research report 調査レポート99 2,522 456 135 5,010 09 18,599 2,860 2,649 972 11,497 5,565...

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経済のグローバル化と中部圏経済の発展に向けた考察 ~中部地域の輸出と雇用の分析を踏まえて~ わが国経済において、ものづくりの中心地域である中部圏経済は輸出関連企業も多く、グローバル 展開を進め海外成長の果実を取り込むとともに、就業人口が減少していくなか雇用を創出しその発展 のみならず、わが国経済の閉塞感を打破することが期待されています。 そこで、今回は経済のグローバル化が進むなか、中部圏の近年の経済成長動向や産業構造、就業 構造の変化などを基に、輸出と雇用のデータ分析を踏まえ、中部圏経済の発展について、今後どのよ うなことが求められるかについて考察しました。 要 約 調 査レポResearch report BRICsやASEAN諸国をはじめとする新興国の経済成長が続いており、わが国の企業もこのような 経済のグローバル化への対応として、海外現地市場へ積極的に進出しています。 経済のグローバル化の状況 1 中部地域の実質経済成長率の推移をみると、2002年1月から2008年2月までの戦後最長の景 気拡張期間中、一貫して全国、近畿地域及び関東地域に比べて高い経済成長率で推移しました。し かし、2008年9月のリーマン・ショックによる影響により、2008、2009年度の中部地域は、全国並び に近畿地域、関東地域を大幅に上回る落ち込みを見せました。 中部地域の経済成長動向 2 中部地域の産業構造の変化をみると、①総供給面では、全国対比製造業を中心とした第2次産業 の生産活動がより活発になっており、②総需要面では、特に輸出の好調さが総需要の伸びに寄与し ており、③生産活動面では、移出や輸出など地域外の需要により生産が大きく誘発されています。 同じく就業構造の変化を業種別にみると、製造業の全国と比較した特化係数が2005年から 2010年にかけて上昇しており、引き続き中部地域における製造業の生産活動を支えています。 中部地域の産業構造と就業構造 3 中部地域における製造業の労働生産性と輸出の関係については、高い生産性の企業は国際化し 利潤を得るような関係になっていることが示唆されます。このような関係のもと、中部地域の労働生産 性が上昇し、輸出比率が上昇した結果、それに伴う雇用創出効果が高まっています。 中部地域の輸出と雇用 4 中部地域における製造業の労働生産性は、全国平均は上回るものの、近畿地域や関東地域に比 べて低く、輸出比率を上げ海外成長の果実を取り込むためには、付加価値率の向上が課題となります。 中部圏経済の発展に向けた考察 5 6 調MIE TOPICS 2013.1

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経済のグローバル化と中部圏経済の発展に向けた考察~中部地域の輸出と雇用の分析を踏まえて~

わが国経済において、ものづくりの中心地域である中部圏経済は輸出関連企業も多く、グローバル展開を進め海外成長の果実を取り込むとともに、就業人口が減少していくなか雇用を創出しその発展のみならず、わが国経済の閉塞感を打破することが期待されています。そこで、今回は経済のグローバル化が進むなか、中部圏の近年の経済成長動向や産業構造、就業構造の変化などを基に、輸出と雇用のデータ分析を踏まえ、中部圏経済の発展について、今後どのようなことが求められるかについて考察しました。

要 約

調査レポートResearch repor t

BRICsやASEAN諸国をはじめとする新興国の経済成長が続いており、わが国の企業もこのような経済のグローバル化への対応として、海外現地市場へ積極的に進出しています。

経済のグローバル化の状況1

中部地域の実質経済成長率の推移をみると、2002年1月から2008年2月までの戦後最長の景気拡張期間中、一貫して全国、近畿地域及び関東地域に比べて高い経済成長率で推移しました。しかし、2008年9月のリーマン・ショックによる影響により、2008、2009年度の中部地域は、全国並びに近畿地域、関東地域を大幅に上回る落ち込みを見せました。

中部地域の経済成長動向2

中部地域の産業構造の変化をみると、①総供給面では、全国対比製造業を中心とした第2次産業の生産活動がより活発になっており、②総需要面では、特に輸出の好調さが総需要の伸びに寄与しており、③生産活動面では、移出や輸出など地域外の需要により生産が大きく誘発されています。同じく就業構造の変化を業種別にみると、製造業の全国と比較した特化係数が2005年から2010年にかけて上昇しており、引き続き中部地域における製造業の生産活動を支えています。

中部地域の産業構造と就業構造3

中部地域における製造業の労働生産性と輸出の関係については、高い生産性の企業は国際化し利潤を得るような関係になっていることが示唆されます。このような関係のもと、中部地域の労働生産性が上昇し、輸出比率が上昇した結果、それに伴う雇用創出効果が高まっています。

中部地域の輸出と雇用4

中部地域における製造業の労働生産性は、全国平均は上回るものの、近畿地域や関東地域に比べて低く、輸出比率を上げ海外成長の果実を取り込むためには、付加価値率の向上が課題となります。

中部圏経済の発展に向けた考察5

BRICsやASEAN諸国をはじめとする新興国の経済成長が続いています。IMFの世界経済成長率見通し(2012年10月)によると、世界の成長フロンティアは先進国から新興国に移行し、新興国・地域では今後5年間で6%前後の実質経済成長率になると見込まれています(図表1)。従来経済成長の空白地帯と言われてきた中東や北アフリカ諸国においても、比較的高い経済成長が見込まれています。その結果、わが国の企業もこのような経済の

