口腔咽頭粘膜におけるstdの 診断 - j-stage

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科6:2;61~70(1994) 61 シ ン ポ ジ ウムI 全身疾患における口腔咽頭病変 口腔 咽 頭 粘 膜 に お け るSTDの 診断 (東京女子 医科大学附属第二病院耳鼻咽喉科) はじめに 近 年,性 の 開 放,性 行 動 の 多 様 化,ピ ルの使 用 や 国 際交 流 の 活 発 化 に伴 いSTD(sexually transmitted diseases)の 増加 が見 られ る よ う に な って き た1)~3).STDに 含 まれ る疾 患 も従来, 性 病(veneral diseases VD)と 呼 ば れ て い た 梅 毒,淋 疾,軟 性 下 疳,鼠 径 リ ンパ 肉 芽 腫 な ど の 疾 患 以 外 に も多 種 類 の ものが み られ る よ うに な って き た4)(表1).特に性 交 渉 が 性 器 外 に よ っ て も行 われ る よ うに な り,口 腔 咽 頭 に も これ ら の 所 見 が 頻 繁 に み ら れ る よ う に な っ た.こ れら 表1STDの 病原体と疾患4)より 注:下 線 は性 病 予 防法 に 指 定 され て い る疾病 STDの うち 梅 毒,AIDS(HIV感染 症)を 中心 と して ヘ ル ペ ス 感 染 症,ク ラミジア感染症等の 口 腔 咽 頭 粘 膜 の 病 変 に つ い て 報 告 す る. I.梅 毒(syphilis,Lues) STDの 代 表 的 疾 患 で あ る梅 毒 が 近 年,再 見 られ るよ うに な って き た.特 に顕症梅毒 の増 加 が み られ て い る5). (1) 患者統計 1983年 か ら1991年 ま で の 約9年 間に東京女子 医科大学附属第二病院耳鼻咽喉科において経験 し た 顕 症 梅 毒 例 の 一 覧 で あ る(表2).年 齢は 表2梅 1983-1991東 京女子医科大学附属 第二病 院耳鼻咽喉科

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Page 1: 口腔咽頭粘膜におけるSTDの 診断 - J-STAGE

口 咽 科6:2;61~70(1994) 61

シンポジウムI 全身疾患における口腔咽頭病変

口腔咽頭粘膜 におけるSTDの 診断

宮 野 良 隆

(東京女子医科大学附属第二病院耳鼻咽喉科)

は じめ に

近 年,性 の 開 放,性 行動 の多 様 化,ピ ル の 使

用 や 国 際交 流 の 活 発 化 に伴 いSTD(sexually

transmitted diseases)の 増加 が見 られ る よ う

に な って き た1)~3).STDに 含 まれ る疾 患 も従来,

性 病(veneral diseases VD)と 呼 ば れ て い た梅

毒,淋 疾,軟 性 下 疳,鼠 径 リ ンパ 肉 芽 腫 な どの

疾 患 以 外 に も多 種 類 の ものが み られ る よ うに な

って き た4)(表1).特 に性 交 渉 が 性 器 外 に よ っ

て も行 われ る よ うに な り,口 腔 咽 頭 に も これ ら

の所 見 が 頻 繁 にみ られ るよ うに な っ た.こ れ ら

表1STDの 病原体 と疾患4)より

注:下 線は性病予防法に指定されている疾病

STDの うち 梅 毒,AIDS(HIV感 染 症)を 中 心

と して ヘ ル ペ ス感 染 症,ク ラ ミジア 感染 症 等 の

口腔 咽 頭 粘膜 の病 変 につ いて 報 告 す る.

I.梅 毒(syphilis,Lues)

STDの 代 表 的 疾 患 で あ る梅 毒 が 近 年,再 び

見 られ るよ うに な って き た.特 に顕 症梅 毒 の増

加 が み られ て い る5).

(1) 患 者統 計

1983年 か ら1991年 まで の 約9年 間 に東 京 女 子

医 科 大 学 附属 第 二 病 院 耳 鼻 咽 喉 科 に お い て経 験

した顕 症梅 毒 例 の一 覧 で あ る(表2).年 齢 は

表2梅 毒 症 例

1983-1991東 京女子医科大学附属第二病院耳鼻咽喉科

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62 宮 野 良 隆 口 咽 科6:2

16歳 か ら56歳 ま で で平 均 年 齢 は37 .2歳 で あ った.

