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Success STORIESSTマイクロエレクトロニクス株式会社
さまざまな生体センサーを駆使して睡眠時の無呼吸を検出
今日は日本光電工業(以下、日本光電)の携
帯用無呼吸検査装置「SAS-3200」を持ってき
ていただきましたが、これは何をする装置で
すか?
根木:眠っている間に、10 秒以上の呼吸停止
を繰り返す病態を「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
と呼び、日本人の 2%程度がこういった症状
を持っているといわれています。単に一時的
に呼吸が止まるだけならいいのですが、高血
圧や動脈硬化を引き起こすといわれているほ
か、慢性的な睡眠不足から居眠り運転につな
がる恐れもあると指摘されています。たとえ
ば 2003 年に新幹線の運転士が居眠り運転を起
こしニュースでも取り上げられましたが、こ
の運転士はその後の検査で睡眠時無呼吸症候
群の持ち主であることが判りました。それ以
後、旅客や運送の関係者にとって大きな問題の
ひとつに挙げられています。この「SAS-3200」
は、センサーを体に装着した状態で被験者に一
晩寝てもらい、睡眠中に無呼吸症状が発生した
かどうかを調べる装置です。
日本人の 2%程度と聞くと自分も睡眠時無呼
吸症候群ではないだろうかと心配になってしま
いますが、さて「SAS-3200」はどのように使う
のでしょうか?
田口:睡眠時無呼吸症候群の検査装置には、
無呼吸や低呼吸を検出するための圧力や熱を感
知するセンサーを鼻腔付近、血液中に酸素がど
のくらい含まれているかを計測するためのセン
サーを指先、呼吸の努力の有無を検出するセン
サーを胸や腹に装着して睡眠中のセンサーの
データを「SAS-3200」で記録します。記録され
たデータから 1 時間当たりの無呼吸や低呼吸の
「エレクトロニクスで病魔に挑戦」をモットーに数多くの医療用電子機器を展開する日本光電工業。街角や施設などで目にすることの
多いオレンジ色のAED(自動体外式除細動器)でも有名だ。今回APSでは、数ある同社製品の中から、睡眠中に一時的に呼吸が止まる「睡
眠時無呼吸症候群」の簡易検査装置「SAS-3200」を取り上げる。単三電池 2 本で 24 時間以上の動作を実現するためと、生体信号を高
精度で処理するために、ARM Cortex-M3 プロセッサを搭載した ST マイクロエレクトロニクスの「STM32F103」を採用した。
進化を続けるSTマイクロエレクトロニクスの
STM32ファミリ注目を集めるメディカル分野でも実力を発揮
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回数を計測し、その値を参考にして被験者のそ
の後のより精密な検査や治療の必要性を医師が
判断することになります。
なかなか装着が大変そうですね。
田口:基本的には専門の病院で検査技師また
は看護師が扱うことを前提としています。
根木:弊社では、より簡便に睡眠時無呼吸検
査ができる「SAS-2100」という機種も販売して
います。睡眠時無呼吸は循環器疾患との関連が
あるということから、「SAS-3200」はホルター
心電図検査や呼吸努力の検出ができるように
なっているため、センサーが増えています。
ローパワーかつ32ビット演算対応を理由にARM Cortex-M3プロセッサを選択
「SAS-3200」の内部の作りについて教えてく
ださい。
田嶋:それでは私からハードウェアについて
説明します。「SAS-3200」には先ほど田口から
あったようにさまざまな生体センサーが接続
されています。まず、それらセンサーの出力信
号を増幅するアンプや余分な信号成分を取り
除くフィルタ回路で構成されるアナログ段が
あり、次にアナログデジタル変換器(A/D コン
バータ)を経由して、マイコンにデータを取り
込んで処理します。処理したデータは後処理
ができるように SD カードに記録します。単三
電池 2 本で 24 時間以上の動作を目標にしたた
め、消費電力をいかに抑えるかが課題でした。
生体信号は連続的にモニタしなければなりま
せんのでアナログ段は常に電源オンの状態に
し、その代わりマイコンは必要な処理をしたの
ちは速やかにスリープモードに移行させるな
どの工夫を行っています。マイコンには ARM
Cortex-M3 プロセッサを搭載した ST マイクロ
エレクトロニクス(以下、ST)の「STM32F103」
を採用しています。
マイコンはどのように選定したのですか?
