open cafe system: 自然環境分野におけるfoss4gパッケージの … · -17 - gis...

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17 GIS -理論と応用 Theory and Applications of GIS, 2011, Vol. 19, No.1, pp.17- 23 【研究・技術ノート】 1.はじめに GIS に関わる様々な理論的・応用的研究が多くの 研究者たちによって追究され,主に独自開発ツール や商用 GIS アプリケーションを用いることでその 成果が蓄積されてきた.一方で近年,オープンソー スの GIS アプリケーション群 Free and Open Source Software for Geospatial (以下 FOSS4Gの開発が進んで いる(例えば,Sanz and Montesinos, 2009).FOSS4G はオープンソースゆえ,コスト上の制約により既存 GIS 利用が困難だった場面等での活用が期待される. しかし,その一方で,FOSS4G の普及が進んでいな いことも指摘されている(Camara et al., 2009). 本稿では特に自然環境分野に焦点を絞り,既存の FOSS4G 活用事例に関してレビューを行い,技術的 な敷居の高さが FOSS4G 活用拡大に向けた課題で あることを指摘する.次に,上記課題を解決するた めに,新たな FOSS4G パッケージである Open Cafe System を開発し,その適用事例を紹介する. 2.既存技術における課題 まず,自然環境分野における FOSS4G の活用事例 と し て,Cannata and Molinari 2008による GRASS を用いた自然災害のリスク評価,Vanmeulebrouk et al. 2008による GeoServer 等を利用した鳥類管理, Jolma et al. 2008による環境モデリングと管理, Steiniger and Hay 2009による景観生態学分野への適 用可能性検討,岩崎ほか(2009による歴史的農業 環境閲覧システム等,多くの事例が報告されている. また,研究的な事例のみならず,Christl 2008による FOSS4G を用いたビジネスモデルの体系的 整理や,Sveen 2008による商用利用時のアプリ ケーションの評価・選択方法の検討など,商用利用 促進の取り組みも始まっている.さらに,空間デー タ基盤(SDI)の構築に向けた FOSS4G の活用可能 * 正会員 特定非営利活動法人オープンコンシェルジュ(NPO OpenConcierge102-0074 東京都千代田区九段南 3-9-11-902 E-mail[email protected] ** 正会員 東京大学空間情報科学研究センター(Center for Spatial Information Science, The University of TokyoOpen Cafe System: 自然環境分野における FOSS4G パッケージの開発と適用 中山悠 *・中村和彦 *・齋藤仁 **・福本塁 * Open Cafe System: Development and Application of FOSS4G Package in Natural Environment Studies Yu NAKAYAMA*, Kazuhiko NAKAMURA*, Hitoshi SAITO**, Rui FUKUMOTO* Abstract: Although the significant progress in Free and Open Source Software for Geospatial FOSS4Gdevelopment, the application of FOSS4G has not so progressed because of its lack of usability. To improve usability of FOSS4G, we developed a FOSS4G based Web-GIS package called Open Cafe System OCS. Users make use of OCS with web-browsers, without struggling with FOSS4G, because FOSS4G works on back-end in OCS. OCS has four types of architecture, namely, Ubiquitous, Hub, Local, and Separate that are classified based on the network infrastructure. Each type of OCS has a compensatory function for the lack of networks to use OCS without network in the natural environmental fields where networks are often unavailable. From application studies for various fields of natural environment, it was suggested that the functions of network compensation enable the users to make use of OCS without consciousness of network infrastructure. Keywords: FOSS4GOpen Cafe System,運用簡易性(usability),自然環境(natural envi- ronment

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GIS-理論と応用Theory and Applications of GIS, 2011, Vol. 19, No.1, pp.17-23

【研究・技術ノート】

1.はじめに GISに関わる様々な理論的・応用的研究が多くの研究者たちによって追究され,主に独自開発ツールや商用 GISアプリケーションを用いることでその成果が蓄積されてきた.一方で近年,オープンソースの GISアプリケーション群 Free and Open Source

Software for Geospatial (以下FOSS4G) の開発が進んでいる(例えば,Sanz and Montesinos, 2009).FOSS4G

はオープンソースゆえ,コスト上の制約により既存GIS利用が困難だった場面等での活用が期待される.しかし,その一方で,FOSS4Gの普及が進んでいないことも指摘されている(Camara et al., 2009). 本稿では特に自然環境分野に焦点を絞り,既存のFOSS4G活用事例に関してレビューを行い,技術的な敷居の高さが FOSS4G活用拡大に向けた課題であることを指摘する.次に,上記課題を解決するために,新たな FOSS4Gパッケージである Open Cafe

Systemを開発し,その適用事例を紹介する.

