p352-357 特集 羽藤氏4c - j-stage

6
血栓止血誌 23 (4):352~357, 2012 1. はじめに 抗血小板薬は冠動脈疾患や脳梗塞に代表される アテローム血栓症の治療に広く用いられており, アスピリンとクロピドグレルはその代表的薬剤で ある.今から 10 年ほど前にアスピリンおよびク ロピドグレルによる血小板凝集抑制効果が不十分 な患者は虚血性イベントの発生率が高いとする報 告が出始め,薬剤レジスタンスの名の下にその原 因探求と抗血小板薬モニター検査の意義について 数多くの検討がなされてきた 1) .さらに,最近の 医療の進歩によって血栓症患者の虚血性再発イベ ントが大幅に減少して抗血小板薬による出血性有 害事象の発生率に近づいたため,両者のバランス がよりクローズアップされるようになった 2) .こ のような背景の中で日本血栓止血学会学術標準化 委員会(SSC)の血小板部会では「抗血小板薬 モニター検査」をテーマに取り上げて,検査の有 用性および標準化に関する課題について検討して いる.本稿では,抗血小板薬モニター検査を取り 巻く現状とその課題について述べる. 2. アスピリン抵抗性 アスピリンは血小板cyclo-oxygenase 1(COX1) を阻害することによって thromboxane(TX)A2 の産生を阻害し,血小板凝集を抑制する.アスピ リンを服用しても血小板凝集抑制効果が十分現れ ない患者が存在し,それらの臨床予後が不良であ ることが取りざたされ “アスピリンレジスタンス” という言葉が流行した.しかし,アスピリンのター ゲット分子である COX1 阻害に直接リンクして いる血清 TXB2 は服薬コンプライアンスに問題 のない患者のほぼすべてで完全に抑制されること から,薬理学的レジスタンスは通常存在しない と考えられる 3)4) .一方,尿中 11-dehydro TXB2 やアゴニスト惹起血小板凝集は COX1 以外の要 因が絡んでくるのでアスピリン服用患者で測定結 果がばらつくのは必然であり,それらの検査結果 が臨床転帰と関連することはアスピリン以外の問 題であるにもかかわらず,語呂のいい “アスピリ ンレジスタンス” の名の下に意味づけがなされて しまった 5)6) . 実 際, 尿 中 11-dehydro TXB2 は 少量アスピリンでは阻害されないマクロファージ などの炎症細胞内 COX2 由来の分画を含んでお り,炎症疾患でもあるアテローム血栓症患者では 愛媛大学医学部附属病院輸血・細胞治療部〔〒 791-0295 愛媛県東温市志津川〕 Division of Blood Transfusion and Cell Therapy, Ehime University Hospital〔Shitsukawa, Toon, Ehime, 791-0295, Japan 〕 Tel: 089-960-5296  Fax: 089-960-5299  e-mail: [email protected] 抗血小板薬モニター検査の臨床的意義 羽藤高明 Clinical significance of monitoring tests for anti-platelet drugs Takaaki HATO 1980 年 3 月  秋田大学医学部医学科卒業 同 年 6 月 愛媛大学医学部第一内科 研修医 1984 年 4 月 同 助手 1992 年 2 月 愛媛大学医学部附属病院 輸血部 講師 1997 年 6 月 米国ScrippsResearch Institute 研究員 1999 年 6 月 愛媛大学医学部附属病院 輸血部 講師 2006 年 5 月 同 助教授 2008 年11月 同 病院教授 羽藤高明 Key words: aspirin, clopidogrel, platelet function test, P2Y12, CYP2C19 ◆特集:日本血栓止血学会学術標準化委員会◆

Upload: others

Post on 03-Nov-2021

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: p352-357 特集 羽藤氏4c - J-STAGE

