uimバージョン3の開発 - nttドコモ...

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24 NTT DoCoMo テクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.1 *1 UIM :電話番号などの契約者情報を記録し た IC カード.移動端末に差し込み,利用者 の識別に用いる.UIM の例として FOMA カ ードが挙げられる.IMT-2000 システムに関 する ITU 勧告の中で,加入者情報を記憶す る媒体を UIM と呼ぶ. *2 SMS :主に移動端末どうしでテキストベー スの短い文章を送受信するサービス.移動 端末の制御用信号を送受信することにも用 いられる. UIM バージョン 3 の開発 みなみ もとい 保谷 ほたに 早苗 さなえ 顧客管理システム非設置店での機種変更などで,ユーザが携帯電話を利用でき ない時間が生じる.この時間を短縮するために,遠隔で UIM 内のファイル書換え を可能にする機能を搭載した UIM バージョン 3 を開発した. 1. まえがき 2006年10月より開始したMNP (Mobile Number Portability)では, 他の通信事業者からドコモへの契約変 更受付時に,ユーザが使用していた自 局電話番号などのユーザデータをドコ モの UIM(User Identity Module) *1 書き込む処理が必要となる.また近 年,第 2 世代(2G : Second Genera- tion)の mova から第 3 世代(3G :Third Generation)の FOMA への移行が進 み,2006 年 6 月には FOMA が mova の 契約数を逆転し,今後もさらに FOMA への移行が急速に進むと予想される. 従来,mova から FOMA への機種変更 を行うユーザが顧客管理システム (ALADIN:ALl Around DoCoMo INformation systems)非設置店に来 店した場合,UIM に自局電話番号な どのユーザデータ書込みが行えないた め,ALADIN 設置店で UIM へのデータ 書込みを行った後に配送,ユーザに受 け渡していた(図1 (a)).これにより, ユーザの携帯電話が利用できない時間 および配送コストの増加へとつながっ ていた.これらの課題を解決するた め,USAT(User Subscriber identity module Application Toolkit)機能を 搭載した UIM バージョン 3 の開発を行 った.なお,FOMA 端末は 903i シリー ズより USAT 機能に対応しており,こ れら移動端末と UIM バージョン 3 とを 組み合わせて使用することにより ALADIN 非設置店に機種変更を希望す るユーザが来店した場合,上位拠点か らSMS(Short Message Service) *2 送信し,回線開通処理をするだけで機 種変更処理が完了し,待ち時間の大幅 UIM バージョン 3 の開発 端末 UIM 遠隔開通 (a)サービス導入前 (b)サービス導入後 大幅な短縮 携帯電話を 利用できな い時間 ALADIN登録を行い, カードを配送する. 上位拠点から SMSを送信する ALADIN非設置の 販売店 ALADIN非設置の 販売店 ALADINが設置 してある上位拠点 ALADINが設置 してある上位拠点 申込 申込 コストがかかる 利用できない 時間が長い FOMAカードをSMSで書き 換えて回線開通し,その場 でユーザに受渡しができる 図1 機種変更の処理フロー

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Page 1: UIMバージョン3の開発 - NTTドコモ ホーム©を記録しているICカード.GSMでの加入 者識別モジュールをSIMと呼ぶ. *5公開鍵暗号基盤:公開鍵暗号技術を用いて,

24 NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.1

*1 UIM:電話番号などの契約者情報を記録したICカード.移動端末に差し込み,利用者の識別に用いる.UIMの例としてFOMAカードが挙げられる.IMT-2000システムに関するITU勧告の中で,加入者情報を記憶する媒体をUIMと呼ぶ.

*2 SMS:主に移動端末どうしでテキストベースの短い文章を送受信するサービス.移動端末の制御用信号を送受信することにも用いられる.

UIMバージョン3の開発

南みなみ

本もとい

保谷ほ た に

早苗さ な え顧客管理システム非設置店での機種変更などで,ユーザが携帯電話を利用でき

ない時間が生じる.この時間を短縮するために,遠隔でUIM内のファイル書換え

を可能にする機能を搭載したUIMバージョン3を開発した.

