title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...in the...

13
Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 Author(s) 竜田, 憲和; 伴, 敏彦; 河井, 淳; 日笠, 頼則 Citation 日本外科宝函 (1966), 35(3): 584-595 Issue Date 1966-05-01 URL http://hdl.handle.net/2433/207302 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

Upload: others

Post on 12-Mar-2021

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経験

Author(s) 竜田, 憲和; 伴, 敏彦; 河井, 淳; 日笠, 頼則

Citation 日本外科宝函 (1966), 35(3): 584-595

Issue Date 1966-05-01

URL http://hdl.handle.net/2433/207302

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

Page 2: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

584 日本外科宝函第35巻第3号

マンニトール添加充填血を以てする

体外循環の臨床的経験

京都大学医学部外科学教室第2講座(指導:木村忠司教授)

竜田憲和,伴敏彦,河井 淳,日笠頼則

〔原稿受付:昭和41年 3月5日〕

Clinical experiences of extracorporeal circulation using mannitol as an additional agent to the priming blood

of heart lung machine

by

NoRIKAZU TATSUTA, TosmmKo BAN, JuN KAWAI

and Y ORINORI HrKASA

From the 2nd Surgical Division, Kyoto University Medical School (Director : Prof. Dr. Chuji Kimura)

In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20%

mannitol (2g/kg weight) as an additional agent to the priming blood of heart lung

machine. Twenty cases out of 35 heart lung bypass, in which we have used mannitol,

have been undergone with total perfusion shorter than 60 minutes, and 15回 sesover 60

minutes. The former group was named as IIA and the latter IIB. On the other hand,

IA was named for the group of 20 cases which had total perfusion shorter than 60

minutes and IB for the 10 cases over 60 minutes, in these groups was not used mannitol

as additional priming agent.

In all 4 groups, urine volume was measured frequently and electrolyte (Na, K, Ca,

Cl) in the serum and urine was measured in some回 ses.

Following results were obtained from our experiences.

1) In the IIA and IIB, water balance of patients was quickly corrected in 12~16

hours to the preoperative state, but in the IA and IB, water balance was corrected dur-

ing 2 days after operation. Mannitol was evidently effective to restore the water balance

to the normal state after cardiac surgery.

2) However, average urine volume (per kg. weight) during heart lung bypass

were almost same value in the IIA and IIB, though there was ca. 80 minutes of dif-

ference between average perfusion time of both groups. Consequently, mannitol was

thought ineffective to the renal functional disturbance during prolonged perfusion.

3) Mannitol as the additional agent to the priming blood of extracorporeal circula-

tion did not significantly influence the electrolyte balance of patients during and after

perfusion periods.

I.緒言

心臓外科の進歩に伴なって,複利U>.心疾患がその手

術対象として採りあげられるようになり,従って体外

循環時間も亦p それに伴なって,益々延長するといっ

た場合が屡々経験されるようになって来た.そして現

Page 3: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

585

われわれの教室で人工心肺による完全体外循環下に

直視下手術を施行した65例を対象としたが,それらを

表 I~4のように便宜上分類して論じてみることとし

た.

第IA群は完全体外循環時聞が60分以下の症例で,

7 ンニトールを全く使用していない群である.従って

心房中隔欠損症,心室中隔欠損症を主とする20例でp

部分体外循環時閣をも含めた総体外循環及び完全体外

循環時間の平均は夫々 44.5分と 31.5分となっている.

第IB群はマンニトールを使用することなく完全体外

循環を60分以上にわたり行なった10例である.本群に

属する症例は肺高血圧症を伴なう心室中隔欠損症p 僧

帽弁弁膜症,心内膜床欠損症を主としp 完全体外循環

時間は平均69分である.

第JIA群はp 人工心肺充填血にマンニトールを予め

添加F それをもって体外循環を行なった症例の中,完

全体外循環時閣が60分以内のもの20例ち第IA群と

マンニトール添加充填血を以てする体外循環の臨床的経験

いささかの知見を得たので報告したい.