血栓止血誌 23(4):352~357, 2012

1. はじめに

抗血小板薬は冠動脈疾患や脳梗塞に代表されるアテローム血栓症の治療に広く用いられており,アスピリンとクロピドグレルはその代表的薬剤である.今から 10 年ほど前にアスピリンおよびクロピドグレルによる血小板凝集抑制効果が不十分な患者は虚血性イベントの発生率が高いとする報告が出始め,薬剤レジスタンスの名の下にその原因探求と抗血小板薬モニター検査の意義について数多くの検討がなされてきた 1).さらに,最近の医療の進歩によって血栓症患者の虚血性再発イベントが大幅に減少して抗血小板薬による出血性有害事象の発生率に近づいたため,両者のバランスがよりクローズアップされるようになった 2).このような背景の中で日本血栓止血学会学術標準化委員会(SSC)の血小板部会では「抗血小板薬モニター検査」をテーマに取り上げて,検査の有用性および標準化に関する課題について検討している.本稿では,抗血小板薬モニター検査を取り巻く現状とその課題について述べる.

2. アスピリン抵抗性

アスピリンは血小板 cyclo-oxygenase 1(COX1)を阻害することによって thromboxane(TX) A2の産生を阻害し,血小板凝集を抑制する.アスピリンを服用しても血小板凝集抑制効果が十分現れない患者が存在し,それらの臨床予後が不良であることが取りざたされ“アスピリンレジスタンス”という言葉が流行した.しかし,アスピリンのターゲット分子である COX1 阻害に直接リンクしている血清 TXB2 は服薬コンプライアンスに問題のない患者のほぼすべてで完全に抑制されることから,薬理学的レジスタンスは通常存在しないと考えられる 3)4).一方,尿中 11-dehydro TXB2やアゴニスト惹起血小板凝集は COX1 以外の要因が絡んでくるのでアスピリン服用患者で測定結果がばらつくのは必然であり,それらの検査結果が臨床転帰と関連することはアスピリン以外の問題であるにもかかわらず,語呂のいい “アスピリンレジスタンス” の名の下に意味づけがなされてしまった 5)6).実際,尿中 11-dehydro TXB2 は少量アスピリンでは阻害されないマクロファージなどの炎症細胞内 COX2 由来の分画を含んでおり,炎症疾患でもあるアテローム血栓症患者では

*愛媛大学医学部附属病院輸血・細胞治療部〔〒 791-0295 愛媛県東温市志津川〕Division of Blood Transfusion and Cell Therapy, Ehime University Hospital〔Shitsukawa, Toon, Ehime, 791-0295, Japan〕Tel: 089-960-5296  Fax: 089-960-5299  e-mail: [email protected]

抗血小板薬モニター検査の臨床的意義羽 藤 高 明 *

Clinical significance of monitoring tests for anti-platelet drugsTakaaki HATO* 1980 年 3月 �秋田大学医学部医学科卒業

 同 年 6月� �愛媛大学医学部第一内科�研修医

1984 年 4月� 同 助手1992 年 2月� �愛媛大学医学部附属病院

輸血部 講師1997 年 6月� �米国Scripps�Research�

Institute 研究員1999 年 6月� �愛媛大学医学部附属病院

輸血部 講師2006 年 5月� 同 助教授2008 年11月� 同 病院教授

羽藤高明

Key words: aspirin, clopidogrel, platelet function test, P2Y12, CYP2C19

◆特集:日本血栓止血学会学術標準化委員会◆

Page 2: p352-357 特集 羽藤氏4c - J-STAGE

羽藤高明:抗血小板薬モニター検査の臨床的意義 353

心血管イベントの発生率が高いことから,“クロピドグレルレジスタンス” と称されて話題を呼んだ.これは必ずしもクロピドグレルの薬理学的抵抗性を意味しているわけではなく,クロピドグレル服用後も血小板反応性が高いままの患者が存在するというのが正確な表現である.最近ではレジスタンスという言葉よりも high(on-treatment) platelet reactivity(HPR)といった用語が使われている.HPR は少なくとも急性冠症候群でのPCI 施行患者においては心血管イベント再発のリスク因子になることが繰り返し報告されている 9)‐11).

