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札幌市 汎用電子計算機システム 検討委員会 報告書 平成 21 年 3 月

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Page 1: 札幌市 汎用電子計算機システム 検討委員会 報告書 · また、企業や公共団体において汎用機システムを再構築する、いわゆる「オープン

札幌市

汎用電子計算機システム

検討委員会

報告書

平成 21 年 3 月

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はじめに

札幌市において市民サービスの事務執行の中核を担う基幹系システムは、昭和37年

の「住民税・固定資産税システム」「国民健康保険システム」の稼動を皮切りに、順

次整備が進められ、平成元年にはシームレスな情報(事務)処理を目的とした「住民

記録オンラインシステム」が稼動しました。

現在7つのシステムが汎用機上で稼動していますが、これらのシステムは稼動後20

年が経過し、この間の技術変革を踏まえると、抜本的見直しを要する転換期を迎えて

いると考えられます。

また、企業や公共団体において汎用機システムを再構築する、いわゆる「オープン

化」の取り組みが、近年全国的に広がりつつあります。

これらの背景のもと、札幌市汎用電子計算機システム検討委員会(以下「委員会」

という。)は、業務やシステムの 適化関連の知識・経験を有する6人の委員により、

以下の「成果目標」と「検討の観点」を共通認識として、検討を行いました。

【成果目標】

・汎用機を中心とした基幹系システムの「あるべき姿」の提言

・将来にわたる基幹系システムの方向性の提言

【検討の観点(札幌市の課題意識)】

・市民の利便性向上

・地場企業の参入機会の確保

・随意契約を前提としない調達の実現

・事務の効率化

・基幹系システムにかかるトータルコストの削減

本報告書は、全5回にわたる委員会における議論を踏まえ、札幌市の基幹系システ

ムの「あるべき姿」「将来の方向性」について提言するものです。

今後、札幌市では、その実現に向けた基本方針の策定を進めていくことと思います

が、本報告の趣旨を踏まえ、市民がその成果を実感できる施策が実現されることを、

委員一同、強く期待するものです。

平成21年3月

札幌市汎用電子計算機システム検討委員会

委員長 山 口 秀 二

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もくじ

・はじめに

Ⅰ 札幌市の基幹系システムの現状と課題............................... 1

1 基幹系システムの歴史............................................ 1

2 基幹系システムの現状分析........................................ 3

3 基幹系システムを取り巻く「5つの課題」........................... 7

Ⅱ 自治体を取り巻くITの動向....................................... 10

1 他自治体における「オープン化」の状況............................ 10

2 IT活用の潮流.................................................. 12

Ⅲ 札幌市の基幹系システムの課題解決の方向性......................... 14

1 札幌市が目指すべき基幹系システムの将来像........................ 14

2 基幹系システムの構築にあたっての手法と課題...................... 20

Ⅳ 基本方針策定にあたっての提言..................................... 24

1 総論............................................................ 24

2 各委員の専門分野からの提言...................................... 26

・委員名簿........................................................... 37

※用語解説

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Ⅰ 札幌市の基幹系システムの現状と課題

1 基幹系システムの歴史

札幌市の基幹系システムは、昭和 37 年に汎用電子計算機(以下「汎用機」という。)

を導入して 46 年の歴史があり、大きく 2つの時代に分けることができる。

まずは、昭和 37 年から始まる「定型業務の大量一括処理(バッチ処理)を中心と

する内部業務の効率化の時代」である。専用のコンピュータルームに設置された汎用

機を、専門の知識を持ったシステム部門のみが扱っていた。主に、税金や給与、会計

などの大量計算処理、住民記録台帳作成などの定型業務の大量一括処理といった内部

業務の効率化が進められた。次は、平成元年の住民記録オンラインシステムの稼動に

より始まる「オンラインを活用した業務間連携による市民負担軽減と窓口業務の効率

化の時代」である。この時代は、汎用機と区役所など端末機がネットワークで結ばれ

た環境が整備され、オンラインを活用して業務を行うことで、窓口業務の待ち時間の

短縮や手続きの簡素化などにより、市民の利便性向上と業務の効率化が進められた。

また、サーバと言われる小型で扱いやすい高性能パソコンが普及し、システム部門で

しか扱えなかったコンピュータを業務部門でも扱えるようになった。業務部門が独自

にサーバを活用したシステムを構築するようになり、事務量が少ない、あるいは規模

が小さい業務においてもシステム化が図られた。コンピュータの活用範囲が広がり基

幹系以外のシステムが飛躍的に増加した時代でもある。

札幌市の基幹系システムの歴史は、20 年を一つの単位として、技術の進化とともに

コンピュータの扱う範囲が拡大し、さらに効果が多様化することで市民への効果もよ

り直接的なものへと変革してきた。現在は、次の 20 年を迎える時期にきている。

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表 1 札幌市の基幹系システム(主要システム)のあゆみ

昭和 37 年 住民税・固定資産税システム稼動

国民健康保険料システム稼動

人事給与システム稼動

昭和 47 年 住民記録システム稼動

昭和 49 年 国民年金システム稼動

平成 元年 住民記録オンラインシステム稼動

平成 4 年 印鑑登録オンラインシステム稼動

税務事務オンラインシステム(諸税系以外)稼動

平成 6 年 国民健康保険オンラインシステム稼動

国民年金オンラインシステム稼動

税務事務オンラインシステム(諸税系)稼動

平成 7 年 昇格昇給オンラインシステム稼動(平成 19 年廃止)

平成 8 年 給与計算システム稼動

平成 11 年 保健福祉総合情報システム(介護保険資格・認定・ケアプラン)稼動

保健福祉総合情報システム(福祉共通・相談・申請)稼動

平成 12 年 保健福祉総合情報システム(介護保険賦課・給付)稼動

保健福祉総合情報システム

(福祉施設・在宅・支払・保健・手帳)稼動

平成 14 年 保健福祉総合情報システム(児童扶養手当)稼動

平成 15 年 保健福祉総合情報システム(医療助成)稼動

平成 16 年 保健福祉総合情報システム(保育所)稼動

平成 18 年 保健福祉総合情報システム(児童手当)稼動

平成 20 年 保健福祉総合情報システム(後期高齢)稼動

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2 札幌市基幹系システムの現状分析

今回の検討対象である札幌市の基幹系システムは、主に汎用機上に構築された住

記・税・国保年金・給与などのシステムと、汎用機とサーバの併用で構築された保健

福祉のシステムからなる。

機器構成及び処理対象としている業務は「図1システムの概念図」のとおりである。

資産規模としては、平成 20 年 7 月時点で、汎用機上の COBOL プログラム資産が約

8,000KLOC、画面が約 600 画面、帳票が約 2,200 帳票。サーバ上の Visual Basic プロ

グラム資産が約 3,000KLOC、約 1,000 画面、約 1,100 帳票となっている。

処理形態としては大きく「オンライン処理」と「バッチ処理」がある。区役所など

に設置された端末機をネットワークで結び、転入手続きや各種証明書発行などの窓口

業務でオンラン処理を利用している。税額計算などの大量一括処理や、通知書などの

大量印刷は、バッチ処理で行われている。

経費については、平成 19 年度決算ベースで約 26 億円。内訳は、機器賃借費・機器

保守費が約 12.5 億円、運用保守費(基幹系システムの稼働監視やメンテナンス作業

といった維持管理作業にかかる経費)が約 3.2 億円、基幹系システムの開発改修費が

約 8.3 億円、用紙代やパンチ経費などのその他経費が約 2.3 億円となっている。

年度毎の推移については、機器賃借費・運用保守費は減少傾向、開発改修費は制度

改正による現行機能の維持が中心となるため制度改正の内容によって増減する傾向

がある(表 1)。保健福祉総合情報システムでサブシステムの追加が行われているが、

基幹系システム全体としてみると、既存システムの維持管理が中心になっている。

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平成 20 年 12 月現在

図1 システムの概念図

国民健康保険・国民年金 オンラインシステム

住記・印鑑オンラインシステム

住民記録・印鑑

オンラインシステム

検索・照会システム

住記関連業務 バッチシステム

・住居表示

・ 成人者名簿

・ 学齢簿・就学援助(※)・ 選挙事務(※) ・ 統計

住記系小規模 バッチシステム

・市営住宅(※) ・幼稚園料(※) ・下水道受益者負担金 ・市民アンケート ・農業調査 ・人口移動動態調査 ・上下水道(※) 他

福祉系小規模バッチシステム

福祉宛名システム

国保資格システム

国保賦課システム

国保収納システム

国保滞納システム(

※)

