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2019 年夏課題

Self-Esteem Movement がなぜ大衆に受け入れられたの

(仮)

慶應義塾大学 文学部

人文社会学科 教育学専攻 松浦良充研究会 4 年1

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11613856 平井 七実

【アブストラクト】

1980 年〜2000 年代にカリフォルニア州を中心に全米で、子どもの自尊心を向上させ

れば学力向上や非行の減少につながると主張する Self-Esteem Movement(以下、SEMと略す)が起きた。当時は専門家も含め、世間が SEM に大きな期待を寄せ、様々な取り

組みが行われた。カリフォルニア州では新たなプログラムの導入を行うために年間 2500万ドルの予算が計上された(Herzog, 2007)過去もあった。しかし、新しいプログラム

が導入されてから学力テストの結果は一向に改善せず、逆に過剰な自己愛につながった

と評価されているため、現在では一連の運動は失敗だと捉えられている(Baumeister et al., 2003)。

一方日本では近年若者の自己肯定感の低さが問題視されており、教育などを通してそれ

を育む必要があるという意見が見られる(文部科学省, 2016, 文部科学省, 2017a)。

 そこで、本研究ではまずなぜその時代のアメリカで SEM がそれほどまでに人々の関心

にとまり、子どもの Self-Esteem(以下、SE と略す)を向上させることが全ての問題が

解決する万能薬だと思い込んだのかを明らかにしたい。また、その要因が近年若者の

「自己肯定感」の向上を目指す日本の現状にも当てはまるかをみていく。

よって、第 1 章では今回取り上げる SE の定義を定めたうえで、SEM がどのような経

緯で社会や民衆に浸透していったのかを述べる。次の第 2 章では、SEM では具体的にど

のようなプログラムが実際の教育現場やその周辺で導入されたのかを確認する。第3章

では一連の運動がどのような結果や評価をもたらしたかを述べる。第 4 章ではなぜその

時代に SEM が社会に受け入れられたのかをまとめ、第5章では日本の「自己肯定感」に

対するスタンスを述べる。

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【目次】

序章 テーマ設定の理由......................................................................4

第1章 SEMの先行研究....................................................................6

第1節 SEの定義............................................................................6第1項 「能力」としての SE............................................................................6第2項 「感覚」「態度」としての SE(編集中)................................................7第3項 「能力」と「感覚」を組み合わせた SE(編集中)...................................8第4項 SE の定義:小括...................................................................................8第2節 SEのこれまでの議論...............................................................9

第2章 SEMとその実践..................................................................11

第1節 SEと教育テレビ..................................................................11第2節 SEと学校カリキュラム..........................................................13第1項 カリフォルニア州の政治的動き............................................................13第2項 実践レベルでの動き...........................................................................14

第3章 批判の対象と化すSEM..........................................................16

第1節 BAUMEISTER(2003)の評価・考察...........................................16第2節 SEMに対する著者の考え........................................................17

第4章 なぜSEが浸透したのか..........................................................18

第1節 理由①「SEが高い方がいい」は常識...........................................18第2節 理由② アメリカ思想に反しないSEという概念..............................19第1項 保守 VS. リベラル...............................................................................20第2項 新自由主義の影響...............................................................................24第3節 理由③ 政策的費用対効果が高いSEM..........................................26

【夏課題を書き終えて】....................................................................28

3

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【参考文献】.................................................................................29

序章 テーマ設定の理由

 現代の日本の子どもや若者は自分に対する満足度や自信の度合いが国際的に比較する

と低い。2014 年に内閣府によって発表された調査では、図1で見られるように「私は、

自分自身に満足している」に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した日

本の若者(満 13歳から満 29歳までの男女)は半数以下の 45.8%しかそのように感じて

いない。それに比べ、他の7カ国は全て7割以上が自分を肯定する回答をしている。中

でもアメリカは 86.0%と最も高い値を出している。

図1 自分自身に満足している(作り直します)(出所)内閣府(2014b)

しかし、山崎ら(2017)が述べるように、このアンケート結果に文化的な背景が反映

される可能性は否定できない。それは日本人が一般的に謙虚な姿勢を好み、逆に海外では

謙虚な姿勢を特筆して好まないことが結果に結びついていると想定できるからである。

文部科学省の調査でも日本の自己肯定感が低いことについては、他者との比較の上で回

答している可能性があり、自分の状況を客観視できていることの表れであることも考え

られることから、必ずしも否定的に捉えることはできないことを留意している。しかし、

それを踏まえてもなお文部科学省や内閣府は以下のようにその数値の低さを問題視して

おり、自己肯定感、すなわち self-esteem(以下、SE と略す)を向上させたいと考えて

いる。

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自己肯定感が低いことを問題視する理由の1つに、文部科学省の独自のクロス集計1を

通して、自己肯定感が高い方が「挑戦心」や「達成感」、「規範意識」、「自己有用感」

などに関する意識が高いというポジティブな結果が出たからである(文部科学省, 2017a)。

 文部科学省の「挑戦心」や「達成感」、「規範意識」、「自己有用感」が高い人は

Self-esteem(以下、SE と略す)が高い傾向があるかもしれない。しかし、SE が高い人

が必ずしもそのような特徴を持っているという保証はない。逆に SE が高いことによる弊

害がある可能性もある。実際アメリカでは 1980 年代から 2000 年前半まで行われた子ど

もたちの自己肯定感を高めようとする Self-esteem Movement(以下、SEM と略す)は

一般的に失敗で終わったと評価する見方が多い(Baumeister et al., 2003)。

アメリカで起きた SEM が失敗だったと評価されている以上、日本も子どもの自己肯定

感を高めるということに注力するにあたって、過去の事例を慎重に検討することに大き

な意義があると筆者は考える。アメリカではなぜ SEM が失敗と評されるのか、どのよう

な取り組みを教育機関で行ったのか、そしてそもそもなぜアメリカのその時代(主に

1980〜2000 代)では教育という場面で SE に注目が集まったのかを考察する必要がある。

それを踏まえ、日本でも共通している部分があるかを検討し、今後の教育政策を考える

上で良い検討材料になることを期待する。

1 クロス集計とは、特定の二つないし三つの情報に限定して、データの分析や集計を行なう方法である。縦軸と横軸に項目を割り振って、動的な変化を視覚的にわかりやすく表現しているもの。特定の項目の相互関係を明らかにすることができる。クロス集計は、年齢や性別などの違いを把握する事で、属性別にどのような影響があるかを把握できるというメリットが存在する。(シナジーマーケティングウェブサイトより)

5

国は、学習指導要領の改定とその実施に向けた取り組みを進めていますが、諸外国に比べて子供たちの自己肯定感が低いままでは、「社会に開かれた教育課程」の下でこれらの時代に求められる資質・能力を育むことが十分に実現できたことにはなりません。子供たちが自分の価値を認識し、かつ、他者の価値も尊重することができるよう、また、自信をもって成長し、よりよい社会の担い手となることができるよう、そのための環境づくりに取り組む必要があります。(文部科学省, 2017b)

