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ドーナツTBM工法の導入効果 ドーナツTBM工法は,世界的に技術開発されていない新技術であり,全断面型TBMよりも機械的に 優位で,かつ,その最大の弱点である不良地山への対応も迅速・的確に実施できるという施工上の優位性 も兼ね備えている.ドーナツTBM工法が実用化されれば,国内のみならず海外にも幅広く活用することが できるなど,山岳トンネル工法に大きな変革をもたらすものと期待される. ❐ 生産性の向上 ✰ 省力化・ロボット化 産業用ロボットの導入等による機械化や自動化により, 坑夫などのトンネル熟練工の低減ができる. 標準的な地山の場合,NATM工法と比較して,工事期 間中の作業員を5割程度低減できると見込まれる. カッタヘッドの内部空間からビット交換が容易にでき,前 面にも開口部から直ぐに出ることができる. 機材搬出入は,レール式を基本とすることで施工用の離 合場所を削減できる. ✰ 不良地山対策の簡単化 ドーナツTBM工法は,中心の開口部から事前に切羽情報が直接目視観察できることから,遅滞のな い対策が実施できる. 対策についても開口部から,探査・水抜きボーリング,地盤改良などが容易に実施できる. 不良地山時は,一次支保工に現場PCによるRCライナ方式を採用する.掘進反力を地山でなくRCラ イナにとることでほとんどの地山において掘進可能になり,補助工法を大場に小さくできる. ✰ 高速施工 ➢連続的に地山の掘削を行うことができるため、標準的な地山においては、月進 500m以上の掘進速度 が可能で、NATM 工法に比べて約5倍の速度となる。 不良地山においても、中心開口部からの地盤改良が容易であるため、マシンを止めることなく掘進でき ることから、100m程度の平均月進を確保できる。 ❐ 開発の背景 我が国の山岳トンネルの施工方法は,1980 年代より NATM 工法が導入され,現在では標準工法となってい る.一方,TBM工法はそれより古く 1960 年代末頃より高 速施工技術として導入された.しかしながら,表-1 に示す ように施工件数は 160 件と少なく,さらに大部分が小口径 断面のものである. 日本の地質は複雑であり,不良地山が断続的に出現 することが多く,たびたび掘進困難となり,高速施工の利 点が活かすことができないことが普及を妨げている理由で ある. 平成23年度より(一財)先端建設技術センターは、 我が国の複雑な地質に対応するため、全断面型TB Mの中心部に開口を設けた改良型のドーナツTBM工 法の施工検討会を組織し共同研究開発を進めてきて いる( 表-2). 平成27年度には,国土交通省の建設技術研究 開発助成を受けて,2ヶ年計画で産学官の推進体 制のもと「ドーナツ型TBMを活用とした新た な山岳トンネル工法の開発」をテーマにその実 用化に向けて,掘削実験およびトンネ ル全体の施工システムとしての機能な どの検証が行われている(表-3). ドーナツ型のTBMは,世界的にも 例がなく,特許は,海外を含めて8ヵ 国に出願しており,日本,米国,中 国,インドネシアで取得している(出 願中:ドイツ,ベトナム,インド,ブ ラジル). 新しい山岳トンネル施工法 ドーナツTBM工法の概要 表-3 産学官テーマ推進委員会 表-1 TBM国内施工実績 表-2 DTBM工法施工検討会 委員長 安井 成豊 小山 幸則 東京都立大学名誉教授 新田 恭士 国土交通省総合政策局公共事業企画調整課 企画専門官 足立 紀尚 真下 英人 (一財)先端建設技術センター 常任参与兼企画部長 吉田 延雄 京都大学名誉教授 国土交通省国土技術政策総合研究所 道路構造物研究部長 今田 (一社)日本建設機械施工協会 施工技術総合研 究所 研究第一部部長 元京都大学大学院教授 TBM:径別 施工箇所数 2.0~4.9m 128 5.0~6.9m 28 7.0m~ 4 160 TBM国内施工実績集計(1964~2010年) φ7m以上 発電所導水路 3 箇所 高速道路 1 箇所 (飛騨T) 座長 小山幸則 元京都大学大学院教授 委員 ㈱大林組 委員 鹿島建設㈱ 委員 株木建設㈱ 委員 ㈱熊谷組 委員 清水建設㈱ 委員 大成建設㈱ 事務局 (一財)先端建設技術センター 一般財団法人 先端建設技術センター ドーナツTBM工法施工検討会 〒112-0012 東京都文京区大塚2-15-6 TEL 03-3942-3993 URL http://www.actec.or.jp/ 1人/方 DTBM運転管理 データ制御管理 0.1m 3 バックホウ運転 1人 機械設備保守 2人 5人/方 2人/方 昼夜 15人×2方=30人 30人 坑外 作業 坑外積込・雑作業 整備鍛冶工 2人/方 RCライナ 補助 RCライナ運搬 レール入替・切羽雑作業 2人/方 一次 支保 一次支保工 RCライナ ロボット 据付け運転 3人/方 DTBM 掘削 中央運転・制御室 2人 φ6mRCライナ方式作業員編制 全般 世話役 トンネル世話役 1人 トンネル延長 5kmに対する作業員数 ドーナツTBM : 15 人/方×2方×22 日×15 ヵ月=9,900 人 NATM : 10 人/方×2方×22 日×52 ヵ月=22,880 人 φ15m

