oiml maa(型式評価国際相互受入れ取決めの枠組み)制度の動向...oiml...
TRANSCRIPT
-
は じ め に
1990年代より、法定計量制度において管理される計
量器の型式審査の結果について、国際的な相互承認制
度が広がりつつある。このような制度では計量器があ
る国で型式審査に合格すれば、その結果は輸出先の国
においても受け入れられるようになる。その結果、計
量器の自由な輸出入が促進され、ワンストップ・テス
ティング(一度だけの試験)が実現する。ここでは国
際標準的な制度となりつつあるOIML(国際法定計量
機関)のMAA制度を中心に、このような相互承認制
度の現状と展望について報告する。
OIMLの概要
近代計量制度の基礎となるメートル条約は、計量標
準の科学的かつ国際的な取り決めとして1875年に締
結された。しかしその後、市民生活に密着した商取引
や証明行為、及び計量器の信頼性を確保する社会制度
のうち、法律に基づく管理体系である法定計量制度に
対する必要性と認識が高まっていた。そこで世界各国
の法定計量制度の整合化を推進するために、メートル
条約を母体とした国際機関であるOIMLが1955年に
設立された。
OIMLには2014年の時点で60の正加盟国と67の
準加盟国がある。これらのうち正加盟国は会議におけ
る投票権を有するが、準加盟国は投票権を持たない代
わりに必要な加盟分担金の額が低く抑えられている。
OIMLの最高決議機関は国際法定計量会議(OIML総
会)で、原則として4年ごとに開催されている。国際
法定計量委員会(CIML委員会)はOIMLの理事機関
として総会を支援し、技術委員会(TC)と小委員会
(SC)を管理し、BIML(国際法定計量事務局)の活動
を監視し、OIML国際文書の作成や承認作業を行って
いる。CIML委員会は各国を代表するCIML委員で
構成され、その会議は毎年開催されている。2014年の
時点で、OIMLの代表に相当するCIML委員長は英
国のPeter Mason氏が、そしてBIMLの局長は米国
出身のStephen Patoray氏が担当している。さらに
2013年以降、計量標準総合センター(NMIJ)の三木
幸信代表は、ドイツのRoman Schwartz氏とともに
CIML委員長を支える副委員長の役割を担っている。
OIML証明書制度の概要
. 法定計量制度における計量器の管理手法
多くの国家において、消費者保護、産業の振興、そ
して国際貿易の円滑化という観点から、一部の計量器
が法定計量制度において法律に基づいて規制・管理さ
れている。このような計量器は我が国では特定計量器
と呼ばれており、商取引用のはかり、ガソリンスタン
ドの燃料油メーター、各家庭のユーティリティメータ
ー(ガスメーター、水道メーター、電力量計等)、血圧
計、体温計などがその代表的な例である。このような
計量器によって得られる測定結果の信頼性を確保する
ために、多くの国で型式承認制度と検定制度が義務付
けられている。
これらのうち型式承認制度とは、製造事業者が大量
生産を始める前の計量器の基本設計(型式)に関わる
技術基準に基づいた審査である。この審査では複数の
計量器サンプルに対して時間をかけて型式承認試験を
行い、添付された資料を審査し、これらの審査に合格
すればその証として型式試験報告書を伴う型式証明書
が製造事業者(申請者)に対して発行される。ここで
型式証明書は、我が国においては「計量器型式に関す
る承認通知書」とも呼ばれている。通常の型式承認制
Vol.64,No.2, 2014
海外計量事情
OIML MAA(型式評価国際相互受入れ取決めの枠組み)制度の動向
(独)産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ)
国際計量室 総括主幹 松 本 毅
matsuテキストボックス(一社)日本計量振興協会発行の「計測標準と計量管理」Vol.64, No.2 (2014年8月)より転載
-
