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5  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

第一話 長女アクィラ、来訪

港町『チャウラ』にて、なじみの面め

々めん

や新たな知り合いと『幽ゆ

霊れい

船せん

』騒そ

動どう

に巻き込まれた僕こと

ミナト。

無事にほとんどの問題を解決できたんだけど、ある日僕らが滞た

在ざい

している漁

りょう

師し

宿やど

に、一人の客人

が現れた。ふらっと立ち寄ることは絶対にありえなさそうな……超ビッグネームの女性だ。

『魔法大臣』――この国、ネスティア王国における魔法部門のトップ。

魔法関連における膨ぼ

大だい

な知識と他の追つ

随ずい

を許さない卓た

越えつ

した魔法技能を有し、数々の偉い

大だい

な功績

を挙げた者のみが到と

達たつ

できる頂

ちょう

点てん

に君く

臨りん

する、王国最強の魔法使いが、宿の部屋で僕を待ち受けて

いたのだ。

……見た目からはそう思えないんだけども。

「んー、面お

影かげ

はまあ、あるといえばありますけど……そんなに似てないですね、お母様には」

今現在、至し

近きん

距離で僕の顔を覗の

き込んでいる彼女の名は、アクィラ・ヨーウィー。

先に説明した通り、ネスティア王国の魔法大臣にして『燻く

天てん

のアクィラ』の通称で知られる、超

Page 4: re2 nk maken7 honmon...)ネタを語ると、ミュウちゃんは半開きの目を四分の三くらい まで開いて、驚いていた。そこでエルクが、ふと何かを思いついた表情となり、唐

67  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

姉さんに続いてそう言ったのは情報屋のザリー。ああ、確かにそうかも。

ザリーをはじめ、冒険者のシェリーさんも奴ど

隷れい

だったナナさんも、いつのまにか仲良くなってた。

その後で向こうからアプローチしてきて……って感じ。断る理由も無いし僕も嬉う

しかったから、受

け入れて仲間になったのだ。

確かに言われてみれば、今回はなんだか逆っぽく思える。

ミュウちゃんは遠え

慮りょ

したいって言ってるけど、僕が積極的に勧か

誘ゆう

してる……って感じ。

宿で仲良くなって、大一番の海上決戦では力を合わせた術

じゅつ

を使って、アイデアを出し合って共闘

して……何かもう、感覚的には半分仲間みたく思ってたのかも。

あのまま自然解散となったなら、僕も何も言わずに別れたと思うんだけど、ミュウちゃん自身が

仲間になることに前向きだと知って、欲が出たのかもしれない。

なかなか気を許せる人がいないこの業界。気が合う友達ってのは貴き

重ちょう

だし、できれば近くにいて

いつも一緒に笑っていたいと、最近よく思う。

一方的な感情ならともかく、相手も多少なりそう思ってくれてるなら、なおさらだ。

「ふぅん……ミナト君って、初めて会った頃より積極的になった、かな?」

ザリーの言葉にシェリーさんが応じる。

「みたいね。ふふっ。でもやっぱり、ミナト君くらい優秀な男は、そのくらいがちょうどいいわよ

ね。もうちょっと欲張ってがっついてもいいくらいよ」

一流の魔法使いだ。

そして同時に、キャドリーユ家『長女』、つまり僕の一番上の姉でもある。

確かにノエル姉さんに似た……奥深さでいえばノエル姉さんすら超える、実力者特有の圧力とい

うか、存在感みたいなものがある。

……しかし、さっきからの言動が全てを台無しにしていた。

人んち(宿だけど)に来るなり居い

眠ねむ

りするわ、自己紹介もそこそこに世間話を始めるわ、何の前ま

触ぶ

れもなく唐と

突とつ

に人の顔を凝

ぎょう

視し

するわ……何、この状況?

何やら僕に用事があって来たらしいんだけど、今はクリーム色の髪をした少女、ミュウちゃんに

興きょう

味み

津しん

々しん

だった。

ミュウちゃんをパッと見で僕の新しい仲間だと判断した姉さんに対し、ミュウちゃん自身が「私

なんかが無理ですよ」とやや自じ

虐ぎゃく

的に否定したところ、意外そうな顔をされた。

「そうなんですか? 

仲もよいようですし、てっきり新しいお仲間かと」

「そうだったら嬉しいんだけどね」

「そうなれたら嬉しいのですがね」

一いっ

緒しょ

に答える僕とミュウちゃん。

「……意見が一致しているのに仲間にならないのが、まず不思議ですね」

「というか、珍しいね。ミナト君が積極的に仲間にしたがるなんてさ」

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89  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

そんな自信たっぷりの宣せ

言げん

に、ミュウちゃんはしばし唖あ

然ぜん

とする。

少し時間をかけて言葉の意味を咀そ

嚼しゃく

し呑の

み込んだ後、ゆっくりと周りを、仲良くなった僕らを見

渡し、ちょっと困ったような表情を浮かべた。

「そこまで言われると……私もちょっと、欲に負けそうになってしまいます」

おっ、揺ゆ

らいでる?