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Page 1: ドーナツTBM工法の概要donut-tbm.jp/wp/wp-content/uploads/4d4a52f4731ded3adde34...ドーナツTBM工法の導入効果 ドーナツTBM工法は,世界的に技術開発されていない新技術であり,全断面型TBMよりも機械的に

ドーナツTBM工法の導入効果

ドーナツTBM工法は,世界的に技術開発されていない新技術であり,全断面型TBMよりも機械的に

優位で,かつ,その最大の弱点である不良地山への対応も迅速・的確に実施できるという施工上の優位性

も兼ね備えている.ドーナツTBM工法が実用化されれば,国内のみならず海外にも幅広く活用することが

できるなど,山岳トンネル工法に大きな変革をもたらすものと期待される.

❐ 生産性の向上

✰ 省力化・ロボット化

➢産業用ロボットの導入等による機械化や自動化により,

坑夫などのトンネル熟練工の低減ができる.

➢標準的な地山の場合,NATM工法と比較して,工事期

間中の作業員を5割程度低減できると見込まれる.

➢カッタヘッドの内部空間からビット交換が容易にでき,前

面にも開口部から直ぐに出ることができる.

➢機材搬出入は,レール式を基本とすることで施工用の離

合場所を削減できる.

✰ 不良地山対策の簡単化

➢ドーナツTBM工法は,中心の開口部から事前に切羽情報が直接目視観察できることから,遅滞のな

い対策が実施できる.

➢対策についても開口部から,探査・水抜きボーリング,地盤改良などが容易に実施できる.

➢不良地山時は,一次支保工に現場PCによるRCライナ方式を採用する.掘進反力を地山でなくRCラ

イナにとることでほとんどの地山において掘進可能になり,補助工法を大場に小さくできる.

✰ 高速施工

➢連続的に地山の掘削を行うことができるため、標準的な地山においては、月進 500m以上の掘進速度

が可能で、NATM 工法に比べて約5倍の速度となる。

➢不良地山においても、中心開口部からの地盤改良が容易であるため、マシンを止めることなく掘進でき

ることから、100m程度の平均月進を確保できる。

❐ 開発の背景

我が国の山岳トンネルの施工方法は,1980 年代より

NATM 工法が導入され,現在では標準工法となってい

る.一方,TBM工法はそれより古く 1960 年代末頃より高

速施工技術として導入された.しかしながら,表-1 に示す

ように施工件数は 160 件と少なく,さらに大部分が小口径

断面のものである.

日本の地質は複雑であり,不良地山が断続的に出現

することが多く,たびたび掘進困難となり,高速施工の利

点が活かすことができないことが普及を妨げている理由で

ある.

平成23年度より(一財)先端建設技術センターは、

我が国の複雑な地質に対応するため、全断面型TB

Mの中心部に開口を設けた改良型のドーナツTBM工

法の施工検討会を組織し共同研究開発を進めてきて

いる(表-2).

