scutellaria属の生薬による肝障害ならびに同属の オウゴン含...

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臨床薬理 Jpn JClin Pharmacol Ther 27(3)Sept 1996 635 フォーラム Scutellaria属 の 生 薬 に よ る肝 障 害 な らび に 同属 の オ ウ ゴ ン含 有 漢 方 処 方 に よ る肝 機 能 障 害 につ いて 矢船 明 史(北 里研究所バイオイア トリックセンター臨床薬理部*, 東京大 学医学部薬 剤疫学講座) 津 谷 喜 一 郎(東 京 医科歯科大学難 治疾患研究所 情報医学研 究部門 臨床薬理 学) (受付:1996年4月10日) は じめ に 1976年 に 漢 方 エ キ ス 製 剤 が 本 格 的 に保 険 薬 価 に収載されて以来,漢 方処方が臨床において広 く 使 用 され て い る.広 範 囲 に 普 及 した要 因 の 一 つ と して,漢 方 処 方 を構 成 す る生 薬 の大 部 分 が 自然 界 に存 在 す る草 根 木 皮 で あ る た め に安 全 で あ る,極 端 な 言 い方 を す れ ば副 作 用 が な い と信 じ られ て き た点 が あ げ られ る. しか し最 近 に な って,漢 方処 方 に よ る副 作 用 が 次々と報告され るようになった.漢 方処方による 代表的な副作用の一つ として,カ ンゾウ含有処方 に よ る偽 ア ル ド ス テ ロ ン症(pseudoaldosteron ism)が あ げ られ る が1),そ れ 以 外 に もさ まざ まな 副 作 用 が 報 告 さ れ る に至 っ て い る.塗 本 の 報 告2) に よ る と,医 療 用 漢 方薬 の 副 作 用 状 況 を 日本 医薬 品 情 報 セ ンタ ー のJAPICDOCの1976~1988年 (昭和51~63年)分をデー タベ ース として調査 し た結果,漢 方薬 として66処方,総 症例3892例中 の 副 作 用 発 現 例 は268例,発現 率 は約6 .9%であ り,漢 方 薬 に よ る副 作 用 は まれ な もの で あ る とは 言 い 難 い.厚 生 省 薬 務 局 よ り定 期 的 に発 行 され る 「医 薬 品 副 作 用 情 報 」(Information on Adverse Reactions to Drugs)に お い て も,1991年11月 発 行 のNo.111の 中で"漢 方薬 の副作用"が 取 り 上 げ られ て お り,間 質 性 肺 炎 お よび膀 胱 炎 様 症 状 を は じめ とす る 副 作 用 に 関 し て 注 意 を促 して い る3).とくに小 柴胡湯 によ る間質性肺 炎 に関 して は,医 薬 品 副 作 用 情 報No.1074)お よびNo.1185) な どで,イ ンター フェロ ンーα との併 用例 に間質 性 肺炎 が多発 している点 を中心 に,詳 し く取 り上 げ られ,現 在 の添 付 文 書 で は イ ンタ ー フ ェ ロ ン-α と小 柴 胡 湯 との 併 用 は禁 忌 と記 載 され て い る .ま た漢方処方による膀胱炎様症状 に関 しても,起因 薬 剤 と して疑 わ れ る柴 朴 湯,柴 苓 湯,小 柴 胡 湯 お よび柴胡桂枝湯 について,医薬品副作用情報No . 1236)に おいて添付文書に必要 な記載を行ったう えで注意を喚起する旨が明示 されている. 海 外 にお い て も,い わ ゆ るherbal preparation, herbal remedyと して 盛 ん に生 薬 お よ び生 薬 成 分 含有製剤― 本稿 で は"生薬成分含 有製剤"を"生薬 製剤"と略 す― が使 わ れ て い るが,こ れ らに つ い て も 「副作用がな く安全である」 とい う誤った神 話 は す で に 崩 れ さ って お り7),最 近では各種の国 際医学雑誌 に生薬および生薬製剤 によるさまざま な 副 作 用 に関 す る報 告 が な され て い るの が 現 状 で あ る.世 界 的 に各 分 野 の 薬 剤 に よ る副 作 用 情 報 を キ ー ワ ー ド:肝 毒 性,生 薬 成 分 含 有 製 剤,漢 方 処 方,オ ウ ゴ ン,Scuetellariae Radix *東 京 都 港 区 白 金5 -9-1

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臨 床 薬理 Jpn J Clin Pharmacol Ther 27(3)Sept 1996 635

フォー ラム

Scutellaria属の生薬による肝障害ならびに同属の

オウゴン含有漢方処方による肝機能障害につ いて

矢 船 明 史(北 里研究所バイオイアトリックセンター臨床薬理部*,

東京大学医学部薬剤疫学講座)

津谷喜一郎(東 京医科歯科大学難治疾患研究所情報医学研究部門

臨床薬理学)

(受付:1996年4月10日)

はじめに

1976年 に漢方エキス製剤が本格的 に保険薬価

に収載されて以来,漢 方処方が臨床において広 く

使用されている.広 範囲に普及 した要因の一つと

して,漢 方処方を構成する生薬の大部分が自然界

に存在する草根木皮であるために安全である,極

端な言い方をすれば副作用がない と信 じられてき

た点があげられる.