2.既存技術における課題 まず,自然環境分野における FOSS4Gの活用事例として,Cannata and Molinari (2008) による GRASS

を用いた自然災害のリスク評価,Vanmeulebrouk et

al. (2008) による GeoServer等を利用した鳥類管理,Jolma et al. (2008) による環境モデリングと管理,Steiniger and Hay (2009) による景観生態学分野への適用可能性検討,岩崎ほか(2009) による歴史的農業環境閲覧システム等,多くの事例が報告されている. また,研究的な事例のみならず,Christl (2008) による FOSS4Gを用いたビジネスモデルの体系的整理や,Sveen (2008) による商用利用時のアプリケーションの評価・選択方法の検討など,商用利用促進の取り組みも始まっている.さらに,空間データ基盤(SDI)の構築に向けた FOSS4Gの活用可能

* 正会員 特定非営利活動法人オープンコンシェルジュ(NPO OpenConcierge)     〒 102-0074 東京都千代田区九段南 3-9-11-902  E-mail:[email protected]** 正会員  東京大学空間情報科学研究センター(Center for Spatial Information Science, The University of

Tokyo)

Open Cafe System: 自然環境分野における FOSS4G パッケージの開発と適用中山悠 *・中村和彦 *・齋藤仁 **・福本塁 *

Open Cafe System: Development and Application of FOSS4G Package in Natural Environment Studies

Yu NAKAYAMA*, Kazuhiko NAKAMURA*, Hitoshi SAITO**, Rui FUKUMOTO*

Abstract: Although the significant progress in Free and Open Source Software for Geospatial (FOSS4G) development, the application of FOSS4G has not so progressed because of its lack of usability. To improve usability of FOSS4G, we developed a FOSS4G based Web-GIS package called Open Cafe System (OCS). Users make use of OCS with web-browsers, without struggling with FOSS4G, because FOSS4G works on back-end in OCS. OCS has four types of architecture, namely, Ubiquitous, Hub, Local, and Separate that are classified based on the network infrastructure. Each type of OCS has a compensatory function for the lack of networks to use OCS without network in the natural environmental fields where networks are often unavailable. From application studies for various fields of natural environment, it was suggested that the functions of network compensation enable the users to make use of OCS without consciousness of network infrastructure.

Keywords: FOSS4G,Open Cafe System,運用簡易性(usability),自然環境(natural envi-ronment)

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性の検討 (Steiniger and Hunter, 2010) や,地方自治体への導入可能性の検討(植村・丸太,2010) も行われている. 一方で FOSS4Gのシェア拡大,普及が進んでいない原因として,大きく 2 点が指摘されている.すなわち,様々な関連アプリケーションの乱立 (Camara

et al., 2009) と,技術的な敷居の高さ (Steiniger and

Bocher, 2009;植村・丸太,2010) である. これら課題の解決に向けた取り組みは,これまでにも行われている.例えば,Orshoven et al. (2009)により利用者育成のトレーニングが行われ,効果を挙げている.こうした教育活動は直接的に FOSS4G

を利用可能な技術者を増やす効果がある.しかし,FOSS4G自体の技術的な敷居を下げることはできず,その効果は限定的であるという面がある. そこで,FOSS4G導入時の技術的障害を取り除くための手法として,数多くのアプリケーションから選択されたアプリケーションのみを一括導入可能にするパッケージが作成されている.代表的なものとして,OpenGeoによる OpenGeo Suite,Autodesk, Inc.

によるMapGuide Open Source,仮想マシンとして OS

ごとパッケージ化することで環境依存性を解決したGISVM (Pinho, 2009) ,LiveDVDによりインストールを不要とした OSGeoLive等が挙げられる.これらは,乱立するアプリケーションの中から適切なものを選択し,相互依存関係を考慮して環境構築を行う,という煩雑な作業を削減する点で有意義である. しかしながら,これらの既存技術を用いても,FOSS4Gの技術的な敷居の高さを解決するには不十分と考えられる.なぜならば,これらは FOSS4G

の導入に焦点を当て,これを容易としている一方で,その後の運用を容易にしているとは限らないためである.すなわち,各種アプリケーションを一括導入し多機能な環境を構築可能であるがゆえに,特にGIS技術者でない者にとっては目的とする作業を行うための手順が見えにくくなる等,運用が煩雑になると考えられる.特に,今後 FOSS4Gの活用が期待される主体として,これまで経済的あるいは技術的制約により,GISを導入できなかったユーザが含まれることを考慮すると,このような運用上の技術

的敷居の高さを解消する必要があると考えられる.また運用簡易化は,FOSS4Gのみならず,GIS全体の発展にも寄与する取り組みであると考えられる. 以上から,本稿では,FOSS4Gの課題である導入および運用の困難さを低減するための手法を明確化し,それを自然環境分野で実現するパッケージ Open

Cafe System (以下 OCS,中山,2010) を開発した.

