各アクターの実態を分析し、農村部における籾の流通構造を明らかにする。最後に、農家の視点

から、精米業者と密輸仲買人という2つの売り先を比較し、本研究の問についてのディスカッション

を行なう。

第 4 章 現状分析

4.1 コメ産業の動向

4.1.1 流通自由化と国内市場の飽和

1993 年、計画経済体制から市場経済体制への移行とともに、カンボジアにおけるコメの流通は、政

府による管理体制から完全なる自由化へとシフトした。その後、自由化とともに、精米業者の数は増

加し始め、1995 年には国内の精米需要を全て賄えるまでになった。そして、現在では精米業者の数は

やや過剰であり、特に 1990 年代から精米業が盛んだったバッタンバン州においては、競合による淘

汰が始まっていると言われている(石川,2010)。こうした国内精米市場の飽和と精米業者同士の競

争激化という流れもあり、精米業者は世界市場という新たな販売先の開拓を余儀なくされているので

ある。

4.1.2 世界のコメ市場とカンボジア

ここ 10 年間で、世界のコメ輸出量は増加傾向にあり、2015 年度の時点では約 4,000万 ものコメ㌧が輸出されている(図 8)。図 9 を見れば明らかなように、主要な輸出国は軒並み 300万 を越えて㌧おり、最も輸出量の多いインドに至っては、年間約 1,100万 ものコメを輸出している。以上より、㌧輸出量が 100万 にすら届いていないカンボジアは、まだまだコメ輸出国としては未熟であることが㌧分かる。そのため、今後は中国や EU、アフリカ諸国などといった、主要なコメの輸入国に対して積極

的にアプローチをかけていく必要があるのだ(図 10)。

図8 世界のコメ輸出量の推移

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2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 20150

500100015002000250030003500400045005000 輸出量(万㌧)

出所:USDA

図9 世界のコメ輸出国トップ 5

India Thailand Viet Nam Pakistan USA0

200

400

600

800

1,000

1,200 輸出量(万㌧)

出所:FAOSTAT

図10 世界のコメ輸入国トップ 5

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China Nigeria Iran EU Benin0

50

100

150

200

250 輸入量(万㌧)

出所:FAOSTAT

現在カンボジアでは、この世界のコメ市場をジャスミンライス、フレグラントライス、ホワイトライ

ス、パーボイルドライスの4つの品種で分類したうえで、それぞれ輸出を行なっている(図 11)。以

下では、特にカンボジアのコメ輸出の大部分を占める、ジャスミンライス・フレグラントライス、ホ

ワイトライスの市場について説明を加えたうえで、現在のカンボジアの輸出方針を明らかにする。

図11 品種ごとの精米輸出量(2014 年度)

Jasmine Rice44%

Long Grain White Rice

35%

Fragrant Rice16%

Long Grain Parboiled Rice5%

14

Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.出所:Activity Report For May-December 2014,CRF

4.1.3 高コスト体質と輸出方針

ホワイトライスは長粒種の中の白米と呼ばれる品種の総称である。4つのセグメントの中で最も市場

規模が大きく、ベトナムを初め、多くの国がこのホワイトライスを輸出している。そのため、価格競

争に陥っており、いかに低価格で提供できるかが、この市場における勝敗を決める鍵となっていると

されている。一方、ジャスミンライスとフレグラントライスはいずれも、長粒種の中の香り米と呼ば

れる品種の総称である。フレグラントライスが一般的な香り米品種のことを指し、ジャスミンライス

はその中でも特に高級な品種を指す。ホワイトライスと比べると市場の規模は小さく、競合となる相

手はタイやインドなどしかいないと言われている。そのため、ホワイトライスのように価格競争には

陥っておらず、取引価格も比較的高いとされている。

輸出をメインにして活動している精米業者は、上記のような各セグメントの特徴をふまえ、今後の輸

出先としてジャスミンライス・フレグラントライスのセグメントを重要視している。こうした考えの

背景には、カンボジア特有の高コスト体質が存在しているのだ。

隣国のタイやベトナムと比べると、カンボジアの籾の生産コスト自体は安い。しかしながら、精米加

工から輸出までの間に余分なコストかかってしまうと言われている(World Bank,2015)。例えば、

精米加工に欠かせない電気については、全てを国内で賄うことができず、隣国のタイやベトナムから

供給を行なっているため、その分だけコストが増加してしまう。また、精米輸出をする際にも多くの

輸送コストがかかると言われており、大竹(2012)は輸出手続きにかかる費用が流通経費の半分を占

めていることを指摘している。このような、高コスト体質があるため、精米業者は価格の安いホワイ

トライスで勝負をすることは難しく、高価格で取引可能なジャスミン・フレグラントライスのセグメ

ントを狙い、販売量を増加させていくという方針をとっているのである。

4.1.4 輸出促進の取り組み

こうした精米業界の変容を受け、国全体、コメ産業全体としての輸出拡大に向けた取り組みも本格的

になりつつある。

例えば、カンボジアコメ連合(Cambodia Rice Federation:CRF)はその代表的な組織の1つであ

る。CRF は輸出業者、精米業者、農協、流通業者などの代表者によって構成され、カンボジアのコメ

の質の高さを担保し、市場での競争力を高めることで、コメ輸出を促進することを目的として、2014年度に設立された組織である。世界におけるカンボジア米のブランディングや輸出プロセスにおける

