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Simulink®環境における HEMS の系統連系シミュレーション 三田 宇洋, MathWorks Japan 1. 概略
近年、再生可能エネルギーが、安全性、潜在的なエネルギー総量の多さから、代替エネルギーとして
大きく注目されている。電力買取制度のような社会的な支援もあり、今後、再生可能エネルギーが電力
供給に占める割合はより増えると考えられる。ここでは再生可能エネルギーのうち一般家庭用の太陽光
発電に注目する。
太陽光発電パネル 柱上変圧器
各種負荷
送電網
発電機
PCS (PowerConditioning
System)配電盤
一般家庭 系統
図 1 HEMS と系統
一般家庭用の電力供給源として太陽光発電を取り付ける場合、HEMS(Home Energy Management System)の役割は重要である。HEMS の制御の中枢となる PCS(Power Conditioning System)が、系統と
一般家庭間の電力のやりとり(潮流)を監視/制御する。本システムは逆潮流ありとする。 PCS の重要な機能に、太陽光発電の余剰電力を系統側に戻す系統連系制御がある。系統連系では、太
陽光発電パネルの発電量が、家庭内の需要電力より大であれば、余剰電力を系統に流すよう逆潮流を制
御することで、余剰電力を他で使用できる。逆に、太陽光発電パネルの発電量が家庭内の需要電力より
小であれば、不足する電力を系統から引き込むよう制御する。この制御により、太陽光発電の余剰電力
を無駄にせず、かつ家庭内で不足する必要電力は系統から取りこむ機作を自動化できる。
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本説明書では、MATLAB®/Simulink のオプションを組み合わせ、系統連系と HEMS のダイナミック
シミュレーションについて、次の 3 点を簡単に説明する。 [1] 電気系機器のモデリング
Simulink は時系列動的シミュレータである。Simulink の電気系モデリングオプションである SimPowerSystemsTM を使い、太陽光発電パネル、HEMS 及び系統を構成する機器のコンバータやイン
バータ及び系統の電力機器のモデリングを行う。 [2] PCS のモデリング
Stateflow(R) は Simulink 環境上でシームレスにシーケンシャルな制御を記述できる。Simulink 及び
Stateflow で PCS の制御ロジックを記述する。 [3] 電力の”見える化”
系統連系制御を行う際に、系統からの潮流/逆潮流の電力や一般家庭内電力負荷(以下、電力負荷とする)は制御に重要な情報となる。これらの情報を”見える化”(可視化)することで、本来見えない電力を可視化
する。Gauges BlocksetTMにより、Simulink 上の情報を可視化できる。 2. HEMS のシステム
システムを構成する主要なコンポーネントを図 2 に示す。図 2 の各部分について説明する。
MPPTController
VoltageController
PWMController
CurrentController
Solarpanel(5kW)
π
VoltageController
PWMController
CurrentController
VpvIpvVdc
Vdc*
SW1
SW2
3 phase Pi-section line
Tranceformer(66kV/6.6kV)
3 phaseSource
Tranceformer(6.6kV/200V)
Filter
Power System
Load in house
Iac
Vac
PCS
PCS
DC/DC Converter
Bi-DirectionalDC/AC Inverter
HVDC
(1)
(3)
(5)
(2)
(4) (6)
(7)
図 2 システムの概略
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0 50 100 150 200 250 3000
5
10
15
20
25
30
Voltage[V]
Cur
rent[
I]
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
Pow
er(W
)
最大電力点
IV特性
電力
図 3 太陽光発電パネルの特性
【図 2 の説明】 (1) 太陽光発電パネル
家庭に取り付けられた太陽光発電パネルを示す。太陽光発電パネルの定格は 5[kW]とする。太陽光発
電パネルの特性(IV 曲線、電力)を図 3 に示す。太陽光発電パネルから最大電力を取り出すためには、最
大電力点に相当する電圧と電流を維持する制御(最大電力点追従制御:Maximum Power Point Tracking Control, MPPT)が必要になる。最大電力点追従制御は様々な方法が研究・開発されている。よく知られ
