住民参加型の地域づくりとソーシャルビジネスの可能性 ·...

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東海短期大学紀要第 43 号(2009東海大学福岡短期大学 ISSN 0386-8664 -63- 住民参加型の地域づくりとソーシャルビジネスの可能性 -北九州市小倉北区藍島を事例として- 竹内 裕二 (受付 2009 6 23 日) (受理 2009 8 27 日) Community development by citizen participation and the possibility of social business Case study for the isolated island of Aishima, city of kitakyushu” by Yuji TAKEUCHI Abstract The business of community development by citizen participation was been watched with keen interest in recent years, because our life environment has been changed by the global economic slump. In the future, the citizen business ex: social business (SB), community business (CB), corporate social responsibility (CSR), etc., will be important for the general populace. However, popularization and permeation of the above mentioned citizen business is necessary. In this paper, the author shows that the participation in community development will in itself lead to the goal of popularization and permeation. In conclusion, how SB is understood in general and the relationship of CB and CSR will be examined. KeywordsCommunity development, Citizen participation, Social business, Isolated island 1. はじめに ソーシャルビジネスという言葉は、社会起業家:ムハ マド・ユヌス氏が 2006 年にノーベル平和賞を受賞したこ とによって一般的に普及した。日本でも、この受賞を機 に論壇や書籍でソーシャルビジネス(以下、SB)の新展 開などが盛んになり、経済産業省は研究会を立ち上げ、 各大学も SB に関連した講義が増えるなど様々な方面で 普及しつつある。日本で地域をフィールドにしたビジネ スとして、「コミュニティビジネス(以下、CB)」や「企 業の社会的責任(以下、CSR)」が SB よりも早く活動し ており、最近ではかなり普及してきたといえる。しかし、 SBCBCSR 共に新しい概念だけに、論者によって様々 な定義付けがなされており、定まった定義はない。 最近そのような地域でのビジネスが、注目されている 背景として、米国のサブプライムローン破綻に始まった 世界的な経済不況により、世界の消費停滞、雇用不安ま でに発展し、私たちの生活環境が変化したことによって、 より顕著になったと考える。そのような時期だからこそ、 組織に頼るのではなく、自力で生き残りをかけ、自立し た営みを試みようとする人々にとって SB CB に注目 が集まっているのも当然であり、企業も地域からの信頼 を得るために CSR を推進しているといえる。 そこで本論文では、SBCBCSR を広く一般に普及 浸透させることを前提として「市民の目線という立ち位 置」から SB をどのように捉え、CB CSR との関連は どうなのかということについて、前報 (1) した北九州市小 倉北区に位置する藍島での島民主体の島づくり活動の動 きにおける「島民主体の島づくり行動計画」策定後の実 践活動を基に論じる。 2. 研究目的 本研究の目的は、前報 (1) 同様、島民が中心となり、島 外市民を含めた市民参加の島づくりの視点を踏まえ、島 民・島外市民・企業・行政の四者が自分たちの地域資源 としての島の活性化のために、島民自らが考え、自らが 動く島づくりを目指す協働参画型社会の可能性を社会実 験によって模索し、今後他島へ普及させるための課題を 明確にしていくことにある。本研究では、まず島民主体 による島づくり行動計画書(5 カ年計画)を作成した。 次いで、その計画に基づき実践活動を行っている。その 具体的一例として、島民及び島外市民参加による島づく り市民団体「藍島開拓団『島で遊び隊』」を結成した。こ こでの過去 5 年間の活動と成果について報告し、ソーシ ャルビジネスとしての市民活動の可能性について述べ

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東海短期大学紀要第 43 号(2009)

*東海大学福岡短期大学 ISSN 0386-8664

-63-

住民参加型の地域づくりとソーシャルビジネスの可能性 -北九州市小倉北区藍島を事例として-

竹内 裕二

(受付 2009 年 6 月 23 日) (受理 2009 年 8 月 27 日)

Community development by citizen participation and the possibility of social business Case study for the isolated island of Aishima, city of kitakyushu”

by

Yuji TAKEUCHI

Abstract The business of community development by citizen participation was been watched with keen interest in recent years,

because our life environment has been changed by the global economic slump. In the future, the citizen business ex: social business (SB), community business (CB), corporate social responsibility (CSR), etc., will be important for the general populace. However, popularization and permeation of the above mentioned citizen business is necessary. In this paper, the author shows that the participation in community development will in itself lead to the goal of popularization and permeation. In conclusion, how SB is understood in general and the relationship of CB and CSR will be examined.

Keywords:Community development, Citizen participation, Social business, Isolated island

