木星型惑星の構造と形成 - university of...

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木星型惑星の構造と形成 小林直樹,佐々木 (東京大学大学院理学系研究科) (1995年2月13日受理) Structure and Formation of Jovian Planets KOBAYASHI Naoki and SASAKI Sho* 且3ヶoπo〃z記θ1乃zs∫露%惚,S6hoolαズS擁6π06,U雇∂6鴬め猛ゾToたyo,To妙01ヱ3,ノ吻)α% *06010g廊σ1乃z3渉露%飽,S6hooJ6ゾS6飽フzo6,U雇∂6z3ガ砂6ゾTo々ッo,To々ッ0113,ノ吻) (Receive(i13February1995) Abstract We review the studies on structure and formation of Jovian p of molecular an(l metaHlc hydrogen and the plasma phase trans w油regard to(letermination of Jovian interlor mo(leL Estimations and蓋eli縫m abandance depend strongly on(1etails of the state near sition.Current interior models are(1eveloped based on the i(1ea which is the most probable mechanism for the formation of Jov of angular momentum between protoplanets and solar nebul would be important for explaining current masses and orbits seismology w皿be a very prom韮sing method for exp支oring the interi Keywords: Jupiter,planetary structure,metallic hy(1rogen,plasma phase tr Jovian seismology,planetary formation,core instability,gas acc 1.はじめに 昨年の夏,Shoemaker-Levy9彗星が木星に衝 突するという一大イベントが起こったことは,読 者諸氏の記憶にも新しいことと思う.彗星の衝突 は木星表層大気にくっきりと痕を残した.この事 件を機に,望遠鏡でこの巨大なガス惑星を覗かれ た方も多いであろう.望遠鏡で見た巨大惑星の姿 で先ず目立つのは,アンモニアの雲の織りなす縞 模様である.しかし実際には,木星表層大気の組 成は質量比にして,およそ水素81%,ヘリウム18% であって,ほとんど水素とヘリウムからできてい る。また木星の平均密度は約1.3g/cm3(地球は 5.5g/cm3)と小さい.木星が,その表層から内 部に至るまで,大部分水素とヘリウムでできてい ると想像することは難くない.木星を眺めている と,このガスに覆われた惑星が「どのような構造 277

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木星型惑星の構造と形成

小林直樹,佐々木 晶 (東京大学大学院理学系研究科)

  (1995年2月13日受理)

Structure and Formation of Jovian Planets

        KOBAYASHI Naoki and SASAKI Sho*

且3ヶoπo〃z記θ1乃zs∫露%惚,S6hoolαズS擁6π06,U雇∂6鴬め猛ゾToたyo,To妙01ヱ3,ノ吻)α%

*06010g廊σ1乃z3渉露%飽,S6hooJ6ゾS6飽フzo6,U雇∂6z3ガ砂6ゾTo々ッo,To々ッ0113,ノ吻)ακ

(Receive(i13February1995)

Abstract

 We review the studies on structure and formation of Jovian planets.Equations of state

of molecular an(l metaHlc hydrogen and the plasma phase transition play important roles

w油regard to(letermination of Jovian interlor mo(leL Estimations of the mass of the core

and蓋eli縫m abandance depend strongly on(1etails of the state near the plasma phase tran-

sition.Current interior models are(1eveloped based on the i(1ea of the core instability,

which is the most probable mechanism for the formation of Jovian planet&丁血e exchange

of angular momentum between protoplanets and solar nebula(lue to the tidal effect

would be important for explaining current masses and orbits of Jovian planets.Jovian

seismology w皿be a very prom韮sing method for exp支oring the interior of the planets.

Keywords:

Jupiter,planetary structure,metallic hy(1rogen,plasma phase transition,

Jovian seismology,planetary formation,core instability,gas accretion,tidal torque,

1.はじめに

 昨年の夏,Shoemaker-Levy9彗星が木星に衝

突するという一大イベントが起こったことは,読

者諸氏の記憶にも新しいことと思う.彗星の衝突

は木星表層大気にくっきりと痕を残した.この事

件を機に,望遠鏡でこの巨大なガス惑星を覗かれ

た方も多いであろう.望遠鏡で見た巨大惑星の姿

で先ず目立つのは,アンモニアの雲の織りなす縞

模様である.しかし実際には,木星表層大気の組

成は質量比にして,およそ水素81%,ヘリウム18%

であって,ほとんど水素とヘリウムからできてい

る。また木星の平均密度は約1.3g/cm3(地球は

5.5g/cm3)と小さい.木星が,その表層から内

部に至るまで,大部分水素とヘリウムでできてい

ると想像することは難くない.木星を眺めている

と,このガスに覆われた惑星が「どのような構造

277

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プラズマ・核融合学会誌 第71巻第4号  1995年4月

であるのか?」「どのようにして形成したのか?」

「どう進化してきたのか?」といった素朴な疑問

が生まれてくる.これまで多くの惑星・天文学者

がそれに答えようと挑戦してきた.まだ未解決の

問題も多く残しているが,この記事では,現在考

えられている木星型惑星の姿を紹介していく.

『木星型惑星』,『ガス惑星』の呼称は,木星から

海王星までを指して使われる.本来なら,この4

惑星を全て比較すべきであろうが,紙数の都合に

より,木星,土星に絞って論じた.その内部構造,

形成進化の研究において,水素一ヘリウム系の状

態方程式が非常に重要な役割を担う.この記事を

読まれたプラズマ物理の専門家の諸氏が,これま

で以上に木星の構造・進化に興味を持っていただ

ければ幸いである.