「困りました。そこまで言ってもらえるのなら首を縦た

に振りたいのが本ほ

音ね

ですが、仲間になっても

足を引っ張るだけ、というのは目に見えていますし……」

「『今は』でしょ? 

それ。だったら、これから訓練でも何でもすればいいじゃない。ミュウちゃ

ん才能あるし、きっと伸びると思うよ?」

ミュウちゃんは鍛き

えれば強くなると言ったのは、正

しょう

真しん

正しょう

銘めい

の本音だからね。

「……それも、打算的な『思いつき』ですか?」

「かもね。エルク風に言うならだけど」

「私も実際そんな感じだったしね。信じられる? 

実は私、五ヶ月前までEランクだったのよ? 

こいつに関わったせいで、こうなっちゃったけどね」

エルクが自分を指ゆ

差さ

して自じ

虐ぎゃく

(?)ネタを語ると、ミュウちゃんは半開きの目を四分の三くらい

まで開いて、驚いていた。

そこでエルクが、ふと何かを思いついた表情となり、唐と

突とつ

に僕にジト目を向ける。

「すぐそういう、甲か

斐い

性しょう

とかに結びつけるのはどうかと思いますが……まあ親しい人に、無用な遠え

慮りょ

をしなくなってきたのは嬉しいですね、私としても」

ナナさんにまでそう言われ、僕はため息をつく。

「それぞれ好き勝手言ってくれるなーもー。エルクも同じ感じ?」

「んー、私は別に、驚きも喜びもしないわよ。他人に迷惑かからない程度に、あんたが欲望に忠

ちゅう

実じつ

だってことは、もともと知ってたしね」

もっとも古い付き合いとなるエルクが、横目でミュウちゃんを見た。

「あんたがこの子……ミュウを仲間にしたいって思ったんなら、ちゃんと理由もあるんでしょ。変

な言い回しだけど、あんたの『思いつき』は単なる『気まぐれ』とは違う。少なくとも私達とこの

子、どっちかには有ゆ

益えき

なはずよ」

「あ、それには僕も同感だね。ミナト君、仲良くする人はきちんと選ぶし」

「確かに。相手がいくらかわいくても、真ま

面じ

目め

で一い

生しょう

懸けん

命めい

でも、有益でない相手とは付き合いま

せんし……その逆も然し

り、って感じですし」

「そゆこと。結局のところこいつは、単純な思いつきで行動してるように見えて、実は結構打だ

算さん

なのよ。そのミナトのお眼め

鏡がね

に適か

ったんなら、ミュウと私達がこれからも付き合ってくのは、決し

て損じゃないと思うわ」

ザリーとナナさんの援え

護ご

射しゃ

撃げき

も受けて、エルクはきっぱりそう言い切った。

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1011  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

僕らの『特訓』を見たことがあったら、ミュウちゃんもこの意味がわかったかもね。

黙だま

って話を聞いていたアクィラ姉さんは、おそらくノエル姉さんかブルース兄さんあたりから僕

の発明癖ぐ

を聞いてたのだろう、『あらあら』みたいな顔。

もっとも、エルクの懸け

念ねん

は当たりなんだけどね。自分で言うのもなんだけど。

実際ミュウちゃんを仲間にしたい理由のひとつは、彼女ら『ケルビム族』が使う異質な魔法技能

の数々である。

普通の魔法使いも使う『金か

縛しば

り』や『浄

じょう

化か

』なんてものもあれば、他に類る

を見ない『未来予知』

や『変身』、 

果ては色々と試したいことが多すぎる『召

しょう

喚かん

術じゅつ

』なんてものまで……いかん、すでに

頭の中が暴走気味だ。

ミュウちゃん自身と一緒に、学術的にも謎な

が多いらしいその召喚技能を磨み

き上げ、鍛え上げ、研と

ぎ澄す

ませていく……ああ、なんて魅み

力りょく

的てき

で有ゆ

意い

義ぎ

になりそうな予感!

「ちょっとあんた、すでに目が危ない! 

あの、アクィラさん? 

いらしていただいた早々に申し

訳ないんですけど、お姉さんとしてこいつ叱し

っていただけませんか? 

私達じゃ何を言っても暖の

れん簾

に腕う

押お

しなんです!」

早くも僕の心の内を察さ

知ち

した我エ

クが嫁が、この中で一番僕を止められそうな一ア

番上の姉に懇こ

願がん

する

も……。

「あらあら、ごめんなさいねエルクさん、うちの弟が。ミナト、あなたの性格はブルースから聞い

「ただまあ、不安要素があるとすれば……それもミナト、なんだけどね」

「っていうと?」

「聞いた話じゃ、ミュウちゃんって亜あ

人じん

の希少種なんでしょ? 