II. 臨床的実験成績

在では,既に 2~3時間にわたる体外循環といえども

可成りの安全性をもって遂行され得るようになって来

たとはいえp なお現在一般に行なわれている体外循環

法では可成りの非生理的要素が未だ包合されている関

係上p やはり循環時間の延長に伴なって,術後ある程

度の悪影響がみられることは否めない.体外循環の施

行後にみられる合併症の中で腎機能障害の発来は最も

危険なものとされP 所謂 renalshut downというよう

な重篤な状態を招来する事すらあり得る.このため体

外循環技術の改善と共に種々の手段を構じてこのよう

な合併症の発来防止につとめることが肝要となって来

る.マンニトールが 6炭糖類マンノーズの還元型でp

優れた濠透圧利尿効果をもつことは既に周知の通り

も外科領域に於いては,術中術後の低血圧,腎乏血

等にもとずく腎不全の発生予防,治療p 脳浮腫の治療

等にその応用価値があるものとされてきた点に鑑み,

われわれは心疾患に対する直視下手術に際して行なう

体外循環中及びその術後の腎機能を可及的に保護する

目的からp 人工心肺充填血中に予めマンニトールを添

加,かかる充填血をもって体外循環を施行しp 此処に

IA群(マニトール非使用)表 1

完全体外循環時間(分)

31.5

RU

b

U

戸口只UFUFOQUFD

つ】

quFU

つbnUFbqJV

ワM

戸bFb

3

3

3

3

2

2

3

2

2

2

4

3

4

3

2

2

3

3

2

3

休外循環時間(分)

1

7

5

7

5

0

6

0

0

7

1

0

5

8

3

7

6

5

0

一5

4

5

4

6

3

3

4

3

6

4

4

5

5

4

2

4

4

4

3

5

-4

4

隔一隔隔隔隔隔隔隔隔隔隔隔隔隔一隔一珂隔隔弁隔

一房室室室一房一一室房室室房室室房房鰍房室勤房

病l性

体重(kg)

39.0

39.0

21.0

62.0

20.0

18.0

21.5

26.0

18.5

22.0

19.0

17.2

23.5

32.0

26.4

50.2

27.5

18.2

17.5

18.0

年一

1

1

2

令一

3

0

6

0

8

7

7

5

7

7

6

4

9

3

;七6

7

1

2

3

4

5

6

7

8

9

m

1

2

3

4

6

7

m

m口初一

I¥o.

Page 4: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

第 3号第35巻日本外科宝函586

|肺静脈部分還流異常

|心室中隔欠損

|心室中隔欠損

心室中隔欠損| 兼 心 房 中 隔 欠 損

僧帽弁狭窄兼閉鎖不全

|心内膜床欠損

|心内膜床欠損

[フアロー氏四徴症

僧帽弁狭窄兼閉鎖不全

|僧帽弁狭窄症

I B群(マニトール非使用)

完全体例循環時間(分)

nun4nu

pnuFhuphu

体外循環時間(分)

。。

7aRU

FO7’PO

名病

表2

』性

体重(kg)

21.5

31.0

28.0

:'¥o. I年令

6

12

11

90

2

5

6

5

1

2

氏υ円

t

taUFb

氏U

110

87

89

89

105

72

75

36.5

52.8

39.0

21.0

16.0

51.0

45.0

14

?“凋品志づ4

ε

U

b勺

t

q

L

1

A

q

υ

ワ白

4

。FO

マ’

auQdnυー

69 84

IIA群(マントール使用)表3

完達体外循環剛間(分)

bnuQυQJV14

良U

只uaunJ

只υnu

ワbnuraQd

つunU7eRUヴ

t

一nt

つdTA

勾ゐ

qd

つゐつムワゐ

1A

つhqd

つυqdnL

つムヮ’HqL

’I9d

つゐ一。,u

体外循環時間(分)