3.OCS の構成3.1.運用簡易化の方針 運用簡易化の方針として,アプリケーション開発から導入後のトレーニングまで,各種段階における方策が考えられる.本稿では特に,既存技術の延長としてパッケージ化による使い易さ向上に焦点を当てて検討を行った.また,実際にシステムを利用するユーザをエンドユーザと呼称し,エンドユーザにとっての運用性を向上させることを目的とした. そのために OCSでは,クライアント‐サーバモデルから成るWeb-GISの採用および,Content

Management System(以下 CMS)を利用した FOSS4G

のバックエンド化,すなわちラッピングを行った. まずWeb-GIS採用に関して述べる.Web-GISは,一般的なWebブラウザ等を通じて利用できるためエンドユーザの利用促進に繋がることが指摘されている(岩崎ほか,2009).特に,教育分野でのWeb-GIS

利用例(例えば,村山,2002;小口,2005;藤木ほか,2005)が多いことは,非技術者への運用簡易化におけるWeb-GISの有効性を示唆していると考えられる.よって,専門的な知識や技術を持たずに FOSS4Gを利用するための方策としてWeb-GISを採用した. 次に CMSを利用したラッピングに関して述べる.CMSとは,Web上のデジタルコンテンツを統合的に管理し,配信等の処理を行うシステムである.Web

システム一般に関して,CMS適用により,作業の定形化など,非技術者による運用を容易にできることが指摘されている(Browning and Lowndes, 2001).一方で,既存の FOSS4G適用事例においては,CMSを利用したものは少ない.そこで OCSでは,ユーザインタフェースに CMSを利用することで FOSS4Gのラッピングを行った.ラッピングにより,エンドユー

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ザは FOSS4Gを意識せずにWeb-GISを運用可能となり,運用簡易性を向上できると考えられる.

3.2.OCSの内部構成 OCSの内部構成を図 1に示す.OCSはサーバおよびクライアントを含めたシステムである. サーバ側では,CMS(Drupal)と各種 FOSS4GがOS(Ubuntu版 Linux)上で動作する.地理空間データは主に PostGIS(http://postgis.refractions.net/)に格

納される.PostGISは,オブジェクト関係データベース管理システムである PostgreSQLの機能を拡張し,空間オブジェクトを利用可能とするものであ

る.GIS サーバとして GeoServer(http://geoserver.

org/)を採用し,Webを通じ地図を画像として配信するWMS(Web Map Service)や,GML(Geography

Markup Language) と し て 配 信 す る WFS(Web

Feature Service)をサポートする.GeoServerに登録

されたデータのスタイル表現には SLD(Styled

Layer Descriptor) を 用 い,GeoWebCache に よ りWMSやWFSリクエスト時にデータのキャッシュを行い,処理を高速化している.さらに,ユーザインタフェースを担う CMSにより,これらを統合的に管理する.すなわち CMS上で OpenLayers(http://

openlayers.org/)を用い,Webページに GeoServerを通したWMSやWFSを組込む.さらにデータベースへのクエリ等を PHPスクリプトにより制御することで,Web-GISを実現している. クライアント側は,Webブラウザまたは専用アプリケーションを用いて OCSサーバにアクセスし上記機能を利用する.すなわち,一般的なWebブラウザによってサーバ側の CMSが生成したWebページの閲覧が可能な一方,OCSサーバ利用に最適化したアプリケーションを用いてより簡易に OCSサーバ機能を利用することも可能である(福本ほか,2010a).