それも、特殊な魔法をいくつも

使いこなせる。そんな相手を前にして、果たしてこいつが好奇心を暴走させないように我が

慢まん

できる

か、ってことよ」

「え? 

いや、別に我慢するつもりはなかったけど」

「ないんかいっ!!!」

びしっと、いい角度でエルクの手刀が僕の脳の

天てん

に直撃した。

「……あのー?」

「ったくやっぱりかコイツは。あー、ミュウ? 

さっきは仲間になるよう言っといてなんだけどさ、

ちょっと待って。事前にこのバカに念入りに言い聞かせとかないと、ミュウがすぐにこいつの毒ど

牙が

にかかっちゃう可能性が非常に高いわ」

「おや? 

お兄さんもしかして……割わ

と肉食系で? 

身内には遠慮ないとか?」

「いや、いっそそうだったら、まだやんちゃとか健け

全ぜん

とかいうセリフで説明できる分、よかったか

もしれないんだけど……」

その説明に、意味がわからないっぽいミュウちゃんが首をかしげ、それ以外のチームメンバー全

員が『あー……』って感じの顔になる。

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1213  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

よく考えればこのはしゃぎよう、獲え

物もの

を見つけたときのお母様にそっくり」

「……何だか今さらになって、別な不安を感じますね」

慌あわ

てふためくエルクを見てか、額

ひたい

にでっかいマンガ汗を浮かべるミュウちゃん。それを尻し

目め

に、

僕のテンションはどんどん上がっていった。

すると、唐突に姉さんが何か思いついたように、僕からミュウちゃんに視線を移す。

「まあ、こんなわけですのでミュウちゃん……どうでしょう? 

お試し的な意味ででも結構ですし、

うちの愚ぐ

弟てい

と少し行動を共にしてみては? 

おそらく損になることはありませんし……今ならもう

ひとつ、あなたにとって好都合なことがあるかもしれませんよ?」

「と、言いますと?」

好都合な点? 

ミュウちゃんに対して? 

何だろう。

姉さんは僕らからの疑問の視線を受け、再び僕を見た。

「ええとですね、盛大に脱線したせいで忘れていたんですが……私、あなたに用があったんですよ、

ミナト。それをまず話さないといけませんね」

ようやく本題らしい。

「ええと、どこだったか……あったあった、これこれ。ミナト、あなたにコレを届けて、返事を聞

くために私が来たんですよ」

姉さんは手て

提さ

げカバンから、手紙と思お

しき封ふ

筒とう

をひとつ取り出した。

ていますから、彼女の能力に興味が尽きないのは仕方ないでしょう。でも、やりすぎて周りを困ら

せてはいけませんよ?」

「わかってるよ姉さん……ところでさ、召喚術って確か、死にかけの魔物とか精せ

霊れい

と『契約』する

と、使えるようになるんだよね? 

姉さんわかる? 

あと、この近くに強そうだったり、面白そう

な魔物が出るところとか知らない?」

「舌の根も乾か

かないうちにあんたねえ!!」

「召喚術ですか? 

それなら私に聞かずとも、あなたが持ってる『ネクロノミコン』にも詳く

しいこ

とが書いてあると思いますよ? 

それと面白い魔物なら、ここから東に三十キロほど行ったところ

に、最近確か……」

「アクィラさんも! 

なんで答えて火に油を注そ

ごうとしてるんですか!? 

こいつにそういう情報教

えると危ないから止め……」

「そっか、そんなのもいるんだ(ガリガリガリ!)。じゃあやっぱり最初に(ガリガリ!)手つけ

るなら『召喚術』かなー。応用も利き

きそうな(ガリガリガリガリ!!)感じだし……」

「あんた、どっから出したそのペンとノート!? 

しかもそれ、あんた愛用の、オリジナル魔法考案

用ネタノートじゃないのよ!? 

ってわあああ!? 

すでに二、三個、ミュウ用の魔法のアイデア書き

なぐられてるし! 

まさかのもう手遅れ!?」

「あらあら、生き生きしちゃってミナトったら。さっきは似てないなんて思っちゃったけど、よく

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1415  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

了承の場合は、この手紙を持ってきた使者にその旨むね

を伝えた上、王都ネフリムへ来られたし。

なお、かかる経費は全てこちらで負担するものとする。

                            アーバレオン・ネストラクタス

                                ドレーク・ルーテルス』

見ようによってはちょっと偉え

そうな――いや、実際に偉いんだろうけど――文面。その最後には

二人分の連名が。判は

子こ

まで押してあるし。

ドレーク……一番上の兄さんはわかるけど、一緒に名前が書いてあるこの人、誰?