っdnununU

マanUOOFbnU

のムハunununUFbqaFD

にdooqo一

b

Aせっ

d

q

u

Aせ

qdndqunJ

つ-

qυAせ

A‘

s-qυ

つd

つd

ワ色丹ム瓜告つd

nJ

室室一房房室室房室房房房一房一一一房一房一室房房室一民

lili--

ilili--

lilili--

ゴ川河川崎直川崎ぽーは

f

nununurDAUnunuponunU

只d

n

U

4‘

FhunununvnunLRU

3

5

8

4

5

5

5

5

0

6

4

4

0

4

3

3

3

0

5

9

2

2

1

1

1

2

4

1

4

3

2

5

3

1

A

4

1

2

2

1

2

病』性体 重(kg) 令

6

0

0

5

5

7

1

4

8

8

0

3

0

5

8

4

9

0

5

0

年一

1

1

2

2

1

1

2

1

4

1

1

0

N

一1

2

3

4

5

6

7

8

9

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

0

-A1A1A1A1A1‘

1A1A1A1A

つ&

症, I市高血圧症を伴なう心室中隔欠損症を主としてい

る.平均完全体外循環時間は 107分で第IIA群と第E

B群との関には疾患の重症度から当然その体外循循時

間の長さに於いても相当の差が認、められる.

われわれの教室で現在使用している人工心肺装置は

同じく心房中隔欠損症及び心室中隔欠損症が主となっ

ている.従ってその平均完全体外循環時間も27分でp

第IA群と略々同じである.第EB群は,マンニトー

ルを予め充填血中に添加p それをもって60分以上にわ

たり完全体外循環を行なった15例でp フアロー氏四徴

Page 5: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

587 マンニトール添加充填血を以てする体外循環の臨床的経験

Il B群(マニトール使用)

体重(kg) i出畑環

時間(分)

80

80

90

表4

心室中隔欠損

心室中隠欠損

フアロー氏四徴症

大動脈弁閉鎖不全僧帽弁閉鎖不全

フアロー氏四徴症

フアロー氏四徴症

フアロー氏四徴症

フアロー氏四徴症

心室中隔欠損

フアロー氏四徴症

肺静脈還流異常

フアロー氏四徴症

心室中隔欠損

心室中隔欠損

フアロー氏四徴症

体外循環時間(分)

16.0

21.5

40.0

100

100

117

名病』性

令一

9

7

3

5

1

--

M川

1

2

3

160 210 男

51.0

33.0

21.5

53.0

20.4

18.0

16.5

15.0

18.0

40.0

17.0

35.4

47

4

。,UFbFU

マtFOFb勾

tηL

ヮ,tA

1

1

1

1

1

4

FhdpontoonvnU唱

A

ワ臼

q

3

4

4ゐ

CD

1

1

1

1

1

1

5

体循時

量(ml/kg)

~時後

口問問

尿

4時間後

外環

体循中術

融1~j 吋,~!:· I国(~~Ji孟~~諜 Im I

均平

2日目13日目14日間15日目

23 21 28 35 5 10 20 \一一ー一 一一一一ーー/

35

手術当日

26 qJ

1

1

89

41 16 32 125

(分〕

υ-

nJ 戸、uaaτ a斗企

A .

TE4

(分)

83

20 17 22 34 11 19 5 8.5 17 32 34 95 69.0 84.0 I B.

35

24

85

ハU弓dつ&nu

nhu n叫U

A .

宵且 23

28

24

26

21

29

25

30

21 16

53

16 26

28

9.3

29.0

19

129 /一一一ー一一ー___,、、一ーー一ー一一、、70 37 22

30 46 112

110 nu .

ゥ,AU

l

nHuw 戸、uaa-

- .

RU .