1. まえがき2006年 10月より開始したMNP

(Mobile Number Portability)では,

他の通信事業者からドコモへの契約変

更受付時に,ユーザが使用していた自

局電話番号などのユーザデータをドコ

モのUIM(User Identity Module)*1に

書き込む処理が必要となる.また近

年,第2世代(2G:Second Genera-

tion)のmovaから第3世代(3G:Third

Generation)のFOMAへの移行が進

み,2006年6月にはFOMAがmovaの

契約数を逆転し,今後もさらにFOMA

への移行が急速に進むと予想される.

従来,movaからFOMAへの機種変更

を行うユーザが顧客管理システム

(ALADIN:ALl Around DoCoMo

INformation systems)非設置店に来

店した場合,UIMに自局電話番号な

どのユーザデータ書込みが行えないた

め,ALADIN設置店でUIMへのデータ

書込みを行った後に配送,ユーザに受

け渡していた(図1(a)).これにより,

ユーザの携帯電話が利用できない時間

および配送コストの増加へとつながっ

ていた.これらの課題を解決するた

め,USAT(User Subscriber identity

module Application Toolkit)機能を

搭載したUIMバージョン3の開発を行

った.なお,FOMA端末は903iシリー

ズよりUSAT機能に対応しており,こ

れら移動端末とUIMバージョン3とを

組み合わせて使用することにより

ALADIN非設置店に機種変更を希望す

るユーザが来店した場合,上位拠点か

らSMS(Short Message Service)*2を

送信し,回線開通処理をするだけで機

種変更処理が完了し,待ち時間の大幅

UIMバージョン3の開発

端末 UIM 遠隔開通

(a)サービス導入前 (b)サービス導入後

大幅な短縮

携帯電話を 利用できな い時間

 ALADIN登録を行い, カードを配送する.

 上位拠点から SMSを送信する

ALADIN非設置の 販売店

ALADIN非設置の 販売店

ALADINが設置 してある上位拠点

ALADINが設置 してある上位拠点

申込 申込

コストがかかる

利用できない 時間が長い

FOMAカードをSMSで書き換えて回線開通し,その場でユーザに受渡しができる

図1 機種変更の処理フロー

01-07_FOMAカード3.3 07.3.23 4:56 PM ページ 24

ノート
顧客管理システム非設置店での機種変更などで,ユーザが携帯電話を利用できない時間が生じる.この時間を短縮するために,遠隔でUIM内のファイル書換えを可能にする機能を搭載したUIMバージョン3を開発した.
Page 2: UIMバージョン3の開発 - NTTドコモ ホーム©を記録しているICカード.GSMでの加入 者識別モジュールをSIMと呼ぶ. *5公開鍵暗号基盤:公開鍵暗号技術を用いて,

な短縮が可能となる(図1(b)).

今回開発したUIMバージョン3で

は,新規にUSAT機能を導入し,無

線経由でデータの書込み,書換え,

消去などの処理を行う機能である

OTA(Over The Air)により,遠隔で

UIM内の情報を更新することが可能

となる.また,3GPP(3rd Generation

Partnership Project)標準準拠の

USAT機能を搭載することで,海外端

末を導入する際,端末の追加開発が少

なくて済むメリットがある.さらに,

USAT機能を用いることによりUIM内

のファイルの書換えだけでなく,遠隔

でUIMからのコマンド送信による移

動端末ディスプレイ上への文字の表示

や音の鳴動なども可能になる.特に,

UIMバージョン3ではドコモ独自アプ

レット*3の搭載により,追加開発なく

順次プロアクティブコマンドを発行す

ることが可能であり,柔軟な移動端末

のUI(User Interface)を実現できる

特徴がある.本機能の搭載によりオペ

レータ独自の特徴あるサービスの提供

や,ALADIN非設置店での運用の効率

化,また,OTAサーバとUIM間で認

証を行ったうえで,必要に応じてドコ

モからOTA用のSMSを送信すること

によりUIMをユーザに受渡し後も安

全にUIM内の各種ファイル書換えが

可能になる.

