Title 腎・膀胱マラコプラキアの1例

Author(s)久保, 雅弘; 善本, 哲郎; 小池, 宏; 細川, 尚三; 有馬, 正明; 森,義則; 生駒, 文彦; 植松, 邦夫; 松岡, 孝昌; 澤田, 幸男; 能勢,順仁

Citation 泌尿器科紀要 (1991), 37(2): 169-173

Issue Date 1991-02

URL http://hdl.handle.net/2433/117110

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌尿 紀 要37!169-173,1991 169

腎 ・膀 胱 マ ラ コ プ ラキ ア の1例

兵庫医科大学泌尿器科学教室(主 任:生 駒文彦教授)

久保 雅弘,善 本 哲郎,小 池 宏,細 川 尚三

有馬 正明,森 義則,生 駒 文彦

兵庫医科大学病院病理部(主 任:植 松邦夫教授)

植松 邦夫,松 岡 孝昌,澤 田 幸男

西宮市立中央病院(院 長:平 尾文男)

能 勢 順 仁

A CASE OF MALAKOPLAKIA OF THE KIDNEY

AND URINARY BLADDER

Masahiro Kubo, Teturo Yoshimoto, Hiroshi Koike,

Shuzou Hosokawa, Masaaki Arima, Yoshinori Mori

and Fumihiko Ikoma

From the Department of Urology, Hyogo College of Medicine

Kunio Uematsu, Takamasa Matsuoka and Yukio Sawada

From the Department of Hospital Pathology, Hyogo College of Medicine

Yorihito Nose

From the Nishinomiya City Central Hospital

A case of malakoplakia which co-existed in the kidney and the urinary bladder is reported. The patient was a 51-year-old female who had been suffering from asymptomatic macroscopic hema-turia. Cystoscopic examination revealed multiple yellow-red nodules in the posterior and lateral wall of the bladder. Transurethral punch biopsy of the mucosa was performed and histopathological examination of the specimens revealed the diagnosis of malakoplakia. The laboratory data at admission were within normal limits except for slightly accelerated erythrocyte sedimentation rate. The culture of urine was negative. The cytology of urine was interpreted as Papanicolaou class I. Intravenous pyelography demonstrated filling defect of the left upper renal calyx, which was confirmed by retrograde pyelography. Computerized tomography showed dilatation of the left upper calyx. An exploratory operation disclosed that the upper calyceal neck was obstructed by several small nodular lesions, which were very similar to the lesions in the bladder. Because intraoperative

pathological diagnosis of the frozen section was malakoplakia, partial nephrectomy was performed. Histopathological examination of the kidney and the bladder showed typical Michaelis-Gutmann bodies in the granulomatous lesions. Follow-up examinations 4 months after operation revealed some residual lesions in the bladder which were treated with bethanechol, but no recurrence in the kidney.

(Acta Urol. Jpn. 37: 169-173, 1991)

Key words: Malakoplakia of the bladder, Malakoplakia of the kidney, Michaelis-Gutmann bodies

緒 言

マ ラ コ プ ラ キ ア は病 理 組 織学 的Yom,Michelis-Gut-

mann小 体 を 有 す る組 織 球 の存 在 を 特徴 とす る慢 性

肉芽腫性炎症性疾患 であ り,病 因 としては大腸菌感染

との関連が報告 されてい る.本 症 は膀胱 を初め とす る

尿路系に好発 し,近 年 ではその報告例 も年 々増加 して

いるが,腎 マラコプ ラキアの報告例は少ない.わ れわ

170 泌尿紀要37巻2号1991年

れ は最近腎お よび膀胱に発生 した1例 を経験 したので,

若 干の文献的考察 を加 え報告する.

症

患者=51歳,女 子,主 婦

主訴:無 症候性 肉眼的血尿

家族歴=特 記すべ きことな し

例

既往歴:胆石症(41歳 か ら),膀 胱炎3回(25歳 か ら).

現病歴=1988年7月 に無症候性 肉眼的血尿に気 付い

たが放置.そ の後 も間欠的に血 尿が続いたため,1989

年6月 に西宮市立中央病院泌尿器科を受診.膀 胱 鏡検

査で黄赤色調 の多発性隆起性病変を認めたため生検が

施行 され,組 織学的に マラコプ ラキアの疑い と診 断さ

れた.同 年7月 に精査のために兵庫医科大学泌尿器科

に紹 介された.