2.木星内部構造モデル 最初に木星型惑星の内部構造のイメージを持っ

ていただくために,現在惑星科学者が考えている

内部構造モデルの図を見ていただきたい(Fig.1).図の数値は文献[1]による.中心の圧

力は木星で67Mbar(102GPa),土星で15Mbar

ほどである.中心部分には岩石(Sio2,MgO,FeS,

FeO)と氷(H20,CH4,NH3)からなる中心核

が存在すると考えられている.これは木星型惑星

の形成論(最初に岩石,氷からなる微惑星が集積

し,それがある程度成長するとその重力のために

周りの原始太陽系星雲ガスを引き付け木星型惑星

ができたとする説,後述)に基づいた描像である.

その上は主として,水素,ヘリウムからなるマン

Table1

トルである.マントルは上部の分子水素層と下部

の金属水素層とから成る.木星の金属水素層下部

では圧力は約40Mbar,温度は約2×104K,分子一

金属相転移付近では圧力約1.7Mbar,温度は7×

103Kほどであると考えられている.木星では1

barでの温度が165Kであるので,マントルで考

えなければならない温度圧力範囲はそれぞれ100

-104K,1-100Mbarとなる.したがって,木

星型惑星の内部構造を理解するために,この温度

圧力範囲での水素一ヘリウム系の状態方程式が分

かっていなければならない.

モデルの制約条件

 Table1に木星,土星に関して得られている観

測量を示した.木星の質量は地球の320倍,土星

の質量は95倍程である.一方その半径は木星で

7.1×104km,土星で6×104km程である.あとで

見るように現在考えられている木星型惑星の温度

圧力条件下では,水素はjp=飾2という圧カー密

度関係をよく満足している.この関係を満たす静

水圧平衡下にあるガス星の半径はその総質量に依

存しないことが知られている[2].その半径はR

諾[K/2π0]1/2(0は万有引力定数)で与えられ,

その値を見積もってみるとおよそ8.6×104kmに

なる.木星,土星の半径がこの値より小さいこと,

また両者で値が異なっていることより,木星,

fニ0.81

JUPITERア昌=165

molecular

 歴

     〆

   囲p=38,57’讐22600

Pニ67.4  rock+ice

SATURN一35

.93

070

Property Jupiter SatumMass(1029g)     18,99Equatorial Radius(109cm) 7.1492

5.686.0268

22.64 12。86

Gravitational Poten哲a1

∫2(×106)    14736±1∫4(×106)    一587±5∫6(×106)     31±20

Rotation Perio(1       gh55規2gs.7

Atmospheric Parameters Tlba,(K)         165±5

 Eemitted/Eabs       1.67±0.09

 He mass fraction   O.18±0。04

16331±18-914土61 108±510h39規245

135±51.78±O.09

0.06±0.05

Fig.IStructure・fJupiterandSatum[1]IPressure  (Mbar),temparature(K)and density(g/cm3)

  at tわe phase boundaries are shown.r is tれe

  normaiized radius.The model surface is the  pressure surface at l bar、The interior of Jov-

  ian planets are divided into three !ayers:

  moiecuiarhydrogen and helium upPermantle,  meta川c hydrogen and heiium lower mantle,

  and ice and rock core.

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解  説 木星型惑星の構造と形成 小林,佐々木

土星の内部には水素以外の重い元素が存在し,そ

の重量比や分布が木星,土星では異なっているこ

とが想像できる.また木星,土星が自転している

こともその内部構造を推察するのに重要である.

木星,土星の自転周期は約10時間と短い.地球の

10倍もの半径の星が4割程度の自転周期で回転し

ているため,大きな遠心力が働き,その形や重力

ポテンシャル面はかなり偏平になっている.その

形状の偏平率は0.065(木星),O.088(土星)で

あり,重力ポテンシャルの形状(72,∫4,∫6:球

面調和展開の2,4,6次の帯成分)はTable1に

挙げた通りである.木星の方が土星に比べて偏平

率が小さいことから,木星の方が質量の中心集中

が若干高いことがうかがわれる.また,ボイジャ

ーからの電波のoccu玉tationや赤外でのスペクト

ル線を利用して,1bar以浅のヘリウム存在度と

温度構造が得られている[3].それによると1

barでの表面温度は165K(木星),135K(土星)

で,0.1barより深いところではほぼ断熱温度勾

配になっている.また,木星,土星は太陽から受

けとる量の約1.7倍のエネルギーを放出している.

これらの事情により,内部は対流しており,その

温度構造は断熱温度勾配に近いものと考えられて

いる.また,表層大気のヘリウム存在度が木星に

くらべて土星では1/3程であることに注意された

い.表に挙げた観測量は,木星内部構造モデルを

作る際の制約条件として使われるものである.こ

れらの量は探査機パイオニアやボイジャーによ

って,かなり詳細に決められるようになった[3,4].

平衡モデル

 各層(相)での状態方程式が与えられれば,一

様回転流体の静水圧平衡の式を解くことで構造モ

デルを計算することができる[5].この際,温度

構造は上に述べたように断熱温度勾配であること

が仮定される.観測で与えられた半径,質量,重

力ポテンシャルを満たすように,中心核の質量や

マントル中のヘリウムの量を調整することで最適

モデルを見つける.大雑把に言って,質量と半径

の関係から中心核質量が決まり,重力ポテンシャ

ルの展開係数から密度の深さ分布が決まるかっこ

うになっている.このようにして得られたモデル

を比べてみると,使われた状態方程式の違い,水

素の分子一金属相転移の取り扱いの違い,ヘリウ

ム存在量をマントルで一様にするか否かの違いに

よって,中心核質量にして1から20地球質量の違

いが生じている[5,1].中心核質量は木星型惑星

の形成のシナリオに関係する量であるので,その

値を正確に決めることが望まれている.Fig.1は

このようにして求められた木星,土星の構造の一

例を示したものである.