クロピドグレルは肝でcytochrome P450(CYP)の代謝を受けた後に活性型となる.この活性変換に CYP2C19 の遺伝子多型が関連しており,CYP2C19*2 や *3 は機能欠失型なので薬理学的には HPR の一因になる.この遺伝子型患者は心血管イベント発生率が高いとする報告が出たのを契機に米国では遺伝子検査の臨床導入を巡る大騒ぎになった.しかし,最近のメタ解析によれば小規模スタディに付随するバイアスを処理するとCYP2C19*2 と心血管イベント発生との間に有意な相関はなくなり,機能欠失型は臨床予後に影響を与えるほどのインパクトはないとの結論になっている 12)13).ただし,冠動脈ステント血栓症の発生に限っては明らかな相関があり,ステントの

その分画が高値となり,特に,高齢,高血圧,喫煙,糖尿病,末梢動脈疾患合併などのアテローム硬化要因を持つ患者では心血管イベントが多いという古典的関連があたかもアスピリンレジスタンスと関連づけられてしまったように思われる 5).さらに,アスピリンレジスタンスを示す患者にクロピドグレルを投与しても心血管イベントは減らないという解析結果は,アスピリンレジスタンスの概念がアスピリン固有の問題でないことをまさに裏付けている 7).

3. クロピドグレル抵抗性

クロピドグレルは ADP 受容体の一つであるP2Y12 受容体の阻害薬である.P2Y12 は ADP凝集に必須の分子であるばかりか,さまざまな刺激による血小板凝集に必須の「GPIIb-IIIa 受容体の活性化」を維持するために必要なシグナルを送って凝集を安定化させている 8)(図 1).さらに,生体内では PGI2 が血小板凝集を抑制する方向に作用しているが,P2Y12 からのシグナルはこの抑制を解除する 8).したがってクロピドグレルはP2Y12 が中心的役割を演じている血小板血栓形成の維持機構をうまく阻害する薬剤といえる.

クロピドグレル服用後の血小板凝集抑制効果にはかなりの個人差があり,効果不十分な患者は

図1

図 1  血小板凝集における P2Y12 受容体の役割 8)

P2Y12は Gi 蛋白質を介して ADP 凝集を起こすほか,他のアゴニストによる血小板凝集を安定化させ,放出反応を促進させる.また,生体内では prostacyclin (PGI2)が adenylyl cyclase (AC)を活性化して cAMP を増加させ,血小板凝集を抑制しているが,P2Y12 は AC を抑制することによって PGI2 の作用に拮抗する.クロピドグレルはこれらの P2Y12 の作用を阻害する.

Page 3: p352-357 特集 羽藤氏4c - J-STAGE

日本血栓止血学会誌 第 23 巻 第 4 号354

ような人工物表面上で高ずり応力がかかる部位に生じる血栓に抗血小板薬が多大な影響を及ぼすことはこれまでの血栓形成機序の基礎研究結果と符合する事実である.一方,CYP2C19*17 は逆に機能獲得型であり,クロピドグレルによる出血リスク因子になるとされている 13)14).しかし,出血評価基準が数多く存在することからわかるように出血の臨床評価は容易ではなく,最近提唱された標準評価法(BARC 基準)での検証が必要かもしれない 15).

4. 抗血小板薬モニター検査の課題

抗血小板薬モニター検査には解決しなければならない多くの課題がある.現在,アスピリンのモニター検査はほとんど報告されていないので,P2Y12 阻害薬の検査について主な課題ごとに述べる.1)どの検査法が最適か?

1963 年に Born らが報告した血小板凝集計(LTA)は世界で最も普及している血小板機能検査であり,その歴史的意味合いから “gold stand-ard” の検査とされている.しかし,この機器は先

天性出血性疾患の診断には長年の実績があるものの抗血小板薬モニター検査として “gold stand-ard” になり得るのかは疑問があり,検査の至適条件も未だ定まっていない 16).代表的な検査を表 1に示すが,佐藤による最近の本誌総説に各検査の特徴が詳述されているので参照されたい 17).どの検査が臨床転帰と最もよく相関するのかを決定するためには,同一患者に複数の検査を行って直接比較する大規模臨床試験が必要であるが,最近,そのような試験(Popular study)が実施された 18).心血管イベントの発症と相関があったのは LTA, VerifyNow, Plateletworks の 3 つであり,PFA-100 と IMPACT-R は相関がなかった.Popular 試験では検討されなかった Multiplateと VASP については,両者を直接比較した 2 つの試験があるが,全く相反する結果になっている 19)20).現在のところ,どの検査が最も優れているのかについて定まった見解はない.なお,本邦では表 1 にあげた機器のうち LTA 以外は医療用機器として認可されておらず,ごく限られた施設にしか普及していない.2)いつ検査するのがよいか?