宵且

液を 2となるような割合に混和p 更にイプシロンを40

~60ml,アリナミン Fを20~40mlの割合に添加して

充填血とした.まわ術中常に血液pHを測定しつつ時

Pemco社製の NIH型人工心肺で,その充填血とし

て,体重に応じて3,200~6,000mlを使用している.第

I群ではへパリン血10に対し P.V.P.をl,アミノ酸溶

Page 6: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

588 日本外科宝函第35巻第3号

宜に応じて NaHC03による補正を行なった.第E書学::11 I A:cf

では以上のような組成を示す充混血中からアミノ酸溶

液のみを削除し,これに代って20~五マンニトールを体 Ji<. ro

重 1kg当り 2gの割合に添加した. 量 40

関心術は全例 G.O.F.麻酔下に行なった.但し,滋 30

流中に限り人工心肺を介して Fluothane麻酔を施行し 20 た.人工肺送入ガスとしては 100%酸素を用しv ガス

流量は原則として血液流量の 2~ 3倍とした.円板廻Io

転数は80~!OOc/min.となし,術中は手術野に co1ガ。

手2 3 4 S a I “T スをIl/minの流量で吹送した.第IB群及び第EB •

群の大多数のものに於いては,術中撰択的冠獲流冷却 図 1

を行ない,人為的心停止を招来せしめた上で直視下手 :~~I I B E手術を行なったが,それらの症例では,原則として血流

冷却による軽度低体温(30~32℃)を併用している. 尿 soまわ完全体外循環時の流量として,われわれは比較 量+o

的大流量を一般に使用しており p 表 5に示すように第30

I B群を除けば完全体外循環施行時の流量は平均 110

~125ml/min./kgとなっている.20

術中の輸液としては,主として5%プドー糖液と生 10

食水を用いたが,一部のものでは K• を含む所謂 Ba- 。ヰ

3 4 s •• lanced electrolyte solutionをも使用した.術中の輸血, 制日l 2

輸液量は表5に示すようにEB群に於いてp その他の 図 2

ものに較べて梢 大々となっているが,これは本群に属 cs角する症例が何れも比較的重症な心疾患を対象としたた 60 I llA I干

めであると考えられる.j.. 50

術後の輸液としては原則として 5%プドー糖液及び量 40

生食水(時には Balancedelectrolyte solutionを使用〕

を翌朝迄に20~30ml/ほとなるように静脈内に点滴補30

液している.そして翌朝からは原則として経口的水分 20

摂取を行なわしめ水分摂取量の少ないと恩われるもの 10

に対してのみ 30~40ml/同程度の補液を行なってい 。る. 手

2 3 4 S BB

以上のような方式で直視下手術を施行した65例につ笥田

いてみると,術後重篤な腎機能障害を来したものは』、図 3

だ 1例もない.併し術中,術後の尿量測定を集計して 7oをS| ー一一「 n B群みると各群の聞に可成り特徴的な所見方1認められた.

即ちp 図 l~4に示すように 4若手共p 手術当日の尿 尿 50

量は術前日あるいは術後数日を経てからの平均尿量を 量 40

上廻っている. 次に第I群と第E群とを比較してみる 30

と,術当日の尿量が第E群に於いて第I群よりも透か20

に大であり p 更に第I群の尿量増加は手術の翌日まで

持続しているのに対して第E群の尿量増加は術当日の10

みに止まっているといったように第I群と第E群との。

干2 3 4 5 88

間に著明な差異が認められた.術日

図 4

Page 7: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

589

在するにも拘らず.体外循環中の尿量はA群と B群と

の聞にやはり差異を認め難いが,術後から術後4時間

同までの尿量についてみると,この際にも B苦手の方が

マンニトール添加充填血を以てする体外循環の臨床的経験

I A群

体外・右求申1

11.-1 ~

-+ It! f主

12-1 b 包斗>'1 T生

4時晶間後

I B 群

4時A

刷後

5

6 図

体外進珠?