木星内部の水素の状態

 木星内部の構造を議論するのに不可欠な水素の

物性について簡単に紹介する.Fig.2に単純化し

た水素の相図を示した.低温,低圧側では流体水

素は中性分子,原子の状態である.およそ3×

103K以下では分子状態が卓越しているが,温度

の上昇にともなって次第に乖離していく.更に温

度が上昇し3×104Kを越えるとイオン化し,陽

子と電子かうなる低密度プラズマとなる.H2

gas-H gas-H+plasmaの境界線は,Saha方程式

を解いて得られる水素分子の乖離や水素原子の電

離の程度が50%であるところとしている.では圧

力を上げて行くとどうなるであろうか.密度が

0.01g/cm3を越えると原子,分子の間の相互作

用が強くなり流体の非理想性が強くなる.電子間

の平均距離がボーア半径程度になるあたりで,水

素は完全電離する.この現象は熱電離に対比して

圧力電離と呼ばれている.これはクーロン相互作

用が電子密度の1/3乗で効くのに対し,縮退温度

以下では電子の運動エネルギーは2/3乗で効く理

由による.高密度になると電子は陽子に束縛され

ず,自由に泳ぎまわるようになる.図には,木星

の断熱線も示してある.木星内部では,フェルミ

エネルギーがεF>hBTを満足している.ここで

々Bはボルッマン定数で,Tは温度である.また,

1成分陽子プラズマとしては強結合(r=62/盈BT>1)となっている.ここで6は素電荷,

αは平均陽子間隔である.しかし,古典的な1成

分プラズマが固体となる値程は強くなっていな

い.したがって木星の内部では,金属水素は液体

として存在していると考えられている.また,図

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プラズマ・核融合学会誌 第71巻第4号  1995年4月

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m響liC liquid ぶ       meta”IC    も受

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/ヂ//    n。ndegene『ate/      H     H+    _

  H2ga plasma  gas

2 3 4   5

bg T(K)

6 7

Fig.2Schematic phase diagram  for hydro-  gen[8,葉,12]  Thick solld and dashed lines

  s医ow phase boundaries。A few physicaI reg-  imes are identified:above the line T=1,the

  plasma is strongly coupled,above the Iine∈F

  =kBτeIectrons are degenerate,and beIow  the line A=α,protons are cIassical.Above

  the睦ne rsニ1,the mean separation of elec-

  trons are shorter than Bohr radius.In the fi-

  gure,Jovian adiabat[1]are also shown,which

  goes through the plasma phase transition[12]

  nearO.8Mbar.Dot isthe c湘cal point ofthe  phasetransition[12],

には分子相における融点も示してあるが,木星内

部では分子水素も固体となることはない.図

中,Aニαは陽子のドブロイ波長がσ程度となる

ところを示している.木星内部では陽子の量子効

果は小さいことが分かる.(土星の断熱線は木星

のやや低温側をほぼ平行に走る.したがって,以

上の議論は土星についても同じである.)

分子水素相

 温度,密度がそれぞれT<104K,ρ<1g/cm3

では水素は概ね分子の形態で存在している.この

相での状態方程式を得る考え方は大体次の通りで

ある.状態方程式やその他の熱力学的量は通常の

処方せんにのっとってHlelmholtzの自由エネル

ギーから計算される.その自由エネルギーは,

Saumon等の表現を借りれば,次式の形で与えられる[8].

Fm。1=君dザc。nf+Flnt+Eqm

ここで君dは原子,分子の並進,回転エネルギー

を考えた理想ガスとしての寄与であり,その他は

非理想性によるものである.非理想性の寄与とし

て,配置エネルギー,原子,分子の内部状態,量

子補正が挙げられる.配置エネルギーを計算する

ためには,原子,分子の2体ポテンシャルが必要

となる.H2-H2ポテンシャルは0.8Mbarまでの

衝撃加圧実験によって得られたデータをもとに求

められている[6]。ここで分子問の2体ポテンシ

ャルの異方性は考慮されないのが普通である.最

近,ダイアモンドァルビルを用いた静的な室温加

圧実験で0.24Mbarまで水素の音速が測られるよ

うになった[7].それによると固体分子水素の音

速は横波で18%,縦波で8%の異方性を持つ.し

かし衝撃加圧実験では十分高温に達しており,分

子は自由に回転しているため,それから得られた

球対称2体ポテンシャルを木星内部での条件下で

使うことは,悪い近似ではないと考えられている.

H2-RおよびH-Hの2体ポテンシャルは実験値

がないため,ab initioに計算されたポテンシャル

が用いられる[8].配置エネルギーの計算法には,

モンテカルロ法によるもの[9]と流体摂動論によ

るもの[8]とがある.原子,分子内のエネルギー

準位に関して,Saumon等[8]は配置エネルギー

と矛盾しない形で取り入れている.彼らの主要な

結論として,水素分子の圧力乖離は温度にあまり

依存せず密度が約0.3g/cm3を越えると急激に進

展することが示されている[8].