田嶋:ひとつはスリープ状態から通常状態
に 切 り 替 わ る と き の 起 動 時 間 で す ね。 マ イ
コンのクロック源として水晶発振回路のみを
内蔵するタイプのマイコンでは、スリープか
らの水晶発振安定に十数 ms もかかるのですが、
STM32 シリーズは、RC 発振器を内蔵しており、
1ms を大幅に下回る起動時間であるため、無
駄な電力消費を抑えることができました。も
ちろん「STM32F103」は通常動作でも消費電
力が少ない点も評価しました。
根木:ARM Cortex-M3 プロセッサであれば
32 ビット演算ができるという点も採用理由の
ひとつです。低消費電力を謳う他社のマイコン
も検討したのですが、レジスタが 16 ビットし
かありません。生体信号はダイナミックレンジ
がとても広いので、フィルタ処理のような積和
演算を行おうとすると、16 ビットでは演算時間
がかかり、消費電力が増えてしまいます。
野田:この「SAS-3200」で日本光電様は当
社のマイコンを初めて採用されたのですが、海
外ベンダーに対するアレルギーはなかったの
ですか?
根木:私は、もともと国産・海外ベンダーも
含めて数種類のマイコンを使用してきたのです
が、国産マイコンベンダーの場合は、リスクの
高くない医療機器であることを理解していただ
くための手続きにかなり時間が必要だったと記
憶しています。日本光電は AED(自動体外式除
日本光電工業株式会社医療機器技術センタ
第四技術部次長
根木 潤 氏
測定画面例
携帯用無呼吸検査装置「SAS-3200」
も と ぎ
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細動器)を日本で作っている唯一のメーカーで
もあるのですが、AED となると国産ベンダーは、
より慎重な対応をしているようです。その点は
海外ベンダーのほうが融通が利くというか。
野田:そういったところは我々はフレキシブ
ルかもしれませんね。当社の場合も使用でき
ないアプリケーションがないとは言えません
が、個別にしっかりとお話をお聞きした上で、
お使い頂けるか判断しています。今回の「SAS-
3200」は弊社内のルールに照らして問題ないと
判断しています。
根木:それと ST の技術サポートですね。た
とえば大学でプログラミングの勉強をしたか
らといって、入社してすぐにマイコンを使える
かというと、そういう話にはなりません。や
はり開発環境の使い方を含めた習熟が必要で
す。新人たちのトレーニングを含めて野田さん
にはずいぶん助けてもらいました。
先ほど単三電池 2 本で 24 時間動作が要件と
ありましたが、消費電力はどのように見積もっ
たのですか?
田嶋:基本的な回路を設計し、基板を試作し
て、電池がどれぐらい持ちそうかというところ
をハードウェアチームで評価しました。その結
果、ST の「STM32F103」を間欠動作させること
で問題ないという結論を得ました。
事前のトレーニングを通じてスムーズな開発立ち上げを実現
ソフトウェアの開発はどのように進めたので
すか?
田口:ST のトレーニングでサンプルプログ
ラムの使い方などを学んでから開発に着手しま
した。私自身は ARM アーキテクチャを扱うの
は初めてだったのですが、開発環境に利用した
IAR システムズの「IAR Embedded Workbench」
の使い方を覚えるのに少し時間がかかったぐら
いで、とくに難しいという印象はなく、スムー
ズに取り組めたと思います。ソフトウェアとし
ては、OS にイー・フォースのμC3(マイクロ・
シー・キューブ)を使用しています。生体情報
の計測アルゴリズムなどは他の機器から移植し
ていますが、ほとんどの部分はゼロベースで開
発しました。
マイコンをスリープモードと通常モードで
切り替えながら使用するということで、決めら
れた時間内に処理を終えなければならない、と
いった課題にはどのように対応したのでしょ
うか?