度は、(1)型式承認試験の実施、(2)試験報告書と添付
資料の審査、そして(3)型式証明書の発行(合格の場
合)という3つの段階により構成される。我が国では
これらの業務を主に計量標準総合センターが担当して
いるが、国によっては(1)試験と(2-3)審査・発行は
別の機関が担当している場合も多く、それぞれ試験機
関及び発行機関として区別されている。そして「証明
書制度」とは一般に、型式証明書を相互に受け入れる
ための国家/地域/国際的な枠組みを意味し、そのう
ちOIMLが提供する全ての制度をOIML証明書制度
と呼ぶ。
これに対して検定制度とは、生産又は使用される
各々の計量器が型式に適合し、必要な性能を満たして
いることを公的機関が検証するための制度である。こ
の制度は、生産時の初期検定とその後の再検定によっ
て構成されている場合が多い。検定は販売又は使用の
現場で実施される制度なので、国際的な標準化や相互
認証は進んでいない。
. OIMLの基本証明書制度
型式承認制度も元々は各国が独自に維持していたが、
計量器の輸出入の増加に伴う非関税障壁の撤廃という
国際的な要求に応えるために、ある国で取得した試験
報告書を含む型式証明書を他国でも相互に認めようと
いう相互承認制度設立への動きが広がった。
このような要望に応じて、OIML証明書制度が1991
年に創設され、その後MAA制度との区別のために
「基本証明書制度」と呼ばれるようになった。この制度
はOIML国際勧告(R文書)が対象とする計量器に適
用され、現在54種類の計量器カテゴリーで運用され
ている。OIML正加盟国であれば同制度に基づく型式
証明書(基本証明書)を発行することは可能であるが、
事前にBIMLへの登録が必要である。基本証明書の受
入れは全てのOIML加盟国において原則的に可能で
あるが、最終的な判断は各国の裁量に任されている。
従ってこれは任意の制度であるが、試験や審査の不必
要な重複を避けるためにOIML加盟国はこの制度を
活用することが奨励されている。
この基本証明書制度を利用する計量器の製造事業者
は、制度に参加している任意のOIML正加盟国の発
行機関に基本証明書の発行を申請することができる。
申請を受けた発行機関はOIML国際勧告の技術基準
に基づいて型式承認試験を実施し、その結果がその基
準に適合すれば基本証明書を発行する。製造事業者は、
その計量器がOIMLの技術基準に適合している証と
して、この証明書と試験報告書を他のOIML加盟国の
法定計量担当機関(又は発行機関)に提出することが
できる。そして、その担当機関がこれらの書類を受け
入れた場合には、その国で有効な国内型式証明書が発
行される。2014年現在、29ヶ国の33発行機関が基本
証明書の発行機関としてBIMLに登録されている。
OIML証明書制度全体について、参加形態、証明書の
発行及び受入れの資格についてまとめたものを表①に、
そして全ての発行機関の一覧と過去に発行された証明
書の実績を表②に示す。
計測標準と計量管理
OIML MAA制度の動向
表①:OIML証明書制度への参加形態と証明書発行 受入れの資格
OIML加盟形態 証明書制度への参加形態基本証明書 MAA証明書
受 入発 行受 入発 行
基本証明書制度(1)MAA発行型参加機関
正加盟国
○ △ ◎ ○△
(2)MAA受入型参加機関 ○△×△○
○ △ × △基本証明書制度のみ
基本証明書の受入れのみ △×△×
○△×△×準加盟国
(3)MAA準参加機関基本証明書受入
注 ◎:発行可能(能力を確認済)、○:発行可能又は受入れ義務、△:任意、×:不可能
1:基本証明書制度が存続する限り基本証明書を併行して発行することは可能。
2:発行にはBIMLへの登録が必要。
3:MTL試験結果を含むMAA証明書の受入れは任意、それ以外のMAA証明書の受入れは義務。
-
表②:全ての基本証明書/MAA証明書の発行実績( 年③月のOIMLホームページのデータより)
機関記号
NL1、2
GB1、2
RU1
AU1
CA1
DE1
JP1
FR1、2
