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615. 782. 54: 612. 89

Pentothal・Sodium静 脈 麻 酔 時 間 と 自 律 神 経

機 能 に 関 す る 実 験 的 研 究

第  3  編

自律 神経 剤 に よ るChE活 性 値 お よび循 環 動態 の変 動 がPentothal・

Sodium体 内分 布 に及 ぼす 影 響 に関 す る実験 的 研 究

(本論文の要旨は第4お よび第5回 日本麻酔学会において発表した)

岡山大学医学部第1(陣 内)外 科教室(指 導:陣 内教授)

医 学 士  松 田 義 朗

〔昭和34年1月8日 受稿〕

第1章  緒言 な らび に文 献

前 編 に おい て,添 加せ る それ ぞ れの 自律 神経 剤 の

薬 理作 用 がPentothalの 生 体 内 に お け る分布 に影

響 を与 え,脳 組織 濃 度 もその 一 部 として 影響 を受 け,

これ が麻 酔 時 間の 変 動 となつ て結 果 す る とのべ たが,

逆 に かか る薬 理作 用 が い かな る もので あ るかを 知 る

た め には,そ れ らPentothal体 内 分 布 の 変動 の 傾

向 を 系統 的 に分類 し検 討す る こ とが必 要 で あ る.

か か る 趣 旨 に そ つ て, Ephedrin, Adrenalin,

Noradrenalin, Methobromin添 加 に よつ て結 果 す

るPentothal体 内分 布 の 変 化 を 観 察 す る と,こ れ

ら薬 剤共 通 の 薬 理 作 用 で あ る循 環 動態 に及 ぼす 影 響

が 主役 を 演 じて い るよ うに思 わ れ る.と い うの は,

昇圧 剤Ephedrin, Adrenalin, Noradrenalin添 加

に よれば3者 に 共 通 し て,血 液 内Pentothal濃 度

は減 少 し,脳 外 套,腎 臓,筋 肉,脂 肪 な ど 各 組 織

の 濃 度 は 一 様 に 増 加 す る が,こ れ に 反 し降 圧 剤

Methobrominの 添加 で は,血 液 で は増 加 し,脳,

腎 臓,筋 肉,脂 肪 で は一 様 に 減少 して 昇圧 剤 の 場 合

とま つ た く対 称 的 とな るか らで あ る.す な わ ち,こ

れ ら昇圧 剤 の もつ血 圧 上 昇,心 搏 出量 増大 作 用 は,

血 液 中 に与 え られ たPentothalと 各 組 織 との接 触

面 や 透 過 率 に 影 響 し て,血 液 内 か ら各 組 織へ の

Pentothalの 移行 を 高 め,こ れ に反 し降 圧 剤Methob

rominは 血 圧 を降 下 させ,血 液 を 末 梢 血 管 内 に停 滞

させ る結 果,血 液 中 に 与 え られ たPentothalは 各

組 織 に容 易 に移 行 しな い と考 え られ るの で あ る.事

実,か か る 昇 圧 剤 に よるPentothal体 内分 布 の 傾

向 は,血 圧 上昇 度 お よび 持 続 性 の 顕 著 なEphedrin

の 場合 に最 も著 明 に あ らわ れ,そ の 投与 に よつて 血

圧 の 急 上昇 のの ち に 下 降 を きた すAdrenalinお よ

び その 上 昇 度 の著 明 で な いNoradrenalin添 加 の 場

合 には それ ほ ど明 らか で はな か つ た.

Adrenalinが 麻 酔 延 長 作 用を もつ こと は,す で

にMilosevic1)に よつ て 認 め られ て い る.ま た,

Zeigan2)やWeber3), Ivy4)ら はAdrenalin自 体

が 麻酔 作用 を もつ ことを 報告 し, Leimdorfer5) 6)は

犬 の 大 槽 内 に 多 量のAdrenalinを 注 入 して 睡 眠 せ

しめ え た と発 表 した.か くの如 きAdrenalinの 作

用 に注 目 してLamsonら7)-10)はglucoseや その 中

間 代 謝 産 物(焦 性 ブ ドウ酸 な ど)の 麻酔 時間 延 長 作

用を,こ れ ら薬 剤13) 14) 15)の 副 腎 刺 戟 に よるAdre-

nalin放 出 に帰 せ しめ たが,同 じ く麻 酔 時間 延 長 作

用を 有 す る とは い え, Pentothal体 内 分布 よ り観 察

す る とAdrenalinの 場 合 と焦 性 ブ ドウ酸 の 場 合 と

で は まつ た くその 状 態 を異 にす るの で,か か る説 の

誤 つ て い るの は 明 らかで あ ろ う.

つ ぎ にAch, Pilocarpin, Prostigmin, Physo

atigmin, DFPな どの 添 加 に よつて 結 果 す るPento

thal体 内 分布 の 変 化 を考 察 す る と,こ れ ら薬 物 共

有 の薬 理 作 用 で あ るCholinesterase活 性 値(ChE

活 性値 と略 記 す)に 対 す る態度48)が 主 た る役 割 を

演 じて い る よ うに思 われ る る.

Hollmd16) 17)は ナ トリウ ム お よび カ リウ ム塩 溶 液

中 に お け る 赤 血 球 の懸 濁 液 にAchを 加 え る と,

Achが 新陳 代 謝 せ られ て い る 限 り,赤 血 球 の 鞏 固 性

が 維 持 され る こ と,す な わ ちAchを 分 解す る酵 素

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ChEが 赤 血球 のNa, Kに 対 す る選 択 的 透 過 性 の

維 持 に 関係 す る こ と を 報 告 した.ま たAugastin

son18) 19)はChEはAchと 共 に 細 胞 膜近 辺 に存 在

し,こ の 酵 素 がAchを 分 解 す る と き,自 由 エ ネル

ギ ーの 多 量 の 損 失が お こ るが,家 兎 の 赤血 球 はKの

濃 度 が 高 く,Naの 濃 度 が 低 い の で,こ の エ ネル ギ

ー は家 兎 の場 合 はNaが 血 球 中 に 入 る こ とを防 ぎ,

ま た急 速 に外 に だす こと に使 われ て い る との べ た.

従 つてAchが 新 陳代 謝 され て い る限 り細胞 の 透 過

性 は 保 持 さ れ,そ の酵 素 がPhysostigminな ど に

よ り阻止 され る と きは細 胞 は 選 択 的透 過 性 を 失つ て

陽 イ オ ンは周 囲 と平 衡を 樹 立 す るに 必要 な 方 向 に侵

入 す るわ けで あ る20)~25).さ らにGreig26)~30)はChE

活 性 を阻 止 す るPhysostigminが 普通 の 粘 膜 面 に

は 作 用 し な い局 麻 剤Procaineを して 兎の 角膜 に麻

酔 作 用 を き た さ し め34)~39),し か も そ れ は粘 膜 の

Procaineに 対 す る透 過 性の 増 加 に 帰 せ られ る とい

う こと を 報 告 し た.ま た,表 面 麻酔 作用 を もた ぬ

Procaineは 赤 血球 のChE活 性値 に対 し4×10.4~

1.6×10-3Mの 濃 度 で 阻 止 効 果 を もた ぬが,表 面 作

用を もつNupercanineな ど は同 濃 度 でChEを 強

力 に阻 止 す る とい う事 実 もあ る33).

さ らに, BarbonとAbel40)は フ ク シ ン酸 を蛙 の

リンパ 嚢 に注 射 し,か な りの 時 間 が経 過 したの ち に

痙攣 が 起 るの を 観 察 した.こ れ は 染色 色 素 が 神 経 組

織 κ 吸 収 され るの に 時間 が か か るか らで,染 色 色素

の 量 と痙 攣 との 間 に は 一 定 の関 係 が 見 出 され た.