グローバル化への対応として、例えば海外現地市場へ積極的に進出しています。わが国の海外現地法人企業数をみると、年々増加しており、とりわけ成長著しいアジアは2010年度に1万1497社と2001年度対比1.8倍の水準にまで達しています(図表2)。

中部圏、すなわち中部経済産業局管内の富山、石川、岐阜、愛知、三重の各県で構成される中部地域の概況をみると、総人口、事業所数、地域内総生産は概ね全国対比11%程度のシェアを有しており(図表3)、輸送用機械や電気機械、一般機械に代表される日本のものづくりの中心地域であることは広く知られているところです。

ここで、中部地域の実質経済成長率の推移をみると、2001年度のITバブル崩壊から2002年度には他地域に比べていち早く立ち直り、2002年1月から2008年2月までの戦後最長の73ヵ月の景気拡張期間中、一貫して全国、近畿地域及び関東地域に比べて高い経済成長率で推移しました(図表4)。しかし、20 0 8年9月のリーマン・ショックによる影響により、2008、2009年度の中部地域は、全国並びに近畿地域、関東地域を大幅に上回る落ち込みを見せました。また、中部地域の実質経済成長率を需要項目

別にみると、景気拡張期間中、民間最終消費支出、民間固定資本形成、財貨・サービスの純移出入が景気を牽引したことがわかります(図表5)。とりわけ、輸出入を含む財貨・サービスの純移出入は、民間固定資本形成と並んで中部地域の経済成長に大きく寄与していることが読

(資料)IMF(2012)「World Economic Outlook, October 2012」( 注 )新興アジア諸国には、中国、インド、ASEAN等を含む。

図表1 IMFの世界経済成長率見通し

(資料)経済産業省「海外事業活動基本調査」( 注 )中国は香港を含む。また、BRICs(中国は香港を除く)は2004年度からの集計。

図表2 わが国の海外現地法人企業数の推移

(資料)中部経済産業局「中部経済のポイント2012」

図表3 中部地域5県の経済概況

世界 先進国・地域   米 国  ユーロ圏  英 国  日 本  NIEs新興国・地域   新興アジア諸国  中 国  インド  ロシア  ブラジル  中東・北アフリカ

3.81.61.81.40.8

-0.84.06.27.89.26.84.32.73.3

3.31.32.2

-0.4-0.42.22.15.36.77.84.93.71.55.3

3.61.52.10.21.11.23.65.67.28.26.03.84.03.6

4.62.63.31.72.71.14.36.27.78.56.93.84.14.5

国・地域 2011(実績)

2012(推定)2013 2017

(年、%)

全地域   北 米   アメリカ  中南米  アジア   中 国   ASEAN4  中 東  ヨーロッパ  オセアニア  アフリカ

  BRICs

12,4762,5962,3977386,3452,2202,22563

2,147456131

-  

国・地域 2001

15,8502,8252,6238239,1744,0512,71576

2,384446122

3,502

05

17,6582,8652,662900

10,7125,1302,89197

2,513435136

4,684

08

18,2012,8722,663900

11,2175,4622,95299

2,522456135

5,010

09

18,5992,8602,649972

11,4975,5653,0271082,536481145

5,175

10

(年度、社)

石川

富山

岐阜

愛知

三重

2011

総面積(全国シェア 7.9%)

総人口(全国シェア 10.6%)

地域内総生産(全国シェア 11.2%)

事業所数(全国シェア 11.2%)

2009 2009

2012岐阜県35.4% 岐阜県

15.4%

岐阜県12.7% 岐阜県

16.7%

三重県19.3%

三重県13.7%

三重県13.2% 三重県

13.0%

富山県14.2%

富山県8.1%

富山県7.5% 富山県

8.8%

石川県14.0%

石川県8.6%

石川県7.8%

石川県10.1%

愛知県17.2%

愛知県54.1%

愛知県58.7%

愛知県51.4%

岐阜県35.4% 岐阜県

15.4%

岐阜県12.7% 岐阜県

16.7%

三重県19.3%

三重県13.7%

三重県13.2% 三重県

13.0%

富山県14.2%

富山県8.1%

富山県7.5% 富山県

8.8%

石川県14.0%

石川県8.6%

石川県7.8%

石川県10.1%

愛知県17.2%

愛知県54.1%

愛知県58.7%

愛知県51.4%

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調査レポート

MIE TOPICS 2013.1

1.経済のグローバル化の状況 2.中部地域の経済成長動向

BRICsやASEAN諸国をはじめとする新興国の経済成長が続いています。IMFの世界経済成長率見通し(2012年10月)によると、世界の成長フロンティアは先進国から新興国に移行し、新興国・地域では今後5年間で6%前後の実質経済成長率になると見込まれています(図表1)。従来経済成長の空白地帯と言われてきた中東や北アフリカ諸国においても、比較的高い経済成長が見込まれています。その結果、わが国の企業もこのような経済の

グローバル化への対応として、例えば海外現地市場へ積極的に進出しています。わが国の海外現地法人企業数をみると、年々増加しており、とりわけ成長著しいアジアは2010年度に1万1497社と2001年度対比1.8倍の水準にまで達しています(図表2)。

