地震・地盤・建屋解析モデリングの計画と現状 堀宗朗 · 2013-10-30 ·...

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地震・地盤・建屋解析モデリングの計画と現状 堀宗朗 東京大学地震研究所 113-0032 東京都文京区弥生 1-1-1 [email protected] 地震・地盤・建屋解析モデリングは,想定された断層から原子力発電所のサイトまでの地震動 伝播解析と,地盤と建屋を同時に扱う地盤―構造物連成解析に二分される.地震動伝播解析は, 地質構造を持つ地殻とサイト周辺の表層地盤の中を伝播する地震波動を線形計算する.線形計算 ではあるが,地質構造と地盤構造という異なるスケールの領域で波動伝播を計算するマルチスケ ール解析となっている.地盤―構造物連成解析は,強い地震動を受ける構造物の応答を非線形計 算する.地震動の大きさによっては構造物が局所的に損傷を受けることもあり,材料・部材レベ ルでの破壊過程の解析も地盤―構造物連成解析に含まれている. 担当研究グループでは,地震動伝播解析と地盤-構造物連成解析に関して数値計算手法を開発 してきた.この数値計算手法を改良させ,地震・地盤・建屋解析モデリングを構築することが目 的である.具体的な研究実施項目は,地殻・表層地盤,建屋・部材をマルチスケールに扱える解 析モデリングの構築と,それを使った数値シミュレーションである.年次計画の概要は以下のよ うになっている. 2007 年 既存構成式・モデルおよび現在有している技術やソフトウェアの調査を実施. 2008 年 既存技術の融合による地震解析のためのマルチスケール構造モデリングに着手. 2009 年 マルチスケール構造モデリングの試作.ADVENTURE と連携した実装に着手. 2010 年 高性能・大規模数値計算手法の開発.実データとの比較によるモデリングの検証. 2011 年 マルチスケール構造モデリングを ADVENTURE を耐力シミュレーションシステムと連携 させ、評価. 現在,地震動伝播解析では,数値計算手法の改良と解析モデルの構築手法の開発を進めている. 地震波動の高周波数成分を計算するためには,時間と空間の両方での密な離散化が必要であり, この大規模計算を効率的に行う数値計算手法の改良が必要である.また,大規模数値計算を前提 しているとはいえ,断層からサイトまでの広大な領域全体で計算できる地震動の高周波数成分に は限界がある.計算地震学で標準的に用いられる周波数成分の外挿を検討する必要がある.なお, 線形計算であるため,数値計算手法そのものの妥当性は,解析解がある問題との比較によって検 証できる.大胆な改良が可能である.地震・地盤・建屋解析モデリングでは,単純な成層構造を 仮定しない.このため,地殻・表層地盤の解析モデルの構築には工夫が必要である.モデル構築 に必要なデータが限られており,また,高周波数成分を計算するための分解能の高いモデル化も 必要である.この二点を考慮した工夫を検討している. 地盤-構造物連成解析では,地震動による損傷・破壊の過程を解析する数値計算手法の改良を 行っている.鉄筋コンクリート造の建屋では,地震による損傷・破壊は材料・部材レベルでの亀 裂の発生・進展に起因する.このような亀裂問題の計算は計算力学の分野でも難問である.担当 研究グループでは,亀裂問題を効率的に扱える新しい離散化手法を考案し,離散化手法のプロト タイプを ADVENTURE に組み込んでいる.大規模数値計算ができるよう,離散化手法のプロトタイ プの改良を行っている.なお,この離散化手法は特性関数を基底関数として使うものである.連 続・微分可能な関数が不連続な既定関数で離散化されることになるが,不連続性・特異性のある 亀裂問題には,基底関数の不連続性を使うことで効率的な数値計算が可能となる.