しかし最近になって,漢 方処方による副作用が

次々と報告され るようになった.漢 方処方による

代表的な副作用の一つ として,カ ンゾウ含有処方

による偽 アル ドステロン症(pseudoaldosteron

ism)が あげられるが1),そ れ以外 にもさまざまな

副作用が報告されるに至 っている.塗 本の報告2)

によると,医 療用漢方薬の副作用状況を日本医薬

品情報センターのJAPICDOCの1976~1988年

(昭和51~63年)分 をデータベースとして調査 し

た結果,漢 方薬 として66処 方,総 症例3892例 中

の副作用発現例 は268例,発 現率は約6 .9%で あ

り,漢 方薬による副作用はまれなものであるとは

言い難い.厚 生省薬務局 より定期的に発行 される

「医薬品副作用情報」(Information on Adverse

Reactions to Drugs)に おいて も,1991年11月

発行のNo.111の 中で"漢 方薬の副作用"が 取 り

上げられてお り,間 質性肺炎および膀胱炎様症状

をは じめ とする副作用 に関して注意 を促 してい

る3).と くに小柴胡湯 による間質性肺炎 に関して

は,医 薬品副作用情報No.1074)お よびNo.1185)

などで,イ ンターフェロンーα との併用例 に間質

性肺炎が多発している点 を中心に,詳 しく取 り上

げられ,現 在の添付文書ではインターフェロン-α

と小柴胡湯 との併用は禁忌 と記載されている.ま

た漢方処方による膀胱炎様症状 に関 しても,起 因

薬剤 として疑われる柴朴湯,柴 苓湯,小 柴胡湯お

よび柴胡桂枝湯 について,医 薬品副作用情報No .

1236)に おいて添付文書に必要 な記載を行ったう

えで注意を喚起する旨が明示 されている.

海外 においても,い わゆるherbal preparation,

herbal remedyと して盛んに生薬および生薬成分

含有製剤― 本稿では"生薬成分含有製剤"を"生 薬

製剤"と 略す― が使われているが,こ れ らについ

て も 「副作用がな く安全である」 とい う誤った神

話はすでに崩れ さっており7),最 近では各種 の国

際医学雑誌 に生薬および生薬製剤 によるさまざま

な副作用 に関する報告がなされているのが現状で

ある.世 界的に各分野の薬剤による副作用情報 を

キー ワー ド:肝 毒性,生 薬成 分含 有製 剤,漢 方処 方,オ ウ ゴ ン,Scuetellariae Radix*東 京都 港 区白金5 -9-1

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集めたSIDE EFFECTS OF DRUGS ANNUAL

において も,Drugs used in non-orthodox medi

cineと して独立したセクションが設けられ,生 薬

などによる副作用情報が まとめられている8).

生薬および生薬製剤の副作用に関する海外での

報告の中で,今 回我々はScutellaria属 の生薬製剤

による肝障害の臨床報告に着 目した.そ の理由は,

Scutellaria属 に含 まれ るオ ウゴ ン(Scutellariae

Radix)が,わ が国において広 く使用 されている

小柴胡湯 をはじめとした数多 くの漢方処方の構成

生薬 となっているためである.周 知のように,慢

性肝炎における肝機能障害の改善が小柴胡湯適応

症の一つであることを考慮すると,そ の中に含ま

れるオウゴンの近縁生薬 によって肝障害が引き起

こされる可能性があるとする報告 は,臨 床医に

とって極めて興味深 く,ま た十分な注意を払 うべ

きものである.

本論文では,ま ず欧米におけるScutellaria属 の

生薬skullcapに よる肝障害の二つの報告例に関

して,そ の概略を述べる.次 いで,漢 方処方によ

るさまざまな副作用報告のうち,今 回は公的機関

である厚生省薬務局より定期的に発行される医薬

品副作用情報にみられる,わ が国における漢方処

方による肝臓 ・胆管系副作用報告について,と く

にオウゴンを含む漢方処方 を中心に,そ の現状 を

示す.最 後に,漢 方処方の副作用情報伝達の重要

性を含めて,若 干の考察 を加 える.

1.欧 米の臨床報告にみるScutellaria属 の生薬

skullcapに よる肝障害

本節では,生 薬および生薬製剤の副作用に関す

る欧米での臨床報告のうち,Scutellaria属 の生薬

skullcapに よる肝障害に関する概略 を述べ るが,

これ以外にも最近20年 間,生薬に関するさまざま

な副作用報告が代表的な国際医学雑誌 に掲載 さ

れ,そ の使用における厳重な注意 と監視の必要性

が強調されている9~16).また主要な生薬による副

作用に関 しては,1992~1993年 にDeSmetら に

よりAdverse Effects of Herbal Drugs 1 17),2 18)

としてまとめられている.