Greigら41)は この実 験 に着 目 して リンパ 嚢 に5mg

の フ ク シ ン酸 を 注 射 して 対 照 と し, 0.1gのPhy

sostigminを これ に加 え て注 射 す る と,対 照 群 で は

19匹 中14匹 に痙 攣 が 起 り,痙 攣 開 始 まで に平 均12時

間35分 を 要 した が, Physostigmin処 置 群 で は26匹

中22匹 まで 痙攣 が お こり,痙 攣 開 始 まで の 時 間 は36

分 で,し か も1時 間 以 内 に痙 攣 が お こ らな け れ ば そ

れ 以 後 も痙 攣 は 起 らなか つ た,従 つ てPhysostigmin

処 置 群 で は よ り多数 に,極 め て早 期 に 痙攣 が 起つ た

こ と とな り,フ クシ ン酸 に対 す る蛙 の 血 液脳 関 門 の

透過 性 はPhysoetigminのChE.阻 害 作 用 に よ り増

強.され て い る ことが わ か る.こ の 結 果 は 兎 の 赤血 球

で み られ た変 化 と 同 じ で あつ て, ChE活 性 は生 細

胞 の正 常 な透 過 性 を 維持 す る広 範 囲 な 作 用 を もつ て

い る こ とが わ か るの で あ る.

従 つ て,前 編 に お け る実験 で, Achを 添加 す れ ば,

脳 お よび血 液 内のPentothal濃 度 は か な らず 対 照

よ り減 少 す る こ とをの べ たが,こ れ はAchのChE

促進作用が,血 液成 分および脳組織のPentothal・

Sodiumな るNa塩 に対する透過性に抑制的に働い

て,そ の透過を阻止しているからであると考えられ

る.ま た,同 じく前編における実験で,Proetigmin

添加によつてPentothalの 脳外 套 と血 液内濃度が

異常に増加することをのベたが,これもProetigmin

のChE阻 止作用42) 43)が,血 液成 分 および脳組織

のPentothal・Sodiumに 対する透過性を促進する

ことによると考え られる.

このようなChE活 性によつて支配される細胞の

透過性の見地から本編ではAmnion法 に従つて脳,

血清のChE値 を測定 して, Pentothal脳,血 清内

濃度とその相関関係を検ベ,さ らに血圧曲線を観察

して,そ のPentothal体 内分布 に及ぼす影響を検

討した.し かるのち,代 表的な各種自律神経剤添加

による,麻 酔 時間およびPentothal体 内分布の変

動を,こ れら自律神経剤の添加によつて惹起せ られ

るChE活 性値や血圧の変化と関係づけて総括的に

検討し,自 律 神経 系の機能がPentothal麻 酔時間

に及ぼす影響の機序を解明せんと試みた.

第2章  実 験 方 法

第1節  実験動物

第2編 におけると同様である.

第2節  Pentothal・Sodiumの 脳,血 清内

定量法

第2編 にのべたごとくである.

第3節  脳,血 清ChE活 性値測定法

第1項  脳,血 清採取方法

脳の採取には,頸 動脈より失血致死せしめ死後た

だちに開頭 して脳を別出した.別 出大脳は,重 曹抜

きリンゲル液にて洗滌 したのち,脳 軟膜を除去して

脳幹から外套を剥離した.表 面に附着せる血液は濾

紙にてふきとつた.

血清の採取には,頸 動脈より乾燥せるシャーレに

受取つた血液を冷蔵 し,上 清の浮 くのをまつて血清

を分離 し,さ らに測定まで冷蔵してChEの 破壊さ

れるのを防いだ.

第2項  実験手技

Ammonに 倣い, Warburg氏 検 圧計を用いて案

施 した.そ の詳細については,教 室沖44),大 杉45),

近藤46)の 論文を参照されたい.

1) 脳組織懸濁液および血清懸濁液

脳組織懸濁液作製法は上記論文を参照せ られたい.

なお血清懸濁 液については,正 確に0.2ccの 血清

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Pentothal・Sodium静 脈 麻 酔時 間 と自律 神経 機 能 に 関す る実 験 的研 究  1167

をとり, 2.8ccの リンゲ ル液を混 じて15倍 稀釈液

とし,各 々の容器主室に2cc宛 入れた.以 下の操作

については上記論文にのべ られたとおりである.

2) 基質溶液

3) 測定条件

第4節  血圧測定法

血圧測定のためにはU字 形水銀マノメーターを使

用した.測 定部位は左側頸動脈とし,こ れにガラス

製カニウレを心臓に向つて挿入,水 銀マノ メータ~

に連結した.カ ニウレの内部にはパラフィンの被膜

を作り,マ ノメーターと接続するビニール管の中に

は飽和硫酸マグネシァを入れた.マ ノメーターの昇

降はキモグラフィオンに記録した.

第3章  実 験 成 績

以下に記載する酵素値は,脳 外套の場合,新 鮮脳

組織100mgが30分 間に発生するCO2ccmを 以て

あらわしたもので,血 清の場合は新鮮血清0.1cc

が30分 間に発生するCO2ccmを 以つて.あらわして

いる.な お実験には同一材料を常に2本 以上のマノ

メー ターを 使 用 して 測 定 し,そ の平 均値 を とつ た.

第1節  対照 家 兎 群 のChE活 性値

Pentothal, 9mg/kgで 麻 酔 した対 照 家 兎 群(13

頭)の 麻酔 後10分 に お け る脳 外 套ChE活 性値 は,

動 揺 範 囲241~331,平 均値 は286.6,標 準 偏 差 は ±

24.8で あつ た.同 じ く血 清ChE活 性値 は,動 揺 範

囲19.4~26.9,平 均値 は21.1,標 準 偏 差 は ±2.1で

あつ た.

第2節  Acetylcholin添haに よ るChE活

性 値 お よ びPentothal体 内分 布

の変 動

Ach 20γ. 60γ, 200γ を そ れ ぞれ 添 加 せ る場 合

と対 照 の場Aの 脳,血 清ChE活 性 値 お よび脳,血

液,血 清 内Pentothal濃 度 を 測 定 した.な おAch

投 与 は その 直 後 に3~4分 間 で正 常 値に も ど るわ ず

か な血 圧降 下 を きたす の で,そ の 影響 を考 慮 して,

Ach投 与直 後 と血 圧 が 正 常 値 に もどつ て い る15分

後 にPentothal麻 酔 を 行 い,麻 酔 後 断頭 まで の 時

間 は10分 と した.そ の成 績 を 示 す と第1表 の 如 くで

あ る.

第1表AcetylCholin添 加 のChE活 性 値 およ びPentothal体 内 に及 ぼ す 影 響

Ach静 注 直後Pentothalを 投 分 す る場 合  (単 位: ChE活 性値, Cogccm)

Ach静 注15分 後Pentohalを 投 分 す る場 合

1) 麻酔時間はAch投 与直 後の場合においても,

投与後15分 の場合において も,対 照より短縮し,そ

れぞれ9485, 79%と なる. Ach投 与後時間をおいた

方が麻酔時間の短縮が著明であつた.

2) 血 液内Pentothal濃 隻 はAch投 与直 後の 場

合 に は減 少が わ ず か で対 照 の97%と な るが,投 与15

分 後 の 場 合 は87%で 明 らか に減 少す る.

3) 血 清 内渡 度 は,前 者 の場 合,対 照 の96%に 減

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少 し,後 者の場合も同じく対照の96%に 減少するか

ら,い ずれも減少している.

