服部文祥 カスタムナイフ 可能性 -...
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服部文祥が解体向けフィールドモデルをインプレッション
9人のナイフメーカーが考える
狩猟サバイバルツールとは?
カスタムナイフの可能性
どこからが精肉作業かの線引きや、どんなサイズの鹿を想定するかで、ナイフのデザインも変わるだろう。実際の現場でも、鹿のサイズや着弾点との相性、私のナイフさばきの技術によって、ナイフメーカーがナイフに込めた性能が発揮されないということがあったと思う。また、いくつかはそもそも想定されていない「料理」にも使わせてもらった。「刃もち」はもちろん「研ぎやすさ」も刃物の重要な性能だが、そこまでは試していない。どのナイフも合格点以上であることは間違いなく、そのうえで、やや無理矢理記した個人的インプレッションであることを断っておく。
カスタムナイフ相場の限界にも挑戦!?ナイフ制作の前に、本誌ではもう一つ「相場の限界に挑戦」という無理難題をナイフメーカーに強いている。オールハンドメイドで時に10万円を超えるカスタムナイフの相場にあって、今回制作を依頼したナイフはそれを大幅に下回っている。
鹿一頭を解体できる最も小さなナイフ常識という一様な価値観に染まる。これこそ最も安心快適に人間社会を生きるための術だが、それは同時に皆一様なカタチとなり、個人としての可能性を放棄することである。ナイフも同じである。実力派ナイフメーカーが考え抜いた唯一無二のカタチには、ファクトリー製品にはない固有の可能性が秘められている。今回集められた9本のナイフは、「鹿一頭を解体できる最も小さなナイフ」という本誌のお題に則り、選りすぐりのフィールド系ナイフメーカーが塾考して創り出したものだ。そして、これらを登山家であり単独猟者である服部文祥に預け、実際に鹿を解体し、固有の可能性を探っている。小粒でもピリリと辛い、日本最高峰のカスタム“ハンティング”ナイフの実力を 覗いてみよう。
SPECIAL THANKS /JAPAN KNIFE GUILD
インプレッションの前に___ 服部文祥
「鹿一頭を解体できる最も小さなナイフ」というのが制作の課題だが、どこまでが解体で
Hunter’s Co!ent [服部文祥インプレッション]
通算82頭目のC沢林道で日暮れ直前に出会ったオス鹿、推定3歳の解体に使用した。先端が尖っているためか、肉や皮への差し込みの良さは、やや戸惑うほど。消化器官にキズを付けないように必要以上に気を遣った。ただそれは、どんな機能を優先させるかの違いで、ナイフの評価を下げる要素ではない。グリップは長く、胸の軟骨を切り開くときも、力を入れやすい。ヒルトの存在は、ちょっと無理な力を加えたいときにも安心感がある。鋭い刃と安全性を兼ね備えたオーソドックスなストレートタイプ。
まっすぐ尖り系のオーソドックスナイフ
Standard Model
歴史に培われた実践的造形を提案
切っ先の鋭さが売り。足の皮に入れる切れ目はまったくよどみない。中の肉を切らないように手加減が必要。
胸の皮開きなどの、細かい作業も問題なし。やや切れすぎるため、気をつけないと内側から皮に穴をあけてしまう。
腹出しにおけるナイフの最大の仕事が胸骨開き。鹿のサイズによっては大変な作業になるが、このナイフは3歳のオスの胸を難なく開いた。
金属、木材、石材などを加工するオブジェ制作会社に勤めたのち、米国へ遊学。各地のナイフショーやメーカーを訪ね、帰国後に狩猟ライセンス取得、相田義人氏主催のナイフメイキング講座に参加。近年よりプロナイフメーカーとして、相田義人、ラブレスが手がけた実践的ナイフを制作している。
内田 啓.Custom Knife Maker
HAND SCALPEL SKINNING[ハンドスケルペル スキニング]C.W.ニコルと相田義人の対談の中で生まれた伝説的ナイフ「ハンドスケルペル」を狩猟よりにシフトさせた作品。この1本は内田氏の精巧な技量により再現したもの。2万5000円(税抜)
3” SEMI-SKINNER[3インチ セミスキナー]カスタムナイフの定番と言えばこの1本。あらゆる握り方を許容するハンドルの造形で、ブレードに力を伝えやすい。実用ナイフを好む内田氏一押しのナイフ。2万5000円(税抜)
