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構造保存数値解法入門 離散変分導関数法降旗 大介 応用数学勉強会 2013 at 芝浦工大 on 2013.12.17

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Page 1: SIC - 構造保存数値解法入門 離散変分導関数法tisiwata/Workshops/Lecture...構造保存数値解法入門 |離散変分導関数法| 降旗大介 応用数学勉強会2013

構造保存数値解法入門—離散変分導関数法—

降旗 大介

応用数学勉強会 2013 at 芝浦工大 on 2013.12.17

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概 要

微分方程式の数値解析の歴史をふりかえると,既に 1960年代には解の保存性を再現する手法についての議論が見つかる.こうした,系の大域的性質の議論に基づいた一連の数値解析手法はいまでは構造保存解法とよばれ,大きな発展をみせている.構造保存解法は方程式がもつ大域的な性質や関係性を離散的に再現するためなんらかの意味で優れた性質を持つことが期待され,非線形性などにより妥当な数値解が得にくい問題では特に有効とされる.本資料は,いくつかある構造保存数値解法の一つである離散変分導関数法について,おおま

かにだがわかりやすい解説を試みた講演を簡単にまとめたものである.離散変分導関数法は主に偏微分方程式に対するもので,方程式の変分構造と保存量ないしは散逸量との関係性に着目し,その保存性 /散逸性を離散的に再現する数値解法を構成する手法である.以降,その基本概念について解説する.

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第1章 入門編: Newton 方程式と熱拡散方程式で

1.1 はじめに: なぜ構造保存などと言い出すのだろう

1.1.1 偏微分方程式の数値計算の失敗例

いきなりではあるが、数値計算が単純ではないということを実感してもらうために、まずは偏微分方程式の数値計算における典型的な失敗例の 1つをみていただこう.Fig.1.1 がそれである.これは後述するCahn–Hilliard 方程式と呼ばれる初期値問題型の偏微分方程式を, 空間方向

-1

0

1

0 0.5 1

x

u

0 step1234

-1

0

1

0 0.5 1

x

u

0 step1234567

図 1.1: Cahn–Hilliard 方程式の数値解が発散する様子. 左: ∆x = 1/50, ∆t = 1/1200, 右:

∆x = 1/50, ∆t = 1/12000

を中心差分で,時間方向を単純な Euler法で離散化した数値スキームで計算した結果を表示したものである.境界条件は周期的境界条件に設定してあり,これはもちろん Cahn–Hilliard 方程式問題本来の境界条件に整合する.さて,最初は空間刻み幅を 1/50, 時間刻み幅を 1/1200

として計算したみたところ,5 stepで overflow, すなわち数値発散を起こして計算が停止してしまった (左図).そこで時間刻み幅が大きすぎたせいではと推測 1して時間刻み幅を 1/10 に小さくして計算しなおしてみると,やはり 8 stepで数値発散を起こしてしまい,うまくいかない(右図).

1この考え方は多くの場合で正しいが,時間刻み幅をどれくらい小さくすればよいかはまた別の問題である.

1

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この様子では時間刻み幅をどれくらい小さくすればよいか見当もつかない.また、もしも小さな時間刻み幅で安定な計算が可能になったとしてもあまり小さな時間刻み幅は計算時間が膨大になることや丸め誤差が蓄積することから数値計算そのものの実用性を失わせてしまう 2.実際、安定性と離散化パラメータの関係を調べる安定性解析を行ってみようとすると、この

Cahn–Hilliard 方程式の場合はそこにも困難がある.というのも,広く用いられる「安定性」は「混入する微小数値誤差が時間発展にそって拡大しないこと」で定義されるが、Cahn–Hilliard

方程式は微小な揺らぎが拡大する現象をモデリングした方程式であるためこれが使えない 3.幸い、こうした特殊な状況に応じた非線形安定性解析 [19]も存在するので、これを用いると、時間刻みを ∆t ∝ ∆x4 ととらねばならないという強い制約が示される.これは ∆t を大変小さくしろということになり、数値計算の実用性はほぼ失われてしまう.この例のように,通常の考え方では数値計算そのものが困難であるという問題も多く、問題

となっているのである.

1.1.2 落ち着いて,状況を把握しよう

こうした困難に対処するにあたり,まず状況を把握して整理してみよう.まず,一つの問題,方程式に対してわれわれは様々な離散的解法を提案することが出来ることに

注意しよう.例えば,もっとも単純な偏微分方程式の 1つである熱拡散方程式 ∂u/∂t = ∂2u/∂x2

に対しても,オイラー法, 陰的オイラー法, Crank–Nicolson 法, 空間方向だけ離散化して,多変数常微分方程式に直す方法 (線の方法) など,多くの数値解法を挙げることができる.多くの解法を提案できること自体は多様性,柔軟性という意味で良いことである.そして,これら数多くの解法の中には,数値計算を安定して行える優れたものも存在するのではないかと期待できる.しかし、これは逆に言えば「どの解法が優れており,どれが悪いのか」を考えねばならない

ということでもある.現実的には無数に沢山ある解法の中から適切なものを選ばねばならないという意味で,この多様性は逆に現場での困難の原因でもある.

1.1.3 古典的な見方とそこに欠けているもの

まず、先人の知恵をきちんと踏まえよう.数値解法の良し悪しについてはある程度確立した,古典的な基準がある.

安定してる?

速い?誤差は小さい?

図 1.2: 数値解法の優劣を見るための古典的な基準

2この方程式がモデルである物理現象の最終的な時間のスケールは O(1) 以上である3せっかく存在する安定性についての多くの研究を適用できない

2

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きちんと述べるならば、

• 安定性、

• 計算精度、

• 計算速度

の 3つが優れているかどうかを数値解法の優劣の指標とするということである.これらの基準は合理的で役に立ち、多くの研究によって裏付けされている.しかし,先の Cahn–Hilliard 方程式の例で見たように万能ではない.なにより、無数の数値解法候補の中からどれを選ぶべきか、すなわち、

どうやって数値解法を設計したらよいか

という指針を与えるものではない.あくまでそこにある数値解法を「後から評価する」ための基準として機能するのである.つまり,良い数値解法を設計する指針,ポリシー は別に作らないといけないのである.

1.1.4 われわれの方針: 構造保存

そして、良い数値解法を設計するための指針として、本稿は構造保存 4という概念に基づくことを勧めるものである.この構造保存という概念は、問題の本質的な性質 (の一部)を数値解において再現することを意味するもので、数値解法の歴史において繰り返し言及されてきたものである.以下に、Newton の運動方程式に関する数値解析について先駆的な Greenspan の研究 [29] より構造保存に対する姿勢を示す一文を引用しよう.

Physics is characterized by conservation laws and by symmetry

(物理は保存則と対称性で特徴づけられる)

この信念に基づき、Greenspan は数値計算においても同様に対称性や保存則を (計算精度や速度よりも)重要視し、画期的な研究をなしたのである.こうした構造保存数値解法の研究の歴史をおうと、最初に注目されたのは背後の物理法則な

どが持つ「局所的な」量の保存則の再現である.これは質量や流量,電荷や運動量などの局所保存則にあたる 5.その後、1970年代以降になると,現在の「大域的な」構造保存に相当するような研究がポツポツと現れるようになり、安定性解析に基いて数値安定性を直接狙うよりも構造保存解法を構成してしまった方が筋が良いというケースが見出されるようになる.これはFig.1.2 から Fig.1.3 へと見方が変わってきたことを意味する.この「筋の良さ」を示すために、構造保存数値解法の利点をいくつか示そう.

4英語では structure preserving という語が使われることが多い.また、伝統的に微分方程式の数値解を求めることを integration と呼ぶため、構造保存に基いて数値解を求めることを geometric integration と呼ぶことも多い.

5これらの研究の発展したものが finite volume method、有限体積法であると言えるだろう.

3

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安定?

速い?誤差は小さい?

構造保存?

図 1.3: 数値解法の優劣を見るための現代的な基準

解の大域的構造が「壊れない」特に保存系ではっきりと言えることであるが、保存系のもつ解の大域的な制約 (例えばsymplectic 性やエネルギー保存性)が数値的に再現されることで、解空間が数値誤差によって不自然に拡大縮小するようなことを防ぐことが出来る.これは、常微分方程式に対する構造保存数値解法についての名著 [32] の冒頭 (page 4)などにはっきりと図解されている 6のでぜひ目を通されたい.

数値計算が難しい問題に対する安定な解法先に示した Cahn–Hilliard 方程式などが良い対象例であるが、様々な理由により数値求解が困難であるような問題に対し、構造保存数値解法は大変優れた解法である可能性がある.実際、Cahn–Hilliard 方程式については構造保存数値解法によって安定かつ高速な数値解法がもたらされる.詳細は後述するが、まずは結果の図をここで示そう.

-1

0

1

0 0.5 1

u

x

0 step1234567

-1

0

1

0 0.5 1

u

x

0 step5

1015202530

1001000110012001300

図 1.4: Cahn–Hilliard 方程式に対する安定な数値計算例. 左: 通常の解法による失敗例 (爆発する), 右: 離散変分導関数法による成功例.

構造保存数値解法の経緯等

あらためて構造保存数値解法の経緯と現在についてもう少し詳しく記しておく.まず,常微分方程式については,先に記したように 1970年代に Greenspan が力学系のエネルギー保存解法の構成に取り組んだあたりが始まりで,その後,力学系の作用とその変分に対する離散変分

6大変にわかりやすい優れた図なので本稿にぜひとも載せたいところであるが…

4

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法が考案される.さらにハミルトン系に対する Symplectic 法が考案され,大変な成功をおさめることとなる.偏微分方程式については,やはり 1970年代に個別の問題に対していくつか取り組んだ例があり,その後ややあいて, 1998年頃,F. & Mori によりいくつかの散逸系と保存系に対する離散変分導関数法 (DVDM)が提案されることとなる.さらに 2001年頃ハミルトン偏微分方程式に対する multi-symplectic 法が提案される.そして近年は,構造保存数値解法の枠組みについての研究が多く見られるようになってき

た.それぞれ列挙すると,Quispel, McLachlan, McLarenらによる離散勾配法 (discrete gradient

method),Quispel らおよび Celledoni, Owren, Wright による平均ベクトル場解法 (average

vector field method), Marsden, Patrick, Shkoller, Westらによる離散変分法 (discrete variational

method), といった海外研究者によるものがある他,本邦においても Yaguchi による Euler–

Lagrange偏微分方程式への Lagrangianアプローチ,そしてわれわれF., Mori, Sugihara, Matsuo,

Ide, Yaguchi らによる離散変分導関数法 (DVDM)が挙げられる.

図 1.5: 著者らによる成書 “Discrete Variational Derivative Method”. F. and T.Matsuo, CRC

Press, 2010, ISBN: 978-1-4200-9445-9

1.2 簡単な例で: 常微分方程式: Newton の運動方程式構造保存数値解法とは何かということを感覚をつかむために、簡単な例を対象に実際に手で

計算してみよう.ここでは常微分方程式である Newton の運動方程式を対象とし、Greenspan

が提唱したスキームの解説をしてみる.

1.2.1 Newton の運動方程式 (ODE)

簡単のためにここで扱う Newton の運動方程式では質点の質量を 1 とし, 時間 t での質点の位置を x(t), 位置 x で働く外力を f(x) として

加速度 x = 外力 f(x). (1.1)

5

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としたものとしよう (変数の上にドットがついたものは時間微分を表しているものとする).このとき,速度 v = x, 位置ポテンシャル ϕ(x) (ただし, dϕ/dx = −f(x)) を用いて表される

エネルギー Jdef=

1

2v2 + ϕ(x) (1.2)

は保存量であることに今回は注目する.

1.2.2 エネルギー保存性

離散計算でエネルギー保存性を再現するために,Newton の運動方程式でのエネルギー保存性がもともとどのように数学的に示されるかをはっきりさせておこう.まず以下のように,ポテンシャル ϕ を用いた形で Newton運動方程式を (連立)一階常微分方程式に書き直してみる 7. x = v, (1.3a)

v = −dϕ

dx. (1.3b)

すると,以下のようにしてエネルギー J = v2/2 + ϕ(x) の保存性が理解できる.

dJ

dt= v · v + dϕ

dx· x

= v

(v +

dx

)= 0. (1.4)

最初の等式変形は微分の連鎖律によるもので、2つ目は (1.3a),3つ目は (1.3b) による.