国保給付システム

年金資格システム

・老人福祉 ・福祉手当 ・母子寡婦貸付

汎用機 A 号機 (本番系)

住民記録システム

印鑑システム

利用者数 432人

設置台数 140台

設置場所 14拠点

利用者数 526人

設置台数 194台

設置場所 13拠点

保健福祉総合情報システム

介護保険・資格

介護保険・賦課

介護保険・徴収

後期高齢・資格

後期高齢・賦課

後期高齢・徴収

医療助成(バッチ)

保健福祉宛名システム

・健康診断(※) ・保育料(※)

税務オンラインシステム

税宛名システム

税証明システム

住民税システム

固定資産税システム

軽自動車税システム

法人市民税システム

特別土地保有税システム

事業所税システム

収納管理システム

諸税収納システム

滞納整理システム(

※)

利用者数 803人

設置台数 194台

設置場所 15拠点

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図1 システムの概念図

図1 システムの概念図

給与系システム

給与計算システム 共済組合システム(※)

正規職員

給与手当計算

臨職・非常勤

賃金報酬計算

レセプト計算

組合員情報管理

汎用機 B 号機 (待機系)

汎用機システムの

研修・開発環境

保健福祉総合情報システム

福祉

介護保険

サーバ機 (保健福祉総合情報システムサーバ 本番・待機系)

支払管理

身体障害者更生相談所

知的障害者更生相談所

保健(

※)

保育所(

※)

児童扶養手当金

介護保険・認定

介護保険・ケアプラン

介護保険・給付

総合相談・申請

障がい者手帳

施設在宅サービス

児童手当

医療助成(オンライン)

保健福祉宛名システム

利用者数 1,209人

設置台数 501台

設置場所 16拠点

共通

児童相談所

精神手帳・通院医療

・汎用機の障害発生時はホットスタンバイにより、自動で本番系から待機系に切り替わる(5分程度)。

・(※)のシステムは、他に主となるシステムが存在することを表している。

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表 1 基幹系システム維持管理経費(決算額)の推移

単位:百万円

平成 17 年度 平成 18 年度 平成 19 年度

機器賃借費・保守費 1,424 1,338 1,252

運用保守費 323 344 316

開発改修費 1,030 729 828

その他経費 270 220 228

合計 3,047 2,631 2,624

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3 札幌市基幹系システムを取り巻く「5つの課題」

現在、札幌市の基幹系システムを取り巻く課題としては、大きく次の 5つの課題が

挙げられる。

(1) 維持費用の増加

今後は市民サービスの多様化により、新たな行政サービス形態に対応した機能の

追加や、セキュリティ強化のための機能追加も考えられる。そのため、現在の年間

約 26 億円(平成 19 年度決算)の維持費用が膨らむ可能性がある。

さらには、古い技術、古いプログラムで構成されているために対応するには時間

と経費が余計にかかる。

また、採用されているプログラム言語及び設計手法も柔軟な機能追加に対応しや

すいとは言い難く、今後の制度改正などに係る費用はさらに増加することが予想さ

れる。

図 2 基幹系システムの維持費の推移イメージ

インターネットなどの

マルチチャネル対応

経費

金額

時間

平成19年度ベースの

維持経費

インターネットなどの

マルチチャネル対応

経費

老朽化・複雑化対策

の対応経費

セキュリティ対策

の対応経費

老朽化・複雑化対策

の対応経費

セキュリティ対策

の対応経費

維持費の累計

金額

平成19年度ベースの維持費に対する追加経費

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(2) プログラムの老朽化・複雑化

主要なオンラインシステムは稼動から 20 年が経過している。その間、毎年のよ

うに制度改正に対応するため、改修を行ってシステムを維持してきた。こうした長

年の改修の繰り返しにより、プログラムが徐々に複雑化していった。より複雑化し

たプログラムをさらに改修する場合は、改修個所の特定や影響範囲の調査に多大な

時間を要する。また、改修作業の効率も悪くなってしまうことから、改修費が高止

まりする原因となっている。

また、近年の制度改正は、施行までの期間が短く、迅速な対応が必要な状況であ

るが、前述のとおり影響調査に時間を要することや、改修作業の効率が悪いことな

どから、短期間での改修が困難になっているため、制度施行までに基幹系システム

の改修が完了しないことも発生しつつある。

(3) 特定業者との随意契約の長期化

プログラムが複雑化し、その設計書なども度重なる改修により細分化しているた

め、ドキュメントによる機能詳細・プログラムの内容を把握することが困難な状況

である。加えて、汎用機の特性上、汎用機メーカーの固有技術に依存した機能もあ

る。

このため、保守管理、改修といった作業は、本市の汎用機のメーカーであり、当

初からの開発を請け負った業者との随意契約をせざるを得ない状況となっている。

この業者には、長年の経験により基幹系システムのノウハウが蓄積されているこ

とから、複雑化したプログラムであっても、ドキュメントが細分化していても、保

守管理、改修作業を実施することが可能である。

しかし、開発はもちろん、開発後の保守管理、改修作業について、特定業者との

随意契約の長期化は、調達の透明性確保がますます求められている今日では避ける

べきと考えられる。

(4) 地場企業の参入機会確保が困難

札幌市では地場経済の活性化策として、市内の中小企業の育成を進めている。こ

のような方向性にかんがみ、基幹系システムの開発、改修、運用保守などについて、

市内の中小企業に受注機会を与えたい。

しかし、現行システムの構成上、複数業者への分割発注が困難となっている。ま

た、プログラムが肥大化・複雑化しているため受注リスクが高いことから、参入機

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会の確保が難しい状況である。

(5) 新たな行政サービス形態への対応が困難

市民ニーズの多様化や社会環境の変化により、官民連携によるサービス、さまざ

まな手段のサービス提供など、今後、行政サービスのあり方に変化が求められてく

ることが想定される。

しかし、こうした新たな行政サービス形態に対応するには、保守性や接続性が高

いシステムでなければならない。

稼動から 20 年以上のシステムが多くあり、抜本的な再構築をしていないため、

迅速かつ低廉な費用で、 新の技術による新たなサービス形態に対応することが難

しい。場合によっては技術的な制約により対応できないことも考えられる。

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Ⅱ 自治体を取り巻くITの動向

1 他自治体における「オープン化」の状況

いわゆる「オープン化」とは、さまざまな意味・内容を抱合しており、必ずしも明

確な一つの定義があるわけではない。他の自治体、あるいは他の業種の企業などにお

いても、「オープン化」に向けた取り組みは平成 16 年頃から始まっており、システム

を維持するためには当然に必要なことであるかのように進められている。

平成 16 年当時に見られた「オープン化」の取り組みは、大型汎用機を利用したシ

ステムを、小型のサーバを利用したシステムへ移行する「マイグレーション」を行う

ことを意味していた。

高価な大型汎用機を安価な小型サーバに置き換えることで、機器にかかるコストを

削減しようとしていたのである。いくつかの政令市において、このような方式のオー

プン化を行っているところがある。政令市におけるオープン化のパイオニアとも言え

る取り組みであったが、こうした考え方でのオープン化は、機器にかかる費用が一旦

下がるが、システムの稼働監視やメンテナンスに係る費用が高額になり、効果が相殺

されてしまう場合があるということが分かっている。次に、機器を転換するだけでは

なく、プログラムも全て作り直して、ゼロから再構築を行うという取り組みも見られ

るようになってきた。こうした方式についても、いくつかの政令市で取り組みが行わ

れているところである。

しかし、この場合は大きな構築費用が発生するため、単純な経費削減効果だけを期

待しても投資対効果は出ないことから、開発費用をできるだけ抑えることと、コスト

削減以外の効果も含んで新規システムを構築する必要がある。現在、システムの再構

築に取り組んでいる政令市においては、それぞれ狙っている効果や再構築を実施する

動機が異なっているが、狙っている効果としては以下のようなものが見られる。

① 市町村合併により複数メーカーの汎用機を運用する状況となったため、これら

を整理してコストを 適化したい。

② システムの中身が分からなくなってきており、ブラックボックス化によるベン

ダーロックインが発生したり、処理結果に誤りがあっても修正できなかったり、

制度改正の対応が困難になったりしている状況を改善したい。

③ 制度改正対応を単独の市だけで行うのは高コストになるため、パッケージソフ

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トを利用したシステムに転換し、パッケージソフトを利用する市町村での経費

