· web...

30
平平 30 平平平平平平平平平平平平平平平平 平平平平平平平平平平平平 ~~ 平平平平平平平平平平 平平 平平 平平 31 平 2019 平 )3 平平平平·····························································1 平 平 平平平平平平平平平平平平平平平平平 ·············································2 (1)··························································2 目目 ·····················································2 目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目·······························5 (2)··························································6

Upload: others

Post on 01-Aug-2021

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

平成30年度市町村課研修生卒業研究報告書

高齢層職員の活用について~地方公務員の定年引上げに向けて~

市町村課行政グループ   刀根 竜平

平成31年(2019年)3月

目  次

はじめに··············································································································1第1章 公務員の高齢層職員活用に係る現状等·························································2(1)国家公務員の定年の引上げ········································································2

① 意見の申出の具体的措置の内容····························································2② 国家公務員の定年の引上げに係る実施スケジュール·······························5

(2)地方公務員の再任用制度の現状··································································6① 地方公務員における再任用制度····························································6② 地方公務員における定年·····································································8

(3)高齢層職員の活用の意義···········································································9第2章 高齢層職員の活用における課題································································11

Page 2:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

(1)モチベーションの維持・向上···································································12(2)心身の変化····························································································12(3)知識や経験が活かせる場の提供································································14

第3章 高齢層職員の活用に関する課題解決に向けて·············································15(1)モチベーションの維持・向上···································································15

① 活躍推進に向けた方針の策定と周知···················································15② 早期のキャリア研修·········································································16③ 人事評価に基づく人事管理の徹底······················································18④ マネジメントを行う上司に対する支援················································18⑤ 職名の創設······················································································19⑥ 社内資格制度の導入·········································································19

(2)心身の変化····························································································20① 職場環境の改善················································································20② 健康・体力維持の取組み···································································22③ 多様な勤務形態の導入······································································23

(3)知識や経験が活かせる場の提供································································24① 活かせる業務···················································································24② 活用の場のマッチング······································································26

おわりに············································································································27参考文献············································································································28

Page 3:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

はじめに

公的年金の支給開始年齢が、2013年度以降、65歳へ段階的に引き上げられていることに伴い、雇用と年金の接続が公民共通の課題となっている。既に民間企業では、「高

年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和 46年法律第 68号)」によって 65歳までの雇用確保措置が義務付けられている。一方、人事院は、2018年8月 10日、国会及び内閣に対し、国家公務員の定年を段階的に 65歳に引き上げることが適当とする意見の申出を行った。それを受け、国においても定年の引上げの検討が進められおり、近い将

来、この意見の申出に沿って、国家公務員と地方公務員の定年が引き上げられる見込み

である。

これまで、公務においては、定年退職した希望者に対して再任用を行うことで、雇用

と年金の接続を図ってきたが、現状では、再任用職員の能力や経験を十分に活かしきれ

ていないという現状がある。

また、定年そのものが引き上げられることになるが、地方公共団体においては、財政

状況を鑑みると、定年引上げに伴う職員定員の増加を図ることは非常に難しく、若手職

員の採用を抑制している状態にあることから、今後、高齢層職員が大幅に増加すると想

定される。これらを踏まえ、今まで以上に高齢層職員が意欲を持ち、これまで培ってき

た知識や経験を存分に発揮できるような環境を整備するとともに、公務能率の向上を

図っていく必要がある。

このような現状を踏まえ、本稿は以下のような狙いと構成で整理・論考するものであ

る。

≪本稿の狙い≫

本稿では、高齢層職員の能力や経験を十分に活かすための方策と事例を提示すること

で、今後、想定される地方公務員の定年の引上げに向けた準備を、地方公共団体の人事

担当課に促すことを狙いとする。

≪本稿の構成≫

第 1章ではまず、地方公務員の高齢層職員活用に係る現状について確認する。次に、

第 2章では高齢層職員の活用における課題について整理し、第3章では高齢層職員の活

用に関する課題解決に向けて、活用策の提言と取組みを行っている民間企業等の事例を

紹介する。

なお、文中における意見部分については、筆者の私見であることを予めお断りしてお

く。

1

Page 4:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

2

Page 5:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

第1章 公務員の高齢層職員活用に係る現状等

本稿では、60歳を超える職員を高齢層職員と位置づける。その中で本章では、(1)

で国家公務員の定年の引上げに関する具体的措置の内容や、想定される実施スケジュー

ルを説明し、(2)で地方公務員における高齢層職員の活用に係る現状と、活用の意義

を説明する。

(1)国家公務員の定年の引上げ2018年8月 10日、人事院は、高齢層職員の能力と経験を本格的に活用することを目

的として、国会及び内閣に対し、国家公務員の定年を段階的に 65歳に引き上げることが適当とする意見の申出(以下、「意見の申出」と言う。)を行った。それを受け、国

においても定年の引上げの検討が進められており、近い将来、意見の申出に沿って、国

家公務員の定年が引き上げられる見込みである。

地方公務員の高齢層職員について述べる上で、まずこの意見の申出の内容について紹

介したい。それは、地方公務員における定年は国を基準として定められる(詳しくは本

章の(2)で後述する。)とともに、定年が引き上げられた際に高齢層職員に適用され

る給与や勤務条件も、国等を考慮して定められる1ためである。特に、中立・第三者的な

立場である人事委員会を設置していない市町村2が、独自に国と異なる給与や勤務条件を

設定すれば、相当の説明責任が求められることになる。

したがって、下記の内容は国家公務員の定年の引上げに関するものではあるが、地方

公共団体もその内容に準じて、適切な処置を講じる必要がある。

① 意見の申出の具体的措置の内容意見の申出の中で記載のある定年の引上げに関する具体的措置の内容のうち、特に重

要と思われる項目の要点を以下に示す。

1.定年制度の見直し

定年を段階的に 65 歳に引き上げる べく、一定の準備期間を確保し、速やかに定年

の引上げを開始することが適当であると考えられている。

1 地方公務員法第 14 条第1項の「情勢適用の原則」と第 24 条第2項及び第4項の「均衡の原則」による。2 地方公務員法第7条では、人口 15 万未満の市町村は人事委員会を設置することが出来ない旨の規定になっている。本稿執筆現在で、府内の政令市以外の市町村で人事委員会を設置している市町村はない。

3

Page 6:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

また、定年の段階的な引上げを実施している期間中は、暫定的な措置として、現行

の再任用制度は存置されることとなる。

加えて、定年引上げの諸制度を円滑に実施するため、60歳以降の働き方等について、

あらかじめ人事当局が職員の意向を聴取する仕組みが設けられることとなる。

2.役職定年制の導入(【図表1】を参照)

