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SPL Analog Code Plug-in Manual Passeq

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Page 1: SPL Analog Code Plug-in Manual - 宮地楽器 神田店SPL Analog Code プラグイン SPLのハードウェア製品は世界中の著ファシリティのホーム・スタジオ・ユーザからマスタリング・エン

SPL Analog Code ™ Plug-in

Manual

Passeq

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Passeq Sound Optimizing Processor

マニュアル

Passeq Analog Code® Plug-in, Model Number 1040 Manual Version 1.1 – 11 /2010

このユーザー・ガイドには本製品に関する内容が記されています。

特定の機能や使い方を保証するものではありません。このユーザー・ガイドの内容は慎重に検証、編

纂されています。

特に明記や承認がされない限り、製品が完成した時点で記述された内容です。

Sound Performance Lab (SPL)の開発は継続しており、断り無く製品の内容を変更する事があります。

このドキュメントの権利は有限会社 SPL electronicsに属し、許可無しにコピー、改編する事を禁じます。

© 2010 SPL electronics GmbH. All rights reserved. The SPL logo, Analog Code®, Vitalizer® and

Atmos® are trademarks of SPL electronics GmbH. All other logos and brand names are registered

trademarks of their respective owners.

SPLのロゴ、The Analog Codeおよび Passeqは SPL electronics GmbHの登録商標です。その他す

べてのロゴは保有者の商標 ™および登録商標 ®です。

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イントロダクション

SPL Analog Code® Plug-ins 用語集

ホスト・プログラム:

Passeqプラグインが使用されるプログラム(ProTools、Cubase、Logic等)

M/S

標準的なL/Rステレオ・シグナルに取って代わるMid/Sideチャンネル・シグナル。M/S技術に関する詳

細は22、23ページをご覧下さい。

SPL Analog Code プラグイン

SPLのハードウェア製品は世界中の著名ファシリティのホーム・スタジオ・ユーザからマスタリング・エン

ジニアまでを長年に渡り魅了してきました。その一方でこのテクノロジをプラグインとして使いたいとい

う要望も増え続けてきました。Analog Code プラグインは、アナログ・プロセッサーの分野で数十年に

渡り私たちが積み上げてきた高い技術をデジタルの世界で再現するという目標の元に生まれた製品

です。そのソフトウェアのあまりの完成度の高さに、我々のハードウェア開発者の一人は「ついにアナ

ログのコードをハッキングしたね。」と言いました。これが製品名の由来となっています。

かつてない程にパワフルなパッシブ EQシステム

オリジナルのハードウェア版 Passeqは3つの独立した周波数帯域をカット及びブーストができる初の

パッシブ EQです。パッシブ回路を用いた EQとしては、1950~60年代からの歴史を持つ Pulteq EQ

が有名でしょう。Pulteq EQは 2バンド(Lowと High、すなわち LFと HF)の EQで、周波数の細かい切

り替えはできませんでした。それに対し Passeqはバンド毎に周波数を 12段階に切り替えられ、合計

36のカット及びブーストの設定(つまりステレオ・チャンネル全体では 72のカットとブーストの設定)が

可能です。カット及びブーストの周波数は個別に設定できる為、組み合わせは膨大で非常に精巧な

EQカーブを作る事が可能です。

Passeqは多様な周波数設定と膨大な組み合わせのフィルタ・コントロールを可能にした最初のパッシ

ブ EQです。

Passeq アナログ・コード®・プラグイン

素晴らしい品質を誇る SPLのアナログ・コード・テクノロジーのおかげで、オリジナルのハードウェアが

持つ独特な音質は忠実に再現されています。また個別のフィルタ間の複雑な相互作用も細部に渡り

再現されています。パッシブ・フィルタ回路においてシグナルは常に全てのフィルタを通過します。つま

り全体を 1つの大きなフィルタと見なす事ができ、パッシブ・フィルタの大きな特徴となっています。どの

設定を変えてもフィルタ間の相互作用が起こる事により独特でユニークなサウンドが作り出されます。

これはパッシブ EQ回路ならではの特徴です。

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特別な機能

2つのユーザ・インターフェイス(GUI):ホスト・プラグラムのプラグイン・リストには「Passeq」と「Passeq

Single」の2種類が表示されます。標準的なデュアル・チャンネル・ビューの GUIに加え、1チャンネル

分のインターフェイスのみ表示される省スペースな「Passeq Single」が提供されています。「Passeq

Single」はステレオ・トラックでも使用可能で、その場合は左右のチャンネルには同じ効果が適応されま

す。

M/Sモード:L/R信号の処理の他に Mid成分と Side成分を分離して処理する M/Sモードの使用が可

能です。詳細は 13ページ「M/S」と 22ページ「M/Sの基本」を参照して下さい。

オペレーション マウス・ホイール・コントロール(全てのロータリ・ノブで使用可能)