1.2.3 Greenspan スキーム

この Newton の運動方程式に対し、Greenspan [29] は次のような数値スキームを提案する.xn+1 − xn

∆t=

vn+1 + vn2

, (1.5a)

vn+1 − vn∆t

= −ϕ(xn+1)− ϕ(xn)

xn+1 − xn

. (1.5b)

ただし、時間 t = n∆t のときの x の数値解を xn, v の数値解を vn としている.さて、このスキームは離散的なエネルギー

Jndef=

1

2(vn)

2 + ϕ(xn), (1.6)

7高階の常微分方程式を一階の連立常微分方程式に等価変形すると扱いやすくなることが多いので

6

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を保存するように作られているのだが、それがどのようにして実現されているのかを、エネルギーの変化を計算する次の式変形を通じてみてみよう.

Jn+1 − Jn∆t

=1

2∆t

(vn+1)

2 − (vn)2+

1

∆tϕ(xn+1)− ϕ(xn)

=

(vn+1 + vn

2

)(vn+1 − vn

∆t

)+

(ϕ(xn+1)− ϕ(xn)

xn+1 − xn

)(xn+1 − xn

∆t

)=

(vn+1 + vn

2

)(vn+1 − vn

∆t

)+

(ϕ(xn+1)− ϕ(xn)

xn+1 − xn

)= 0. (1.7)

まず、最初の等式はエネルギー式の定義を代入しているだけなので問題無い.次の、因数分解などを用いた等式は微分の連鎖律を離散的に模したものになっていて、(1.4) の最初の等式変形に相当する.そして、3つ目の当式変形は (1.5a) によるもので、4つ目の当式変形は (1.5b) による. このエネルギー保存性を示す全体の流れは 1.2.2章で示した本来の Newton の運動方程式がエネルギーを保存することを示したものとまったく同じものであることがわかる.そして、Greenspan のスキーム (1.5a), (1.5b) はこの当式変形の途中で要請される関係性をそのままスキームとしたものであることも容易に理解できるだろう.

1.2.4 Greenspan スキームからわかること

上のような Greenspan のスキームの性質に対する理解からわかること、考えられることがあるのでそれをあらためてまとめてみよう.まず、

• Newton 運動方程式のエネルギー保存性は,その微分を一階にした連立常微分方程式の形から容易に理解できる.

• Greenspan のスキームは,エネルギー保存性を示す等式変形の途中で要請される関係性を,離散演算で素直に真似 (mimic)することで導出・理解ができる.

ということが言えた.このことから鑑みて、次のようなことが予想・期待できる.

予想 1 微分方程式の解がもつ保存性や散逸性を離散系で再現するには、次のステップを踏んで考えれば良い.

1. まず、保存性,散逸性を数学的に示す (不)等式と、もとの微分程式の関係式をはっきりさせる.この関係を (Rc) と書こう (添字の c は、連続系での関係性という意味でつけている).いま見てみた Newton 運動方程式の場合は、エネルギーの保存性を示す等式変形の過程において運動方程式が陽に二回用いられており、その関係がはっきりとわかる形になっていた.

7

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2. 次に、保存性,散逸性を数学的に示す (不)等式の変形を離散的に行う.この変形をすすめる過程で (RC) を離散化したものに相当する関係が要求されることになるので、これを(Rd) と呼んで、(Rd) が満たされることを要求する.この要求は数値スキームの形式に強い制限を与えるから、うまくいけば数値スキームが一意に定まる.もしそこまで制限が強くなくとも 8、数値スキームをどうすべきかという良きポリシーになるはずなのでこれを用いて数値スキームを設計する.

3. こうして構成された数値スキームは、(途中の変形に間違いがなければ)離散的な保存性や散逸性を持つ.

1.2.5 自分で試してみる

Greenspan の差分スキームだけでは単純すぎることもあって議論のポイントが見えにくいかもしれない.そうした読者は自分で以下のような、簡単な具体例についての考察を行ってみると良いだろう.

• 一定の重力下 (つまり,われわれの住む地上)での質点の自由落下現象に対する,Greenspan

の差分スキームを導出してみる.余裕があるならば,実際に計算機で計算してみると良い.

• 一定の重力下 (つまり,われわれの住む地上)での振り子の回転運動に対する,Greenspan

の差分スキームを導出してみる.余裕があるならば (以下同文).

• 一定の重力下 (つまり,われわれの住む地上)での二重振り子の回転運動に対する,Greenspan

の差分スキームを導出してみる.余裕があるならば (以下同文).

1.3 簡単な例で: 偏微分方程式: 熱拡散方程式さて、今度は偏微分方程式に対して構造保存数値解法がどのように構成できるかを考えてみ

よう.さきほどは Greenspan の数値スキームを紹介する形だったが、こんどは 離散変分導関数法を用いよう.まず、離散変分導関数法とはなにかであるが、標語的に述べれば

“離散変分導関数法は,変分導関数に基づく性質をもつ偏微分方程式に対して,その性質を引き継ぐように数値スキームを導出する方法である”

8逆に、制限が強すぎてそうしたスキームが構成できないことが判明することもある.実際、一般的には数値スキームにおいて symplectic 性とエネルギー保存性が両立しないことが判明している.

8

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ということになる.しかし、これだけでは詳細がよくわからないので、Greenspan のスキームを紹介した時同様に、まずは簡単な例を通じて理解を試みよう.

1.3.1 簡単な例で: 熱拡散方程式

本節では、熱拡散方程式を例として用いて 離散変分導関数法を適用してみよう.熱拡散方程式は空間位置 x, 時間 t に対する関数 u(x, t) に対する偏微分方程式で

∂u

∂t=

∂2u

∂x2(1.8)

と書くことが出来る.簡単のために、空間次元を 1 とし、定義領域は x ∈ Ω = [0, L], t > 0 としよう.境界条件についても簡単のためにノイマンゼロ境界条件

∂u(x, t)

∂x= 0 on ∂Ω, (1.9)

か、もしくは周期的境界条件

u(x+mL, t) = u(x, t) for any integer m, (1.10)

が課されているものとしよう.さて、この方程式は数学的にいくつか重要な性質を持つが、ここでは次の 2つの散逸性 9に着目しよう.

散逸性 1

熱拡散方程式の解 u(x, t)に対して∫(u)2 dxは散逸量である.すなわち、以下が成り立つ.

d

dt

∫ L

0

u(x, t)2 dx ≤ 0. (1.11)

散逸性 2

熱拡散方程式の解 u(x, t) に対して∫(∂u/∂x)2 dx は散逸量である.すなわち、以下が成

り立つ.d

dt

∫ L

0

(∂u(x, t)

∂x

)2

dx ≤ 0. (1.12)

さて、本節では構造保存数値解法の再現対象としてこの散逸性を用いよう.つまり、散逸性 1

を離散的に再現する数値スキーム、および、散逸性 2 を離散的に再現する数値スキームを構成することを目標とする.

Remark 1 なお、構造保存数値解法の主目的はその構造保存性そのものにあるが、もちろん隠れた副目的として構成された数値スキームが安定であることや、解の誤差が小さいこと、計算速度が速くできる事なども期待される.よって、こうした副目的についても可能ならば検証することにしよう.

9境界条件次第で他にも多くの散逸性をもつ.例えば、周期的境界条件下では任意の正整数 m に対して∫(d/dx)mu(x, t)2 dx が散逸量となる.

9

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1.3.2 散逸性を理解する

先の Greenspan の例のように、今示した 2つの散逸性を,熱拡散方程式のもつ性質として数学的に理解することを考えよう.それには、Newton の運動方程式を一階微分の連立方程式に変形したように、まず対象の熱拡散方程式をこの散逸性を理解するのに適した形式で見直すことが必要である.その後、その形式を通じて散逸性を理解することができよう.

散逸性 1 を理解する: 熱拡散方程式を違う形で認識する

Newton の運動方程式を適した形に等価変形したように、熱拡散方程式を散逸性 1 を理解するのに適した形で見直そう.この形や散逸性の理解の仕方はもちろん一意ではないが、ここでは 離散変分導関数法で推奨するものを紹介する.離散変分導関数法では、散逸性 1 を理解するために熱拡散方程式 ut = uxx を次のように見直す.

∂u

∂t=

∂2

∂x2

δG1

δu, (1.13)

ただし、G1(u, ux)

def=

1

2u2, (1.14)

であり、δG1/δu は G1(u, ux) の u に対する変分導関数である.なじみのない人も居るであろうから変分導関数について解説すると、変分導関数 δG/δu とは、関数 u とそれを引数に持つG(u, ux, · · ·) によって定義される積分汎関数

J [u]def=

∫Ω

G(u, ux, · · ·) dx (1.15)

に対して、J の微小変化が

J [u+ δu]− J [u] =

∫Ω

δG

δuδu

dx+ (境界値のみで決定される項) + O(δu2) (1.16)

と表されるように定められる量である 10.G1 = G1(u, ux) = u2/2, Ω = [0, L] に対しては、最初に Taylor 展開を、途中で部分積分を用いることで、

J [u+ δu]− J [u] =

∫ L

0

∂G1

∂uδu+

∂G1

∂ux

δux

dx+O(δu2)

=

∫ L

0

(∂G

∂u− ∂

∂x

∂G

∂ux

)δu

dx+

[∂G1

∂ux

δu

]L0

+O(δu2)

=

∫ L

0

uδu dx+O(δu2) (1.17)

10ひどく大雑把に言えば、積分汎関数に対する微分係数であり、Jacobi 行列を連続化したものに相当する.

10

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よりδG1

δu= u, (1.18)

であることが容易に求められる.

散逸性 1 を理解する: 散逸性を示す式変形をおいかける

さて、熱拡散方程式を (1.13) の形で認識したうえで、散逸性 1 を示す不等式を示してみよう.それは, 散逸量を

J1[u]def=

∫ 1

0

G1(u, ux) dx (1.19)

と表した上で、G1 の表記を崩さずに用いて次のように示される.

dJ1

dt=

∫ 1

0

(δG1

δu

∂u

∂t

)dx+

[∂G1

∂ux

δu

]L0

=

∫ 1

0

(δG1

δu

∂2

∂x2

δG1

δu

)dx

= −∫ 1

0

(∂

∂x

δG1

δu

)2

dx+

[δG1

δu

∂x

δG1

δu

]10

≤ 0. (1.20)

最初の当式変形は変分導関数の定義に基づいたもので、(1.17) がその詳細を示している.次の変形は熱拡散方程式を理解しなおした式 (1.13) の左辺と右辺を交換したもので、その次は部分積分による.そして、境界条件により境界値による項が厳密にゼロとなるため、最後の不等式を得る.この後のために、ここでこの不等式を示す過程での重要なポイントが何かを考えてみると以

下のようになるだろう.

• 積分汎関数の変化を記述するための変分導関数,

• 対象の方程式を (1.13) と捉えること,

• 式変形を支える部分積分.

これから見るように、これらは 離散変分導関数法の基本的な要素となっている.

散逸性 2 を理解する: 熱拡散方程式を違う形で認識する

さて、同様に散逸性 2 を理解しよう.まずは熱拡散方程式 ut = uxx をそれに適した形で見直すことであるが、ここでは

∂u

∂t= −

(δG2

δu

)(1.21)

11

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とする.ただし、

G2(u, ux)def=

1

2

(∂u

∂x

)2

(1.22)

であり、その変分導関数 δG2/δu は (1.17) と同様の計算により

δG2

δu= −∂2u

∂x2(1.23)

となる.

散逸性 2 を理解する: 散逸性を示す式変形をおいかける

熱拡散方程式を (1.21) と捉え直した上でやはり積分汎関数である

J2[u]def=

∫ L

0

G2(u, ux) dx (1.24)

の散逸性を以下の不等式で理解しよう.やはり G2 の内容を代入する必要はあまりなく (境界条件を用いる場合は内容の評価が必要だが)、

dJ2dt

=

∫ 1

0

(δG2

δu

∂u

∂t

)dx+

[∂G2

∂ux

δu

]L0

= −∫ 1

0

(δG2

δu

δG2

δu

)dx+ [uxδu]

L0

= −∫ 1

0

(δG2

δu

)2

dx

≤ 0, (1.25)

と表される.最初の当式変形はやはり変分導関数の定義に基づいたもので、(1.17) がその詳細を示しており、次の変形も同様に熱拡散方程式を理解しなおした式 (1.21) の左辺と右辺を交換したものである.そしてここで具体的に書きなおした境界値項は境界条件 (ノイマンゼロ or 周期的)により厳密にゼロとなる.すると残るは単純に非正なる量であるので、目的の不等号を得る.

1.3.3 方程式と変分導関数の関係、離散変分導関数法の狙うところ

ここまで、変分導関数を用いて表現した方程式とその散逸性との関係を見てきた.そこで、この関係をあらためて図式にして理解し、そして 離散変分導関数法が構造的な数値スキームをどのようにつくろうとするのか、それを示そう.これは、予想 1 のステップ 2 に相当する部分である.まず、それらすべてを図式化したものを Fig.1.6 に示す.