心疾患患者を対象としたほとんどのスタディで

表 1  代表的な抗血小板薬モニター検査

検 査(販売元)

方 法(クロピドグレル) 利 点 欠 点

Light Transmission Aggregometry (LTA)

(LMS, Chrono-Log 等)

ADP 惹起血小板凝集を光透過度で測定

歴史的な gold standard 法最も普及している

手技が標準化されていない手作業が多く時間がかかる

VerifyNow(Accumetrics)

PGE1 存在下の ADP 刺激血小板とフィブリノーゲン被覆ビーズの凝集を比濁法で測定

全血入り採血管をセットして 3分で結果を自動表示Point-of-care test

単回測定カセットが高価(6800 円)

Multiplate Analyzer(Roche)

ADP 刺激血小板が金属電極に粘着・凝集することによって生じる電気抵抗の変化を測定

全血を用いた迅速な測定Point-of-care test

ピペッティング操作必要(半自動)

PFA-100(Siemens)

ずり応力負荷条件下におけるコラーゲン/ADP(/PGE1)刺激血小板凝集を測定

全血を用いた迅速な測定Point-of-care test

結果がヘマトクリットとvWF 活性に影響される

Plateletworks(Helena Lab.)

EDTA 試験管と ADP 含有試験管に全血を入れて振盪後,非凝集血小板数を測定

試験管だけなので安価Point-of-care test

採血後 5-10 分の間に測定しないと凝集が解離

VASP phosphorylation(Biocytex)

血小板内蛋白 VASP のリン酸化を Flow cytometry で測定

薬剤ターゲットに近い分子の変化を検出検体は室温 48 時間保存可

時間と熟練が必要(検査会社に測定依頼?)

Page 4: p352-357 特集 羽藤氏4c - J-STAGE

羽藤高明:抗血小板薬モニター検査の臨床的意義 355

ター検査においても必要になってくることが予測され,Multiplate や VerifyNow ではそのような治療域が提唱されてきている 21)24)25)(図 3).4)遺伝子検査よりもすぐれているか?

遺伝子検査と血小板機能検査のどちらが臨床的に有用であろうか? 遺伝子検査の結果は何回やろうと同じ答えで安定しているが,臨床転帰との相関には限界が示されている.血小板機能検査は結果がばらついて不安定であるが,臨床転帰との相関は遺伝子検査よりも大きいようである.クロピドグレル反応性関連遺伝子を全ゲノムで検索した GWAS では CYP2C19*2 のみが同定されたが,この遺伝子型は血小板機能検査による HPR の原因の 12%にしか関与していなかったので,遺伝

は PCI 時に検査が行われていて,しかもその 1回限りの検査値と予後の相関が検討されている.最近,PCI 患者に対して VerifyNow によるモニター検査を PCI 時,その 1ヶ月後,6ヶ月後と経時的に測定するスタディが行われ,心血管イベントの発生と最も相関していたのは PCI 時よりも1ヶ月後の検査値であった 21)(図2).ただ,発症1ヶ月も経ってからでは急性期イベントはもう終わっているので,いつ行うのが臨床的にベストなのかについては問題を残している.3)臨床転帰と相関するカットオフ値は?

