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  〈日本複製権センター委託出版物〉   本書(誌)を無断で複写複製(電子化を含む)することは,著作権法上の例外を除き,禁じられています。本書(誌)をコピーされる場合は,事前に日本複製権センター(JRRC)の許諾を受けてください。   また,本書を代行業者等の第三者に依頼してスキャンやデジタル化することは,たとえ個人や家庭内での利用であっても一切認められておりません。

 JRRC〈http://www.jrrc.or.jp eメール:[email protected] 電話:03‒3401‒2382〉

R

はしがき

行政書士試験は,平成18年度より試験科目が変更になりましたが,平成30年度試験で13年目を迎えます。 科目の変更とともに,より思考力を要する出題内容になってきています。その典型が「記述式」という,文章を書かせる問題が加わったことに現れています。40字という短い解答を要求してはいますが,択一式で得た知識を体系的に頭の中で整理し,キーワードを繋げて答えを導き出す力が必要になってきます。 しかし,問題が,より思考力を試す内容になったとはいえ,多くの問題は,「基本」を踏まえたうえでの思考力を問うものであり,本質はあくまで「基本」にあります。「難しい問題が解答できる」ということが合格への絶対条件ではありません。できるだけ多くの問題に正解し,「合格基準点」を獲得することが合格への絶対条件です。 本書は,「この合格するために必要な得点を獲得すること」に重点をおきました。また,まったく初めて学習される方も学習しやすいように「項目」を区切って構成していますので,スムーズに読み進めることができます。

2018年版の刊行におきましては,執筆陣を一部いれかえ,あらたな視点を取り入れて内容を吟味するとともに,書名を『行政書士合格ナビゲーション基本テキスト』から『明快!これで合格 行政書士』へとあらためました。 本書を活用して十分な実力をつけ,行政書士試験合格を勝ち取ってほしいと切望します。

2017年12月東京法経学院 編集部

4

行政書士「試験案内」

※ 受験される方は,受験される年度の「試験案内」で,詳細を必ずご確認ください。

■■ 試験日及び時間

試  験  日 11月第 2日曜日

時     間 午後 1時から午後 4時まで( 3時間)

■■ 受験資格

年齢・学歴・国籍等に関係なく,どなたでも受験できます。

■■ 試験の方法及び科目

「行政書士の業務に関し必要な法令等」及び「行政書士の業務に関連する一般知識等」について,筆記試験により行います。なお,出題形式及び問題数は,業務法令が択一式及び記述式で46問,一般知識が択一式のみで14問です。

(注)記述式は,40字程度で記述するものを出題

試 験 科 目 内    容

行政書士の業務に関し必要な法令等(出題数46問)

●憲法● 行政法(行政法の一般的な法理論,行政手続法,行政不服審査法,行政事件訴訟法,国家賠償法,地方自治法を中心とする)●民法●商法(会社法を含む)●基礎法学

行政書士の業務に関連する一般知識等(出題数14問)

●政治・経済・社会●情報通信・個人情報保護●文章理解

5

■■ 受験手続

※ 期間・日程等の詳細については,「行政書士試験研究センター」のホームページ等でご確認ください。

試 験 案 内配 布 期 間

① 郵送配布 配布期間/ 8月上旬~ 8月下旬 郵送を希望する方は,140円切手を貼り,送り先明記の返信用封筒(角 2号=A 4サイズの用紙が折らないで入る大きさ)を同封し,封筒の表に「願書請求」と朱書きして,下記あて先まで郵送で請求してください。

願書請求あて先 〒252-0299

日本郵便株式会社 相模原郵便局留 一般財団法人行政書士試験研究センター試験課② 窓口配布 配布期間/ 8月上旬~ 9月初め ※ 配布場所は,「行政書士試験研究センター」