12

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G( ux)

d

dtJ(u) ≤ 0

Gd(U(m))

Jd(U(m+1)) ≤ Jd(U

(m))

δG

δu

δGd

δ(U (m+1)U

(m))

∂u

∂t= −

δG

δu

Uk(m+1)

− Uk(m)

∆t

= −δGd

δ(U (m+1)U

(m))k

u

,

,

,

図 1.6: 散逸性と 離散変分導関数法がその構造を再現する様子 (具体的には散逸性 2 にあたる)

13

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構造保存数値解法の基本コンセプトは連続系の議論を離散化することにあるが、離散変分導関数法の場合は Fig.1.6 の離散変分導関数法の流れに沿って数値スキームを構成することがそれになる.Fig.1.6 の左側部分が直前に示した「散逸性を理解する」部分であり、離散変分導関数法ではその関係性を右側部分のようにまるごと離散化しようとするのである.離散変分導関数法ではこの図式を実現できれば,散逸性を持つ数値スキームをほぼ自動的に得られるはずであり、かつ、得られたスキームは優れたものであろうと考えるのである.さて、以降はこの図式を実現して数値スキームを実際に構成してみよう.そのために離散的

な演算を行うためのいくばくかの準備が必要なので、まずはそちらにとりかかろう.

離散演算、部分和分

今述べたように、いくつかの道具立てが必要だ.離散的な散逸性の不等式を実現する式変形の途中で必要になる順番に述べると、

• 微積分を離散化した演算,

• 部分積分を離散化したもの (部分和分),

• 変分導関数を離散化したもの

となる.最初の 2つは紹介が容易なのでまずここで紹介し、その後、3つ目はストーリー展開にあわせてあらためて紹介しよう.

微積分の離散版に相当する差分,和分理解を助けるために、ベタな表記ではあるがいくつかそのまま示そう 11.δ∗k は添字 k に働きかける差分作用素で ∗ の添字が階数や性質を示す.δ+k は前進差分、δ−k は後退差分、δ⟨1⟩k は一階の中心差分、δ

⟨2⟩k は二階の中心差分である.そして

∑′′ は台形則に基づく和分作用素であり、これらは以下のように定義される.

δ+kfkdef= (fk+1 − fk)/∆x, (1.26)

δ−kfkdef= (fk − fk−1)/∆x, (1.27)

δ⟨1⟩k

def= (δ+k + δ−k)/2, (1.28)

δ⟨2⟩k

def= δ+kδ

−k, (1.29)

N∑k=0

′′ fkdef= f0/2 +

N−1∑k=1

fk + fN/2. (1.30)

11微積分に相当する離散的な作用素を一般的に書くと、ちょっと面倒な表記になることが多い.

14

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部分和分これまでの数式の変形を丁寧に追うと、頻繁に部分積分が使われていることに気づくだろう.これは部分積分が変分と微分と積分をつなぐ数学的な「キー」であるからであり、構造保存数値解法では重要視せざるを得ない.そして、これを離散化したものに相当する概念が部分和分である.部分和分には細かい点で異なる様々なものがあるが、まずはもっとも単純なものをここに示しておこう 12.

N∑k=0

′′ (δ+kfk)gk∆x = −N∑k=0

′′ fk(δ−kgk)∆x+

[(s+kfk)gk + fk(s

−kgk)

2

]N0

, (1.31)

ただし、s+k, s−k はそれぞれ添字 k に対する前進シフト作用素、後退シフト作用素である.

この部分和分はこれから頻繁に使われることになる.

1.3.4 離散変分導関数法の実装

さて、道具立てとして離散的な変分導関数 (離散変分導関数)の定義、説明がまだである.が、これは式変形と伴って説明したほうがその「意図」を理解しやすいために、以降の適切な場面で説明することにしよう.そこで、ここから 離散変分導関数法に従って実際に熱拡散方程式の数値スキームを構成し

てみる.目標の散逸性が二種類あるが、ここでは散逸性 2 に着目して数値スキームを構成しよう 13.そしてこの過程にそって読み進めれば流れが自ずと理解できるだろう.まず、熱拡散方程式の厳密解 u(k∆x, n∆t) に対応する数値解を U

(n)k とし,先の Fig.1.6 に沿って数値スキー

ムの構成を目指そう.

離散エネルギー関数を定義する

Fig.1.6 に沿ってやるべき最初のことは、熱拡散方程式の散逸性 2 を示すために使われた関数G2(u, ux) = (ux)

2/2 の離散化である.もちろんこの離散化の方法は一意ではなく、そしてこの離散化の結果が異なれば最終的に得られる数値スキームも異なる 14.ここではとりあえず、最もシンプルかつ対称性のある形式を採用し、G2(u, ux) を離散化したもの Gd を

Gd,k(U)def=

1

2

((δ+kUk)

2 + (δ−kUk)2

2

), k = 0, 1, · · · , N (1.32)

と定義しよう.ただし、添字 k は空間位置 x = k∆x を表しており、

Udef= UkN+1

k=−1 (1.33)12検算は簡単なので、こうした計算になれるためにも一度実際に手を動かしてみることをお勧めする.13散逸性 2 の方が離散変分導関数について理解の助けになるので.もちろん、散逸性 1 でも同様にやれば出来る.

14もちろん、得られる数値スキームが偶然に一致することはあるかもしれない.

15

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は関数 u(x) の位置 x = k∆x での関数値 u(k∆x) に対応する近似値 Uk を要素にもつベクトルである.

Remark 2 ちなみに、この 2つの式に現れる k = −1, k = N + 1 での Uk の値は u(x) の本来の定義域の「外」を参照していておかしなように見えるが、その実は (1.32) を自然に定義するための人工的な量で、境界条件を通じて値が決定されることを想定している.よって、境界条件を離散化するときはそこに留意しよう.

離散変分導関数を導出する

離散変分導関数の数学的な定義を天下り式に与えても良いが 15、理解を助けるため,ここでは今定義したばかりの離散エネルギー Gd の変分計算を通じて導出し、その中身を理解しよう.まず、散逸量 J2[u] の離散版に相当する Jd を以下のように定義しよう.

Jd[U ]def=

N∑k=0

′′ Gd,k(U)∆x. (1.34)

そして、散逸性 2 を示すための不等式 (1.25) に相当する計算を行う.(1.25) の最初の当式変形は変分計算 (1.17) 相当によって得られるから、先に (1.17) の離散版にあたる計算を以下のようにして行っておこう.

Jd(U)− Jd(V )

=N∑k=0

′′ Gd,k(U)∆x−N∑k=0

′′ Gd,k(V )∆x

=1

4

N∑k=0

′′ ((δ+kUk)2 + (δ−kUk)

2 − (δ+kVk)2 − (δ−kVk)

2)∆x

=1

2

N∑k=0

′′δ+k

(Uk + Vk

2

)δ+k (Uk − Vk) + δ−k

(Uk + Vk

2

)δ−k (Uk − Vk)

∆x

=N∑k=0

′′ −δ⟨2⟩k

(Uk + Vk

2

)(Uk − Vk)∆x+境界項 (1.35)

ただし、この後の式変形の便宜を考えて、微小量 δu を用いて J [u+ δu] と J [u] の差を計算する形ではなく、異なる 2つの量 U ,V に対する Jd[U ] と Jd[V ] の差を計算している.Uk − Vk

が δu(k∆x) に相当することに留意されたい.そしてこの式変形であるが、最初と 2つ目の当式変形は単なる代入で、3つ目は因数分解にす

ぎない.重要なのは 4つ目の当式変形で、ここで部分和分が用いられていることに注目しよう.15残念ながら? 厳密さが必要なので論文では離散変分導関数は天下り式、かつ、数学的にかっちりと定義している [21].おかげで少し読みにくいかもしれない.

16

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Remark 3 見逃しがちだが、(1.35) の変形は厳密に等式変形でつながっている上に O((δu)2)

に相当する項が無い.これは離散計算では極限計算による収束値を用いることができない事情を考えると重要な性質で、離散計算を真面目に考えるうえでは見逃せない.

Remark 4 この変形は,連続系では次の式に相当する.

δ

∫1

2(ux)

2 dx

∼=∫

uxδux dx =

∫−uxxδu dx+境界項. (1.36)

Remark 5 (1.35)をまじめに計算すると、境界項は次のようになる.煩雑なので書き込まなかったが…

1

4

[δ+k

(Uk + Vk

2

)s+k (Uk − Vk) + 2

(δ⟨1⟩k

(Uk + Vk

2

))(Uk − Vk) + δ−k

(Uk + Vk

2

)s−k (Uk − Vk)

]N0

.

(1.37)

さて、この変形により、Gd の U , V に対する離散変分導関数は

δGd

δ(U ,V )k

def= −δ

⟨2⟩k

(Uk + Vk

2

)(1.38)

と定義するのが妥当であることがわかる.あらためて端的に言うと、関数 Gd に対して

N∑k=0

′′ Gd,k(U)∆x−N∑k=0

′′ Gd,k(V )∆x =N∑k=0

′′ δGd

δ(U ,V )k(Uk − Vk)∆x+境界項 (1.39)

を満たすべきものとして定義されるのが Gd の離散変分導関数で、(1.38) はそれを満たす、ということである.

離散変分導関数法が提案する数値スキーム

さて、これで離散変分導関数の導出、すなわち変分導関数の離散化がうまくいったので, 次は数値スキーム (まだ得ていないが)とあわせて、散逸性を確認することになる.そこで、この段階で 離散変分導関数法が提案する数値スキームを紹介しておこう 16.

離散変分導関数法スキーム離散変分導関数法では、(1.21) の形をした偏微分方程式に対し、次のような数値スキームを提案する.

U(n+1)k − U

(n)k

∆t= −

(δGd

δ(U (n+1),U (n))k

). (1.40)

16Greenspan が数値スキームを提案したことと同様に、離散変分導関数法が数値スキームを「提案」する形となる.

17

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そして、われわれは既に離散変分導関数 (1.38) を計算して求めているので、これを上の式に代入すると具体的な数値スキームとしては

U(n+1)k − U

(n)k

∆t= δ

⟨2⟩k

(U

(n+1)k + U

(n)k

2

)(1.41)

となる.

先へ進む前に、この段階でこの数値スキームについて、式をみただけでわかることを列挙しておこう.

• このスキームは線形である.

• このスキームは (時間ステップ方向に)完全陰的である.よって、実際に数値解を得るためには時間ステップを一つ進める毎に連立一次方程式を解く必要がある.これは連立非線形方程式に比べれば計算量は少ないが、陽的なスキームに比べればあきらかに計算量を要する.

• このスキームは空間方向にも時間方向にも対称である.よって、各点 (x = k∆x, t = n∆t)

における数値誤差は ∆x, ∆t に対して二乗オーダーであるだろう 17.

• このスキームは、非常によく知られた Crank–Nicolson スキームそのものと一致する.

これ以外の性質についてはより詳細に調べる必要がある.われわれの立場としては、まずは散逸性をチェックすることになる.

散逸性を示す離散的な不等式が正しいか確かめる

準備が整ったので、散逸性 2 の離散版に相当するものがこの数値スキームによって実現されているか、確認してみよう.それには時間ステップを進めると Jd[U

(n)] が 単調減少することを確認すれば良いので、次の計算をすれば良い.

1

∆t

Jd[U

(n+1)]− Jd[U(n)]

=1

∆t

N∑k=0

′′ Gd,k(U(n+1))∆x−

N∑k=0

′′ Gd,k(U(n))∆x

=N∑k=0

′′ δGd

δ(U (n+1),U (n))k

(U

(n+1)k − U

(n)k

∆t

)∆x+境界項

= −N∑k=0

′′(

δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)(δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)∆x+境界項

≤ 0. (1.42)17実際にそうだということは確かめられる.

18

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最初の等式は単なる代入で、2つ目の変形は離散変分導関数の定義そのものを使っている.そして、3つ目の等式変形は提案された数値スキーム (1.40) の右辺と左辺を換えたことによる.そして、離散的な境界条件がこの境界項をゼロにするならば この量は非正となり、確かに散逸性 2 相当が厳密に再現されていることが確かめられる.この境界条件についてだが、本稿では本来の境界条件であるノイマンゼロ、もしくは周期的

境界条件を離散化したもので、上に書いたように境界項をゼロにするものということが要請される.境界項そのものは (1.37) にその詳細が書かれているのでこれを参考にすると、以下の様な離散境界条件が考えられることがわかる.

離散ノイマンゼロ境界条件数値解 U (n), n = 0, 1, 2, · · · に対して、下記のような境界条件を与えると上の境界項はゼロになり 18、離散散逸性 2 が正しく成り立つ.

