uav(無人航空機)を用いた 空中写真測量技術の適 …2015-7-17 · 3....

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UAV(無人航空機)を用いた 空中写真測量技術の適用性について 古川 健作 1 ・秩父 宏太郎 2 1 北陸地方整備局 信濃川河川事務所 調査課 (〒940-0098 新潟県長岡市信濃1-5-302 北陸地方整備局 信濃川河川事務所 調査課長 (〒940-0098 新潟県長岡市信濃1-5-30流路延長が長い信濃川では、現況河道の流下能力、河床の変動状況を把握するための定期縦 横断測量を実施する一方で、必要な時に必要な測量成果を得るために、より簡便的で低コスト な測量技術が導入できれば非常に効果的である。そこで、河川計画・管理に必要な調査の効率 化の手法として期待でき、近年着目されているUAVUnmanned Aerial Vehicle、無人航空機) を用いた空中写真測量技術の適用性について、既存の測量技術との精度およびコスト比較等、 検証した結果を報告するものである。 キーワード UAVUnmanned Aerial Vehicle),空中写真測量,3Dモデリング,精度検証 1. はじめに 信濃川河川事務所では、 信濃川中流域区間約100km について、河川計画・管 理に必要な河川測量とし て、定期的に縦横断測量 を行っている。 当事務所の縦横断測 量は、「信濃川水系信 濃川河川維持管理計画 (案)」( 平成24年3 )に基づき、5年に 1度、大規模出水時な -1 管理区間 どにおいてはその都度、 実施している。縦横断測量は、現況河道の流下能力、河 床の変動状況を把握するための基本となる他、河道計画 検討に際しての重要なデータである。 2. 定期縦横断測量について (1) 定期縦横断測量にお ける課題 定期測量は、「信濃川 水系信濃川河川維持管 理計画(案)」(平成2 4年3月)に基づき、定 期縦断測量については 管内全域で同時実施、 -2 直接測量状況 定期横断測量においては、各出張所管内毎にそれぞれ5 年に1度測量を実施しているが、下記のような課題があ る。 ①5年サイクルの成果であり、常に最新ではない ②コストが高い ③測点間隔の間のデータも必要な場合がある そこで、これらの課題を解決し、手軽に、必要な時に 最新の測量成果が面的に入手できる測量手法はないかを 検討した。 (2) 課題に対応可能な測量技術の導入検討 通常、定期縦横断測量やその他公共測量において使わ れる測量技術は「直接測量」「航空レーザ測量」「空中写 真測量」であるが、これらの測量技術が今回の課題に対 応可能か整理した( -1) 。これら測量技術は今回の課題 に対して一長一短あるため、UAVを活用した写真測量 技術について、課題に対応可能かどうかを検証すること とした。併せて、河川計画・管理に必要なデータ蓄積の 観点からも検証した。 -1 現状の測量技術における課題の対応状況 直接 測量 航空 レーザ 測量 (有人ヘリ) 空中 写真 測量 (有人ヘリ) UAV 写真 測量 (無人ヘリ) ①手軽に最新成果が 入手できる 検証 ②コスト 検証 ③測点間隔の間の データが入手可能 検証

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UAV(無人航空機)を用いた 空中写真測量技術の適用性について

古川 健作1・秩父 宏太郎2

1北陸地方整備局 信濃川河川事務所 調査課 (〒940-0098 新潟県長岡市信濃1-5-30)

2北陸地方整備局 信濃川河川事務所 調査課長 (〒940-0098 新潟県長岡市信濃1-5-30)

流路延長が長い信濃川では、現況河道の流下能力、河床の変動状況を把握するための定期縦

横断測量を実施する一方で、必要な時に必要な測量成果を得るために、より簡便的で低コスト

な測量技術が導入できれば非常に効果的である。そこで、河川計画・管理に必要な調査の効率

化の手法として期待でき、近年着目されているUAV(Unmanned Aerial Vehicle、無人航空機)