のホームページでご確認ください。

受 付 期 間

・郵送による申込み 8月上旬~ 9月初め ※ 別途インタ-ネットによる受験申込みもできます。詳細は,「受験案内」でご確認ください。

受験願書提出先一般財団法人 行政書士試験研究センター試験課(あて先は,受験願書と共に配布される封筒に印刷されています。)

提 出 書 類 受験願書一式

受 験 手 数 料 7,000円

6

■■ 配点・合格基準

形    式 出    題

法 令 等

⑴ 択一式 ① 五肢択一式 ② 多肢選択式

⑵ 記述式

40問( 1問 4点)3問( 1問 8点)※空欄 1つ 2点3問( 1問20点)

一般知識等 五肢択一式 14問( 1問 4点)

合   計 60問

●合格基準 ① 「法令等」の得点が満点の50%以上 ② 「一般知識等」の得点が満点の40%以上 ③ 試験全体(60問)の得点が満点の60%以上 以上 3つの条件を全てクリアーすること (注 ) 合格基準については,問題の難易度を評価し,補正的措置が加

えられることもあります。

■■ 合格発表

翌年 1月下旬 受験者全員に合格又は不合格の通知が郵送されます。また,(一財)

行政書士試験研究センターのホームページに合格者の受験番号が表示されます。

■お問合せ先■ (一財)行政書士試験研究センター 〒102‒0082 東京都千代田区一番町25番地 全国町村議員会館 3階 電話番号(試験専用)03‒3263‒7700 ホームぺージアドレス http://gyosei-shiken.or.jp

7

本書の構成と効果的な活用方法● 本書は,短い時間を利用してでも理解していけるように「項目」(Lesson)を区切って解説していますので,初めて学習される方でもスムーズに学習を進めることができます。

学習するにあたって,まず言えることは,最初は誰でも読んでいる記述がわからないことが多いということです。ひと通り目を通すということが学習の一歩であり,大事なことであるといえます。一読してみて,「こういうものか」と法律の全体像が大体把握できれば,しめたものです。

本書の構成は以下のとおりです。

■項目(Lesson)ごとに構成

lesson

1 法とは 

■項目の学習目的を提示

「法」と聞いて,どのようなものをイメージされるのであろうか。 ニュース等で取り上げられることが多いのは,殺人事件等の刑事事件に関するものである。刑事事件は,犯罪類型を規定する刑法や手続を規定する刑事訴訟法の適用があり,容疑者が未成年の場合には少年法の問題となる。 しかし,刑事事件以外についても,我々の生活は「法」と密接に関連している。婚姻・離婚や相続といった家族形成に関する・・・・・・・・・

学 習 の 目 的

8

■「ワンポイント・アドバイス」で注意点等を記述しています

 国事行為の内容が政治性の強いものである場合,①他の機関による実質的決定によって,また,②憲法上実質的決定権の所在が明確でないもの(衆議院の解散)については,内閣の「助言と承認」によって,行為の政治性が払しょくされ,天皇の国事行為が名目的なものになると説明される。

■「プラスワン」で更に必要な知識等を記述しています

■プ ■ラ ■ス ■ワ ■ン 公人としての行為  前記の国事行為以外でも,天皇は公人として活動するため,その活動についてどのように考えるかという問題が生じる。多くの見解は,憲法が象徴としての天皇を規定した以上,その行う事実行為が公的な意味を有することは否定できないとして,憲法上許容されているとする。その説明として「象徴としての行為」や「公人的行為」という言葉が用いられている。

■「重要判例」は「事案」と「判旨」を記述し,わかりやすくしています

判例をチェック!

①  最大判昭45・ 9・16

未決勾留中のXは,喫煙を求めたが監獄法規則が禁止しているとして認められなかった。そこで,Xは慰謝料の支払を求めて訴えた。

監獄内においては,多数の被拘禁者を収容し,これを集団として管理するにあたり,その秩序を維持し,正常な状態を保持するよう配慮する必要がある。このためには,被拘禁者の身体の自由を拘束するだけでなく,右の目的に照らし,必要な限度において,被拘禁者のその他の自由に対し,合理的制限を加えることもやむをえないところである。

●O ne ●P oint ●A dvice

事案

判旨

9

■「確認問題」を項目の最後に収録。主に過去問を中心とした問題により, 習得した知識のチェックができます。

確認問題でチェックしよう ?