1. はじめに

ソーシャルビジネスという言葉は、社会起業家:ムハ

マド・ユヌス氏が 2006 年にノーベル平和賞を受賞したこ

とによって一般的に普及した。日本でも、この受賞を機

に論壇や書籍でソーシャルビジネス(以下、SB)の新展

開などが盛んになり、経済産業省は研究会を立ち上げ、

各大学も SB に関連した講義が増えるなど様々な方面で

普及しつつある。日本で地域をフィールドにしたビジネ

スとして、「コミュニティビジネス(以下、CB)」や「企

業の社会的責任(以下、CSR)」が SB よりも早く活動し

ており、最近ではかなり普及してきたといえる。しかし、

SB、CB、CSR 共に新しい概念だけに、論者によって様々

な定義付けがなされており、定まった定義はない。

最近そのような地域でのビジネスが、注目されている

背景として、米国のサブプライムローン破綻に始まった

世界的な経済不況により、世界の消費停滞、雇用不安ま

でに発展し、私たちの生活環境が変化したことによって、

より顕著になったと考える。そのような時期だからこそ、

組織に頼るのではなく、自力で生き残りをかけ、自立し

た営みを試みようとする人々にとって SB や CB に注目

が集まっているのも当然であり、企業も地域からの信頼

を得るために CSR を推進しているといえる。 そこで本論文では、SB、CB、CSR を広く一般に普及

浸透させることを前提として「市民の目線という立ち位

置」から SB をどのように捉え、CB や CSR との関連は

どうなのかということについて、前報(1)した北九州市小

倉北区に位置する藍島での島民主体の島づくり活動の動

きにおける「島民主体の島づくり行動計画」策定後の実

践活動を基に論じる。

2. 研究目的

本研究の目的は、前報(1)同様、島民が中心となり、島

外市民を含めた市民参加の島づくりの視点を踏まえ、島

民・島外市民・企業・行政の四者が自分たちの地域資源

としての島の活性化のために、島民自らが考え、自らが

動く島づくりを目指す協働参画型社会の可能性を社会実

験によって模索し、今後他島へ普及させるための課題を

明確にしていくことにある。本研究では、まず島民主体

による島づくり行動計画書(5 カ年計画)を作成した。

次いで、その計画に基づき実践活動を行っている。その

具体的一例として、島民及び島外市民参加による島づく

り市民団体「藍島開拓団『島で遊び隊』」を結成した。こ

こでの過去 5 年間の活動と成果について報告し、ソーシ

ャルビジネスとしての市民活動の可能性について述べ

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竹内 裕二

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る。

3. 本研究におけるソーシャルビジネスとは(2)