男 女別 で は 男性5例,女 性8例 とや や 女性 に多

い傾 向 に あ った.病 期 別 で は1期 例1例 を 除 き

全 てII期 の もの で あ っ た1).

(2) 感 染経 路

男 性 で は ソ ー プ ラ ン ドを は じめ とす る風俗 営

業 の 女性 か らの 感 染 が主 で あ ったが,20歳 の男

性例 で は不 特 定 多 数 の女 子 高 校 生 との 交 渉 が あ

り,女 子 高 校 生 か ら感染 した もの と思 わ れ た.

女性 に お いて は,そ の 大多 数 が 夫 か らの感 染 で

あ ったが,夫 以 外 の 男 性 か ら感 染 し た 主 婦 の

例 や,繰 り返 す 下 口唇 の 潰 瘍 を 形成 した16歳 女

子 の例 な どが み られ た.又,ほ ぼ 全例 にお いて

oralsexが 行 わ れ,性 体 験 の 若 年 化 と と もに現

代 の 性 行動 の一 端 を現 して い る.

(3) 病変 の特 徴

口腔 咽頭 所 見 と して は 乳 白 色 で 浮 腫 状 の 粘

膜 斑 が最 も多 く認 め られ,"butterflyappear-

ance"と 呼 ば れ る軟 口蓋 にお いて 口蓋垂 を 中心

と して,ち ょう ど蝶 が羽 根 を広 げ た よ うな所 見

が最 も多 く認 め られ た(図1).そ の 他 の 所 見

と して は潰 瘍 や 強 い発 赤 な どが 認 め られ た.病

変 部位 と して は 前述 した軟 口蓋 が も っと も多 く,

その 他,扁 桃,口 唇,口 角 な どに も認 め られ た

(図2).頸 部 リンパ 節 は 全 例 に触 知 され た.ま

た手掌 に梅 毒 疹 を呈 して い た患 者 も認 め られ た

(図3).口 腔 咽 頭 粘 膜 病 変 に よ り梅 毒 が 疑 わ れ

図1 咽頭 顕 症 梅 毒 II期 例."butterfly

appearance"と 呼 ば れ る乳 白 色 の

粘 膜 斑 を呈 して い る.

る際,手 掌や口角をはじめとして皮膚症状をみ

ることも参考となり,万 一,皮 膚症状がある場

合は梅毒の疑いが,か なり強 くなると言える.

(4)組 織学的変化

粘膜斑を中心として組織学的検討を行ったD.

粘膜斑における組織学的変化の特徴は好中球の

変化であった.つ まり好中球が浮腫状 となり症

例によっては多数の好中球が集合し島状構造を

図2 顕症梅 毒例

43歳,男 性.舌 の粘膜斑 と口角の潰瘍 を認め る.

56歳,女 性.口 蓋垂を中心 とした粘膜斑を認め る.

16歳,女 性.下 口唇の再発性潰瘍を認める.

45歳,男 性.扁 桃 に乳 白色の粘膜斑を認める.

図3 41歳,女 性.手 掌に梅毒疹を認める.同

時に 下口唇の潰瘍 と軟口蓋に粘膜斑を認

めた.

Page 3: 口腔咽頭粘膜におけるSTDの 診断 - J-STAGE

口 咽 科6:2 口腔咽頭粘膜のSTD 63

A

B

図4 咽頭梅毒例

A 光顕像,上 皮表層部 に好中球が集合 し"島

状"形 成 してい る.(HE染 色)

B 電顕像 中央部 に好 中球が島状に集 合 して

いる.

呈 していた(図4).

(5) 梅毒血清反応

前述 したような所見を呈した患者に対 し梅毒

を疑い血清学的検査を行う.

まず梅毒血清反応のうち定性反応を行なう.

すなわちオガタ法,ガ ラス板法,TPHA法 の定

性試験を行い陽性例に対 して定量試験を追加 し

ている.当 科において経験 した顕症梅毒例では

定量試験においてオガタ法320~640倍,ガ ラス

板法16~64倍,TPHA法1280~20480倍 と3法

全てが強陽性を示 し,津 上の提唱するところの

高い抗体価を示 した6).

さらに最近ではTPHA分 画を行うことが推

奨されている.

A

B

図5 駆梅療法によ る変化

A 軟口蓋に粘膜斑 を認め る.

