title 公共政策大学院生に求めたい事 : 「名こそ惜 …title...

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Title <教授論文>公共政策大学院生に求めたい事 : 「名こそ惜 しけれ」のエリートたれ Author(s) 佐伯, 英隆 Citation 公共空間 : 政策の現場から最前線を伝える情報誌 (2015), 2015 Spring + Autumn (Vol. 14): 44-47 Issue Date 2015 URL http://hdl.handle.net/2433/216805 Right Type Article Textversion publisher Kyoto University

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  • Title 公共政策大学院生に求めたい事 : 「名こそ惜しけれ」のエリートたれ

    Author(s) 佐伯, 英隆

    Citation 公共空間 : 政策の現場から最前線を伝える情報誌 (2015),2015 Spring + Autumn (Vol. 14): 44-47

    Issue Date 2015

    URL http://hdl.handle.net/2433/216805

    Right

    Type Article

    Textversion publisher

    Kyoto University

  • 飢㎜㎜佑㎝面西離腱゚㎞伽胸

    共政

    大学

    に求

    めた

    い事1

    「名

    こそ惜

    しけれ」のエリートたれ

    京都大学公共政策大学院

    名誉フエロー

    々の公共政策大学院

    も今年設立

    一〇年目を

    迎えます。設立当初

    の第

    一期生入学試験

    から本

    大学院に関わ

    った者として、

    「感慨

    ひとしお」と

    言う

    のは大げさ

    ですが、

    の度、公共空間から

    「公共政策大学院生に求

    める事」に

    ついて書けと

    の依頼を受け、

    丁度良き

    一つの節

    目として、日

    ごろ考え

    ている事等を寄稿させて頂きます。

    の十

    年、

    「社会

    エリー

    ト」

    を育

    てよ

    て来

    た。

    は社

    エリー

    て巣

    って欲

    い。

    し、

    の無

    いよ

    に。

    の申

    「エリ

    ト」

    は、

    地位

    歴、

    ・収

    の多寡

    てや家

    の美

    一切

    関係

    であ

    り、

    一口

    せば

    位や

    など

    の社会

    てはぎ取

    った

    一人

    の人間とし

    て、

    「あ

    つをリー

    にす

    れば

    く行

    ではな

    いか

    と、

    とな

    に思

    よう

    いう

    の持

    ち主

    の事

    であ

    りま

    す。

    判り易くす

    るために、

    一つ極端な例

    を挙げま

    す。数年前

    の東北大震災

    の被災地

    の真

    っただ中、

    偶然生き残

    った

    一群

    の人

    々が、次に取るべき行

    動によ

    って生死が分

    かれるような極め

    て非

    日常

    的な状況

    -右に行く

    べきか左

    に逃げ

    るべきか、

    食糧確保

    に走るか防寒を優先す

    べきか

    に立た

    されたと

    しましょう。

    こう

    いう状況

    の下では、

    の瞬間

    の社会的地位や学歴、

    お金など何

    の役

    にも立

    たな

    い。

    背景

    も価

    値観

    も別

    々で、

    ただ

    「生き延びたい」と

    いう本能だけを共有す

    るバラ

    バラな個人

    の集合が有るだけ

    の状況です。

    こう

    いう状況

    の場合、殆どと言

    ってよ

    い程、

    その場

    を取り仕切るリーダー的な人が出

    て来てきます。

    のリーダー的な

    人の判断が常

    に正し

    いとは限

    らず、

    場合

    によ

    っては集団として悲惨な結末を

    迎える事も有

    りますが、

    いず

    れにせよ、

    その集

    団が

    一旦そ

    の人をリーダーとして受け入れたら、

    皆、

    何となくそ

    の人に従

    って行動するよう

    にな

    ります。何故

    でしょうか。

    「ヒト」と

    いう生き物は、如何に

    「個性が大切」、

    「個

    の確立が重要」とは言

    っても、所詮、単体

    は生きていけな

    い弱

    い哺

    乳類

    です。

    人類は太古

    の昔から、集団として存在す

    る事により、自然

    の脅威から生き延び

    て来ました。

    「個人が大切」

    とば

    かり、俺

    は自分

    の道を

    一人で行くと集団か

    ら離れた人間も居たでしょうが、

    そう

    いう人間