C匁s

c為

ZS-

IS"

zo

2S

r、/.0

.20

IS

5"

10

5"

京t

ところで術中p 術後の輸液量をみると,第EB群の

みが梢々大となっているがp 4群を通じて左程の大差

はなしまた,輸血も出血量に相当した重だけを行な

っているにも拘わらず上述のような著明な差異を認め

得たことは,次のように考えなくては説明がつかな

い.しかも第I群に於いては寧ろ充填血の稀釈率が第

E群よりも大でさえあったのであるから,以上のよう

な現象地:認められたのも,要は第E群に於いて充填血

中にマンニトールが予め添加され3 それをもって体外

循環を行なったためであるとしか考えぎるを得ない.

而して,以上の事実をもってすればp 完全体外循環に

際してマンニトールを使用することは,その利尿作用

によって関心術施行に際しての当該個体の水分出納状

態を術当日の聞に,個体自らのカによって速やかに補

正することを可能とならしめP 既に関心術施行の翌日

からは略々術前と同様の水分代謝状態に完全に後さし

め得ることが判明したわけである.いうまでもなく p

関心術に際しての輸液過剰は,ともすれば心不全の傾

向を招来,助長せしめることにもなるからp そのよう

な傾向を防止する意味からも完全体外循環施行に際し

てマンニトールを使用することは極めて合理的である

ということが出来よう.

以上の点のみについてみると第L第B群の何れに

於いても, 夫 の々 subgroupであるA群と B群との聞

に殆んどこれといった本質的な差異を認めることは出

来ない.併しp 更に術当日の尿量を術中の尿量p 術後

から 4時間固までの尿量,術後4時間関から翌朝まで

(術後12~16時間まで)の尿量といったように細かく

集計してみると可成り興味ある所見が得られる.

凶5,6にみられる如く第I群に於いてp そのA群と

B群とを比較してみると勿論両群の聞には,完全体外

循環時間及び対象とした疾患に大きな差異が存するこ

とはいうまでもないがp 夫々の体外循環施行時の諸条

件は全く同一であり,また共に輸血,輸液による水分

の出納状態は一応相似している筈である.その証拠に

は術前,術後の尿量の経過も, 1日量を比較すれば殆

んど両群の間に大差のない点からも明らかである.併

し上述のよ うに術当日の尿量を経時的に分割比較して

みると3 体外循環中の尿量はp 循環時間の長短に関係

なく全〈同量であるがp 術後から 4時間目迄の尿量は

B群の方がA群よりも明らかに多くなっている.

同様の事が図7,8の如く第E群に於けるA群と B群

との間にも認められる.殊に第E群ではA群と B群と

の完全体外循環時間の平均の聞には更に大きな差が存

Page 8: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

590

尿

量 20

尿

量 20

日本外科宝函第35巻第3号

11 A群

c為2S'

IS

IO

s

。体外屯挽申t

’&u

山一時期後

4時期後

図 7

liBi平

% 25'

IS"

ID

5

。体外増44札?

A

守時湖品市

IZ-1/,

且存南

fえ

図 8

A群よりも大となっている.二のような事実は完全体

外循環時間がある一定の限度を越えるとp 最早その後

は腎機能が多少共低下し尿量が極度に減少するこ とを

示すものといえよう.しかし,この程度の腎機能の低

下は, 未だ充分可逆的のものでp 完全体外循環が停止

され, 再び健常な循環状態に復しさえすれば,そこに

充分な利尿がつきP この聞に水分出納の乱れを直ちに

修正しようと個体が対処する事実を端的に示している

ものということが出来る.

また更に,第I群と第E群との体外循環中及び術後

の尿量の推移を細かく比較してみるとP 第11群では既

No.. {耳A.I革j

.._Ez/L

140

130

2

120

110 2 3 4 5 b

図9a 血清電解質の変動

7

司王1/Lce

(1IA~)

110

100

守0

z’