金属水素相

 温度が々BT>1Ryまたは密度がおよそ2g/cm3を越えると,水素は完全電離状態にあると

考えられる.そのような範囲では,水素の状態は

電子によって遮蔽された陽子の1成分プラズマ状

態であって,そのHelmholtzの自由エネルギー

は,SaumonandChabrier[12]に従えば,

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解  説 木星型惑星の構造と形成 小林,佐々木

Fs。CP諏㌍副d+FJC+E,。、f+Eqm

で与えられる.ここで第1,2項はそれぞれイオ

ン,電子の理想気体(もちろん,イオンは古典的

であるが,電子はフェルミ気体としてである)と

しての寄与,第3項は背景電子の交換,相関エネ

ルギー,第4項は遮蔽されたイオンの配置エネル

ギーである.配置エネルギーの計算にはモンテカ

ルロ法[10],摂動論[11],hypemetted-chain理

論[12]がある.この際,遮蔽効果の計算には,例

えば,Lindhardの線形応答誘電関数が用いられ

る[10,12].最後のイオンの量子補正はWinger-

Kirwood展開のがの項によって与えられる.し

かし量子補正の熱力学的効果は0.3%以下である

と見積もられている[12].

分子一金属相転移

 水素の分子一金属相転移付近の計算は上に述べ

た二つの極限に比べると複雑である.部分電離状

態をきちんと扱うことが難しいためである.その

ため,分子一金属相転移は分子水素相,金属水素

相での化学ポテンシャルを外挿することで求めら

れていた[9].最近になって,Saumon and CHab一

rierはこの境界領域を,H2,H,H+,e一から成

る4成分混合ガスの化学平衡を解くことで議論し

た[12].Helm紅oltzの自由エネルギーとしてFmd

とFsocpに現れた寄与の他,荷電粒子と中性粒

子の相互作用を原子の分極ポテンシャルという形

で新たに考慮に入れた.その結果によれば,分子

一金属相転移は,臨界点が1.5×104K,0.64Mbar

にあり,その低温側にdP/dTニー176[bar/K]

の傾きで伸びている[12].また,温度が5×103度

から2×104度では,温度にあまり依存せず分子の

乖離と圧力電離は殆ど同じ密度で起こることが彼

らの理論によって示されている[12].

 Fig3(a)に木星を想定した,1barでの温度

が165Kである場合の断熱線に沿った圧カー密度

関係を示した.実線はSaumon等[12]の結果で

あり,破線はMarley等[9]の結果である.薄い

破線はSaumon等の結果で,分子一金属相転移を

滑らかにつないだ場合のものである.この図から

前に述べたように,木星内部で考えられている条

件下では,P=飾2という関係がよく成り立って

いることが分かる.また,各理論における違いは

分子一金属相転移付近で顕著となっている.Fig.

倉6ρΣロα

oo

1

0

(a)

4〆

〃グ

/!

ノノ

〃’

1

倉605)0ユ

oo_1

(b)

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 ノ!: /∠

/∠

/〃

 ヤ

翁登 寧

  _0.5        0.0        0.5    3   3.5   4   4.5   5   5、5

      10gρ(g/cm3)             log T(K)

Fig.3 (a)Density-pressure relation for pure hydrogen’on the Jovian adiabat.The solid縫ne is

  the result of Saumon and Chabrier[121 and dashed line is that of Marley and  Hubbard[9]、The thin dashed line is the smoQthed plasma phase transitiQn model for the

  former。Theρ=・κρ2relation is well realized in the interior of Jupiter.(b)Adiabatic

  temperature-pressure relation with he”um massでractionγ=0.24(the result o孝ref.[121)、

  Each adlabat is calculated forthe labeled temparature at l bar;Saturn,135K and Jupiter,

  165K.The estimated locations ofthe plasma phase transition(PPT)and the critical point

  are also shown in tれisチigure.In愉e interior of Jupiter and Satum,hydrogen becomes

  melallic phase through the first ordertransition。

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プラズマ・核融合学会誌 第71巻第4号  1995年4月

3(b)にはSaumon等によって求められた分子一金

属相転移とその臨界点を示した.各線は等エント

ロピー線を示したものである(各線に示した温度

は1barでの値である).彼らの結果が正しいと

すれば,木星,土星の内部での分子一金属相転移

は1次相転移をへて起こっている.この相転移付

近の詳細は,内部構造モデルのコア質量やマント

ル中のヘリウム依存度の見積もりに影響を与え

る[1].そのため,分子一金属相転移付近の水素の

状態をできる限り正確に求めておく必要がある.

ヘリウム不混和

 前に木星のマントルではヘリウムが質量比にし

て20%程含まれていると述べたが,水素一ヘリウ

ム系の状態方程式も精力的に計算されている[9,13].それらの計算結果によれば,木星,土

星内部の圧力範囲ではadditivevdumdaw

1 x  r一=一十ρ  ρH ρHe

が良く成り立っているらしい.ここでX,rは

それぞれ水素,ヘリウムの質量比である.水素一

ヘリウム系でもっと重要な事は金属水素層でのヘ

リウムの不混和の間題である.観測のところで土

星のヘリウム存在度が小さいことを述べたが,こ

の観測事実がヘリウム不混和による重力分離(金

属水素層中にヘリウムに富んだ成分が分離し,周

りの水素相に比べて重いために,沈降分離する現

象)によって説明されるかも知れないからだ.ま

た,土星はそのサイズが小さいために形成時に蓄

えられた熱では現在宇宙に放出している熱流量を

説明できない.金属層中でヘリウムの不混和によ

る重力分離が起こっていれば,それによって解放

される重力エネルギーによって,余分な熱流量を

うまく説明できるかもしれない[14].