る山登り法を、3 章で説明するシミュレーションモデルの Stateflow 内のロジックに記載する。 (2) 昇圧型 DC/DC コンバータ 昇圧型 DC/DC コンバータにより、最大電力点追従制御を行う。PWM 制御を行うスイッチング素子は
IGBT とする。 (3) PCS 内の制御回路 1
最大電力点追従制御(MPPT Controller)が太陽光発電パネルの電圧の目標値を計算する。MPPT Controller, 電圧制御 (Voltage Controller), 電流制御 (Current Controller) 及び PWM 制御 (PWM Controller)の 4 制御器が組み合わされたカスケード制御構造を持つ。 カスケード制御により、太陽光発
電パネル電圧の目標値を維持するよう、(2)の IGBT に与える PWM 信号を計算し/出力する。 (4) 双方向 DC/AC インバータ
2 アームの単相フルブリッジ回路により系統連系制御を行う。PWM 制御を行うスイッチング素子は
IGBT とする。IGBT は(5)により制御される。 (5) PCS 内の制御回路 2 電圧制御(Voltage Controller),電流制御(Current Controller)及び PWM 制御(PWM Controller)の 3 制御
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器が組み合わされたカスケード制御構造を持つ。カスケード制御により、(4)の IGBT に与える PWM 信
号を計算し、双方向 DC/AC インバータの流す電流の量と方向を制御する。電流の量と方向により、潮流
の向きとその電力が定められる。 (6) 一般家庭内電力負荷 200[V]
後述する系統連系シミュレーションのため、一般家庭内に電力負荷 200[V]を 2 点付加する。 指定した時間に負荷の SW1,SW2 が順次 ON となる。負荷の有無により潮流が動的に変化する。 (7) 系統 柱状変圧器(6.6kV /200V)、ノイズ除去フィルタ、π型伝送路、変圧器(66kV/6.6kV)及び発電機(66kV)
で構成される。 3.シミュレーションモデルの説明
図 4 のモデルは、図 2 を Simulink 環境上で表現したシミュレーションモデルである。シミュレーショ
ンモデルは表 1 のツールを組み合わせてモデリングされる。図 2 と図 4 の番号は対応する。
(8)
(1)(2)
(3) (5)
(4)
(6)
(7)
図 4 シミュレーションモデル
表 1 ツールの役割 ツール(Version:R2011a) 役割
Simulink シミュレーション基本環境、PCS の制御器モデリング
Stateflow PCS の MPPT 制御器モデリング
SimPowerSystems 太陽光発電パネル、系統システム、昇圧型 DC/DC コ
ンバータ、双方向 DC/AC インバータ等の電気系のモ
デリング
Gauges Blockset 電力潮流、負荷 SW の状態監視
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(1) 太陽光発電パネル 図 3 で示す IV 特性をテーブルデータに持つ電流/電圧源である。
(2) 昇圧型 DC/DC コンバータ SimPowerSystemsが提供する受動素子ブロック、Diodeと IGBTの半導体ブロックでモデル化される。
(3)により、太陽光発電パネルから最大電力を取り出すよう制御される。 (3) PCS 内の制御回路 1
MPPT 制御器,電圧制御器,電流制御器および PWM 制御器で構成される。MPPT 制御ロジックは
Stateflow で記述される。電圧制御器 ,電流制御器は Simulink で記述される。PWM 制御器は
SimpowerSystems の提供するブロックを使う。制御ロジックの一部:MPPT 制御器と説明を図 5 に示
す。MPPT 制御の山登り法は、最大電力点を探るよう、前回計算した電力と今回計算した電力を比較し、
その大小から次回の設定電圧に補正値 dV を加える。(3) PCS 内の制御回路 1 を図 6 に示す。
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
電力
[W]
Last_P_pv:制御前回値の電力
P_pv:制御今回値の電力
dV dV
最大電力点
P_pv:制御今回値の電力
Last_P_pv:制御前回値の電力
StateflowによるMPPT制御アルゴリズム
MPPTの説明
図 5 Stateflow による MPPT 制御アルゴリズム
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MPPTController
VoltageController
CurrentController
PWM Controller
図 6 PCS 内の制御回路 1
(4) 双方向型 DC/AC インバータ SimPowerSystems が提供する受動素子ブロック、Diode と IGBT の半導体ブロックで構成される。(5)
により、電力潮流の向きと電力が制御される。この制御は、太陽光発電パネルの供給する電力と一般家