15

Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.コストの削減、農家への生産指導などを初めとした活動を行なうことで、コメ産業全体を輸出に向け

たものに変革させようと試みている。

また、少しずつではあるが、政府も輸出促進に焦点を当てた動きを見せている。その活動の1つが、

カンボジアの工業省による、コメの水分計測基準の統一である。現在までカンボジアでは、輸出の際

に重要となるコメの水分値に関して、国内で統一された計測基準が存在しなかった。そのため、輸出

取引の際に水分値をめぐるトラブルとなり、取引が中断してしまうなどの事態が起こっていたと言わ

れている。このような事態を引き起こさないために、基準値の統一とそれを国全体で運用する仕組み

の構築に向けた活動が行なわれ始めているのである。

4.2 精米業者の現状

4.2.1 輸出精米業者の現状

輸出精米業者とは、精米業者としての機能に加え、輸出機能も併せ持つ精米業者のことを指す。海外

からは国内で要求されるよりも高品質で、かつ大量の精米が要求されるため、国内向けに販売を行

なっている精米業者よりも、最新鋭の大型設備を備えているのが一般的である(図 12)。以下では、

籾の仕入れ、精米加工、輸出販売という3つのフローごとに、輸出精米業者の実態を記述していく。

図12 輸出精米業者の精米工場外観

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Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.

出所:筆者撮影

(1)籾の仕入れ

輸出精米業者はほとんどの場合、他の中小精米所と同様に、農家や仲買人から籾の買い取りを行なう

(図 13)。輸出精米業者が求める籾の品質が高いため、当初は農家(仲買人)と籾の買い取り交渉で

揉めることがあったものの、継続的な取引によって、農家(仲買人)も品質に対して少しずつ理解を

示し始め、籾の仕入れは徐々に容易になってきているようである。また、いくつかの精米業者は、質

の高い籾を仕入れるために、通常の取引以外にも、農家と特別な関係を構築している。例えば、ある

精米業者では複数の優秀な農家からなるコミュニティを作り、NGO と協力しながら、そのコミュニ

ティに対して稲作の技術指導などを行なっているという。通常の取引に加え、このような農家との特

別な関係も、農家に世界で求められる籾の品質を理解してもらうきっかけとなっているのである。

このような籾の仕入れ作業は、収穫時期に活発に行なわれる。一般的に、収穫時期を過ぎてしまうと、

籾の供給量が少なくなるため、価格が高くなってしまう。また、カンボジアでは農家の籾保管技術が

高くないため、収穫時期を逃すと、入手可能な籾の品質も低下してしまう。(図 14)のように、農家

は余った籾を天日干しによって乾燥させようとするため、乾燥の度合いにバラツキがでてしまい、割

米や砕米の比率が向上する原因となってしまうのである。さらには、乾燥後の保管状態も良く無いた

め、これも品質が低下する要因となってしまっている。このような低品質かつ高価格の籾を買わざる

をえない事態を避けるために、収穫期に大量に籾を購入しておくことで対処しているようである。

17

Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半. ただし、想定外の精米受注があり、自らのストックや農家(仲買人)からの供給でも賄いきれなく

なった場合は、国内中小精米業者から精米や籾米の仕入れを行なうこともあるという。なお、この流

通形態の是非については、国内中小精米業者の節で詳述する。

図13 籾の買い取り交渉の様子

出所:筆者撮影

図14 農家による天日乾燥と籾保管

出所:筆者撮影

(2)精米加工

18

Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半. 上記のようにして仕入れられた高品質な籾は、その品質を維持するために、その後丁寧に加工作業が