抗血小板薬モニター検査で HPR 患者を選別するためにはカットオフ値を決める必要がある.最近,国際的な HPR 作業部会がこれまでのエビデンスに基づいたカットオフ値の合意基準を提示している 9)(表 2).ただ,これはゆるぎない基準というほどのものではなく,疾患や人種によっても変わってくるであろう.逆に,LPR(low platelet reactivity)を示す検査値と出血性イベントとの関連については一定の見解が得られていない 18)22)23).しかし,プラスグレルやチカグレロールなどの新規 P2Y12 阻害薬はクロピドグレル反応良好群と同等もしくはそれ以上に血小板機能を抑制するので 、 将来はワルファリンの PT-INR 検査と同様に,HPR と LPR の間の至適治療域(therapeutic window)の設定が血小板モニ

Therapeutic windowTherapeutic window

ト害

イベ

虚血イベント出血イベント

有害

L Hi hO i l

残存P2Y12受容体活性

Low High

V if N (PRU) 86 238

Optimal

VerifyNow (PRU)

Multiplate (AU/min)

86

189

238

467

図 3  P2Y12 阻害薬の therapeutic window虚血・出血イベントは直線的増加ではなく,ある閾値を越えると急激に増加することと,VerifyNow, Multiplateの検査値が必ずしも残存 P2Y12 受容体活性と比例しているわけではないことに注意.図は文献 10)を改変し,therapeutic window 値は文献 21)24)より引用.

表 2  PCI 患者における High platelet reactivity(HPR)の判定基準 9)

検 査 カットオフ値血小板凝集計(LTA)

(5μM ADP 凝集)>46% 最大凝集率

VerifyNow >235 to 240 PRUMultiplate analyzer >468 AU/minVASP phosphorylation >50% PRI

図 2  虚血性心疾患患者における PCI 時(baseline)とその1ヶ月後の血小板反応性別の心血管イベント発生率 21)

血小板反応性は VerifyNow で測定し,PRU ≧ 235 を poor R (responder)とした.Baseline と 1ヶ月後の検査結果の組み合わせに応じて 4 群に分けている.

Page 5: p352-357 特集 羽藤氏4c - J-STAGE

日本血栓止血学会誌 第 23 巻 第 4 号356

子検査と血小板機能検査は独立マーカーと捉えてよい 26).どちらか一方の検査が他方を凌駕するようなパワーは持ち合わせておらず,むしろ相補的な役割を有する検査といえる 27).したがって,これら 2 つの検査を組み合わせて予後予測に用いることは単独よりも優れている可能性があるが,それを目的とした臨床試験はまだない 28)29).5)個別化医療に使えるか?

抗血小板薬モニター検査の目標は,その検査結果に基づいて個別に修正した治療法が患者の予後を改善することであり,その検証が臨床検査としての正当性を評価するのに必須であることは論を待たない.最近,血小板機能検査で判定されるクロピドグレル反応性低下患者の予後がクロピドグレルを増量することによって改善できるかどうかを検討した 2 つの大規模無作為試験が行われたが,いずれも改善できないとの結果に終わった 30)31).このことは血小板機能検査で判断される結果を修飾することに臨床的意義がないのかあるいは少なくともクロピドグレルの増量では対応できないことを示唆している.現在,血小板機能検査を指標にしたプラスグレルの投与量増減が予後の改善につながるのかをみる試験(ANTRAC-TIC)が進行中である.一方,遺伝子検査の結果に基づく抗血小板薬投与量変更の大規模臨床試験の報告はまだないが,CYP2C19*2 によるクロピドグレル反応性低下は服薬量を増やす方法では克服困難であることが示されていて 32),遺伝子検査を指標にしたプラスグレルへの変更が予後を改善するかどうかをみる大規模臨床試験(PAPI-2)が進行中である.

5. おわりに

抗血小板薬モニター検査の臨床的意義はまだ確立されておらず,一般臨床検査として推奨される段階にはない.抗血小板薬モニター検査によってアスピリン・クロピドグレルの標準治療下にある患者の中から虚血および出血イベントの両ハイリスク患者を選別して,それらに個別治療を行うことの臨床的有益性の証明が今後の重要なポイントになるが,費用対効果を考えるとモニタリング不要な方法をめざすべきとの議論もある 33).また,

これまでの研究は心疾患での検討が中心で脳梗塞での検討は極めて少ない.心筋梗塞と脳梗塞はアテローム血栓症(ATIS)に包括されるも臓器特異的な抗血小板薬レジメンが必要なことは,アスピリン・クロピドグレル併用がそれぞれに及ぼす影響が異なること,心筋梗塞に優れた効果を発揮するプラスグレルは脳梗塞既往患者では出血イベントの増加で有用性を失うことが物語っており,疾患ごとの検討が必要である 34)35).今後,血小板部会では抗血小板薬モニター検査に関する問題点を検証し,学会を通じて最新情報を提供していく予定である.

