インフルエンザウイルスrnaポリメラーゼの 構造解析による創薬 …

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185 MEDCHEM NEWS 26 4185-189 2016E SSAY MEDCHEM NEWS [特集]構造生物学(創薬へのつながり)2 1.はじめに 近年、世界中に広がりをみせている鳥インフルエンザ (H 5 N 1 , H 7 N 9)は深刻である。特に、東南アジアやエ ジプトでは鳥におけるウイルスの流行は毎年起きてお り、偶発的にヒトへ感染した数も数百人を超え、毎年増 加している。日本国内でも、野鳥から鶏への感染事例は 年々増え続けており、経済的損失や健康面での不安な ど、社会へ深刻な影響を与えている。ただ、宿主となる 生物種が亜型により異なるため、鳥型ウイルスはヒトに も感染できる型へ大きく変異しておらず、今のところ大 流行を起こす状態には至っていない。しかし、鳥型ウイ ルスがヒト型に変異する危険性は確実に存在している。 インフルエンザウイルス表面には、Hemagglutinin (HA)および Neuramnidase(NA)と呼ばれる2つの タンパク質が存在しており(図1)、ヒトの体内にウイル スが侵入した場合、主に HA が抗原として認識される 1) しかしながら、HA と NA は非常に変異が起こりやすい タンパク質であり、現在わかっているだけで、HA では 16 種(H 1 ~ H 16)、NA で は 9 種(N 1 ~ N 9) の 亜 種 が確認されている 2) 。そのため、一度インフルエンザに かかっても他の亜種のウイルスが再び感染した場合、既 存の HA に対する抗体がはたらかないために、毎年小さ な流行を引き起こすことになっている。しかし、これら のインフルエンザの多くは低病原性であり、感染力の強 さから広範囲にわたった流行を引き起こすが、気温およ び湿度の上昇によりおさまっていく。 インフルエンザウイルスの RNA ポリメラーゼは、ウ イルスの複製(増殖)に中心的な役割を担っているため、 新規薬剤ターゲットとしてこれまで注目されてきた。筆 者らは、インフルエンザウイルスの RNA ポリメラーゼ がもつ3つのサブユニット(PA, PB1, PB2)のうち、 どれか 1 つのサブユニットでも欠けるとそのはたらきを 失うことに注目し、サブユニット間結合阻害剤が、新規 抗インフルエンザ薬として非常に強い候補であると考え て研究を進めた。また、亜型インフルエンザ同士の RNA ポリメラーゼのアミノ酸配列は 96 % 以上が同じで あり、他のインフルエンザのタンパク質と比べて、変異 が非常に起こりにくいことが知られている。このような 観点から、RNA ポリメラーゼをターゲットとした創薬 は普遍的にインフルエンザウイルスの増殖を抑えること ができると考えられる。ここでは、RNA ポリメラーゼ のサブユニット間の構造に基づく創薬研究について紹介 *1 横浜市立大学 生命医科学研究科 構造創薬科学研究室 Professor, Drug Design Laboratory, Graduate School of Medical Life Science, Yokohama City University インフルエンザウイルス RNA ポリメラーゼの 構造解析による創薬研究 Structure basis for an subunit interaction of influenza virus RNA polymerase for drug design 朴 三用 Sam-Yong Park *1 SUMMARYインフルエンザ RNA ポリメラーゼは、ウイルスの増殖に中心的役割を担っており、すべての亜型のインフルエンザウイル スにおいてアミノ酸配列の保存性が高く、新規抗インフルエンザ薬のターゲットとして注目されてきた。RNA ポリメラーゼ は 3 つのサブユニット PA, PB 1 , PB 2 からなるヘテロトライマーで機能しており、筆者らは、RNA ポリメラーゼ PA-PB 1 サブ ユニット複合体の構造解析に成功した。PA-PB 1 複合体中では、サブユニット同士が鍵と鍵穴のような形で結合していた。こ の構造はインフルエンザウイルスに特有のものであるため、この結合部分をターゲットにして設計される薬剤は、ヒトへの副 作用の心配は比較的小さいと考えられる。本稿では、これらの構造情報に基づく創薬研究を紹介する。 Influenza A virus is a major human and animal pathogen with the potential to cause catastrophic loss of life. Here, we describe two crystal structures of complexes made by fragments of PA and PB 1 . These novel interfaces are surprisingly small, yet they play a crucial role in regulating the 250 kDa. polymerase complex. It is hoped that the structures presented here will assist the search for such compounds. Keyword inuenza virus, RNA polymerase, protein-protein interaction, X-ray Crystallographic

