pwc|ifrs 実務ガイド 原価モデルの固定資産会計...(ias第16号45項)) •...

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目次 イントロダクション 2 コンポーネントアプローチとは? 3 1. 建物の構成部分の識別(レベル 1) 5 2. 建物の構成部分に対する当初認識時の評価(レベル 1) 8 3. 建物の構成部分の減価償却(レベル 2) 10 4. 建物の構成部分の取替え(レベル 2) 12 5. 開示 13 IFRS 実務ガイド 原価モデルの固定資産会計

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  • 目次

    イントロダクション 2

    コンポーネントアプローチとは? 3

    1. 建物の構成部分の識別(レベル 1) 5

    2. 建物の構成部分に対する当初認識時の評価(レベル 1) 8

    3. 建物の構成部分の減価償却(レベル 2) 10

    4. 建物の構成部分の取替え(レベル 2) 12

    5. 開示 13

    IFRS 実務ガイド

    原価モデルの固定資産会計

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    イントロダクション

    IAS第16号「有形固定資産」は、取得原価で評価される有形固定資産をどのように会計処理するかについて規

    定しています。IAS第16号は、1年以上の期間にわたり使用されることが予測され、商品やサービスの生産や提供、

    第三者への賃貸、または管理上の目的のために保有する有形固定資産に対して適用されます。加えて、企業が

    IAS第40号「投資不動産」に準拠して投資不動産の測定について原価モデルを選択した場合1にも、IAS第16号の

    規定が適用されます。

    本資料は、有形固定資産または取得原価で評価することを選択した投資不動産に対する、IAS第16号に準拠し

    たコンポーネントアプローチ(すなわち、有形固定資産項目の重要な構成部分についての会計処理)の適用につ

    いて取り上げています。

    本資料は、IAS第16号の適用において生じる可能性のあるすべての論点をカバーするものではなく、また、特定

    の法令の要求を考慮していません。IFRSに基づいて適正に財務諸表を表示するためには、追加的な特定の情報

    が必要になる場合もあります。そのような情報については、私どもが別途出版している「IFRS Manual of accounting

    2010」を適宜参照することをお勧めします。

    1 投資不動産については公正価値モデルまたは原価モデルの選択適用となります。(IAS 第 40 号)

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    コンポーネントアプローチとは?

    多くの場合、有形固定資産は、異なる耐用年数や消費パターンを持っているさまざまな部分で構成されていま

    す。これらの構成部分は資産の耐用年数期間中に個別に取替えが行われます。

    そのため、

    • 取得した有形固定資産の取得原価全体に対して重要な構成部分については、個別に減価償却が行われ

    ます。(ただし、1つの重要な構成部分の耐用年数および減価償却方法がその他の構成部分のそれと同じ

    である場合、減価償却計算においては、グループ化することができます。(IAS第16号45項))

