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ContentsVol.58 No.5 2016
19 特集にあたって 佐仲 雅樹
21 意 識 佐々木陽典
27 脈と血圧 佐々木陽典
33 呼吸とSpO2 佐々木陽典
39 医師のバイタルサイン──外来で重症疾患を見抜く 佐々木陽典
43 看護師のバイタルサイン──病棟で急変を見抜く 進藤 亜子
49 薬剤師のバイタルサイン──バイタルサインと全身状態 佐仲 雅樹
55 薬剤師のバイタルサイン──在宅患者の異変をとらえる 轡 基治
59 薬剤師のバイタルサイン──薬学教育における試み 三浦 剛,神谷 貞浩,小嶋 文良
座 談 会 11 漢方製剤のエビデンスを使いこなす 新井 一郎氏/川添 和義氏/篠原久仁子氏/元雄 良治氏
ト ピックス 69 免疫チェックポイント阻害薬の特徴と課題 濵西 潤三,万代 昌紀,小西 郁生
77 後発医薬品の数量シェア9割の秘訣を探る 本郷 知世,赤木 圭太,加藤 一郎
薬 事Up-to-Date 86 海外文献紹介 木村 利美,木村 友絵
90 適応拡大クローズアップ デュタステリド 渡邉 享平
94 ニュースレター 木平副会長を会長候補に選出,得票数開示せず/診療所の後発品加算,促進効果に疑問の声 他
ここからはじめるバイタルサイン
薬剤師の実践をとらえ直す!
Contents
取 材レポート
66 がん専門病院と総合病院,互いの専門性を共有する がん研有明病院 /東京都済生会中央病院合同勉強会(東京都)
連 載 5 頑張る薬剤師の挑戦発掘プロジェクト![19]
臨床で必要とされる薬剤師を目指して 佐古 守人
99 病態生理×臨床推論のクリニカルロジック[3] 問診によって突然発症かどうかを見極められるってホント? ──腹痛を訴える患者に出会ったら(完結編) 高橋 良
111 漢方薬ききめのめきき[3] 胃腸虚弱,消化不良などの胃の症状に対するエビデンス──六君子湯 新井 一郎
127 オチる前に読む! 感染症治療のピットフォール[13] カンジダ血症のピットフォール 小泉 祐一,竹末 芳生
138 深読み添付文書[13] 妊婦・授乳婦における薬物治療──治験の限界 野村 香織
143 海外学会見聞録[5] 糖尿病 ADA 2015 堀井 剛史
147 知っ得! 薬剤師業務に活きるIT・アプリ[28] 業務に活用! ユニバーサルデザインなアプリたち 岸 雄一
153 適応外使用の処方せんの読み方[70] 偽痛風 藤原 豊博
そ の他 68 書評 感染対策実践マニュアル 第3版 76 書評 医師主導治験START BOOK 97 薬事セレクション
98 書評 感染症学・抗菌薬治療テキスト 160 お詫びと訂正 162 次号予告・編集部より
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座談会
の
漢方薬連載
特別
漢方製剤のエビデンスを使いこなす 漢方薬は,古くから経験に基づき投薬が行われてきたが,漢方エキス製剤として保険適用されてからは,それに加えて保険病名に基づく「病名投与」が行われるようになった。保険病名は現代医学病名ではあるものの,経験的使用方法をもとに応用疾患を示したにす
ぎず,必ずしもエビデンスに基づいたものではなかった。 1980年代後半から,漢方エキス製剤の品質管理技術が確立し,ようやく漢方製剤の臨床試験結果が再現性のとれる可能性のあるものになった。1990年前後からはじまった漢方製剤のEBMの最初の時代は,ランダム化比較臨床試験(RCT)を行い,「漢方製剤が確かに効くこと」を証明すること,つまりエビデンスを“つくる”ことであった。2000年を過ぎ,漢方製剤の有効性のエビデンスが集積されてくると,日本東洋医学会EBM委員会エビデンスレポート・タスクフォース(ER-TF)が漢方治療エビデンスレポート〔Evidence Reports of Kampo Treatment;EKAT(http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/er/index.html)〕を作成し公開するなど,エビデンスを整理して発信する,つまり“つたえる”ことが開始された。 今日は,漢方のEBMの最終段階である,エビデンスを“つかう”ことが可能な時代に入っている。そこで,いまある漢方製剤のエビデンスとは何か,またそれを実際に使いこなすにはどうしたらよいのかについて,漢方製剤に精通した4名の先生方にご議論いただいた。