B 駆梅療法1週 後.粘 膜斑が ほぼ消失 してい

る.

(6)駆 梅 療 法

梅毒 の原 因 で あ るTreponema pallidum(以

下TP)は 現在 の と ころPc耐 性 の もの は見 られ

な いた め駆 梅 療 法 にお いて はPc製 剤 が 主 とな

る.Pc過 敏 症 の 者 に 対 して は ミノ サ イ ク リ ン

(ミ ノ マ イ シ ン)な どが 用 い られ る.当 施 設 に

お い て はバ イ シ リ ン120万 単 位 を1口 量 と して

駆 梅 療 法 を行 って い る.

駆梅 療 法 に あ た って はオ ガ タ法4倍 以 下,ガ

ラ ス板 法40倍 以 下,TPHA法320倍 以 下 を 目

Page 4: 口腔咽頭粘膜におけるSTDの 診断 - J-STAGE

64 宮 野 良 隆 口 口因 禾斗6:2

安として駆梅療法を行っている.駆 梅療法に

よる血清反応の経時的変化を検討すると,特 に

TPHA値 の減少が遅れる傾向にあることが明

かであった7七 そこで前述したTPHA分 画が参

考となってくる.す なわちTPHA-IgMの 陰性

化をもって駆梅療法を終了とする.

このことにより駆梅療法の期間の短縮が可能

となってくる.し かしながら梅毒は終生免疫を

持つものではなく梅毒反応の再上昇もあり得る

ことから長期にわたるfollowupが 必要となっ

てくる.

(7) 駆梅療法による粘膜の変化

駆梅療法を約1週 間行 うことにより粘膜斑が

ほぼ消失することが明かとなった(図5).そ

れに対 して皮膚病変は1週 間の駆梅療法では消

失せず,や や遅れる傾向にあることが明かとな

った.し たがって確定診断以前に安易に抗生剤

を投 与 す る こ とは,病 変 を マ スキ ング して しま

う危 険 性 が あ るた め厳 に慎 ま ね ば な らな い.ま

た ニ ュ ーキ ノ ロ ン剤 は梅 毒 に対 し無 効 で あ る.

従 って ニ ュ ーキ ノ ロ ン剤 投 与 に よ って も粘膜 病

変 が 不 変 の場 合,梅 毒 の 可 能性 が高 くな って く

る.

II. AIDS(HIV感 染 症)

AIDSは1993年 現 在,確 立 さ れ た 治 療 法 も

な く,ま す ます 蔓 延 化 す る様 相 を呈 して い る.

1993年6月 現 在,全 世界 で ア フ リカを 中心 と し

て174力 国,61万 人 強 のAIDS患 者 と13歳 以 上

の 成 人で200万 人,13歳 未 満 の小 児 に お いて50

万 人 のHIV感 染 者 が認 め られ て い る.本 邦 に

お い て も1993年6月 現 在,592名 のAIDS患 者

と2,765名 のHIV感 染 者 が 確 認 され て い る(表

3).WHOに よれ ば,今 後 ア ジァ地 域 に お け

表3

注:()内 は外国人で再掲

Page 5: 口腔咽頭粘膜におけるSTDの 診断 - J-STAGE

口 咽 禾斗6:2 口腔 咽頭粘膜のSTD 65

る激増が予測されている8).

本邦において も爆発的な患者数の増加が予測

されることはいうまでもない.現 在のところ確

実な治療法もなく,い かに感染者が増加 しない

ようにするかが問題 となって くる.そ のために

は,ど の様な時にAIDSを 疑わねばならないか

といった点が問題 となって くる.

1. 診断

耳鼻咽喉科領域における関連する所見を1990

年にWHOに より提唱されたステージ分類暫定

案よりpickupす ると,1.持 続性全身性 リン

パ節腫脹2.軽 症皮膚粘膜症状(反 復性口腔

潰瘍,口 角炎)3.過 去5年 以内の帯状庖疹

4.反 復性上気道炎(細 菌性副鼻腔炎)5.口

腔カ ンジダ症6.口 腔毛状自板症7.サ イ

トメガロ感染症9.単 純ヘルペス感染症

9. カポジ肉腫などがあげられる.そ の他,初

期症状として耳鼻咽喉科において,し ばしば経

験される伝染性単核球症様症状が見られるとさ

れている.