中部圏、すなわち中部経済産業局管内の富山、石川、岐阜、愛知、三重の各県で構成される中部地域の概況をみると、総人口、事業所数、地域内総生産は概ね全国対比11%程度のシェアを有しており(図表3)、輸送用機械や電気機械、一般機械に代表される日本のものづくりの中心地域であることは広く知られているところです。

ここで、中部地域の実質経済成長率の推移をみると、2001年度のITバブル崩壊から2002年度には他地域に比べていち早く立ち直り、2002年1月から2008年2月までの戦後最長の73ヵ月の景気拡張期間中、一貫して全国、近畿地域及び関東地域に比べて高い経済成長率で推移しました(図表4)。しかし、20 0 8年9月のリーマン・ショックによる影響により、2008、2009年度の中部地域は、全国並びに近畿地域、関東地域を大幅に上回る落ち込みを見せました。また、中部地域の実質経済成長率を需要項目

別にみると、景気拡張期間中、民間最終消費支出、民間固定資本形成、財貨・サービスの純移出入が景気を牽引したことがわかります(図表5)。とりわけ、輸出入を含む財貨・サービスの純移出入は、民間固定資本形成と並んで中部地域の経済成長に大きく寄与していることが読

(資料)IMF(2012)「World Economic Outlook, October 2012」( 注 )新興アジア諸国には、中国、インド、ASEAN等を含む。

図表1 IMFの世界経済成長率見通し

(資料)経済産業省「海外事業活動基本調査」( 注 )中国は香港を含む。また、BRICs(中国は香港を除く)は2004年度からの集計。

図表2 わが国の海外現地法人企業数の推移

(資料)中部経済産業局「中部経済のポイント2012」

図表3 中部地域5県の経済概況

世界 先進国・地域   米 国  ユーロ圏  英 国  日 本  NIEs新興国・地域   新興アジア諸国  中 国  インド  ロシア  ブラジル  中東・北アフリカ

3.81.61.81.40.8

-0.84.06.27.89.26.84.32.73.3

3.31.32.2

-0.4-0.42.22.15.36.77.84.93.71.55.3

3.61.52.10.21.11.23.65.67.28.26.03.84.03.6

4.62.63.31.72.71.14.36.27.78.56.93.84.14.5

国・地域 2011(実績)

2012(推定)2013 2017

(年、%)

全地域   北 米   アメリカ  中南米  アジア   中 国   ASEAN4  中 東  ヨーロッパ  オセアニア  アフリカ

  BRICs

12,4762,5962,3977386,3452,2202,22563

2,147456131

-  

国・地域 2001

15,8502,8252,6238239,1744,0512,71576

2,384446122

3,502

05

17,6582,8652,662900

10,7125,1302,89197

2,513435136

4,684

08

18,2012,8722,663900

11,2175,4622,95299

2,522456135

5,010

09

18,5992,8602,649972

11,4975,5653,0271082,536481145

5,175

10

(年度、社)

石川

富山

岐阜

愛知

三重

2011

総面積(全国シェア 7.9%)

総人口(全国シェア 10.6%)

地域内総生産(全国シェア 11.2%)

事業所数(全国シェア 11.2%)

2009 2009

2012岐阜県35.4% 岐阜県

15.4%

岐阜県12.7% 岐阜県

16.7%

三重県19.3%

三重県13.7%

三重県13.2% 三重県

13.0%

富山県14.2%

富山県8.1%

富山県7.5% 富山県

8.8%

石川県14.0%

石川県8.6%

石川県7.8%

石川県10.1%

愛知県17.2%

愛知県54.1%

愛知県58.7%

愛知県51.4%

岐阜県35.4% 岐阜県

15.4%

岐阜県12.7% 岐阜県

16.7%

三重県19.3%

三重県13.7%

三重県13.2% 三重県

13.0%

富山県14.2%

富山県8.1%

富山県7.5% 富山県

8.8%

石川県14.0%

石川県8.6%

石川県7.8%

石川県10.1%

愛知県17.2%

愛知県54.1%

愛知県58.7%

愛知県51.4%

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調査レポート

2013.1 MIE TOPICS

み取れます。もっとも、財貨・サービスの純移出入は、景気が落ち込んだ2008年度以降において、他の需要項目に比べて先んじて落ち込み、民間固定資本形成とともに景気全体の波を作っていたことがわかります。さらに、産業別の名目経済成長率では、景気拡張期間中の年度成長率の平均が+1.3%に対して製造業を中心とする第2次産業の寄与度のそれが+0.7%と56.8%の寄与率となり、2008、2009年度も年度成長率の平均が▲6.6%に対して第2次産業の寄与度のそれが▲4.6%と70.3%の寄与率となるなど、第2次産業、特に製造業の浮沈が中部地域の経済成長を大きく左右しました。

このような経済成長をたどっている中部地域の産業構造と就業構造はどのようになっている

のでしょうか。ここでは、産業構造については産業連関表を用いて、就業構造については国勢調査を用いて、中部地域の産業構造と就業構造を見てみます。なお、産業連関表は地域における一定期間(通常1年間)の産業間の取引をまとめたもので、現在、全国、各地域(都道府県を含む)とも2005年産業連関表が最新のものとして公表されています。