    は大概、怪我や病気で孤独に死ぬか、肉食獣に

    い殺さ

    れてしま

    ったので、そ

    の人の遺伝

    子は

    現代

    の人類

    に引き継がれる事はありませんでし

    た。現在、

    生存

    している人類は皆、集団と

    いう

    メカ

    ニズ

    ムに守られてその生存

    を確保し

    てきた

    「ヒト」の子孫

    ですから、我

    々のDNAには

    「集

    で行動す

    る事

    の重要さ」が刻み込まれ

    ていま

    す。従

    って、人間は

    「これはち

    っとヤバ

    いそ」

    とか

    「これは重大だぞ」と感じた時

    には自然

    「群れる」ようになります。地震

    でかなり揺れが

    酷か

    った時など、

    揺れが収ま

    ったから皆、

    出ますね。

    そして普段は言葉も交わした

    こと

    い隣近所の人たちと、

    「いや、凄か

    ったですね」

    等と、ごく自然に会話が成立しますよね。

    の気持ち

    「群れたい」気持ち

    は、我

    々の体

    のDNAの仕業

    です。

    て、

    が集

    て行動

    るた

    は、

    「仕

    役」

    ーリ

    ーダ

    ーが

    です

    では

    のよう

    人が

    「仕

    り役

    にな

    ので

    ょう

    か。

    い換

    れば

    ーダ

    ーた

    る資

    要件

    は何

    か、を考

    てみた

    いと思

    いま

    す。

    間内工共公44

  • ㎜血梧㎎゚恥1520

    先ず、自

    の事だけではなく、他

    の構成員

    事も考えることが出来るという資質が必要でしょ

    う。

    人間、誰しも自分が

    一番大切です。

    これは

    個としての生存本能ですから当たり前

    の事

    です。

    しかし、自分だけ、或は自

    の身内だけが良け

    れば良

    いと

    いう

    人をリーダ

    ーに担ぎ

    上げた

    いと

    は誰

    も思

    いません。自分が

    一番大切と

    いう前提

    で、

    同時に他人である他

    の構成員

    の事も

    (そ

    にな

    って)考え

    てや

    る事が出来ると

    いう資質、

    これが基本です。程度

    の問題

    ではありますが、

    場合

    によ

    っては、自分な

    いし自分

    の身内が、多

    少不利を蒙

    っても

    (或は、得

    べかりし利益を若

    干喪失

    しても)他

    の構成員

    のために何

    かを為す

    おおやけ

    ことも必要

    でし

    ょう。

    の心を持

    つ」と

    う事

    です。

    我が大学院は当然

    の事ですが、公務

    員志望者が多数を占めますが、本心から皆

    の為

    に、

    地域

    の為

    に、国家

    の為

    に、何かをした

    い、

    おおやけ

    そう

    いう気持ち

    の無

    い人、

    の心」を持た

    い人は、公務員

    になるべき

    ではありません。

    の言葉

    一つだけを切り出すと誤解

    を生

    じるか

    も知れませんが、

    「やさしさ」と

    いう言葉

    で表現

    できるかも知れません。

    に、

    ーダ

    のは公

    ・公

    でな

    れば

    せん。

    ・公

    一口で言

    ますが、私は公平とは主として内容面において、

    公正とは主として手続き面において、偏

    りのな

    い事だと理解

    して

    います。

    の構成員

    の事を考

    てや

    る事が出来

    るとし

    ても、

    その扱

    いが特定

    の個

    人やグ

    ループを厚遇したり、反対に冷遇

    たりす

    るような者

    は、リーダ

    ーと

    しての地位を

    保持する事は出来ません。

    三番目に必要な事は、

    の仕切り役

    の人の判

    断、決断や指示

    の、結果としての

    「正しさ」

    しょう。誤

    った判断を下し続け

    る者

    には、誰も

    ついて行

    こうとは思わなくな

    るのは、

    これも当

    の事

    です。

    しかし、世

    の中

    の事は、

    殆どの場

    「や

    ってみなければ、

    わからな

    い」

    ので、結

    果が全

    てであり、事前

    に絶

    対的な正しさが証明

    できるわけ

    ではありません。

    その前

    提で

    「正し

    い」

    (鍵カ

    ッコ付きですが)判断を下すうえで必

    要なも

    のは、知識と経験、そしてそれらを適切

    に当

    てはめる

    「知恵」

    (場合によ

    っては、経験が

    役に立たな

    いと

    いう判断が出来る知恵も含

    めて)