〈3・1〉 言葉ありきではなく、行動ありき 世界的経済不況が続く今日、新たな雇用や働き口の確

保の場の創出を求めて、SB、CB、CSR などに可能性の

模索、もしくは促進させるために多方面で検討を行って

いる。しかしながら、それらの検討内容を鑑みると定義

などという言葉での位置づけを優先するあまり、経済活

動に対しての動きを弱めているようにしか感じない。 そもそも多くの人々や企業は、SB、CB、CSR などと

いう言葉や概念を知らなくても、SB、CB、CSR の概念

に沿った活動を行っているように思う。筆者は、この動

きを当然の動きとして受け止めている。つまり人は、生

きていくために食べ物を口にする。この行為は、誰かに

「教わらなくては、行動することのできない行為」とは

言えない。生きていくために体が覚えている自然な動き

である。これと同じように、人も、企業も、生きるため

に行った行為の結果が、SB、CB、CSR などに類似した

活動であると考えるならば、素直に理解できる。 当事者となる人々は、自分たちのために、自分たちが

持っている知識、技能、ノウハウなどを用いて、自分た

ちの生活の中で無理をせず、身の回りのささやかな顔の

見える関係から、飯の種となる小さなビジネスができ、

地域の人々に喜んでもらえる仕事をすることで生活がで

きればと思ってビジネスを始めた人が多いと思う。それ

ゆえ、決して高尚な志を持って事に当たっている人は多

くない。だからこそ、その延長線上でのビジネスが、徐々

に動き出し、地域の人々に認識されだして、ようやく「地

域社会で問題解決型のビジネスを行う」、「地域社会もよ

くなり、自分たちの生きがいも生まれる」といったこと

が言えるようになるのが自然である。 基本的に SB や CB は、人が生活できる事業としての

可能性を持ち合わしていると筆者は考える。しかし、最

初からビジネスとして成功する事業になるとは思ってい

ない。ビジネスである以上、リスクも当然背負わなけれ

ばならない。筆者の周りにおいて、市民活動の運営で失

敗している人たちを鑑みて思うことは、新たな事業を始

める際に当然のこととして、「①「食べられる」と思って

はいけない。人は助けてくれない。②頭の中の計画は、

現実通りに進まない。③目先の助成金に頼らない。先行

き不透明な事業だからこそ、事業継続を考えれば頼らな

いように努めなければならない。助成金は、事業が軌道

に乗ってから活用すべきである。④恐れては、何も生ま

れない。動かなければ、形にならない。」を肝に銘じてお

く必要がある。しかし人は、失敗してこの事に気付く。 この個人の動きと同様に企業も、生き残りをかけ、地

域という市場にビジネスチャンスを狙って動いている。

CSR は、大手企業が活発に取組んでいるものの、中小零

細企業ではなかなか普及していない。その理由の一つと

して、自分の会社が生きるか死ぬかの瀬戸際の時に

「CSR」(各企業も、必要性は認識している)などと悠長

なことを言っていられないからであろう(大手企業は、

イメージ戦略として上手に活用している)。ところが、そ

の中小零細企業の行動といえば、販路や市場拡大のため

に地域の人々と協力しながら CSR の概念に類似した活

動をしている。そこには、CSR という言葉を用いないで、

CSR を実践している姿がある。企業の場合、個人と異な

り本業というビジネス活動があるため、地域に対する活

動がなくても事業として成立するという強みがある。

これら個人や企業の動きと連動して、地域を構成する

各セクターの方々が協働して、地域の課題や問題を解決

する取組みを行っている。この「協働」という概念は、

戦前までの日本の普通の村や町にあった「結(ゆい)」や

「催合(もやい)」という生活の知恵の中にあったもので

ある(3)。その「協働」と「結や催合」の異なる点は、民

間の取組みに行政セクターが、その一員として一緒に取

組むようになったことである。行政が、住民自治や市民

活動に介入することは良いことだが、その一方で市民の

自立心を脆弱なものにしたと感じる。これは、助成制度

や各種活動支援などの行政メニューが整う一方、民間の

動きに対し、お金だけでなく、口も出してしまう行政の

姿が、民間をコントロールする構図をつくり出し、結果

的に民間の良さを弱体化させてしまったと言っても仕方

がない。今後市民が、これまでのような行政主導とも言

われる指導的手法を市民活動へ必要以上に受け入れるな

らば、活力ある経済活動は期待できない。現場となる地

域での現状は、これまでのような行政だけ、企業だけ、

市民だけで解決できる社会問題は少なく、各セクターの

協力なくしては解決できない問題が多くなってきた。こ

のような時代の流れだからこそ、市民自身が必要以上に

行政を頼らず、それぞれの立場から自立した姿勢の活動

が求められる。SB は、行政や企業が着手することのでき

ない分野の隙間産業であり、他のセクターと対等な目線

で活動できる(それに応じたスキルは必要)やりがいの

あるビジネスである。このような観点からも、まちづく

りの分野に形を変えた地縁型活動が必要不可欠になって

きたことを意味しているといえる。SB は、多様化した社

会問題を解決するため、協働の概念にビジネスの要素を

取り入れた活動だと言えば一般的にわかりやすいが、イ

メージすることは難しい。 〈3・2〉 地域での活動は、連動している

一般の人々にイメージとしての SB、CB、CSR が浸透

しないことについて、筆者は次のように考える。論者に

よって様々な SB、CB、CSR の定義がなされ、研究者レ

ベルで議論が尽きない活動に対し、一般の人々が理解や

イメージをしようと試みても「わからない」と言われて

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地域住民参加の地域づくりにおけるソーシャルビジネスの可能性