    • また、構成部分の取替えに要した支出は、認識原則(IAS第16号7項)2 に従い資産として認識され、他方、

    取替えられた構成部分の帳簿価額は認識の中止3が行われます。

    コンポーネントアプローチでは、有形固定資産の日常的な保守費用は帳簿価額に含めて資産として認識される

    ことはなく、これらは発生した時点で損益計算書に計上されます。

    コンポーネントアプローチの目的の1つは、資産の将来的な経済的便益が企業により消費されていくパターンを

    より正確に反映させることです。例えば、全体の項目を加重平均した耐用年数を使用するといった概算による手法

    は、資産の重要な構成部分に対する企業のさまざまな意図を忠実に反映する結果にはならないとIASBは考えて

    います(IAS第16号BC26項)。

    上述の方法により、より適切な減価償却計算を行うことができます。また、新しい構成部分を認識するために、取

    替えられた構成部分の帳簿価額の認識の中止を行うことも可能になります。

    基準では、異なる耐用年数や消費パターンを持っている有形固定資産の構成部分が重要な場合にのみ、個別

    に減価償却を行うことを要求しています。しかし、構成部分の取替え(すなわち、取替えられた構成部分にかかる

    事後的な支出)に関する原則は重要なものだけに限らずすべての識別された構成部分に適用されます。

    最初のステップとして、認識および認識の中止の規定が適用できる程度に、各項目をできるだけ構成部分に分

    けます。識別された構成部分の中で同じ耐用年数のものが存在する場合、それらはグループ化することができま

    す。これらのグループは減価償却を行う上でのコンポーネントを構成することになります。重要ではない構成部分

    は、当該資産の残存部分として、一括して減価償却を行うことができます。

    2 当該項目に関する将来の経済的便益が企業に流入する可能性が高く、かつ、当該項目の取得原価が信頼性をもって測定できる場合に資産として認識するとされています。

    3 有形固定資産項目の帳簿価格の認識は、処分時又はその使用又は処分から将来における経済的便益が何ら期待されないときには、中止しなければならないとされています。(IAS 第 16 号 67 項)

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    以下の図は、コンポーネントアプローチで要求される各ステップを説明しています。

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    1. 建物の構成部分の識別(レベル1)

    コンポーネントアプローチを適用するためには、資産のさまざまな構成部分を識別する必要があります。こ

    れには、2つの理由があり、減価償却と構成部分の取替えのためです。

    個別に減価償却する必要があるのは重要な構成部分だけですが、構成部分の取替えが行われた場合、取

    替えられた構成部分が個別に減価償却されていたかどうかにかかわらず、取替えられた構成部分の帳簿価

    額の認識を中止し、新しい構成部分の取得原価が資産として認識されます。

    重要な構成部分を識別することは、コンポーネントアプローチを適用する上で重要なステップです。

    1.1 有形固定資産の項目とは?

    IAS第16号では、認識を行う際の測定単位、すなわち、どのような項目が有形固定資産項目を構成するか

    を定めていません。そのため、企業特有の状況を考慮し認識に関する基準を適用するには判断が要求されま

    す。金額的に重要性のない項目は集計し、その総額に対して認識に関する基準を適用することが適切な場

    合もあります(IAS第16号9項)4。

    1.2 取替えの会計処理を行う目的においては、当該構成部分の取得原価の重要性は、何が建物の構成部分

    となるかを決定する際に重要な事項となりますか?

    いいえ。取得原価全体に占める当該構成部分の取得原価が重要かどうかは、認識および認識の中止(構

    成部分の取替え)の目的においては、どの項目が建物の構成部分となるかを決定する際の基準とはなりませ

    ん。しかし、構成部分の取得原価の重要性は、個別に減価償却しなければならない構成部分を識別する際に

    は検討すべき要素です。

    1.3 減価償却において建物の構成部分が重要となる場合とは?

    減価償却における建物の各構成部分の重要性の判断は、当初認識時における当該建物の取得原価合計

    に対する各構成部分の取得原価に基づき行われます(IAS第16号43項)5。IAS第16号は、どのような時に構成

    部分が重要となるかについて、これ以上の規定はありません。

    通常、企業は、会計マニュアルにどのような時に構成部分が重要となるかについてのガイダンスを記載して

    います。そのようなガイダンスは、資産の種類や、取替えの頻度等の企業特有の状況を反映したものであるべ

    きです。

    4 鋳型や工具および金型のように、個々には重要ではない項目を集計し、その総額について適用することが適切な場合があるとされています。

    5 有形固定資産項目の全体の取得原価との関連で、重要となる取得原価をもつ資産項目の構成部分については個別に原価償却しなければならないとされています。

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    1.4 建物を2つの構成部分に区分するだけで十分ですか?(例えば内装と外装等)

    建物の種類にもよりますが、すべての種類の建物および地域に適用可能な一般的なルールとしては、内装

    と外装に区分するだけでは、十分と言えません。

    経営者は、建物の構成部分ごとに耐用年数期間における取替えの必要性を考慮し、内装と外装のみへ区

    分することが適切に建物の構成部分を反映しているかを慎重に評価しなければなりません。例えば、壁、床、

    天井は、仕切壁、暖房システムと比べてより長い期間使用され、取替えの時期が後になるかもしれません。

    1.5 識別することが必要となる建物の構成部分の最低数は定められていますか?