DK1
3
CN1
ES1
CH1
CZ1
SE1
NO1
KR1
FI1
NZ1
BE1
SK1
US1
PL1
RO1
AT1
BG1
VN1
IT1
IL
SA
CE
ZA
南アフリカ
セルビア
サウジアラビア
イスラエル
イタリア
2
ベトナム
ブルガリア
オーストリア
ルーマニア
ポーランド
米国
スロバキア
0
ベルギー
ニュージーランド
フィンランド
韓国
ノルウェー
スウェーデン
チェコ
9
スイス
15
スペイン
1
中国
デンマーク
1
フランス
35
日本
ドイツ
29
カナダ
オーストラリア
1
ロシア
0
英国
17
国名
計量器カテゴリー
水道メーター
合
計
127
オランダ
17
勧告文書番号
R49
R49M 9水道メーター(M) 8 U U1 U U U
U U U U U U U U0175495 U U U16ロードセル(M) 257165R60M
R60 493 917ロードセル 140 8 087 52 18 41 49 18 5 0 0
4
2
6
R76 804 1301非自動はかり 132 25 5154 19 19 60 29 14 11 3 11 0 8 2 2 0 1 1 1 0 0 0
U U U U U U0
みの
36060282 U0U40非自動はかり(M) 181110R76M
00非観血血圧計 0R16
R21 3 3タクシーメーター 0 0
R31 20 56膜式ガスメーター 50 25 6 0
有効電力量計 00R46
00長さの実量器 0R35
R58 0騒音計 00 0 0
R61 38 81充填自動はかり 12 027 0 0 0 2 0 2 0 0 0
01100202978 0036自動捕捉式はかり 20071R51
000300300 103連続式自動はかり 133R50
R93 0レンズメーター 0
R97 0 0気圧計 0 00 0 0 0 0 0 0 0
00自動車排ガス 11R99
000000000000 00高精度線度器 0R98
R85 47 66タンク液面計 2 0 00 0 15 2 0 0
R88 0積分形騒音計 00 0 0
00低温液体体積計 00R81
0積算熱量計 0R75
R107 4 20不連続自動はかり 2 0 08 3 3 0 0 0 0 0 0
R110 0圧力天びん 00 0 0 0
0化学汚染物質 0R113
0殺虫剤・有害物質 0R112
R105 0 1液体用質量流量 0 00 0 0 0 0 1
R106 0 12貨車用自動はかり 4 4 03 0 0 0 0 0 1 0
00 0純音メーター 0R104
0000 0音響校正器 0R102
0000 0連続電子体温計 0R114
R122 0語音メーター 0
R126 0 10呼気分析計 0 01 5 4
0200740900101 03311燃料油メーター 14265R117+118
00001 0電子体温計 1R115
10109 000多次元寸法測定器 3717R129
0 0脚力測定器 00R128
R136 1皮革面積計 1
01030 02軸荷重自動はかり 82R134
0 0ガラス製温度計 0R133
20001133344101228313841116111121138
は
0
行
775425 34401860合計
1 表頭は発行機関名と国名。但し、CA1、IL、SA、CE、ZAは、MAA制度の利用の
リー
参加。2 表側は、計量器カテゴリに対応したOIML勧告文書番号と簡略名。但し、R49M、R60M、R76M はMAA証明書を示す。3 表の数字は、これまでに発行された証明書の数を示す。
・白抜き数字は現在、登録が抹消された機関が過去に発行したもの。・数字の0
る
発
で
機関として登録されているが、現在までに発行実績がないもの。・UはMAA制度の利用型参加機関を示す。
4 ブラジル、ハンガ ない、スロベニアはR76の基本証明書を発行できるが、発行数が0であ
6
の
,
、この表には記載してい
ML
。
Vol.