3.木星の形成原始太陽系星雲のモデル

 水素・ヘリウムの外層に包まれた木星型惑星

は,どのように形成されたのだろうか.60年代終

わりから進展してきた太陽系形成論では,惑星は

原始太陽の周囲のガスディスクが母胎となって形

成されたと考えてきた.このガスディスクはソー

ラーネブラ(原始太陽系星雲)と呼ばれてい

る[15].近年の赤外線を中心とした観測により,

主系列星の前段階であるTタウリ星と呼ばれる

星の周囲に,質量0.01-1掩,サイズ10-

100AUのガスディスクがあることがわかってき

た[16-17].Tタウリ星では,可視光領域の光度

は通常の星とあまり変わらないが,100-1,000倍

にも及ぶ赤外,紫外領域の光度超過が観測されて

いる.赤外放射はディスクからの熱放射,紫外線

はディスクと星との高温境界領域からの放射であ

る,と考えられている.ディスクの質量とサイズ

は,太陽質量程度の星では,理論的に予測されて

きたソーラーネブラに合致している.観測から求

められているTタウリ星の寿命は106年程度で,

これはディスクが内部の乱流粘性によって角運動

量を失って星へと降着する(ディスクの粘性進化

の)時間であると考えられている.大きな課題は,

木星,土星といった巨大惑星を,この時間内,つ

まりガスディスクの寿命の中で形成させることで

ある.なぜなら巨大惑星は,ソーラ㌣ネブラの名

残りである水素・ヘリウムの外層で覆われている

からである.

ディスクの自己重力不安定による巨大惑星の形成

  Cameronモデル

 Cameronは,原始太陽の周囲に星と同じくら

いの質量のガスディスクが存在すると,ディスク

は自分の重力で分裂して,木星質量程度のガス塊

は容易に形成できると主張した[18].重力分裂の

時問スケールは1,000年程度なので,短時間での

ガス捕獲という条件は満たしている.しかしこの

機構では,氷・シリケイト・金属といった固体物質

の水素・ヘリウムのガスに対する質量比が,木星型

惑星では太陽組成に比べると高くしかも惑星によ

って異なることを説明できない.また,ガス塊が

収縮すると重力エネルギーが解放されて高温にな

るため,木星のコアを作る物質を効率よく分離で

きるかどうかわからない.さらに,重力不安定に

よる分裂では,木星と同程度の天体が数百個でき

てしまう.できなくても,星の質量程度もあるデ

ィスクのガスを消失させる機構は考えにくい.ま

282

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解  説 木星型惑星の構造と形成 小林,佐々木

た,地球型惑星の形成には答えを与えていない.

このように大きな欠点がいくつか存在するため,

標準的な惑星形成のモデルとはならなかった.

固体物質が先に集積してガスを捕獲一コア不安

定モデル

 ー一方,固体物質が先に成長して,あとで周囲の

ガスを取り込んで木星型惑星が形成された,とい

うシナリオは描けるだろうか.Safronovを中心

とするロシアのグループ[19],林を中心とする日

本のグループロ5]は,次のように考えた.低質量

(0.01-0.1掩)のソーラーネブラが冷却してい

くと,固体物質が凝縮してディスクの赤道面に

103-104年程度の時間で沈澱していく.赤道面付

近の固体粒子に富んだ層は,自己重力で分裂して

収縮し,半径10-100kmの多数の微惑星と呼ば

れる小天体が形成される.これは,氷粒子や砂の

塊のようなものである.この微惑星が相互に衝

突・成長することにより,惑星は形成されていく.

 惑星の成長速度は,太陽から遠ざかるにつれて

遅くなるが,木星領域以遠ではH20氷が凝縮す

るため惑星材料物質が豊富である.実際に木星の

衛星ガニメデ,カリストにはH20氷が少なから

ず存在している.惑星の質量が1022kg(現在の

ガニメデや月は越えている)になると,重力で周

囲のガスを引きつけるようになり,原始惑星の周

囲に厚い原始大気が形成される.地球質量の10倍

程度に惑星が成長すると,惑星質量の半分程度に

なった大気は自分自身を支えることができなくな

り,収縮を始め,外からは急速にガスが集積する

(Fig.4).

 このコア不安定(Core instability)もしくは有

核不安定(Nucleate instability)と呼ばれる過程

を通る木星型惑星形成のシナリオ[20-22]は,現

在の木星型惑星のコァの質量を与える.ガスと固

体物質の質量の比が太陽組成と異なり惑星問でも

違いのあることも,その後に集積したガスの量の

違いとして説明できる.そのためこのシナリオは,

標準的なモデルとして支持を受けている.ここで

は,このモデルに沿って現在どんなことが考えら

れるか述べてみたい.一方で,ガスディスクが散

逸するまでの間にコアが成長できるか,という問

題点が実は残っている.現在の太陽系形成論では,

楽観的な見積もりでさえ,海王星の形成時間は

109年を越えているからである[23].

原始大気の形成とコア不安定

 惑星の周囲の原始大気では,集積物質の運動エ

ネルギーが底で解放されて,基本的に放射平衡状

態にある大気構造を支えている.火星質量を越え

ると保温効果によって大気底の温度は1,000Kを

越える.固体天体の質量砿が地球質量の10倍程

度になると,大気の質量は惑星質量の半分程度に

蝿鞭     o

  嚇翻

(a) (b) (c)

Fig.4Gas capture of Jupiter by core instability:(a)A solid core is formed through accretion of

  planetesimals and a gravitationaliy attracted atmosphere is formed.(b)When atmospher-

  ic mass exceeds about half as large as core mass,hydrostatic atmospわeric structure is

  collapsed by self-gravity of the atmosphere.This is core instability.(c)Succeeding rapid

  accretion of surrounding nebular gas,Envelope mass increases rapidly.

283

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プラズマ・核融合学会誌 第71巻第4号  1995年4月

なり,大気は自己重力のため収縮を始め,外から

は急速にガスが集積する(Fig.4).このときの

中心天体の質量を限界コア質量と呼んでいる.こ

れは中心に核があるときのジーンズ不安定を見て

いることになる.これにより,地球質量の10-30

倍の中心核と周囲の大気のガスの存在を説明する

ことができる.