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当然である。一般の人々に対して、平易な言葉で、活動

そのものがイメージできる説明が必要である。 そこで、これまで SB、CB、CSR について論じられて

きた概念を基に、多くの研究者が提案してきた概念を筆

者なりにまとめてみた。そこから、SB に関しては社会性、

事業性、革新性の 3 つのキーワード(4)、CB は社会性、事

業性、市民性の 3 つのキーワード(5)によって概念が構成

され、CSR の概念については「企業が社会および環境に

関する配慮を企業活動およびステークホルダー(利害関

係を持つ者)との相互作用の中に自発的に取り入れよう

とする概念」(6)というのが、共通の認識であるようだ。 一般の人々にとって、これら言葉上の SB、CB、CSR

の概念は理解することが可能だが、SB と CB がどのよう

に異なり、CSR と SB や CB がどのような関係になるか

など、具体的に理解することが難しい。さらにその概念

説明の中には、広義の SB・CB とか、狭義の SB・CB と

いう区別をするケースなどがあり、一般の人々にとって

なおさらわからなくなってしまう。ここでは、そのよう

な細部に関する説明よりも、大局的な視点からの説明を

行い、活動としての SB、CB、CSR の違い(区別化)や

位置関係について整理したい。 筆者は、SB、CB、CSR の基本は、地域の中で活動し

ている「ビジネス」だと位置づけており、一連のつなが

りをもって動かしているため、それぞれ SB、CB、CSRを単独に検討することは意味のないことだと考える。そ

こで、この関係を図1に表現してみた。この図1からわ

かるようにビジネスが、SB、CB、CSR の中心にあり、

そのビジネスの特徴によって SB、CB、CSR の 3 方に大

きく分類される。 ところが、この SB、

CB、CSR の概念につい

て多くの議論を重ねら

れている状況を鑑みる

ならば、全ての活動がき

っちりと分類すること

ができないからだと推

測する。つまり、グレー

ゾーンと言われる曖昧

な取組みの存在がある。

それを筆者は、お互いが 重なり合う図中の A、B、C の部分だと考え、SB、CB、CSR を区分けする分岐点は図中に示す位置だと考える。

その図中の A、B、C の部分において、SB、CB、CSRへと分類する判断基準(分岐点)については、次のよう

に考えている。SB、CB、CSR 自体が持っている概念の

特徴から、筆者は A→「革新性」、B→「自発性」、C→「市

民性」が、判断する上での重要なファクターになるもの

だと捉えている。

ここで示す A:「革新性」とは、活動そのものが単に目

新しい活動かどうかが問題なのではなく、その活動を行

うことによって社会システムとしての機能的役割を果た

しうるかどうかである。それゆえ、活動当初が SB であ

っても、社会システムとしての機能的役割を果たせない

場合、CB と位置づけられる。その逆もしかりで、CB と

しての活動であっても、社会システムとしての機能的役

割を果たすならば、その活動は SB と位置づけられる。 次に B:「自発性」とは、企業セクターにおける自発的

な活動の姿勢を意味している。つまり SB は、前述の Aで述べたように社会システムとしての機能的役割を果た

すかどうかが前提となっていることは、言うまでもない。

一方の CSR に関しては、その活動が社会システムとして

の機能的役割を果たすまでに至らない場合、企業の自発

的な活動として捉えるべきである。逆に、企業活動の一

環であっても、その活動の結果によって社会システムと

しての機能的役割を果たした場合、SB として捉えなけれ

ばならない。 C の部分で「市民性」というファクターを用いたこと

について、一般の人々にとって違和感があるように思わ

れる。しかし筆者は、市民と企業の関係になるからこそ、

あえてこのファクターを用いた。その理由として、企業

という立場であっても、「市民性」を持つか、持たないか

で CB か、CSR なのかの判断が決まると考えるからだ。

ここで言う市民性とは、市民(民間)の立場で行う活動の

ことを指し、活動に参加する人や企業が職業的・社会的

にいかなる地位や立場であっても、ボランティアもしく

は、社会貢献という立場で活動に参加する場合、一人の

市民としての立場で活動することが不文律のルールだか

らである。このことから、企業が CSR という観点からの

ビジネスを展開しても、その結果が市民性の要素が高い

場合、CB と捉えられる。逆に、CB という観点からのビ

ジネスをしても、企業としての自発的活動の要素が高い

場合は CSR として捉えられる。 これまで SB、CB、CSR の違いや位置関係を述べてき

たが、上記の説明で該当しないケースがある。そのよう

な場合筆者は、それらを SB、CB、CSR というカテゴリ

の中へ無理に区分すべきでないと考えている。あえて分

類分けするのならば、活動の特徴がある程度表れるまで

「ビジネス」という位置で考えるべきであろう。 〈3・3〉 SB、CB、CSR それぞれの位置づけ

SB、CB、CSR の明確な概念が定まっていない今だか

らこそ、人々にとって甘い誘惑の香りがするビジネスな

のかもしれない。ビジネスは決して甘くはない。しかし、

人々が SB や CB によって自立した生活を営むことので

きる可能性は十分にある。だからこそ、筆者は市民の目

線からの立ち位置より、SB、CB、CSR それぞれの違い、

位置関係について述べた。筆者は、さらに上述したこと

図1:SB、CB、CSR の関係

ビジ

ネス

ソーシャル

ビジネス(SB)

コミ

ュニティ

ビジネス

(CB)

企業

の社会的

任責(CSR)

A B

C

分岐

分岐

分岐

出展:筆者作成

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竹内 裕二

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を一般の人々へ伝える用語として、「SB とは、 地域の連