組織の新陳代謝を確保し、その活力を維持することを目的として、「当分の間」、

管理監督職員を対象とした役職定年制が導入される。役職定年は、現行制度の下での

定年が 60歳となっていることを踏まえ、原則として 60歳となる。役職定年とは、管理監督職員が 60歳に達すると、その次の 4月 1日までにライン

職の下位の職やスタッフ職に任用換されるという制度である。

なお、公務の運営に著しい支障が生じる場合は、例外的に引き続きその職務に従事

させることができることとなる。

【図表1】役職定年のイメージ

スタッフ職

課長補佐等

非管理監督職員

(出典:人事院(2018)「定年を段階的に 65歳に引き上げるための国家公務員法等の改正

についての意見の申出のポイント」)

3.定年前再任用短時間勤務制の導入(【図表2】を参照)

60歳以降の職員について、多様な働き方を可能とすることへのニーズが高まると考

えられることから、職員の希望に基づき、短時間勤務の職務に従事させることができ

る定年前再任用短時間勤務制が導入される。

【図表2】定年前再任用短時間勤務制のイメージ

4

Page 7:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

(出典:人事院(2018)「定年を段階的に 65歳に引き上げるための国家公務員法等の改正

についての意見の申出のポイント」)

4.60歳を超える職員の給与(【図表3】を参照)

60 歳を超える職員の年間給与は、 60 歳前の7割の水準に設定することが適当であ ると考えられている。

なお、役職定年により任用換された職員の年間給与水準は、俸給の特別調整額(管

理職手当)が支給されなくなることなどにより、任用換前の5割から6割程度となる

場合がある。

60歳を超える職員の給与の引下げは、当分の間の措置として、民間の動向等も踏ま

え、引き続き検討されることとなる。

【図表3】定年引上げ後の給与カーブのイメージ

(出典:人事院(2018)「定年を段階的に 65歳に引き上げるための国家公務員法等の改正

についての意見の申出のポイント」)

5

Page 8:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

② 国家公務員の定年の引上げに係る実施スケジュール意見の申出には、実施についての明確な時期は示されていない。また、どのように段

階的に引き上げられるのかについても具体的な内容は記載されていない。一方で、

2019年中の国会に定年引上げに係る国家公務員法の改正案が提出され、2021年から 3年ごとに1歳ずつ定年年齢を引き上げるとの報道も出ている 3。以上を踏まえ、想定され

る定年引上げの実施スケジュールを【図表4】に示す。あくまでもひとつの可能性とし

て参考にしていただき、国の動向を注視しながら、定年の引上げに関する準備を進めて

いただきたい。

【図表4】定年引上げの実施スケジュール2020 2021 2022 2023 2024 2025 2026 2027 2028 2029 2030 2031 2032 2033 2034

定年年齢

60 61 62 63 64 65

60 61 62 63 64 65

60 61 62 63 64 65

60 62 63 64 65

60 62 63 64 65

60 63 64 65

60 63 64 65

60 64 65

60 64 65

60 65

:定年となる年度

60: 歳になる年度

:再任用となる年度

1969(S44).4.2~1970(S45).4.1

1968(S43).4.2~1969(S44).4.1

1967(S42).4.2~1968(S43).4.1

1966(S41).4.2~1967(S42).4.1

生年月日

1960(S35).4.2~1961(S36).4.1

1961(S36).4.2~1962(S37).4.1

1962(S37).4.2~1963(S38).4.1

1963(S38).4.2~1964(S39).4.1

1964(S39).4.2~1965(S40).4.1

1965(S40).4.2~1966(S41).4.1

64 65

年度

年金支給開始年齢

60 61

6563 64

62 63

※2021年から 3年ごとに 1歳ずつ定年年齢を引き上げると想定した場合

3 産経新聞電子版 2017.12.30、日本経済新聞電子版 2018.8.10 等

6

Page 9:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

(2)地方公務員の再任用制度の現状地方公務員の雇用と年金の接続は、国家公務員と同様に 60歳定年制のもと定年退職者で希望する者を再任用することによって実施されている。本節では、地方公務員の再任

用制度と定年について説明する。

① 地方公務員における再任用制度地方公務員の雇用と年金の接続については、地方公務員法第 28 条の4(定年退職者等

の再任用)及び第 28 条の5等の規定を根拠に、各地方公共団体が条例を制定し、再任用

制度を導入する形で実施されている。

1.再任用制度の導入の経緯

地方公務員の再任用制度については、公的年金の定額部分(老齢基礎年金相当部

分)の支給開始年齢が 60歳から 65歳へと段階的に引き上げられるのにあわせ、すでに、2001年度より、各地方公共団体において一定程度導入されてきたところである。

2013年度以降、公的年金の報酬比例部分の支給開始年齢が段階的に 60歳から 65歳へと引き上げられることに伴い、無収入期間が発生することとなった。そのため、

定年退職する職員が公的年金の支給開始年齢に達するまでの間、希望する職員につい

ては再任用することで、国家公務員の雇用と年金を確実に接続することとする旨の閣

議決定が、2013年3月 26日に行われた。これを踏まえ、総務副大臣通知「地方公務員の雇用と年金の接続について」が、

2013年3月 29日付で発出された。そこでは、雇用と年金の接続について、現行の地

方公務員法に基づく再任用制度を活用するものとしている。そして、定年退職する職

員が再任用を希望する場合、年金支給開始年齢に達するまで、当該職員をフルタイム

で再任用(地方公務員法第 28 条の4)するものとし、職員の年齢別構成の適正化を図

る観点からフルタイム再任用が困難であると認められる場合、又は当該職員の個別の

事情を踏まえて必要があると認められる場合には、短時間での再任用(地方公務員法

第 28 条の5)をすることなどを可能としている。

7

Page 10:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

2.府内市町村の再任用制度の実施状況

府内市町村における再任用の実施状況を見ると、全市町村が再任用制度の導入に係

る条例を制定し、同制度を導入している。しかし、厳しい定員事情等もあり、勤務形

態を見ると、府内市町村(政令市除く)の全再任用職員のうち 67%が短時間勤務職員

であり(【図表5】を参照)、一般行政職として再任用された職員の職位は、そのほ

とんどが係長級より下位の職である(【図表6】を参照)。

【図表5】府内市町村(政令市除く)の再任用職員数(平成 30年 4月 1日時点)

フルタイム837人33%短時間

1674人67%

再任用職員2,511人

(出典:「平成 30年度地方公務員の再任用実施状況等調査」より作成)

【図表6】府内市町村(政令市除く)における一般行政職として再任用された職員の職位

(平成 29年度実績)

課長級以上13.5%

課長補佐級11.6%

係長級6.4%その他

68.5%

フルタイム勤務職員

課長級以上0.5%

課長補佐級0.6% 係長級

1.8%

その他97.1%

短時間勤務職員

(出典:「平成 30年度地方公務員の再任用実施状況等調査」より作成)