僕が聞こうとしたら、それよりも早く、僕の後ろから手紙を覗の

き込み、珍

めずら

しく驚きと動ど

揺よう

を前面

に出したザリーが、声を震わせた。

「あ、あの……アクィラ、さん?」

「はい?」

「えっと……僕の記憶が正しければ、この、ミナト君のお兄さんの上に書かれてる名前……」

一いっ

拍ぱく

「……ネスティア王国の、現国王様じゃ?」

……゙え!?

ちょ……何それ!? 

マジ!?

上品な白色の封筒だ。いわゆる『封ふ

蝋ろう

』って奴で封をしてあるあたりが、なんだか高級かつ、フ

ァンタジーちっくな感じがする。

そしてもうひとつ、封の部分に、何やら金色の紋も

章しょう

みたいなものが……。

それを見た瞬間、視界の端は

にいたナナさんがぎょっとしたのが見えた。えっ、何そのリアクショ

ン? 

どういう意味? 

何がわかったの?

その答えは、ナナさんが口を開くよりも早く、アクィラ姉さんによってもたらされた。

「あなたへの『召

しょう

喚かん

状じょう

』です、ミナト。近いうちに、王都に来るように……と」

「……『召喚状』?」

「ええ。さ、どうぞ開けてください。姉さん、返事をもらって帰らなきゃいけないですから」

姉さんに急せ

かされ、言われるままに開ける僕。

するとその中には、ふたつ折りにされた手紙が入っていた。

細かくて美び

麗れい

な模も

様よう

が描かれている(印刷かな?)、一発で高級品とわかるその便び

箋せん

には、黒い

インクで用件が簡か

潔けつ

に書かれていた。

『ミナト・キャドリーユ殿

突然の通達になることをお許し願いたい。

下記日程において、一度会談の場を設もう

けたい。

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1617  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

断るって選択肢が最初から無い気がするんだ。一国のトップが、わざわざこんな書面まで用意し

てんのに……断れるはずないじゃん、僕みたいな一市民が。

「そうですね。まあ、断ろうと思えば断れますが、心し

証しょう

がちょっと悪くなっちゃうかもです。お母

様ぐらいの戦せ

功こう

と実力があれば、その辺は力

ちから

尽ず

くで無視できちゃうんですけど」

ってことはあの人は断ってたんかい。相変わらず底そ

知し

れない人だ……。

「はぁ……わかったよ、行くよ」

「はい、そう伝えますね。日程はその手紙の通り、今から一ヶ月後ですので、準備はその間にお願

いします」

「はいはい……でも姉さん。いくら僕が母さんの身内だからって、わざわざ王都に呼んで、王様自

らが面会するなんてことあるの?」

まあその他に、王国軍の総帥の弟、っていう肩書きも一応あるけどさ。

それに、母さんの『身内』ってムダに多いはずなんだけど、もしかして全員呼んでるのかな?

「そうですね。まあ確かに、お母様の身内だから、というだけの理由ではないでしょうけど……注

目されるのは仕方ないと思いますよ? 

そのお母様だって、冒険者になって半年経た

たずにAAAラ

ンクになるなんて滅め

茶ちゃ

苦く

茶ちゃ

な経歴、持ってませんでしたし」

「あ、なるほど。まさかとは思うけど……強制的に冒険者を辞や

めさせられて、軍に入れられたりな

んてこと、ないよね? 

さすがに嫌い

なんだけど」

それってつまり、僕がこの国の王様に呼び出し食らったってこと!? 

なんで!?

「国王陛へ

下か

と、騎士団総そ

帥すい

『天て

戟げき

のドレーク』連名の手紙って、私でも見たことありませんよ」

ナナさんまでそんなことを。

ていうか、だからマジなんで!?

長男であるドレーク兄さんが、会っておきたいという理由で僕を呼ぶならわかるけど、なぜ一い

市し

民みん

を国のトップが呼び出すの!?

「もしかして……また母さんがらみ?」

「まあ、率そ

直ちょく

に言えばそうですね。リリンお母様のチーム『女じ

楼ろう

蜘ぐ

蛛も

』は、この国でも多くの武ぶ

勇ゆう

伝でん

を残してらっしゃいますから。中には、一部の権力者が必死になって隠か

してる話もいくつか」

「またっすか……」

ギルドマスターのアイリーンさんという前例があるから、まさかと思って聞いてみたら、ドンピ

シャだったよ。

尊そん

敬けい

はしてるけど、つくづく面め

倒どう

事ごと

を呼び込むな……母さんの身内っていう立場は。

そのおかげで助かってることも多々あるから文句は無いんだけど……いつもいつも色んな大物が

唐突に現れるこのパターンは、どうにかならないもんかね。

いや、今回は厳げ

密みつ

に言えば、一応準備期間はあるのか。王様に会うまでに。

「これってさ……実質強制だよね?」

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1819  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

「まあ、そういうわけですから。観光するくらいの気持ちで来るといいですよ」

「観光って……王都の中だけならまだしも、お城までそんな気で行っちゃダメでしょ」

「そんなことはないですよ? 