Disclosure of Conflict of InterestThe author indicated no conflict of interest.

文  献 1) Maree AO, Fitzgerald DJ:Variable platelet response to aspirin

and clopidogrel in atherothrombotic disease. Circulation 115:2196-2207, 2007.

2) Steg PG, Huber K, Andreotti F, Arnesen H, Atar D, Badimon L, Bassand JP, De Caterina R, Eikelboom JA, Gulba D, Hamon M, Helft G, Fox KA, Kristensen SD, Rao SV, Verheugt FW, Widimsky P, Zeymer U, Collet JP:Bleeding in acute coronary syndromes and percutaneous coronary interventions:position paper by the Working Group on Thrombosis of the European Society of Cardiology. Eur Heart J 32:1854-1864, 2011.

3) Frelinger AL, 3rd, Furman MI, Linden MD, Li Y, Fox ML, Barnard MR, Michelson AD:Residual arachidonic acid-induced platelet activation via an adenosine diphosphate-dependent but cyclooxygenase-1- and cyclooxygenase-2-independent pathway:a 700-patient study of aspirin resistance. Circulation 113:2888-2896, 2006.

4) Ohmori T, Yatomi Y, Nonaka T, Kobayashi Y, Madoiwa S, Mimuro J, Ozaki Y, Sakata Y:Aspirin resistance detected with aggregometry cannot be explained by cyclooxygenase activity:involvement of other signaling pathway(s) in cardiovascular events of aspirin-treated patients. J Thromb Haemost 4:1271-1278, 2006.

5) Eikelboom JW, Hankey GJ, Thom J, Bhatt DL, Steg PG, Montalescot G, Johnston SC, Steinhubl SR, Mak KH, Easton JD, Hamm C, Hu T, Fox KA, Topol EJ:Incomplete inhibition of thromboxane biosynthesis by acetylsalicylic acid:determinants and effect on cardiovascular risk. Circulation 118:1705-1712, 2008.

6) Frelinger AL, 3rd, Li Y, Linden MD, Barnard MR, Fox ML, Christie DJ, Furman MI, Michelson AD:Association of cy-clooxygenase-1-dependent and -independent platelet function assays with adverse clinical outcomes in aspirin-treated patients presenting for cardiac catheterization. Circulation 120:2586-2596, 2009.

7) Krasopoulos G, Brister SJ, Beattie WS, Buchanan MR:Aspirin “resistance” and risk of cardiovascular morbidity:systematic review and meta-analysis. BMJ 336:195-198, 2008.

8) Cattaneo M:New P2Y(12) inhibitors. Circulation 121:171-179, 2010.

9) Bonello L, Tantry US, Marcucci R, Blindt R, Angiolillo DJ,

Page 6: p352-357 特集 羽藤氏4c - J-STAGE

羽藤高明:抗血小板薬モニター検査の臨床的意義 357

Coll Cardiol 57:2474-2483, 2011.22) Ferreiro JL, Sibbing D, Angiolillo DJ:Platelet function testing

and risk of bleeding complications. Thromb Haemost 103:1128-1135, 2010.

23) Sibbing D, Byrne RA, Kastrati A:Role of platelet function testing in clinical practice:current concepts and future perspec-tives. Curr Drug Targets 12:1836-1847, 2011.

24) Sibbing D, Steinhubl SR, Schulz S, Schomig A, Kastrati A:Platelet aggregation and its association with stent thrombosis and bleeding in clopidogrel-treated patients:initial evidence of a therapeutic window. J Am Coll Cardiol 56:317-318, 2010.