4 1/2” CHUTE KNIFE[4.5インチ シュートナイフ]米軍が特殊部隊のパラシュート降下に備えてラブレスに依頼したナイフ。随所に過酷な環境下に耐えるディテール与えられ、狩猟ナイフとしても高い実力を備える。7万円(税抜)
Survival Special NOMAD[ノマッド]鹿一頭を解体できる最も小さなナイフとして、真っ先に思い浮かんだ相田義人デザインの「ハンド・スケルペル・スキニング」がベースとなるナイフ。ハンドルは内田氏定番のコークボトルシェイプを採用し、フィールドナイフの王道を行くスタイルを提案した。シースは服部のサバイバルスタイルを考慮し、ラブレスのヒップポケットタイプ。2万5000円(税抜)
シース収納時
Hunter’s Co!ent [服部文祥インプレッション]
アイヌ語で「仲間」を意味する名を持つ因縁か、11月頭に北海道で撃ったシーズン最初の一頭、通算78頭目の子鹿を解体するのに使用した。ブレードはコンパクトだが、グリップは短すぎず、微妙な滑り止めも機能している。ポケットやポーチにいれたときの収まりの良さもこのナイフの重要な性能だろう。極小サイズゆえ、体腔内での作業もとてもやりやすく、安心感がある。細かい作業に向いていて、二日後に仕留めたオスの頭の皮剝ぎにも大活躍。ただ、背ロースを取りだすのはあまり向いていない。
鉛筆タイプの極小ナイフ、仕事もこまかい
指の延長として
繊細な作業にも対応
「PARKSIDE」の屋号でカスタムナイフ制作歴20年を誇る実力派。実践的に使えるラブレスタイプを基本としているが、使用現場で感じた発想をそのままナイフで表現することを信条としている。2001年、JKGナイフコンテスト奨励賞、2002年ベストシースナイフ賞を受賞。
高本龍雄Custom Knife Maker
解体には必要な最小のサイズ。取り回しは良いが、背ロースの切り出しと、胸骨開きはあまり得意とは言えないようだ。
えんぴつ持ちで細かい作業。手の中でくるくると向きを変えて作業する部分では本領を発揮する。頭などの複雑な部位の皮むきにも良い。
解体にはナイフを使わない作業も多い。そのときどこに収容するかもナイフの性能のひとつ。ウタリは持ったまま作業が可能(ちょい危険)。
WOOD PECKER[ウッドペッカー]枝払いや焚き付け作りができて、ナイフとしても機能する野営家好みのリアルユーススタイル。野菜や肉のブツ切りなど、調理にも積極的に使いたい。4万5000円(税抜)
SHUMARI Ⅰ[シュマリⅠ]女性仕様として制作したモデル「シュマリ」のユニセックスバージョン。コンベックスグラインドを採用したブレードはタフな環境下でも実力を発揮する。4万5000円(税抜)
GUT HOOK SKINNER[ガットフックスキナー]アートナイフの父・W.W.クロンクのオリジナルモデルを60%縮小してデェフォルメを加えたモデル。手のひらで扱えるコンパクトなサイズ感で実用向き。6万円(税抜)
Standard Model
Survival Special UTARI[ウタリ]現場で使える道具として、できるだけ価格を抑えるために必要なディテールだけを取り入れたシンプルなモデル。小型ナイフは指の延長として捉え、刃長を57cmに設定。ヒルトレスがもたらす軽量性など、狩猟者の手の中に収まる、等身大の造形が魅力となっている。鋼材にはVG-10、ハンドルにはタンリネンマイカルタを採用する。2万円(税抜)
シース収納時
カスタムナイフの可能性
Hunter’s Co!ent [服部文祥インプレッション]
本州でのシーズン2頭目、通算81頭目のオスの子鹿に使用した。カイデックス製のシースはまだ馴染まないためか少し固かったが、このナイフは小さなサイズと大きくカーブしたブレードが特徴だろう。カラビナを通すなど、様 な々使い方ができそうなフィンガーリングを設けたことで、グリップ感と軽量コンパクト性を兼ね備えていた。グリップの大きなカーブもヒルトの役割を果たしていて安心感がある。なんと言っても刃のカーブが良く、皮剥ぎは非常にやりやすかった。肉への食い込みも良い。
絶妙なカーブのブレード。イノシシ相手に使いたい
実用に満ちたディテールが随所に投入された1本
元IBA(国際ボディガード協会)のエージェント、ハンターとしての経験を活かし、現場で使えるハンティング及びタクティカルナイフを制作するナイフメーカー。常日頃、現役自衛官やハンターの意見を収集し、実用性、バランス、タフさに優れたナイフを提案している。