2.血 清学的診断

AIDSが 疑われる患者を診た際には血清学的

検 査 等 を行 わね ば な らな い.一 般 的 な血 液 検 査,

生 化学 検 査 以 外 に総 リ ンパ 球 数(CD、 数,CD8

数,CD4/CD8比),免 疫 グ ロ ブ リン値,ッ ベ ル

ク リ ン反 応,HIV抗 体 検 査 を行 う.HIV抗 体

検 査 と して は ス ク リー ニ ン グ検 査 と してPA法,

EIA法,確 認 法 と してIFA法,Westernblot

法 が あ る.HIV抗 体 検 査 の 流 れ は 図 の ご

と くで あ る9)(図6).

3. 症 例

口腔 咽 頭 お よ び喉 頭 に典 型 的 な カ ン ジ ダ症 を

き た した28歳,日 本 人 男 性 例 を 経 験 した10).

28歳,日 本 人男 性.

主 訴:咽 喉頭 の異 常 感 と榎 声

現 病 歴:約1カ 月前 よ り主 訴 を 自覚 し同 時 に

約15kgの 体 重 減 少 も認 めて い る.計4カ 所 の

医療 施 設 を受 診 後,当 科 を受 診.

既 往 歴:特 記 す べ き もの な し.

家族 歴:特 記 す べ き もの な し.

耳 鼻 咽喉 所 見:耳,鼻 に は異 常 を認 め な い も

の の 口腔 咽頭,舌 に一見 して カ ン ジダ と思 わ れ

る汚 い 白 苔の 付 着 を 認 め た(図7).カ ポ ジ肉

腫 は認 め られ なか っ た.喉 頭 フ ァイバ ー下 に喉

図6 HIV感 染症 の血清診断 文献9)よ り

Page 6: 口腔咽頭粘膜におけるSTDの 診断 - J-STAGE

66 宮 野 良 隆 口 咽 科6:2

図7 舌,咽 頭 に汚 い白苔の付着を認める.

図8 喉頭 全体 に白苔が付着 し声帯 にも認め ら

れる.

頭 を観 察 した と ころ 咽頭 所 見 同 様 に 白苔 が 付 着

し声 帯 に も認 め られ た(図8).頸 部 リ ンパ 節

も両 側,触 知 さ れ た.

検 査 所 見:患 者 は抗 生 剤,ス テ ロイ ドの 服 用 歴

もな い こ とか ら初診 時 よ りAIDSを 強 く疑 い検

査 を施 行 した(表4).一 般 血 液 検 査,生 化 学

検 査 に異 常 は 認 め られ なか った.免 疫 グ ロブ リ

ンIgG,IgAは 増加 して い たがIgMは 正 常 範 囲

内 で あ った.補 体 に は異 常 は認 め られ なか った.

表4 検 査 所 見

HIV抗 体 はEIA法,IF法 と もに陽 性 を 示 した.

OKT4は0.3%と 著 明 に減 少 しOKT8は76.8%

と著明 に増 加 しそ の結 果OKT4/OKT8比 は 著

明 に減 少 して い た.ま たCon-Aリ ンパ球 幼 若

化 試験 も13831Cpmと 低 下 して い た.AIDS患

者 に多 い と され る梅毒 反 応 は陰 性 で あ った.

以上 よ りこの 患 者 をAIDSと 診断 した.

患者 背 景:こ の 時点 で患 者 に問 い質 した と こ

ろ 約10年 来 の 外 国 人 を 対象 と した男 性 同性 愛 者

で あ る こ とが 判 明 した.

4. ま とめ

ます ます の 蔓 延 化 が 予想 され る現 在 の状 況 か

らみて,口 腔 咽 頭 の カ ン ジダ症 や 難 治 性 の潰 瘍

な ど を診 た場 合,他 のSTDと と もにAIDSも

積 極 的 に疑 わ ね ば な らな い.

皿.ヘ ルペ ス感 染症(HSV)

従 来 よ りSTDと して ヘ ル ペ ス感 染症 は注 目

されて き た.そ の 病変 は主 に性 器 にみ られ て い

た が,近 年,性 行 為 の変 化 に伴 い従 来 は性 器 に

しか み られ な い とさ れ て い たHSV-2型 が 口腔

咽頭 に もみ られ る よ う に な って き た 川.STD

と考 え られ たHSV感 染 症 を 呈示 す る.