SPLアナログ・コード・プラグインの全ての製品ではロータリ・コントロールとフェーダでのマウス・ホイー

ルによるコントロールがサポートされています。マウス・カーソルをロータリ・ノブの上に置きスクロー

ル・ホイールでパラメータの変更ができます。CTRL(Windows)もしくは COMMAND(Mac)キーを押しな

がらスクロール・ホイールを動かすと回転毎の解像度が上がりパラメータの微調整が可能です。

キーボード・ショートカット

SPLアナログ・コード・プラグインの全ての製品では数値のリセット、微調整、マウス・コントロールに関

する各 OS固有のキーボード・ショートカットをサポートします。詳細はホスト・プログラムのマニュアル

を参照して下さい。

モノ、ステレオ及びマルチ・チャンネルのオペレーション

Passeqはモノ、ステレオいずれでも使用できます。またホスト・プログラムがサポートする場合はマル

チ・チャンネル・プラグイン、いわゆる「マルチ・モノ」として使用可能です。

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操作パネルのレイアウト

最初は円状に配置された Passeqの操作パネルに戸惑うかも知れません。これは一見分かりづらいで

すが注意深く見るとその意味がちゃんと分かるはずです。

この美しく配置されたレイアウトを我々は気に入っています。それだけでなくこのレイアウトにはパッシ

ブ EQのコンセプトそのものに基づいています。パッシブ回路においては周波数帯域をブースト/カッ

トする各フィルタは物理的に別々の回路として分けられています。この事実を反映させ、中心に配置さ

れた出力コントロール・ノブの左側にはカット、右側にはブーストの設定が行える様にデザインされてい

ます。カットとブーストのノブはそれぞれの周波数帯域セレクタのとなりに配置され、各帯域のセクショ

ンは Lowから Hiの順に配置されています。これは物理学的かつ周波数帯域の分布のレイアウトに基

づいたものです。よくありがちな並び順ではありませんが、全体としては明快で機能的な配置となって

います。

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周波数の配分

一般のパラメトリック EQの周波数が固定され調整不可能なのに対し、Passeqの周波数をどこに設定

するかは大きなチャレンジの 1つでした。いわゆる ISOバンド周波数の標準化された数値に慣れた人

もいるかも知れませんが、この伝統的な数値はそれまでの慣習から設定されたもの、あるいは室内ご

とに異なる音響を調整するためのものであって、音楽的な観点から作られたものではありません。

Passeqの開発において、どの周波数を設定できる様にするかの決定には、30年近い経験を持つ SPL

の開発主任、オーディオ・エンジニア、そしてミュージシャンでもある Wolfgang Neumannが関わって

いる事は言うまでもありません。

周波数の決定に関して我々は数多くのオーディオ専門家やミュージシャンに助言を求め彼らの好みの

周波数を調査しました。David Reitzas、Michael Wagener、Bob Ludwig、Ronald Prent そして Peter

Schmidtなど多くの人達が価値のあるアドバイスを提供してくれました。

これにより我々は標準的な ISO周波数とは明らかに違う、音楽的に意味のある周波数だと多くのプロ

フェッショナル達が認めた周波数を見つける事に成功しました。

この調査では、狭い範囲にブーストとカットの周波数がある事が重要であり、また実用的だという事も

判明しました。こうすることにより、特定の周波数をより正確に設定したり、Sカーブを作る事による Q

への影響を設定できるオプション(パッシブ EQでは一般的にかなり小さい)を利用できるようになりま

す。例:楽器やボーカルの 320Hzあたりの中域をブーストしたいとします。この際にフィルターの Qが

小さいことによって発生する、対象となる音域のすぐ下の音域のブーストを避けたい、あるいは逆にカ

ットしたいとします。このような場合、LMF-MHブーストを使って目的の周波数帯域(320Hz)を 3dBブ

ーストします。同時に LF-LMFカットを 4dBに設定します。こうすることでこれら2つの周波数をカーブと

して繋げる事ができます。これは最高の Sカーブ EQ処理であり、この分野では使用できる設定オプシ

ョンと結果の両方において Passeqは世界チャンピオンであると言えます。

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操作パネル

LF-LMF カットと LFブースト

ロー・カット周波数帯域は 30Hz〜1.9kHzまで変更でき、これ

は LF-LMF(低域-中低域)と記述されます。それに対しロー・

ブースト(LFブースト)は 10Hz〜550Hzをカバーします。LFブ

ースト帯域のブーストの最大値は+17dB、LF-LMFカット帯域

のカットの最大値は-22dBです。

これらのフィルター帯域幅は 6dBの傾きのシェルビング・カー

ブを得られる様に作られています。パッシブ EQは求める効果

を回路の部品選択により実現する EQであり、アクティブ EQ

の様にパラメータを変えることでシェルビング・カーブの傾きを

直接変更する訳ではありません。最も低い周波数は 10Hzで、

15、18、26、40Hz等と順に上がっていきます。26Hz以下の帯

域に重要な要素がある音響素材はかなり限られるのに、ここ

まで細かく区切らなくてもいいのでは、と思うかも知れません。

しかしこれらの周波数は適当に決められたものではなく、レス

ポンス曲線が-3dBずつ下降するポイントの周波数を指してい

ます。つまり、10Hz以上の周波数でゆるやかな 6dBの曲線を

作る事ができます。オリジナルのハードウェア版 Passeqでは

特別なコンデンサやコイル、抵抗を用いたフィルタ回路が各周

波数帯域で用いられています。各回路のインダクタンスは

10Hzや 15Hzといった極めて小さい周波数の違いにも敏感に

反応し、音の質感に変化をもたらしま

す。また位相の関係性の違いも音色に影響する可能性があります。

現代の音楽制作においては低音域を強調するための細かい調整が必要となる為、Passeqは低音域

を一通りカバーし詳細に周波数帯域を指定できるように設計されています。

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MF-MHF カットと LMF-MHF ブースト

Passeqは中音域の 2つのフィルタを組み合わせて使う

事ができます。これはクラシックなパッシブ EQでは不可

能だった事です。この 2つの中音域のフィルタはピーク

(共振)・フィルタとしての特徴を持ちます。ブースト・セク

ションの周波数曲線は設定した周波数を中心としてベル

の形の様なカーブを描きます。傾きや Qの値は低音域

同様変更できませんが、Passeqの開発者Wolfgang

Neumannの長年の経験に基づき最も音楽的な効果が

得られる様に部品が厳選され回路に採用されています。

中域のピーク構造は LF と HF帯域をはっきりと分割す

る為に採用されました。シェルビング・フィルタは LF と

HF帯域に意図せず影響を及ぼしてしまうのでこの中域

のフィルタには向きません。また、重要なボーカルや楽

器のファンダメンタル周波数をピンポイントで簡単に処

理できるという点も、中音域のフィルタにピーク・フィルタ

が採用された理由として上げられます。

MF-HMF カット帯域は 1kHzが下限であり、LF-LMF カット帯域とは約 1 オクターブ分の被りがあります。

同様に LMF-MHFブースト帯域は 220Hzが下限であり LFブースト帯域とは1オクターブから 1.5オク

ターブの被りがあります。MF-MHFカット帯域と LMF-MHFブースト帯域は最大で-11.5dB〜+10dBの

間で変更可能です。周波数帯域同士の重なった部分をうまく利用すると、周波数を設定する際の精度

を高める事ができます。例えば LMF-HMFブースト帯域の 220Hzをブーストする場合、その上のノブ設

定は 320Hzですが代わりに LFブースト帯域の 240Hzをブーストする事ができます。次に LMF-HMF

ブースト帯域の 320Hz、その次は LFブースト帯域の 380Hz、LMF-HMFブースト帯域の 460Hzと交互

に使用する事で細かい設定が可能です。

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MHF-HF カットと HFブースト

Passeqの高周波帯域はカットとブーストで周波数曲線が異なりま

す。MHF-HFカット帯域が帯域幅の広いシェルビング・フィルタであ

るのに対し、HFブースト帯域は Qの変更が可能なピーク・フィルタ

です。前述の場合と同様に高周波数帯域においても周波数を選択

してレベルを変更することができます。.