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第 1 章 SE という概念について

 序章では本論文の意義を述べ、アメリカで起きた SEM に着目することを示した。その

上で、本章の第 1 節ではまず、SE の定義を定める。そして第2節では SEM が導入される

まで心理学の領域で SE についてどのような議論されてきたかの歴史をまとめる。最後の

第 3 節では、1980 年代〜2000 年代に起きた SEM がどのような地域で主に導入され、具

体的にどのような運動内容だったのかを説明する。

第 1 節 SE の定義

 SE は長期にわたって様々な議論がされてきており、研究もなされてきた。しかし、SEというもの自体大変抽象的な概念であり、その定義の不確定さゆえに認識の違いなどが

起きてきた。よって本論文ではまず SE に対してどのような定義が存在するのかをまず明

確にし、本論文での定義を定める。

 Mruk (2013)によると、SE の定義は3つに分類される。1つ目は SE を人が成功する

上で必要な「能力」として考える定義である。2つ目は自分が価値ある人間(=

worthiness)だと感じる「感覚」「態度」として捉えられる定義である。そして3つ目

はそれら2つの定義を組み合わせたものである。それぞれの定義を具体的に述べる。

第1項 「能力」としての SE(仮)

 この定義は William James(1890)によって 100 年以上前に定義づけられた。James は

SE を以下のように表した2。

 SE を「能力」として捉えるこの定義には 3 つの特徴がある。1つは、SE は数式で表す

ことができるように比較的一貫性を持って変化するものであるため、SE をその人の特徴

の1つと考えられるのではないかという点である。2つは、数式は数が変われば結果が

変わるように、SE は動的なものであるとしている点である。最後は、SE 自体に成功と

いう概念が含まれているという点である(Seligman, 2007)。

2 この数式の和訳から James は SE が成功を得るために必要不可欠な「能力」の1つだと考えていたことがわかる。また、SE には「Pretensions(=主張)」、今でいう「Aspirations(=大志、熱望)」が含まれるところも留意するべきである。よって、この定義を活用している先行研究の多くは個々のアイデンティティーに関連した特定の成功の形について言及している。

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Self – E steem= Success(成功)Pretensions / Aspirations¿¿

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 このアプローチによって、SE と成功や失敗がどのような関係性を持っているかを定め

ることができる。しかし、Mruk(2013)はこの定義には決定的な欠点があるとしてい

る。それは、逆に成功するためには SE を高めること以外に方法がないと定めてしまって

いることにあると考える。成功するためにはその他の変数も関わっている場合が多いの

にも関わらず、SE と Pretensions に限定してしまっていることが欠点だとされている。

第2項 「感覚」「態度」としての SE(編集中)

 現在最も主流とされている SE の定義は Rosenberg(1965)によって紹介された。彼は

自分を価値ある人間と感じるその「感覚」や「認識」こそが SE であると考え、以下のよ

うに述べた。

この考え方では、SE は自分を価値ある人間だと感じることができるかどうかの特定の

「感覚」に基づいて定義づけられている。SE が直接どのような結果をもたらすかよりは、

まず SE の感覚を評価することを重視している。それは SE そのものを重視しているので

はなく、SE を1つの要素としか見ていないからである。Rosenberg はこの考えを基に

現在も世界中で、心理学の領域だけでなく様々な研究領域に活用されている Rosenberg Self Esteem Scale(=Rosenberg 自尊感情尺度)を作成した。その尺度ができたこと

によって、SE を国や人種などで比較することが可能となった。よって、この定義を利用

している場合、それらの結果を活用して SE によってどのような結果やアウトカムが得ら

れたかではなく、その思考のプロセスを評価する議論がなされることが多い。

 この定義づけで最も評価すべき点は、これによって、SE がそれ以外の社会的事象など

とどのような関連を持っているのかを探る動きが起きたことにある。以前までは SE と成

功の関連だけに限定されていたが、この新たな視点によって「成功」以外に、SE がどの

ような事象と因果関係を持つのかを研究するものが増加した(Mruk, 2013)。

 しかし、自分が価値ある人間だと感じる「感覚」や「認識」そのものが曖昧なため、そ

れに基づいて定義づけられている SE 自体も同時に曖昧なものになってしまうという欠点

が存在する。そのため、Rosenberg Self Esteem Scale による SE の測定結果はその妥

当性が疑われてきた。例えば Baumeister ら (2003)は「SE は重要な指標どころか、全

く何も影響を与えない無価値なものである」とまで述べている。

7

Self-esteem, as noted, is a positive or negative attitude toward a particular object, namely, the self… High self-esteem, as reflected in our scale of items, expresses the feeling that one is “good enough.” The individual simply feels that he is a person of worth; he respects himself for what he is, but does not stand in awe of himself nor does he expect others to stand in awe of him. (pp. 30-31)

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 これらの研究を踏まえて Mruk(2013)は SE の捉え方の可能を複数示している。1つ

は、Baumeister (2003)がいうように、そもそも SE は人々が思っているほど重要な要

素ではないという捉え方である。2つ目は、SE が重要であったとしても、その相関関係

が複雑すぎるため本質的な相関関係ないしは因果関係を解明するのは不可能であるとい

う捉え方である。そして最後は、そもそも SE を「能力」や「感覚」として捉えることに

限界があり、間違っているため定義すること自体に意義がないという捉え方である。し

かしその場合は SE の研究自体にも意味がなくなってしまうため、そうではなく違う定義

を試みた結果、最後の定義が考えられた。

第3項 「能力」と「感覚」を組み合わせた SE(編集中)

 Mruk(2013)の述べる通り、SE の位置付けや定義の見直しに当てはまるのが、第3

項で述べる SE の定義である。最後に示す SE の定義は今まで述べてきた「能力」として

の SE と「感覚」「認識」としての SE を組み合わせた考え方である。その位置付けを定

めた最初の人が Branden (1969)とされている。

Branden は自分に対する効用感(=personal efficacy)と自分に対する価値(=

personal worth)の両方によって SE が構築されるのだと考えた。よって、どちらか一

方だけが重要なのではなく、自信(=self-confidence)と自尊心(=self-respect)の

両方を育む必要があるとする。それに加え SE は得たり失ったりと変動することが十分可

能なものだと捉えた。そのため、SE は慎重に管理され、育まれなければならないという

見方ができる。

この定義は多くの研究者に「大衆向き」で「ありきたり」と評価されることも多かっ

た。しかし、「能力」と「感覚」を組み合わせた弁証法的アプローチはそれ以前に別々で

行われていた議論をつなぎ合わせるきっかけを作ったと考えることもできる。また、そ

れによって新たな議論へと発展することも可能であるため、定義として期待された。

第4項 SE の定義:小括

 これまで大きく3つに分けられる SE の定義とその特徴と欠点についてまとめてきた。

どの定義にも評価するべき点、悲観すべき点があることは確かである。しかし、どの定

義が正しく、どの定義が誤っているかと本論文で判断することは不可能に近く、好まし

くないだろう。それは SE という概念自体がそもそも抽象的であり、人によって SE と聞

いて思い浮かべることや感じることに個人差があるからである。そのため、当時アメリ

カで SEM を推し進めた人たちや日本で教育政策を考える人たちにも傾向はあったとして

も、きっと個人差があった上で一連の運動が起きたと予想できる。よって、本論文では

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どの定義が正しいなどとは言及しない。あくまでも主に定義が3つあり、それぞれの国