25) Patti G, Pasceri V, Vizzi V, Ricottini E, Di Sciascio G:Useful-ness of platelet response to clopidogrel by point-of-care testing to predict bleeding outcomes in patients undergoing percutaneous coronary intervention (from the Antiplatelet Therapy for Reduc-tion of Myocardial Damage During Angioplasty-Bleeding Study). Am J Cardiol 107:995-1000, 2011.

26) Shuldiner AR, O'Connell JR, Bliden KP, Gandhi A, Ryan K, Horenstein RB, Damcott CM, Pakyz R, Tantry US, Gibson Q, Pollin TI, Post W, Parsa A, Mitchell BD, Faraday N, Herzog W, Gurbel PA:Association of cytochrome P450 2C19 genotype with the antiplatelet effect and clinical efficacy of clopidogrel therapy. JAMA 302:849-857, 2009.

27) Angiolillo DJ:Unraveling myths of platelet function and genetic testing the road to making tailored antiplatelet therapy a reality. J Am Coll Cardiol 57:2484-2486, 2011.

28) Gurbel PA, Tantry US, Shuldiner AR, Kereiakes DJ:Genotyp-ing One Piece of the Puzzle to Personalize Antiplatelet Thera-py. J Am Coll Cardiol 56:112-116, 2010.

29) Ahmad T, Voora D, Becker RC:The pharmacogenetics of an-tiplatelet agents:towards personalized therapy? Nat Rev Car-diol 8:560-571, 2011.

30) Price MJ, Berger PB, Teirstein PS, Tanguay JF, Angiolillo DJ, Spriggs D, Puri S, Robbins M, Garratt KN, Bertrand OF, Stillabower ME, Aragon JR, Kandzari DE, Stinis CT, Lee MS, Manoukian SV, Cannon CP, Schork NJ, Topol EJ:Standard- vs high-dose clopidogrel based on platelet function testing after percutaneous coronary intervention:the GRAVITAS randomized trial. JAMA 305:1097-1105, 2011.

31) Parodi G, Marcucci R, Valenti R, Gori AM, Migliorini A, Giusti B, Buonamici P, Gensini GF, Abbate R, Antoniucci D:High residual platelet reactivity after clopidogrel loading and long-term cardiovascular events among patients with acute coronary syndromes undergoing PCI. JAMA 306:1215-1223, 2011.

32) Mega JL, Hochholzer W, Frelinger AL, 3rd, Kluk MJ, Angiolillo DJ, Kereiakes DJ, Isserman S, Rogers WJ, Ruff CT, Contant C, Pencina MJ, Scirica BM, Longtine JA, Michelson AD, Sabatine MS:Dosing clopidogrel based on CYP2C19 genotype and the effect on platelet reactivity in patients with stable cardiovascu-lar disease. JAMA 306:2221-2228, 2011.

33) Cattaneo M:Response variability to clopidogrel:is tailored treatment, based on laboratory testing, the right solution? J Thromb Haemost 10:327-336, 2012.

34) Diener HC, Bogousslavsky J, Brass LM, Cimminiello C, Csiba L, Kaste M, Leys D, Matias-Guiu J, Rupprecht HJ:Aspirin and clopidogrel compared with clopidogrel alone after recent ischae-mic stroke or transient ischaemic attack in high-risk patients

(MATCH):randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet 364:331-337, 2004.

35) Wiviott SD, Braunwald E, McCabe CH, Montalescot G, Ruzyllo W, Gottlieb S, Neumann FJ, Ardissino D, De Servi S, Murphy SA, Riesmeyer J, Weerakkody G, Gibson CM, Antman EM:Prasugrel versus clopidogrel in patients with acute coronary syndromes. N Engl J Med 357:2001-2015, 2007.

Becker R, Bhatt DL, Cattaneo M, Collet JP, Cuisset T, Gachet C, Montalescot G, Jennings LK, Kereiakes D, Sibbing D, Trenk D, Van Werkum JW, Paganelli F, Price MJ, Waksman R, Gurbel PA:Consensus and future directions on the definition of high on-treatment platelet reactivity to adenosine diphosphate. J Am Coll Cardiol 56:919-933, 2010.