    いいえ。識別することが必要となる建物の構成部分の最低数は、定められていません。構成部分の数は、

    建物の種類や複雑さによって異なるものです。

    1.6 構成部分はどのように決定されますか?

    IFRSの基準には、どのように建物の構成部分を決定するかについて記載されていません。その資産特有の

    状況を考慮する必要があります。

    実務では、建物の構成部分の決定において、まず、建築工事契約書、竣工時の調査報告書および請求書

    (取得原価を構成する付随費用部分)を分析します。

    これらの書類で十分な情報を得られない場合は、建築工事カタログなどの他の(一般的な)情報も考慮す

    べきです。建築工事カタログが利用可能であるためには、その企業が事業を行っている経済環境において一

    般的に使用されている規格であることが必要です。実務上、そのような規格は地理的な特性や建物の種類を

    反映したものであることが想定されています。

    建物の構成部分を決定するために、専門家の意見(例えば、建築の専門家)が必要と判断される場合もあ

    りえます。

    下記の例示は、建物の構成部分を認識する際に一般的に使用される項目です。

    例1

    • Exterior walls(外壁)

    • Interior walls(内壁)

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    • Windows(窓)

    • Ceiling(天井)

    • Roof(屋根)

    • Staircase(階段)

    • Elevators(エレベーター)

    • Air condition(エアコン)

    • Heating system(暖房システム)

    • Water system(水道システム)

    • Electrical system(電気系統)

    • Major inspections(大規模検査)

    例2

    • Structural design(構造設計)

    • Membrane(表面加工)

    • Exterior doors and windows(外部の窓およびドア)

    • Interior walls, doors, windows(内部の壁、ドア、窓)

    • Heating and other technical systems(暖房やその他の技術系システム)

    • Sanitary facilities(清掃施設)

    • Major inspections(大規模検査)

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    1.7 建物所有者の保有目的は、建物の構成部分を決定する際に考慮されますか?(例えば、構成部分の取替

    えを一切行わず5年後に売却する予定である場合)

    はい。全ての重要な構成部分の耐用年数、減価償却方法が同じ場合には、適切であるといえます。

    ただし、上記のシナリオでも、建物の残存価額については、当該建物のさまざまな各構成部分の品質や状

    態が考慮されるべきです。これらは、残存価額に影響を与え、ひいては、減価償却にも影響を与えるからです。

    1.8 取得した建物の築年数は重要な構成部分を識別する際に考慮されますか?

    はい。取得した建物が(そのままでは)使用できない状態にあり、企業が主として建物の外壁6(Q&A 1.6 事

    例1により区分していると仮定します)を取得した場合などに考慮されます。このような場合、当初認識時にお

    いて外壁だけが建物の重要な構成部分となる可能性があります。

    1.9 時の経過によって識別された構成部分の数が変動することがありますか?

    いいえ。ある建物に関連するすべての構成部分は、当初認識時に識別されます。識別された構成部分の

    数は、建物が使用可能になった後に変更すべきではありません。

    1.10 土地は建物の一部ですか?

    いいえ。土地と建物は個別に識別可能な資産であり、一括して取得されたとしても個別に会計処理される

    べきものです。土地はいくつかの例外(IAS第16号58項)を除き、耐用年数がないものとされています(IAS第16

    号58項)。

    6 ここでは建物のいわゆる構造体部分を指していると考えられます。

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    2. 建物の構成部分に対する当初認識時の評価(レベル1)