でどのような傾向が見られたかの言及に止めようと考える。

第2節 SE のこれまでの議論

 SE についてこれまで多くの議論が行われ、心理学の学問領域だけではなく、教育をは

じめとする様々な分野にも影響を及ぼしてきた。これから述べる、アメリカ 1980 年代

に起きた SEM もこの一連の流れを受けているため、その SEM 以前にどのような論争が

行われたかを整理する必要がある。よってこの節では先行研究を基に SE についてどのよ

うな議論がされてきたのかを簡単にまとめる。

 SE を最初に取り上げたのは James(1890)とされている。彼はアメリカで最も古い

とされる心理学のテキストに SE の概念や考え方を紹介した。そのような歴史のあるテキ

ストで SE について言及したことが影響したのか、それから 100 年以上経っている今で

も SE は心理学の領域で最も議論が行われるテーマの1つとなっている。そしてその概念

的な紹介を受けて、SE がどのように人の行動や態度に影響を及ぼすかを検証する議論が

なされた。この時、SE を「認知」と「経験」についての議論ではなく、目に見えて表出

する行動と結びつけたことによって臨床心理学を扱う研究者、とりわけ精神科を専門と

する研究者の関心を集めた。臨床心理学者として様々な精神病を抱えた患者を治療してき

た Adler(1927)は良くも悪くも SE は人の行動や思考に影響を与えると考えた。その点

を踏まえて SE の向上によって人々が感じ自分に対する劣等感を解消することができると

期待した。同じく臨床心理学者であった Horney(1937)は SE の効力を強く信じ、SEを高めることによってほとんどの精神病を治癒することができると考えた。

 そして 1960 年代は SE が注目される1つのターニングポイントとされている。SE は

多くの研究者に注目され、Rogers(1951, 1961)と Maslow(1964, 1968)を中心に

SE についての議論が過熱した。中心人物とされた2人はどちらも SE をはじめとする心

理学的領域に限らず、教育に関しても言及しており、その思想や主張は現在の教育でも親

しまれ、受け継がれている。例えば Rogers(1969)は、教育者とは教える人

(teacher)ではなく促進者(facilitator)であるべきだと考えた。Maslow(1943)は

自己実現を叶えるために満たされる必要がある欲求5段階説を発表し、この枠組みは今で

も日本の教育や福祉において活用されている。この時代は特に SE が自己実現や自分らし

く生きるためになぜ重要なのか、どのような繋がりが存在するのかを示す議論が多く行

われた。その他に、前述の Rosenberg(1965)によって SE を客観的に測ろうとする尺

度が作られた。そして 1969 年には Branden によるベストセラー The Psychology of Self-Esteem によって SE が専門家たちだけではなく、大衆が関心を持つ議題へと変化し

た。

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 SE が特定の専門家によって議論されるテーマではなくなり、一般の人々も認識する

テーマになったこの一連の流れを受けて 1980 年代後半からカリフォルニア州を中心に

人々の SE を上げようとする運動、つまり Self-Esteem Movement(以下、SEM と略

す)が起きたのである。

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第2章 SEMとその実践

 SE というテーマが大衆化したことによって、それは SEM となって様々な分野に影響

を及ぼした。SEM と呼ばれる運動は 1980 年代後半から特に教育やメディアなどで注目

されるようになった。テレビ番組や本などのメディアで SE が取り上げることが増え、

SE を向上させることで様々なプラス効果が見込めるという主張が普及したことによって

子育て中の親や教育者の関心が高まった。それにより、SE が万能薬であるという風潮が

一気に広がり、教育テレビや学校カリキュラムにも SE の促進に拍車がかかった。

 この章では「教育」という軸で実際に教育テレビと学校カリキュラムでどのような動

きが見られたかについて言及する。また、これ以降に用いる SEM とはカリフォルニア州

に限らず、子どもの SE を高めようとした広義での SE促進運動を指すことにする。カリ

フォルニア州に限定する場合は、「カリフォルニア州で起きた SEM」と前置きをつける。

第1節 SE と教育テレビ

 SEM の広がりとともに教育テレビでも SE を重視する流れが生まれた。幼児対象のテ

レビ番組だけでなく、小学生対象のものでも「自分らしくいること」「自分に自信を持

つこと」の重要性を主張するものが多い。中でも 1992 年から 2009 年まで全米で放送さ

れた Barney & Friends は特にそのメッセージが驚くほど顕著に表れている。

 Barney & Friends は1〜8歳の子どもを対象にした番組で、各話で紫色の恐竜

Barney が子どもたちの抱える悩みや葛藤をポジティブなものに変換して解決するという

プロットが多い。例えば”Everyone is Special” (Williamson 2013)というエピソードで

は、他の子どもたちより目立ちたいと思う女の子が大人の格好に変身し、大人のように

振る舞う場面がある。Barney がその子に対して、「みんなと違う格好をしなくても全員

がそれぞれ特別で、価値ある人間なんだよ」と諭し、その内容を歌った曲を全員で歌い、

話は締めくくられる。

図2 紫色の恐竜Barney (出所)Pinterest (2011)

11

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 また、番組の最後に必ず歌う、”I Love You”でも SE を向上させ、自己愛を形成しよう

とする意図が見受けられる。最初のサビは以下のようなものである。

このように、本番組では子どもに対して無条件の愛を伝え、それによって子どもたちの

SE を高めようとする狙いがあるように思える。

 この番組の放送が開始された 1992 年は SEM が盛んだった時期と重なることから、

SEM の影響を大きく受けているように著者は感じる。実際 Barney というキャラクター

を作った Sheryl Leach はテキサス州で小学生の教師を務めていた経験を持っている

(Lev, 1992)。彼女はその経験を通して感じた SE の重要性やそれに対する関心をもと

に、幼い子どもたちに小さい頃から自分が価値ある人間だということを感じてもらえる

番組内容にした可能性が考えられる。

 子どもたちに爆発的な人気を誇ったこの番組だったが、一部の人たちには批判の対象

となった。Chala Willig Levy は、この番組では全てを肯定し過ぎてしまっているという

批判している(Levy, 1994, pp. 191-192)。彼女は番組ではどんなことも「個性だ」

と捉え、全てを無条件に受け入れ、ポジティブに言い換えてしまうため子どもたちは自

分の価値を感じられるようになるかもしれないが、都合の悪い現実から目を背ける姿勢

も身についてしまっているのではないかと主張した。また、2009 年では CBS によって

決められた「史上最悪なテレビ番組」のランキングで 50位に選ばれるということもあっ

た(Cosgrove-Mather, 2002)。

 そのような結果に至った Barney & Friends という番組では子どもたちに自分の存在価

値を無条件に感じてもらうという部分は、本論文で紹介した自分が価値ある(=

worthy)である人間だと感じることが SE であるという2つ目定義と似ているところが

ある。特に、結果や能力があるから自分が価値ある人間だと捉えるのではなく、存在す

ること自体に価値を感じられるかどうかを評価しようとしているところが似ている。当

時はそれが最も使われていた定義だったため、その点が重なるという意味ではある程度

SE を向上させようとする動きに一貫性があったと言えるのかもしれない。

テレビは広範囲に影響を及ぼす可能性を持っている点では SEM を評価する上での利点

かもしれないが、同時に、教育テレビは子どもに対して影響力がどれほどあるかがわか

12

I love you, You love meWe're a happy familyWith a great big hug

And a kiss from me to youWon't you say you love me too

(出所)Genius

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りにくい。よって、第2節では普及範囲がより明確で、直接的である学校カリキュラム

の編成について見ていきたい。

第2節 SE と学校カリキュラム

  この節では SEM が学校カリキュラムに与えた影響について説明したい。SEM は確実に

多くの人々の関心を集め、個人レベルでかなり意識された教育が行われていた。コロン

ビア大学の調査では当時アメリカで子どもを持つ親の 85%は自分の子どもに彼や彼女は

賢いと言い聞かせることが大事だと考えていた(Mueller et al., 1998)。そのため教育

テレビはも子どもたちの SE を向上するような内容が取り上げられるようになった。また、

1970 年から 2000 年にかけて SE やそれに関する内容の研究論文が 15,000件発表され

た。大衆文化でもコメディアンとして有名だった George Carlin はトークショーで SEMをテーマとして取り上げている(Carlin, 2001)。これらのことから SE 自体は大衆にか