行なわれて行く。まず仕入れた籾は、精米工場に備え付けられている乾燥機械を用いて、乾燥が行な

われた後、巨大な倉庫で保管が行なわれる。これによって、籾の水分状態を一定に保ち、籾の品質劣

化を防ぐことができるため、籾の価格が低い時期に大量に仕入れて保管しておくことが可能となって

いるのである。その後、精米の発注があり次第、精米加工が行なわれる。特に、この精米加工におい

ては、最新の設備を導入することで、砕けたコメや色合いの悪いコメなどを除去し、品質の向上に努

めているようである(図 15)。

図15 輸出精米業者の精米工場

出所:筆者撮影

(3)輸出販売

輸出精米業者では、語学力のある優秀な人材が登用されているため、自らが輸出機能を担い、海外バ

イヤーと直接取引をすることが可能となっている。ただし、自らが輸出機能を担うために発生してし

まう問題もあるようである。それは、輸出契約を行なった相手が、支払いを滞らせることによって、

一時的にキャッシュ不足に陥ってしまい、工場が立ち行かなくなってしまう場合である。この問題に

対処するために、各社は輸出の支払い手続きを工夫する、あるいは常にそのリスクを考慮し、予め

キャッシュを多めに所有するといった対策を講じているようである。

4.2.2 国内中小精米業者の実態

19

Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.国内中小精米業者とは、主に国内の市場に向けて販売を行なう精米業者のことを指す。規模は小規模の

ものから、中規模なものまで様々ではあるが、輸出精米業者よりは大きくはなく、さらに設備も古び

ていることがある(図 16・図 17)。また、カンボジア国内における精米業者のほとんどが、こうし

た中小規模の国内中小精米業者であると言われている。以下では、輸出精米業者と同様、籾の仕入れ、

精米加工、精米販売の3つのフローに分けて、国内中小精米業者の実態を記述していく。

図16 小規模精米業者の精米機械

出所:筆者撮影

図17 中規模精米業者の精米工場

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Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.

出所:筆者撮影

(1)籾の仕入れ

国内中小精米業者では、輸出精米業者のように農家と特別な関係を結んで、籾の質を向上させるとい

うような活動は見受けられなかった。特にバッタンバンでは、農家や仲買人が多く存在し、精米業者

との販売経験もあるため、通常の取引でも、望ましい品質の籾を望ましい価格で仕入れることができ

るようである。

(2)精米加工

国内中小精米業者では、輸出精米業者ほど丁寧な精米加工が行なわれることはほとんどない。乾燥設

備や倉庫はあるものの、乾燥機械ではなく手作業による乾燥であったり、倉庫も温度管理などが行な

われていないような倉庫であったりということがある。また、精米加工においては、色の悪いコメや

割れたコメを排除する設備が無かったり、精米の工程が少なかったりといったことがあり、輸出精米

業者の完成品とは品質的な差が生まれてしまう(図 18)。カンボジアに精米機を販売している、日本

の大手精米機メーカーによると、カンボジアにおいて輸出に応えられる設備を整えている精米業者の

数は少なく、ほとんどが上記の国内中小精米業者のような状態であるという。

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図18 輸出精米所(左)と国内中小精米所(右)の完成品の違い

出所:筆者撮影

(3)精米販売

輸出精米業者とは対称的に、国内中小精米業者には海外のバイヤーと交渉できる人材が存在しないう

えに、海外の発注量に応えられるだけの設備も整っていない。そのため、海外へと展開することが難

しく、販売先の大部分はカンボジア国内の卸売や小売となっている。実際に、ある国内中小精米業者

からは、今後海外へと販路を広げることは難しく、そのような意欲も無いという声を聞くことができ

た。

ただし、一部ではあるが、輸出精米業者へと精米を販売するという形態も観察される。しかしながら、

国内中小精米業者の精米加工能力では質が低くなってしまううえに、余計な流通コストがかかってし

まう。そのため、輸出精米業者側は急な精米需要増でも発生しない限り、積極的にはこの形態を採用

しようとしない。こうしたことから、今後このような展開が増えてく可能性は低く、むしろ国内中小

精米業者は国内市場へ、輸出精米業者は海外市場へといったように、2者の立場がより明確に別れて

いくことが予想されている(大竹,2012)。

4.3 小括:コメ産業と精米業界

1993 年のコメ流通自由化とそれに伴う国内市場の飽和によって、国内の精米業者同士の競争が激し

くなった。こうしたことから、精米業者は世界のコメ市場に新たな活路を見いだし、輸出機能を備え

た大規模な精米業者の活動も活発になっていった。そうして近年では、規模や能力の違いによって、

国内中小精米業者と輸出精米業者という2つの役割が徐々に明確になっていくなどといった展開が見

られ、カンボジアの精米業会は新たな局面を迎え始めているといえる。そして、上記のような精米業

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Student Essays of Osaka University Strategic Management Seminar (2016) 4. Part1/2(revised version 2016 march 31)大阪大学経済学部中川功一ゼミ論文(2016)4. 修正版 –前半.会の変化は、コメ産業全体や政府にも波及し、カンボジア全体で輸出拡大に向けた取り組みが本格的

に行なわれつつあるのだ。

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