●問 ●題

□ 1 我が国に在留する外国人には,我が国の政治的意思決定に影響を及ぼすような政治活動の自由についてまで保障されているわけではない。(H 6-24- 3)

□ 2 憲法に定める国民の権利及び義務の各条項は,自然人たる国民のみに適用されるものであり,法人たる会社は,政治的行為をなす自由を有しない。(H 7-26- 3)

■法改正情報等

本書の法令基準日は,平成29年11月 1日です。本試験の法令基準日は試験を実施する年の 4月 1日です。平成29年11月 1日から平成30年 4月 1日までに施行された改正法令等の追加情報につきましては,下記へアクセスしてください(追録の送付はございませんのでご了承ください)。

URL http://www.thg.co.jp/support/book/

10

1 学習スケジュール

チェックシート

学習が見える,目標が見える ● 1日の学習量を決める。 1日 5 Lesson を学習する,というふうに ●学習した項目にチェックマークと日付を付ける

Lesson タイトル 頁 1回目 2回目

基 

礎 

法 

1 法とは 17 / /

2 法の分類等 21 / /

3 法の解釈等 31 / /

4 裁判制度 39 / /

5 民事裁判と刑事裁判 45 / /

憲     

1 憲法総論 59 / /

2 天皇 65 / /

3 人権総論 70 / /

4 人権の主体と保障範囲 74 / /

5 人権の制限 90 / /

6 幸福追求権 95 / /

7 法の下の平等 104 / /

8 精神的自由権1(表現の自由) 118 / /

9 精神的自由権 2(思想・良心の自由,信教の自由,学問の自由)

133 / /

10 経済的自由権 148 / /

11 人身の自由 158 / /

11

Lesson タイトル 頁 1回目 2回目

憲     

12 社会権 165 / /

13 受益権・参政権 174 / /

14 国会①(国会議員) 182 / /

15 国会②(議院) 191 / /

16 内閣 203 / /

17 司法①(裁判所・裁判官) 214 / /

18 司法②(司法権) 222 / /

19 司法③(違憲審査) 232 / /

20 財政 241 / /

21 地方自治 250 / /

22 平和主義・憲法改正 258 / /

行  

政  

 第 1章-行政法総論・手続

1 序論・全体像 270 / /

2 行政上の法律関係等 276 / /

3 行政組織①(行政主体・行政機関) 292 / /

4 行政組織②(行政機関相互の関係) 303 / /

5 行政作用①(行政立法) 310 / /

6 行政作用②(行政行為の種類) 321 / /

7 行政作用③(行政行為の効力) 330 / /

8 行政作用④(行政裁量) 338 / /

9 行政作用⑤(行政行為の瑕疵) 348 / /

10 行政作用⑥(行政行為の取消し・撤回) 358 / /

11 行政作用⑦(行政行為の附款) 366 / /

12 行政作用⑧(行政強制) 373 / /

13 行政作用⑨(行政罰) 385 / /

14 行政作用⑩(行政契約・行政指導・行政計画) 390 / /

15 行政手続法①(総説・目的等・適用除外) 402 / /

16 行政手続法②(申請に対する処分) 410 / /

12

Lesson タイトル 頁 1回目 2回目

行  

政  

17 行政手続法③(不利益処分) 420 / /

18 行政手続法④(行政指導手続・処分等の求め・届出手続・意見公募手続等)

431 / /

19 情報公開法 448 / /

 第 2章-行政救済法

1 行政不服審査法①(総説) 462 / /

2 行政不服審査法②(申立要件) 468 / /

3 行政不服審査法③(審査請求の審理) 474 / /

4 行政不服審査法④(執行停止) 486 / /

5 行政不服審査法⑤(審査請求の終了) 490 / /

6 行政不服審査法⑥(再調査の請求・再審査請求)