(1)産業構造まず、産業構造の概要をみると、次の通りです

(図表6)。総供給は、①各産業部門の生産活動に必要な原材料、燃料、サービスなどの購入費用である中間投入と、②生産活動によって新しく生み出された価値であり、域内生産から中間投入を差し引いた粗付加価値、そして③移輸入で構成されています。2005年の域内生産額は123.5兆円で、中間投入額は66 .4兆円、粗付加価値額は57.1兆円となっており、中間投入比率は39.3%と1995年の37.8%から上昇している一方、粗付加価値比率は移輸入比率が上昇したことにより33.8%と、1995年の38.9%から5ポイント以上低下しています。

域内生産額の構成比をみると、第3次産業のウエイトが1990年の 39 . 0%から 2005年には45.4%へと高まっているなか、第2次産業のウエイトは2005年で53.8%と引き続き最も高くなっています(図表7)。さらに、産業別の特化係数をみると、第2次産業の特化係数は2005年で1.40と年々高くなっており、全国対比第

図表4 全国及び三大地域の実質経済成長率の推移

(資料)内閣府「県民経済計算」(注1)実質経済成長率は固定基準年方式。(注2)中部地域は中部経済産業局管内の5県、近畿地域は近畿経済産業局   管内の2府5県、関東地域は関東経済産業局管内の1都10県。

図表5 中部地域の実質経済成長率の寄与度推移

(資料)内閣府「県民経済計算」をもとに作成

図表6 中部地域の総需要と総供給の推移

(資料)中部経済産業局「中部地域産業連関表」をもとに作成( 注 )(  )内は構成比を示す。

3.中部地域の産業構造と就業構造

▲ 8

▲ 6

▲ 4

▲ 2

0

2

4

0908070605040302012000

(%)

(年度)

関東地域近畿地域

中部地域全国

公的固定資本形成民間固定資本形成政府最終消費支出民間最終消費支出

財貨・サービスの移出入(純)在庫品増加県内総生産(支出側)

▲ 8

▲ 6

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

0908070605040302012000

(%)

(年度)

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

総需要総供給総需要総供給

(兆円) 〈1995年〉総需要=総供給=149.4 兆円

輸入5.1(3.4%)

移入 29.7(19.9%)

域 内生産額114.6兆円

域 内生産額114.6兆円

域 内生産額123.5兆円

域 内生産額123.5兆円

粗付加価値58.1

(38.9%)

中間投入56.5

(37.8%)

域内最終需要51.6

(34.6%)

移出 32.3(21.6%)

中間需要56.5

(37.8%)

輸出9.0(6.0%)

〈2005年〉総需要=総供給=168.9 兆円

輸入9.7(5.7%)

移入 35.7(21.1%)

粗付加価値57.1

(33.8%)

中間投入66.4

(39.3%)

域内最終需要53.4

(31.6%)

移出 34.0(20.1%)

中間需要66.4

(39.3%)

輸出15.2(9.0%)

最 終需要額93.0兆円

最 終需要額93.0兆円

最 終需要額102.5兆円

最 終需要額102.5兆円

8

調査レポート

MIE TOPICS 2013.1

2次産業の比率が相対的に高くなってきています。次に総需要は、総供給に対応するもので、域

内最終需要に移輸出を加えた最終需要と中間需要(=中間投入)で構成されています(前掲図表6)。中部地域の2005年の総需要額(=総供給額)は168.9兆円となり、1995年対比+13.1%と全国の+6.5%を大きく上回る伸び率となっています。また、最終需要において、2005年の域内最終需要比率と移出比率が1995年対比低下するなか、輸出比率は9.0%と3ポイント上昇しています。この最終需要額を賄うために直接・間接に必

要となる域内生産額(2005年:123.5兆円)を生産誘発額といい、これを最終需要項目別に構成比として表わしたものが図表8の生産誘発依存度です。1990年からの生産誘発依存度の推移をみると、移出による誘発が最も高く約4割の水準で推移する一方、輸出による誘発が高まってきており、2 0 0 5年で1 9 . 8%と民間消費支出の

20.1%とほぼ同じ水準になっています。以上の分析から中部地域の産業構造の変化を

みると、次の3点が明らかになりました。すなわち、①総供給面では、全国対比製造業を中心とした第2次産業の生産活動がより活発になる一方、中間投入比率が上昇し、粗付加価値比率が低下していること、②総需要面では、特に輸出の好調さが総需要の伸びに寄与していること、③生産活動面では、移出や輸出など地域外の需要により生産が大きく誘発されており、特に足元では輸出による生産誘発の増加による影響が大きいことが明らかになりました。

(2)就業構造次に、このような産業構造を支えている就業

構造はどのようになっているのかを見てみます。 1995年の中部地域の就業者数は7.0百万人でしたが、2005年には6.9百万人、2010年には6.7百万人と漸減しています。もっとも、その減少率は全国に比べて低い水準です。産業別にみると、全国と同様、第1次産業、第2次産業とも減少傾向にある一方で、第3次産業は増加傾向にあります(図表9)。 業種別にみると、最も高いシェアを占めてい

るのが製造業であり、2010年で25.2%を占めています。全国と比較した特化係数も2005年の1.49から2010年には1.56と上昇しており、前掲図表5に見るようなリーマン・ショックによる移輸出の減少に伴う生産活動の悪化という経済環境の悪化を乗り越えて、中部地域における製造業の生産活動を支えていることがわかります。