携や協働による問題解決力を通じての社会システムの構

築をなす活動」、「CB とは、市民のコミュニケーション・

ネットワークなどといった市民力を通じての地域活性化

を行う活動」、「CSR とは、企業の本業を活用しての技術

力を通じての自発的な社会的責任を追及する活動」とま

とめてみた。これを提案すると同時に、安心して SB、

CB、CSR 活動に参加する人が多くなり、地域がより一層

活発になることを期待している。 以上のことから今回取上げる市民活動が、ビジネスと

して成立する可能性を持ち合わせているが、その活動が

単なるビジネスではなく SB、CB、CSR のどこに位置づ

けられ、今後どのような展開となりうるものかについて

検討する必要がある。

4. 実践活動の概要

〈4・1〉 藍島開拓団「島で遊び隊」の設立背景と目的 〈4・1・1〉 藍島開拓団「島で遊び隊」の設立背景

藍島開拓団「島で遊び隊」(以下、「遊び隊」)は、前報(1)で報告した「藍島変身のための五ヵ年活動計画」に基

づいて、翌年の 2004 年 6 月に島民・島外市民・行政の連

携によって結成された団体である(図 2 参照)。

図 2:団体運営組織図 この団体が発足した背景は、次の通りである。近年世

界的に影響を及ぼしている自然環境の変化は、島民の生

活の糧である漁業の継続を脅かす状況になりつつある。

このような現状を踏まえ、島民自身が今後の島のあり方

を考える時期に来た。平成 15 年度における島内での議論

の結果、これからの藍島は基幹産業である漁業を継続し

ながら観光という視点からの活路を見出す道を選んだ。

ところが島民は、これまで島外市民との交流を積極的に

してこなかったことから、島外市民の来島に難色を示し

た。つまり、村社会から不特定多数の来島者による都会

化への流れに対する恐怖心が、島民の行動に規制をかけ

てしまったと言える。それゆえ、島外市民を受入れし難

い島民とっての島外市民のイメージは、「魚場を荒らす

人」、「ゴミを持ち込む人」というマイナスイメージばか

りであり、来島を拒む理由にもしている。

そこで、交流を行なう練習として、島民と島外市民が

交流することから始めた。その手段として、この藍島開

拓団「島で遊び隊」(以下、「遊び隊」)の創設を行ったの

である。つまり、島民が来島者を拒む理由を逆手に取り、

島で海岸漂着物収集を行うボランティア要素を多く含ん

だ組織を結成したのである。初めて島外の一般市民から

の参加者を募った結果、54 人もの参加があり幸先よいス

タートを切ることができた(写真 1 参照)。

図 3:実践活動開始までの流れ

写真1:参加者集合写真

〈4・1・2〉 藍島開拓団「島で遊び隊」の活動目的

「遊び隊」の活動の真の目的は、藍島の活性化である。

しかし、この目的をそのままの形で対外的に示した場合、

多くの市民から賛同を得ることができない。そこで、対

外説明用の活動目的を明らかにしておく必要がある。下

記に本団体の活動目的を示す。

「遊び隊」の活動目的は、①藍島の歴史や伝統文化に

島外の人々から関心を持ってもらうこと、②多くの人々

に島の存在を知ってもらうことの 2 点である。今回の取

組みは、この目的を達成するために市民による活動団体

を創設し、多くの自然を残している島を一日のんびり楽

しめる島づくりを行う。さらに肩肘張らずに、のんびり

とガーデニング感覚で島の潜在的魅力を引き出す作業を

行う。

行政の動き まちづくり NPOの動き

活動参加者人数の確定と同時に、当日の活動

保険の加入を行う。

まちづくり NPO から提出された行動計画

書を福岡県離島振興協議会及び北九州市小

倉北区役所まちづくり推進課内で検討した

結果、側面から支援することになった(主体

は、市民団体)。 活動に対する資金的な支援は、福岡県離島

振興協議会が行い、主となる参加者である北

九州市民への広報活動に対しては、北九州市

小倉北区役所まちづくり推進課が担当する

ようになった。

H15 年度に福岡県離島振興協議会から、ま

ちづくり NPO へ協力依頼があり、WS を開

催した。

福岡県離島振興協議会より、藍島漁業組合

への協力依頼を行い、当日の協力体制を明

確にした。

市政だよりによる掲載、北九州市内の市民セ

ンターへのチラシ配布よる参加者募集活動

の開始。

福岡県離島振興協議会からの協力依頼を

受け、藍島変身 5 カ年計画(行動計画)

を作成した。

行政からの運営支援体制を受け、参加募集案

内チラシの作成、島民との活動内容の調整を

行なった。

北九州市小倉北区役所まちづくり推進課及び

渡船事業所と事前説明をし、当日の運営内容

を確定。

まちづくりN

PO

参 加

管理運営

参加促進

情報整理

情報提供

情報提供

情報提供

取組み調整

情報管理

会報配布

事業報告

活動報告書の提出

会報・報告書の作成

会報・報

告書の配布

市 民

島 民 参加促進

参加促進

島外市民 参加促進

活動参加・

活動参加

活動周知

参加促進

福岡県離島振興協議会/北九州市小倉北区役所

藍島漁協組合 情

報提供・助成金支援

取組み調整

藍島開拓団

「島で遊び隊」

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地域住民参加の地域づくりにおけるソーシャルビジネスの可能性

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〈4・2〉 藍島開拓団「島で遊び隊」の活動概要

基本的に月に 1 回日帰りの活動を行い、子どもから高

齢者までが家族ぐるみで楽しめる内容とした。具体的活

動内容としては、海岸漂着物の収集作業、花の移植など

の景観整備、流木などを用いたベンチや案内板の設置な

どである。場合によって専門的知識が必要なときは、講

師を招き指導を仰いでもらった。

このような活動を通じて、藍島内に島外市民が憩うこ

とのできるスペースを島外市民の手で楽しみながら、環

境問題の大切さを共感しながら新たな観光地としての魅

力を構築していくものである。

5. 社会実験としての実践活動と課題・問題点

〈5・1〉 活動段階と活動内容の成長 本活動は、図 4 に示す段階を踏んで活動内容の項目が

増えていった。

図4:活動作業内容変化経緯図

① ステップ1(2004 年度)

初年度(2004 年度)の活動は、初期段階として基本的

に月 1 回の海岸漂着物収集(海岸清掃)作業に徹するこ

とから始めた(写真 2 参照)。その理由は、この作業を通

じて島内にどのような課題があり、前述の〈4・1・2〉で

示した目的を達成させるためには、どのような作業を必

要としているのかが、この時期には見えなかったからで

ある。同時に、島民は藍島の海の幸を活かした昼食を毎

回提供することにより、新たな産業の構築に努めた。 その一方で、この活動を継続させるために団員拡大も

同時にしなければならなかった。藍島では、毎年 8 月 24日の旧暦行事「地蔵盆」の時に魚供養を行っており、こ

の時に島民が「藍島盆踊り(注1)」と呼ばれる踊りを行っ

ていることに着目して、島外市民に藍島及び「遊び隊」

の活動を知ってもらう取組み(藍島を知る一日:島内散

策と盆踊りの鑑賞)を行った(写真 3 及び 4 参照)。 ② ステップ 2(2005 年度‐2006 年度)

前述のステップ 1 の活動から、毎回回収される流木や

ポリタンクなどの量の多いことに着目した。これらを廃

棄するだけでなく、別の形で再利用できないものかと団

員全員で検討を行った。その結果、流木を活用して、ベ

ンチや机、看板などを作ってはどうかという意見が出て、

皆で取組む事にした(写真 5 参照)。 活動当初、何ができるか不明だったが参加者からの意見

を尊重することで、次々と形になった。そのようなモノ

づくりを一年間行った後、島内外の人々に「遊び隊」の

活動がわかるように花壇を島内に作ることにした。この

計画は、藍島自治会との協議の結果、受入れてもうこと

ができ、来島者の目に留まりやすい場所を中心に設置す

るようにした(写真 6 参照)。一方島民は、何度も来島す

る参加者たちから要望が多かった「藍島のお土産品」開

発に努め、小口ではあるが販売を行うようになった。 ③ ステップ 3(2007 年度‐現在)

