seminar report 2 よくみえる画像できれいに診断...seminar report innervision (27・8)...

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〈0913 - 8919 / 12 /¥300 / 論文 /JCOPY〉 INNERVISION ( 27・8 ) 2012 95 Aplio 500 にて新たに可能となった仮想 内 視 鏡 表 示の「F l y T h r u」と, 従 来の 「Cavity」を用いた肝胆膵領域疾患に対す る 3 D 診断について,および新たな B モー ド画質向上のための技術である「Beam Enhance Technology」の有用性について 検討した。 超音波による仮想内視鏡表示 「Fly Thru」 Fly Thru は,3 D プローブで得られる 超音波のボリュームデータから管腔の内 腔面を再構成する仮想内視鏡的表示法 で,管腔内を飛行するように観察すると いう意味で“Fly Thru”と名付けられた。 胆膵領域の三次元画像表示法としては, 超音波のボリュームデータからネガ / ポ ジ反転して,管腔臓器の構造を三次元 再構成表示する Cavity 法が以前から行 われてきた。われわれは,この技術を用 いて胆管,膵管の描出を行う USCP(US cholangiopancreatography)を提唱し ている。胆膵系の Cavity(USCP)と Fly Thru をあわせて提示して,超音波 による“内”と“外”の 3 D 画像について 検証する。 症例 1:胆管拡張(60 歳代,男性) 胆管の拡張のみで,腫瘍や結石は認め られず,5 ~ 7 年経過観察を行っている 症例である。図1a は,Cavity(USCP) 肝外胆管も拡張しており,これは膵頭部 腫大のためと考えた。これらの所見より IgG4関連の硬化性胆管炎と診断した (図 3) Cavity(USCP)で肝門部を中心に再 構成した画像では,左肝管の根部の狭 小化が確認できた (図 4) 。Fly Thruで は,下部胆管から肝門部に向かって視 点を移動させ,肝管合流部から左肝管, 前区域枝,後区域枝に入ろうとすると, 左肝管は狭くなって入りにくい部分があ り,しかし,そこを抜けると開けて管腔 が認識できる (図 5) 。一方で,前区域枝 には入れず,後区域枝には入ることがで きた。B モードで狭くなっていた部分は, Fly Thru では内腔の認識ができなかっ たと考えられる。管腔臓器を外から見る Cavity(USCP)と,中から観察する Fly Thru の両方を使うことで,新しい 情報が得られると考えられる。 症例 3:膵管内乳頭粘液性腫瘍 (IPMN,70歳代,女性) IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)の 症例である。主膵管は体部から尾部に かけて拡張しており,B モード画像でも 主膵管の尾側端に複数の乳頭状の腫瘤 を確認でき,主膵管型 IPMM と診断し (図6c 。短軸方向でみると内腔面 が狭くなり,乳頭状の腫瘍が内腔に張 り出していることがわかる (図6d による画像で,肝門部~肝外胆管部分 の再構成画像である。胆管は意外と薄く, 主として左肝管に拡張があることがわか る。B モード画像でも,胆管の拡張の状 況は把握できる。しかし,Cavity(USCP) では全体像の把握が容易である。 同部位の Fly Thru による画像では, 下部胆管から肝門部方向に移動しなが ら肝管合流部を観察することができる。 胆管内では,腫瘍や結石を認めず,拡 張のみであることがわかる。さらに,合 流部では左肝管と,前区域枝,後区域 枝に向かう分岐を確認できる (図1b) Fly Thru では,それぞれの分枝を選択 して,左肝管,前区域枝,後区域枝と 視点を移動して内腔を観察することがで き,通常は胆管鏡でなければ得られない 情報を簡単に描出できる。Fly Thru で, 肝門部から左肝管の中に入ると,上流 側までスムーズに追うことができた (図 2) 症例 2:自己免疫性膵炎および IgG 4 関連の硬化性胆管炎 (70歳代,男性) B モード画像で,膵全体の腫大と低 エコー化,膵体部に狭小化した主膵管 を認め,自己免疫性膵炎と診断した。 胆管を B モード画像で確認したところ, 左右肝管合流部から左肝管に向かう部 分に壁の肥厚像と狭窄を認めた。また, 胆囊全体の壁肥厚像を認めた。さらに, 図 1 症例1:胆管拡張,肝管合流部の Cavity(USCP)(a)と Fly Thru(b) 図 2 症例1:左右肝管合流部から左肝管に向かう Fly Thru 画像 a:Cavity(USCP) b:Fly Thru LHD B ant. B post. LHD:左肝管 B ant.:前区域枝 B post.:後区域枝 よくみえる画像できれいに診断 ~日々進歩する画像技術~ 水口 安則 国立がん研究センター中央病院放射線診断科 2 講 演 Seminar R eport