本稿では,UIMバージョン3とUSAT

機能の概要およびOTA/USAT機能を用

いたサービス事例について解説する.

2. UIMバージョン3について

UIMバージョン3のアーキテクチャ

および各バージョンとの比較について

解説する.

UIMバージョン3のアーキテクチャ

を図2に示す. UIMバージョン2で

は,UIMバージョン1の機能に追加し

てSIM(Subscriber Identity Module)*4

アプリケーション,PDCアプリケー

ション,公開鍵暗号基盤(PKI :

Public Key Infrastructure)*5などの機能

を搭載している[1].UIMバージョン3

では,これに加えて新たにUSAT機能

の搭載を行った.USAT機能はUSAT

コマンド/プロアクティブコマンドと

USATアプリケーションから構成され

る.その他のコマンドや物理特性,電

気特性,プロトコル仕様などに関して

は旧バージョンからの変更はなく,

USAT機能に対応していない既存の

FOMA端末との互換性を確保してい

る.また,カードデザインはバージョ

ン1では青色,バージョン2では緑色

としていたが,バージョン3では白色

とすることで(写真1),UIMバージ

ョン3の識別が容易にできる.

3. USAT機能概要USAT機能は,3GPP TS31.111[2]で

規定されている標準機能である.

3GPP TS31.111で規定されているプロ

アクティブコマンドとETSI(European

Telecommunications Standards

Institute)*6TS 102 221[3]で規定されて

いるUSATコマンドを用いることによ

って,USAT機能対応のUIM,移動端

末,ネットワーク間でさまざまな機能

やサービスの提供が可能となる.本章

では,プロアクティブコマンドと

USATコマンドの概要,USATアプリ

ケーション,およびOTAのセキュリ

ティについて説明する.

3.1 プロアクティブコマンド3Gコマンド*7および2Gコマンド*8

では,移動端末がマスターとなりUIM

25NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.1

*3 アプレット:比較的小さなプログラムのことで,他のアプリケーションの中で動作する.

*4 SIM:携帯電話会社と契約した電話番号などを記録しているICカード.GSMでの加入者識別モジュールをSIMと呼ぶ.

*5 公開鍵暗号基盤:公開鍵暗号技術を用いて,安全な通信を行うようにするために構築されるシステムなどの総称.

*6 ETSI:欧州電気通信標準化機構.ヨーロッパの標準化団体.電気通信技術に関する標準化を行っている.本部はフランスのSophiaAntipolisにある.

:バージョン1からの搭載機能

:バージョン2からの搭載機能

:バージョン3からの搭載機能

アプリケーション層

トランスポート層

物理層

USAT アプリケーション 3GPP TS 31.111

USIM アプリケーション 3GPP TS 31.102

PDC アプリケーション ARIB STD-27

3Gコマンド ETSI TS 102 221

2Gコマンド 3GPP TS 11.11

SIM アプリケーション 3GPP TS 11.11

PKI機能

USAT コマンド/

プロアクティブコマンド 3GPP TS 31.111 ETSI TS 102 221

物理・電気特性 ETSI TS 102 221

図2 UIMバージョン3のアーキテクチャ

写真1 UIMバージョン3

01-07_FOMAカード3.3 07.3.23 4:56 PM ページ 25

Page 3: UIMバージョン3の開発 - NTTドコモ ホーム©を記録しているICカード.GSMでの加入 者識別モジュールをSIMと呼ぶ. *5公開鍵暗号基盤:公開鍵暗号技術を用いて,

はスレーブとして動作する.これに対

し,プロアクティブコマンドはUIM

から移動端末に対して発行するコマン

ドであり,UIMがマスターとなって

移動端末をコントロールすることが可

能となる.数多くのプロアクティブコ

マンドが規定されているが,本稿では

そのうち代表的な4つのコマンドにつ

いて解説する.