    だと思

    います。教室と

    いう学校教育

    の場

    で、皆

    さんに伝授する

    ことが出来

    る事

    の大部分

    は、

    の第

    の要素に集中

    しています。逆に言えば、

    教室

    では皆さんに

    エリートたる資質

    一部

    しか

    伝授

    できな

    いので、残りは自分

    の力

    で獲得

    して

    もらわなければなりません。

    そして、最後に、

    これが

    一番強

    調した

    い事

    おおやけ

    もあ

    るのですが、

    の心を持ち、

    公平

    ・公

    正で、知恵があ

    っても、

    それだけではリーダ

    して担が

    れるには不足です。

    上記三要件を満

    たした上で、更に周囲

    の者に

    「こい

    つは立派だ」

    と思わせる

    「美的な何

    ・人としての魅力」が

    必要

    でしょう。そ

    の美的な何かを感

    じさせる徳

    目には、正直

    であるとか、誠実であるとかといっ

    た基本的徳目から、不屈の精神力、勇気や潔さ、

    々様

    々あ

    ると思

    いますが、リーダーとして最

    も重要な徳

    目の

    一つであるにも関わらず、

    近年

    ことさらに、また意図的

    に軽視さ

    れている

    のが

    「名を惜

    しむ」という徳目である考え

    ています

    で、これに

    ついて少し述

    べてみたいと思

    います。

    ここ

    で云う

    「名」

    は、

    「仰げ

    ば尊

    し」

    に歌詞

    に出

    「身

    を立

    て、

    を挙

    「名

    平家

    の武

    のセ

    「名

    こそ惜

    しけ

    れ」

    「名

    であ

    りま

    す。

    のよう

    に立

    たさ

    ても

    て恥

    い事

    を重

    よ。

    いう徳

    の事

    です。

    これ

    を仮

    「名

    こそ惜

    れ」

    エト

    (持

    性)