3.再任用制度の課題

総務省が、都道府県と政令指定都市を対象にして、2016年に行った調査では、再

任用職員の活躍に向けた課題について、8割を超える団体が「現時点で課題あり」と

答えている。そのうち、7 割を超える団体が「モチベーションの維持・向上が困難」

8

Page 11:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

を課題として挙げ、約4割の団体で「今までの職務経験が活かせない部署に配属され

るなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチ

が存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

現状の再任用は、定年前よりも職責が軽い下位の職に短時間勤務で再任用される職

員が多く、補助的な業務を担当する傾向にあり、その能力及び経験を十分活かしきれ

ていない。このことから、公務の能率的運営を確保するためというよりも、むしろ職

員個人の生活を保障するための任用になっていると言え、再任用職員のモチベーショ

ンの維持と向上が課題になっている。また、人事院の意見の申出にも指摘があるが、

高齢層職員から若年・中堅層職員への技能・ノウハウの継承も課題となっている。こ

のような現状を踏まえ、再任用職員の占める割合が高まる中、生じている課題に対応

しなければ、職員の士気の低下等により、公務能率が低下していくことが懸念される。

【図表 7】再任用職員の活躍に向けた課題

(出典:総務省(2016)「多様な職員の活躍・人材育成に関する調査結果(概要)」

『第3回地方公共団体における多様な人材の活躍と働き方改革に関する研究会』資

料2)

② 地方公務員における定年地方公務員における定年は、地方公務員法第 28 条の2に「国の職員につき定められ

ている定年を基準として条例で定めるもの」と規定されている。この規定は、合理的理

由がない限り、国家公務員と同一の定年を条例で定めなければならないことを意味して

いる4。すなわち、国家公務員法が定年を段階的に 65 歳に引き上げる旨の改正がされた

4 橋本勇(2016)『新版逐条地方公務員法<第4次改定版>』(学陽書房)p.599

9

Page 12:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

場合、よほどのことがない限り、各地方公共団体の条例も同様の内容に改正しなければ

ならない。

10

Page 13:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

(3)高齢層職員の活用の意義定年を引き上げる年度においては定年退職者が生じないため、定員が一定であれば、

新規採用者を大幅に抑制することになり、高齢層職員の割合は大幅に増加することにな

る。意見の申出では、「定年の引上げ期間中も真に必要な規模の新規採用を計画的に継

続していくことができるような措置を適切に講ずる。」とあるが、具体的な措置は明ら

かではない。

ここで、今後どの程度、高齢層職員が占める割合が増加していくのか確認してみる。

2018年4月1日現在における府内市町村(政令市除く)の全職員数(A)は 39,428人、高齢層職員数(B)は 917人となっており、高齢層職員の占める割合は 2.3%となっている(【図表8】を参照)。

次に、60歳から 65歳へ定年の引上げが行われた際の高齢層職員の比率を簡単に概算

してみたい。前提条件として、①全体の職員数を一定とし、かつ②定年が引き上げられ

る5か年の定年退職者数を一定と仮定すると、【図表9】のとおり、65 歳定年における 高齢層職員数( C )は 4,855 人となり、高齢省職員の占める割合は 12.3% となり、定年

が 65 歳に引き上げられると、高齢層職員の数が約 5.3 倍になる。

【図表8】府内市町村(政令市除く)の高齢層職員比率

職員数

(A)高齢層職員数

(B)割合

(B/A*100)

全職種 39,428人 917人 2.3%

(出典:「平成 30年度給与実態調査」より作成)

【図表9】65歳定年における府内市町村(政令市除く)の高齢層職員比率(概算)

職員数

(A)

65歳定年での高齢層職員数

(C)

割合

(C/A*100)

全職種 39,428人 4,855人 12.3%

※(C):定年退職者が、60~65歳までの間、退職せずに在職すると仮定した場合の数

(2017年度末の定年退職者数(971人)×5年)

地方公共団体では、財政的に厳しい状況が続く中、適正な定員管理に取り組んでおり、

11

Page 14:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

簡単に定員を増加させ、新規に職員を採用することは非常に難しいと考えられる。した

がって、定年が引き上げられると、全職員のうち高齢層職員の占める比率は、間違いな

く大幅に上昇することが想定される。また、少子高齢化に伴い労働人口自体も高齢化が

進んでおり、今後、公務員全体として高齢化が進むことも考えられる。そのため、高齢

層職員の労働意欲の向上が図られなければ、公務能率の低下等行政運営に及ぼす影響は

非常に大きいものとなる。地方公共団体は、人事管理について、 60 歳定年を前提とした

ものから、定年引上げを前提としたものに改め、高齢層職員の労働意欲を高めることで 、

高齢層職員を戦力化していくことが求められている。

12

Page 15:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

第2章 高齢層職員の活用における課題

意見の申出のとおり定年が引き上げられると、高齢層職員を活用する際に、どのよう

なことが課題となるのか。意見の申出によると、60歳を起点として、キャリアの面で

は「役職定年制による降任」となり、処遇の面では「給与が 3 割減」となる。「役割が

変化し、処遇も低くなる」という意味では、現在の再任用制度と本質的には変わらない。

第1章(2)①でも述べたが、総務省の調査では、再任用職員の活躍に向けた課題の

トップ3が①「モチベーションの維持・向上が困難」、②「今までの職務経験が活かせ

ない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」、③「勤務条件等について、受け入

れ側とのミスマッチが存在」であった。対して、民間企業の人事担当者が挙げる 60歳代前半層の活用課題のトップ3は①「本人のモチベーションの維持・向上」、②「本人

の健康」、③「担当する仕事の確保」である5(【図表 10】を参照)。この2つの調査

を見比べても、高齢層職員の活用における課題は、「再任用制度」でも「意見の申出の

定年引上げ」でも、本質的には変わらないと考えられる。

そこで、本章では、高齢層職員が安心してより能力を発揮するためには、高齢層職員

の(1)モチベーションの維持・向上を行い、加齢に伴う(2)心身の変化をフォロー

し、(3)知識や経験が活かせる場の提供ができるか、という3つの点が課題となると

捉え、それらの課題について説明していきたい。

【図表 10】民間企業における 60歳代前半層の社員の活用にあたっての課題

(出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構(2015)『高齢者の人事管理と人材活用の現状と

5 『高齢者の人事管理と人材活用の現状と課題―70 歳雇用時代における一貫した人事管理のあり方研究委員会報告書』(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構, 2015)の民間企業向けアンケート調査(N=4203)によるもの。

13

Page 16:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

課題―70 歳雇用時代における一貫した人事管理のあり方研究委員会報告書―』)

(1)モチベーションの維持・向上意見の申出には、定年が引き上げられるとモチベーション向上につながるとある。確

かに再任用時と違い、毎年昇給する6ため、再任用と比べるとモチベーションの向上につ

ながると考えられる。しかし、人事院の意見の申出によると、60歳を起点として、

キャリアの面では「役職定年制による降任」となり、処遇の面では「給与が 3 割減」と

なる。

管理監督職員は、「役職定年制」により、60歳を境に、今までのマネジメント業務と

は異なり、一担当者として業務をすることになり、キャリアの転換が必要となる。事実、

「役職定年制」により降任した経験がある民間企業の従業員を対象にしたアンケート調

査7によると、降任後の仕事に対する意欲が「下がった」が 59.2%、「変わらない」が34.4%、「上がった」が 5.4%であり、約6割近い経験者において、仕事に対する意欲