生薬お よび生薬製剤 による肝障害の報告 も,

1980年 代 以 降 か な り多 くな って い る12~16).The

Journal of the American Medical Association

のVol. 273, No. 6に お い て もEditorial19)と し て

生 薬 お よび 生 薬 製 剤 に よ る肝 障 害 を取 り上 げ て お

り,世 界 的 な関 心 の高 さ を示 す1例 で あ る.

今 回 の 調 査 に お い て 着 目 したScutellaria属 の

生 薬 製 剤 に よ る肝 障 害 は,MacGregorら に よ り

1989年 にBritish Medical Journalに 報 告 さ れ た

もの で あ る13).彼 らは,商 品名 でKalmsとNeur

elaxと い う錠 剤 を服 用 し,重 篤 な肝 障 害 を 引 き起

こ した4症 例 を報 告 して い る.KalmsとNeur

elaxはstress-relievingを 適 応 症 と し た市 販 の 生

薬 製 剤 で あ り,い ず れ もScutellaria属 のskullcap

と い う 生 薬 の 成 分 を 含 有 し て い る.な お こ の

skullcapに は い くつ か の種 類 が 存 在 す るが20),そ

の う ち の い ず れ で あ る か に つ い て はMacGregor

らの 報 告 に は明 確 な記 載 はな い.報 告 さ れ て い る

4症 例 の うち,3症 例 はKalmsを そ れ ぞ れ3日

間,3週 間,2ヵ 月 間服 用 後 発 症 して お り,こ の

3症 例 中 の1症 例 に つ い て は,以 前 に も9ヵ 月 間

Kalmsを 服 用 し て い た が 吐 気 の た め に服 薬 を 中

止 した とい う既 往 が認 め られ た.ま た4症 例 中 の

残 りの1症 例 は,Neurelaxを3週 間 服 用 後 発 症

して い る.全 症 例 と も黄 疸 な どの症 状 と と もに,

bilirubinやtransaminaseな どの肝 機 能 検 査 値 が

異 常 値 を示 し,1症 例 に つ い て は そ の 経 過 中 に腹

水 お よ び脳 症 を発 症 し,極 め て 重 篤 な状 態 に 陥 っ

て い る.幸 い な こ と に全 症 例 と も正 常 に復 帰 す る

こ とが 可 能 で あ った が,検 査 値 が 正 常 範 囲 に戻 る

まで に は数 ~ 十 数 ヵ月 を要 して い る.な お4症 例

中3症 例 に つ い て は肝 生 検 が 実 施 され,組 織 学 的

な 確 認 も行 わ れ て い る.

この4症 例 に 基 づ き,MacGregorら は肝 障 害

の 起 因 生 薬 と して,KalmsとNeurelaxに 共 通 し

て含 まれ る成 分 の う ち,skullcapとvalerianを

最 も疑 わ しい も の と して あ げて い る.ま た,こ の

うち のskullcapに つ い てMacGregorら は,そ れ

以 前 の1981年 にHarveyら に よ ってMistletoe

hepatitisと して 報 告 さ れ て い る症 例 に お い て も,

このskullcapが 起 因 と な っ て い た 可 能 性 もあ る

点 を指 摘 し て い る.Harveyら に よ っ て報 告 され

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て い る症 例12)と は,mistletoeな ら び にskullcap

(Scutellaria galericulata)を は じめ とす る5種 類

の生 薬 の 成 分 を含 有 す る錠 剤 を服 用 後,吐 気 や 全

身 倦 怠 感 な どの症 状 と と もにbilirubin,alkaline

phosphataseお よびaspartate transaminaseな

どの肝 機 能 検 査 値 が 異 常 値 を示 し,さ らに肝 生検

に よ っ て組 織 学 的 に もhepatitisが 確 認 さ れ た 症

例 で あ る.こ の症 例 で は,当 初 は起 因 生 薬 と して

mistletoeが 疑 わ れ た た め にMistletoe hepatitis

と して 報 告 さ れ て い た が,そ の 後 こ の生 薬 製 剤 に

はmistletoeが 実 際 に は含 まれ て い な か っ た とす

る報 告 が あ り,mistletoeに 起 因 す る とい う点 に

つ い て は す で に疑 問 が 持 た れ て い た 状 況 で あ っ

た20).