このステップ 3 から、これまで 2 年間継続して活動し

てきたモノづくりをなくした。その理由として、①「遊

び隊」で行ったモノづくりや花壇づくりが、ある程度整

備されてきたこと、②詳細については〈5・2〉で後述す

るが、国土交通省のゴミ処理支援がなくなり、ゴミ回収

に対する支援の回数が限られてきたこと、③季節的に渡

船が集中的に欠航する時期が明らかになったため、その

時期の活動を削ったこと、④「遊び隊」が作成したモノ

に対し、島民が維持や世話をするようになったことから、

当初期待していた島民の内発的な活動への道筋をつけた

ことなどが大きな理由である。 〈5・2〉 活動における課題や問題点

〈5・2・1〉 離島及び海岸線ゆえの課題と問題点

離島で行う清掃ボランティア活動は、陸地で行う清掃

ボランティア活動と異なる。陸地の清掃ボランティアで

は、事前に環境局に連絡をしておくと後日回収に来ても

らえる。ところが、離島では環境局に事前連絡をしてい

ても回収には来てもらえない。環境局の言い分は、「陸地

まで運んでくれれば回収します」というものである。つ

まり生活ゴミは、島民と搬送契約をしており、定期的に

ゴミの回収を行っているため、今以上の支援はないとい

うことである。同じ行政区内に住んでいても、陸地と離

島では対応が異なる。

写真 2:海岸漂着物集積風景(海岸線)

年度 活動内容 実施回数

2004 年度 海岸漂着物収集作業 10 回 藍島を知る一日 1 回 2005 年度 海岸漂着物収集作業 5 回 海岸漂着物加工作業 3 回 藍島を知る一日 1 回 2006 年度 海岸漂着物収集作業 4 回 海岸漂着物加工作業 3 回 藍島を知る一日 1 回 花壇づくり 2 回 2007 年度 海岸漂着物収集作業 5 回 藍島を知る一日 1 回 2008 年度 海岸漂着物収集作業 5 回 藍島を知る一日 1 回

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竹内 裕二

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写真 3:藍島散策(案内)風景

写真 4:藍島盆踊り風景

写真 5:看板づくり風景

写真 6:花壇づくり風景 一方島民の方は、回収したゴミの回収とその処理につ

いては、積極的な対応ではない。その背景には、搬送す

る船の問題がある。陸地でいえば「車」の役割を担って

いるものが、離島では「船」である。その船は、島民に

とって生活の糧となる重要な乗り物である。そのような

乗り物に「ゴミ」を乗せることへの抵抗が強いのである。

それゆえ、お金を支払っても搬送してもらえるというも

のではない。この現実からも、離島におけるゴミの搬送

には、大きな問題を抱えていることが活動を通じて明ら

かとなった。そのような現実の中で、当初から本活動を

支援してきた藍島の自治会長が、自前の船を提供してく

れたお陰で、今まで継続して活動を行うことができた。

この活動では、島外参加者の活動に頼るところが大で

ある一方で、その負担も大きい。海岸線には堆積する漂

着物が多く、車が近付くことのできない場所に集中して

いるため、船での搬送を余儀なくされることが多い(写

真 2 参照)。場所によっては、浅瀬のため搬送する船が接

岸できず、ゴミリレーを行うことも少なくない。これで

は、参加する者が値を上げて継続しない。それゆえ、機

械などを用いての清掃をしたいものの、重機の搬入もで

きない。例え搬入できたとしても、そのような機器を購

入する資金などない。結果的に、人海戦術を用いた原始

的活動を行っている。毎回参加者数は大きく変わらない

が、参加する人の入れ替わりがはなはだしい理由もここ

にある。

〈5・2・2〉 行政間による課題と問題点

前述したように島内外における市民サイドのゴミ廃棄

と回収の課題や問題点について述べた。その一方で、廃

棄物処理に関して行政間での問題点も、この活動を通じ

て明らかとなった。すなわち、北九州市環境局としては、

前述したように現状以上に処理費用を捻出することはで

きない。昨今の経済事情から、行政も支出規制を行わな

ければならない時期に来ているため、継続するかどうか

分からないボランティア活動のために、処理費用の増額

を容易に行うわけにはいかない事情がある。 このような状況を鑑み、市民にその経費負担をさせる

わけにもいかないため、行政間での協議が行われた。公

平と情報開示という観点から、NPO が仲介役となり、北

九州市環境局、北九州市港湾空港局、小倉北区役所まち

づくり推進課、国土交通省関門航路事務所、藍島しまづ

くり実行委員会の 6 者が集まっての会合を行った。この

会合で問題となったのは、海岸漂着物の処理責任である。

ここで議論された結果によると、海を浮遊しているもの

か、海岸に打ち上げられたものかによって、その責任の

所在が異なることを明確にした。 海に浮遊しているものは、本来北九州市港湾空港局の

責任において処理しなければならない。しかし藍島周辺

海域は、行政区分から北九州市港湾空港局の管轄エリア

外となるため責任はない(当時の区分であり、現在は港

湾空港局)。つまり、空白地帯となっている。一方の北九

州市の海岸に打ち上げられたものは、環境局が処理する

ものであることが協議の結果から明らかとなった。 このように現実としての責任の所在を明らかにして

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地域住民参加の地域づくりにおけるソーシャルビジネスの可能性