δ⟨1⟩k U

(n)k = 0, for k = 0 or N. (1.43)

離散周期的境界条件数値解 U (n), n = 0, 1, 2, · · · に対して、下記のような境界条件を与えるとやはり上の境界項はゼロになり、離散散逸性 2 が正しく成り立つ.

U(n)k+mN = U

(n)k , for any integer m. (1.44)

得られた数値スキームの他の性質: 良き副作用

この数値スキームが Crank–Nicolson スキームと合致することからも想像できるように、このスキームは大変に良い性質を持っている.構造保存数値解法の隠れた目的である、古典的基準「安定性,数値解の存在性,精度,等々…」の良し悪しも含め、そのことをここで少し見ていこう.

u2 散逸性 (散逸性 1)

実は、この数値スキームは同時に散逸性 1 も持っている.これは一種の偶然だが、これまでと同様の計算を以下の条件下で行うと同じ数値スキームが出てくることから確認できる.まず、G1 の離散化を

Gd(U)def=

1

2(Uk)

2, (1.45)

とする.そして、(ここで初めて触れるが) 離散変分導関数法は (1.13) に対して

U(n+1)k − U

(n)k

∆t= δ

⟨2⟩k

(δGd

δ(U (n+1),U (n))k

), (1.46)

を提案するため、あとは具体的に計算すればよい.逆に言えば、この偶然性は、Crank–

Nicolson スキームの素性の良さをあらためて認識させるということでもある.18離散計算の良い練習になるので、自分で計算して確かめてみよう.

19

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安定性Crank–Nicolson スキームの数値安定性は離散 Fourier 展開を通じた安定性解析などで既に知られていることであるが,ここでは散逸性 1, 散逸性 2 を利用して確かめてみよう.まず、よい参考になるので、このスキームの安定性を示す前に元の熱拡散方程式の厳密解について成り立つ関数解析的な知見を列挙しておこう.

1. 散逸性 1 と散逸性 2 により,厳密解のソボレフノルムは減少する.ちなみにここでいうソボレフノルムとは、定義域 (開集合) Ω ∈ RN 上における関数 u に対して

∥u∥H1(Ω)

def=

∥u∥2L2(Ω) +

N∑i=1

∥∥∥∥ ∂u∂xi

∥∥∥∥2L2(Ω)

1/2

(1.47)

で定義されるものとしている.

2. ソボレフノルムと通常のノルムとの関係を表す不等式として、ソボレフの補題 /不等式というものがある.これは本来さまざまな表現を持つ一般的な補題であるが、定義域の次元を 1 にとった場合は以下のようにソボレフノルムは (ある定数 C が存在して) sup ノルムでおさえられるという不等式となる [6, p.178 など].

∥u∥L∞(Ω) ≤ C ∥u∥W 1,p(Ω) , (1.48)

ただし、p は 1 ≤ p ≤ ∞, W 1,p はソボレフ空間で、W 1,p は付随するノルム

∥u∥W 1,p(Ω)

def=

∥u∥pLp(Ω) +

∥∥∥∥∂u∂x∥∥∥∥pLp(Ω)

1/p

(1.49)

をもつことがしられている.注: みてすぐわかるが、H1(Ω) = W 1,2(Ω) である.

3. 上 2つの事実から,熱拡散方程式の空間定義域が 1次元の場合、厳密解の sup ノルムは時間に依存しない定数 C と初期値を用いて次のように上からおさえられる.

∥u(·, t)∥L∞(Ω) ≤ C ∥u(·, t)∥H1(Ω)

≤ C ∥u(·, 0)∥H1(Ω) . (1.50)

さて、これらの性質を参考に,数値スキームの安定性を調べることになるのだが、実際容易に以下の事実を示すことが出来る.

1. 散逸性 1 と散逸性 2 によって,離散ソボレフノルムが減少する.ただし、ここでいう離散ソボレフノルムとは以下のように定義される量である.

∥U∥d-(1,2)

def=

N∑k=0

′′((Uk)

2 +((δ+kUk)

2 + (δ−kUk)2)

2

)∆x

1/2

. (1.51)

20

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この式のとおり、離散ソボレフノルム (の自乗)は離散散逸量 1 と離散散逸量 2 の合計そのものである.

2. 空間次元が 1 のとき,以下の形の離散ソボレフの補題が成り立つ.

max0≤k≤N

|Uk| ≤ 2

√max(

|Ω|2,1

|Ω|) ∥U∥

d-(1,2) . (1.52)

この補題に相当する不等式は使い勝手が良く、差分法の文献に時折現れる.証明も単純で短いので [23, 37]19興味のある方は参照されたい.

3. 上 2つの結果からただちに以下の不等式が成り立つ.これは,この離散変分導関数法スキームが無条件安定であることを意味する.

max0≤k≤N

∣∣∣U (n)k

∣∣∣ ≤ 2

√max(

|Ω|2,1

|Ω|)∥∥∥U (0)

∥∥∥d-(1,2)

. (1.53)

この不等式の左辺の時間ステップが n で、右辺の時間ステップが 0 であることに留意されたい.これは、時間発展した数値解の最大値ノルムが初期値で決まる量で抑えられることを意味しており、大変強い結果である.

Remark 6 これはノルムを通じた関数解析的な手法なので、問題・方程式に非線形性があっても使うことができる.そのため、関数展開に基づく安定性解析とは異なる範囲へ応用を広げられる可能性があり、重要な手法である.

1.4 本章のまとめ本章の内容をまとめるならば以下のようになるだろう.

• 構造保存数値解法とは、微分方程式の解関数が持つ数学的性質を離散的に再現するような数値スキームを構成する手法のことを言う.

• 構造保存数値解法を用いることで、(数値計算の視点からみて)優れた数値スキームを構成することが出来ると期待する.

• 微分方程式の解関数が持つ数学的性質を示す等式ないしは不等式と、微分方程式の関係を陽にとらえ、その関係を再現することが構造保存数値解法の「すること」である.

19ただし、離散版の証明は離散計算を展開するだけのベタなものであり、Fourier 変換を通じた本来の連続版ソボレフの補題の証明とは様子が異なる.そのため、補題の「適用範囲」が連続版よりずいぶんと狭く、このことが複数の場面で障害となる.

21

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• 常微分方程式である Newton の運動方程式のエネルギー保存性については、Greenspan

が構造保存数値スキームを提案している.本章ではその保存性が離散系でどのように実現されているかを追ってみている.

• 偏微分方程式である熱拡散方程式のいくつかの重要な散逸性については、離散変分導関数法がやはり構造保存数値スキームを提案している.本章ではその散逸性がどのように再現されるかを追うとともに、その結果によって得られた「良い」副作用についても示している.

そして、次章以降では 離散変分導関数法についてより複雑な例、一般化、そしてさらなる発展について詳しい記述を行う.ぜひ読み進めていただきたい.

22

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第2章 中級編: 少し複雑な方程式

2.1 Cahn–Hilliard 方程式さて 前章では熱拡散方程式を対象として 離散変分導関数法がどう適用されるかを見てきた.

熱拡散方程式はシンプルな線形方程式であったのでこの章ではもう少し複雑な問題に対する離散変分導関数法の適用性を見てみよう.対象問題の例として多少複雑な以下の Cahn–Hilliard

方程式を取りあげよう.これは混合撹拌した二成分系が時間とともに相分離する現象の各点での相混合比を偏微分方程式でモデリング /記述したもので 例えば水と油を混ぜても速やかに分離していく様子を思い浮かべるとわかりやすい. 方程式としては、独立変数である時間を t, 空間 (ただし 1次元としておこう)の位置を x として、従属変数である実関数 u(x, t) に対して,

∂u

∂t=

∂2

∂x2

(pu+ ru3 + q

∂2u

∂x2

), (2.1)

と表される.ただし p, q, r ∈ R は背景の物理問題の挙動を決めるパラメータで p, q < 0 < r である.この問題の空間の定義域を Ω = [0, L] として, 通常は境界条件を

∂u

∂x= 0 on x = 0 or L, (2.2a)

∂3u

∂x3= 0 on x = 0 or L (2.2b)

とする.また本章もこの境界条件を前提とする.ただし、境界条件を周期的境界条件

u(x+ nL, t) = u(x, t) for any integer n, (2.3)

に設定しても本章の話は成立するので、こう考えてもよい.この方程式は相分離現象のモデル方程式であるから、この方程式の解関数は初期値の微小な

揺動が時間発展とともに増幅されて一定の値に到達し その後、同一成分の相同士が合体して巨大化していくような振る舞いをする.典型的な数値的安定性の概念は微小な揺動が拡大しないように定義されるものなので、この方程式の数値計算は「典型的な数値的安定性の意味で不安定 1」なことが避けられない.実際、なんらかの工夫等を施さないような数値解法ではこの方程式は強い不安定性を示すために数値計算が困難であることが知られている.

1数値的に微小な揺動の拡大を「本質的に」防止できないという意味である.もし防止できたら、相分離現象のモデルにならなくなってしまう.

23

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さて この方程式の「構造」であるが この方程式はエネルギー散逸性とよばれる散逸性と質量保存性と呼ばれる保存性をもつことが単純な変分計算を通じて示されるので、これを構造と見るのが良いだろう.本章では 離散変分導関数法としてこの 2つの性質のうち散逸性を主な対象として離散化を行おう.詳細についてはあとで述べる.そしてさらに、構造を保存することによって数値的な安定性などが得られるか、得られると

したらどのような仕組みでその性質がもたらされるのか、また数値誤差についてはなにか言えるかなど 数値計算の古典的な指標についても最後に述べよう.

2.1.1 Cahn–Hilliard 方程式の散逸性、保存性

さてこの方程式の構造について少し丁寧に見てみよう.最初に、主な対象とする散逸性について見てみる.まず次の関数 G をエネルギー関数と呼ぼう.

G(u, ux) =1

2pu2 +

1

4ru4 − 1

2q

(∂u

∂x

)2

. (2.4)

そして このエネルギー関数を用いると、Cahn–Hilliard 方程式は次のような抽象的な形式で表現できる 2.

∂u

∂t=

∂2

∂x2

(δG

δu

). (2.5)

ただし 前章で示したように δG/δu は G の u に対する変分導関数で、上の G に対しては

δG

δu=

∂G

∂u− ∂

∂x

∂G

∂ux

= pu+ ru3 + q∂2u

∂x2(2.6)

である.なおついでであるが Cahn–Hilliard 方程式の境界条件はエネルギー関数を用いて∂

∂xu = 0 on x = 0 or L, (2.7a)

∂x

(δG

δu

)= 0 on x = 0 or L (2.7b)

と書きなおすこともでき 3、以降の散逸性、保存性の議論ではこの記述のほうが便利である.さて話をもとに戻して、Cahn–Hilliard 方程式がもつエネルギー散逸性は具体的に以下の形で示される.

d

dt

∫ L

0

G(u, ux)dx ≤ 0. (2.8)

2こう書けるということに気づくことが大変に重要3境界条件としては、むしろこちらの方が Cahn と Hilliard による原著論文のオリジナルの記述に近い.

24

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そして 上の抽象的な形式 (2.5) を用いると、このエネルギー散逸性は以下のように容易に理解される.

d

dt

∫ L

0

G(u, ux)dx =

∫ L

0

δG

δu

∂u

∂tdx−

[qux

∂u

∂t

]L0

=

∫ L

0

δG

δu

∂2

∂x2

δG

δudx

= (−1)

∫ L

0

∂x

(δG

δu

)2

dx+

[δG

δu

∂x

δG

δu

]L0

= (−1)

∫ L

0

∂x

(δG

δu

)2

dx

≤ 0. (2.9)

なお途中で現れる境界項は境界条件によりゼロになる.この変形は非常にシンプルで、方程式を抽象的な形 (2.5) に書き表せたことが散逸性を自然に表現できることに本質的に寄与していることがよく分かる.また先に示した熱拡散方程式のストーリーと同様に、散逸性を示すこの式の変形には部分積分が重要な役割を果たしている.次に保存性についてみてみよう.Cahn–Hilliard 方程式は質量保存と呼ばれる保存性をもち、

それはd

dt

∫ L

0

u(x, t)dx = 0, (2.10)

と表される.これを理解するのは容易で、

d

dt

∫ L

0

u(x, t)dx =

∫ L

0

∂2

∂x2

δG

δudx

=

[∂

∂x

δG

δu

]L0

= 0, (2.11)

と変形して保存性が示される.なお最後の項は境界条件によってゼロになる.このように Cahn–Hilliard方程式は散逸性と保存性の 2つの構造をもつ.さらに一般的に言え

ば、抽象的な (2.5)の形式で書ける方程式全てが (適切な境界条件のもとに)散逸性と保存性の 2

つの性質をもつと言える.そして 構造保存解法で再現できる構造は一般には一つだけ 4なのでこのいずれかのみを対象として離散変分導関数法を適用することになる.先に述べたように本章ではこの散逸性を対象として離散変分導関数法を適用しよう.それは、散逸量

∫G(u, ux)dx

と保存量∫udx を比較すると明らかに散逸量の方が複雑で数学的に豊かな構造をもつことが

期待される 5ことと、質量保存性を示す式変形 (2.11) をみると、境界条件 (2.7b) 相当の離散境4もちろん偶然に複数の構造を同時に再現することはありえる.実際、本章で離散変分導関数法をCahn–Hilliard

方程式に適用した結果はその例である.5∫G(u, ux)dx をよく見ると、u のソボレフノルムに帰着できる形をしている

25

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界条件さえ用意してあれば質量保存性も「ついでに」再現されそうだとの見込みがあるからである.