MacGregorら も述 べ て い る よ う に,skullcap

の 経 口摂 取 に よ り何 らか の有 害 反 応 が 引 き起 こ さ

れ る と い う明 確 な 根 拠 は認 め ら れ な い も の の,

skullcapがMistletoe hepatitisの 原 因 とな った

生 薬 製 剤 と,MacGregorら の 報 告 に あ るKalms

お よびNeurelaxの3製 剤 に共 通 し て含 まれ て い

る こ とを考 慮 す る と,skullcapに よ っ て肝 障 害 が

引 き起 こ さ れ る可 能 性 は 決 し て 低 い と は い え な

い.

Skullcapを 含 めたScutellaria属 の生 薬 に よ る

肝 障 害 に 関 す る 報 告 に つ い て は,先 に 述 べ た

Adverse Effects of Herbal Drugs218)の 中 にDe

Smetに よ る詳 細 な ま とめ が 載 せ られ て い る20).

2.厚 生 省 「医 薬 品 副 作 用 情 報 」 に み る漢 方 処 方

に よ る肝 臓 ・胆 管 系 副 作 用

日本 に お い て も漢 方 薬 を含 めた 生 薬 お よび 生 薬

製 剤 に よ る肝 障 害 の 報 告 例 はか な りの 数 に上 っ て

お り21~32),と くに小 柴 胡 湯 と,金 鵄 丸 とい う商 品

名 の 一 般 用 漢 方 製 剤 に 関 す る報 告 の 占 め る割 合 が

大 き く,重 篤 な症 例 も まれ で は な い.さ ら に,医

薬 品 副 作 用 情 報No.117に お い て も生 薬 製 剤 に よ

る薬 剤 性 肝 障 害 が 取 り上 げ られ,医 師 お よ び薬 剤

師 を 含 め た 医 療 従 事 者 に 対 す る注 意 を促 し て い

る33).

厚 生 省 薬 務 局 に よ る 医薬 品 副 作 用 モ ニ ター 報 告

の 概 要 に お い て も,漢 方 製 剤 な らび に そ の ほ か の

Tab. 1 全薬 剤,漢 方 製剤*に よ る副作 用報 告総

症例 数,肝 臓.胆 管系 副作用 症例 数

〔1989~1993年(平 成元 ~5年)度 〕**

生薬および漢方処方に基づ く医薬品による副作用

が,毎 年まとめて報告されている.1989~1993年

(平成元~5年)度 医薬品副作用モニター報告の概

要34~38)に基づ き,全 薬剤による副作用報告の総症

例数および肝臓 ・胆管系副作用の症例数,漢 方製

剤ならびにその他の生薬および漢方処方に基づ く

医薬品による副作用報告の総症例数および肝臓 ・

胆管系副作用の症例数をTab.1に 示す.各 年度 と

も漢方製剤(生 薬および漢方処方に基づ く医薬品

を含む)に よる副作用報告症例の全報告症例 に占

める割合は,約1~2%程 度である.漢 方製剤に

よる肝臓 ・胆管系副作用の具体的な内容 は,黄 疸

と肝機能異常である.報 告症例中に占める肝臓 ・

胆管系副作用症例数の割合 に関してみると,全 薬

剤では約7~10%程 度であるのに対 して漢方製剤

では約15~27%程 度であ り,1989~1993年(平 成

元~5年)度 医薬品副作用モニター報告の概要で

みる限 りにおいては,漢 方製剤のほうが高い値を

示している.た だし,こ の点に関する明確な結論

づけを行 うためには,さ まざまなバイアスを考慮

した うえでより詳細な検討が当然必要であり,今

回の結果から断定することは不可能であることは

いうまでもないが,他 の薬剤に比べて漢方製剤が

肝臓 ・胆管系副作用を引き起 こす可能性が低いと

断定できないことは事実であり,そ の使用に際 し

ては十分な注意が必要である.

1989~1993年(平 成元~5年)度 医薬品副作用

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Tab. 2 肝臓 ・胆 管 系 副作 用 起 因 漢 方製 剤*お よ

び症 例数

〔1989~1993年(平 成元 ~5年)度 〕**

モニター報告の概要に記載 されている,肝 臓 ・胆

管系副作用の起因薬剤 として疑われた漢方製剤 と

各製剤による副作用症例数 を一覧表 としてTab.

2に 示す.起 因薬剤 として疑われた漢方製剤は全

部で8種 類の処方である.各 処方の構成生薬を,

小柴胡湯を基本構造 とする処方 とそれ以外の処方

に分けて,Tab.3に 示す.さ らには,Tab.3に お

いて2種 類以上の処方に含 まれている生薬 につい

て,そ れぞれどの処方に含 まれているのかをTab.

4に 示す.Tab.4中 の●は,そ の生薬がその処方

に含 まれていることを示す ものである.な お,

Tab.3お よび4に おける生薬の並べ方は五十音

順 とした.

