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世界史のしおり 2017①│13

ヴォルムス帝国議会でも自説の撤回を拒否したルターは帝国追放処分となったが,ザクセン選帝侯フリードリヒにかくまわれ,ヴァルトブルク城で聖書のドイツ語訳にいそしんだ。この時代まで,聖書のドイツ語訳は存在せず,ラテン語の聖書は一部の人にしか読むことができなかった。ルターは聖書を翻訳することで,民衆が聖書に親しむことができるように努めたのである。

また,当時,グーテンベルクが改良した活版印刷術(教科書p.75)が急速に普及してきており,ルターの教えを広めるパンフレットが発行されると,その思想はまたたくまにヨーロッパ全土に広がった。宗教改革と活版印刷術との関係は,教科書p.74~75,エスカリエp.119の「Try3」を活用する。

ドイツ国内の宗教対立は,1555年にアウクスブルクの和議でルター派が容認されたことで,一応の決着をみた。しかし,根本的な解決にはなっていなかったため,60年後に再び宗教戦争(三十年戦争)が起こることを生徒に示唆しておきたい。

4 アクティブ・ラーニングで3つの検証最後に,『95か条の論題』に関して3つのこと

を生徒に考えさせて「深い学び」につなげたい。1つ目は,「95か条」であること。「ためしに,先生の批判点を95か条,あげてみよう」と言うと生徒たちは盛り上がるが,思いのほか難しいことにも気づく。ここからルターの思いの強さを感じとらせたい。2つ目は,ラテン語で書いたこと。庶民には読めない言葉で書いたのは,自らも聖職者であったからこそ,カトリック教会内での改革を

望み,庶民に改革を広げる考えはなかったことに気づかせたい。3つ目は,伝え方である。教会のとびらに打ちつけたのは,聖職者の目につくように,そして教会のなかで討論することを企図していたものの,意に反してすぐに活版印刷によって人々に知れわたってしまった。ここから,宗教改革は大きなうねりとなって動き出す。この3点をグループ討論させたい。他者の意見を聞きながら,生徒にルターの行動にいたる思考を追体験させることで,ルターの人物像に迫っていく。「主体的・対話的で深い学び」の格好のテーマである。

また,宗教改革の思想がヨーロッパへと広がったときに,ヤン=フスのことがルターの頭をよぎっていたかもしれない。聖書主義を唱えたために異端者として火刑に処された結末(エスカリエp.110)をルターは知っている。宗教改革の先駆者としてのフスや,現代史のキング牧師(Martin Luther King, Jr. ,エスカリエp.196)にも触れつつ,プロテスタントを生み出したというだけでなく,時代をこえてルターを位置づけられるとよい。「われわれはみな,聖職者」と『キリスト者の

自由』のなかでいうように,ルターは身分的差別なしに,皆が聖書を読むべきだと考えた。その延長線上に,結婚を認めることや教皇の権威の否定があったことを確認させて,ルターの人物に迫る授業を終えたい。

【参考文献】 ・小川幸司『世界史との対話(中)─70時間の歴史批評─』(地歴社,2012年)

・木村尚三郎監修『世界歴史人物なぜなぜ事典 ぎょうせい学参まんが12』(ぎょうせい,1993年)

ヴァルトブルク城に残るルターの部屋 写真:Wikimedia Commons

『明解 世界史A』p.75「⑤活版印刷のようす」 写真:PPS通信社