4) 脳外套濃度は,前 者の場合,対 照の95%に 減

少し,後 者の場合も対照の88%に 減少する.従 つて

双方ともに減少している.

5) 血清ChE活 性値 は,前 者 の場合は対照の

134%に 増強し,後 者の場合も対照の117%に 増強す

る.従 つて双方ともに増強する.

6) 脳外套ChE活 性値は,前 者の場合は対照の

112%に,後 者の場合も同じく対照の122%に,双 方

ともに増強する.

以上の如 く, Ach添 加 によれば,脳,血 清ChE

活性値は と もに増強し,脳,血 清内Pentothal濃

度はともに減 少する.し かもAch添 加による血清

ChE活 性値と血清内Pentothal濃 度 との相関関係

を図示すると,第1図 に示す如 く,両 者はまずどう

にか同行関係にあることが窺われる.

第1図  DFP添 加 の場合の脳ChE活 性値

とPentothal脳 内濃度 との関係

第3節  DFP添 加 に よるChE活 性値お

よびPentothal体 内分布の変動

DFP48)に よる脳,血 清ChE活 性値 の阻害は不

可逆的で恢復は極めて遅 く,投 与直後か ら阻害され,

その効果は5日 後においてもかなりの率で残つてい

る.ま たDFP投 与後3時 間はAchの 閾値が高ま

り,こ れは約12時 間以上持 続 する.こ こに0.1%

DFPの 投与量を変え,か つ投与 方法をも筋注およ

び静注 とし,前 述の蓄積しきたるAchの 影響を排

除するために,DFP投 与2時 間後と24時 間後にお

い てPentothal麻 酔 を 施 す 方法 を とつ た.

その成 績 を示 せ ば第2表 の ご と くで あ る.

イ) DFP 2.0mg/kg, 2時 間 前 筋注 の 場合

1) 麻酔 時 間 は 明 らか に延 長 す る.

2) 血 液 内濃 度 は 対 照 の145%に 増 加 す る.

3) 血 清 内濃 度 は 対照 の140%に 増 加 す る.

4) 脳 外 套 濃 度 は 対 照の156%に 増 加 す る.

5) 血 清ChE値 は対 照 の95%に 減 弱 す る.

6) 脳 外 套ChE値 は対 照 の68%に 減 弱 す る.

ロ) DFP 0.5mg/kg, 2時 間 前 静 注 の 場 合

1) 麻酔 時間 は 明 らか に延 長 す る.

2) 血 液 内濃 度 は 対照 の150%に 増 加 す る.

3) 血清 内濃 度 は 対 照 の128%に 増 加 す る.

4) 脳 外 套濃 度 は 対 照 の129%に 増 加 す る.

5) 脳 外 套ChE値 は 対 照 の73%に 減 弱 す る.

ハ) DFP 2.0mg/kg, 24時 間 前 筋 注 の 場 合

1) 麻酔 時 間 は短 縮 お よび 延 長 した.

2) 血液 内濃 度 は 対 照 の173%に 増 加す る.

3) 血清 内濃 度 は 対 照 の113%に 増 加す る.

4) 脳 外 套濃 度 は対 照 の162%に 増 加 す る.

5) 脳 外 套ChE値 は対 照 の87%に 減 弱 す る.

ニ) DFP O.5mg/kg, 24時 間 前 静 注 の 場 合

1) 麻 酔 時 間 は 明 らか に延 長 す る.

2) 血 液 内濃 度 は対 照 の116%に 増 加 す る.

3) 血 清 内濃 度 は対 照 の150%に 増 加 す る.

4) 脳 外 套濃 度 は対 照 の125%に 増 加 す る.

5) 脳外 套ChE値 は 対 照 の74%に 減 弱 す る.

第2図  Achetylcholine添 加 の 場 合 の 血 清

ChE活 性 値 とPentothal血 済 中 濃

度 との関係

以上要 す るに, DFP添 加 に よつ て,脳,血 清

ChE活 性値は阻害 されて減弱 し,脳,血 液,血 清

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Pentothal・Sodium静 脈 麻 酔 時 間 と 自律 神 経機 能 に 関 す る実 験 的 研究  1169

Pentothal濃 度はともに増加する.ま た筋注と静注,

2時 間前投与と24時間前投与の場合との間には特別

な差異は認められなかつた.さ らにDFP添 加の場

合の脳外 套ChE活 性値とPentothal脳 外套濃度

との相関関係を検ベてみると,第2図 に示したごと

く,脳 外套ChE活 性値の減弱率と脳外套Pentothal

濃度の増加率の間にはほぼ同向関係があるのを認め

た.

第2表  DFP添 加 に よるChE活 性 値 お よ びPentothal体 内 分 布 の 変 動

(DFP2時 間 前 筋 注 の 場合)  20mg/kg

(DFP2時 間 前 静 注 の場 合)  0.5mg/kg

(DFP24時 間 前筋 注 の 場合)  2.0mg/kg

(DFP24時 間 前静 注 の 場合)  0.5mg/kg

第4節  Prostigmin, Physostigmin添 加

に よるChE活 性値 お よびPento

that体 内 分 布 の 変 動

マ ウ ス にProstigminな い しPhysostigmin48)

0.005mgを 腹腔 内 に 投 与 す れ ば,脳 外 套ChE活

性 値 は投 与後 た だ ち に降 下 しは じめ,約15分 で最 も

降 下 し約2時 間 で 元 へ も どる.ま た同 一 量 を投 与 す

れ ばPhysostigminの 方 がProstigminよ り も強 く

脳 外 套ChE活 注値 を 阻害 す る.

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1170  松 田 義 朗

第3表 Poatigmin, Phyeostigmin添 加 に よ るChE活 性 値 お よ びEentothal体 内 分 布 の 変 動

い ま, 0.5% Proatigminお よび0.5% Physostig

min各 々0.05mg/kgをPentothal投 与前10分 に

筋 注 した場 合 の成 績 を示 せ ば 第3表 の ご と くで あ る.

1) 麻 酔 時 間 は双 方 とも明 らか に延 長 す る.

2) 血 液 内 濃 度 はPrnatigminの 場 合 は対 照 の

129%に, Physostigminの 場 合 は対 照 の144%に 増

加 ず る.

3) 血 清 内 濃 度 はProstigminの 場 合1195,

Phygoatigminの 場 合 も同 じ く119%に 増 加 す る.

4) 脳 外 套 濃 度 はProstigminの 場 合107%,

Physostigminの 場 合 も同 じ く138%に 増加 す る.

5) 血 清ChE活 性 値 はProetigminもPhysostig

minも 同 様81%に 減 弱 す る.

6) 脳外 套ChE活 性 値 はProstigminの 場 合90

%, Physostigminの 場合 は87%に 減弱 す る.

以止 要 す る にProetigmin, Physostigminを 投 与

す れ ば, DFP投 与 の 場 合 と ま つ た く同 じ く,麻 酔

時 間 は 延 長 し,脳 外 套,血 清ChE活 性値 は 阻 害 さ

れ て 減 弱 し,脳,血 液,血 清Pentothal濃 度 は

増 加 す る.し か もGhE活 性 値 の 阻 害 度 の 強 い

Physoetigminの 方 が 脳,血 清Pentothal濃 度 の

増 加 率 も大 で あ る.

第5節  Atropin添 加 に よ るChE活 性 値

お よびPeatothal体 内 分 布 の 変

ChE活 性 値 に 対 す るAtropinの 影 響 に つ いて,

Roopkeら はAtropinはChEの 活 性 度 を 阻害 す

る と主張 し, Scoz,河 本 らは 却 つ て これ を 促 進 す る

の を認 めて いる.