    IAS第16号は、各項目をどのように個別に識別し、どのような範囲で(個別に識別せずに)合算して認識する

    ことができるかを検討しています。IAS第16号は、測定を行うべき単位について規定していませんが、その企業

    特有の状況に応じて認識の基準を適用する際に判断が必要であるとしています(IAS第16号9項)7。建物につ

    いては、当初認識時の測定単位として、建物全体が1つの単位となります。

    次に、IAS第16号第44項は、建物として当初認識した金額を重要な構成部分に配分し、構成部分ごとに個

    別に減価償却を行うことを要求しています。

    しかしながら、構成部分の取替えにおいては、IAS第16号は、構成部分が個別に減価償却されていない場

    合であっても、取替えられた構成部分の認識の中止を要求しています。構成部分が取替えられた場合、取替

    えられた構成部分の残存簿価の認識を中止し、新しい構成部分に対して支出されたコストが取得原価として

    認識されます。また、この場合、取替えられた構成部分の帳簿価額は、取替えに要した費用を目安として見積

    もることができます。

    2.1 企業は建物として当初認識した金額を重要な各構成部分に配分します(IAS第16号44項)。建物完成後の

    当初認識時には、構成部分の取得原価はどのように評価するのでしょうか?

    IAS第16号では取得原価の配分を行うためにどのような方法を使用すべきかについて言及していません。

    一般的には、それぞれの構成部分対して直接的に費用を配分することが必要とされます。このような方法

    は、自家建設で、十分な内部建設原価計算を行っている場合や、建設業者から必要な情報が構成部分ごと

    に提供される場合に限り可能です。

    そのような情報が得られない場合、経営者は別の情報を使用し、それぞれの構成部分に配分すべき金額

    を決定しなければなりません。そのような情報(例えば、建築工事カタログ)は、市場で一般的に入手可能であ

    り、対象の不動産の種類に対する現在の市場慣行を反映している場合にのみ使用すべきと考えられます。

    また、構成部分の取得原価を決定するために専門家の意見(例えば、建築工事の専門家)を求めることが

    有益な場合もあります。

    7 鋳型や工具および金型のように、個々には重要ではない項目を集計し、その総額について適用することが適切な場合があるとされています。

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    2.2 建物を資産取引によって取得した場合、その建物のさまざまな構成部分の取得原価は認識時にどのように

    して決定されますか?

    通常、建物には全体として1つの購入価格があります。この価格と直接付随費用は、建物のそれぞれの構

    成部分に配分されます。この配分は、建物全体の取得原価に対するそれぞれの構成部分の相対的な建築コ

    ストの割合に比例して行われます。

    取得した建物が新築である場合、経営者は建築業者からの情報や一般的に入手できる情報(例えば、建

    築工事カタログ、企業における類似する不動産建設の経験)を利用することができます。

    すでに存在している建物の場合、建物全体の取得原価に対する個別の構成部分の取得原価の割合は、

    建物の耐用年数の期間中で変化する可能性があり、取得原価を構成部分に配分する割合には、それぞれの

    構成部分の使用状況を反映すべきです。さらに、構成部分の取得原価は、過去の取替えやメンテナンスの状

    態に依存します。このような見積りは、可能な限り入手できる情報に基づいて行うべきと考えられます。さまざま

    な種類の不動産に関するそのような情報は、市場慣行や建築工事カタログで提供されている場合もあります

    が、企業は(その企業特有の)それぞれの構成部分の取替計画も考慮する必要があります。もし、そのような

    情報が得られない場合、類似する不動産に関する経験や慣行を利用することになると考えられます。

    2.3 企業結合により建物が取得された場合、建物のそれぞれの構成部分の取得原価は認識時にどのようにし

    て決定されますか?

    購入価格が識別可能な資産負債に配分(IFRS第3号14項)された後、建物の公正価値は、上述した方法

    (Q&A2.2参照)のうちの1つにより、当該建物のさまざまな重要な構成部分に配分されます。

    2.4 企業が市場価値のない建物を購入した場合、取得原価は建物の構成部分に配分されますか?(例えば、

    廃屋を購入した場合)

    いいえ。市場価値のない建物は、認識可能な資産ではないため、取得原価は建物(の構成部分)には配分

    されません。この場合、企業は建物ではなく土地に対して購入価格を支払っていると考えられます。土地と建

    物は、一括して取得した場合でも、区分して会計処理されます(IAS第16号58項)。しかし、土地の取得原価に

    現場の解体や撤去、整地費用が含まれている場合には、土地の取得原価に含まれるその部分はその費用に

    よりもたらされる便益の期間にわたり減価償却されます(IAS第16号59項)。

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    2.5 企業が市場価値のある建物について、解体、撤去を行うことを意図して購入した場合、取得原価は建物に

    配分されますか?