なり浸透しており、多くの人々はそれが大切であると認識していた。

行政や教育機関でも SE を重んじる意見が多かったのか、積極的に SE の向上を学校理

念や学校カリキュラムに盛り込む学校が見受けられた(Bergeron, 2018)。その中でも、

カリフォルニア州は州をあげて大々的に SE の促進を行ったため、今回はそこに焦点を当

てる。

第1項 カリフォルニア州の政治的動き

 カリフォルニア州の 1980 年代後半から起きた学校教育の SEM は当時州の予算委員会

会長を務め、強力な権力を持っていた John Vasconcellos という政治家が主体となって

推し進められた。1986 年には State Task Force to Promote Self-Esteem and Personal and Social Responsibility という専門家によって構成された特別委員会が作

られ、この特別委員会だけで 700,000 ドルの予算が与えられていた(Bergeron, 2017)。発足の目的は「SE がどのように育まれ、失われ、再構築するか」という点と、

「SE がその他の社会的事象とどのような相関関係を持っているか」を解明することに

あった。多額の予算が与えられ、調査に力が入れられていたことから政治の面からもか

なり期待されていたことが見受けられる。特別委員会では SE と非行犯罪などの社会的問

題のつながりを研究したり、学校機関に SE を普及させる役割を担ったりした。また、他

の学校機関に広く普及する上で、定義を定める必要があったため、特別委員会内で SE に

対して独自の定義を決めた。それが以下のものである。

13

“Appreciating my own worth and importance and having the character to be accountable for myself and to act responsibly toward others.”

(California State Department of Education, 1990, p. 18)

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特筆すべき点は、この定義ではただ SE を高めればいいとするものではないという点だ。

SE を高めるだけではなく、それを高めることによって、自分にも他人にも責任感のある

行動をとることが求められている。もともと Vasconcellos は State Task Force to Promote Self-Esteem の部分だけで法案を通し予算を得ようとした。しかし、これに対

して、多額の投資に対して社会的効用が見られなければ法案を通すことができないとい

う議会の判断を受けたため Personal and Social Responsibility の部分を付け加えられ

たとされている。このような政治的力が加えられたことによって、それまで心理学の領

域に限定された SE の研究が、その他の社会的出来事との関連性の研究が盛んになったの

ではいないかという見解がある。後半の方でより詳細に述べるが、調査の結果「非行行

動と SE」や「学力と SE」、「若者の妊娠と SE」などの相関関係が見られると発表され

た(Mecca, Smelser, Vasconcellos, 1989)。

第2項 実践レベルでの動き

 特別委員会の発足によって、カリフォルニア州では SE の向上を図ろうとする実践は多

くの学校や地域サービスに導入された。カリフォルニア州の 86%の小学校で何かしらの

形で SE プログラムが導入され、中等教育でも 83%の学校が SE に関わる取り組みをして

いた(Nave, 1990)。アメリカでの教育は学区ごとに大きな裁量権が与えられているた

め、実際に行われていた SE のプログラム内容は様々である。その中でもよく取り組まれ

ていた内容や、目立った変化について述べる。

 授業では自分を大切に思う気持ちを育もうと、自分に対して手紙を書く取り組みが行わ

れたり(Storr, 2014)、人の役に立つことで自分の価値を認識してもらうために学校側

から生徒にコミュニティーサービスへの参加を積極的に促したりした。その他にも、

「自分が個性的で特別だと感じる点をリストにしよう」や「〇〇くんのステキだと思う

点をみんなで伝えてみよう」などのテーマが意識的に課外活動に含まれるようになった

(Martin, 2014, p.177)。

 そして SEM の影響力は学校内だけに限定されず、子どもの教育に関わる関係者にも普

及された。例えば、親に対しては子育てセンターなどで SE の重要性を教える講座が作ら

れた。また教師に対しても、SE を育てることで子どもへどのような行動の変化が期待で

きるかや、子どもと接するときにどのような点に注意すれば SE を育むことができるのか

などが教師教育で熱心に教えられた(California State Department of Education, 1990)。

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 以上のように SE の重要性を訴えかけられた親や教師たちの多くはより一層子どもたち