 Mizuno[21]は,限界コア質量の値が,外部の

境界条件(ここではソーラーネブラの温度・圧力)

に依存しないことを示して,木星型惑星で現在の

コア質量が大きく異なっていないことの説明とし

た.Fig.5で描いたように,限界コァ質量は,

‘‘コア+静水圧平衡大気”の構造を考えたとき,

全質量に対するコア質量の極大値として求めるこ

とができる.惑星成長は左下側から進行して行く

から,極大値から右側は実際には実現されない解

である.Stevenson[24]は,放射平衡が成り立つ

場合の解析解を求めて,境界条件の影響は,外部

境界の位置が対数項の中に入るだけで,大きくな

いことを示した.ところが実際には限界コア質量

は,天体の集積速度や大気の不透明度を決めるダ

ストの量などに依存する.大気の不透明度κが

一定の場合の解析解では,

102

葺101ヒの

曹、さ

苺10・

1α1

 >K罵1α51

  し 0

 ぐ、/レK響}1

、ぐ\

llK

IIIド

10’3

1F3

1ヨ

1(γ2 10-1 ノ』1

塩一・・38(36磐)w(幾)脚(μ舞)伽

      一噸轟げ(、孟ワkg腰、)一卿

と書ける.ここで,ρc。,eはコアの密度,σSBはス

テファンボルツマン定数,々Bはボルツマン定数,

μは気体分子量,規Hは水素原始質量,1砿①は地

球質量(5.79×1024kg)である.天王星・海王

星では集積速度轟が小さいため,大気を支える

べきエネルギー流束が少なく,結果として大気の

質量が大きくなり早く自己重力が効く.結果とし

て限界コア質量は小さくなる.Sasaki[25]は極端

な場合として,等温大気の場合の限界コア質量の

数値解と解析解をもとめて,地球質量の1/10まで

小さくなることを示した.実際に等温ということ

はあり得ないが,集積速度が遅い場合,限界コア

質量は地球質量程度になる可能性がある.Pol一

10”1 100  101  102  孤。tal/!脆arth

103

Fig.5Relation between the core mass and the total

  planetary mass,i.e。,mass of the core and the

  atmospheric envelope. Solid curves are  numerical results of Mizuno(1980).f denotes

  relative dust/gas mass ratio to the solar value

  and’=1c・rresp・ndst・dust・pacityκ=10一肇

  [m2/kg].Long-dashed curves show numerical

  results under the constant opacity where dust

  opacity decreases due to dust evaporation  and gas opacity is neglected.Short-dashed

  curves show analyticaI resuIts from the equa-

  tiOn in the text.The maximUm Of Mcore de-

  noteS the critical core mass.

1ackら[26]は,原始惑星の暴走成長が周囲の微

惑星を食べ尽くすことで終わると,一時的に固体

集積がほとんどなくなるため,大気を支えるエネ

ルギーが無くなって,低質量でコア不安定が起き

る可能性を示唆している.

急速なガスの集積

 限界コア質量を越えると,はじめは球対称にガ

スは集積する(Fig.6).その速さは1嘱=

4πpcOs7♂=πexp(3/2)021吟2ρg、、/6’と書ける.

ここでc、はガスの音速,7、=01脇/(20♂)(遷音

速点)はガスの内部エネルギーが惑星の重力ポテ

ンシャルと釣り合う地点で,大気をまとった原始

惑星のサイズと考えてもよい.これで,木星領域

における木星の成長時間を求めると嶋/轟~104

(10云勾/嶋)yrで,ディスクの進化の時間よりは

るかに短い.

 球対称のガス集積に伴って,外層が準静的に進

化していく過程をBodenheimer and Pollack[22]

はほぼ土星質量まで計算した。このときにはガス

自身の収縮で解放される重力エネルギーが大気構

造を大きく支配する.一方で,Wuc血terl[27]は,

284

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解  説 木星型惑星の構造と形成 小林,佐々木

この過程で動的不安定が起きてガスは飛ばされて

しまい,木星のような質量の大きな外層は残らず,

むしろガスの質量は天王星程度になってしまう,

という結論を得た.TajimaandNakagawa[28]

は,どちらが正しいか安定性の解析を含めて検討

を行ったが,線形の範囲では安定であることを確

認した.非線形の振動が不安定になる可能性はあ

るが,収縮で解放される重力エネルギーが外層を

飛ばすのに効果的に使われるとは考えにくい.

Wuchter1[27]の結果は大気の不透明度の温度や

圧力依存性の取り方や計算中での外部境界の取り

扱いに問題があったためではないかと思われる.

 原始惑星のサイズ7,が,惑星重量圏のサイズ

であるヒル半径(プHニ(1鴎/3掩)1/37。)かディス

クの鉛直方向のスケール高h(ディスクの厚さの

半分と考えてよい)に到達すると,ガスの集積は

もはや球対称ではなくなる[29].実際には7,=

7Hにあるのと7。隷hになるのはほぼ同時でこの

ときの質量は嶋/掩配(h/7。)3である.7。は太

陽からの距離,h/7。はディスクの縦横比で,標

準的なソーラーネブラのモデルでは木星領域で

0.07である[15].得られる最小質量比3×10}4

は,次項で述べる間隙の形成にとっても必要条件

の一つである.ディスクの粘性が効かない場合は,

間隙が形成される.一般的には,ディスクには乱

流による粘性があり,その粘性が効く場合は,ガ

ス集積すなわち惑星成長は二次元的に進行する.