(資料)総務省「国勢調査」をもとに作成(注1)特化係数=中部地域就業者産業別構成比/全国就業者産業別構成比。(注2)分類不能の産業は除く。

図表9 中部地域内就業者の産業別構成比と特化係数の推移

(資料)中部経済産業局「中部地域産業連関表」をもとに作成( 注 )生産誘発依存度とは、生産誘発額の最終需要項目別構成比を表したもの。

図表8 中部地域における生産誘発依存度の推移

(資料)中部経済産業局「中部地域産業連関表」をもとに作成( 注 )特化係数=中部地域内生産産業別構成比/国内生産産業別構成比。

図表7 中部地域内生産の産業別構成比と特化係数の推移

0

20

40

60

80

100

2005200019951990

(構成比、%) (特化係数)

(年)

1.3 1.1 1.0 0.8

59.759.7 53.753.7 54.054.0 53.853.8

39.0 45.2

45.4

0.64

0.80 0.82

1.211.24

0.66

0.78

1.33

0.66

0.75

1.40

0.600.5

0.7

0.9

1.1

1.3

1.5

第1次産業(特化係数、右目盛)第1次産業(構成比、左目盛)

第2次産業(特化係数、同左)第2次産業(構成比、同左)

第3次産業(特化係数、同左)第3次産業(構成比、同左)

45.0

0

20

40

60

80

100

2005200019951990

(%)

(年)

輸出一般政府消費支出

移出民間消費支出

その他総固定資本形成

19.5

4.0

46.3

13.4

15.0

21.2

7.0

42.1

12.8

15.0

20.6

7.5

41.3

15.5

13.4

20.1

7.5

41.0

19.8

10.1

第1次産業(特化係数、右目盛)第1次産業(構成比、左目盛) 鉱業・建設業(構成比、同左) 製造業(構成比、同左) 第3次産業(構成比、同左)

第2次産業(特化係数、同左) 製造業(特化係数、同左) 第3次産業(特化係数、同左)

0

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40

60

80

100

2010200520001995 (年)

0.72

0.91

1.24

1.41

0.00.20.40.60.81.01.21.41.6

(特化係数)4.3

(28.9)

56.9

38.7 36.8 34.1 33.138.7

0.71

0.91

1.25

1.41

3.6(10.0)

(26.8)

59.5

36.8

0.70

0.91

1.29

1.49

3.5

(8.8)

(25.3)

62.2

34.1

0.68

0.91

1.32

1.562.9

(7.9)

(25.2)

64.0

33.1

(9.8)

(構成比、%)

第2次産業

9

調査レポート

2013.1 MIE TOPICS

(1)輸出と生産及び雇用との関係これまでの中部地域の経済成長と産業構造・

就業構造分析を通じて、中部地域の輸出がその生産活動や雇用創出に大きな影響を与えている可能性が示唆されました。近年、企業の国際化(輸出・海外直接投資)と生

産の関係については、図表10に示すような考え方が受け入れられています。すなわち、企業の生産性の高さが輸出や海外直接投資への参入を促す要因となるという考え方です。具体的には、①企業は輸出により追加的な利潤を得て、国内市場からしか利潤を得られなかった時と比べて企業価値が向上すること、②輸出に際しては巨額の固定費用が必要であり、輸出の決定は後戻りできない不可逆的な性質を持つことから、輸出に伴う固定費用を負担するほど海外での利潤を期待できない企業はそもそも輸出を行わないこと、の2点を理由に輸出に必要な最低限の生産性(輸出閾値)を超える一部の企業のみが輸出企業となることができます(注1)。また、輸出と雇用の関係については、中小企業

白書などによると、輸出を開始した企業ほど雇用が上昇しており、海外直接投資を行った企業に関しても、一時的に雇用が減少するものの増加に転じる傾向が示されています(注2)。

そこで、以下では中部地域の輸出と生産(労働生産性)及び雇用との関係について具体的にデータに基づいて実証分析を試みます。

(2)中部地域における製造業の労働生産性前述の中部地域の産業構造分析に合わせる形

で1990年から2005年までの製造業の付加価値額を従業者数で除した製造業の労働生産性の推移を見てみます。図表11をみると、中部地域の労働生産性は、全

国の水準を上回っています。また、近畿地域、関東地域と比較すると、中部地域は2000年までは3地域の中で最も労働生産性が低かったものの、輸出を中心に経済活動が好調であった2005年は逆に最も高くなりました。

では、このような中部地域の労働生産性の変化はどのような要因が作用しているのでしょうか。言うまでもなく、労働生産性は労働者1人当たりの生産効率を示す指標であり、労働生産性が上昇していることは、人的資本効率が改善していることを指し、結果的に企業レベルでみると新規雇用のインセンティブが働き、産業レベルでみると当該産業の雇用創出につながることを意味します。また、労働生産性の低下はその逆になります。一般に、労働生産性はその定義から、次のよう

に展開できます。

4.中部地域の輸出と雇用

(注1)田中鮎夢(2011)「なぜ企業は輸出するのか?企業の輸出意思決定の理論と推定方法」(独)経済産業研究所(RIETI)国際貿易と貿易政策研究メモNO.3を参照。