①DISPLAY TEXT

移動端末のディスプレイ上にテキ

ストメッセージやアイコンの表示を

行う.

②PLAY TONE

移動端末に音の鳴動を行わせる.

音色や鳴動時間なども指定可能で

ある.

③REFRESH

UIM内のファイル情報,ファイル

状態に変更があったときに,本コマ

ンドを発行することによって移動端

末内のキャッシュ情報を更新させる.

④SEND SMS

UIMから,移動端末を経由してネ

ットワークまでデータを送ることが

でき,コマンド処理結果の通知など

に利用する.

3.2 USATコマンドUSATコマンドとして以下の4つの

コマンドが規定されている.

①TERMINAL PROFILE

移動端末が,USAT機能に関連す

るコマンドのうちどれをサポートし

ているかをUIMに通知する.通常

はリセット後(移動端末電源ON時

など)に発行される.

②ENVELOPE

ネットワークからSMSとして受

信したデータ列をUIMに伝達する.

データ列には任意の3Gコマンド,

2Gコマンドやプロアクティブコマ

ンドなどを格納できる.

③FETCH

プロアクティブコマンドをUIM

から移動端末に発行するために使用

される.

④TERMINAL RESPONSE

プロアクティブコマンドの実行結

果を移動端末からUIMに対して伝

える際に発行される.

3.3 USATアプリケーションUSATアプリケーションは,UIM内

のファイルアクセスに必要な基本動作

を 規 定 す る RFM( Remote File

Management)部分に加えて,独自の

アプレットを追加することが可能であ

り,オペレータがさまざまなサービス

を独自に拡張できる構成となってい

る.UIMバージョン 3で搭載した

USATアプリケーションの構成は,

USATフレームワーク上にRFMとド

コモ独自アプレットを搭載している

(図3).ネットワークからのOTA用

SMSには,ヘッダにあて先が設定さ

れており,それに従ってUSATアプリ

ケーション内のRFMもしくはドコモ

独自アプレットがそのコマンド処理を

行う.

RFMは 3GPP TS31.111, 3GPP

TS23.048[4]に準拠しており,遠隔で

UIM内のファイルにアクセスが可能

となる.例えば,自局電話番号の書換

え時にはRFMが使用される.

一方,ドコモ独自アプレットは任意

のプロアクティブコマンドを発行する

ことを目的として搭載したアプレット

であり,ネットワークからこのアプレ

ットに対して送信されたプロアクティ

ブコマンド群を含むSMSを受信した

UIMは,移動端末に対して順次プロ

アクティブコマンドを発行する.

3.2節③に記載のあるように,プロ

アクティブコマンドをUIMから移動

端末に発行するためには, コマンド発

行契機が必要である.ドコモ独自アプ

レットを搭載しない場合,発行させる

プロアクティブコマンドごとに移動端

26

*7 3Gコマンド:ETSI TS102 221仕様で規定されたコマンドで,ファイル選択やファイル読出しなどが行える.

*8 2Gコマンド:3GPP TS11.11仕様で規定されたコマンドで,基本的には3Gコマンドと同等機能であるが,その名称は一部異なっている.ネットワーク認証(RUN GSMALGORITHM),SIM制御(SLEEP)は2Gコマンドとして特徴的なコマンドである.

NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.1

UIMバージョン3の開発

RFMフロー ドコモ独自アプレットフロー

あて先: RFM

SELECT UPDATE RECORD

あて先: ドコモ独自 アプレット

PLAY TONE DISPLAY TEXT

SMS センタ SMS

SMS

移動端末

あて先がRFMの場合 UIMはデータ部に含まれるコマンド をUIM内で実行する

あて先がドコモ独自アプレットの場合 UIMはデータ部に含まれるコマンド を移動端末に対して発行する

UIMバージョン3

USAT アプリケーション USAT フレームワーク

RFM

ドコモ独自 アプレット

図3 RFMとドコモ独自アプレット

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末もしくはUIMにコマンド発行契機

をつくり込む必要が生じる.例えば,

ユーザがメニュー選択後にプロアクテ

ィブコマンドを発行する機能を移動端

末につくり込む,もしくは,UIMに新

たなプロアクティブコマンドの発行契

機を規定したアプレットの追加が必要

となる.しかし,UIMバージョン3で

は,ドコモ独自アプレットの搭載によ

り任意のプロアクティブコマンドを

UIMから発行できる.例えば,PLAY

TONE,DISPLAY TEXTの2つのプロ

アクティブコマンドを使用する利用開

始通知時には,これら2つのプロアク

ティブコマンドを含んだOTA用SMS

をドコモ独自アプレットに対して送信

することによって,プロアクティブコ

マンドを発行している.また,ネット

ワーク側から送信するプロアクティブ

コマンドの内容を変更するだけで,移

動端末への表示内容や順番などを変更

することも可能である.

3.4 セキュリティOTA用SMSの送受信に際しては

3GPP TS23.048で規定されるセキュリ

ティメカニズムに加えて,悪意のある

第三者によるSMS送信やデータの改

ざんを防ぐためにドコモ独自の認証ア

ルゴリズムを搭載している.また,各

ファイルのOTAによる更新権限を規

定し,OTAにより書換え可能と不可

能なファイルを設定し,書換え可能な

ファイルを限定することで,セキュリ

ティを確保している.

4. OTA/USAT機能を用いたサービス事例

OTA/USAT機能を使用した自局電

話番号書換えと利用開始通知について

解説する.

事前準備として,ALADIN非設置店

では自局電話番号以外の IM S I

( International Mobile Subscriber

Identity)*9,オペレータ優先PLMN

(Public Land Mobile Network)*10などの

通信設定情報が書き込まれた状態

(半黒状態)のUIMバージョン3と

USAT機能に対応した移動端末を配備

しておく.ユーザがALADIN非設置店

にmovaからFOMAへの機種変更や他

の通信事業者からの変更に訪れた場合

には,あらかじめ配備しておいたUIM

バージョン3およびUSAT対応移動端

末を用いて自局電話番号の書換えを行

って回線を開通し,ユーザへの受渡し

を行う.

4.1 自局電話番号書換え自局電話番号の書換え時のシーケン

スを図4に示す.ユーザが来店した

ALADIN非設置店では,暫定電話番号

を持った半黒状態のUIMバージョン3

を移動端末に挿入し,あらかじめ電源

ON(図4①)にして待受け状態にし

ておく.移動端末はUIMにTERMI-

NAL PROFILEを発行し(図4②),

UIMがそれに対して正常に応答した

(図4③)後にUSAT Idle状態となり

(図4④),その後USAT機能を用いた

動作が可能となる.この状態で,上位

拠点より半黒状態の暫定電話番号に対

して,UIM内のファイルに格納され

ている自局電話番号を更新するための

コマンド群を含んだSMSを送信する

(図4⑤).SMSを受信したUSAT機能

対応の移動端末は,SMSのあて先が

UIMであることを解釈して,SMSの

内容をUIMに伝達する(図4⑥).そ

の後UIMは受信したSMS内に含まれ

るコマンド群を処理し,自局電話番号

の更新を行う.この処理はRFMによ

って行われる.UIMは自局電話番号

の更新後,サーバに応答を返すための

契機となるFETCHを移動端末から受

信するために,SW(Status Word)*11

=91XXh(XXは次に送信するプロア

クティブコマンドのデータ長を格納)