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も、単年度で運営を行う行政にとって、突然の対応を言

われてもどうすることもできない。そのような内情を理

解し合える各行政機関は、当面の対応として自前で船を

持つ国土交通省関門航路事務所が陸地までのゴミ搬送を

行うこととなった。しかし条件として、この問題を「行

政上の仕組みとして改善させること」を前提にしている

ため、その猶予期間として 2 年間を目途として支援を行

うが、最低年 2 回は、北九州市環境局が搬送費を出して

対応することで決着した。その後 2 年間、北九州市環境

局は年2回の搬送費を出し続けたが、制度としての改善

は行わなかった。その結果、国土交通省関門航路事務所

は、ゴミ処理支援を打ち切った。

6. 活動の成果

〈6・1〉 島民の内発的活動への変化 これまでの経緯から明らかのように「遊び隊」が活動

するまで、島民だけの活動では島外市民を巻き込んだ継

続的な活動までには至っていなかった。しかし、NPO が

仲介して島外市民との交流を継続的に行うことにより、

島民自身が NPO から言われて活動しているのではなく、

次のような島民自身の内発的な行動に変化していった。 ①自分たちの島の活性化であるにも関わらず「今度来る

「遊び隊」のために」という視点から、島の環境美化

や島の魅力アップといったことを島民自身が考えるよ

うになった。相手を迎え入れるという行為を通じて、

島全体が一体感を持つ島づくりへと変化していった。

前報でも報告(1)した派閥が、反対派の行動を噂するこ

とは、相手を意識していることを意味している。この

ことからも、双方に牽制し合うことで、自分たちの住

む島の在り方を考えるようになった。 ②これまで形があっても機能していなかった組織が機能

し、事務連絡の効率化や各種団体との連携など島内で

の協働作業の活発化といった成果が現れ、島民自身が

その難しさを実感するようになった。 ③島民は、「遊び隊」の活動に関して何をしているのかが

見え辛かった。しかしベンチや花壇ができ始めたこと

により、月に一回来島する島外市民の活動を島民の

日々の生活の中で支援(花壇の水やりやベンチ設置場

所周辺の手入れなど)するようになった。 ④これまで漁業を行うことだけに意識が向かっていた島

民にとって、島外市民の来島により自発的に昼食の提

供やお土産品開発を島民自らが行うようになったこと

は、活動の継続性を保つという観点から重要な意識付

けとなった。 これらのことからも「遊び隊」の活動は、島外市民の

来島が、藍島島民の内発的活動につながったと言える。 〈6・2〉 島外市民の継続的活動への変化

藍島は、北九州市民でもあまり知られていない離島で

ある。そのような島の今後を一般市民が考えようとして

も、イメージさえもできないのが当然である。それにも

関わらず、多くの市民に「遊び隊」の活動を通じて多く

の市民に藍島の存在を周知させることができた。 このことによって、基本的に毎月行われる活動でも、

多くの市民が参加するようになったことは、近くて遠い

存在であった藍島を身近なものとして多くの市民が捉え

た結果である。また、実践的活動に市民が参加でき、年

間を通じて藍島へ行く機会を作ったことは、この取組み

の大きな成果であるといえる。 その一方で、活動に参加しない市民に対して、新鮮な

魚介類が採れる島というイメージを印象付けられたた

め、お土産品を通じてより身近な存在としての藍島を浸

透させることができた。 〈6・3〉 行政関与による支援の変化

本取組みでは、藍島に関して多くの市民に関心を持っ

てもらうことが大前提である。それゆえ、これまでのよ

うな島民だけの藍島ではなく、北九州市民 100 万人が親

しむことのできる藍島とは何かを市民に問いかけ、今後

実際に市民レベルでの活動展開を行うために何をすれば

よいのかを市民自身が考えることが狙いである。これま

での行政の支援は、資金を出すが、口も出す構図が多か

ったが、この取組みにおいては、それがなかった。それ

よりも、側面からの支援として、市民への周知をする上

で行政の持つ信頼性を前面に出した広報活動という面で

の支援を積極的に行ってくれた。 この行政の広報面における支援は、島民だけの藍島で

しかなかったエリアを市民全体で親しむことのできる藍

島に変化させ、一過性でなく継続的に効果あるものへと

導いてくれた。また、観光を地域活性化の柱とする藍島

としてリニューアルした場合、北九州市民全体はもちろ

んのこと、周辺の市町村からも集客できる魅力を持って

いる島であることも明らかとなった。このような観点か

らも、島外市民、行政、島民の三者が協働して藍島再生

に向けた取組みが可能であることを実践活動によって明

らかにし、行政が主導しなくても市民主体の活動を行政

が支援できる方法を見出せたことも大きな成果である。 〈6・4〉 企業の活動参加の在り方に対する変化

この活動が始まった当初、団体としての企業参加はな

かった。企業に所属する者の個人的な参加だった。とこ

ろが、近年の活動において、企業が団体として本活動に

参加するようになった。その背景として、企業の社会的

責任(CSR)が問われる昨今、企業の社員教育の一環と

して、本活動を活用するようになってきた。つまり企業

が、社員のレクリエーションと社員研修を兼ねての社会

貢献を目的として参加しているのである。 このような形になったのは、「遊び隊」からの働きがけ

があったのではなく、長期間にわたっての継続活動が評

価され、地域住民のみならず、企業にも受け入れられる

ようになったからだと考えられる。