田口:生体データのフィルタリング処理が
もっとも重いのですが、「STM32F103」は性能
的にまったく問題なく、規定の時間内に処理を
完了しています。最終データを SD カードに書
き込むところは、消費電力をできるだけ抑える
ために、書き込むデータサイズを大きくするな
どのチューニングをしています。
野田:ST では浮動小数点演算が可能な ARM
Cortex-M4 プロセッサを搭載した「STM32 F4」
シリーズも提供しているのですが、先ほどのア
ルゴリズム処理などは浮動小数点演算器があれ
ばさらに高速化できますか?
田口:今回の「SAS-3200」の場合はそこまで
の性能は要りませんが、別の製品では期待した
いところです。
根木:一部の医療機器には、たとえば DSP を
積んでフィルタリング処理をする場合もあるの
で、そういったアプリケーションには浮動小数
点がメリットになるかもしれませんね。
そのほか、開発で苦労した点はありますか?
田口:液晶ディスプレイの画面デザインに
は少し苦労しました。「SAS-3200」を使い慣れ
ていない医師や検査技師が見たときでも、一
目で状況が把握できなければならないからで
す。測定データを適切に表示しつつ、センサー
の装着不具合が検出された場合はその箇所と
エラーメッセージを表示するように、社内の
デザイン専門部署とやりとりをしながら画面
設計を進めていきました。
根木:たとえば夜間に看護師が巡回してセン
サーの外れが起きていないか確認できるように、
バックライトが消えている状態でも懐中電灯を
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当てて見えるような特殊なカラー液晶パネルを
使っています。医療従事者が使う製品ではそう
いった工夫が結構重要なんです。
アナログ回路も取り込んで進化するSTのSTM32ファミリ
ところでメディカル市場およびヘルスケア市
場は、エレクトロニクス業界をはじめとして多
くの業界から注目されていますね。
根木:厚生労働省は「セルフ・メディケー
ション」(健康の自己管理)を推進していますし、
人口分布の高齢化もありますから、医療機器に
求められる要件もこれから変わっていくことが
予想されます。また、参入障壁の低いヘルスケ
ア市場には、さまざまなメーカーが製品を投入
してくるでしょうね。
田嶋:そうした機器のハードウェアとしては、
バッテリで長時間動作するハンディタイプがひ
とつの流れとしてあるので、アナログ部分もデ
ジタル部分も、性能を維持しながら、消費電力
をいかに抑えていくかが課題になると思ってい
ます。
田嶋さんから低消費電力の話が出ましたが、
ST のローパワーに対する取り組みを聞かせて
ください。
野 田: 日 本 光 電 様 の「SAS-3200」の 開 発
スケジュールには間に合わなかったのですが、
ST では ARM Cortex-M3プロセッサを搭載し
ながらも消費電力を徹底的に抑えた「STM32
L1」シリーズを展開しています。今後は ARM
Cortex-M4 プロセッサや ARM Cortex-M0 プ
ロセッサを搭載したマイコンでも同様のローパ
ワー品を提供していく予定ですので、ぜひご検
討いただければと。
田 嶋: 消 費 電 力 が 鍵 と な る 製 品 に 対 し て
「STM32 L1」シリーズが効果的かどうかをすで
に検討しています。
ところでSTから新しい製品が出たそうですね。
野田:はい。これまで STM32 ファミリは、
ARM Cortex-M0 プロセッサを搭載した「STM32
F0」シリーズ、「SAS-3200」にも採用していた
だいた ARM Cortex-M3 プロセッサの「STM32
F1」シリーズ、同じく ARM Cortex-M3 プロセッ