武市広樹Custom Knife Maker
絶妙な刃のカーブで、皮剝ぎはやりやすい。子鹿ではなく、大きな鹿やイノシシでその性能を発揮しそうだ。
問題の胸骨開き。子鹿だけに腕の力だけで開くことができたが、コンパクトなグリップはやや持ちにくい。大物には苦労するかもしれない。
肉への食い込みもよい。ブレードも厚すぎず、薄すぎず、解体専用のナイフと言っていいだろう。写真は銃創部分、ライフルの内出血は広範囲になる。
蛍火[ホタルビ]「L.E.M.S.S BLADE Conference」における第一回ナイフコンペの最優秀賞モデル。ハンドルエンドに蓄光プレート、シースにはファイヤースターターを装備する。6万円(税抜)
鶴翼[カクヨク]シラットのインストラクターから意見を取り入れたタクティカルカランビット。ダブルグラインドの軽量ブレードとフック用セレーションが特徴。シースもコンパクトだ。6万5000円(税抜)
MP/R[MP/R]山岳パトロール及びレスキュー向けの小型モデル。ブレード前方のシャープさを重視し、強めのアールを持たせたエッジが特徴となる。ロープカッティングにも向く。4万5000円(税抜)
Standard Model
Survival Special
2 1/2” TACTICAL HUNTER SHINOBI[2.5インチ タクティカルハンター忍]フィンガーリングとセミスキナータイプのブレードが忍者のクナイを彷彿とさせる作品。4mm厚のVG-10鋼材を用いたブレードは脂の付着を抑えるミラーフィニッシュ、カモフラ柄のG-10製ハンドルは反射を抑えるヘアラインフィニッシュとした。シースはデジタルカモのカイデックス製で、タクティカルな雰囲気を醸し出している。2万8000円(税抜)
シース収納時
Hunter’s Co!ent [服部文祥インプレッション]
58頁の大きなメス鹿のトメ刺しから使用した。峰が厚いのに、刃が薄いという独特の形状のため、頑強さと切れ味を併せ持つ。切れ味が予想以上だったため、頸動脈を切った刃がそのまま左手の小指に軽く当たって、切ってしまった。最小サイズという課題にはあえて目をつむり、刃長を生かした使いやすさを重視したようだ。カイデックスのシースは腰に下げると、銃に干渉して音を出す。ベストに収納したほうが良さそうだ。
脅威の切れ味をもつ解体用3.5インチ
シース収納時
Standard Model
とにかくよく切れる。鹿もほとんど傷みを感じなったのではないだろうか。刃が切れすぎて左手の小指に当たってしまった。
微妙なカーブはイノシシにも良さそうである。背ロースもとりやすく、このナイフは私のハンティングベストに収まることになった。
大型の鹿だったが、峰を叩くことなく胸骨を開いた。その切れ味は、慣れるまで扱いに注意が必要なほど。
獲物系全般の物好きが高じて、自らナイフを作りはじめた中根氏のコンセプトは「自分で使う」。現場で閃いた実用的アイデアは、正統なフィールドナイフスタイルの中にもトリッキーな造形をもって具現化され、独特の雰囲気を醸し出すラインナップが魅力だ。
中根祥文Custom Knife Maker
Survival Special 3 1/2” HUNTER H[3.5インチ ハンターH]鹿を吊るして解体する服部のスタイルに合わせて刃長を105mmに設定。ホローグラインドで極限まで薄く削り込まれたブレードは鋭い切れ味を発揮しつつ、キック部にU字の切り欠きを設けて素早い刃研ぎも実現している。ハンドルのファスナーボルトはグリップの補助として紐などを通せるよう中空とした。3万2000円(税抜)
使えるディテールを備えた一芸ありのフィールドモデル
2.5" FISH GAMER[2.5インチ フィッシュゲーマー]フィッシング用に設計したオリジナルモデル。刃の先を薄くすることで、魚をスムーズに捌くことができる。ブレードの背には滑り止めのチェッカー加工が施される。3万円(税抜)
UTILITY[ユーティリティ]フィンガーグルーブ加工を施しグリップ感を重視したハンドルを装備。75mmとコンパクトかつ薄型のブレードは扱いやすく、実用向きの1本。3万円(税抜)