が下がっていることがわかった。

また、非管理監督職員でも、今までと同様の職務・職責であっても、60歳を境に「給料が 3 割減」になるため、仕事に対するモチベーションの低下は避けられない。

モチベーション低下の要因は、新たな役割に適応できないことや、新たな処遇に満足

できないことだけではない。長年、「60歳で終わり」という認識を持っていたために、

なかなか意識が切り替わらないことや、体力面の衰えや家庭環境の変化等、様々な要因

が考えられる。

(2)心身の変化高齢者にとって心身機能の低下は、個人差があるものの若年層と比べて確実に低下す

ることがわかっている(【図表 11】を参照)。特に、視力、聴力及び平衡機能等、知

覚・感覚に関する項目において機能の低下が著しいことが特徴である。具体的には、近

くのものが見えにくくなる(老眼)、明るすぎるとよりまぶしさを感じる、明るさや暗

さへの慣れが遅くなる、雑音や音声の聞き分けが難しくなる、転倒しやすくなるなど、

業務上の作業を行う様々な場面で問題が生じる。

6 55歳を超える国家公務員については、2012年の人事院勧告を受け、2013年度より、標準の勤務成績では昇給しないこととし、特に良好の場合には1号俸、極めて良好の場合には2号俸の昇給するよう抑制されている。地方公務員においても、2013年1月 28日付け総務大臣通知により、国の措置を踏まえ、必要な措置を講ずるよう要請されている。7 詳細な分析結果については『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書―(平成30 年度)』(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構,2018)

14

Page 17:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

【図表 11】加齢で低下する機能と作業上の問題

(出典:亀田高志(2019)「高齢労働者の安全と健康確保のための職場づくりとは」『エル

ダー 467号』より作成)

また、加齢による変化は、心身機能の低下ばかりではなく、健康状態にも影響がある。

定期健康診断の受診結果によると、男女ともに年齢が高くなるほど所見のある者の割合

が高くなっている(【図表 12】を参照)。特に「血圧」や「血糖」は脳・心臓疾患と

いった動脈硬化による病気の発症に影響を及ぼす。意欲の高い高齢層職員がより能力を

発揮するために、健康管理を支援する取組みが必要である。

【図表 12】定期健康診断の有所見率

19 歳以

20~24歳

25~29歳

30~34 歳

35~39歳

40~44歳

45~49歳

50~54歳

55~59歳

60~64歳

65歳以上

051015202530354045

血圧測定

男性 女性

(%)

19歳以

20~24 歳

25~29歳

30~34歳

35~39歳

40~44歳

45~49歳

50~54歳

55~59歳

60~64歳

65 歳以上

05101520253035

血糖検査

男性 女性

(%)

(出典:東京都産業保健健康診断機構連絡協議会 2018 調査)

15

Page 18:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

(3)知識や経験が活かせる場の提供3つ目の課題は「知識や経験が活かせる場の提供」である。非管理監督職員は、体

力・健康上に問題なければ、60歳を過ぎたとしてもこれまでと同じ業務でも問題なく実

施することができる。あるいは、高齢層職員の役割を明確に位置づけ、これまでと同じ

業務より、さらに高齢層職員が持つ能力を活かせる業務を担ってもらうこともできる。

ここで一番問題となるのは、管理監督職員である。管理監督職員は、60歳を過ぎると「役職定年制」により非管理監督職員になるので、これまでのようなマネジメントの仕

事ではなく、一担当として長年培ってきた知識・経験・専門性を活かせる職務を用意す

る必要がある。

高齢層職員は、育成しながら活用する若年層職員とは異なり、「いまの能力をいま活

用し、いま処遇する」8必要があり、高齢層職員がこれまで培った能力・スキルを最大限

発揮できる業務への配置を進めることが重要となる。したがって、活用する場を提供す

るためには、①どのような業務が高齢層職員の知識や経験をより活かすことができるの

か、②どのようにすればミスマッチを防げるのか、が課題になると考えられる。

8 今野浩一郎(2014)『高齢社員の人事管理―戦力化のための仕事・評価・賃金』(中央経済社)p108-109

16

Page 19:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

第3章 高齢層職員の活用に関する課題解決に向けて

第2章で、高齢層職員を活用する際の課題は大きく3つあることを確認した。本章で

は、その3つの課題をどのようにすれば解消できるのか示し、併せて参考となる民間企

業(又は地方公共団体)の取組み事例を紹介する。様々な事例が、各地方公共団体が検

討を行う際の一助となれば幸いである。

(1)モチベーションの維持・向上藤波・大木(2012)の研究によると、企業が期待する役割を伝え、高齢層職員が保有

する能力や意欲を把握する機会を持つ場合、企業による高齢層職員の活用成果は高く、

かつ高齢層職員の満足度も高まるという関係が明らかにされている 9。具体的には、研修

や面談という場を活用して、企業が高齢層職員に求める能力・期待する役割を「知らせ

る仕組み」と、高齢層職員の持っている能力や意欲を「知る仕組み」の整備である。

本節では、「知らせる仕組み」や「知る仕組み」を中心に、モチベーションの維持・

向上に資する方策を示していく。

① 活躍推進に向けた方針の策定と周知組織として、現状の再任用制度のような、高齢層職員の腰掛的な働き方を許容してし

まえば、本人の意識改革は停滞し、その後の活躍が阻害される要因となる。前述の藤

波・大木(2012)においても、技能や経験を活かして組織に貢献する役割を高齢層職員

に期待するのであれば、高齢層職員の活用方針の明確化、高齢層・現役職員への期待役

割の浸透、人事管理の変化への納得度を高める支援が必要となると示されている。

具体的な取組みとしては、全庁的な認識の共有に向け、高齢層職員の活躍推進の必要

性を人材育成基本方針等に位置づけ、全職員に周知することが挙げられる。また、他に

も、セミナーの開催、庁内Webを活用することにより、目指す方針を庁内全体に浸透さ

せる取組みが考えられる。

事例紹介 大阪府池田市の人材育成基本方針

池田市の人材育成基本方針(2015)には「再任用職員に求める人材像」として、「実

務を担い、実務の責任者(副主幹)に適切なアドバイスができる人材」と明確に位置づ

け、「在職中に培った知識や技術を後輩職員に伝え、実務の責任者である副主幹級の職

員に適切なアドバイスを送ることが求められるとともに、職務遂行にあたっては、経験

9 藤波美帆・大木栄一(2012)「企業が「60 歳代前半層に期待する役割」を「知らせる」仕組み・「能力・意欲」を「知る」仕組みと 70 歳雇用の推進-嘱託(再雇用者)社員を中心にして」『日本労働研究雑誌』No.619, p90-101.