2.1.2 方程式と変分導関数の関係

前章でもほぼ同様の図を示したが、散逸性をもつ抽象的な形の方程式 (2.5) に対して離散変分導関数法が提案する数値スキームの構成方法、散逸性との関係の概念図を示そう.前章で記

連続系 離散系

エネルギー関数

G(u, ux)

散逸性

d

dtJ(u) ≤ 0

近似

離散エネルギー関数

Gd(U(m))

離散散逸性

Jd(U(m+1)) ≤ Jd(U

(m))

変分

離散変分

変分導関数

δG

δu

離散変分導関数

δGd

δ(U (m+1), U (m))

定義

定義

偏微分方程式

∂u

∂t=

∂2

∂x2

δG

δu

近似

差分スキーム

Uk(m+1)

− Uk(m)

∆t

= −δGd

δ(U (m+1), U (m))k

離散変分導関数法 普通の近似

結果

結果

図 2.1: 散逸方程式 (2.5) に対する離散変分導関数法の概念図

したように、この Fig.2.1 の左側がわれわれの理解する散逸性の構造で、右側が離散変分導関

26

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数法で提案する数値スキームの構成法とその散逸性の再現性となる.Fig.2.1 の右側の離散変分導関数法の流れに沿うことができれば、散逸性を再現する数値スキームがほぼ自動的に得られる、ということである.

2.1.3 離散変分導関数法による数値スキームの実装

さて 実際にCahn–Hilliard 方程式に対して離散変分導関数法で数値スキームを構成、実装してみよう.まず、これまで同様、u(k∆x, n∆t) に対応する数値解を U

(n)k と表記しよう.k, n は

整数で、

0 ≤ k ≤ N, (2.12)

n ≥ 0, (2.13)

としておこう.ただし 整数 N は空間領域幅 L に対して

N∆x = L (2.14)

を満たすものとして定義される.数値解に対する境界条件をどうやって設定するべきかもここで考えておこう.本来、全エネルギーの散逸性を数値スキームで再現することがここでの目的であるから、(2.2a), (2.2b) の形式の境界条件よりもエネルギー散逸性を直接示すのに使われる(2.7a), (2.7b) の境界条件を離散化する形で境界条件を設定する方が目的を達成するために自然であろう.そこで、エネルギー関数 G の離散版を Gd と書くことにして (あとで詳しく定義する)、離散境界条件を

δ⟨1⟩k U

(n)k = 0 on k = 0 or N , (2.15a)

δ⟨1⟩k

(δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)= 0 on k = 0 or N (2.15b)

と設定しておこう 6.ただし、Gd および Gd の離散変分導関数δGd

δ(•,•)kの具体的な内容はこれ

から定義する、ないしはこれから計算で求めるものである.またこの境界条件は、添字 k が本来の定義の「外」にある U−2, U−1, UN+1, UN+2 などを含む式になっていて、U−2, U−1, UN+1,

UN+2 といった未定義量を定義する式になっていることに注意しよう.そして先の Fig.2.1 に沿って構成作業を以下のように進めてみよう.

1. 離散エネルギー関数を定義するFig.2.1 を見ると、離散変分導関数法でまずやるべきことはエネルギー関数 G(u, ux) (2.4)

の離散近似である.離散近似は一意ではなく自由度があるが、対称性などを失わない方

6この定義でうまくいくかどうかは、これから各種計算の過程で矛盾が起きないかを通じて確かめていくことになる

27

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が良い数値スキームが得られるであろうから、空間方向の対称性を保った次の関数を離散エネルギー関数Gd として採用してみよう.

Gd,k(U)def=

1

2p(Uk)

2 +1

4r(Uk)

4 − 1

2q

((δ+kUk)

2 + (δ−kUk)2

2

). (2.16)

2. 離散変分導関数を導出する次にやることはエネルギー関数の離散変分導関数の計算、導出である.本来、離散変分導関数法では離散変分導関数の数学的に直接的な定義を与えているのでその定義に従って計算すれば良いが ここでは離散変分導関数の概念をよりしっかり理解するためにも、実際に変分計算をして導出してみよう.具体的には、離散エネルギー関数の空間方向の和

N∑k=0

′′ Gd,k(U)∆x (2.17)

を離散全エネルギーと呼んで、その離散全エネルギーの変分を計算することになる.Gd

の項が多くて全体が見えにくいためこれをU の単純な多項式部分 P と残りの部分 N に分けて、つまり Gd,k(U) = Pk(U) +Nk(U) と分解して、それぞれ計算をすすめよう.まず、多項式部分 P の変分は容易である.以下のように

∑Pk(U)∆x−

∑Pk(V )∆x を計

算してみると多項式の直接的な因数分解が可能で

N∑k=0

′′ Pk(U)∆x−N∑k=0

′′ Pk(V )∆x

=N∑k=0

′′p

(Uk + Vk

2

)+ r

((Uk)

3 + (Uk)2Vk + Uk(Vk)

2 + (Vk)3

4

)· (Uk − Vk)∆x,

(2.18)

となるため 離散変分の概念に基づけば、P の離散変分導関数は

δP

δ(U ,V )k= p

(Uk + Vk

2

)+ r

((Uk)

3 + (Uk)2Vk + Uk(Vk)

2 + (Vk)3

4

)(2.19)

となることがわかる.

残りの部分の変分計算には (部分積分の離散版である)部分和分が必要で、以下のように計算される.

N∑k=0

′′ Nk(U)∆x−N∑k=0

′′ Nk(V )∆x

= −1

4q

N∑k=0

′′ ((δ+kUk)2 + (δ−kUk)

2 − (δ+kVk)2 − (δ−kVk)

2)∆x

28

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= −1

2q

N∑k=0

′′δ+k

(Uk + Vk

2

)δ+k (Uk − Vk) + δ−k

(Uk + Vk

2

)δ−k (Uk − Vk)

∆x

=N∑k=0

′′ qδ⟨2⟩k

(Uk + Vk

2

)(Uk − Vk)∆x

−1

2q

[δ+k

(Uk + Vk

2

)s+k (Uk − Vk) + δ−k

(Uk + Vk

2

)s−k (Uk − Vk)

]N0

=N∑k=0

′′ qδ⟨2⟩k

(Uk + Vk

2

)(Uk − Vk)∆x. (2.20)

なお、境界条件 (2.15a) によって最後の境界項がゼロとなる.さてこの変形により、残りの部分 N の離散変分導関数は次のようになることがわかる.

δN

δ(U ,V )k= qδ

⟨2⟩k

(Uk + Vk

2

). (2.21)

こうして計算が終わったので Gd = P +N の離散変分導関数は以下のように導出されることになる.

δGd

δ(U ,V )k

def= p

(Uk + Vk

2

)+ r

((Uk)

3 + (Uk)2Vk + Uk(Vk)

2 + (Vk)3

4

)+ qδ

⟨2⟩k

(Uk + Vk

2

).

(2.22)

注: 変分計算によるこの変形は,連続系では次の計算に該当する.よくみておこう.

δ

∫ (1

2pu2 +

1

4ru4 − 1

2q(ux)

2

)dx

=

∫ (pu+ ru3

)δu− quxδux

dx

=

∫ (pu+ ru3 + quxx

)δu dx− [quxδu]∂Ω

=

∫ (pu+ ru3 + quxx

)δu dx. (2.23)

また、こうして離散変分導関数がきちんと導出されたので、離散境界条件 (2.15b)が具体的に定義できるようになった.早速 (2.15b)に (2.22)を代入し、もう一つの境界条件 (2.15a)

の存在と合わせて考えると、(2.15a),(2.15b) は次の 2式と同値となることがわかる.δ⟨1⟩k U

(n)k = 0 on k = 0 or N , (2.24a)

δ⟨3⟩k U

(n)k = 0 on k = 0 or N . (2.24b)

これからは必要に応じて、離散境界条件として (2.15a),(2.15b) の表記と (2.24a),(2.24b)

の表記とを使い分けていけばよい. なお、よくみるとこの 2つの式は一番最初に示した境

29

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界条件 (2.2a),(2.2b) の 2つの式をごく普通に離散化したものになっており 7、この離散境界条件が自然な設定であることが示唆される結果となっている.なお、先に述べたようにこの境界条件は数値スキームの中などに現れる境界「外」の添字を持つ変数を定義する式になっている.具体的にその結果を以下に示しておこう.

U(n)−2

def= U

(n)2 , (2.25a)

U(n)−1

def= U

(n)1 , (2.25b)

U(n)N+1

def= U

(n)N−1, (2.25c)

U(n)N+2

def= U

(n)N−2. (2.25d)

3. 離散変分導関数法スキームの完成この問題に対して離散変分導関数法では

U(n+1)k − U

(n)k

∆t= δ

⟨2⟩k

(δGd

δ(U (n+1),U (n))k

), (2.26)

という数値スキームを提案するので数値スキームの具体的な完成形として次の式を得ることになる.

U(n+1)k − U

(n)k

∆t

= δ⟨2⟩k

p

(U

(n+1)k + U

(n)k

2

)+ r

((U

(n+1)k )3 + (U

(n+1)k )2U

(n)k + U

(n+1)k (U

(n)k )2 + (U

(n)k )3

4

)

+ qδ⟨2⟩k

(U

(n+1)k + U

(n)k

2

)for n ≥ 0, 0 ≤ k ≤ N. (2.27)

なお 離散境界条件のところでも述べたように、この数値スキーム中に出現するU−2, U−1,

UN+1, UN+2 は離散境界条件によって定義されている.

さてこの数値スキームであるが、一見複雑だが既知の U (n) から U (n+1) を得る形で求解には連立 3次多項式を解く必要があることはすぐみてとれる.同様にしてこの数値スキームの性質がどのようなものか調べてみよう.この数値スキームについて調べるべき性質や一見してわかる性質等を列挙してみると以下のようなものになるだろう.

(a) そもそも、この数値スキームを用いての数値計算はうまくいくのか.

(b) スキームの構成目的であるエネルギー散逸性をもつはずであるのでこれを確認したい.

7わざわざ (2.15a),(2.15b) の表記を選んで離散化するという配慮は不要だったように見えるが、それはこの境界条件がノイマン境界条件というシンプルな形であることによって起きた一種の偶然とみるべきである.

30

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(c) Cahn–Hilliard 方程式がもっているもう一つの構造である質量保存性はこの数値スキームではどうなっているか.

(d) この数値スキームは完全陰的であり,数値解を実際に得るためには上で書いたように毎ステップごとに連立非線形方程式を解く必要がある.

(e) すべての演算が時間方向、空間方向ともに対称であるので,数値解の精度は ∆x と∆t に対して少なくとも二次であると思われる 8.

以降、これらについて調べてみよう.