司会:新井 一郎氏 川添 和義氏(日本薬科大学薬学部漢方薬学分野 教授) (徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床薬学実務教育学 教授)
篠原久仁子氏 元雄 良治氏(フローラ薬局 代表取締役) (金沢医科大学腫瘍内科学講座 主任教授)
2016.4(Vol.58 No.5)── 27 (859)
脈と血圧
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基礎知識
身体の機能を維持するためには常に適切に肺で酸素化された血液が心臓から全身の組織に供給され,組織で酸素が消費された静脈血が肺組織へ送り返される必要があり,このための一連の現象を循環とよぶ。運動や興奮などの身体活動の変化により,全身の組織で必要となる酸素量は大きく変動するため,循環動態は需要に応じて緻密かつ迅速に調整されている。この調節機能が適切か否かを判断するうえで最も重要かつ簡便な指標が血圧と脈拍であり,両者は下記に示すように密接に関連している。 血圧とは,心臓から拍出された血液が送られた先である動脈を押し広げるために必要な圧力であり,オーム(Ohm)の法則:圧=流量×抵抗の関係が成立する。
血圧=心拍出量×末梢血管抵抗
つまり,血圧は心臓から拍出される血液の量と送り出される先の血管のもつ抵抗(広がりにくさ)により規定される。したがって心拍出量が減少するか,末梢血管抵
抗が低下する(つまり血管が拡張する)と血圧低下を来すことになる。末梢血管抵抗の低下による血圧低下は,具体的には敗血症,アナフィラキシーなどによる全身の血管拡張により引き起こされる。 バイタルサインから心拍出量の低下による血圧低下について考察するためには心拍出量の成り立ちを理解する必要がある。心拍出量は1分間に心臓から全身へ送り出される血液の量として表現され,下記のように示される。
心拍出量(L / 分)=1回拍出量(L)×脈拍数(回 / 分)
1回拍出量は心臓がポンプとして1回の収縮で動脈系へ拍出する(吐き出す)血液量であり,心臓に戻ってくる血液の量(静脈還流量)と心臓のポンプ機能(左室収縮能)によって規定される。 したがって,脱水や出血により静脈還流量が減少したり,心筋梗塞などで左室収縮能が低下したりすると1回拍出量が減少して心拍出量の低下を来す。それに対して生体は交感神経系を介して迅速に反応して脈拍数を増加させることによって,1回拍出量の低下を代償して心拍
基基
佐々木陽典SASAKI Yosuke
東邦大学医療センター大森病院総合診療・救急医学講座 助教
循環動態(全身組織への血液供給の営み)は酸素需要に応じて緻密かつ迅速に調整される。この評価に最も重要かつ簡便な指標が血圧と脈拍であり,ストレスによるカテコラミン分泌の推測も可能である。血圧は心拍出量と末梢血管抵抗で規定され,敗血症などによる血管拡張(血管抵抗低下)または心拍出量減少により低下する。心拍出量減少が静脈還流量減少や心収縮障害による1回拍出量低下により引き起こされた場合,生体は脈拍数の増加により心拍出量を維持しようとする。収縮期血圧90mmHg以下または30mmHg以上の血圧低下はショック(循環障害による臓器障害)を示唆し,血圧と脈拍の代償関係から脈拍の評価によりショックの原因検索が可能である。
Key word 心拍出量,血管抵抗,ショック,カテコラミン放出,バイタルサインの逆転
100 (932) ── 2016.4(Vol.58 No.5)
学ぶ理由はここにある!!