前と同じ理由で、コンデンサー、コイル、抵抗を用いて個別に設計さ

れた回路により音の質感が僅かに変化します。従って 10kHzから

始めると 7通りの周波数設定が可能です。0.1〜1.0の範囲で変更

可能な Qによりエンジニアは非常に柔軟性の高い高周波帯域のブ

ースト処理を行なう事ができます。

HF ブーストと比例する Q

HFの Qは変更可能で、HFブーストの値は Qの値に比例します。つまり

HFブーストの Qが 1.0(時計回りに最大までノブを回した状態)の場合に

のみパネルに表記された通りのブースト設定が適応される事になります。

Qの値が減る(つまり帯域幅が狭くなる)とブーストの値も減少します。例

えば Qの値が 0.1の場合に HFブーストを 3dBに上げたとしてもブースト

した周波数に変化は殆ど生じません。これは Qが 0.1の場合にブースト

値はそれに比例し 0.3dBしかブーストされないからです。Qが 0.1の場合

は遠慮なくフルテンの 12.5dBまで上げても、実際は 3.5dB程度しかブー

ストされていません。この状態で Qを狭くする(たとえば 0.6)にするとレベ

ルが再びブーストされるはずです。

Qの値が比例して変化することで、変化しない場合と比べて音楽的に優れた音作りが可能です。ベル

型カーブの下の部分に含まれる波形のエネルギーは基本的に保持されており、Qの値を変化させて

も全体の周波数スペクトルに対する高周波のバランスは保たれます。

Qが 1の場合に限りブーストする dB値がパネル表記通りになる事は常に考慮に入れなくてはいけま

せん。とは言うものの、それ程難しい話ではありません。出力される結果はより単純で音楽的で意義

のあるものであり、満足のいく結果を得るのに試行錯誤を繰り返す必要はありません。

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MHF-HF カット

MHF-HFカット帯域は高周波成分を広帯域に渡り減衰できるシェル

ビング・フィルタに類似しています。580Hz〜19.5kHzの約 5オクタ

ーブという適度な広さの帯域で、LF-LMFカット帯域とは約 2オクタ

ーブ分の帯域が重なっています。中域のピーク・フィルタで特定の

帯域を調整しつつ非常に広い帯域の音量を小さくすると言った事が

可能です。これにより非常に興味深い EQカーブを作り出す事がで

きます。HFブーストの最大値+12.5dBに対し MHF-HFカットの最

大値は-14.5dBです。

Passeqはあらゆる状況での使用を想定して作られました。特にレコーディング・セッションにおける

個々の楽器への対応にも最適です。この時、広範囲の帯域を抑えてくれる MHF-HFカットは即戦力に

なってくれます。個々の楽器ごとにサウンドをコンパクトにできます。その楽器の高音域の成分を別の

マイクが拾っている場合(あるいはそのように聞こえる場合)には、これを簡単に抑える事ができます。

アウトプット・コントロール

アウトプット・コントロールで出力レベルを調整できます。周波数ブー

ストによって増幅した出力レベルを入力レベルに合わせて調整できま

す。プラグインを起ち上げた直後はアウトプット・コントロールは時計

回りの最大値、つまり 0dBに設定されています。ここを基準に最大-

66dBまで低くする事が可能です。コントロール・ノブの右半分は非常

に解像度が細かい為、レベルの微調整が可能です。

セッティング

4つのセッティング・ボタンを使うとクリック 1つで全体のセッティングをセ

ーブする事が可能です。例えばセッティング Aの時に他のセッティング・

ボタンを押すと、現在の全ての設定が Aにセーブされると同時に、押され

たボタンの設定が画面に呼び出されます。

セーブ済みの設定はクリック 1つで呼び出す事ができます。ホスト・プログラムが対応している場合は

プリセットされたセッティングをオートメーションで切り替える事も可能です。ホスト・プログラムにおいて

同じプロジェクト・ファイルを使用している場合、Passeqのセッティングを保存して、後でリコールする事

ができます。ホスト・プログラムから Passeqをリムーブすると保存されていたプリセットはリセットされま

す。全てのセッティングを一度にリセットしたい場合は、ホスト・プログラムから Passeqをリムーブし、再

度インサートして下さい。

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チャンネル・スイッチ

プラグイン・ウインドウの中央で 2つスイッチが点灯していればプラグイン

がアクティブであるという意味です。スイッチをクリックするとライトが消灯

しバイパス状態になります。Passeqのシングル GUIでは右のスイッチは

常にグレイアウトされています。モノ、ステレオでの使用に関わらずアクテ

ィブとバイパスの表示は左のスイッチのみが用いられます。

M/S とリンク

M/Sスイッチとリンク・スイッチは標準のデュアル・チャンネル GUIでのみ

表示されます。

重要:通常、M/Sモードを使用中はリンク・スイッチを解除して下さい。そう

しないと Midシグナルと Sideシグナルの設定が同期してしまいます。

M/S