お城の中には、見たことがないものもあるでしょうし。亜人の兵士

だとか、騎き

獣じゅう

として飼し

育いく

してる珍しい魔物だとか、色々いますから」

聞けば、種族で差別しない基本方針に加え、人材に多様性を持たせてあらゆる状況に即時対応で

きる軍隊を作る、っていう方針が国にあるらしい。

純粋な人間が一番多いとはいえ、『獣人』『ドワーフ』『マーマン』『エルフ』、さらには『古代種

族』なんかも混じってるらしい。豪ご

華か

だな、そりゃ。

説明している最中、ふと姉さんが『あ』と気づいたような顔になった。

「まあでも、さすがに男の『夢

サキュバス魔

』はいませんね。その意味では、もしかしたらミナトは興味を引

かれて、軍に誘われるかもしれません。もちろん形式的にですけど」

「え?」

複数の人間の口から、そんな疑問の声が出た。

何だと思って視線を上げると、ザリー、シェリーさん、ナナさん、ミュウちゃんの四人が、きょ

とんとした表情でこっちを見つめている。

何だろ、その目……って、ああ、そうだ。

僕、エルク以外に話してなかったんだっけ。僕が突然変へ

異い

の『雄お

の夢

サキュバス魔

』だって。

「その点は大丈夫でしょう。陛下は寛か

大だい

な方ですから、そのような横お

暴ぼう

はなさいません。ましてや

お母様の身内に対して、反感を買うようなことは極力避さ

けるでしょう。だからといって下し

手て

に出た

り、腫は

れ物も

扱あつか

いはしないでしょうけれど」

「あ、よかった。それを聞いて安心した」

「ただ……」

ただ?

「貴族の中には、そういうことを考える人達も多少なりいます。そこは注意が必要かもしれません

ね。そのあたりの対応は……」

そこで姉さんは、ナナさんに視線を向けた。

「彼女に聞けばいいでしょう。遅くなりましたが、お久しぶりですね、シェリンクス元副隊長」

「は、はいっ。ご、ご記憶いただけているとは光栄です、大臣!」

「ふふっ、そのように緊き

張ちょう

なさらないでください。ご覧の通り、少々世間知らずで頼りない弟です

から、よろしくお願いしますね」

にこっと笑って穏やかに言う姉さんとは対照的に、ナナさんはガチガチだった。まあ、軍人時代

は雲の上の上司だったんだろうし、無理ないけど。

しかしなるほど。自身も元貴族であり『直属騎士団』として日常的に貴族と接していたナナさん

は、そういう面にも明るいのか。こりゃ頼りがいがある。

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2021  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

「私の村の伝で

承しょう

にもあるけど……『夢

サキュバス魔

』の男版って、要するに『淫

インキュバス

魔』よね?」

「かもね。実際は、夢

サキュバス魔

の雄ってのは伝説だけの存在で実在しないっぽいけど。僕の場合、ただの

突然変異らしいし」

「だったらさあ……男とはいえ、いや男だからこそ、そんなお色気担当みたいな存在のミナト君が、

身近にこんな美女がいるのに手をつけないって、間違ってると思うのよ、やっぱり」

そんなシェリーに、すかさずエルクが突っ込む。

「あんたは結局そこに帰き

結けつ

すんのかい、この色ボケ女」

「何とでも言ってちょうだい。お義姉さま

4

4

4

4

4

はそのあたり、どうお考えかしら」

「あらあら、聞いてはいたけど、随分と積極的なんですね。色い

恋こい

沙ざ

汰た

は本人の自由ですから、姉弟

であれ口出しする気はありませんよ?」

姉さんはにっこりと笑いながらこっちに丸投げ。おいおい……ちょっとは助けてよ。

「まあ、元々『恋多き種族』ですからね。もしそういうことになっても、ある意味仕方ないでしょ

う。お母様があんな感じですし」

あんな感じって、十一男十五女のことですね、わかります。

わかりますけど、狙われている弟の現状を、「仕方ない」なんて言葉で片付けてほしくない今日

この頃。

「……まあ、それだけじゃないんですけどね、夢

サキュバス魔

の特異4

4

性4

は」

「ああ、ごめん。実は……」

かくかくしかじか。

「へー、そうだったんだ? 