として応答する(図4⑦).また,この

際,応答を受け取った移動端末はOTA

サーバに対してSMS受信通知を送信

する(図4⑧).移動端末からFETCH

を受信後(図4⑨),UIMはSEND

SMSを移動端末に発行(図4⑩)して

自局電話番号書換えの実行結果を伝

え,それは移動端末からOTAサーバ

まで伝えられる(図4⑪).移動端末

はその後,サーバに対するSMS送信

が正常に終了したことをTERMINAL

RESPONSEを用いてUIMに伝える

(図4⑫).続いて,UIM内の情報が更

新されたためにUIM内に格納されて

いる情報と移動端末内のキャッシュに

差分があるのを再同期するために,新

たなプロアクティブコマンドをUIM

から発行する.このためUIMはTER-

MINAL RESPONSEに対してSW=

91XXhで応答し(図4⑬),移動端末か

らFETCHを受信する(図4⑭).その

後,REFRESHを移動端末に発行し

(図4⑮),移動端末は更新されたファ

イルの再読出しを行って移動端末内の

キャッシュを更新する(図4⑯).移

動端末はキャッシュ更新後,TERMI-

NAL RESPONSEを発行して処理が終

了したことをUIMに伝える(図4⑰).

UIMはTERMINAL RESPONSEに対し

27

*9 IMSI:UIM内に格納される,移動通信で使用するユーザごとに固有の番号.

*10 オペレータ優先PLMN:オペレータがUIM内に格納できる,他のオペレータのネットワークに接続する際の優先順位.

*11 SW:UIMより返却される2byteの応答データ.

NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.1

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て正常応答SW=9000hを返答(図4

⑱)して一連の処理が終了する.

4.2 利用開始通知利用開始通知のシーケンスを図5に

示す.サーバは,4.1節の自局電話番

号書換え用のSMSに対して正常応答

を受信後(図4⑪),回線開通が完了

した旨を通知するためのSMSを自動

的に送信する(図5①).SMSを受信

したUSAT機能対応の移動端末は,

SMSのあて先がUIMであることを解

釈して,SMSの内容をUIMに伝達す

る(図5②).その後UIMは,受信し

たSMSのあて先がドコモ独自アプレ

ットであることを解釈し,プロアクテ

ィブコマンドを発行するための契機と

なるFETCHを移動端末から受信する

ために,SW=91XXhとして応答する

(図5③).移動端末からFETCHを受

信後(図5④),UIMは受信したSMS

に含まれていたプロアクティブコマン

ドのうちで最初に含まれていたコマン

ドであるPLAY TONEを移動端末に発

行(図5⑤)して移動端末に音を鳴動

させる.移動端末はその後,音鳴動が

正常に終了したことをTERMINAL

RESPONSEを用いてUIMに伝える

(図5⑥).その後UIMは,SMSに含ま

れていた2番目のプロアクティブコマ

ンドであるDISPLAY TEXTを発行する

ための契機となるFETCHを移動端末

から受信するために,SW=91XXhと

して応答する(図5⑦).移動端末か

らFETCHを受信後(図5⑧),UIMは

DISPLAY TEXTを移動端末に発行(図

5⑨)して移動端末のディスプレイ上

に文字列を表示させる.この一連の処

理は実際にはごく短時間で行われるた

め,見た目上は音の鳴動と文字列の表

示はほぼ同時に行われる.ディスプレ

イ上に表示された「OK」ボタンが押

下された後,移動端末はTERMINAL

RESPONSEを発行(図5⑩)してコマ

ンドの実行結果をUIMに伝える.

UIMはその後,応答を返して(図5

⑪)処理が終了する.これで必要な作

業は終了し,ユーザに受け渡すことが

可能である.

5. OTAを利用したその他のサービス

今回解説した自局電話番号の書換え

以外にも,ネットワーク側に機能を拡

張するだけで,UIMバージョン3と

USAT機能対応移動端末の組合せによ

り,UIM内のその他のファイルの書

28 NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.1

UIMバージョン3の開発

暫定の電話番号が入った半黒状態のUIMを移動端末に挿入し,待受け状態としておく

この時点でUIM内の電話番号は書き換わっている

専用端末を操作し,OTA用SMSを送信

UIM 移動端末 OTAサーバ

①電源on

④USAT Idle状態

⑯更新ファイル再読出し 移動端末内のキャッシュ更新

②TERMINAL PROFILE

③応答:SW=9000h

⑥UIMへSMSを伝達

⑦応答:SW=91XXh

⑨FETCH

⑩SEND SMS

⑫TERMINAL RESPONSE

⑬応答:SW=91XXh

⑧SMS受信通知 SMSを受信した旨をサーバに通知

⑪SMS SUBMIT コマンド実行結果をサーバに通知

⑤半黒状態のUIM(電話番号090-xxxx-xxxx) に対して,電話番号を090-yyyy-yyyyに更新 するコマンド群(SELECT, UPDATE RECORD) を含んだOTA用SMSを送信