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Page 1: インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼの 構造解析による創薬 …

185MEDCHEM NEWS 26(4)185-189(2016)

ESSAY MEDCHEM NEWS[特集]構造生物学(創薬へのつながり)2

1.はじめに

 近年、世界中に広がりをみせている鳥インフルエンザ(H5N1, H7N9)は深刻である。特に、東南アジアやエジプトでは鳥におけるウイルスの流行は毎年起きており、偶発的にヒトへ感染した数も数百人を超え、毎年増加している。日本国内でも、野鳥から鶏への感染事例は年々増え続けており、経済的損失や健康面での不安など、社会へ深刻な影響を与えている。ただ、宿主となる生物種が亜型により異なるため、鳥型ウイルスはヒトにも感染できる型へ大きく変異しておらず、今のところ大流行を起こす状態には至っていない。しかし、鳥型ウイルスがヒト型に変異する危険性は確実に存在している。 インフルエンザウイルス表面には、Hemagglutinin

(HA)および Neuramnidase(NA)と呼ばれる2つのタンパク質が存在しており(図1)、ヒトの体内にウイルスが侵入した場合、主に HA が抗原として認識される1)。しかしながら、HA と NA は非常に変異が起こりやすいタンパク質であり、現在わかっているだけで、HA では16種(H1 ~ H16)、NA では9種(N1 ~ N9)の亜種

が確認されている2)。そのため、一度インフルエンザにかかっても他の亜種のウイルスが再び感染した場合、既存の HA に対する抗体がはたらかないために、毎年小さな流行を引き起こすことになっている。しかし、これらのインフルエンザの多くは低病原性であり、感染力の強さから広範囲にわたった流行を引き起こすが、気温および湿度の上昇によりおさまっていく。 インフルエンザウイルスの RNA ポリメラーゼは、ウイルスの複製(増殖)に中心的な役割を担っているため、新規薬剤ターゲットとしてこれまで注目されてきた。筆者らは、インフルエンザウイルスの RNA ポリメラーゼがもつ3つのサブユニット(PA, PB1, PB2)のうち、どれか1つのサブユニットでも欠けるとそのはたらきを失うことに注目し、サブユニット間結合阻害剤が、新規抗インフルエンザ薬として非常に強い候補であると考えて研究を進めた。また、亜型インフルエンザ同士のRNA ポリメラーゼのアミノ酸配列は96% 以上が同じであり、他のインフルエンザのタンパク質と比べて、変異が非常に起こりにくいことが知られている。このような観点から、RNA ポリメラーゼをターゲットとした創薬は普遍的にインフルエンザウイルスの増殖を抑えることができると考えられる。ここでは、RNA ポリメラーゼのサブユニット間の構造に基づく創薬研究について紹介

*1 横浜市立大学 生命医科学研究科 構造創薬科学研究室 Professor, Drug Design Laboratory, Graduate School of Medical Life Science, Yokohama City University

インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼの構造解析による創薬研究Structure basis for an subunit interaction of influenza virus RNA polymerase for drug design