知らなかったよ」

「まあ確かに、進んで他人に話すようなことじゃないわね。私も『ネガエルフ』だって素す

性じょう

を隠し

てたし、それはわかるわ」

そんなことを言うザリーやシェリーさんに続き、ナナさんも口を開く。

「それを私達にも話してくれたってことは……その、秘密を打ち明けるくらいに信頼していただけ

た、ってことでいいんでしょうか?」

「いや、ごめん。話すの忘れてただけ」

「……あ、そう」

呆あき

れ顔になるシェリーさん。

「……気き

苦ぐ

労ろう

の多そうなチームですねー」

「慣れるわよ、じきに」

苦笑いのミュウちゃんに、そっとエルクがつぶやいた。

そんな力の抜ける会話の中で、僕が結果的にこの数ヶ月秘密にしていた新事実は、あっさりチー

ムメンバー全員の知るところとなった。

にしてもさあ、とシェリーさん。

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2223  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

のため、時間が必要だったからだ。

漁師宿『マリアナ亭』の看か

板ばん

娘むすめ

と言っていいミュウちゃんである。店を、この町を出るというこ

とを残念がる人も多かった。

けど結局は、娘を送り出す親の心境なのか。かわいい子には旅をさせよ的な思考を経へ

て、快

こころよ

送り出すことにしたようだった。

その際、「娘をよろしく頼む」だとか「うちの子を泣かせたら承知しないぞ」みたいなことを、

結構な人数の漁師、海あ

女ま

さん達に言われた。ミュウちゃん、愛されてるなあ。

そんなわけで、かなり長めに準備期間があったので、通算一ヶ月ほどもチャウラに滞在していた

わけだ。

……そしてその間、僕はただ時間を潰つ

していたわけではない。色々と、好きなように動かせても

らった。

この一ヶ月弱の間にあったことは、僕の知的好奇心を刺し

激げき

してしょうがなかったんだよ……ふっ

ふっふ……。

☆☆☆

『ウォルカ』への帰還をいよいよ翌日に控ひ

えたある日のこと。

「何か言った、姉さん?」

「いいえ、何も?」

何かぼそっと聞こえたような気がしたんだけど……気のせいかな?

結局その後、姉さんは世間話に花を咲かせた後、おそらくは王都へ帰っていった。

会談に応じる、という僕の返事を持って。

あーもう、一い

難なん

去ってまた一難、って感じだなあ。大仕事がひとつ終わったと思ったら、今度は

王様から呼び出しとは。何事もなく終わるといいんだけど……。

第二話 『邪じゃ

香こう

猫ねこ

』の船出

幽霊船騒動が終息してから、今日で二週間。

予定を大幅に延の

ばして、僕らはここ『チャウラ』に滞た

在ざい

していた。

騒動のせいで一時採集が中断された『蒼そ

海かい

鉱こう

石せき

』を取り尽くすため……ってのもあるけど、もう

ひとつ。

一応『お試し』ではあるけれど、新たに僕らのチームに加わることになったミュウちゃんの準備

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2425  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

倒し』てしまうナナさん……といった面メ

子ツ

がいたりする。

うんうん、順調だねみんな。僕発案の『否常識魔法』の訓練は。

こないだ、『蒼海鉱石』の品質チェックがてら様子を見に来たノエル姉さんが、この光景を前に

「ちょっと目ぇ離した隙す

に……ナナは何しとったんや!」って、かすれた声で言いつつ膝ひ

から崩れ

落ちてたことからも、それがわかる。

いや、もうね。この『否常識魔法』の特訓は王都の兄さん達から警戒されるレベルになっちゃっ

てんだから、開き直っていけるとこまでいっちゃおうと思って。

近いうち、ミュウちゃんも多分ここに加わります。そこんとこよろしく。

「……さよなら、普通の冒険者人生」

エルクが切なげにつぶやいた言葉は、朝のさわやかな空気に溶けて消えた。

「ゆくゆくは私もああなるのかと思うと……って、お兄さん? 