向
4
I
No.2, 2014
O A制度MA 動の
-
. MAA制度
2000年代初頭から、基本証明書制度における証明書
の国際相互受入れが十分に機能しておらず、実際に
は条件付の制度となっている問題が指摘されていた。
そこでこれらの問題点を改善し、より信頼性と強制力
が強い国際相互承認制度、即ちMAA(型式評価国
際相互受入れ取決めの枠組み/Mutual Acceptance
Arrangement)制度を設立することが提案された。こ
の制度は、その参加国が相互に計量器の型式証明書と
試験報告書を受け入れるための、規定された手続きに
基づいた新しい証明書制度である。これは基本証明書
制度を発展させたもので、既存の制度に欠けていた参
加機関の試験能力に対する相互信頼性を保つ仕組みを
新たに取り入れている。この制度のもとで発行される
型式証明書(MAA証明書)は、MAAのロゴにより基
本証明書と区別されている。MAA制度の基本文書で
あるOIML B10( A証明書の)、及び運営の基本ルー
ルであるMAA01(
)の大きな違いは所
及び相互信頼
国か準加盟国か
)は、2005年までに発行され、この制
度の実質的な運用は2006年から始まった。2014年の
時点でMAA制度が運用されているのは、証明書の発
行件数が多いR49(水道メーター)、R60(ロードセ
ル)、及びR76(非自動はかり)の3つのカテゴリー
で、基本証明書制度よりもその対象範囲は狭い。以下
にMAA制度の基本的な仕組みについて説明する。ま
た、これらの概要を表1及び図①にも示す。
MAA制度への参加形態は国家ではなく参加機関で
あり、それらは加盟国の基本証明書発行機関、国の型
式承認機関、計量器の販売を認可する機関のいずれか
である。これらの参加機関の資格は、以下の3つのカ
テゴリーに分けられる。
(1)発行型参加機関(Issuing Participant):
MAA証明書を発行し他機関が発行した証明書の
受入れも行う
(2)利用型参加機関(Utilizing Participant):
他の参加機関が発行したMAA証明書を受け入
れるが、自らは発行しない
(3)準参加機関(Associate):
OIML準加盟国の機関でMA
参加
資格審
受入れ
のみを行う
これらのうち、(2)と(3
その
権利を有しない
属国が
正加盟
加機関(発行・
という点で、(2)はCPR(
票権を持
。
査委員会)において投 (3)
利
つが、
これら
は
参 用)の 及
A M 制A 度
資加 査委参 員会格審
営規則宣言の運
図①:OIML MAA制度の仕組み
計測標準と計量管理
OIML MAA制度の動向
-
び準参加機関は、それぞれ正加盟国のCIML委員及び
準加盟国の担当者によって指定される。また発行型参
加機関は証明書を発行するのに必要な型式承認試験を
実施する試験機関を複数指名することができ、それら
の機関の能力を監視する責任も有する。
ある計量器カテゴリーにおいて新たなMAA制度
を設立する際には、まず同制度に参加を希望する参加
機関を募集する。その際には最低でも3機関が応募し、
うち2機関は発行型である必要がある。そして発行型
参加機関は利用する試験機関を指名し、その試験能力
を証明し、その内容について参加機関の相互信頼関係
を確立する。その結果は、そのカテゴリーに対する相
互信頼宣言書(DoMC)として試験機関の能力や試験
範囲と共にOIMLホームページにおいて公開される。
またMAA制度では、他の発行型参加機関が発行した
型式証明書を受け入れる参加機関は、CPRの承認を得
た上で、独自の追加試験項目を加えることもできる。
発行型参加機関が試験機関の能力を証明する際には、
国際規格である ISO/IEC17025「 がってい
る。これは高い品質管理能力と試験過程」が基準となってい
る。さらに発行機関に対しては ISO/IECガイド65
「 式評価のためのデータとして使うことを
許すという制度」への適合も求められている。これらの規格への
適合性を確認する方法としては、(1)ILAC MRA(国
際試験所認定協力機構の相互承認協定)に参加する機
関による認定の取得、または(2)独自に実施する外部
評価(ピア・アセスメント)のいずれかを選択するこ
とができる。これに対してMAA制度の利用型参加機
関や準参加機関に対する審査は比 的簡単で、実際に
は自己申告のみで参加できる。
このような参加機関のあいだの相互信頼関係を樹立
し維持するために、計量器の各カテゴリーに対応する
DoMCには、参加機関を代表する委員で構成される非