(注2)『中小企業白書2010年版』pp.162-164.、田中鮎夢(2012)「輸出が日本の労働者に及ぼす影響:企業レベルデータによる分析」(独)経済産業研究所(RIETI)等を参照。

10

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MIE TOPICS 2013.1

(資料)戸堂康之(2010)「臥龍企業の海外進出に向けて」経済産業研究   所-京都大学共催シンポジウム資料をもとに加筆作成

図表10 企業の生産性と国際化(輸出・海外直接投資)の関係

(資料)経済産業省「工業統計調査」をもとに作成( 注 )暦年ごとに3地域の中で最も数値の高い地域の項目を網掛け。

図表11 全国と三大地域の労働生産性(製造業)の要因分解

企業の生産性

国際化のための初期投資(固定)

国際化による利益(生産性とともに上昇)

純利益(-) 純利益(+)

輸出閾値

低生産性で企業は国際化できない 高生産性の企業は国際化

全  国

中部地域

近畿地域

関東地域

1990199520002005199019952000200519901995200020051990199520002005

1,065.31,135.61,200.41,277.51,124.21,158.71,203.21,374.21,152.51,197.71,266.61,331.71,164.31,235.91,301.31,329.2

地 域 年 労働生産性(万円/人) 付加価値率(%)労働装備率(万円/人)有形固定資産回転率(回転)

36.838.336.735.234.635.933.132.739.240.839.638.737.438.537.535.9

654.9854.7954.4977.7685.6870.9979.1984.4664.6863.9950.7956.4668.0880.4965.8987.2

4.43.53.43.74.73.73.74.34.43.43.43.64.73.63.63.8

ここで、(a)付加価値率については、比率が高いほど高付加価値な製品を製造・出荷していることを、(b)労働装備率については、値が高いほど資本集約度が高いことを、(c)有形固定資本回転率については、回転が高いほど設備稼働状況が良いことを、それぞれ示しています。前掲図表11で中部地域の労働生産性を上記の

ように要因分解してその特徴をみると、①付加価値率は全国及び他地域に比べて低い反面、②労働装備率は高い水準にあることから資本集約度は高く、③有形固定資本回転率も高く設備稼働状況が良いことが挙げられます。このことを踏まえると、中部地域における2005年の労働生産性の大幅な上昇の要因は、他地域よりも資本集約がより一層進み、設備稼働が好調であったことがわかります。

(3)労働生産性と輸出比率の関係それでは、中部地域の労働生産性と輸出の関

係はどのようになっているのでしょうか。まず、工業統計調査から算出した中部地域の製造業全体の労働生産性を説明変数、中部地域産業連関表をもとに中部地域の輸出額と生産額から製造業全体の輸出比率を算出したものを被説明変数

とし、1990年から2005年を推計期間とする回帰分析を行った結果が図表12です。結果をみると、データ数が少なくパラメータ(媒介変数)に不安定な部分が残るものの、中部地域における製造業の労働生産性の上昇はその輸出比率を上昇させるうえで、正に有意に影響しています。すなわち、中部地域における製造業全体の労働生産性の上昇はその輸出比率を高める誘因となっています。もっとも、中部地域はもともと全国対比労働生産性と輸出比率が高いこともあり、全国と比較すると、パラメータの値は低く、労働生産性が上昇することによる輸出比率の上昇は、全国より緩やかになっています。次に、中部地域の業種ごとの労働生産性と輸

出比率の関係はどのような関係にあるのかを確認するために、1995年と2005年の二時点について、工業統計調査の中部地域における製造業の労働生産性を説明変数に、中部地域産業連関表の製造業の輸出比率を被説明変数とする業種別(注3)クロスセクション・データを用いて回帰分析で推定し、労働生産性のパラメータの説明力を比較しました。その結果が図表13であり、1995年時点ではパラメータの有意性は確認されませんでしたが、2005年時点では10%水準で有意に

付加価値額従業者数

付加価値額製造品出荷額等〔(a)付加価値率〕

有形固定資産額従業者数

〔(b)労働装備率〕

製造品出荷額等有形固定資産額

〔(c)有形固定資産回転率〕

労働生産性 = = × ×

11

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2013.1 MIE TOPICS

図表12 全国と中部地域における製造業の労働生産性と輸出比率の関係

(資料)総務省「全国産業連関表」、中部経済産業局「中部地域産業連関表」、   経済産業省「工業統計調査」をもとに作成( 注 )推計期間:1990-2005年、データ数:全国4、中部地域4(それぞれ5年   ごとのデータ)。また、(  )内はt値。※、※※、※※※はそれぞれ10%、   5%、1%の有意水準。

1,000 1,100 1,200 1,300 1,40010

12

14

16

18

20

22製造業の生産輸出比率(域内輸出額/域内生産額)

製造業の労働生産性(付加価値額/従業者数)

(%)

(万円)

[時点の色区分]1990年 1995年 2000年 2005年

中部地区(○)

<中部地域>y=0.0266x-15.3746(6.24※※※)(-2.96※)

R2 = 0.9512

<全国>y=0.0333x-24.6055(5.20※※)(-3.27※※)

R2 = 0.9311全国(△)