498 / /

7 行政不服審査法⑦(教示・情報提供) 506 / /

8 行政事件訴訟法①(総説) 510 / /

9 行政事件訴訟法②(取消訴訟の要件) 517 / /

10 行政事件訴訟法③(取消訴訟の審理) 538 / /

11 行政事件訴訟法④(執行停止) 545 / /

12 行政事件訴訟法⑤(判決) 551 / /

13 行政事件訴訟法⑥(取消訴訟以外の訴訟類型)

559 / /

14 国家補償法①(総説,国家賠償法1条) 570 / /

15 国家補償法②(国家賠償法2条) 585 / /

16 国家補償法③(国家賠償法3条以下) 594 / /

17 国家補償法④(損失補償) 601 / /

13

Lesson タイトル 頁 1回目 2回目

 第 3章-地方自治法

1 総説,地方公共団体の種類,事務 610 / /

2 条例・規則 623 / /

3 直接請求 630 / /

4 議会 637 / /

5 執行機関 650 / /

6 財務 660 / /

7 監査制度 670 / /

8 住民監査請求・住民訴訟 679 / /

9 国等の関与 688 / /

10 公の施設等 708 / /

133

憲  

lesson

9    精神的自由権 2     (思想・良心の自由,信教の自由,学問の自由) 

本レッスンでは表現の自由以外の精神的自由権について説明する。 精神的自由権として保護される対象として,内心の思想とそれを外部的に表現する行為が考えられる。前者が思想・良心の自由として19条で,後者は表現の自由として21条で保障されている。それ以外の自由──信教の自由,学問の自由──も,これらに含まれると考えられるが,どのような理由で別個の規定が置かれているのであろうか。 憲法は,内心の自由と外部的行為の自由,それぞれについてどの程度の保護を与えるべきとしているのであろうか。そして,どのような行為が問題となり,判例はどのように解釈しているのかを理解していこう。

1 思想・良心の自由

第19条 思想及び良心の自由は,これを侵してはならない。

xq 特定思想の強制禁止 w 思想・良心の自由 qeq 沈黙の自由 w zq 思想に基づく不利益的取扱いの禁止

19条で保障されている思想・良心の自由の内容は,①特定思想の強制の禁止,②沈黙の自由,③思想に基づく不利益的取扱いの禁止の三つであると解されている。その保障は内心にとどまる限り絶対的である(外部に現れると表現の自

学 習 の 目 的

134

由の問題となる)。■プ ■ラ ■ス ■ワ ■ン 「思想・良心」の意義  「思想・良心」がどのようなものを指すのかについては,学説上議論があるところである。

内心説 内心におけるものの考え方全てを含む。

信条説宗教上の信条や体系的知識に準じる人格形成の中核となるものに限定する。

 判例は,その態度を明確にしてはいないが,最大判昭31・ 7・ 4の判示をみると少なくとも内心説は採用していないと理解するのが一般的である。

判例をチェック!

① 謝罪広告事件  最大判昭31・ 7・ 4

衆議院選挙に立候補予定のXについて,過去に汚職をした旨をYが新聞等で公表した。これに対して,虚偽の事実の公表によって名誉を毀損されたとして,XがYに名誉回復のため謝罪文の掲載を求めた。

単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度のものであれば,謝罪広告を新聞紙に掲載すべきことを命じても,良心の自由を侵害し,憲法第19条に違反するものではない。

 謝罪広告という外部的行為を内心に反して行わせた事例である。謝罪広告を掲載することを全面的に肯定したのではなく,その文面が「単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するに止まる程度のもの」であれば違法ではないとしたものである。「陳謝の意」についてはともかく,事実の表明については,それが19条で保護されるべき「思想・良心」にはあたらない,との見解を示した判決であると理解されている。