LOVELESS TESTKNIFE[ラブレステストナイフ]R.W.ラブレスのデザインナイフ。スリムな形状とヒルトレスの構造で用途に合わせて様々な握り方ができる。発色が美しいグリーンマンモスのハンドル材も秀逸。3万円(税抜)
Hunter’s Co!ent [服部文祥インプレッション]
細かい工夫が、ユニークで魅力的な形状となって現れている。長距離で仕留めた通算86頭目の子鹿に使用。グリップエンドに結ばれた紐とボタンのようなストッパーが味噌。手返しのよい丸グリップにも関わらず、持ちやすさと安定感も併せ持つ。持ち替えも落とす心配がなく安心で、見た目のかわいらしさから所有欲も刺激される。大きめのヒルトが作業の安定感を生み、全体的にカーブした刃は皮剥作業で能力を発揮する。
工夫が詰まった個性的形状ナイフ
実践からフィードバックされた
使えば使うほど手に馴染む造形
キャンプナイフ、フィッシングナイフ、ハンティングナイフなど、フィールドを想定したシースナイフに定評がある奈良定氏。自らも川釣りを楽しみ、旬のものを食べることが好きな獲物系の趣味を持つ。当然そこで得た経験はナイフにも存分に活かされている。
奈良定 守Custom Knife Maker
全体的にカーブした刃は皮剥作業に適している。丸いグリップは持ちやすく、ストッパーには安心感がある。
工夫のストッパーが威力を発揮、小さめの丸いグリップにも関わらず、力が入れやすく、子鹿の胸を軽々と開いた。
夜の味噌煮用に胸肉を先にとる。ゆるやかなカーブをもつ独特な形状のブレードが面積の大きな切り出しに活躍してくれる。
Standard Model
Survival Special FIELDER MINI[フィールダーミニ]最小クラスの鹿解体用ナイフを実現しつつ、しっかり削り込まれたヒルト部や丸みを帯びたハンドルの造形、ストラップに備わるストッパーで、小ささを感じさせない手馴染みを提案。ポイントからキックに渡って緩やかなアールを描くスキナーブレードはエッジが長く、コンパクトモデルながら獲物への食いつきも良い。2万5000円(税抜)
シース収納時
カスタムナイフの可能性
3" DROP LT[3インチ ドロップライト]カーブラインとストレートラインを併せ持ったブレードで、キャンプ、フィッシング、ハンティングと幅広く使える万能ナイフ。特に細かな作業に最適だ。シース付き。3万7000円(税抜)
3" SS LT[3インチ セミスキナーライト]無駄のない実用的なフォルムが特徴的な1本。ハンドルを細身にしたことで細かい作業まで使いやすい。緩やかなブレードラインは様々な作業をこなせる汎用性の高さを持つ。シース付き。4万3000円(税抜)
MORNING MIST[モーニングミスト]3.5インチでユーティリティータイプのブレードで、釣りに最適なモデル。サビに強いステンレスのヒルトを配したことで、海釣りから川釣りまで場面を選ばず活用できる。4万円(税抜)
Hunter’s Co!ent [服部文祥インプレッション]
ナイフが活躍の場を求めて出会いを演出したのか、編集部がこのナイフを用意したらオスの大きなエゾシカが止まった(P56で紹介の「獲物山」に詳細)。成熟した鹿は皮剝ぎに少々力がいるが、刃を広く使うことで、とても楽に皮を剥ぐことができた。胸骨開きは、木の棒でブレードの峰を叩いて難なく終了。考えるより先に刃が動く感じで、獲物にナイフが吸い込まれていく。北米先住民の道具のような無骨なフォルムと繊細な仕事のバランスが魅力。最小という課題は目をつむったか、背ロースの取り出しまで解体と考えたのだろう。
使うほどに愛着のわきそうな本格解体ナイフ
獲物の解体を軸とした
ハンティング専用モデル
3インチ~5インチの扱いやすいフィールドナイフ作りに定評のある成恒氏は、「BEAR VALLEY」名義でナイフ制作歴30年を誇るベテランメーカー。時に意匠を凝らしたファイティングナイフも楽しみながら作るらしく、その技巧は国内有数と言えるだろう。
成恒正人Custom Knife Maker
何よりもその性能が発揮されるのが皮剥ぎ。皮を引っ張ってナイフを置くだけで、すっと皮が剥けていく。イノシシに使ってみたい。
微妙なブレードのカーブと、ナイフ全体のソリが、作業をスムースにしている。ヒルトの安心感もあり、ナイフの自重を使って楽に解体が進む。
背ロースの取り出しでも、刃の長さが生かされた。作業だけを考えるならナイフはこのくらいのサイズがいい。脂の多いエゾシカもバラバラに。