⑭FETCH

⑮REFRESH

⑰TERMINAL RESPONSE

⑱応答:SW=9000h

サーバは応答を受信後に加入者情報を変更し,新たな電話番号090-yyyy-yyyyが開通状態となる.なお,このOTA用SMSに伴う課金は行わない

コマンド群処理

図4 自局電話番号書換えシーケンス

01-07_FOMAカード3.3 07.3.23 4:56 PM ページ 28

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換えも可能である.例えば,UIM内に

格納されているオペレータ優先PLMN

の書換えを行うことができる.これに

よって海外ローミング時に複数のネッ

トワークが利用できる場合,遠隔でネ

ットワークの優先順位を変更すること

が可能となる.また,新規にローミン

グ契約の締結や契約解除をした場合に

ドコモが優先PLMNリストを容易に

更新することができる.これにより,

ユーザが海外で利用する際,不要なネ

ットワーク検索がなくなり,早期に利

用開始できるようになる.

6. あとがきUIMバージョン3および903iシリー

ズに搭載した,OTA/USAT機能の概要

とそれらを用いたサービス事例につい

て説明した.USIM(Universal SIM)*12

およびSIMに関する標準化は3GPP

TSG-CT WG6およびETSI SCP(Smart

Card Platform)にて行われており,ド

コモもこれらの標準化会議に出席し,

仕様作成や仕様の明確化に積極的に寄

与している.現在は,USIMのメモリ

大容量化および移動端末とUSIM間通

信の高速化が標準化で検討されてお

り,将来的にはUIMへの移動端末相

当の電話帳機能(1,000件,画像付な

ど)の搭載や,動画や画像の保存な

ど,外部媒体としての使用も可能にな

り,機種変更時のポータビリティが格

段に向上することが期待されている.

また,メモリ増大に伴ってUIMに新

たなアプリケーションやアプレットの

搭載が可能となり,UIMを使ってど

のようなサービスがユーザに受け入れ

られるのかを継続検討中である.

文 献[1] 石川,ほか:“UIMバージョン 2の開発,”本誌, Vol.11, No.3,pp. 35 -41,Oct. 2003.

[2] 3GPP TS31.111 V3.13.0(2004 -09):“USIM Application Toolkit (USAT).”

[3] ETSI TS102 221V3.17.0 (2005-10):“Physical and logical characteris-tics.”

[4] 3GPP TS23.048V5.9 .0 (2005-06):“Security mechanisms for the(U)SIMapplication toolkit; stage2.”

29

*12 USIM:携帯電話会社と契約した電話番号などを記録しているICカード. 3GPPでのW-CDMA用途の移動通信用加入者識別モジュールをUSIMと呼ぶ.

NTT DoCoMoテクニカル・ジャーナル Vol. 15 No.1

図4⑪の信号を受信後,自動的に送信

UIM 移動端末 OTAサーバ

USAT Idle状態

音鳴動

文字列表示

②UIMへSMSを伝達

④FETCH

③応答:SW=91XXh

⑤PLAY TONE

⑥TERMINAL RESPONSE

⑦応答:SW=91XXh

⑧FETCH

⑨DISPLAY TEXT

⑩TERMINAL RESPONSE

⑪応答:SW=9000h

OKボタン押下

①回線開通後のUIMに対して,移動端末上で通知を行うためのプロアクティブコマンド群(PLAY TONE, DISPLAYTEXT)を含んだOTA用SMSを送信

処理が正常に終了しました

電話番号 090-yyyy-yyyy

OK

図5 利用開始通知シーケンス

01-07_FOMAカード3.3 07.3.23 4:56 PM ページ 29