Page 7: 口腔咽頭粘膜におけるSTDの 診断 - J-STAGE

口 咽 科6:2 口腔 咽頭粘膜のSTD 67

図9 HSV-2型 感染例.扁 桃 に白苔を有 し外陰部 にもヘルペス疹を認め る.

1. 症 例

症 例119歳,女 性.性 交 渉 約1週 後 の 発 熱,

咽頭 痛 を主 訴 に紹 介 来 院.扁 桃 に 白苔 を 有 し,

外 陰 部 ヘ ルペ ス疹 を認 め た(図9).扁 桃 組 織

図10 HSV-2抗 体を用いた免疫染色 ・酵素抗

体法.核 が強 く染ま る細胞が認め られ る.

に対 しモ ノ ク ロ ーナ ル抗 体 を 用 いた 免疫 染 色 に

よ りHSV-2型 に染 色 され た(図10).つ ま り

oralsexに よ り従 来,1型 しか み られ な い と さ

れ て い た 口腔 咽頭 に お いて も2型 が 見 られ た こ

と にな る。

症 例220歳,女 性.咽 頭 に ウ イル ス 感染 を

思 わす 所 見 を 呈 して い たが,乳 房 に もヘ ル ペ ス

疹 を疑 わ せ る所見 を呈 して い た(図11).症 例

1と 同様 に 免 疫染 色 を行 な う と従 来 通 りの1型

に染 色 され た.し か しなが らセ ック スパ ー トナ

ー の男 性 の 口唇 に ヘ ル ペ ス疹 が み られ 乳 房 に も

み られ た こ とか らSTDに よ るHSV感 染 症 と

診 断 した.

2. 診 断

HSV感 染 症 の診 断 法 と して 主 な も の を 表 に

挙 げ たが,ペ ア ー血清 抗 体 の測 定 が 一 般 的 に は

図11 HSV―1型 感染例.咽 頭 に ウイルス感染を思わす所見 と乳房 にヘルペ ス疹を認める.

Page 8: 口腔咽頭粘膜におけるSTDの 診断 - J-STAGE

68 宮 野 良 隆 口 咽 科6:2

表5 HSV感 染の診断法

行 われ る(表5).STDと して のHSV感 染 の

診 断 にお いて は特 にsexに 関 しての 詳 細 な 問診

と口腔 咽 頭 以 外 の皮 膚 や 性 器 な どの ヘ ル ペ ス疹

の有 無 の 確 認 が 必要 と な って くる.

IV.ク ラ ミ ジア感 染 症

(C.trachomatis)

こ こ数 年 クラ ミジア感 染 症(こ こで はC .trac-

homatisと しC.pneumoniae,C.psittaciは 除

く)の 増 加 が特 に必 尿 器 科,産 婦 人 科 領 域 にお

いて 認 め られ,耳 鼻 咽 喉 科 に お い て も報 告 が 散

見 され るよ うに な って きた.当 科 にお いて も慢

性 扁 桃 炎 の疑 われ る患 者 を 中心 に検 討 を 行 って

い る12).

診 断

ク ラ ミジア感 染 症 に特徴 的 な所 見 は認 め られ

な い.従 って,診 断 に あ た って は抗 原 検 査 が主

な もの とな って くるが,細 胞 培 養 法 は特 殊 な 施

設 の み で可 能 と な る.表 に示 した様 に 各 方法 に

よ って長 所,短 所 が あ り結 果 にお い て もか な り

の ば らつ き が見 られ る(表6).す なわ ちEIA

法 で はfalse positiveが 多 くみ られ,DNAプ

ロ ープ法 で は特 異 度 が 高 い ゆ え にfalsenega-

tiveが 生 じて い る もの と考 え られ る.現 在,当

科 にお い て はIDEIA法 を用 いて 検 討 を 行 って

い る.

ま と め

口腔 咽頭 領 域 のSTDの 診 断 に つ い て述 べ た.

STDを 診 断 す るに あ た り重 要 な こ と は,STD

を疑 う ことで あ る.そ の 際,患 者 の プ ラ イバ シ

ーに 配慮 し,プ ラ イバ シ ーを守 れ る とは い い難

い耳 鼻 咽喉 科 の 診 察 室 に お いて は別 室 な どで 問

診 を す る な どの 配慮 が必 要 で あ る.ま た,STD

が見 られ た際 には,そ のパ ー トナ ー につ い て も

検 索 す る こ とが 望 ま れ る.同 時 にSTDに お い

て は,そ の ハ イ リス クな性 行 動 ゆえ に他 のSTD

に感 染 して い る可能 性 が高 い ため他 のSTDに

つ いて も検 索 す る必 要 が あ る.