の SE を重視し、熱心に育てようとした。それによって、逆に子どもたちの SE を低下さ

せてしまう可能性をもつものはできるだけ排除しようとする思考にもつながった。結果

としてそれが成績の全体的インフレテーション(=grade inflation)や、順位をつけず

全員が表彰されるトロフィー・シンドローム(=trophy syndrome)という形で表出し

た(Sigman, 2012)。

1998 年と比較して 2017 年では高校生の GPA が全体で 0.11 上昇した。また、評定平

均が「A」であると答えた高校3年生が 39%から 47%へと変化している。しかし同じ期

間で大学進学するために高校生が受ける必要のある SAT の平均は向上しているどころか、

24点低下している(Murphy, 2017)。他には、優秀な生徒を表彰すると表彰されな

かった子どもたちの SE が低下してしまうことを懸念して卒業時に成績優秀者へ贈る賞を

そもそも準備しないことを検討した学校もあった。他にも宿題を提出しただけで生徒を

褒めたり、生徒自身が不十分だと思っている課題を受け取ったりすることがあったとい

う事例が報告されている(Celis, 1993)。

このように成績の評価が甘くなったことや子どもに順位をつけずに全員を肯定しよう

とする風潮に、著者は子どもに挫折や失敗の経験を通して SE を下げることは避けたいと

いう教師の思いが含まれているように感じる。SE が重視されるあまり、過度に子どもた

ちの SE を守ろうとしてしまったのだろう。SE の重要性が認知され、普及されていくに

つれ SE こそが全ての悪に対する「万能薬」であると信じきり、SE の向上が目的と変化

してしまったのだと考える。そのためか、最初は Bill Clinton や Bush(子)の妻である

Barbra Bush から支持されていた研究や SE プログラム(Bergeron, 2017)は次第に批

判の対象へと変化していった。

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第3章 批判の対象と化すSEM

 1980 年代当初、多くの専門家と大衆から一定の評価と期待が寄せられていた SEM は、

次第に批判を集めるようになっていく(Leo, 1990 ; Krauthammer, 1990)。その理由

は SEM のもとで行われた教育プログラムや地域サービスでは一向に顕著な社会的効用

(ex.学力の向上、若者の非行行動の低下など)が見られなかったからだ。それに伴いメ

ディアを中心に SEM の失敗が謳われるようになり始めた。そして、2003 年に

Baumeister らの論文が発表されたことによって SEM 失敗説はおおよそ決定的なものと

なった。

第1節 Baumeister(2003)の評価・考察

 Baumeister はまず、カリフォルニア州で起きた SEM がもともと望んでいたような結

果をもたらさなかったことは当然の結果だとした。それには大きく2つの理由がある。

1つは SE が当時抱えていた社会問題を全て解決してくれるというエビデンスが少なく、

客観的に SE を肯定する研究を見返したとき説得力に欠けたものが多かったからだとした。

確かに、カリフォルニア州では SE を高める新たな教育プログラムを導入する前提で特別

委員会が設置され、研究が行われていた(Storr, 2017)。つまり、SE の効用を客観的に

立証する役割を果たすべき研究が、SEM を推し進めようとする委員会側から研究費を受

けたことにより結果ありきで研究を行ってしまったものが多かったと予想できる。

もう1つの理由はそもそも「SE が低い」と正確に定義づけできないからである。調査

をする上で「SE が高い人」と「SE が低い人」と分けなければならない。しかし、その

境界線がどこにあるかが不明である。その調査対象の中で相対的には決められるが、別

の調査で対象が変わればその定義も再び変動する。国内での調査では「SE が低い」と決

められても、海外を含めた調査では「SE が高い」と評価される可能性がある。以上の理

由から Baumeister はそもそも SEM のどの部分が間違っていたのかや、SE と学力・非

行などの関連性について議論することは難しいとしている。

 その上で Baumeister は過去の先行研究をもとに SE の効用について検討した。その結

果、カリフォルニア州で SEM が発足されたときに SE に期待していたことのほとんどの

問題は SE だけでは解決しないと結論づけられた。SE と学力、少年犯罪・暴力・非社会的

行動、タバコ・麻薬・飲酒・性の行為全ては弱い相関が見られても SE を上げることが直

接的な解決策にはならないと断定した。SE を高めることによって対人関係への積極性は

見受けられるも、それは SE が高いことによって「自分はコミュニケーションが得意だ」

と傲慢になっている結果にすぎないかもしれないと示唆した。しかし、SE が過食症に与

える影響については認めた。また、SE が高い人は幸せを感じやすいことも肯定した。た

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だし、この点に関してはどちらかが一方に影響しているというよりは共存している関係

だと主張した。

 それを踏まえて、Baumeister は結論として SE に注目しすぎることへの危険性につい

て言及している。確かに SE はさまざまな事象と関わりを持っているが、だからといって

SE を目的としてはいけないと主張する。何故ならば、SE は社会問題に対する「万能薬」

ではなく、ただの結果論でしかないからである。逆に SE を目的化してしまうと問題を解

決するどころか、傲慢な子どもを育ててしまうことにつながる可能性があるとした。ま

た、SE をむやみに高めようとして、本人が達成感を感じないことに対しても褒めを与え

てしまうと、褒めることそのものの価値が下がってしまう危険性があると述べた。しか

し、評価されるべきことをしたならば、正当な報酬として褒めることは決して悪いこと

ではないと最後にまとめた。

第2節 SEM に対する著者の考え

この論文とカリフォルニア州で実践された SE を高める目的の教育プログラムの特徴か

ら、やはり SE 自体を高めようとすることにはメリットは大きくないと考えられる。少な

くともアメリカで行われた SE を向上させようとする教育実践は成功したとは言い難い。

とはいえ、こうした議論は本研究の主題とは離れた議論になってしまうため本稿ではこ

れ以上議論をすることは控える。

しかし、以上の研究や SEM が導入された経緯を整理した結果、著者には1つ引っかか

る問いがある。それは、高い SE によって得られるだろうとする想定されていた効果に対

して十分なエビデンスもないのになぜそれほどまでにアメリカの大衆が SEM に迎合した

のかという点である。1987 年 2月 9 日に Vasconcellos が前年につくらせた State Task Force to Promote Self-Esteem and Personal and Social Responsibility で使わ

れる研究予算が年間 73.5 万ドルで予算委員会を通ったと報道されたとき、多くのメディ

アはそれを馬鹿げた予算の使い方だと猛烈に批判した(Storr, 2017)。しかし、カリ

フォルニア州の人々はその逆の反応を示した。同発表が行われてから 1ヶ月以内で特別

委員会には 2000件以上の手紙や電話が届き、400 人近いボランティアが集まった。ま

た、州の各地で行われた公聴会などでは 300 人以上が SE とその有用性を支持した

(Storr, 2017)。これらのことから、SE の重要性に共感した人が多かったと予測でき

る。

この SE の共感や教育への積極的な導入は何が要因で発生したのかを明らかにしたい。

それによって当時アメリカで起きた SEM やそれに対する大衆の迎合が特異的なものだっ

たのか、もしくは現在日本で起きている自己肯定感を大事にしようとする風潮と重なる

部分があるかを知る判断材料となるからだ。

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第4章 なぜSEが浸透したのか

カリフォルニア州を中心に盛り上がった SEM は教育機関などに大きな影響を与えた。

一般的に SE の向上は多くの人が期待するような効果をもたらすことがないと発表され、

その議論に決着がついたとみられている。しかし、その議論に区切りがついた後も SE を

重要視する学校が多く存在する。それは、その後も学校のホームページなどに掲載して

いる理念や目的に’self-esteem’という単語を使用している学校が全国で 290 万件も存在

するという結果から想定できる(Twenge, 2014)。学問的に SE が批判されてもなおそ

の効用を信じる人がいるのである。このような状況を Bergeron (2018)は’cult of self-esteem’と名付けており、SE が一種の信仰となっていることを指摘している。

では、この章ではなぜ SE が多くの人の心を掴み、一種の信仰と化したのかを述べる。

SE が受け入れられ、浸透した要因は複数あるとされている。具体的には、SE の概念自体

が曖昧で抽象的なものであるからや、当時新自由主義の社会的風潮が主流となったことが

影響しているからなどの理由が考えられる。また、行政、学校機関などの立場としては

SE や SEM が予算面でとても都合の良い政策と思えることがわかった。考えられる理由

を大きく3つに分け、ひとつひとつ整理していきたい。

第1節 理由①「SE が高い方がいい」は常識

 学者や研究者などが SE を高めることが経済的に好ましい影響を与えるとは考えにくく、

SE を無意味なものとして捉えている者もいる。そのような状況のなか、いまだに SE を

人間形成や成功に必要な要素として考える人々が根強く残っているのは「SE は高い方が

いい」ということを常識(=common sense)として思い込んでいる人がいるからかも

しれない。

 Koch(2006)は SE が人々に受け入れられたのは以下の理由があるからだと述べてい

る。

 Koch が述べるように人々は高い SE と好ましい結果は相関の関係であるという共通認

識から、「高い SE が好ましい結果をもたらす」と認識を勝手に変換してしまっている可

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Because high self-esteem feels good, people may naturally conclude that it results in positive consequences. A commonsense interpretation of the correlations between self-esteem and positive outcomes suggest that self-esteem actually leads to those outcomes. Thus, even those familiar with some psycho-logical research might conclude that self-esteem causes various positive outcomes. (pp. 262-263)

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能性がある。確かに、この勘違いはしやすい。なぜならば、SE が高ければ自分を肯定す

る作用が働くため、そこそこの結果をそれ以上に自己評価する可能性があるからだ。同

じ結果を得たとしても高い SE を持っている人はその結果をポジティブに捉える傾向が強

いのである。よって、高い SE を持っていれば成功しやすい、良い結果を得やすいという

「錯覚」に陥るのである。また、それが「錯覚」なだけかもしれないということを多く

の人々は考慮し忘れてしまう。

 また仮に SE と好ましい結果の位置関係に対して懐疑的な人であっても、「SE が高い

ことに越したことはない」という考えを持ちがちである。自分に全く自信がないよりは

ある程度の自信を持っている方が良いと考えられる。それはアメリカ特有の文化による

影響もあるだろう。日本の自己抑制的・婉曲的な文化に対してアメリカは自己主張的・直

接的な文化を持っているとされている(Miller, 1994)。つまり、対人関係などにおいて

相手に配慮し弱く出ることは自分が劣っていると見せていることと同じような状態なの

である。よって、相手と対等にコミュニケーションを取るためにはある程度の自信が必

要とされる。そして多くの場合自信と SE は類似したものとみられがちなため、あえて反

対をする人が少ないというのも SE が受け入れられた理由の一部だろう。

 このように、そもそも SE は以前からあったアメリカ文化で大切にされている価値観と

重なる部分がある。よって SEM に賛同し、教育分野への導入にも積極的だった人は「SEが高い方がいい」ということを常識(=common sense)として捉え、疑うこともな