さて, 0.05% Atropin 5mg/kgを 添 加 した場

合 に お け る成績 を示 せ ば 第4表 の ご と くで あ る.

第4表  Atropin添 加 に よ るChE活 性 値 お よ びPentothal体 内 分 布 の変 動

1) 麻 酔 時 間 は明 らか に延 長 す る,

2) 血 液 内 濃 度 は対 照 の105%に 増 加 す る.

3) 血清 内濃 度 は対 照 の120%に 増 加 す る.

4) 脳 外 套濃 度 は 対 照 の118%に 増 加 す る.

5) 血清ChE活 性 値 は対 照 の95%に 減 弱 す る.

6) 脳 外 套ChE活 性値 は 対 照 の93%に 減 弱 す る.

以 上,私 の 実 験 で は, Atropin添 加 に よ り脳 外

套,血 清ChE活 性値 は 阻 害 され たが,脳,血 液,

血 清 内Pentothal濃 度 は い ず れ も 増 加 し, ChE活

性 値 とPentobhal濃 度 との 関係 は, AFPな ど添 加

の 場 合 とほぼ 同 様 の傾 向 を とつ た.

第6節  Jmidalin, Pilooarpin添 加 に よ る

ChE活 性値 お よびPentothal体

内分 布 の変 動

2% Imidalin 5mg/kgお よ び1% Pilocarpin

3mg/kgを 静 注 添 加 し た場 合,そ の 成 績 は第5表

に示 す ご と くで あ る.

1) 麻酔 時間 は両 者 に おい て 明 らか に短 縮 す る.

2) 血 液 内濃 度 はImidalinの 場 合 は対 照 の65%,

Eilncarpinの 場 合 は61%に 減 少 す る.

3) 血 清 内濃 度 はImidalinの 場 合 は対 照 の77%,

Pilocarpinの 場 合は71%に 減 少 す る.

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Pentothal・Sodium静 脈 麻 酔時 間 と 自律 神 経 機 能 に関 す る実験 的研 究  1171

第5表  Imidalin, Pilocarpin添 加に よ るChE活 性 値 お よびPentothal体 内 分 布 の変 動

4) 脳 外 套濃 度 はImidalinの 場合 は対 照 の91%,

Pilocarpinの 場合 は65%に 減少 す る.

5) 血 清ChE:活 性 値 はImidalinの 場 合 は 対 照

の101%, Pilocarpinの 場 合 は103%で,双 方 とも

わず か に増 強 す る.

6) 脳 外 套ChE活 性 値 はImidalinの 場 合 は対

照 の109%, Pilocarpinの 場合 は114%に 増 強 す る.

以 上 要 す るに, Imidalin, Pilocarpin添 加 に より

脳外 套,血 清ChE活 性 値 は と もに増 強 し,脳,血

液,血 清 内Pentothal濃 度 は と もに減 少 す る.そ

の 傾 向 はAch添 加 の 場合 と まつ た く同 じで あ る.

第7節  Chlorpromazine添 加 に よるChE

活 性 値 お よびPentothal体 内 分

布 の 変 動

Phcnothiazine系 の 薬 剤 で あ るChlorpromazine

は交 感 神 経 系,と く にAdrenalin作 働 性 神 経 の い

ろ い ろ な作 用 を ほ とん ど封殺 す る といわ れ る.い ま

0.5% Chlorpromazine 5mg/kgを 投 与 した場 合 の

成 績 は第6表 に示 す ご と くで あ る.

第6表  Chlorpromazine添 加 に よ るChE活 性 値 お よ びPentothal体 内 分 布 の 変 動

1) 麻 酔 時 間 は 著 明 に 延 長 す る.こ れ はChlor

promazineの 大 脳 皮 質 に対 す る鎮 静 作 用 に よ る もの

と思 われ る.

2) 血 液 内濃 度 は対 照 の77%に 減 少 す る.

3) 血 清 内濃 度 は対 照 の78%に 減 少 す る.

4) 脳 外 套濃 度 は麻 酔 時 間 の 延 長 に反 して 減 少 し,

対 照 の90%と な る.

5) 血 清ChE活 性値 は対 照 の118%に 増 強 す る.

6) 脳 外 套ChE活 性 値 は 対 照 の107%に 増 強 す

る.

以 上 要 す るにChlorpromazine添 加 に よ り脳 外 套,

血 清ChE活 性値 は 増 強 し,脳,血 清 内Pentothal

濃 度 は減 少す る.従 つ て,そ の 傾 向 は交 感 神 経 遮 断

剤 で あ るImidalin添 加 の 場合 に類 似 して い る.

第8節  Ephedrin添 加 に よ る血 圧 曲 線 の

変 化 と, ChE活 性値 お よびPento

thal体 内 分布 の 変 動

Ephedrinを 投与 す れ ば持 続 的 な高 血圧 が え られ,

Pentobhalを これ に続 い て投 与 して も 二 次 的 な 血圧

下 降 を き たす こ とは な い.し か も,そ の投 与 量 と 血

圧 上 昇率 との 間 に は比 例関 係 が ある .第3図 は4%

Ephedrinを そ れ ぞれ5mg/kg, 10mg/kg , 15mg/㎏

宛 静 注 添 加 した場 合 の 各 々 の 血圧 曲線 で あ る.

さて, 4% Ephedrinを5mg/kg, 10mg/kg

, 15mg/kgと して 静注 添加 す る と,そ の 成績 は 第7

表 に示 す ごと くで あ る.

1) 麻 酔 時 間 は10mg/kg投 与 の場 合 のみ 短 縮 し

たが これ は動 物 の 個 体 差 に よ る もの と思 わ れ,一 般

に延 長 す る.

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1172  松 田 義 朗

第3図

家兎番号129

家兎番号130

家兎番号131

第7表  Ephedrin添 加 に よ るChE活 性値 お よびPentothal体 内 分布 の 変 動

2) 血 液 内 濃 度 は5mg/kg投 与 の 場 合 は 対 照 の

76%, 10mg/kg投 与 の 場 合 は93%, 15mg/kg投

与 の 場合 は100%で,対 照 に比 べ 一般 に減 少 し たが,

Ephedrin添 加 量 の 増 加 の 順 とは 関 係 しな かつ た.

3) 血清 内 濃 度 は5mg/kg投 与 の場 合 は対 照 の

89%, 10mg/kg投 与 の 場合 は75%, 15mg/kg投

与 の 場 合 は70%で,対 照 に 比 べ 減 少 し た が,

Ephedrin添 加 量 の増 加 の 順 に減 少 した.

4) 脳 外 套 濃 度 は5mg/kg投 与 の 場合 は対 照 の

105%, 10mg/kg投 与 の 場 合 は129%, 15mg/kg

投 与 の 場 合 は158%で,対 照 に 比 べ 増 加 したが,

Ephedrin添 加 量 の増 加 の 順 に 増加 した.

5) 胃臓 内濃 度 は5mg/kg投 与 の 場合 は対 照 の

108%, 10mg/kg投 与 の 場 合 は109%, 15mg/kg

投 与 の 場合 は116%に 増 加 し た.し か もEphedrin

添加 量 の増 加 の 順 に増 加 した.

6) 筋 肉組 織 濃 度 は5mg/kg投 与 の場 合 は 対 照

の161%, 10mg/kg投 与 の 場合 は120%, 15mg/kg

投 与 の 場合125%に 増 加 した.し か しEphedrin添

加 量 とその 増 加 率 との 間 に は一 定 した 関係 が み られ

な か つ た.