    はい。企業が取得した建物を使用する意図がなくても、その建物は、支払われた市場価格を反映した取得

    原価で当初認識されます。

    建物が使用されない、または、使用されたとしても短期間で、解体、撤去される場合、企業は取得原価を建

    物の構成部分に配分する必要がないこともあります(Q&A 1.7参照)。このような取り扱いは、取得した建物の

    重要な構成部分が新しい建物に使用される場合、適切ではないことも考えられます。

    取得原価を建物のさまざまな構成部分へ配分することが必要な場合、Q&A 2.2で説明されているように配

    分されることになります。

    2.6 IFRS初度適用において、“コンポーネントアプローチ”を適用し、IFRS移行日における帳簿価額を決定する

    ために、免除規定である “fair value as deemed cost” (公正価値をみなし取得原価とする)を適用すること

    ができますか?

    はい。コンポーネントアプローチはIFRS移行日から将来に向かって適用することができます。企業は、免除

    規定である “fair value as deemed cost” を適用することにより、移行日において、建物を公正価値で修正再

    表示することができます。そして、公正価値は、さまざまな建物の重要な構成部分に配分されます。この配分

    は、建物全体の取得原価に対するそれぞれの構成部分の相対的な建築コストの割合に基づくべきであり、完

    成してからの構成部分の使用状況も考慮する必要があります。

    2.7 経営者は、個別に減価償却されない建物の構成部分について、それらの取得原価(取得後の資本的支出

    を含む)を記録する必要がありますか?

    いいえ。ただし、必ずしも要求されていませんが、記録するのが望ましいと考えられます。IAS第16号第70項

    では、個別に減価償却されているかどうかにかかわらず、企業は取替えられた構成部分の帳簿価額について

    認識を中止することを求めています。取替えられた構成部分について正しく認識の中止を行うために、取替え

    られた構成部分の帳簿価額を決定する必要がある場合があります。そのためには、企業はそれぞれの構成部

    分の取得原価についてその耐用年数にわたり減価償却を行うことになります。

    取得原価に基づき、取替えられた構成部分の帳簿価額を決定することができない場合には、取替えに要し

    た費用は、取得または建築された時点における取替えられた構成部分の取得原価の目安となるかもしれませ

    ん(IAS第16号70項)。

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    3. 建物の構成部分の減価償却(レベル2)

    IAS第16号では、建物全体の取得原価に比べて重要な構成部分について、個別に減価償却することを要

    求しています。しかし、建物の重要な構成部分が、別の建物の重要な構成部分と同じ耐用年数、減価償却方

    法を有している場合もあります。このような建物の構成部分については、一括して減価償却することが可能で

    す。また、個別に重要ではない構成部分は、残余部分として一括して減価償却が行うことができます。

    構成部分の取得原価は、耐用年数にわたり規則的に配分されます。資産の耐用年数は、当該資産のその

    企業にとっての期待効用と定義されます。その企業の資産管理の方針として、特定の期間が経過した時点、

    または、その資産に含まれる将来の経済的便益の(全てではなく)特定の割合が費消された時点に、資産を

    処分することとされている場合があります。したがって、資産の耐用年数はその経済的耐用年数よりも短い場

    合があります。このように、資産の耐用年数の見積りは、類似する資産におけるその企業の経験に基づいた判

    断が必要とされます。

    減価償却は資産が利用可能な状態となったときから開始されます。すなわち、経営者の意図した方法で稼

    働可能となるのに必要な場所で使用可能な状態となった時点から開始されます。

    3.1 経営者は報告日ごとに(構成部分の耐用年数だけではなく)建物全体8の耐用年数を見積もることが要求さ

    れますか?