② 麹町中学校内申書事件  最判昭63・ 7・15

公立中学校から受験先の高等学校に提出する生徒Xの内申書に,Xが政治運動をしていた事実を記載したことがXの思想良心の自由の侵害になるかが問題となった。

内申書に「麹町中全共闘を名乗り,他校生徒とともに校内に乱入・ビラ撒きをしたり,大学生ML派の集会に参加している」等の記載をすることは,個人の思想,信条そのものを記載したものではないことは明らかであり,その記載に係る外部的行為によっては個人の思想,信条を了知しうるものではないし,また,個人の思想,信条自体を高等学校の入学者選抜の資料に供したものとはとうてい解することができない。

事案

判旨

●O ne ●P oint ●A dvice

事案

判旨

135

憲  

③ 君が代ピアノ伴奏職務命令拒否事件  最判平19・ 2・27

小学校の卒業式において音楽専科の教員に対して「君が代」の演奏を命じたが,教員は自己の信条に反するとして拒否した。式当日においても演奏をするよう促したが演奏をせず,学校はテープで対応した。後日,教育委員会が教員を職務命令違反で戒告し,教員は,本件職務命令が憲法19条に反するなどとして,処分の取消しを求めた。

公立小学校における入学式等の儀式的行事において,国歌斉唱に際し,音楽専科の教諭にそのピアノ伴奏を命ずることは,特定の思想を持つことを強制したり,あるいはこれを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものでもなく,児童に対して一方的な思想や理念を教え込むことを強制するものとみることもできない。

 ピアノ伴奏行為自体は,音楽専科の教諭等にとって通常期待されるものであって,ピアノ演奏を命じることは,一定の思想に関するものではなく,内心の状態とは切り離された単なる外部的な行為を命じるものにすぎず,音楽の教員として行うべき職務とし不合理ではないと判断したものである。内心に反する行為の強制という制約の可能性を認めつつ,制約があると現実に認められる場合を限定している。

④ 君が代起立斉唱事件  最判平23・ 5・30

都立高校の教諭Xは,校長から,卒業式において国旗に向かって起立し国歌斉唱をするよう職務命令を受けたが,国歌斉唱の際に起立しなかった。東京都教育委員会は,この職命令違反を理由に,Xの定年退職後の再雇用等を不合格とした。Xは,職務命令は思想・良心の自由を侵害し,不合格決定は違法であるとして,国家賠償請求訴訟を提起した。

本件職務命令は,特定の思想を持つことを強制したり,これに反する思想を持つことを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものということもできない。…個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するものと認めることはできない…。もっとも,上記の起立斉唱行為は,教員が日常担当する教科等や日常従事する事務の内容それ自体には含まれないものであって,一般的,客観的に見ても,国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であるということができる。そうすると,…個人の歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行為(敬意の表明の要素を含む行為)を求められることとなり,その限りにおいて,その者の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることは否定し難い。…そこで,このような間接的な制約について検討するに,個人の歴史観ないし世界観…が内心にとどまらず,それに由来す

事案

判旨

●O ne ●P oint ●A dvice

事案

判旨

276

lesson

2 行政上の法律関係等 

本レッスンでは,行政上の法律関係等について,学習する。 行政行為は,公共目的のため一方的に行われる。この行政行為の当事者間では民法の適用があるのだろうか。例えば,A社とX間でA社所有地について売買契約があり,登記をA社のままにしていたところ,Y税務署長がA社に対する国税滞納処分としてこれを差し押さえた場合,XY間の関係はどうなるだろうか。差押処分は行政行為であるが,民法177条(登記がなければ所有権を第三者に主張できない)が適用されるとすると,YがXに優先することになる(最判昭31・ 4・24)。反対に,民法177条が適用されないとすると,真の所有者はXであるとして,Xが優先することになる。このように,行政主体と国民との間の法律関係である行政上の法律関係について,私法が適用されるのか,あるいは私法が適用されず独自の取扱いをするのか。行政上の法律関係に関する適用法規が問題となる。以下では,判例が,いかなる判断をしているのかを中心に検討する。 また,付随する問題として,法の一般原則や公物について検討する。