10) Sibbing D, Byrne RA, Bernlochner I, Kastrati A:High platelet reactivity and clinical outcome - fact and fiction. Thromb Haemost 106:191-202, 2011.

11) Brar SS, ten Berg J, Marcucci R, Price MJ, Valgimigli M, Kim HS, Patti G, Breet NJ, DiSciascio G, Cuisset T, Dangas G:Impact of platelet reactivity on clinical outcomes after percu-taneous coronary intervention. A collaborative meta-analysis of individual participant data. J Am Coll Cardiol 58:1945-1954, 2011.

12) Holmes MV, Perel P, Shah T, Hingorani AD, Casas JP:CYP2C19 genotype, clopidogrel metabolism, platelet function, and cardiovascular events:a systematic review and meta-analysis. JAMA 306:2704-2714, 2011.

13) Zabalza M, Subirana I, Sala J, Lluis-Ganella C, Lucas G, Tomas M, Masia R, Marrugat J, Brugada R, Elosua R:Meta-analyses of the association between cytochrome CYP2C19 loss- and gain-of-function polymorphisms and cardiovascular outcomes in patients with coronary artery disease treated with clopidogrel. Heart 98:100-108, 2012.

14) Sibbing D, Koch W, Gebhard D, Schuster T, Braun S, Stegherr J, Morath T, Schomig A, von Beckerath N, Kastrati A:Cyto-chrome 2C19*17 allelic variant, platelet aggregation, bleeding events, and stent thrombosis in clopidogrel-treated patients with coronary stent placement. Circulation 121:512-518, 2010.

15) Mehran R, Rao SV, Bhatt DL, Gibson CM, Caixeta A, Eikelboom J, Kaul S, Wiviott SD, Menon V, Nikolsky E, Serebruany V, Valgimigli M, Vranckx P, Taggart D, Sabik JF, Cutlip DE, Krucoff MW, Ohman EM, Steg PG, White H:Standardized bleeding definitions for cardiovascular clinical trials:a consen-sus report from the Bleeding Academic Research Consortium. Circulation 123:2736-2747, 2011.

16) Cattaneo M, Hayward CP, Moffat KA, Pugliano MT, Liu Y, Michelson AD:Results of a worldwide survey on the assessment of platelet function by light transmission aggregometry:a report from the platelet physiology subcommittee of the SSC of the ISTH. J Thromb Haemost 7:1029, 2009.

17) 佐藤金夫:全血を試料とする血小板機能評価法.日本血栓止血学会誌 23:288-293, 2012.

18) Breet NJ, van Werkum JW, Bouman HJ, Kelder JC, Ruven HJ, Bal ET, Deneer VH, Harmsze AM, van der Heyden JA, Rensing BJ, Suttorp MJ, Hackeng CM, ten Berg JM:Comparison of platelet function tests in predicting clinical outcome in patients undergoing coronary stent implantation. JAMA 303:754-762, 2010.

19) Siller-Matula JM, Christ G, Lang IM, Delle-Karth G, Huber K, Jilma B:Multiple electrode aggregometry predicts stent thrombosis better than the vasodilator-stimulated phosphoprotein phosphorylation assay. J Thromb Haemost 8:351-359, 2010.

20) Freynhofer MK, Brozovic I, Bruno V, Farhan S, Vogel B, Jakl G, Willheim M, Hubl W, Wojta J, Huber K:Multiple electrode ag-gregometry and vasodilator stimulated phosphoprotein-phosphor-ylation assay in clinical routine for prediction of postprocedural major adverse cardiovascular events. Thromb Haemost 106:230-239, 2011.

21) Campo G, Parrinello G, Ferraresi P, Lunghi B, Tebaldi M, Miccoli M, Marchesini J, Bernardi F, Ferrari R, Valgimigli M:Prospective evaluation of on-clopidogrel platelet reactivity over time in patients treated with percutaneous coronary intervention relationship with gene polymorphisms and clinical outcome. J Am