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地震・地盤・建屋解析モデリングの計画と現状

堀宗朗

東京大学地震研究所

113-0032 東京都文京区弥生 1-1-1 [email protected]

地震・地盤・建屋解析モデリングは,想定された断層から原子力発電所のサイトまでの地震動

伝播解析と,地盤と建屋を同時に扱う地盤―構造物連成解析に二分される.地震動伝播解析は,

地質構造を持つ地殻とサイト周辺の表層地盤の中を伝播する地震波動を線形計算する.線形計算

ではあるが,地質構造と地盤構造という異なるスケールの領域で波動伝播を計算するマルチスケ

ール解析となっている.地盤―構造物連成解析は,強い地震動を受ける構造物の応答を非線形計

算する.地震動の大きさによっては構造物が局所的に損傷を受けることもあり,材料・部材レベ

ルでの破壊過程の解析も地盤―構造物連成解析に含まれている.

担当研究グループでは,地震動伝播解析と地盤-構造物連成解析に関して数値計算手法を開発

してきた.この数値計算手法を改良させ,地震・地盤・建屋解析モデリングを構築することが目

的である.具体的な研究実施項目は,地殻・表層地盤,建屋・部材をマルチスケールに扱える解

析モデリングの構築と,それを使った数値シミュレーションである.年次計画の概要は以下のよ

うになっている.

2007 年 既存構成式・モデルおよび現在有している技術やソフトウェアの調査を実施.

2008 年 既存技術の融合による地震解析のためのマルチスケール構造モデリングに着手.

2009 年 マルチスケール構造モデリングの試作.ADVENTURE と連携した実装に着手.

2010 年 高性能・大規模数値計算手法の開発.実データとの比較によるモデリングの検証.

2011 年 マルチスケール構造モデリングをADVENTUREを耐力シミュレーションシステムと連携

させ、評価.

現在,地震動伝播解析では,数値計算手法の改良と解析モデルの構築手法の開発を進めている.

地震波動の高周波数成分を計算するためには,時間と空間の両方での密な離散化が必要であり,

この大規模計算を効率的に行う数値計算手法の改良が必要である.また,大規模数値計算を前提

しているとはいえ,断層からサイトまでの広大な領域全体で計算できる地震動の高周波数成分に

は限界がある.計算地震学で標準的に用いられる周波数成分の外挿を検討する必要がある.なお,

線形計算であるため,数値計算手法そのものの妥当性は,解析解がある問題との比較によって検

証できる.大胆な改良が可能である.地震・地盤・建屋解析モデリングでは,単純な成層構造を

仮定しない.このため,地殻・表層地盤の解析モデルの構築には工夫が必要である.モデル構築

に必要なデータが限られており,また,高周波数成分を計算するための分解能の高いモデル化も

必要である.この二点を考慮した工夫を検討している.

地盤-構造物連成解析では,地震動による損傷・破壊の過程を解析する数値計算手法の改良を

行っている.鉄筋コンクリート造の建屋では,地震による損傷・破壊は材料・部材レベルでの亀

裂の発生・進展に起因する.このような亀裂問題の計算は計算力学の分野でも難問である.担当

研究グループでは,亀裂問題を効率的に扱える新しい離散化手法を考案し,離散化手法のプロト

タイプを ADVENTURE に組み込んでいる.大規模数値計算ができるよう,離散化手法のプロトタイ

プの改良を行っている.なお,この離散化手法は特性関数を基底関数として使うものである.連

続・微分可能な関数が不連続な既定関数で離散化されることになるが,不連続性・特異性のある

亀裂問題には,基底関数の不連続性を使うことで効率的な数値計算が可能となる.

地震・地盤・建屋解析モデリングの計画と現状

地震・地盤・建屋解析モデリングの計画と現状

堀宗朗(東京大学)

第19回CCSEワークショップ ―原子力耐震計算科学による挑戦―日本原子力研究開発機構,東京,12/3,2008

地震・地盤・建屋解析モデリング地震・地盤・建屋解析モデリング

地震動伝播解析想定された断層から原子力発電所のサイトまで

線形であるが大規模数値計算が必要

マルチスケール解析(地質構造を持つ地殻での波動伝播とサイト周辺の表層地盤での増幅過程)

地盤―構造物連成解析地盤と建屋を同時に扱う

非線形計算

材料・部材レベルでの破壊過程の解析(鉄筋コンクリート造構造物の亀裂発生と進展)

地震波動伝播解析の課題地震波動伝播解析の課題

計算環境frequency 5[Hz]

non-linear analysis for soil

地下構造の不確定性ground 50[m] resolution

crust 2-3[km] resolution

Memory[GB] computation

FEM 10,000 n

FDM 10,000 n

BEM 250 n2

n:DOF

20-30[km]