朴 三用 Sam-Yong Park*1

〔SUMMARY〕 インフルエンザ RNA ポリメラーゼは、ウイルスの増殖に中心的役割を担っており、すべての亜型のインフルエンザウイルスにおいてアミノ酸配列の保存性が高く、新規抗インフルエンザ薬のターゲットとして注目されてきた。RNA ポリメラーゼは3つのサブユニット PA, PB1, PB2からなるヘテロトライマーで機能しており、筆者らは、RNA ポリメラーゼ PA-PB1サブユニット複合体の構造解析に成功した。PA-PB1複合体中では、サブユニット同士が鍵と鍵穴のような形で結合していた。この構造はインフルエンザウイルスに特有のものであるため、この結合部分をターゲットにして設計される薬剤は、ヒトへの副作用の心配は比較的小さいと考えられる。本稿では、これらの構造情報に基づく創薬研究を紹介する。

Influenza A virus is a major human and animal pathogen with the potential to cause catastrophic loss of life. Here, we describe two crystal structures of complexes made by fragments of PA and PB1. These novel interfaces are surprisingly small, yet they play a crucial role in regulating the 250 kDa. polymerase complex. It is hoped that the structures presented here will assist the search for such compounds.

Keyword influenza virus, RNA polymerase, protein-protein interaction, X-ray Crystallographic

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186 Vol.26 No.4(2016)

ESSAY MEDCHEM NEWS[特集]構造生物学(創薬へのつながり)2

する。

2. インフルエンザウイルスの生体内における増殖機構

 インフルエンザウイルスの生体内の増殖機構は、インフルエンザウイルス表面に存在する HA が呼吸気道細胞

表面にあるシアル酸に結合することから始まる。結合したウイルスは細胞内にエンドソームとして取り込まれ、ウイルスエンベロープはエンドソーム膜との膜融合により脱殻し、細胞内にリボタンパク質複合体(RNP)を放出する(図1)。放出された RNP は細胞核に移動し、RNA ポリメラーゼによって、ウイルス RNA(vRNA)の複製とウイルスタンパク質mRNAの合成がなされる。

図1 インフルエンザウイルスの模式図と感染様式A: ウイルス表面にヘマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、M2という3つのタンパク質、

エンベロープ内に膜を裏打ちする M1と8個の RNA タンパク質複合体が存在している。RNAポリメラーゼはNPに巻きついた形をとっている。

B: インフルエンザウイルスの細胞への感染機構を示している。体内に侵入したインフルエンザウイルスは、まず、細胞表面に存在する糖タンパクのシアル酸に結合し、宿主細胞のエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれ、細胞室内へと放出される(脱殻)。細胞質へと放出された RNP は、NP の作用によって核へと移行し、複製および転写、翻訳が行われる。細胞表面に集まったウイルスのタンパク質は、8つの RNP を正しく含むように集合し、新たなウイルス粒子として細胞外に放出される。

(A)

(B)

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187Vol.26 No.4(2016)

インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼの構造解析による創薬研究

複製されたvRNAと、宿主細胞の翻訳系によってウイルスタンパク質 mRNA から翻訳されたウイルスタンパク質がそれぞれ組み合わさり、新しいウイルスが宿主細胞から遊離する。その際、HA とシアル酸でつながった上皮細胞からの分離が必要であり、このつながりを切断するのがNAである。NA阻害剤(タミフル®、リレンザ®)は、この最終過程を阻害することにより、さらなる感染を防ぐ。しかし、新型インフルエンザウイルスが出現した場合、これら NA 阻害剤が効果的かどうかは疑問視されている。すでに、タミフル耐性インフルエンザウイルスや3)、H7N7型、H7N9型のインフルエンザウイルスの出現が報告されている4)。 インフルエンザウイルスの RNA ポリメラーゼはウイルス増殖機構において必須であり、その阻害が効果的にウイルスの複製(増殖)を抑制する。RNA ポリメラーゼは PA、PB1および PB2と呼ばれる3つのサブユニットからなり、RNA 複製・転写活性の他にエンドヌクレアーゼ(endonuclease)活性、Cap 結合活性を示す 5)。インフルエンザウイルスは宿主の体内で図1に示したようなライフサイクルで増殖しており、こうした RNA ポリメラーゼのはたらきがウイルスの増殖にとって非常に重要であることがわかっている。さらに、インフルエンザウイルスの RNA ポリメラーゼは他のタンパク質と比べて変異の度合いが少ないため、さまざまな亜型共通の創薬ターゲットである。