公開の参加資格審査委員会(CPR)が設けられてい
る。CPRは新たな試験機関候補に対する資格審査や、
その能力の継続的な監視を行う。CPRは必要に応じ
て、MAA制度の運営に必要なその他の審議も行って
いる。例えばOIML国際勧告に規定されていない各国
固有の追加試験項目についても、CPRで審査を行う。
最近の傾向としては、R49/R60/R76の合同CPRが
約2年間の周期で開催されている。
MAA制度の運用段階においては、製造事業者(申請
者)はその計量器に適したMAA証明書の発行型参加
機関を選び(自国の機関である必要はない)、必要書類
と計量器のサンプルを送付して試験手数料とともに申
請を行う。もし型式承認試験の結果が審査に合格すれ
ば試験報告書を伴うMAA証明書が発行される。その
際には、OIMLへ証明書を登録するための手数料(350
ユーロ)がBIMLから申請者に請求される。この証明
書は自国の国内型式証明書に転換することもできるが、
この計量器を輸出する場合は、これらの書類を輸出先
のMAA発行型参加機関(または利用型参加機関)に
提出し、相手国の国内型式証明書への転換を要請する。
この段階でMAA証明書は基本証明書に比べて高い
信頼性を有しており、特にMAA参加機関は原則とし
て証明書を受け入れる義務があるため、これがMAA
制度の最大の利点となっている。その一方で、同制度
に参加していない加盟国によるMAA証明書の受入
れについては任意である(表1も参照)。
MAA制度の最近の動向として、型式承認試験にお
ける製造事業者試験所(MTL)の利用が広
、計
量標準総合センター(NMIJ)が国際勧告
の中立性を保
つ製造事業者については、自らの試験機関で得られた
試験結果を型
関はMTLの試験
結果を含む試験報告書を任意で受け入
である。MTLの利用により、製造事
業者が型式承認試験に必要とする時間とコストを大幅
に節約することができる。MTLの利用については、
既に基本証明書制度では受け入れられているが、
MAA制度では当初は認められていなかった。しかし
2012年に、基本的な枠組みを規定する基本文書である
B10への修正文書が発行され、MTLによる試験結果
の利用がMAA制度でも認められた。この修正文書に
よると、MAA発行型参加機関は任意にMTLを利用
することができ、更に全ての参加機
が高く
受入れの義務も強いというMAA制度の本来の利
れることができ
る。もちろん発行型参加機関は利用するMTLを事前
に登録し、CPRで承認を受ける必要がある。その際に
は、他の試験機関と同様の要件がMTLに要求され
る。ただその一方でMTLの利用には、信頼性
加については
う議論も存在する。
我が国のOIML証明
点
を損なうものであるとい
)及びR76(自動はかり)にMAA発行
書制度への参
(ロー
ドセル
R60
加型参 機
試験 及 校正び所 機
力能 般要に関する一の 求事項関
品認製 対する証機関に 事項の適用に関する般要一 求
指針
Vol.64,No.2, 2014
OIML MAA制度の動向
-
関として、そしてR117/R118(燃料油メーター)に
ついては基本証明書の発行機関として登録されている。
証明書制度に関する最近のOIMLの動向
. 発行数の推移
全てのOIML証明書の発行件数を表2に、その推移
を図②(a)と図②(b)に示す。全体の発行件数につい
てはオランダのNMi(計量標準研究所)が最多数を占
めており、それ以下は英国、ドイツに続いて日本が世
界第4位の位置を占めている。その中でもR60につい
ては我が国の発行件数は多く、世界第2位を占めてい
る。これらの推移を見ると、当初はMAA証明書の数
は期待されていたほどは伸びなかったが、最近になっ
て年間発行件数についてはMAA証明書が基本証明
書を追い越そうとしている。なおMAA証明書の内訳
としては、R60が多数を占めており、ロードセルにつ
いてMAA制度への転換が進んでいる。
. CIML委員会における議論
BIMLはMAA制度が運用開始した2006年当時に、
この制度は基本証明書を置き換えるものであり、一定
の猶予期間の後に基本証明書制度は全廃すべきである
という意向をもっていた。しかしMAA制度への移行
はなかなか進まず、ここ数年のCIML委員会でもその
移行を促すための議論が続いている。そこで第48回
CIML委員会 (2013年)においては、通常の委員会に
はない行事として、委員会
前にMAAセミナーが開
催された(写真①)。
このセミナーの主旨は
MAA制度を概観し、今後