100[m]

1000[m]

40-50[km]

1X1X1[m] mesh

10X10X10[m] mesh

100X100X100[m] mesh

解析モデルの構築難

確率モデル確率モデルSTOCHASTIC MODEL

PDF of Young modulusc

φ

)c,u()c(Ef)L(udx)u(c)c,u(L

0

221 Π−≥⇒−′=Π ∫

)c,u(dc)c()c,u(dc)c()c(EE Π−=φΠ−≥φ= ∫∫

BOUNDING MEDIA

? f

Lc

< <

bound expected behavior

dccc ∫ φ= )c/1/(1

strain energy:

bound:

BOUNDING MEDIUM THOERY

バウンディングメディア理論バウンディングメディア理論

k: stochastic

kupper

klower

mean response

<<

0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 2.0

0.002

0.004

0.006

0.008

0.010

0.012

displacement

PDF

bound of BMT:

displacement of

kupper and klower

average

Kupper & klower:computed by using Hashin-Shtrikman variational principle(which leads to kinematic/geometric mean of k)

Spring Problem

k: spring constant

f: force

u: displacementku=f

f

マルチスケール解析マルチスケール解析

c

HIGH HETEROGENEITY REGULAR PERTURBATION

))uc(uc(uc))uu)(cc(()uc(

oooo

oo

′′δ+′′δ+′′≈

′δ+δ+=′′

x1yε

=

)y,x(u)x(uu),y(cc 1o ε+→→

)x(u)y()y,x(u,0uC o1o ′χ==′′

fast variable

overall modulus

multi-scale: x & y

SINGULAR PERTURBATION

ε

occfor good <<δ

マルチスケール解析の例マルチスケール解析の例

highly heterogeneous

Bar Problem

equivalent model:solution with law resolution

small domain:solution with high resolution

0.00006

0.00008

0.00010

0.00012

0.00014

0.00016

0.00018

4950 4975 5000 5025 5050

exact 1st

0.00006

0.00008

0.00010

0.00012

0.00014

0.00016

0.00018

4950 4975 5000 5025 5050

exact and 2nd

マクローミクロ解析手法マクローミクロ解析手法

stochastic modeling

micro-analysis

macro-analysis

BOUNDIG MEDIA

MULTI-SCALE ANALYSIS

pessimistic optimistic

?

横浜市の地震シミュレーション横浜市の地震シミュレーション

Comparison of synthesized strong ground motion with data observed at 13 seismograph sites

August 11, 1999

139.5E

139.5E

140.0E

140.0E

140.5E

140.5E

35.0N 35.0N

35.5N 35.5N

0 7.5 15

km

epicenter

as06

is06

hd06

Yokohama City

Lat. Long. Depth Strike Dip Rake Mag.35.4N 139.8E 53km 62 85 73 4.0Mw

マクロ解析:解析モデルマクロ解析:解析モデル

30[km]

40[km]

70[km]

EN

mate.2mate.1

mate.4mate.3m ate.1 m ate.2 m ate.3 m ate.4

p wave veloc.[m /sec] 1040 1730 2950 5200s wave veloc.[m /sec] 600 1000 1700 3000

density[kg/m 3] 1800 2000 2300 2500

139.5E

139.5E

140.0E

140.0E

140.5E

140.5E

35.0N 35.0N

35.5N 35.5N

0

-500

-1000

[m]0

-2500

-5000

[m]0

-1250

-2500

[m]

between 1st and 2nd layers between 2nd and 3rd layers between 3rd and 4th layers

ミクロ解析:解析モデルミクロ解析:解析モデル

optimistic pessimistic

model of site as06s

400[m]

as06N

400[m]

[m]

10

20

50

30

40

401 402 403 405 414404

700

210

140

100

2100

1800

1600

1500

Ac2

Ac1

T

As2

ρ[kg/m] 3 β[m/sec]layer

properties of layer

80[m]

100

400

200

500

300

b[m/s]

600

80[m]

40[m]

解析結果解析結果

case1 case2

-0.03-0.02-0.01

00.010.020.03

0 2 4 6 8-0.01

-0.005

0

0.005

0.01

0 2 4 6 8time [sec] time [sec]

velocity [kine]velocity [kine]

measured

computed

measured

computed

Two cases of earthquakes are simulated.