 

 

学 習 の 目 的

?土地A社

(登記)

②差押え税務署長

①売買XX

YY

277

行政法総論・手続

1 行政上の法律関係 行政主体と国民との間の法律関係を行政上の法律関係という。私人間についての法律関係については民事法が適用される。では,行政上の法律関係についても私法が適用されるのか,あるいは私法が適用されず独自の取扱いをするのか,適用法規が問題となってくる。以下,判例で問題となった行政上の法律関係について検討する。

 行政法の中でも,行政上の法律関係はわかりにくい箇所であるが,試験対策としては判例の結論を中心に学習すればよいであろう。

民法177条

①  農地買収処分に民法177条が適用されるか(最大判昭28・2・18)。

適用されない。

②  租税の強制徴収において,登記簿に基づき行われる滞納処分による差押えにつき民法177条の適用があるか(最判昭31・ 4・24)。

適用される。

会計法30条

①  国の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間につき会計法30条の適用はあるか(最判昭50・2・25)。

※  会計法30条は,民法の消滅時効期間(10年)よりも短期の消滅時効期間を設けている( 5年)。

適用されない。民法が適用され10年である。

公法上の権利

①  地方議会の議員の報酬請求権を譲渡することができるか(最判昭53・ 2・23)。

できる。

②  公営住宅の入居者が死亡した場合には,その相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継するか(最判平 2・10・18)。

当然に承継すると解する余地はない。

その他の場合

①  公営住宅の利用関係に,民法・借地借家法の適用があるか(最判昭59・12・13)。

法及び特別の定めがない限り,原則として一般法である民法・借地借家法が適用される。

②  民法234条 1項は建物を築造するには隣地境界線から50センチ以上距離を保つことを定める。他方,建築基準法は防火地域では外壁が耐火構造の建造物につき隣地境界線に接して建築することを認めている。建築基準法所定の建造物につき民法234条1項は適用されるか(最判平元・9・19)。

民法234条 1項の規定の適用が排除される。

●O ne ●P oint ●A dvice

278

③  取締法規である食品衛生法の許可を得ていない者が取引として行った売買契約は無効となるか(最判昭35・ 3・18)。

有効である。

④  普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して契約の締結を行う場合,民法108条は類推適用されるか(最判平16・ 7・13)。

類推適用される。

判例をチェック!

①  最大判昭28・ 2・18

戦前,Yは,Xに農地を売り,引き渡したが,登記はYにあった。戦後,自作農創設特別措置法により,政府が農地を買収するためには,市町村農地委員会が農地買収計画を立てることとされた。別府市朝日地区農地委員会は,登記簿上のYを不在地主と認定して,Yに対して自作農創設特別措置法に基づく農地買収処分を行った。その際,真の権利者であるXが自分が権利者であると主張して,農地買収に異議を唱えた場合,国は民法177条により,自分が所有者であると主張してXに対抗できるだろうか。

政府の自作農創設特別措置法に基く農地買収処分は,国家が権力的手段を用いて農地の強制買上を行うものであって,対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは,その本質を異にするものである。したがって,このような私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法177条の規定は,自作法〔注:自作農創設特別措置法〕による農地買収処分には,その適用を見ないものと解すべきである。ゆえに,政府が同法に従って,農地の買収を行うには,単に登記簿の記載に依拠して,登記簿上の農地の所有者を相手方として買収処分を行うべきものではなく,真実の農地の所有者から,これを買収すべきである。

 

事案

地区農地委員会

①農地売買

③異議

登記

②農地買収処分

XXYY

農地

判旨

462

lesson

1 行政不服審査法①       (総説)      