按分により低廉な費用で対応可能にしたい。

④ システムと業務の内容を掌握することが難しい現状では、制度改正に対応した

改修内容の要件定義を自治体職員が行うことは難しい。これを、パッケージソ

フトを利用することでメーカー側のノウハウで対応できるようにしたい。

⑤ 電子自治体を実現するためには、古いテクノロジーでは対応できないことから、

新のテクノロジーを利用したシステムへの転換を図りたい。

以上のように、政令市でみても、すでにオープン化を完了させているところ、現在

着手中のところがあり、その手法や狙っている効果もさまざまである。

どのような効果を狙ってシステムの再構築を行うかは、それぞれの課題認識によっ

て変わると思われるが、共通の課題認識もあると考えられるため、これらの取り組み

についても参考にしていくべきである。

「マイグレーション」を行った政令市をオープン化の第 1グループ、再構築してい

る政令市を第 2グループとすると、これからオープン化に取り組もうとしている札幌

市は第 3グループということになる。第 2グループの政令市は、第 1グループの状況

を踏まえて新たな方法でオープン化に取り組んだと考えられる。したがって、後発の

札幌市がオープン化するとした場合には、第 1グループ、第 2グループの先行事例を

踏まえ、どのような効果を狙って、どのような目的で実施するのかを十分に検討すべ

きである。

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2 IT活用の潮流

ITは限られた人が、限られた目的や範囲でコンピュータを使う時代から、多くの

人がパソコンや携帯電話などのさまざまな情報機器を利用してインターネットに接

続し、情報を取得・発信する時代へと、時間や場所、立場という範囲を超え浸透した。

現在は Web2.0 という言葉で表現されるように、インターネットを介して双方向で多

様な情報価値を創り合うコミュニケーションに不可欠な道具として発展してきてい

る。

技術がこのような方向で変遷している中で、ビジネスにおけるITの活用について

も同様に変化してきた。

例えば、銀行の窓口業務について振り返ると、以前はハイカウンター、ローカウン

ターというように接客窓口が目的別に分かれていた時代があった。定型的な手続きを

ハイカウンターで、相談など時間のかかる手続きをローカウンターでというロケーシ

ョンの切り分けを行っていたのである。これが、ITを活用したことによりATMが

普及し、ロケーションに非依存でサービスが受けられるようになったことで、ハイカ

ウンターを無くしてバックオフィスにいた行員をフロントに出し、ローカウンターに

誘導するように顧客とのコンタクトを増やした。これにより、顧客サービスを向上さ

せ、結果的に預金高を上げるといったように、窓口業務の変革を行なっている。

これは、ITが単なる業務効率化の道具から、顧客のサービス向上によるビジネス

全体での利益向上に向けた業務変革のイネーブラへと変化していることを意味する。

そうした方向にテクノロジーは発展してきているのである。

自治体においても状況は同じであり、紙での手作業を効率化するというITの使い

方から、オンライン化により窓口業務の時間短縮で、より市民に近いところでの効率

化へと変わってきており、今後は市民サービスの変革に向けたIT活用へ向かってい

くと考えられる。銀行などのサービスと同様に、インターネットを介して携帯電話や

パソコンからサービスを受けることができるなど、従来の窓口に新たなサービス提供

手段を追加し、マルチチャネル化していくことが可能になっており、ITを活用する

ということにおいては、こうした面での効果を意識する必要がある。

現在のITへの投資は、単純な効率化やコスト削減効果だけではなく、業務変革を

踏まえたビジネス全体でのプラス効果を考慮し、その投資がどのような意味を持つの

か考えた上で行っていくべきものになってきている。

札幌市がオープン化を進める上でも、こうしたIT活用の潮流を踏まえて検討して

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いく必要がある。

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Ⅲ 札幌市基幹系システムの課題解決の方向性

1 札幌市が目指すべき基幹系システムの将来像

基幹系システムの課題を解決する方策として「オープン化」を考えるとき、「オー

プン化の目的」を明確にしておく必要がある。

「オープン化」とは、さまざまな意味・内容を抱合しており、必ずしも明確な定義

があるわけではない。「オープン化」は手段であって、それ自体が目的ではない。

基幹系システムを取り巻く「5 つの課題」も、表層化している問題だけではなく、

これらの課題の根底にある部分を見つめる。それを改善することでもたらされる効果

を明確にし、目指すべき方向性を整理することが必要である。

また、政令市の中でも「オープン化」の検討については後発となる札幌市として、

第1グループ、第2グループにあたる政令市の取り組みを考慮することも必要である。

したがって、本検討委員会では、基幹系システムが稼動から 20 年で一つの節目を

迎え、次の 20 年で現状の課題を抱えることとなったことを踏まえ、現時点をこれか

らの 20 年に向けた基幹系システムの転換期と捉え、札幌市が目指すべき基幹系シス

テムの将来像を検討する。

今後 20 年を見据えては、行政サービスのあるべき姿を想定し、次にそれを支える

次期基幹系システムに求められる要件などを整理する。その上で、あるべき姿へ向け

た基幹系システムの変革について方向性を検討する。

(1) 今後の行政サービスのあるべき姿

サービスの受け手である「市民」の目線で、行政サービスはどうあるべきかを

考えなければならない。望ましい行政サービスとは、受け手である「市民」にと

って有益であることが必要であり、それがサービス向上の評価の視点となる。

現在の行政サービス、とりわけ基幹系システムに関する業務については、窓口

での対面サービスが基本であり、その他は郵送によるサービスがある程度で、限

定的である。一方、銀行など、民間に見られるサービス提供手段は、携帯電話や

自宅のパソコンからインターネットを経由して提供することが当たり前となっ

ている。さまざまな料金支払も、コンビニなど身近な場所で、いつでも支払いが

できることが、今や一般的になっている。

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このように、民間のサービスが変化し、これが一般的になってくると、市民の

生活としては利用できることが当たり前となってくる。テクノロジーの進化が行

動様式の変化をもたらしたのである。このようなサービス利用方法が定着してく

ると、行政に対しても同レベルのサービス提供手段を求められる。

さらに、さまざまな法制度に基づいた行政サービスがあることを考えると、市

民目線で、関連するサービスを業務横断的に整理すべきである。制度という境界

線を意識することはなく、サービスの類似性や関連性を意識しており、合理的な

動線で行動できることを期待しているはずである。例えば住民票も所得証明書も

同じ証明書であるのだから、一括して取得できるようにすべきである。転出・転

入の手続きについても、「住所を移動する」という市民の行動に着目すれば、各

制度の手続をまとめて一括で行えるようにすることが、利便性の面で市民ニーズ

にかなっている。

このような行政サービスを実現するためには、制度の縦割りを排除し、その上

で、関連するサービスを一括して提供できるような業務間の連携が必要である。

これらのことから、今後の行政サービスのあるべき姿を考えると、キーワード

は「マルチチャネル化」と「業務間連携」であると言うことができる。市民が自

らの状況やサービス内容によって、携帯電話、パソコン、コンビニ、電話、対面

窓口など、それぞれが利用したい手段を選択でき、関連するサービスを一括して

受けることができる、多様で利便性の高いサービス提供窓口を持つことが必要で

ある。

現状では、法制度の制約があるため、基幹系システムに関する業務では、こう

したサービス提供手段を採用することが不可能であることも少なくない。しかし

今後 20 年といった長期的視点で捉えると、これらの制約がなくなる可能性は十

分にある。

(2) 行政サービスを支える基幹系システムに求められる要件など

フロント部分のサービス提供チャネルについては、チャネル機能そのものを一

つ一つ自前で構築するのではなく、既に民間のサービスで利用されている外部の

システムまたは機能を利用することを考えるべきである。

サービスのマルチチャネル化に関する行政内部の議論では、それにかかるコス

トが市民サービスの向上に見合うかどうかという投資対効果の課題、多様で変化

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が早い市民ニーズに対してサービス提供チャネルの開発が追従できないという