    と名

    す。

    これ

    の対極

    にあ

    エト

    スが

    「命

    って

    の物

    種」

    エト

    スでし

    ょう。

    45間空共公

  • 飢㎜㎜佑㎝面西離腱゚㎞伽胸

    今、世

    の中

    「命あ

    って

    の物種」

    エト

    スが全

    の世

    です。政治的節操を失くそうが、土下座

    しようが、議員バ

    ッジさえ付ければ勝ちと考え

    る議員達。

    原則も

    ヘッタくれも無

    -

    「空気を

    ん」

    で適切に身を処す

    ことこそ勝ち組

    への道

    と考えるサラリー

    マン達。法

    にさえ触

    れなけれ

    ば収益を上げ

    るためには何

    をや

    っても

    いいん

    しょ、だ

    ってお金儲け

    こそ企業

    の使命だから、

    と信

    じて疑わな

    い経営者達。自分とそ

    の周辺さ

    え安全

    ・安心で平穏無事

    であれば、

    の中

    のこ

    となど

    「(僕には、私には)関係な

    いよ」とひた

    すら事勿

    れ、事勿れ、と日

    々を送る庶

    民。周囲

    「命あ

    っての物種」

    エト

    スの人

    々で溢れ

    てい

    ます。私が子供

    の頃には周囲

    の大人たちが

    「恥

    を知

    れ、恥を」等とよく言

    っていた

    のを思

    い出

    しますが、近頃

    「恥を知れ」と

    いうセリフはめ

    たに聞かなくなりました。

    「ハレンチ

    (破廉恥)」

    という言葉

    はまだ生きていますが、「廉恥」と

    う言葉

    は死語になりかけていますね。近年

    では、

    「恥を知る」事より、

    「空気を読む」事

    の方が大

    事と見えます。このような風潮の中では、

    「名を

    しめ、

    誉を重

    じよ」

    などと

    いう考え

    「古臭く、封建的

    で、時代に逆行する権威主義的、

    は軍国主義的

    で危険な考え」として

    「進歩的

    な人々」から排斥され

    ています。

    しかし、考

    えてみてくださ

    い。

    いかに平穏無

    事で、健康的な生活を送ろうとも、ジ

    ムに通

    い、

    ビタミ

    ン剤やサプ

    リメントを摂取しようとも、

    遅かれ早かれ、結

    局人間は死ぬ

    のです。永遠

    命はおろか、

    二〇〇年も生きる人は居な

    い。人

    の歴史

    の中

    のほんの

    一コマにち

    ょこ

    っと登場

    しては、直ぐに居なくなる存在

    です。

    正しく信

    の幸若舞

    「敦盛」

    「人間五十年、化天のう

    ちを比ぶれば、夢幻

    の如くなり」

    です。

    死んで

    しまえば、富貴卑賎

    は無関係、

    この世に残

    せる

    のは結局

    のと

    ころ子孫

    のみ。

    子孫と

    いえども

    二世代、

    三世代と経過すれば、自分を思

    い出

    てくれる者も居なくなります。

    しかし、自分

    った作品、芸術、文章、それに企業体や組織、

    制度

    は生きながらえるかも知れな

    い。或

    は、自

    の思想、言動、

    所業

    は時を超え

    て語り継がれ

    るかも知れな

    い。従

    って、自分

    「名」

    を後世

    に残せるチ

    ャンスに巡り合えば、場合

    によ

    つて

    は自分

    の地位や財産、さらには生命ま

    でもリス

    クに賭け

    て大博打を打

    ってみると

    いう事も、損

    得勘定

    から見

    て、決

    して悪

    ∪①巴

    ではな

    いか

    も、

    と考え

    るのが

    「名

    こそ惜

    しけれ」

    エト

    スで

    す。

    私は決

    して皆さ

    んに生命財産を投げ出

    せと

    つて

    いる訳

    ではあ

    りません

    ので誤解

    の無きよ

    う。ただ、大概

    の場合、

    「名

    こそ惜しけれ」

    エト

    スに基づく所業

    の方が、

    「命あ

    っての物種」

    エト

    スに基づく所業より、

    周囲には美的

    に映ると

    のも事実

    です。

    美的

    に映るから

    こそ、時代

    超えて語り継がれるのでしょう。

    し話

    した

    が、

    エリー

    す。

    「こ

    つは

    派だ

    るた

    は、

    所業

    けれ

    せん。

    古代

    から

    は許

    るが

    、貴

    は許

    れな

    こと、

    兵卒

    は免

    こと

    出来

    も±

    は逃

    とが

    れな

    こと、

    のがあ

    った

    はず

    です

    ノブ

    ・オ

    (仏

    "⇒o巨①の・゚①

    o已お①)

    いう

    で表

    て世

    に共

    「責任

    の事

    です

    た、

    (人

    て当

    然感

    る)

    対す

    る恐

    と緊

    が支

    配す

    る戦

    で、

    の先

    に立

    って真

    っ先

    駆け

    武者

    一番槍

    の足軽

    は、

    れ相

    の名誉

    てきた。

    それ

    は、

    のよう

    な人

    達が

    、核

    とな

    り、

    爆剤

    とな

    り、

    前衛

    とな

    る事

    によ

    って、

    「あ

    しき事

    に向

    って多

    の人

    が動

    いう効

    識さ

    て来

    から

    でし

    ょう

    エリ

    るた

    は、

    それ

    の責

    所業

    す。

    エリ

    ート

    は楽

    はあ

    ん。

    エリ

    つら

    いよ

    であ

    ります。

    間内工共公46

  • ㎜血孤㎎゚附1520

    くだ

    と申

    し述

    て参

    たが

    し述

    べま

    たよ

    に、

    でも、

    は皆

    「エリ

    ト」

    にな

    ってもら

    いた

    い。

    それ

    来れば

    「恥を知り、名を惜しむ」

    エリートにな

    てもら

    いた

    いと

    いう事を結論

    に、話を終えた

    と思

    います。

    47間空共公

    1

    唱1