2.1.4 離散変分導関数法スキームによる計算結果例

まず最初の項目である「そもそも、この数値スキームを用いての数値計算はうまくいくのか」について、導出した離散変分導関数法スキームによる実際に数値解の例を見てみよう.前章で既にその一部を示してあるが、離散変分導関数法スキーム (2.27) による数値計算結果 9を Fig.2.2

に示しておこう.この計算で用いた方程式の係数はそれぞれ

p = −1.0, q = −0.001, r = 1.0 (2.28)

で、空間領域の大きさは L = 1.0 である.空間の離散化幅は ∆x = 1/50 としていて、時間方向は ∆t = 1/1000 と大きめにとっている.そして初期条件は

u0(x) = 0.1 sin(2πx) + 0.01 cos(4πx) + 0.06 sin(4πx) + 0.02 cos(10πx) (2.29)

としている.一見してわかるように、初期の急激な挙動からはじまり長時間経過後の非常に緩やかな変化の様子まで、非常に安定した数値結果が得られていて、大変望ましいと結果といえる.時間離散化幅をこの計算時よりも 1/10 以下に小さくとっても通常の Euler スキームでは計算がうまくいかない様子を前章で示したが、それと非常に対照的である.さて、直交メッシュを用いるのであれば離散変分導関数法スキーム (2.27) を単純に多次元化

することができる.もちろん境界条件の多次元化も同時に必要であるが、直交メッシュの場合はこれも一般に難しくないだろう.実際、問題を二次元にした Cahn–Hilliard 方程式に対する離散変分導関数法スキーム (2.27) 相当を用いて計算した例が Fig.2.3 である.この計算で用いた方程式の係数は先と同じ (2.28) で、空間領域は Ω = 1.0× 1.0 ととっている (つまり、先と同じく L = 1.0).空間の離散化幅は ∆x = ∆y = 1/30, 時間方向は ∆t = 3/2000 としている.そして初期条件は

u0(x, y) = 0.05 sin (2π(x+ y)/L+ 0.2) + 0.04 sin (2π(x− y)/L)

+0.05 sin (4πx/L+ 0.05) + 0.03 sin (4πy/L+ 0.2)

+0.01 sin (2π(x+ 4y)/L) + 0.01 sin (2π(5x+ y)/L) (2.30)8精度について対称性以外の工夫は特に無いので、精度は二次であるだろうことが高い確度で推測される9なお、毎ステップ要求される連立非線形方程式の求解にはごく普通の Newton 法を用いている

31

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-1

0

1

0 0.5 1

u

x

0 step5

1015202530

1001000110012001300

-1

0

1

0 0.5 1

u

x

1300 step150017001800190020002100

-1

0

1

0 0.5 1

u

x

3000 step10000

100000200000

図 2.2: 離散変分導関数法スキーム (2.27) による Cahn–Hilliard 方程式の数値計算結果. 初期値、各パラメータ等は本文中に記載.(上) 時間ステップ 0 から 1300 までの数値解、(中) 同1300 から 2100 まで, (下) 同 3000 から 200000 まで.

32

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としている.2次元の場合も 1次元の場合同様に、離散変分導関数法スキームにより特に問題

0 0.1

0.2 0.3

0.4 0.5

0.6 0.7

0.8 0.9

1 0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1-1

-0.5

0

0.5

1

x

y

u(x,y,t)

-1

-0.5

0

0.5

1

0 0.1

0.2 0.3

0.4 0.5

0.6 0.7

0.8 0.9

1 0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1-1

-0.5

0

0.5

1

x

y

u(x,y,t)

-1

-0.5

0

0.5

1

0 0.1

0.2 0.3

0.4 0.5

0.6 0.7

0.8 0.9

1 0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1-1

-0.5

0

0.5

1

x

y

u(x,y,t)

-1

-0.5

0

0.5

1

0 0.1

0.2 0.3

0.4 0.5

0.6 0.7

0.8 0.9

1 0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1-1

-0.5

0

0.5

1

x

y

u(x,y,t)

-1

-0.5

0

0.5

1

図 2.3: 離散変分導関数法スキーム (2.27) を単純に二次元化して適用した二次元 Cahn–Hilliard

方程式の数値計算結果. 初期値、各パラメータ等は本文中に記載.(左上) 初期値、(右上) 時間ステップ 10 の数値解, (左下) 同 20, (右下) 同 40.

なく安定な計算が可能であることがわかる.このように以上の例からみて、最初の問に対しては「この離散変分導関数法スキーム (2.27)

を用いての数値計算はうまくいく」と答えて良さそうである.

33

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2.1.5 主目的「エネルギー散逸性の再現」は達成されたか

次の項目の「スキームの構成目的であるエネルギー散逸性をもつはずであるので確認したい」についてこれを調べよう.離散変分導関数法の提案に沿って数値スキームを構成したのであるから当然ではあるが、以下のようにして全エネルギーが減少していくことが容易に確認できる.

1

∆t

N∑k=0

′′ Gd,k(U(n+1))∆x−

N∑k=0

′′ Gd,k(U(n))∆x

=N∑k=0

′′ δGd

δ(U (n+1),U (n))k

(U

(n+1)k − U

(n)k

∆t

)∆x

=N∑k=0

′′(

δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)δ⟨2⟩k

(δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)∆x

= −1

2

N∑k=0

′′

(δ+k

δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)2

+

(δ−k

δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)2∆x

+

[(s+k + 2 + s−k

4

)δGd

δ(U (n+1),U (n))k· δ⟨1⟩k

δGd

δ(U (n+1),U (n))k

]N0

= −1

2

N∑k=0

′′

(δ+k

δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)2

+

(δ−k

δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)2∆x

≤ 0. (2.31)

なお、最初の当式変形は先に行った離散変分計算 (2.19), (2.21) そのものであり、二番目の変形は離散変分導関数法スキームそのもの (2.26) の左辺相当に右辺を代入したものである.次の変形は部分和分 (1.31) によるもので、部分和分によって出てきた境界項が消えるのは離散境界条件 (2.15b) のためである.また、実際の数値計算例においてもこの理論通りに全エネルギーが減少するか、みてみよう.

先の計算例 Fig.2.2 において、全エネルギー∑′′Gd(U

(n))k∆x がどう変化するかをプロットしたものが Fig.2.4 である.計算例でも全エネルギーがきれいに単調減少していることがよくわかる 10.さて、これで理論も実験もうまくいっているということがわかったので、理論も数値計算の

実際も離散変分導関数法スキーム (2.27) のエネルギー散逸性、すなわち構造保存性が確認できたと言って良さそうである.

10蛇足ではあるが、このプロットを見ると、Cahn–Hilliard 方程式の解の時間変化は急激な時と緩慢な時があり、その差が大きいことがよく分かる.これは数値計算にとっては大変困る性質である.なぜなら、急激な変化を追うには時間刻み幅 ∆t を小さくせねばならず、かといって小さい ∆t を用いると緩慢な変化のあいだはほとんど変化がないにも関わらず小さなステップ計算を延々と繰り返さないといけないからである.

34

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-0.14

-0.12

-0.1

-0.08

-0.06

-0.04

-0.02

0

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

Energ

y

Time

図 2.4: 数値計算例 Fig.2.2 における全エネルギーN∑k=0

′′ Gd(U(n))k∆x の時間変化.横軸 time は

時間 t = n∆t.

2.1.6 もう一つの構造: 質量保存性は再現されるのか

さて、次に「Cahn–Hilliard 方程式がもっているもう一つの構造である質量保存性はこの数値スキームではどうなっているか」という疑問について調べてみよう.先に述べたように、境界条件 (2.7b) 相当の離散境界条件さえ用意してあれば質量保存性は再現されそうである.そして実際われわれは離散境界条件としてそれ相当の (2.15b) を用意しているので、離散変分導関数法スキーム (2.27) が質量保存性も「ついでに」再現している可能性は高い.実際、質量の変化を以下のように計算して確かめてみよう.

1

∆t

N∑k=0

′′ U(n+1)k ∆x−

N∑k=0

′′ U(n)k ∆x

=

N∑k=0

′′

(U

(n+1)k − U

(n)k

∆t

)∆x

=N∑k=0

′′ δ⟨2⟩k

(δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)∆x

=

[δ⟨1⟩k

(δGd

δ(U (n+1),U (n))k

)]N0

= 0. (2.32)

実際に離散境界条件 (2.15b) によって最後の項が消え、質量保存性も再現されることがわかる.そして、構成した離散変分導関数法スキーム (2.27) を用いて計算した数値解例 Fig.2.2 の実

際の質量保存性についてプロットしたものが Fig.2.5 である.やはりきれいに全質量が保存されていることが一見してわかる.よって、質量保存性についても理論、実際共に確認できたと

35

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-1e-012

-5e-013

0

5e-013

1e-012

0 0.5 1 1.5 2 2.5

Time

Mass

図 2.5: 数値計算例 Fig.2.2における全質量N∑k=0

′′ U(n)k ∆xの時間変化.横軸 timeは時間 t = n∆t.

言って良いだろう.

2.1.7 安定性、精度などはどうだろうか

安定性についてみてみよう

離散変分導関数法スキーム (2.27) の構造保存性については検証が済んだので、数値スキームに対する通常のチェック項目である数値安定性、精度などについて調べてみよう.まず、Cahn–

Hilliard 方程式の数値計算を阻む最大の要因である数値不安定性の発生しやすさについてこのスキームがどうかみてみよう.そのために、Cahn–Hilliard 方程式の解がもつ性質のうち、数値安定性を示すのに使えそうなものを述べておこう.これは先に熱拡散方程式のスキームの箇所で述べたものとほぼ同様で、おおよそ以下のようになる.

1. Cahn–Hilliard 方程式のエネルギー散逸性より、その解のソボレフノルムは上に有界であることが示される.そして、その上界は初期値で決定できる.具体的には、まず、以下の様な単純な不等式でエネルギー散逸性からソボレフノルムとの関係を導出できる.∫ L

0

G(u(x, 0), ux(x, 0)) dx ≥∫ L

0

G(u(x, t), ux(x, t)) dx

≥∫ L

0

−pu2 − 9p2

4r− 1

2q

(∂u

∂x

)2

dx

36

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≥ min(−p,−1

2q)

∫ L

0

u2 +

(∂u

∂x

)2

dx− 9p2

4rL

= min(−p,−1

2q) ∥u(·, t)∥2H1 −

9p2

4rL. (2.33)

最初の不等号はエネルギー散逸性そのものであり、二つ目の不等式は一般に p, q < 0 < r

であれば任意の実数 X に対して

1

2pX2 +

1

4rX4 ≥ −pX2 − 9p2

4r(2.34)

が成り立つことから得られる 11.その後は p, q の大小性を min を使って排除してから、ソボレフノルムで表現を置き換えただけである.そしてこの不等式を書き直すと、以下の様な、Cahn–Hilliard 方程式の解のソボレフノルムを初期値で上からおさえる表現が得られる.

∥u(·, t)∥H1 ≤1√

min(−p,−q/2)

√∫ L

0

G(u(x, 0), ux(x, 0)) dx+9p2

4rL. (2.35)

これは散逸性から解のノルムがおさえられる関係を表す典型的な例のひとつなので、よくみておくといいだろう.

2. 前章の p.20 で書いたように、定義域の次元を 1 にとった場合はソボレフの補題によりある定数 C が存在して

∥u∥L∞(Ω) ≤ C ∥u∥H1(Ω) , (2.36)

がなりたつ.

3. よって上の二つの事実から、Cahn–Hilliard 方程式の空間定義域が 1次元の場合、以下のように、その厳密解の sup ノルムは時間に依存しない定数 C と初期値で上からおさえられる.

∥u(·, t)∥L∞(Ω) ≤ C ∥u(·, t)∥H1(Ω)

≤ C√min(−p,−q/2)

√∫ L

0

G(u(x, 0), ux(x, 0)) dx+9p2

4rL. (2.37)

これは、空間次元が 1の場合、Cahn–Hilliard 方程式の解はけして発散しないことを意味している.

このように、Cahn–Hilliard 方程式の解には発散しないという意味での安定性があることが数学的に示されている.この安定性の本質はエネルギー散逸性とソボレフの補題によってもた

11横軸を X にしたグラフを描いてみると、何を言っているかすぐ理解できる

37

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らされるので、この二つが離散的に再現されれば数値解にも安定性が示されるだろう.そして、離散変分導関数法スキームはエネルギー散逸性を再現するように設計されており、かつ、離散ソボレフの補題がなりたつことも既に前章の p.20 で示している.これらを組み合わせることで、スキームの数値解が安定性をもつことを以下のように示そう.

1. まず、離散エネルギー散逸性によって離散ソボレフノルムが初期値による定数で上からおさえられることを示そう.具体的には、厳密解について示した方法とまったく同様にして数値解 U (n) に対して以下の不等式が得られる.

∥∥U (n)∥∥

d-(1,2)≤

√√√√ 1

min(−p,−q/2)

(N∑k=0

′′ Gd,k(U(0))∆x+

9p2

4rL

). (2.38)

2. 上の不等式と離散ソボレフの補題 (1.48) から、数値解に対する max ノルムが以下のように初期値でおさえられる.

max0≤k≤N

∣∣∣U (n)k

∣∣∣ ≤√√√√ max(4/L, 2L)

min(−p,−q/2)

(N∑k=0

′′ Gd,k(U(0))∆x+

9p2

4rL

). (2.39)

これは、Cahn–Hilliard 方程式の厳密解と同様に、離散変分導関数法スキーム (2.27) の数値解がけして発散しないという意味での安定性をもつことを意味する 12.数値計算の実用上もこれは大変に優れた性質で、このおかげで離散変分導関数法スキーム (2.27) は (安定性証明の得られていない)通常の数値スキームより優れていると言って良いだろう.