第1回で内臓痛と体性痛の病態生理を学び,第2回では痛みの病歴とOPQRSTのポイントを学んできました。今回は腹部の身体所見の解釈を加えることで,さらに病態の核心に迫っていきましょう。薬剤師さんや看護師さんは身体所見に抵抗があるかもしれませんが,“病態を理解する”という意味で身体所見を解釈することはとても大切ですし,実は身体に一切触ることなく重症病態を見抜く方法もあるのです。そんなわけで,ぜひ今回もしっかり読み進めていただけたらと思います。前回提示した患者情報と初診時のカルテ記載(図1)は次のとおりです。
・34歳,女性。1日続く上腹部痛と軽度の嘔気で受診・既往歴:片頭痛(市販の頭痛薬を常用)・体温36.8℃,心拍数90回 / 分,血圧110 /64mmHg・痛みのOPQRST O: 急性発症(突然ではない) P: 食事で増悪ないが,食欲低下で朝から食べていない 腹部手術歴なし 虫垂炎の既往なし 臍のまわりの痛みが最初,その後数時間で嘔気を自覚 楽な姿勢:側臥位 Q: 痛みの性状は表現しにくい あえて言えば不快感に近い 波のある痛み(=間欠痛) R: 臍からその上あたり 手掌大 嘔気あり 嘔吐なし 下痢なし 発熱なし S: ── T: 12時間程度間欠的に持続
第 3 回
高橋 良 TAKAHASHI Ryo昭和大学病院リウマチ・膠原病内科
問診によって突然発症かどうかを見極められるってホント?腹痛を訴える患者に出会ったら(完結編)
Evidence of Kampo Medicines
2016.4(Vol.58 No.5)── 111 (943)
新井 一郎ARAI Ichiro
日本薬科大学漢方薬学分野 教授
第3回
胃腸虚弱,消化不良などの胃の症状に対するエビデンス──六君子湯
はじめに
漢方薬は昔から,胃腸虚弱,消化不良といった上部消化管の自覚症状に対して使われてきました。近年,機能性消化管障害の新しい分類(RomeⅢ診断基準)がつくられ,従来は上腹部不定愁訴や慢性胃炎として治療されてきた病気のなかで,「みぞおちの痛み,食後の膨満感などの上腹部症状を訴え,内視鏡検査などで症状を説明しうる逆流性食道炎や胃・十二指腸潰瘍などの器質的疾患がないもの」は,機能性ディスペプシア(functional dyspepsia;FD)という名前で定義されました。RomeⅢ診断基準では,ディスペプシアは心窩部痛,心窩部灼熱感,もたれ感,早期飽満感の4つとして定義され,これら4つの症状のうち1つ以上を慢性的に有しており,かつ上部消化管内視鏡検査などによりがんや消化性潰瘍などの器質的な異常が確認されない場合,FDと診断されます。 近年,古くから胃腸虚弱,消化不良,食欲不振に用いられてきた漢方薬の六君子湯が,FDに有効であること,食欲不振に対する作用として食欲を増進させるホルモンであるグレリンの分泌を促すことがヒトでも報告されたことから,FD治療薬として「再発見」されることになりました。
胃腸虚弱,消化不良などの胃の症状に対する現代医学的治療
FDの治療では,食後のもたれ感や早期飽満感が週に数回以上起こる食後愁訴症候群(postprandial distress syndrome;PDS)だけの場合には,モサプリドやイトプリドなどの消化管運動改善薬が用いられます。一方,PDSとみぞおちの痛みやみぞおちの焼ける感じを訴える心窩部痛症候群(epigastric pain syndrome;EPS)とをあわせもつ場合には,ファモチジンなどのヒスタミンH2受容体拮抗薬,
監修竹末芳生(兵庫医科大学感染制御学 主任教授)編集吉岡睦展(宝塚市立病院 地域医療連携部 地域医療室)
“感染症治療のピットフォール” は,抗菌化学療法認定薬剤師 認定学術集会の「薬剤師抗菌化学療法実践教育プログラム」の実務委員が執筆するものであり,同プログラムで症例検討された内容が中心になっています。これは関西にある虎の巻病院の感染制御チーム(ICT)でのお話です。今年からICTに参加した新人薬剤師君はピットフォール(落とし穴)につまずきそうになりながらも,指導薬剤師と一緒に,医師から受ける感染症治療の相談に日々奮闘していきます。
登場人物
研修医
新人薬剤師
指導薬剤師
2016.4(Vol.58 No.5)── 127 (959)
ケース1 難易度★☆☆