17

Page 20:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

豊富な一般職員として、能力を発揮することが求められます。特に、市民対応やマナー

等、職員としての基本的な事項については、他の職員の模範となることが求められま

す。」と明記されている。

② 早期のキャリア研修「役職定年」による役割の変化、「給料が3割減」による処遇の変化に適応できない

者、そもそも「60歳で終わり」だと思っていた者等は、モチベーションを保ち続ける

ことが難しい。高齢層職員に戦力として働き続けてもらうためには、60歳を超える前

の早い段階からキャリア意識の改革に向けた支援を行い、将来の変化に対応できる心構

えを身に付けてもらうことが重要である。人事担当課ができる支援として考えられるの

は、節目の年齢に改めてキャリアについて考える機会を提供するキャリア研修が考えら

れる。特に、 60 歳にむけて準備を進める時期である 50 代におけるキャリア研修が重要

となる。役職定年後の役割転換に係る理解促進や、自分自身を見つめ直し、今後のキャ

リアを考える機会を提供することが大切である。

また、高齢・障害・求職者雇用支援機構が行ったキャリア研修の調査では、モチベー

ションの維持・向上が課題となる中で、キャリア研修に期待する企業は多い。また、

キャリア研修の受講者は、研修についてポジティブに捉えるとともに、研修効果があっ

たと答えている。さらに、短い時間であっても研修効果があったと答えており、小規模

企業において効果が高かったことが示されている10。したがって、これからキャリア研

修を始めようとしている地方公共団体でも積極的に実施できるであろう。

事例紹介 サントリーホールディングス株式会社(食料品製造業)のキャリア支援11

定年年齢は 65歳であり、役職定年がある。2013年に厚生労働省より、キャリア支援

企業表彰を受賞している。

入社間もない時期から、自律的なキャリア開発支援に力を入れており、専門の部署を

設けて、キャリア相談や、節目ごとにキャリア研修を行っている(【図表 13】を参照)。

年代によって、キャリア研修の具体的なプログラムは変わるが、共通するのは、自らの

キャリアについて見直すための「自己理解」、自分の周囲について知る「環境理解」、

次につなげるための「行動計画策定」の3ステップを設けている。研修終了後3か月以

内に、キャリア開発支援を担当する専門部署がキャリア面談を行っている。

10 詳しくは、高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書―(平成 30 年度)』11 浅野浩美(2018)「キャリア研修の現状と効果―9社の事例から」『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書―(平成 30年度)』p108-138を参照。

18

Page 21:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

【図表 13】サントリーにおけるキャリア・ワークショップ体系

(出典:浅野浩美(2017)「生涯現役を実現するためのキャリア開発支援 《第 4 回》」『エルダー』454号)

50 代以降は、定年まで 10年以上ある 53歳時と、60歳という節目を最も強く感じる

58歳時に、該当年齢の全社員を対象としてキャリア研修を実施している。53歳時の研

修では、1日かけて、「成長の再認識」をテーマに、自己の現状を点検するとともに、

キャリアデザインを描く。58歳時の研修では、2日かけて、これまで培った力と周囲

の期待を統合させ、シニア力やシニアとしての成長の継続を考える(【図表 14】を参

照)。

【図表 14】サントリーにおけるシニア期のキャリア・ライフサポート施策

(出典:浅野浩美(2017)「生涯現役を実現するためのキャリア開発支援 《第4回》」

『エルダー』

454号)

19

Page 22:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

③ 人事評価に基づく人事管理の徹底地方公務員の人事評価は、地方公務員法が改正されたことにより、2016年度より人事評価の実施と人事評価結果の活用が義務づけられた。しかし、現時点では、府内市町

村(政令市除く)の人事評価結果の活用は進んでいない12。人事評価結果の活用が不十分

である地方公共団体は、地方公務員法の要請に基づき、「任用、給与、分限その他の人

事管理の基礎」として人事評価結果の活用を早急に実施する必要がある。

そのうえで、高齢層職員に対しても同様に人事評価を実施する必要がある。しかし、

高齢層職員の人事評価については、昇任・昇格の機会が減少するため、若年・中堅層職

員に比べると形骸化する傾向にあり、高齢層職員の意欲向上に寄与しないおそれがある。

人事評価によって高齢層職員の意欲を向上させるためには、しっかり各期の働きを評

価し、その結果に応じて処遇(勤勉手当及び昇給)に反映するとともに、面談を通じて

フィードバックを実施することが重要である。人事評価における面談は、高齢層職員の

能力や意欲の把握、期待する役割の伝達などの「知る仕組み」・「知らせる仕組み」で

もある。また、高齢層職員の評価項目に、期待する役割に関する項目(例えば、知識や

技術の継承等)を設定することで、より高齢層職員の持つ能力を活用することが可能と

なる。

事例紹介 大阪府池田市の人事評価

池田市の人事評価は、人材育成基本方針で示された「求める人材像」と連動しており、

職種・職階別に能力評価の評価項目を設定している。再任用職員については、能力評価

の評価項目に「伝承」という項目を追加で設定している。人材育成基本方針で求められ

ている行動(在籍中に培った知識や技術を後輩職員に伝え、係長級の職員にアドバイス

をおくる。)が実行できているか、評価している。

④ マネジメントを行う上司に対する支援高齢層職員の能力や意欲を把握し、それを業務に活かすのが上司の役割であるが、上

司のマネジメント力を強化する支援も必要である。「役職定年制」等により、今後間違

いなく、「年上部下」の増加が見込まれる中で、「年上部下」のマネジメントを円滑に

するため、管理監督職員を対象に「中高齢層職員に対するマネジメントのポイント」な

ど、研修を通じて周知するといった支援等が必要である。

12 2018年(平成 30年)4月1日現在における府内市町村(政令市除く)41 団体のうち、人事評価結果を勤勉手当に反映している団体は 25 団体(61.0%)、昇給に反映している団体は、16 団体(39.0%)であった。

20

Page 23:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

⑤ 職名の創設例えば、部長級だった者が「役職定年」により課長補佐級に降任した際、今まで部下

だった者との間に職位の逆転が発生する場合がある。そのことが高齢層職員のモチベー

ションの低下につながり、周りの者の当該職員に対する気遣いにつながる。そういった

「役職定年」により降任した者の職名については、既存の職名(例えば「課長補佐」)