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Page 1: Seminar Report 2 よくみえる画像できれいに診断...Seminar Report INNERVISION (27・8) 2012 97 トラスト分解能を上げる新しい技術であ る。近位部ではサイドローブを低減する

〈0913 - 8919 /12/¥300 /論文/JCOPY〉 INNERVISION (27・8) 2012  95

Aplio 500 にて新たに可能となった仮想内視鏡表示の「Fly Th ru」と,従来の「Cavity」を用いた肝胆膵領域疾患に対する3D診断について,および新たなBモード画質向上のための技術である「Beam Enhance Technology」の有用性について検討した。

超音波による仮想内視鏡表示「Fly Thru」

 Fly Thruは,3Dプローブで得られる超音波のボリュームデータから管腔の内腔面を再構成する仮想内視鏡的表示法で,管腔内を飛行するように観察するという意味で“Fly Thru”と名付けられた。胆膵領域の三次元画像表示法としては,超音波のボリュームデータからネガ/ポジ反転して,管腔臓器の構造を三次元再構成表示するCavity法が以前から行われてきた。われわれは,この技術を用いて胆管,膵管の描出を行うUSCP(US cholangiopancreatography)を提唱している。胆膵系のCavity(USCP)とFly Thruをあわせて提示して,超音波による“内”と“外”の3D画像について検証する。● 症例1:胆管拡張(60歳代,男性) 胆管の拡張のみで,腫瘍や結石は認められず,5~7年経過観察を行っている症例である。図1aは,Cavity(USCP)

肝外胆管も拡張しており,これは膵頭部腫大のためと考えた。これらの所見よりIgG 4関連の硬化性胆管炎と診断した(図3)。 Cavity(USCP)で肝門部を中心に再構成した画像では,左肝管の根部の狭小化が確認できた(図4)。Fly Thruでは,下部胆管から肝門部に向かって視点を移動させ,肝管合流部から左肝管,前区域枝,後区域枝に入ろうとすると,左肝管は狭くなって入りにくい部分があり,しかし,そこを抜けると開けて管腔が認識できる(図5)。一方で,前区域枝には入れず,後区域枝には入ることができた。Bモードで狭くなっていた部分は,Fly Thruでは内腔の認識ができなかったと考えられる。管腔臓器を外から見るCavity(USCP)と,中から観察するFly Thruの両方を使うことで,新しい情報が得られると考えられる。● 症例3:膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN,70歳代,女性) IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)の症例である。主膵管は体部から尾部にかけて拡張しており,Bモード画像でも主膵管の尾側端に複数の乳頭状の腫瘤を確認でき,主膵管型IPMMと診断した(図6c↓)。短軸方向でみると内腔面が狭くなり,乳頭状の腫瘍が内腔に張り出していることがわかる(図6d↓)。

による画像で,肝門部~肝外胆管部分の再構成画像である。胆管は意外と薄く,主として左肝管に拡張があることがわかる。Bモード画像でも,胆管の拡張の状況は把握できる。しかし,Cavity(USCP)では全体像の把握が容易である。 同部位のFly Thruによる画像では,下部胆管から肝門部方向に移動しながら肝管合流部を観察することができる。胆管内では,腫瘍や結石を認めず,拡張のみであることがわかる。さらに,合流部では左肝管と,前区域枝,後区域枝に向かう分岐を確認できる(図1b)。Fly Thruでは,それぞれの分枝を選択して,左肝管,前区域枝,後区域枝と視点を移動して内腔を観察することができ,通常は胆管鏡でなければ得られない情報を簡単に描出できる。Fly Thruで,肝門部から左肝管の中に入ると,上流側までスムーズに追うことができた(図2)。

● 症例2:自己免疫性膵炎およびIgG4関連の硬化性胆管炎(70歳代,男性) Bモード画像で,膵全体の腫大と低エコー化,膵体部に狭小化した主膵管を認め,自己免疫性膵炎と診断した。胆管をBモード画像で確認したところ,左右肝管合流部から左肝管に向かう部分に壁の肥厚像と狭窄を認めた。また,胆囊全体の壁肥厚像を認めた。さらに,

図1  症例1:胆管拡張,肝管合流部のCavity(USCP)(a)とFly Thru(b) 図2  症例1:左右肝管合流部から左肝管に向かうFly Thru画像

a:Cavity(USCP) b:Fly Thru

LHD B ant. B post.