開発期間の課題、これらの二つの課題があるため実現が難しいという結論になる

ことがしばしば見られる。しかし、これはフロント部分の「マルチチャネル化」

の前提として、バックオフィスの「業務間連携」を整理し、チャネルの重複を排

除することが必要であることを考慮せず、さらに自前でサービス提供チャネルそ

のものを開発することを前提にすることで発生する課題認識であり、考え方の方

向性として適切でない可能性があることを指摘したい。バックオフィス部分の業

務を整理してチャネルをいたずらに増加させないようにした上で、フロント部分

であるサービス提供チャネル自体は外部のものを利用するという方法であれば、

投資対効果の面、開発期間の面での課題を回避することが可能なのである。

例えば、コンビニ決済について見ると、コンビニ決済が必要な業務を整理して

収納業務を統合してから決済代行業者のシステムと接続し、データ連携するとい

う方法により、業務間連携機能とインターフェース機能の開発だけで実現できる。

ただし、こうしたことを実現するためには、容易な業務機能間の連携、多様な

サービス提供チャネルへの接続及び外部機能の取り込みが可能であることが前

提となる。また、連携や接続にあたっての技術としては、インターネットで Web2.0

と呼ばれているオープンなものが採用されるであろう。

したがって、今後の行政サービスを支えるには、ネットワーク的にも機能的に

も、標準的な技術によるオープンな接続性を備える必要がある。

また、行政サービスの提供方法を市民ニーズに的確に対応したものにするとい

うことになるが、「今後起こり得る市民ニーズの変化」に対応するというところ

まで視野に入れなければならない。こうした変化により、さらなるチャネルの追

加や業務間連携が必要となることも想定されるため高いメンテナビリティを備

える必要がある。メンテナビリティが高いということは、銀行のハイカウンター

からATMへの移行のような、サービスの構造変化(業務改革)を起こしやすく

するという効果にも繋がる。

標準的な技術によるオープンな接続性、市民ニーズの変化に柔軟に対応できる

高いメンテナビリティを備えた基幹系システムとするためには、集中管理、一括

管理が可能でなければならず、「ブラックボックス」ではない中身が見える「グ

ラスボックス」でなければならない。

具体的には、システムの開発から維持管理といったライフサイクルプロセス全

般にわたるフレームワークを標準として定義し、その中で、各手順を実施する役

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割と責任を業務主幹部門、IT部門、ITベンダーのそれぞれに課すことを明示

し、必要となる文書を標準として定め、各自の役割と責任においてしっかりと文

書化し、それを維持していくということである。

ここで必要となるフレームワークは、単純に世の中にあるものを採用するので

はなく、まずフレームワークの標準を決めることに責任を負う組織的な役割を確

立し、自らの責任で実効性のあるものを作り出し、決定することが必要である。

これによって仕様のコントロールが可能となり、コストの適正化、ベンダーロ

ックインの回避といったことまでも実現できるようになる。また、繰り返し改修

を加えることによる複雑化、保守費や改修費の増加を抑制し、将来にわたって安

定的に維持することもできるようになる。

ただし、もたらす効果が明らかでなければ、基幹系システムへの投資を評価す

ることができなくなる。そうなると、グラスボックス化されたとしても、有効な

投資であるかが判断できなくなることから、この点について予め考慮しておかな

ければ、グラスボックス化した意義が薄れてしまうことになる。つまり、効果の

明確化と投資対効果の評価は、グラスボックスにする上でも必要な要件であると

言える。

投資対効果を評価する上では、ITガバナンスの確立が不可欠である。グラス

ボックス化は、ITガバナンスの確立と同様であり、狭義のガバナンスがグラス

ボックス化、広義のガバナンスがITガバナンスの確立である。狭義のガバナン

スであるグラスボックス化では、技術仕様の標準化や基幹系システムに関する文

書の標準化といった部分でのガバナンスを確立して仕様のコントロールを可能

とするものであるのに対し、広義のガバナンスでは、そもそも行政課題に対応す

るためのIT投資とその効果を、業務改革の実施や経営リソースの配分といった

ところを含めて統治するものである。もちろん、こうしたITガバナンスの確立

には、体制の整備も含まなければならない。

また、確立されたITガバナンスの中で投資対効果を判断する前提として、基

幹系システムを運用する中でその効果をモニタリングできる仕組みを備えるこ

とも必要である。この効果は、単なるコスト削減効果ではなく、市民サービスの

向上といったもの、地場経済の活性化といったところに視点を置き、副次的な効

果としてコスト削減効果も見るといった考え方が望ましい。

さらにもう一つ、必要な要件として、セキュリティの確保がある。セキュリテ

ィ対策については、技術の変革と社会環境の変化により、短期間で急激に状況が

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変わってきている。今後の行政サービスを支える基幹系システムを考えるとき、

セキュリティについては後付で対策するのではなく、開発標準などの定められた

手順の中に予め盛り込んでおき、開発の初期の段階から、情報資産や基幹系シス

テムに接する全ての人や組織を含めた対策が取られるようにすべきである。また、

そこで必要となるセキュリティ対策の内容については、ISMSなどの規格に定

められている内容を参考にし、対策に漏れがないようにする一方で、過剰な内容

にならないようなバランスを取ることが必要である。

以上をまとめると、行政サービスを支える基幹系システムに求められる要件は

以下のとおりである。

【要件 1】 中身の見える「グラスボックス」な基幹系システム

【要件 2】 標準的な技術によるオープンな接続性を備えること

【要件 3】 適切なセキュリティの維持

【要件 4】 機能の追加や変更に柔軟に対応できる高いメンテナビリティを備

えること

【要件 5】 確立されたⅠTガバナンス体制によるシステム開発・運用の実施

【要件 6】 効果のモニタリングを備えたシステム運用

これらの要件が満たされることによって、札幌市が認識している「5つの課題」

も結果的に解消されることになる。

つまり、これらの要件を満たした基幹系システムではないことに、課題の真の

原因があったのである。

以上の要件を踏まえ、次項で基幹系システム構築の考え方や手法を整理してい

く。

(3) あるべき姿へ向けた基幹系システムの変革

札幌市の基幹系システムは、今後 20 年間の行政サービスを支えるシステムへ

と変革すべき転換期にあると考える。

そのあるべき姿へ向けた変革手法として、「オープン化」を進めるべきである。

札幌市が進めるべき「オープン化」とは、基幹系システムの変革であり、単な

る汎用機の置き換えやオープン技術の採用ではない。

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また、単に基幹系システムの変革を行うことに止まらず、行政課題に対応する