ではなく、専用の新たな職名を創設するのはどうであろうか。専用の職名を与えること

で、60歳前の課長補佐と区別し、また、高齢層職員に対し、自分の役割を認識してもら

うことができる。職名の創設は、費用もかからず工夫次第で、高齢層職員のモチベー

ションを高めることができる手段である。

事例紹介 特徴的な再任用職員の職名の例

現状でも再任用職員に対して専用の職名を付与している市町村は多い。再任用職員の

職名で一般的なものとしては「専門員」が挙げられる。それ以外にも、特徴的な職名を

創設している全国の市町村の例を【図表 15】に示すので、「役職定年制」により降任し

た者の職名を考える際の参考にしていただきたい。

【図表 15】特徴的な再任用職員の職名の例

市町村名 職名

北海道湧別町 専門主任

北海道厚岸町 主幹専門員

青森県十和田市 推進監

千葉県東庄町 担当参与

⑥ 社内資格制度の導入社内資格制度とは、近年、企業が自主的に行っている社内検定のことである。社内独

自の基準を設け、社内に資格制度を作り、試験等で社員の保有する技能を審査し、資格

(称号)を認定する、というものである。主に、技能の標準化、モチベーションの向上、

知識・技術の向上といった効果があるとされている。

この制度を導入し、優れた技術や技能を持つ高齢層職員に対し、資格(称号)を認定

することで、高齢層職員のモチベーションの向上や、高齢層職員から若年・中堅層職員

への技能・ノウハウの継承などの効果が期待される。認定の対象としては、専門性が高

い建設、福祉、税、IT 部門に従事する職員等が考えられる。

この制度を効果的に実施するためには、全職員に対して制度の周知徹底を図ることが

必要である。また、庁内で認定された資格を名刺や名札等に記載し、視覚的に認識でき

るようにすることで、認定を受けた職員のモチベーションの向上に寄与するとともに、

対外的な PRや信頼獲得にもつながるのではないだろうか。

21

Page 24:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

事例紹介 東京都の建設局建設技術マイスター制度

目的

建設局の職務に係る、特定の優れた技術力を局全体で共有し活用するこ

とによって、OJTを横断的に行う環境を構築し、組織として技術を効率

的かつ効果的に継承する。

認定分野1 道路 2 河川 3 公園・緑化 4 橋梁 5 測量・調査 6 構造・材料

7 地盤・防災 8 計画・調整・環境

認定要件

以下の要件を、原則としてすべて満たす技術職員

A 当該認定分野における技術に関して特に優れた見識・経験等を有す

る。

B 当該認定分野における職に原則として通算で 10 年以上携わり、かつ当該分類上の技術に関する職務経験を 5 年以上有する。等

C 後進の指導育成に熱意を持って取り組んでいる。

技術マイ

スターの

業務

① 相談への技術的助言

指導技術者は、局職員からの技術的相談について、自らの専門的知

見、経験等に照らして助言を行う。

②研修講師等

専門分野に関する研修を行うに当たり、講師等を担当して技術継承に

努める。

③暗黙知の形式知化指導技術者は、センターと協力して暗黙知の形式知化作業を行う。

(出典:田村理恵、木島郁夫(2014)「建設局建設技術マイスター制度について(平成 25年度実

績)」『土木技術支援・人材育成センター年報(平成 26年度)』p247-242より作成)

(2)心身の変化高齢層職員の心身は、加齢に伴い様々な変化が生じることを前章で確認した。本節で

は、高齢層職員が安心して能力を発揮するための、環境の整備や支援等の方策を示して

いく。

① 職場環境の改善加齢に伴う心身機能の低下によって生じる様々な業務上の問題を低減するためには、

高齢層職員の視点で職場環境を見直し、ひとつひとつ障害となる項目を改善していく取

り組みが必要となる。具体的には、バリアフリー化、設備の改善や機械化、作業姿勢の

改善、執務室内の照明、パソコン等の文字サイズ調整などの対応が必要になるだろう。

22

Page 25:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

これらの職場環境の改善については、中央労働災害防止協会が開発した職場改善ツー

ル で あ る 「 エ イ ジ ア ク シ ョ ン 100 」 ( https://www.jisha.or.jp/research/ageaction100/index.html)が参考になる。これは、高齢層職員の安全と健康確保のた

めの取組みとして、100の取組みを推奨しており、これらを盛り込んだチェックリスト

【図表 16】を活用することで職場の課題を洗い出し、職場環境の改善が図れるよう開発

されている。このツールを参考にし、今一度職場環境を見渡し、高齢層職員が働きやす

い環境を整備することで、若年・中堅層も含めた職場全体の生産性向上にも寄与するこ

とが期待される。

【図表 16】安全と健康確保のためのチェックリスト(抜粋)

優先度

1 高年齢労働者の戦力としての活用

1

2 高年齢労働者の安全衛生の総括管理

2

3

4

5

63

64

65

66

67

68

69

寒冷環境に長時間さらされないように作業計画を立てている。

寒冷環境下での作業を開始する前に、体を温めるための準備運動を行うとともに、作業時は、保温性のある防寒具(服装、手袋、帽子、靴等)を着用させている。

100 チ ェ ッ ク 項 目 ( の 「エイジアクション」) 結 果

高年齢労働者のこれまでの知識と経験を活かして、戦力として活用している。

高年齢労働者の対策も盛り込んで、安全衛生対策の基本方針の表明を行っている。

高年齢労働者の対策も盛り込んで、安全衛生対策を推進する計画を策定している。

(1)基本方針の表明

(2)高年齢労働者の安全衛生対策の推進体制の整備等

加齢に伴う身体・精神機能の低下による労働災害発生リスクに対応する観点から、高年齢労働者の安全衛生対策の検討を行っている。

5 高年齢労働者の作業環境管理

(2)聴覚環境の整備

(3)寒冷環境への対応

(1)視覚環境の整備

書面・ディスプレイ(表示画面)、掲示物等の文字の大きさや色合いは、見やすくなるように工夫している。

手元や文字が見やすくなるように、職場の明るさを確保している。

近い距離での細かい作業を避けて、見やすくなるように、作業者と作業対象物との距離を調整している。

会話を妨げる背景騒音の音量を小さくし、警報音を聞き取りやすくしている。

会話を聞き取りやすくなるように工夫するほか、聞き取りが難しい場合には、見て分かる方法(書面、回転灯、タワーランプ等)によっている。

高年齢労働者による労働災害の発生リスクがあると考える場合に、相談しやすい体制を整備し、必要に応じて、作業内容や作業方法の変更、作業時間の短縮等を行っている。

番 号

※これは、100 項目のチェックリストのうち、一部を抜粋したものである。

(出典:中央労働災害防止協会(2018)『エイジアクション 100』)

23

Page 26:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

② 健康・体力維持の取組み高齢層職員に対する健康・体力維持の取組みは、産業医を中心に据え、保健師、人事

担当課が連携し、様々な取組みを行う必要がある。労働安全衛生法令に定められた定期

健康診断やストレスチェックの実施はもちろんのこと、がん検診やインフルエンザ予防

接種に対する支援、保健師による健康相談や指導、健康管理面の支援の充実、体力測定

の実施とその結果に基づく運動を習慣化する支援など、【図表 17】のような対策を継続

的に行っていく必要がある。

また、前述の「エイジアクション 100」は健康・体力維持の取組みに対しても活用できるので、参考にしていただきたい。

【図表 17】高齢層職員に対して取組みをより充実させる健康管理

(出典:亀田高志(2019)「高齢労働者の安全と健康確保のための職場づくりとは」『エル

ダー 467号』)