    はい。IAS第16号第51項では、少なくとも事業年度末ごとの資産の耐用年数(および残存価額)の見積りが

    要求されています。さらに追加的に、企業は中間報告日9ごとにも資産の耐用年数を再評価することを選択す

    ることもできます。

    上記のとおり、企業は建物の各構成部分の耐用年数の見積もりに加え、建物全体の耐用年数の見積もりが

    要求されています。企業は経理規程等に、どのように建物全体の耐用年数を見積もるか、いつそのような見積

    もりを行うべきかについてのガイダンスを記載すべきと考えられます。

    3.2 建物の耐用年数は、建物の構成部分の平均耐用年数を基に見積もることができますか?

    いいえ。建物全体の耐用年数は、その企業への期待効用だけを考慮し、構成部分の耐用年数の見積もり

    とは独立して、見積もることが要求されます。建物の耐用年数の見積りは、類似する資産でのその企業の経験

    やその建物の使用目的に基づき判断されます(IAS第16号57項)。構成部分の平均耐用年数だけでは、建物

    全体の耐用年数を見積もるための十分な根拠とはなりません。

    8 躯体および付随する設備等を全ての資産を含む一群の資産を、「建物全体」としていると考えられます。9 Interim period, 中間期末および四半期末も含むと考えられます。

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    3.3 建物全体の耐用年数は、建物の(最も重要な)構成部分の経済的耐用年数により見積もることができます

    か?

    いいえ。建物の耐用年数はその企業にとっての建物の期待効用に基づき決定され、それは、建物の経済

    的耐用年数より短くなることもあります10、11。ただし、建物全体の耐用年数を見積もる際、重要な構成部分の耐

    用年数または経済的耐用年数から決定することが必要となることも考えられます。経営者は、建物の耐用年数

    および経済的耐用年数が、例えば、建物の構造部分(壁、屋根等)の耐用年数よりも長くなることがあり得るか

    どうかについて慎重に評価すべきと考えられます。

    10 Useful life は「耐用年数」、Economic life は「経済的耐用年数」として区別しています。11 IAS 第 16 号第 57 項

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    3.4 建物の構成部分の耐用年数が建物全体の耐用年数より長くなる可能性はありますか?(例えば、建物の耐

    用年数は25年、屋根の耐用年数は30年)

    原則としてそのような状況は考えられません。しかし、企業は構成部分が他の建物に転用され、さらに使用

    される可能性を注意深く検討すべきです。このような場合、構成部分の耐用年数が建物全体の耐用年数より

    長くなる可能性があります。

    注: 耐用年数と経済的耐用年数は異なります12。

    3.5 減価償却費を計算する際、建物の重要な構成部分をグループ化することができますか?

    はい。重要な構成部分は、耐用年数および減価償却方法が同じ場合には、グループ化し一括して減価償

    却を行うことができます(IAS第16号45項)。

    重要でない構成部分は、耐用年数、減価償却方法が異なっていてもグループ化することができます。残余

    部分は、このような個別には重要でない取得原価の構成部分から構成されます。

    3.6 重要でない構成部分を個別に減価償却することは必要ですか?

    いいえ。企業は建物の重要な構成部分とそれ以外の部分を別々に減価償却する必要があります。重要な

    構成部分以外の部分は、個別には重要性がない構成部分で構成されています。企業はこのような構成部分

    を一つの減価償却単位としてグループ化することができます。これを残余部分(remainder)と呼んでいます。

    しかし、IAS第16号第70項では、取替えられた構成部分が個別に減価償却を行っているかに関わらず、重

    要でない構成部分であっても、取替えられた構成部分の帳簿価額について認識を中止することを要求してい

    ます。

    注: 取替えられた構成部分が個別に減価償却を行っているかに関わらず、ある構成部分の取替費用に

    は、取替えられた構成部分の帳簿価額が含まれることになります。そのため、当初の配分時の会計記

    録を保存することが有益である場合があります。

    12 Useful life は「耐用年数」、Economic life は「経済的耐用年数」として区別しています。

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    3.7 (重要ではない構成部分で構成される)残余部分について、建物全体の耐用年数を使用して減価償却を行

    うことができますか?