の更なる発展の可能性を探
ることにあった。そこでは
CIML第一副委員長であ
るSchwartz氏の司会の下
に、MAA制度の歴史と運
用開始、現在の運用状況と
その影響、更なる発展のた
めの選択肢という3つのセ
ッションに分かれて講演と
討論が行われた。
続いて第48回CIML委
員会ではMAA制度に関
する3つの決議案が承認さ
れた。これらの要旨は、(1)
Schwartz氏が主査を担当
するMAA制度検討のた
めの臨時WGの設立、(2)
CPR 運 用 規 則 で あ る
MAA01とOIML B10の見
直し、(3)新旧制度(基本&
MAA)が併存する計量器
カテゴリーにおいてMAA
制度へ一本化するという基
本方針の確認であった。
図②(a):OIML証明書の年間発行件数の推移( - 年⑦月/BIML提供)
図②(b):OIML証明書の延べ発行数の推移( - 年⑦月/BIML提供)
計測標準と計量管理
OIML MAA制度の動向
-
. MAA制度検討のための作業部会
第48回CIML委員会の決議に基づいて、2014年3
月には米国のNIST(国立標準技術研究所)において
MAA制度検討のための作業部会(WG)が開催され、
OIML加盟国15カ国から約30名が参加した。この
WGの位置づけは、2014年11月の第49回CIML委
員会に備えて予備的な審議を行い、適切かつ中立な情
報をこの委員会へ提供することであった。その結果、
MAA制度に関する多数の問題点や検討事項が以下の
4つのカテゴリーについて指摘された。
(1)MAA制度への移行促進と宣伝普及
移行への足かせとなる問題点としては、参加に必要
となる高額な認定費用、各地域の制度の違い、各国独
自の技術要求事項等が指摘された。解決策としては、
国内証明書の発行機関を条件付きでMAA発行機関
として登録する、利用型参加機関を全加盟国に広げる、
証明書の受入れを全て任意にするといった提案があっ
た。宣伝普及活動については、対象グループの違いに
応じたパンフレットやホームページの作成、利用者の
目線による情報提供などについて提案があった。
(2)CPRの構造と運営
将来MAA制度が対象とする計量器のカテゴリー
が増えた場合も想定したCPR体制の見直しについて
は、基本方針を検討するための新たな上部委員会の設
立が提案された。その一方で、重要案件はCIML委員
会で議論すべきだという意見もあった。それ以外にも、
CPRに対する責任の所在が不明であるという問題も
指摘された。
(3)基本証明書制度の部分的な停止
MAA制度と基本証明書制度が併存し
ている3つのカテゴリーのうちR60と
R76について、BIMLは2年間の猶予期
間を付けて基本証明書制度を停止するこ
とを望んだ。これに対して、その前に実
際に受け入れられている基本証明書の実
態、及び証明書を受け入れない理由につ
いて調査すべきだという意見もあった。
さらに決断を急がず市場の動向に委ねる
という意見や、基本証明書制度は途上国
や新規参入する発行機関にとっては依然として重要な
役割を果たしているという指摘もあった。
(4)他の認定制度との関係
他の機関が実施する相互認証制度については、
CIPM MRA(計量標準の国際相互承認協定)や、IEC
の適合性評価の仕組みであるCBスキームを参考にし
てはどうかという提案もあった。また本来、OIMLは
認定機関ではないにも関わらずMAA制度という認
定制度とよく似たものを構築しようとしているが、同
時にそれは法定計量独自の要素も具備するという、
MAA制度の微妙な位置づけに対するジレンマ(自己
矛盾)を指摘する声もあった。
お わ り に
MAA制度検討WGの議論では、主要議題のそれぞ
れについて臨時作業グループが構成され、その後も第
49回CIML委員会に向けた検討作業が継続されてい
る。このCIML委員会では、R60とR76の基本証明書
制度の停止が提案される可能性が高い。ただし、この
提案が承認されたとしても停止までに2年間の猶予が
あり、さらに他の大多数の計量器カテゴリーについて
は、MAA制度はまだ始動さえしていない。従って当分
の間は、基本証明書制度を継続せざるを得ないのでは
ないかと思われる。CIML副委員長職を担当する我が
国としてはCIML委員長やBIMLの意向に沿いつつ、
基本証明書制度を少しでもMAA制度へ移行させる
べく、その手続きを地道に支援して行くことになるで
あろう。
写真①:第 回CIML委員会におけるMAAセミナー(BIML提供)
Vol.64,No.2, 2014
OIML MAA制度の動向