7) 血 清ChE活 性 値 は5mg/kg投 与 の 場合 は

対 照の99%, 10mg/kg投 与 の 場合 は89%, 15mg/kg

投 与 の 場合 は87%に 減 弱 し,し か もEphedrin添 加

量 の 増 加 の 順 に減 弱 した.

8) 脳 外 套ChE活 性 値 は5mg/kg投 与 の 場合

は 対 照 の90%, 10mg/kg投 与 の 場 合 は87%,

15mg/kg投 与 の 場合 は86%で,対 照 に比 べ 減 弱 し

たがEphedrni添 加 量 の増 加 の順 に減 弱 した.

以 上 を ま とめ る と, Ephedrin投 与 に よ る血圧 の

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Pentothal・Sodium静 脈麻 酔 時 間 と 自律 神 経機 能 に 関す る実 験 的研 究  1173

上 昇度 お よび持 続 時 間 は その 投与 量 に ほぼ比 例 し,

血 液 内Pentothal濃 度 は 対 照 よ り減 少す るが,

Epherin添 加 量 の 増 加の 順 と は関 係 しな かつ た.こ

れ に反 し,血 清 内Pentothal濃 度 は 同 じ く対 照 よ

り減 少す るが, Ephedrin添 加 量 の 増 加 の順 に減 少

した.脳 外 套濃 度 お よび 腎臓 内濃 度 は 対 照 よ り増 加

したが, Ephedrin添 加 量 の増 加 の 順 に増 加 した.

筋 肉組 織 濃 度 は 対 照 に比 べ 増 加 したが, Ephedrin

添加 量 との 間 に は一 定 の 関係 が 認 め られ なか つ た.

ま た,脳 外 套,血 清ChE活 性値 は 対照 より減 弱 し,

しか もEphedrin添 加 量の 増 加 の 順 に 減弱 した.

第9節  Adrenalin添 加 に よる 血圧 曲 線 の

変 化 とChE活 性値 お よびPento

thal体 内分 布 の変 動

Adrenalin投 与 後 血圧 は急 激 に上 昇す るが,こ れ

に続 いてPentothalを 投 与 す る とその 静 注 が未 完

了の うちか ら血圧 は降 下 し始 め,初 期 の 血 圧 上 昇 に

つ ぐ二 次 的 な 血圧 降 下 を きた し,こ の血 圧降 下 はか

な り長 く持 続 す る.し か も この 二相 性 に な る血圧 曲

線 の特 徴 はAdrenalin投 与 量 を 増 加 す る ほ ど 顕

著 と な る.第4図 は0.1% Adrenalinを それ ぞ れ

0.01mg, 0.03mg, 0.06mg静 注 添 加 した 場合 の

各 々 の 血圧 曲 線 で あ る.

さて, 0.1% Adrenalinを0.01mg/kg, 0.03mg/kg,

0.06mg/kgと して 添加 す る と,そ の成 績 は 第8表

に示 す ごと くで あ る.

1) 血 液 内 濃 度 は0.01mg/kg投 与 の 場 合 は

対 照 の89%, 0,03mg/kg投 与 の 場 合 は79%,

0.06mg/kg投 与 の 場合 は71%に 減 少 す る.従 つ て

Adrenalin添 加 量 の増 加 の順 に 減 少 した.

第4図

家兎番号126

家兎番号127

家 兎 番 号128

第8表  Adrenalin添 加 に よ るChE活 性 値 およ びPentothal体 内 分 布 の変 動

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1174  松 田 義 朗

2) 血清 内 濃 度 は0 .01mg/kg投 与の 場合 は 対 照

の83%, 0.03mg/kg投 与 の 場 合は66% , 0.06mg/kg

投 与 の場 合 は62%に 減 少 す る.従 つ てAdrenalin

添 加 量 の増 加 の順 に減 少 した.

3) 脳 外 套 濃 度 は0.01mg/kg投 与 の 場 合 は

対 照 の127%, 0.03mg/kg投 与 の 場 合 は100%,

0.06mg/kg投 与 の 場 合 は103%に 増 加 す る.従 つ

てAdrenalin添 加 量 と そ の増 加 率 との間 には 一定

し た関 係 が え られ な か つ た.

4) 血清ChE活 性 値 は0.01mg/kg投 与 の場 合

は 対 照 の90%, 0.03mg/kg投 与 の 場合 は88%,

0.06mg/kg投 与 の 場合 は81%に 減弱 し, Adrenalin

添 加 量 の増 加 の順 に減 弱 した.

5) 脳 外 套ChE活 性 値 は0.01mg/kg投 与 の 場

合 は対 照 の94%, 0.03mg/kg投 与 の場 合 は88%,

0.06mg/kg投 与 の 場合 は98%に 減 弱 す る.こ の場

合 はAdrenalin添 加 量 と そ の増 加率 との間 には 一

定 の関 係 は なか つ た.

以 上 要 す るに, Adrenalin投 与 に よる血 圧 上 昇 の

効 果 は,か な らず し も そ の 投 与 量 に比 例 せ ず,

Adrenalin添 加 に よ り脳 外 套Pentothal濃 度 は 対

照 に比 べ 増 加 す るが,か な らず し もそ の投 与 量 に比

例 しな い.こ れ に 反 し血 液,血 清 内Pentothal濃

度 はAdrenalin添 加 量 の 増 加 の順 に減 少 し た.ま

た,血 清ChE活 性 値 は 明 らか にす べ て の場 合 に減

弱 し, Adrenalin添 加 量 の増 加 に減弱 した が,脳 外

套ChE活 性値 で は比 例 しな か つ た.

第10節  Methobromin添 加 に よ る血圧 曲

線 の 変 化 とChE活 性 値 お よび

Pentothal体 内分 布 の 変 動

第5図 はMethobrominを そ れ ぞ れ4mg/kg,

8mg/kg, 12mg/kg添 加 静 注 した場 合 の 血圧 曲線

で あ る.図 か らわ か る よ うにMethobrominを 静注

添加 すれ ば 急 速 に,か つ 長 く持 続 す る血圧 降 下 が 得

られ,そ の血 圧 降 下度 お よび 持 続性 は投 与 薬 剤 量 に

ほぼ比 例 す る よ うで あ る.

さて2% Methobromin.を4mg/kg, 8mg/kg,

12mg/kgと して 添 加 静注 した場 合 の成 績 は第9表

に 示 す ご と くで あ る.

1) 麻 酔 時 間 は変 化が な いか,や や 短縮 の傾 向 が

あ る.

2) 血 液 内濃 度 は4mg/kg投 与 の 場合 は対 照 の

99%, 8mg/kg投 与 の 場合 は106%, 12mg/kg投

与 の場 合 は126%で,一 般 に 対 照 よ り増 加 し,添 加

量 の増 加 の順 に増 加 した.

3) 血清 内濃 度 は4mg/kg投 与 の 場 合 は 対照 の

98%, 8mg/kg投 与 の 場 合 は115%, 12mg/kg投

与 の場 合 は125%で,一 般 に 対 照 よ り増 加 す る.し

か もMethobromin添 加 量 と濃 度 との間 には 一 定 し

た関係 が あ る.

第5図

家兎番号132

家兎番号134

家兎番号132

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Pentothal・Sodium静 脈 麻 酔 時 間 と 自律 神 経機 能 に関 す る実 験 的 研 究  1175

第9表  Methobromin添 加 に よ るChE活 性値 お よびPentothal体 内 分布 の変 動

4) 脳 外 套濃 度 は4mg/kg投 与 の 場 合 は 対照 の

69%, 8mg/kg投 与 の 場 合は90%, 12mg/kg投 与

の 場 合 は93%で,対 照 よ り明 らか に減 少 し,添 加 量

の 増 加 の順 に増 加 し た.