Tab.2に 示 した結果 についてまず着目すべき

点は,1989年(平 成元年)か ら1993年(平 成5年)

までの肝臓 ・胆管系副作用症例22症 例中17症 例

で,小 柴胡湯 を基本 とした処方(柴朴湯,柴 苓湯,

小柴胡湯,小 柴胡湯加桔梗石膏)が 起因薬剤 とし

て疑われていることである.こ の要因の一つとし

ては,も ちろん7種 類の生薬か ら構成 される小柴

胡湯 自体 に問題がある可能性以外 に,イ ンター

フェロン-α との併用による間質性肺炎な どによ

り,他 の漢方処方に比べて小柴胡湯による副作用

に対 して医師が とくに注意を払わざるをえなかっ

た状況 も考慮する必要がある.

また,小 柴胡湯の7種 類の構成生薬のうち,カ

ンゾウについては医療薬 日本医薬品集1995年8

月版39)に掲載されている147処 方中108処 方,す

なわち7割 を超 える処方に含まれており,こ の こ

とがTab.3に 示 した8処 方中7処 方にカンゾウ

が含 まれるという結果 をもたらした一つの原因 と

なっている可能性 も否定できない.し かし,漢 方

処方による肝障害の報告例21~32)の中には,リ ンパ

球刺激試験(Lymphocyte Stimulation Test)に

より起因生薬 としてカンゾウ,サ イコ,ニ ンジン,

ハンゲ32)を疑 った報告があ り,少 なくともこれら

の生薬については肝臓.胆 管系副作用の起因生薬

として十分な注意が必要である.ま た,カ ンゾウ

に関してはAdverse Effects of Herbal Drugs2 18)

によると,ド イツにおいては慢性肝炎,肝 硬変,

高血圧,低 カリウム血症,妊 娠などに対 してカン

ゾウと同属の生薬Glycyrrhiza glabra L.が 禁忌

(contraindication)と されてお り,極 めて興味深

い.こ の点については,考 察の中で再度言及する.

前節で述べた欧米におけるskullcapに よる肝

障害の報告を踏 まえた うえで,Tab.2~4に 示 し

た結果についてとくに我々が着 目した点は,8種

類中の6種 類の漢方製剤が共通構成生薬 としてオ

ウゴンを含み,Tab.2に 示 した1989年(平 成元

年)か ら1993年(平 成5年)ま での肝臓・胆管系

副作用症例22症 例中20症 例で,こ れらオウゴン

を含む6種 類の漢方製剤が起因薬剤 として疑われ

ているという事実である.漢 方処方では特定の生

薬の組合せが,そ の相乗作用などを目的 として使

われることがあり,"薬対"と 呼ばれる場合 もある.

オウゴンとサイコという組合せ もその一つにあげ

られてお り40),わが国においてもこの組合せを含

む処方が,小 柴胡湯をはじめとして広 く用いられ

ている.

また,漢方製剤の金鵄丸は全部で18種 類の生薬

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Tab. 3 肝臓 ・胆管系副作用起因漢方製剤名およびその構成生薬名*

Tab. 4 2種類以上の肝臓 ・胆管系副作用起因漢方製剤に含有される生薬

(オ ウ ゴ ン,オ ウバ ク,オ ウ レ ン,カ イ カ,カ ン ゾ

ウ,ク ジ ン,ケ イ ヒ,コ ロ ン ボ,サ ン キ ラ イ,サ

ン シ シ,シ ャ ク ヤ ク,タ イ フ ウ シ,ダ イ オ ウ,ニ

ン ジ ン,ビ ン ロ ウ ジ,モ ツ コ ウ,レ ン ギ ョウ,米

澱 粉)か ら構 成 され て お り26),や は りオ ウ ゴ ン を含

む こ とが 注 目 に値 す る.

起因薬剤に含 まれる頻度のうえでは,Tab.3に

示 した8種 類中7種 類の処方に含まれているカン

ゾウには及ばないが,こ の点についてはオウゴン

を含む29処 方の うち,7割 を超 える21処 方にカ

ンゾウが含 まれている ことも考慮する必要があ

る.肝 臓 ・胆管系副作用の起因薬剤 として疑われ

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た8種 類の漢方製剤中6種 類にオウゴンが含 まれ

ているという結果 と前節で述べた欧米における報

告を考え合わせると,オ ウゴンが肝臓 ・胆管系副

作用の起因薬剤である可能性 は決して低いとはい

えない.漢 方処方による肝障害の報告例21~32)の中

には,リ ンパ球刺激試験により起因生薬 としてソ

ウハクヒ21),ケイヒ23),あるいはすでに述べたよう

にカンゾウ,サ イコ,ニ ンジン,ハ ンゲ32)を疑った

報告があるが,今 回調べえた範囲においては,オ

ウゴンを起因生薬 として疑った肝障害の報告例 は

みられなかった.し か し,小 柴胡湯による代表的

な副作用である薬剤誘起性肺炎および間質性肺炎

に関する報告41~45)では,リ ンパ球刺激試験により

オウゴンが起因生薬 として疑われている症例41,45)

があ り,さ らには小柴胡湯を構成する各生薬につ

いて リンパ球刺激試験を実施 した症例ではオウゴ

ンの陽性率が高いことを指摘する報告44)もみ られ

る.薬 剤性肝障害 と同様,こ れらの疾患の発症に

おいてもやはり免疫学的機序が関与 している点 を

考膚すると,極 めて興味深いものである.