現症=身 長149.5cm,体 重53kg,血 圧130/70

mmHg,体 温36.1℃,脈 拍66/min.体 格栄養中等度.

胸部に異常 なし.腹部は平坦 で軟,腎 ・肝・脾 は触知せず.

入 院時検査成績:血 液一般;ESRl7mm!lhrと

軽度 上昇 している以外に異常を認めず,血 液生化学;

蛋 白分画正常,血 清免疫 グ ロブ リン正 常,GRPOmg/

d1,そ の他,肝 機能,腎 機能 に異 常を 認めず.尿 検

査;淡 黄色清,比 重1.02,pH6.0,蛋 白陰性,糖 陰性.

沈査=RBC2～4/hpf,wBc6～8/hpf,扁 平上皮5～

7/hpf.培 養:結 核菌陰性,一 一般細 菌陰 性.細 胞診:

classI

膀胱鏡所見:膀 胱 後壁か ら側壁に かけて大豆 大で

周囲の正常粘 膜 と境 界明瞭 な黄赤色 の非乳頭状 ・広基

解 「

RSA..:'.

熱黒臨』

・牽

糞・

轡

藍 魏.目」■喩 磐 號 一 一・4

Fig.2.Intravenouspyelographydemonstrated

fillingdefectoftheleftupperrenal

calyx.

Fig.3. Computerizedtomographyshoweddilata-

tionoftheleftupperrenalcalyx.

Fig.i.Cystoscopicexaminationrevealedye1-

low-rednoduleintheposteriorand

lateralwallofthebladder.

性の隆起性病変が5～6ヵ 所み られ た(Fig.1)・

レ線所見:排 泄性腎孟造 影像(Fig.2)で は右腎は

正常 であったが,左 上腎杯 の描 出はな く,逆行性腎孟造

影像 にても同部位の描出はなかった.ま た,KUBで

3×2・5cm大 の胆石 を認めた.な お,排 尿時膀胱 尿道

造影像 ではVURを 認めなか った;腎CT(Fig・3)

では左上腎杯 の拡張 と腎実 質の菲薄化を認め,腎 の超

音波断層像で も左上腎杯 の拡 張を認めた.1989年7月

31日 に腰椎 麻酔下に膀胱内の隆起性病変を経尿道的に

切除 した.ま た,左 腎は腎孟腫瘍 も否定 し切れ なかっ

たため,1989年8月21日 に 左腰部斜切開の もとに手術

を施行 した.左 腎上半分は周 囲と中等度 癒着を認 め,

上極の腎実質は菲薄化 していた,菲 薄化 した腎実質を

切開 し拡張 した上腎杯 内を観察す ると,上 腎杯頸部は

強度の狭窄 となってお り腎杯粘 膜に膀胱マ ラコプラキ

久 保,ほ か=腎 ・膀 胱 マ ラ コプ ラ キ ア iii

ノ

ハ

y

1つ流姦 。 、拷 、 、㌔'、 酔

町.』,.凋 ご1卜鞭

・

為4

ンジ.4

ζ ・,

Fig.4.Atoperationasmallnodularlesion

(arrow)attheleftupperrenalcalyxwasfound,whichwasverysimilarwiththelesionsinthebladder.

アと肉眼的に よく似 た病変を数 ヵ所認めた(Fig・4)・

術中迅 速病理組織診にてマ ラコプラキアとの診断を得

たため,左 腎部分切除術を施 行 した.

病理組 織学的 所見:膀 胱 の病 変 も腎杯 の病 変 もほ

ぼ同様であ り,組 織のHE染 色 では大型の組織球 が

多数見 られ,そ の細胞質にはヘマ トキシ リンに淡 く染

色 され る 円形 封 入 体 で あ るMichaelis-Gutmann

bodies(以 下,M-G小 体 と略す)を 認めた.鉄 染色で

は一部のM-G小 体が陽性に染色 されていた.ま た,

vonKossa染 色ではM-G小 体 が一様に黒色に染色

され カル シウム陽性 と判断 された.電 顕像では,中 心

部に高密度の結 晶様構造物 とこれ を とりま く2層 の同

心 円状の膜様構 造 物 か らな るM-G小 体 を 認 め た

(Fig.5).