ためのIT投資や業務改革を行う仕組み、体制の変革でもある。

あるべき姿へ向けた基幹系システムの変革は、全庁のIT投資全般に対する変

革の入り口である。大規模な基幹系システムの変革、 適化を行うことで、結果

的にITガバナンスを含めたIT基盤の整備が行われることとなり、この基盤を

全庁的に展開することで、 終的には札幌市全体のITガバナンス体制が確立さ

れ、IT投資の全体 適化に繋がっていくのである。

このような先の展開を見据えた基幹系システムの変革であることを忘れては

ならない。

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2 基幹系システムの構築にあたっての手法と課題

札幌市の基幹系システムのオープン化について、ここではもう少し具体的な内容に

ついて整理する。

(1) システム構築の考え方

札幌市が進めるべき「オープン化」は単なる汎用機の置き換えであってはなら

ない。基本的には必要な要件を備える基幹系システムへ再構築するという考え方

を取るべきである。

また、単に再構築するのみならず、再構築に合せて開発プロセスや保守プロセ

スまでを整備した強力なITガバナンス体制についても同時に整備すべきであ

る。再構築は広範な業務を対象とした大規模開発であるため、しっかりとしたI

Tガバナンス体制が前提でなければ課題解決が不可能であるばかりでなく、再構

築そのもののリスクも著しく高くなる。

再構築手法は、パッケージソフトを活用した開発と、全てスクラッチでの開発

が考えられるが、政令市の基幹系業務においてはパッケージと言ってもカスタマ

イズ比率が高く、パッケージソフトと言えるレベルではないため、どちらの手法

でも結果的には同じである(カスタマイズ率が 5%を超えるパッケージソフトは、

もはやパッケージソフトとは言えない)。

パッケージソフトを利用した開発とする場合は、著作権法上の権利関係処理に

留意し、ブラックボックス化とベンダーロックインを防止するよう留意しなけれ

ばならない。もしもこれらの要件が満たされない場合は、パッケージソフトを利

用した開発はすべきではない。

また、ITガバナンス体制の確立が前提になることから、開発に向け、事前に

業務部門、IT部門、ITベンダーの役割と責任についても定義しておく必要が

ある。基本的に、事務の整理と業務要件の定義は業務部門が行ない、業務のモデ

ル化と調達仕様書のまとめはIT部門が行うべきである。これらのドキュメント

は、基幹系システムの運用段階に入ってからも将来にわたって維持されなければ

ならない。

あくまでも、市職員が主体的になり、パッケージソフトの活用といった他の自

治体の潮流に流されず、札幌市として身の丈にあった方法を採用することが重要

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である。

調達の考え方については、長期契約か単年度契約か、業務ごとの調達か業務全

体の調達かなど、さまざまな検討要素があるが、これについては今後の検討課題

である。

また、再構築をすることは、いわゆる汎用機の利用を排除することではない。

現存する外資系メーカーの汎用機は、 新技術に対応しており、超ハイエンドサ

ーバと言えるものであることから、札幌市の既存資産の有効活用も視野に入れつ

つ、業務要件的に大量一括バッチ処理用サーバが必要になるといった事情があれ

ば、汎用機を利用することも考慮すべきである。あくまでも業務要件に照らして

適切な技術を採用することが肝要である。

(2) 基幹系システムの構築手法

再構築にあたっては、グラスボックス化を念頭に置き、まずは全庁的なITガ

バナンス体制を築くが重要である。

その上で、組織面と技術面の、グラスボックス化を図ることになる。システム

のライフサイクル全般を管理するプロセスを、市職員が主体的に運用できるよう

な組織体制を整備する。フレームワークについて、中立でオープンな技術を取り

入れることが必要である。大まかには、要件定義、概要設計までを職員が行い、

それ以降の開発作業をITベンダーに委託して実施するという手法を取るべき

である。

以下、流れに沿って整理する。

業務部門において事務の整理を行ない、業務の流れ図を整備する。WFAでも

イベントフローでも良いが、重要なのは業務部門が作成及び維持が可能な形式で、

記述ルールを規定して標準化し、誰が作成しても均質となるようにすることであ

る。

業務の流れ図が完成したら、次に業務要件の定義を行なう。業務要件の定義に

ついても、作成される文書の記述ルールを規定して標準化し、作成者によって不

均質になることを防ぐ。要件の定義においては、業務間連携やマルチチャネル化

といった業務改革の考慮を含めて実施することから、業務部門とIT部門で作成

する。ただし、主体がどちらかになるかはプロセス定義における役割と責任の定

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義で決めておかなければならない。

ここまでは、基本的に職員で行うことが前提である。外部のリソースを活用す

ることも考えられるが、全てのドキュメントは将来にわたって職員により維持さ

れなければならないので、内容は全て掌握することが必要である。

次に、概要設計を行なうことになるが、この工程も、専門的知識が必要となる

部分も含め、職員が主体となって行うべきである。ここはIT部門が主体となる

ものと想定される。外部リソースの活用については、前工程と同様の考え方であ

る。

以後の工程は、ITベンダーへ業務委託で実施するが、各工程での作業は、必

ず詳細にレビューを実施し、内容を掌握しなければならない。

なお、こうした流れは札幌市全体でのオープン化方針に基づくルールとして定

める必要がある。もしも、基幹系システムの一部について業務部門が個別にオー

プン化したいという状況になっても、全庁的な方針との整合性を保つようにIT

部門が積極的に関与して進めるべきである。

(3) 開発費用及び開発期間について

再構築費用については、全体の金額として大きな投資額となるが、これまでの

他都市の取り組みを参考にし、短期的に「安いこと」を追求して結果的にトータ

ルコストが高くなることを避けるべきである。例えば、他の自治体の事例を見る

と、汎用機本体の金額を下げるために単純に低廉なサーバ機に置き換えるといっ

たことをしても、システム運用に係る経費が高くなってトータルコストでは費用

が増加したということも見られる。政令市の中ではオープン化の取り組みが後発

となる札幌市においては、こうしたデメリットを考慮した対応をすべきである。

その上で、少しでも低廉な費用で実施できるようにするため、過大なリスクが

見積られることを避ける工夫が必要である。具体的には、要件定義に十分な時間

とコストを投入し、精度の高い内容にするよう留意すべきである。

開発期間が長期になることから、現在の基幹系システムもしばらくは稼動させ

なければならないことを踏まえ、短期的な効率化の取り組みなどについても同時

並行で進めることも必要であろう。

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(4) 地場企業の活用について

再構築の調達は今後の検討課題としているが、札幌市が重視する課題の一つで

ある地場企業の活用については、十分な準備の上、参入機会を確保する必要があ

る。地場企業への発注金額を評価することも有効であると考える。

また、再構築にあたってはグラスボックス化を前提としており、技術的にオー

プンで中立なシステム基盤の上で構築することで、地場企業でも受注が可能とな

る。また、発注規模に関しても、機能や範囲を分割た調達が可能になる。同時に、

そういった調達における開発管理体制の整備も必要である。この場合、現行では

まだリスクがあると思われることから、事前に地場企業のスキルアップを促進す

る先行的な取り組みやパイロット事業としての発注などを、経済施策の一環とし

て実施することも考えられる。

一方で、それとは別にJVによる調達についても検討に入れるべきであろう。

JVの構成要件を検討するにあたっては、地場企業の体力、スキルなどの要素を

考慮した上で、実効性のあるものとするよう留意が必要である。プライム企業に

大手ITベンダーを活用するといったことも、場合によっては有効である。

さらに、札幌市の地域経済活性化という目標を踏まえた活用について検討をし

ておく必要がある。単に地場企業を一時的に参入させるのではなく、地場企業を

育成する視点で参入の継続性を考慮し、自立的な成長を促進することを目指すべ

きである。

ITの地産地消という枠組を、IT投資の効果として評価することも視野に入

れるべきである。

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Ⅳ 基本方針策定にあたっての提言

1 総論

本章では、これまで述べてきた再構築の考え方、要件および手法などを、今後さら

に検討を継続すべき点を加味しつつ、札幌市が基本方針の作成を進めるにあたっての

提言として整理する。

① 行政サービスのあるべき姿を目指した業務改革の実施

今後 20 年間の行政サービスを支える基幹系システムへの変革の取り組みであ

るとの意識の下に、全業務において行政サービスのあるべき姿を目指した市民サ

ービスの変革などの業務改革を検討し、実施すべきである。

特に、行政サービスのマルチチャネル化、市民目線でのサービス提供チャネル

の統合に向けた業務間連携について検討すべきと考える。

② ITガバナンスの確立

再構築が広範かつ根幹的な行政事務に影響するものであり、その投資額も非常

に大きなものになることを踏まえると、単なる業務改善での効率化やコスト削減

に止まらない多様な効果を生み出すことが必要である。

そのためにも、業務改革による効率化、市民サービスの向上、地場経済の活性