LHD:左肝管B ant.:前区域枝B post.:後区域枝

よくみえる画像できれいに診断~日々進歩する画像技術~

水口 安則 国立がん研究センター中央病院放射線診断科

2講 演 Seminar Report

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96  INNERVISION (27・8) 2012

 Cavity(USCP)では,主膵管拡張の状態を表現することができる。しかしながら,当然,内腔面の変化はわからない(図7)。膵頭部から膵尾部方向にFly Thruすると,内腔に突出した複数の乳頭状腫瘤を認識できた(図8)。 Fly Thruの課題は,表示された内腔面が本当に実際の内腔面を表しているかである。Fly Thruの内腔面の表示は,閾値の設定によって変更できる。現在は

閾値は自動設定されており,本当にそれが最適かどうか検者の眼で判断できないのが実情である。また,現在の解像度では,腫瘍や胆石などを判別することが難しい。Fly Thruによって診断に新たな情報を提供するためには,さらなる解像度の向上が望まれる。また,手技などに関する要望として,動画の保存時間(飛行時間)の延長(現在は20秒),表示のバリエーションを増やすことなどを挙げ

たい。3D画像には,“使いやすい”,“わかりやすい”,“診断しやすい”だけではなく,2Dでは得られない“診断に必要な情報”が求められる。

Beam Enhance Technology(仮称Boost Imaging)

 Beam Enhance Technologyは,超音波ビームのサイドローブを抑制することで,深部感度を向上させ,浅部のコン

図3  症例2:IgG4関連硬化性胆管炎のBモード画像CD:胆囊管,GB:胆囊

a

cCD

GB

b

d

図4  症例2:硬化性胆管炎のCavity(USCP)画像左肝管の根部が狭小化している(↓)。

日本超音波医学会第85回学術集会 ランチョンセミナー1

腹部領域におけるAplio500の展望

図7  症例3:IPMNの主膵管(MPD)のCavity(USCP)画像

MPD

a

c

図6  症例3:膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)のBモード画像MPD:主膵管

MPD MPD

MPD

b

d

図8  症例3:IPMNのFly Thru画像(膵頭部から膵尾部方向へ)

図5  症例2:硬化性胆管炎,Fly Thru画像(左右肝管合流部から左肝管へ)

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Seminar Report

INNERVISION (27・8) 2012  97

トラスト分解能を上げる新しい技術である。近位部ではサイドローブを低減することでアーチファクトを減らし,遠位部では感度を向上してホワイトノイズを軽減する(図9)。● 症例4:S1転移性肝腫瘍(80歳代,男性) S1に大腸がんの転移性腫瘍(35mm)を認める。図10のBモード画像右下の数字はBeam Enhance Technologyの適用レベルを示す。0(適用なし)~4の5段階を選択可能である。レベル3,4ではフレームレートが下がる傾向がある。図10は,PVT-674BT/differential6 .0のコンベックスプローブによるBeam Enhance Technologyである。適用なし(a)に比

ティッシュハーモニック(THI)→ディファレンシャルTHIへと,時代とともに進化してきた。しかし,ゴールはまだまだ先である。画像技術の進歩が,すべての受診者のためになるように,今後も超音波技術の発展に期待したい。

水口 安則

1981年徳島大学医学部卒業。同年徳島大学第1内科入局,85年から国立がんセンター中央病院放射線診断部。現在,放射線診断科超音波診断医長。

Mizuguchi Yasunori

べてレベル1(b)と2(c)では,腫瘍の境界がより明瞭に描出され,輪郭不整像を示していることがわかる。また,腫瘍より深部の構造物もより明瞭に描出されている。differential8 . 0では,適用なし(a)に比べて,レベル2(b)では腫瘍の認識が容易である。明らかな違いを認識することができる(図11)。 将来的にはBeam Enhance Technolo-gyの適応によって,より高い周波数のプローブを選択することが可能になり,病変の深さによって使用するプローブを変えることなく検査が可能になることが期待される(図12)。 超音波診断の基本はBモード画像である。Bモード画質はfundamental B mode→

図9 Beam Enhance Technology(仮称Boost Imaging)(東芝メディカルシステムズ提供)

図10  症例4:S1転移性肝腫瘍のBeam Enhance Technologyのレベルによる画像比較

0

diff 6.0

1

2

2>1>0 腫瘍境界がより明瞭化

a b

c

図11 症例4のdiff 8.0での画像比較

0

diff 8.0

2

違いがより顕著

a b

図12 病変の深さによるプローブ選択の変化

従来のプローブの選択(深部と浅部でプローブを変更する)

〈深部〉

PVT-375BT diff 5.0

〈浅部〉

PVT-674BT diff 6.0

with Beam Enhance Technology

PVT-674BT diff 6.0 PVT-674BT diff 8.0