4.OCS の適用4.1.OCS適用の方針 OCSを自然環境分野へ適用するにあたり,ネットワーク環境が重要な問題となる.すなわち,Web-GIS活用にはネットワークが不可欠な一方,自

然環境分野では,ネットワーク接続が容易な地域のみならず,それが困難な地域で GIS活用が望まれる場合がある. しかし非技術者のエンドユーザにとって,ネットワーク環境に応じて柔軟に設定や利用を行うことは難しい.つまり,ネットワーク環境の差異を吸収する補償機能を導入することで,エンドユーザがネットワーク環境の差異を意識する必要がなくなり,運用を簡易化できると考えられる.そこで OCSの適用形態をネットワーク環境に応じて 4種類に類型化し,各形態に合わせたネットワーク補償機能を開発した(4.2節). ここで,システムの有効性の評価に関して,定量的評価が困難であるため,類似システムと比較して総合的あるいは部分的な優位性が了解できることが重要とされている(栄藤,2010).よって本稿では,各形態に対応した適用事例を通じて,ネットワーク補償機能適用の有効性を検討した.

4.2.OCSの適用形態 まず,OCSにおけるネットワーク環境を図 2に示す.これは,Lu(2005)によって図式化されたWeb-GISにおけるプラットフォームサーバを中心としたネットワーク環境を基にしている.ここで,Lu(2005)との相違点は以下である.すなわち,クライアントは通常サーバを介して外部システムを利用し得るものと仮定し,サーバとクライアント間および外部システム間がそれぞれネットワークを介して接続されるものとした.また上記ネットワークはインターネットに限らず,LAN等も含まれる.

Dru p a lD ru p a l

PostGI SPostGI S

GeoServer

SLD

GeoW eb Cach e

Op en La yers

W MS

W FS

Op en La yers

W MS

W FS

Ub u n tu

PH P関数

SQL

PH PPH P関数

SQL

GetMap , GetFeatureI nfo

Transaction

Se rve r

W ebブラウザ

専用アプリ ケーショ ン

W ebブラウザ

専用アプリ ケーショ ン

W ebブラウザ

専用アプリ ケーショ ン

W ebブラウザ

専用アプリ ケーショ ン

Cl ien t

図1 OCSの内部構成

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 図 2のネットワーク環境をもとに,サーバとクライアントネットワーク(Client Network),および外部ネットワーク(External Network)との接続性により,OCSの適用形態を類型化した(表 1).なお,データベースネットワークに関しては,プラットフォームサーバのデータの持ち方に属する事項であり,接続性が常に担保されると仮定した. ここで,クライアントネットワークあるいは外部ネットワークとの接続性が担保されない場合には,当該ネットワークに対する補償機能を予め準備しておくことで,エンドユーザがネットワーク環境の差異を意識することなく運用可能となる. 以下に,各類型に関して述べる. A)遍在型は,クライアントネットワーク,外部ネットワークともに接続性が担保され,クライアントからサーバに対してリアルタイムのデータ取得・更新、外部データ参照などが可能な形態である.この形態は例えば,都市部における,多人数での広域的調査などに適している. B)拠点型は,外部ネットワークのみ接続性が常に担保される.サーバは外部データを取得可能な一方で,クライアントからサーバに対するデータ取得・更新が非同期的な形態である.自然地域において,

端末に保存した外部データを利用した調査などに適する.拠点型では,クライアントネットワークを補償するために,クライアント側に取得データ等を保持しておき,ネットワーク接続と同時にデータ同期を行う等の同期機能を適用する.これにより,エンドユーザはクライアントネットワークの接続を意識することが不要となる. C)限定型は,クライアントネットワークのみ接続性が常に担保され,クライアントからサーバに対してリアルタイムのデータ取得・更新などが可能な形態である.例えば,外部ネットワークが確保できないフィールドで多人数が連携して調査する場合等に適する.外部ネットワークを補償するため,他の型ではリクエストに応じ外部ネットワークから取得するデータを,予めサーバ内部に保持しておく等の蓄積機能を適用する.これにより,エンドユーザは外部ネットワークの接続を意識することが不要となる. D) 独立型は,クライアントネットワーク,外部ネットワークともに接続性が常には担保されず,クライアントからサーバに対するデータ取得・更新が非同期的で,サーバの外部データ取得も困難な形態である.独立型は,ネットワーク環境が貧弱な山間部や自然保護地域での独自運用などに適する. 独立型では,拠点型における同期機能および限定型における蓄積機能の双方を適用することで,エンドユーザは他の型と同様の運用を行うことが可能となる.

4.3.OCSの適用事例 OCS適用形態の各類型(表 1)に対応した,自然環境分野での具体的な適用事例を通じて,OCSのネットワーク補償機能の有効性を検討した.