化を含めた効果の 大化により、投資対効果が確保できるようにすべきである。

これには全庁的な改革の意思決定や投資判断が必要となることから、ITガバ

ナンスを組織体制とプロセスの両面で整備し、確立するよう検討すべきと考える。

③ システムライフサイクル全般におけるプロセスとフレームワークの整備

システムの企画、設計、開発、運用といったライフサイクル全般を対象とした

プロセスを整備し、業務部門、IT部門、ITベンダーの役割と責任、プロセス

内の手順と文書を定義し、標準化するよう検討を進めるべきと考える。

また、プロセスの中では、概要設計までは職員が行うことを前提とするよう、

専門的な知識習得も含めた人材育成方針と体制整備を検討すべきと考える。

更に、システム開発基盤として、特定メーカーの技術に過度に依存しないオー

プンで中立なフレームワークを整備し、開発技術標準を札幌市主導で確立するよ

う検討を進めるべきと考える。

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④ IT投資の効果のモニタリング手法の確立

IT投資の効果を適宜把握できるよう、モニタリング手法の確立について検討

すべきと考える。

なお、効果を測定するにあたっては、コスト削減効果を中心とすると効果を削

減する方向になるので、市民サービスの向上、地場経済の活性化を含めた多様な

効果を評価対象とすることを考慮すべきである。

⑤ セキュリティの維持

開発の初期段階からセキュリティ対策が組み込まれている必要がある。ISM

Sなどの規格を参考にしつつ、システムのライフサイクル全般に組み込まれたセ

キュリティ対策の標準化を検討すべきと考える。

なお、過剰なセキュリティ対策はコスト増加や効率低下を招き、場合によって

はリスクを増大させることになることを踏まえ、バランスの取れたセキュリティ

対策が漏れなく実施されるよう考慮すべきである。

⑥ 基幹系システム再構築の体制整備

基幹系システムの再構築が広範かつ根幹的な行政事務に影響するものであり、

その規模も非常に大きなものになることを踏まえ、全庁的な開発体制の整備につ

いて検討すべきと考える。

⑦ 基幹系システム再構築に係る調達手法

調達手法は、長期契約か単年度契約か、業務ごとの調達か業務全体の調達かな

ど、さまざまな要素を加味して も安全で経済的かつ経済施策に貢献する方法に

ついて検討すべきと考える。

⑧ 地場企業の活用

札幌市の地域経済活性化という目標を踏まえた地場企業の活用について検討

すべきと考える。

これは、単に地場企業を一時的に参入させるのではなく、地場企業を育成する

視点で参入の継続性を考慮し、自立的な成長を促進することを考慮すべきである。

⑨ 全庁的なITガバナンス体制の確立によるIT投資の全体最適化

基幹系システムの再構築の取り組みを全庁のシステムへ展開し、札幌市全体の

ITガバナンス体制を確立し、IT投資の全体 適化に繋げていくことを検討す

べきと考える。

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提 言

(氏名)山口 秀二

札幌市は、住民情報系基幹システムだけではなく主要な情報システムについて、政

令市の中でも比較的高いガバナンスレベルで、経費も低く抑えて運用維持してきてい

ます。しかしながら行政サービスのあり方や情報システムの利活用が大きく変化しよ

うとしている現在において、過去の延長線上で物事を考えていても良い解決策は見つ

からなくなっています。総務省が自治体における情報システムの共同アウトソーシン

グやASP・SaaSの利用の推進を進めていることは、小規模自治体だけを対象に

しているものではなく、政令市においても同様な考え方を取り入れる必要性があるこ

とを示唆しています。

【札幌市における情報システムの位置付けの再確認】

自治体では一般歳出の約1%を情報システムに投資しています。この割合は金融業

など情報システムをビジネスの中核とする業界以外では大きな数字であるといえま

す。自治体の情報システムが遅れているというのは誤解であり、情報化は進んでおり、

すでに自治体の業務は情報システムなしでは回らなくなっているというのが実態で

す。しかしながら情報システムの位置付けに関する認識はいまだに電算化のレベルに

留まっており、民間企業に大きな遅れを取っています。近年の市町村合併において

も困難であり、経費がかかったのは情報システムの統合であり、年金制度や福祉制度

の改正に足かせになっているのも情報システムの改修というのが現実です。

行政サービスのあり方を検討して、次に電算化をするということをしていては、何

の解決策も生まれません。情報システムだからこそできる時間と距離の短縮によって、

市民にとっての行政サービスは大きく変わります。窓口に来て手続きを行っていたこ

とが24時間いつでもできるようになることで、利便性は格段にあがります。自治体

は行政サービスの全てを自ら提供するのではなく、サービスのインフラを一般に開放

することで、それを利用する市民や民間事業者が様々な利用形態を構築していきます。

札幌市の住民情報系基幹システムの再構築は市役所の窓口で行っていた行政サー

ビスを市民の側まで開放するという大きな意味を持つ可能性を秘めています。これま

で基幹系システムのオープン化を行ってきた政令市の目的や成果や経験をよく踏ま

えて、一歩前進した取組みを行っていただくことを期待します。

【新たな枠組みでの再構築の進め方】

これまでの政令市における住民情報系基幹システムの構築は大手業者一社によっ

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て行われることが一般的でした。汎用機を使ったシステム構築では も効率的で経費

がかからない仕組みであったといえます。しかしながら現在よりも大きな機能と性能

が要求されるようになるであろう次期の住民情報系基幹システムの再構築では、それ

では間に合わないような高い効率と経費削減が求められます。 近の銀行を始めとす

る企業の統合は、情報システムに対する投資を単独では実施できなくなっていること

の現れです。市町村合併においても、目的の一つは情報システムへの投資の効率化で

あした。政令市では合併ということはできないので、全く新しい枠組みでの投資の効

率化を行う必要があります。

札幌市は優秀なシステム技術者が多くいるということにおいて特異的な政令市で

あるといえます。単なる地元雇用対策ということではなく、積極的に地元の企業を活

用していくことが投資の効率化を進める大きな鍵となります。SOAという新しいシ

ステム開発方法は複数の小さな企業が連携して一つの大きなシステムを構築できる

という可能性を秘めています。個々の企業が開発するサブシステム(サービス)間の

連携が疎であるがゆえに、少ない設備投資や緩やかなコミュニケーションで統合が可

能となります。総務省が進める統合連携基盤や次世代地域情報プラットフォームの事

例において、北海道におけるプロジェクトが唯一成功していることも偶然ではなく、

地域特性の結果であるといえます。大手業者でしかできない役割がなくなるわけでは

なく、小規模な地元企業と連携してシステム構築できる枠組みを構築することが、成

功の鍵になると考えます。

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提 言

(氏名)渡部 卓央

1.はじめに

札幌市において基幹系情報システムを再構築するにあたり、考慮する点が多々ある

なかで、私は地場IT企業の活用について述べます。

北海道内には、IT産業を営んでいる事業所(支社等を含む)が約800あり、そ

のほとんどが札幌市内に集中しています。また、北海道のIT産業は、平成19年度

売上高が4,152億円となっており、北海道工業出荷額において4位の産業へと成

長しています。これは、地元に根付いた優秀な技術者が数多く存在していることを意

味していると思います。しかし、地場IT企業の中には自社ブランドを築き上げ大き

く成長している企業がある一方で、首都圏の大手ITベンダー等の一次請け、二次請

け、三次請けのような階層構造の末端に位置せざるを得ない企業が多くあることも事

実です。このような企業を下請け構造から脱却させ、成長路線へと導くことは札幌市

の役割のように思います。札幌市には、この基幹系情報システムの再構築を地場IT

企業がさらに成長する重要かつ貴重な機会と捉え、このプロジェクトを進めていただ

きたいと考えております。

2.地場IT企業活用に向けて

現状の札幌市基幹系情報システムは、汎用機を用いているため、必然的に既存ベン

ダー1社に開発・改修・運用を委託する形態になっています。再構築に際して、技術

的にはオープン系を採用しても、大手ITベンダー1社に発注するスタイルでは用い

る技術が変っただけで実態はほとんど同じ状態になってしまいます。札幌市ではこの

ような事象が起こらないような調達方式を取り入れることは、もはや必須といえます。

例えば、SOAやSaaSといったアーキテクチャを採用すると、システムは小さな

サービスの集合体となり、比較的小さな地場IT企業が自分たちの得意分野を活かし

た参入が可能になります。だからといって、大手ITベンダーを排除するというもの

では決してありません。大手ITベンダーには大手ベンダーだからこそできる部分と、

地場IT企業には地場IT企業ででも十分に開発可能な部分があり、それらの相互の

協力関係を意識した調達の仕組みを取り入れることが大事だと思います。地場IT企

業にとって、このように小さく開発することは短期的には良いのですが、中長期的に

成長するには課題も残ります。

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地場IT企業においては、大規模システムの開発経験が少ない企業が多くあります。