Standard Model
Survival Special SKINNER[スキナー]広く薄く作られたそのブレードが表す通り、ケモノの肉を断ち、皮を剥がす際に最も有効なスキナースタイルを提案。今回集まったナイフの中では大柄な部類だが、アイアンウッドが用いられたハンドルは中央部がラウンドしており、幅広いブレードでもしっかり力をかけて解体作業に専念することができる。鋼材にはVG-10を採用する。3万5000円(税抜)
シース収納時
カスタムナイフの可能性
4” FIELD & STREAM[4インチ フィールド&ストリーム]キャンプからフィッシングまで、米アウトドア雑誌の企画から生まれたラブレスナイフ定番の1本。色濃く模様が現れたアンバースタッグハンドルも美しい仕上がり。4万円(税抜)
4” DROP POINT HUNTER[4インチ ドロップポイントハンター]こちらもラブレスナイフの定番だが、ナロータング・インプルーブドハンドル仕様とすることで、アンバースタッグの質感を最大限に引き出しているのが特徴。4万円(税抜)
3 5/8” 空飛ぶ狼[3.625インチ ソラトブオオカミ]その独創的なネーミングが表す通り、流線型のスタイリッシュなシルエットが魅力となるオリジナルモデル。白神山地の空からインスピレーションを得たという。4万円(税抜)
Hunter’s Co!ent [服部文祥インプレッション]
たまたまサイズが合っていたのか手になじみ、グッズ感が溢れていて愛おしく、所有欲をそそられるナイフ。山梨に大雪が降った次の日に仕留めた親子鹿に使用(P54/55の写真)。その降雪中には料理にも使ったが、肉厚ブレードが持ち飽きず、いじっているだけで面白い。和包丁のような「アゴ」も、脂と血で手元が滑る解体では安心感がある。シースの収納も個性的で面白いが、実際の作業中は機能しないかも。作業中に失くさないようオレンジ色のグリップにしたい。
マムシを思わせる個性的なフォルム
至極コンパクトながら確かな使い勝手を誇る
自らアウトドアフィールドを歩き、現場でテストを重ねて作られる実用的なシースナイフに定評があるナイフメーカー。握りやすさと切れ味を追求したオリジナルモデルを数多く制作している。フォールディングナイフも得意とし、その制作技術の高さも折り紙つきだ。
安永朋弘Custom Knife Maker
丸いグリップとアゴ、厚手のブレードで、非常に力を入れやすい。もちやすく、手回しもよく、細かい作業もできる。
カーブのあるブレードは皮剝ぎ系も得意。肉と皮の間に吸い込まれるように刃が入っていく。短い刃は指先の延長のようだ。
胸骨開きは、母鹿でも木の棒を使うことなくがんがんいけた。ブレードが厚い分食い込みは悪いが、力は入れやすい。
Standard Model
Survival Special 2” MINI DROP[2インチ ミニドロップ]ぎりぎり手のひらに収まる極小サイズとしながらも、刃長を長く取ることができるドロップハンタータイプのブレードを備えた実践的モデル。そのハンドル形状が表す通り、小柄なボディからは想像のできないグリップ感も魅力となっている。ヒルトの役割も果たすブレードのアゴは、解体作業時に安心感を与えてくれる。3万5000円(税抜)
シース収納時
TITAN HANDLE BACK LOCK[チタンハンドル バックロック]オーソドックスなバックロックスタイルとしながらも、フィッティングにチタンを採用し、多色染めを施すことで千代紙のような美しいルックスを提案している。6万円(税抜)
INTEGRAL INTERFRAME BACK LOCK[インテグラルインターフレーム バックロック]一切の無駄な造形を省いたインテグラルインターフレームに黒蝶貝のインレイをあしらった芸術的逸品。2015年のJKGナイフコンテスト大賞を受賞している。12万円(税抜)
2” RAVINE[2インチ ラビーン]
渓流釣りでの使用を想定した小型ナイフ。逆さに持って腹をさばく際も違和感のないハンドル形状が特徴となっている。G-10ハンドルとカイデックスシースで水濡れ対策も◎。3万3000円(税抜)
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Hunter’s Co!ent [服部文祥インプレッション]