(注3)中部地域産業連関表の業種部門と工業統計調査の業種分類を比較できるように、それぞれの部門、分類を統合した。

(資料)中部経済産業局「中部地域産業連関表」、経済産業省「工業統計調   査」をもとに作成( 注 )説明変数(X)、被説明変数(Y)をもとに、回帰式Y=α+βXを求め、   係数(α、β)とそのt値( )を記載。   ※、※※、※※※は、それぞれ10%、5%、1%の有意水準。

図表13 中部地域内製造業の業種別労働生産性と業種別輸出比率の関係

×

2005年1995年○

(10%有意)中部地域における製造業業種別の労働生産性と輸出比率の関係有意性

R2データ数回帰係数(β)定数項(α)説明変数(X)年

1995

2005

製造業業種別労働生産性製造業業種別労働生産性

9.9416(2.5252)※※

5.9251(1.0721)

-0.0006(-0.2226)

0.0079(2.0381)※

20

20

0.0027

0.1875

【被説明変数(Y):製造業業種別輸出比率】

【上記分析における有意性の検定結果】

なっています。このことから、中部地域における製造業の労働生産性と輸出の関係については、2005年に輸出閾値が表れ、前掲図表10に示すように高い生産性の企業は国際化(輸出)し利潤を得るような関係になっていることが示唆されます。ちなみに、2005年で中部地域における製造業

の業種別輸出比率の上位をみると、電子計算機・同付属装置が65.2%で最も高く、以下、乗用車が59.0%、通信機械・同関連機器が52.3%、その他の自動車が50.0%となっています(図表14)。また、中部地域の製造業全体の輸出比率は同じく2005年で20.9%と全国の18.4%を上回っています。

(4)中部地域の輸出と雇用これまで分析してきた通り、中部地域の製造

業は労働生産性を上げ、輸出比率を上げてきていることがわかりました。それでは、中部地域の輸出による雇用創出はどの程度あるのでしょうか。ここでは、1990年(46部門表)、1995年(46部

門表)、2000年(52部門表)、2005年(53部門表)の中部地域産業連関表を用いて経済波及効果(注4)

を比較してみます。試算にあたって、まず、図表15の通り、今回

のこれまでの分析に合わせる形で中部経済産業局管内の富山、石川、岐阜、愛知、三重の中部5県を対象に名古屋税関管内と大阪税関管内の当該県にある港からの輸出総額の2005年からリーマン・ショック前の2007年までの伸び率である+39.2%を算出します。なお、ここでは税関統計を用いており、必ずしも中部5県の生産物の輸出総額ではないことに注意を要します。次に、この算出した輸出総額の伸び率を、1990

年(46部門表)、1995年(46部門表)、2000年(52部門表)、2005年(53部門表)、それぞれの中部地域産業連関表の輸出額合計に乗じ、その値を各産業部門の構成比で按分し、製造業に係る各産業部門の金額を最終需要投入額として経済波及効果を算出します。この結果を示したものが図表16であり、1995

年の5.44兆円をボトムに生産誘発額は高まっており、2005年で8.54兆円と1995年対比+56.8%、粗付加価値誘発額も1995年の1.99兆円から2005年には2.71兆円と+36.2%と大幅な増加となっています。

また、雇用創出効果もボトムの1995年の204.2千人から2005年には269.6千人へと65.3千人増加、+32.0%と大幅に増加しており、2005年には中部地域内就業者数対比で4.0%に相当する雇用を生み出していることが明らかになりまし

(注4)経済波及効果分析は、波及効果が移輸入割合に応じて域外に漏出しているとする{I-(I-M)A}-I型モデルを使用した。

図表14 中部地域における製造業の業種別輸出比率(2005年、輸出比率20%以上の業種)

(資料)中部経済産業局「中部地域産業連関表」をもとに作成

010203040506070(%)

65.259.0

52.3

20.9

18.4

50.046.1

32.9 31.9 30.8 29.1 27.5 25.0 21.6

中部地域製造業輸出比率中部地域製造業業種別輸出比率

全国製造業輸出比率

電子計算機・同付属装置

乗用車

通信機械・同関連機器

その他の自動車

その他の電気機械

産業用電気機器

電子部品

一般機械

その他の輸送機械

合成樹脂

精密機械

化学基礎製品

(資料)中部経済産業局「中部地域産業連関表」をもとに作成( 注 )生産誘発額は直接効果、1次間接及び2次間接波及効果の合計。   雇用係数は総務省「全国産業連関表」の各年の係数を算出、使用。   2次間接波及効果を算出する際の消費転換係数は総務省「平成23家   計調査年報」の人口5万人以上の市の値から算出、使用。

中部地域の輸出増加による経済波及効果図表16

(兆円)

(年)

0

1990

1995

2000

2005

1 2 3 4 5 6 7 8 9

5.842.08

1.05

5.441.99

1.09

6.972.55

1.43

8.542.71

1.54

(資料)名古屋税関、大阪税関資料をもとに作成(注1)中部地域の輸出額は、名古屋税関輸出額から静岡県内港分を除いた輸出額に、   大阪税関輸出額のうち富山県内港及び石川県内港の輸出額を加えたもの。(注2)シャドー部分は景気後退期。

中部地域5県の港からの輸出総額図表15

82000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11

10

12

14

16

18

20(兆円)

(年)