    いいえ。残余部分は、個別に重要ではない建物の構成部分で構成されますが、建物全体の耐用年数とは

    著しく異なる耐用年数を有する可能性があります。

    残余部分に適用される耐用年数、使用される減価償却方法は、その構成部分の消費パターンおよび耐用

    年数を忠実に表すように決定される必要があります(IAS第16号46項)。したがって、残余部分の耐用年数は

    建物全体の耐用年数ではなく、残余部分の平均耐用年数とすべきと考えられます。

    3.8 重要でない構成部分の耐用年数が著しく異なる場合、1つの残余部分は十分といえますか?

    当該論点について基準では言及されていません。残余部分に含まれている構成部分の耐用年数が著しく

    異なる場合(例えば、耐用年数が5年の構成部分と耐用年数が20年の構成部分)、複数の残余部分を設定す

    ることが適切(より実務的)であると思われます。このような場合、減価償却率が残余部分の構成部分の平均耐

    用年数に基づいて計算されている1つの残余部分では、構成部分の消費パターンや耐用年数を忠実に表さ

    ない可能性があります(IAS第16号46項)。

    4. 建物の構成部分の取替え(レベル2)

    資産の構成部分によっては定期的な取替えが必要となる場合があります。企業は、費用が発生し、認識の

    要件を満たしたときに、取替え部分にかかる支出を資産の帳簿価額として計上します。構成部分の認識は、

    資産全体が(たとえば、耐用年数が延長されたなど)改良されたかどうかという点に依存して決定されるもので

    はありません。

    取替えられた構成部分の帳簿価額は、グループ化されていたか、個別に減価償却されていたかにかかわ

    らず、認識を中止します。そのため、認識の中止の目的においては、構成部分は、それらが取替えられた場

    合に個別に認識の中止を行わなければならない資産の構成要素として定義されます。

    4.1 構成部分の取替えは全て認識する必要がありますか?

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    はい。認識の要件が満たされた場合、すべての構成部分の取替えを認識し、取替えられた構成部分の認

    識を中止することが強制されます13。

    4.2 例えば(複数の窓によって構成される)“窓”という構成部分に含まれていた重要な割合の窓が計画外で取

    替えられた場合、修繕費として取り扱うべきでしょうか?

    いいえ。取替えられた窓の帳簿価額は認識の中止を行い、新しい窓の取得原価が資産計上されます。後

    に取替えられる残りの部分については、別の構成部分として認識し、残余部分に含まれる他の重要ではない

    構成部分と一括して減価償却されます。

    しかしながら、どのような場合に取替えが重要となるかについては明確な基準はないため、経営者は専門

    家としての判断が求められます。

    13 IFRS は重要な項目に対してのみ適用されるべきです。

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    5. 開示

    5.1 経営者は建物の会計処理について、原価モデルを適用していることを開示すべきでしょうか?

    はい。経営者は有形固定資産(IAS第16号73項)および投資不動産(IAS第40号75項)の種類ごとに減価償

    却累計額控除前帳簿価額を決定するために用いられた測定基礎について開示しなければなりません。しかし、

    コンポーネントアプローチがどのように適用され、構成部分がどのように決定されたかという詳細な記述につい

    て開示する必要はありません。

    5.2 経営者は各構成部分ごとに耐用年数や減価償却率を開示すべきでしょうか?

    いいえ。IAS第16号第73項(b)および(c)で要求している開示は、有形固定資産の種類ごと(例えば、土地、

    建物)に要求されています。実務上、最高値および最低値を表示し、範囲として開示されています。有形固定

    資産の種類ごとに使用されている耐用年数や減価償却率の平均値を開示することでは十分とは言えません。

    5.3 経営者は、貸借対照表や注記において、ある構成部分を他の構成部分と区別して開示することができます

    か(例えば、設備を不動産の構成部分としてではなくそれとして開示するなど)?

    いいえ。経営者は、開示目的では、有形固定資産一体として表示すべきです。コンポーネントアプローチは、

    減価償却および認識の中止の2つの目的においてのみ、建物を構成部分に区分することを要求しています。

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