を用いた空中写真測量技術の適用性について、既存の測量技術との精度およびコスト比較等、

検証した結果を報告するものである。

キーワード UAV(Unmanned Aerial Vehicle),空中写真測量,3Dモデリング,精度検証

1. はじめに

信濃川河川事務所では、 信濃川中流域区間約100km

について、河川計画・管

理に必要な河川測量とし

て、定期的に縦横断測量

を行っている。 当事務所の縦横断測

量は、「信濃川水系信

濃川河川維持管理計画

(案)」(平成24年3

月)に基づき、5年に

1度、大規模出水時な 図-1 管理区間 どにおいてはその都度、 実施している。縦横断測量は、現況河道の流下能力、河

床の変動状況を把握するための基本となる他、河道計画

検討に際しての重要なデータである。

2. 定期縦横断測量について

(1) 定期縦横断測量にお ける課題 定期測量は、「信濃川

水系信濃川河川維持管

理計画(案)」(平成2

4年3月)に基づき、定

期縦断測量については

管内全域で同時実施、 図-2 直接測量状況

定期横断測量においては、各出張所管内毎にそれぞれ5

年に1度測量を実施しているが、下記のような課題があ

る。 ①5年サイクルの成果であり、常に最新ではない ②コストが高い ③測点間隔の間のデータも必要な場合がある そこで、これらの課題を解決し、手軽に、必要な時に

最新の測量成果が面的に入手できる測量手法はないかを

検討した。

(2) 課題に対応可能な測量技術の導入検討 通常、定期縦横断測量やその他公共測量において使わ

れる測量技術は「直接測量」「航空レーザ測量」「空中写

真測量」であるが、これらの測量技術が今回の課題に対

応可能か整理した(表-1)。これら測量技術は今回の課題

に対して一長一短あるため、UAVを活用した写真測量

技術について、課題に対応可能かどうかを検証すること

とした。併せて、河川計画・管理に必要なデータ蓄積の

観点からも検証した。

表-1 現状の測量技術における課題の対応状況

直接測量

航空レーザ測量

(有人ヘリ)

空中写真測量

(有人ヘリ)

UAV写真測量

(無人ヘリ)①手軽に最新成果が 入手できる

検証

②コスト 検証

③測点間隔の間の データが入手可能

検証

3. UAVの空中写真測量への活用

(1) UAVとは UAVは、無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle)のアル

ファベット頭文字をとったもので、空からの偵察活動や

攻撃といった軍事的要求から技術開発が進んだが、現在

は様々な場面での活用方法に注目が集まっている。既存

の有人ヘリ等に比べ低コスト化等が期待できることがの

特徴である。

(2) UAVの分類について UAVは、大まかに3つのタイプに分類できる(表-2参

照)。本検討においては、今後の産業用UAVの主流とな

りつつあるマルチローター型UAVを用いて検証するこ

ととした。 表-2 UAVの分類と特徴・長所・短所

4. UAV空中写真測量の実施

(1) UAVの飛行計画等 UAVの飛行・撮影方法は、自律飛行による垂直写真

撮影を基本とするが、家屋付近や県道、鉄道等の安全面

で飛行不可能な場所については、斜め写真撮影を行った。

UAV機体はルーチェサーチ株式会社保有のSPIDER、カ

メラはSONYα6000を使用した。その他必要な機材とし

て、UAVの状態をモニタリングするためのパソコン、

UAVから送信されるデータを受け取るために必要とな

る画像伝送装置がある。

図-2 使用機材

(a) ルーチェサーチ社製UAV(SPIDER)、(b) カメラ(SONYα6000) (C) モニタ用PC、(d) 画像伝送装置

(2) UAVを用いた空中写真測量 UAVを用いた空中写真測量にあっても、通常の空中

写真測量と同様のデータ処理方法にて、3Dモデル作成

およびグリッドデータ作成が可能である。 ①3Dモデル作成

3Dモデル作成において画像処理方法は図-3に示す作

業手順のとおりである。「③モデリング」においては、

隣り合う写真から特徴点を抽出し点群モデル(図-6(a))、ワイヤーフレームモデル(図-6(b))を作成し、「④テクスチ

ャ貼付」過程において地形モデルを作成することができ

た。画像取得後の②~④の工程については自動的に処理

できるソフトを用いた。

図-3 3Dモデル作業手順

図-4 「④モデリング」および「⑤テクスチャ貼付」

(a)点群モデリング、(b) ワイヤーフレームモデル

(C) テクスチャを貼り付けた3Dモデル

②グリッドデータ作成

グリッドデータ作成においては、「①3Dモデル作成」

(a) (b)