ここからは,行政不服審査法を学習する。 行政不服審査法は,行政不服申立ての手続に関する一般法であり,新法は,平成26年に制定された。 ここで,行政不服申立てとは,行政庁の公権力の行使について,行政機関に対して不服を申し立てる手続である。その手続は,簡易迅速なものであり,違法適法のみならず当不当も審判対象とするものであって国民の権利救済に資するということができるが,その反面,行政機関内での自己統制であるという側面がある。以下では,こうした行政不服申立ての性質を念頭に置きながら,各手続過程を学習していただきたい。

行政不服申立てと行政訴訟の比較

行政不服申立て 行政訴訟

①長所 簡易迅速安価 公正中立

②短所 中立性の希薄さ 時間がかかる一般に費用面で高価

③審査機関 行政庁 裁判所

④審査内容 違法適法のみならず当不当も 原則として違法適法のみ

⑤審理手続 書面審理 口頭審理

 原則となる不服申立てとしては,審査請求があり,例外的に認められる不服申立てとしては,再調査の請求及び再審査請求がある。

学 習 の 目 的

463

行政救済法

1 目的等❶ 目的 この法律は,行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し,国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより,国民の権利利益の救済を図るとともに,行政の適正な運営を確保することを目的とする( 1条 1項)。 ※ 注意  新法では,簡易迅速かつ公正な手続であることが明記された。

❷ 一般法 行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に関する不服申立てについては,他の法律に特別の定めがある場合を除くほか,この法律の定めるところによる( 1条 2項)。これは,行政不服審査法が不服申立てについての一般法であることを示している。

2 不服申立手続 不服申立手続は,審査請求に一元化された。例外的に,法律が個別に規定する場合には,再調査の請求,再審査請求がある。

❶ 審査請求 審査請求とは,行政庁の処分又は処分の不作為について審査庁に対してする不服申立てである( 2条, 3条)。この不作為は,「法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないこと」である( 3条)。 審査請求は,処分庁等(処分庁又は不作為庁)に上級行政庁がない場合には当該処分庁等に,処分庁等に上級行政庁がある場合には最上級行政庁にするのが原則である( 4条)。

XX

処分庁

審理員

審査請求人

審査庁 行政不服審査会等⑦諮問・答申

⑥審理員意見書

⑧裁決

④主張・証拠提出

⑤審理

③指名

②形式 審査

(例:本省大臣官房職員)

(例:地方支分部局の長)

(例:大臣)

①審査請求 の申立て

610

lesson

1 総説,地方公共団体の種類,事務 

ここからは地方自治法について学習する。本試験では,条文知識を問う問題がほとんどである。したがって,条文を理解することが重要な試験対策となる。もっとも,条文数が多く,かつ複雑である。したがって,本テキストにあがっている条文から理解していただきたい。 本レッスンでは,地方公共団体の種類・事務を学習する。 地方公共団体の種類は,「普通地方公共団体」と「特別地方公共団体」に区分される。普通地方公共団体では,市町村のうち大都市等に関する特例について理解することが学習のポイントとなる。特別地方公共団体では,地方公共団体の組合のうち「一部事務組合」と「広域連合」の理解が学習の中心となる。 地方公共団体の事務は,「自治事務」と「法定受託事務」に区分される。歴史的経緯を理解したうえで,両事務の相違,特に法定受託事務に対する条例制定・議会・監査委員の権限・不服申立てについて学習する。

1 総説 憲法は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は,地方自治の本旨に基いて,法律でこれを定める。」とする(憲法92条)。地方自治の本旨は,住民自治と団体自治の 2つの要素から成り立つ。 住民自治とは,地方自治は住民の意思に基づいて行われるというものである。団体自治とは,地方自治は国から独立した団体に委ねられ,団体の意思と責任の下で運営されるというものである。 こうした 2つの要素からなる地方自治の本旨に基づき,地方公共団体の組織