稿 を終 わ るに あ た り,ご 校 閲 頂 い た荒 牧 元

教 授 に深 謝 致 します.

本 論 文 の 要 旨は第6回,日 本 口腔 咽頭 学 会 総

会,シ ンポ ジ ウム(1993年,札 幌)に お いて 発

表 した.

文 献

1)宮 野良隆,荒 牧 元:口 腔 咽頭 顕 症梅 毒 の光

顕 および電顕的観察.口 咽科,5:2;127-132,

1993.

表6 クラ ミジア に対 す る 各種 検査 の 長所,短 所12)より

Page 9: 口腔咽頭粘膜におけるSTDの 診断 - J-STAGE

口 咽 禾斗6:2 口腔咽頭 粘膜 のSTD 69

2) 荒 牧 元,宮 野 良 隆:鼻 ・口腔 ・咽 頭 梅 毒.

JOHNS,9:6;408-412,1993.

3) 荒 牧 元:耳 鼻 咽 喉科 のSTD.JOHNS,7:3;

291-295,1991.

4) 熊 本 悦 明,西 村 昌宏,広 瀬 崇 興:性 病(V.D.)

か ら性 感 染症(STD)へ.臨 床 と研 究,70:2;

344-351,1993.

5) 大 阪 府 環 境保 健 部,大 阪 府 医 師 会:大 阪 府 にお

け る性 感 染症 動 態調 査 概 要.1992.

6) 津 上 久 弥:梅 毒 反 応 と治癒 判 定 の問 題.皮 膚,

24:1;11-18,1983.

7) 宮 野 良 隆,大 竹 守,荒 牧 元,他:口 腔 咽 頭

顕 症 梅 毒 例 の梅 毒 血 清 学 的 変 化.口 咽科,3:1;

78,1990.

8) WHO: Update on AIDS. Weekly Epidemi-

ological Record 66: 48; 353-357,1991.

9) 南 谷 幹 夫:AIDS/HIV感 染 症 の 臨床 経 過.治

療,75:6;23-27,1993.

10) 宮 野 良 隆,上 田範 子,余 田敬 子,他:典 型 的 カ

ンジ ダ症 を来 したAIDS症 例.日 本 耳 鼻 咽 喉 科

感 染 症研 究 会会 誌,11:1;77-81,1993.

11) 余 田 敬子,宮 野 良 隆,荒 牧 元,他:STDと し

て の 単純 ヘ ル ペ ス感 染 に よ る急 性 扁 桃炎 の2例.

日扁 桃誌,32:71-75,1993.

12) 上 田 範子,宮 野 良 隆,新 井 寧 子,他:EIAに よ

るChlamydiatrachomatisの 検 出.日 本 耳

鼻 咽 喉科 感 染 症 研 究 会 会 誌,10:1;23-27,1992.

(1993年12月2日 受 理)

別 刷 請求 先:

〒116荒 川 区西 尾 久2-1-10

東 京 女 子 医 科 大学 附属 第 二 病 院

耳 鼻 咽 喉 科

宮 野 良 隆

Page 10: 口腔咽頭粘膜におけるSTDの 診断 - J-STAGE

70 宮 野 良 隆 口 咽 科6:2

DIAGNOSIS OF SEXUALLY TRANSMITTED DISEASES (STD)

IN OROPHARYNGEAL MUCOSA

YOSHITAKA MIYANO

Department of Otolaryngology,Tokyo Women's Medical College Daini Hospital

Symptoms and signs of STD are often observed in the oropharyngeal area, but the

diagnosis of STD is extremely difficult in this area, where individual symptoms vary and

identifying characteristics are few. It may not be an exaggeration to say that a patient is

suspected of having an STD after the first visit.

Since 1988, our institution has been actively involved in the diagnosis and treatment of

STD. The following report will focus on syphilis and AIDS. Herpes and chlamydia, as well

as critical factors after suspecting the infection of STD will also be discussed.

Key words: STD, diagnosis, syphilis, AIDS, HSV, chlamydia