3. RNA ポリメラーゼの PA︲PB1サブユニット間の構造

 解明された PA サブユニットの立体構造 6)は、PDB(Protein Data Bank)において調べた結果、これまでに解明されているタンパク質にはない新規構造であり、13個のαへリックスと9個のβシートで構成されている(図2)。また、そのα10, α11, α13の3つのヘリックスによりトンネルが構成されており、そこに PB1サブユニットの N 末端が突き刺さるように結合している

(図2)。この際、PB1は310 へリックスと呼ばれる構造をとっており、これはタンパク質間結合様式として非常に珍しい。PB1と PA サブユニット間の水素結合は、主にPB1のぺプチドの主鎖を通して形成されており、特にAsp 2とAsn 4は、PAのIle 621とGlu 623とβシートに似た様式で結合していた(図2)。実際、PA の Ile 621とGlu 623を含むループ部分を欠失させた変異体は、PB1

と結合することができなくなっていることを確認している。一方、PB1のアミノ酸の側鎖は、非常に広い範囲でPAと疎水性相互作用をしている(図2)。これまでに、PB1の1~14番までにあるアミノ酸残基を置換した変異体実験により、多くの疎水性残基、特にPro 5、Leu 7、Leu 8、Phe 9と Leu 10が PA との相互作用に必須であることがすでに報告されている7)。そこで、筆者らはPA サブユニット側のアミノ酸残基に注目し、立体構造上 PB1と相互作用しているアミノ酸残基を置換した変異体を調製し、PB1との相互作用を調べた。その結果、Val 636、Leu 640、Leu 666と Trp 706を置換した変異体は、PB1と結合することができなくなっていた。これらの結果より、PAのIle 621とGlu 623を含むループ、Val 636、Leu 640、Leu 666と Trp 706が、PB1との結合に非常に重要な役割を果たしていることが明らかになった。

4.構造による in-silico計算

 PA-PB1複合体の構造を解明し、それぞれのサブユニットが疎水性相互作用によって強固に結合していることを明らかにした。そこで、結合に関わっていた残基の変異体を作成し、それによって RNA ポリメラーゼの活性が低下するのかどうかを確認した。その結果、図2に示すように、PA-PB1ではPB1結合ポケットにあるPAのほぼすべての疎水性残基(Val636、Leu640、Leu666、Trp706)の変異体およびβ8-9を含むループ(Δ619-630)の欠損体で RNA ポリメラーゼの活性が低下し、PA-PB1の結合、さらに RNA ポリメラーゼの活性に必須であることが明らかになった(図2)。 そこで、PA-PB1複合体における PB1結合ポケットにはまる化合物が、非常に有効なインフルエンザウイルス阻害剤になると考え、in-silico 手法を用いて RNA ポリメラーゼのサブユニット間相互作用部位に結合する化合物の探索を行った。PA-PB1の構造情報により、in-silico 手法による探索を詳しく述べる。PA-PB1複合体の立体構造のMD計算(分子シミュレーション)を行い、5つの安定な構造が得られた。それぞれの安定な構造を用いて、MTS(Multiple target screening method)法によるスクリーニングを行った(図3)。次に、ドッキング計算手法によるスクリーニング作業として、CDPS(Consensus docking pose selection)法のスクリーニング計算を行った。CDPS法ではMTS法スクリー

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188 Vol.26 No.4(2016)

ESSAY MEDCHEM NEWS[特集]構造生物学(創薬へのつながり)2

ニング結果の上位化合物の情報を用いた。計算に用いた化合物は200万個の化合物データベース(ナミキ商事)から計算を行い、最終的に上位各4,261個のリストを得ることができた(図3)。このなかから、上位100個の化合物を購入し、試験管レベルでの PA タンパク質と結合確認を行った。通常、化合物のスクリーニングでは活性測定のハイスループット(high-throughput)の選別法によることが一般的であるが、PA と PB1が結合部位の