Bo 5" 6 7

図 9b

1 2

Page 9: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

マン ニトール添加充填血を以てする体外循環の臨床的経験 591

に体外循環中の尿量が第I群に較べて透かに大となっ

ている.斯る現象は第E群では充混血中に予めマンニ

トーJレが添加された上休外循環が行なわれたためとし

か考えられない.しかしP 此処で第I群及び第E群共

にその subgroupであるA群と B群と を較べてみると

体外循環時間の長短に関係なく常に体外循環中の尿量

が略同ーであるということに注目してみる必要があ

る.J:!Pち新る事実はマンニ トールの利尿効果というも

事、Yi,

2 ,

~D

+.o

'3.o ~

20 2 3

民可A

f(

(!A#)

4 S"

図 9c

<A. CIA.If)

ι 7

+.o I、〉(\/

3.0

2.0

2 3 + S' {, 7

図 9d

のが,体外循環延長による腎機能の低下そのものに対

しては予防的な効果を有していないとい う事, < ンニ

トールの添加充填血をもって体外循環を行なった際p

体外循集中の尿f置が大となるのも要は体外循環開始早

期に大量の排尿を促がしているためであるという事を

示すものである.ただ前述の如く体外循環後の水分出

納の乱れを速やかに修正せんとする効果は大でありp

換言すれば体外循環によって一時的とはいえ低下した

.. ~,k N札

( H.Bj平)

1+0

130

120

じ2 3 4 S" 6 7

図 9e

•E1/1.. u

(!LB昌平}

//0

/00

90 〆/

2’

~o l 2 3 4 S6 7

図 9f

Page 10: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

592 日本外科宝函第35巻第3号

腎機能の正常快復を促がしているという意味では大き

な効果を有しているように思われる.

以上の所見を綜合すると,体外循環に於けるマンー

トールの使用は,体外循環後の水分出納の乱れを修正

するために甚だ有効である.併し充填血中にマンニト

ールを添加,使用するのが有利か,或いは潅流中叉は

海流終了後に使用するのがよし、かについては,尚別の

見地からの検討が必要と恩われる.

なお,体外循環中及びその後の電解質濃度の変動p

明 Ez/L k (JI.Bi干)

2’

S:o

4.0 ~ \ / \ ノ/

2.0 2 3 4 s ι マ

図 9g

•Et(L CQ.

(JI B群)

4.0 r "" /一一ー~~『

〉/z’

3.o f

".o 2 3 + 吉 b 7

図 9h

及び尿中電解質排池をも第E群の一部について測定し

てみた.その結果を示したのが図9,10である.体外循

環に際して全く血清電解質濃度の変動が認められない

かというと,そうではなし必ず人工心肺運転開始直

後には比較的著明な血清電解質濃度の変動が一時的な

がら認められるのである.しかしF このように一旦は

変動を示した血清電解質濃度も体外循環中に殆んど術

前の値に復し,その後もこれといった変動を示さない

のが通常である.従ってこのような事実は充填血を採

血してからの経過時間やp その血液稀釈の程度が体外

循環開始直後の一時的血清電解質濃度の変動を招来す

る原因となっていることを推測せしめる.そして第E

A群と第EB群との聞にも殆んどとれといった差異が

N久

( rr A群)

30

2S-

20

I~

10

τ

。イ本 4 12-/L

三9種ト 京 B奇I~

? 4主 ?え

図10a 尿中電解質排f世量

Page 11: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

マンニトール添加充填血を以てする体外循環の臨床的経験 593

2‘v

α OZ:A .;i)

認められないところからみてP 体外循環そのものF あ

るいはマンニトールの使用がp 血清電解質濃度にさし

たる影響を及ぼすものではないことが判明した. また

尿中電解質排池量を尿量と比較してみてもマンニトー

ルの充輿血への添加そのものが電解質の大量排池を促

がしていると息われるような所見は全く認められなか

った.

III.結 語

1) 関心術に際してF 体外循環用充填血中に予めマ

ン=トールを添加しておく時は3 当該個体が既に手術

当日の中にその水分の出納状態を速やかに補正するこ

とを可能ならしめpそれを全く健常状態に復さしめる.