この数値スキームには数値解は常に存在するのか

離散変分導関数法スキーム (2.27) は陰的なスキームであるため、新しい時間ステップの数値解を求めるには非線形連立方程式を解く必要がある.しかし、この非線形連立方程式に解が存在するかどうかはわからないため、これを調べる必要があるだろう.幸い、安定性を示すために数値解の max ノルムの上からおさえる具体的な評価を既に得ているのでこれを用いて、あとは不動点定理とやや煩雑な Taylor 展開を通じて以下のような結果を得られる [22, 23]13.

定理 2.1.1 与えられた U (n) に対し Mdef= ∥U (n)∥2 としたとき、時間ステップ幅 ∆t に対して

以下の不等式が満たされるならば,離散変分導関数法スキーム (2.27) には次の時間ステップの数値解 U (n+1) が存在し,かつ,唯一である.

∆t < min

(−q(∆x)2

2 (−p∆x+ 82rM2)2,

−2q(∆x)2

(−p∆x+ 226rM2)2

). (2.40)

12安定性を示すこの式の成立に制約条件がつかないという意味でこのスキームを「無条件安定である」とよぶことがある.ただし、すぐ後でみるようにこのスキームに数値解が存在するかどうかはまた別に条件があるので、「無条件」という表現はよくないという意見もある.

13長いので定理の証明は省略する.こういう証明に初めて触れる人にはテクニカル面で少し面白いところがあるかもしれない.

38

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ただし、

∥U∥2def=

√√√√ N∑k=0

′′ (Uk)2∆x (2.41)

とする.

この定理によれば、この数値スキームでは少なくともおおよそ ∆t ∼= C(∆x)2 というバランスで時間・空間のメッシュサイズを変えていけば安全だということがわかる 14.先の安定性に加え、これも離散変分導関数法スキームの優れた性質といえる.というのも、Cahn–Hilliard 方程式は時間微分 1階に対して空間微分が 4階の方程式なので通常の数値スキームでは安定性や解の存在条件から∆t ∼= C(∆x)4 というバランスを要求され、∆x を小さくしていく過程で ∆t

を非常に小さくしなければならないからである.

精度はどうだろう

先に述べたように,時間、空間方向の離散演算が対称性をもつため、離散変分導関数法スキーム (2.27) のもつ数値解は ∆x と ∆t に対して二次以上の精度をもつであろうことは推測できる.そしてそれ以上精度が高くなる理由も特にないので、精度が二次であることはほぼ確実でもある.実際,数値解の max ノルムの上界評価と煩雑な Taylor 展開により,数値解の誤差について, 数値解の max ノルムと厳密解で決まるある定数 C1, C2 を用いて T

def= n∆t として次のよ

うな評価を得るので、この推測が正しいことがわかる.∥∥∥u(k∆x, T )− U(n)k

∥∥∥2≤

√CLT exp

[(1 +

2 −p+ 3r(C2)22

−q

)T

] (∆x2 +∆t2

). (2.42)

なお u(x, t) は Cahn–Hilliard 方程式の厳密解で、U (n) は離散変分導関数法数値スキームの解であるので、この左辺は数値誤差を意味する.さて、Cahn–Hilliard 方程式に対して素直に構成した離散変分導関数法数値スキームの性質

をみるならばおおよそこのようなところだろう.これによって、離散変分導関数法の適用についておおよその様子がつかめたのではないだろうか.

2.2 本章のまとめ本章の内容をまとめるならば以下のようになるだろう.

• 構造保存数値解法である離散変分導関数法を用いることで、数値計算が困難であるとされるCahn–Hilliard 方程式の数値計算がうまくできるようになると期待される.

14もちろん、∆t をこれより小さくとっても数値解はあるかもしれない.定理はあくまで「この条件下ならば確実に解がある」と言っているだけで、条件を満たさない時にどうなっているかは不明である.

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• Cahn–Hilliard 方程式は、相分離現象のモデル方程式である.

• Cahn–Hilliard 方程式は、エネルギー散逸性と質量保存性という、二つの構造を持つ.相分離現象は「もとへ戻らない」物理現象であるから、エネルギー散逸性の方が本質的であると考えられる.

• Cahn–Hilliard 方程式のエネルギー散逸性を再現するような離散変分導関数法数値スキームを構成できる.そして構成方法によっては、質量保存性も同時に再現できる.

• 構成した離散変分導関数法スキームによって、実際に数値計算がうまくいく.

• 構成した離散変分導関数法スキームはエネルギー散逸性によって数値安定性をもち、その安定性は数学的に証明される.

• 離散変分導関数法スキームについてその他には、解の存在条件や精度などが詳しく判明している.

40

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第3章 一般編

さて、前章までで離散変分導関数法とはなにか、そしてどのように用いるのか、どのようなものが得られるのかという点について具体例を通じておおよそのところがわかったのではないかと思う.そこでこの章では、離散変分導関数法についてある程度一般的な事項を記述しよう.

3.1 離散変分導関数法を一般に考えるにはまず離散変分導関数法について一般的な記述を簡単にしておこう 1.基本的なアイディアは既

にFig.1.6, Fig.2.1 に示したように、系のもつ変分構造を離散的に再現する全体の仕組みを考えることにある.得られる数値スキームはあくまでその全体の一要素にすぎない、という考え方である.そして、この議論の中でもっとも重要なのは「離散変分導関数をどう定義するか」である.前章までは理解のしやすさを優先して離散変分導関数を変分計算から導出していたが、問題毎に毎回煩雑な計算をするのはそれなりに面倒であるし、理論的には、離散計算の場合は変分計算の結果に一意性が無いため結果が一意でないという曖昧さからくる問題もある 2.これに対し、離散変分導関数法では差分法の場合の 3離散変分導関数に対する一意な定義を

与えているのでこれを紹介しよう.まず、離散エネルギー関数 Gd が U , δ+kU , δ−kU に関して以下の様な関数形であると仮定しよう.

Gd,k(U ) =m∑l=1

fl(Uk) g+

l (δ+

kUk) g−l (δ

−kUk). (3.1)

ただし、fl, g±l はそれぞれ微分可能な関数であるとする.そして、この関数 Gd に対し, 離散変

分導関数法では次のように離散変分導関数を定義する.

δGd

δ(U ,V )k

def=

m∑l=1

(dfl

d(Uk, Vk)

g+l (δ+

kUk)g−l (δ

−kUk) + g+l (δ

+

kVk)g−l (δ

−kVk)

2− δ+kW

−l (U ,V )k − δ−kW

+

l (U ,U)k

).

(3.2)

1厳密に、かつ、詳細に知りたいひとはぜひ [23] を参照していただきたい.2変分計算にある種の制約をくわえて結果を一意にする方法もあるが、筋としてはあまりよろしくないだろう.3本稿では差分法での議論のみを行うが、離散変分導関数法にはスペクトル法や有限要素法のバージョンもある.

41

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ただし、

df

d(x, y)def=

f(x)− f(y)

x− ywhen x = y, (3.3a)

df

dxwhen x = y, (3.3b)

W±l (U ,V )k

def=

(fl(Uk) + fl(Vk)

2

)(g∓l (δ

∓kUk) + g∓l (δ

∓kVk)

2

)dg±l

d(δ±kUk, δ±kVk)

, (3.4)

である.この定義は一見複雑であるが、丁寧にみていけば対称性を保った、非常に単純なつくりであることがわかるだろう.そして、このように離散変分導関数の「定義」を与えることで、導出の過程にまつわる微細な曖昧さなどを排除することができて、議論の展開がすっきりする.なお、変分の過程ででてくる境界項についても [23]などでは同様にきちんと議論をしているが、記述が煩雑なので本稿では省略しておこう.さて、こうして離散変分導関数の定義をきちんと得ることができたので、離散変分導関数法

を各種の問題に適用するための本質的な困難は実はほとんどなくなったと言って良い.そこでこれから、離散変分導関数法の対象となる様々な具体的な問題 /偏微分方程式を列挙して、それぞれに対してどのような「構造」を考えて離散変分導関数法を適用するのかをみていこう.これによって、離散変分導関数法の一般的な姿を感じ取ることが出来るだろう.

3.2 対象:一階の実偏微分方程式さて、まずは一番分かり易い、時間に関しては一階微分で,解関数 u = u(x, t) が実関数であ

るような偏微分方程式 4について調べてみよう.こうした問題で離散変分導関数法の対象となるものとして知られているのは、おおまかには二種類にわけられる.一つ目が散逸系問題で、次のような抽象的な方程式でまとめて書くことが出来る.

∂u

∂t= (−1)s+1

(∂

∂x

)2sδG

δu. (3.5)

ただし、s は非負の整数 (0 を含む)である.これが散逸系問題とよばれるのは、適切な境界条件のもとで、問題の定義域 Ω 上で定義される量

∫ΩG(u, ux) dx が時間経過とともに減少するか

らである.この量の時間微分を計算してみれば実際に減少することが容易に理解できるだろう.この散逸系問題の具体的な例としては、以下の様な偏微分方程式が挙げられる 5.

• (s = 0) 熱拡散方程式

• (s = 0) Swift–Hohenberg 方程式

4すぐ出てくるが、前章までに調べた、熱拡散方程式や Cahn–Hilliard 方程式もこれらの例である.5方程式の具体的な表記や、離散変分導関数法を適用した結果の例などについては [23] を参照されたい.

42

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• (s = 0) 藤田 (爆発)方程式

• (s = 0) Allen–Cahn 方程式

• (s = 0) 拡張 Fisher–Kolmogorov 方程式

• (s = 1) プロミネンス温度方程式

• (s = 1) Cahn–Hilliard 方程式

なお、方程式の名称の前には (3.5) での s がいくつの場合に相当するかを記載してある.そして、この散逸系問題に対して離散変分導関数法では通常は以下の様な数値スキームを提案する.

U(n+1)k − U

(n)k

∆t= (−1)s+1δ

⟨2s⟩k

δGd

δ(U (n+1),U (n))k, n ≥ 0. (3.6)

ただし、δ⟨2s⟩k は 2s階の中心差分作用素とよばれる離散作用素で、

δ⟨2s⟩k = (δ

⟨2⟩k )s, (3.7)

である 6.そしてもちろんであるが、この数値スキームは数値解 U (n) に対する∑′′ Gd,k(U

(n))∆x

が時間ステップ n の増大に沿って減少していくという形で散逸性を再現する.この離散散逸性によって様々な「数値的に良い」性質が期待される、という点も前章までと同様である 7.つけくわえるなら、このように、同様の構造を持った複数の方程式に対して同様の数値スキームを一貫した形で提案することができるのが離散変分導関数法の魅力的な利点である 8.参考までに、拡張 Fisher–Kolmogorov 方程式に対して構成した離散変分導関数法スキームによって得られた数値解のプロファイルの一部を Fig.3.1 に示しておこう.次に、二つ目の問題について述べよう.この問題の抽象形は散逸系問題によく似ていて、

∂u

∂t=

(∂

∂x

)2s+1δG

δu, (3.8)

という方程式で書かれる.この問題についても s は 0 以上の整数である.そして、こちらは保存系問題とよばれ、

∫ΩG(u, ux) dx が時間経過に対して変化しない、つまり保存量である.こ

の保存系問題の具体的な例としては、次のような偏微分方程式が挙げられる.

• (s = 0) 線形波動方程式

• (s = 0) Korteweg-de Vries 方程式

6この定義は階数が偶数の時にしか適用できない形になっていることに注意しよう.蛇足であるが、これを一般の整数で表示する形式が存在する.そして、その一般的な形式を用いないと離散変分導関数法の一般化は難しい.

7あくまで期待であって、確実ではない.問題の難しさや、Gd の定義の上手下手に依って結果は一般に異なる.8さらに言えば、おそらくほとんどの構造保存数値解法も同じ利点をもつと言って良さそうである.

43

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-1

-0.5

0

0.5

1

0 1 2 3 4 5

u(x,t)

x

t=0.000t=0.005t=0.010t=0.020t=0.030t=0.040t=0.050t=0.100

図 3.1: 散逸系問題: 拡張 Fisher–Kolmogorov方程式に対して構成した離散変分導関数法スキームによって得られた数値解のプロファイル

• (s = 0) Zakharov–Kuznetsov 方程式

s についての記述も散逸系問題と同じである.そして、この保存系問題について離散変分導関数法は次のような数値スキームを提案する.

U(n+1)k − U

(n)k

∆t= δ

⟨2s+1⟩k

δGd

δ(U (n+1),U (n))k. (3.9)

なお δ⟨2s+1⟩k は 2s+ 1階の中心差分作用素で

δ⟨2s+1⟩k = δ

⟨1⟩k (δ

⟨2⟩k )s, (3.10)

である.そしてこの離散変分導関数法数値スキームは時間発展にそって∑′′ Gd,k(U

(n))∆x を変化させない、つまり保存する.参考までに、ソリトンの挙動を記述することでよく知られたKdV 方程式に対してこの離散変分導関数法数値スキームで得られた数値解を Fig.3.2 に示しておこう.なお、実際に数値計算を試みるとよくわかるが、KdV 方程式に対するこのように関数値が大きな数値解の計算では通常の数値スキームでは数値誤差によってすぐプロファイルが崩れてしまう.そのため、KdV 方程式のソリトン構造を背景として設計された数値スキームなどが特別に用意されて使われることが多い.それに対し、ソリトン構造などを考慮していない 離散変分導関数法数値スキームでもこれだけの計算が可能になっているのは少し「できすぎ」である 9.

