エネルギーフィルターtemによる金属/樹脂接合...
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エネルギーフィルター TEMによる金属/樹脂接合界面の解析
(産総研ナノシステム)堀内 伸,宮前孝行,(産総研産学官)山中忠衛,(大成プラス)大隅光悟朗,
安藤直樹,成富正徳
Characterization of Metal/Plastic Adhesion Interfaces by Energy-Filtering TEM
1.緒言 エネルギーフィルター TEM(EFTEM)は,薄膜試料を透過した際にエネルギーを損失
した非弾性散乱電子を分光することにより,局所領域の化学構造を解析することを可能にする分析
電顕である。入射電子と試料との相互作用により生じた非弾性散乱電子を分光し,局所領域からの
スペクトル(EELS)を得ることにより,元素組成,結合に関する定量解析が可能であり,さらに,
分光した非弾性散乱電子によるイメージングにより,高コントラスト像や元素マップを得ることが
できる 1)。我々は,高分子接着界面の解析を EFTEM により検討してきたが 2),本研究では,金属/
樹脂界面の解析に本手法を適用し,異種材料接合のメカニズム解析,信頼性評価の可能性を検討し
た。
2.実験
2−1.ナノモールディングテクノロジー(NMT)によるアルミ/ PPS 接合試料の作製
NMT は,ナノメートルサイズの微細凹凸をあらかじめ作った金属部品を,金型にインサートし,
射出成形と同時に樹脂と金属を強固に一体化する技術である 3)。薬液による表面処理を行った厚さ
2mm のアルミ合金(A5052)板と PPS(ポリフェニレンサルファイド)の接合試料を NMT によ
り作製した。この試料の 90°剥離接着強度は 4.6N/mm,また,せん断接着強度測定では PPS 母材
の破壊が起こり,極めて強い接合が得られた。
2−2.EFTEM によるアルミ/ PPS 界面の解析
ウルトラミクロトームにより,アルミ/ PPS 接合試料から厚さ約 50nm の超薄切片を作製した。
オメガ型電子線分光器を搭載した EFTEM(LEO922)により,加速電圧 200kV において,解析を
行った。図1に, EFTEM による局所構造解析スキームを示す。損失エネルギーを変化させながら連
続的に PC に取り込むことにより得られた電子分光像から (x, y, ∆E) 3次元データが得られる。この
データセットから,特定の領域(Δ x,Δ y)における画素の明るさを ∆E に対してプロットすると,
EELSスペクトルを得ることができる。EELSスペクトルにおいて,内殻電子の励起により生ずるコア・
ロスピークはバックグランド(BG)に重なる。BG 成分を除去し,元素マップを得るため,2 枚の
プレエッジ像(E1,E2)から,BG 曲線を指数関数でフィッティングし,コア・ロス像での BG 像
を外挿して作成し,コア・ロス像からこの BG 像を差し引くことにより,元素マップを得る。この
ような解析プロセスにより、アルミ、硫黄、炭素、酸素について元素マップを得た。さらに、FIB
により作製したアルミ/ PPS 界面の断面を低加速 SEM(カールツァイス Ultra55Plus)により観察し、
EFTEM での解析結果との比較を行った。また,接合前のアルミ表面組成を X 線光電子分光(XPS),
和周波発生分光(SFG)により分析し,また、表面モルホロジーを低加速 SEM により観察した。
図 1 EFTEM による金属/樹脂界面解析プロセス
3.結果と考察
3−1.アルミ表面の解析
薬液処理により形成されたアルミ表面の凹凸構造を低加速 SEM により明らかにした。図2は,
アルミ表面の同一箇所から得られる表面構造像の加速電圧,検出器の違いによる影響を示した。加
速電圧を 0.48kV に下げ,環状 in-lens 検出器により2次電子像を観察することにより,アルミ最表
面に形成する約 20nm の穴を観察することができる。加速電圧が 1.2kV では,電子線が試料内部に
まで進入するため,内部に存在する構造を含めた像となっていると考えられる。環状 in-lens 検出
器により,より低エネルギーの二次電子を選別して結像することにより,最表面の表面構造が明ら
かになったと考えられる。また、アルミ表面について、XPS の角度依存性を測定したところ表面の
酸化層は平均約5~7nm程度であることが明らかになり、SFG 解析により、OH伸縮振動の領域
に 3000 から 3600cm-1 にかけてブロードなピークが観測され、大気中の水分子が単分子程度に吸
着し、親水性表面が形成されていることが推測された。
X
Y