3.考 察

1)オ ウゴンによる肝障害の可能性

Scutellaria属 の生薬skullcapに よるものと疑

われる肝障害の報告例,そ して1989~1993年(平

成元~5年)度 の医薬品副作用情報 に記載されて

いる漢方製剤による肝臓 ・胆管系副作用報告から,

我々はScutellaria属 のオウゴンによる肝障害の

可能性 に着目した.今 回の調査では,国 内の報告

例に関する主な調査対象が厚生省薬務局発行の医

薬品副作用情報 とい くつかの臨床雑誌 に限 られて

おり,オ ウゴンが肝障害の起因生薬である可能性

に関 して明確 な結論づ けをす ることはできない

が,オ ウゴンが肝障害の起因生薬である可能性を

否定できない ことも事実である.さ らには,

(1)オ ウ ゴ ンが属 す るScutellaria属 の生 薬

skullcapが 肝障害を引き起 こす可能性があると

する欧米での報告があ り,生 薬および生薬製剤に

対する十分な注意 と監視の必要性が国際的にも強

調されていること,

(2)1989~1993年(平 成元~5年)度 の医薬品

副作用情報に記載 されている漢方製剤 による肝

臓 ・胆管系副作用報告においても,小 柴胡湯を含

めたオウゴン含有漢方製剤が起因薬剤 として疑わ

れている割合が高いこと,

(3)本 論文で も述べたように,小 柴胡湯による

肝障害についてはすでに複数の臨床報告がなされ

ており,そ の中には非常 に重篤な症例 も含まれて

いること,

(4)小 柴胡湯による薬剤誘起性肺炎および間質

性肺炎に関する報告では,リ ンパ球刺激試験によ

りオウゴンを起因生薬 として疑っている症例があ

り,さ らには小柴胡湯を構成する各生薬 について

リンパ球刺激試験を実施 した症例ではオウゴン陽

性率が高いことを指摘する報告 もみられること,

などの点から,今 回の限られた調査範囲において

はオウゴンが肝障害の起因生薬であるとする報告

はみられなかった ものの,オ ウゴンによる肝障害

の可能性に関しては十分な注意 と監視が必要 と考

える.医 療薬日本医薬品集1995年8月 版39)によれ

ば,現在臨床で使用されている147処 方中29処 方

にオウゴンが含まれており,小 柴胡湯などTab.3

に示 した処方のみならず,こ れらすべての処方に

関 しても十分な注意 と監視が必要であろう.

2)適 切かつ迅速な副作用情報伝達の必要性

日本の医学部 における教育では,漢 方薬 を含め

た生薬および生薬製剤に関する講義は,一 部の教

育機関を除 き,ほ とんど実施 されていないのが現

状である.そ のため,実 際の臨床で漢方処方を用

いる場合には,さ まざまな臨床報告や添付文書を

含めた各製薬企業か らの情報などを頼 りとしてい

るのが現状である.ま た,自 分の使っている漢方

処方が,具 体的にどのような生薬により構成 され

ているのかを知 らずに使っている医師 も少な くな

い.さ らに漢方薬 については,そ の薬理 ・薬効 に

関して も解明されていない未知の部分がかな り残

されてお り,薬 効成分自体が明らかになっていな

いもの も多いことを考え合わせると,そ の適正使

用のためには,漢 方薬を含めた生薬および生薬製

剤 により実際 どのような副作用が発生しているの

か,発生する可能性があるのか という点 に関して,

適切な情報を迅速 に医師に伝達する必要性は極め

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641

て高い.医 薬品に関する適切かつ迅速な情報伝達

の必要性は漢方薬 に限ったことではな く46),先の

ソリブジン事件47,48)においても大きな論点 となっ

たことは記憶に新 しい.