2)併し,マンニトールの充填血中への添加はp 体

外循環開始直後に限り,利尿を促がすに過ぎずp 体外

片~Et

<I A~手)3o

Z!;"

図 10c

循環時間がある一定の限界を超えると最早その利尿効

果を示さないように忠われる.

3) とはいうもののP 体外循環が終了し,再び個体

が健常な循環状態を示すようになった場合3 マンニト

ールを添加した充填血で体外循環が行なわれた場合に

はp そうでない場合に較べて体外循環によって一時的

とはいえ-J'!.低下した腎機能の快復がより一層速やか

に行在われる.

4) 2)及び3)に述べたよ うなマンニト ールの効果に

よって結局I)のような綜合的好結果が招来され得るも

のと考えられる.

5) 充撲血中へのマンニトールの添加は,体外循環

時の電解賀代謝に何等の悪影響を及ぼすものではな

し、

Page 12: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

594 日本外科宝函第35巻 第3号

"'' N久 Cl ( ][ B群) 仁Z8.f革j

1'¥J

2S i.守

20 2、。

IS !、T

10 l、O

5 ~ o.~

。体件・噂叫す1

4時向後

12・'"B寺向f失

図 lOd

6) 以上の事実から充填血中に予めマンニトールを

添加して体外循環を行なうことは極めて合理的と考え

られる.

稿を終るに当り P マンニトーノレを提供された森下製

薬に対し謝意を表する

文献

1) Berman, L.B., L.L. Smith, G.D. Chisholtn and

R.E. Weston : Mannitol and renal function in

cardiovascular surgery. Arch. Surg., 88, 239,

1964.

2J Cheney, F.W., Jr .. Rand, F.W. and Lincoln,

J.R. : Mannitol induc吋 diuresisー Itseffect on

serum and urine sodium concentration. Arch.

。図 10e

Surg., 88 : 197, 1964.

3) Hallwachs, 0. : Klinische Untersuchungen ii~町

die Mannitol・Diuresean G白undenund posto-

perativen Patienten. Klin. Wschr., 43: 546, 1965.

4) Lilien, 0. M., St. G. Jon邑 andC.B. Mueller :

The mechanism of mannitol di町田is.Surg.

Gynec. Obst., 117 : 281, 1963.

5) p回 rce,C. W. and Greech, 0., Jr., : Eff,町tsof

increased osmolarity on hemolysis in extracor-

戸Y回 lcirc山ts.S. Forum, HL, 105, 1963.

6 I Porter, G.A., Sutherland, D.W., McCord, C.W ..

Starr, A., Griswold, H. E. and Kimsey. J. :

Prevention of excess hemolysis during αrdio-

pulmonary bypass by the u田 ofmannitol. Cir-

culation, 27 : 824, 1963.

7 I Powers, S. R., Baba, A., Hostnik, W. and

Stein, A. : Prevention of pastoperative acute

Page 13: Title マンニトール添加充塡血を以てする体外循環の臨床的経 …...In the recent series of extracorporeal circulation in our clinic, we have used 20% mannitol

納ti

2t

zo

I~

マンニトール添加充填血を以てする体外循環の臨床的経験 595

k

( n: B鮮)

イ本今時

ミ '" 4生?

図書IOf

12-14 B奇l句

fえ

renal failure with mannitol in 100α鈴s.

Surgery, 55 : 15,1964.

8) Smith, M. L.. Beiman, L. B. and Chisholm,

G.D. : Effect of mannitol renal function during

cardiovascular surgery. S. Forum, 14 : 103,

1963.

9) Trimble, A. S., Hait, M. R., Osborn, J. J. and

Gerbode, F. : Mannitol and extracorporeal cir-

culation. J. Thoracic and Cardiovasc. Surg., 49

: 307, 1965.

10) Yeh, T. J .. Brackney, E. L., Hall, D. P. and

Elli日n,R. G. : Renal complications of open

heart surgery : Predisposing factors, prevention

and management. J. Thoracic and Cardiovasc.

Surg., 47・79,1964.