I(X1, Y2, E) Intensity,
Electron Spectroscopic Imaging Net signal for
Elemental map
Background spectrum
Inte
nsity
, I(E
)
SN
Energy L
oss (eV) Energy Loss (eV)
Energy L
oss (eV)
Stack of images at different energy losses
Plot of intensity of region of interest
Selection of 3 images for elemental mapping
Image EELS Elemental mapping
X
Y
350
600
50
250
E
Al-L
S-L
PPS
Al
図2 低加速 SEMによるNMT処理後のアルミ表面の観察
100 nm
3−2.EFTEM による接合界面の解析
図3にアルミおよび PPS 層から得られた EELS スペクトルを示す。20~50eV の低エネルギー損
失領域にそれぞれ有機物、金属に特有のプラズモンロスピークが得られ、内殻電子の励起によるコ
アロスが、アルミからは 60eV (Al-L2,3)、PPS からは 160eV に S-L2,3 が検出された。さらに、炭素、
酸素のコアロスは、それぞれ、285eV、535eV に検出される。
図 3 PPS およびアルミ合金から得られた EELS スペクトル
図4は,プラズモンロス領域での損失エネルギー変化に伴う接合界面を含む領域の像コントラス
ト変化を示した。エネルギー損失レベルに応じてアルミ,PPS,界面のコントラストが変化し,特
に,32eV や 52eV において,界面層を明瞭に観察することができる。図3に示したスペクトルから,
アルミ,樹脂,および界面層の相対的なシグナル強度の順位がエネルギー値によって変化するが,
この変化が画像のコントラスト変化に反映されており,通常の TEM では識別が難しい界面状態を
明瞭に観察することが可能となった。この観察から,アルミ表面に形成された約 20nm の穴に PPS
が入り込み,約 50nm の金属と樹脂の共存層が界面に形成され,ボイド等の欠陥の無い接合が実現
されていることが確認された。
0 50 100 150 200 250 300 0 50 100 150 200 250 300
x1000
x 40
S L2,3
Al L2,3
Plasmon
Energy Loss (eV) Energy Loss (eV)
PPS Al
図4 プラズモンロス領域でのアルミ/ PPS 界面のコントラスト変化
接合界面をさらに詳細に解析するため,元素マッピングによる解析を行った。試料の同一領域
から得られた Al,C,O の元素マッピングを図5に示す。Al マップ像により,アルミ表面に形成さ
れた凹凸がより鮮明になり,PPS に対応する C マップ像から,PPS 樹脂がアルミ表面の凹凸にすき
間無く入り込んでいる状況が明瞭に観察された。さらに,O マップ像から,アルミ表面に形成され
た酸化膜層が明らかになり,XPS 測定による結果と一致した。
図 5 Al,C,O マッピングによるアルミ/樹脂界面の解析
さらに,図 6 に示すような FIB により作
製した接合界面の断面を SEM により観察す
ると,EFTEM と同様のアルミと PPS の接合
界面の構造が観察され,得られた結果の信
頼性を裏付けることができた。
4.まとめ EFTEM により,NMTによ
り作製された PPS/ アルミ界面の接合状態を
ナノレベルで直接観察することに初めて成
功した。高い接合力の由来が,金属表面に形成したナノサイズの凹凸に樹脂がすき間無く進入し,
強固な界面を形成しているためであることが実証された。また,アルミ表面の化学分析により,薬
液処理によりもたらされた表面化学構造が,20nm の極めて狭い空間にポリマーが進入する機構に
関与していることが推定され,接合メカニズムの解明が進むと期待される。
謝辞 本研究は,「平成21年度中小企業等製品性能評価事業(折り紙付き事業)」に係る実証研究
課題として行った成果である。
References:
1) 堀内伸,顕微鏡,42(2), 139 (2007)
2) Horiuchi et al., Macromolecules, 40, 7966, (2007); 41, 8063, (2008).
3) 安藤直樹,プラスチックエージ,55(10), 80-84, (2009); 55(11), 95-98, (2009).
図6 FIB 加工による接合界面の SEM観察
Al C O
100 nm
50 nm10 µm
Al PPS