通算94頭目(56頁)の子鹿に使用した。シンプルでまっすぐな小型ナイフだが、持っただけできりりとした切れ味の予感がある。グリップは細いながらもしっかりと長いので、力を入れるところでは入り、細かい作業での鉛筆持ちもバランスがよい。刃先側の微妙なカーブは解体に、手元側のストレート部分は料理にも使えそうだ。主張が少ない分、オーソドックスに使える洗練された大人のナイフと見た。先端はやや鋭角なので扱いにすこし慣れがいるかもしれない。
実質本意、課題通りのマルチシンプルナイフ
一切の無駄を排した実践で際立つ美しい1本
1986年よりカスタムナイフの制作販売を続ける熟練のナイフメーカー・渡辺氏。ラブレスを頂点とするフィールドモデルに熟達していて、実用性に長けた美しいナイフを生み出す。ブランドマークは20年前にラブレス氏を訪問した際、直接描いてもらったもの。
渡辺隆之Custom Knife Maker
微妙なブレードのカーブと長めのグリップで、細かい作業もスムースにこなす。思いのほか刃渡りもあり、活躍の幅も広い。
長いグリップで力が入るため、腕力だけで胸骨を開くことができた。薄めのブレードは軟骨にも、食い込みがよい。
シンプルで癖のない形状なので、細かい作業や見えない部分を切るときなども、ナイフの動きをイメージしやすい。
Standard Model
Survival Special 2” NARROW DROP[2インチ ナロードロップ]ハンドルを握った際、ブレードからハンドルまでの直線的なラインが、まるで身体の一部となったかのような直感的操作を生むプレーンなナイフ。刃長約5cmのコンパクトスタイルに加え、ヒルトレス仕様、極小のファスナーボルトを採用することで抜群の軽量性も実現している。まさにポケッタブルな現場仕様と言える。2万8000円(税抜)
シース収納時
CREEK[クリーク]刃持ちの良い優れた鋼材VG-10をブレードに使用。切れ味の鋭い細く伸びたブレードを備える。ハンドルから刃先にかけて流れるようなフォルムが美しい。5万1000円(税抜)
HIDE OUT[ハイドアウト]こちらもR.W.ラブレスデザインのモデル。ハンドル材に強度が高いキャンバスマイカルタを用いた堅牢な1本。ヒルトレスだがグリップ性の高いデザインでしっかりと手に馴染む。9万円(税抜)
GENTLEMEN’S KNIVES[ジェントルマンズナイフ]R.W.ラブレスの定番モデル。マンモスアイボリーのハンドルの滑らかな質感とニッケルシルバーのボルスターの組み合わせが絶妙だ。7万2000円(税抜)
Hunter’s Co!ent [服部文祥インプレッション]
通称「牧場」で獲った85頭目の子鹿を解体。小さすぎるようで不安だが、驚くほど手に馴染んで使いやすい。微妙に波打つグリップは、滑らかな作業を支えつつストッパー機能もあわせもっている。刃は、使い手が好みに合わせて研ぎ上げやすいように考慮されているようだ。ポケットなどへの収納のよさも性能の一部だろう。ヒモを付けるなどなくさない工夫を考えたほうがよいかもしれない。
レジェンドの魂が詰まったミニマム解体ナイフ
まっすぐで小さいので、グリップの持ち替えが容易。鉛筆持ちで、細かい作業も滑らかに進む。
脂の多い鹿だったが、鹿角を使ったグリップは微妙なふくらみを持ち滑ることはない。切っ先は鋭いタイプ。
子鹿だったこともあり、力任せに胸骨も開くことができた。狭いスペースに入れて内臓の処理もスムースにおこなえる。
LITTLE CAPER[リトルケーパー]川魚から小動物まで、現場での処理に使える最小限のナイフとして生まれた逸品。刃渡りに対して長めに作られたハンドルは4本指がしっかりと収まるほか、薬指がかかる部位をわずかに隆起させることで抜群のグリップ感を生んでいる。ベルトループにもかけられる小ぶりなシースも現場での使い勝手に貢献する。参考作品 シース収納時
言わずと知れたカスタムナイフの巨匠。ストック&リムーバル法で近代ナイフの基礎を築いた故R.W.ラブレスに師事し、現在に至るまでフルタイムのナイフメーカーとして第一線で活躍する。ラブレスの思想を真に踏襲した相田氏のナイフは、フィールドでの実践に根ざした揺るぎない機能美を備えている。ラブレスナイフ・真の後継者と言われる。
相田義人Custom Knife Maker
すべての造形に機能美が宿るフィールドナイフの真髄