M/Sとは、L/Rにエンコードされた一般的なステレオ・シグナルの代わりに用いられるフォーマットの事

で、制作の際非常に役立つテクニックの 1つとされています。「M」は Middle(Mid=真ん中)を意味し、

「S」は Side(両脇)を意味します。つまりシグナルは左と右の代わりに真ん中と両脇に分けられる事に

なります。

M/Sスイッチは M/Sエンコードを有効にするスイッチです。左チャンネルで Midシグナルを、右チャン

ネルで Sideシグナルのプロセッシングを行なう事ができます。M/Sエンコードは内部処理にのみ用い

られ、シグナルは出力される段階で L/Rフォーマットに再び変換されます。

この時エンコードとデコードは务化なく行われる事に注目して下さい。

Mid(M)と Side(S)シグナルを L/Rシグナルの代わりに使用すると、プロセッシングをより賢く行なう事

ができます。つまりモノラル成分を多く含む信号(ボーカル、スネア、ベース等)とステレオ成分を多く含

む信号(ギター、キーボード、シンバル等)を簡単に分けることで別個に扱う事ができます。M/Sエンコ

ードはミックス内の特定の素材に対して処理を行う際の最適な手段の一つです。22ページ「M/Sの基

本」も参照して下さい。

リンク

リンク・スイッチを押すと2つのチャンネルの設定が同期されます。2つのチャンネルを同じ設定にした

い場合、手間が省けて便利です。左チャンネルでの操作が右チャンネルに反映されます。左右のチャ

ンネルの設定が違っている際にリンク・モードを有効にすると、左チャンネルの設定が両方のチャンネ

ルの設定となります。この際、右チャンネルに元々設定されていた内容は失われません。リンク・モー

ドをやめると以前の右チャンネルの設定を再度使用することができます。

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イコライザを使用する

レコーディングやミックスの現場における EQ処理には 2つの大きな目的があります。1つ目は個別の

チャンネル毎の音の補正、そして 2つ目はミックス内の特定の楽器の分離や存在感の調整です。レコ

ーディングの工程において、技術的な問題が原因で理想的な録音ができない場合があります。例えば

ノイズや隣の楽器からの被りによって、対象となる楽器の本来の音質が損なわれることがあります。ま

たはマイクの周波数レスポンス特性や、反射による位相ずれ等により、ある音域の音が小さくなる、あ

るいは聞こえなくなってしまう時があります。EQは多くの場合この問題を解決する最適なツールとなり

ます。さらに、楽器を前に出し強調する為のテクニックは EQのクリエイティブな使い方として確立され

ており、同様の効果は EQだけでしか得ることができません。

基本のアプローチ

クリエイティブで芸術的な作業においては、絶対的な規則というものは存在しません。同じ事は EQに

も言えます。あらゆる場合に当てはまるような「ボーカル用」「バス・ドラム用」「ピアノ用」といった EQは

存在しません。よって以下に述べるテクニックはあくまで EQ処理における基本的な考え方とスタート・

ポイントに過ぎず、定説や絶対的な方法ではないので注意して下さい。とはいえ、EQを用いて目的の

音に辿り着く為には、よく知られている音楽的かつテクニカルなガイドラインに従う事が非常に重要で

す。

EQにおける陰と陽

この章では Focal Press社から出版されている『Mastering audio, the art and the science』という講

義録をまとめた素晴らしい本(大変おすすめです)から Bob Katzの言葉を取り上げたいと思います。

中国の思想において陰と陽は背中合わせなものと言われています。つまり対極にありながら、お互い

を補完し合う関係です。この考え方を音楽に当てはめることで、音楽や和声、基音と倍音における関

係性を深い洞察力で理解できるようになります。対極にありながらも硬く結びつき相互作用がある二者

のいずれかに何かしらの変化が起きれば、もう一方の要素にも必然と影響が生じるのです。以下に例

を挙げます。

・ 250 Hz周辺の中低域を抑える事は、5 kHzあたりのブーストと同様の効果をもたらします。

・ 15~20 kHzあたりの超高音域を持ち上げるとベースや中低域を抑えたかの様な印象を与えます。

・ ボーカルに暖かみを与えるとミックスでの存在感が減少します。

・ この様な EQにおける陰と陽の関係、つまり意図しなくてもある周波数への処理が他の周波数に影

響を与えるという現象について常に注意する必要があります。例えばウォームにする事で存在感が

失われてしまうといった事です。

・ 中高域から高低域のとげとげしさはいくつかの方法で抑える事が可能です。トランペット・セクション

のとげとげしさは 6~8 kHzあたりを抑える事で改善できますが、250 Hzあたりをブーストする事で

も同様の効果を得ることができます。いずれもウォームなサウンドを作る事が可能ですが、どちらの

方法をとるかはミックスの中での相性によって選択できます。

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・単独の素材に対しての処理ばかりに集中していると、全体のミックス内における他の素材からの影響