何してるんですか?」

遠い目で『特訓』を見ていたミュウちゃんだが、ふと、僕が持っているものに気付いたらしい。

隣のエルクが僕の手元を見て……納得した表情になる。僕が持っているものが何かと、僕が何を

考えているかを理解して。

先に言っておくと、ネタ帳

ちょう

という名の魔改造ノートではない。

持っているのはふたつ。

『特訓』の場には、数日前からミュウちゃんも参加していた。

といっても、ミュウちゃんは本人の希望通り、基き

礎そ

的……つまりまともな魔法の訓練を行ってお

り、僕の『否4

常識魔法』(エルク命名)の練習はしてない。

してないけど、隣

となり

で見てる。見学してる。

「……えーとですね」

「何?」

「エルクさんが、私をお兄さんの仲間にしたくないと考えた理由が、コレを見るとよーくわかりま

す……手遅れですけど」

「ね、言った通りだったでしょ……手遅れよ」

心なしか遠い目をしたミュウちゃんと、全身から『だから言ったのに……』的な空気を漂

ただよ

わせる

エルクとの会話である。

その視線の先には……。

高熱の砂を地面にぶつける魔法で人為的な『乾か

燥そう

』を引き起こし、水分を根こそぎ奪い取って草

木を枯か

らし、水み

溜た

まりを干ひ

上あ

がらせるザリー。

斬ざん

撃げき

と同時に、その切り口に幾い

重え

もの炎を薔ば

薇ら

のように燃え上がらせ、的ま

にした木で

偶く

人形を爆ば

破は

四し

散さん

させるシェリーさん。

超高圧で連射した水の弾丸で、女性のウエストほどもある丸太を蜂は

の巣にして、最終的に『撃ち

Page 14: re2 nk maken7 honmon...)ネタを語ると、ミュウちゃんは半開きの目を四分の三くらい まで開いて、驚いていた。そこでエルクが、ふと何かを思いついた表情となり、唐

2627  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

噛か

みつき痕あと

が死体や船内の損そん

壊かい

部分に認められたことや、尻しっ

尾ぽ

の生は

えたトカゲのように見えたと

いう証言もあるため、襲撃は魔物の類たぐい

によるものではないかと考えられる』

黒い大きなトカゲ。人間と見間違う二足歩行。

黄色または金色の刃物……おそらく爪つ

だ。

この時点で、僕の頭に浮かぶ魔物はひとつだけだ。

さらに最近、僕はこの予想を決定的に裏付ける経験をした。

あの晩……そう、アクィラ姉さんが訪た

ねてきて色々と話したとき、帰り際の姉さんがさりげなく、

しかしとんでもなく気になることを言ったのだ。

最近『ある魔物』が付ふ

近きん

で目撃された。そして、その魔物が一時期棲す

み処か

にしていたらしい洞ど

窟くつ

も見つかった、と。

それを聞いた僕は、翌日の早朝、姉さんから聞いた場所に行ってみた。

少し町から離れた、海岸沿いにある洞窟だ。

おそらく、海から潮風が吹き付けるからだろう。洞窟に残っていた『匂に

い』は、ひどく希き

薄はく

なも

のだった。

が、それは間違いなく、記憶にあるものと一致する。

……僕の中で生まれた『嫌な予感』は、確信となった。

ひとつは、この国『ネスティア王国』の地図。

王都『ネフリム』、冒険者ギルド本部がある大都市『ウォルカ』、今いる港町『チャウラ』、かつ

て行ったことがある『ミネット』や『トロン』、さらには『真し

紅く

の森』や『花の谷』などなど。

それらの地名がきっちり示された丁て

寧ねい

な地図だ。

もうひとつは、数日前にスウラさんからもらった、最近の船せ

舶ぱく

襲撃事件に関する軍の報告書。原

本じゃなく写しだけど。

エルクは僕が眉み

間けん

にしわを寄せている理由を、数日前、エルクも一緒に行った『検け

分ぶん

』の記憶と

結び付けて、きっちり理解した。

「……ミナト。やっぱ、気になる?」

「そりゃあね。もう多分この辺にいないってのはわかってるけど……それでも、さ」

ぱらぱらと資料をめくる僕は、その中の一い

節せつ

に再度目を通す。

スウラさんが『幽霊船は複数いる』と推測するきっかけになった、襲撃状況をまとめた部分。

僕が気になっているのは、魔物の襲撃が疑われる、とされた報告だ。

『乗組員は全滅していたが、捕ほ

虜りょ

と思おぼ

しき女性数名が生存しており、話を聞くことに成功。

襲撃は夜間だったためよく見えなかったが、襲撃者は大柄な黒い体で、黄色または金色の刃物の

ようなもので海賊達を切り刻きざ

んだ。

Page 15: re2 nk maken7 honmon...)ネタを語ると、ミュウちゃんは半開きの目を四分の三くらい まで開いて、驚いていた。そこでエルクが、ふと何かを思いついた表情となり、唐