情報伝達の重要な手段の一 つが添付文書 であ

る.と くに医学部 における教育がほとんど実施 さ

れていない漢方薬の場合には,添 付文書による適

切な情報伝達が適正使用上極めて重要 となる.本

論文でも示 したように,重 篤な症例を含めた肝障

害に関する臨床報告がすでになされている小柴胡

湯に関して,最 新の添付文書(平 成7年9月)に

おける肝臓 ・胆管系副作用の記載 をみてみると,

「まれに黄疸,GOT,GPTの 上昇等があらわれる

ことがある」 とあるのみである.イ ンターフェロ

ンーα との併用による間質性肺炎やカンゾウによ

る低カリウム血症に関する記載に比べると,あ ま

りに簡略で曖昧すぎる内容である.重 篤な症例 を

含めた肝障害に関する臨床報告がすでにありなが

ら,な ぜ このような記載 しかなされていないので

あろうか.こ のような記載内容では,小 柴胡湯に

より重篤な肝障害が起 こる可能性 を医師に伝達す

ることなど,ま ず不可能である.小 柴胡湯の適応

症には慢性肝炎における肝機能障害の改善が含 ま

れており,肝 機能障害改善の目的で投与される薬

剤が逆に肝障害,し かもかなり重篤な肝障害を引

き起 こす可能性があることになる.し たがって,

この点に関する適切かつ十分な情報 を迅速に医師

に伝達する必要性は,他 の薬剤よりもむしろ高い

はずである.「 まれに黄疸,GOT,GPTの 上昇等

があらわれることがある」 という現在の添付文書

の記載内容では,重 篤な肝障害が起 こりうること

を知らずに,医 師は小柴胡湯を投与 してしまう危

険性が十分に考 えられる.1994年4月 から実施さ

れている改定GPMSPの 中において も,文 献 ・学

会情報の収集およびその迅速 な伝達の必要性が明

記 されてお り,現 在の小柴胡湯の添付文書におけ

る肝臓 ・胆管系副作用の記載内容 は,こ の改定

GPMSPの 主旨に反するもの と考える.

また前節で述べたように,ド イツにおいては慢

性肝炎,肝 硬変,高 血圧,低 カ リウム血症,妊 娠

などに対してカンゾウと同属の生薬Glycyrrhiza

glabra L.が 禁忌(contraindication)と されてい

る.ド イツにおいて禁忌 とされている具体的な理

由については,今 回の調査では把握できなかった.

日本ではカンゾウ含有処方の添付文書において,

低カ リウム血症および高血圧に関する記載 は認め

られるが,そ れ以外の点についてはカンゾウとの

関連 についての具体的な注意事項 は記載 されてい

ない.慢 性肝炎における肝機能障害の改善 を適応

症 とする小柴胡湯 をはじめとして,数 多 くの漢方

製剤にカンゾウが含 まれていることを考慮す る

と,カ ンゾウと同属の生薬について明確に禁忌の

項 目を設定 しているドイツの対処 と,日 本におけ

るカンゾウ含有漢方製剤の添付文書の記載内容 と

の差 に関しては,今 後さらに検討 を加える必要が

ある.

最近では,cytotoxicityの ある抗癌剤 とオウゴ

ン含有漢方製剤が併用 される場合 も出てきてい

る.未 知な部分の多いブラックボックス的な漢方

製剤 と抗癌剤 との併用により,い かなる事態が起

こりうるのか という点に関する解明は今後に残 さ

れた重要な問題であ り,十 分な監視 と迅速 な情報

伝達の必要性 は,む しろ他の一般の薬剤 よりも高

いといっても過言ではないのである.

3)さ らなる情報収集および公開の必要性

漢方薬 を含めた生薬および生薬製剤の適正使用

上,す でに収集されている副作用情報の迅速な伝

達が不可欠であることはいうまで もないが,そ れ

だけでは十分ではない.た とえば副作用発生率を

算出するためには,各 処方ごとの副作用症例数を

分子 とし,そ の処方を投与された患者数 を分母 と

して計算する必要がある.今回の調査 においては,

分子 となる副作用症例数に関しては国内の主な調

査対象が臨床雑誌への症例報告 と厚生省薬務局発

行の医薬品副作用情報に限られて しまい,ま た分

母 となる投与 を受けた患者数に関 しては情報が得

られなかったため,副 作用発生率の算出はできな

かった.そ のために本研究では,オ ウゴンが含 ま

れている処方が含まれていない処方に比べて,肝

臓・胆管系副作用を引き起 こす可能性が高いのか,

もしも高ければどの程度高いのかなど,具 体的な

数値 による結果 を示す ことはできなかった.分 母

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642

となる患者数を推定する一つの方法 としては,た

とえば厚生省薬務局による 「薬事工業生産動態統

計年報」などを利用すれば,各 漢方処方の年間使

用量に関する情報は得 られるが,そ の場合でも間

接的な推定 に留まることになる.こ のようにして

推定された副作用発生率が,現 在実施 されている

「使用成績調査」などのprospectiveな 調査に基づ

く副作用発生率 とはかな り食 い違った値 となる危

険性 も十分に考えられる.な お この使用成績調査

においても,医 師が薬剤 との因果関係 を疑 った症

例のみが報告されるという欠点を有することには

留意すべきである.