(c)

(a) (b)

(c) (d)

にて作成した3次元モデルデータを基に作成した。3次

元モデルデータは不規則な点群となっており、ランダム

に配置された各計測点をTIN(Triangulated Irregular Network)と呼ばれる方法で相互につなぎ、三角形による

平面群を構成する。この平面群によりランダムに分布す

るデータの中から必要とする任意の高さデータを補完し、

グリッドデータを作成した。なお、今回はレベル500(水平位置の誤差の許容範囲:0.15m、標高の誤差の許容範

囲:0.2m)の精度を目標としたことから、グリッド間隔は

0.5mとした。

図-5 グリッドデータの作成手法の概念図

(a)点群データ (b)TIN (c)作成したグ リット ゙

図-6 グリッドデータの作成イメージ

②河川横断形状の作成

「①3Dモデル作成」「②グリッドデータ作成」の結果を

用いて定期縦横断促成の交点上に重なるデータを抽出し、

横断図を作成した。

図-7 横断形状の作成

5. 既存の測量技術との比較

UAV撮影写真から作成した堤防横断図と既存測量成

果(河川定期縦横断測量、航空レーザ測量)との精度比較

を行った。 (1) 法肩・法尻部分での精度比較 定量的な検証箇

所として堤防の勾

配変化点(法肩・法

尻 ) を選定し、

UAV測量と定期

横断測量結果との

差について評価し

た。 図-8 堤防の勾配変化点(法肩・法尻)

表-3 精度比較結果(No.455および450測線右岸部)

UAV計測により、撮影・解析条件が整ったところでは

航空レーザ測量と同程度の精度が確認できた箇所(表-3、No.445および450測線右岸部)もあるが、法肩法尻部分に

おいて欠測や異常値も多くの測線で確認された。定期横

断横断測量と比べ、航空レーザ測量では、平均で±

10cm程度の精度が確保されている一方で、UAVでは平

均で±30cm程度の精度 (最大値最小値では1mを越える箇

所も) にとどまったことから、今後は撮影方法等の改善

が必要である。 (2) 横断図比較 河道全体で横断図を作成した場合には図-9のように明

らかな形状異常が確認された。原因は、①動きのある水

部での空中三角測量ができなかったことによる位置ズレ

が生じたこと、②背の高い樹木が付近にある場所では写

真に写る地上部分の範囲が狭くなり精度の高い測量がで

きないこと、などが考えられる。 < No.445>

1m

1m

ランダムデータ

1m

1m

メッシュ中心に標高値が入る

1m

1m

メッシュ中心の近傍3点から内挿

メッシュ中心(メッシュデータ)

1m

1m

ランダムデータ

1m

1m

ランダムデータ

1m

1m

メッシュ中心に標高値が入る

1m

1m

メッシュ中心に標高値が入る

1m

1m

メッシュ中心の近傍3点から内挿

メッシュ中心(メッシュデータ)

1m

1m

メッシュ中心の近傍3点から内挿

1m

1m

メッシュ中心の近傍3点から内挿

メッシュ中心(メッシュデータ)

①定期横断測量 ②航空レーザ測量 ③UAV測量 定期横断測量との差H(m) H(m) H(m) ΔH(③-①)

(A)堤防表法尻 66.929 66.91 66.62 -0.309(B)堤防裏法肩 69.058 69.08 68.90 -0.158(C)堤防裏法尻 67.145 67.15 67.27 0.125(A)堤防表法尻 66.905 66.97 66.71 -0.195(B)堤防裏法肩 69.010 69.05 68.80 -0.21(C)堤防裏法尻 67.199 67.11 67.31 0.111