5) 腎 臓 内 濃 度 は4mg/kg投 与 の 場 合は 対 照

の110%, 8mg/kg投 与 の 場 合 は 対 照 の88%,

12mg/kg投 与 の 場 合 は 対 照 の124%で,一 般 に 対

照 よ り増 加 す る.し か しMethobromin添 加 量 と濃

度 との間 には 一定 した関 係が え られ な かつ た.

6) 篇 肉 組 織 濃 度 は4mg/kg投 与 の 場 合 は対 照

の92%, 8mg/kg投 与 の場 合 は81%, 12mg/kg投

与 の 場 合 は85%で,一 般 に対 照 よ り減 少 した.

7) 血 清ChE活 性 値 は4mg/kg投 与 の 場 合

は 対 照 の103%, 8mg/kg投 与 の 場 合 は91%,

12mg/kg投 与 の場 合は92%で,投 与 量が 多 け れば

対 照 より減 弱 す る.

8) 脳 外 套ChE活 性 値 は4mg/kg投 与 の 場 合

は 対 照 の104%, 8mg/kg投 与 の 場 合 は105%,

12mg/kg投 与 の 場 合 は114%で,対 照 に比 べ 増 強

した.

以 上要 す る にMethobromin投 与 に よ る血圧 降 下

の 効 果 は,そ の 投 与 量 に ほ ぼ 比 例 し,血 液 内

Pentothal濃 度 は対 照 に比 べ 増加 し,し か も添 加 量

の増 加 の 順 に 増 加 した.血 清 内濃 度 も血 液 の 場 合 と

類 似の 傾 向 を とつ た.し か し脳 外 套濃 度 は 対 照 に比

べ 減 少 したが,添 加 量 の増 加 の順 には 減 少 しな か つ

た.筋 肉組 織 濃 度 は脳 外 套濃 度 と同 じ く対 照 よ り減

少 したが,腎 臓 内農 度は 対 照 に 比 べ て逆 に 増 加 した.

血清ChE活 生値 は,一 股 に 対照 に比 べ 減 弱 し,脳

外 套ChE活 性 値 は,一 般 に対 照 に比 べ 増 強 した.

第4章  総 括 な ら び に 考 按

第1,第2編 にお い て,各 種 自律 神 経 毒添 加に よ

る麻 酔 時間 とPentothal体 内 分 布 の変 動 とを 測 定

した が,本 編では,か か る変 動 をき たす 原 因 とな る

と思 わ れ る脳,血 清 のChE活 性値 お よび 血 圧 の変

化 を観 察 し,こ れ ら とPentothal組 織 内 濃 度 との

関 係 を検 討 した ほか,代 表 的 な 自 律 神経 毒 添 加に よ

る麻 酔 侍 間 お よびPentothal体 内 分 布の 変 動 を,

これ ら自律 神 経 剤 の 添加 に よつ て 惹 起せ られ るChE

活 性値 や 血 圧 の 変化 と関 係 づ け で 総 括 的 に のべ,考

按 を 試 み る こと にす る.

さて,各 薬 剤 添加 の場 合の 脳,血 清ChE活 注値

とPentothal濃 度 との 関 係 を 検 討.する た め,各 成

績 を対 照 を基 準 と した比 率 で 一 括 して あ らわ す と第

10表 に示 す ごと くで あ る.ま つAch添 加 の 場 合 で

は,脳,血 清ChE活 性 値 は それ ぞ れ 増 強 促 進 し,

脳,血 清Pentothal濃 度 は と もに減 少 し,し か も

その 血 清ChE活 性 値 の増 強 率と血 清 内Peatothal

濃 度 の減 少 率 との間 には 同 行 関係 が み られ た.

さ らに, DFPを 添 加 す れ ば脳,血 清ChE活 性

値 は 減 弱 し,脳,血 清Pentothal濃 度 は 増 加 した

が, Achの 場 合 と同様 な 同 行 関係 が 脳 外 套ChE活

性 値 の減 弱 率 と脳 外 套Pentothal濃 度 の 増 加 率 と

の 間 にみ られ た.

ま た, Prostigmin, Physostigminを 添 加 す れ ば,

DFP添 加 の 場 合 とまつ た く同 じ く,脳,血 清ChE

活 注値 は と もに 阻 害 さ れ 減 弱 し,脳,血 清Pento

thal濃 度 は と もに 増 加 し た.し か も,脳 外 套ChE

活 性値 の 阻 害 度 の 大 で あ つ たPhysostigminの 方

が脳 外 套Pentothal濃 度 の増 加率 が大 であ つ た.

つ ぎ にAtropin添 加 の場 告で は,脳,血 清ChE

活.生値は と も に 減 弱し,血 清Pentothal濃 度 は と

もに 増 加 し た の で,そ の関 系 はDFP, Prostigmin,

Physostigmin添 加 の場 合 と原則 内 には 同 じで あ つ

た.

ま た, Imidalin, Pilocarpin47)を 添 加 す れ ば脳,

血 清ChE活 性値 は促 進 され,脳,血 清Pentothal

濃 度 は 減 少 した の で,そ の 関 係 はAch添 加 の場 合

と 原則 均な関 系は同 じで あ る.し か も,脳ChE活

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1176  松 田 義 朗

性 値 はImidalinに 比 べ てPilocarpinの 方 が 強 く促

進 し,脳Pentothal濃 度 はPilocarpinの 方 が よ り

減 少 して い る.

第10表  各 種 自津 神経 剤 添 加 に よ るPentothal組 織 中濃 度 お よびChE活 性 値 の 変 動

綜 合 結 果(Ⅱ)

Chlorpromazineを 添 加 す れ ば,脳,血 清ChE

活 性 値 は と も に 増 強 され,脳,血 清Pentothal濃

度 は それ ぞ れ減 少す るか ら,そ の関 係 は 同 じ交 感 神

経 遮 断 剤 で あ るImidalinや その 他Ach, Pilocarpin

な ど と軌 を 一 つ にす る.

従 つ て,以 上 の べ き たつ た と こ ろか ら, Ach,

Pilocarpin, DFP, Prostigmin, Physoatigmim,

Atropin, Imidalin, Chlorpromazine添 加 に よ る

脳,血 清(血 液)Pentothal濃 度 の変 化 は,そ れ ら

薬 剤 のChE活 性値 に 対 す る態 度 に よつ て 左 右 され

る ことが わか るが,こ れ は前 述 し た如 くChE活 性

値 が 血 液成 分 お よ び 脳 組 織 のPentothal・Sodium

に対 す る透 過性 を支 配 して い るか らに ほか な らな い.

しか も,こ れ ら薬 剤 の場 合,脳,血 清(血 液)以 外

の 各 組 織 のPentothal濃 度 は,脳,血 清(血 液)

の 濃 度 が増 加す れ ば代 償 的 に減 少 し,そ の濃 度 が 減

少 すれ ば 代 償 的 に増 加 す る傾 向 を もつ て い るか ら,

脳,血 清 濃 度 ば か りで な くPentothal体 内 分布 の

変 動 全般 がChE活 生 値に 対 す る態 度 に よつ て 左 右

され る とい う こ とが で き る.

さて,さ きに循 環 動 態 に 関係 あ る諸 薬 剤 添 加 に よ

るPentothal体 内分 布 の 傾 向 は,そ の 薬 剤 の血 圧

に 対 す る態 度 に よつ て 左 右 され る こ とを の べ たが,

これ につ い て さ らに考 察 して み よ う.