中心静脈カテーテル抜去はできるだけ早期に!患者背景 54歳,男性,肺炎症状があるため入院。脊髄小脳変性症の進行に伴う誤嚥性肺炎と診断された。38℃台の発熱がみられセフトリアキソン(CTRX),補液の投与をしていた。末梢ルートの確保が困難になり中心静脈カテーテルを挿入し点滴を施行,発熱と解熱を繰り返していた。その後,39℃台の発熱が出現し2セットの血液培養が行われた。中心静脈カテーテルは留置したままであった。 血圧:75 / 45mmHg,脈拍:110 / 分,体温:39.4℃。血液検査:WBC 11,000 / µL,Hb 11.0 g / dL,PLT
小泉 祐一 KOIZUMI Yuichi社会医療法人生長会 府中病院薬剤部
カンジダ血症のピットフォール第13回
深読み 添付文書医薬品を正しく理解するために,添付文書に書かれている情報を
掘り下げて解説します
138 (970) ── 2016.4(Vol.58 No.5)
妊娠中や授乳中の方の薬の相談は,とても神経過敏になりやすく,繊細な対応が求められることも多いと思います。また,ある地域の医師に対する医薬品情報の活用についてのアンケートでは,添付文書で利用する項目を尋ねたところ,用法・用量や適応症,禁忌,副作用といった項目に次いで,「妊婦,産婦,授乳婦等への投与」が多いという結果でしたa)。このように医師が処方する際に気にしている内容について薬剤師から情報提供することは,医師にとっても患者にとっても有益であるだけでなく,薬剤師の存在価値を高めることにつながると思います。しかし,妊婦・授乳婦が医薬品を使用した場合の安全性の情報は非常に少ないのが現状です。添付文書の記載とあわせて,その背景にある治験の限界についても紹介します。
「妊婦,産婦,授乳婦等への投与」の記載
医療用医薬品の使用上の注意の記載要領通知の内容は表1~2のとおりですが,「C(注意対象期間)」および「D(措置)」を最初に記載した後に,[ ]で「B(理由)」を記載してもよいと示されていますb)。「理由」の記載にあたってはデータの有無や得られている知見の内容をできるだけ詳細に記載することが望ましく,具体的な表現の例も示されています(表2)。 治験時に妊婦の情報が得られることは基本的にないため(後述),市販後に実際に使用された状況での研究調査報告は貴重な知見です。表1の(3)に「更に追加す
る情報がある場合には」とあるように,疫学的調査で得られている情報に基づき記載する場合は,具体的な手法あるいは論文などの出典も記載されます。また,「妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので……」と単に記載するだけでなく,ヒトでの使用経験の有無や有害作用を示唆する動物実験のデータなどがあればあわせて記載するなど,企業が保有する知見に基づき,具体的内容の充実を図ることになっています。類似化合物の臨床試験または疫学的調査などの結果を検討することも承認申請の際や市販後に継続して行われており,当該医薬品にも同様な注意が必要な場合には類薬の情報として記載されることになります。 動物実験のデータについては,有害作用の内容および動物種などを簡潔に記載します。新薬開発の段階ではふ
妊婦・授乳婦における薬物治療治験の限界
野村 香織NOMURA Kaori東京慈恵会医科大学
13第 回
表1 「妊婦,産婦,授乳婦等への投与」の記載要領
(1) 用法及び用量,効能又は効果,剤形等から妊婦,産婦,授乳婦等の患者に用いられる可能性があって,他の患者と比べて,特に注意する必要がある場合や,適正使用に関する情報がある場合には,必要な注意を記載すること。また,投与してはならない場合は禁忌の項にも記載すること。
(2) 動物実験,臨床使用経験,疫学的調査等で得られている情報に基づき,必要な事項を記載すること。
(3) 記載にあたっては別表2のB,C,Dを適宜組み合わせたものを基本とし,更に追加する情報がある場合にはその情報を記載すること。
〔厚生省「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」(平成9年4月25日薬発第607号)別添第3の8より〕
a) 砂川慶介,他:第5回抗感染症薬開発フォーラム 添付文書はなぜ使いにくいのか? 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス,45:946-959, 2014b) 厚生省「医療用医薬品の使用上の注意記載要領について」(平成9年4月25日薬発第607号)