これは先に述べた下請け構造の弊害でもありますが、大規模システム開発の経験がな

いため下請けに甘んじなければいけない部分と、依然として下請けのままのため大規

模システム開発に参画できない部分があり、悪いスパイラルに陥ってしまい、そこか

らの抜け出し方が見つからないでいます。それらの企業がこの再構築を通じて、大規

模システムの開発手法、マネジメント手法及び開発技術等を蓄積することで、中長期

的に十分な競争力をもった企業へ成長できることが大事であり、札幌市は 初の段階

からそこまでを視野にいれた調達の仕組みを検討したほうが良いと思います。

3.おわりに

札幌市にとって基幹系情報システムの再構築は、 大規模のシステム開発になりま

す。これは、地場IT企業や大手ITベンダーの協力なくしては実現不可能です。そ

のためには、どこかの1社だけが受託するものになってはいけません。本プロジェク

トの成功は、単に基幹系情報システムが新たに完成することだけではなく、札幌市の

IT産業を1兆円規模に育てることです。ぜひ、この機会を活かし発展的な取り組み

を実施することを期待いたします。

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提 言

(氏名)桑原 義幸

「札幌市汎用電子計算機システム検討委員会」に参加させていただき、私が感じた

ことを踏まえて以下に私からの提言事項を記させていただきます。あまり理想を追っ

ても実現可能性が低下すると思われますので次年度に向けてのアクションプラン

(案)という形で記載させていただきます。

(1) 体制の強化

同委員会の報告結果を受けて、次年度以降もオープン化に向けての検討が継続

されるべきと理解しています。その中で重要となるのが市側の体制の強化です。

オープン化事業はITコスト削減、市民の利便性の観点で、市としても 重要項

目として捉えるべきでしょう。それを実行していく上での体制強化は必須と考

えます。具体的には、市長のリーダーシップの下、CIOの任命(兼務でも可)、

更にはCIO補佐監の登用(非常勤もしくは業務委託の民間採用が望ましい)、更

にはこのトロイカ体制の下でのオープン化事業、すなわち札幌市 適化計画策

定プロジェクト(仮称)を推進するタスクフォースを設置し、具体的なアクシ

ョンプランを策定します。

このタスクフォースのみでは十分なリソースの確保は困難と思われますので、

過去中央省庁が実行した「 適化計画策定」に類似の計画策定を外部業者(コ

ンサルタント)に委託し、一気に行うことが実現可能性として高いと考えます。

参考情報として、単純に比較は出来ませんが、昨年夏から今年の3月末にかけて

佐賀県が 適化計画を策定しています。この策定作業を行う上で外部業者の調

達を行い、某企業が約5,000万円で受注しました。入札方式は総合評価落札方式

でした。もちろん、民間からのCIO補佐官の登用、札幌市 適化計画策定プロジ

ェクトにおける外部業者への委託費とコストは発生しますがオープン化による

効果を考えれば先行投資として行うべきだと考えます。内製だけでは、まず不

可能でしょう。

適化計画策定の際には当然のことながら、対投資効果分析(これには市民サ

ービス向上も含まれる)も行い、損益分岐のポイントを 適化計画策定チーム

(前述の外部業者の作業)にて算出するのが必須です。

(2) ITガバナンスの構築準備

オープン化に向けての札幌市 適化計画策定プロジェクトと並行して、内部統

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制の仕組み(ITガバナンス)の構築を進めます。ガバナンスと言っても多岐に

わたります。 終的な目標はITライフサイクル全般(予算申請・取得→調達準

備→調達→開発・導入→運用・保守→評価→廃棄・刷新)にわたってガバナン

スを構築することですが、まずはこの7つのステップ単位で検討・策定します。

策定するにあたっては、参照すべき方法論は多々あります。例えば、調達方針

に関しては、政府の「調達ガイドライン」、導入に関してはPMBOKi、EVMii、運用

に関してはITILiiiと言ったグローバルスタンダードとなっているメソドロジー

を参照し、札幌市独自のITガバナンスに関する方針を文書化、定着化を図って

いきます。

この中でも今後のオープン化によるマルチベンダー化を想定し、SLAivの緻密化

等によるベンダーマネジメント手法の確立も急務であると考えます。同様のガ

バナンスを構築した例としては佐世保市があります。平成17年度から作業を

開始し、今では「佐世保市 適化指針」と称して運用され、定着化しつつあり

ます。

これらの作業主体も(1)で示した体制に関わってきます。やはりCIOを中心と

して、実作業はCIO補佐官及び前述のタスクフォースもしくは情報政策部門が責

務を負うべきだと考えます。次年度は札幌市 適化計画策定プロジェクトと並

行して、ガバナンス構築作業も本メンバーにて開始し、まずは札幌市に即した

ガバナンスのあり方とは何かを明確にし、ガバナンス完成に向けての計画作り

から着手するのが現実的であると考えます。

(3) 地場企業の参入強化(ジョイントベンチャーの検討)

オープン化による効果として参入機会の増加、門戸の拡大が挙げられます。こ

れにより地場企業の参入機会も今までよりも増加します。反面、地場企業一社

で全てを賄うとなると受託者たる地場企業のリスクも増大し、結果的に従来型

の大手企業が元請けとなり、地場企業の参入は下請け的存在となります。

本来、地場企業の参入とは、元請けとしてどれだけ参入出来たか、という評価

軸で判断すべきです。札幌市には北大発のベンチャー企業を始めとして、優秀

なIT企業が多々存在しています。これら企業の参入機会を増加させる手段とし

て共同企業体(JV:ジョイントベンチャー)の仕組みが考えられます。オープ

ン化を行うことによる分割発注を進めることにより、地場企業各社が共同事業

体を形成し、JVとして事業を請け負うことが出来る仕組みを構築します。

分割の単位は様々考えられますが、札幌地場企業の特性を鑑みて発注単位を検

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討すれば良いと考えます。この場合、発注者としては、まさに前述のベンダー

マネジメント手法を確立した上でJVを推進すべきと考えます。

以上

i PMBOK: Project Management Body Of Knowledge ii EVM: Earned Value Management iii ITIL: Information Technology Infrastructure Library iv SLA: Service Level Agreement