術後経過:抗 生物質 とブタネ コールの 内服 にて経過

観察中であるが,術 後4カ 月 目の現在,残 存 した膀胱

マラコプラキアの縮小を認め,腎 マ ラコプラキ アにつ

いては再 発を見ていない.

考 察

マラコプ ラキアは,病 理組織学的にM-G小 体を有

す る組織球の存在を特徴 とす る慢性炎症性 肉芽腫 であ

る。われ われが調べえた限 りでは尿路性器 マラコプラ

キアは 自験例 も含めて116例 が 本 邦 で報 告 され てい

る1-19).そ の うち男子38例,女 子78例 で,好 発年齢は,

女子が54.5歳 で,男 子が57.2歳 であ った.ま た,部位

別発生頻度は,膀 胱が もっとも多 く85症例(70%)で

っいで前立腺 ・腎の順 であった(Tablel)・

膀胱 マラコプラキアの症状は男女 ともに肉眼的血尿

が多 く,つ いで排 尿痛 ・頻尿の順であ り,と くに女子

では膿尿 も高率に認め られている。

腎マラコプラキアは非常V`稀 な ものであ り,こ れに

Fig.5.Photographsofandelectronmricosco-

picexaminationofthelesionsattheleftuppercalyxshowedaMichaelis-

Gutmannbody,thesinequanon.

Table1. 尿路性器 マラコプラキアの部位別発生頻 度

(本邦報告例)

病変部位 症例数(%)

後腹膜

腎

尿 管

膀 胱

尿 道

前立腺

睾 丸

副睾丸

2

5*

2

85*

2

20

4

2

(2)

(4)

(2)

(70)

(2)

(is)

(3)

(2)

合計 izz(ioo)

寧:自験例 を含 む

ついては腎実質 のマラコプラキアと腎孟 のマ ラコプラ

キアがある20).腎 実質のマ ラコプラキアの中には両側

性に発生 して腎不全に至る重篤 なもの もある2D.腎 孟

のマラコプ ラキアは尿流通過 障害を きた し水腎症の原

因 となる こともある22).ま た通過障害を きた した尿管

マラコプラキアの症例 も報告 されている23,24).自験例

は上腎杯頸 部の通過障害を きた した腎孟の マラコプラ

キアであ り,原 因不 明の水腎症 の鑑別診断にマ ラコプ

ラキアも考えに入れておかねばならない.

自験例の ような尿路2ヵ 所 以上に 同時発生 したマラ

コプラキアはきわめて稀 であ り,本 邦では 自験例 も含

めて5例 が報告 されているのみである(Table2).

M-G小 体 は,組 織学的に非常に電子密度の高い微

細な結晶様構造物の集合体 であ り,そ の周囲に淡明体

(halo)を 有す ることが多 く,内 部構造は 複雑で二 重

あるいは三重 の同心 円状の濃淡 を認め,小 型球形 の膜

様物をその中に含んでいる こともある.そ の形成 過程

は組織球に取 り込 まれた細 菌の消化過程で何 らかの消

化不全が生L',細 菌の崩壊産物を 含んだ ライ ソゾーム

に,Ca,phosphate,Feな どが沈着 し形成 される と考

172

Table2.

泌尿紀要37巻2号199夏 年

尿路性器マ ラコプ ラキア多臓器同時発生例(本 邦発報告例)

症例 報告者 年 年齢 性別 病 変 部 診断根拠 治 療 予 後

1/1、 泉 ら18)ユ98372F

2

3

4

5

村 田 ら7)198549F

水 永 ら15)198858F

森 山 ら19)198942M

自験 例198951F

横行結腸 ・腎 剖 検尿管・膀胱

膀胱 ・尿道

尿管 ・膀胱

睾丸 ・副睾丸

膀 胱腎

組織診

生 検

組織診

組織診組織診

TUR

Bethanechol

除睾 術

TUR

腎部分切除術Bethanechol

死 亡

再発なし

改善

再発なし

改 善再発なし

Table3.膀 胱マ ラコプラキアに対する治療法 と予後

(本邦報告例)