ガスは惑星の内側および外側の軌道領域から,ポ

テンシャル障壁の低い付近を通って流入してくる

(Fig。6).Sekiyaらの数値計算によると,流入す

るガスは,惑星のまわりを公転する小さなガスデ

ィスクを形成する[30].コリオリカのため公転方

向は現在の木星と同じ向きになる.ガス集積が角

運動量を持つことを考慮した惑星成長の計算も行

われていて,ディスクの形成を予測している[31].

このディスクは原始惑星のヒル半径の大きな部分

を占めていて,惑星の最終半径よりはかなり大き

く,衛星形成もしくは捕獲に重要な役割を果たし

たかも知れない.現在の惑星の自転角運動量と比

較すると,惑星に集積するためには,このディス

クのガスはおよそ90%程度の角運動量を失わなけ

ればいけない.

潮汐相互作用による間隙の形成

 周囲から急速にガスをかき集めて原始惑星の質

量が増大すると,原始惑星と周囲のディスクとの

問の潮汐相互作用が重要になってくる.惑星のリ

ングの申で羊飼い衛星によって間隙が形成される

ことは広く知られている.ともに惑星の周囲をケ

プラー公転するリング粒子が衛星と接近遭遇する

と,運動方向が変化する.衛星よりも内側の粒子

\レツ緊

(a)

栂〆{

窟〆

チ〆 を

(b)

/   \

1●)\    !

(c)

Fig,6Gas accretbn onto proto-Jupiter and gap formatbn.(a)Nearly spherica闘y symmetric gas

  accretion after the core instability。(b) Planar gas accretion stage、The dashed oval de-

  notes“Hi”sphere”where the planetary gravity surpasses the solar gravity.Gas accretion

  goesthroughthebothsidesof“Hillspれere”・BecauseofCoriolisforce,accreting93s  finallybringsc・untercl・ckwlseangularm・mentum,f・rmingacircuml・viangasdisk・(c)

  Gap formation.When tidal torque exceeds viscous torque,an annulate gap is formed

  along the planetary orbit

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プラズマ・核融合学会誌 第71巻第4号  1995年4月

は角運動量を失い,軌道は内側に移行し,外側の

粒子は角運動量を得て,外側に押し出される.衛

星とリング粒子の間には潮汐作用が反発力となっ

てはたらき,衛星の軌道に沿ってリング粒子の無

い間隙ができる.同じことが,巨大惑星とガスデ

ィスクの間にも起きる[29].

 成長した巨大惑星は潮汐力により周囲のガスに

対して斥力を及ぼす.ディスクの内側のガスは角

運動量を失い,外側のガスは角運動量を得る.ガ

スが惑星重力圏の外に常に押し出されると,ディ

スクの中に惑星軌道に沿った間隙が生まれること

になる(Fig.6).間隙が形成されるときは,ガ

スは惑星重力圏の外にいなければならず,間隙の

幅はヒル半径の2倍程度になる.このとき,ディ

スクの厚みが大きいと妨げになる.そこで間隙生

成の必要条件としてまず,7H≧h,書き換えると

偽/瓢⊃≧(h/7。)3~(6、/ω7。)3

である.ωは惑星のケプラー角速度である.前項

で述べたように,標準的なソーラーネブラのモデ

ルでは,木星領域でこの値は3×10-4で,嶋~

0.31矯upiter~砥aturnである.

 しかし,ディスクに乱流があり粘性が高いと,

粘性散逸によりガスの角運動量が失われるため,

惑星の外側のガスは間隙を埋めようとする.その

ため,潮汐トルクによる角運動量輸送が粘性トル

クによる角運動量輸送を上回ることが,間隙の生

成には必要である.これより,

    40レ偽/晦≧ 2    ω70

を得る[29].レはディスクの粘性である.木星領

域を考えてωを与え,木星の軌道半径程度に対

するディスクの粘性進化の時間を!d~7。2/F105

年(ディスク全体の進化の時間を106-107年とす

ることに相当)ととると,この比は10-3になり,

ちょうど現在の木星質量になる.

 ひとたび間隙が形成されると,惑星へのガス集

積は停止する.そのためこの式を満たす惑星質量

が木星型惑星の最大質量と考えることもできる.

現実には,もともと惑星形成領域にどの程度ガス

が存在するかも,重要になる.限界コア質量を超

えたときのガス集積は急速なので,ガスを潮汐力

ではねとばして間隙を作るだけではなく,その場

所のガスを消費したから問隙ができたともいえ

る.標準的なソーラーネブラのモデル[15]による

面密度の見積もりを使うと,木星領域では,間隙

の幅およそ47H(木星質量を仮定)に含まれてい

たガスの質量がちょうど木星のガス成分に相当し

ていることがわかる.

 惑星とガスディスクとの間の角運動量のやりと

りは,惑星から離れたところでは,その場所の公

転周期が惑星の公転周期と整数比になる,Lin(1-

blad共鳴の地点が重要になる.軌道上の同じ地

点に惑星からの最大トルクが与えられるからであ

る.共鳴地点の場所は,惑星の軌道半径を1とす

ると,2:1共鳴(角,=0.630,7。rニ1.58),3:2共

鳴(籏=0。763,7。r=1.31),4:3共鳴(牲r=0.825,

7。,器L21)などであり,惑星に近くなるにつれ

て数多くなる.Fig。7は,Linらによる定常状態

のガスの面密度分布の計算の一例である.潮汐力

で惑星(7=1)の内側に間隙が形成され,Lind-

blad共鳴の地点で,それぞれ,2,3,4本と

と密度波の腕の数が変化している様子が描かれて

いる.Lindblad共鳴付近で角運動量がやりとり

されるため,ディスクの粘性が高くなければ,溝

の間隙は広がってゆく,Linらは最大間隙は2:1

共鳴で決まると考えたが,TakeuchiandMyama[32]は,ディスクの粘性が低い場合は間

眺.昌

51∫

嘘=5 Q25の        ひ 

   騙 1鵡。あ解o遭

Juptter

Fig.7Surface density distribution of the inner disk

  after t麟e gap formation (modified from Lin

  andPapaloizou[29]).」upiterisatわeIiocentric

  distance r篇1.Because of Lindblad reso_  nances,wave-like featureS are seen in the  outer region of the disk.