平成27年度には,国土交通省の建設技術研究

開発助成を受けて,2ヶ年計画で産学官の推進体

制のもと「ドーナツ型TBMを活用とした新た

な山岳トンネル工法の開発」をテーマにその実

用化に向けて,掘削実験およびトンネ

ル全体の施工システムとしての機能な

どの検証が行われている(表-3).

ドーナツ型のTBMは,世界的にも

例がなく,特許は,海外を含めて8ヵ

国に出願しており,日本,米国,中

国,インドネシアで取得している(出

願中:ドイツ,ベトナム,インド,ブ

ラジル).

新しい山岳トンネル施工法

ドーナツTBM工法の概要

表-3 産学官テーマ推進委員会

表-1 TBM国内施工実績

表-2 DTBM工法施工検討会

職 名 分 類

委員長 学

委 員 学

委 員 学

委 員 官

委 員 官

委 員 産

委 員 産

 安井 成豊

 小山 幸則

所   属

 東京都立大学名誉教授

 新田 恭士 国土交通省総合政策局公共事業企画調整課 企画専門官

 足立 紀尚

 真下 英人

 (一財)先端建設技術センター 常任参与兼企画部長

 吉田 延雄

 京都大学名誉教授

 国土交通省国土技術政策総合研究所 道路構造物研究部長

氏  名

 今田  徹

 (一社)日本建設機械施工協会 施工技術総合研究所 研究第一部部長

 元京都大学大学院教授

TBM:径別 施工箇所数 適  用

2.0~4.9m 128

5.0~6.9m 28

7.0m~ 4

計 160

TBM国内施工実績集計(1964~2010年)

φ7m以上発電所導水路 3 箇所

高速道路 1 箇所(飛騨T)

座長  小山幸則 元京都大学大学院教授

委員  ㈱大林組

委員  鹿島建設㈱

委員  株木建設㈱

委員  ㈱熊谷組

委員  清水建設㈱

委員  大成建設㈱

事務局  (一財)先端建設技術センター

一般財団法人 先端建設技術センター

ドーナツTBM工法施工検討会 〒112-0012 東京都文京区大塚2-15-6

TEL 03-3942-3993 URL http://www.actec.or.jp/

計 1人/方

 DTBM運転管理 データ制御管理

 0.1m3バックホウ運転 1人

 機械設備保守 2人計 5人/方

2人/方

昼夜 15人×2方=30人 30人

坑外作業

 坑外積込・雑作業

 整備鍛冶工 2人/方

RCライナ補助

 RCライナ運搬

 レール入替・切羽雑作業 2人/方

一次支保工

一次支保工RCライナロボット

 据付け運転3人/方

DTBM掘削

中央運転・制御室

2人

 φ6mRCライナ方式作業員編制

全般

世話役

 トンネル世話役 1人

トンネル延長 5kmに対する作業員数

ドーナツTBM : 15 人/方×2 方×22 日×15 ヵ月=9,900 人

NATM : 10 人/方×2 方×22 日×52 ヵ月=22,880 人

φ15m

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図-1 不良地山対策工(コアボーリング、

水抜き孔、地盤改良孔) 図-2 DTBMを利用したNATM施工

ド ー ナ ツ T B M 工 法 施工システム(RCライナ方式)

表-4 全断面型に対するドーナツ型の掘削時間効率

総押付力(kN) 掘削時間(分)全断面型1.0に

対する開口率掘削時間効率(%)

ドーナツ型φ150

67.6 18.5 0.98(2%) 0.63(37%)

ドーナツ型φ498

66.2 16.4 0.75(25%) 0.56(44%)

全断面型④ 68.6 29.2 1.00

0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

6.0

7.0

8.0

9.0

10.0

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

0 300 600 900 1200 1500 1800 2100

掘削時間(分)

掘削距離(cm)

105 15 20 25 300

10.0

9.0

8.0

7.0

6.0

5.0

4.0

3.0

2.0

1.0

0.0 35

ドーナツ型と全断面型の掘削時間の比較

29.2分18.5分16.5分

( 総押付力(70kN)同一の場合 )

ドーナツ型

φ498

ドーナツ型

φ150

全断面型④

ドーナツ型掘削完了 全断面型掘削完了 図-3 ドーナツ型と全断面型の掘削時間

全地質対応型TBM