学 習 の 目 的

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地方自治法

及び運営に関する事項が地方自治法により規定されている( 1条参照)。■プ ■ラ ■ス ■ワ ■ン  普通地方公共団体の議会の議員及び長は,住民自治の観点から直接選挙で選ばれる。まず,選挙権は,①日本国民である満18歳以上の者で,かつ②引き続き 3か月以上市町村の区域内に住所を有する者に与えられる(18条)。一方,被選挙権はやや複雑なので,以下でまとめてみた(19条参照)。

都道府県知事(19条 2項) 日本国民で満30歳以上であること(住所要件なし)

都道府県議会議員(19条 1項)

日本国民で満25歳以上であること選挙権を持っていること(住所要件あり)

市区町村長(19条 3項) 日本国民で満25歳以上であること(住所要件なし)

市区町村議会議員(19条 1項)

日本国民で満25歳以上であること選挙権を持っていること(住所要件あり)

2 地方公共団体の種類❶ 総説 憲法では,地方公共団体とは,地方自治の沿革や実態から考えて,都道府県と市町村という標準的な二段階の地方公共団体を指すと解されている。 地方自治法では,地方公共団体は,「普通地方公共団体」及び「特別地方公共団体」とされている( 1条の 3第 1項)。そして,普通地方公共団体は,都道府県及び市町村であり( 1条の 3第 2項),特別地方公共団体は,特別区,地方公共団体の組合,財産区である( 1条の 3第 3項)。なお,地方公共団体は,すべて法人である( 2条 1項)。

x 市町村 w x 普通地方公共団体 f w w w z 都道府県 w 地方公共団体 f w w x 特別区 w w x 一部事務組合 w w w z 特別地方公共団体 e 地方公共団体の組合 f w w w z 広域連合 z 財産区

❷ 市町村 市町村は,基礎的な地方公共団体として,地域における事務及びその他の事

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務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する( 2条 3項)。なお,市町村は,その住民につき,住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない(13条の 2)。この点,判例は,市町村長は,転入届があった場合,その者に新たに当該市町村の区域内に住所を定めた事実がある限り,これを受理しないことは許されず,住民票を作成しなければならないとしている(最判平15・ 6・26,アレフ転入拒否事件)。 もっとも,地方分権の流れの中で,身近な行政についてはできる限り基礎的な地方公共団体である市町村に処理させるべきであると主張されるようになった。そこで,都道府県の事務のうち,その規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないと認められるものについては,当該市町村の規模及び能力に応じて,これを処理することができることとされた( 2条 4項)。かかる観点及び行財政上の能力が高く都道府県に匹敵するものがあることから,大都市等に関する特例が設けられた。すなわち,指定都市,中核市の制度である。なお,市になるためには,人口が 5万人以上でなければならない( 8

条 1項 1号)等の一定の要件を充たさなければならない。

指定都市 中核市

要件 人口50万人以上 人口20万人以上※

処理できる事務

一定の事務のうち,都道府県が法律又は政令の定めるところにより処理することとされているものの全部又は一部で政令で定めるもの(252条の19第 1項)

指定都市が処理することができる事務のうち,都道府県がその区域にわたり一体的に処理することが中核市が処理することに比して効率的な事務その他中核市において処理することが適当でない事務以外の事務で政令で定めるもの(252条の22第 1項)

※  平成26年改正によって,従前の特例市制度(人口20万人以上)は廃止され,中核市の指定要件が「人口20万人以上の市」に変更された。

〈指定都市の特徴〉① 指定都市は,市長の権限に属する事務を分掌させるため,条例で,その区域を分けて区を設け※,区の事務所又は必要があると認めるときはその出張所を置く(252条の20第 1項)。

② 区にその事務所の長として区長を置く(同条 3項)。③ 区長又は区の事務所の出張所の長は,当該普通地方公共団体の長の補助機関である職員をもって充てる(同条 4項)。

④ 指定都市は,必要と認めるときは,条例で,区ごとに区地域協議会を置く