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解  説 木星型惑星の構造と形成 小林,佐々木

隙は非常に大きくなり,惑星の内側のディスクは

角運動量を失って太陽に落ちてしまう,という結

果を得ている.

木星の軌道進化

 問隙が形成されると,惑星成長そのものは停止

するが,潮汐相互作用による角運動量輸送は継続

する.その結果として,原始惑星の離心率や軌道

半径が変化する可能性がある.ディスクの粘性が

低くなく間隙の幅が小さいときは,惑星の離心率

は104-105年で非常に大きくなり,これは現在の

木星型惑星の小さな離心率と矛盾する.ディスク

の粘性が小さく,2:1共鳴付近まで間隙のある場

合は,離心率増加は小さく,106年でも現在の値

を越えることはない[29].惑星は内側のディスク

から角運動量をもらい,外側のディスクに与える

ので,一見すると惑星の角運動量の増減は無いよ

うに見える.しかし,内側のディスクと外側のデ

ィスクの面密度は異なるため,惑星自身の角運動

量も変化する.惑星の外側のディスクの質量が相

対的に大きい場合は,惑星は角運動量を失って,

ガスディスクの粘性進化の時間(~7。2/レ)で軌

道は縮んでゆく.外側のディスクの質量が相対的

に小さい場合は,外側へと軌道は膨らんでいく傾

向になる.

冷却過程

 大量のガスの集積が止むと,原始惑星は冷却段

階にはいる.集積の重力エネルギー解放で内部温

度は高く,5×104K程度になっていたと考えら

れる.はじめのうちは,収縮による内部の重力エ

ネルギー解放が大きいため,エネルギー流束はす

ぐには下がらない.105年を越えると,徐々に流

出するエネルギー流束は減少するが,木星,土星

では108年が経過しても,現在の100倍の内部から

のエネルギー流出がある[33].木星では,この初

期の高光度状態のときに,内側の惑星からH20

などの揮発性成分が失われ,イオ,エウロパなど

の密度が高くなった可能性がある.以降は冷却の

一途を辿ったと思われるが,以前に述べたように,

内部が冷えるにつれてヘリウムの不混和,重力分

離の過程が起こったであろう[14].特に土星では

ヘリウム不混和の問題は,その進化を考える上で

重要であろう.

4.今後の内部構造の研究一一木震学の

  役割

 以上,駆け足で木星内部構造とその形成につい

て紹介してきた.これまでの研究によって,多く

の事柄が解明されつつあるが,木星の素顔に迫る

にはまだ未解決の問題を多く残してきている.形

成から現在に至るまでの道筋を語るには,我々の

理解は不十分なものである.それ故,現在の木星

の姿をより正しく知ることが望まれるし,そのこ

とは,その形成・進化を論じる上でも必要なこと

であろう.最近になり木星内部構造の理解に新た

な進展が芽生えようとしている.それは『木震学』

と呼ばれる分野である[34,35].地震波の伝搬の

仕方から地球内部構造を調べる地震学の木星版と

もいえるものである.もし何らかの方法によって,

木星振動が検出されれば,その情報は内部構造を

制約する条件としてこのうえないものであろう。

(Shoemaker-Levy9彗星に絡んだ話としては,

文献[35,38]を参照されたし.)

 すでに述べてきている通り,木星内部構造には

まだ不確定な点が多い.状態方程式の不確定さと

いうこともあるが,どだい少ない観測量でモデル

をユニークに決めることが困難なのは想像に難く

ない.極端な話,モデルの構成の際に,岩石・氷

からなる中心核とマントルを明瞭に区別したが,

そのような構成になっていない可能性もある.例

えば,Stevensonが述べているように[36],木星

の形成後期に火星サイズの微惑星が木星に集積し

たならば,水素層に氷,シリケイト成分に富む層

が形成され,その層は重力的に安定しているため,

今日まで存続し続けているという可能性も否定は

できない.また,最近になって,輻射吸収係数を   わ見直したモデルでは1×103気圧から4×104気圧の

範囲で輻射熱輸送の大きな(すなわち対流に対し

て安定な)層の存在が示唆されている[37].木星

内部を伝搬する音波や重力波(浮力を復元力とす

る波)を調べることで,こうした問題の真偽に決

着がつくであろう.また,水素の物性という側面

においても,木星は巨大な高圧実験室であるにも

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プラズマ・核融合学会誌 第71巻第4号  1995年4月

かかわらず,我々はそこからの情報を知る術がな

かった.しかし,木震学出現によって,我々は木

星を巨大な高圧実験室として利用できるようにな

りつつある.

謝辞

 田島宣弥(東京大学大学院理学系研究科地球惑

星物理学教室),吉田茂生(東京大学地震研究所)

両氏には記事に目を通していただき,多くの有益

な助言をいただいた.この場を借りて感謝の意を

申し上げます.また,このような機会を与えて下

さった群馬大学工学部電気電子工学科の矢部孝氏

にも厚く感謝を申し上げます.

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