庭内の電力負荷の状況から自律的に行われる。 (5) PCS 内の制御回路 2
電圧制御器,電流制御器および PWM 制御器で構成される。電圧制御器,電流制御器は Simulink で記述
される。PWM 制御器は SimPowerSystems の提供するブロックを使いモデル化する。 (6) 一般家庭内電力負荷 200[V]
電力負荷 200[V]を 2 点付加する。負荷は直列 RLC 回路、負荷の SW は理想スイッチとし、
SimPowerSystems の提供するブロックを使いモデル化する。 (7) 系統
柱状変圧器(6.6kV /200V)、フィルタ、変圧器(66kV/6.6kV)、π型伝送路、変圧器(66kV/6.6kV)及び発
電機(66kV)は、SimPowerSystems の提供するブロックを使いモデル化する。 (8) 電力の”見える化”
Gauges Blockset が提供する Angular Gauge により、一般家庭内の電力を監視する。ゲージの正方向
は、太陽光発電による逆潮流の電力を示す。ゲージの負方向は、系統から取り入れる電力を示す。電力
負荷の状態を Toggle Switch で二値表示(ON/OFF:緑/赤)する。 3.シミュレーション
シミュレーションの設定はシナリオ(表 2)とする。時刻 0秒における、各機器の初期値は全て 0とする。
シミュレーションの進行における画面の変化を図 7 に示す。図 8 に、電力負荷の状態と電力の過渡応答
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を示す。電力は、柱状発電器から見て系統側(一次側)の有効/無効電力(系統側)、一般家庭側(二次側)の有
効/無効電力(家庭側)が示される。 電力負荷の増大により、システムの状態が変化する様子が視覚的に確認できる。
(a)では、電力負荷 0 であり、太陽光発電パネルにより生成された電力が系統に流れる逆潮流の状態と
なる。図 8 の系統側有効電力は負値であり、一般家庭側有効電力が正値であることから電力の流れの方
向は一般家庭から系統に向かう。 (b)では、電力負荷 1 が ON となり、太陽光発電パネルの発電電力の一部は電力負荷 1 に消費される。
逆潮流する電力は(a)より減少する。図 8 の系統側有効電力は負値であり、一般家庭側有効電力が正値で
あることから電力の流れの方向は一般家庭から系統に向かう。 (c) では、電力負荷 1/2 が両方 ON となり、太陽光発電パネルの発電電力は電力負荷 1 と電力負荷 2 に
消費される。太陽光発電パネルにより生成された電力のみでは、電力負荷需要に不足し、系統から不足
分の電力を取り入れる状態となる。図 8 の系統側有効電力は正値であり、一般家庭側有効電力が負値で
あることから電力の流れの方向は系統から一般家庭に向かう。 表 2 シミュレーションのシナリオ
時間[s] イベント
0 シミュレーション開始
0.5 電力負荷 1(200V) ON
1.0 電力負荷 2(200V) ON
1.5 シミュレーション終了
(a)
電力負荷スイッチ1/2 OFF
逆潮流量大
電力負荷スイッチ1 ON
逆潮流量減少
(b)
電力負荷スイッチ1/2 ON
電力を系統から取り入れる
(c) 図 7 シミュレーションの進行と画面の変化
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0 0.5 1 1.50
0.51
0 0.5 1 1.50
0.51
0 0.5 1 1.5-5000
05000
P_Sys_Prim
0 0.5 1 1.5-5000
05000
Q_Sys_Prim
0 0.5 1 1.5-101
x 104 P_Sys_Scnd
0 0.5 1 1.5-5000
05000
Time
Q_Sys_Scnd
Power[W]
Power[W]
Power[W]
Power[W]
SW1
SW2
系統側有効電力
系統側無効電力
一般家庭側有効電力
一般家庭側無効電力
電力負荷1 SW
電力負荷2 SW
(a) (b) (c)
図 8 電力の動的変化
4.結語
Simulink 環境における。太陽光発電パネル付きの HEMS の系統連系シミュレーションを紹介した。 電気系物理モデリングを支援する SimPowerSystems により、電力系統と HEMS の電気回路をモデリ
ングする。PCS 内の制御ロジックを Stateflow と Simulink でモデリングする。Gauges Blockset を用い
て電力状況を可視化する。これらにより、電力系統と一般家庭間の電力の流れが定量的、定性的に確認
される。これらのプロダクトを利用し、シミュレーションを活用することで、HEMS の研究・開発に貢
献できると考える。 5.参考文献
[1] 伊東,楊,赤木:分散型電源を含む小規模直流電力供給システムの制御法, 電学論 D120 巻 9 号,2006 [2] グリーンエレクトロニクス,CQ 出版,2011 [3] スマートハウスを実現する自律的な電源制御システムの構築,NE アカデミーセミナー資料,2011