を忘れてしまいがちになるので注意が必要です(他の要素からの影響で良くなることも悪くなること

もあります)。

始めにレベル調整をしてから EQをかけましょう適切なレベル調整を事前に行わないと、レベルを合わ

せようと思って誤った EQの使い方をしてしまいがちです。

EQによる 6dBのブースト処理が必要と感じた時は、現在のレベルが適切かどうかをまず確認して下

さい。

まずカットを、次にブーストを

人間の耳は、ある周波数帯の音が減少するのには鈍感にできています。つまりカットよりブーストの方

に耳は惹きつけられます。例えば 6dBのブーストは 9dBのカットと同じくらいの分量だと耳は認識しま

す。従って、ある周波数を強調したいと思った時は、まず最初に別の周波数を抑える事を考えてみて

下さい。これは抜けが良く明るいサウンドに繋がるだけでなく素材への不必要な色付けを防ぐ事にも

結びつきます。

楽器の音域外の他の楽器からの被りやノイズを抑える

広帯域幅に設定されたフィルターを使うと、楽器の持つ最も周波数の高い(または低い)音より 1~2

オクターブ離れた帯域にある楽器の音を抑える事ができます。

例:キック・ドラム・トラックに録音されたシンバルの被りを取り除くには、まずは 10 kHz辺りから上の

帯域を 10~15 dBカットしてみましょう。

楽器の音域内における被りを抑える

被っている楽器の中心周波数はメインの楽器本来の音が損なわれない範囲で可能な限り抑えるべき

です。

倍音周波数レベルをブーストする

倍音の強調は、抜けを良くし楽器を鮮明に聴かせる為のテクニックの 1つとして有名です。以下は典

型的な 3つの楽器の設定例です。

ベース―400 Hz:ベース・ラインが強調されます。

ベース ― 1500 Hz:抜けが良くなりアタックが強調されます。

ギター ― 3 kHz:抜けの良いアタックに。

ギター ― 5 kHz:より明るく、より華麗になります。

ボーカル ― 5 kHz:存在感を増します。

ボーカル ― 10 kHz:派手になります。

上の例のように、抜けの良さと明るさを作り出す周波数が各楽器に少なくとも 2つずつある事に注目し

て下さい。

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基音のレベルをブーストする

基音の調整は最後にすべきです。しかし経験不足のサウンド・エンジニアの中には音色を調整するに

あたり、基音のブーストから始めてしまう人もいます。基音をブーストすると大概の場合抜けが悪くなり

濁ったサウンドになります。2つの楽器が同じパートを演奏している場合、同じ基音が同時に鳴ってい

るので、両方の基音のレベルを上げると各楽器の区別がつかなくなってしまいます(楽器の音が似通

ってしまい、ミックス内で濁りが生じます)。別々の楽器が同じキーで似たパートを演奏する時にも発生

する現象です。例外:楽器の音が痩せていたり、レベルが小さい時は基音のブーストは良い結果をも

たらします。また、マイクが適切に設置されていなかったり、倍音が極端にブーストされている時などに

も有効です。さらに、楽器が単独で鳴っていたり、ソロ奏者が他の楽器をバックに演奏している場面な

どでも良い結果をもたらします。

基音をカットする

基音の周波数をカットすると倍音をブーストしたかの様な効果を得ることができます。ロックやポップス

のプロダクションで良く使われているテクニックですが、あらゆるジャンルの現場で通用するものです。

例えを 3つ上げたいと思います。ベースでは 40 Hz を抑えると膨らんだ低域が減り存在感が増します。

ギターでは 100 Hzを抑えると同じく膨らんだ低域が減り透明度が増します。ボーカルでは 200 Hzを

抑えると濁りを抑える事ができます。

楽器の中心周波数を強調する

楽器の中心周波数を強調する為の帯域幅の設定は 1 と 3分の 1オクターブから始めるのが良しとさ

れています。つまりこの幅が楽器の周波数スペクトルを最も含む帯域という事です。パーカッション系

の楽器ではこの幅は狭くなり、ボーカルや弦楽器などの旋律楽器では幅がより広くなります。ブースト

する値は 3~6 dBの間に抑えるべきです。

ミックス全体に使うか、個別のトラックに使うかについて

ミックスされる前の段階、つまり個別の楽器毎に EQ をかけた方がサウンドはナチュラルさを保ちます。