かった。子どもに自分は価値ある人間だと思ってもらうことは当然のことであると考え

る教師たちはこのことを疑問に思うことは特に少なかったようだ(Kohn, 1994, p.272)。また SE の考え方や効果に対して多少疑いを持っている者もアメリカ文化的に

深く根ざした価値観により SEM に反対する理由を見つけることができなかった。この理

由により特に反対されることもなく SEM が多くの人々に受け入れられたと考えられる。

第2節 理由② アメリカ思想に反しない SE という概念

SE の概念が多くの人々から受け入れられた2つ目の理由はアメリカでは SE が保守

(=conservative)とリベラル(=liberal)のどちらの思想にも反していないためだと

考えられる。アメリカ社会では2つの対立は根深く、政治や経済、教育など様々な分野で

その対立構造が見受けられる。そして何か新しい取り組みを行うとき、多くの場合どち

らかの思想や価値観と反するため両側の合意を得ることが難しい。例えば、最近では移

民の受け入れを制限やそれに関するトランプ大統領の決定に保守側の多くは賛成もしく

は容認の立場をとっていることに対して、リベラル側を中心に全米でデモが行われた

(テレ朝 news, 2019)。

このように多くの場合2つの立場で意見が分裂するため、万人からの共感を得たり受

け入れられたりする教育政策や決定などは少ない。しかし、SE という考えはどちらの意

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向とも対立をしなかったため多くの人に受け入れられ、大きな影響力となったと考えら

れる(Darder, 2012)。また、当時はリベラル側をより強化した新自由主義(=

neoliberalism)の思想も拡張したが、SE はその思想と相反するものではなく、逆に強

化する内容だったと考えられるため(Bergeron, 2018)より多くの政治的支持を得られ

たのではないかと予想する。そこで本節はアメリカとなぜ SE が浸透したかを理解する上

で重要なリベラルと保守の立場を説明し、新自由主義を推し進めた政治側が SE とどのよ

うに「利用」されているかを述べる。

第1項 保守 vs. リベラル

 アメリカ社会では2つの大きな二項対立が存在し、その力関係によって様々な教育政策

やその他の決め事が行われる。SEM も同様である。保守(=conservative)とリベラル

(=liberal)の立場を踏まえてどのようにその思想や価値観が SEM に反することがな

かったのかを説明する。

 

 保守とリベラルを直訳すると以下のような意味である。

 

 しかし、ここで指している「続けられてきた状態」や「因習」は国ごとに異なるため、

国ごとにそれぞれがどのような立場や価値観を重視するかは異なる。アメリカの場合は

イギリスなどのように専制君主制や、政治や経済において宗教が大きな権力を持つ国と

は違い、自由を求めて創られた国である。そのため、アメリカでは保守の思想は欧州に

おいて保守と聞いたときに連想される「貴族主義」や「社会主義」とは異なる。すなわ

ち、特権階級や巨大政府による支配のいずれをも拒み、政治的・製剤的に独立した自由な

市民による統治を重んじるのがアメリカの保守的な立場である(渡辺, 2016)。

 そこで次は、具体的にアメリカにおける保守とリベラルはどのような思想や価値観を

重んじているかをもう少し詳細に説明する。

 アメリカにおける保守とは、自由主義の枠の中で、より強固な自由を求める立場であ

る。渡辺(2016)によると、アメリカ流の保守とは、

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保守 :「保ち守る(こと)」という意味であり、それまで続いてきた・続けられてきた状態を維持し続けること、および、維持するための取り組み、あるいは、そのような主義・主張を指す。

リベラル :政治的に穏健な革新をめざす立場をとるさま。因習などにとらわれないさま。

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1.自由な市場競争を重んじること(=規制緩和、減税、民営化、自由貿易などを

積極的に取り入れること)

2. 地域ごとに自治や裁量権を大きく委ねること(=政府主導による制度や規範の

形成を否定的に見ること)

3. 国際社会において自国の行動に自由を重んじること(=国際機関や他国によっ

て米国の利益が左右されないこと)

を指す。それに対し、今日のアメリカでリベラルと呼ばれる勢力の基礎はニューディー

ル期に形成され、保守よりも政府の積極的介入を求める立場をとる。具体的には以下のよ

うな立場をとっている。

1. 政府による一定の市場介入を是とすること(=規制・監査・監督、累進課税、

公共事業、社会福祉、環境保護など)

2. 社会的な少数派の権利・支援を是とすること(=積極的な差別是正措置の推進

など)

3. 国際社会や他国との協調の是とすること(=対話や交渉を重んじること)

このように「自由」を重んじながらも、二者で重視することが大きく異なることがわ

かる。そして、1 と 3 項目目は主に経済や政治の分野で両者の意見が分かれるが、2つ目

の項目はアメリカ教育の理想をどこに据えるかに大きく影響を与える価値観だろう。各

地域の自治を重んじる保守は州、地域、学区ごとに大きな裁量を与え、連邦政府による介

入を拒否する立場を取る。その結果、人種や地域ごとに格差が生じたとしても自由な自治

を重んじる姿勢をみせるのが保守である。それに対し、リベラル側は、ある程度自由が

制限されたとしても社会的な少数派の権利などを支援する立場を取る。よって、マイノ

リティである黒人やヒスパニック系の子どもに対してアファーマティブアクションを行

うなどの教育格差を是正することに意欲的な傾向などが見られる。他には、富裕層がよ

り住みやすく、治安の良い地域を作ろうと自分たちで新たな自治を設立しようとする動

きがジョージア州などで起きている(クローズアップ現代, 2014)。富裕層だけが住む

自治であれば税金は再分配されず、自分たちのために使えるという思惑が富裕層にはあ

る。それが実現すれば、地域ごとの税金で賄われている公教育もより質の高いものが期

待できるため彼らにとっては自分たちの富で自分たちの生活をより豊かにすることがで

きるというメリットがある。しかし、それによって地域間の格差がより拡大してしまう

という大きな問題がある。このような状態を擁護するのが政府などの介入を嫌い、自由

を重視する保守である。そしてそのような富裕層たちの発想を自分勝手でより大きな格

差を生むことにつながるため反対するのが一般的なリベラルの見解である。

保守とリベラルには教育においての理想像が異なる。Darder(2012)は教育に対する

二者の価値観の違いを以下のように述べている。

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保守とリベラルはどちらも教育は自由で、個人的で、現存の社会に適応する目的で行わ