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竹内 裕二

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7. 考察

〈7・1〉 島民の内発的活動 島民の内発的な動きを引き出したことにより、食事の

提供、特産品としてのお土産品の開発に至った。この動

きは、藍島にこれまでになかった新たな産業を生み出す

きっかけに過ぎない。また、この成果は、島民にとって

の事業展開への可能性を島民に示唆するものとなった。

それゆえに、この動きが島民の生活の糧になるまで継続

させることが、今後の課題となる。 また、これから行うビジネスは、今までのように一回

の漁で得られる売上(水揚げ高)のビジネスではないこ

とも認識しなければならない。島民は今後、今まで体験

したことのない地道な商売に耐え、日常生活で付き合わ

なくてもよかった島外市民との共生をしなければならな

いといった生活の変化も伴ってくる。 〈7・2〉 島外市民の意識の変化

島外市民による藍島への清掃活動が、今後も継続的に

行われる保証はない。この清掃活動は、藍島が観光地と

して島外市民に認知してもらうための施策の一つであ

る。それゆえ、清掃活動で人を集めるスタイルから、観

光地として家族連れで楽しめる島として集客していかな

ければならない。しかし現実は、未だ清掃を主体とした

活動に止まっている。 この清掃活動において、島外市民の心を引き止めてい

るのは、活動の魅力もさることながら島民が提供する食

事にある。今後改善する部分が多くあるものの、清掃活

動がなくても食事の提供や休憩ができる場などの島内整

備が求められる。観光地としての藍島として認知される

ようになる為には、ビジネスとして成立する場が整備さ

れたときである。島外市民の意識は、徐々に変化する。 〈7・3〉 行政関与による社会システムの構築

行政側の支援に対する期間や範囲が曖昧なため、単発

的な支援で終わってしまう可能性が高い。行政は、今回

広報面からの支援を行ったが、地域を支援するためには

長期間にわたっての支援が必要であることを認識してい

た。そのため、活動自体への支援よりも、広報に特化し

て長期間の支援を行った。その効果は大きかった。 まだ不安定な状態であるが、この活動が前述〈7・2〉

したように観光地としての藍島と認知されるまでは、継

続して広報面で支援する必要がある。これまで、行政の

支援と言えば、資金的な支援が多かったが、今回のケー

スのように資金には代えがたい広報の信頼性という面

は、社会システムとしての仕組みを構築する場合、欠か

すことのできない支援であることを実感することができ

た。

〈7・4〉 企業の活動参加の在り方 企業が行うボランティアの場合、主導権を重んじる傾

向があった。ところが、近年の企業によるボランティア

では、各企業の考え方に合致したボランティア活動に参

加する傾向が高い。つまり企業は、日頃からボランティ

ア活動をしている訳ではないため、既存の活動に参加し、

その中で企業の存在感を出しているように感じる。この

考え方は、継続して行っている活動を阻害するものでも

なく、新たなネットワークを構築するといった観点から、

企業にとっても、他団体にとっても有効な手段である。

活動を継続する中で、企業が支援(押しつけでなく、必

要な支援)できる技術提供も可能となる。

8. まとめ(ソーシャルビジネスとの関係)

「遊び隊」の活動を通じて、島民は観光によるビジネ

ス化、行政は新たな地域資源の開発と賑わいづくり、企

業は自社技術による社会貢献(新規ビジネスの開拓)を

行おうとしている。このような産官民協働による取組み

は、SB を行うスタイルである。しかし本活動の現状は、

ビジネスを始めるための準備段階である。一部、島民に

よる食事の提供やお土産品開発だけが、CB の領域に入

ろうとしている状況である。 このことからも現段階の「遊び隊」の活動は、住民参

加による地域づくりとしての SB の萌芽と見なすことが

できる。しかし、これまでのような行政主導による活動

体制ではない現状から鑑みると、各セクターの関係者が

内発的な活動を行っており、今後 SB になる可能性を秘

めている。

謝 辞

これまで、継続して活動を行なうことのできたことに

対し、藍島の島民、陸地から支援していただいた参加者

の皆様及び企業や行政関係機関の皆様への感謝をこの場

をお借りしてお礼申し上げると共に、引き続きご支援賜

りますよう、節にお願い申し上げます。

注釈 (注1)この盆踊りは、北九州市の無形民俗文化財に指定されており、

藍島において年2回【①通常一般的に行われる8月のお盆、②

魚供養を目的とした旧暦の地蔵盆】踊られる。

引用文献 (1) 竹内裕二:「離島住民参加型の島づくりに関する実践的研究 -

北九州市小倉北区藍島を事例として-」,東海大学短期大学紀

要,Vol.42,pp.100-108 (2008)

(2) 竹内裕二:「ソーシャルビジネス考 -実践と理論の狭間で-」,

中小企業と組合,8 月号 pp.4-6 (2009)

(3) 特定非営利活動法人 NPO 研修・情報センター:「ネットワーキン

グの理論と実践編 新しいリーダーと人材育成」, pp.3-6

(2002)

(4) 例えば、ソーシャルビジネス研究会:「ソーシャルビジネス研究

会報告書」,p.3 (2008)

(5) 例えば、信用中央金庫総合研究所:「コミュニティビジネスをど

う捉えるか」,pp.2-8 (2005)

(6) 例えば、みずほ総合研究所:「CSR(企業の社会的責任)概念の展

開」,みずほ総研集,p.2 (2003)