9.3 9.610.4 10.7

11.7

13.5

16.6

18.8

17.3

10.2

13.0

12.5

+39.2%

粗付加価値誘発額生産誘発額 雇用者所得誘発額

12

調査レポート

MIE TOPICS 2013.1

た(図表17)。産業別にみると、域内就業者数対比で第2次産業が7.4%と最も高くなっていますが、雇用創出効果のシェアは第2次産業の比率が低下傾向にある一方、第3次産業の比率は上昇傾向にあります。

以上を踏まえると、中部地域における製造業の労働生産性が上昇し、輸出比率が上昇した結果、それに伴う雇用創出効果も高まっていることが明らかになりました。

これまでの分析した中部地域経済の特徴を加味し、今後の中部圏経済の発展に向けた考察をすると次の通りです。中部地域の製造業の労働生産性は上昇してお

り、それが製造業の輸出比率の上昇にもつながり、中部地域の得意なものづくり分野で、製造業

を中心に、近年では非製造業まで幅広く雇用が創出されていると言えます。しかしながら、リーマン・ショック後、中部地域の経済活動は製造業を中心に大きく落ち込んだ結果、中部地域における製造業の労働生産性は2008年から2010年の平均で1168.2万円と三大地域の中で最も低くなっています(図表18)。ちなみに、前掲図表12の労働生産性と輸出比率の関係式で2008年以降の中部地域における製造業の輸出比率を試算すると、2008年が18.6%、2009年が12.0%、2010年が16.5%となり、2005年に比べて雇用創出効果は弱まっていると推察されます。このような状況のなか、最近の名古屋税関内の

国・地域別輸出比率をみると、今後高い成長が見込まれているアジアの比率が2008年の30.6%から2011年には41.5%と10ポイント以上高まり、中部地域とアジアとの結び付きが強まっています。したがって、経済のグローバル化が進むなか、中部地域の製造業全体の労働生産性を引き上げることが、輸出比率の上昇を通じ、雇用創出を伴う中部圏経済の発展につながると判断されます。そのためには、中部地域における製造業の労

働生産性の弱点である付加価値率の向上が課題です。例えば、図表19に示すようなシミュレーションを行うと、最も高い近畿地域レベルの付加価値率まで引き上げると、労働生産性は現状対比+23.5%となるなど、中部地域の労働生産性は大きく向上すると見込まれます。

 (2013.1.7)先浦 宏紀

5.中部圏経済の発展に向けた考察

73.9

0.3 0.2

0.5217.3

61.6

204.2

91.7

252.9

98.7

143.1143.1 142.4142.4

160.7160.7170.2170.2

269.60.6

0

50

100

150

200

250

300(千人)

(資料)中部経済産業局「中部地域産業連関表」、総務省「国勢調査」をもとに作成( 注 )分類不能の産業は除く。

中部地域の輸出増加による産業別雇用創出効果図表17

(資料)経済産業省「工業統計調査」をもとに作成

中部地域の労働生産性と付加価値率のシミュレーション図表19

雇用創出効果(就業者数対比、右目盛)第1次産業(雇用創出効果、左目盛) 第2次産業(雇用創出効果、同左) 第3次産業(雇用創出効果、同左)雇用創出効果(全体、同左) 第1次産業(就業者数対比、右目盛)第2次産業(就業者数対比、同左) 第3次産業(就業者数対比、同左)

<前提:シミュレーションにあたっては、前掲図表18の2008-10年の平均値を使用。また、労働装備率、有形固定資産回転率は同期間の平均値で一定と仮定。>

【シミュレーション①】・中部地域の労働生産性を近畿地域の水準まで引き上げた場合

【シミュレーション②】・中部地域の付加価値率を関東地域の水準まで引き上げた場合

【シミュレーション③】・中部地域の付加価値率を近畿地域の水準まで引き上げた場合

1,168.21,235.9

 5.8

- -伸び率(%) 増減(ポイント)

労働生産性(万円/人) 付加価値率(%)

27.529.1 +1.6

現状引き上げ後

27.531.8

 +4.3- -

増減(ポイント) 伸び率(%)付加価値率(%) 労働生産性(万円/人)

1,168.21,354.2 15.9

現状引き上げ後

27.533.9

 +6.4- -

増減(ポイント) 伸び率(%)付加価値率(%) 労働生産性(万円/人)

1,168.21,442.9 23.5

現状引き上げ後

(%)

(年)012345678

2005200019951990

7.47.4

6.3

5.35.2

4.03.7

2.93.3

2.3

0.20.20.10.1

2.11.6

2.2

(資料)経済産業省「工業統計調査」をもとに作成( 注 )暦年ごとに3地域の中で最も数値の高い地域の項目を網掛け。

1,211.11,038.31,183.11,144.21,279.01,028.91,196.81,168.21,313.51,136.21,257.91,235.91,245.71,073.01,233.71,184.1

30.230.331.430.627.226.928.427.533.833.534.533.931.331.432.831.8

901.9939.1907.8916.3943.2961.1918.5941.0857.0921.9938.9905.9889.1938.7895.1907.6

4.43.74.24.15.04.04.64.54.53.73.94.04.53.64.24.1

20082009201008-10平均20082009201008-10平均20082009201008-10平均20082009201008-10平均

全  国

中部地域

近畿地域

関東地域

労働生産性(万円/人)年地 域 付加価値率(%)労働装備率(万円/人)有形固定資産回転率(回転)

図表18 全国と三大地域の労働生産性(製造業)の要因分解(2008年以降)

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