ミックスされてしまっている場合は帯域幅を狭くし dBの値は高めに設定するべきです。例:クリアで存

在感のあるボーカルにするには、ミックス前のボーカル・トラックの場合 5 kHzを 3 dBブーストするの

が有効ですが、ミックス内のボーカルに同じ効果を出すには帯域幅を狭くし 6 dBのブーストをする必

要があります。

マスキング効果を抑える為に周波数帯域を分割する

同じ帯域にある 2つの楽器のマスキング効果を抑えるには、それぞれの楽器において半オクターブ離

れた帯域幅を処理します。半オクターブの帯域幅で 3 dBブーストすると各楽器がクリアになり分離が

良くなります。2つの楽器のうち明るめで艶のある方に高い方の周波数を割り当てて下さい。

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補完的フィルタリング

マスキング効果はミックス時に悩まされる問題の 1つです。音量の大きい楽器は同じ帯域にある他の

楽器の音を打ち消してしまいます。単独では素晴らしかったトラックをミックスに加えてみたら全然ダメ

だったとわかるとがっかりするものです。

上で述べた周波数帯域を分割する方法による補完的フィルタリングを行う事でこの問題は大きく改善

できます。ある楽器の特定の周波数を狭い帯域幅で抑えると同時に別の楽器の同じ周波数をブースト

します。カットとブーストの値は約 3~6 dBが良いでしょう。

例えばキック・ドラムとベース、またリード・ボーカルとバッキング・ボーカルなどの間で昔から良く見ら

れるマスキングの問題は、補完的フィルタリングによって改善する事が可能です。

- キック・ドラム/ベース:キック・ドラムの 350~400 Hzをカットし、ベースの同帯域をブーストするとベ

ースの存在感を増しつつキック・ドラムのボンボンした感じを減らす事ができます。

- リード・ボーカル/バッキング・ボーカル:バッキング・ボーカルの 3~4 kHzをカットし、リード・ボーカ

ルの同帯域をブーストするとバッキング・ボーカルの空気感を残しつつボーカルの抜けを良くする事が

できます。

プロセッシング例

以下は周波数毎の一般的な設定例です。

50 Hz カット:

低音楽器(ベース、キック・ドラム、タム)の低域の膨らみを抑えます。倍音が相対的に上がるのでベー

ス・ラインが前に出てきます。

50 Hz ブースト:

低音楽器の音が太くなります。

100 Hz カット:

ギターは明瞭さが増し低域の膨らみが減少します。タムのサステインを抑えます。

100 Hz ブースト:

低音楽器のベース成分はタイトになり、ピアノやホーンにはウォームさを与えます。

200 Hz カット:

ボーカルや中域楽器の濁りが減少します。シンバルに含まれるゴングの様な共鳴を抑えます。

200 Hzブースト:ボーカル、スネア、ギターを太くします。

400 Hz カット:

バスドラム、フロアタムなどの低音域の低音系ドラムの箱鳴りを抑えます。

400 Hz ブースト:

ベース・ラインをクリアにします。

800 Hz カット:

ギターの音がチープに録音されている場合、それを抑えます。

800 Hz ブースト:

ベース・ラインを顕著にクリアに且つパンチを効かせます。

1.5k Hz カット:

ギター・トラックのぼんやりした感じを抑えます。

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1.5k Hz ブースト:

クリアで綺麗なベースを作ります。

3 kHz カット:

ギターのチューニングや音程の狂いを隠します。

3 kHz ブースト:

より良いベースのアタック感を作ります。エレキ・ギターとアコースティック・ギター、スネアやその他の

パーカッション、ピアノの低音のアタック感を増します。ボーカルをクリアにします。

5 kHz カット:

か細いギターを柔らかくします。

5 kHz ブースト:

ボーカルの存在感を増し、ギターを明るくします。低音域のドラムやピアノ、アコースティック・ギターの

アタック感を増します。

7 kHz カット:

歯擦音(シビランス)を抑えます。

7 kHz ブースト:

パーカッシブな楽器にアタック感を与えます。

10 kHz カット:

歯擦音(シビランス)を抑えます。

10 kHz ブースト:

ボーカル、ギター、ピアノ、硬めのシンバルを明るくします。

15 kHz ブースト:

殆どのサウンドを明るくしますが、ヒス・ノイズや歯擦音(シビランス)を増幅させてしまう恐れがあるの

で注意して下さい。先に述べたルールがここでも適応できます。つまり目立たせるためにはブーストす

る前にまず別の帯域をカットする事を考えてください。

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クラシック楽器とその周波数

シンフォニー・オーケストラはバランスの取れた広範囲の周波数スペクトルが音のキャンバスに広がる

理想的な例とされています。

よってシンフォニー・オーケストラの音は他の音楽ジャンルの参考にされて然るべきものです。ロックや

ポップスのプロダクションにシンフォニー・オーケストラのミックス・バランスや音域の広がりを参考とし

て取り入れるは間違った事ではありません。

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周波数フィルタリングの基本

周波数とエネルギー

一般に周波数とは単位時間あたりのイベント数の事を指し、秒単位毎の波形の振動数はヘルツ(Hz)

で表されます。低い音域は波長が長くなり周波数は低く、高い音域の波長は短くなり周波数は高くなり

ます。

波形の振幅が大きくなるとエネルギー・レベルも大きくなり音量レベルが上がります。

音色とサウンド

音楽において、音の現象は音色と呼ばれます。一概に音色と言っても複雑です。異なるエネルギーを

持った様々な周波数から成り立つからです。実在の楽器やボーカル等のように、自然に存在する音源

から発せられた音色を調査すると以下の構成要素があることがわかります。自然に存在する音色は

最も低いピッチの基音と、それより高周波の倍音と呼ばれる成分により成り立っています。それらの倍

音の集合は倍音列と呼ばれ、基音から高周波の倍音までの周波数の集合である音色の周波数スペ

クトルを作り出します。

最も低いピッチである基音が基本周波数となり、またこれは聴感上のピッチとして認識されます。倍音

の周波数は基音の整数倍となり、倍音により音色の個性が決まります(楽器が楽器として、また声が

声として聞こえるようになります)。

録音、処理、プレイバックの工程で原音を忠実に再現するには周波数スペクトルを正確に保持する事

が重要です。原音が持つ全ての周波数のエネルギー・レベルが保たれている事がポイントとなります。

音色を決定付ける周波数スペクトルのエネルギー分布は、音響的な環境における直接音と反射音の

ミックスに大きく影響を受けます。基音と倍音とのエネルギーの関係は直接音と反射音で異なるので

(反射された周波数スペクトルの倍音はより大きなエネルギーを持ちます)、聴感上の音色に変化が生

じます。ミュージシャンが、録音された自分の演奏や歌の音色が本来の音と違うと感じたなら、録音さ

れた周波数スペクトルを調べてみる必要があります。

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サウンド調整とサウンド・デザイン

録音しプレイバックされた音色は、録音環境による音響的な影響に加え、技術的な限界により原音を

再現できていないという事を理解し、受け入れなくてはなりません。録音技術が誕生してから数十年は、

マイクの選択と配置に重きが置かれ、初期の EQはマイクやラウド・スピーカーの不十分な周波数レス

ポンスを補ったり、更にはルーム・アコースティックによる音の変化を修正する目的で使用されていまし

た。当時は、オリジナルの周波数スペクトルをできるだけバランスよく保つ事が EQの目的でした。

1960年代にマルチトラック・レコーディングが登場し、録音方法が根本的にに変化しました。1つの楽

曲の中に、別々に録音したセッションを後から加える事が可能となりました。複数の個別の録音(初期

は 4 トラックでしたが)をミックスする様になり、新たな問題が発生したのは言うまでもありません。当時

のマルチ・トラック録音の技術ではコピーを行うごとにトラック単体の音質が落ちる為、音質を上げる為

にトラック毎に個別のプロセッシングを行なう必要が出てきたのです。

こうして EQの全く新しい使い方が生まれました。例えば特定の周波数帯域を楽器毎にカットやブース

トする使い方で、これによりミックス内で埋もれずに楽器を強調させる事が可能になりました。特定の

箇所を強調できるようになると、力強く、また時には大袈裟な音作りが可能になりクリエイティブな制作

の可能性が広がりました。その結果ミックス内での音の存在感も増したのです。

当然の如く、電子的な音作りが評判を高めるにつれ、クリエイティブなサウンド・プロダクションの道具

としての EQの開発に更に拍車がかかりました。

周波数フィルタ

家庭用ステレオで周波数フィルタに初めて触れた人も多いでしょう。それらのフィルタはレベルを変える

だけのシンプルなものです。bassのノブを右に回すと低域が上がります。しかしこの様な低域のコント

ロールは、上のセクションで説明した、自然の音色が基音と倍音によって複雑に構成されるという点か

ら見ると、基音の周波数だけを変更できる訳ではなく、音色も変化させてしまいます。基音と倍音のバ

ランスが変化してしまうからです。

レベルを変えるだけの周波数フィルタは、ある決められた周波数帯域しかカット/ブーストできません。

この時多くの場合、複数のフィルタを同時に使用可能ですが、仕様上、それらのフィルタは Highや

Low等、大雑把な周波数に対する処理しかできません。

フィルタの種類

Passeqには 2種類のフィルタが使われています。シェルフ・フィルタに相当する広帯域幅の特性を持

つフィルタと、ベル型の特性を持つ、帯域幅の狭いピーク・フィルタです。