24

Page 27:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

事例紹介 奈良県桜井市の「産業医による健康相談」を核とした職員の健康保持・増進

の取組み13

産業医によ

健康相談

全職員を対象に、毎月開催している。

■進め方①事前に人事課から庁内メールにより全職員に実施日を指定のうえ案

内。

  案内にストレスチェック表を添付する。セルフチェックの結果が要

注意のレベルの場合は、必ず健康相談を受けるよう呼びかけ。

②希望者は人事課または産業医にメール等で申込み。

③申込者に相談開始時刻を通知。

④健康相談を実施。

■結果の対応

相談は、産業医と相談者の 1対1で実施。結果に応じて、専門医の紹介、経過観察、職場への業務改善の検討指示

等を実施。

精神疾患に関わるものは、産業医・専門医・人事課の三者で連携し、

所属課の協力を得ながら病状が改善するまでフォロー体制を維持。

健康相談

からの展開

健康診断による職員の相談傾向等を基に、「職場巡視」を行うことで

実態を把握し、問題の改善につなげるべく、「職員研修」を実施。

③ 多様な勤務形態の導入高齢層職員が安心して継続的に働けるよう、高齢層職員特有の多様な生活上のニーズ

(通院、介護、地域参加等)に応じ、多様な勤務形態を選択できる制度を導入すること

が必要である。意見の申出には定年前再任用短時間勤務制度の導入についても述べられ

ているが、それ以外に、既存の制度にも関わらず、府内市町村(政令市を除く 41 団

体)で未だそれらが導入されていない制度を【図表 18】に示す。未導入の団体は、定年

引上げの準備に併せて、これらの制度の導入を検討することが望ましい。制度を導入済

みの団体も、職員に制度の周知を徹底し、積極的な制度活用を図っていくことが望まし

い。また、これらの制度の導入は、高齢層職員に限った話ではなく、職員全体の多様な

ニーズに対しても効果的である。

13 奈良県桜井市人事課(2011)「「産業医による健康相談」を核とした職員の健康保持・増進の取組み」『地方公務員月報』No.567p1-3を参照。

25

Page 28:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

【図表 18】多様な勤務形態の制度例

制度 内容府内市町村(政令市

除く)の導入状況※

短期の介護休暇

介護が必要な職員に対する特別休暇制度。

1日又は1時間単位で、1の年において5

日間取得することができる。

38 団体が導入

早出遅出勤務

育児又は介護を行う職員が、1日の勤務時

間を変えずに、始業・終業の時刻を繰り上

げ又は繰り下げて勤務することができる制

度。

9団体が導入

フレックスタ

イム

1週間の勤務時間を変えずに、勤務時間を

柔軟に割り振ることができる制度。1日の

最短勤務時間数や、勤務しなければならな

い時間帯(コアタイム)、勤務時間を設定

できる時間帯(フレキシブルタイム)等の

基準がある。

導入団体なし

テレワーク

庁外から安全に庁内システムへアクセスで

きるネットワーク環境を構築することで、

テレワーク用パソコンを用い、自宅で勤務

することができる制度。

導入団体なし

※2018年4月1日時点

(3)知識や経験が活かせる場の提供すべての高齢層職員は、「役職定年制」により一担当として業務を担うことになる。

本節では、①で、どのような業務が高齢層職員の知識や経験をより活かすことができる

のかを説明し、②で、どのようにすればミスマッチを防げるのかを示す。

① 活かせる業務高齢層職員の知識や経験を活かせる業務については、既存の業務と、新規に創出する

業務の大きく2つに分けられる。現在、各地方公共団体は、厳しい財政状況の中、組織

のスリム化や業務の効率化を行っている。その中で、高齢層職員に業務を充てるためだ

けの理由で、新規に業務を増やしていては、元も子もない。したがって、基本的には可

能な限り、既存の業務を高齢層職員に担ってもらうことになる。しかし、各地方公共団

体の事情を踏まえて、新規に業務を創出するかは検討する必要がある。

26

Page 29:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

1.既存の業務

既存の業務を高齢層職員に担ってもらう大きな目的として考えられるものとして、若

年層職員に対する知識や技術やノウハウ等の継承が挙げられる。そこで、より効果を発

揮する手法として、高齢層職員と若年層職員とがペアでその業務を担当してもらうこと

が考えられる。高齢層職員の知識や技術が活かされるだけでなく、仕事を通じてその知

識や技術が若年層職員に継承される。加えて、高齢層職員と若年層職員の間で仕事を分

担することで、高齢層職員の身体的な負担も軽減され、若年層職員を指導するという新

たな役割が付与されるため、高齢層職員のモチベーションの向上にもつながる。

次に、既存の業務の中で、高齢層職員が持つ経験や知識を活かせる職務の例を示す。

新規採用職員の配置が多く、多様な行政経験や対人経験を踏まえた育成・助言ができる

職務として、福祉関係のケースワーカーが考えられる。他に多様な行政経験や対人経験

が生かせる職務として、市民・企業等との協働・連携、地域の活性化に関する職務(例

えば、自治会やNPO法人等の地域活動団体の育成支援に関する職務や企業誘致等)が考

えられる。さらに、採用職員数が少なく、技術や知識の継承が課題となっている土木技

師等の技術職については、設計や施設管理や土木工事の完了検査等、様々な職務で高齢

層職員を活用することで、後進の技術職員の育成に柔軟に対応することができる。

2.新規に創出する業務

高齢層職員に適さない職務に対する配慮や、規模や年齢構成比等の地方公共団体の事

情によっては、既存の業務だけでは対応できなくなることも考えられる。高齢層職員が

培ってきた多様な専門的知識や経験を、幅広い職域で最大限活用できるよう、組織体制

の見直しや業務の棚卸しの中で、新規に業務を創出するか検討する必要がある。

新規に創出する業務の例としては、首長の特命業務、職員の業務アドバイザーのよう

なスタッフ業務、住民相談業務等が考えられる。ただし、前述のとおり、職員全体の定

員増加は難しいことから、既存業務の人員体制に留意する必要がある。

事例紹介 地域担当職員制度

新規に創出する業務の事例として、住民相談業務における地域担当職員制度を紹介し

たい。地域担当職員制度とは、自治体職員が地域のコミュニティや住民、各種団体等の

担当者となり、対話・交流を通じて、住民と共に地域が抱える課題の解決や地域の活性

化を図ろうとする取組みのことを言う。2017年3月時点では、全国で 345 団体、府内

では9団体が本制度を導入している(【図表 19】を参照)。茨木市や東大阪市では、本

制度に再任用職員を活用しており、再任用職員の培った行政経験やコミュニケーション

力は、地域に入り込み、対話を重ねるのに適していると考えられる。また、ほとんどが

27

Page 30:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

専任ではなく、他の業務を行いながら従事する併任であり、町村のような小規模団体に

おいても事例がある。

【図表 19】府内市町村における地域担当職員制度

市町村 開始時期

専任・併任

ボランティ

対象の職位 ①職員数

② 担

職員

(総数)