地盤ー構造物連成解析の課題地盤ー構造物連成解析の課題

構造物解析:耐震設計に準拠したモデリング非線形多自由度系有限要素法系 ファイバー要素,シェル要素

構造物解析:構造物の崩壊過程は対象外

地盤ー構造物連成問題地盤と構造物の境界の取扱い

土の非線形性と周波数依存性

土ー水の連成

2 4 6 8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1

2 4 6 8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1

塑性化による部材剛性の変化塑性化による部材剛性の変化

H =

10[

m]

c = 1000[m/s]

c = 100[m/s]

rela

tive

stiff

ness

frequency [Hz]

rela

tive

stiff

ness

frequency [Hz]

部材のせん断剛性の周波数依存性

見かけの剛性:上端のせん断力と変位の比

周波数依存性は小

2 4 6 8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1

2 4 6 8 10

0.2

0.4

0.6

0.8

1

塑性化による部材剛性の変化塑性化による部材剛性の変化H

= 1

0[m

]

c = 1000[m/s]re

lativ

e st

iffne

ss

frequency [Hz]

rela

tive

stiff

ness

frequency [Hz]

dH =

0.1

[m]

dc = 10[m/s]

LL = 2[m]

L = 8[m]

局所的塑性化により薄いせん断帯が発生

せん断帯の位置に依存した劇的な剛性低下

塑性化の影響は大

超高層ビル超高層ビル

3次元CADデータ

ソリッド要素を用いたモデルソリッド要素を用いたモデル

モデルアライドエンジニアリング協力

モデルの詳細モデルの詳細

計算結果計算結果

固有振動モードの比較ゆっくりした前後の揺れねじれを伴う左右の揺れ早いクネクネした揺れ

アライドエンジニアリング協力

計算結果計算結果

アライドエンジニアリング協力

損傷の度合い青:無緑:有赤:損傷大

計算結果計算結果

損傷の度合い青:無緑:有赤:損傷大

アライドエンジニアリング協力

粒子離散化粒子離散化

連続かつ滑らかな基底関数 不連続な基底関数

FEM PDS-FEM

FEM

u3

u2

u1

Ω2

Ω3

Ω1x2

x1

x3

u1

u2

u3

x1

x3

x2

粒子離散化を組み込んだ有限要素法の剛性行列は,通常の有限要素法の剛性行列と一致

RBSMRBSMfracture

continuum

BVP

FEM / BEM / FDM DEM

equivalence to continuum is not verified and springs are mysterious

cont

inuu

m

BB

SM

Numerically intensive failure treatment Simple failure treatment.

spring properties ?

J-INTEGRALの比較J-INTEGRALの比較

0.0065

0.0066

0.0067

0.0068

0.0069

0.0070

0 30000 60000 90000

Number of Elements

J-In

tegr

al

exact value

FEM

FEM-b approximate B.C.no rotation DOF

FEM-b rigorous B.C.rotation DOF

FEM-b approximate B.C.rotation DOF

blunt crack tip

ねじれ破壊ねじれ破壊

15 m

m

80 mm

E = 70GPa

ν = 0.3

光弾性実験との比較光弾性実験との比較

光弾性実験との比較光弾性実験との比較

コンクリート供試体コンクリート供試体

骨材1つ1つをモデル化円柱供試体

破壊過程破壊過程

円柱供試体一様引張

白 モルタル灰 骨材赤 亀裂

ADVENTURE+PDS

おわりに:研究計画おわりに:研究計画

2007年 既存構成式・モデルおよび現在有している

技術やソフトウェアの調査を実施.

2008年 既存技術の融合による地震解析のためのマルチスケール構造モデリングに着手.

2009年 マルチスケール構造モデリングの試作.ADVENTUREと連携した実装に着手.

2010年 高性能・大規模数値計算手法の開発.実データとの比較によるモデリングの検証.

2011年 マルチスケール構造モデリングを耐力シミュレーションシステムと連携させ評価.