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提 言

(氏名)和泉 憲明

技術のオープン化と組織標準の確立により行政サービスの持続可能性を確立すべ

きである。

1. はじめに

近年、汎用電子計算機(以下、汎用機)を中心とした情報システムが大規模化・複

雑化しているため、メンテナンス困難なシステム、すなわち、レガシーシステムとな

ってしまっている。結果として、汎用機が負の遺産の象徴となり、その維持・管理の

方法が問題となっている。

ここで、汎用機を代表とする情報システムは道具であり、目標ではない、というこ

とに注意しなければならない。我々人間は、道具を改良し、使いこなすことにより、

目的を達成してきた、という歴史をもつ。道具改良の歴史は、まさに、技術革新の歴

史であり、近年、技術革新のダイナミクスをイノベーションと呼び、社会レベルで重

要視されている。ただし、イノベーションが社会の持続可能性を実現すると考えられ

る一方で、道具への盲目的な依存は、組織を破滅させることが指摘されている。

以上から、汎用機を中心とした情報システムに、イノベーションに基づく持続可能

性を持ち込むためには、情報システムを主体的に使いこなす過程で、継続的に改善す

る、という、組織的な取り組みが求められる。

このことを言い換えると、情報システムを理解困難なものとして取り扱っていては、

持続的な改善は期待できない、ということである。逆に、主体的に道具を維持管理す

ることができれば、必要な機能が洗練されるとともに、無駄な機能が除去され、道具

によって達成されるサービスの向上も期待できる。さらには、安価で高付加価値なサ

ービスが提供可能となる。

2. 情報システムにおける組織の主体性の確立

情報システムの利活用に組織的な主体性を導入するためには、具体的には、次の項

目の確立が重要になる。

a. 情報システムにより提供されるサービス内容を具体的に議論できる組織体制、

b. 情報システムのライフサイクルのプロセスを標準化し継続的に改善する方法論。

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2.1 組織体制の整備

まず、a.に関して、組織が主体的に取り組むためには、システムが対象とする業務

やサービス、それらの実現方式などにより、むやみに、情報システムに関する議論を

難解にしてはならない。対象や実現方式を議論するのではなく、結果としてどういう

サービスが提供できたのか、ということを評価し、改善するための組織と方法論の確

立が重要である。

次に、組織体制を整備することにより、具体的に何を検討するかを明確にしなけれ

ばならない。ここで大事なことは、単に、開発や運用にかかる経費を、他都市や前年

度などと相対的に比較することではなく、結果としてのサービス内容とそのサービス

にかかる経費を比較することである。特に、経費を厳密に評価するためには、サービ

ス内容に関する観点を明確にしておかなければならない。ここでは、盲目的なシステ

ム化に基づくコスト削減のみの観点ではなく、市民サービスという観点から、市民接

点をシステムではなく職員が担うという観点から、サービスの組織化や移管、組織の

統廃合や手作業によるシステム廃止など、サービス改善・行政改革の全庁的な手段と

してシステムが位置づけられることが重要である。

例えば、医療サービスを考えた場合、目前の診察料だけに着目してしまうと、結果

として、顕在化していない症状が悪化してしまい、将来の長期入院が必要になる可能

性を議論できない。また、安易な投薬治療は、免疫力などの低下をもたらし、深刻な

疾病のリスクを高めるかもしれない。さらに、単に、医療者と患者との関係だけでな

く、患者の家族への負担や、地域社会とのかかわりなど、サービスの価値に関して、

広く議論することが重要である。そして、サービス提供者としての医師や看護師、な

らびに、診療や検査とそのための設備だけを対象とするのではなく、受付から案内、

待合、精算など、サービス全般を議論しなければ、経費の正当な評価は得られない。

例えば、システム導入の効果は、システム開発経費の相対比較により説明されるので

はなく、結果としての待ち行列の解消などによる待合スペースの有効利用などで議論

されるべきである。ここでは、盲目的なシステム化・合理化だけでは、理想的なサー

ビスとはほど遠いことは明白である。 後に、これらの評価基準は、診療科ごとに異

なるものであってはならないし、かつ、基準そのものもある一定期間を経た後、議論

の対象となるべきである。

2.2 ライフサイクルプロセスの標準化

b.に関しては、ある種のサービス標準の確立と維持を意味するが、この標準には二

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種類の重要な意義がある。

一つは、情報技術を専門としない職員でも、ある程度の技術レベルにて取り扱える

ようにするための標準である。これは、ファーストフード店やコンビニエンスストア

などにおけるサービスの均質化に対応する。情報システムのライフサイクル全般にわ

たる業務ノウハウが、明確な手順や方式を示すことにより、再現性の高い方法論とし

て組織に定着することにより、属人性が排除された再現性の高い方法論として確立す

るのである。

もう一つは、標準を策定することにより、一部の職員が試行錯誤で行ってきた高品

質なサービスとの差異を明らかにし、比較の結果、改善内容を新たな標準として組織

に普及・定着させるためのものである。これは、クリニカルパスに代表される医療分

野などの標準化活動に対応する。明確に提示された手順や方式は、観点の異なる職員

を同じ議論の場に集結させる。結果として、さまざまな、改善活動の基盤となるので

ある。

このような標準は、組織だけでなく、地域・社会の持続性と連結していることが望

まれる。従って、どのような企業に対しても中立的で、かつ、オープンな技術が基盤

として採用されていることが前提となる。

また、ここでの大切な観点は、道具を使いこなしたり、改善のアイディアを議論し

たりするのは、あくまで市の職員であり、実際に誰がその道具を作り込むかは重要で

はない。従って、市の職員の主体性が損なわれないような標準であることが重要であ

る。言い換えると、技術の高度化を理由に、必要以上に複雑で難解な標準を導入する

ことは、無意味である。このことは、適切な規模・価格での道具を選択する、という

観点からも重要である。

3. 行政サービスの持続可能性へむけて

以上をまとめると、a.の組織体制とb.の方法論の整備により、

A.中立的でオープンな技術基盤により、地域企業に参入機会が与えられるとともに、

B.職員の主体的な改善によりサービスレベルが維持・向上され、

C.サービス内容の具体的な議論により情報システムの持続可能性が確保される、

という行政サービスの持続可能性が期待できる。

市の職員の主体性が牽引する行政サービスの持続可能性は、オープンな基盤との相

乗効果により地域の企業に波及し、地場のIT産業を活性化するものとなる。結果とし

て、行政サービスの持続可能性は、地域社会の持続可能性へと発展することが期待で

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きる。

情報システムの高度化と複雑さに、近年、多くの取り組みが混乱している一方で、

今回の委員会での議論を振り返ると、札幌市における専門的な課題解決とその先導性

確立の可能性が期待できる。今後、その専門的な議論に参画することにより、地域社

会の持続可能性に貢献できれば幸いである。

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提 言

(氏名)宮脇 訓晴

基幹システムの更改プロジェクトは、業務的な影響範囲・予算規模・実施期間共に

超大規模プロジェクトと位置付けられる。本プロジェクトを成功させるためには、適

切なプロジェクト管理が実現できる目標設定・体制整備等を実施する必要がある。

トップマネジメントがプロジェクト目的・目標を設定すべき

一般的に、現場を基点とするプロジェクトは、担当する業務領域を中心とした 適

化を追及する傾向にある。そのため、特定業務の改善を目的とするプロジェクトに適

している。

しかし、本プロジェクトのような地域産業の視点や全庁 適化の視点に基づくプロ

ジェクトには、現場基点ではなく、トップマネジメントによる強いイニシアティブの

基でプロジェクトを立ち上げる必要がある。また、立ち上げに当たっては、トップマ

ネジメントによって庁内に対するプロジェクトの目的・目標の表明とプロジェクトを

指揮するプロジェクトマネージャの任命を行うべきと考える。

専任のプロジェクトマネージャを任命すべき

ITプロジェクトでは、組織の責任者が、プロジェクトマネージャを兼任している例

が多い。当該措置は、プロジェクトの成否を組織の責任と位置付けていることを表明

する目的を果たしている。しかし、組織の責任者が組織運営業務に忙殺され、適切な

プロジェクト管理を行うことができないという事例も多く見られる。

そのため、当該プロジェクトの重要性・規模・範囲を考慮すると、組織の責任者が

プロジェクトマネージャを兼任するのではなく、新たに専任者を任命することが必須

と考える。

強いリーダシップを発揮できるプロジェクトマネージャを作るべき

本プロジェクトの性質を考慮すると、プロジェクトマネージャは業務担当である現

場部署や既存のITベンダー、更改を担当するITベンダー等の多くの利害関係者と交渉

を重ねながら、新システムへの更改プロジェクトを指揮する必要がある。当然、交渉

相手は庁内・庁外における責任者・役職者と想定される。その際、プロジェクトマネ

ージャと交渉相手との職位や役職の差異によって、率直な意見交換や交渉ができない

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といった非効率な状況に陥ることは避けるべきと考える。

そのため、プロジェクトマネージャが強いリーダシップを発揮し、利害関係者との

交渉に対処できるように、トップマネジメントによる任命に加えて相応の職位・役職

が必要と考える。また、本プロジェクトは、幅広い業務知識を前提とした交渉力を必

要とするため、プロジェクトマネージャには市役所職員が就くべきと考える。

プロジェクト管理チームを組成することで対応力を強化すべき

プロジェクト管理業務は、利害関係者が増えるにつれて管理項目も指数関数的に増

加する傾向にある。本プロジェクトが目指すような地元ITベンダーも含めて複数が参

加するマルチベンダープロジェクトの場合、システム全体の開発方針や技術標準、ア

ーキテクチャ、セキュリティ対策方針等の設計・維持といったプロジェクト管理業務

が膨大な量になると想定される。

ついては、プロジェクトマネージャの業務を補佐するチームを組成し、組織的にプ

ロジェクト管理業務を行うべきと考える。また、職員がプロジェクト管理業務のすべ

てを対応することに拘らず、専門性の高い領域は外部有識者を積極的に活用すること

で、品質と網羅性の高さを追及すべきと考える。

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「札幌市汎用電子計算機システム検討委員会」委員名簿

委 員 長 山 口 秀 二 さいたま市CIO補佐監

副委員長 渡 部 卓 央 日本ノーベル(株)札幌開発センター長

委 員 桑 原 義 幸 (株)インターフュージョンコンサルティング代表取締役社長

委 員 和 泉 憲 明 (独)産業技術総合研究所サービスプロセス研究チーム長

委 員

委 員

宮 脇 訓 晴

小 澤 秀 弘

(株)JSOL IT コンサルティング・技術本部 IT アーキテクト

札幌市市民まちづくり局情報化推進部 IT 推進課情報化調整担当係長