まずEphedrinの 場 合は,そ の血 圧 上昇 お よ び持

続 時 間 は 添 加 量 に ほ ぼ 比 例 す る の で,血 圧 と

Pentothal体 内分 布 との 間 にな ん らか の関 係 が あ る

もの とす れ ば,そ の 添 加 量 とPentothal体 内分 布

との 間 に そ れが 現 わ れ て くるはず で あ る.か か る見

地 か ら検 討 す る と,血 清 内濃 度 はEphedrin添 加 量

に比 例 して減 少 し,逆 に脳 外 套濃 度 は 添 加 量 に比 例

して 増 加 し,実 質 臓 器 で あ る腎臓 お よび 筋 肉 組 織 濃

度 も同 じ く添 加 量 に比 例 して 増 加 す る.従 っ て 血 圧

とPentothal濃 度 と の 間 に は か な り厳 密 な 関 係が

あ る ことが 窺わ れ る.し か る に,血 液 内濃 度 の み は

前 述 の諸 組 織 の 場 合 と異 つて,添 加 量 に比 例 して 減

少 すべ き はず の と ころ逆 に増 加 したが,こ れ は 血 清

ChE活 性値 が 添加 量 に 比 例 して 阻 害 され るの で,

これ に影 響 さ れ て,血 清 内 のPentothal濃 度 が 減

少 す るか たわ ら血 液 細 胞成 分 中のPentothal濃 度

が 増 加 す る た めで あ ろ う と考 え られ る.か く考 えて

くると, Ephedrin添 加 に よ るPentothal体 内 分布

の変 動 は,血 圧 とChE活 性の双 方 に よ り影 響 さ れ

て い る こ とが 明 らか とな る.

さて,つ ぎにAdrenalin添 加 の 場 合を考 察 して

み る と,血 液 お よ び血 清 内Pentothal濃 度 は その

添 加 量 に比 例 して 減 少 す る の で, Ephedrinの 場 合

と同 様 に,血 圧 の状 態 に よつ て 影響 され て い る もの

と考 え られ る.

つ ぎ にMethobromin添 加 に よ る血 圧 降 下の 効 果

は,そ の 添 加 量 に ほぼ 比 例 す るの で,そ の 添 加 量 と

Pentothal体 内分 布 との 間 に は 同 じ く一 定 の関 係 が

な くて は な らぬ はず で あ る.さ て,か か る.見地 か ら

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Pentothal・Sodium静 脈麻 酔 時 間 と自律 神経 機 能 に関 す る実験 的研 究  1177

そ の血 液 内Pentothal濃 度 を み る と,そ れ は 添加

量 に比 例 して増 加 し,ま た 血清 内濃 度 も血液 の場 合

と類 似 の傾 向 を と る ので,こ れ らは その 添加 量が 体

内分 布 の あ り方 に一定 の影 響 を与 え た こ とを 物 語 る

も の と思 う.

従 つ て,以 上 のべ きたつ た と ころ か ら, Ephedrin,

Adrena1in, Methobrominな どの 場 合 は,こ れ ら薬

剤 の もつ諸 薬 理 作 用 の うち,循 環 動 態 とChE活 性 に

対 す る作 用 とが,主 と して それ ら薬 剤 に よ るPento

thal体 内 分布 の変 動 の 様相 を決 定 して い る もの と考

え られ る.

さて,前 にChE活 性 に 影 響 さ れ る 血 液 へ の

Pentothalの 透 過性 と い うこ とを の ベ たが,こ の透

過 性 と い うの は 主 として赤 血球 の それ を 意味 す る も

の と思 わ れ る16) 17)の で,こ こに,自 律 神 経 毒 添加

の各 々 の場 合 に つ いて,そ の血 清Pentothal濃 度

を血 液Pentothal濃 度 で 除 した率 を検 討 して,血

清 と血球 内 のPentothal量 を 区 別 して 考 えて み る

こと に した.こ の率 に よつ て 血 清Pentothal量 の血

球Pentothal量 に対 す る 比 率,す な わ ち血 球 へ の

Pentathalの 透 過 性 を 間接 的 に知 る こ とが で き るわ

けで あ る.

さて第10表 にみ られ る よ うにDFP, Proetigmin,

Phyeoetigminの 場 合 には この比 率 は それ ぞれ 対 照

の91%, 92%, 83%に 減 少 し, Ach, Pilocarpin,

Imidalin, Chlorpromazineの 場 合 は それ ぞ れ 対照

の110%, 118%, 118%, 104%に 増 加す る.従 つて

この よ うに して え られ た率 か らDFP, Proatigmin,

Phyaostigminに よつ て 血球 へ のPentothalの 透 過

が増 加 して い る こ と,お よ びAch, Pilocarpin,

Imidalin, Chlorpromazineに よ つ て 血 球 へ の

Pentothalの 透 過 が 抑制 され て い る こ とが わか るが,

この こ と は,さ き に の べ たDFPそ の他 に よつ て

ChE活 性 値 が 阻害 され 血 球 へ の透 過 性 が増 加 す る

こ と,お よびAchそ の 他 に よつ てChE活 性値 が

促 進 され て 血球 へ の透 過 性 が 減 少す る とい う考え と

まつ た く符 合 一致 す るの で あ る.

さ らに, Ephedrin, Adrenalinの 場 合 に は この 比

率 は そ れ ぞ れ 同 じ く 対 照 の88%に 減 少 し,血 清 内

Pentothal濃 度 の比 較 的 減 少 と血球 中Pentothal濃

度 の比 較 的 増加 が あ る こ とを 意 味 して い るが,こ れ

は 血 圧 の 影 響 に よつ て 血 清 か ら組 織 へ のPentothal

の 移行 が高 まつ て 血 清 内濃 度 が 減 少 して い る こ と,

お よびChE活 性 値 の 阻 害 に よつ て血 球 中 濃 度 が増

加 した ことに 原 因 す る もの と思 わ れ る.

ま たMethobrominで は こ の 率 は, Ephedrinな

ど の昇 圧 剤 と反対 に対 照 の103%で わ ずか に増 加 し

て お り,血 清 内 か ら組 織 へ のPentothalの 移 行 が

減 じ た ことを 物 語 つ て い る.

ま た一 方,自 律 神経 剤 添 加 が細 網 内皮 系 お よび肝

機能49)に 影響 を 及 ぼ して そ の結 果起 る細 網 内皮 系

お よ び 肝 機 能 の 亢 進,抑 制 が 血 液 内 に お け る

Pentothalの 分 解解 毒 に関係 し,従 つ て ま た血 液 内

Pentothal濃 度 の増 減 とな つ て結 果す るこ と も考 え

られ,こ れ に関 す る多 くの文 献 が あ る58).

こ こに,第11表 に み ら れ る ご と くこれ らの 機 能

を 亢 進 す るImidalin, Ach, Pilocarpin, Chlorpro

mazineの 場 合 を み る と,麻 酔 時 間 はChlorpromazin

を除 いて 短 縮 し 血 液 内Pentothal濃 度 はす べ て 低

下す る.ま た,こ れ ら の機 能 を 抑 制 す るAtropin

の場 合 は,麻 酔 時 間 は 延長 し血 液 内濃 度 は増 加 して

い るの で,以 上 の 場 合 に は両 者 の 間 に関 係 が あ る よ

う思 わ れ る.し か し,こ れ らの 機 能 を,抑 制 す る

Adrenalinに よつ て 血 液 内濃 度 は減 少 し,亢 進 す る

Proatigminに よつ て 血 液 内 濃 度 は増 加 す るので 説

明の で きな い関 係 となつ て い る.従 つ て,自 律 神 経

毒 添加 に よ る細 網 内 皮 系 お よび 肝機 能 の亢 進 抑 制 と

麻 酔 時 間 との間 には,か な らず し も一定 の関 係 が あ

る とは い え な い.