2829  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

船を襲撃したのは、多分その滞在中だ。海を散歩中に遭そ

遇ぐう

して、興味本位で乗り込んだら攻撃さ

れたので、遠慮なく全滅させたのかもしれない。

乗組員がアンデッドにならなかったのも、幽霊船ではなく、こいつに殺や

られたからだろう。

そして、体が万全、もしくはそれに近い状態になるのを待って、この地を去った。

洞窟の匂いの度合いや、姉さんに聞いた目撃情報の分ぶ

布ぷ

からして、去ってからおそらく一ヶ月

ちょいってとこか。

ニアミスしてたのか……あの化け物と。おっそろしいな。

僕は地図片手に、あの化け物がどこに行ったのかと考えてたんだけど、行動パターンも知らない

のに、そんなことわかるわけもない。

正確な地理知識や方向感覚があるとは限らないし、そもそも、どこに現れたところで厄や

介かい

なのは

変わりない。

もしまた僕らの目の前に現れたなら、戦闘は避けられないだろう。

「出くわしたら厄介よね……ミナト、何とかできそう?」

「まあ……多分」

ノエル姉さんとの修業で、僕は強くなった。けど、油断なんてもんは絶対にできない。

忘れちゃだめだ。あの時のあいつは、まだ子供だったってことを。

何年も親の庇ひ

護ご

がなければ生きられない人間とは違う。野生動物や魔物の成長速度ってのは、想

「……やっぱ生きてたか、あのトカゲ」

『ディアボロス亜あ

種しゅ

』。

忘れもしない、『花の谷』で戦った推す

定てい

ランクAAAの怪か

物ぶつ

。僕が生まれ育った樹海を出て最初

に出会った、超のつくくらい『強敵』の魔物だ。

『ダークジョーカー』を発動した後は、一方的な戦いで勝利したとはいえ、そこまではほぼ互ご

角かく

だった。

大型の魔物も一撃で殺せる僕の拳

こぶし

を受けて、平然と立ち上がって反撃してくるわ。

剣が刺さ

さらない僕の体でも、直撃したらタダじゃすまない威力の攻撃を、平然と、しかも機械み

たいな精せ

密みつ

さで繰く

り出すわ。

フェイントなんてものを使い、さらには戦闘中に僕が使った格闘技能を即座に学習して体得する

知能があるわで……とにかくとんでもない敵だった。

何度かヒヤッとさせられたし、手を抜いて戦える魔物でなかったのは間違いない。

そんな怪物が、この近くで最近目撃されたのだ。

地図を見るに、あの『花の谷』を流れる川の河か

口こう

が、ここからかなり東にある。

おそらく僕との戦いに敗れたあのトカゲは、川に流され沿え

岸がん

部ぶ

までやって来て、動けるくらいに

傷が回復するのを待ち、あの洞窟に棲す

み着いたんだろう。

Page 16: re2 nk maken7 honmon...)ネタを語ると、ミュウちゃんは半開きの目を四分の三くらい まで開いて、驚いていた。そこでエルクが、ふと何かを思いついた表情となり、唐

3031  魔 拳 の デ イ ド リ ー マ ー 7

かしたんじゃね?』と。

……結論から言おう、当たりである。

『召喚術』。

繰り返しになるが、今現在、僕が最も興味をそそられている不思議魔法である。

事前に『ネクロノミコン』で予習したところ、その概が

要よう

はこんな感じ。

契約によって魔物や精霊を使役し、戦わせたり移動用に使ったりする、行使そのものに特殊な才

能が必要な、極めて特殊かつレアな魔法。

その『契約』には、二通りの方法がある。

まずひとつは、瀕ひ

死し

の魔物に魔力を与えたり、魔力で仮の魂

たましい

を作るなどして死んだばかりの魔

物を蘇そ

生せい

させ、自分の僕

しもべ

として使役する絶対服ふ

従じゅう

の方法。

知能の低い魔物を使役するときや、単に戦闘用の僕

しもべ

と契約するときによく用いられるほか、偶然

死にかけの魔物を見つけたときにも使える。

欠点としては、魔物のポテンシャルにもよるけども、高い知能を保た

つことが難しく、複雑な作戦

を理解できない。

そしてもうひとつは、魔物や精霊に了承を得た上で協力関係を結ぶ、友好的な契約。

ある程度の知性を持つ魔物にしか使えないものの、戦闘用にせよそれ以外の場合にせよ、高い知

像を超えて凄す

まじいものだ。

「っていうかあの魔物、前回戦ったときすでに推定AAAだったんでしょ? 

どっちみちミナト以

外は相手できないのよね……」

「まあ、遭遇したら僕が戦うつもりだけどさ」

できれば、出会いたくないけどもね……。

その後しばらく『訓練』を続けた後、少し休憩を挟は

んだとき、ふとザリーが尋ねてきた。

「そういえばさ、ミナト君。昨日の夜、シェーンちゃんとミュウちゃんと一緒に出かけたよね? 

あれ、どこ行ってたの?」

その会話が聞こえたのか、汗を拭ふ

いていた他のメンバーも興味深そうに集まってくる。特に、シ

ェリーさん。

「え、何々? 

もしかして逢あ

い引び

き? 

私達というものがいながら」

いつものようにエルクがため息をついた。

「あんたの思考はすぐそれか……で、どこ行ってたの?」

「んー、ちょっと海まで……ミュウちゃんを甘やか

4

4

4

しに4

4

「は?」

その瞬間、眉間にしわを寄せたエルクは、おそらく悟ったのだろう。『あ、コイツ早速何かやら

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