場合、RNA ポリメラーゼの活性部位でもなく、タンパク質間の結合部位である。このことから、原始的な方法であるが、PA 断片が PB1断片非存在下では非常に沈殿しやすいのに対し、PB1存在下では非常に安定であることを確認した。つまり、PA 単体では非常に不安定な天然変成タンパク質であった。このような性質を利用して、化合物の結合が PA を安定化する可能性が高いと考え、PA 溶液中に化合物溶液を加え、PA が沈殿するか

図2 PA︲PB1複合体の構造A: PA︲PB1複合体の構造をリボン図で示したもの。PB1は15残基のアミノ酸からなる短い

ヘリックスになっており、PA構造の中に刺さったような構造になっている。PAの分子表面電荷を示している。PB1はPAと強い疎水的な相互作用を示している。

B: PA︲PB1および PB1 -PB2の変異体による結合実験と活性測定結果を示している。すべてのアミノ酸の変異体で結合、活性ともに低下していることがわかる。

(A)

(B)

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インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼの構造解析による創薬研究

否かで一次スクリーニングを行った。その結果、数十個程度の化合物を選別することができ、ITC(等温滴定型カロリメータ)や、MDCK 細胞(イヌ腎臓由来)を用いて抗インフルエンザ剤としての有効性を確認することができた。今後、さらに化合物の最適化を進めていく予定である。

5.おわりに

 これまでに開発されている抗インフルエンザウイルス薬は、ウイルスが細胞に感染することを防ぐものであり、直接その複製を阻害するものではないために、感染後時間が経過してしまうと、その効果が薄れてしまうことが問題となっている。また、効果が大きいとされるタミフルの備蓄に日本も非常に多額の予算がつぎこまれているが、すでにタミフル耐性型の鳥インフルエンザが発見されており、異なる視点から新薬開発に取り組む必要

がでてきている。 今回、RNA ポリメラーゼのサブユニット間の立体構造を明らかにしたことは、ウイルス複製に必須な部位を創薬ターゲットにすることを可能にし、抗インフルエンザウイルス創薬の新たな分野を開く成果である。実際、本研究で明らかになった構造を基に調製した PA 変異体を用いてRNA合成活性を調べたところ、PB1への結合能を失ったどの変異体でもその活性は著しく低下した 7)。今後、本構造を基にした PA-PB1サブユニット結合阻害剤が設計され、抗インフルエンザ薬として応用されることが期待される。さらに、インフルエンザ RNA ポリメラーゼのアミノ酸配列は、すべての亜型のインフルエンザウイルスにおいて保存性が高く、特にPAとPB1の結合に関与している残基はすべて保存されている。そのため、今回解明された PA-PB1サブユニット構造を基に開発される新薬は、ウイルスの変異に強く、また、これまでのワクチンとは違い、どんな亜型のインフルエンザウイルスにも効果がある画期的なものになると期待される。

参考文献

1) Noda, T. et al., Nature, 439, 490–492 (2006) 2) Subbarao, K. et al., Influenza Virology, Caister Academic

Press. 229–280 (2006) 3) Collins, PJ. et al., Nature, 453, 1258–1261 (2008) 4) Belser, JA. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 7558–

7563 (2008) 5) Dias, A. et al., Nature, 458, 914–918 (2009) 6) Braam, J. et al., Cell, 34, 609–618 (1983) 7) Obayashi, E. et al., Nature, 454, 1127–1131 (2008)

AUTHOR

朴 三用(ぱく さんよん)1992年 大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了1995年 大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了1998年 理化学研究所研究員2001年 横浜市立大学生命システム科学研究科助教授2010年 横浜市立大学生命医科学研究科教授 現在に至る

図3  PB1︲PB2複合体の構造による in-silico 手法による化合物の探索の流れ。