シェルフ・フィルタ

シェルフ・フィルタは任意の周波数より上または下の周波数全体を増加または減少させるフィルタです。

その機能から、高周波(HF)または低周波(LF)シェルフ・フィルタと呼ばれています。設定した周波数を

境に、周波数帯域は棚の様にカット/ブーストされます。設定した周波数から最も遠いポイントでカット

やブースとが最大になります。全体の増加量を最大にした場合、設定した周波数の部分では通常それ

よりも 3 dB低い値となります。以上がシェルフ・フィルタのレスポンス・カーブの典型的な増加のしかた

になります。

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ピーク・フィルタ

ピーク・フィルタは任意の周波数のエネルギーを最大のレベルまでブースト/カットします。この時、こ

の任意の周波数の両脇にある指定された幅の帯域が最大 3 dBまで減少されます。

レベルの変化が最大となる任意の周波数は中心周波数と呼ばれます。レスポンス・カーブでは真ん中

のピークに位置します。このレスポンス・カーブはベルの形をしているのでピーク・フィルターはベル・フ

ィルターと呼ばれる事もあります。

帯域幅

音楽的には、周波数帯域の幅はオクターブを単位として定義されています。技術的には、これをフィル

タの「Quality」として定義します。「Q(Qualityの省略)」はフィルタの帯域幅を変更する最も一般的なパ

ラメータです。

高い Q値は帯域幅が狭く、低い Q値の帯域幅は広くなります。

帯域幅 2 オクターブ: 0.7 Q

帯域幅 1 1/3 オクターブ: 1 Q

帯域幅 1 オクターブ: 1.4 Q

帯域幅 1/2 オクターブ: 2.8 Q

M/Sの基本

M/S立体音響

人間は音源の方向と距離を聴き分ける事ができます。これにより空間的なリスニング体験が可能にな

ります。人間の耳は左右の耳に入る音のレベルと時間のずれを正確に聴き分け、音がどこで鳴ってい

るかを判断します。音源の場所は、1500 Hzまでの周波数では主に時間差で判断され、それ以上の

周波数の場合はレベルの差異で判断されます。

人間の聴覚は、人工的に作成した音からさえも空間を認識することができます。

ラウド・スピーカーやヘッドフォンからの音が原音と比べて务化や変化しているにも関わらず、人間の

耳は最終的に 2チャンネル(L/R)からの情報のみを用いて時間とレベルの差を聴き分け、空間的なリ

スニング体験をもたらしてくれます。

録音とプレイバックにおける空間認識は立体音響(stereophony)として知られています(ギリシャ語の

ステレオス=固体/空間、を語源とします。)。

結果として得られるステレオ感はパノラマと呼ばれています。立体音響には 2チャンネル以外にもいく

つかのフォーマットがあるので「ステレオ」=2チャンネル録音という一般的な理解は間違いです。

同様に、2チャンネル・ステレオ・シグナルは常に右と左のチャンネルにエンコードされるという考えも

間違いです。これは人間には左右の耳があり、また全ての 2チャンネル録音とプレイバックのシステ

ムが L/Rフォーマットを使用することからくる誤解です。そしてまた、レコーディングでは常に右チャンネ

ル専用マイクと左チャンネル専用マイクが使用されるというわけでもありません。

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さまざまなマイキングのテクニックの違いはレベルと時間差の扱い方にあります。それぞれのテクニッ

クには長所と短所があるので、L/Rプレイバックを得るためにはこれらの複数のテクニックを組み合わ

せて使うことが多いのです。

マイキングに関するステレオの技術は数多くありますが、シグナル・プロセッシングおいて使える技術

は「M/S」1つだけです。「M」は Middle(真ん中=Mid)、「S」は Side(両脇)を意味します。シグナルは

右と左ではなく Middle と Sideに分割されます。

M/Sのコンセプトは録音時にも使う事ができます。指向性の異なる 2本のマイクで、音源の方向と空

間の情報を録音します。さらに録音時だけでなくシグナル・プロセッシングの段階においても M/Sを用

いる事ができます。つまり M/Sを用いたプロセッシングは M/Sマイク・テクニックで録音されていないシ

グナルでも用いる事ができるのです。実際、L/Rエンコードの素材は以下の計算により M/Sエンコード

に変換する事が可能です。

M = L + R, S = L – R

左右のチャンネルの合計による Midシグナルは、L/Rエンコードのモノラル成分に相当します。Sideシ

グナルは、右チャンネルを逆相にすることで L/Rシグナルから作成することもできます。逆相のシグナ

ルを足すとモノラル成分が相殺されたシグナルになります。このように、Sideシグナルは Lと Rの差に

よって構成されます。公式を詳細に書くと分かりやすいかも知れません。(マイナス符号は逆相を意味

します。)

M = L + R, S = L + (-R)

また、シグナルを加算・減算することにより M/Sシグナルを L/Rシグナルに変換する事も可能です。こ

れは M/Sデコードと呼ばれるものです。

L = M + S, R = M - S

L/Rを M/Sに、そして再び L/Rに戻すという加算と減算による変換では、シグナルが务化しない事が

数学的にも保証されています。これは M/Sエンコードをシグナル・プロセッシングで用いる際に非常に

重要な特長です。

国内輸入代理店 株式会社宮地商会

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