れるものだという立場をとっている。つまり、どちらもアメリカの自由な社会に適応す

る人材を育成することを教育の目的としている。しかし、両者が理想とする「自由なア

メリカ」が異なるため、それに伴い、理想とする教育に差異がある。

Darder(2012)によると、保守は大部分に関して現存の社会システムに満足している。

そのため彼らは能力主義や自由競争に伴って格差が社会の中で生まれてしまうのはある

意味当然であると確信しており、それを積極的に是正するべきだという考えは持たない。

よって、彼らはマイノリティなどの格差を是正しようと試みる教育政策などが失敗に終

わるたび、批判する傾向がある。それに対しリベラルは社会に存在する不平等や社会的

排除を認識し、それに対して一定の問題意識を持っている。しかし、現在の資本主義に対

しては保守と同様に最善の在り方だと思っており、資本主義を維持したままそのシステ

ムによって漏れてしまったものを教育プログラムや政策などで補足する立場を取る。

1963 年にアフリカ系アメリカ人の権利を保障する公民権法が制定されたことによって、

それまで法律によって正当化された不平等が一夜にしてアメリカの社会的大問題に変化

した。それ以降アフリカ系アメリカ人も白人と同等の権利を得てアメリカ国民の一員と

なったため、それまで資本主義と自由市場経済でうまく回っていたように見えた社会に

突然歪みが可視化された。一連の公民権運動によりそれまで虐げられていた側にも平等

のチャンスが与えられたものの、それまで様々な特権を得ていた白人のアメリカ人と比

べスタート地点に大きな差があった。そのため自由競争に組み込まれたほとんどのアフ

リカ系アメリカ人やその他のマイノリティは自力では這い上がることができず、より一

層守られない弱者となった。その格差を問題視し、何かしらの施策や方法でその格差を

是正しようと試みたのがリベラル側であった。そして何かと是正を行う経済的、教育的

政策に対して反対し、一貫して自由と政府の不介入を主張した保守で別れた。

当選した大統領の政党によってその都度政策の方向性は変わったが、以上のことを踏ま

えると両方の納得する教育政策を議会で通し、実行するプロセスに至ることは至難の技

だということが想像できる。そのような状況の中 SEM がカリフォルニア州で話題になっ

た。カリフォルニア州は政治選挙では民主党の候補者が当選することが多いことから一

般的にリベラル派が多いという印象を受ける。現在も州議会の 53席中 46席(約 87%)

とカリフォルニア州を代表する上議員の 2 人は民主党である(govtrack より)。つまり、

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Traditional American pedagogy generally has been divided into two per-spectives: conservative and liberal. Both of these views essentially uphold the notion that the object of education is the free, enterprising, independent individual, and that students should be educated in order to adapt to the existing configurations of power that make up the dominant society.

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数字で見た場合でもカリフォルニア州ではリベラル派が強い。しかし、保守派がいない

わけではない。

図 3 カリフォルニア州の立場と位置関係 

(出所)McGhee et al,(2012)

図のように、カリフォルニア州の全土がリベラル派によって支配されているとは言い

難い。リベラルは海岸側に集まっており、東にいくにつれ保守が大部分を占めている。

McGhee et al.(2012)によるとカリフォルニア州の住民はより良い行政サービスを受

けるためであれば税金を今より高い金額を払ってもいいという意見(48%)と、より少

ないサービスでいいから払う税金の金額を減らしてほしいという意見(43%)に分かれ

る。また、白人とアフリカ系アメリカ人の 48%が移民は州の負担になると考える・

 これまで見てきたように全米の中で最もリベラル寄りだと思われている州の1つであ

るカリフォルニア州でさえも保守の意見も無視できない影響力がある。政策を考える上

では保守とリベラルでかなりの僅差で意見が割れるため、むやみに社会的弱者を救済す

る政策を出しては保守的な考えを持つ側から強い反対を受ける。しかし、白人とアフリ

カ系アメリカ人、ヒスパニック、その他の間では広がる格差を問題視する人たちもいる。

州や自治体としては両立場が納得してくれる折衷案が必要だった。そしてそこにタイミ

ングよく現れたのが SEM だった。

 人によって色々な解釈や捉え方ができることが SEM の「魔法」なのである。SEM は社

会的弱者だけに行う教育政策ではないため保守にとっては納得のいくものであった。何

故ならば、子ども全員の SE をあげ、それによって保守が最も大切にしている能力主義で

自由競争が行われるシステムが保たれるからだ。弱者だけが恩恵を受けるアファーマ

ティブアクションとは違い、全員が平等に恩恵を受けられる優れた政策だと感じたこと

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だろう。また、社会的格差や弱者への支援不足を問題視するリベラル側にとっても SEMは積極的に取り入れたい政策だった。なぜならば、1986 年に発足された State Task Force to Promote Self-Esteem and Personal and Social Responsibility の調査・研

究から SE を高めることは子どもたちの自信につながるだけではなく、様々な社会問題を

解決してくれるという結果が出ていたからだ。例えば学力の格差、非行行動、若者の妊娠

などを減少させるという効果が SE を高めることによって得られると考えられていた。そ

のため、リベラルの立場からはそれまで恵まれない環境などが理由で問題児と評されて

いた子どもたちへの有効な救済策と期待したのである。どちらの立場や守りたい価値観

を侵すことなく尊重できるように見えた理由こそが SEM が推し進められた理由の1つで

もあるだろう。

 

第2項 新自由主義の影響

 また、SEM が盛り上がった 1980 年代〜2000 年代前半は同時に新自由主義(=

neoliberalism)の台頭が見られその影響でより一層 SEM に火がついたという見方があ

る。新自由主義は「人間にとって『自由』がもっとも大切だから、他人に迷惑をかけなけ

れば何をしても『自由』にすべき」という考えに基づいて、規制緩和や減税、関税の撤廃

などを求める(t-news, 2017)。つまり、アメリカの保守をより極端にした考え方で、

個人主義を主張する思想である。

新自由主義は公共事業や雇用政策を進めるニューディール政策の後に 1970 年代に経済

が停滞したという出来事の反動で形成された。この考えの立場では「政府の関与する規模

が大きくなったことで非効率化が進み、多くの規制や税の負担が自由な経済活動を妨げ

た」という考えをとり、より一層の自由と個人主義化を推し進めようと試みた。その考

えを取り入れ、大幅な減税と規制緩和を行い、市場の自由競争を促した「レーガノミク

ス」などが導入された。これはアメリカに限った思想ではなく、イギリスや日本でも広

まった。

それに伴い、当然「持つ者」と「持たざる者」での格差が生まれた。その救済をしよ

うとオバマ政権が「オバマ・ケア」と呼ばれる医療保険システムなどの導入を提言した

が、政府の大きな関与を拒む側による猛反発を受けた。結局導入はされたものの、いま

だに批判の対象であり、継続される政策かどうかの決着がついていない。

このように、保守をより極端にした思想をまとめた状態の新自由主義は確実に政策決定

に大きな影響力を持っている。断固として個人主義を主張する立場としては保守と同様、

格差是正のために「持つ者」から富を回収し、「持たざる者」にその富を再分配する政策

などは受け入れられない。よって、アメリカの所得格差が大きい都市圏のトップ 13都市の中に 3都市圏がランクインしているカリフォルニア州(Forbes Japan, 2018)ではい

くらリベラルが多数だとしても、その再分配を快く思わない者も多いだろう。

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 よって、保守を考慮するときと同様に政策を進める上では新自由主義を主張する者たち