③ 担

職員

(常勤)

④ 担当

職員数

(非常勤)

⑤ 担当

職員割合

(②/①)

地区

各地区の

職員数

1 大阪市 H23.4 併任 21,500

2 豊中市 H24.4 専任 1,823 6 4 2 0.3% 10 2

3 池田市 H19.7ボ ラ ン

ティア595 52 8.7% 11

4 枚方市 H28.4 併任課長代理~

参事1,767 12 12 0 0.7% 4 3

5 茨木市H20.1

0専任 再任用職員 5 5 0 33 1

6 八尾市 H23.4 専任 1,251 17 17 0 1.4% 28 1

7 河内長野市 H28.8 併任一般職員~

課長補佐647 34 34 0 5.3% 13 2.6

8 門真市H26.1

0併任

一般職員~

課長481 59 57 2 12.3% 2 30

9 東大阪市 H25.7 専任 再任用職員 2,199 14 7 7 0.6% 7 2

(出典:地方自治研究機構(2017)『地域担当制度に関する調査研究(平成 29年3月)』より

作成)

② 活用の場のマッチング高齢層職員の能力等が活かせる職務を用意できたとしても、高齢層職員が持つ能力と

のミスマッチが起これば、能力の発揮が難しい高齢層職員が増加する可能性がある。配

置のミスマッチを防ぐためには、人事担当課が、高齢層職員の能力や就労ニーズを把握

し、配属予定の部署との事前調整を行う必要があると考えられる。

具体的には、次のような流れが考えられる。60歳を迎える前の職員に対して、希望す

る業務、本人が持つ能力等、定年前再任用短時間勤務の希望の有無を事前に調査する。

さらに、人事評価を活用し、当該職員が持つ能力を把握する。所属長は、評価の際に、

28

Page 31:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

当該職員に向いていると考えられる業務や部署について、意見書という形で記入し、人

事担当課に提出してもらう。各部署に対しては、高齢層職員の能力が活かすことができ

る業務を洗い出してもらい、実際に高齢層職員が配置された場合を想定しながら、人事

担当課と事前に調整を行う。

このような流れで配置を行い、ミスマッチを防ぐことで、高齢層職員が持つ能力等を

最大限に活用することができ、モチベーションの維持・向上にも繋がる。

29

Page 32:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

おわりに

近い将来、公務員における定年は、65歳に引き上げられる見込みである。定年が引き上げられると、労働力の高齢化が起こり、高齢層職員は、一担当者としての新しい役割

を担うことが求められる。

本稿では、高齢層職員が安心してより能力を発揮するためには、高齢層職員の(1)

モチベーションの維持・向上を行い、加齢に伴う(2)心身の変化をフォローし、

(3)知識や経験が活かせる場の提供ができるかという3つの観点から、解決に向けた

方策を示してきた。

高齢層職員が有する能力や経験は財産であり、その財産を活用して複雑・高度化する

行政課題に対応していくには、人事当局は多様な勤務形態の提供や、早期のキャリア研

修をはじめ、人事管理の再整備が必要となる。職員それぞれが、自身のキャリアプラン

を考え、将来に夢を持って働きながら、60歳を超える準備を進められるような制度が理

想である。

これは、高齢層職員のみの問題ではない。高齢層職員はすべての職員の将来の姿であ

り、若年層職員のモチベーションにもかかわる問題である。

本稿が、各地方公共団体における高齢層職員の活躍推進に向けた取組みの検討にあ

たっての一助となり、高齢層職員がより一層活躍することで、すべての年代の職員の鏡

となることを期待する。

最後に、本稿の執筆にあたり、ご指導いただいた上司をはじめ、日常、有益な議論を

していただいたグループ員の皆様に対して、この場を借りて感謝申し上げる。

30

Page 33:  · Web view職務経験が活かせない部署に配属されるなど、配置上の課題が存在」や「勤務条件等について、受け入れ側とのミスマッチが存在」を課題と捉えている(【図表7】を参照)。

参考文献

○浅野浩美(2017)「生涯現役を実現するためのキャリア開発支援 《第 4 回》」『エルダー』454号 p44-47

○今野浩一郎(2014)『高齢社員の人事管理―戦力化のための仕事・評価・賃金』(中央経済社)

○亀田高志(2019)「高齢労働者の安全と健康確保のための職場づくりとは」『エルダー』467号 p7-11

○市町村における再任用制度の構築・運用に関する検討会(埼玉県)(2014)『市町村における再任用制度の構築・運用に向けて~再任用制度の義務化に向けた取組~』

○人事院(2018)『定年を段階的に 65歳に引き上げるための国家公務員法等の改正についての意見の申出』

○高齢・障害・求職者雇用支援機構(2015)『高齢者の人事管理と人材活用の現状と課

題―70 歳雇用時代における一貫した人事管理のあり方研究委員会報告書』○高齢・障害・求職者雇用支援機構(2016)『高齢社員の人事管理と展望―生涯現役に向けた人事戦略と雇用管理の研究委員会報告書』

○高齢・障害・求職者雇用支援機構(2017)『65歳超雇用推進マニュアル』 ○高齢・障害・求職者雇用支援機構(2018)『65 歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事管理と現役社員の人材育成の調査研究委員会報告書―(平成 30 年度)』

○田村理恵、木島郁夫(2014)「建設局建設技術マイスター制度について(平成 25年度実績)」『土木技術支援・人材育成センター年報(平成 26年度)』p247-242

○地方自治研究機構(2017)『地域担当制度に関する調査研究(平成 29年3月)』○中央労働災害防止協会(2018)『エイジアクション 100』○中央労働災害防止協会(2018)『生涯現役社会の実現につながる高年齢労働者の安全と健康確保のための職場改善に向けて』

○奈良県桜井市人事課(2011)「「産業医による健康相談」を核とした職員の健康保持・増進の取組み」『地方公務員月報』No.567p1-3

○日本経済団体連合会(2016)『ホワイトカラー高齢社員の活躍をめぐる現状・課題と

取組み』

○橋本勇(2016)『新版逐条地方公務員法<第4次改定版>』(学陽書房)○藤波美帆・大木栄一(2012)「企業が「60歳代前半層に期待する役割」を「知らせる」仕組み・「能力・意欲」を「知る」仕組みと 70歳雇用の推進―嘱託(再雇用者)社員を中心にして」『日本労働研究雑誌』No.619p90-101

31