治 療 法 症例数 消失 改善 不明

化 学 療 法 の み

TUR,TUCの み

Bethanecholの み

化 学 療 法+Bethanechol

TUR,TUC+化 学 療 法

TUR,TUC十Bethanechol

TUR,TUC+化 学 療法+Bethanechol

Open切 除術

膀 胱 部 分 切 除術

膀 胱 全 摘 除術

不 明

22

9

3

4

3

1

2

2

3

3

33

5

2

0

1

2

i

1

0

1

3

2

0

2

2

0

0

1*

0

0

0

ユ5

1

i

1

1

0

0

2

z

O

33

合 計 8516762

*;自 験例

え られ て い る25).ま た,M-G小 体 内 に大 腸 菌 の 抗 原 が

免 疫 組 織 学的 に 証 明 され26),マ ラ コプ ラ キ アの患 老 に

お い て単 核 球 機 能 上,大 腸菌 属 に 対 す る遊 走 能 お よび

貧 食 能 は正 常 だ が,殺 菌力 の低 下 を 認 め た との報 告 も

あ る27単 核 球 の機 能 低 下 は細 胞 内 のcyclic-GMPが

減 少 した た め,細 胞 内運 動 の中 心 で あ るmicrotubules

の 機 能 が低 下 した こ とに よる と考 え ら れ て い る.こ

の ため,cyclic-GMPの 上 昇 を刺 激 す るcholiner-

gicagonist(bethanecholchloride)が,治 療 薬 の

一 つ と して現 在 使用 され て い る28・29).

M-G小 体 は マ ラ コ プラ キ アに 特 異 的 に 認 め られ る

が,そ の病 期 に よ ってearlyphasc,fibrosingphase

で はM-G小 体 を み る こ とは稀 で,cIassicorgranu-

lomatousphaseに お い てtypicalに 出現 す る と考 え

られ て い る3の.

マ ラ コ プ ラキ アの 病 因 と して 大腸 菌 感染 の重 要 性 が

指 摘 され て い る.本 邦 報 告 例 に お け る尿培 養 で の 大 腸

菌 の検 出 率 は,尿 路 マ ラ コ プ ラキ ア(腎 ・尿 管 ・膀 胱

・尿 道 ・前立 腺)に 限 る と不 明33例 を 除 く76例 の うち

65例(85.5%)に 大 腸 菌 を 認 め て い る.自 験 例 に お い

て は 尿培 養 に て大 腸 菌 は 検 出 され て い ない が,膀 胱 炎

の既往歴があ り,陰 性例 については病歴を検討するこ

とが重要である と考z.ら れ る.ま た,睾 丸 副睾丸

お よび後腹膜 のマ ラコプ ラキア報告例において も尿培

養にて大腸菌 が検 出されてお り,そ の感染経路 につい

ては更に検討が必要 であ ろ う.

膀胱 マ ラコプ ラキアの治療法 としては,化 学療法,

経尿道的切除術,bethanechol投 与 お よびその 組み

合わせが主に施行 されている(Table3).そ の治療効

果 はおおむね良好で,85例 の うち不 明を除 いた23例 の

全例 に病変の消失あるいは改善を認め ている3-17,19).

このこ とか ら患者にで きえる限 り侵襲の少 ない治療法

を選択すべ きことが示唆 され る.ま た,抗 菌剤あるい

はbethanecholの 投 与のみで治癒す ることもあるよ

うであるが,膀 胱腫瘍の疑 いがあ れぽ 経尿 道的 切除

(TUR)と 組 織検査 の必要があ ると思われ る.

腎 マ ラコプラキアの本邦報告例5例 の うち1例 は剖

検例 で,1例 は治療法 不明で,残 る3例 の うち腎摘除

例2例,腎 部分切除術1例(自 験例)で あ った.マ ラ

コプラキアの診断がつけばできるだけ腎保存的治療が

望 ましい と考え られ る.

結 語

51歳 に見 られた腎 と膀胱 のマラコプラキ ア同時発生

の1例 を報告 した.腎 に対 しては腎部分 切除術が,膀

胱に対 してはTUR.後 にbethanecho1投 与が行わ

れ,良 好な結果 が得 られた.

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