また,血 液 のpH値 は 自 律 神 経 毒 に よ り影 響 を

蒙 む る50).す な わ ちAdrenalin投 与 に よつ て 血 液

のpH値 は アル カ ロー ジ ス に傾 む き同, Ephedrinに

よつ て一 過 性 の や や 強 い アチ ドー ジスの 傾 向 を示 し

たの ち酸 性 と な る. Pilocaprinに よれ ば 常 にpH

値 は減 少 し酸 性 とな り, Achに よ れ ば 直 後 一過 性

の 強 い アル カ ロー ジ スの の ち10分 後 に は正 常 に も ど

る とい う.さ て,血 液 内Pentothal濃 度 が 血 液 の

pH値 に よつ て どの よ うな 影響 を受 け るか と いえ ば,

CO2ガ ス吸 入 に よつ て血 液 のpH値 を 低 下 させ た

場 合,す な わ ち酸 性 に傾 い た場 合(pH 7.20→6.89)

に は,そ の 濃 度 は 低 下 す る 傾 向 を示 し(56.8→

40.8mg/L),そ れ をNaH2CO3の 静 注 に よ つ て ア

ル カ ロー ジ スにす れ ば,な ん ら濃 度 に は変 化 が お こ

らぬ ことをBrodie51)が 報 告 し て い る.従 つ て,

Pilocarpinの 場 合 の み, pH値 が 低 下 しPentothal

血 液 内 濃度 が 減 少す るの で,あ る程 度 の 影響 が あ る

よ うに思 われ るが,そ の 他 の薬 剤 の 場 合 に は逆 の 関

係 に な つ て い る の で,自 律 神 経 毒 添加 に よ る血 液

pH値 の 変化 は そのPentothal濃 度 に 対 し ほ とん

ど影響 して い な い と考 え られ る.

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1178  松 田 義 朗

第11表  綜 合 結 果(Ⅲ)

以 上 を 総 括 す ると, Pentothal体 内 分 布 に影 響 す

る のは,自 律神 経 剤 の 有 す る諸 薬 理 作 用 の うちChE

活 性 値 に及 ぼ す 影響 と血 圧 な ど循 環 動態 の 変 化 が 主

な もので あ る こ とが わか る.

最 後 に,第11表 に 示す ご と く, 14種 の代 表 的 な 自

律 神経 剤を 交 感 中枢 麻痺 剤 お よび 交 感 末 梢(中 枢)

刺 戟 剤,交 感 末 梢(中 枢)刺 戟 剤 お よび 交感 末 梢 麻

痺 剤,副 交 感 末 梢 麻 痺 剤 お よび副 交 感 末 梢刺 戟 剤,

副 交 感 末 梢刺 戟 剤 お よび 副交 感 中枢 刺 戟 剤 と分 けて

互 い に対比 せ しめ る と,そ の 各 々 の場 合 に お いて,

麻 酔 時 間 やPentothal体 内 分 布 の 変 動 そ の 他 は,

それ ぞ れ ほ ぼ対 称 的 とな つて い る こ とが わか る.

第5章  結 論

各 種 自律 神経 剤 に よ るChE活 性 と 血 圧 の 変 動が

Pentothal体 内分 布 に い か な る.影響 を 及 ぼ す か を検

討 し た結 果,次 の よ うな 結 論 をえ た.

1) Ach, Pilocarpin, Imidalin, Chlorpromazine

に よ り脳,血 清ChE活 性 値 を促 進 す る と細 胞 の透

過 性 が 抑 制 され,脳,血 清Pentothal濃 度 は減 少

す る.し か もそ のChE活 性値 の 増 強 率 とPentothal

濃 度 の 減 少 との 間 に は同 行関 係 が 認 め られ る.

3) Physoetigmin, Proetigmin, DFPに よ り脳,

血 清ChE活 性値 を 阻 害 す る と細 胞 の 透 過性 が 促 進

され,脳,血 清Pentothal濃 度 は 増 加 す る.し か

も そのChE活 性 値 の 阻 害 率 とPentothal濃 度 の

増 加 との 間 に は同 行 関 係 が認 め られ る.

4) Ephedrin, Adrenalinな どの 昇圧 剤 はPento

thalの 血 液 中 か ら各組 織 へ の 移行 率 を 高 め,逆 に 降

圧 剤Methobrominは その 反 対 にPentothalを 血 液

中 に停 滞 せ しめ る.な お, Ephedrin, Adrenalin活 性

はChE活 性 値 を 阻 害 す るので,こ の場 合 はChE

を血 圧 の 両 者 の 影響 が 考 え られ る.

5) 各 自律 神 経 剤 添加 の場 合,

血 清 内Pentothal濃 度/

血 液 内Pentothal濃 度なる比率により,血 清内

Pentothal量 の 血 球 中Pentothal量 に 対 す る比 率 を

間接 的 に求 め る と, Pentothalの 血 球 へ の透 過 率 が

わ か る.

6) Ach, Pilocarpin, Imidalin, Chlorpromazine

で は この 比 率 が 増 加 し,血 球 へ のPentothalの 透

過 率が 減 少 す る.

7) Physoatigmin, Proatigmin, DFPで は この

比 率 が 減 少 し,血 球 へ のPentothalの 透 過 率が 増

加す る.

8) Ephedrin, Adrenalinで は この比 率 は減 少 し,

血 清 内Pentothal濃 度 の 減 少 と 血球 中濃 度 の 増 加

とが 考 え られ るが,こ れ は 血圧 の影 響 に よつ て 血 清

か ら組 織 へ のPentothalの 移 行 率 が 高 ま つ て 血清

内濃 度 の 減 少 す る こと,お よびChE活 性値 の阻 害

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Pentothal・Sodium静 脈麻 酔 時 間 と自律 神 経機 能 に関 す る実 験 的研 究  1179

に よつ て 血球 中濃 度 が 増 加 す るこ と に よ る.

9) Methobrominで は この比 率 は 増 加 し,血 清

内 か ら組 織 へ のPentothalの 移 行 が 減 じた ことを

物 語つ て い る.

10) 以 上 の 結 果 よ り 各 種 自 律 神 経 剤 に よる

Pentothal麻 酔 時間 お よび 体 内 分布 の変 動 の 本態 は

それ に よ るChE活 性 な らび に循 環 動 態 の変 動 に も

とず くことがわかつた.

稿を終るに臨み終始御懇切なる御指導と御校閲を

賜わりたる恩師陣内教授に深甚の謝意を捧げ,終 始

御懇切なる御助言を賜わりたる田中助教授に衷心よ

り深謝す.

参 考 文 献

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The Relationship Between Function of Autonomic Nervous System

and Pentothal induced intravenos Anaesthesia

Part III. The Investigation of the distribution of Pentothal in the Body

influenced by cholinesterase activity and Blood Pressure

By

Yoshio MATSUDA

Department of Surgery, Okayama University School of Medicine

(Director Prof. D. Jinnai)

1) The increased cholinesterase activity coursed by administration of Acetylcholine,

pilocarpine, Imidalin and chloromazine reduce the concentration of pentothel in the Brain and Serum.

2) The decreased cholinesterase actriity ccursed by administration of physostigmin,

prostigmin and DFP increase the concentration of pentothal in the Brain and Serum.3) The mutation of distribution of pentothal in the Body coursed by administration of

Ephedrin, Epinephrin and Norepinephrin should be attributable to both increased Blood

pressure and reduced cholinesterase activity.4) The mutation of anaesthetic duration and the distribution of pentothal in the body

changed by administration of various drugs of autenomic nervous system should be attributable

to both cholinesterase activity and Blood pressure influenced by these drugs.