No.445左岸No.450左岸

検証地点

< No.455>

< No.460>

図-9 河道全体の横断図作成結果

(3) 植生箇所(植生草本群、密

集樹林帯)における比較 UAV撮影による植生箇所

(植生草本群、密集樹林帯)での3Dモデルの再現性を検証す

るため、既存の航空レーザ計

測データとの比較を

行った。その結果、

密集樹林帯では高さ方

向において数十cm~最大3m程度、密

生草本群では数十

cm程度の差違が認められた。 図-10 植生箇所デー タ

その原因は、樹木の形状が 比較結果

複雑であるため3Dモデル

作成にあたって高さ方向の精度をより高める必要がある

ことから、写真撮影時のオーバーラップ・サイドラップ

を密にする必要があることが分かった。なお、レーザ測

量と違い植生箇所の地表面はほとんど計測することがで

きなかったため、今後の撮影手法などについて再度検討

が必要である。

(4) 航空レーザ測量とUAV測量のコスト比較 精度を比較した航空レーザ測量とUAV測量を対象と

し、概算金額比較を実施したところ、UAV測量の方が

0.1km2程度の比較的面積が狭い領域でコスト上有利であ

った。しかし、1.0km2程度以上の面積では航空レーザー

測量がコスト上有利となる結果となった。これらは、

UAVが1フライトの撮影可能範囲が限定されることと

空中写真測量に必要な対空標識設置に係る作業が発生す

るため、面積が広くなればなるほどその作業分が増加す

ることが原因と考えられる。 表-4 航空レーザ測量とUAV測量の概算金額比較

(5) 定期横断測量とUAV測量のコスト比較 これまでに行われている定期横断測量により横断図を

作成する場合と、UAV測量により取得した3Dデータ

から横断図を作成する場合の概算金額を比較した。

【積算条件】 表-5 定期縦横断測量とUAV ①測量対象範囲: 測量の積算体系表

流心延長3.0km

(=UAV測量の日

当り撮影延長)

②測量幅:

190m(=UAV測量に

おける測量幅)

③測量本数:

16本(距離標間

隔を200mと想

定)

【比較結果】

通常の距離標間

隔(200m間 隔)における比較では、UAV測量による横断測量 の方がやや高くなる結果となったが、100m間隔にする

とコスト上有利となる。さらに、UAV測量においては

横断間隔間のデータも持つことになるためより細かな情

報取得においては有利になる。

表-6 定期縦横断測量とUAV測量の概算金額比較

6. まとめ

UAVを活用した写真測量を実施し、「航空レーザ測

量」との精度比較、写真測量結果を用いての横断図作成

と定期横断測量とのコスト比較を実施したところ、

UAVを活用した測量の効果が十分発揮できる条件は、

航空レーザ測量とのコスト比較では0.1 k㎡程度の比較的

狭い領域での活用で優位であることが分かった。また、

高度の精度等に関しては、既存の測量成果と比較すると

課題があるため、精度が要求される場面での適用は現時

点で難しいと考えられる。ただし、空中写真測量は、も

ともと航空機などを使用して上空から写真を撮影してそ

の写真を基に広範囲の地図を作る測量であり、UAVの長所(手軽に撮影可能,等)と短所(狭い領域に限られる,

等)に十分考慮すれば可能性は広がるものと期待できる。

単位:百万円

定期縦横断測量UAV撮影による横断図作成

備考

測量業務費(距離標間隔200m)

1.7(1.00)

1.9(1.12)

測量本数16本

測量業務費(距離標間隔100m)

2.8(1.65)

2.2(1.29)

測量本数31本

定期横断測量

規格 単位 数量 摘要

河川測量 式 1

作業計画 業務 1 作業計画

現地踏査 (km)式 3 現地踏査

河川定期横断測量

直接水準(平地)

平均測量幅:190m本 16

観測,横断面図作成,

点検整理

打合せ 式 1 3回

直接測量費 式 1

間接測量費 式 1 諸経費82%

種別・細別

単位:百万円面積

0.1km2

面積

1km2

面積

10km2 備考

航空レーザ測量 2.2 2.7 4.2 地図情報レベル500UAV測量 1.7 3.4 18.3

UAV撮影による横断測量

規格 単位 数量 摘要

UAVによる空中写真測量 式 1

計画準備 式 1 2人日

UAV撮影 式 1 5人×1日

対空標識設置 式 1 3人×1日

3Dモデル作成 式 1 0.57km2  7人日

横断面図作成 式 1 16本  4.5人日

報告書作成 式 1 4.5人日

打合せ 式 1 3回

測量業務費 式 1

間接測量費 式 1 諸経費82%

種別・細別