各処方ごとの副作用発生率を正確 に把握するた

めには,収 集法について十分に配慮 した調査に基

づいたデータの収集およびその公開が不可欠であ

る.実 際にどのような漢方薬が年間どの くらい処

方され,そ れぞれの処方について,ど のような副

作用がどの くらい発生しているのかという点に関

して具体的な情報.デ ータが得 られれば,薬 剤疫

学的および統計学的なアプローチによって,よ り

精密な解析 と検討が可能 となるはずである.さ ら

には,各 処方 ごとに実際 どのような副作用の症例

が報告されているのか,そ の転帰はどうなったの

かなど,各 症例に関する具体的な内容が,臨 床医

にとっては極めて重要かつ有益なものである.こ

のような情報について も,す でに収集されている

症例 も含めて,患 者のプライバ シーを保護 した形

で公開されるべきであろう.

4)国 際協調の中での漢方薬安全対策

漢方薬はわが国のみで使用されているわけでは

な く,個 々の生薬単位でみれば世界中で使用され

ている.WHOに よるInternational Drug Moni

toring Centerの データベースには,生 薬 ・漢方薬

による副作用に関する報告が,約6000件 記録され

ている49).FDAで はMEDWatchと いう制度を

導入 し,医 薬品のみならず医療器具や食品を含め

て,副 作用に関する幅広い情報収集 とその有効活

用に乗 り出している50,51).漢方薬を含 めた生薬お

よび生薬製剤に関 しては,日 本および中国を含め

た東アジア諸国における臨床試験の質 を向上させ

る必要性 を論ずるもの52),ま た薬剤疫学的研究の

必要性 を強調する声 もある53).医薬品に関する情

報は安全性に関するものを含め,す べてが国際的

に共有された うえで,そ の情報に基づ く適切な対

応がとられるべきである54,55).生薬および生薬製

剤について も同様であ り,安 全性および副作用に

関する情報を国際的に収集,分 析,そ して伝達す

るシステムの構築 を早急に考える時期にきている

といえるだろう.

おわ りに

「薬剤 には必ず何 らかの副作用がある.」 これは

医学的な常識であ り,こ の副作用に関する適切な

情報なくしては,薬剤の適正使用などあ りえない.

ところが漢方薬 に関 しては 「漢方薬なら安全,大

丈夫」 という幻想が根底にあるように思える.そ

のために,漢 方薬の副作用が過小評価された り,

他の薬剤に起因するものと誤 って判断されている

可能性 も否定できない.現 在,公 表されている情

報を検討するうえで も,当 然このバイアスを十分

考慮に入れなければならない.と くに,漢 方薬に

は未知の部分がかなり残 されていること,そ して

抗癌剤 との併用など新たな状況のもとでの投与が

行われはじめている現状 を考慮すると,「漢方薬な

ら安全,大 丈夫」 という幻想は決 して許 されるも

のではないのである.

生薬および生薬製剤 による副作用に関する情報

の収集および伝達について,国 際的にも関心が高

まっている状況の中,わ が国においてもその現状

を再検討するべ き時期にきているのではなかろう

か.

謝辞原稿の不備を御指摘頂くとともに,貴 重なコメント

を頂いた編集委員ならびに査読委員の方々に感謝致

します.本 稿の執筆に際し,御 協力を頂いたスウェーデン・ウプサラのWHO Collaborating Centre for

International Drug MonitoringのI. Ralph Edwards

教授に心より謝意を表します.

文 献

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FORUM

Hepatic Injury Induced by Scutellaria Species and

Hepatic Dysfunction Caused by Kampo Formulations

Including Ogon (Scutellariae Radix)

Akifumi YAFUNE*1'2 and Kiichiro TSUTANI*3

(Received on April 10, 1996)

*1 Department of Clinical Pharmacology , Bio-Iatric Center, the Kitasato Institute 5-9-1 Shirokane, Minato-ku, Tokyo 108, Japan

*2 Department of Pharmacoepidemiology, Faculty of Medicine, University of Tokyo

*3 Department of Clinical Pharmacology, Division of Information Medicine,

Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University

There has been an increasing number of clinical reports in the West to suggest that

hepatotoxic reactions can be induced by herbal preparations including skullcap of

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Scutellaria species. In Japan, the root of Scutellaria baicalensis (Scutellariae Radix) is used under the name of Ogon, which is included in many kinds of Kampo formulations,

such as Sho-saiko-to widely used for treating hepatic disorders. Reviewing the Information on Adverse Reactions to Drugs published by the Ministry of Health and Welfare of

Japan, we found 22 cases of liver and biliary system reactions caused by Kampo formulations from 1989 through 1993, and in 20 of the cases, six types of Kampo formulations including Ogon were suspected as the cause of the reactions. In two clinical reports of

pulmonary damage due to Sho-saiko-to, Lymphocyte Stimulation Test indicated that Ogon was the causative factor for the damage. Although there have been no reports to indicate that Ogon can actually cause liver damage, the results of our review strongly

suggest the necessity for surveillance of the possibility of hepatotoxic reactions caused by Ogon.

Key words : hepatotoxicity, herbal preparation, Kampo formulation, Ogon,

Scutellariae Radix