サを搭載して動作周波数を高めた「STM32 F2」
シリーズ、ローパワーを志向した「STM32 L1」
シ リ ー ズ、ZigBee を 内 蔵 し た「STM32 W」シ
リーズ、ARM Cortex-M4 プロセッサを搭載し
たハイエンドの「STM32 F4」シリーズを展開
してきました。これらに加えて、2012 年 7 月に、
ΔΣ型 16 ビ ッ ト A/D コ ン バ ー タ や 5MSPS の
SAR 型 12 ビット A/D コンバータなどのアナロ
グ機能を充実させた「STM32 F3」シリーズを発
表しました。これにはコンパレータやオペアン
プ も 搭 載 さ れ て い ま す。 プ ロ セ ッ サ は ARM
Cortex-M4 ベースで浮動小数点演算も使えるた
め、デジタル信号処理に最適と考えています。
田嶋:それは面白そうですね。A/D コンバー
タのチャネル数など、詳しいスペックをあとで
教えてください。
マスではない組込み用途にこそベンダーの柔軟な対応力が不可欠
いい機会なので、ST になにかリクエストがあ
ればお願いします。
田嶋:細かい話になってしまいますが、「SAS-
3200」の場合では SDIO が 2 チャネル欲しかった
というのはあります。もっとも当社製品は数量
が出ないので、そういう要望を反映していただ
くのは難しいでしょうけれど。
野田:SDIO の 2 チャネル化は珍しいケース
とは思いますが、全世界にいらっしゃる弊社の
お客様の中にも同じニーズを持っておられる可
能性があるので、どんなご要望であってもおっ
しゃっていただければと思います。偶然、別の
お客様からも同じようなご要望をいただいてい
ますので、田嶋さんのご意見も社内で共有して
おきます。
田口:STM32 シリーズにはペリフェラルのい
ろいろなバリエーションはありますが、自分た
ちが本当に欲しい組み合わせが選べるといいか
なと思います。数が少ない私たちのような業界
のニーズにも対応してもらえると嬉しいなと。
究極は、ウェブ画面でペリフェラルをセレク
トして注文ボタンをクリックすると、一週間後
ぐらいに特注マイコンが手元に届く、みたいな
感じでしょうか。
田口:それはすばらしい(笑)。
野田:めちゃくちゃ値段が高くなりますよ
(笑)。
今回は ARM Cortex-M3 プロセッサを使って
携帯用無呼吸検査装置「SAS-3200」を開発さ
れたわけですが、今後の展望をお聞かせくだ
さい。
根木:ARMマイコンって使う側からすると選
択肢がものすごく広がるんですよ。こう言って
しまうと野田さんには申し訳ないんですが、自
分たちの製品に最適なマイコンをST以外のベン
ダーも含めて選べるようになったと。その意味
ではSTには常にいちばんいい製品を出し続けて
もらいたいなと思っています。あと、たとえば
プログラム実行と消費電力との関係がわかるよ
うに、マイコンベンダーには開発ツールベンダー
との連携を深めて欲しいですね。そうしたデバ
イスや環境を利用しながら、これからも優れた
医療機器を提供していきたいと考えています。
野田:そのときどきのマーケットでベストな
デバイスを的確に選択しているところに、日本
光電様が医療機器業界をリードしている理由の
ひとつがあるのではないかと感じます。今後も
私たち ST の製品をベストとして採用していた
だけるように、製品開発やサポートに努めてい
きたいと思っています。
本日はどうもありがとうございました。
Success STORIESSTマイクロエレクトロニクス株式会社
日本光電工業株式会社医療機器技術センタ第四技術部 技術課
田嶋 健一 氏
STマイクロエレクトロニクス株式会社MMSグループ
Microcontroller製品部アシスタントマネージャー
野田 周作 氏
日本光電工業株式会社医療機器技術センタ第四技術部 技術課
田口 剛 氏