9そのため、KdV 方程式に対する 離散変分導関数法スキームが予想以上に良い性質を持っていることについてその背景を理論的に調べた研究が存在する.

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00.5

1.01.5

2.0

05

1015

2025

3035

40

-10

0

10

20

30

40

50

t

x

u(x,t)

図 3.2: 保存系問題: Korteweg-de Vries 方程式に対して構成した離散変分導関数法スキームによって得られた数値解のプロファイル

3.2.1 対象: 一階の複素偏微分方程式

次に、解関数の値が複素数となるような問題についてもとりあげてみよう.実関数同様に散逸系と保存系の問題があるので、まずは散逸系問題を紹介しよう.ここで扱う散逸系問題の抽象的な方程式は一般に

∂u

∂t= −δG

δu, (3.11)

と書かれるようなものである 10.ただし、複素関数 G(u, ux) に対し、その変分導関数の複素共役などを

δG

δu=

∂G

∂u− ∂

∂x

∂G

∂ux

, (3.12a)

δG

δu=

∂G

∂u− ∂

∂x

∂G

∂ux

=δG

δu, (3.12b)

と書くことにする.複素数値関数の変分についてであるが、本稿では I[u, u] =∫G dx として

I[u+ δu, u+ δu]− I[u, u] ∼=∫Ω

(δG

δuδu+

δG

δuδu

)dx+境界項 (3.13)

という形で変分を考えることにしよう.さて、この問題では適切な境界条件のもとで∫G(u, ux) dx

が時間発展にともなって減少する (散逸性).この散逸性と方程式の関係を眺めてみると、以下

10この右辺にさらに何階かの微分作用素をかけるなどの拡張を行ったものも散逸系問題となる.ただ、そういった具体的な偏微分方程式問題の実例が見出されていないのでこの表現にとどめている.

45

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のようになる.d

dt

∫Ω

G(u, ux) dx =

∫Ω

(δG

δu

∂u

∂t+

δG

δu

∂u

∂t

)dx+

[∂G

∂ux

∂u

∂t+

∂G

∂ux

∂u

∂t

]∂Ω

= −∫Ω

(δG

δu

δG

δu+

δG

δu

δG

δu

)dx

= −2

∫Ω

∣∣∣∣δGδu∣∣∣∣2 dx

≤ 0. (3.14)

最初の等式は単なる変分で、出現する境界項は境界条件で消えるものとしている.その後は方程式の左辺と右辺の入れ替えをしているだけである.この散逸系問題の実例としては以下の様な偏微分方程式が挙げられる.

• Ginzburg–Landau 方程式 (の一種 11)

• Newell–Whitehead 方程式

そして、この複素数値散逸系問題に対して、離散変分導関数法では以下の様な数値スキームを提案する.

U(n+1)k − U

(n)k

∆t= − δGd

δ(U (n+1),U (n))k. (3.15)

なお、複素数値離散変分導関数の定義については、実関数のそれとほぼ同等の考え方・計算方法で記述が煩雑になるだけなので省略しておこう.そしてこの数値スキームは、数値解 U (n) に対して定義される量

∑′′Gd,k(U(n))∆x が時間ステップ n の増大にそって減少するという意味

で、散逸性を再現する.次に複素数値保存系問題についても紹介しよう.ここで考える保存系問題とは、次のような

抽象的な方程式で書かれるものである.

i∂u

∂t= −δG

δu. (3.16)

そして、この問題では適切な境界条件のもとで∫G(u, ux) dx が変化しない、すなわち保存さ

れる.これも同様に確かめておこう.d

dt

∫Ω

G(u, ux) dx =

∫Ω

(δG

δu

∂u

∂t+

δG

δu

∂u

∂t

)dx+

[∂G

∂ux

∂u

∂t+

∂G

∂ux

∂u

∂t

]∂Ω

=

∫Ω

(iδG

δu

δG

δu− i

δG

δu

δG

δu

)dx

= 0. (3.17)

みてわかるように、複素共役をとることによって符号が反転して項が打ち消し合い、全体として変化がゼロとなっている.この保存系問題の実例としては、

11細かい違いを考えると、Ginzburg–Landau 方程式とよばれるものは結構な種類がある

46

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• 非線形 Schrodinger 方程式

• Gross–Pitaevskii 方程式

などの偏微分方程式が挙げられる.そして、この複素数値保存系問題に対して、離散変分導関数法では以下の様な数値スキームを提案する.

i

(U

(n+1)k − U

(n)k

∆t

)= − δGd

δ(U (n+1),U (n))k. (3.18)

もちろん、この数値スキームは数値解 U (n) に対して∑′′ Gd,k(U

(n))∆x を保存する.参考までに、Gross–Pitaevskii 方程式に対してこの離散変分導関数法数値スキームで得られた数値解をFig.3.3 に示しておこう.これは超低温状況下での磁場の特殊な挙動を示すモデルとなっていて、みてわかるように数値的に計算が困難なものである.

図 3.3: 複素数値保存系問題: Gross–Pitaevskii 方程式に対して構成した離散変分導関数法スキームによって得られた数値解

3.2.2 対象: 連立偏微分方程式

ここまで単独形で書ける偏微分方程式だけを挙げてきたが、連立偏微分方程式ももちろん離散変分導関数法の対象である.さすがに方程式の一般形や離散変分導関数法数値スキームの記述は煩雑になるので省略し、具体例を列挙するのみとしておこう.こうした問題としては、これまでに以下の様な連立偏微分方程式が対象として知られている.

• Zakharov 方程式

• good Boussinesq 方程式

• 江口–沖–松村 方程式

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3.2.3 対象: 二階偏微分方程式

偏微分方程式のうち、時間微分の階数が二階以上の問題ももちろん離散変分導関数法で扱える.そこで、離散変分導関数法で取り扱う時間微分階数が二階の問題を紹介しよう.それは次のような抽象的な偏微分方程式であらわされるもので、保存系問題である 12.

∂2u

∂t2= −δG

δu. (3.19)

この偏微分方程式はこれまで記述した問題と少し異なり、適切な境界条件のもとで以下の量を保存量として保存する. ∫

Ω

1

2

(∂u

∂t

)2

+G(u, ux)

dx. (3.20)

その保存性は実際に以下のようにして確認できる.計算をゆっくりおってみよう.

d

dt

∫Ω

1

2

(∂u

∂t

)2

+G(u, ux)

dx =

∫Ω

(utt +

δG

δu

)ut dx+

[∂G

∂ux

ut

]∂Ω

=

∫Ω

0 · ut dx

= 0. (3.21)

最初の等式は単なる微分と変分計算で、右辺に出現する境界項は境界条件で消えると仮定されている.その後、偏微分方程式そのものの形によって全体がゼロとなっている.この保存系問題の実例としては、以下の様な偏微分方程式が挙げられる.みてわかるように、物理系を直接記述するようなモデル方程式が多い.

• 線形 (二階)波動方程式

• Fermi–Pasta–Ulam 方程式 I および II.

• 非線形弦振動方程式

• 非線形 Klein–Gordon 方程式

• 下地–川合 方程式

• 蛯原方程式

さて、この保存系問題に対する離散変分導関数法のアプローチは二種類あって、ひとつはこの問題を時間一階微分の連立偏微分方程式に変形してしまう方法である.これによって前節の問

12この問題は Newton の運動方程式を偏微分方程式に拡張したようなものである.保存量をみるとなんとなくわかるだろう.

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題に帰着させてしまうやりかたで、悪くない方法といえる.もうひとつのアプローチは正面からこの問題に取り組むもので、まず、保存量を

Jd[U(n+1),U (n)]

def=

N∑k=0

′′1

2

(δ+nU

(n)k

)2+Gd,k(U

(n+1),U (n))

∆x, (3.22)

と定義する.そして、この量を離散的に変分する形で多点離散変分導関数という概念を導入して (その定義や計算については本稿では省略しておこう)、次のような数値スキームを提案するのである.

δ⟨2⟩n U(n)k = − δGd

δ(U (n+1),U (n),U (n−1))k. (3.23)

多くのケースで離散変分導関数法のいずれのアプローチもうまくいく.実際に、後者のアプローチで離散変分導関数法数値スキームを用いて下地–川合方程式に対して得た数値解をFig.3.4 に示しておこう.なお、この方程式は厳密解として多価関数解を持つことがしられており、この数値計算はあえてそういった条件下で計算したものである 13.

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

0 1 2 3 4 5 6

Exact Sol.

Numerical Sol.

図 3.4: 時間微分二階の保存系問題: 下地–川合方程式に対して直接構成した離散変分導関数法スキームによって得られた数値解と厳密解.点線: 数値解、実線: 厳密解 (多価解)

3.2.4 その他の方程式

そのほかにも、「分類」はしにくいものの離散変分導関数法の対象として扱えるような偏微分方程式があり、とくに近年、応用上の観点から注目されている.例としては、

13当然のことながら数値解は多価解とならず、そのためか厳密解と大きくずれる.

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• Feng 波動方程式

• Keller–Segel 方程式

• Camassa–Holm 方程式

などが挙げられる.例えばこの中の Camassa–Holm 方程式

ut − utxx = 2uxuxx + uuxxx − 3uux, (3.24)

は、エネルギー関数 G をG(u, ux)

def=

1

2u(u2 + (ux)

2), (3.25)

と定義すると方程式を抽象的な形1−

(∂

∂x

)2

∂u

∂t= − ∂

∂x

δG

δu, (3.26)

に書きなおすことが出来る.これはこの章のはじめに対象例としてあげた一階の実偏微分方程式の保存系問題 (3.8)によく似た形式であり、実際、左辺項の作用素 (1−∂2

x)が正則で積分による内積に対して対称であることから、

∫G(u, ux) dx が保存量となることが示される.そして、

この観点にのっとって離散変分導関数法を適用することができ、すぐれた数値解を得ることが可能である.実際に離散変分導関数法数値スキームで得られた数値解を、Fig.3.5 に示しておこう.これは、3つの peakon がほぼ一点で衝突して非線形干渉を経た後に再びそのプロファイルを保存したまま分裂する様子を数値計算で再現したものである.この peakon の頂点は微分不可能なためこうした数値計算との相性は大変に悪いはずであるが、計算が問題なく行えていることに着目しておこう.

3.3 本章のまとめ本章の内容をまとめるならば以下のようになるだろう.

• 離散変分導関数法で用いる離散変分導関数について、(変分計算から毎回導出するのではなく) 数学的なその定義を紹介した.

• 離散変分導関数法の対象となる偏微分方程式問題の抽象形、その性質、具体例、そして離散変分導関数法数値スキームを紹介した.

• 離散変分導関数法の対象は一般的な抽象形で分類されるものも多いが、分類されないような個別のものもあり、それらにも実用上の重要性があったりする.

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0

20

40

60

80

100

0

20

40

60

80

100

-0.1 0

0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8

u(x,t)

Space

Time

図 3.5: 特殊な保存系問題: Camassa–Holm 方程式に対して構成した離散変分導関数法スキームによって得られた数値解. 3つの peaknon が衝突、非線形干渉を経た後にふたたび波形を保存して移動している様子.

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第4章 最後に

さて、これまで離散変分導関数法の入門編としておおざっぱなところを紹介した.離散変分導関数法のおおよその様子がつかめたのではないだろうか.もちろん離散変分導関数法はこれだけに終わっておらず、さらに様々な発展をみせている.例えば、差分法以外の離散化方法を基礎にする、つまり、有限要素法やスペクトル法をベースとした離散変分導関数法も研究されており、また、計算精度を上げるための研究もいくつかなされている.また、本稿で紹介した基本的な離散変分導関数法数値スキームは陰的であり計算量的には不利であるが、これを本質的に克服するための研究も進展を見せている.数学的な一貫性を失わずに問題の空間領域を一般的に多次元にするための研究も進められており 1、また、離散変分導関数法の研究過程で知見が増えつつある離散関数解析についても精力的に研究がなされている.こうした近年の発展についてより詳細を知りたい方は、ぜひ本稿の著者を含む関係者にコンタクトをとって欲しい.最後に、本稿が偏微分方程式の数値解析における本邦の研究の進展にささやかでも寄与でき

ることを著者として願って最後の文とする.

1なかなか困難であるけれども

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