4.3.1.遍在型 水質調査を支援するWeb-GISであるWaterVoice

を OCSにより実現した(福本ほか,2010a).携帯電話をクライアント端末として,現在位置を取得し,最寄りの河川名とその川で登録された水質を参照でき,調査後は直ちに水質情報を登録できる. 携帯電話の電波さえ届けばどこでも使用可能であるため,都市域の河川を広域的に調査する際の支援

図2 OCSのネットワーク環境

表1 OCS適用形態の類型

○: ネッ ト ワーク接続が常に担保される場合×: ネッ ト ワーク接続が常には担保されない場合

D) 独立型

C) 限定型

×

A) 遍在型○Clien t

N etw o rk B) 拠点型×

Ex tern a l N etw o rk

D ) 独立型

C) 限定型

×

A) 遍在型○Clien t

N etw o rk B) 拠点型×

Ex tern a l N etw o rk

Mob ile GI SService Clients

W eb GISService Clients

W eb GI SPlatform Server

Externa l GI S App licationsExterna l System s

DatabaseLayer

Externa lNetw ork

Externa lNetw ork

DatabaseNetw ork

DatabaseNetw ork

Clien tNetw ork

Clien tNetw ork

Mob ile GI SService Clients

W eb GISService Clients

W eb GI SPlatform Server

Externa l GI S App licationsExterna l System s

DatabaseLayer

Externa lNetw ork

Externa lNetw ork

DatabaseNetw ork

DatabaseNetw ork

Clien tNetw ork

Clien tNetw ork

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ツールとして有効であると考えられる.

4.3.2.拠点型 WaterVoiceは,拠点型 OCSとして活用するための拡張機能として,取得した水質情報をクライアントに保存し,サーバへのアクセスが成功した時点でデータベースを更新する機能を持つ (福本ほか,2010b).これが,拠点型 OCSの特徴であるクライアントネットワークの補償機能である. 携帯電話の電波が届かない山間部の河川においても,エンドユーザは都市部と同様にWaterVoiceを利用でき,さらなる広域性が担保されると考えられる.

4.3.3.限定型 森林等のフィールドにおける調査支援システムであ る TMU FSAS (Tokyo Metropolitan University Field

Survey Assistance System) を OCSにより実現した

(Nakamura et al, 2011; Nakayama et al, 2011) .OCSサーバ搭載ノート PCおよび無線 LANルータを積んだ自動車と共にフィールドを移動,無線 LANが届く範囲でクライアント端末から調査データを登録する. ここで構築されるネットワークはローカル無線LANであり,サーバ PCは外部とは接続できない.そこで,調査前に必要な背景図などをサーバ PCに保存し,外部接続無しでもそれを表示できる機能を持たせた.これが,限定型 OCSの特徴である外部ネットワークの補償機能である. これにより,外部ネットワークが利用できないフィールドにおいても,多人数が連携しての調査が可能となると考えられる.

4.3.4.独立型 国立公園の利用,管理システムを OCSにより実現した (中村ほか,2010).公園内で撮影された位置情報付きの写真を,撮影対象の類型(植物,人工物など)と共にサーバに保存し,公園内の観光資源の分布状況把握や,最短経路検索等を可能とした. 国立公園の多くは山岳部に存在し,サーバがクライアントにも外部にも常時接続できない状況が想定される.そこで,撮影した写真をクライアントに保

存しておきサーバに接続した段階でアップロードできる機能と,必要な道路データなどをサーバに保存し配信できる機能とを持たせた.これらが,独立型OCSの特徴であるクライアントネットワークおよび外部ネットワークの双方の補償機能である. サーバがネットワーク的に独立せざるを得ない山岳部等においても,エンドユーザは都市部と同様にWeb-GISを用いることが可能となると考えられる.

5. 今後の展望 本稿では,FOSS4G運用の簡易化を目的とし,Web-GIS,ラッピングおよびネットワーク補償機能を取り入れたパッケージである Open Cafe Systemを提案し,その適用事例を述べた.特に,ネットワーク環境の差異をシステム側で吸収することで,エンドユーザがネットワーク環境の差異を意識する必要がなくなり,運用を簡易化できる可能性が示された. 一方で,運用の簡易化に向けては,操作の自動化や最適なマニュアル生成,アプリケーション開発等,様々な方策が存在し得る.今後の FOSS4G普及拡大に向けては,そうした各種技術を取り入れ,より一層の簡易化を進めていくことが必要と考えられる.

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(2010年 8月 17日原稿受理,2011年 4月 20日採用決定,2011年 5月 30日デジタルライブラリ掲載)