の意見を慮る必要があったのである。そして SEM はその主張を阻害したり、否定したり

することのない政策だったため、政策を考える側も SEM を利用しようと考えたのではな

いかと想定できる。それどころか、SEM はより一層個人主義化、新自由主義化を加速し

たという見方もある(Bergeron, 2018)。なぜならば、SE が非行や学力の格差などを

改善することが期待できるということであれば、教育は SE を高める努力さえ行えばそれ

以降の積極的な介入はしなくてもいいからである。仮に埋まらない格差があったとして

も、それは個人の責任とするという解釈ができる。よって、新自由主義としては最低限

の介入で済ませることができ、アファーマティブアクションなどと比べて賛同しやすい。

 このように、政策決定を行うにあたって思想は大きな影響力を与える。特にアメリカ

は強い思いや意思があって建国された国だったため、政策を立案する側は、新たな取り

組みに対して市民の賛成を得るためにとりわけそれぞれの立場や思想を考慮しなければ

ならない。また、市民側もある決め事が行われるときは自分たちの根本的な価値観に立

ち返って物事の是非を考える。よって、上記で述べたように全ての価値観に反すること

のない政策に至るのは大変困難である。しかし、SEM はそれぞれの利害に反することな

く多くの人が合意できる運動だったため、幅広い支持を得られたのだと考えられる。

表 1 思想や立場の整理・まとめ

重視する価値観 教育の目的 教育での理想状態

保守 ・自由な市場競争

・自治や州の裁量権

(=政府の不介入)

・自由かつ個人的

で、アメリカの社会

に適応できる人材の

育成

・能力主義、実力主義

・自由競争(アファー

マティブには否定的)

リベラル ・政府による一定の介

入を是とする

・社会的な少数派の権

利・支援を是とする

・少数派や社会的弱者

にある程度の配慮をす

る(アファーマティブ

には一定の評価)

新自由主義 ・個人主義

・完全なる自由な市場

競争

― ―

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第3節 理由③ 政策的費用対効果が高い SEM

 当時のアメリカで SEM が広がったと考えられる最後の理由は、SEM は子どもたちに

SE を高めるだけではなく、同時に様々な社会的課題を一気に解決してくれると多くの

人々が期待したことに起因する。この研究結果は多くの都市や地区、学校側としては朗報

だった。その研究結果によって、SE の向上に努めれば、自ずと他の問題も解決するとい

うことを示したからだ。つまり、SEM はとても費用対効果の高い政策だと思われたので

あった。

 ではなぜカリフォルニア州の都市や地区、学校は費用対効果の高い教育政策を欲してい

たのだろうか。単純にその方が財政的に好ましいからという理由だけではなく、当時は

そうせざるおえない状況だったという見方の方ができる。SEM が盛り上がった 1980 年

代は貿易収支と財政の赤字の両方に見舞われ、アメリカ全体が様々な危機に直面していた

ため、その危機に対応しようと多様な分野で見直しが行われたのである。教育も見直し

の対象となり、その中でも公教育の質の低さ・水準低下がアメリカ経済の優位性を脅かし

ているという認識に至った(上村, 2003)。そのため、新自由主義の影響を受け公教育

にも競争原理を取り入れようという試みが行われ、チャータースクールが導入されたり、

学力テストの結果で学校を管理・評価する NCLB法(=No Child Left Behind法)が導

入されたりしたのである。

 カリフォルニア州では、1968 年から学校ごとの予算はその学校が所属する地域の固定

資産税でまかなう決まりになった。そのため、その地域に住んでいる人の人数やその土

地の価格によって各公立学校が得られる予算に大きな格差が生まれるようになった。当

然地価などが高い地域とそうでない地域によって予算が異なり、地域によっては生徒ひ

とりにつき年間数千ドルしか割当てることができない状況もあった(Trei, 2004)。つ

まり地価が高く、富裕層が集まる地域では潤沢な予算がある一方で、地価が安く、貧困層

が集まる地域では運営することで手一杯な学区が出てくるように、その地域の財力が直

接公教育の質に現れるようになった。これよって、学区だけで潤沢な予算が得られて連

邦政府などの補助金が必要ない地域では自分たちの資金で自由に教育を行うことができ

る。しかし、十分な予算を確保できない地域や学区などは連邦による補助金・交付金が主

な予算財源となってしまうため、連邦などが教育に寄せる期待と関心に応えなければな

らないという圧力が重くのしかかる。

 すでに述べたとおり、経済危機などに直面した連邦政府は当時、公教育の見直しを行っ

た。見直しの結果、連邦政府は新自由主義の流れを受けて公教育にも競争原理やアカウン

タビリティーを求めるようになり、その評価によって補助金・交付金が分配されるよう

になった(文部科学省, 2007)。もともと自力での財源確保が困難だった学区は予算確

保のために連邦政府が求めるより高い水準の学力などを達成しなければならなくなった。

しかし、それらの学区は生徒の学力向上に必要な上質な設備、優秀な教員、安心して勉強

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に集中できる環境を整える予算は調達できない。よって、そのような学区は引き続き州

や連邦政府からの補助金・交付金を受け取るために、少ない予算で優れた結果が期待でき

る費用対効果の高い教育プログラムが必要だったのである。

 そしてその状況の中、Vasconcellos によって発足された特別委員会の研究から、SEが高い子どもは高い学力水準に達していたり、非行や在学中の望まない妊娠をしなかっ

たりする傾向があると発表された。つまり極論、子どもたちの SE を上げることに注力を

すれば自ずと他の課題や問題も解決するという解釈もできる結果が発表された。これを

受け、その結果を冷静に、かつ批判的に考え直す前に多くの学区や学校は SE プログラム

に飛びついたのではないかと想像できる。このことから、Stout (2001)は SEM の影響を

もっとも受けたのはその運動によって一番恩恵を受けるはずだった落ちこぼれのマイノ

リティたちであったと述べている。

 教育政策や教育プログラムを提案や立案、実行する側として SEM は低予算で大きな教

育的利益を生む費用対効果の高いものだと考えられた。このような理由から大衆だけで

はなく、学校や各地域を運営する側としても SEM は魅力的な運動に映った。教育を受け

る側と提供する側両方が納得できるプログラムが重なったということも SEM が大きく前

進した理由の1つだろう。

以上を踏まえて、大きく3つの理由からアメリカカリフォルニア州で SEM が広がったと

考えられる。このように様々な要因が重なり、お互いの利害の侵害をしなかったという

共通点がある。それどころか大きな分断の理由となっていた格差や貧困、差別などの問

題から目を背けて全員に平等に SE を高めようという方向性はその分断を一時的に隠すこ

とができたのである。

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【夏課題を書き終えて】

最後まで夏課題を呼んでくださり、ありがとうございました。

字数が少ないことは認識して、反省しております。どのような方向で最終的に論を収集

させようかに時間がかかってしまい、このような結果になってしまいました。

以下が夏課題の大まかな反省点です。

・前回指摘していただいた、「SE の定義」のところをどう収集するかが中途半端な状態

で夏課題を終えてしまいました。

→全体像がもう少し具体的に定まった後、結論につながるように改めて定義の整理を行い

ます。

・SEM が浸透した3つ目の理由を裏付ける数値やデータが少なく、雑。

→今後どのくらいの予算が連邦政府から配布されたのか、どのような条件付きだったのか

などを整理し、追記したいと思います。

今後の展望

なぜ SEM がカリフォルニア州で広まったのかと考えられる3つの理由をもとに、日本に

引き付けた方向性で帰着をさせたいと考えています。近年日本でも「自尊感情」「自己肯

定感」に着目する傾向が見られるが、それはアメリカでの SEM が起きた理由と重なる部

分があるのかというところを見ていきたいと考えています。そしてその点からなぜ日本

が「自尊感情」「自己肯定感」に注目する流れが起きているのかを自分なりにまとめ本論

をまとめることを現時点で想定しています。

最後に

読んでいて腑に落ちなかった点、今後の展望についての意見、その他なんでも気になっ

たところがあればコメントしてくれると幸いです。よろしくお願いします!

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